(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】新規化合物
(51)【国際特許分類】
C08B 37/16 20060101AFI20230331BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230331BHJP
C08F 26/02 20060101ALI20230331BHJP
C08F 8/10 20060101ALI20230331BHJP
C07C 231/02 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
C08B37/16
C09K3/00 103L
C08F26/02
C08F8/10
C07C231/02
(21)【出願番号】P 2019014965
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-11-02
(73)【特許権者】
【識別番号】511027699
【氏名又は名称】株式会社シクロケムバイオ
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 啓二
(72)【発明者】
【氏名】木村 円香
(72)【発明者】
【氏名】石田 善行
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-067702(JP,A)
【文献】特開2016-141618(JP,A)
【文献】米国特許第08492538(US,B1)
【文献】特表2007-527437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(2)で示される新規化合物。
【化2】
【請求項2】
モノクロロトリアジニル-β-シクロデキストリンと第3級アミンを組み合わせる工程を含む、請求項
1に記載の新規化合物の製造方法。
【請求項3】
第3級アミンとして4-メチルモルホリン、トリメチルアミン、トリエチルアミンから選ばれるいずれか一種以上を用いる請求項
2に記載の新規化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項
1の新規化合物を含んでなる縮合剤。
【請求項5】
請求項
4に記載の縮合剤を用いて縮合反応を行う工程を含む生成物の製造方法。
【請求項6】
請求項
4に記載の縮合剤を用いてアミン系ポリマーにホスト基及びゲスト基を付加させる工程を含むゲルの製造方法。
【請求項7】
ホスト基がモノクロロトリアジニル-β-シクロデキストリンである請求項
6に記載のゲルの製造方法。
【請求項8】
ゲスト基が下記式(3)で示される化合物である請求項
6又は
7に記載のゲルの製造方法。
【化3】
【請求項9】
ゲスト基がアダマンチル基である請求項
6~8のいずれかに記載のゲルの製造方法。
【請求項10】
アミン系ポリマーが下記式(4)で示される化合物である請求項
6~9のいずれかに記載のゲルの製造方法。
【化4】
【請求項11】
アミン系ポリマーがポリアリルアミン(登録商標)である請求項
6~10のいずれかに記載のゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規化合物に関する。さらに詳しくは、新規化合物を用いた縮合剤及び該縮合剤を用いた生成物や自己修復能を有するハイドロゲル(以下、単にゲルと示す場合がある)等の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から縮合剤を用いて縮合反応を行うことにより、様々な生成物を製造することが知られている。
例えば、特許文献1では2-クロロ-4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン(CDMT)と4-メチルモルホリン(NMM)を加えて得られる4級アンモニウム塩(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)メチルモルホリニウムクロライド(DMT-MM)を縮合剤として用い、ゲル状のポリ-γ-アミノ酸架橋体を生成物として得たことが記載されている。
【0003】
また、縮合剤等を用いて製造される自己修復能を有する高分子材料は、摩擦や衝撃等により穴や切断面が生じても再結合して元通りに戻る性質を有することから、接着剤、塗料やコーティングフィルム、ハードコート剤の代替、衝撃吸収材等として有用である。そのため、様々な高分子材料が開発されてきた。
このような高分子材料は、モノマーを重合させて製造されることも多く、例えば、特許文献2ではホスト基含有モノマー、ゲスト基含有モノマー及びアクリル系モノマーの水系溶媒溶液を製造し、このモノマーを共重合させることにより自己修復性及び形状記憶性を有するゲルを製造することが開示されている。また、特許文献3ではN-(1-アダマンチル)アクリルアミドを用い、アクリルアミド、過硫酸アンモニウム及びN,N,N,N-テトラメチルエチレンジアミンを加えて25℃で24時間重合を行うことで自己修復能を有するβ-CD/ゲスト基含有重合体を得たことが開示されている。
【0004】
DMT-MM等の公知の縮合剤は生分解性が低く、安全性等に問題があった。そこで、本発明者らは本発明において、従来の縮合剤と比べて安全性が高い新規の縮合剤等の提供を試みた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-141618号公報
【文献】国際公開第2013/162019号パンフレット
【文献】特開2018-16704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は縮合剤等に利用可能な新規化合物の提供を課題とする。さらに詳しくは、従来の縮合剤と比べて安全性が高い縮合剤として用い得る新規化合物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明の明細書において式(1)で示される新規化合物を見出した。そして、該新規化合物が縮合剤として働くことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)~(12)に示される新規化合物や縮合剤等に関する。
(1)下記式(1)で示される新規化合物。
【化1】
(2)下記式(2)で示される新規化合物。
【化2】
(3)モノクロロトリアジニル-β-シクロデキストリンと第3級アミンを組み合わせる工程を含む、上記(1)又は(2)に記載の新規化合物の製造方法。
(4)第3級アミンとして4-メチルモルホリン、トリメチルアミン、トリエチルアミンから選ばれるいずれか一種以上を用いる上記(3)に記載の新規化合物の製造方法。
(5)上記(1)又は(2)の新規化合物を含んでなる縮合剤。
(6)上記(5)に記載の縮合剤を用いて縮合反応を行う工程を含む生成物の製造方法。
(7)上記(5)に記載の縮合剤を用いてアミン系ポリマーにホスト基及びゲスト基を付加させる工程を含むゲルの製造方法。
(8)ホスト基がモノクロロトリアジニル-β-シクロデキストリンである上記(7)に記載のゲルの製造方法。
(9)ゲスト基が下記式(3)で示される化合物である上記(7)又は(8)に記載のゲルの製造方法。
【化3】
(10)ゲスト基がアダマンチル基である上記(7)~(9)のいずれかに記載のゲルの製造方法。
(11)アミン系ポリマーが下記式(4)で示される化合物である上記(7)~(10)のいずれかに記載のゲルの製造方法。
【化4】
(12)アミン系ポリマーがポリアリルアミン(登録商標)である上記(7)~(11)のいずれかに記載のゲルの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の新規化合物を用いることにより、公知の縮合剤と比べて安全性が高い新規の縮合剤の提供が可能となった。この縮合剤を用いることにより、自己修復能を有するゲルやその他のゲルを製造することも容易となった。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】切断面におけるハイドロゲルの自己修復能を示した図である(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の「下記式(1)で示される新規化合物」は、次の特徴を有する化合物のことをいう。
【0012】
【0013】
(式中、R1は炭素数1~4のアルキル基を示し、
R2及びR3はそれぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル基を示すか、又はR2及びR3は、それらが結合する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい第2級環状アミノ基を形成し、或いは、
R1、R2及びR3は、それらが結合する窒素原子と一緒になって置換されてもよい第3級環状アミノ基を形成し、
Y-は求核性がないか、又は求核性が低い対アニオンを示す。
X1はα-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン又はこれらの化学修飾体を示し、
X2はヒドロキシ基、置換されてもよいアルコキシ基又は置換されてもよいアリールオキシ基を示す。)
【0014】
ここで、R1は炭素数1~4のアルキル基であれば良く、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基等が挙げられる。R1は特にメチル基であることが好ましい。
【0015】
R1が炭素数1~4のアルキル基を示す場合、R2及びR3はそれぞれ独立して、置換されていてもよいアルキル基(例えば、メチル基又はエチル基等が挙げられ、特にメチル基であることが好ましい)を示すか、又はR2及びR3は、それらが結合する窒素原子と一緒になって置換されていてもよい第2級環状アミノ基(例えば、モルホリノ基、チオモルホリノ基、ピペリジル基又はピロリジル基等が挙げられ、特にモルホリノ基であることが好ましい)を形成する。
【0016】
また、別の態様として、R1、R2及びR3は、それらが結合する窒素原子と一緒になって置換されてもよい第3級環状アミノ基(例えば、キヌクリジニル基等が挙げられ、特にキヌクリジニル基であることが好ましい)を形成しても良い。
【0017】
Y-は求核性がないか、又は求核性が低い対アニオンであれば良く、例えば、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等が挙げられ、特に塩化物イオンであることが好ましい。
【0018】
X1はシクロデキストリン(CD)であれば良く、α-CD、β-CD、γ-CD又はこれらの化学修飾体であれば良い。このようなCDの化学修飾体として、例えば、ヒドロキシプロピル化-CD、メチル化-CD等が挙げられる。X1Xは特にβ-CDであることが好ましい。
【0019】
X2はヒドロキシ基、置換されてもよいアルコキシ基又は置換されてもよいアリールオキシ基であれば良い。
置換されてもよいアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ、特にメトキシ基であることが好ましい。
置換されてもよいアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基等が挙げられ、特にフェノキシ基であることが好ましい。
【0020】
本発明の「下記式(2)で示される新規化合物」は、次の特徴を有する化合物のことをいう。
【0021】
【0022】
(式中、X1はα-CD、β-CD、γ-CD又はこれらの化学修飾体を示す。)
なお、X1は式(1)で示される化合物と同様であれば良い。
【0023】
本発明の式(1)又は式(2)に示される新規化合物の製造方法は、モノクロロトリアジニル-β-シクロデキストリン(MCT-β-CD)と第3級アミンを組み合わせる工程を含む製造方法であれば良く、これらの新規化合物の製造に有用なその他の工程をさらに含む製造方法であっても良い。
ここで、「モノクロロトリアジニル-β-シクロデキストリン(MCT-β-CD)と第3級アミンを組み合わせる工程」とは例えば、MCTCDを含む水溶液に第3級アミンとして4-メチルモルホリン(NMM)を添加し、室温条件下で攪拌する工程等が挙げられる。
MCT-β-CDと第3級アミンは1:1~1:21の濃度で組み合わせることが好ましく、好ましくは1:1~1:5、特に1:5の濃度で組み合わせることが好ましい。
また、第3級アミンは本発明の式(1)又は式(2)に示される新規化合物が製造できるものであれば、従来知られているいずれのものも用いても良く、例えば、NMM、トリメチルアミン、トリエチルアミン等が挙げられる。これらの第3級アミンを一種以上用いればよく、二種以上組み合わせて用いても良い。
【0024】
本発明の「縮合剤」は、一種または二種以上の物質を組み合わせ、縮合反応を起こすことにより目的とする生成物を製造し得る剤のことをいう。このような本発明の「縮合剤」は式(1)又は式(2)に示される新規化合物を含んでなる縮合剤であれば良く、式(1)又は式(2)に示される新規化合物のみからなる縮合剤であっても良い。目的とする生成物は組み合わせる物質に応じて選択することができ、例えば、p-トルイル酸(TA)と2-フェニルエチルアミン(PA)を組み合わせて縮合反応を行った場合は、4-Methyl-N-(2-phenylethyl)benzamideが目的とする生成物として挙げられる。
【0025】
本発明の「ゲルの製造方法」は、本発明の縮合剤を用い、アミン系ポリマーにホスト基及びゲスト基を付加させる工程を含む方法であれば良く、自己修復能を有するゲルを製造するために有用なその他の工程をさらに含む方法であっても良い。
【0026】
本発明の「ゲルの製造方法」における、「アミン系ポリマーにホスト基及びゲスト基を付加させる工程」は、水及び/又は溶媒中でホスト基、ゲスト基、及びアミン系ポリマーを混合する工程であることが好ましい。
使用する「溶媒」は、本発明の自己修復能を有するゲルを製造できる溶媒であればいずれのものであっても良いが、アルコールであることが好ましく、特にエタノールであることが好ましい。
【0027】
本発明の「自己修復能」とは、摩擦や衝撃等により本発明の製造方法によって得られるゲルに穴や切断面が生じても再結合して元通りに戻る能力のことをいう。この「自己修復能」は、例えば、切断されたゲルの切断面を水で濡らしたり、切断片を水に浸漬したりした後に切断された箇所を密着させて室温で静置することで発揮することができる。
【0028】
本発明の製造方法における「ホスト基」とは、本発明の縮合剤に付加されているα-CD、β-CD、γ-CD又はこれらの化学修飾体のことをいう。
このような本発明の「ホスト基」はモノクロロトリアジニル-β-シクロデキストリンであることが特に好ましい。
【0029】
本発明の製造方法における「ゲスト基」とは、下記式(3)で示される化合物のことをいう。
【0030】
【0031】
(式中、X3はカルボン酸を示す。
R4はそれぞれ1個以上の置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基及び有機金属錯体から水素原子を1個除去することにより形成される1価の基からなる群より選択される1種を示す。)
【0032】
R4はそれぞれ1個以上の置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基及び有機金属錯体から水素原子を1個除去することにより形成される1価の基からなる群より選択される1種であれば良い。
このような本発明の「ゲスト基」はアダマンチル基であることが特に好ましい。本発明のハイドロゲルの製造にあたり、ゲスト基を有する化合物であればいずれのものも用いることができる。このような化合物として、例えば、アダマンタンカルボン酸(Ad-COOH)が挙げられる。Ad-COOHは従来知られているいずれものを用いてもよく、独自に調製したものや、市販のAd-COOH(東京化成工業株式会社)等を用いても良い。
【0033】
本発明の製造方法における「アミン系ポリマー」とは、下記式(4)で示される化合物のことをいう。
【0034】
【0035】
(式中、nは30~3000を示す。)
このような「アミン系ポリマー」として例えば、ポリアリルアミン(PAA)(登録商標)、ポリジアリルアミン、アリルアミンもしくはジアリルアミンで合成される共重合体、ポリエチレンイミン(PEI)、キトサン、ポリペプチド、又はたんぱく質などに代表される求核性を示すアミノ基を有する高分子等が挙げられる。
本発明の「アミン系ポリマー」はポリアリルアミン(PAA)(登録商標)であることが特に好ましい。ポリアリルアミン(PAA)(登録商標)は従来知られているいずれものを用いてもよく、独自に調製したものや、(PAA-15C(平均分子量15,000、ニットーボーメディカル株式会社)、PAA-HCL-10L(平均分子量150,000、ニットーボーメディカル株式会社)等の市販のものを用いても良い。PAA-HCL-10Lを用いる場合は、アルカリ性にして用いることが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下に実施例、比較例等によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明の実施例、比較例等で使用する試料を次に示した。以下、単に略語で示す場合がある。
<試料>
1)モノクロロトリアジニル-β-シクロデキストリン(MCTCD、株式会社シクロケムバイオ)
2)4-メチルモルホリン(NMM、東京化成工業株式会社)
3)アダマンタンカルボン酸(Ad-COOH、東京化成工業株式会社)
4)ポリアリルアミン(登録商標)(PAA-15C、平均分子量15,000、ニットーボーメディカル株式会社)
5)ベンジルアミン(BA、富士フィルム和光純薬株式会社)
6)2-フェニルエチルアミン(PA、富士フィルム和光純薬株式会社)
7)p-トルイル酸(TA、東京化成工業株式会社)
【0038】
〔実施例1〕
新規化合物(MCTCD-NMM)の製造方法
次の工程により、下記式(2)で示される新規化合物(MCTCD-NMM)を製造した。このMCTCD-MMは下記反応式(5)により生成される。
メスフラスコ(100mL)にMCTCD 44.28g(17.5mmol)を量り取り、水を加え全量を100mLとした。これを三角フラスコに移し、NMM 8.86g(87.6mmol)を添加し、遮光、室温条件下で46時間マグネチックスターラーにて攪拌する工程を経て下記式(2)で示される新規化合物(MCTCD-NMM)を得た。反応の進行は、UVスペクトルを測定することで確認した。
【0039】
【0040】
【0041】
〔実施例2〕
2-1.Ad-COOHとBAの縮合反応
1)実施例1と同様の方法により製造したMCTCD-NMM水溶液)10mL(内、MCT-β-CDを1.59mmol含む)と0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)10mLをバイアル瓶に量り取り、Ad-COOH 287mg(1.59mmol)を添加し、溶解させた。その後、室温で20時間撹拌した。この反応の進行は、UVスペクトル測定により確認した。
2)上記1)により撹拌して得た水溶液 5mLをバイアル瓶に量り取り、BAを少量ずつ加え合計で214mg(2.00mmol)添加し、室温で2時間撹拌した後さらに50℃で1時間攪拌することで下記の反応式(6)により生成される目的物Aを得た。この反応の進行は、TLCにより確認した。TLCの展開溶媒は、ヘキサン:酢酸エチル:メタノール=2.5:1:1(酢酸数滴)を用いた。この反応液に酢酸エチルを加え、分液ろうとに移し、飽和炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した。その後、酢酸エチル層をLC-MSに供したところ、目的物Aと同分子量のピークが確認できた。
【0042】
なお、比較としてMCTCD-NMM水溶液の替わりにMCTCD水溶液10mL(内、MCT-β-CDを1.59mmol含む)を用いて同様の反応を行った場合、目的物Aは得られなかった。従ってこの結果より、実施例1と同様の方法により製造した新規化合物(MCTCD-NMM)を縮合剤とするにより、Ad-COOHとBAの縮合反応が起こることが確認できた。
【0043】
【0044】
2-2.Ad-COOHとPAの縮合反応
実施例1と同様の方法により製造したMCTCD-NMM水溶液と0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)およびAd-COOHを用い、上記実施例2-1、1)と同様に水溶液を調製した。
この水溶液 5mLをバイアル瓶に量り取り、PAを少量ずつ加え合計で242mg(2.00mmol)添加し、室温で2時間撹拌した後さらに50℃で1時間攪拌することで下記の反応式(7)により生成される目的物Bを得た。この反応の進行は上記実施例2-1、1)と同様にTLCにより確認した。この反応液に酢酸エチルを加え、分液ろうとに移し、飽和炭酸ナトリウム水溶液で洗浄した。その後、酢酸エチル層をLC-MSに供した。その結果目的物Bと同分子量のピークが確認できた。
【0045】
なお、比較としてMCTCD-NMM水溶液の替わりにMCTCD水溶液10mL(内、MCT-β-CDを1.59mmol含む)を用いて同様の反応を行った場合、目的物Bは得られなかった。従ってこの結果より、実施例1と同様の方法により製造した新規化合物(MCTCD-NMM)を縮合剤とするにより、Ad-COOHとPAの縮合反応が起こることが確認できた。
【0046】
【0047】
2-3.TAとPAの縮合反応
1)実施例1と同様の方法により製造したMCTCD-NMM水溶液 100mL(内、MCT-β-CDを16.0mmol含む)と0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)100mLをバイアル瓶に量り取り、TA 2.172g(16.0mmol)を添加し、溶解させた。その後、室温で25時間撹拌した。この反応の進行は、TLCにより確認した。TLCの展開溶媒は、ヘキサン:酢酸エチル:メタノール=2.5:1:1(酢酸数滴)を用いた。
2)上記1)により撹拌して得た反応液にPA 9.664g(79.7mmol)を添加し、室温で18時間撹拌することで下記の反応式(8)により生成される4-Methyl-N-(2-phenylethyl)benzamideを得た。この反応の進行は、TLCにより確認した。TLCの展開溶媒は、ヘキサン:酢酸エチル:メタノール=2.5:1:1(酢酸数滴)を用いた。この反応液に酢酸エチルを加え、分液ろうとに移し、飽和炭酸ナトリウム水溶液、10%クエン酸水および水で洗浄し、ろ過後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後ろ過し、エバポレーターで酢酸エチルを揮発させ、粉末を得た。これをLC-MSに供したところ、4-Methyl-N-(2-phenylethyl)benzamideと同分子量のピークが確認できた。
【0048】
なお、比較としてMCTCD-NMM水溶液の替わりにMCTCD水溶液10mL(内、MCT-β-CDを1.59mmol含む)を用いて同様の反応を行った場合、4-Methyl-N-(2-phenylethyl)benzamideはほとんど得られなかった。従ってこの結果より、実施例1と同様の方法により製造した新規化合物(MCTCD-NMM)を縮合剤とするにより、TAとPAの縮合反応が起こることが確認できた。
【0049】
【0050】
2-4.TAとBAの縮合反応
1)実施例1と同様の方法により製造したMCTCD-NMM水溶液 80mL(内、MCT-β-CDを12.8mmol含む)と0.2Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH8.0)80mLをバイアル瓶に量り取り、TA 1.737g(12.8mmol)を添加し、溶解させた。その後、室温で25時間撹拌した。この反応の進行は、TLCにより確認した。TLCの展開溶媒は、ヘキサン:酢酸エチル:メタノール=2.5:1:1(酢酸数滴)を用いた。
2)上記1)により撹拌して得た反応液にBA 6.836g(63.8mmol)を添加し、室温で2時間撹拌することで下記の反応式(9)により生成されるN-Benzyl-4-methylbenzamideを得た。この反応の進行は、TLCにより確認した。TLCの展開溶媒は、ヘキサン:酢酸エチル:メタノール=2.5:1:1(酢酸数滴)を用いた。この反応液に酢酸エチルを加え、分液ろうとに移し、飽和炭酸ナトリウム水溶液、10%クエン酸水および水で洗浄し、ろ過後、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥させた。その後ろ過し、エバポレーターで酢酸エチルを揮発させ、粉末を得た。これをLC-MSに供したところ、N-Benzyl-4-methylbenzamideと同分子量のピークが確認できた。また、1H NMR測定からも反応生成物がN-Benzyl-4-methylbenzamideであることが確かめられた。
【0051】
なお、比較としてMCTCD-NMM水溶液の替わりにMCTCD水溶液10mL(内、MCT-β-CDを1.59mmol含む)を用いて同様の反応を行った場合、N-Benzyl-4-methylbenzamideは得られなかった。従ってこの結果より、実施例1と同様の方法により製造した新規化合物(MCTCD-NMM)を縮合剤とするにより、TAとBAの縮合反応が起こることが確認できた。
【0052】
【0053】
ネガティブコントロールとしてMCTCD水溶液を用いてTAとPAを反応させた場合もTAとBAを反応させた場合も目的物はほとんど生成されなかった。また、MCTCD-NMMの調製の際に添加したNMMと同濃度のNMM水溶液を用いた場合はTAとPAを反応させた場合もTAとBAを反応させた場合も目的物がまったく生成されなかった。
従ってこれらの結果より、カルボン酸とアミンの縮合反応を起こすには、実施例1と同様の方法により製造した新規化合物(MCTCD-NMM)を縮合剤とすることが重要であることが確認できた。
【0054】
〔実施例3〕
1.ハイドロゲルの製造方法
実施例1に記載の方法により製造した新規化合物を縮合剤としてハイドロゲルを製造した。
即ち、実施例1と同様の方法により製造した縮合剤(MCTCD-NMM)の水溶液(以下、MCTCD-NMM水溶液と示す場合がある)3.01mL(内、MCT-β-CDを0.37mmol含む)をビーカーに量り取り、Ad-COOH 329mg(1.83mmol)を添加し、溶解させた。これとは別のビーカーに、15% PAA-15C 2.5g(6.58mmol)を量り取り、そこに、MCTCD-NMMとAd-COOHの水溶液を滴下し、室温で一晩静置し、ハイドロゲルAを得た。
また、表1に記載のモノマー単位(mol%)の比率(MCT-β-CD:Ad-COOH:PAA)となるように、MCT-β-CD、Ad-COOH及びPAAを用いたハイドロゲルB~D及び比較品aも製造した。
【0055】
2.ゲル化の確認
上記1において製造した各ハイドロゲル及び比較品のゲル化については、室温で一晩静置して得た各ハイドロゲル又は比較品を含むビーカーを倒置させた際にサンプルが落下しなければゲル化している(○)、サンプルが落下すればゲル化していない(×)とした。
【0056】
3.自己修復能の確認
上記1において製造した各ハイドロゲル及び比較品を
図1に示すようにカッターで切断した後シャーレに入れ、水1mL程を添加して切断面を湿らせた。この切断面を再度接着させ、室温で静置した。その後任意の時間後に再度接着させた切断面の一方をピンセットで持ち上げ、修復を確認した。持ち上げた際に揺らしても落下せず接着面に亀裂が見られないことが確認できれば、自己修復能がある(○)、揺らした際に接着面に再度亀裂が見られた場合は自己修復能が弱い(△)、その他の場合は自己修復能がない(×)と判断した。
【0057】
4.結果
各ハイドロゲル及び比較品のゲル化と及び自己修復能の有無を表1に示した。自己修復能は切断面を再度密着させ、室温で16時間静置した場合の結果である。その結果、ハイドロゲルA~Dはいずれもゲル化しており、自己修復能があることが確認できた。
従って、縮合剤としてMCTCD-NMMを用い、MCT-β-CD、Ad-COOH及びPAA(PAA-15C)のモノマー単位(mol%)の比率を4.3:20.8:74.9、4.3:17.4:78.3、4.5:13.6:81.9又は4.8:9.5:85.7とすることで自己修復能を有するハイドロゲルが製造できることが確認できた。
本発明の縮合剤を用いて製造されるハイドロゲルは室温で簡便かつ安全にワンポット合成することができ、自己修復能を有することから着脱可能な接着剤、塗料、コーティングフィルム、ハードコート剤の代替又は衝撃吸収剤等に使用できる。
【0058】
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の新規化合物を用いることにより、公知の縮合剤と比べて安全性が高い新規の縮合剤の提供が可能となった。また、この縮合剤を用いることにより、自己修復能を有するゲルやその他のゲルを製造することも容易となった。この自己修復能を有するゲルは着脱可能な接着剤、塗料、コーティングフィルム、ハードコート剤の代替、衝撃吸収剤等の様々な用途に使用できる。