(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】ポリフェノール含有ゼラチンを含有する組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 29/281 20160101AFI20230331BHJP
A23L 33/105 20160101ALI20230331BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20230331BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
A23L29/281
A23L33/105
A23L27/00 Z
A23F3/16
(21)【出願番号】P 2021069608
(22)【出願日】2021-04-16
【審査請求日】2021-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2020076494
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】518403377
【氏名又は名称】河野 源
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【氏名又は名称】小池 成
(74)【代理人】
【識別番号】100132403
【氏名又は名称】永岡 儀雄
(74)【代理人】
【識別番号】100217102
【氏名又は名称】冨永 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 源
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-125867(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103110159(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1087491(CN,A)
【文献】特許第6762622(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23
A21
A61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリフェノールを原料として低苦味・渋味のポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物を製造する方法であって、
ポリフェノール含有原料から抽出によりポリフェノール含有水溶液を調製する、或いは固形状ポリフェノールを水に溶解してポリフェノール含有水溶液を調製する第1工程と、
前記第1工程で得られたポリフェノール含有水溶液に対し、
40~100℃で加熱及び混合下で固形状ゼラチンを添加して、前記固形状ゼラチンに水溶性ポリフェノールを吸着させる第2工程と、
前記第2工程で水溶性ポリフェノールを吸着したゼラチン画分を分離する第3工程と、
前記第3工程で得られた水分を含有する沈殿画分を分散剤に懸濁させて微粒子化し、ポリフェノール含有ゼラチンの懸濁溶液を取得する第4b工程と、
を有する、ポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物の製造方法。
【請求項2】
前記固形状ゼラチンが、ゼラチン粉末である、請求項1に記載のポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物の製造方法。
【請求項3】
前記固形状ゼラチンの使用量が、前記ポリフェノール含有溶液に含まれる水溶性ポリフェノール1質量部に対して、0.3質量部以上である、請求項1または2に記載のポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、苦味・渋味が低減されたポリフェノール含有ゼラチンの工業的な製造方法及び当該製造方法により得られたポリフェノール含有ゼラチン等、並びにそれらを含有する組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまでポリフェノールは抗酸化作用、血圧上昇抑制作用、抗がん作用等、多くの生理活性作用を有することが報告されている。また、ポリフェノールが肥満や糖尿病の原因とされる糖分や脂質の代謝を促進する血糖抑制作用や血中コレステロール濃度抑制作用等の効果を有することが認められ、各種ポリフェノールを含有する商品や飲料が市販されている。最近では、ポリフェノールが腸内細菌叢の恒常性維持や改善に影響していることが報告され注目されている。
【0003】
ポリフェノールは、その分子内に複数のフェノール性ヒドロキシル基を有する植物成分の総称であり、フラボノイド、フェノール酸、エラグ酸、リグナン、クルクミン、クマリン等が代表的なポリフェノールとして知られている(非特許文献1:ウィキペディア)。前記したフラボノイドにはカテキン(ワイン、茶、リンゴ、ブルーベリー等に多く含まれる)、アントシアニジン(ブドウの実皮、ムラサキイモ、ブルーベリー等に多く含まれる)、ルチン(ソバに含まれる)、或いはイソフラボン(大豆、葛等に含まれる)等があり、非フラボノイドにはタンニン(茶、赤ワイン、柿、バナナ等に含まれる渋味成分)、フェノール酸(コーヒーに含まれるクロロゲン酸)、エラグ酸(イチゴに含まれる)、リグナンの一種であるセサミン(ゴマに含まれる)、クルクミン(ウコンに含まれる)、クマリン(サクラの葉、パセリ、桃、柑橘類に多く含まれる)等がある事が報告されている(非特許文献1)。
【0004】
現在、食品や飲料等に使用されているポリフェノールとしては、例えば茶カテキン類、オリーブ果実ポリフェノール、赤ワインポリフェノール、ブドウ種子ポリフェノール、リンゴポリフェノール、大豆ポリフェノール、カシスポリフェノール、赤紫蘇ポリフェノール、カカオポリフェノール、生コーヒーエキス、クルミポリフェノール、栗渋皮ポリフェノール、落花生渋皮ポリフェノール、松樹皮ポリフェノール、海藻ポリフェノール、イチョウ葉ポリフェノール、チャ(ツバキ科)ポリフェノール等が挙げられる。
【0005】
しかし、ポリフェノールの生理活性作用が期待できる程度に濃度を高めた食品や飲料は、苦味・渋味が強く感じられ、嗜好に合わないため、改善が望まれている。
【0006】
これらの苦味・渋味を低減する方法として、例えば茶系飲料にシクロデキストリンを添加する方法が報告されている(例えば特許文献1~8)。ところが、シクロデキストリンを添加する方法は製造工程における添加時期等により、その苦味・渋味の低減効果に差が認められ、均一で安定した苦味・渋味の低減効果が得られないという課題がある。また、β-シクロデキストリンにはADI値(一日許容摂取量)が5mg/kg体重/日と定められているため、使用量が制限されるという課題がある。
【0007】
ポリフェノールが、タンパク質と結合して水不溶性の複合体を生成することは、古くからワイン・ビール醸造においてヘイズ(haze)として知られていた現象である。ヘイズは、タンパク質のプロリンに富んだ領域とポリフェノールの疎水領域が結合して形成される水不溶性の複合体であることが報告されている(非特許文献2)。
【0008】
ポリフェノールのタンニンとタンパク質との沈殿形成に疎水性力及び水素結合が関与し、プロリン含量が多いタンパク質がポリフェノールと結合し易いことが報告されている(非特許文献3)。
【0009】
栗渋皮ポリフェノールの渋味に対する各種食品素材のマスキング作用について、ポリフェノールとの沈殿形成能で評価を行い、ゼラチン類、乳由来タンパク類、メチルセルロースなどが高い効果を示すことが報告されている(非特許文献4)。
【0010】
ポリフェノールとタンパク質の水不溶性複合体を製造する方法が報告され、例えば、タンパク質溶液にポリフェノール溶液を撹拌混合しながら添加して複合体を生成させる方法(特許文献8)、大豆タンパク抽出物と茶抽出物をビーカー内にて混合した後にpH4.5に調整して複合体を沈殿させる方法(特許文献9)、或いは緑茶ポリフェノールと脱脂粉乳を透析膜により透析した乳タンパク質を生理食塩水に懸濁させて複合体を得る方法(特許文献10)が実施例として報告されている。しかし、ポリフェノールとタンパク質の複合体の製造方法についてスケールアップに適した具体的な実施例が記載されていないため、複合体の工業的な製造方法としては解決すべき課題が残されている。
【0011】
また、ポリフェノールとタンパク質の複合体の工業的な製造方法として、予めポリフェノール含有粉末及びタンパク質粉末の表面に脂質被膜を形成させた後、水性溶液中で剪断力を付与し混合することで苦味・渋味の低減された複合体を製造する方法が報告されている(特許文献11)。しかしながら、この方法は、ポリフェノール含有粉末及びタンパク質粉末の脂質被膜形成のため、特別な粉体の脂質被膜製造装置が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特許第3259758号公報
【文献】特許第3342698号公報
【文献】特許第3766660号公報
【文献】特開平3-168046号公報
【文献】特開2005-245351号公報
【文献】特開2008-118873号公報
【文献】特開2010-45994号公報
【文献】特開平2-202900号公報
【文献】特開2002-68991号公報
【文献】特開2007-8920号公報
【文献】特許第5461349号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】「ウィキペディア」(フリー百科事典)/ポリフェノール(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%8E%E3%83%BC%E3%83%AB)
【文献】Harry Craig et al.”Prevention of Protein-Polyphenol Haze in Beer using a Proline-Specific Proteinase”http://www.ib dasiapac.com.au/asia‐pacific‐activities/ convention‐proceedings/2006/Papers & Pre sentations/Craig & Paper.pdf
【文献】Anders Bennick;Interaction of Plant Polyphenol with Salivary proteins,Crit. Rev.Oral Biol.Med.,13(2),184-196(2002)
【文献】樋口誠一等、県産食品素材を用いた機能性食品の開発、埼玉県産業技術総合センター研究報告、7(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、ポリフェノールを特異的に吸着し、且つ許容摂取量の制限のない物質を使用して苦味・渋味が低減されたポリフェノール含有素材の製造方法、当該製造方法により得られたポリフェノール含有ゼラチンを含有する組成物、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
そこで、本発明者は、ポリフェノール含有水溶液に対し、加熱及び混合下で固形状ゼラチンを添加して当該固形状ゼラチンに水溶性ポリフェノールを吸着させることによって、苦味・渋味の低減された固形のポリフェノール含有ゼラチンを、簡便に且つ低コストで製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[6]を提供するものである。
【0024】
[1]水溶性ポリフェノールを原料として低苦味・渋味のポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物を製造する方法であって、
ポリフェノール含有原料から抽出によりポリフェノール含有水溶液を調製する、或いは固形状ポリフェノールを水に溶解してポリフェノール含有水溶液を調製する第1工程と、
前記第1工程で得られたポリフェノール含有水溶液に対し、40~100℃で加熱及び混合下で固形状ゼラチンを添加して、前記固形状ゼラチンに水溶性ポリフェノールを吸着させる第2工程と、
前記第2工程で水溶性ポリフェノールを吸着したゼラチン画分を分離する第3工程と、
前記第3工程で得られた水分を含有する沈殿画分を分散剤に懸濁させて微粒子化し、ポリフェノール含有ゼラチンの懸濁溶液を取得する第4b工程と、
を有する、ポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物の製造方法。
[2]前記固形状ゼラチンが、ゼラチン粉末である、[1]に記載のポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物の製造方法。
[3]前記固形状ゼラチンの使用量が、前記ポリフェノール含有溶液に含まれる水溶性ポリフェノール1質量部に対して、0.3質量部以上である、[1]または[2]に記載のポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、許容摂取量の制限のないポリフェノールを含有し、苦味・渋味の低減されたポリフェノール含有ゼラチン及びこれを含有する組成物を、簡便に且つ低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係るポリフェノール含有ゼラチンの製造方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0028】
<苦味・渋味が低減されたポリフェノール含有ゼラチンの製造方法>
本発明のポリフェノール含有ゼラチンの製造方法は、水溶性ポリフェノールを原料とし、かつ固形状ゼラチンを吸着材として苦味・渋味の提言されたポリフェノール含有ゼラチンを製造する方法であって、水溶性ポリフェノールを含むポリフェノール含有水溶液に加熱及び混合下で固形状ゼラチンを添加して、当該固形状ゼラチンに上記ポリフェノール含有水溶液中の水溶性ポリフェノールを吸着させる工程(以下、第2工程とも称する)を含むものである。
【0029】
また、上記ポリフェノール含有水溶液は、固形状ポリフェノールを水に溶解して調製するか、或いはポリフェノールを含有する植物原料から水系溶媒で抽出した溶液を使用することができる。
【0030】
次に、本発明における第1工程~第4工程について詳細に説明する。まず、
図1に基づいて、簡単に本発明の各工程を説明する。
【0031】
「開始」すると、まず「ポリフェノール含有原料」を準備し、抽出により「ポリフェノール含有水溶液」を調製する、或いは固形状ポリフェノールを水に溶解して「ポリフェノール含有水溶液」を調製する(第1工程)。次いで、第1工程で得られたポリフェノール含有水溶液に加熱及び混合下で固形状ゼラチンを添加して、前記固形状ゼラチンに水溶性ポリフェノールを吸着させる(第2工程)。さらに、第2工程で水溶性ポリフェノールを吸着したゼラチン画分を分離し(第3工程)、第3工程で得られた沈殿画分を乾燥させ、微粉砕してポリフェノール含有ゼラチン粉末を回収して(第4工程)、「終了」する。
【0032】
(第1工程)
本発明で使用するポリフェノール含有水溶液は、固形状ポリフェノールを水に溶解して調製する。或いは、水溶性ポリフェノールを含有する植物原料などのポリフェノール含有原料から水系溶媒で抽出して調製することができる。
【0033】
本発明で原料として使用する固形状ポリフェノールとしては、食品原料として販売されているポリフェノールのうち、例えば、カテキン、プロアントシアニジン、イソフラボン等が、また、水溶性ポリフェノールを含有する植物原料としては、渋柿、ブドウ、茶、落花生、コーヒー等が挙げられるが、品種は限定されるものではない。
【0034】
(第2工程)
本工程は、ポリフェノール含有水溶液に加熱及び混合下で固形状ゼラチンを添加して、当該固形状ゼラチンに水溶性ポリフェノールを吸着させる工程である。本工程の操作により、苦味・渋味成分であるポリフェノールが特異的に固形状ゼラチンに吸着される。このようにして、水溶性ポリフェノールを吸着したゼラチン画分を得ることができる。そして、この処理によって生成する水溶性ポリフェノールを吸着したゼラチン画分は、分離特性や沈降性が良好な固形物として生成するため、分離も容易である。また、加熱により、ポリフェノール原料やゼラチンに存在する加熱に弱い微生物も殺菌されるため、ポリフェノール含有ゼラチンの品質向上が期待できる。
【0035】
ここで、固形状ゼラチンに水溶性ポリフェノールが吸着されるメカニズムは必ずしも明らかではないが、加熱された柿果汁等の水溶性ポリフェノールに固形状ゼラチンが添加されたときに、固形状ゼラチン表面のゼラチン分子のヘリックス構造が、温度依存的にランダムコイル状の分子構造となり、これに水溶性ポリフェノール分子が速やかに吸着されるものと、本発明者は推察する。また、水溶性ポリフェノールを吸着した固形状ゼラチンは、ゲル化せずに沈殿として生成するが、これに関しては、水溶性ポリフェノールが速やかに固形状ゼラチンに吸着され、通常のゼラチンゾルを形成できず、水分子の結合による膨潤も抑制され、冷却しても元のらせん構造をとれなくなるためであると、本発明者は推察する。
【0036】
本工程で用いるポリフェノール含有水溶液に含まれる水溶性ポリフェノールの含有量は、タンニン酸換算で、好ましくは0.1%(w/v)超、より好ましくは1%(w/v)超であり、また、好ましくは10%(w/v)以下、より好ましくは7.5%(w/v)以下、特に好ましくは5%(w/v)以下である。
【0037】
本明細書において、水溶性ポリフェノールの含有量は、フォーリン・チオカルト法でタンニン酸を標準品として測定した値をいい、具体的には、実施例の手法と同様にして測定すればよい。
【0038】
また、本工程においては、固形状ゼラチンが使用される。そのため、ゼラチン溶液を添加した場合のようなポリフェノール溶液の希釈化がなく、植物抽出液100%の原料などからも簡便に且つ効率よく製造できる。また、ゼラチン溶液を予め調製する工程を省略できるため、簡便であり工業的に有利である。また、固形状ゼラチンでなくゼラチン溶液を使用した場合には、分離特性や沈降性が不良な微細な沈殿が生成される。
【0039】
本工程で用いる固形状ゼラチンとしては、加熱したときに水溶性ポリフェノールを吸着するものであれば特に限定されないが、食品用途の市販品があり入手が容易な点で、酸処理ゼラチン、アルカリ処理ゼラチンが好ましい。このようなゼラチンとしては、豚(皮、骨)や牛(皮、骨)、魚(皮、鱗)等に由来するものが挙げられる。なお、これらのうち1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
また、固形状のゼラチンとしては、ゼラチン粉末、ゼラチン顆粒、板状ゼラチン等が挙げられる。なお、これらのうち1種を単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ポリフェノール含有ゼラチンの呈味や製造効率、ハンドリング性等の観点から、ゼラチン粉末が好ましい。なお、固形状ゼラチンは、公知の方法に従って調製しても市販品を用いてもよい。
【0041】
固形状ゼラチンの使用量は、ポリフェノール含有水溶液に含まれる水溶性ポリフェノールの量に応じて決定すればよい。固形状ゼラチンの使用量は、水溶性ポリフェノール1質量部(タンニン酸換算)に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.7質量部以上、特に好ましくは1質量部以上であり、また、製造コストや製造効率の観点から、ポリフェノール含有水溶液に含まれる水溶性ポリフェノール1質量部(タンニン酸換算)に対して、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。
【0042】
なお、得られるポリフェノール含有ゼラチン中のポリフェノール含有量が所望の含有量になるような固形状ゼラチン使用量を、ポリフェノール含有水溶液中の水溶性ポリフェノール濃度から予備試験の結果に基づいて決定することにより、得られるポリフェノール含有ゼラチンのポリフェノール含有量を微調整することもでき、僅かに渋味が感じられるような複雑な味わいのポリフェノール含有ゼラチンを得ることもできる。
【0043】
また、ポリフェノール含有水溶液に固形状ゼラチンを添加する時の温度は、水溶性ポリフェノールの固形状ゼラチンへの吸着率の観点から、40℃以上であり、より好ましくは50℃以上、特に好ましくは60℃以上であり、また、製造コストや製造効率の観点から、100℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下、特に好ましくは70℃以下である。
【0044】
ポリフェノール含有水溶液の加熱は、プレート式熱交換器、チューブラー式熱交換器等の熱交換器等を用いて行うことができる。また、加熱及び混合時は混合槽のジャケットを介して処理温度を一定に維持することが好ましい。加熱したポリフェノール含有水溶液に添加した固形状ゼラチンを混合する時間は、ポリフェノール含有水溶液の液量に応じて適宜調整すればよい。
【0045】
なお、「ポリフェノール含有水溶液に加熱及び混合下で固形状ゼラチンを添加する」具体的な操作としては、例えば、加熱及び混合しているポリフェノール含有水溶液に、固形状ゼラチンを(徐々に)添加する操作が挙げられる。このようにして予め加熱しておいてからポリフェノール含有水溶液と固形状ゼラチンを接触させることによって、凝集体の発生が抑えられ、水溶性ポリフェノールの吸着が進行しやすくなる。
【0046】
また、ポリフェノール含有水溶液の混合操作としては、通常の撹拌機を用いた撹拌による混合操作を挙げることができる。
【0047】
(第3工程)
本発明のポリフェノール含有ゼラチンの製造方法としては、第2工程で水溶性ポリフェノールを吸着したゼラチン画分を分離する第3工程を更に含む方法が好ましい。水溶性ポリフェノールを吸着したゼラチン画分は、分離特性や沈降性が良好な固形物であるため、遠心分離、ろ過、スクリュープレス等の固液分離操作で、簡便に分離することができる。
【0048】
上記固液分離操作のうち、遠心分離は、分離板型、円筒型、デカンター型等の通常の遠心分離機を用いて行うことができる。遠心分離の回転速度としては、3,000~100,000rpmが好ましく、5,000~20,000rpmがより好ましく、5,000~10,000rpmが特に好ましい。また、大量生産する場合は連続式遠心分離機を用いることが好ましいが、バッチ式遠心分離機を用いることもできる。
【0049】
なお、第3工程により分離された、水溶性ポリフェノールを吸着したゼラチン画分は、本来の食品原料として使用される以外に、溶媒抽出等によって水溶性ポリフェノールとゼラチンに分離することができる。このゼラチンは、水溶性ポリフェノールの吸着に再利用することができ、ゼラチンから分離された水溶性ポリフェノールは、殺菌剤や柿渋、石けん、消臭剤、化粧品、塗料などの原料としても使用できる。
【0050】
(第4a工程)
第3工程で分離されたポリフェノール含有ゼラチンは、水分を含有する湿潤な沈殿物ケーキ(沈殿画分)であるが、これを乾燥・粉砕して、ポリフェノール含有ゼラチン粉末が得られる。
【0051】
乾燥方法としては、凍結乾燥機、真空乾燥機、熱風乾燥機、赤外線乾燥機、マイクロ波加熱乾燥器等の通常の乾燥機を用いて行うことができる。乾燥温度としては、50℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下が特に好ましい。
【0052】
乾燥後、ビーズミル、ボールミル、ロッドミル、ジェットミル等の微粉砕機や回転式石臼等の摩砕機を用いて微粉砕を行い、ポリフェノール含有ゼラチン粉末を得ることができる。
【0053】
<ポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物>
本発明のポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物は、上述したポリフェノール含有ゼラチンの製造方法で製造されたポリフェノール含有ゼラチンと、分散剤と、を含むものである。この組成物は、ポリフェノールの苦味・渋味が低減されたものであり、ゼラチンからの抽出性も良好なものである。つまり、ポリフェノールの苦味・渋味を低減させるためにゼラチンを用い、このゼラチンにポリフェノールを吸着させているが、一方で、ポリフェノールを摂取した際には、摂取したポリフェノールがゼラチンから十分に放出される必要がある。このようにゼラチンからの放出が十分でない場合、例えば、ポリフェノール含有ゼラチン粉末を健康食品等に使用した時に粉末粒子からのポリフェノールの徐放性が低下することが考えられる。その結果、摂取量が多くなるなどの問題が生じるおそれがある。そこで、本発明のポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物のように、水分を含有する湿潤なポリフェノール含有ゼラチンの沈殿物を分散剤に懸濁して微粒子化することで、ゼラチンに吸着されたポリフェノールを放出し易くすることが可能となる。
【0054】
分散剤としては、例えば、沈殿防止機能、凝集抑制機能、乳化機能等を有する水溶性高分子などを挙げることができる。この水溶性高分子としては、上記機能を有するものである限り特に制限はないが、例えば、キサンタンガム、グアガムなどの増粘多糖類、アルギン酸ナトリウム、コーンスターチ、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム等の天然高分子、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カチオン化グアガム等の半合成高分子、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の合成高分子などを挙げることができる。なお、増粘多糖類の水溶液は、非ニュートン流動性と偽塑性流動性が高いという特徴がある。すなわち、増粘多糖類の水溶液は、静置粘度は高い(微粒子の沈降抑制効果が良好である)が、シェアを掛けた時の粘度が著しく低下する。
【0055】
<苦味・渋味が低減されたポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物の製造方法>
本発明のポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物の製造方法は、水溶性ポリフェノールを原料とし、かつ固形状ゼラチンを吸着材として苦味・渋味の提言されたポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物を製造する方法であって、ポリフェノール含有原料から抽出によりポリフェノール含有水溶液を調製する、或いは固形状ポリフェノールを水に溶解してポリフェノール含有水溶液を調製する第1工程と、この第1工程で得られたポリフェノール含有水溶液に対し、加熱及び混合下で固形状ゼラチンを添加して、固形状ゼラチンに水溶性ポリフェノールを吸着させる第2工程と、この第2工程で水溶性ポリフェノールを吸着したゼラチン画分を分離する第3工程と、この第3工程で得られた水分を含有する沈殿画分を分散剤に懸濁させて微粒子化し、ポリフェノール含有ゼラチンの懸濁溶液を取得する第4b工程と、を有する方法である。
【0056】
この方法により、ポリフェノールの苦味・渋味が低減された組成物が得られるとともに、ゼラチンからのポリフェノールの抽出性も良好な組成物を得ることができる。つまり、上述したように、ポリフェノールの苦味・渋味は、ゼラチンを用いることで低減させることができるが、一方で、ポリフェノール含有ゼラチンを摂取した後は、摂取したポリフェノールが有効な状態でゼラチンから十分に放出される必要がある。しかし、有効な状態のポリフェノールがゼラチンから放出されない場合、例えば、ポリフェノール含有ゼラチン粉末を健康食品等に使用した時に粉末粒子からのポリフェノールの徐放性が低下することが考えられる。その結果、摂取量が多くなるなどの問題が生じるおそれがある。本発明の製造方法によれば、摂取時は、苦味・渋味が低減され、摂取後は、有効な状態でポリフェノールが放出される組成物を製造することができる。
【0057】
(第1工程~第3工程)
第1工程から第3工程は、上述した<苦味・渋味が低減されたポリフェノール含有ゼラチンの製造方法>と同様の工程を採用することができる。
【0058】
(第4b工程)
第4b工程は、第3工程で得られた水分を含有する沈殿画分を分散剤に懸濁させて微粒子化し、ポリフェノール含有ゼラチンの懸濁溶液を取得する工程であり、本工程で採用する分散剤は、上述した<ポリフェノール含有ゼラチンを含む組成物>で説明した分散剤を適宜採用することができる。
【0059】
沈殿画分を分散剤に懸濁させる懸濁方法としては、水分を含有する湿潤な沈殿物ケーキを分散剤(例えば、沈殿防止機能、凝集抑制機能、乳化機能等を有する水溶性高分子)に懸濁させて湿式ビーズミル、湿式ボールミル等の湿式微粉砕機を用いて微粒子化する方法などを挙げることができ、このようにして湿潤なポリフェノール含有ゼラチンの懸濁溶液を得ることができる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
なお、水溶性ポリフェノール濃度は、タンニン酸(米山薬品工業製)を標準品としてフェノール試薬(ナカライテスク製)を使用してフォーリン・チオカルト法で測定した。
【0062】
(調製例1:渋柿抽出液からの柿タンニン含有ゼラチンの調製)
[抽出液の調製]
渋柿(愛媛県産の愛宕)約10Kgから、ジューサー(パナソニック社製「MJ-L500-S」)を用いて搾汁液を約8Kg(7.4L)を得た。搾汁液は、カロテノイドに由来する橙色を呈し、濁度があったので、高速冷却遠心分離機を使用して、9,500rpmで遠心分離を30分間行い、水不溶性カロテノイド含有沈殿画分を除去した。
【0063】
これにより、水溶性柿タンニン(柿ポリフェノール)を含有する清澄な渋柿抽出液約7.5Kg(全回収率約75%)を得た。抽出液中の水溶性柿タンニン濃度をフォーリン・チオカルト法で測定した結果、水溶性柿タンニン濃度:24.2mg/mL(タンニン酸換算)であった。
【0064】
[ゼラチン添加条件(温度)の検討]
前記で得られた渋柿抽出液100mLに、表1に示す温度及び混合下でゼラチン粉末(新田ゼラチン社製)3.6gを徐々に添加し、その温度のまま10分間程度十分に混合攪拌した後、室温に放置した。その後、4~8℃、6,800rpmで遠心分離を30分間行った。得られた遠心上清について、残存する水溶性柿タンニン濃度の測定評価を行った。結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
表1に示すとおり、40℃以上の温度で水溶性柿タンニンが固形状ゼラチンに吸着され始めると共に、抽出液から分離が容易な沈殿が形成され、吸着率は60℃以上で約97%と抽出液中の水溶性柿タンニンの殆どがゼラチンに吸着された。
【0067】
[ゼラチン添加量の検討]
前記で得られた渋柿抽出液100mL(水溶性柿タンニン濃度:24.2mg/mL)に、60~70℃の加熱及び混合下で、水溶性柿タンニン1質量部(タンニン酸換算)に対して0.5質量部、0.75質量部、1.0質量部又は1.5質量部のゼラチン粉末(新田ゼラチン社製)を徐々に添加し、その温度のまま10分間程度十分に混合攪拌した後、室温に放置した。その後、4~8℃、6,800rpmで遠心分離を30分間行った。
【0068】
得られた遠心上清中に残留する水溶性柿タンニン濃度を測定して、ゼラチンへの吸着率を求めた。結果を表2に示す。
【0069】
【0070】
固形状ゼラチンの使用量を、水溶性柿タンニン1質量部に対して、1質量部以上とした場合に、殆どの水溶性柿タンニンがゼラチンに吸着された。
【0071】
[柿タンニン含有ゼラチンの製造]
前記で得られた渋柿抽出液2Lに、60~70℃の加熱及び混合下で、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製)50gを徐々に加えて、その温度のまま10分間程度十分に混合攪拌した後、室温に放置した。その後、4~8℃、6,800rpmで遠心分離を30分間行った。沈殿画分を凍結乾燥した後、微粉砕して柿タンニン含有ゼラチン粉末約60gを得た。この粉を口に含んでも渋味は感じられなかった。
【0072】
[湿潤な柿タンニン含有ゼラチンを含む懸濁溶液の製造]
前記で得られた渋柿抽出液2Lに、60~70℃の加熱及び混合下で、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製)50gを徐々に加えて、その温度のまま10分間程度十分に混合攪拌した後、室温に放置した。その後、4~8℃、6,800rpmで遠心分離を30分間行った。沈殿画分を2Lの分散剤/0.5%キサンタンガム水溶液(キサンタンガム:(株)キミカ「キミカキサンタンPH-EC」)に分散させた後、湿式ボールミル((株)シンマルエンタープライゼス「ダイノーミル MULTI-LAB型」)を使用して微粒子化し、湿潤な柿タンニン含有ゼラチンの懸濁溶液約2Lを得た。この懸濁溶液を口に含んでも渋味は感じられなかった。
【0073】
(調製例2:カテキン原料からのカテキン含有ゼラチンの製造)
カテキン原料として市販の茶カテキン粉末(太陽化学(株)「サンフェノン90S」:ポリフェノール80%以上)を使用して、2%水溶液1000mLを調製した。この水溶液に60~70℃の加熱及び混合下で、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製)20gを徐々に加えて、その温度のまま10分間程度十分に混合攪拌した後、室温に放置した。その後、4~8℃、6,800rpmで遠心分離を30分間行った。上清中の残存カテキン濃度は、0.8mg/mLであり、殆どがゼラチンに吸着された。沈殿画分を凍結乾燥した後、微粉砕して茶カテキン含有ゼラチン粉末約25gを得た。この粉を口に含んでも苦味・渋味は感じられなかった。
【0074】
(調製例3:プロアントシアニジン原料からのプロアントシアニジン含有ゼラチンの製造)
プロアントシアニジン原料として市販のブドウ種子ポリフェノール(キッコーマンバイオケミファ(株)「グラビィノール-SE」)を使用して2%水溶液1000mLを調製した。この水溶液に40℃~50℃の加熱及び混合下で、ゼラチン粉末(新田ゼラチン社製)20gを徐々に加えて、その温度のまま10分間程度十分に混合攪拌した後、室温に放置した。その後、4~8℃、6,800rpmで遠心分離を30分間行った。上清中の残存プロアントシアニジンン濃度は、0.7mg/mLであり、殆どがゼラチンに吸着された。沈殿画分を凍結乾燥した後、微粉砕してブドウ種子プロアントシアニジン含有ゼラチン粉末約2gを得た。この粉を口に含んでも苦味・渋味は感じられなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、ポリフェノールを特異的に吸着し、且つ許容摂取量の制限のない物質を使用して苦味・渋味が低減されたポリフェノール含有素材及びそれらを含有する組成物を提供できるので、産業上極めて有益に利用することができる。