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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】臓器断端処置具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/12 20060101AFI20230331BHJP
【FI】
A61B17/12
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019537706
(86)(22)【出願日】2018-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2018031328
(87)【国際公開番号】W WO2019039586
(87)【国際公開日】2019-02-28
【審査請求日】2021-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2017161201
(32)【優先日】2017-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505246789
【氏名又は名称】学校法人自治医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109508
【弁理士】
【氏名又は名称】菊間 忠之
(72)【発明者】
【氏名】兼田 裕司
【審査官】中村 一雄
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0234862(US,A1)
【文献】米国特許第05741283(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体内分解吸収性ポリマーからなる遠位端と近位端とを有する細長い可撓性のバンド部と、
生体内分解吸収性ポリマーからなる第2噛合部を有するロッキング部とを有し、
ロッキング部はバンド部の遠位端に形成されており、
バンド部は、遠位端と近位端との間に屈曲部を有し、且つ屈曲部と近位端との間に第2噛合部に噛み合せるための第1噛合部を有し、
前記屈曲部は、折れ曲がった状態を維持している部分であり、
第1噛合部と第2噛合部とを噛み合わせたときに、前記屈曲部が内に凹となる扁平な輪を成し、その輪にて、臓器を緊縛して、臓器断端に開口する管または腔を結紮するための、臓器断端処置具。
【請求項2】
生体内分解吸収性ポリマーからなる遠位端と近位端とを有する細長い可撓性の第1バンド部と、
生体内分解吸収性ポリマーからなる遠位端と近位端とを有する細長い可撓性の第2バンド部と、
生体内分解吸収性ポリマーからなる第1ラチェット爪を有する第1ロッキング部とを有し、
第1ロッキング部は第2バンド部の遠位端に形成されており、
第1バンド部の遠位端と第2バンド部の近位端とが接合されて屈曲部を形成しており、且つ
第1バンド部の外面には第1ラチェット爪に噛み合わせることができるラチェット歯が少なくとも一つ形成されており
前記屈曲部は、折れ曲がった状態を維持している部分であり、
ラチェット歯と第1ラチェット爪とを噛み合わせたときに、前記屈曲部が内に凹となる扁平な輪を成し、その輪にて、臓器を緊縛して、臓器断端に開口する管または腔を結紮するための、臓器断端処置具。
【請求項3】
第1バンド部および第2バンド部は、それらの少なくとも一方の内面に、長さ方向に沿って形成された少なくとも1つの凸条を有する、請求項2に記載の臓器断端処置具。
【請求項4】
第1ロッキング部の近傍に臓器組織の挟み込みを防止するためのベロ部をさらに有する、請求項2または3に記載の臓器断端処置具。
【請求項5】
前記屈曲部は、第1バンド部と第2バンド部とが直角より小さい角度で且つ角のない滑らかな内面となっている、請求項2~4のいずれかひとつに記載の臓器断端処置具。
【請求項6】
生体内分解吸収性ポリマーからなる第2ラチェット爪を有する第2ロッキング部をさらに有し、
第1ラチェット爪は噛み合ったラチェット歯から噛み合いを解放することができ、第2ラチェット爪は噛み合ったラチェット歯から噛み合いを解放することができない、請求項2~5のいずれかひとつに記載の臓器断端処置具。
【請求項7】
第1バンド部または第2バンド部は、長さ方向に沿って開口が並ぶホールを有する、請求項2~6のいずれかひとつに記載の臓器断端処置具。
【請求項8】
生体内分解吸収性ポリマーからなる被覆部材をさらに有する、請求項1~7のいずれかひとつに記載の臓器断端処置具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臓器断端処置具に関する。より詳細に、肝臓、膵臓などの臓器の一部切除において、種々の合併症の発生を防ぐための、侵襲の少ない臓器断端処置具に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓腫瘍または膵臓腫瘍の有力な治療法として、肝または膵切除術が知られている。膵臓は、膵頭部、膵体部、膵尾部と呼ばれる3つの部位からなる。膵頭部は十二指腸に接しており、膵尾部は脾臓に接している。膵体部または膵尾部の切除術では、例えば、自動縫合器と呼ばれる機器で、膵臓の切離と同時に断端を閉鎖する処置が行われている。ところが、自動縫合器による切除術後に、高い割合で、断端の閉鎖が解けて、膵液瘻を発生する。また、自動縫合器による切除術は、断端の閉鎖において、膵実質組織を多くのステープルが貫通するので膵実質損傷、膵管損傷を避けられない。
【0003】
非特許文献1は、膵尾部切除後の処置法として、断端を楔形に切り込み膵管を結紮しさらに創面どうしが接合するように閉鎖縫合する方法(フィッシュマウス法)、断端の膵全周を結紮糸で縛る方法(集束結紮法)、膵管を結紮しさらに断面を漿膜または大網膜で覆う方法などを挙げている。これ以外にも、小腸壁を切離し膵断端を小腸壁で縫合被覆する方法、ポリグルコール酸製の不織布をフィブリン糊で貼り付ける方法なども知られている。これらのうち、集束結紮法は、針やステープルを使用しないため針やステープルの貫通による侵襲がなく、膵液瘻の発生頻度を低下させる効果が期待できるが、緊縛する際の張力調整が困難であり、かつ、結紮時に緊縛が緩む可能性がある。また、結紮糸が膵表面から膵実質組織に食い込むため、膵被膜や膵実質組織が損傷する可能性がある。
【0004】
ところで、結紮を行うための医療器具が、種々提案されている。
例えば、特許文献1は、所定長の止血帯体を有し、同止血帯体の長さ方向の締め代となる範囲には、抜止め噛合部を連続形成し、同抜止め噛合部の形成範囲に渡る止血帯体の適所に、滑止めリブを連続形成した上、止血帯体基端には、一方に挿入口、他方に繰出し口を開口した短尺トンネル状をなし、内側適所に、先端から繰り込まれた止血帯体の抜止め噛合部を脱抜不能に係止可能な係止鈎を形成した尾錠部を一体形成してなり、全体が可撓性を有する合成樹脂成型品からなることを特徴とする結紮用バンドを開示している。引用文献1は生分解性合成樹脂を用いてもよいと述べている。
【0005】
特許文献2は、前方側部、後方側部、先端部、および後続端部を有する細長い可撓性のバンドであって、前記バンドは、前記バンドの中に画定された穿孔部および横桟部を有する、バンドと、前記バンドの前記後続端部に接続されているロッキングケースであって、前記ロッキングケースは、前記バンドの受け入れのために寸法決めされたチャネルを有する、ロッキングケースと、前記ロッキングケースに接続されているロッキング部材であって、前記ロッキング部材は、前記チャネルに関連して配設され、前記バンドの中に画定されている穿孔部および横桟部と連結するように構成されている、ロッキング部材とを含み、前記ロッキングケースの中の前記チャネルは、前記ロッキング部材の反対側に配置されているアーチング部分を含み、前記バンドは、前記ロッキング部材が前記バンドの横桟部と係合するときに、前記ロッキング部材の上方にアーチ状になり、前記アーチング部分の中へ少なくとも部分的に突出するように構成されていることを特徴とする、組織結紮のための医療用デバイスを開示している。特許文献2は、前記医療用デバイスは、例えば、ポリグリコライド、ポリ-L-ラクチド、ポリ-p-ジオキサノン、ポリ(トリメチレンカーボネート)、ポリカプロラクトン、ならびにグリコライド、L-ラクチド、p-ジオキサノン、トリメチレンカーボネート、およびε-カプロラクトンからなる群から選択される2つ以上のモノマーに由来するコポリマーからなる群から選択されるポリマーから少なくとも部分的に作製されていると述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-298501号公報
【文献】特開2015-523144号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】野上「膵脾合併切除術に於ける膵断端処置法に関する研究」千葉医学会雑誌第32巻第1号第108~113頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、肝臓、膵臓などの臓器の一部切除において、種々の合併症の発生を防ぐための、侵襲の少ない臓器断端処置具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、下記の形態を包含する本発明を完成するに至った。
【0010】
〔1〕 生体内分解吸収性ポリマーからなる遠位端と近位端とを有する細長い可撓性のバンド部と、
生体内分解吸収性ポリマーからなる第2噛合部を有するロッキング部とを有し、
ロッキング部はバンド部の遠位端に形成されており、
バンド部は、遠位端と近位端との間に屈曲部を有し、且つ屈曲部と近位端との間に第2噛合部に噛み合せるための第1噛合部を有する、
第1噛合部と第2噛合部とを噛み合わせたときに、内に凹の屈曲部を少なくとも1つ有する扁平な輪を成し、その輪にて、臓器を緊縛して、臓器断端に開口する管または腔を結紮するための、臓器断端処置具。
〔2〕 生体内分解吸収性ポリマーからなる遠位端と近位端とを有する細長い可撓性の第1バンド部と、
生体内分解吸収性ポリマーからなる遠位端と近位端とを有する細長い可撓性の第2バンド部と、
生体内分解吸収性ポリマーからなる第1ラチェット爪を有する第1ロッキング部とを有し、
第1ロッキング部は第2バンド部の遠位端に形成されており、
第1バンド部の遠位端と第2バンド部の近位端とが屈曲するように接合されており、且つ
第1バンド部の外面には第1ラチェット爪に噛み合わせることができるラチェット歯が少なくとも一つ形成されている、
ラチェット歯と第1ラチェット爪とを噛み合わせたときに、内に凹の屈曲部を少なくとも一つ有する扁平な輪を成し、その輪にて、臓器を緊縛して、臓器断端に開口する管または腔を結紮するための、臓器断端処置具。
【0011】
〔3〕 第1バンド部および第2バンド部は、それらの少なくとも一方の内面に、長さ方向に沿って形成された少なくとも1つの凸条を有する、〔2〕に記載の臓器断端処置具。
〔4〕 第1ロッキング部の近傍に臓器組織の挟み込みを防止するためのベロ部をさらに有する、〔2〕または〔3〕に記載の臓器断端処置具。
〔5〕 第1バンド部の遠位端と第2バンド部の近位端とは、第1バンド部と第2バンド部とが直角より小さい角度で且つ角のない滑らかな内面となるように接合されている、〔2〕~〔4〕のいずれかひとつに記載の臓器断端処置具。
〔6〕 生体内分解吸収性ポリマーからなる第2ラチェット爪を有する第2ロッキング部をさらに有し、
第1ラチェット爪は噛み合ったラチェット歯から噛み合いを解放することができ、第2ラチェット爪は噛み合ったラチェット歯から噛み合いを解放することができない、〔2〕~〔5〕のいずれかひとつに記載の臓器断端処置具。
〔7〕 第1バンド部または第2バンド部は、長さ方向に沿って開口が並ぶホールを有する、〔2〕~〔6〕のいずれかひとつに記載の臓器断端処置具。
【0012】
〔8〕 生体内分解吸収性ポリマーからなる被覆部材をさらに有する、〔1〕~〔7〕のいずれかひとつに記載の臓器断端処置具。
【発明の効果】
【0013】
結紮用の従来のバンドは、結紮時に真円に近い輪を成すので、扁平な断面形状をした臓器への押圧が、短径部分で低く、長径部分で高い。これに対して、本発明の臓器断端処置具は、扁平な輪を成すので、扁平な断面形状をした臓器全体を均一な押圧で結紮することができ、且つ臓器を傷つけにくい。本発明の臓器断端処置具は、肝臓、膵臓などの臓器の一部切除において、少ない侵襲で、種々の合併症の発生を防ぐことができる。本発明の臓器断端処置具は、膵臓などの柔らかい臓器に無理な変形を起こさずに、結紮することができる。本発明の臓器断端処置具は、膵実質に針や医療用ホチキスを入れる必要がないため、膵実質・膵管を損傷させにくい。本発明の臓器断端処置具は、手技が簡単で、術者の技量レベルによらない。本発明の臓器断端処置具は、不必要な消化管切離、吻合を要しない。本発明の臓器断端処置具は、生体内分解吸収ポリマーを使用しているので医療経済的に有用である。生体内分解吸収性ポリマーからなる被覆部材を併用すると、感染のリスクが低くなるため、臓器からの漏液や出血の防止効果が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の臓器断端処置具の一例を示す側面図である。
図2図1に示す臓器断端処置具を展開した状態での外面を示す図である。
図3図1に示す臓器断端処置具を展開した状態での内面を示す図である。
図4図1に示す臓器断端処置具のベロ部および第2バンド部の側面を示す図である。
図5】膵臓体尾部切除後、膵断端を絞るように、本発明の臓器断端処置具を取り付けた状態の一例を示す図である。
図6】膵臓断端に本発明の臓器断端処置具を取り付けた状態の一例を示す側面図である。
図7】膵臓断端に本発明の臓器断端処置具を取り付けた状態の別の一例を示す側面図である。
図8】膵臓断端に本発明の臓器断端処置具を取り付けた状態の一例を示す断面図である。
図9】膵臓断端に本発明の臓器断端処置具を取り付けた状態の別の一例を示す断面図である。
図10】被覆部材の一例を示す図である。
図11】本発明の臓器断端処置具の一例を展開した状態での外面を示す図である。
図12図11に示す臓器断端処置具を展開した状態での内面を示す図である。
図13図11に示す臓器断端処置具のベロ部および第2バンド部の側面を示す図である。
図14図11に示す臓器断端処置具の第2バンド部の断面を示す図である。
図15図11に示す臓器断端処置具のベロ部を示す斜視図である。
図16】本発明の臓器断端処置具の一例を展開した状態での外面を示す図である。
図17図16に示す臓器断端処置具を展開した状態での内面を示す図である。
図18図16に示す臓器断端処置具のベロ部および第2バンド部の側面を示す図である。
図19図16に示す臓器断端処置具の第2バンド部の断面を示す図である。
図20図16に示す臓器断端処置具の第1バンド部の側面からの拡大透視図である。
図21図16に示す臓器断端処置具の第1バンド部の外面からの拡大透視図である。
図22】本発明の臓器断端処置具の一例を展開した状態での外面を示す図である。
図23図22に示す臓器断端処置具の第1バンド部の断面を示す図である。
図24図22に示す臓器断端処置具の第1バンド部に設けたホールの外面からの拡大透視図である。
図25】本発明の臓器断端処置具の一例を展開した状態での外面を示す図である。
図26図16に示す臓器断端処置具の第1バンド部の断面を示す図である。
図27図16に示す臓器断端処置具の第1バンド部に設けたホールの側面からの拡大透視図である。
図28図16に示す臓器断端処置具の第1バンド部に設けたホールの外面からの拡大透視図である。
図29】被覆部材の別の一例を示す図である。
図30】被覆部材の別の一例を示す図である。
図31】被覆部材の別の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の臓器断端処置具はバンド部2,3とロッキング部とを有する。
バンド部は、生体内分解吸収性ポリマーからなる遠位端と近位端とを有する細長い可撓性の帯状部材である。
ロッキング部7は、生体内分解吸収性ポリマーからなる第2噛合部を有し、バンド部の遠位端に、好ましくはバンド部の遠位端に外面に突き出して形成されている。
【0016】
バンド部は、遠位端と近位端との間に屈曲部4を有し且つ屈曲部と近位端との間に第2噛合部に噛み合せるための第1噛合部5を有する。図1の臓器断端処置具において屈曲部4は一つ設けられているが、2つ以上設けてもよい。屈曲部を2つ以上設けた場合、第1噛合部は近位端に最も近い位置に設けた屈曲部と近位端との間に設けられる。第1噛合部はバンド部の外面またはバンド部の側縁に設けることが好ましい。
【0017】
屈曲部は、内に凹に折れ曲がった部分、好ましくは内に凹に角のない若しくは滑らかな内面を有するように折れ曲がった部分である。屈曲部は、樹脂成形において折れ曲がった状態に形成して得てもよいし、第1バンド部の遠位端と第2バンド部の近位端とを屈曲するように接合することによって得てもよいし、可撓性を有するバンド部材の一部を折り曲げ、次いでそこに可撓性を抑える部材を取り付けることによって得てもよいし、バンド部の厚さを薄くするまたは厚くするなどして、弾性力を他の部分にくらべて弱くするまたは強くすることによって得てもよい。バンド部は可撓性を有するので任意に湾曲させることができるが、バンド部の中において屈曲部は上記のような折れ曲った部分の形状が維持されるように他の部分よりも可撓性が低くなっている、すなわち弾性力が強くなっている、ことが好ましい。前記の可撓性を抑える部材は生体内分解吸収性ポリマーからなることが好ましい。
【0018】
第1噛合部と第2噛合部とは、それらが相互に対応する噛み合わせ形状を成すものであれば特に制限されず、例えば、バンド部の外面に形成された複数のラチェット歯とロッキング部に形成された少なくとも一つのラチェット爪との組み合わせ、バンド部の左右側縁に形成された複数のラチェット歯とロッキング部に形成された少なくとも左右1組のラチェット爪との組み合わせ、バンド部に形成された複数の孔とロッキング部に形成されたピンとの組み合わせなどが挙げられる。そして、バンド部3の内面がバンド部2の外面に接触するように、バンド部3の近位端がバンド部2の遠位端から近位端側に向くように噛み合わせることができる(図6)。
本発明の臓器断端処置具は、第1噛合部と第2噛合部とを噛み合わせたときに、内に凹の屈曲部4を少なくとも1つ有する扁平な輪を成し、その輪にて、臓器を緊縛して、臓器断端に開口する管または腔を結紮することができる。扁平な輪は、扁平な断面形状をした臓器全体を均一な押圧で結紮することができ、且つ臓器を傷つけにくい。
【0019】
本発明の臓器断端処置具は生体内分解吸収性ポリマーで形成される。生体内分解吸収性ポリマーとしては、例えば、乳酸ポリマー、乳酸-グリコール酸ポリマー、トリメチレンカーボネート系ポリマー、ジオキサノン系ポリマー、ポリエチレングリコール系ポリマー、ラクトン系ポリマーなどを挙げることができる。これらのうち、ジオキサノン系ポリマーが好ましい。本発明の臓器断端処置具は、生体内分解吸収性ポリマーを公知の樹脂成形法によって各部の形を作ることによって得ることができる。
【0020】
次に図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
本発明の臓器断端処置具1は、第1バンド部3と、第2バンド部2と、第1ロッキング部7とを有する(図1)。
【0021】
第1バンド部3および第2バンド部2は生体内分解吸収性ポリマーからなる遠位端と近位端とを有する細長い可撓性の帯状部材である。
第1バンド部3および第2バンド部2は第1バンド部3の遠位端と第2バンド部2の近位端とにおいて接合されている。接合4は、融着、接着、軸着などすることによって形成してもよいし、第1バンド部3と第2バンド部2とが接合した形状に一体で樹脂成形することによって形成してもよい。第1バンド部の遠位端と第2バンド部の近位端とは、第1バンド部と第2バンド部とが屈曲するように接合されている。屈曲した接合は、上記の形成法以外に、屈曲のない真直ぐな生体内分解吸収性ポリマー製バンドに熱などを加えながら塑性変形させることによって形成させてもよい。接合4の内面は角のない滑らかな面になっていることが好ましい。角のない滑らかな面は、臓器全体を均一な押圧で結紮することに寄与し、かつ、臓器表面を傷つける恐れを低減できる。また、第1バンド部3の長軸方向と第2バンド部2の長軸方向とが直角より小さい角度で交わるように接合されていることが、例えば、膵臓などの断面が扁平な形の臓器を縛るのに好適である。
【0022】
第1ロッキング部7は、第2バンド部2の遠位端に形成されている。第1ロッキング部7のケーシングは生体内分解吸収性ポリマーからなることが好ましい。第1ロッキング部7は、生体内分解吸収性ポリマーからなる第1ラチェット爪6を少なくとも有する。
第1ロッキング部7の近傍にベロ(tongue)部10を有する。図1の臓器断端処置具においてベロ部10は第1ロッキング部7の遠位端を挟んで左端および右端までの内面側の縁に扇状若しくはライオンのたてがみ状に広がるように設置されている(図2図4)。図11の臓器断端処置具においてベロ部10は第1ロッキング部7の遠位端の内面側の縁に取付基部を介して遠位側に向かって広がるように設置されている(図11図13)。また、ベロ部は第1ロッキング部の近位側の内面側の縁または第2バンド部の遠位端側の内面にベロ部の主面が第1ロッキング部の内面と並行して遠位側に向かって広がるように設置されていてもよい(図16図18)。ベロ部10は、ベロ部10の内面がバンド部2の遠位端の内面に角なく滑らかに繋がるように設けられている。ベロ部10によって、第1ロッキング部7に第1バンド部3を挿入し、締め付けた時、臓器組織の挟み込みを防止することができる。ベロ部10は生体内分解吸収性ポリマーからなることが好ましい。
【0023】
図2に示すように、第1バンド部3の外面にはラチェット歯5が少なくとも一つ形成されている。ラチェットは動作方向を一方向に制限するために用いられる機構の一つである。ラチェット歯5は第1ロッキング部7に在る第1ラチェット爪6と噛み合わせることができる。ラチェット歯と第1ラチェット爪とを噛み合わせることによって扁平な輪を成し、その輪にて、臓器を緊縛して、臓器断端に開口する管または腔を結紮することができ、その際の張力調整も容易である(図5、6参照)。
【0024】
図1に示す臓器断端処置具1においては、第1ラチェット爪6を第1ロッキング部7のケーシングに回動可能に軸止めしているが、第2ラチェット爪のように第1ラチェット爪6を回動不能に固定してもよい。
第1ラチェット爪6を回動可能に軸止めした場合、図1または図6中の実線の状態においては、ラチェット歯5に第1ラチェット爪6を噛み合わせることができ、これにより第1バンド部3と第2バンド部2とで形成される輪が縮まる方向にのみ動作するようにでき、図1または図6中の破線の状態においては、ラチェット歯5を第1ラチェット爪6との噛み合いから解放し、これにより第1バンド部3と第2バンド部2との締まりを緩めることができる。
【0025】
第1バンド部および第2バンド部は、その少なくとも一方の内面に、長さ方向に沿って形成された少なくとも1つの凸条を有する。図3に示すように、第1バンド部および第2バンド部の内面においては、2つの凸条13が長さ方向に切れ目なく形成されている。この凸条13は図8のように臓器を縛ったときに摩擦力が高まり、抜け防止の効果に寄与する。凸条は、所定範囲において、長手方向に切れ目なく一本または平行に複数本を形成させたものであってもよいし、長手方向に間隔を開けて短く複数本を直列に形成させたもの(短い凸条の列)であってもよい。凸条13は図9に示すように、第1バンド部3および第2バンド部2の縁に内面に向かって出っ張るように設けてもよい。凸条はバンドの横ずれを防止できる。図においては凸条を示しているが、横ずれを防ぐことができるものであれば、その形状に制限はなく、凸条は、例えば、突起列、凹条、凹み列などで置き換えてもよい。
【0026】
図1に示すように、本発明の臓器断端処置具1は、生体内分解吸収性ポリマーからなる第2ラチェット爪8を有する第2ロッキング部9を必要に応じてさらに有することができる。第2ラチェット爪8は第2ロッキング部9のケーシングに回動不能に固定されているので、ラチェット歯5を第2ラチェット爪8との噛み合いから解放することができない。手術後、腹腔内に収まった臓器断端処置具1が、ラチェットの緩みで臓器から外れることを防止できる。
【0027】
本発明の臓器断端処置具の別の形態は、ベロ部10および第2バンド部2の外面に凹条23が設けられており、さらにベロ部10にテラス部24が設けられている点で異なる(図11図15)以外は、図1に示す臓器断端処置具と同じである。
凹条23は、第1噛合部と第2噛合部とを噛み合わせたときに、第1バンド部の内面に設けられた滑り止めのための凸条が嵌るように配置されている。これにより、噛み合わせが安定する。また、少なくとも左右1組のテラス部24の間に第1バンド部が嵌り、横ずれを抑制できる。なお、凸条と凹条とは相互に嵌合するものであれば、設ける場所が逆になっていたり、実質的に同じ効果を奏する形状等の組み合わせに置き換えになっていたり、複数の凸条を1本の幅広い凹条に嵌まるようになっていたりすることが可能である。
【0028】
本発明の臓器断端処置具の別の形態は、第1バンド部または第2バンド部に、長さ方向に沿って開口が少なくとも1列に並ぶホール(ハトメ穴、eyelet holeとも呼ぶことがある。)25が設けられている点、ベロ部10が図10に示すようなものに置き換えられている点で異なる(図16)以外は、図1に示す臓器断端処置具と同じである。ホール25は、例えば、図20および図21に示すように、長さ方向に隣接する二つの開口が連通してU字状の腔(cavity)を成している。ホール25に糸を通して、消化管や組織などを消化器断端に縫い付けたり、被覆部材20を支えたりすることができる。図16に示す臓器断端処置具においては、ラチェット歯5がホール25を設けるために幅が狭くなっているが、噛み合わせの効果は実質的に変わらないことが理解できる。
【0029】
ホール25はバンド部を外面から内面に貫通する腔であってもよいし、図22~24に示すように幅方向に隣接する二つの開口を連通してU字状の腔を成していてもよいし、図25~28に示すようにバンド部を外面から側面に貫通する腔を成していてもよい。図27および図28では、外面から一方の側面のみに腔が貫通しているが、外面から両側面に交互に貫通する腔に置き換えてもよいし、外面から両側面に貫通する腔に置き換えてもよい。また、図23および24では、貫通する腔はバンド部の長手方向に対して略直角に設置しているが、バンド部の長手方向に対して斜めに設置してもよい。
【0030】
本発明の臓器断端処置具は、生体内分解吸収性ポリマーからなる被覆部材20をさらに有することができる。図10は被覆部材の一例を示す図である。バンド部による結紮によってほぼ膵液の漏れは防止できるが、膵液の漏れ防止をより確実にするために、被覆部材20を図9に示すように断端に圧着することができる。図10に示す被覆部材20では、膵臓断端の形状と同様の形をした扁平円状のシートとそのシートの縁から立ち上がる4枚のバンク部とを有する。4枚のバンク部は図中左に向かって径が絞られるように傾斜している。さらに、ガーターバンド21が設置されている。ガーターバンド21は、例えば、図9に示すように第1バンド部3および第2バンド部2と臓器との間で挟持して、被覆部材20が臓器から外れるのを防止する。ガーターバンド21の外面または内面に摩擦力を高めるために凹凸を設けてもよい。ガーターバンドは図に示す以外のものであってもよい。例えば、バンド部を通すことができる吊り輪を形成したガーターバンドでもよいし、バンド部に引掛けることができるフックなどの部分を有するガーターバンドでもよい。ガーターバンドは生体内分解吸収性ポリマーからなることが好ましい。
【0031】
被覆部材は図10に示す形態のものに限らない。例えば、図29に示す被覆部材20は、ガーターバンドの代わりに、外周に溝27が設けられている。溝27に糸、ベルトなどの線材を嵌め込み、被覆部材を断端に括り付けることができる。図30および31に示す被覆部材は、ガーターバンドの代わりに、外周に沿って開口が並ぶホールが設けられている。ホールはU字状に連通する腔が形成されている。図30に示す被覆部材は開口が外周に沿って1列に並んでおり、隣り合う開口二つを一組としてそれらが連通する腔を成している。図31に示す被覆部材は開口が外周に沿って2列並んでおり、各列の開口一つずつを一組としてそれらが連通する腔を成している。図31に示す被覆部材におけるホール28は、連通する腔が外周の方向に対して略直角となるように設置しているが、外周の方向に対して斜めになるように設置してもよい。被覆部材に設けたホール28とバンド部に設けたハトメ穴25とに糸などを通して、被覆部材とバンド部とを繋ぎ止めることができる。
【0032】
被覆部材は、手術前に切除によって形成される膵臓断端の大きさ、形状をCT、MRI、腹部超音波検査などの画像検査で推算しておき、その推算された大きさ、形状に合わせて、事前に準備してもよいし、in situ forming で作成してもよい。in situ formingは、例えば、生体内分解吸収性ポリマーを生体適合性の有機溶媒に溶かして得られるコーティング材を、臓器断端に塗布し、有機溶媒を除去することによって、または、生体内分解吸収性ポリマーを構成するモノマーまたはプレポリマーと光重合開始剤や光酸発生剤などの合成反応をひき起こさせる物質とを含むコーティング材を、臓器断端に塗布し、光を照射することによって、行うことができる。
【0033】
本発明の臓器断端処置具は、図に示す実施形態に限られず、前記の各部材の形状、大きさ、色、材質を変更したもの、またはバンド部、ロッキング部などの前記部材以外の周知または慣用の部品を追加したものも本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0034】
1:ダイレータ
2:第2バンド部
3:第1バンド部
4:接合
5:ラチェット歯
6:第1ラチェット爪
7:第1ロッキング部
8:第2ラチェット爪
9:第2ロッキング部
10:ベロ部
11:膵断端
12:膵管開口
13:凸条
14:総胆管
15:十二指腸
16:総肝管
17:空腸
18:膵臓
19:胆嚢
20:被覆部材
21:ガーターバンド
22:バンク部
23:凹条
24:テラス部
25:ハトメ穴
26:取付基部
27:溝
28:ホール
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