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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】毛細管カッター
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/12 20060101AFI20230331BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
G01N1/12 B
G01N33/48 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019092476
(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公開番号】P2020187038
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】500016039
【氏名又は名称】株式会社シン・コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100205914
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 総明
(74)【代理人】
【識別番号】100162189
【弁理士】
【氏名又は名称】堀越 真弓
(72)【発明者】
【氏名】松浦 信二
(72)【発明者】
【氏名】矢代 浩
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】実開昭53-061450(JP,U)
【文献】特開2003-266365(JP,A)
【文献】特開2002-018636(JP,A)
【文献】特表2005-506208(JP,A)
【文献】特開2007-127741(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/12
G01N 33/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
毛細管を折断可能とする傷を該毛細管の外周面に形成するための毛細管カッターであって、
箱体状のハウジングと、前記ハウジング内に収容されたカッター刃と、を備え、
前記ハウジングの上面には、前記毛細管を嵌め込みするための略直線状の凹溝が設けられ、
前記凹溝の溝底部には、該凹溝を横切る向きに設けられたスリットを介して前記カッター刃の一部が露出して配置されており、
前記ハウジングの底面には滑り止めシートが貼着されていることを特徴とする毛細管カッター。
【請求項2】
前記カッター刃は、前記凹溝の溝底部に露出した部分の刃高さが、前記毛細管の肉厚の長さよりも短くなるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の毛細管カッター。
【請求項3】
前記凹溝の溝深さは、前記毛細管の外径の長さよりも短くなるように形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の毛細管カッター。
【請求項4】
前記凹溝の断面形状は、半円状又はU字状であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の毛細管カッター。
【請求項5】
前記カッター刃は円盤状カッター刃であり、
前記円盤状カッター刃は、前記凹溝と平行かつ対向する回転軸を介して前記ハウジング内に取り付けられることによって回転自在に軸支されており、
前記円盤状カッター刃の外周の一部が、前記凹溝の溝底部に露出して配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の毛細管カッター。
【請求項6】
毛細管を折断可能とする傷を該毛細管の外周面に形成するための毛細管カッターであって、
箱体状のハウジングと、前記ハウジング内に収容されたカッター刃と、を備え、
前記ハウジングの上面には、前記毛細管を嵌め込みするための略直線状の凹溝が設けられ、
前記凹溝の溝底部には、該凹溝を横切る向きに設けられたスリットを介して前記カッター刃の一部が露出して配置されており、
前記カッター刃は薄板状カッター刃であり、
前記薄板状カッター刃の両端部には、該薄板状カッター刃を付勢して往復移動自在とする弾性部材が配設されており、
前記薄板状カッター刃の外縁の一部が、前記凹溝の溝底部に露出して配置されていることを特徴とする毛細管カッター。
【請求項7】
前記弾性部材はコイルスプリングであることを特徴とする請求項6に記載の毛細管カッター。
【請求項8】
前記ハウジングの底面には滑り止めシートが貼着されていることを特徴とする請求項6又は7に記載の毛細管カッター。
【請求項9】
さらに、前記凹溝に嵌め込みした毛細管を該凹溝内で回転させるための擦動具を備え、
前記擦動具は、板状部材の表面の少なくとも一部に滑り止めシートが貼着されたものであることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の毛細管カッター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液等の液体試料を微量採取するために用いられる毛細管に対し、所望の位置で確実かつ安全に毛細管を折断するための傷(ノッチ)を形成する毛細管カッターに関する。
【背景技術】
【0002】
血液検査のために血液を微量採取するにあたり、両端が開口した毛細管を用い、毛細管現象により血液を吸引採取することが行われている。毛細管に採取された血液は、遠心分離処理によって毛細管中で血漿又は血清成分と血球成分とに分離されるが、毛細管中で上清側に分離された血漿又は血清成分を分取する必要が生じる。
【0003】
そこで、従来から、ハート形のアンプルカッター(特許文献1の第1図参照)を用いて、ガラス製毛細管の血漿又は血清成分と血球成分との境界付近の外周面に傷(ノッチ)を入れ、傷の位置で毛細管を折断して血漿又は血清成分を分取することが行われている。
【0004】
他方、血液等の液体試料を微量採取するために用いられる毛細管としては、上述したようにガラス製のものが広く用いられてきたが、ガラスは破損し易い材料であることから、強度の高いプラスチック製の毛細管が近年では多く用いられている。例えば、特許文献2には、熱可塑性樹脂材料で形成され、所定の曲げ強度を有するプラスチック製の毛細管が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実開昭56-66332号公報
【文献】特開2001-299731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたようなハート形のアンプルカッターを用いてガラス製の毛細管に傷(ノッチ)を入れる際には、一方の手に毛細管を持ち、もう一方の手にアンプルカッターを持った状態で、毛細管の血漿又は血清成分と血球成分との境界付近にアンプルカッターを当てて傷を入れる必要がある。このとき、毛細管にアンプルカッターを近づけると所望の位置(血漿又は血清成分と血球成分との境界)周辺がアンプルカッターそのもの及び使用者の手指で隠れて見えなくなってしまうため、傷を入れる位置の確認を入念に行わなければならず、時間と手間がかかっていた。
【0007】
他方、特許文献2に記載されたようなプラスチック製の毛細管はガラス製の毛細管と比べて強度が高く、かつ、可撓性をも有するため、従来のようなアンプルカッターによる傷(ノッチ)を入れる方法ではプラスチック製毛細管を確実かつ安全に折断することはできなかった。
【0008】
従って、本発明は従来技術の上述した問題点を解消するものであり、その目的は、毛細管の所望の位置に、確実かつ安全に毛細管を折断するための傷(ノッチ)を容易に形成することができる血液採取用毛細管カッターを提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、プラスチック製の毛細管を確実かつ安全に折断するための傷(ノッチ)を毛細管の所望の位置の全周に亘り、容易に形成することができる血液採取用毛細管カッターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するため、本発明の毛細管カッターは、毛細管を折断可能とする傷を毛細管の外周面に形成するための毛細管カッターであって、箱体状のハウジングと、ハウジング内に収容されたカッター刃と、を備え、ハウジングの上面には、毛細管を嵌め込みするための略直線状の凹溝が設けられ、凹溝の溝底部には、凹溝を横切る向きに設けられたスリットを介してカッター刃の一部が露出して配置されている。
【0011】
本発明の毛細管カッターは、その上面に略直線状の凹溝が設けられた箱体として形成されており、この凹溝の溝底部には毛細管の外周面に傷(ノッチ)を付けるカッター刃が配置されている。凹溝は血液等採取用の毛細管を嵌め込み可能な大きさに形成されているため、凹溝の溝幅は非常に狭く、溝底部に配置されたカッター刃に使用者の指等が触れるおそれは少ない。それゆえ、常にカッター刃が露出しているにもかかわらず、安全に使えることができ、カッター刃の露出を調整する手間もかからないことから、直ぐにカッターとして使用することができる。使用の際には、毛細管をカッター上面の凹溝に嵌め込み、凹溝を横切る向きに設けられたスリットの位置と、毛細管に傷を入れる位置(毛細管を折断する位置)とを合わせる。この凹溝を横切るスリットを介してカッター刃が露出していることから、凹溝の溝底部に向かって毛細管を押圧すると、毛細管の外周面には溝底部から突出したカッター刃により傷が形成される。さらに、毛細管の位置を保ったまま凹溝内で毛細管を溝壁に沿って回転させると、毛細管の外周面の全周に亘って、折断のための傷が容易に形成される。このように、毛細管を凹溝に嵌め込みし、凹溝上のスリットの位置に毛細管の所望の位置を合わせるのみで位置決めができ、所望の位置で迅速かつ容易、安全に傷の形成を行うことができる。なお、本明細書における傷(ノッチ)とは、毛細管を所望の位置で折断するために設けられる、毛細管の外壁に形成される切り欠き、切り込み、溝、窪みまたはこれらの組み合わせからなるものであり、毛細管の外壁の全周方向に連続的に又は不連続に形成されるもの、又は毛細管の外壁の一部に形成されるもののことをいう。
【0012】
また、本発明の毛細管カッターのカッター刃は、凹溝の溝底部に露出した部分の刃高さが、毛細管の肉厚の長さよりも短くなるように配置されていることが好ましい。これにより、毛細管に傷を入れる際に、カッター刃が毛細管の管壁を貫通して毛細管に孔や割れを生じさせることがなく、毛細管の肉厚よりも短い深さで傷(ノッチ)を形成することができる。
【0013】
また、本発明の毛細管カッターの凹溝の溝深さは、毛細管の外径の長さよりも短くなるように形成されていることが好ましい。これにより、毛細管をハウジング上面の凹溝に嵌め込みした際に、毛細管が凹溝内に埋入されることなく、毛細管の上部が凹溝上部から突出した状態となるため、傷を入れる位置の位置決めが容易となり、毛細管に傷を入れる際の押圧や毛細管を凹溝内で回転させる操作も容易となる。
【0014】
また、本発明の毛細管カッターの凹溝の断面形状は、半円状又はU字状であることも好ましい。これにより、毛細管を凹溝に嵌め込みした際に、毛細管の外周面が凹溝の壁面全体で支持されるため、毛細管が凹溝内でガタツキし難く、毛細管の破損を防ぐことができる。また、毛細管の外周面の全周に亘って傷を入れる際には、毛細管を凹壁内で回転させるところ、毛細管を凹溝の溝壁に沿って回転させることができるため、傷を入れる際の位置ずれを防ぐことができる。
【0015】
また、本発明の毛細管カッターのカッター刃は円盤状カッター刃であり、円盤状カッター刃は、凹溝と平行かつ対向する回転軸を介してハウジング内に取り付けられることによって回転自在に軸支されており、円盤状カッター刃の外周の一部が、凹溝の溝底部に露出して配置されていることも好ましい。これにより、円盤状カッターを凹溝の溝底部に露出するカッター刃として用いることができる。また、円盤状カッター刃はハウジング内で回転自在に取り付けられているため、毛細管にかかる力が分散して略均一な力でスムーズに傷が形成される。さらに、凹溝の溝底部に露出する部分が固定されていないため、カッター刃の損傷や刃こぼれが生じにくく、耐久性を有するカッターが得られる。
【0016】
また、本発明の毛細管カッターのカッター刃は薄板状カッター刃であり、薄板状カッター刃の両端部には、薄板状カッター刃を付勢して往復移動自在とする弾性部材が配設されており、薄板状カッター刃の外縁の一部が、凹溝の溝底部に露出して配置されていることも好ましい。これにより、薄板状カッターを凹溝の溝底部に露出するカッター刃として用いることができる。また、薄板状カッター刃はハウジング内で往復移動自在に取り付けられているため、毛細管にかかる力が分散して略均一な力で傷が形成される。さらに、凹溝の溝底部に露出する部分が固定されていないため、カッター刃の損傷や刃こぼれが生じにくく、耐久性を有するカッターが得られる。
【0017】
また、上述した弾性部材はコイルスプリングであることも好ましい。これにより、薄板状カッター刃を選択した際の好適な弾性部材が選択される。
【0018】
また、本発明の毛細管カッターのハウジングの底面には滑り止めシートが貼着されていることも好ましい。これにより、作業台上等で使用する際に毛細管カッター自体が動いてしまい、毛細管の位置決めや傷の形成位置がずれるのを防ぐことができる。
【0019】
また、本発明の毛細管カッターは、さらに、凹溝に嵌め込みした毛細管を凹溝内で回転させるための擦動具を備え、この擦動具は、板状部材の表面の少なくとも一部に滑り止めシートが貼着されたものであることも好ましい。凹溝に嵌め込みして傷形成位置の位置決めを行った毛細管について、擦動具を当接させて溝底部の方向に押圧することにより、確実に毛細管の外周面に傷を形成することができる。また、凹溝に嵌め込まれた毛細管を、凹溝と直交する方向、すなわち、スリットの伸長方向に擦動具で上方から擦ることにより、毛細管は凹溝の溝壁に沿って回転するため、確実に毛細管の外周面の全周に亘り傷を容易に形成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、以下のような優れた効果を有する毛細管カッターが提供される。
(1)毛細管の所望の位置に毛細管を折断するための傷を容易に形成することができる。
(2)確実かつ安全にプラスチック製の毛細管を折断するための傷を、毛細管の外周面の全周に容易に形成することができる。
(3)カッター刃が常に露出している構造であるが、カッター刃には手指が触れないため、安全に使用できる。
(4)カッター刃の刃高さが、毛細管の肉厚の長さよりも短く調整されているため、カッター刃が毛細管の管壁を貫通して毛細管に孔や割れを生じさせることがなく、毛細管を破損させずに傷を形成することができる。
(5)強い力を加えなくても傷が形成された位置で簡単に毛細管を折り分けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第一の実施形態における毛細管カッターの構成を概略的に示す斜視図である。
図2図1に示す毛細管カッターの(A)正面図、(B)平面図(上側から見た図)、(C)図2AにおけるA-A線断面図、(D)図2AにおけるB-B線断面図、及び(E)図2BにおけるC-C線断面図である。
図3】毛細管カッターの使用状態を示す斜視図である。
図4】毛細管カッターの使用状態を概略的に示す説明図である。
図5】第一の実施形態における毛細管カッターの他の例を示す図であって、(A)正面図、(B)平面図(上側から見た図)、(C)図5AにおけるA-A線断面図、(D)図5AにおけるB-B線断面図、及び(E)図5BにおけるC-C線断面図である。
図6】本発明の第二の実施形態における毛細管カッターの(A)正面図、(B)平面図(上側から見た図)、(C)側面図、(D)図6AにおけるD-D線断面図、及び(E)図6BにおけるE-E線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図1図4を参照し、本発明の第一の実施形態について説明する。図1及び図2に示すように、本発明の毛細管カッター1は、箱体状のハウジング2と、このハウジング2の内部に収容された円盤状カッター刃5とから概略構成されている。なお、本明細書において上下とは、毛細管カッター1を使用する状態での上下方向、すなわち、図1における上下方向をいうものとする。
【0023】
まず、ハウジング2について詳細に説明する。図1及び図2に示すように、本実施形態における箱体状のハウジング2は、全体として直方体状に形成されており、一対の半割体2a、2bにより構成されている。図2(C)に示すように、一対の半割体2a、2bのうち、一方の半割体2aには雄ネジ23と螺合する雌ネジ溝21が設けられ、他方の半割体2bには雄ネジ23を挿通することができるネジ孔22が設けられている。このうちネジ孔22は、雄ネジ23の形態に合わせて、雄ネジ23のネジ頭部を挿通できる大径部とネジ部を挿通できる小径部とを備えた段状に形成されている。これにより、雄ネジ23をネジ孔22から雌ネジ溝21にかけてねじ込ませることにより一対の半割体2a、2bが締結され、ハウジング2が形成される。なお、本実施形態における箱体状のハウジング2は、上述したように一対の半割体2a、2bにより形成されているが、箱体状のハウジングを形成することができれば、他の構成により形成することも可能である。また、本実施形態におけるハウジング2は直方体状に形成されているが、立方体状、円柱状、角錐台状、円錐台状及びその他の形状の箱体状とすることも可能である。ハウジング2の材料としては、ステンレスやアルミ等の金属材料のほか、樹脂材料も好適に用いることができる。樹脂材料としては、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリプロピレン又はポリエチレン(低密度・高密度含む)等の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。このような熱可塑性樹脂を用いることにより、ハウジング2を射出成型等により製造して得ることができる。
【0024】
図1及び図2に示すように、ハウジング2の上面には、毛細管を嵌め込みするための略直線状の凹溝3が設けられている。本実施形態における凹溝3は、ハウジング2の短手方向に亘って延在する溝として形成され、長手方向の中央近傍に設けられている。本実施形態においては、ハウジング2は一対の半割体2a、2bにより構成されているので、凹溝3の略半分の長さの溝が各半割体2a、2bの上面にそれぞれ形成されており、一対の半割体2a、2bを接合することで凹溝3が形成されている。凹溝3の断面形状は、半円状、U字状、矩形状、多角形状、楕円状等とすることが挙げられるが、このうち、円状又はU字状とすることが好ましい。これにより、図4に示すように、毛細管Pを凹溝に嵌め込みした際に、毛細管Pの外周面が凹溝3の壁面全体で支持されるため、毛細管Pが凹溝3内でガタツキし難く、毛細管Pの破損を防ぐことができる。また、毛細管Pの外周面の全周に亘って傷Nを入れる際には、毛細管Pを凹溝3内で回転させるところ、毛細管Pを凹溝3の溝壁で支持させながら溝壁に沿って回転させることができるため、毛細管Pの回転軸がぶれ難く、傷Nを入れる際の位置ずれを防ぐことができる。
【0025】
図4に示すように、凹溝の溝幅3Wは、毛細管Pを嵌め込みできるように毛細管の外径PDよりも大きく形成されている。具体的には、凹溝の溝幅3Wは、毛細管Pを凹溝3にスムーズに嵌め込み可能とすると共に凹溝3内での毛細管Pのガタツキを防ぐ観点から、毛細管の外径PDよりも0.03mm~0.5mmほど大きく形成されていることが好ましく、0.05mm~0.3mmほど大きく形成されていることがより好ましい。本実施形態では、血液採取用の毛細管の外径PDは、通常、1.70mm~1.95mm程度であることから、凹溝の溝幅3は2.0mmに形成されている。また、凹溝の溝深さ3Dは、毛細管Pを凹溝3Wに嵌め込みした際に、毛細管Pの外周面の一部がハウジング上面から突出した状態となるよう、毛細管の外径PDの長さよりも短くなるように形成されていることが好ましい。これにより、毛細管Pを凹溝3に嵌め込みした際に、毛細管Pが凹溝3内に埋入されることなく、毛細管Pの上部がハウジング2の上面から突出した状態となるため、毛細管Pに傷Nを入れる際の上方からの押圧や毛細管Pを回転させるための擦動操作が容易となり、傷Nを入れる位置の位置決めも容易となる。具体的には、凹溝の溝深さ3Dは、いったん嵌め込みした毛細管Pが凹溝3から作業中に安易に脱落しないようにすると共に毛細管Pの外周面の押圧や毛細管Pの回転のための擦動作業を容易とする観点から、毛細管の外径PDよりも0.05mm~0.5mmほど短く形成されていることが好ましく、0.1mm~0.3mmほど短く形成されていることがより好ましい。本実施形態では、血液採取用の毛細管の外径PDは、通常、1.70mm~1.95mm程度であることから、凹溝の溝深さ3Dは1.65mmに形成されている。
【0026】
ハウジング2の内部には、図2に示すように、後述する円盤状カッター刃5を収容可能とする細幅の収容空間6が設けられている。本実施形態においては、ハウジング2は一対の半割体2a、2bにより構成されているので、半割体2a、2bの接合面にこの収容空間6が設けられている。具体的には、半割体2bの接合面に、円盤状カッター刃5を収容できる大きさの段状の浅い掘り込みが形成されており、これが半割体2aと接合することにより収容空間6が形成される。収容空間6の間隙の幅、すなわち、半割体2bの掘り込み深さは、収容するカッター刃5の厚みよりも大きく形成されるところ、具体的には、収容空間6を囲む壁面でカッター刃5のブレを防ぐと共にカッター刃5の動きも妨げないようにする観点から、カッター刃5の厚みよりも0.02mm~0.2mmほど大きく形成されていることが好ましく、0.02mm~0.1mmほど大きく形成されていることがより好ましい。本実施形態では、収容空間6の隙間の幅は、採用した円盤状カッター刃5の刃の厚みが0.3mm程度であることから、0.35mm程度に形成されている。なお、本実施形態における収容空間6は、一対の半割体2a、2bのうちの一方(20b)が掘り込みされることにより形成されているが、一対の半割体2a、2bの両方について掘り込み加工することにより形成することも可能である。他方、図2に示すように、ハウジング2の内部には、収容空間6に収容される円盤状カッター5を回転自在に軸支するシャフト7が設けられている。シャフト7は円盤状カッター刃5の中心孔を挿通した状態で、その両端が半割体20a、20bの内部に埋設されて固定されている。
【0027】
ハウジング2の上面に形成された凹溝3の溝底部には、図1及び図2に示すように、凹溝3を横切る向きにスリット4が設けられている。このスリット4を介して、後述する円盤状カッター刃5が凹溝3の溝底部31に露出する。スリット4は、図2(D)及び図2(E)に示すように、円盤状カッター刃5の収容空間6と連続して形成されている。本実施形態においては、半割体2bの接合面にカッター刃5の収容空間6として浅い掘り込みが形成されているところ、この収容空間6と連続して、半割体2bの上方にも浅い掘り込みがスリット4として形成されている。スリット4は、凹溝3の延出方向と略垂直に交差する方向に形成されており、少なくとも凹溝3の溝底部31に形成されている。さらに、スリット4は、毛細管Pに傷Nを付ける位置の位置決めを容易とする観点から、凹溝3の溝底部だけでなく、凹溝3を横切ってハウジング2の上面に延出するように設けられていることが好ましい。本実施形態においては、スリット4は、収容空間6と連続して形成されているため、収容空間6の掘り込み長さと同じだけの長さ(30mm)で形成されており、凹溝3の両側に大きく延出するスリット4として設けられている。
【0028】
次に円盤状カッター刃5について説明する。図2に示すように、本実施形態では、カッター刃として円盤状カッター刃5が選択されている。この円盤状カッター刃5は、ハウジング2内の収容空間6に収容された状態で組み込まれており、上述したシャフト7によって回転自在に軸支されている。そして、円盤状カッター刃5は、上述したスリット4を介して、凹溝3の溝底部31からその刃先が露出するように配置されている。凹溝3の溝底部31に露出した部分51の円盤状カッター刃5の刃高51Hは、カッター刃の露出部分51に作業者の手指が触れないよう、安全性を確保するために、凹溝3の溝深さ3Dよりも短くなるようにその位置が調整されている。また、図4に示すように、凹溝3の溝底部31に露出した部分の円盤状カッター刃5の刃高51Hは、毛細管の肉厚PTの長さよりも短くなるように円盤状カッター刃5の位置が調整されていることが好ましい。これにより、毛細管Pに傷Nを入れる際に、カッター刃51が毛細管Pの管壁を貫通して毛細管Pに孔や割れを生じさせて、毛細管Pの内容物を漏出させることを防ぎ、毛細管の肉厚PTよりも短い深さで傷(ノッチ)Nを形成することができる。具体的には、凹溝3の溝底部31に露出した部分の円盤状カッター刃の刃高51Hを、毛細管の肉厚PTの1/3~半分程度の長さとすることが好ましい。本実施形態では、血液採取用の毛細管の肉厚PTは、通常、0.4±0.1mm程度であることから、凹溝3の溝底部31に露出した部分51の円盤状カッター刃5の刃高51Hが、0.15±0.05mm程度になるように配置されている。
【0029】
また、図3に示すように、ハウジング2の下面には滑り止めシート9を貼着等することも可能である。これにより、使用する際に毛細管カッター1を安定させて載置させ、毛細管Pの位置決めや傷の形成位置がずれるのを防ぐことができる。滑り止めシート9としては、ゴムシート等が挙げられる。
【0030】
本発明の毛細管カッター1には、別体の補助具として、図3に示す擦動具10を備えることも可能である。この擦動具10は、板状部材12の表面の少なくとも一部に滑り止めシート11が貼着されたものであり、凹溝3に嵌め込みされ、位置決めされた毛細管Pに傷Nを形成する際に使用される。この擦動具10をハウジング2の上面に突出する毛細管Pの外周面に当接させ、カッター刃5が露出している凹溝3の溝底部31の方向に押圧することにより、毛細管Pの外周面に傷Nを形成することができる。また、凹溝3に嵌め込まれた毛細管Pを、凹溝3と直交する方向、すなわち、スリット4の延在方向に擦動具10で上方から擦ることにより、毛細管Pは凹溝3の溝壁に沿って回転するため、毛細管Pの外周面の全周に亘り傷Nを形成することができる。
【0031】
本発明の毛細管カッター1において使用される毛細管Pは、両端が開放端部として構成され、毛細管現象を生じさせて血液等の液体試料を管内部に採取できる細管であり、外径が1.70mm~1.95mm程度のものが用いられる。毛細管Pは、合成樹脂材料によるもの又はガラス材料のもの、いずれも用いることができるが、本発明の毛細管カッター1は、特に合成樹脂材料による毛細管Pに傷(ノッチ)Nを形成するためのものとして好適に用いることができる。また、毛細管Pの内壁にはヘパリン又はEDTA等の血液抗凝固剤を塗布し、血液の凝結を防ぐための処理を施しておくことも可能である。
【0032】
次に、図3及び図4を参照して、本実施形態に係る毛細管カッター1の使用方法について説明する。まず、毛細管Pに血液を採取して一端をパテ等で埋めて封止したのち、遠心分離器にセットし、遠心分離処理によって毛細管中で血液を血漿・血清成分Sと血球成分Rとに分離させる。次に、図3に示すように、遠心分離処理された毛細管Pを毛細管カッター1の凹溝3に嵌め込みする。嵌め込みした後、凹溝3を横切る向きに設けられたスリット4の位置と、毛細管に傷Nを入れる位置(毛細管を折断する位置)である血漿・血清成分Sと血球成分Rとの境界の位置とを合わせる。スリット4が凹溝3の両側から延出しているため、位置決めは非常に容易であり、この操作のみで毛細管Pに傷Nを入れるための位置決めは完了する。引き続いて、擦動具10を用い、毛細管Pを凹溝3内部で回転させるため、ハウジング2の上面に突出した毛細管Pの外周面を凹溝3と直交する方向、すなわち、スリット4の延出方向に擦動具10で擦る。擦動具10で擦る位置としては、スリット4に対向する位置とすることにより、毛細管Pの外周面をカッター刃の露出した部分51に確実に当接させることができる。これにより、図4に示すように、毛細管Pは凹溝3の溝壁に沿って回転するところ、毛細管Pの外周面には、凹溝3の溝底部31から突出する円盤状カッター刃51による傷Nが形成されながら、毛細管Pが回転するため、毛細管Pの外周面の全周に亘り傷Nが形成される。なお、このとき、円盤状カッター刃5は、毛細管Pの回転方向と反対方向に回転しながら、毛細管Pの外周面に傷Nを形成する。それゆえ、毛細管Pの円盤状カッター刃の露出部分51にかかる力のムラを分散することができ、略均一な力で毛細管Pの外周面に傷Nが形成される。
【0033】
また、擦動具10を使用しない場合には、毛細管Pの両端をそれぞれ指で持つか、いずれか一端を指で持って、毛細管Pの凹溝3内での位置をずらさないよう留意しつつ、毛細管Pを凹溝3内部で回転させることにより、毛細管Pの外周面の全周に亘り傷Nを形成させることも可能である。
【0034】
また、使用する毛細管Pがガラス製等の場合には、凹溝3に嵌め込みされた毛細管Pを凹溝3内で回転させることなく、傷Nを形成させてもよい。具体的には、位置決めされた毛細管Pに対し、ハウジング2の上面に突出した毛細管Pの外周面を凹溝3の溝底部31に向かって押圧する。このとき、擦動具10を用いて毛細管Pを押圧してもよいし、指や他の道具を用いて押圧することも可能である。これにより、毛細管Pの外周面には、凹溝3の溝底部31から突出する円盤状カッター刃51による傷Nが形成される。
【0035】
本発明の毛細管カッター1で傷Nが入れられた毛細管Pは、傷Nの位置で容易に折断することができる。これにより、毛細管Pが容易に血漿・血清成分S部分と血球成分R部分とに切断分離され、血漿・血清成分Sが回収される。
【0036】
次に、図5を参照し、上述した第一の実施形態の他の例について説明する。本実施形態に係る毛細管カッター1は、ハウジング2の下方が水平方向に突出した支持台部24を有し、ハウジング2内に収容された円盤状カッター5を回転自在に軸支するシャフト7がベアリング71を介してハウジング2内部に取り付けされているほかは、上述した第一の実施形態とほぼ同様の構成を備えている。なお、本実施形態において、上述した第一の実施形態と同じ構成については、同じ参照符号を使用して説明する。
【0037】
本実施形態に係るハウジング2は、図5(A)~(D)に示すように、側面視逆T字状の箱体状に形成されている。ハウジング2の上方は全体として直方体状に形成され、その下方は水平方向に突出する支持台部24を備えており、一対の半割体2a、2bにより構成されている。ハウジング2の底部に、上方よりも水平方向に拡がった支持台部24を備えることにより、毛細管カッター1が机上に安定的に載置されるため、使用時に毛細管カッター1が転倒したり、ずれ動いたりすることを防ぐことができる。本実施形態では、ハウジング2上面の短手方向の長さが10mmであるのに対し、ハウジング2下面の短手方向の長さはその2倍の20mmとして設計されている。
【0038】
ハウジング2の内部には、図5(D)及び(E)に示すように、円盤状カッター刃5を収容可能とする細幅の収容空間6が設けられている。本実施形態のハウジング2は一対の半割体2a、2bにより構成されているので、半割体2a、2bの接合面にこの収容空間6が設けられている。この収容空間6は、図5(E)に示すように半割体2bの接合面に、円盤状カッター刃5を収容できる大きさの段状の浅い掘り込みが形成されており、これが半割体2aと接合することにより収容空間6が形成されている。さらに、図5(D)及び(E)に示すように、本実施形態においては、収容空間6に収容される円盤状カッター5を回転自在に軸支するシャフト7が、球軸受(ベアリング)71を介してハウジング2の内部に取り付けされている。2つのベアリング71は、ハウジング2の各半割体2a、2bに形成されたベアリング収容孔にそれぞれ圧入され、ベアリング71の内周はシャフト7の外周と嵌め合うように構成されている。シャフト7の2つのベアリング71で挟まれた部分には円盤状カッター刃5の中心孔が嵌めこまれて挿通されている。これにより、ハウジング2の内部で、ベアリング71を介してシャフト7が簡単に回転するため、より軽く小さな力で円盤状カッター5を回転させることができる。
【0039】
毛細管カッター1を構成するハウジング2、凹溝3、スリット4、円盤状カッター刃5、シャフト7及びその他の構成並びに毛細管カッター1の使用方法についての説明は、上述した第一の実施形態の場合と同様であり、その機能や作用効果も同様である。
【0040】
次に、図6を参照し、本発明の第二の実施形態について説明する。本発明の第二の実施形態に係る毛細管カッター100は、第一の実施形態に係る毛細管カッター1とは、ハウジング20内に収容された薄板状カッター刃50及びこのカッター刃50を収容する収容空間60の構成が異なり、薄板状カッター刃50を支持する部材としてシャフトの代わりにコイルスプリング80が備えられているほかは、第一の実施形態とほぼ同様の構成を備えている。なお、本実施形態において、第一の実施形態と同じ構成については、同じ参照符号を使用して説明する。
【0041】
図6に示すように、本発明の毛細管カッター100は、箱体状のハウジング20と、このハウジング20の内部に収容された薄板状カッター刃50とから概略構成されている。本実施形態における箱体状のハウジング20は、全体として直方体状に形成されており、一対の半割体20a、20bにより構成されている。ハウジング20の上面には、毛細管を嵌め込みするための略直線状の凹溝3が設けられている。本実施形態における凹溝3は、ハウジング20の短手方向に亘って延在する溝として形成され、長手方向の中央近傍に設けられている。本実施形態においては、ハウジング20は一対の半割体20a、20bにより構成されているので、凹溝3の略半分の長さの溝が各半割体20a、20bの上面にそれぞれ形成されており、一対の半割体20a、20bを接合することで凹溝3が形成されている。
【0042】
ハウジング20の内部には、図6(D)に示すように、後述する薄板状カッター刃50を収容可能とする細幅の収容空間60が設けられている。本実施形態においては、ハウジング20は一対の半割体20a、20bにより構成されているので、半割体20a、20bの接合面にこの収容空間60が設けられている。具体的には、半割体20aの接合面に、薄板状カッター刃50を収容できる大きさの段状の浅い掘り込みが形成されており、これが半割体20bと接合することにより収容空間60が形成される。ここで、薄板状カッター50の収容空間60は、ハウジング20内で薄板状カッター50が往復移動できるよう、ハウジング20の長手方向に亘って設けられていることが好ましい。本実施形態では、半割体20aの接合面に、薄板状カッター刃50を収容できる大きさの段状の浅い掘り込みが幅方向(長手方向)に亘り形成され、収容空間60とされている。収容空間60の底部601は薄板状カッター刃50が移動する際のカッター刃軌道601として機能する。薄板状カッター刃50は後述するコイルスプリング80を圧縮するように移動する際にカッター刃軌道601に沿って移動し、コイルスプリング80に付勢されて移動する際にも収容空間60内をカッター刃軌道601に沿って移動する。また、収容空間60の間隙の幅、すなわち、半割体20aの掘り込み深さは、収容するカッター刃50の厚みよりも大きく形成されるところ、具体的には、収容空間60を囲む壁面でカッター刃50のブレを防ぐと共にカッター刃50の動きも妨げないようにする観点から、カッター刃50の厚みよりも0.02mm~0.2mmほど大きく形成されていることが好ましく、0.02mm~0.1mmほど大きく形成されていることがより好ましい。本実施形態では、収容空間60の隙間の幅は、採用した薄板状カッター刃50の刃の厚みが0.4mm程度であることから、0.45mm程度に形成されている。なお、本実施形態における収容空間60は、一対の半割体20a、20bのうちの一方(20a)が掘り込みされることにより形成されているが、一対の半割体20a、20bの両方について掘り込み加工することにより形成することも可能である。
【0043】
本実施形態では、薄板状カッター刃50の両端部には、薄板状カッター刃50を付勢して往復移動自在とするための弾性部材が設けられている。本実施形態では弾性部材としてコイルスプリング80を用いている。図6に示すように、コイルスプリング80は、ハウジング20の両側面から左右一対となってねじ込んだ雄ネジ802の頭部に介在させている座金803それぞれによって係止され、薄板状カッター50の端部にそれぞれ当接するように配置されている。また、このコイルスプリング80は、ハウジング20内に設けられた円筒状のコイルスプリング収容孔801に収容されている。本実施形態においては、ハウジング20は一対の半割体20a、20bにより構成されているので、半割体20a、20bの接合面にこのコイルスプリング収容孔801が設けられている。具体的には、図6(D)及び図6(E)に示すように、一対の半割体20a、20bの接合面にそれぞれ半円筒状の掘り込みが形成されており、一対の半割体20a、20bが接合することでコイルスプリング80を収容できる円筒状の収容孔801が形成される。コイルスプリング収容孔801は上述したカッター刃収容空間60の両端部側に、収容するコイルスプリング80の全長と略同程度の長さで設けられており、本実施形態では各孔の長さは20mmとされている。また、コイルスプリング収容孔601の孔径は、収容するコイルスプリング80の外径よりも大きく形成されるところ、具体的には、コイルスプリング収容孔の内壁でコイルスプリング80の伸縮方向を案内すると共にコイルスプリング80の動きも妨げないようにする観点から、コイルスプリングの外径よりも0.5mm~1.5mmほど大きく形成されていることがより好ましい。本実施形態では、コイルスプリング収容孔801の孔径は、採用したコイルスプリング80の外径が4mm程度であることから、5mm程度に形成されている。コイルスプリング80は、毛細管カッター100を使用していない状態、すなわち、薄板状カッター刃50が定位置にある場合には、薄板状カッター刃50を付勢していないか、または若干付勢する程度で配設されているが、毛細管カッター100を使用することによって、毛細管Pの回転等に合わせて収容空間60内で薄板状カッター刃50がカッター刃軌道601に沿って移動すると、一方のコイルスプリングが圧縮されて薄板状カッター刃50を付勢するように構成されている。
【0044】
ハウジング20の上面に形成された凹溝3の溝底部には、図6に示すように、凹溝3を横切る向きにスリット40が設けられている。このスリット40を介して、後述する薄板状カッター刃50が凹溝3の溝底部31に露出する。スリット40は、薄板状カッター刃50の収容空間60と連続して形成されている。本実施形態においては、半割体20aの接合面にカッター刃50の収容空間60として幅方向に亘る浅い掘り込みが形成されているところ、この収容空間60と連続して、半割体20aの長手方向中央近傍の上方に浅い掘り込みがスリット40として形成されている。スリット40は、凹溝3の延出方向と略垂直に交差する方向に形成されており、凹溝3を横切ってハウジング20の上面に延出するように設けられている。
【0045】
次に薄板状カッター刃50について説明する。図6に示すように、本実施形態では、カッター刃として薄板状カッター刃50が選択されている。この薄板状カッター刃50は、ハウジング20内の収容空間60に収容された状態で組み込まれており、上述したコイルスプリング80によって往復移動自在に配置されている。そして、薄板状カッター刃50は、上述したスリット40を介して、凹溝3の溝底部31からその刃先が露出するように配置されている。凹溝3の溝底部31に露出した部分501の薄板状カッター刃50の刃高501Hは、カッター刃の露出部分501に作業者の手指が触れないよう、安全性を確保するために、凹溝3の溝深さ3Dよりも短くなるようにその位置が調整されている。また、第一の実施形態と同様に、凹溝3の溝底部31に露出した部分の薄板状カッター刃50の刃高501Hは、毛細管の肉厚PTの長さよりも短くなるように薄板状カッター刃50の位置が調整されていることが好ましい。これにより、毛細管Pに傷Nを入れる際に、カッター刃501が毛細管Pの管壁を貫通して毛細管Pに孔や割れを生じさせて、毛細管Pの内容物を漏出させることを防ぎ、毛細管の肉厚PTよりも短い深さで傷(ノッチ)Nを形成することができる。具体的には、凹溝3の溝底部31に露出した部分の薄板状カッター刃の刃高501Hを、毛細管の肉厚PTの1/3~半分程度の長さとすることが好ましい。本実施形態では、血液採取用の毛細管の肉厚PTは、通常、0.4±0.1mm程度であることから、凹溝3の溝底部31に露出した部分501の薄板状カッター刃50の刃高501Hが、0.15±0.05mm程度になるように配置されている。
【0046】
次に、本実施形態に係る毛細管カッター100の使用方法について説明する。遠心分離処理された毛細管Pを毛細管カッター100の凹溝3に嵌め込みする。嵌め込みした後、凹溝3を横切る向きに設けられたスリット40の位置と、毛細管に傷Nを入れる位置(毛細管を折断する位置)である血漿・血清成分Sと血球成分Rとの境界の位置とを合わせる。スリット40が凹溝3の両側から延出しているため、位置決めは非常に容易であり、この操作のみで毛細管Pに傷Nを入れるための位置決めは完了する。引き続いて、擦動具10を用い、毛細管Pを凹溝3内部で回転させるため、ハウジング20の上面に突出した毛細管Pの外周面を凹溝3と直交する方向、すなわち、スリット40の延出方向に擦動具10で擦る。擦動具10で擦る位置としては、スリット40に対向する位置とすることにより、毛細管Pの外周面をカッター刃の露出した部分501に確実に当接させることができる。これにより、毛細管Pは凹溝3の溝壁に沿って回転するところ、毛細管Pの外周面には、凹溝3の溝底部31から突出する薄板状カッター刃50による傷Nが形成されながら、毛細管Pが回転するため、毛細管Pの外周面の全周に亘り傷Nが形成される。なお、このとき、毛細管Pの回転によって、収容空間60内では薄板状カッター刃50がカッター刃軌道601に沿って移動する。これによって、移動方向の端部に配置されているコイルスプリング80が圧縮されて薄板状カッター刃50を付勢するため、毛細管Pを凹溝3から取外すと薄板状カッター刃50は元の位置に復帰する。このように、毛細管Pの回転に伴ってカッター刃50自体が移動するため、毛細管Pの薄板状カッター刃の露出部分501にかかる力のムラを分散することができ、略均一な力で毛細管Pの外周面に傷Nが形成される。
【0047】
毛細管カッター100を構成するハウジング20、凹溝3及び擦動具10並びに毛細管Pについてのその他の説明は、上述した第一の実施形態の場合と同様であり、その機能や作用効果も同様である。
【0048】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載された発明の要旨を逸脱しない範囲内での種々、設計変更した形態を技術的範囲に含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、血液等の液体試料を微量採取した毛細管を折断する際に用いられるものであり、所望の位置で確実かつ安全に毛細管を折断できる傷(ノッチ)を形成するために用いられるものである。
【符号の説明】
【0050】
1、100 毛細管カッター
2、20 ハウジング
2a、20a 一方半割体
2b、20b 他方半割体
21 雌ネジ溝
22 ネジ孔
23 雄ネジ
24 支持台部
3 凹溝
3D 凹溝の溝深さ
3W 凹溝の溝幅
31 溝底部
4、40 スリット
5 円盤状カッター刃
51 円盤状カッター刃の露出部分
51H 円盤状カッター刃の露出部分における刃高
50 薄板状カッター刃
501 薄板状カッター刃の露出部分
501H 薄板状カッター刃の露出部分における刃高
6、60 カッター刃収容空間
601 カッター刃軌道
7 シャフト(回転軸)
71 ベアリング(玉軸受)
80 コイルスプリング
801 コイルスプリング収容孔
802 雄ネジ
803 座金
9 滑り止めシート
10 擦動具
11 滑り止めシート
12 板状部材
P 毛細管
PD 毛細管の外径
PT 毛細管の肉厚
N 傷(ノッチ)
S 血漿又は血清成分
R 血球成分
図1
図2
図3
図4
図5
図6