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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】接合材料の化学的特性を抽出する装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20230331BHJP
   H05K 13/04 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
H01L21/60 311T
H05K13/04 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019043560
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020149995
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2022-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】519294332
【氏名又は名称】株式会社新川
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宋 承修
(72)【発明者】
【氏名】歌野 哲弥
(72)【発明者】
【氏名】柴原 拓洋
(72)【発明者】
【氏名】中村 智宣
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-198710(JP,A)
【文献】特開2005-333005(JP,A)
【文献】特開2005-156494(JP,A)
【文献】特開昭57-044802(JP,A)
【文献】特開平10-002852(JP,A)
【文献】特開平08-261965(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065309(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/60-21/607
H01L 21/50-21/52
H01L 21/58
H05K 13/00-13/08
C09J 7/00- 7/50
G01N 25/00-25/18
G01N 33/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルを加熱しながら加圧する加圧部と、
前記加熱加圧時における前記サンプルの温度および厚みに関する物理量を検出するセンサと、
前記加圧部の駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、第一部材と第二部材の間に接合材料を介在させたターゲットサンプルを前記サンプルとして前記加圧部に加熱加圧させるとともに、当該加熱加圧時における前記ターゲットサンプルの温度-厚み曲線をターゲット曲線として生成し、当該ターゲット曲線におけるピークおよび屈曲点の少なくとも一方である特異点を前記接合材料の化学反応特性の指標として抽出する、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、
前記制御部は、さらに、前記第一部材と前記第二部材の間に前記接合材料を介在させないリファレンスサンプルを前記サンプルとして前記加圧部に加熱加圧させて、前記加熱加圧時における前記リファレンスサンプルの温度-厚み曲線をリファレンス曲線として生成し、
前記制御部は、前記リファレンス曲線と前記ターゲット曲線との差分に基づいて、ターゲット曲線における前記特異点を抽出する
ことを特徴とする装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の装置であって、
前記制御部は、加熱条件を変えて、前記ターゲットサンプルを加熱加圧し、その際に得られた複数のターゲット曲線に基づいて、前記接合材料の吸熱または発熱反応の発生条件を特定する、ことを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の装置であって、
前記制御部は、前記ターゲットサンプルの厚み変化に基づいて、前記接合材料の粘度を算出し、前記接合材料の粘度と温度との相関も抽出する、ことを特徴とする装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の装置であって、
前記加圧部は、
前記第一部材が載置されるステージと、
前記第二部材を保持するとともに、前記ステージに対して相対移動可能な実装ヘッドと、
前記ステージに内蔵され、前記第一部材を加熱するステージ側ヒータと、
前記実装ヘッドに内蔵され、前記第二部材を加圧するヘッド側ヒータと、
を備え、前記ステージ側ヒータおよびヘッド側ヒータは、いずれも、パルスヒータである、
ことを特徴とする装置。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、第一部材および第二部材を接合する接合材料を加熱加圧した際の化学的特性を抽出する装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、接合材料用いて二つの部材を接合する技術が多数提案されている。例えば、半導体装置では、底面にバンプが形成された半導体チップを、熱硬化性樹脂等からなる接合材料を用いて、基板上に接合している。半導体チップを基板に接合する際には、半導体チップと基板との間に接合材料を介在させた状態で、半導体チップを基板側に加圧するとともに加熱し、熱硬化性の接合材料を硬化させる。
【0003】
こうした接合を適切に行うためには、接合材料の種類や加熱条件を適切に選択する必要がある。そのため、従来から、接合に適した接合材料の条件等が多数提案されている。例えば、特許文献1では、ハンダ付き電極が形成された半導体チップを、ハンダ付き電極と対向する対向電極が形成された電子部品に搭載する前に、半導体チップに予め貼り合わされるアンダーフィル材として、5℃/min以上50℃/min以下の昇温速度条件で溶融粘度を測定したときの最低溶融粘度到達温度が100℃以上150℃以下であり、最低溶融粘度が100Pa・s以上5000Pa・s以下であるアンダーフィル材を用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-56500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、接合材料の粘度等の機械的特性の変化は、接合材料の内部で生じる化学反応により生じるものである。従来は、こうした化学的反応の発生状態そのものには着目せず、粘度等の機械的特性にのみ着目することが多かった。例えば、上記特許文献1でも、もっぱら、粘度と温度の関係にのみ着目していた。
【0006】
しかし、接合材料の機械的特性の変化は、上述した通り、化学反応の結果として得られるものであるため、接合材料の機械的特性を適切にコントロールするためには、当該接合材料における化学反応の特性を把握しておくことが望ましい。しかし、従来、こうした化学反応の特性を充分に抽出する技術は、なかった。
【0007】
そこで、本明細書では、接合材料の化学反応特性を抽出できる装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書で開示する装置は、サンプルを加熱しながら加圧する加圧部と、前記加熱加圧時における前記サンプルの温度および厚みに関する物理量を検出するセンサと、前記加圧部の駆動を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、第一部材と第二部材の間に接合材料を介在させたターゲットサンプルを前記サンプルとして前記加圧部に加熱加圧させるとともに、当該加熱加圧時における前記ターゲットサンプルの温度-厚み曲線をターゲット曲線として生成し、当該ターゲット曲線におけるピークおよび屈曲点の少なくとも一方である特異点を前記接合材料の化学反応特性の指標として抽出する、を備えることを特徴とする。
【0009】
この場合、前記制御部は、さらに、前記第一部材と前記第二部材の間に前記接合材料を介在させないリファレンスサンプルを前記サンプルとして前記加圧部に加熱加圧させて、前記加熱加圧時における前記リファレンスサンプルの温度-厚み曲線をリファレンス曲線として生成し、前記制御部は、前記リファレンス曲線と前記ターゲット曲線との差分に基づいて、ターゲット曲線における前記特異点を抽出してもよい。
【0010】
また、前記制御部は、加熱条件を変えて、前記ターゲットサンプルを加熱加圧し、その際に得られた複数のターゲット曲線に基づいて、前記接合材料の吸熱または発熱反応の発生条件を特定してもよい。
【0011】
また、前記制御部は、前記ターゲットサンプルの厚み変化に基づいて、前記接合材料の粘度を算出し、前記接合材料の粘度と温度との相関も抽出してもよい。
【0012】
また、前記加圧部は、前記第一部材が載置されるステージと、前記第二部材を保持するとともに、前記ステージに対して相対移動可能な実装ヘッドと、前記ステージに内蔵され、前記第一部材を加熱するステージ側ヒータと、前記実装ヘッドに内蔵され、前記第二部材を加圧するヘッド側ヒータと、を備え、前記ステージ側ヒータおよびヘッド側ヒータは、いずれも、パルスヒータであってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本願出願人の研究によれば、接合材料の吸熱・発熱反応が生じた場合、ターゲットサンプルの温度-厚み曲線において、ピークや屈曲点といった特異点が生じる。そのため、ターゲットサンプルの温度-厚み曲線における特異点を抽出することで、接合材料の化学反応特性を抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】抽出装置の構成を示す概略図である。
図2】接合材料の温度-粘度特性一例を示す図である。
図3】サンプルの温度-厚み曲線の一例を示す図である。
図4】化学的特性抽出の流れを示すフローチャートである。
図5】差分曲線の一例を示す図である。
図6】昇温レートを変えて取得された三つのターゲット曲線のイメージ図である。
図7】昇温レートによる硬化温度の違いを示す図である。
図8】加熱開始温度による硬化温度の違いを示す図である。
図9】加熱条件の違いによる硬化温度の違いをまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して抽出装置10について説明する。図1は、抽出装置10の構成を示す概略図である。抽出装置10は、第一部材52と第二部材54との間に接合材料56を介在させた状態で加熱加圧し、当該加熱加圧時における接合材料56の機械的な状態変化から、接合材料56の化学的特性を抽出する装置である。ここで、接合材料56は、加熱により二つの部材を接合できるものであれば特に限定されない。以下では、接合材料56が、半導体チップを基板または他の半導体チップに接合する際に用いられる熱硬化性材料、例えば、非導電性フィルム(NCF)、ダイアタッチフィルム(DAF)、異方性導電フィルム(ACF)等である場合を例に挙げて説明する。また、この場合、第一部材52および第二部材54は、半導体チップ、および、当該半導体チップが実装される基板または他の半導体チップである。
【0016】
以下では、第一部材52、接合材料56、および第二部材54が積層されたものを「ターゲットサンプル」と呼ぶ。また、後に詳説する通り、抽出装置10は、ターゲットサンプルだけに限らず、第一部材52および第二部材54のみが積層され、接合材料56を有さないリファレンスサンプルも加熱加圧する。以下では、ターゲットサンプルおよびリファレンスサンプルを区別しない場合には、単に、「サンプル」と呼ぶ。
【0017】
本例の抽出装置10は、半導体チップを基板の上に接合して実装する実装装置12に組み込まれている。したがって、抽出装置10の一部の構成は、実装装置12に設けられた構成を利用している。抽出装置10(実装装置12)は、実際にサンプルを加熱加圧する加圧部14と、当該加圧部14の駆動制御する制御部16と、に大別される。加圧部14には、第二部材54が載置されるステージ18と、ステージ18に対して相対移動可能な実装ヘッド20と、が設けられている。ステージ18は、載置された第二部材54を真空吸着する。このステージには、第二部材54を加熱するステージ側ヒータ26が内蔵されている。このステージ側ヒータ26の昇温は、制御部16により制御される。
【0018】
実装ヘッド20は、第一部材52を保持したうえで、当該第一部材52を第二部材54の上に載置して加熱加圧する。この実装ヘッド20の先端には、第二部材54を吸引保持する実装ツール22が設けられている。実装ツール22の上側には、ヘッド側ヒータ28が内蔵されたヒートブロック24が設けられている。ヘッド側ヒータ28は、実装ツール22を介して第一部材52を加熱するためのヒータである。
【0019】
ここで、半導体チップを実装する際には、半導体チップおよび基板を急速加熱(例えば、3℃/sec以上の昇温レートで加熱)する。ステージ側ヒータ26およびヘッド側ヒータ28は、この半導体チップの実装時と同程度の昇温レートでサンプルを加熱できることが望ましい。そのため、ステージ側ヒータ26およびヘッド側ヒータ28は、瞬間加熱が可能なヒータ、例えば、パルスヒータ等で構成される。
【0020】
後述する接合材料56の化学的特性を抽出する際には、実装ツール22で第一部材52を吸引保持した状態のまま、実装ツール22を第二部材54に向かって下降させて押し付けるとともに、ヘッド側ヒータ28およびステージ側ヒータ26でサンプルを加熱する。実装ヘッド20には、この時の押圧荷重を検出する荷重センサ(図示せず)と、実装ツール22の高さを検出する高さセンサ30と、が設けられている。これらセンサで検出された結果は、制御部16に送られる。制御部16は、これらの検出結果に基づいて実装ヘッド20の駆動を制御するとともに、サンプルの厚みHを算出する。
【0021】
加圧部14には、さらに、サンプルの温度を検出する温度センサ32も設けられている。この温度センサ32は、例えば非接触式の温度センサ(例えば赤外線放射温度センサ)である。この温度センサ32での検出結果も、制御部16に送られる。
【0022】
制御部16は、加圧部14の駆動を制御するとともに、サンプルを加熱加圧した際に得られる温度-厚み曲線に基づいて、接合材料56の科学的特性を抽出する。この制御部16は、例えば、各種演算を実行するCPUと、各種データおよびプログラムを記憶するメモリと、を有したコンピューターである。
【0023】
次に、この抽出装置10で接合材料56の化学的特性を抽出するフローについて説明する前に、接合材料56の特性について簡単に説明する。図2は、接合材料56の温度-粘度曲線の一例を示す図である。熱硬化性樹脂からなる接合材料56は、図2に示す通り、常温Tnから温度が上昇すると、分子運動が活発化し、一時的に粘度が低下する。しかし、さらに加熱して、温度が上昇すると、高分子同士が架橋し、粘度が上昇、すなわち、硬化していく。この軟化した後に硬化していく過程で、接合材料56の内部では、架橋反応を始めとする様々な化学反応が生じる。こうした化学反応のなかには、熱を吸収する吸熱反応や、熱を放出する発熱反応がある。
【0024】
図3において、実線で示した曲線は、かかる接合材料56を有するターゲットサンプルを加熱加圧した際に得られる温度-厚み曲線である。上述した通り、接合材料56は、加熱の初期段階では、一時的に軟化するものの、加熱を続けると、粘度上昇し、硬化する。そのため、接合材料56を有したターゲットサンプルを加熱加圧すると、ターゲットサンプルの厚みHは、図3の実線で示すようなプロファイルとなる。すなわち、常温Tn付近からある温度T1付近までは、接合材料56が軟化しているため、加圧を受けて、ターゲットサンプルの厚みHが急激に低下していく。しかし、温度T1を超えると、接合材料56の硬化が始まるため、加圧を受けても、ターゲットサンプルの厚みHが低下しづらくなり、温度T2以降では、厚みHの変化がほぼなくなる。
【0025】
ここで、本願出願人は、ターゲットサンプルについて温度-厚み曲線を取った場合、特定の温度領域において、温度-厚み曲線の傾きが急激に変化する特異点40、具体的には、ピーク42または屈曲点44が発生することを見い出した。こうした特異点40は、ヒータ26,28の熱以外の熱が、一時的にターゲットサンプルに作用していることを示していると考えられる。例えば、図3の実線で示す温度-厚み曲線の場合、局所的に厚みが増加するピーク42が発生している。こうしたピーク42は、ターゲットサンプルの温度が一時的に急上昇するとともに、この温度上昇に伴い、接合材料56が一時的に熱膨張することで生じると考えられる。また、図3の実線の例では、さらに、温度上昇するにも関わらず厚みが殆ど増加しない踊り場を作り出す屈曲点44が発生している。こうした踊り場は、ターゲットサンプルの厚みが変化しない程度の微小時間で温度が急激に上昇したことを示している。つまり、温度-厚み曲線における特異点40は、ターゲットサンプルの温度が、一時的に、急変したことを示している。
【0026】
このようなターゲットサンプルの温度の急変は、接合材料56の内部において、吸熱・発熱を伴う化学反応が活発に発生するためと考えられる。したがって、温度-厚み曲線における特異点40の発生箇所は、吸熱・発熱反応の発生条件を示していると判断できる。ここで、こうした吸熱・発熱反応は、接合材料56の材質や接合する対象物(第一部材52、第二部材54)の種類および用途などによって、望ましい場合もあれば、望ましくない場合もある。いずれの場合であっても、吸熱・発熱反応が、どのような条件下で、活発に発生するか、を予め把握できていることが望ましい。そこで、本例の抽出装置10では、各種接合材料56を有したターゲットサンプルを実際に加熱加圧し、その際に得られる温度-厚み曲線に基づいて、吸熱・発熱反応が生じる発生条件を当該接合材料56の化学的特性を示す指標として抽出する。抽出された発生条件(科学的特性)は、特性情報として、制御部16のメモリに記憶される。
【0027】
次に、この化学的特性の抽出の具体的な流れについて説明する。図4は、この抽出の流れを示すフローチャートである。図4に示す通り、化学的特性を抽出する際には、まず、ターゲットサンプルとリファレンスサンプルを用意する(S10)。ターゲットサンプルは、化学的特性を抽出したい接合材料56を有したサンプルである。ターゲットサンプルは、上述した通り、ステージ18に載置される第二部材54と、実装ツール22に吸着保持される第一部材52と、を有しており、接合材料56は、第一部材52の底面、あるいは、第二部材54の上面に、予め付着されている。
【0028】
また、リファレンスサンプルは、接合材料56を有さないサンプルであり、ステージ18に載置される第二部材54と、実装ツール22に吸着保持される第一部材52と、のみを有している。リファレンスサンプルは、ターゲットサンプルとの比較に用いられるため、リファレンスサンプルの第一部材52および第二部材54は、ターゲットサンプルの第一部材52、第二部材54と同じものが用いられる。
【0029】
二つのサンプルが用意できれば、続いて、制御部16は、加圧部14を駆動して、リファレンスサンプルを加熱加圧する(S12)。このとき、実装ツール22の高さおよび温度は、それぞれ高さセンサ30および温度センサ32で検出される。制御部16は、この検出結果に基づいて、リファレンスサンプルの温度-厚み曲線を生成し、リファレンス曲線としてメモリに一時記憶する(S14)。なお、図3における破線は、このリファレンス曲線の一例を示している。
【0030】
次に、制御部16は、加圧部14を駆動して、ターゲットサンプルを加熱加圧する(S16)。このときの加熱条件(加熱開始温度および昇温レート)および加圧条件(加圧荷重)は、リファレンスサンプルを加熱加圧した際の条件と同じである。この場合の実装ツール22の高さおよび温度もそれぞれセンサ30,32で検出される。制御部16は、この検出結果に基づいて、ターゲットサンプルの温度-厚み曲線を生成し、ターゲット曲線としてメモリに一時記憶する(S18)。
【0031】
リファレンス曲線およびターゲット曲線が得られれば、制御部16は、ターゲット曲線からリファレンス曲線を減算した差分曲線を算出する(S20)。図5は、差分曲線の一例を示す図である。かかる差分曲線を求めることにより、接合材料56のみの厚み変化を抽出でき、接合材料56の化学的特性をより正確に抽出できる。
【0032】
差分曲線が得られれば、制御部16は、当該差分曲線における特異点40を抽出する(S22)。この特異点40(ピーク、屈曲点)の抽出方法は、特に限定されないが、例えば、差分曲線の微分曲線におけるピーク発生箇所を特異点発生箇所として抽出してもよい。また、当然ながら、微分に先だって、差分曲線にローパスフィルタを適用して高周波ノイズを除去してもよい。また、特異点40の発生位置に加えて、さらに、特異点40の形状を示すパラメーターも抽出するようにしてもよい。特異点40の形状を示すパラメーターとしては、例えば、特異点40の面積やピーク幅およびピーク高さ等が含まれる。
【0033】
特異点40が抽出できれば、制御部16は、この特異点40に関する情報を、接合材料56の特性情報として記憶する(S24)。特異点40に関する情報としては、例えば、特異点40が発生した際の温度領域や厚み、特異点40の形状情報、ターゲットサンプルを加熱加圧した際の加熱加圧条件などが含まれる。このように取得された特性情報は、接合材料56の化学的特性の解析や、接合条件の決定等に利用される。
【0034】
ところで、半導体チップを接合材料56を介して基板または他の半導体チップに接合する際には、加熱時間の低減、ひいては、タクトタイム低減のために、接合材料56等を急速加熱する。具体的には、例えば、3℃/sec以上の昇温レートで加熱する。このように、急速加熱した場合、加熱条件に応じて、接合材料56の挙動が変化することが知られている。例えば、同じ種類の接合材料56であっても、昇温レートによって、硬化粘度VSに達する温度(硬化温度)が異なる。これは、急速加熱した場合、過去の加熱による反応(残留応答)が残ったまま、現在の加熱による反応がさらに進む過渡現象が生じるためである。
【0035】
そこで、一種類の接合材料56に関して、加熱条件を変えて、複数のターゲット曲線を取得するようにしてもよい。変更する加熱条件としては、例えば、昇温レートや昇温開始温度が考えられる。図6は、昇温レートを変えて取得された三つのターゲット曲線のイメージ図である。図6における三つの曲線は、三つの昇温レートR1,R2,R3(R1<R2<R3)で加熱加圧した際に得られたターゲット曲線である。図6の例では、昇温レートが高いほど、ピークが大きくなり、また、ピークが発生する温度領域が低くなることが分かる。したがって、図6の例では、吸熱・発熱反応は、昇温レートが高いほど、顕著に、かつ、低温で発生することが分かる。
【0036】
また、これまでは、化学的特性を表す指標として、ターゲット曲線の特異点40を抽出しているが、その他のパラメーターも抽出して、記録するようにしてもよい。例えば、接合材料56を用いて半導体チップを基板または他の半導体チップに接合して実装する場合には、接合材料56が硬化粘度VSに到達する際の温度である硬化温度が重要となる。すなわち、半導体チップを実装する際には、当該半導体チップに設けられ金属パンプが溶融開始する前に、接合材料56が硬化していなければならない。しかし、この接合材料56が硬化する温度、硬化温度は、加熱条件によって大きく変動する。そのため、半導体チップの実装時における加熱条件を適切に設定するためには.加熱条件ごとの硬化温度を予め把握しておくことが望ましい。
【0037】
そこで、ターゲットサンプルを加熱加圧した際の測定結果に基づいて、接合材料56の加熱条件ごとの硬化温度を取得し、特性情報の一部として記録するようにしてもよい。具体的には、化学的特性抽出のために、ターゲットサンプルを加熱加圧した際に、接合材料56の粘度および温度を取得し、接合材料56の粘度が予め規定された硬化粘度に到達した際の温度を効果温度として特定する。なお、接合材料56の粘度は、専用のセンサで検出するようにしてもよいし、ターゲットサンプルの厚みの変化(ひいては接合材料56の厚みの変化)から算出するようにしてもよい。すなわち押圧荷重をF(N)、時間をt(sec)、接合材料56の厚みをh(m)、接合材料56の体積をQ(m3)とすると、接合材料56の粘度Vは、以下の式1によって算出できる。
V=2*π*F*h/3*Q*(-dh/dt)(2*π*h+Q) ---- (式1)
【0038】
図7図8は、加熱条件による硬化温度の違いを示す図である。図7において、横軸は、接合材料56の温度を、縦軸は、接合材料56の粘度を示している。また、図7における四つの曲線は、四つの昇温レートR1,R2,R3,R4(R1<R2<R3<R4)で接合材料56を加熱した際の当該接合材料56の温度-粘度曲線である。図7から明らかな通り、接合材料56の温度-粘度曲線は、昇温レートによって大きく異なっており、昇温レートが高いほど、硬化粘度VSに達する温度、すなわち硬化温度が高くなる。
【0039】
また、図8において、三つの曲線は、三つの異なる加熱開始温度T01,T02,T03(T01<T02<T03)から接合材料56を同じ昇温レートで加熱した際の温度-粘度曲線である。図8から明らかな通り、接合材料56の温度-粘度曲線は、加熱開始温度によって大きく異なっており、加熱開始温度が低いほど、硬化粘度VSに達する温度、すなわち硬化温度が高くなる。
【0040】
図9は、加熱条件の違いによる硬化温度の違いをまとめた図である。図9において横軸は、昇温レートを、縦軸は、硬化温度を示している。また、図9における三つの曲線は、三つの異なる加熱開始温度Ts=T01,T02,T03それぞれについての昇温レート-硬化温度曲線である。このように、様々な加熱条件での硬化温度を予め測定して記憶しておくことで、半導体チップを実装する際の加熱条件を適切かつ簡易に設定することができる。なお、図9では、硬化温度をグラフ形式で示しているが、硬化温度は、図9に示す昇温レート-硬化温度曲線を数式化した関数形式や、テーブル形式で記憶されてもよい。
【0041】
なお、これまで説明した構成は、一例であり、ターゲットサンプルを加熱加圧した際の温度-厚み曲線における特異点40を接合材料56の化学的特性を示す指標として抽出するのであれば、その他の構成は、適宜変更されてもよい。例えば、上記の説明では、ターゲットサンプルだけではなく、リファレンスサンプルの温度-厚み曲線も求めているが、ターゲットサンプルのみでも特異点40を抽出できるのであれば、リファレンスサンプルは用いなくてもよい。また、上記の説明では、化学的特性に加えて、接合材料56の硬化温度(図X)も取得しているが、かかる硬化温度は、取得されなくてもよい。また、上記の説明では、接合材料56を熱硬化性の接合材料と想定して説明しているが、接合材料56は、加熱により化学的反応を生じるものであれば、熱硬化性材料以外のものでもよい。例えば、加熱されて溶融した後に冷却されて固化することで二部材を接合する金属ペーストなどでもよい。また、上記説明では、サンプルを急速加熱(3℃/sec以上の昇温レートで加熱)して過渡現象時の化学的特性を抽出しているが、サンプルを低速過熱して、定常状態での化学的特性を抽出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
10 抽出装置、12 実装装置、14 加圧部、16 制御部、18 ステージ、20 実装ヘッド、22 実装ツール、24 ヒートブロック、26 ステージ側ヒータ、28 ヘッド側ヒータ、30 高さセンサ、32 温度センサ、40 特異点、42 ピーク、44 屈曲点、52 第一部材、54 第二部材、56 接合材料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9