(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】セメント濁水の浄化方法、およびセメント濁水の浄化システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/52 20230101AFI20230331BHJP
G01N 33/18 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
C02F1/52 K
G01N33/18 A
(21)【出願番号】P 2019195449
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-06-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・ウェブサイトのアドレス https://www.mdpi.com/journal/water https://www.mdpi.com/2073-4441/11/9/1748/htm 掲載日 令和1年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】柳橋 寛一
(72)【発明者】
【氏名】小林 幹佳
【審査官】松本 要
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-140694(JP,A)
【文献】特開平10-328700(JP,A)
【文献】特開平10-272306(JP,A)
【文献】特開2011-95183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/52-1/56
B01D 21/00-21/34
G01N 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定のセメント濃度を有し、イオン強度が互いに異なる複数のモデル濁水を準備し、
モデル濁水毎に濃度が異なるように凝集剤を添加したモデル濁水を複数調製し、
前記凝集剤を添加したモデル濁水毎に、セメント濃度の変化率とイオン強度とを測定し、
目標とするセメント除去率に相当するセメント濃度の前記変化率と、セメント濁水のイオン強度とから、前記セメント濁水への凝集剤の添加量を決定する、セメント濁水の浄化方法。
【請求項2】
前記モデル濁水のセメント濃度とイオン強度とを、前記モデル濁水が含むセメントの濃度を調整したセメント懸濁液と、イオン強度を調整したセメント抽出液とを混合して調整する、請求項1に記載のセメント濁水の浄化方法。
【請求項3】
前記モデル濁水のイオン強度を第1軸に設定し、前記モデル濁水の凝集剤/セメント質量比を第2軸に設定する管理図に、イオン強度と、凝集剤/セメント質量比とに対する、前記モデル濁水の吸光度比から算出される前記セメント除去率の変化を表示し、
前記管理図に表示された前記セメント除去率と、前記セメント濁水のイオン強度とから、前記セメント濁水への凝集剤の添加量を決定する、請求項1又は2に記載のセメント濁水の浄化方法。
【請求項4】
前記モデル濁水の導電率を測定し、前記モデル濁水のイオン強度と前記モデル濁水の導電率との関係式を算出し、当該関係式に前記セメント濁水から測定した導電率を入力して算出されるイオン強度と、前記セメント除去率とから、前記セメント濁水への凝集剤の添加量を決定する、請求項3に記載のセメント濁水の浄化方法。
【請求項5】
請求項4に記載のセメント濁水の浄化方法を行う、セメント濁水の浄化システムであって、
前記浄化システムは、前記セメント濁水の導電率を測定する導電率測定部と、
前記導電率測定部が測定した導電率と、前記管理図から算出される管理データにおける前記セメント除去率とから、前記セメント濁水への凝集剤の添加量を決定する制御部と、
決定した添加量の凝集剤を前記セメント濁水に添加する添加部とを備える、セメント濁水の浄化システム。
【請求項6】
請求項3に記載のセメント濁水の浄化方法を行う、セメント濁水の浄化システムであって、
前記浄化システムは、前記セメント濁水に含まれる各イオン種の濃度を測定するイオン測定部と、
前記イオン測定部が測定した前記セメント濁水のイオン濃度から算出されるイオン強度と、前記管理図に表示された前記セメント除去率とから、凝集剤の添加量を決定する制御部と、
決定した添加量の凝集剤を前記セメント濁水に添加する添加部とを備える、セメント濁水の浄化システム。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のセメント濁水の浄化システムであって、
前記添加部によって凝集剤を添加した前記セメント濁水からセメントを除去した排水の濁度を測定する濁度測定部を備える、セメント濁水の浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント濁水の浄化方法、およびセメント濁水の浄化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建設工事において排水として発生するセメント濁水は、クレイ(粘土)、砂、およびセメントを含んでいる。特にコンクリートの使用に伴い発生する排水には、セメントの懸濁粒子が多く含まれている。セメント濁水は、セメントの懸濁粒子に加え、当該セメントの水和反応に由来する様々なイオンを含み、このため、高いpHを示す。また、水中においてセメント粒子は強固に凝集する性質を持つため、セメント濁水は高い粘度を有し、フロックが沈降することがある。
【0003】
特許文献1には、濁水のpH値に応じて、粘土系粒子に対して高い凝集効果を示す水溶性カチオンポリマー(A)と、カルシウムを含む粒子に高い凝集効果を示す水溶性カチオンポリマー(B)とを、それぞれ添加割合を変えて添加した後、高分子凝集剤を添加してスラリー化する、濁水の処理方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、濁水を外部に排出するに際し、濁水を貯留して濁水の水素イオン濃度と浮遊物質量とを計測し、この水素イオン濃度および浮遊物質量が共に基準値を満たす場合には外部に排出し、基準値を満たさない場合には原水槽へと返送する複数の水質確認槽が設けられる、濁水処理システムが記載されている。
【0005】
特許文献3には、被処理水のpHを検出し、被処理水のpHが高いときは、ポリ塩化アクリルアミドおよび塩化カルシウムを含有する第1の凝集剤を被処理水に添加して固液分離し、被処理水のpHが高くないときには、被処理水を中和した後、該被処理水に無機系の第2の凝集剤および有機高分子系の第3の凝集剤を添加して固液分離する、濁水処理方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-28353号公報(2014年2月13日公開)
【文献】特開2009-207954号公報(2009年9月17日公開)
【文献】特開2002-205075号公報(2009年7月23日公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年では、セメントの微粒子化、並びに分散剤の開発および改良によって、建設現場において発生するセメント濁水は人工的に分散させられる。セメント濁水の処理においては、このように人工的に分散された浮遊物質を凝集剤により沈降させる。しかしながら、建設現場は水質のみならず、排出される現場条件によって原水性状が大きく異なる。建設現場ではセメント濁水はpHのみならずイオン強度が大きく変化するため、室内実験により凝集剤の効果を定量的に評価し、疑集剤の添加量を管理することは容易でない。例えば、特許文献1~3には、セメント濁水におけるイオン強度の変化に伴い生じる凝集剤の効果の変化について開示されていない。また、室内実験に基づき、建設現場におけるセメント濁水を管理することができる方法についても開示されていない。
【0008】
本発明の一態様は、化学混和剤で分散された微粒子セメントを含有する異なるイオン強度の濁水であって、かつ水質が変動しやすいセメント濁水であっても、効率よく、浮遊物質量が少ない排水に処理できるセメント濁水の浄化方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るセメント濁水の浄化方法は、所定のセメント濃度における、イオン強度が互いに異なる複数のモデル濁水を準備し、モデル濁水毎に濃度が異なるように凝集剤を添加したモデル濁水を複数調製し、前記凝集剤を添加したモデル濁水毎に、セメント濃度の変化率とイオン強度の変化とを測定し、目標とするセメント除去率に相当するときにおけるセメント濃度の前記変化率と、モデル濁水のイオン強度とから、前記セメント濁水への凝集剤の添加量を決定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、化学混和剤で分散された微粒子セメントを含有する異なるイオン強度の濁水であって、かつ水質が変動しやすい濁水であっても、効率よく、浮遊物質量が少ない排水に処理できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1の(a)は、本発明の一態様に係るセメント濁水の浄化方法において用いられるモデル濁水のイオン強度と、水和時間との関係を示すグラフであり、
図1の(b)は、モデル濁水のイオン強度と、水/セメント質量比(w/c)との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2の写真は、本発明の一態様に係るセメント濁水の浄化方法において評価されるジャーテストの結果を示す。
【
図3】
図3は、本発明の一態様に係るセメント濁水の浄化方法において用いられるモデル濁水の吸光度から求められる除去率(C/C
0)と、凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)から求められる凝集剤添加量とに対する、イオン強度毎のプロットを示すグラフである。
【
図4】
図4の(a)は、
図3に示された2次元のプロットを3次元に展開した3次元グラフであり、
図4の(b)は、
図4の(a)に示された3次元のプロットから、凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)を第1軸(x軸)、イオン強度(I
c)を第2軸(y軸)として抽出した2次元グラフである。
【
図5】
図5は、モデル濁水における導電率(EC)とイオン強度(I
c)との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、本発明の一態様にかかるセメント濁水の浄化システム100の概要を説明する模式図である。
【
図7】
図7は、本発明の一態様にかかるセメント濁水の浄化システム100が行なう、セメント濁水の管理操作を説明するフロー図である。
【
図8】
図8は、ジャーテストにおけるモデル濁水の撹拌速度150rpmである場合と、240rpmである場合とを対比するモデル濁水のセメント除去率と凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)の変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、荷電状態による疑集のメカニズムを評価するためのグラフである。
【
図10】
図10は、本発明の一態様にかかるセメント濁水の浄化方法における、凝集沈降のメカニズムの概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<セメント濁水の浄化方法>
本発明の一態様に係るセメント濁水の浄化方法は、セメント濃度とイオン強度とが調整されたモデル濁水を複数準備し、モデル濁水毎に濃度が異なるようにして凝集剤を添加して、セメントの凝集沈降実験を行う。
【0013】
凝集沈降実験後におけるモデル濁水に含まれるセメント濃度と、当該モデル濁水に添加した凝集剤の添加量との関係から、凝集剤の添加量毎にセメント粒子がモデル濁水から除去される除去率を求める。また、イオン強度と凝集剤の添加量との関係から、凝集剤の添加量毎にイオン強度の影響を求める。これらの関係から、イオン強度毎に、如何なる凝集剤の添加量がセメント除去に効果的であるか導き出し、セメント濁水への凝集剤の添加量の管理に用いる。なお、モデル濁水中に浮遊するセメント粒子、および化学混和剤で修飾されたセメント粒子のことを浮遊物質(SS)と称することもある。
【0014】
凝集沈降実験は、ジャーテストによる室内実験として行うことができる。また、建設現場におけるセメント濁水のイオン強度の変化を想定した複数のモデル濁水にて有効性の評価を行うため、室内実験でありながら建設現場における凝集剤の添加量の管理に好適に用いることができる。また、室内実験の結果に基づき、建設現場ごとに異なるセメント濁水の管理に利用することが可能である。
【0015】
〔モデル濁水〕
モデル濁水は、ジャーテスト用のセメント濁水のモデルであり、イオン強度およびセメント濃度が調整されている。モデル濁水は、建設現場にて用いられるセメント、および当該セメントに添加される化学混和剤の種類および量に応じて組成が決定される。モデル濁水の組成を決定した後、当該モデル濁水に含まれるイオン濃度の評価条件を決定するとよい。また、決定したイオン濃度の評価条件に基づき、モデル濁水を調製するための条件を決定すればよい。
【0016】
(組成)
モデル濁水に用いるセメントは、特に限定されるものではなく、例えば、超微粒子セメント(UFC)、ポルトランドセメント(OPC)、高炉セメント(BFSC)、また、混合セメントや特殊セメント等を挙げることができる。建設現場に用いられるセメントに応じ、適宜、モデル濁水の調製に用いるセメントを選択すればよい。
【0017】
モデル濁水には、必要に応じて化学混和剤が含まれる。化学混和剤は、高分子分散剤、流動化剤、および高性能減水剤等であり得、セメント粒子の分散性を高め、セメントの流動性を高めるための添加剤である。化学混和剤には、アニオン系高分子添加剤、およびノニオン系高分子分添加剤等が挙げられる。
【0018】
モデル濁水において、凝集沈降性能を評価する際に使用した凝集剤は実施例において使用したものに限定されず、様々な凝集剤を用いることができる。それ以外にも例えば、排水処理における沈降分離プロセスでは凝集剤が使用され、これと併せてポリ塩化アルミニウム(PAC)のようなアルミニウムの水和物ポリマーが高い頻度で使用されている。これに対し、ポリ-γ-グルタミン酸のような植物由来のアミノ酸ベースポリマーを使用し、セメント濁水の処理を好適に管理することができることも、本発明の一態様に係るセメント濁水の浄化方法における利点の1つである。
【0019】
モデル濁水は、セメントから溶出するイオン種に基づきイオン強度を管理することが好ましい。よって、モデル濁水を調製するための水には、蒸留水又はイオン交換水等の純水を用いることが好ましい。
【0020】
(イオン濃度の評価条件)
モデル濁水において使用すべきセメントを決定した後、セメントから濁水中に溶出するイオン濃度の評価条件を決定するとよい。例えば、所定量のセメントを純水に添加し、十分に撹拌することで懸濁液を得た後、シェイカー等によって当該懸濁液を振とうしつつ、継時的にサンプルを採取する。シリンジフィルター等によって当該サンプルから浮遊物質を濾過し、得られたセメント抽出液のイオン濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定し、このときに、濃度を測定すべきイオンの種類を決定するとよい。測定する代表的なイオン種としては、ナトリウムイオン(Na
+)、カリウムイオン(K
+)、カルシウムイオン(Ca
2+)、硫酸イオン(SO
4
2-)、塩化物イオン(Cl
-)、水酸化物イオン(OH
-)等が挙げられる。なお、セメント種によってイオン種およびイオン濃度が異なるため、使用するセメント毎に濃度を測定すべきイオンの種類を決定することが望ましい。また、セメント濁水におけるイオン濃度の経時的変化から、セメントが水和し、イオン濃度が安定化するまでの水和時間を求め、当該水和時間をイオン濃度の評価条件の基準とすることがモデル濁水のイオン強度をより的確に求めるために好ましい(
図1の(a))。
【0021】
イオン強度(I
c)の算出は、以下の式(1)として示される式により算出することができる。式(1)において、m
iはイオンのモル濃度、および、Z
iはイオンの価数である。
【数1】
【0022】
(セメント懸濁液の調製)
モデル濁水を調製するためのセメント懸濁液には、凝集沈降により除去する対象であるセメント粒子が浮遊物質として含まれる。セメント懸濁液は、建設現場におけるセメント濁水を再現すべく、建設現場と同様に所定量の化学混和剤が添加され得る。また、建設現場におけるセメント濁水と同程度の浮遊物質をモデル濁水に含ませるべく、セメント懸濁液における水/セメント質量比(g/g)を調製しておくとよい。
【0023】
なお、本明細書中、「モデル濁水」を調製するための「セメント濁水」を「セメント懸濁液」と称し、建設現場における浄化処理の対象である「セメント濁水」と区別する。
【0024】
セメント懸濁液を調製するときにおけるセメントの混合条件は、撹拌装置の種類、撹拌時間、撹拌の強度等も含め、一連の評価において統一しておくことが好ましい。例えば、セメント懸濁液の混合は、撹拌翼を備えた撹拌装置、超音波分散装置、又は、これら装置の併用により行なうとよい。その後、セメントから溶出するイオン濃度が安定化する水和時間まで振とうしておくことが好ましい。
【0025】
(セメント抽出液の調製)
モデル濁水を調製するためのセメント抽出液は、モデル濁水のイオン濃度を調製するためのイオン溶液であって、セメントの懸濁液から溶出したイオンを含んでいる。
【0026】
セメント抽出液は、懸濁液をセメントの水和時間まで十分に振とうし、その後、シリンジフィルター等によって懸濁液から浮遊物質を濾過して得るとよい。なお、セメント懸濁液を調製する条件と同じく、セメント抽出液を調製するときにおける、セメントの混合条件は、一連の評価において統一しておくことが好ましい。セメント抽出液の調製において、セメントの添加量が異なる複数のセメントの懸濁液を調製し、その後、浮遊物質を濾過することで、イオン濃度がそれぞれ異なる複数のセメント抽出液を調製しておくことが好ましい。
【0027】
〔モデル濁水の調製と凝集沈降試験〕
モデル濁水は、上述のように調製したセメント懸濁液とセメント抽出液とを混合することによって調製される。所定のセメント濃度に調製したセメント懸濁液と、セメント抽出液とを等量ずつ混合することで1つのモデル濁水を調製し、同じセメント濃度であるセメント懸濁液に、先のセメント抽出液とはイオン強度が異なる別のセメント抽出液を調製するという手順を繰り返し、これにより、所定のセメント濃度を有し、イオン強度が異なる複数のモデル濁水を調製する。1つのセメント濃度条件に対し、2つ以上のイオン強度条件が異なるモデル濁水を調製するとよい。
【0028】
ついで、所定のセメント濃度を有し、イオン強度が異なるモデル濁水毎に、セメントに対する濃度が異なるようにして凝集剤を添加した複数のモデル濁水を調製する。モデル濁水に添加される凝集剤の量は、凝集剤/セメント質量比(mf/mc)として表され得る。
【0029】
なお、モデル濁水は、建設現場において想定されるセメント濃度に調整され、イオン強度は建設現場において想定される変化の範囲を想定して調整すべきであることは言うまでもない。また、モデル濁水として、セメント濃度が異なる複数のセメント懸濁液を調製しこれらのセメント懸濁液毎に、イオン強度が異なる複数のセメント抽出液を混合し、セメント濃度が異なり、かつ、イオン強度も異なる複数のモデル濁水によって凝集沈降試験を行ってもよい。
【0030】
凝集沈降試験は、上述のモデル濁水毎にセメントの凝集沈降の状態を評価するジャーテストであり得る(
図2)。ジャーテストでは、セメントの凝集沈降状態を目視で確認し、その後、各モデル濁水における浮遊物質の吸光度(C)の測定を行う。なお、凝集剤を含んでいないモデル濁水の吸光度を、凝集剤を添加する前の吸光度(C
0)として採用する。これら吸光度の比C/C
0の変化率から、当該変化率に相当する(1-C/C
0)×100によりモデル濁水に含まれる浮遊物質の除去率(%)を算出できる。また、ジャーテスト後の各モデル濁水は、シリンジフィルター等で濾過することで浮遊物質を除去し、濾液におけるイオン濃度をイオンクロマトグラフィーによって測定し、その結果に基づき、イオン強度(I
c)を求め、その後は、求めたイオン強度(I
c)を再確認できればなおよい。併せて、ジャーテスト後の各モデル濁水の濾液における導電率を測定しておくとよい。
【0031】
以上のようなジャーテストを行うことによって、セメント濃度が一定であり、凝集剤の添加量が異なり、かつ、イオン強度が異なる複数のモデル濁水の評価結果を得ることができる。これにより、凝集剤の添加量としての凝集剤/セメント質量比(mf/mc)が異なるモデル濁水毎にセメント粒子の除去率を求めることができ、かつ、イオン強度と凝集剤の添加量との関係から、モデル濁水毎に凝集剤に対するイオン強度の影響を求めることができる。
【0032】
〔管理図の作成〕
モデル濁水の評価結果から、建設現場におけるセメント濁水の管理を行うための管理図の作成方法について説明する。
【0033】
まず、一例として、
図3に示すように、モデル濁水に含まれる浮遊物質の除去率の指標としての吸光度比(C/C
0)をy軸とし、凝集剤の添加量の指標となる凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)をx軸として、イオン強度毎(I
c)に吸光度比(C/C
0)と凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)との関係をプロットする。
【0034】
ついで、
図4の(a)に示すように、
図3に示す2次元グラフを、(i)吸光度比(C/C
0)を(1-C/C
0)に変換して目標とする除去率としたy軸、(ii)凝集剤の添加量の指標となる凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)をx軸、(iii)イオン強度(I
c)をz軸とする3次元グラフに展開する。ここで、
図4の(a)における、y軸の除去率80%に交わり、凝集剤の添加量のx軸とイオン強度(I
c)のz軸と平行なx-z平面において、イオン強度が異なるプロットが通過する点をつなぐ曲線を表示する。x-z平面上の曲線を、除去率80%を目標とするときにおける凝集剤の添加量(m
f/m
c)をx軸(第1軸)、イオン強度をy軸(第2軸)とする2次元グラフに抽出し、この曲線を管理図に表示することより、除去率80%を目標とするときにおける、イオン強度と凝集剤の添加量(m
f/m
c)との関係を示すプロットとして利用する。
図4の(b)には、同じ手順に沿って特定した除去率50%から95%までの複数のプロットが示されている。これにより、50%~95%の目標とするセメント除去率毎に、モデル濁水のイオン強度に基づき、如何なる凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)を採用すべきかを決定することができる。この管理図は、市販ソフトやgnuplot等のフリーソフト等によって好適に作製することができる。なお、管理図のより具体的な運用については実施例においてより詳細に説明される。
【0035】
〔導電率によるセメント濁水の管理〕
本発明の一態様に係る管理図による、セメント濁水の浄化はイオン強度に関連する導電率測定によっても達成することができる。
図5に示すように、上述のジャーテストを行ったときにおけるモデル濁水のイオン強度(I
c)と導電率(EC)の対数との関係式は、略一次の関係を示している。このモデル濁水のイオン強度(I
c)と導電率(EC)との関係に基づき、建設現場の管理では、イオン強度に変えて、目標とするセメント除去率と、導電率とに基づき、どの凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)を採用すべきかを決定することができる。建設現場において、イオン強度に関連するECを管理することは、適切な添加量を決定するための有効な方法である。
【0036】
<セメント濁水の浄化システム>
本発明の一実施形態に係るセメント濁水の浄化システムは、本発明の一態様に係るセメント濁水の浄化方法によって、セメント濁水を浄化する、セメント濁水の浄化システムである。
【0037】
図6に示すように、セメント濁水の浄化システム100は、建設現場からのセメント濁水を受け入れ、セメント濁水の濁度および導電率を測定する原水槽10と、濁度および導電率を測定したセメント濁水を原水槽10から受け入れ、凝集剤を添加することで凝集反応を行う反応槽11と、凝集反応を行なった濁水から、凝集物を沈降させ、濾過する沈降槽12と、沈降槽12から上澄水を受け入れ、上澄水の濁度を測定し、濁度およびpHを管理する放流槽13とを備えている。なお、浄化システム100が備えている原水槽10、反応槽11、沈降槽12、および放流槽13のそれぞれは、ポンプPによって、濁水、および/又は上澄水を移送することができる。
【0038】
浄化システム100は、本発明の一態様に係るセメント濁水の浄化方法により作成された管理図に基づき、セメント濁水を管理するための管理データを取得する制御部20と、制御部20に繋がる濁度計および導電率計を備える測定部20aと、濁度計およびpH計を備える測定部20bと、凝集剤を添加する定量フィーダ(添加部)21とを備えている。
【0039】
制御部20は、原水槽10に受け入れた濁水の濁度および導電率を測定するための測定部(導電率測定部)20aと、反応槽11において、制御部20が算出した添加量にて定量フィーダ21と、放流槽13に受け入れた上澄水の濁度およびpHを測定するための測定部20bとに有線又は無線にて繋がっている。
【0040】
また、制御部20は、本発明の一態様に係るセメント濁水の浄化方法によって予め作成された管理図から求められるセメント濁水の除去率を管理するための管理データを格納した記録部(不図示)を有しているか、管理データを統括して管理する管理部(不図示)に有線又は無線によって接続されていてもよい。
【0041】
測定部20aは、濁度計および導電率計を備え、これらによって測定された濁度および導電率を制御部20にフィードバックする。また、測定部(濁度測定部)20bは濁度計およびpH計を備え、これらによって測定された濁度およびpHを制御部20にフィードバックする。
【0042】
図7に基づき、セメント濁水の浄化システム100が行なう濁水の管理フローを説明する。
【0043】
制御部20は記録部又は管理部から、所定のセメントおよび所定の凝集剤を用いたモデル濁水の管理図から作成された管理データを取得する(S10)。なお、制御部20が取得する管理データは、管理図に表示された導電率と凝集剤の添加量(mf/mc)とに対する目標とするセメント除去率の変化を示すプロットに基づくデータである。ついで、作業者が現場において目標とするセメント濁水における浮遊物質の除去率、つまりセメント除去率を決定し、入力部(不図示)を介して制御部にデータを送信する(S11)。
【0044】
制御部20は、測定部20aに原水槽10に受け入れられたセメント濁水の濁度(吸光度)および導電率を測定するよう指示を送る。これにより、測定部20aがセメント濁水の濁度(吸光度)および導電率を測定する(S12)。そして、制御部20が、取得した管理データを参照し、測定部20aが測定したセメント濁水の濁度および導電率のデータと、作業者が決定した目標とするセメント除去率とから、セメント濁水に投入すべき凝集剤の添加量を決定する(S13)。より具体的には、凝集剤の添加量は、セメント濁水に含まれる浮遊物質の量と、凝集剤/セメント質量比(mf/mc)(g/g)とから算出し得る。セメント濁水に含まれる浮遊物質の量は、まず、測定部20aが備える濁度計によって測定した濁度(吸光度)からセメント濁水における水/セメント質量比w/c(g/g)を求め、次に、当該水/セメント質量比と、原水槽10から反応槽11に移送するセメント濁水の量とから算出することで求められ得る。浄化システム100において、反応槽11に移送されるセメント濁水の量は予め決定されていてもよく、作業者が上述の入力部(不図示)に反応槽11に移送するセメント濁水の量をデータとして入力し、当該入力部を介して制御部20に当該データを送信してもよい。凝集剤/セメント質量比(mf/mc)(g/g)は、制御部20が取得した管理データのうち、作業者が決定した目標とするセメント除去率の変化をデータとして採用し、当該データと、測定部20aが測定した導電率とから対応する凝集剤/セメント質量比(mf/mc)(g/g)を決定することで求められ得る。その後、浄化システム100は、原水槽10から、反応槽11へと濁水を移送し、反応槽11において、制御部20から凝集剤の添加量の情報を受信した定量フィーダ21が、当該添加量の凝集剤を投入する(S14)。また、反応槽11では、撹拌部11aによって、所定時間、凝集剤を添加したセメント濁水を撹拌する。
【0045】
その後、反応槽11からセメント濁水を受け入れた沈降槽12においてセメント濁水に含まれる浮遊物質を凝集沈降させる。沈降槽12から放流槽13に浮遊物質を除去した上澄水を移送し、放流槽13において、測定部20bによって上澄水の濁度、およびpHを測定する(S15)。上澄水の濁度が作業者によって設定された目標とするセメント除去率よりも低い場合(S16のyes)、pHを調整して上澄水を放流する(S17)。上澄水の濁度が作業者によって設定された目標とするセメント除去率よりも高い場合(S16のNo)、放流槽13から原水槽10へと上澄水を移送し、別途原水槽10に受け入れられたセメント濁水と混合し、測定部20aで濁度および導電率を測定する(S12)。その後、当該濁度および導電率と、作業者が決定した目標とするセメント除去率と、制御部20が取得している管理データとに基づき、凝集剤の量を再決定し、定量フィーダ21に決定された量の凝集剤を投入するように指示を送る(S13)。その後、沈降槽12において上澄水に含まれる浮遊物質を凝集沈降させ、放流槽13に移送した上澄水の濁度が作業者によって設定された目標とするセメント除去率よりも低い場合(S16のyes)、pHを調整して上澄水を排水として放流する(S17)。
【0046】
なお、本発明の別の態様に係る浄化システムでは、上澄水の濁度が作業者によって設定された目標とするセメント除去率よりも高い場合(S16のNo)、放流槽13から原水槽10へと上澄水を返送し、返送された上澄水の導電率を測定部20aにより再度測定する(S12)。その後、測定部20bで測定した濁度と、測定部20aにより再度測定した上澄水の導電率と、作業者が決定した目標とするセメント除去率と、制御部20が取得している管理データとに基づき、凝集剤の量を再決定し、制御部20が定量フィーダ21に決定された量の凝集剤を投入するように指示を送ってもよい(S13)。その後、沈降槽12において上澄水に含まれる浮遊物質を凝集沈降させ、放流槽13に移送した上澄水の濁度が作業者によって設定された目標とするセメント除去率よりも低い場合(S16のyes)、pHを調整して上澄水を排水として放流する(S17)。
【0047】
また、浄化システム100において、管理データからセメント濁水の導電率が高く、凝集剤による浮遊物質の凝集沈降効果は限定的であると判断される場合(S16のNo)、後述するように、撹拌強度の向上により凝集性を向上させてもよく、例えば、炭酸ガスを上澄水に導入することによって、上澄水中のカルシウムイオンと炭酸イオンとから炭酸カルシウムを析出させ、凝集沈降効果を高めてもよい。
【0048】
また、本発明の一態様に係る浄化システム100において、濁度計および導電率計を備える測定部20aは、導電率測定部に代えて、イオン強度、又はイオン濃度を測定するイオン測定部と濁度計とを備える構成であってもよい。ここで、イオン測定部は、セメント濁水のイオン強度を測定してもよく、セメント濁水のイオン濃度を測定し、得られたイオン濃度のデータからイオン強度を算出してもよい。
【実施例】
【0049】
〔1〕材料
モデル濁水を調整するための超微粒子セメント(UFC)として、HNP-1500(日鉄住金セメント株式会社製)を使用した。
【0050】
セメント懸濁液に添加する化学混和剤(SP)として、高性能減水剤VP-700(株式会社フローリック製)を使用した。
【0051】
食物由来のアミノ酸ベースポリマーであるPGα21Ca(日本ポリグル株式会社製)をポリグルタミン酸系凝集剤(PGAF)として用いた。
【0052】
その他、蒸留水WA570(ヤマト科学株式会社製)を、モデル濁水を調製するための純水として使用した。
【0053】
〔2〕イオン強度(Ic)の算出、および導電率の測定
0.5gの超微粒子セメントを1Lの純水に添加し、当該セメント懸濁液を1分間、家庭用ミキサーIHB-602-W(アイリスオーヤマ株式会社製)を用いて急速撹拌した。次いで、セメント懸濁液をポリプロピレン容器に移し、5分間、ガラス棒で攪拌しつつ、超音波発生装置VS-D100(アズワン株式会社製)によって超音波分散した。その後、超音波分散したセメント懸濁液をシェイカーMMS-2000(EYELA,東京理科機器株式会社製)により150rpmの条件で振とうしつつ、継時的にサンプルを採取し、イオン濃度を測定し、イオン強度を算出した。なお、振とう時間は、イオンの溶出量が減り、イオンの数値が安定するための経過時間として設定したが、イオン溶出量の計時変化を把握すればよく、3時間と限らなくともよい。
【0054】
サンプルとして得たセメント懸濁液から浮遊物質(SS)を含む濁水を採取し、シリンジフィルター(0.45μm)を用いて濾過し、これをセメント抽出液とした。その後、Prominence HIP-SP(株式会社島津製作所製)を用いたイオンクロマトグラフィーによりセメント抽出液のイオン濃度を測定した。イオンクロマトグラフィーでは、Na+、K+、Ca2+、Cl-、SO4
2-の濃度を測定した。併せて、LAQUA D-74(株式会社Horiba製作所製)にてセメント抽出液のpHを測定しOH-を算出し、LAQUAtwin EC-33(株式会社Horiba製作所製)にてセメント抽出液の導電率(EC)を測定した。
【0055】
1Lの純水に添加する超微粒子セメントの添加量を1g、2g、10gおよび100gに代えたセメント懸濁液を、0.5gのセメント懸濁液を調製したときと同じ手順に沿って調製し、イオン濃度および導電率を測定し、イオン強度を算出した。
【0056】
イオン強度(I
c)は、セメント懸濁液のイオンクロマトグラフィーおよびpHによって測定された各イオン濃度から、以下の式を用いて算出した。
【数2】
表1に、イオンクロマトグラフィーによって測定されたセメント抽出液に含まれる各イオン種の濃度と、イオン濃度から求められたイオン強度を示す。表1に示すように、イオン強度全体の80%が、カルシウムイオンおよび水酸化イオンの濃度によるものである結果となった。
【0057】
【0058】
図1の(a)は、水/セメント質量比(w/c)と、セメント抽出液における経時的なイオン強度の変化とを示すグラフであり、
図1の(b)はセメント抽出液における水/セメント質量比(w/c)と、イオン強度の関係を示すグラフである。
図1の各グラフから、セメント濃度が高い程、言い換えれば、水/セメント質量比(w/c)が低い程、各イオン種の濃度は高いことが確認された。また、本実施例で用いた超微粒子セメントでは、水/セメント質量比(w/c)が、10~2000の範囲おいて、およそ2~3時間(水和時間)でイオン強度が安定することを確認した。なお、イオン強度と導電率との関係については後述する。
【0059】
〔2〕モデル濁水の調製
超微粒子セメントを含むセメント懸濁液と、これとは別に調製した超微粒子セメントの懸濁液から抽出したセメント抽出液とが等量になるように混合した。これにより超微粒子セメントの濃度が500mg/Lである条件において、それぞれが異なるイオン強度を有する複数のモデル濁水を調製した。
【0060】
〔2.1〕セメント懸濁液の調製
モデル濁水用のセメント懸濁液の調製として、まず、超微粒子セメント0.5g当りに対し、0.1gの高性能減水剤が添加されるように、純水に予め高性能減水剤を溶解した。次いで、高性能減水剤を添加した純水に、水/セメント質量比(w/c)が1000となるように、超微粒子セメントを添加した。その後、セメント懸濁液を1分間、家庭用ミキサーを用いて急速撹拌し、セメント懸濁液をポリプロピレン容器に移し、5分間、ガラス棒で攪拌しつつ、超音波分散した。その後、超音波分散したセメント懸濁液を150rpmの条件で3時間振とうした。振とうして得たセメント懸濁液を、浮遊物質(SS)を含むモデル濁水用のセメント懸濁液とした。
【0061】
〔2.2〕セメント抽出液の調製
モデル濁水用のセメント抽出液は、水/セメント質量比が10、100、500、1000、および2000であるセメント懸濁液を別個に調製し、これらセメント懸濁液からイオンが溶解したセメント抽出液を調製した。純水に対して所定量の超微粒子セメントを添加し、セメント懸濁液を1分間、家庭用ミキサーを用いて急速撹拌し、セメント懸濁液をポリプロピレン容器に移し、5分間、ガラス棒で攪拌しつつ、超音波分散した。その後、超音波分散したセメント懸濁液を150rpmの条件で3時間振とうした。振とうして得たセメント懸濁液から浮遊物質(SS)を含む濁水を収集し、シリンジフィルター(0.45μm)を用いて濾過し、これにより、セメント抽出液を得た。
【0062】
〔3〕ジャーテスト
ジャーテストは、ジャーテスト装置JMD-2E(宮本理研工業株式会社製)を用い、室温(20℃)の条件にて行った。ジャーテスト用の撹拌装置における撹拌翼はシングルブレードであり、幅は50mm、高さは16mmであった。複数のトールビーカーに300mLのモデル濁水を投入し、モデル濁水毎に異なる量にて凝集剤であるPGAFを添加した。なお、モデル濁水に添加した凝集剤の添加量は、凝集剤/セメント質量比をmf/mcと規定し、0.0067~2.6667の範囲内にて、10プロットの異なる濃度条件で評価した。
【0063】
ジャーテストでは、モデル濁水毎に3分間、150rpmの急速撹拌、10分間、40rpmの緩速撹拌を一連の操作として行なった。一連の操作の後、トールビーカーを30分間静置した。その後、モデル濁水毎に表面に浮かぶフロスを含まないようにして浮遊物質を含むモデル濁水を4mL採取し、分光光度計U-5100(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用い、波長660nmにおける吸光度を測定した。PGAFを添加していないモデル濁水の吸光度をC0とし、PGAFを添加したモデル濁水の吸光度Cとした。凝集剤/セメントの質量比(mf/mc)の異なるモデル濁水毎に、C/C0を算出し、凝集剤/セメントの質量比の違いによるモデル濁水における浮遊物質(SS)の除去率の変化を求めた。
【0064】
図2に、イオン強度(I
c)が5.4mMであるモデル濁水と、イオン強度(I
c)が15.5mMであるモデル濁水とにおけるジャーテストの結果を示す。併せて、
図3に、凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)に対する、初期のセメント懸濁液の吸光度(C
0)と、ジャーテスト後の吸光度(C)との比(C/C
0)を異なるイオン強度毎にプロットしたグラフを示す。C/C
0の低下は、粒子が除去されたことを示し、C/C
0=1である場合は除去されていない状態であることを示す。
図3のグラフに示すように、m
f/m
c=0.1である場合、イオン強度(I
C)が5.4~10mMであるモデル濁水の場合よりも、イオン強度(I
C)が15.5~44.5mMであるモデル濁水におけるC/C
0の値は、わずかに低い結果となった。m
f/m
c=0.3である場合、イオン強度(I
C)が5.4~10mMであるセメント懸濁液に対するC/C
0の値は0.1よりも低くなる結果となった。また、イオン強度が15.5~44.5mMである場合、m
f/m
cが0.1を超えると、C/C
0の値が高くなり、0.2~0.3の範囲において、おおよそ一定になった。さらに、m
f/m
cが1を超える場合、C/C
0の値は高くなる傾向を示した。PGAFのセメント除去能力は、実施例において評価された全てのイオン強度において確認されたが、15.5~44.5mMという高いイオン強度においては限定的であることを確認した。この傾向は、
図2にも示されている。
【0065】
〔4〕管理図の作成
図3に示すグラフに基づき、式(1-C/C
0)×100から計算した除去率(%)をxyz座標空間にプロットした3次元グラフを
図4の(a)に示す。
図4の(a)の3次元グラフにおいて、(1-C/C
0)×100=80に位置するx-z面は、目標とする除去率が80%である条件を示しており、x-z面上の実線に沿ってセメント濁水のイオン強度が所定のときに必要とされる凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)を確認することができる。
図4の(a)の3次元グラフをもとに、
図4の(b)に示すように、x-z面上の実線を目標とするセメント除去率を示すプロットとして、x軸がイオン強度(I
c)、z軸が凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)であるグラフに抽出する。これによって、必要とされるセメント濁水に含まれる浮遊物質の除去率に応じ、必要とされる凝集剤の添加量を決定することができる。例えば、
図4の(b)において、低いイオン強度のセメント濁水において除去率80%以上を目標とする場合、凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)を大きくすることで、より高い除去率を達成できることを予測することができる。また、例えば、セメント濁水のイオン強度が高い場合、凝集剤/セメント質量比(m
f/m
c)を大きくすることによる効果は限定的であると判断でき、過剰な凝集剤の添加を回避することもできる。
【0066】
〔5〕導電率とイオン強度との関係に基づく、セメント濁水の管理
図5に、モデル濁水におけるイオン強度(I
c)と導電率(EC)とをプロットしたグラフを示す。
図5に示す、グラフに示されているイオン強度と導電率との各プロットは、上述のイオンクロマトグラフィーによって測定されたセメント抽出液のイオン強度、および導電率である。
図5に示すように、セメント抽出液におけるイオン強度と導電率の対数値とは略一次の関係(y=8.3331x
1.0434+0.9578)を示していた。当該関係式にセメント濁水の導電率を入力することで、セメント濁水のイオン強度を推定できることを確認した。
【0067】
〔6〕撹拌強度の評価
セメント濁水を処理するための処理装置における撹拌力の影響を評価するため、別の実験として、撹拌装置の撹拌翼をシングルブレードからダブルブレードに変更し、3分間、150rpmの急速撹拌を、5分間、240rpmの急速撹拌に変更した以外は、同じ条件にてジャーテストを行った。
【0068】
図8に、m
f/m
cが0.03~1の範囲内のときにおいて、240rpmの条件でのC/C
0は、150rpmの条件でのC/C
0よりも低く、PGAFによるUFC粒子の除去は急速撹拌時における撹拌強度の増大によって向上させることができる。
図8に示す結果は、高いpHおよび高いイオン強度の条件においても、急速撹拌時におけるより高い撹拌強度がPGAFによるセメント粒子の除去能力を向上することを示している。
【0069】
〔7〕ゼータ電位測定
上述のジャーテストと同じ条件においてモデル濁水を調製し、所定の条件で攪拌した後、120分間、静置した。その後、浮遊物を含む濁水をモデル濁水として10mL採取した。ゼータサイザーナノZS(マルバーン・パナリティカル社製)を用いて、電気泳動移動度μを測定した。超微粒子セメントの平均粒径(約1.5μm)に対し、拡散二重層の厚さは十分に小さいものと判断されることから、以下に示すスモルコフスキーの式からゼータ電位ζを求めた。
【0070】
【数3】
ここで、ε
rはモデル濁水の比誘電率であり、ε
0は、真空の比誘電率であり、ηはモデル濁水の粘度であり、水温20℃、ε
0=80、η=1.005mPa・sとして評価した。さらに、上述の方法によって、イオン強度の関数として、超微粒子セメントの粒子、およびPGAFの電気泳動移動度μを測定した。モデル濁水は、水/セメント質量比(w/c)=2000であるセメント懸濁液と、異なるイオン強度を有するセメント抽出液とを1.0~9.0の比で混合するとことで準備した。併せて、8mLのセメント抽出液に、8mgのPGAFを添加し、PGAF懸濁液を準備した。各試料を5分間、超音波分散し、評価の前に120分間静置した。
【0071】
図9の(a)に、イオン強度に対する、超微粒子セメント(UFC)および凝集剤(PGAF)、高性能減水剤を含む超微粒子セメント(UFC with SP)のゼータ電位を示す。超微粒子セメント(UFC)のゼータ電位は、評価したイオン強度の範囲内において-10.5~+5.7mVの範囲内と低い結果となった。イオン強度が高くなる程、超微粒子セメントのゼータ電位の絶対値は小さくなり、イオン強度が22mM辺りにおいて電位がネガティブ(-)からポジティブ(+)に変化した。高性能減水剤を含んだ超微粒子セメント(UFC with SP)のゼータ電位は、-12.7~-2.8mVの範囲内と低く、高性能減水剤を含んでいない超微粒子セメント(UFC)のゼータ電位よりもわずかに高い結果となった。また、PGAFのゼータ電位は、ポジティブ(+)であり、測定したイオン強度の範囲内において、+9~+25mVであった。
【0072】
また、
図9の(b)に示す、イオン強度(I
c)=15.5~44.5mMの範囲におけるゼータ電位と、イオン強度(I
c)=5.4~10mMの範囲におけるゼータ電位との相違から、モデル濁水におけるイオン強度の相違によって、異なる凝集沈降プロセスが引き起こされると判断できる。
【0073】
例えば、
図9の(a)に示すように、低いイオン強度のモデル濁水において、SPによって分散されたセメント粒子は、強くネガティブ(-)に帯電しており、PGAFは弱くポジティブ(+)に帯電している。この場合、
図10の左モデルのようにPGAFは、PGAF同士がカルシウムイオンを介して網目状に結合しつつ、セメント粒子を捕捉するスイープ凝集、およびPGAFとセメント粒子との電荷中和の両方によって凝集沈降する。また、
図9の(a)に示すように、高いイオン強度のモデル濁水において、化学混和剤によって分散されたセメント粒子は、弱くネガティブ(-)に帯電しており、PGAFは強くポジティブ(+)に帯電し、イオン強度22mM当りでゼータ電位が上限に達している。この場合、
図10の右モデルのようにPGAF凝集剤とセメント粒子とは電荷中和することで凝集沈降する。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明に係るセメント濁水の浄化方法は、例えば、建設現場におけるセメント濁水の浄化処理に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
100 浄化システム
10 原水槽
11 反応槽
11a 撹拌部
12 沈降槽
13 放流槽
20 制御部
20a 測定部(導電率測定部,イオン測定部)
20b 測定部(濁度測定部)
21 定量フィーダ(添加部)