(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】グルコース量算出方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/1455 20060101AFI20230331BHJP
G01N 21/359 20140101ALI20230331BHJP
【FI】
A61B5/1455
G01N21/359
(21)【出願番号】P 2019074523
(22)【出願日】2019-04-10
【審査請求日】2022-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】513139873
【氏名又は名称】LOOK TEC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】堀田 徹
(72)【発明者】
【氏名】小倉 仁
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 高行
(72)【発明者】
【氏名】林 史夫
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-183377(JP,A)
【文献】特開2000-258344(JP,A)
【文献】特開平09-215679(JP,A)
【文献】特表2009-527333(JP,A)
【文献】特開2004-283585(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0098733(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/1455
G01N 21/359
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長が異なる複数の光線を被測定部位に照射し、前記被測定部位を透過した前記複数の光線の強度を受光素子で計測する計測ステップと、
換算式に基づいて前記複数の光線の受光強度からグルコース量を推定する推定ステップと、を具備し、
前記計測ステップでは、前記被測定部位を貫通するように規定された一つの光軸を、前記複数の光線が通過
すると共に、前記複数の光線の前記受光強度、被測定部温度、並びに採血グルコース量を一つの実測データセットとして、異なる前記グルコース量に関して複数の前記実測データセットを取得し、複数の前記実測データセットに基づき重回帰分析を行うことで、複数の前記換算式を作成し、
前記推定ステップでは、各々の前記換算式を用いて算出された複数のグルコース量推定結果から、前記採血グルコース量に最も近い前記グルコース量推定結果を選択し、選択された前記グルコース量推定結果を算出した前記換算式を、次回からのグルコース量推定に用いることを特徴とするグルコース量算出方法。
【請求項2】
前記計測ステップでは、前記被測定部位の温度を計測し、
前記推定ステップでは、前記複数の光線の前記受光強度に加えて、前記温度を用いて前記グルコース量を算出することを特徴とする請求項1に記載のグルコース量算出方法。
【請求項3】
前記換算式は、予め記憶装置に記憶されているパラメータを用いることを特徴とする請求項1に記載のグルコース量算出方法。
【請求項4】
前記複数の光線は、フィンガーウェブを透過することを特徴とする請求項1から請求項
3の何れかに記載のグルコース量算出方法。
【請求項5】
前記換算式は、統計学的手法により算出された重回帰式であることを特徴とする請求項1から請求項
4の何れかに記載のグルコース量算出方法。
【請求項6】
前記計測ステップでは、波長が異なる第1光線、第2光線および第3光線を、前記被測定部位に照射し、前記被測定部位を透過した前記第1光線、前記第2光線および前記第3光線の強度を前記受光素子で計測し、
前記推定ステップでは、前記換算式に基づいて、前記第1光線、前記第2光線および前記第3光線の前記受光強度から、前記グルコース量を推定することを特徴とする請求項1から請求項
5の何れかに記載のグルコース量算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体等の被測定部位の内部に於けるグルコース量を光学的に計測するグルコース量算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被測定部位の内部における糖分を検出する方法として、侵襲法と非侵襲法がある。侵襲法とは、例えば人体の指先等より採血を行い、その血液を用いてグルコース量を測定する方法である。非侵襲法とは、人体から血液を採取すること無く、人体の外部に配置されたセンサでグルコース量を測定する方法である。正確なグルコース量算出のためには侵襲法が一般的であるが、使用者の苦痛軽減や利便性向上のために非侵襲法によるグルコース量算出方法が望まれている。
【0003】
非侵襲法でグルコース量を測定する方法の一例として、近赤外光等を人体に照射することで光学的に測定する方法が知られている。
【0004】
また、グルコース量の光学的測定方法として、近赤外光のグルコースによる吸収量の差異を検出する方法がある。具体的には、この方法では、近赤外光をある部位において透過させ、その透過光量からグルコース量を測定する(例えば特許文献1、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3093871号公報
【文献】特許第3692751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した各特許文献に記載された非侵襲法によるグルコース量の測定方法では、グルコース量を必ずしも正確に測定できるとは言えない課題があった。
【0007】
具体的には、特許文献1に記載された測定方法では、グルコース酸化酵素法によりグルコース量を算出しているため、グルコース量の算出が煩雑である課題があった。また、特許文献2に記載された方法では、光学的手法によりグルコース量を計測しているものの、糖尿病の可能性を判定できる程度であり、グルコース量を定量的に測定できるには至っていない。
【0008】
本発明はこの様な問題点を鑑みて成されたものであり、本発明の目的は、人体を貫通する光軸に沿って照射される各光線の受光強度を、統計学的に利用することで、正確にグルコース量を推定することができるグルコース量算出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のグルコース量算出方法は、波長が異なる複数の光線を被測定部位に照射し、前記被測定部位を透過した前記複数の光線の強度を受光素子で計測する計測ステップと、換算式に基づいて前記複数の光線の受光強度からグルコース量を推定する推定ステップと、を具備し、前記計測ステップでは、前記被測定部位を貫通するように規定された一つの光軸を、前記複数の光線が通過すると共に、前記複数の光線の前記受光強度、被測定部温度、並びに採血グルコース量を一つの実測データセットとして、異なる前記グルコース量に関して複数の前記実測データセットを取得し、複数の前記実測データセットに基づき重回帰分析を行うことで、複数の前記換算式を作成し、前記推定ステップでは、各々の前記換算式を用いて算出された複数のグルコース量推定結果から、前記採血グルコース量に最も近い前記グルコース量推定結果を選択し、選択された前記グルコース量推定結果を算出した前記換算式を、次回からのグルコース量推定に用いることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のグルコース量算出方法は、前記計測ステップでは、前記被測定部位の温度を計測し、前記推定ステップでは、前記複数の光線の前記受光強度に加えて、前記温度を用いて前記グルコース量を算出することを特徴とする。
【0012】
また、本発明のグルコース量算出方法では、前記換算式は、予め記憶装置に記憶されているパラメータを用いることを特徴とする。
【0013】
また、本発明のグルコース量算出方法では、前記複数の光線は、フィンガーウェブを透過することを特徴とする。
【0014】
また、本発明のグルコース量算出方法では、前記換算式は、統計学的手法により算出された重回帰式であることを特徴とする。これにより、本発明のグルコース量算出方法によれば、統計学的手法に基づいて換算式を算出することから、個々の被験者の体質に基づいた換算式を得ることができる。
【0015】
また、本発明のグルコース量算出方法では、前記計測ステップでは、波長が異なる第1光線、第2光線および第3光線を、前記被測定部位に照射し、前記被測定部位を透過した前記第1光線、前記第2光線および前記第3光線の強度を受光素子で計測し、前記推定ステップでは、前記換算式に基づいて、前記第1光線、前記第2光線および前記第3光線の受光強度から、前記グルコース量を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のグルコース量算出方法は、波長が異なる複数の光線を被測定部位に照射し、前記被測定部位を透過した前記複数の光線の強度を受光素子で計測する計測ステップと、換算式に基づいて前記複数の光線の受光強度からグルコース量を推定する推定ステップと、を具備し、前記計測ステップでは、前記被測定部位を貫通するように規定された一つの光軸を、前記複数の光線が通過すると共に、前記複数の光線の前記受光強度、被測定部温度、並びに採血グルコース量を一つの実測データセットとして、異なる前記グルコース量に関して複数の前記実測データセットを取得し、複数の前記実測データセットに基づき重回帰分析を行うことで、複数の前記換算式を作成し、前記推定ステップでは、各々の前記換算式を用いて算出された複数のグルコース量推定結果から、前記採血グルコース量に最も近い前記グルコース量推定結果を選択し、選択された前記グルコース量推定結果を算出した前記換算式を、次回からのグルコース量推定に用いることを特徴とする。これにより、本発明のグルコース量の計測方法によれば、一つの光軸を、複数の光線が通過することで、同一の光学的条件の人体部分を複数の光線が通過するので、グルコース量を正確に計測することができる。これにより、本発明のグルコース量の計測方法によれば、複数の換算式を用意することで、被験者の体質に応じて適切な換算式を採用することができ、血糖度を精度良く推定することができる。
【0018】
また、本発明のグルコース量算出方法では、前記計測ステップでは、前記被測定部位の温度を計測し、前記推定ステップでは、前記複数の光線の前記受光強度に加えて、前記温度を用いて前記グルコース量を算出することを特徴とする。これにより、本発明のグルコース量の計測方法によれば、人体を透過する光線の受光強度に加えて、人体の体温を用いてグルコース量を推定することで、グルコース量をより正確に推定することができる。
【0019】
また、本発明のグルコース量算出方法では、前記換算式は、予め記憶装置に記憶されているパラメータを用いることを特徴とする。これにより、本発明のグルコース量の計測方法によれば、被験者自身が採血することなく換算式を得ることができる。
【0020】
また、本発明のグルコース量算出方法では、前記複数の光線は、フィンガーウェブを透過することを特徴とする。これにより、本発明のグルコース量の計測方法によれば、脂肪が少なく、個人間の厚みのばらつきが小さく、透過距離が短いフィンガーウェブを透過する各光線を用いてグルコース量を算出することで、グルコース量を正確に推定できる。
【0021】
また、本発明のグルコース量算出方法では、前記換算式は、統計学的手法により算出された重回帰式であることを特徴とする。これにより、本発明のグルコース量算出方法によれば、統計学的手法に基づいて換算式を算出することから、個々の被験者の体質に基づいた換算式を得ることができる。
【0022】
また、本発明のグルコース量算出方法では、前記計測ステップでは、波長が異なる第1光線、第2光線および第3光線を、前記被測定部位に照射し、前記被測定部位を透過した前記第1光線、前記第2光線および前記第3光線の強度を受光素子で計測し、前記推定ステップでは、前記換算式に基づいて、前記第1光線、前記第2光線および前記第3光線の受光強度から、前記グルコース量を推定することを特徴とする。これにより、本発明のグルコース量算出方法によれば、波長が異なる第1光線、第2光線および第3光線を用いることで、より正確にグルコース量を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係るグルコース量算出方法で用いるグルコース量計測装置の基本構成を示す概念図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るグルコース量算出方法を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の実施形態に係るグルコース量算出方法を示す図であり、(A)、(B)および(C)は発光点を移動させながら測定する状況を示す側面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るグルコース量算出方法を示すグラフである。
【
図5】本発明の他の形態に係るグルコース量算出方法を示す図であり、(A)はフローチャートであり、(B)は当該方法を概念的に示すブロック図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るグルコース量算出方法を示す図であり、(A)はフィンガーウェブを示す模式図であり、(B)は指先でグルコース量を測定した結果を示すグラフであり、(C)はフィンガーウェブでグルコース量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1を参照して、本形態のグルコース量算出方法を説明する。
図1は、本実施形態のグルコース量算出方法で利用するグルコース量算出装置10の基本構成を示す概念図である。ここで、グルコース量とは、血中あるいは間質のグルコース量である。また、グルコース量は、血糖値等と称されることもある。
【0025】
図1を参照して、グルコース量算出装置10は、測定に用いられる光線を射出する発光部11と、発光部11から射出される光線を被測定部位18に導く光学素子であるレンズ14と、被測定部位18を透過した光線を受光する受光部19と、受光部19の出力に基づいてグルコース量を算出する演算制御部17と、記憶部13と、表示部15と、操作入力部12と、温度計測部21と、を具備している。
【0026】
グルコース量算出装置10の機能は、光線を被測定部位である人体に透過させることで、非侵襲法により人体のグルコース量を計測することにある。
【0027】
発光部11は、グルコース量を計測するために所定の波長の光線を射出する。発光部11は、波長が異なる光線を射出する第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113を有している。第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113は、夫々、発光ダイオードから成る。例えば、第1発光部111から射出される第1光線の波長は1310nmであり、第2発光部112から射出される第2光線の波長は1450nmであり、第3発光部113から射出される第3光線の波長は1550nmである。
【0028】
また、発光部11は、図示しないアクチュエータにより、左右方向に移動される。発光部11を移動させることで、第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113の何れかを、同一の光軸22の軸上に配置できる。ここでは、第2発光部112を光軸22の軸上に配置した場合を示している。
【0029】
第1光線は生体中の成分に吸収されない光線であり、第2光線および第3光線は生体中のグルコース、タンパク質および水に吸収される光線である。第1光線で、光軸22の光路長を測定することで、光路長が各光線の吸収率に与える影響を測定し、光路長の影響を排除することができ、グルコース量を正確に算出することができる。
【0030】
本実施形態では、第1光線、第2光線および第3光線は、光軸22に沿って、発光部11から受光部19まで照射される。すなわち、第1光線、第2光線および第3光線の、被測定部位18の内部における伝搬径路および伝搬長が同じである。
【0031】
上記のように各光線で光軸22を共有することで、グルコース量を正確に計測することができる。具体的には、Lambert-Beerの法則により、グルコース量は以下の式1で算出される。
式1:C=-log10(I/I0)/(0.434×μa×r)
【0032】
上記した式1に於いて、Cはグルコース量であり、Iは出射光パワーであり、I0は入射光パワーであり、μaは皮膚の吸光係数であり、rは光路長である。
【0033】
本実施形態では、第1光線、第2光線および第3光線で、光軸22を共有することにより、光路長rを同一にすることで、算出するべき未知数を減少させ、正確且つ簡易にグルコース量Cを求めることができる。
【0034】
レンズ14は、上記した第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113から射出された第1光線、第2光線および第3光線を、その屈折作用や回折作用により、被測定部位18に導く。
【0035】
被測定部位18は、本形態のグルコース量算出装置10でグルコース量が計測される部位である。具体的には、被測定部位18としては、指先、耳たぶ、フィンガーウェブ等を採用できる。後述するように、被測定部位18としては、含有される脂肪分が少なく、厚みの個人差が小さく、且つ、太い血管が形成されていないフィンガーウェブが好適である。
【0036】
受光部19は、例えばフォトダイオードから成る半導体素子であり、被測定部位18を透過した第1光線、第2光線および第3光線を受光し、その強度を検出する図示しない受光部位が形成されている。受光部19は、第1光線、第2光線および第3光線の受光強度に応じた信号を演算制御部17に伝送する。
【0037】
記憶部13は、RAMやROMから成る半導体記憶装置等であり、受光部19の出力値からグルコース量を算出するための計算式、パラメータ、推定結果、本実施形態に係るグルコース量算出方法を実行するためのプログラム等を記憶している。
【0038】
操作入力部12は、被験者が演算制御部17に対して指示を与える部位であり、スイッチ、タッチパネル等から構成される。
【0039】
温度計測部21は、被験者の体に接触することで、被験者の体温を計測する部位である。
【0040】
演算制御部17は、CPUから構成され、各種演算を行うと共にグルコース量算出装置10を構成する各部位の動作を制御している。詳しくは、演算制御部17は、発光部11の第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113から、第1光線、第2光線および第3光線を照射する。また、演算制御部17は、受光部19および温度計測部21等から入力される電気信号に基づいて、後述する重回帰式である換算式を用いて、グルコース量を推定する。また、演算制御部17は、算出したグルコース量を表示部15に表示するようにしても良い。例えば液晶モニタである表示部15にグルコース量を表示することで、グルコース量算出装置10を使用する使用者は、自身のグルコース量の変化をリアルタイムに知ることができる。また、後述する計測を行うステップに於いて、各発光部の発光点を光軸22の軸状に配置するために、演算制御部17は、発光部11を移動させる。
【0041】
図2のフローチャートを参照して、上記した
図1も参照しつつ、グルコース量算出装置10を用いて被験者のグルコース量を推定する方法を説明する。ここでは、被験者が採血および各光線の照射を行うことで、グルコース量の推定に用いる換算式である重回帰式のパラメータを算出し、この換算式を用いて受光部19の出力値から被験者のグルコース量を推定している。ここで、重回帰式のパラメータは、予めグルコース量算出装置10の記憶部13に記憶されたものを用いることもでき、これにより被験者の利便性を向上することができる。また、以下の各ステップは、記憶部13に格納されたプログラムに基づいて、実行されている。
【0042】
ステップS10では、先ず、被験者から採血した血液からグルコース量を計測する。この採血は、重回帰式のパラメータを算出するためのものであり、最初に採血を行うことで、次回からの測定では採血を行うことは不要である。
【0043】
ステップS11では、次に、被験者のフィンガーウェブを通過した光線の強度および体温を測定する。具体的には、演算制御部17は、発光部11の第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113から、第1光線、第2光線および第3光線を放射させる。第1光線、第2光線および第3光線の波長は上記したとおりである。また、
図1に示したように、発光部11を左右後方に沿って移動することで、第1光線、第2光線および第3光線を、光軸22に沿って照射している。
【0044】
放射された第1光線、第2光線および第3光線は、レンズ14で被測定部位18の所定部位に照射される。被測定部位18に入射した第1光線、第2光線および第3光線は、人体の内部で吸収、減衰、反射された後に、その一部が人体を透過して受光部19に到達する。受光部19は、第1光線、第2光線および第3光線の各波長帯につき、受光強度に応じた電気信号を演算制御部17に伝送する。ここで、レンズ14に替えて、ピンホールを用いて各光線を絞って照射することもできる。
【0045】
図3を参照して、ステップS11において発光部11を変位させながら各光線を照射する事項を説明する。
図3(A)は第2発光部112から第2光線を照射する状況を示し、
図3(B)では第1発光部111から第1光線を照射する状況を示し、
図3(C)は第3発光部113から第3光線を照射する状況を示している。ここでは、第2発光部112、第1発光部111および第3発光部113の順番で、光軸22に沿って光線を照射するが、この順番は変更することができる。
【0046】
図3(A)を参照して、第2発光部112から第2光線を照射する際には、先ず、演算制御部17は、第2発光部112の発光点が光軸22と重畳するように、発光部11を移動させる。第2発光部112の発光点が光軸22と重畳したら、演算制御部17は、第2発光部112から第2光線を発光する。発光された第2光線は光軸22に沿って進行し、被測定部位18を透過した後に、受光部19に照射される。受光部19が受光した第2光線の強度を示す電気信号は、演算制御部17に伝送される。
【0047】
図3(B)を参照して、次に、演算制御部17は、図示しないアクチュエータにより発光部11を右方に移動させることで、第1発光部111の発光点を光軸22の軸と重畳させる。第1発光部111の発光点が光軸22と重畳したら、演算制御部17は、第1発光部111から第1光線を発光する。発光された第1光線は光軸22に沿って進行し、被測定部位18を透過した後に、受光部19に照射される。受光部19が受光した第1光線の強度を示す電気信号は、演算制御部17に伝送される。
【0048】
図3(C)を参照して、次に、演算制御部17は、図示しないアクチュエータにより発光部11を左方に移動させることで、第3発光部113の発光点を光軸22の軸と重畳させる。第3発光部113の発光点が光軸22と重畳したら、演算制御部17は、第3発光部113から第3光線を発光する。発光された第3光線は光軸22に沿って進行し、被測定部位18を透過した後に、受光部19に照射される。受光部19が受光した第3光線の強度を示す電気信号は、演算制御部17に伝送される。
【0049】
また、演算制御部17の指示に基づいて、温度計測部21は被験者の体温を計測し、当該体温を示す電気信号は演算制御部17に伝送される。
【0050】
上記したステップS11は、後述する重回帰分析のために、複数のグルコース量に関して、複数回行われる。
【0051】
ステップS12では、ステップS11の結果に基づいて、重回帰式のパラメータを求める。
【0052】
ステップS11で計測した、採血グルコース量等を、以下の表1に示す。
【0053】
【0054】
表1では、左方から、採血グルコース量、被測定部温度、波長が1310nmである第1光線の受光強度、波長が1450nmである第2光線の受光強度、波長が1550nmである第3光線の受光強度、および、推定されたグルコース量を示している。ここでは、糖分を投与するなどして、被験者の採血グルコース量を変化させながら、採血、体温測定、人体を通過した各光線の受光、当該受光強度に基づくグルコース量の推定を行った。
【0055】
本実施形態では、表1の結果に基づいて重回帰分析を行い、換算式である重回帰式の各パラメータを算出する。本実施形態では、以下の式2に示す重回帰式を、グルコース量を推定する換算式として採用している。
式2:推定グルコース量=切片+β1×被測定部温度+β2×第1光線出力電圧+β3×第2光線出力電圧+β4×第3光線出力電圧
【0056】
式2を構成するパラメータは、記憶部13に格納され、グルコース量の推定に用いられる。
【0057】
上記した重回帰分析による分析結果を以下の表2に示す。表2は、表2-1、表2-2および表2-3を含む。表2-1は回帰統計を示し、表2-2は分散分析を示し、表2-3は回帰分析による回帰係数等を示している。
【0058】
【0059】
表2から明らかなように、P-値が全て0.05以下であるので、回帰係数は有意であると判断でき、上記した式2に示した重回帰式により、グルコース量を正確に推定することができる。
【0060】
図4は、推定グルコース量と採血グルコース量との関係を示すグラフである。このグラフの横軸は採血グルコース量を示し、縦軸は推定グルコース量を示している。このグラフでは、検量線を実線で示し、±5%誤差のラインを点線で示している。
【0061】
ステップS13およびステップS14では、上記した換算式を用いてグルコース量を推定する。具体的には、
図1を参照して、演算制御部17は、先ず、光軸22に沿って、発光部11の第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113から、被測定部位18に第1光線、第2光線および第3光線を被測定部位18に向けて照射する。第1光線、第2光線および第3光線は、被測定部位18の内部で、減衰、反射および吸収が行われ、その一部が被測定部位18を透過して受光部19に到達する。受光部19は、受光部19に到達した第1光線、第2光線および第3光線の強度を示す電気信号を、演算制御部17に伝送する。また、温度計測部21が計測した、被測定部位18の温度を示す電気信号も演算制御部17に伝送される。演算制御部17は、第1光線、第2光線および第3光線の強度を示す電気信号、および、被測定部位18の体温を示す電気信号に基づいて、上記した式2に示す換算式を利用して、グルコース量を推定する。
【0062】
表3に、表1と同様の被験者が、別の日にステップS13およびステップS14に示した方法でグルコース量を推定した結果を示す。即ち、ここでは換算式を導出する為に採血、光線照射および体温計測を行った人と、当該換算式を用いてグルコース量を推定する人とが、同一人物である。表3から明らかなように、本実施形態に係る推定方法により推定される推定グルコース量は、採血グルコース量に極めて近いので、正確な推定が行われていると判断できる。
【0063】
【0064】
表4に、表1(換算式を算出するための被験者)とは別の被験者がステップS13およびステップS14に示した方法でグルコース量を推定した結果に示す。表4から明らかなように、換算式を導出するための被験者と、その換算式を用いてグルコース量を推定する被験者が異なる場合でも、推定グルコース量と採血グルコース量とは近いので、この場合でも正確な推定が行われている。
【0065】
【0066】
また
図4のグラフでは、検量線の算出に用いた採血グルコース量および推定グルコース量を白抜きの円で示している。また、表4および表5の値を黒塗りの円で示している。このグラフから明らかなように、他の被験者の場合および任意の日の測定値は、略±5%誤差のラインで挟まれる領域に配置されている。よって、上記した換算式を用いた推定方法により、グルコース量を精度良く推定することができる。
【0067】
図5を参照して、他の形態に係るグルコース量の推定方法を説明する。ここで説明するグルコース量の推定方法の概要は上記と同様であるが、複数の換算式を用意し、被験者に適した換算式を選択することで推定精度を向上する事項が上記した方法とは異なる。
図5(A)は、本実施形態に係るグルコース量の推定方法を示すフローチャートであり、
図5(B)は本実施形態における算出方法を概念的に示すブロック図である。
【0068】
図5(A)を参照して、ステップS20では、複数の換算式を用意する。具体的には、
図5(B)に示すように、異なる被験者に関して採血およびグルコース量算出装置10を用いた各光線の適用および体温測定を行うことで、複数の重回帰式を得る。ここでは、被験者A、被験者B、被験者Cおよび被験者Dに関して、各光線の照射および体温測定、重回帰分析を行うことで、各被験者に関する、第1光線、第2光線および第2光線の受光強度、並びに、体温からなる実測データセットを得る。この各々の実測データセットから、重回帰式A、重回帰式B、重回帰式Cおよび重回帰式Dのパラメータを導出している。
【0069】
ステップS21およびステップS22では、グルコース量算出装置10を用いて、重回帰式A、重回帰式B、重回帰式Cおよび重回帰式Dを利用することで、推定グルコース量A、推定グルコース量B、推定グルコース量Cおよび推定グルコース量Dを推定する。具体的には、
図1を参照して、演算制御部17は、先ず、発光部11の第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113から、光軸22に沿って、被測定部位18に第1光線、第2光線および第3光線を被測定部位18に向けて照射する。受光部19は、受光部19に到達した第1光線、第2光線および第3光線の強度を示す電気信号を、演算制御部17に伝送する。また、温度計測部21が計測した、被測定部位18の温度を示す電気信号も演算制御部17に伝送される。次に、演算制御部17は、第1光線、第2光線および第3光線の強度を示す電気信号、および、被測定部位18の体温を示す電気信号に基づいて、重回帰式A、重回帰式B、重回帰式Cおよび重回帰式Dを利用して、推定グルコース量A、推定グルコース量B、推定グルコース量Cおよび推定グルコース量Dを推定する。また、ステップS23に於ける選択のために、被験者を採血して採血グルコース量を得る。
【0070】
ステップS23では、推定グルコース量A、推定グルコース量B、推定グルコース量Cおよび推定グルコース量Dのうち、採血グルコース量に最も近い推定グルコース量を選択する。この選択は、被験者による操作入力部12の操作または演算制御部17により行われる。例えば、推定グルコース量Aが採血グルコース量に最も近ければ、被験者の操作入力部12の選択により、次回の推定からは重回帰式Aを用いてグルコース量を推定する。
【0071】
ステップS24では、選択された重回帰式Aを用いて、グルコース量を推定する。具体的には、演算制御部17は、先ず、発光部11の第1発光部111、第2発光部112および第3発光部113から、光軸22に沿って、被測定部位18に第1光線、第2光線および第3光線を被測定部位18に向けて照射する。また、温度計測部21が計測した、被測定部位18の温度を示す電気信号も演算制御部17に伝送される。演算制御部17は、第1光線、第2光線および第3光線の強度を示す電気信号、および、被測定部位18の体温を示す電気信号に基づいて、上記のように選択された重回帰式Aを利用して、グルコース量を推定する。
【0072】
図6を参照して、グルコース量を推定するために各光線を照射する被測定部位としてフィンガーウェブが適している事項を説明する。
図6(A)は被験者の手を示す模式図であり、
図6(B)は指先を用いてグルコース量を推定したエラーグリッドを示すグラフであり、
図6(C)はフィンガーウェブを用いてグルコース量を推定したエラーグリッドを示すグラフである。
図6(B)および
図6(C)では、横軸は採血グルコース量を示し、縦軸は本実施形態に係る方法により計測した推定グルコース量を示している。
【0073】
図6(A)を参照して、フィンガーウェブとは、人体の指どうしの間に形成される膜状の部位であり、本実施形態では手の人差指と親指との間に形成されるフィンガーウェブを、グルコース量を測定するための被測定部位として採用した。ここで、他の指どうしの間に形成されるフィンガーウェブを、被測定部位として採用することもできる。
【0074】
図6(B)を参照すると、測定結果を示すドットが、破線で示す基準ラインから離れて分布している。このようなる理由は、指先の太さは個人差が大きくこれにより光路長が異なること、および、指先に存在する太い血管が悪影響を及ぼしていることが考えられる。
【0075】
一方、
図6(C)を参照すると、測定結果を示すドットが、破線で示す基準ラインの近傍に分布している。このようなる理由は、フィンガーウェブは、厚さが2mmから4mm程度で、個人間による差が小さく、脂肪の含有量が極めて少なく、その内部に太い血管が無いため毛細血管および真皮で測定を行えるからである。更に、被測定部位としてフィンガーウェブを採用した場合は、光路長を短くすることができ、低出力の光でグルコース量を測定することが出来る。
【0076】
表5を参照して、脂肪の含有量の観点から、被測定部位としてフィンガーウェブが適している事項を説明する。
【0077】
【0078】
表5では、脂肪を含む検体1(表皮0.2mm、真皮0.8mm、脂肪1.5mm)と、脂肪を含まない献体2(表皮0.2mm、真皮0.8mm、脂肪はなし)に関して、第1光線、第2光線および第3光線の透過率を測定した結果を示している。一例を示すと、検体1は人体の指先であり、検体2はフィンガーウェブである。
【0079】
ここでのシミュレーション条件は、光線本数が5000本であり、散乱回数が一本につき1000回であり、皮膚入射光径はφ1.5mmであり、受光面径はφ3mmまたはφ1mmである。
【0080】
表5に示すように、波長が1310nmである第1光線に於いては、検体2の透過率は検体1の透過率の3.4倍となっている。また、波長が1450nmである第2光線に於いては、検体2の透過率は検体1の透過率の6.2倍となっている。更に、波長が1550nmである第3光線に於いては、検体2の透過率は検体1の透過率の3.5倍となっている。
【0081】
上記のことから、例えば指先である検体1は、第1光線ないし第3光線の透過率が低いため、グルコース量を計測するための部位としては好適でない。更に、脂肪の含有量は個人差が大きいことを考慮すると、脂肪の多寡が透過率に影響を与え、これよりグルコース量の推定が困難になることは明らかである。
【0082】
一方、フィンガーウェブである検体2は、脂肪の含有量が極めて少ないことから、第1光線、第2光線および第3光線を良好に透過させ、透過する各光線の強度に基づいてグルコース量を正確に推定し得る。また、被験者が肥満体であったとしても、フィンガーウェブに含まれる脂肪が極端に増加することはない。よって、フィンガーウェブを透過する各光線を用いてグルコース量を推定すれば、被験者が肥満体であるか否かの影響を受けずに、グルコース量を正確に推定することができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態を示したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0084】
例えば、上記した本実施形態では、波長が異なる第1光線、第2光線および第3光線を用いてグルコース量を算出したが、2つの光線(例えば、波長が1310nmである第1光線、波長が1550nmである第3光線)を用いてグルコース量を算出することもできる。
【符号の説明】
【0085】
10 グルコース量算出装置
11 発光部
111 第1発光部
112 第2発光部
113 第3発光部
12 操作入力部
13 記憶部
14 レンズ
15 表示部
17 演算制御部
18 被測定部位
19 受光部
21 温度計測部
22 光軸