(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】成形型の製造法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/38 20060101AFI20230331BHJP
B29C 64/10 20170101ALI20230331BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230331BHJP
【FI】
B29C33/38
B29C64/10
B33Y10/00
(21)【出願番号】P 2019111883
(22)【出願日】2019-06-17
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】512031183
【氏名又は名称】有限会社スワニー
(74)【代理人】
【識別番号】100169188
【氏名又は名称】寺岡 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 良博
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/002099(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/073822(WO,A1)
【文献】特表2016-509968(JP,A)
【文献】特表2013-507703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00 - 33/76
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3Dプリンタを用いて、物性または色の違う複数の樹脂材料を組み合わせて
、表面の粗
さを、部位毎に調節した成形型を作製する工程を有する、成形型の製造法。
【請求項2】
前記成形型は、各部位が立体的形状で仕切られた複数の区画が設定され、
前記区画毎に前記樹脂材料を配置する、請求項1記載の成形型の製造法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形型の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金型に代えて、樹脂型を成形型として活用することが提案されている。例えば、特許文献1では、3Dプリンタで作製した樹脂型を用い、その成形物の調査を行い、その調査結果を量産用の成形金型の製作の際に反映させる技術を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3Dプリンタで作製した成形型は、上述のような金型を製造する際の調査のためだけではなく、樹脂型のみで正規の成形物を成形するために使われてきている。そのような樹脂型は、高機能化が求められる。
【0005】
そこで本発明の目的は、高機能化を実現できる成形型の製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の成形型の製造法は、3Dプリンタを用いて、物性または色の違う複数の樹脂材料を組み合わせて、表面の粗さを、部位毎に調節した成形型を作製する工程を有する。
【0007】
ここで、成形型は、各部位が立体的形状で仕切られた複数の区画が設定され、区画毎に前記樹脂材料を配置することとしても良い。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、高機能化を実現できる成形型の製造法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施の形態に係る成形型の製造法のフロー図である。
【
図2】本発明の実施の形態で使用する成形型の斜視図である。
【
図3】本発明の実施の形態で使用する成形型の斜視図である。
【
図5】本発明の実施の形態に係る肝臓の臓器モデルの外観図である。
【
図6】本発明の実施の形態に係る血管の外観図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る血管の製造フロー図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係る成形型の転写凹部に成形物が入った状態を示す断面模式図である。
【
図9】ゲルを成形型に入れる前の、血管の成形型への配置状態を示す斜視図である。
【
図10】本実施形態の変形例を示す、血管の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。ここで、物性とは、機械的性質、熱的性質、電気的性質、磁気的性質または光学的性質から選ばれる1以上である。また、ゲルとは、たとえば、臓器または人間の皮膚程度に柔らかいものである。さらに、本明細書では、成形型等を用いて素材を一定の形に作ることを「成形」(molding)といい、後述する三次元プリンタ(3Dプリンタ)等で形のあるものをつくることを「造形」(shaping)という。さらに、本明細書において、「硬い」と表現される物は、ショア硬度95以上であり、ゲルのように「柔らかい」と表現されるものは、ショア硬度95未満である。また、本明細書では、「ゲル」等の成形材料を成形型で成形したものを「成形物」といい、生体組織を模したもの等の形のあるものを3Dプリンタでつくったものを「造形物」という。また、本明細書において「樹脂材料」とは、単一樹脂、異なる樹脂を混合したもの、樹脂に金属またはセラミック等を混ぜた材料を含むものとする。さらに、生体組織を模したものを成形型でつくったものを「第2成形物」という。
【0011】
(本発明の実施の形態に係る成形型の製造法・・・三次元CADデータの作成等)
以下、本発明の実施の形態に係る成形型の製造法について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る成形型の製造法のフロー図である。
図2,
図3は、本発明の実施の形態で使用する成形型の斜視図である。
図4は、
図2のA-A断面図である。
【0012】
まず、
図1に示す工程Sを行う。工程Sは、3Dプリンタを用いて物体の形状を転写した成形型を造形する工程である。3Dプリンタは、三次元印刷機器、三次元プリンタ、または三次元造形機等と言われるものである。また、3Dプリンタは、三次元CAD(computer-aided design)データに基づき、3Dの造形物を印刷し製造するものである。3Dプリンタには、物性と色の違う複数の樹脂材料を、所定の位置に配置させることのできる機能を有するものを用いる。3Dプリンタの印刷は、印刷する際に紫外線硬化樹脂等の光硬化性樹脂を一層ずつ形成し、その都度紫外線を照射して樹脂を硬化させる操作を繰り返すことで樹脂層を形成し、徐々に3次元形状を印刷、つまり造形していく。この光硬化性樹脂は、紫外線で硬化する樹脂以外に、ブラックライト、レーザー等の光で硬化する樹脂を含む。
【0013】
三次元CADデータは、例えば三次元スキャナで対象物をスキャニングすることで、対象物の三次元CADデータの一部または全部が得られる。三次元スキャナとは、非接触式のものは、主に光つまり電磁波を使うもので、レーザーなどを対象物に照射してその反射光を解析し、三次元CADデータを得るものである。また、臓器モデルの三次元CADデータを得る場合には、MRI(Magnetic Resonance Imaging)または、CT(Computed Tomography)スキャナ等を用いることができる。また、三次元CADデータは、三次元スキャナまたはMRIまたは、CTスキャナ等を用いなくとも、コンピュータで三次元CADのソフトウェアを操作して、モデリングにより、その一部または全部を得ることもできる。
【0014】
そして、物体の形状を転写した一組の成形型1a,1bの三次元CADデータを作成する。この物体は、人間の肝臓とする。人間の肝臓の三次元CADデータ(A)は、人間の肝臓をMRIまたは、CTスキャナ等でスキャニングして作成する(S1)。そして、一組の成形型1a,1bのそれぞれの、後述する転写部23a,23b以外の部分の三次元CADデータ(B1,B2)を一つずつ作成する(S2)。三次元CADデータ(B1,B2)は、コンピュータで三次元CADのソフトウェアを操作して作成する。
【0015】
そして、人間の肝臓の三次元CADデータ(A)を加工する(S3)。加工点は、2つある。1つ目の加工点は、人間の肝臓の三次元CADデータ(A)の凹凸を逆にする加工である。これは、一組の成形型1a,1bで人間の肝臓を成形するため、その三次元CADデータ(A)の凹凸は逆にする必要があるためである。2つ目の加工点は一組の成形型1a,1bに、人間の肝臓の形状を分配するため、人間の肝臓の三次元CADデータ(A)の凹凸を逆にしたものを、約半分に分け、A1,A2の2つの三次元CADデータとする加工である(S3)。これらの加工も、コンピュータで三次元CADのソフトウェアを操作して行う。
【0016】
そして、三次元CADデータ(A1)と、三次元CADデータ(B1)を組み合わせる、または加える(S4)。同様に三次元CADデータ(A2)と、三次元CADデータ(B2)を組み合わせる、または加える(S4)。すなわち、
A1+B1→C1
A2+B2→C2
といったデータの操作を行い、三次元CADデータ(C1)と、三次元CADデータ(C2)を得る。三次元CADデータ(C1)は、成形型1aの三次元CADデータであり、三次元CADデータ(C2)は、成形型1bの三次元CADデータである。これらの操作も、コンピュータで三次元CADのソフトウェアを操作して行う。
【0017】
ここで、成形型1a,1bは、各部位が立体的形状で仕切られた複数の区画を設定し、区画毎に樹脂が配置されるものである。各区画の輪郭は、目視できない。各区画は、様々な形状に形成されている。その区画には、樹脂の物性、たとえば、硬さ、表面の粗さ、含水量、耐熱性、熱伝導率等が特定のものとなるように、3Dプリンタの印刷状態を調節して、成形型1a,1bを造形する。このとき、三次元CADデータには、区画の形成データおよび、各区画の樹脂の物性と色等を配置するデータ等が追加される。
【0018】
そこで、ステップS1からステップS4で得られた三次元CADデータに、成形型1a,1bの、各部位が立体的形状で仕切られた複数の区画を設定する(S5)。次いで、三次元CADデータに、各々の区画に対してどのような物性と色の樹脂材料を供給するかを設定する(S6)。
【0019】
そして、一組の成形型1a,1bの三次元CADデータに基づいて、前述の3Dプリンタを用いて、一組の成形型1a,1bをそれぞれ造形する(S7)。このとき3Dプリンタは、複数種の樹脂材料を混ぜ合わせて、特定の物性を持った樹脂材料となるように噴射し、各区画を形成する。
【0020】
(本発明の実施の形態に係る成形型の製造法・・・成形型の構成)
この成形型1a,1bは、一組の成形型1a,1bの組み合わせからなる。片方の成形型1aには、人間の肝臓の約半分の形状が転写されている転写凹部23aがあり、もう片方の成形型1bには、上述した人間の肝臓の約半分の残りの約半分の形状が転写されている転写凹部23bがある。転写凹部23a,23bは、一組の成形型1a,1bが閉じた状態で、密着するように接触し合う基準面24a,24bよりも凹んでいる。
【0021】
図2,
図3および
図2のA-A断面図である、
図4を用いて、成形型1a,1bの樹脂材料と、その配置を説明する。基準面24a,24bおよび外壁54等、成形型1a,1bのうち、転写部23a,23bおよび後述する縁部233a,233b以外の部分の外壁54には、耐熱性が他の成形型1a,1bの部位よりも高い樹脂材料を用いる。これは、成形中に最も温度が上がるのは、基準面24a,24bおよび外壁54等だからである。
【0022】
そして、
図4に示すように、成形型1aのうち、断面内層53には、靭性(弾力性)が他の部位よりも高い樹脂材料を用いる。これは、成形型1a,1bの略全体の柔軟性を付与するためである。仮に外壁54と同等の樹脂材料で成形型1a,1bを形成すると、成形型1aにヒビが入るおそれがある。なお、成形型1aだけでなく、成形型1bの断面も、同様に
図4に示すような柔軟性を有する断面内層53を有している。
【0023】
転写部23a,23bのうち、血管52以外の肝臓の形状を転写する転写部230a,230bには、熱伝導率が他の部位よりも低い樹脂材料を用いる。この場合、熱伝導率が0.15(W/m・K)のものを用いているが、この値以外でも良い。これは、転写部230a,230bが、非常に複雑な形状であるため、そこに流入するゲルを流動性が良いものとし、極力ゆっくりと硬化させ、成形不良等を起こし難くするためである。このように、ゲルの硬化速度を遅くすると、硬化速度を速くするよりも、一般にゲルの含水量が増えて、ゲルが柔らかくなる。
【0024】
そして、転写部23a,23bのうち、肝臓の血管52を転写する転写部232a,232bには、熱伝導率が他の部位よりも高い樹脂材料を用いる。これは、血管52が動脈11と同様に、樹脂材料製で、3Dプリンタで造形したものであるため、成形型1a,1bによって成形されるものでなく、成形不良等を起こすことがなく、ゆっくりと温度を下げる必要が無いためである。むしろ、血管52は、成形型1a,1bによる加熱を極力避けて、変形等を抑制する必要があるためである。
【0025】
そして、転写部23a,23bの周囲全体を約5mm囲う領域である、縁部233aは、ゴムのような感触で、弾力のある樹脂材料を用いる。ここで用いる樹脂材料のショア硬度は、60°である。縁部233a,233bは、ゲルを成形型1a,1bが閉じた状態で型内に入れる際に、ゲルが成形型1a,1bの間を流れ出さないために、密閉を保つためのものである。そのため、
図2,
図3では明確に示していないが、
図4に示すように、縁部233a,233bは、基準面24a,24bよりも若干突出している。この突出している部分により、基準面24a,24bを合わせて、成形型1a,1bを閉じた状態としたときに、前述の密閉を保っている。
図2,
図3の破線は、縁部233a,233bの基準面24a,24bとの境界を示している。
【0026】
片方の成形型1aには、肝臓の形状が転写されていない領域に凹部25a,25b,25cがあり、もう片方の成形型1bには、肝臓の形状が転写されていない領域に凹部25a,25b,25cと嵌め合わせることのできる凸部26a,26b,26cがある。この凹部25aと凸部26a、凹部25bと凸部26b、凹部25cと凸部26cとを嵌め合わることで、転写凹部23aと転写凹部23bとの位置が合う。このように位置を合わせて、一組の成形型1a,1bが閉じた状態、且つ基準面24a,24bが互いに密着するように接触し合うようになれば、両転写凹部23a,23bにより形成された空間が正確に人間の肝臓の形状となるようにできる。
【0027】
なお、一組の成形型1a,1bが開いた状態では、外部から転写凹部23a,23bに成形材料を供給する溝27a,27bが、一組の成形型1a,1bのそれぞれに設けられる。そして、一組の成形型1a,1bが閉じた状態では、2つの溝27a,27bが経路となり、外部から両転写凹部23a,23bに成形材料を供給する成形材料供給経路28となる。
【0028】
転写凹部23a,23bには血管52を配置する転写部232a,232bが含まれており、そのスペースに血管52を配置する。すると、一組の成形型1a,1bが閉じた状態では、血管52が動かなくなり、転写凹部23a,23bによって形成された空間に配置される。その後、転写凹部23a,23bの残りの隙間に、寒天と水からなる成形材料を成形材料供給経路28から充填し、成形物を成形する。以上によって、成形物に血管52が埋設された臓器モデルを製造できる。
【0029】
(本発明の実施の形態に係る成形型で成形される成形物の構成および製造法)
図5にこの成形型1a,1bを用いて成形する成形物30を示す。成形物30は、ゲル31と血管52とを有する人間の肝臓の臓器モデルである。血管52は、太い幹である動脈52aと、動脈52aから派生する細い血管52bを有している。臓器モデルは、血管52の一部がゲル31の中に埋設されるものである。この血管52は、樹脂製で、3Dプリンタで造形したものである。また血管52は、青色と赤色で着色している。血管52は、成形物30よりも硬い部分となる。ゲル31は、寒天と水を成形材料として製造する柔らかい物である。
【0030】
このように、血管52の生体組織と成形物30は、それぞれ視覚により判別できるように異なる色彩であることが好ましく、さらに人体または動物の生体組織を模した色彩であることがより好ましい。また、成形物30は、一の生体組織を模したもの(血管52)とは別の、生体組織を模したもの(肝臓)である。
【0031】
血管52は、成形の際に、成形型1a,1bの中で、その一部が成形物31に埋設されている。成形物30の製造法を説明する。ゲル31の成形材料は、熱可逆性のゲル化特性を有するものである。具体的な成形材料は、水に寒天を混ぜたものである。この混合比率は、水1000gに対して粉状の寒天が20gである。これを加熱溶解し寒天をゾル状態にした後、上述の一組の成形型1a,1bを閉じ、動脈52aを転写部232a,232b配置した状態で、成形材料供給経路28から成形材料を供給する。成形材料である、ゾル状の寒天の水溶液は、60℃程度では粘度が低く、転写部23a,23bの細かいところまで入り込むことができる。なお、ゾル状の寒天の水溶液は、一組の成形型1a,1bが閉じた状態、且つ基準面24a,24bが互いに密着するように接触し合う状態では、縁部233a,233bの存在により、一組の成形型1a,1bの隙間から滲み出ることは殆どなかった。
【0032】
十分に成形材料が転写凹部23a,23bの細かいところまで入り込んだ後、一組の成形型1a,1bの温度を20℃まで冷却する。これで成形が終了する。人間の肝臓の臓器モデルは、透光性を有するものである。一組の成形型1a,1bは、何度も成形材料の成形に用いることができる。以上で、本発明の実施の形態に係る人間の肝臓の臓器モデルが製造される。
【0033】
(本発明の実施の形態に係る血管52の製造法)
図6に血管52の外観を示す。血管52は、物性または色の違う複数の樹脂材料で製造される。たとえば、血管52の部位によって硬さ等を変更する。この血管52も、物性と色の違う複数の樹脂材料を、所定の位置に配置させることのできる機能を有する3Dプリンタを用いて製造される。製造方法は、成形型1aの製造法と同様である。
図7にその製造フロー図を示す。血管52bの三次元CADデータに、立体的形状で仕切られた複数の区画を設定する(S22)。次いで、三次元CADデータに、各々の区画に対してどのような物性と色をした樹脂材料を供給するかを設定する(S23)。そして、血管52の三次元CADデータに基づいて、血管52を造形する(S24)。
【0034】
図9は、ゲルを成形型1aに入れる前の、血管52の成形型1aへの配置状態を示す図である。動脈52aは、転写部232aにほぼ隙間なく嵌入されている。そのため、血管52は、動脈52aが転写部232aによって固定されていて、ガタツキ等は生じなかった。その上、動脈52aは、成形型1bの転写部232bにもほぼ隙間なく嵌入される。そのため、細い血管部分52bが転写部230a,230bに接触することなく転写部230a,230bの中で浮いている状態とすることができる。そのため、細い血管部分52bがゲル中に完全に埋まった成形物を得ることができる。なお、
図9では、縁部233a,233bの記載を省略している。
【0035】
(本実施の形態によって得られる主な効果)
本発明の実施の形態は、3Dプリンタで得られた成形型を用いることから、その成形物である人間の肝臓の臓器モデルの製造を容易にすることを可能としている。また、成形型1a,1bは、何度も成形材料の成形に用いることができることから、臓器モデルの製造の低コスト化を可能とすることができる。
【0036】
本発明の実施の形態では、3Dプリンタを用いて臓器モデルの一組の成形型1a,1bを製造している。3Dプリンタは、三次元CADデータを驚くほど忠実に印刷物、つまり造形物の形状に反映できる特徴を有する。3Dプリンタは、14μmの細かい凹凸も表現できると言われている。そのため、血管等の細かい凹凸を忠実に転写部23a,23bに転写した成形型を製造できる。この細かい凹凸を忠実に転写する効果は、従来の金型等を採用した場合には、到底得られず、3Dプリンタを用いて成形型1a,1bを製造した場合に初めて得られる効果である。しかも、3Dプリンタを用いた一組の成形型1a,1bの製造に要するコストおよび時間は、従来の金型の約1/6とすることができる。
【0037】
また、本実施の形態によって得られる臓器モデルは、触感が本物そっくりのものとすることが可能である。また、この臓器モデルは、メスまたはペアンで切った感触を本物そっくりのものとすることが可能である。そのため、この臓器モデルは、手術前の練習に用いたり、医者の研修の際に用いるのに適している。また、臓器モデルは、手術の縫合練習の際に、その臓器モデルに対して縫合練習できるため、有用である。また、臓器モデルは、腫瘍等までに辿り着くまでのルートをシュミュレーションする際にも、その臓器モデルを使ってシュミュレーションができるため、有用である。また、臓器モデルは、手術の際等の、注射の練習の際に、その臓器モデルに対して注射できるため、有用である。また、臓器モデル等は、医療機器の評価および安全性等の試験、または検証の際に臓器モデルを用いてできるため、有用である。また、臓器モデルは、医療用ロボットの操作の習得の研修等の際に、その臓器モデルに対して医療用ロボットを動かすことができ、有用である。また、臓器モデルは、PTC(経皮経肝胆管造影法)またはPTCD(経皮経肝胆管ドレナージ)の練習の際に、臓器モデルに対して検査等を行うことができるため、有用である。また、臓器モデルは、超音波医療装置を用いたシュミュレーションにも使える。また、臓器モデルと同様のゲル(成形物)で食道から胃に至るチューブ状の物、または肛門から腸に至るチューブ状の物を作れば、内視鏡検査の練習ができる。臓器等を切る回数が多い程名医になるといわれるため、この臓器モデルを用いて経験を積むことができる場合には、この臓器モデルは医学に多大な貢献をするものと考えられる。また、この臓器モデルは、食品の一種である寒天を主成分としているため、廃棄物になっても環境調和性が高い。また、生きている動物をわざわざ殺し、臓器を取り出して、人間の臓器モデル(代替物)を得るようなことが、従来は行われてきたことがあるが、本実施の形態では、そのような余計な殺生をする必要がない。また、成形材料の寒天等に対する水の量の増減により、成形物の柔らかさを調節できるし、繊維質のもの等を混ぜることにより、成形物の質感を変えることができるため、様々な柔らかさおよび質感の成形型を得る事ができる。
【0038】
転写部23a,23bは、例えば、
図8に示すような成形型1aの転写部23aの断面模式図において、入り口9が奥側10よりも狭い形状の箇所があったとしても、臓器モデルつまり成形物30は離型できる。その理由は、成形材料が寒天であり、液状とも言える成形物30が非常に低い粘性であるため、入り口9が奥側10よりも狭い形状であっても、形状を変えて入り口9の狭い形状を掻い潜ることができるためである。
【0039】
また、本実施の形態によって、血管52の部分の触感を異なるものとした人間の肝臓の臓器モデルを得ることができた。臓器モデルは、血管52の部分を固くし、成形物30を寒天と水で柔らかくしているため、血管52の部分が際立った臓器モデルである。
【0040】
また、人間の肝臓の臓器モデルは、血管52の位置を意識しながら手術の練習ができる。従って、より実践に近い手術練習用の臓器モデルを提供できる。また、血管52は、1度臓器モデルに使い、ゲル31の部分をメス等で切った後、何度も再利用ができるため、臓器モデルのより大きなコスト削減となる。
【0041】
本発明の実施の形態によって、物性の違う複数の樹脂材料を組み合わせることで、成形型1a,1bの各区画の硬さ、表面の粗さ、耐熱性、弾力性および熱伝導率等を変えることができる。たとえば、成形型1a,1bの各区画の熱伝導率を変えることができると、ゲルの硬化速度を部分的に調整することができる。また、成形型1a,1bの各区画の硬さを変えることができると、成形型1a,1bの頑丈さまたは強度を部分的に調整することができる。また、成形型1a,1bの表面の粗さを変えることができると、成形型1a,1bの意匠性等を部分的に調整することができる。また、成形型1a,1bの各区画の耐熱性を変えることができると、成形型1a,1bの耐熱性を部分的に調整することができる。また、成形型1a,1bの各区画の弾力性を変えることができると、縁部233a,233bによる成形型1a,1bの密閉、または、断面内層53による成形型1a,1bの略全体の柔軟性の付与が実現できる。これらのことより、高機能化を実現できる成形型1a,1bを提供できる。
【0042】
3Dプリンタ(物性と色の違う複数の樹脂材料を、所定の位置に配置させることのできる機能を有するもの)は、樹脂材料を蓄積および供給するインクカートリッジを6本まで搭載でき、各々のカートリッジから樹脂材料を同時に噴射可能である。そのため、成形型1a,1bの製造に必要な樹脂材料を、一度の印刷作業で、繋ぎ部材を必要としない一体造形物(一つのかたまり)として配置し、成形型1a,1bを製造できる。
【0043】
本発明の実施の形態のように、成形型1a,1bの各区画の硬さ等を変えることによって、人間の肝臓等の臓器モデルの、成形物の部分をよりリアルに作ることができる。人間の肝臓は、人工物ではないため、厳密に言えば各所の硬さ等が違うはずなのに、ゲルで成形物を作った場合には、どうしても人間の肝臓の各所が同じ硬さ等となってしまう。そのような人間の肝臓の微妙な質感を、臓器モデルで実現可能とするのが、本発明の実施の形態である。
【0044】
縁部233a,233bの樹脂材料は、成形型1a,1bではなく、金型をベースに作った場合には、ゴム等を金型の所定箇所に貼り付けて形成するのが通常である。この金型に貼り付けたゴム等は、非常に剥がれやすいのが通常である。しかし、成形型1a,1bは、一体造形物であるため、縁部233a,233bが極めて剥がれにくい。
【0045】
本発明の実施の形態の人間の肝臓等の臓器モデルは、PTC(経皮経肝胆管造影法)またはPTCD(経皮経肝胆管ドレナージ)の練習の際に、臓器モデルに対して検査等を行うことができるため、有用である。また、この臓器モデルは、超音波医療装置を用いたシュミュレーションにも使える。たとえば、静脈と門脈の硬さと表面の摩擦係数を変えて、研修医が扱う医療器具が当たった時の感触で部位を判断できるため、研修医が手術等の練習をするときに、非常に有益である。また、最近の手術で多く用いられる内視鏡手術の場合には、胸に開けた小さな穴からカメラを挿入して画面を見ながら手術をする。このとき、本発明の実施の形態の血管52の製造過程と同様の過程で、画面からの情報以外に実際の臓器の硬さまたは摩擦係数に近づけた内容物を作ることができる。
【0046】
(他の形態)
上述した本発明の実施の形態に係る成形型の製造法は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変形実施が可能である。
【0047】
本発明の実施の形態では、成形物30を人間の肝臓の臓器モデルとしている。しかし、人間の腎臓または心臓の臓器モデル等、他の臓器モデルにしても良い。また、動物の臓器モデルとしても良い。さらに、人間等の皮膚、眼球、または脳等のいわゆる医療モデルを成形物30にしても良い。この医療モデルの「医療」には、外科医療等に加え、歯科、形成外科、美容外科等を含む。さらには、人形等の医療とは全く無関係の分野における、成形物30にしても良い。たとえば、釣りの疑似餌に用いられるミミズ(ワーム)等を成形物30としても良い。ワームを寒天等で作れば、それを廃棄しても自然環境に悪影響を与えることは少ない。
【0048】
また、成形材料は、水に寒天を混ぜたものを用い、この混合比率を、水1000gに対して粉状の寒天が20gとした。しかし混合し溶解された溶液濃度は、適宜変えることができる。たとえば、成形物を柔らかくしたいときには、水分量を増やし、成形物を硬くしたいときには、水分量を減らす等する。また、寒天以外の、ゲルを用いることができる。さらに、ゲルに限らない成形材料、たとえば、樹脂材料を成形材料とすることができる。
【0049】
また、臓器モデルは、透光性を有するものである。しかし、臓器モデルの色は任意の色とすることができる。たとえばその臓器そっくりの色とすることができる。また、硬い部分である血管52は、成形物30とは異なる色となる部分を有することとしても良い。また、たとえば、食品の着色料を成形材料に混ぜることで、臓器モデルに着色ができる。また、成形後に臓器モデルの表面に着色することもできる。
【0050】
本発明の実施の形態では、人間の肝臓の三次元CADデータは、人間の肝臓を三次元スキャナでスキャニングして得ている。しかし、成形物30の三次元CADデータは、必ずしも三次元スキャナで得る必要はなく、たとえば、三次元CADを操作して得ても良い。
【0051】
本発明の実施の形態では、人間の肝臓の臓器モデルのうちで、際立たせる部分を血管52とした。しかし、臓器モデルのうちで、際立たせる部分は血管52に限らず、たとえば
図5に示すように、腫瘍11cの部分とすることができる。腫瘍11cの部分は、人間の肝臓の中でも硬いため、腫瘍11cの部分を固くし、他の部分を柔らかくした人間の肝臓の臓器モデルは、よりリアルな臓器モデルとなる。また、そのような臓器モデルは、腫瘍摘出手術の練習に使うことができる。また、成形物30には、臓器等を含む生体組織を模したものを、その一部または全部埋設させても良い。この生体組織には、腫瘍、結石、歯、歯石から選ばれるいずれか1以上を含むものとする。ここで、生体組織は、3Dプリンタを用いて造形してもよいし、成形型を用いて成形したものでもよい。
【0052】
前記生体組織としては、人体または動物の体の一部または全部を模したものであり、例えば人の場合、大脳、小脳、脳幹、心臓、肺、気管支、咽頭、舌、耳、眼、胃、小腸、大腸、胆のう、肝臓、腎臓、膵臓、食道、十二指腸、副腎、精巣、膀胱、子宮、乳房、筋肉、動脈、静脈、リンパ、脊髄、骨、爪、皮膚から選ばれるいずれか1以上を模しても良い。さらに正常細胞のみならず腫瘍などの異常細胞を成形、造形しても良い。
【0053】
また、「生体組織を模したもの」には、現実の生体組織の形状または質感とは、あえて異ならせたものを含む。たとえば、血管52と、本発明の実施の形態では説明しなかった肝臓中の静脈があるとすると、その動脈52aと静脈の硬さは、医師が注射針等の医療処置器具を当てたときに、動脈52aに当てたのか静脈に当てたとかが、感触としてわかるように異なるものであっても良い。この、医療処置器具が当たったときの感触が異なる「生体組織を模したもの」は、研修医が手術等の練習をするときに、非常に有益である。このような、硬さ等の異なる「生体組織を模したもの」の造形には、本実施形態で用いた3Dプリンタが適している。
【0054】
前記生体組織以外の成形物30とは異なる生体組織を模したもの、または手術材料としては、インプラントのような手術材料(たとえばチタンプレートまたはチタンネジのような、金属プレートまたは金属ネジ、人工弁、人工骨、カルシウムまたはカルシウム化合物、点滴針、樹脂製のチューブ、等の意図的に体内に残す人工物)がある。また、手術材料としては、摘出手術の摘出の対象となる、意図しないで体内に残ることがある人工物(ガーゼ、銃弾、注射針等)もある。
【0055】
本発明の形態に係る血管52は、樹脂材料製で、3Dプリンタで造形したものとした。しかし、血管52は、樹脂材料製以外のたとえば、ガラス製等としても良いし、3Dプリンタ以外の手法、たとえば、射出成形、圧縮成形、または押し出し成形して得ても良い。また、血管52は、造形物または第2成形物の部分を有し、造形物または第2成形物の部分の一部または全部を成形の際に、成形型の中に配置して、成形物30と共に成形し、成形物30に埋設しても良い。ここで、「造形物または第2成形物」は、成形物30と柔らかさが同等、または成形物30よりも柔らかいものであっても良い。「造形物または第2成形物」のうち造形物は、たとえば3次元プリンタ等で造形したものであり、第2成形物は、たとえば成形型によって成形されたものである。また、血管52等の生体組織は、中空のゴム製の、マシュマロまたは耳たぶ程度に柔らかいものを3Dプリンタで造形できるため、本物の血管そっくりの触感のものを作ることができる。また、そのような中空のゴム製の足などを模した造形物の、中空の中に成形物30のような柔らかいゲルを入れることで、足に膿(ゲルで作った)を持っている状態に近いものをつくることができ、その治療の練習等をすることができる。また、血管52等の造形物等を不要とした成形物30とすることもできる。
【0056】
成形型1a,1bは、一部または全部が透明樹脂材料で構成されることとしても良い。透明樹脂材料を用いることで、臓器モデル、が成形される様子の可視化が可能となる。また、成形型1a,1bは、その製造過程で、たとえば紫外線硬化樹脂材料の流動速度、熱伝導率による材料の硬化速度を変えることが出来るため、成形型1a,1bの硬さを変えることができる。さらに、成形物30の材料、すなわちゲル材料との密着性を調整することもできる。
【0057】
血管52等の硬い部分は、3Dプリンタ以外で造形または成形しても良いが、3Dプリンタを使う利点が大きい。たとえば、3Dプリンタの造形材料となる紫外線硬化樹脂材料とインクジェット方式の3Dプリンタの組み合わせにより、物性の違う材料を1回で造形できることができる。たとえば、一つの造形物であっても、部位によって色、硬さまたは、表面の摩擦係数を変えることができる。なお、色については、50万色以上の設定ができる。さらに、血管52等の硬い部分の中空形状化が実現できる。
【0058】
成形型1a,1bは、紫外線硬化樹脂材料等の光硬化性樹脂材料を一層ずつ形成し、その都度紫外線を照射して樹脂材料を硬化させる操作を繰り返すことで樹脂材料層を形成し、徐々に3次元形状を印刷、つまり造形していく。しかし、成形型1a,1bは、このような樹脂材料製のものに限らず、たとえば金属粉を含む樹脂材料を造形材料に用いて3Dプリンタで造形し、一旦樹脂材料製の成形型を作り、その後樹脂材料分の焼成および金属粉の焼結を経て、金属製の成形型を作り、用いることができる。
【0059】
本発明の実施形態では、3Dプリンタを用いて造形した成形型1a,1bの、物性の違う複数の樹脂材料を組み合わせて、熱伝導率、表面の粗さ、硬度、または弾力性から選ばれる1以上を、部位毎に調節した。しかし、その他に、色,表面の粗さ,吸水性,表面温度,耐衝撃性,粘度,密着性から選ばれる1以上を調節しても良い。
【0060】
また、本発明の実施形態では、ゲルの流動性、硬化速度、または表面の粗さから選ばれる1以上を、部位によって調整した。しかし、その他に、含水量等を調整しても良い。
【0061】
本実施形態では、成形型1a,1bの樹脂材料の配置に際し、各部位が立体的形状で仕切られた複数の区画を設定している(S5)、また、血管52の立体的形状で仕切られた複数の区画を設定している(S22)。しかし、造形物への、複数種の樹脂材料の配置に際し、立体的形状で仕切られた複数の区画を設定する以外の方法があれば、その方法を採用しても良い。
【0062】
本実施形態では、たとえば臓器モデルのうち、メス等で切ってはいけない箇所と、切っても良い箇所の硬さを変えることができる。これは、本実施形態で使用する3Dプリンタは、硬さを含む物性の違う複数の樹脂材料を、所定の位置に配置させることのできる機能を有するものだからである。たとえば、手術の最中、静脈は、絶対に切ってはいけない場合に、その静脈だけの硬さを他の部位より固くした臓器モデルを作製する。すると、執刀の最中に、メス等が静脈に当たると、「硬い」という感触がメス等を通じて執刀者に伝わるため、手術の練習に適した臓器モデルとなる。
【0063】
図10は、本実施形態の変形例であり、肝臓の臓器モデルの血管52を示したものであり、そのうち、細い血管部分52b等をメス等で切ってしまった場合に、血液色の断面55が露出するようにしたものである。従来の臓器モデルには、このような仕掛けを作ることは困難だったが、本実施形態に係る3Dプリンタには、色の違う複数の樹脂材料を、所定の位置に配置させることのできる機能を有するため、このような仕掛けを容易に作ることができる。このような仕掛けによって、メス等で誤って細い血管部分52bを切ってしまったときに、そのことを執刀者に気づかせることができる。なお、このような、血液色の断面55が露出する仕掛けは、血管52の太い幹52a部分に施しても良い。
【符号の説明】
【0064】
1a,1b 成形型