(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】連続熱処理炉
(51)【国際特許分類】
F27B 9/30 20060101AFI20230331BHJP
F27B 9/04 20060101ALI20230331BHJP
F27B 9/40 20060101ALI20230331BHJP
F27B 9/02 20060101ALI20230331BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20230331BHJP
F27D 7/06 20060101ALI20230331BHJP
C21D 1/76 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
F27B9/30
F27B9/04
F27B9/40
F27B9/02
F27D19/00 Z
F27D7/06 B
F27D7/06 C
C21D1/76 U
C21D1/76 R
(21)【出願番号】P 2019021095
(22)【出願日】2019-02-07
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000157072
【氏名又は名称】関東冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154357
【氏名又は名称】山▲崎▼ 晃弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 愼一
(72)【発明者】
【氏名】神田 輝一
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-003492(JP,A)
【文献】特開昭52-107207(JP,A)
【文献】特開平09-256069(JP,A)
【文献】特開昭61-213324(JP,A)
【文献】特開昭62-218513(JP,A)
【文献】特開2003-346645(JP,A)
【文献】特開2011-146704(JP,A)
【文献】特開2014-102026(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 9/00-9/40
F27D 7/00-15/02
C21D 1/74-1/773
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1加熱域と、該第1加熱域の下流側に設けられた第2加熱域とを備えた連続熱処理炉であって、
前記第1加熱域に被処理物の熱処理用の第1雰囲気ガスを供給するように構成された第1雰囲気ガス供給システムと、
前記第2加熱域に前記被処理物の水蒸気処理用の第2雰囲気ガスを供給するように構成された第2雰囲気ガス供給システムであって、前記第2雰囲気ガスを生成するべく燃焼用空気と燃料とを所定割合で燃焼させるように構成された第2雰囲気ガス生成装置を備える、第2雰囲気ガス供給システムと、
前記第1加熱域と前記第2加熱域との間での前記第1雰囲気ガスと前記第2雰囲気ガスとの混合を防ぐように設けられたガス遮断システムと
を備え
、
前記ガス遮断システムは、
前記第1加熱域の下流側かつ前記第2加熱域の上流側にカーテンを形成するべく、前記第1加熱域を通過した使用済み第1雰囲気ガスを前記第1加熱域の下流側に還流させるように構成された還流システム
を備え、
前記還流システムは、前記第1雰囲気ガス供給システムの前記第1加熱域への第1雰囲気ガスの導入口よりも上流側に設けられて使用済み第1雰囲気ガスを吸引するための吸引口と、前記導入口よりも下流側に設けられて使用済み第1雰囲気ガスを前記第1加熱域の下流側かつ前記第2加熱域の上流側に戻すための戻し口と、前記吸引口と前記戻し口とをつなぐ還流管に設けられたポンプとを備える、
連続熱処理炉。
【請求項2】
前記ガス遮断システムは、
前記還流システムにより還流された前記使用済み第1雰囲気ガスを排出するように前記第1加熱域と前記第2加熱域との間に設けられた排気装置
を更に備えている、
請求項
1に記載の連続熱処理炉。
【請求項3】
前記使用済み第1雰囲気ガスを前記排気装置よりも上流側に還流させるように前記還流システムは構成されている、
請求項
2に記載の連続熱処理炉。
【請求項4】
第1加熱域と、該第1加熱域の下流側に設けられた第2加熱域とを備えた連続熱処理炉であって、
前記第1加熱域に被処理物の熱処理用の第1雰囲気ガスを供給するように構成された第1雰囲気ガス供給システムと、
前記第2加熱域に前記被処理物の水蒸気処理用の第2雰囲気ガスを供給するように構成された第2雰囲気ガス供給システムであって、前記第2雰囲気ガスを生成するべく燃焼用空気と燃料とを所定割合で燃焼させるように構成された第2雰囲気ガス生成装置を備える、第2雰囲気ガス供給システムと、
前記第1加熱域と前記第2加熱域との間での前記第1雰囲気ガスと前記第2雰囲気ガスとの混合を防ぐように設けられたガス遮断システムと
を備え、
前記ガス遮断システムは、
前記第1加熱域の下流側かつ前記第2加熱域の上流側にカーテンを形成するべく、前記第1加熱域を通過した使用済み第1雰囲気ガスを前記第1加熱域の下流側に還流させるように構成された還流システムと、
前記還流システムにより還流された前記使用済み第1雰囲気ガスを排出するように前記第1加熱域と前記第2加熱域との間に設けられた排気装置と
を備え、
前記第1加熱域と前記第2加熱域との間の領域には、還流された前記使用済み第1雰囲気ガスの流れを前記排気装置へと促すための整流部材が
設けられている、
連続熱処理炉。
【請求項5】
前記使用済み第1雰囲気ガスを前記排気装置よりも上流側に還流させるように前記還流システムは構成されている、
請求項4に記載の連続熱処理炉。
【請求項6】
前記整流部材は、前記第2加熱域の前記第2雰囲気ガスが前記第1加熱域に至るのを防ぐように形作られている、請求項
4又は5に記載の連続熱処理炉。
【請求項7】
前記第2加熱域での水蒸気処理による水素濃度が所定濃度以上であるとき、希釈用ガスを前記第2加熱域に供給するように構成された希釈用ガス供給システムを更に備える、
請求項1から6のいずれか一項に記載の連続熱処理炉。
【請求項8】
第1加熱域と、該第1加熱域の下流側に設けられた第2加熱域とを備えた連続熱処理炉であって、
前記第1加熱域に被処理物の熱処理用の第1雰囲気ガスを供給するように構成された第1雰囲気ガス供給システムと、
前記第2加熱域に前記被処理物の水蒸気処理用の第2雰囲気ガスを供給するように構成された第2雰囲気ガス供給システムであって、前記第2雰囲気ガスを生成するべく燃焼用空気と燃料とを所定割合で燃焼させるように構成された第2雰囲気ガス生成装置を備える、第2雰囲気ガス供給システムと、
前記第1加熱域と前記第2加熱域との間での前記第1雰囲気ガスと前記第2雰囲気ガスとの混合を防ぐように設けられたガス遮断システムと、
前記第2加熱域での水蒸気処理による水素濃度が所定濃度以上であるとき、希釈用ガスを前記第2加熱域に供給するように構成された希釈用ガス供給システムと
を備える、
連続熱処理炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材等の被処理物の熱処理に使用される連続熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理炉において、鋼材等の被処理物の熱処理を行う際に、雰囲気ガスとして、アルゴンガス等の不活性ガスに代えて、変成ガスを用いることが、種々提案され、既に実用化されている。例えば、特許文献1は、加熱域及び冷却域を有する熱処理装置と、この熱処理装置における熱処理の雰囲気ガスとして使用される発熱型変成ガスを生成するためのガス発生装置とを有する熱処理炉の一例を開示する。このガス発生装置は、予め設定された混合割合で燃焼用空気と燃料とが混合された原料ガス(予混合ガス)を、燃焼室において燃焼用バーナにて燃焼させ(例えば不完全燃焼させ)、これにより変成ガスを生成するように構成されている。そして、変成ガス生成時に発生した熱エネルギーを有効に活用して省エネルギー効果を高めるべく、熱処理装置の加熱域の昇温部において、この変成ガスの熱で搬送されてくる被処理物を予熱するように、ガス発生装置は加熱域の昇温部に位置付けられている。
【0003】
更に、特許文献2は、予熱室、加熱室及び冷却室が連続的に設けられていて、被処理物を予熱室で予熱した後、加熱室で加熱して熱処理を行う熱処理炉の一例を開示する。この熱処理炉では、予熱室の手前側に設けられた前室は、雰囲気ガスとして加熱室等で使用済みの変成ガスを燃焼させることによって生じる燃焼熱で被処理物を予熱する構成を更に備える。これにより、更なるエネルギー効率を向上させることを可能にする。
【0004】
一方で、鋼又は鉄系合金鋼の表面に酸化鉄の黒色被膜を形成するための水蒸気処理(ホモ処理)が知られている。水蒸気処理は、表面処理の一種であり、酸化鉄の内でも四酸化三鉄(Fe3O4)を材料の表面に形成する処理である。四酸化三鉄は硬く、耐食性に富む。この水蒸気処理では500℃~560℃に加熱した過熱水蒸気を被処理材料に通じることが行われる。特許文献3は、この水蒸気処理において、一般に用いられている水蒸気に代えて、燃焼排ガスを利用することを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭58-27323号公報
【文献】特開2017-166721号公報
【文献】特開昭60-92462号公報
【文献】特開2014-74566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、鋼等の熱処理では、その被処理物に求められる特性つまり熱処理の目的に応じて、雰囲気ガスの成分や温度を調整することが求められる。そして、そのような熱処理がなされた被処理物を種々の条件下で安定的に使用し続けるために、上記水蒸気処理が施される。そして、通常、これらの処理は、水蒸気処理の水蒸気が、焼きなましなどの熱処理に悪影響を及ぼさないように、別々に行われる。つまり、被処理物は、ある熱処理での加熱後に冷却されて例えば室温に戻され、その後の水蒸気処理で再度処理温度にまで加熱される。このような被処理物の温度変化を抑制することは、エネルギー効率改善の点で有効である。
【0007】
そこで、本発明の目的は、エネルギー効率よく、ある熱処理に続いて、その熱処理とは異なる水蒸気処理を行うことを可能にする連続熱処理炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一態様は、
第1加熱域と、該第1加熱域の下流側に設けられた第2加熱域とを備えた連続熱処理炉であって、
前記第1加熱域に被処理物の熱処理用の第1雰囲気ガスを供給するように構成された第1雰囲気ガス供給システムと、
前記第2加熱域に前記被処理物の水蒸気処理用の第2雰囲気ガスを供給するように構成された第2雰囲気ガス供給システムであって、前記第2雰囲気ガスを生成するべく燃焼用空気と燃料とを所定割合で燃焼させるように構成された第2雰囲気ガス生成装置を備える、第2雰囲気ガス供給システムと、
前記第1加熱域と前記第2加熱域との間での前記第1雰囲気ガスと前記第2雰囲気ガスとの混合を防ぐように設けられたガス遮断システムと
を備える、連続熱処理炉
を提供する。
【0009】
好ましくは、前記ガス遮断システムは、前記第1加熱域の下流側かつ前記第2加熱域の上流側にカーテンを形成するべく、前記第1加熱域を通過した使用済み第1雰囲気ガスを前記第1加熱域の下流側に還流させるように構成された還流システムを備えている。前記ガス遮断システムは、前記還流システムにより還流された前記使用済み第1雰囲気ガスを排出するように前記第1加熱域と前記第2加熱域との間に設けられた排気装置を更に備えているとよい。更に好ましくは、前記使用済み第1雰囲気ガスを前記排気装置よりも上流側に還流させるように前記還流システムは構成されている。
【0010】
好ましくは、前記第1加熱域と前記第2加熱域との間の領域には、還流された前記使用済み第1雰囲気ガスの流れを前記排気装置へと促すための整流部材が更に設けられている。前記整流部材は、前記第2加熱域の前記第2雰囲気ガスが前記第1加熱域に至るのを防ぐように形作られているとなおよい。
【0011】
更に、上述の連続熱処理炉は、前記第2加熱域での水蒸気処理による水素濃度が所定濃度以上であるとき、希釈用ガスを前記第2加熱域に供給するように構成された希釈用ガス供給システムを備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記一態様に係る連続熱処理炉によれば、上記構成を備えるので、エネルギー効率よく、ある熱処理に続いて、その熱処理とは異なる水蒸気処理を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る熱処理炉の概略構成図である。
【
図2】
図1の熱処理炉における、第1加熱室の搬送方向に略直交する仮想面での断面模式図である。
【
図3】
図1の熱処理炉における、予熱室の搬送方向に略直交する仮想面での断面模式図である。
【
図4】
図1の熱処理炉における、制御構成の概略図である。
【
図5】予混合ガスの完全燃焼割合と、生成した変成ガスにおけるガス成分の割合との関係を示すグラフである。
【
図6】本発明の第2実施形態に係る熱処理炉の概略構成図である。
【
図7】
図6の熱処理炉に備えられた整流部材及びその周囲を表した図であり。(a)は被処理物の搬送方向上流側からみた図であり、(b)は搬送方向横側からみた図である。
【
図8】
図7(b)の整流部材周囲における雰囲気ガスの流れを模式的に表した図である。
【
図9】本発明の第3実施形態に係る熱処理炉の概略構成図である。
【
図10】本発明の第4実施形態に係る熱処理炉の概略構成図である。
【
図11】
図10の熱処理炉における、制御構成の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施形態を添付図に基づいて説明する。同一の部品(又は構成)には同一の符号を付してあり、それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0015】
本発明の第1実施形態に係る熱処理炉10を説明する。熱処理炉10は、後述する説明から明らかなように、ある熱処理に続いて、その熱処理とは異なる水蒸気処理を連続して可能にする連続熱処炉である。
図1に、熱処理炉10の全体の概略構成を示す。熱処理炉10の熱処理装置10aでは、搬送手段により鋼材等の被処理物12が搬送される方向(搬送方向)において、上流側から、搬入テーブル14、前室(入口室)16、予熱室18、第1加熱室20、冷却室22、第2加熱室24、複数の冷却室26、28、後室(出口室)30、及び搬出テーブル32等が、連続的に設けられている。そして、熱処理炉10では、熱処理装置10aのそれらの内部つまり処理領域を通して、被処理物12を搬送方向に搬送する搬送手段として、モータ34で駆動されるメッシュベルトコンベア36が配置されている。以下では、第1加熱室20及び第2加熱室24をまとめて加熱室と称したり、冷却室22及び複数の冷却室26、28をまとめて冷却室と称したりし得る。更に、冷却室22は第1加熱室20と第2加熱室24との間にあるので中間冷却室と称し得る。
【0016】
ここで、予熱室18、第1加熱室20、及び、第2加熱室24の構造を
図1から
図3に基づいて説明する。
図2は、第1加熱室20の搬送方向に略直交する仮想面での断面模式図であり、
図3は、予熱室18の搬送方向に略直交する仮想面での断面模式図である。なお、第2加熱室24の搬送方向に略直交する仮想面での断面模式図は、
図2と実質的に同じであるので、その図示を省略する。
【0017】
予熱室18、第1加熱室20、及び、第2加熱室24は、いずれも加熱域を定める。予熱室18と第1加熱室20とは、特に第1加熱室20は、ここでは処理領域の一部である第1加熱域に相当し、
図1に示すように直接的に連通して設けられている。そして、第2加熱室24は、ここでは処理領域の一部である第2加熱域に相当し、冷却領域を定める中間冷却室22を介して第1加熱室20と連通して設けられている。予熱室18及び加熱室20、24は、
図2及び
図3から明らかなように、搬送方向に直交する断面視で略矩形であり、周囲が断熱壁38で囲まれて形成されている。断熱壁38は、例えばセラミックファイバーから主に構成することができる。さらに、予熱室18及び加熱室20、24を通して搬送方向に向けて延びる複数本の縦桁材40(
図2及び
図3参照)及び搬送方向に略直交する方向に延びる複数本の横桁材(不図示)が配置され、これにより熱処理装置10aにおける支持構造が形成されている。そして、縦桁材40の上に、メッシュベルトコンベア36が走行するように配置されている。
【0018】
予熱室18及び加熱室20、24内には、
図1から
図3に示すように、複数本のヒータ42が、それぞれが上側の断熱壁38a(38)の下方に幅方向に延びるように搬送方向に間隔をおいて配置されている。さらに、加熱室20、24内については、
図1及び
図2に示すように、下側の断熱壁38b(38)の上方であって、縦桁材40の下方の部分に、複数本のヒータ42が、それぞれが幅方向に延びるように搬送方向に間隔をおいて配置されている。
【0019】
これらヒータ42の熱で、処理領域における加熱域のガスつまり後述する雰囲気ガス及び被処理物12は加熱され、その処理目的(例えば、焼きなまし、焼きならし、鋼材のろう付け)に応じて熱処理や水蒸気処理が行われる。ただし、第2加熱室24では、被処理物12が通過するとともに雰囲気ガスで満たされる空間つまり熱処理領域を、ヒータ42の配置領域から隔てるように、それらの間に仕切り壁が設けられてもよい。これにより、ヒータ42が後述する水蒸気に曝されることを防ぐことができる。仕切り壁はヒータ42から受けた熱で発熱し、その輻射熱で雰囲気ガス及び被処理物12を加熱可能に構成されているとよい。例えば、仕切り壁はセラミック製壁部として構成可能である。
【0020】
第1加熱室20及び第2加熱室24のそれぞれには、被処理物12が通過する空間又は処理領域に雰囲気ガスを供給するように、導入口20a、24aが設けられている。なお、第1加熱室20及び第2加熱室24のそれぞれに対する、導入口20a、24aの数は、1つに限定されず、複数であってもよい。更に、そのような雰囲気ガスの導入口は加熱室20、24だけでなく、予熱室や冷却室等に設けられてもよい。なお、各導入口20a、24aは、搬送方向下流側から上流側に、雰囲気ガスを方向付けて流すように、ノズル形状などに構成されているとよい。
【0021】
予熱室18内には、雰囲気ガスとして用いられる燃焼排ガスを生成するためのガスバーナ(燃焼装置)50が設けられている。このガスバーナ50は、本発明者らにより提案された(特許文献4に記載の)ガスバーナの構成と略同じ構成を備える。ガスバーナ50を
図1及び
図3に基づいて説明する。
【0022】
ここでは、予熱室18内に2つのガスバーナ50が設けられている。各ガスバーナ50は同じ構成を備え、個別に作動制御可能であるが、ここでは、同じように作動される。ここでは、2つのガスバーナ50のうちの上流側のガスバーナ50を第1ガスバーナ50aと称し、他方のガスバーナ50を第2ガスバーナ50bと称する。第1ガスバーナ50a及び第2ガスバーナ50bは予熱室18に搬送方向に略並列に設けられている。第1及び第2ガスバーナ50bは第2加熱室24つまり第2加熱域に供給するための雰囲気ガス(以下、第2雰囲気ガスと称する。)の生成用に設けられている。これら2つのガスバーナ50(50a、50b)は同じ構成を備えるので、以下では、第1ガスバーナ50aの構成を代表して説明し、第2ガスバーナ50bの詳細な説明を省略する。なお、ここでは、これらの第1及び第2ガスバーナ50a、50bが第2雰囲気ガス生成装置50Dに相当する。ただし、ガスバーナ50の数は1つでも、3つ以上であってもよい。
【0023】
第1ガスバーナ50aは、予熱室18内においてメッシュベルトコンベア36の鉛直方向下方に配置されており、ラジアントチューブからなるバーナ本体52と、供給筒部54と、供給筒部54の周囲に形成された排気通路部58と、原料ガス供給筒部60と、原料ガス供給筒部60内に設けられたスパークロッド62とを備えている。バーナ本体52内に、パイロット用原料ガス源64から燃焼用のパイロット用原料ガスが不図示のバルブを介して原料ガス供給筒部60を通して供給される。そしてバーナ本体52と原料ガス供給筒部60との間から、(不図示のバルブを介して供給される)空気と燃料とが予め混合された予混合ガスつまり原料ガスが採り入れられて、バーナ本体52内に供給される。原料ガスにおける燃料としては、炭化水素ガス、例えばブタン、プロパン等が使用可能である。
【0024】
そして、バーナ本体52内においてパイロット用原料ガスを、点火手段であるスパークロッド62に、スパーク用電源66で電圧を印加して、点火することにより燃焼させる。点火による燃焼後は、予混合ガス(燃焼用空気が燃料に混合された原料ガス)の連続供給によって燃焼が維持される。
【0025】
この第1ガスバーナ50aによる燃焼熱で、予熱室18内に搬入される被処理物12及び周囲のガスつまり雰囲気ガスが予熱されるように、予熱室18にガスバーナ50aは配置されている。この燃焼によって生じた燃焼排ガスは、排気通路部58を通過し、採り入れる予混合ガスを予熱部68において予熱しつつ、第1ガスバーナ50aから排出される。このようにして生成された燃焼排ガスは、(後で
図5に基づいて説明するように)CO、CO
2、H
2、H
2O、N
2を含む。
【0026】
第1ガスバーナ50aから排出された燃焼排ガスは、同様に第2ガスバーナ50bから排出された燃焼排ガスとともに、合流されて、雰囲気ガスとして、第2加熱室24つまり第2加熱域に供給される。この雰囲気ガスは、第2加熱室24への供給路(第2供給路)70を通して流れ、第2供給路70の下流端の上記第2導入口24aを介して、第2加熱室24内に供給される。第1及び第2ガスバーナ50a、50bを有する第2雰囲気ガス生成装置50Dと、第2供給路70とを含んで、第2雰囲気ガス供給システム72は構成されている。なお、ここでは、第2供給路70に第2雰囲気ガスの冷却器などが設けられていないが、設けられることを本発明は排除するものではない。
【0027】
一方、第1加熱室20つまり第1加熱域へは、ここでは、雰囲気ガス(以下、第1雰囲気ガスと称する。)として、窒素ガス(N
2ガス)が供給されるように、第1加熱室20つまり第1加熱域に対する第1雰囲気ガス供給システム74が構成されている。
図1に示すように、窒素タンク76はバルブ78が設けられた供給路(第1供給路)80を介して上記第1導入口20aにつなげられている。したがって、バルブ78が制御されて開くことで、第1雰囲気ガスとして、窒素ガスが第1加熱室20内に供給される。
【0028】
中間冷却室22は、ここでは、炉冷を行うように構成されている。また、冷却室26、28は、詳しく述べないが、それぞれ水冷式の既知の構成を備える。なお、これら(冷却域を定める)冷却室22、26、28は、それぞれ、他の冷却機構を備えてもよい。
【0029】
上記ガスバーナ50a、50b等の作動の制御のために、熱処理炉10は、制御装置90を備える。制御装置90は、演算装置(例えばCPU)、記憶装置(例えばROM、RAM)、入出力ポート等を備え、所謂コンピュータとしての構成を備える。制御装置90には、各種のセンサが入力ポートを介して電気的に接続されている。例えば、第1加熱室20における雰囲気ガスの温度を検出するための(取得するための)第1温度センサ91、第1加熱室20における雰囲気ガスの成分濃度を検出するための(取得するための)第1ガスセンサ92、第2加熱室24における雰囲気ガスの温度を検出するための(取得するための)第2温度センサ93、第2加熱室24における雰囲気ガスの成分濃度を検出するための(取得するための)第2ガスセンサ94が設けられている。そして、制御装置90には、出力ポートを介して、第1ガスバーナ50a及び第2ガスバーナ50b(の各々におけるバルブなど)や、バルブ78が接続されている。そして、制御装置90は、ここでは、熱処理炉10の操作者によって入力装置96から入力された熱処理条件(例えば熱処理温度)でガスバーナ50a、50bや、バルブ78を作動させるように、プログラミングされている。
【0030】
さて、ここでは、被処理物12は電磁鋼板から作られた部品である。より具体的には、被処理物12はモータコアとなる部材であり、電磁鋼板の打ち抜き品である。そこで、熱処理炉10では、第1加熱域で所謂磁気焼鈍を行い、それよりも搬送方向下流側の第2加熱域で水蒸気処理を行う。
【0031】
第1熱処理としての磁気焼鈍では、第1加熱室20において、第1所定温度で第1所定時間の間、被処理物12は熱処理される。ここでは第1所定温度は約850℃であり、第1所定時間は約3時間である。そして、第1加熱室20で熱処理された被処理物12は中間冷却室22で第2所定温度まで炉冷される。ここでは、第2所定温度は約550℃である。更に、第1加熱室20(及び冷却室22)で熱処理つまり磁気焼鈍が行われた被処理物12に対して、第2加熱室24において、第3所定温度で第3所定時間の間、第2熱処理としての水蒸気処理が行われる。ここでは、第3所定温度は約550℃であり、第3所定時間は約30分である。なお、それらの処理の時間並びに温度などに基づいて、熱処理炉10では、第1加熱室の搬送方向の長さ、中間冷却室22の搬送方向の長さ及び第2加熱室の搬送方向の長さ、並びに、メッシュベルトコンベア36の搬送速度又は移動速度、メッシュベルトコンベア36の一体構成又は分割構成は設定されるとよい。
【0032】
ここで、第2加熱室24に供給される第2雰囲気ガスについて説明し、第1及び第2ガスバーナ50a、50bの作動等について説明する。第1及び第2ガスバーナ50a、50bにより生成された燃焼排ガスは水蒸気処理用の第2雰囲気ガスとして、第2加熱室24に供給される。特に、ここでは、燃焼排ガスとして発熱型変成ガス(DXガス)を生成させる。DXガスは、完全燃焼に比較的近い燃焼によって生じる。具体的には、完全燃焼する場合の完全燃焼割合を100%とすると、約60%から100%近くまでの範囲の完全燃焼割合を有するような燃焼用空気と燃料との所定の混合割合(燃焼用空気/燃料)の予混合ガスの燃焼で、DXガスを生じさせることができる。
【0033】
ここで、
図5に、横軸に予混合ガスの燃焼における完全燃焼割合(%)をとり、縦軸に生成した燃焼排ガスにおける各ガス成分の割合(%)をとり、各完全燃焼割合に対するガス成分の割合の傾向を示す。なお、完全燃焼割合100%とは完全燃焼に対応し、完全燃焼割合が100%未満のときの燃焼は不完全燃焼である。例えば、燃料ガスがブタン(C
4H
10)であるとき、完全燃焼(完全燃焼割合100%)に対応する空気とブタンとの(予混合ガスにおける)混合割合(具体的には空燃比(空気/ブタン))は30.9であり、完全燃焼割合60%に対応する空気とブタンとの混合割合は18.6である。つまり、燃焼排ガスとして発熱型変成ガス(DXガス)を生成するための予混合ガスは、完全燃焼割合100%に対応する予混合ガスよりも燃料過多(リッチ)である。
【0034】
図5より、DXガスの完全燃焼割合領域(60%~100%)をみると、生成した燃焼排ガス中には、水分(H
2O)がある程度以上含まれることが理解できる。
図5の水分(H
2O)の表示は、20℃での量であり、第1及び第2ガスバーナ50a、50bで生成された燃焼排ガスつまり第2雰囲気ガスにおける水蒸気、特に過熱水蒸気がかなりの割合を占めることは明らかである。
【0035】
例えば、完全燃焼割合90%になるように、第2雰囲気ガス生成装置である第1及び第2ガスバーナ50a、50bにおける、燃焼用空気と燃料との割合を所定割合、特に所定混合割合に調整し、第1及び第2ガスバーナ50a、50bで燃焼を生じさせる。ただし、この燃焼用空気と燃料との混合割合は、完全燃焼割合90%に対する所定混合割合にすることに限定されず、他の混合割合にすることができ、第2雰囲気ガスが水蒸気処理用に所定量以上の水蒸気を含むのであれば、発熱型変成ガス(DXガス)の混合割合に限定されず、吸熱型変成ガス(RXガス)の混合割合であってもよい。
【0036】
このように、熱処理炉10では、被処理物12は、窒素ガスである第1雰囲気ガス下で磁気焼鈍が行われ、それに続けて、燃焼排ガスである第2雰囲気ガス下で水蒸気処理が行われる。このとき、磁気焼鈍から水蒸気処理に移行する過程で、つまり、中間冷却室22で第2雰囲気ガスの水蒸気が第2加熱室24側から第1加熱室20側に流れていたることは好ましくなく、防ぐ必要がある。そこで、本実施形態では、第1加熱域を定める第1加熱室20と第2加熱域を定める第2加熱室24との間での第1雰囲気ガスと第2雰囲気ガスとの混合を防ぐようにガス遮断システム100が設けられている。
【0037】
ガス遮断システム100は、第1加熱室20の下流側かつ第2加熱室24の上流側にカーテンを形成するべく、第1加熱室20を通過した使用済み第1雰囲気ガスを第1加熱室20の下流側に還流させるように構成された還流システム102を備える。更に、第1ガス遮断システム100は、この還流システム102により還流された使用済み第1雰囲気ガスを排出するように第1加熱室20と第2加熱室24との間に設けられた排気装置104を備える。
【0038】
還流システム102は、ここでは、第1加熱室20の上流側の予熱室18に開口する吸引口102aと、第1加熱室20の下流側かつ第2加熱室24の上流側の中間冷却室22に開口する戻し口102bとをつなぐ還流管102cを有する。更に、還流管102cには、第1導入口20aから導入されて第1加熱室20を通過した使用済み第1雰囲気ガスを吸引して、第1加熱室20の下流側に噴射させるように、ポンプ106が設けられている。ここでは更に、第1加熱室20の下流側かつ第2加熱室24の上流側の中間冷却室22に開口するように設けられた排気装置104の吸引口104aよりも上流側に使用済み第1雰囲気ガスを還流させるように、還流システム102の戻し口102bは設けられている。
【0039】
ガス遮断システム100を設けて、磁気焼鈍に際して制御装置90によりポンプ106を作動させることで、第1導入口20aを介して第1加熱室20に導入された第1雰囲気ガスが、第1加熱室20を下流側から上流側に流れて通過し、吸引口102aから吸引されて、第1加熱室20の下流側の中間冷却室22に設けた戻し口102bを介して中間冷却室22に供給される。そして、戻し口102bは、搬送方向に直交する方向に並ぶ複数のノズル(不図示)を有して構成されているので、戻し口102bから吐出された第1雰囲気ガスつまり窒素ガスでカーテンつまりガスカーテンを形成することができる。これにより、第1雰囲気ガスと第2雰囲気ガスとの混合を防ぐことが可能になる。
【0040】
そして、上記したように、排気装置104が更に設けられていて、排気装置104の吸引口104aよりも上流側に使用済み第1雰囲気ガスを還流させるように、第1還流システム102の戻し口102bは設けられている。したがって、こうして戻し口102bから吐出されてガスカーテンを形成した第1雰囲気ガスは、排気装置104のポンプ108を制御装置90により作動させることで、吸引口104aから吸引されて熱処理炉10の処理領域から排気される。したがって、この排気装置104による吸引又は排気により、更に、第1雰囲気ガスと第2雰囲気ガスとの混合を防ぐことが可能になる。なお、排気装置104は、ポンプ108と、それが途中に設けられて吸引口104aを上流側端部に有する排出管110とを備える。
【0041】
更に、第2加熱室24の上流側及び下流側の各々には、吸引口104b、104cが設けられている。これら吸引口104b、104cは上記ポンプ108につながっている。したがって、第2加熱室24の第2雰囲気ガスは、第2加熱室24を下流側に又は上流側に通過した後、好ましくは下流側から上流側に通過した後、熱処理炉10の処理領域から排出される。このため、更に、第2加熱室24の第2雰囲気ガスが第1加熱室20に至ることをよりしっかりと防ぐことが可能になる。
【0042】
こうして排出された第1雰囲気ガスや第2雰囲気ガス、つまり使用済み雰囲気ガスは、ここではポンプ108により吸引されて合流し、水分除去装置112に至る。そして、水分除去装置112で概ね水分を除去されて冷却されたガスは、導入口104d、104eを介して、前室16及び後室30の各々に供給される。これにより、熱処理炉10内の処理領域への空気の侵入をより好適に防ぐことが可能になる。なお、水分除去装置112は、例えばシリカゲルやゼオライトを含んで構成されるが、主として使用済み第2雰囲気ガス中の水分を除去することに向けられている。ただし、これは、水分除去装置112の構成を限定するものではなく、それは種々の構成を有し得る。
【0043】
また、こうして水分除去装置112を経た使用済み雰囲気ガスは、冷却室26、28に導入口104fを介して供給される。この導入口104fには、冷却室26、28に導入されるガスにより結露が生じないように、温度調節器114が設けられている。温度調節器114はヒータ等であり、冷却室26、28内の温度を測るために設けられた温度センサ98(
図4参照)の出力に応じて、制御装置90により作動され得る。
【0044】
以上述べたように、本実施形態によれば、使用済みの第1雰囲気ガスを第1加熱室20と第2加熱室24との間に戻すことでガスカーテンが形成される。更にそのガスカーテン形成用に戻された使用済み第1雰囲気ガスを排出することで更なるガスカーテンが形成可能にされる。つまり、2重のガスカーテンで、第1雰囲気ガスと第2雰囲気ガスとの混合を好適に防ぐことが可能になる。したがって、第1加熱室での磁気焼鈍に続けて第2加熱室での水蒸気処理を連続的に行うことが可能になる。よって、第1加熱室20での熱処理と、第2加熱室24での水蒸気処理とを別の装置で行う場合に比べて、被処理物12の温度変化を抑制して、エネルギー効率を高めることが可能になる。
【0045】
次に、本発明の第2実施形態に係る熱処理炉10´を説明する。熱処理炉10´は、第1実施形態の熱処理炉10に、更に整流部材120が設けられている構成を備える。以下では、その整流部材120に関して主に説明し、既に説明した部品(又は構成)に相当する構成要素には同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0046】
第2実施形態の熱処理炉10´を
図6に示す。
図6では、第1加熱室20と第2加熱室24との間の中間冷却室22、つまり第1加熱域と第2加熱域との間の接続領域CAに、整流部材120が配置されている。その整流部材120を
図7に示す。整流部材120は、熱処理領域のうちの接続領域CAにおける雰囲気ガスの流れを排気装置104つまりその吸引口104aへと促すように構成されている。具体的には、整流部材120は、湾曲天面部122を有するようにゲート状に構成されていて、実質的にメッシュベルトコンベア36上に載置されているかのように支持部材(不図示)により保持されている。なお、整流部材120は、メッシュベルトコンベア36と非接触であるが、接触してもよい。湾曲天面部122は、還流システム102により還流された使用済み第1雰囲気ガスの流れを排気装置104へと促すように、還流システム102の戻し口102b側の端部122aで最も低く、その戻し口102bから離れるに従い高くなり、戻し口102bから搬送方向で最も離れた端部122bで最も高くなるように凹湾曲状に形成されている。なお、整流部材120はゲート状であり、被処理物12が通過可能なゲート部124を備えるので、被処理物12はメッシュベルトコンベア36上をスムーズに搬送可能にされる。
【0047】
また、整流部材120における戻し口102bから搬送方向で最も離れた端面120Eは、搬送方向に略直交する壁面として形作られている。これは、第2加熱室24の第2雰囲気ガスが第1加熱室20に至るのを防ぐように設計されている。
【0048】
整流部材120における、その周囲での雰囲気ガスの流れを
図8に模式的に示す。還流システム102を介して還流されて戻し口102bから吐出された使用済み第1雰囲気ガスは、
図8中上側から下側に流れる(矢印A1参照)。そして、使用済み第1雰囲気ガスは、コンベアベルト36等との衝突などにより、例えば整流部材120側に方向を変え、整流部材120に沿って、特に湾曲天面部122に沿って排気装置104に流れることができる(矢印A2、A3参照)。こうして、第1加熱域と第2加熱域との間の接続領域CAに、使用済み第1雰囲気ガスによるカーテンが2重に折り返されたように形成される。また、整流部材120の端面120Eは上で述べたように搬送方向に略直交する壁面として形作られているので、第2加熱室24の第2雰囲気ガスが接続領域CAにおいて第1加熱室20側に流れるのを防ぐことができる(矢印A4参照)。
【0049】
以上述べたように、第2実施形態に係る熱処理炉10´では、上記熱処理炉10の構成に加えて、整流部材120が更に設けられているので、第1加熱室20の第1加熱域と第2加熱室24の第2加熱域との間での雰囲気ガスが混合するような流れをより好適に防ぐことができる。したがって、熱処理炉10´での連続処理が、上記熱処理炉10の場合よりも、より好適に可能になる。
【0050】
なお、上記第1実施形態に係る熱処理炉10及び第2実施形態に係る熱処理炉10´のいずれにおいても、第1加熱室20の断熱材38で囲まれた空洞内に、グラファイトで形成されたトンネル状のグラファイトマッフルが配置されるとよい。このグラファイトマッフルは、グラファイトアウターマッフルとその内側のグラファイトインナーマッフルとの2重構造を有して構成されてもよい。なお、断熱材38も、グラファイト断熱材としてもよい。
【0051】
熱処理炉10、10´の第1加熱室20をグラファイトマッフルで実質的に構成することで、雰囲気ガス中に含まれる微量の残留酸素は炉内構造物のグラファイトなどと反応して例えば一酸化炭素(CO)となり、第1加熱室20などの隙間などを介して、雰囲気ガスと共に炉外に排出される。この結果、雰囲気ガス中の残留酸素分圧は低下する。高温下において、被処理物表面に形成された金属酸化物は酸素と金属とに熱解離し、熱解離した酸素が酸素分圧が低下した雰囲気ガス中に放出される。この酸素はグラファイトマッフル又はグラファイトインナーマッフルの内壁などと反応して例えば一酸化炭素(CO)となり、第1加熱室20などの隙間などを介して、速やかに雰囲気ガスと共に炉外に排出される。このようにして、金属酸化物は還元ガスを介さずに中性ガス又は不活性ガスだけで継続的に熱解離される。
【0052】
次に、本発明の第3実施形態に係る熱処理炉210を
図9に基づいて説明する。熱処理炉210は、第1実施形態の熱処理炉10と、第1加熱室20での熱処理に変成ガスを用いる点で相違する。以下では、その相違点に関して主に説明し、既に説明した部品(又は構成)に相当する構成要素には同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0053】
第1実施形態に係る熱処理炉10では、第1ガスバーナ50aから排出された燃焼排ガスは、同様に第2ガスバーナ50bから排出された燃焼排ガスとともに、合流されて、第2雰囲気ガスとして、第2加熱室24つまり第2加熱域に供給された。しかし、本第3実施形態では、第1ガスバーナ50aから排出された燃焼排ガスは第1加熱室20にそこでの第1雰囲気ガスとして供給され、第2ガスバーナ50bから排出された燃焼排ガスは第2加熱室24にそこでの第2雰囲気ガスとして供給される。第2ガスバーナ50bから排出された燃焼排ガスの第2加熱室24への供給は上述した通りである。
【0054】
第1加熱室20つまり第1加熱域へは、第1雰囲気ガスとして第1ガスバーナ50aにより生成された燃焼排ガスが供給される。第1ガスバーナ50での燃焼用空気と燃料との混合割合(以下、第1混合割合)は、第2ガスバーナ50での燃焼用空気と燃料との混合割合(以下、第2混合割合)と異なってもよく、また同じであってもよい。第2混合割合については、第1実施形態において説明した通りである。
【0055】
第1混合割合は、被処理物12に対する熱処理及びその材質などに応じて設定されたり、例えば第1加熱室の雰囲気ガス検出用に設けた第1ガスセンサ92、例えば酸素センサ、COセンサ又はCO2センサなどの出力に基づき制御装置90により可変設定されたりしてもよい。なお、第1混合割合を限定するものではないが、第1加熱域へ供給される第1雰囲気ガスはDXガスであり得る。
【0056】
そして、第1ガスバーナ50aにより生成された燃焼排ガスは、第1加熱室20つまり第1加熱域に対する第1雰囲気ガス供給システム212を介して供給される。
図9に示すように、第1ガスバーナ50aは第1供給路80を介して第1導入口20aにつなげられている。第1供給路80には、水冷熱交換器214、脱水機216及びCO
2吸着装置218が上流側から順に配置されている。したがって、第1ガスバーナ50aからの燃焼排ガスは、40度以下、例えば氷点下にまで冷却されるとともに、脱水及びCO
2除去がされて、第1雰囲気ガスとして第1加熱室20に供給される。よって、第1加熱室20での熱処理を、水蒸気分圧、二酸化炭素分圧の低い雰囲気で行うことができ、例えば光輝処理を効率的に行うことができる。
【0057】
なお、第2実施形態で説明した整流部材120は、第3実施形態の熱処理炉210に設けられてもよく、また、以下で説明する第4実施形態の熱処理炉310に設けられてもよい。
【0058】
次に、本発明の第4実施形態に係る熱処理炉310を
図10及び
図11に基づいて説明する。以下では、第1実施形態の熱処理炉10との、熱処理炉310における相違点を主に説明し、既に説明した部品(又は構成)に相当する構成要素には同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0059】
上記第1実施形態の熱処理炉10では第2加熱室で水蒸気処理を行った。水蒸気処理では、水素が発生することが知られている。水素は可燃性が強いので、安全性をより一層高めるため、本第4実施形態の熱処理炉310では、希釈用ガス供給システム312が設けられている。
【0060】
希釈用ガス供給システム312は、窒素タンク76から第2加熱室24の第2導入口24aに延びる第3供給路314と、そこに設けられたバルブ316とを備える。バルブ316の制御用に、水素センサ318が排出管110に設けられている。
図11に示すように、バルブ316及び水素センサ318はそれぞれ制御装置90につなげられている。制御装置90は、水素センサ318の出力に基づいて検出した、例えば推定した第2加熱室24での水蒸気処理による水素濃度が所定濃度以上であるとき、その所定濃度に応じた分の窒素ガスを第2加熱室24に供給するようにバルブ316を制御する。所定濃度は、水素の爆発限界の最小割合以下に設定される。例えば、所定濃度は、4%水素濃度、好ましくは3.5%水素濃度である。
【0061】
このように、排出された雰囲気ガス中の水素濃度を検出して、それに応じた分の窒素ガスを、水蒸気処理を行う第2加熱室24に供給することで、水蒸気処理の安全性をより一層高めることが可能になる。なお、この希釈用ガス供給システム312は、第2実施形態の熱処理炉10´、第3実施形態の熱処理炉210にも同様に適用可能である。
【0062】
また、希釈用ガス供給システム312で希釈用ガスとして用いるガスは、窒素ガスに限定されず、例えばアルゴン(Ar)ガスなど不活性ガスであってもよい。更に、希釈用ガスの供給箇所は、第2導入口24aであることに限定されず、第2供給路70であってもよい。また、水素センサ318は排出管110以外の箇所に、例えば第2加熱室24に設けられてもよい。
【0063】
なお、上述のガス遮断システムを備えない連続熱処理炉に、希釈用ガス供給システムを適用することも可能である。これは、例えば
図10の熱処理炉310において、ガス遮断システムを除いた連続熱処理炉に相当する。つまり、このような連続熱処理炉は、第1加熱域と、該第1加熱域の下流側に設けられた第2加熱域とを備えた連続熱処理炉であって、前記第1加熱域に被処理物の熱処理用の第1雰囲気ガスを供給するように構成された第1雰囲気ガス供給システムと、前記第2加熱域に前記被処理物の水蒸気処理用の第2雰囲気ガスを供給するように構成された第2雰囲気ガス供給システムであって、前記第2雰囲気ガスを生成するべく燃焼用空気と燃料とを所定割合で燃焼させるように構成された第2雰囲気ガス生成装置を備える、第2雰囲気ガス供給システムと、前記第2加熱域での水蒸気処理による水素濃度が所定濃度以上であるとき、希釈用ガスを前記第2加熱域に供給するように構成された希釈用ガス供給システムとを備える、連続熱処理炉に対応する。
【0064】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明は種々の変更が可能である。本願の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、種々の置換、変更が可能である。
【符号の説明】
【0065】
10、10´、210、310 熱処理炉
10a 熱処理装置
12 被処理物
18 予熱室
20 第1加熱室(第1加熱域)
24 第2加熱室(第2加熱域)
50a 第1ガスバーナ
50b 第2ガスバーナ
100 ガス遮断システム
102 還流システム
104 排気装置
120 整流部材