(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】潜在捲縮性を有する複合繊維
(51)【国際特許分類】
D01F 8/14 20060101AFI20230331BHJP
D04H 1/435 20120101ALI20230331BHJP
D04H 1/4382 20120101ALI20230331BHJP
【FI】
D01F8/14 B
D04H1/435
D04H1/4382
(21)【出願番号】P 2018218414
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2018153564
(32)【優先日】2018-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 知樹
(72)【発明者】
【氏名】冨森 康裕
(72)【発明者】
【氏名】石原 慶
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-216999(JP,A)
【文献】特開平05-117916(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00 - 8/18
D04H 1/00 - 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘度の異なる2種のポリエステルがサイドバイサイド型に接合され、粘度の異なる2種のポリエステルは、いずれも白色顔料を含有し、
低粘度ポリエステルにおける白色顔料の含有比率(A)と高粘度ポリエステルにおける白色顔料の含有比率(B)が、(A):(B)=1:10~150であり、
低粘度ポリエステルに含まれる白色顔料と高粘度ポリエステルに含まれる白色顔料との合計含有量が、繊維全体に対して0.1~3質量%であり、
低粘度ポリエステルは、有色顔料を含有していることを特徴とする潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項2】
低粘度ポリエステルにおける有色顔料の含有比率が0.05~2.0質量%であることを特徴とする請求項1記載の潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項3】
低粘度ポリエステルにおける白色顔料の含有比率が、0.02~0.05質量%であることを特徴とする請求項1または2記載の潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項4】
低粘度ポリエステルの露出率が50%を超えることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載の潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項5】
高粘度ポリエステルにおける白色顔料の含有比率が、0.3~5質量%であることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項記載の潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項6】
低粘度ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートまたはこれを主体とするポリエステルであり、高粘度ポリエステルが、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、イソフタル酸とビスフェノールAのエチレンオキシド付加物(BAEO)を共重合してなる共重合ポリエステルであることを特徴とする請求項1~
5いずれか1項記載の潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項7】
白色顔料が酸化チタンであることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項記載の潜在捲縮性を有する複合繊維。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の潜在捲縮性を有する複合繊維を含むことを特徴とする不織布。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた潜在捲縮性を有し、かつ顔料を含有する複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリエステル繊維は衣料用、産業資材用等種々の用途に使用されているが、中でも立体捲縮を有するポリエステル繊維は、その伸縮性を生かし、貼付剤やサポーター等の医療衛生材の基布に適した不織布の構成繊維として広く用いられている。このような伸縮性に富んだ立体捲縮を有するポリエステル繊維として、熱収縮特性の異なるポリマーをサイドバイサイドまたは偏心芯鞘構造に複合した潜在捲縮性能を有する複合繊維が数多く提案されている。例えば、特許文献1、2には、5-ナトリウムスルホイソフタル酸成分を共重合したポリエチレンテレフタレート系共重合ポリエステルとポリエチレンテレフタレートとの複合繊維が開示されている。また、特許文献3にはイソフタル酸とビスフェノールAのエチレンオキシド付加体(BAEO)とを共重合したポリエステルとポリエチレンテレフタレートとの複合繊維が開示されている。
【0003】
特許文献1~3に開示される潜在捲縮性複合繊維はいずれも白色繊維であり、着色された複合繊維が要求される場合、得られた繊維に色付けのための染色加工が必要になる。染色工程を要する場合、コストアップや工程が長くなることによる納期の長期化、また、染色工程にて発生する排水による環境汚染などの問題を有している。これらの問題を解決する手段として有色顔料を含有させる原着繊維が広く用いられている。例えば、特許文献4、5、6には、特定の共重合ポリエステルとポリエチレンテレフタレートからなるサイドバイサイド型潜在捲縮性複合繊維であって、ポリエステルに有色顔料を含有させた原着繊維およびこの繊維を用いた不織布が開示されている。有色顔料としては、コストが安く扱いやすいことから無機系顔料が用いられることが多いが、発色性が求められる用途においては無機系顔料の量を増やす必要があり、紡糸及び延伸工程の糸切れや毛羽が発生しやすく、また、紡糸及び延伸工程、不織布加工工程において、繊維表面が摩擦抵抗を受けた際に一部の無機系顔料が脱落するという問題があった。顔料が脱落すると機械設備の汚染が生じるため、設備を停止して汚染除去を頻繁に行う必要があり、また、機械設備に脱落、堆積した顔料が原料繊維表面に付着して欠点になるという問題が生じる恐れがあった。そのため、操業面、品質面に問題なく発色性に優れる繊維、不織布を得ることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平4-5769号公報
【文献】特公平3-10737号公報
【文献】特開平7-54216号公報
【文献】特許第2815410号公報
【文献】特開2003-89928号公報(請求項2、実施例11~16)
【文献】特許第5959906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記のような問題点を解決し、染色加工を必要としないで使用することができる複合繊維であって、優れた品質と発色性を有する繊維製品を得ることができる潜在捲縮能を有する複合繊維を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、有色顔料を含む原着複合繊維であっても、ポリエステル繊維に含有させる白色顔料の量を特定の範囲とすることにより、操業性を悪化させることなく、機械設備の汚染や不織布の欠点が少なく、優れた発色性を有する不織布を得ることが可能な原着複合繊維を得ることを見出し、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、粘度の異なる2種のポリエステルがサイドバイサイド型に接合され、
粘度の異なる2種のポリエステルは、いずれも白色顔料を含有し、
低粘度ポリエステルにおける白色顔料の含有比率(A)と高粘度ポリエステルにおける白色顔料の含有比率(B)が、(A):(B)=1:10~150であり、
低粘度ポリエステルに含まれる白色顔料と高粘度ポリエステルに含まれる白色顔料との合計含有量が、繊維全体に対して0.1~3質量%であり、
低粘度ポリエステルは、有色顔料を含有していることを特徴とする潜在捲縮性を有する複合繊維を要旨とするものである。
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明の潜在捲縮性を有する複合繊維は、有色顔料を含み着色されてなる原着繊維であり、粘度の異なる2種のポリエステルがサイドバイサイド型に接合して複合されている。その断面形状は、円形断面であっても、偏平や六葉、三角等の異形であっても、あるいは中空部を有するものであってもよい。
【0010】
本発明の複合繊維は、単繊維繊度が2.6dtex以下がよい。2.6dtex以下とすることにより、この複合繊維からなる繊維製品は、柔軟性に優れたものとなる。なお、単繊維繊度の下限は、0.4dtex程度がよい。0.4dtexを下回ると、紡糸操業性が悪化し、均質な繊維を得にくくなるためである。
【0011】
本発明の複合繊維を構成する2種のポリエステルは、粘度が異なるものであるが、その極限粘度差は、0.03~0.20とすることが好ましい。粘度差が0.03より小さい場合は、捲縮が発現しにくくなるため好ましくない。一方、極限粘度差が0.20を超えると、紡糸口金直下の糸条の曲がりが大きくなり、紡糸が不安定になるため好ましくない。
【0012】
繊維物性及び紡糸安定性を考慮すると、高粘度ポリエステルの極限粘度は0.60~0.85、低粘度ポリエステルの極限粘度は0.50~0.75の範囲とすることが好ましい。それぞれのポリエステルの極限粘度が低すぎると、繊維の強度が不十分となるため好ましくない。また、ぞれぞれのポリエステルの極限粘度が高すぎると、紡糸口金直下の糸条の冷却固化が早くなり紡糸が不安定になるため好ましくない。
【0013】
2種のポリエステルの組合せとしては、高粘度ポリエチレンテレフタレート/低粘度ポリエチレンテレフタレート等のホモポリエステル同士の組合せであっても、高粘度共重合ポリエステル/低粘度共重合ポリエステル等の共重合ポリエステル同士の組合せであっても、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエステル等のホモポリエステルと共重合ポリエステルの組合せであってもよい。
【0014】
上記した組合せの低粘度ポリエステルは、ホモポリマーであるポリエチレンテレフタレート(PET)が好ましく用いられるが、本発明の効果を損なわない範囲であれば、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸などのジカルボン酸成分、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール成分を共重合したものでもよい。また、安定剤、蛍光剤、強化剤、難燃剤、酸化防止剤、分散剤等の改質剤が添加されたものを用いてもよい。
【0015】
高粘度ポリエステルは、エチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位とし、イソフタル酸を0~9mol%、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加物(BAEO)を5~11mol%共重合し、さらにイソフタル酸とBAEOの合計量が10~18mol%とした共重合ポリエステルであることが好ましい。イソフタル酸の共重合割合が9mol%を超えるとポリマーの融点が低下し、得られる繊維の強度が低下する傾向となるため好ましくない。また、BAEOの共重合割合が5mol%未満であると、得られる複合繊維は十分な潜在捲縮性能を有しにくく、このような複合繊維を不織布とした場合、伸長率や伸長回復率が小さく、伸縮性能が劣るものとなるため好ましくない。一方、BAEOの共重合割合が11mol%を超えるとポリマーの融点が低下し、得られる繊維の強度が低下する傾向となるため好ましくない。BAEOはビスフェノールA1molに対して、エチレンオキシドを2~10mol付加したものが好ましく、さらには2~5mol付加したものが好ましい。また、イソフタル酸とBAEOの合計量が10mol%未満であると、複合繊維は潜在捲縮性能が不十分となりやすく、18mol%を超えるとポリマーの融点が低下し、得られる繊維の強度が低下する傾向となるため好ましくない。
【0016】
本発明の複合繊維は、所望の色を付与するために有色顔料を含有する。本発明において有色顔料とは、白色顔料以外の色を呈する顔料をいう。サイドバイサイド型に接合した場合、繊維断面方向において、低粘度ポリエステルが高粘度ポリエステルに回り込みやすく、繊維外周を占めやすいため、発色性の観点から、低粘度ポリステルが有色顔料を含有する。
【0017】
有色顔料は、低粘度ポリエステル中に0.05~2.0質量%含まれていることが好ましく、さらには0.1~1.5質量%含まれていることが好ましい。含有量が0.05質量%未満であると、所望する十分な発色が得られにくくなる。一方、含有量が2.0質量%を超えると、紡糸及び延伸工程の糸切れや毛羽が発生しやすく、また、紡糸及び延伸工程、不織布加工工程において、繊維表面が摩擦抵抗を受けた際に一部の無機系顔料が脱落しやすくなるため、好ましくない。
【0018】
有色顔料としては、酸化鉄、群青等の無機系顔料、シアニン系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、カーボンブラック系等の有機系顔料が挙げられる。目的とする発色を得るためには、これらの有色顔料を適宜選定し、単独またはブレンドして使用することができる。貼付材等の医療・衛生材料用不織布に用いる場合は、皮膚への刺激が少ない無機系顔料を使用することが好ましく、また、屋外等の太陽光に晒される用途に適用する場合は、耐光性に優れる無機系顔料を使用することが好ましいが、顔料の種類については限定されるものではない。
【0019】
有色顔料の添加方法については、ポリエステルの重合段階あるいは複合繊維の製糸段階のいずれかの過程で添加すればよく、特に限定はしないが、設備の汚染、制御等取扱い性から製糸段階に添加するのが好ましい。添加方法としては、マスターバッチ方式、リキッドカラー方式等が挙げられるが、溶融紡糸時の安定性、有色顔料の取扱い性等より、マスターバッチ方式が好ましい。なお、マスターバッチ方式を採用する場合、原料ペレットの段階で計量混合して溶融紡糸する方法、別々に溶融させたポリマーを計量混合して紡糸する方法等が挙げられるが、いずれの方法で行ってもよい。
【0020】
本発明の繊維は、原着された色の発色性を良くする観点から、有色顔料を含む低粘度ポリエステルの露出率が50%を超えることが好ましく、より好ましくは露出率が55%以上である。なお、低粘度ポリエステルの露出率が高すぎると、紡糸口金直下の糸条の曲がりが大きくなり、紡糸が不安定になるため、露出率の上限は80%がよい。ここで、低粘度ポリエステルの露出率とは、繊維横断面の外周(長さ)において、繊維横断面の全外周に対して、低粘度ポリエステルが占める外周(長さ)の比率をいう。なお、低粘度ポリエステルの外周(長さ)とは、当然のことながら高粘度ポリエステルとの接合面の長さは除くものであり、繊維横断面における、低粘度ポリエステルが露出している部分の長さである。低粘度ポリエステルの露出率が50%を超えることが好ましいことから、低粘度ポリエステルと高粘度ポリエステルとの複合比(質量比)は、低粘度ポリエステルが、50質量%以上であることが好ましく、紡糸性等を考慮すると、低粘度ポリエステル/高粘度ポリエステル=50/50~70/40が好ましい。なお、本発明においては、少なくとも低粘度ポリエステルに有色顔料を含ませることにより、効率的かつ効果的に発色性を向上させることができるが、高粘度ポリエステルにも有色顔料が含まれてもよい。
【0021】
本発明において、2種のポリエステルは、いずれも白色顔料を含んでいる。本発明の複合繊維を構成するポリエステルのいずれもが、白色顔料を含むことにより、繊維の透明感がなくなり、隠蔽性が増し、一般衣料や生活資材、医療・衛生材等の各種用途に幅広く好適に用いることができ、さらには、繊維に重量感が備わるとともに、繊維表面に白色顔料である微粒子が部分的に露出することにもなり、表面摩擦抵抗を下げる効果を発揮し、これらの相乗効果により、この複合繊維を用いて不織布としたときに良好なドレープ感や高級感を発現することも可能となる。これに対して、複合繊維を構成するポリエステルが白色顔料を含まない場合、繊維表面の微粒子の露出がなくなり、表面摩擦抵抗が高くなり、紡糸や延伸工程での糸切れや毛羽が発生しやすくなるため、好ましくない。
【0022】
本発明で使用する白色顔料は、成形、焼成等の工程を経て得られる無機材料を微粒化したものを用いるとよく、酸化チタン、酸化珪素、酸化亜鉛等の無機酸化物微粒子が代表的なものとして挙げられる。なかでも、ポリエステルの溶融時に凝集し難いものが、操業上及び品位上適していることから、酸化チタンを用いることが好ましい。
【0023】
白色顔料は、平均粒径が0.2~2μmの範囲にあるものを用いるとよい。なお、平均粒径とは、セラミック微粒子をエチレングリコール溶液に微分散させた後、島津製作所社製のレーザー回折式粒度分布測定装置SALD―2000Jを用い、体積分布基準換算、屈折率1.70―0.20iの条件で測定するものである。平均粒径がこの範囲にある白色顔料が繊維表面に部分的に露出することにより、繊維表面の滑りがよくなる。平均粒径がこの範囲より小さいと繊維表面を改質する効果が乏しい。一方、この範囲より大きいと、紡糸や延伸工程での糸切れや毛羽が発生しやすくなるため好ましくない。
【0024】
白色顔料の密度は3.5g/cm3以上のものを用いるとよい。密度が3.5g/cm3より小さいと、繊維の密度を増す効果が乏しく、不織布としたときに良好なドレープ性や高級感を発現しにくい傾向となり、一方、密度を増すために多量に含有させ過ぎた場合は、紡糸時に糸切れが発生したり、延伸、加工時に毛羽が発生する等、操業性に問題があり、好ましくない。白色顔料の密度の上限は、特に限定されるものではないが、凝集によるトラブルや操業性を考慮すると、5g/cm3程度がよい。
【0025】
白色顔料の添加方法については特に限定されるものではなく、ポリエステルの重合段階あるいは複合繊維の製糸段階のいずれかの過程で添加すればよく、特に限定はしないが、凝集を防ぎ、より均一に分散させることを考慮すると、重合時に添加することが好ましい。
【0026】
本発明の複合繊維を構成するポリエステルのいずれもが、白色顔料を含有する。しかしながら、白色顔料を多く含むと、その影響により有色顔料の発色性が損なわれる恐れがある。そこで、本発明では、有色顔料を含むことを必須とし、繊維表面に露出率が高く、良好な発色機能を担う低粘度ポリエステルには、白色顔料の含有量を少量とし、少量であるが白色顔料を含有することによって、表面摩擦抵抗を下げ、製糸工程の際に切断を抑制する効果も奏させる。一方、有色顔料を含むことを必須とせず、繊維表面の外周を占めにくい高粘度ポリエステルには、白色顔料をより多く含有させて、製糸性の向上を担わせる。
【0027】
本発明は、白色顔料の量を、繊維全体に対して0.1~3質量%含み、かつ、発色性と製糸性との両者を効果的に向上させるために、低粘度ポリエステルにおける白色顔料の含有比率(A)と高粘度ポリエステルにおける白色顔料の含有比率(B)が、(A):(B)=1:10~150を満たす。好ましくは(A):(B)=1:15~130とする。(B)/(A)が10未満の場合、有色顔料を含む低粘度ポリエステルに含まれる白色顔料の割合が大きくなることから、原着繊維の発色性に劣るものとなる。一方、(B)/(A)が150を超えると、繊維全体に含まれる白色顔料の量にもよるが、製糸性に劣るものとなり、不織布製品の欠点が増える場合がある。
【0028】
繊維全体における白色顔料の含有量(低粘度ポリエステルに含まれる白色顔料と高粘度ポリエステルに含まれる白色顔料の合計含有量)は0.1~3質量%とする。より好ましくは0.3~2質量%、さらに好ましくは0.3~1.5質量%である。0.1%未満の場合、繊維表面の微粒子の露出がなくなり、表面摩擦抵抗が高くなり、紡糸や延伸工程での糸切れや毛羽が発生しやすくなるほか、本発明の繊維を用いた製品の隠蔽性が低くなり用途が限定される点においても好ましくない。一方、3質量%を超えると、繊維全体に多量の白色顔料が含まれることとなり、紡糸や延伸工程での糸切れや毛羽が発生しやすくなり、不織布製品の欠点が増えるほか、本発明の繊維を用いた製品の発色性が低くなる点においても好ましくない。
【0029】
また、高粘度ポリエステルの総質量に対する白色顔料の含有量が0.3~5質量%であることが好ましく、より好ましくは1~3質量%である。含有量が0.3質量%未満であると、白色顔料を含有させる効果を奏しにくく、含有量が5質量%を超えると、紡糸、延伸時に糸切れや毛羽等が発生しやすくなり、不織布製品の欠点が増えるため好ましくない。
【0030】
一方、低粘度ポリエステルの総質量に対する白色顔料の含有量は、前述した繊維全体における白色顔料の割合および(A):(B)=1:10~150の範囲内となるように設定するが、発色性と製糸性とを考慮すると、0.02~0.05質量%の範囲とすることが好ましい。また、有色顔料を含有する低粘度ポリエステルにおける白色顔料の顔料が、0.02~0.05質量%の範囲とすることにより、有色顔料が白色顔料とともに脱落する現象が生じにくく、品位の高い原着複合繊維およびこの繊維からなる不織布を得ることができる。
【0031】
次に、本発明の複合繊維の製造方法について説明する。まず、所定の白色顔料あるいは有色顔料を含んでなる高粘度ポリエステルおよび低粘度ポリエステルを準備し、通常の複合紡糸装置により複合紡糸し、得られた未延伸糸に延伸、熱処理を施す。本発明においては、未延伸糸の繊度は特に限定されるものではなく、長繊維を得る場合には、30~200dtexの糸条とし、紡績糸用や不織布用の短繊維を得る場合には、50~100万デニールの糸束に集束してから延伸を行うことが好ましい。このとき、熱処理時の条件としては、潜在捲縮を後工程の熱処理で顕在化させるため、高温で熱処理を行うことは好ましくなく、100~160℃で熱処理することが好ましい。また、長繊維を得る場合は、延伸、熱処理後巻き取り機で巻き取る。紡績糸用や不織布用の短繊維を得る場合には、延伸、熱処理後、8~18個/25mm程度の機械捲縮を付与し、仕上げ油剤を付与した後、糸条束を切断して短繊維とする。
【0032】
本発明の複合繊維は、熱処理によって潜在捲縮性能を顕在化してスパイラル状の立体捲縮を発現する。潜在捲縮性能を良好に顕在化させるためには、弛緩状態で熱処理することが好ましい。熱処理条件としては、例えば、160~190℃に設定した熱風乾燥機中にて30秒~2分間程度処理することにより良好に立体捲縮を発現させることができる。
【0033】
本発明の不織布は、上記した本発明の複合繊維により構成されるものであり、本発明の複合繊維が有する特徴が活かされ、伸縮性、嵩高性により優れた不織布である。本発明の不織布は、本発明の複合繊維のみからなるものとすることが好ましいが、他の繊維を含有してもよく、この場合は、本発明の複合繊維の割合を70質量%以上とすることが好ましい。
【0034】
本発明の不織布は、構成繊維同士が三次元的に交絡することにより不織布としての形状を保持しているものが好ましい。この構成繊維同士が三次元的に交絡してなる不織布は、多数の繊維が堆積してなる不織ウエブに高圧液体流を噴射することによって構成繊維同士を三次元的に交絡させることにより得られる。この構成繊維同士の三次元的な交絡により、形態保持性と実用上十分な強力そして柔軟性が不織布に具備される。不織布の目付は、用途に応じて適宜選択すればよいが、20~200g/m2程度がよい。
【0035】
次に、本発明の不織布の製造方法の一例を挙げる。不織布の構成繊維となる繊維(本発明の複合繊維)を、カード機等を用いてカーディングしてカードウエブを作製し、得られたカードウエブに高圧液体流処理を施して構成繊維同士を三次元的に交絡させて一体化し、不織布を得る。本発明の複合繊維の潜在捲縮性能を発現させるには、高圧液体流処理により不織布に含まれる液体を除去するための乾燥工程において、乾燥熱処理を施し、液体除去と同時に潜在捲縮性能を発現させてスパイラル状の立体捲縮を顕在化させるとよい。
【0036】
本発明の複合繊維は、優れた潜在捲縮能を有しており、製糸性よく得ることができ、品質、発色性に優れた不織布を得ることが可能である。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、優れた潜在捲縮性を発揮し、品位の高い発色性に優れた繊維製品を得ることができる。
【実施例】
【0038】
(1)極限粘度〔η〕
フェノールとテトラクロロエタンとの等重量混合物を溶媒とし、20℃で測定した。
(2)低粘度ポリエステルの露出率(%)
走査型電子顕微鏡にて得られた繊維の横断面を観察し、繊維横断面の外周及び低粘度ポリエステルの外周の長さ(繊維横断面において低粘度ポリエステルが露出している部分の長さ)を測定して、下記式より算出した。
低粘度ポリエステルの露出率(%)=(低粘度ポリエステルの外周/繊維横断面の外周)×100
(3)製糸性
孔数1038孔の丸断面複合紡糸ノズルを用い、16錘で7日間紡糸し、1日当たりの糸切れ回数が5回以下を合格(○)とし、糸切れ回数が5回を越えるものを不合格(×)とした。
(4)発色性
得られた複合繊維を用いて作成した目付80g/m2の不織布の外観について、10人のパネラーによる発色性の官能評価を行った。10段階で評価(10を最も優れているもの、1を最も劣るものとする)し、10人の評価の平均値を求め、以下の4段階で評価した。◎と〇を合格とした。
◎ 発色性が非常に良好:平均値が8点以上
○ 発色性が良好:平均値が6点~8点未満
△ 発色性がやや劣る:平均値が5点~6点未満
× 発色性が劣る:平均値が5点未満
(5)隠蔽性
得られた複合繊維を用いて作成した目付80g/m2の不織布の下に黒色の文字をプリントした紙を置き、見た目より10人のパネラーによる隠蔽性の官能評価を行った。10段階で評価(10を最も優れているもの、1を最も劣るものとする)し、10人の評価の平均値を求め、以下の4段階で評価した。◎と〇を合格とした。
◎ 隠蔽性が非常に良好:平均値が8点以上
○ 隠蔽性が良好:平均値が6点~8点未満
△ 隠蔽性がやや劣る:平均値が5点~6点未満
× 隠蔽性が劣る:平均値が5点未満
(6)風合い
得られた複合繊維を用いて作成した目付80g/m2の不織布について、触感により、10人のパネラーによる柔らかさの官能評価を行った。10段階で評価(10を最も優れているもの、1を最も劣るものとする)し、10人の評価の平均値を求め、以下の4段階で評価した。◎と〇を合格とした。
◎ 風合いが非常に良好:平均値が8点以上
○ 風合いが良好:平均値が6点~8点未満
△ 風合いがやや劣る:平均値が5点~6点未満
× 風合いが劣る:平均値が5点未満
(7)不織布の品位
得られた複合繊維を用いて作成した目付80g/m2、幅2m、長さ3000mの不織布について、1mm2以上の、脱落した有色顔料に由来する有色欠点と、繊維膠着による欠点を目視で確認した。欠点数が5ケ/100m以下を合格(○)、5ケ/100mを超えるものを不合格(×)とした。
【0039】
実施例1
低粘度ポリエステルとして、白色顔料である密度3.9g/cm3、平均粒径0.7μmの二酸化チタン微粒子を重合時に添加し、二酸化チタン微粒子の含有量が0.02質量%である〔η〕0.69のポリエチレンテレフタレートを用い、そして、〔η〕0.74のポリエチレンテレフタレートをベースポリマーとし、酸化鉄(レッド、イエロー)、カーボンブラックを練り込んだマスターバッチを低粘度ポリエステル中の有色顔料濃度が0.3質量%となるように混合した。
【0040】
高粘度ポリエステルとして、エチレンテレフタレート単位を主たる繰り返し単位とし、イソフタル酸4mol%、BAEO7mol%共重合した共重合ポリエステルであって、白色顔料である密度3.9g/cm3、平均粒径0.7μmの二酸化チタン微粒子を2.2質量%含有する〔η〕0.78の共重合ポリエステルを用いた。
【0041】
低粘度ポリエステルと高粘度ポリエステルとを、複合質量比を50:50として複合溶融紡糸装置を用いて、孔数1038孔の丸断面口金孔から、紡糸温度300℃、引取速度900m/分、吐出量386g/分でサイドバイサイド型複合繊維を紡糸した。得られた未延伸糸を、延伸温度73℃、延伸倍率3.60倍に延伸し、次いで140℃で緊張熱処理を行い、スタッフィングボックスで機械捲縮(捲縮数12個/25mm)を付与した後、仕上げ油剤を付与し、繊維長44mmに切断し、単糸繊度1.3dtexの複合繊維を得た。
【0042】
次いで、得られた複合繊維のみを用い、カード機にて開繊し、不織ウェブを作製した。この不織ウェブをネットコンベアー上に供給し、孔径0.12mm、孔間隔1.0mmの噴射孔を複数個有する噴射ノズルを3段階に設け、前段20kg/cm2、中段40kg/cm2、後段100kg/cm2の水圧で不織ウェブに高圧液体流処理を施しウェブの交絡化を行った。次いで180℃×1分の乾熱処理を行って潜在捲縮性能を顕在化させ、スパイラル状の立体捲縮を発現させ、目付80g/m2の不織布を得た。
【0043】
実施例2
単糸繊度を表1に示す値となるように紡糸時の吐出量を変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0044】
実施例3~4、比較例1~2
高粘度ポリエステルに含有させる白色顔料の量を表1に示す値となるよう変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0045】
実施例5、比較例3~4
低粘度ポリエステルに含有させる白色顔料の量を表1に示す値となるよう変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0046】
実施例6~7
低粘度ポリエステルに含有させる有色顔料の量を表1に示す値となるよう変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0047】
実施例8
高粘度ポリエステルとして、白色顔料である密度3.9g/cm3、平均粒径0.7μmの二酸化チタン微粒子を2.2質量%含有する〔η〕0.78のポリエチレンテレフタレートを用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0048】
実施例9
低粘度ポリエステルと高粘度ポリエステルの複合質量比を表1に示す値となるよう変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0049】
実施例10~11
高粘度ポリエステルの〔η〕を表1に示す値のものを用いたこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0050】
上記の実施例1~11、比較例1~4で得られた複合繊維の製糸性と、該複合繊維を不織布としたときの発色性、隠蔽性、風合い、品位の評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
表1から明らかなように、実施例1~11では製糸性よく複合繊維を得ることができ、得られた複合繊維から作製した不織布は、発色性、隠蔽性、風合い、品位に優れるものであった。
【0052】
比較例1は、高粘度ポリエステル中の白色顔料が少なく、低粘度ポリエステルに含まれる白色顔料の量(A)と高粘度ポリエステルに含まれる白色顔料の量(B)の比(B)/(A)が小さかったため、製糸性や隠蔽性に劣るものとなった。
比較例2は、高粘度ポリエステル中の白色顔料が多く、(B)/(A)が大きかったため、製糸性や発色性、不織布の品位に劣るものとなった。
比較例3は、低粘度ポリエステル中の白色顔料が少なく、(B)/(A)が大きかったため、製糸性や隠蔽性に劣るものとなった。
比較例4は、低粘度ポリエステル中の白色顔料が多く、(B)/(A)が小さかったため、製糸性や発色性、不織布の品位に劣るものとなった。