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特許7253864金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御
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  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図1
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図2
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図3
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図4A
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図4B
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図5A
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図5B
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図6
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図7
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図8
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図9
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図10A
  • 特許-金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御 図10B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】金属付加製造におけるその場でのガス噴流衝突の適用による凝固微細化及び全体的相変態制御
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20230331BHJP
   B23K 9/032 20060101ALI20230331BHJP
   B23K 26/34 20140101ALI20230331BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20230331BHJP
   B23K 26/12 20140101ALI20230331BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230331BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20230331BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20230331BHJP
   B22F 3/16 20060101ALI20230331BHJP
   B22F 3/10 20060101ALI20230331BHJP
   C22C 1/04 20230101ALI20230331BHJP
【FI】
B23K9/04 Y
B23K9/04 G
B23K9/032 Z
B23K9/04 Z
B23K26/34
B23K26/21 Z
B23K26/12
B33Y10/00
B33Y30/00
B22F3/105
B22F3/16
B22F3/10 B
B22F3/10 101
C22C1/04 E
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2019572480
(86)(22)【出願日】2018-06-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 EP2018067608
(87)【国際公開番号】W WO2019002563
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】62/527,656
(32)【優先日】2017-06-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/019,460
(32)【優先日】2018-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512037473
【氏名又は名称】ノルスク・チタニウム・アーエス
【氏名又は名称原語表記】NORSK TITANIUM AS
【住所又は居所原語表記】Flyplassveien 20, N-3514 Hoenefoss, Norway
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100212657
【弁理士】
【氏名又は名称】塚原 一久
(72)【発明者】
【氏名】マチセン、マルティン・ボルラウグ
(72)【発明者】
【氏名】ラッセン、ヒルデ・レケン
【審査官】後藤 泰輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0120398(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0127431(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0054079(US,A1)
【文献】特表2014-512961(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02502729(EP,A1)
【文献】特表2013-534964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/032,9/04,26/12,26/21,26/34
B33Y 10/00,30/00
B22F 3/10,3/105,3/16,10/25,12/20
C22C 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融材料を堆積して、溶融池を形成するために、熱エネルギー源を生成する融解工具を含む、金属付加製造システムにおいて使用するための噴流装置であって、
前記噴流装置は、
冷却ガスを受け入れるための第1の入口、及び冷却ガスを吐出するためのノズルに接続された第1の開口を備える第1の導管と、
冷却ガスを受け入れるための第2の入口、及び冷却ガスを吐出するための第2のノズルに接続された第2の開口を備える第2の導管と
を備え、
前記第1の導管が、前記熱エネルギー源の一方側で、前記融解工具に取り付くように構成され、且つ前記第2の導管が、前記熱エネルギー源の反対側の第2の側で前記融解工具に取り付くように構成され、
前記第1のノズル又は前記第2のノズルの少なくとも1つは、材料堆積中に、前記冷却ガスが前記少なくとも1つの前記第1の導管又は前記第2の導管を出るとき、前記冷却ガスの乱流を生成するように構成され、並びに
前記第1ノズル及び前記第2のノズルは、前記冷却ガスを、溶融池に、溶融池の液固境界に隣接する凝固材料に、及び前記溶融池の前記液固境界に、衝突するように方向付け、
前記熱エネルギー源に向けて冷却ガスを吹き付けるのを防止するように構成される、
噴流装置。
【請求項2】
前記第1の導管と前記第2の導管の各々は、別々に制御される冷却ガス流れを有するノズルを備える、請求項1に記載の噴流装置。
【請求項3】
耐熱材料で作製されるか又は耐熱材料を含む、請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項4】
前記耐熱材料が、チタン、チタン合金、タングステン、タングステン合金、及びこれらの合金、ステンレス鋼、クロムとニッケルとを含む合金、並びにニッケル、鉄、コバルト、銅、モリブデン、タンタル、タングステン、及びチタンのうちの2つ以上を含む合金の中から選択される、請求項に記載の噴流装置。
【請求項5】
前記冷却ガスの流れを測定する流量計を更に備える、請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項6】
少なくとも1つのノズルが、前記各々の導管の先端部に位置決めされる、請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項7】
各々のノズルは、前記各々の導管に対して角度が90°以下となるように位置決めされる、請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項8】
前記導管のいずれか1つ又は複数が、
複数のノズルと、
前記導管内における複数のチャネル、パイプ、管、又はラインであって、前記チャネル、パイプ、管、又はラインの各々が、前記複数のノズルのうちの単一のノズルに別々に取り付けられる、前記複数のチャネル、パイプ、管、又はラインと
を備える、請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項9】
各ノズルが円筒形状を有する、請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項10】
各ノズルが、円形、長円形、卵形、正方形、矩形、菱形、星形、五角形、六角形、及び八角形の中から選択された断面形状を有するか、又は前記ノズルが非対称断面形状を有する、請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項11】
各ノズルが、約5mm~約50mmから選択された長さを有する、請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項12】
各ノズルが、約0.1mm~約5mmの壁厚を有する、請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項13】
各ノズルは、前記冷却ガスが通って流れるオリフィスを備える、請求項1又は2のいずれか一項に記載の噴流装置。
【請求項14】
前記オリフィスが、前記ノズルの前記断面形状と同じか又は異なる断面形状を有し、且つ
前記オリフィスが、円形、長円形、卵形、正方形、矩形、菱形、六角形、八角形、及び非対称の断面形状の中から選択される、請求項13に記載の噴流装置。
【請求項15】
前記オリフィスが、前記ノズルの内径と同じか又はそれよりも小さい直径を有する、請求項13又は14に記載の噴流装置。
【請求項16】
前記オリフィスが、約1mm~約5mmの直径を有する、請求項1315のいずれか一項に記載の噴流装置。
【請求項17】
各導管が、前記導管を通って流れる冷却ガスと相互作用するバッフルを備える、請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項18】
(a)各導管が、前記冷却ガスの層流を妨げて前記冷却ガスの乱流を促進するように、前記導管を通って流れる前記冷却ガスの流路内に突起若しくは窪み若しくはこれらの組み合わせを更に備え、又は
(b)各ノズルが、前記冷却ガスの層流を妨げて前記冷却ガスの乱流を促進するように、前記ノズルを通って流れる前記冷却ガスの流路内に突起若しくは窪み若しくはこれらの組み合わせを更に備え、又は
(c)各ノズルの前記オリフィスが、前記冷却ガスの層流を妨げて前記冷却ガスの乱流を促進するように、前記オリフィスを通って流れる前記冷却ガスの流路内に突起若しくは窪み若しくはこれらの組み合わせを更に備え、又は
(d)(a)、(b)及び(c)の任意の組み合わせである、
請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項19】
融解工具から前記噴流装置を断熱するために、又は
前記噴流装置と加工物における溶融池との間に、又は
ワイヤ送給器から前記噴流装置を断熱するために、
断熱材を更に備える、請求項1又は2に記載の噴流装置。
【請求項20】
冷却ガス供給源を更に備える、請求項1~19のいずれか一項に記載の噴流装置。
【請求項21】
各導管が、前記各導管自体の冷却ガス供給源に接続される、請求項20に記載の噴流装置。
【請求項22】
前記冷却ガス供給源が、前記導管に提供される冷却ガスの前記流量を調整するように手動又は自動で調節可能な調整器を備える、請求項20又は21に記載の噴流装置。
【請求項23】
付加製造金属製品における粗い柱状凝固構造を最小限に抑えるか又は排除する方法であって、
請求項1に記載の噴流装置を使用して、溶融材料の堆積中に、乱流冷却ガス噴流を、溶融池に、溶融池の液固境界に隣接する凝固材料に、及び前記溶融池の前記液固境界に、衝突するように適用することを含み、
前記冷却ガス噴流が、前記溶融池の表面における対向する凝固前面の成長を誘起するか若しくは加速させるか又はその両方である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
2018年6月26日に出願された「SOLIDIFICATION REFINEMENT AND GENERAL PHASE TRANSFORMATION CONTROL THROUGH APPLICATION OF IN SITU GAS JET IMPINGEMENT IN METAL ADDITIVE MANUFACTURING」という名称の、米国特許出願第16/019,460号明細書、及び2017年6月30日に出願された「REFINEMENT OF SOLIDIFICATION STRUCTURES IN ADDITIVE MANUFACTURING BY MELT POOL GAS JET IMPINGEMENT」という名称の、米国仮特許出願第62/527,656号明細書の優先権の利益を主張する。
【0002】
認められる場合、上で参照した各出願の主題は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本発明は、固体自由形状造形により物体、特にチタン物体及びチタン合金物体を製造するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
チタン又はチタン合金で、又は他の合金で作製された構造化金属部品は、従来、ビレットから鋳造、鍛造又は機械加工することにより作製されていた。これらの技法には、高価なチタン金属の材料使用量が多い、及び金属物体の造形におけるリードタイムが長いなどの、多くの不都合がある。多くの場合、ニアネットシェイプとなる可能性のある物体の生産に使用できる、鋳造では、典型的には、凝固及び冷却速度の制御の欠如に起因して材料品質が低下する。治工具コストと複雑な形状の物体を作製できないこととが、従来の方法の別の欠点である。
【0005】
十分に稠密な物理的物体は、高速プロトタイピング、高速製造法、積層製造法、又は付加製造法として知られる製造技術により作製することができる。付加製造は、ニアネットシェイプ製品の積層構築により大きな製造自由度とコスト削減の可能性とを与える。同じ既存の金属合金を利用しつつ鍛造などの従来の熱機械加工方法の材料特性と一致させることが望ましい。
【0006】
熱機械加工において、材料特性は、ほとんどの場合、機械成形ステップの塑性変形により誘起された再結晶により達成される結晶粒構造微細化の結果である。このメカニズムは、溶融材料が層状に付加され、機械成形なしに凝固して冷える、典型的な付加製造プロセスでは利用できない。その結果、典型的には、凝固した状態の粗い結晶粒構造がもたらされる。多くの合金では、結果として得られる構造もまた、高アスペクト比する伸長したものとなる。このことは、過熱した溶融金属が付加されたときに比較的低温の加工物によりもたらされる方向性のある熱除去に起因している。凝固は、先に堆積された層から開始し、堆積層が冷えるにつれて、堆積された材料まで伝播する。凝固構造は、多くの場合、いくつかの層を横切って延在し、大きさが数センチメートルになる。これらの特性は、典型的には、機械的特性に最適ではなく、低下した及び/又は異方性の強度、伸び、並びに疲労性能を生じさせる。凝固後の更なる冷却時に、同素相変態(ある結晶構造から別の結晶構造への変態)、析出、及び他の固相熱化学反応が起こる。これらの性質は、対象となる合金系によって決まる。これらの変態が起こる極めて重要な温度範囲の冷却速度が主要な懸念事項である。積層付加製造プロセスは、堆積層毎の関連する全ての相変態の制御が、一貫した製品を得るのに不可欠である、複雑な繰り返しの加熱と冷却と再加熱の条件とを生み出す。それゆえ、変化する加工物形状、放熱特性、及び蓄積した熱にもかかわらず熱制御を達成することが、付加製造で直面する課題である。堆積され凝固したばかりの領域への冷却速度の影響に加えて、堆積後に適用された冷却も、加工物の全体的な冷却に寄与し、多大な待機時間なしに行われる新たなストリング又は層の堆積の開始を可能にする。このことは、ストリング又は層間のサイクル時間の短いコンパクトな幾何学的形状に対して特に有益である。標的となる相変態領域におけるその場でのガス噴流衝突は、冷却速度を増加させるとともに、凝固微細化と全体的な相変態の調整及び/又は制御とをもたらすことができる。
【0007】
従来技術は、例えば、再結晶粒構造を得るために各堆積層を塑性変形させるハイブリッドプロセスの利用を含み、歪を低減して機械的特性を向上させるために適用されている(特許文献1、Liou et al.(2015)を参照)。しかしながら、そのような中間成形ステップは、有効堆積速度を低下させ(生産性に悪影響を与える)、複雑な形状を形成する能力の点で造形自由度を制限する可能性がある。他の技術は、特許文献2(Wescott et al.(2013))で説明されているような、層間レーザピーニング及び超音波衝撃処理、並びに特許文献3(Liou et al.(2016))で説明されているような、層間冷間圧延を含む。
【0008】
再結晶の結果として熱歪を低減して結晶粒構造を微細化するためのレーザ又は超音波衝撃処理に備えて凝固金属の冷却中に凝固した状態の層に強制冷却が適用されている(特許文献4、Wescott et al.(2015)を参照)。これは、層間の待機時間を短くするのに役立つが、加工物が最適な温度になるのを待つ必要があり、その後、堆積された状態の層の調整が行われ、これにより、生産性に悪影響が及ぼされ、造形自由度が制限される可能性がある。堆積中に何らかの冷却を適用することと、堆積中に決して溶融池に又は溶融池に隣接する領域に冷却を(その場で)適用しないこととは、先行技術のいずれにも言及されていない。その代わりに、Wescott et al.は、変形ステップの準備をするために、加工物のストリングの凝固した状態の層をストリング堆積の合間に冷却することを説明している。堆積層を物理的に機能させる方法については、付加プロセスにおいて最終製品の層間に何らかの汚染物質が入る可能性があるので、治工具からの汚染物質も懸念事項である。Wescott et al.は、溶融池ガス噴流衝突による付加製造での凝固構造の微細化については言及していない。
【0009】
金属を微細化して結晶粒微細化を達成するために使用されている他の技術は、機械的振動の適用(例えば、特許文献5、Petit et al.(1968)を参照)、音響エネルギー(特許文献6、Shuck et al.(2014))、又は振動電磁場(特許文献7、Jarvis et al.(2015))などによる、溶融材料の本体への高周波振動の伝達を含む。法外なコストをもたらす可能性と実用性のある実行方法の欠如とに加えて、溶融池攪拌の一般原理の有効性が、関連する金属合金の多くでは極めて限定される。具体的には、溶融池攪拌では、破砕により凝固前面を破壊できるように、伝播する凝固前面に、部分的に凝固した材料のゾーンが必要となる。チタン合金の多く、特に主要なチタン合金Ti-6Al-4Vなどの、付加製造に適用可能な多くの合金の性質は、狭い凝固温度範囲であり、この温度範囲は、音響振動機構、電磁振動機構、又は機械的振動機構などの、振動機構を利用する技術を通じて、合金を凝固前面の破砕に対して非常に耐性の高いものにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】米国特許出願公開第2015/0360289号明細書
【文献】国際公開第2013140147号パンフレット
【文献】欧州特許出願公開第2962788号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0041025号明細書
【文献】米国特許第3,363,668号明細書
【文献】米国特許出願公開第2014/0255620号明細書
【文献】国際公開第2015028065号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
よって、当該技術分野では、従来型の付加製造プロセスにおいて達成されるものと比較して、関連する相変態温度よりも低い追加の冷却後に、より微細な結晶粒構造、特により等軸の結晶粒と、より一貫した微細構造とを有する金属製品を生み出す付加製造システムにおいて、増加した金属堆積速度で金属付加製造を行う経済的な方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
よって、本発明は、従来技術の限界及び欠点に起因する問題の1つ又は複数を実質的に除去する、溶融池でのガス噴流衝突による付加製造における凝固構造の微細化を対象とする。装置の拡張部、すなわち、別個のガス噴流装置は、堆積され凝固した状態の材料のその場での熱制御を達成するために使用することができる。材料特性の向上した製品、特に凝固した状態のより等軸の結晶粒構造を有する製品を得るために、金属付加製造中に凝固構造を微細化し且つ微細構造を制御するための、装置、システム及び方法が提供される。これらの微細化された結晶粒構造を有する製造製品は、強度、耐疲労性、及び延性の向上を示す。更に、当該技術分野では、金属付加製造方法により生産される金属製品のスループット及び歩留まりを向上させる方法が必要である。
【0013】
本発明の利点は、結果として得られる結晶粒構造が、機械加工金属に典型的に存在する結晶粒構造と同等のアスペクト比及び均質性と、典型的な鋳造又は付加製造材料と比較して大幅に減少した平均結晶粒度とを有する、付加製造により生産される金属物品に結晶粒微細化をもたらすことである。
【0014】
本明細書で提供する装置及び方法は、付加製造を使用して積層金属堆積物を形成する間に、溶融池の自由表面への、又は液体と固体との境界への、又は液固境界の近傍の凝固金属上への、又は凝固金属上への、又はこれらの任意の組み合わせへのガス噴流衝突により凝固構造の微細化と微細構造の制御とをもたらす。使用されるガスは、対象となる金属合金が大気汚染の影響を受け易いか否かに応じて、不活性又は非不活性ガス、元素又は混合ガスとすることができる。
【0015】
堆積物の異なる部分における微細構造の粒度及び材料特性の最適化もまた、付加製造において本明細書で提供する装置及び方法を使用することにより可能となる。装置及び方法は、金属構造の著しい微細化を達成するための実用性のある方法を提供し、結果として、ほとんどの場合、典型的な機械加工金属よりも若干粗くなるが、同等のアスペクト比及び均質性を有する結晶粒をもたらす。溶融池の液体表面及び液固境界に方向付けられた冷却ガス噴流は、溶融池自由表面における対向する凝固前面を誘起して加速させることができる。エピタキシの阻止は、連続層が最上層の結晶粒から核形成して凝固するときに達成することができる。凝固した状態の材料に適用される場合の、本明細書で提供する装置により提供される集中したガス乱流による強制冷却により、固相変態を改善、調整又は制御することができる。
【0016】
本発明の別の利点は、装置及び方法が、層間の時間のかかる調整、形状加工の制約、又は堆積速度若しくは堆積生産性の大幅な低下の必要なしに、多くの金属合金における凝固条件の操作及び有意な微細化の可能性を実現することである。単独で又は溶融池に向けられた冷却噴流装置と組み合わせて、標的領域での冷却ガスの噴流のその場での適用により付加製造中に堆積材料を強制冷却するための冷却噴流装置の使用により、堆積生産性を大幅に高めることができる。堆積された状態の材料に向けられた噴流装置からの大きな冷却ガス流れは、熱エネルギーを大幅に除去することができ、堆積材料のバルク冷却速度の向上をもたらす。本明細書で提供する冷却噴流装置は、ほとんどの融解工具と共に動作するように構成することができ、且つ付加製造プロセスにおいて堆積が行われている間いつでも、調節するか、作動させるか、又は停止状態にすることができる。この柔軟性は、製造プロセス中に製造製品の下層の結晶粒構造を変更する能力を与える。本方法は、プラズマ及びワイヤに基づくプロセスを含む、任意の金属付加製造プロセス及びレーザシステムと共に使用することができ、特に高堆積速度プロセスに好適である。全体を通してTi及びTi合金の加工物製品が例として言及されているが、本方法は、金属学的理論に基づいて他の多くの合金系に等しく好適である可能性がある。例えば、インコネル超合金もまた、本明細書で提供する装置、方法及びシステムを使用して達成される微細化効果を達成し易い。
【0017】
溶融池自由表面などの、溶融池に方向付けられた、本明細書で提供する噴流装置からの噴流ガス流は、結晶学的多様性を増大させることができ、且つ結晶粒界整合度を低減することができる。方向付けられた噴出ガスにより、より均質で且つ微細に分散した状態で存在する異なる微細構造要素を得ることができる。典型的には、付加製造金属製品は、堆積層を横切って数センチメートルにわたって延在する柱状凝固構造の存在を含むことができる。これら柱状凝固構造は、熱勾配及び溶融池対流などの僅かな変動に起因して不規則な間隔のより微細な結晶粒により破断される可能性がある。溶融池に向けられたときの、本明細書で提供する噴流工具は、温度勾配の低減と共に、溶融池の自由表面において核形成を誘起又は促進することができ、その結果、付加製造された材料に従来存在していた柱状構造の破断をもたらし、向上した再現可能な材料特性を得ることができる。
【0018】
本発明の別の利点は、装置及び方法が付加製造プロセス中に冷却速度の調整を可能にすることである。付加製造では、ストリング、ビード、又はトラックと最もよく称される複数の要素は、典型的には、非常に複雑な形状であるものを形成するように合わせて積み重ねることができる。ストリングは、熱源の供給エネルギーにより金属材料を溶融させて融着させる、移動する熱源に典型的にはワイヤ状又は粉末状の金属材料を送給することにより形成される。熱源は、高エネルギーレーザビーム、電子ビーム若しくはプラズマアーク、又はこれらの任意の組み合わせとすることができる。この積層堆積は、複雑で周期的且つ過渡的な温熱条件を生み出す可能性がある。先に堆積された材料が、典型的には、連続層の堆積により再加熱されるので、周期的であり、且つ構築の進行に伴う放熱特性などの境界条件の変化に起因して過渡的である。
【0019】
ほとんどの金属合金は、熱履歴の影響を受け易い。典型的には、ストリング堆積の高温から加工物のバルク温度までの冷却速度は、最終的な材料特性に大きな影響を及ぼす。加えて、連続層からの入熱の影響により、インプロセス焼鈍及び時効効果を通じて材料特性が変化する可能性がある。それゆえ、複雑な付加製造製品全体に一貫した材料特性をもたらすために、局所的温熱条件を制御することが重要である。本明細書に開示する本発明は、インプロセス温度測定の適用と本明細書で提供する噴流装置を使用する強制対流冷却の適用とにより付加製造において温熱条件を調整又は制御する能力を高める、装置、システム及び方法に関する。
【0020】
本発明の追加の特徴及び利点は、以下の説明に記載されており、且つ部分的にその説明から明らかになるか、又は本発明の実施により知られ得る。本発明の目的及び他の利点は、本明細書及び特許請求の範囲並びに添付の図面において特に指摘された構造により実現され達成されるであろう。
【0021】
これら及び他の利点を達成するために、また、具体化し且つ広範に説明するために、本発明の目的に従って、噴流装置であって、冷却ガスを受け入れるための入口と、冷却ガスを吐出するためのノズルに接続された開口とを含む第1の導管と、冷却ガスを受け入れるための入口と、冷却ガスを吐出するためのノズルに接続された開口とを含む第2の導管とを含み、第1の導管が、熱エネルギー源の一方側で、熱エネルギー源を生成する融解工具に取り付けられ、且つ第2の導管が、熱エネルギー源の第2の側で融解工具に取り付けられ、少なくとも1つのノズルは、冷却ガスがノズルを出るときに冷却ガスの乱流を生成するように構成され、並びにノズルが、熱エネルギー源に向けて冷却ガスを吹き付けるのを防止するように構成され位置決めされる、噴流装置が提供される。
【0022】
冷却ガスを受け入れるための入口を含む少なくとも1つの導管と、堆積された状態の材料に冷却ガスをその場で吐出するための1つ又は複数のノズルに各々が接続される1つ又は複数の開口とを含む噴流装置も提供される。噴流装置は、各々が冷却ガスを受け入れるための入口を含む複数の導管を含むように構成することができる。導管は、堆積された状態の材料の1つ又は複数の表面に冷却ガスの噴流をその場で送出するように構成することができる。例として、単一の導管は、複数のノズルを含むように構成することができ、いくつかのノズルは、堆積された状態の材料の一側面に冷却ガス噴流を方向付けるように構成することができ、他のノズルは、堆積された状態の材料の他の側面に冷却ガス噴流を方向付けるように構成することができ、且つ他のノズルは、堆積された状態の材料の上面に冷却ガス噴流を方向付けるように構成することができる。別の例として、噴流装置は複数の導管を含むことができ、1つの導管は、堆積された状態の材料の一側面に冷却ガス噴流を方向付けるノズルを含むように構成することができ、第2の導管は、堆積された状態の材料の他の側面に冷却ガス噴流を方向付けるノズルを含むように構成することができ、且つ第3の導管は、堆積された状態の材料の上面に冷却ガス噴流を方向付けるノズルを含むように構成することができる。堆積された状態の凝固した材料の表面にノズルを向けることを可能にする箇所におけるシステムの一部分に噴流装置を接続することができる。いくつかの構成では、噴流装置をワイヤ又は粉末送給装置に接続することができる。噴流装置は、ブラケット又は支持体に接続してワイヤ又は粉末送給装置から独立したものとすることができる。
【0023】
本明細書で提供するシステムは、堆積された状態の材料に冷却ガス噴流をその場で方向付ける噴流装置と、付加製造プロセス中に冷却ガス噴流の適用領域の温度を監視するための少なくとも2つの温度センサとを含むことができる。第1の温度センサは、冷却ガスの適用に先立って、堆積された状態の材料の表面における温度を監視することができ、且つ噴流装置の後ろに位置する第2の温度センサは、噴流装置による加工物の堆積された状態のストリングへの冷却ガスが適用された後に加工物の表面の温度を測定するために含めることができる。第1及び第2の温度センサからの温度データは、噴流装置によって適用される冷却ガスの流量、若しくは加工物に向かう冷却ガスの流れ方向、又はその両方を調節することにより使用者が冷却速度を制御することを可能にすることができる。
【0024】
本発明の別の態様では、付加製造により金属物体を構築するためのシステムであって、溶融金属の堆積前に母材を予熱するための第1の融解工具と、金属源を溶融させて、予熱した母材上に又は母材上の液体溶融池内に堆積される金属溶融材料の溶滴にするための第2の融解工具と、液体溶融池を横切るように、又は液体溶融池に衝突するように、又は液体溶融池の液固境界に隣接する凝固材料に衝突するように、又はこれらの任意の組み合わせに冷却ガスを方向付けるための、本明細書で提供する噴流装置と、冷却ガスの供給源と、加熱装置及び噴流装置に対して母材を位置決めし移動させるためのシステムと、形成すべき金属物体の設計モデルを読み込み、設計モデルを用いて、母材を位置決めし移動させるためのシステムの位置及び移動を調整することと、金属材料の連続した堆積物を母材上に融着させることにより物理的物体が構築されるように加熱装置及び噴流装置を動作させることが可能な制御システムとを備える、システムが提供される。
【0025】
本発明の別の態様では、金属材料の連続した堆積物を互いに母材上に融着させることにより3次元物体が作製される、付加製造により金属材料の物体を製造するための方法であって、第1の融解工具を使用して母材の表面の少なくとも一部分を予熱することと、溶融金属材料を母材の予熱領域上に堆積させて液体溶融池を形成するように第2の融解工具を使用して金属材料を加熱して溶融させることと、本明細書で提供する噴流装置を使用して、液体溶融池を横切るように、又は液体溶融池に衝突するように、又は液体溶融池の液固境界に隣接する凝固材料に衝突するように、又は凝固した状態の材料に衝突するように、又はこれらの任意の組み合わせに冷却ガスを方向付けることと、溶融金属材料の連続した堆積物が凝固して3次元物体を形成するように、第1の加熱装置及び第2の加熱装置の位置に対して母材を所定のパターンで移動させることとを含む、方法が提供される。本方法では、噴流装置が、溶融池に冷却ガス噴流を方向付けることができるか、若しくは凝固堆積金属領域に冷却ガス噴流を方向付けることができ、又は1つの噴流装置が、溶融池に冷却ガス噴流を方向付けることができ、且つ第2の噴流装置が、凝固堆積金属領域に冷却ガス噴流を方向付けることができる。
【0026】
前述の一般的な説明と以下の詳細な説明の両方が、例示的且つ説明的なものであるとともに、特許請求される本発明の更なる解説を提供するように意図されていることを理解されたい。
【0027】
本発明の更なる理解を提供するために含まれるとともに、本明細書に組み込まれて本明細書の一部を構成する、添付の図面は、本発明の実施形態を図示し、本説明と共に本発明の原理を解説する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1図1は、溶融材料を堆積させてストリングを形成するときに、溶融池の自由表面と液体と固体との境界とに方向付けられたガス噴流を提供する例示の噴流装置の概略斜視正面図である。この図には、溶融池よりも上に位置する融解工具、或いは溶融池に又は融解アーク若しくはレーザビームに供給されるワイヤ供給原料又は粉末供給原料は表示されていない。
図2図2は、噴流装置の例示の構成の部分切り欠き側面図である。
図3図3は、層上の層が融着されるときの単列壁堆積物の概略断面図である。図は、本明細書で提供する噴流装置を使用したガス噴流衝突の適用による柱状結晶粒成長阻止の微細化メカニズムが後に続く、最初の3つの層における典型的な微細化されていない結晶粒の成長を示す。
図4A図4Aは、ガス噴流衝突が、より微細化された結晶粒を有する材料をもたらす、本明細書で提供する方法を使用して達成されたもの(図4B)と対比した、従来の付加製造プロセスにより作製された典型的な材料(図4A)の結晶構造解析の電子後方散乱回折(EBSD)写真を示す。
図4B図4Bは、ガス噴流衝突が、より微細化された結晶粒を有する材料をもたらす、本明細書で提供する方法を使用して達成されたもの(図4B)と対比した、従来の付加製造プロセスにより作製された典型的な材料(図4A)の結晶構造解析の電子後方散乱回折(EBSD)写真を示す。
図5A図5Aは、堆積されたTi-6Al-4V試料の典型的な構造(図5A)を、本明細書で提供する噴流装置を使用した多列多層Ti-6Al-4V堆積物への溶融池ガス噴流衝突の適用により結果として得られた微細化された構造(図5B)と比較した、顕微鏡写真である。
図5B図5Bは、堆積されたTi-6Al-4V試料の典型的な構造(図5A)を、本明細書で提供する噴流装置を使用した多列多層Ti-6Al-4V堆積物への溶融池ガス噴流衝突の適用により結果として得られた微細化された構造(図5B)と比較した、顕微鏡写真である。
図6図6は、本明細書で提供する噴流装置を使用して単列Ti-6Al-4V堆積物における溶融池の半分にガス噴流衝突を適用した結果を示す写真である。点線は、壁の片側の典型的な結晶粒度及び形状を大まかに示す。
図7図7は、凝固及び更なる冷却後に起こる追加の相変態に影響を及ぼすように、溶融池における溶融材料が冷えてストリングを形成するときに凝固金属領域に方向付けられたガス噴流を提供する例示の噴流装置の概略側面図である。溶融池よりも上に位置する融解工具は、金属ワイヤ又は粉末供給原料を溶融させるためのエネルギーを溶融池に落下する溶融金属に提供する。温度センサは、成形中のストリングの温度を測定するために噴流装置の前方に位置することができ、且つ温度センサは、ガス噴流の適用中又は適用後の凝固金属の温度を測定するために噴流装置の後ろに位置することができる。
図8図8は、本明細書で提供する方法と共に使用できる例示のシステムの概略側面図である。描かれている実施形態において、単一の融解工具は、堆積されて堆積物を形成する溶融材料を形成するために使用され、第1の噴流装置は、溶融材料が堆積されてストリングを形成するときに、溶融池の自由表面と液体と固体との境界とに冷却ガス噴流を方向付け、且つ第2の噴流装置は、溶融材料が冷えるときに、同素変態又は析出を起こす可能性のある領域などの、凝固金属領域に冷却ガス噴流を方向付ける。
図9図9は、2つの融解工具を用いる本明細書で提供する方法と共に使用できる例示のシステムの概略側面図である。描かれている実施形態において、1つの融解工具は、基材表面を予熱して予熱領域を形成するために使用され、且つ第2の融解工具は、金属を母材の予熱領域上で加熱して溶融させ、堆積されたストリングを形成するために使用され、第1の噴流装置は、溶融材料が堆積されてストリングを形成するときに、溶融池の自由表面と液体と固体との境界とに冷却ガス噴流を方向付け、且つ第2の噴流装置は、溶融材料が冷えるときに、同素変態又は析出を起こす可能性のある領域などの、凝固金属領域に冷却ガス噴流を方向付ける。
図10A図10Aは、バルク冷却速度の差とTi-6Al04V材料の微細構造との相関関係を示す顕微鏡写真である。
図10B図10Bは、バルク冷却速度の差とTi-6Al04V材料の微細構造との相関関係を示す顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ここで、本発明の実施形態について詳細に言及し、その例を添付図面に図示する。
【0030】
A.定義
別段の定めのない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する当該技術分野の当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中の開示全体を通じて参照される、全ての特許、特許出願、公開出願及び刊行物、ウェブサイト、並びにその他の公開資料は、別段の断りのない限り、それらの全体が参照により組み込まれる。本明細書中の用語について複数の定義が存在する場合、本節のものが優先する。
【0031】
本明細書で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上別段の明確な指示のない限り、複数の指示対象を含む。
【0032】
本明細書で使用される場合、範囲及び量は、「約」特定の値又は範囲として表すことができる。「約」は正確な量も含む。よって、「約5パーセント」とは「約5パーセント」及び「5パーセント」も意味する。「約」とは、意図される用途又は目的に対する典型的な実験誤差の範囲内を意味する。
【0033】
本明細書で使用される場合、「任意選択の」又は「任意選択的に」とは、続いて説明される事象又は状況が起こるか又は起こらないことと、その説明には事象又は状況が起こる場合及び事象又は状況が起こらない場合が含まれることを意味する。例えば、システム内の任意選択の構成要素は、その構成要素がシステム内に存在してもしなくてもよいことを意味する。
【0034】
本明細書で使用される場合、「組み合わせ」とは、2つの項目の間又は3つ以上の項目の中での任意の関係を指す。この関係は、空間的な関係とすることができ、又は共通目的のための2つ以上の項目の使用を指す。
【0035】
本明細書で使用される場合、「付加製造」とは、「付加造形」及び「付加層製造」としても知られており、3Dモデルデータ、ワイヤ又は粉末などの、金属源、及び金属源を溶融させるためのエネルギー源(プラズマアーク、レーザ又は電子ビームなど)から物体の層毎の製造を実行する付加プロセスを指す。
【0036】
本明細書で使用される場合、「付加製造システム」とは、付加製造で使用される機械を指す。
【0037】
本明細書で交換可能に使用される「プラズマ移行型アークトーチ」又は「PTAトーチ」という用語は、電気アーク放電によりプラズマへの不活性ガス流を加熱して励起し、その後、オリフィス(ノズルなど)を通して電気アークを含むプラズマガスの流れを移送し、オリフィスから出て延伸してアークの強烈な熱を標的領域に伝達する抑制されたプルームを形成することができる、任意の装置を指す。
【0038】
本明細書で使用される「金属材料」という用語は、3次元物体を形成するために立体自由形状造形プロセスで用いることができる任意の既知の若しくは考えられる金属又は金属合金を指す。好適な材料の例としては、限定されるものではないが、チタン及びチタン合金、すなわちTi-6Al-4V合金などが挙げられる。
【0039】
本明細書で使用される場合、「プラズマアーク溶接トーチ」又は「PAWトーチ」とは、プラズマアーク溶接で使用できる溶接トーチを指す。トーチは、ガスが高温に加熱されプラズマを形成して導電性になり、次いで、プラズマが電気アークを加工物に移行させ、そして、アークの強烈な熱が金属を溶融させ且つ/又は2つの金属片を互いに融着させることができるように設計される。PAWトーチは、アークを絞るためのノズルを含むことができ、それにより、アークの出力密度を増加させる。プラズマガスは、典型的にはアルゴンである。プラズマガスを電極に沿って送給してカソードの近傍でイオン化し加速することができる。アークは、加工物の方に向けることができ、且つ(TIGトーチなどにおける)自由燃焼アークよりも安定している。PAWトーチはまた、典型的には、シールドガスを提供するための外側ノズルを有する。シールドガスは、アルゴン、ヘリウム、又はこれらの組み合わせとすることができ、且つシールドガスは、溶融金属の酸化を最小限に抑えるのを補助する。電流は、典型的には最大400Aであり、電圧は、典型的には約25~35Vの範囲である(但し、最大約14kWとすることができる)。PAWトーチは、プラズマ移行型アークトーチを含む。
【0040】
本明細書で使用される「母材」という用語は、融解工具からの熱に対するターゲット材料であって、その上に溶融池を形成できるターゲット材料を指す。融解工具は、PAWトーチ、PTAトーチ、レーザ装置、又はこれらの任意の組み合わせとすることができる。母材は、金属材料の第1の層を堆積させるときの保持基材となる。金属材料の1つ又は複数の層が保持基材上に堆積されたときに、母材は、金属材料の新たな層を堆積させるべき堆積した金属材料の上部層となる。
【0041】
本明細書で使用される場合、「加工物」という用語は、立体自由形状造形法を使用して生産される金属物体を指す。
【0042】
本明細書で交換可能に使用される「設計モデル」又は「コンピュータ支援設計モデル」又は「CADモデル」という用語は、本発明の第2の態様による装置の制御システムにおいて用いることができる、形成すべき物体の任意の既知の又は考えられる仮想3次元表現であって、保持基材の位置及び移動を調整するように、且つ、物理的物体が、物体の仮想3次元モデルに従った物理的物体の構築を結果としてもたらすパターンで金属材料の連続した堆積物を保持基材上に融着させることにより構築されるように、ワイヤ供給器の組み込まれた溶接トーチを動作させるように用いることができる仮想3次元表現を指す。これは、例えば、まず仮想3次元モデルを1組の仮想平行層に分割し、次いで、平行層の各々を1組の仮想準1次元部片に分割することにより、3次元モデルの仮想ベクトル化積層モデルを形成することにより得られ得る。そして、物理的物体は、物体の仮想ベクトル化積層モデルの第1の層に従うパターンで、金属材料送給器の一連の準1次元部片を支持基材上に堆積させ融着させるように、制御システムを関与させることにより形成することができる。
【0043】
その後、物体の仮想ベクトル化積層モデルの第2の層に従うパターンで、先に堆積した層の上に溶接可能な材料の一連の準1次元部片を堆積させ融着させることにより、物体の第2の層に対するシーケンスを繰り返す。物体全体が形成されるまで、物体の仮想ベクトル化積層モデルの各連続した層に対して、層毎に堆積及び融着プロセスの繰り返しが続く。しかしながら、本発明は、本発明による装置の制御システムを実行するいかなる特定のCADモデル及び/又はコンピュータソフトウェアにも拘束されず、且つ本発明は、いかなる特定の種類の制御システムにも拘束されない。制御システムが、PAWトーチ、PTAトーチ、レーザ熱源、又はこれらの任意の組み合わせなどの、1つ又は複数の融解工具を動作させるように調節される限り、立体自由形状造形により金属3次元物体を構築できる任意の既知の又は考えられる制御システム(CADモデル、コンピュータソフトウェア、コンピュータハードウェア、及びアクチュエータなど)が用いられてもよい。本明細書で提供する噴流装置は、本明細書で説明する結晶粒微細化を達成するために、それらの融解工具と共に使用することができる。
【0044】
本明細書で使用される場合、「高耐熱材料」とは、変形し難く、400℃を超える温度にさらされたときに低熱膨張性を呈する材料を指す。例示の材料としては、チタン及びチタン合金が挙げられる。
【0045】
本明細書で使用される場合、「噴流装置」とは、凝固、微細化に直接影響を与えて、堆積層を横切る結晶粒の成長、全体的な相変態、又はこれらの任意の組み合わせを阻止するために、溶融池表面に、又は溶融池を横切るように、又は液固境界を横切るように、又は液固境界の近傍の凝固金属上に、又は堆積された状態の固体ストリング上にその場で、又はこれらの任意の組み合わせに冷却ガス流又は冷却ガス噴流を方向付ける1つ又は複数のノズルを含む製造製品を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、「その場で」とは、製造製品を堆積室の外に移動させていないことを意味し、付加製造プロセス中の乱流ガス噴流の適用を指す。
【0047】
本明細書で使用される場合、「噴流」とは、ノズルにより噴出された冷却ガス流を指す。
【0048】
本明細書で使用される場合、「ノズル」とは、冷却ガスの流れを調整するか又は方向付けることができる開口部を備えた突出部を指す。
【0049】
本明細書で使用される場合、「冷却ガス」とは、凝固に直接影響を与えるとともに、堆積層を横切る結晶粒の成長を阻止するために、溶融池表面に、又は溶融池を横切るように、又は液固境界を横切るように、又は固液境界の近傍の凝固金属上に、又はこれらの組み合わせに方向付けられたガスである。ガスの温度は、ガスが相互作用する表面を冷却する任意の温度とすることができる。温度は、100℃未満、又は50℃未満、又は30℃未満、又は25℃未満、又は10℃未満、又は5℃未満、又は0℃未満とすることができる。極低温のガスを使用することもできる。室温よりも冷たいガスの効果が、室温ガスで達成される効果とは大幅に異なる効果を有することは判明していないことが分かっている。
【0050】
B.噴流装置
本明細書では、噴流装置が提供される。噴流装置は、溶融金属の凝固に直接影響を与えるとともに、堆積層を横切る結晶粒の成長を阻止するために、溶融池表面に、又は溶融池を横切るように、又は液固境界を横切るように、又は液固境界の近傍の凝固金属上に、又は凝固金属上に、又はこれらの任意の組み合わせにガス噴流又はガス流を方向付けるように構成される。噴流装置を使用して、溶融池表面に、又は溶融池を横切るように、又は液固境界を横切るように、又は液固境界の近傍の凝固金属上に、又は凝固金属上に、又はこれらの任意の組み合わせにガス噴流を方向付けることを含む、噴流装置及びシステム及び方法は、従来の金属付加製造プロセスにおいて典型的な粗い伸長結晶粒構造を形成する方向性凝固を最小限に抑えるか又は防止することができる。典型的な付加製造プロセスでの方向性凝固は、典型的な付加製造プロセスに伴う急峻な熱勾配の結果である。
【0051】
本発明は、噴流装置又は噴流装置の組み合わせを提供することと、噴流装置又は噴流装置の組み合わせを利用することとを伴い、各噴流装置は、溶融金属の凝固に直接影響を与えるとともに堆積層を横切る結晶粒の成長を阻止するか、又は強制対流冷却の適用により付加製造において温熱条件を制御する能力を向上させるために、溶融池表面に、又は溶融池を横切るように、又は液固境界を横切るように、又は液固境界の近傍の凝固金属上に、又は凝固金属上に、又はこれらの任意の組み合わせに冷却ガス流を方向付ける、複数の噴流ノズルを備える。噴流装置は、2つの別個の導管を含む。単一体を形成するように導管を横材により接続することができる。単一体構成は、融解工具との関係での噴流装置の配置に役立つことができる。それにもかかわらず、噴流装置は、2つの別個のセグメントとして提供することができる。別個のセグメントは、本明細書で説明するように、装置からのガス噴流が標的領域に衝突するように最適な位置及び角度を提供する任意の取付具を用いて、融解工具に、又はワイヤ送給器若しくは金属粉末送給器などの、金属材料送給器に取り付けることができる。
【0052】
各導管は、別々に又は単一体として接合されたときに、噴流装置が溶融池又は溶融池の近傍の領域に冷却ガスを送出する場合には一方側が、融解工具を備える設備の一部分に、或いは噴流装置が溶融池の下流側の凝固材料に冷却ガスを送出する場合には一方側が、金属材料送給器に取り付けられる。各導管の反対側は、加工物の方に向けられて融解工具から離れる方向に向けられた1つ又は複数の噴流ノズルを備える。各噴流ノズルは、導管を通して冷却ガスを送出して冷却ガスが各ノズルの開口を通過できるようにノズルと導管との流体連通を可能にする、導管の開口に接続され、且つ各ノズルは、同素変態ゾーン、又は合金成分を規則化して二次相粒子を形成する、析出反応が起こる領域などにおける、溶融池表面に、又は溶融池を横切るように、又は液固境界を横切るように、又は液固境界の近傍の凝固金属上に、又は固液境界を越えた所の凝固金属上になど、所定の箇所に別々に向けることができる。いくつかの構成において、ノズルは、溶融池表面、溶融池を横切る箇所、液固境界を横切る箇所、液固境界の近傍の凝固金属上、及び固液境界を越えた所の凝固金属上の中から選択された2つ以上の箇所に冷却ガス流を方向付けることができる。各導管は、一方の端部に流体コネクタを有する。流体コネクタは、導管を冷却ガス源に接続することを可能にする。導管の反対側の端部は封止される。導管の直径は、各ノズルが取り付けられる開口よりも大きい。例えば、ノズルの直径は約1~約10mmの範囲とすることができ、その一方で、ノズルに取り付けられた開口部又は開口の直径は約0.5~約5mmの範囲とすることができる。いくつかの構成において、ノズル及び開口部の直径は、同じであり、且つ約0.5~約5mm、又は約1~約3mmの範囲とすることができる。ノズルの総数は、噴流装置が取り付けられる場所の空間的制約によってのみ制限される。いくつかの構成において、ノズルの数は、約4~約24とすることができる。個別のノズルの代わりに、方向付けられた冷却ガスの乱流を生成するように設計された連続したガスディフューザ又は格子もまた、噴流装置のガス出口として使用することができる。
【0053】
各導管は、導管に取り付けられたノズル又は1組のノズルに冷却ガスを提供する。各導管は、分岐させることができ、若しくはチャネルを含むことができ、又は別個の冷却ガス流を各ノズルに個別に送出するための、パイプ、管、若しくはラインを含むことができる。各導管におけるノズルは、各列が1つ、2つ、3つ、又は4つのノズルを含む、列になるように構成することができる。ノズルは、各ノズルへのガス流れ又は異なる組のノズル内への別個のガス流れを個別に調節することを可能にするように構成することができる。
【0054】
一方又は両方の導管は、1つ又は複数のセンサを含むことができる。導管は流量計を含むことができ、この流量計は、導管を通るガスの流量を測定することを可能にする。システムでは、当該技術分野で知られている任意の流量計を使用することができる。流量計は、パドルホイール流量計、タービン流量計、磁気式流量計、光学センサ、電磁速度センサ、コリオリ力流量計、熱流量計、超音波流量計、又は当技術分野で知られている他の任意の種類の流量計を含むことができる。当該技術分野で知られている流量計の例は、米国特許第4,422,338号明細書(Smith,1983)、米国特許第4,838,127号明細書(Herremans et al,1989)、米国特許第5,594,181号明細書(Strange,1997)、米国特許第7,707,898号明細書(Oddie,2010)、及び米国特許第7,730,777号明細書(Anzal et al,2010)において説明されている。いくつかの構成において、導管は、流量計の配置又は取り付けのための、切り欠き、窪み又は突起を含むことができる。
【0055】
導管は、導管の温度若しくは導管内の冷却ガスの温度又はその両方の測定を可能にする、温度センサを含むことができる。当該技術分野で知られている任意の温度センサを使用することができる。例示の温度センサとしては、熱電対、抵抗温度検出器、サーミスタ、赤外線温度計、バイメタル装置、液体膨張装置、及びこれらの組み合わせが挙げられる。いくつかの構成において、導管は、温度センサの配置又は取り付けのための、切り欠き、窪み又は突起を含むことができる。
【0056】
噴流装置はまた、加工物の温度を測定するための1つ又は複数の温度センサを含むことができる。いくつかの構成において、溶融池に又は溶融池のごく近傍に冷却ガス噴流を方向付けるように構成された噴流装置は、加工物の表面若しくは溶融池の表面又はこれらの組み合わせに向けられた温度センサを含むことができる。同素変態ゾーンなどの、加工物の凝固金属領域の方に冷却ガス噴流を方向付けるように構成された噴流装置は、関連する温度領域にわたる冷却速度を測定し且つ/又は制御するために、冷却ガス噴流が衝突する又は冷却ガス噴流にさらされる領域よりも前の加工物の表面に向けられた第1の温度センサと、冷却ガス噴流が衝突する又は冷却ガス噴流にさらされる領域よりも後ろの加工物の表面に向けられた第2の温度センサとを含むことができる。この装置は、溶融池の凝固直後の凝固後ゾーンに向けられた温度センサを含むことができる。装置は、変態後ゾーンに向けられた温度センサを含むことができ、堆積され凝固した金属の冷却により、同素変態又は他の熱化学反応が起こる可能性がある。当該技術分野で知られている任意の温度センサ、特に非接触温度センサを使用することができる。例示の温度センサとしては、赤外線温度計及び赤外線高温計が挙げられる。いくつかの構成において、導管は、温度センサの配置又は取り付けのための、1つ若しくは複数の切り欠き、窪み又は突起を含むことができる。導管は、高耐熱材料で作製できるか又は高耐熱材料を含むことができる。例示の高耐熱材料としては、チタン及びチタン合金、タングステン及びタングステン合金、ステンレス鋼、インコネル合金及びハステロイ合金などの、クロムとニッケルとを含む合金、並びにニッケル、鉄、コバルト、銅、モリブデン、タンタル、タングステン、及びチタンのうちの2つ以上を含む合金が挙げられる。いくつかの構成において、導管は、チタンか、又はAl、V、Sn、Zr、Mo、Nb、Cr、W、Si、及びMnの1つ若しくは組み合わせとの組み合わせでTiを含有するチタン合金で作製される。いくつかの構成において、導管は、Ti-6Al-4V合金で作製される。
【0057】
各導管は、溶融装置及び追加の供給原材料により生成された溶融池の後縁部に向けて、進行方向とは反対側に角度付けされるように構成された、複数の噴流ノズルを導管の腹側に含むことができる。ノズルは、溶融池表面に、又は溶融池を横切るように、又は液固境界を横切るように、又は液固境界の近傍の凝固金属上に、又は液固境界を越えた所の凝固金属になど、所定の箇所に冷却ガスの乱流を方向付ける。各ノズルは、ノズルと導管との間に形成される角度が80°未満、又は70°未満、又は60°未満、又は50°未満、又は40°未満、又は30°未満などの、90°未満となるような任意の角度を導管に対してなすように位置決めすることができる。好ましい角度の範囲は、水平から約70°~約30°である。ノズルは、トーチなどの、融解工具に向けて冷却ガスを吹き付けるのを防止するように構成し位置決めすることができ、この吹き付けは、アークを乱すか、又は消耗電極若しくは金属ワイヤを溶融させる融解工具の能力の効率を低下させる可能性がある。
【0058】
噴流ノズルは、任意の形状を有することができる。いくつかの構成において、ノズルは、円筒形状を有する、管状となるように構成される。ノズルは、矩形、六角形、八角形、長円形、又は非対称形状を有することができる。ノズルの断面は、任意の形状とすることができる。ノズルの断面開口部の例示の形状としては、円形、長円形、卵形、正方形、矩形、菱形、六角形、及び八角形が挙げられる。ノズルから出るガスの乱流を促進するように不均一断面又は非対称断面を選択することができる。
【0059】
ノズルの壁の厚さは、ノズルを通って流れる冷却ガスの圧力に耐えるのに十分な厚さである。壁の厚さはまた、付加製造プロセス中に噴流装置がさらされる可能性のある温度での熱変形を最小限に抑えるように選択することができる。例えば、ノズルの壁厚は、約0.25~約5mm、又は約0.5~約3mmの範囲内とすることができる。
【0060】
ノズルは、オリフィスを含み、このオリフィスを通って、冷却ガスが加工物に向かって流れる。ガスノズルのオリフィスは、任意の幾何学的形状又は形状を有することができる。オリフィスは、円形、長円形、正方形、矩形、菱形、六角形、又は八角形とすることができる。ノズルから出るガスの乱流を促進するように、オリフィスの不均一断面又は非対称断面を選択することができる。ノズルのオリフィスは、約0.5~約5mm、又は約1~約3mmの直径を有することができる。オリフィスの直径は、ノズルの内径と同じか又は内径よりも小さい直径とすることができる。ノズルのオリフィスの直径がノズルの内径よりも小さい場合、オリフィスを出るガスの速度は、導管内のガスの速度よりも高速とすることができる。ノズルは、複数のオリフィスを含むことができる。
【0061】
冷却ガスは、各導管の入口を通って噴流装置内に入り、ノズルの各々を通って噴流装置を出る。各ノズルは、1組のノズルに冷却ガス源を送出することができる。各導管は、分岐させることができ、又は各ノズルに別個の冷却ガス流を個別に送出するためのチャネルを含むことができる。噴流装置に送出されるガスの最大流量は、典型的には、冷却噴流装置の構成及び配置に応じて、約500L/分、又は400L/分、又は300L/分、又は200L/分とすることができる。例えば、溶融池の表面に衝突する冷却ガス噴流を送出する噴流装置については、乱流のガス流れが、融解工具又はその適用経路を介して適用される溶融金属を変形させないように、又はストリングに適用される溶融金属を飛散させず不安定化させないように、又は溶融池の安定性若しくは形状に悪影響を及ぼさないように、冷却ガス流量を選択することができる。冷却ガスの流量の範囲は、約1L/分~約150L/分、典型的には約5L/分~約100L/分とすることができる。結晶粒微細化効果を効果的に達成するための最小流量は、加工すべき材料と噴流装置の設計とに応じて、典型的には10L/分である。各ノズルへの冷却ガスの流れを別々に制御できる構成では、溶融池の金属と比較して、凝固した状態の金属により多い冷却ガス流量を方向付けることができる。堆積され凝固した状態の材料にその場で適用される冷却ガスの流量は、溶融池に方向付けられるガス流れよりも大幅に多くなる可能性がある。これらの冷却噴流装置では、堆積され凝固した状態の材料の表面にその場で方向付けられる冷却ガスの流量は、最大500L/分とすることができる。噴流装置のノズルからのガス流量の別個の制御を可能にするために、別個のガス供給源を各冷却噴流装置に接続することができる。例えば、第1のガス供給源は、溶融池に又は溶融池の近傍に向けられた噴流装置に冷却ガスを提供し、且つ第2のガス供給源は、堆積され凝固した状態の材料に向けられた噴流装置に接続される。各ガス供給源は、調整器に接続された導管に接続された冷却噴流装置に供給されるガスの流量を調節するために手動で又はコンピュータ制御などによって自動で調節できる調整器を含むことができる。噴流装置が複数の別個の導管を含む構成では、各導管への冷却ガスの流れを別々に制御できるように、装置の各導管を別個の調整器に接続することができる。
【0062】
冷却ガスは、ノズルからの定常流として提供することができる。冷却ガスは、ノズルから間欠的に又は脈動で提供することができる。冷却ガスの間欠流又は脈動流は、冷却ガスの衝突領域から熱エネルギーを分散させるのに役立つことができる。ガスを間欠的に提供することは、弁スイッチを使用することにより達成することができる。脈動流とは、経時的に変化する現象の大きさ、位相、及び他の特性に関して限定されずに、経時的に変化するガス流量を指す。脈動流は、典型的には、経時的に変化する複数の異なるガス流量の連続的な反復使用を含む。ガスの脈動化は、経時的に変化する高流量及び低流量条件が示されるような時間にわたって行われる。ガスの脈動流は、当該技術分野において知られている任意の方法又は装置を使用して提供することができる(例えば、米国特許第5,954,092号明細書(Kroutil et al,1999)、米国特許第6,679,278号明細書(Lemoine et al,2004)、及び米国特許第9,566,554号明細書(Wuet al,2017)を参照)。
【0063】
各導管は、少なくとも1つのノズルを含むことができ、その結果、最低2つのノズルが、溶融池表面に、又は溶融池を横切るように、又は液固境界を横切るように、又は固液境界の近傍の凝固金属上に、又は固液境界を越えた所の凝固金属上に、又はこれらの任意の組み合わせに冷却ガスを方向付ける。噴流装置に存在するノズルの総数は、所望の構成に応じて異なる数とすることができる。いくつかの構成において、噴流装置は、総数が2~24のノズルを有する。各導管におけるノズルの数は、同じか又は異なる数とすることができる。例えば、各導管が10個のノズルを含むことができ、20個のノズルを備えた噴流装置が得られる。別の例では、1つの導管が8個のノズルを有することができ、且つ他の導管が12個のノズルを有することができ、20個のノズルを備えた噴流装置が得られるが、この噴流装置は、各導管に10個のノズルを有する第1の噴流装置とは異なる構成を有する。
【0064】
ノズルの数、構成、及び間隔は、ノズルから噴出される冷却ガスによる適用範囲が、形成される加工物の所望の長さをカバーするように選択することができる。例えば、プラズマ及びワイヤに基づくシステムなどの、高堆積速度プロセスでは、ノズルの数及びノズル構成は、進行方向に沿って、約5mm~約50mm、又は約10mm~約40mm、又は約15mm~約30mmの長さをカバーする冷却ガスが送出されるように選択することができる。ノズルは、進行方向に沿って約20mmの長さをカバーする冷却ガスを送出するように構成することができる。
【0065】
各ノズルの長さは、同じ長さとすることができ、又は異なるノズルは、異なる長さを有することができる。典型的には、各ノズルは、オリフィスからの方向性のある流れを生成するのに十分な長さを有することができる。例えば、長さは、約2.5mm~約25mm、又は約5mm~20mmの範囲内とすることができる。各ノズルの長さ及び各ノズルの位置は、冷却ガスの流れを堆積された溶融材料全体に適用できるように選択することができる。ノズルは、対又は群で提供することができ、各ノズルの長さ及び各ノズルの位置は、対の一方の部材、又は群のいくつかの部材が、1つの箇所に衝突するように冷却ガスを方向付け、且つ対の他方の部材、又は群の他の部材が、別の箇所に冷却ガスを方向付ける、構成をもたらすように選択される。例えば、1群のノズルは、溶融池表面に向けることができ、その一方で、別の群のノズルは、凝固材料に向けることができる。
【0066】
ノズルの数、構成及び間隔は、溶融池表面の近傍、又は液固境界、又は液固境界の近傍の凝固金属、又はこれらの任意の組み合わせにおいて乱流ガス流れを促進するように選択することができる。例えば、ノズルは、少なくとも2つのノズルからの冷却ガスの噴流が互いに衝突して乱流を生み出すように位置決めすることができる。ノズルの1つ又は複数は、冷却ガスの層流を妨げて乱流を促進するように、ノズルのオリフィス内又はノズルの本体内に突起若しくは窪み又はこれらの組み合わせを含むことができる。また、ノズルを出た冷却流体が層流ではなく乱流を呈するように、ノズルを通って流れる冷却ガスの速度を監視して調節することができる。乱流は、衝突するガス噴流と加工物付近の層流境界層との相互作用中に生み出すことができる。冷却効果は、冷却ガスの乱流により高まる。導管は、冷却ガス流路に1つ又は複数のバッフルを含むことができる。バッフルに当たるガスは、バッフルとの衝突時の衝撃により誘起された方向性のある運動エネルギーを、乱流混合又は乱流をもたらす回転エネルギーに変換することができる。
【0067】
融解工具又は溶融池又は金属材料送給器又はこれらの任意の組み合わせから噴流装置を断熱するために、断熱材料を使用することができる。断熱材料は、噴流装置と融解工具との間に、又は噴流装置と金属材料送給器との間に、又は加工物の溶融池に面する噴流装置の表面上に位置決めすることができる。
【0068】
断熱材料は、プラズマアーク、レーザ装置又は溶融池付近の温度で使用するのに好適な任意の材料を含むことができる。断熱材料は、断熱セラミックとするか、又は断熱セラミックを含有することができる。そのようなセラミックは、当該技術分野において知られており、Al、B、Zr、Mg、Y、Ca、Si、Ce、In、及びSnの酸化物又は窒化物、並びにこれらの組み合わせを含むことができる(例えば、米国特許第6,344,287号明細書(Celik et al.,2002)、米国特許第4,540,879号明細書(Haerther et al.,1985)、及び米国特許第7,892,597号明細書(Hooker et al.,2011)を参照)。断熱材料は、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化マグネシウム、酸化マグネシウム、石英、窒化ケイ素、窒化ホウ素、若しくは二酸化ジルコニウム、又はこれらの混合物若しくは組み合わせとするか、或いはこれらを含有することができる。
【0069】
溶融池へのガス噴流の送出のために構成された噴流装置の例示の実施形態の斜視正面図が図1に示されている。加工物の進行方向は矢印で表されている(この例では、描かれている進行方向は観察者に向かう)。図に描かれている噴流装置100は、ガス噴流30を加工物の堆積ストリング95及び溶融池90に向けて方向付ける5対のノズル25を一方側に含む第1の導管10を含む。図示の噴流装置はまた、加工物の堆積ストリング95及び溶融池90の方にガス噴流80を方向付ける5対のノズル75を含む第2の導管60を含む。噴流装置100は、溶融材料を堆積させてストリング95を形成するときに、溶融池の自由表面と液体と固体との境界とに冷却ガス噴流を方向付ける。冷却ガス供給源40は、第1の導管入口15に冷却ガスを提供する。冷却ガス供給源50は、冷却ガスを第2の導管入口65に提供する。図ではガス噴流のみを視認できるが、導管及びノズルの同様の構成が融解工具200の反対側に存在する。
【0070】
典型的な構成において、融解工具は、溶融池よりも上に位置することができ、且つワイヤ供給原料又は粉末供給原料は、溶融池に又は融解アーク若しくはビーム中に供給される。噴流装置はまた、噴流装置の各導管が融解工具の両側に装着されるように、且つ溶融池自由表面に又は液状溶融材料と固体溶融材料との境界に冷却ガスの噴流を方向付けるようにノズルを向けることができるように、位置決めすることができる。
【0071】
溶融池へのガス噴流の送出のために構成された噴流装置の例示の構成の部分切り欠き側面図が図2に示されている。描かれている噴流装置は、1群のノズル25を含む第1の導管10と、1群のノズル75を含む第2の導管60とを含む。同様の構成は、噴流装置が取り付けられる融解工具200の反対側でも生じる。図示の噴流装置は、単一体を形成するように融解工具の両側の導管が横材85により接続されていることを示している。また、図2には、導管10内の内部ディフューザ20と導管60内のディフューザ70とが示されており、これらディフューザは、ノズルからのガス圧及びガス流れを均一にするのに役立つことができる。灰色の線30及び80は、それぞれノズル25及び75からのガス噴流方向を表す。冷却ガスは、入口15を通して導管10に提供され、且つ入口65を通して導管60に送出される。また、図2には、金属ワイヤ350を溶融池90よりも上の位置に送出するワイヤ送給器300が示されている。
【0072】
噴流装置から溶融池90への、若しくは液状溶融材料と固体溶融材料との境界への、又はその両方へのガス噴流30及び80としての冷却ガスの適用は、核形成して溶融池自由表面から対向する凝固前面を伝播させ、層を横切る方向性結晶粒の連続的成長を阻止するより微細な結晶粒の上部キャップを形成するのに役立つことができる。この効果は、典型的には凝固速度がより低い高堆積速度プロセスにおいてより顕著になる可能性があり、且つ方向性凝固前面は、上部キャップが形成されて連続層により再溶融させる深さよりも遠くまで伝播するのに十分にゆっくりと移動する。このメカニズムは図3に図示されている。
【0073】
図3に図示するように、左端では、従来型の付加製造の間の金属の堆積が、凝固した状態の粗い結晶粒構造をもたらし、且つ柱状結晶の成長を示すことができる。合金に応じて、結果として得られる結晶粒構造は、高アスペクト比を有する伸長したものとなる可能性がある。このことは、典型的には、過熱した溶融金属がストリングにおける加工物に付加されたときに比較的低温の加工物によりもたらされる方向性のある熱除去に起因している。これらの従来のプロセスでは、凝固の発生は、先に堆積された金属層から始まり、堆積層が冷えるにつれて、堆積された材料まで伝播する。凝固した状態の結晶粒構造は、多くの場合、いくつかの層を横切って延在する可能性があり、且つ大きさが数センチメートルまで成長する可能性がある。これらの特性は、典型的には、機械的特性に悪影響をもたらし、低下した及び/又は異方性の強度、伸び、並びに疲労性能を生じさせる。
【0074】
本明細書で提供する噴流装置は、冷却ガスを送出する。冷却噴流装置により送出される冷却ガスは、付加製造中にストリングを形成するための溶融金属の堆積に使用される溶接プロセスを妨げない任意のガスとすることができる。例示の冷却ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン、及びこれらのブレンドが挙げられる。典型的には、冷却ガスは、アルゴンを単独で又は別のガスと組み合わせて含む。噴流装置の入口に送出される冷却ガスの温度は、典型的には、100℃未満、又は80℃未満、又は60℃未満、又は40℃未満、又は25℃未満である。冷却ガスは、約25℃以下、又は約20℃以下、又は約15℃以下、又は約10℃などの、およそ室温以下の温度で噴流装置の入口に送出することができる。冷却ガスは、約-195℃~約25℃の温度で噴流装置の入口に送出することができる。噴流装置による溶融池への、若しくは溶融材料が冷えるときの液体と固体との境界への、又はその両方への冷却ガスの適用により、結果として、金属結晶粒の効率的な微細化がもたらされ、冷却ガスが適用されない場合に得られる結晶粒よりも微細な結晶粒が生成される。
【0075】
噴流装置から溶融池への、若しくは溶融材料が冷えるときの液体と固体との境界への、又はその両方への冷却ガスの適用はまた、従来の付加製造技術を使用して典型的に存在する方向性凝固前面の温度勾配を低減するのに役立つことができる。方向性凝固前面における温度勾配の低減は、自由な溶融池表面に適用される冷却ガスの冷却効果により、連続的伝播を不安定にする可能性がある。
【0076】
噴流装置から溶融池への、若しくは溶融材料が冷えるときの液体と固体との境界への、又はその両方への冷却ガスの適用はまた、液固境界に隣接する凝固した状態の材料への冷却効果により凝固の方向を変えるのに役立つことができる。冷却ガスの適用は、溶融池の後縁部からの熱除去を変化させることができる。冷却ガスの適用はまた、全体の凝固速度を増加させることもできる。上で詳述したメカニズムの結果として柱状結晶粒構造の形成が最小限に抑えられるか又は防止される。結晶粒微細化は、本明細書で提供する噴流装置による冷却ガスの適用により促進される効果である。本明細書で提供する噴流装置による冷却ガスの適用の結果として、ほぼ等軸の結晶粒構造の形成などの、結晶粒微細化が促され、これにより、製造製品の機械的特性が向上する。
【0077】
噴流装置の効果を最大化するために、他のプロセスパラメータは、典型的には、ガス噴流が衝突するように溶融池の特定の長さが維持され、且つ加工物の温度勾配が最小限に抑えられるように、加工温度及びエネルギー投入量を管理することにより、凝固前面の破断を促すように設定される。例えば、加工温度は、どの合金が利用されるかによって決まるが、典型的には約300℃~約750℃の範囲内に維持される。エネルギー投入量は、どの合金が利用されるかによっても決まる。高堆積速度のプラズマ及びワイヤに基づくプロセスでのTi-6Al-4Vに対する有効エネルギー投入量は、典型的には、約300J/mm~約1000J/mmとすることができる。加工物の熱勾配は、より高い加工物温度(パス間温度)で且つ単位長さ当たりのより少ないエネルギー投入量で加工することにより最小限に抑えることができる。
【0078】
付加製造中に特徴的に発生する粗い柱状凝固構造の排除は、Ti-6Al-4V製品などの、チタン系製品を含む、付加製造製品において強度、延性及び疲労特性の最適なバランスを達成するのに有益であると予想される。本明細書で提供する噴流装置を使用して溶融池の液固境界に冷却ガス噴流を方向付けることなどにより、溶融池条件を操作することにより、溶融池自由表面における対向する凝固前面を誘起して加速させる。これにより、生じ得る望ましい結晶粒ばらつきの数に制限を課す可能性のある伸長柱状構造の形成を低減するか又は大幅に排除することができ、それにより、堆積材料における結晶配向の多様性を増加させる。
【0079】
付加製造中に、堆積された材料は、溶融池から凝固結晶領域を通って凝固金属領域及び微細構造遷移領域までの温度の変化を受ける。したがって、金属凝固領域若しくは金属遷移領域、又はその両方における冷却速度を制御又は操作することなどにより、溶融池に加えて堆積プロセス全体を通して条件を操作することにより、所望の微細構造の形成を促進することができる。合金に応じて、同素変態又は他のメカニズムにより形成される微細構造の結晶化度及び形態は、堆積された材料が冷えて凝固及び固相変態を起こすときの合金格子における異なる結晶学的方向間の界面エネルギー、拡散速度及び熱伝導率の差に起因する、配向関係、結晶粒界の核形成及び整合によって凝固した状態の結晶粒構造の影響を受ける可能性がある。熱履歴の差は、多くの合金における異なる結晶粒界での歪応答に顕著な差をもたらす可能性がある。
【0080】
本明細書で提供する噴流装置は、堆積プロセス全体を通して冷却速度を制御又は調整し、それにより、付加製造により生産される部片の熱履歴に影響を与えるために使用することができる。冷却ガスの噴流の集中した乱流による強制冷却は、熱伝達、熱伝導率、熱エネルギー放散、及び固相転移を制御するために、噴流装置を使用して凝固した状態の材料に適用することができる。噴流装置は、連続層形成の際の加工物の温度を事前調整して均一にするために、ストリング堆積の合間に堆積物の標的領域での局所冷却及び温度測定を達成することができる。
【0081】
凝固金属領域にガス噴流を送出するように構成された噴流装置の例示の構成の側面図が図7に示されている。描かれている冷却噴流装置500の実施形態は、冷却ガス噴流530を生成し且つワイヤ送給器300の一方側に取り付けられる複数のノズル525を含む。同様の構成は、噴流装置が取り付けられるワイヤ送給器300の反対側でも生じる可能性がある。代替実施形態において、1列又は複数列のノズルは、噴流装置が取り付けられるワイヤ送給器の下表面に存在することができる。代替実施形態において、噴流装置は、加工物に平行又はほぼ平行なU字状導管を含むことができ、U字状導管のアームは、加工物の成形ストリングの片側に位置することができ、且つ加工物の方に下向きに向けられたノズルを含む。ノズルは、冷却ガス噴流530が加工物の上面に、又は加工物の側面に、又は加工物の上面と少なくとも1つの側面の両方に衝突するように向けることができる。代替実施形態において、噴流装置は、加工物に平行又はほぼ平行な三叉又はΨ字状導管(U字のアームに平行な別個の導管が分岐するU字状導管)を含むことができ、サイドアームは、加工物の成形ストリングの片側に位置し、且つ成形ストリングの上面又は成形ストリングの側面の方に下向きに向けられたノズルを含み、中央導管は、加工物の成形ストリングの上面の方に下向きに向けられたノズルを含む。代替実施形態において、噴流装置は、各導管がそれ自体のガス供給源を備えた、平行な3つの別個の導管を含むことができる。一方の外側導管は、堆積ストリングの一側面に向けられたノズルを含むことができ、他方の外側導管は、堆積ストリングの他の側面に向けられたノズルを含むことができ、且つ中央導管は、堆積ストリングの上面に向けられたノズルを含むことができる。センサ及び噴流装置の位置決めは、冷却速度を決定して冷却速度をもたらすのに重要であると考えられる目標温度領域に応じて調節することができる。それゆえ、位置決めは、堆積させるべき金属合金に基づいて調節することができる。
【0082】
また、図7には、冷却ガスの噴流の適用ゾーンの前方の加工物表面上で温度読み取りが行われることを可能にするように取り付けられた温度センサ550が示されている。また、図7には、冷却ガスの噴流の適用後の加工物表面上で温度読み取りが行われることを可能にするように噴流装置500の後方に取り付けられた温度センサ560が示されている。加工物の進行方向は矢印Dで表されている(この例では、描かれている加工物の進行方向は左から右に向かう)。図7に描かれている実施形態では、冷却噴流装置500及び温度センサ550、560が、ワイヤ送給器300に接続されて示されているが、そのような取り付けは単なる例示にすぎない。融解工具200に伴う移動と、加工物の所望の表面への冷却ガスの適用と、加工物の適切な温度測定とを可能にする、システムの1つ又は複数の構成要素に冷却噴流装置500及び温度センサ550、560のいずれかを取り付けるために、ブラケット又は取付アームを別々に使用することができる。ガス噴流は、溶融池又は金属の移動を妨げず且つ堆積ストリングに沿った後方へのガス流れにより冷却を提供するように方向付けられる。凝固金属への冷却ガスの適用により、温度センサからの温度読み取り値により決定された時間にわたって好適な局所冷却を達成でき、それにより、材料付加中の冷却速度の連続制御と、ストリング堆積の合間の局所的な事前調整とを達成することができる。溶融池の後ろの凝固した金属加工物の領域に向けられた噴流装置からの冷却ガス噴流の流量は、その場で測定を行うことにより、又は冷却ガス噴流の衝突領域の前後の温度センサから受信した読み取り値に基づいて、予めプログラムされたコンピュータ制御されたスケジュールに従うことにより、加工中の加工物の温熱条件に基づいて調節することができる。好適な冷却は、冷却ガスの衝突領域の前後の温度センサから受信したデータにより決定できる、一定時間にわたって冷却ガスの流れを適用することにより達成することができる。温度センサ及び噴流装置の位置決めは、冷却速度を捕捉して冷却速度に影響を及ぼすのに加工物のどの温度領域が最も重要であるかによって決まることができる。位置決めは、堆積させるべき金属合金に基づいて調節することができる。
【0083】
噴流装置は、材料付加中の冷却速度の連続制御と、堆積プロセスを終了させないままでのストリング堆積の合間の事前調整とを可能にする。流量は、温度センサからのデータの監視により手動で、又は目標冷却速度を達成するために温度から温度データを受信して流量若しくは持続時間又はその両方を調節するコンピュータを使用して自動的に、加工中の加工物の温熱条件の変化に基づいて調節することができる。赤外線温度センサは、加工物が受ける堆積プロセスの関連する温度範囲に合わせて選択及び較正することができる。センサデータは、1Hz以上の速度で測定して保存することができる。温度データは、堆積プロセスのインプロセスフィードバック制御を可能にするためにプロセス制御システムにおけるコンピュータにより取り込むか、ポストプロセスで視認して、堆積スケジュールを生成するための反復堆積物開発段階の一部として手動で調節するか、又はこれらの技術の組み合わせとすることができる。流れは、第1の堆積層においてゼロ又はほぼゼロとし、次いで、残留熱が蓄積するにつれて増加させることができる。流量は、ゼロ又はほぼゼロ~最大約500L/分の範囲とすることができる。流量は、ゼロ又はほぼゼロ~最大約400L/分の範囲とすることができる。流量は、ゼロ又はほぼゼロ~最大約300L/分の範囲とすることができる。いくつかの用途において、冷却ガス流量は、少なくとも10L/分、又は少なくとも25L/分、又は少なくとも50L/分、又は少なくとも100L/分、又は少なくとも150L/分、又は少なくとも200L/分、又は少なくとも250L/分、又は少なくとも300L/分、又は少なくとも350L/分、又は少なくとも400L/分、又は500L/分以下、又は450L/分以下、又は400L/分以下、又は350L/分以下、又は300L/分以下、又は250L/分以下、又は200L/分以下、又は250L/分以下、又は200L/分以下、又は150L/分以下、又は100L/分以下、又は50L/分以下とすることができる。冷却ガスは、加工すべき合金の要件に応じて、不活性又は非不活性とすることができる。冷却ガスは、元素ガスとするか、又は異なるガスの混合物とすることができる。
【0084】
噴流装置は、堆積中に付与された過剰な熱エネルギーを効果的に除去するために、これらの領域に一定時間にわたって好適な冷却を適用することできる。噴流装置は、堆積ストリングの堆積領域での局所冷却速度及び温度測定のみならず、局所的な冷却速度制御を達成するために、堆積が行われている間に冷却ガスを堆積金属上に直接適用することを可能にし、連続層形成の際の加工物の温度を事前調整するか若しくは均一にするか又はその両方を行うことを可能にする。高速度の冷却ガスは、堆積された材料の連続層の領域に噴流装置により送出することができる。
【0085】
従来の溶接プロセスでは、堆積された材料を周囲雰囲気から保護するとともに、溶接金属の汚染を回避するために、溶接トーチの後を追うシールドガス装置を適用して、層流ガスカーテンを凝固材料の方に向けることができる。このガスの層流は、温度放散若しくは冷却速度に影響を及ぼすか又は温度放散若しくは冷却速度を制御するには不十分である。本明細書で提供する噴流装置は、ガスの乱流をもたらすのに十分な流量で冷却ガスの噴流を適用する。噴流装置のノズルからの冷却ガスの乱流は、典型的には、ノズルを通る冷却ガスの高速度により達成することができる。
【0086】
C.システム
典型的な付加製造技術、特に高堆積速度プロセスでは、多くの場合、堆積物の幾何学的形状のばらつきに起因して加工条件に大きなばらつきが生じる可能性がある。繰り返しの間隔がより長い(すなわち、層毎の時間がより長い)より大きな堆積物の局所的な加工物温度は、ストリングが迅速に連続して作製される可能性があり且つ熱が蓄積されるより小さな堆積物と比較して、非常に異なる温度条件を有する。同様に、局所的な質量入力は、堆積された材料からの熱除去の断面を決定するか又はもたらすことができ、且つ隣接する質量は、追加の熱エネルギーを処理するための放熱器の性能に影響を与える。
【0087】
これらの要因により、最適でない変化する材料特性がもたらされる可能性がある。多くの場合、基本的な応力除去を超えるポストプロセス熱処理は、多数の金属合金に対しては実現が困難であるか又は効果がない。重要なことに、完全に形成された堆積物は、バルク熱処理が所望の冷却速度を達成することを可能にしない断面厚さを有し得る。本明細書で提供する付加製造により金属物体を構築するためのシステムは、先行技術のシステムのこれらの欠陥を克服する。本明細書で提供する噴流装置を利用した部片毎の付加製造方法は、堆積プロセス中に最終部品を構成する少量の材料の個別のストリングにおける冷却速度制御を可能にすることができる。システムは、柔軟で且つ高度に制御可能であるとともに、特に大規模な高堆積速度プロセスのために、金属付加製造製品の一貫性を向上させる方法を提供する。システムは、システムの一部又は全てを自動化するために使用できる、コンピュータを含むことができる。コンピュータは、制御システムと通信することができ、且つ設計モデルを読み込むために使用することができる。コンピュータは、データを収集して、流量及び温度などのデータ、又は製造プロセスの他のパラメータを保存し且つ/又は操作することができる。コンピュータは、製造プロセスを動作させるか又は修正するために、収集されたデータを使用することができる。コンピュータは、システムの構成要素の1つ又は複数と通信できるコンピュータプロセッサを含むことができる。
【0088】
堆積ストリングが凝固して冷えると、最も関連する合金が、材料特性に大きな影響を及ぼす可能性のある有意な固相変態を起こす。一例としては、結晶構造の配列が別の結晶構造の配列に変化する同素変態が挙げられる。多くのチタン合金は、冷却中に1050℃~800℃の温度範囲で同素変態を呈する。多くの鋼について、冷却中の変態に関する温度範囲は、典型的には800℃~400℃である。冷却中の堆積金属の固相変態の別の例は、合金成分の規則化により二次相粒子が形成される、析出反応である。例として、ニッケル基超合金は、約1000℃~700℃の冷却中に、及び600℃を超える長期滞留の間に析出反応を呈する可能性がある。高温での長期滞留中の結晶粒成長もまた、ほとんどの合金の特性に影響を及ぼす。本明細書で提供する噴流装置は、冷却速度に影響を及ぼすか又は冷却速度を制御し、それにより、堆積された材料の特性の改質を可能にし、その結果、金属付加製造製品の一貫性の向上がもたらされる。本明細書で提供するシステムは、材料付加中の冷却速度の連続制御と、ストリング堆積の合間の局所的な事前調整とを可能にする。本明細書で提供するシステムは、管理可能な量の個別のストリングセグメントについての加工条件の制御を可能にする。システムは、堆積中の温度制御を可能にし、完全な付加製造堆積物のより厚肉の部分の冷却速度を制御することがより困難になる、ポストプロセス熱処理の使用では可能ではない結果を達成し、且つ本明細書で提供する噴流装置を使用して達成可能な高い冷却速度は、水又は油での急冷などのより実用性の低い方法を使用しなければポストプロセス熱処理の使用では達成可能ではない。
【0089】
本明細書で提供するシステムは、金属源を溶融させて、母材上の液体溶融池内に堆積される金属溶融材料の溶滴にするための融解工具と、液体溶融池を横切るように、又は液体溶融池に衝突するように、又は液体溶融池の液固境界に隣接する凝固材料に衝突するように、又はこれらの任意の組み合わせに冷却ガスを方向付けるための、本明細書で提供するような噴流装置と、冷却ガスの供給源と、加熱装置及び噴流装置に対して母材を位置決めし移動させるためのシステムと、形成すべき金属物体の、コンピュータ支援設計(CAD)モデルなどの、設計モデルを読み込み、設計モデルを用いて、母材を位置決めし移動させるためのシステムの位置及び移動を調整することと、金属材料の連続した堆積物を母材上に融着させることにより物理的物体が構築されるように加熱装置及び噴流装置を動作させることが可能な制御システムとを含むことができる。
【0090】
単一の融解工具を使用することができ、又は2つの融解工具を備える2銃式システムを使用することができる。成形加工物への溶融金属の堆積速度は、第1の銃が母材を予熱して予熱領域を形成し且つ第2の銃が金属を母材の予熱領域上で加熱して溶融させるために使用される2銃式システムを使用して増加させることができることが分かっている。第1の銃は、金属ワイヤ又は金属粉末などの、金属への第2の銃の作用により生じる、母材又は加工物と溶融金属との融着を確実にすることができる。第1の銃は、母材の予熱領域への溶融金属の溶け込みを深くすることができる。溶融金属の溶滴による過熱は、母材の予熱領域の近傍に溶融池を維持することができる。母材の予熱により、より良好な濡れ性、より良好な堆積プロファイル、堆積速度の増加がもたらされる。堆積プロファイルに関して、基材を予熱することにより、より丸みを帯び且つより幅広の堆積物プロファイルを得ることが可能である。改善されたプロファイルは、母材への融着と先に行われた金属堆積とを促進できる、母材に対する有益な角度を備えたプロファイルをもたらすことができる。融着の改善により、完全性の向上した製造製品が得られる。
【0091】
各銃は、融解工具を含む。各銃は、別々に制御することができ、且つ各銃は、別々の温度効果をもたらすように調整することができる。この配置の利点は、母材の予熱領域で溶融させるべき金属供給原料に付与される熱エネルギー量を母材に付与されるエネルギー量よりも大きくすることができ、母材の過熱が回避されることである。
【0092】
本明細書で提供する2銃式付加製造システムの実施形態において、システムは、トーチ(PAW、PTA、GMAW若しくはMIG式)又はレーザ装置或いはこれらの任意の組み合わせを融解工具として含むことができる。いくつかの構成において、第1のトーチは母材上の標的堆積領域を予熱して予熱領域を形成し、且つ第2のトーチは消耗電極を加熱して溶融させ、その結果、溶融金属の液滴が標的堆積領域の予熱領域に落ちる。いくつかの構成において、レーザ装置は母材上の標的堆積領域を予熱して予熱領域を形成し、且つトーチは消耗電極を加熱して溶融させ、その結果、溶融金属の液滴が標的堆積領域の予熱領域に落ちる。いくつかの構成において、トーチは母材上の標的堆積領域を予熱して予熱領域を形成し、且つレーザ装置は金属ワイヤを加熱して溶融させ、その結果、溶融金属の液滴が標的堆積領域の予熱領域に落ちる。
【0093】
レーザ装置又はトーチは、予熱領域を形成するために母材の標的領域に熱エネルギー(例えば、それぞれレーザエネルギー又はプラズマ移行型アーク)を方向付けるように配設することができ、且つトーチ又はレーザ装置は、母材の予熱領域よりも上に位置決めされた消耗電極又は金属ワイヤの端部に熱エネルギーを方向付けるように配設することができる。熱エネルギーは、消耗電極又は金属ワイヤの端部を溶融させて、消耗電極又は金属ワイヤの端部の真下にある母材の予熱領域上に落下する溶融金属の溶滴を形成する。標的堆積領域に熱エネルギーを方向付ける融解工具は、母材への溶融金属の溶滴の溶け込みを深くすることにより、母材と母材上に堆積させる溶融金属材料との融着を促進することができる。消耗電極又は金属ワイヤを溶融させるために使用される融解工具はまた、母材に向けられた融解工具により提供される熱エネルギーに寄与する、標的堆積領域の予熱領域の近傍の熱エネルギーに寄与することができる。溶融金属の溶滴による過熱は、母材の予熱領域の近傍に溶融池を維持するのに役立つことができる。
【0094】
消耗電極又は金属ワイヤは、Al、Cr、Cu、Fe、Hf、Sn、Mn、Mo、Ni、Nb、Si、Ta、Ti、V、W、若しくはZr、又はこれらの複合材若しくは合金とするか、或いはAl、Cr、Cu、Fe、Hf、Sn、Mn、Mo、Ni、Nb、Si、Ta、Ti、V、W、若しくはZr、又はこれらの複合材若しくは合金を含有することができる。いくつかの実施形態において、消耗電極は、Ti又はTi合金を含有するワイヤである。消耗電極又は金属ワイヤは、Al、V、Sn、Zr、Mo、Nb、Cr、W、Si、及びMnの1つ若しくは組み合わせとの組み合わせでTiを含有するチタン合金とするか、又はこのチタン合金を含有することができる。例えば、例示のチタン合金としては、Ti-6Al-4V、Ti-6Al-6V-2Sn、Ti-6Al-2Sn-4Zr-6Mo、Ti-45Al-2Nb-2Cr、Ti-47Al-2Nb-2Cr、Ti-47Al-2W-0.5Si、Ti-47Al-2Nb-lMn-0.5W-0.5Mo-0.2Si、及びTi-48Al-2Nb-0.7Cr-0.3Siが挙げられる。消耗電極又は金属ワイヤは、アルミニウム、鉄、コバルト、銅、ニッケル、炭素、チタン、タンタル、タングステン、ニオブ、金、銀、パラジウム、白金、ジルコニウム、これらの合金、及びこれらの組み合わせを含有することができる。
【0095】
消耗電極又は金属ワイヤの典型的な断面は円形断面である。消耗電極又は金属ワイヤの直径は、最大約10mmとすることができ、且つ約0.8mm~約5mmの範囲内とすることができる。消耗電極又は金属ワイヤは、例えば1.0mm、1.6mm、及び2.4mm、又は約0.5~約3mmなどの、実際に実現可能な断面寸法を有することができる。消耗電極又は金属ワイヤの送給速度及び位置決めは、消耗電極又は金属ワイヤが母材の溶融池よりも上の意図された位置に達したときに、消耗電極又は金属ワイヤが連続的に加熱されて溶融されることを確実にするために、PTAトーチ若しくはレーザ装置又はその両方に対する電力供給の効率に従って制御及び調整することができる。
【0096】
レーザ装置は、母材の領域を予熱するために母材に熱エネルギーを伝達するのに又は金属ワイヤを溶融させるのに十分な熱エネルギーのレーザビームを発生させることができる。レーザビームからのエネルギーによる母材の予熱は、母材への溶け込みを深くすることにより母材と溶融金属材料との融着を促進する。いくつかの実施形態において、母材の少なくとも一部分は、レーザ装置のレーザビームからのエネルギーにより溶融させることができる。いくつかの実施形態では、レーザ装置のレーザビームにより十分な熱が加えられ、PTAトーチ又は別のレーザにより生成された金属材料を堆積させるべき位置において母材に溶融池を形成する。
【0097】
好適なレーザ装置の例としては、イッテルビウム(Yb)レーザ、Ybファイバレーザ、Ybファイバ結合ダイオードレーザ、Yb:ガラスレーザ、ダイオード励起Yb:YAGレーザ、ネオジム添加イットリウムアルミニウムガーネット(Nd:YAG)レーザ、COレーザ、COレーザ、Nd:ガラスレーザ、ネオジム添加オルトバナジウム酸イットリウム(Nd:YVO)レーザ、Cr:ルビーレーザ、ダイオードレーザ、ダイオード励起レーザ、エキシマレーザ、ガスレーザ、半導体レーザ、固体レーザ、色素レーザ、X線レーザ、自由電子レーザ、イオンレーザ、ガス混合物レーザ、化学レーザ、及びこれらの組み合わせが挙げられる。好ましいレーザとしては、Ybレーザ、特にYbファイバレーザが挙げられる。多くの用途において、Ybファイバレーザで使用される波長は、他のレーザ波長と比較して反射率が低くなる可能性がある。
【0098】
トーチは、ガスメタルアーク溶接(GMAW)、特に非反応性ガスを使用してアークを形成する溶接(金属不活性ガス溶接又はMIG溶接)などの、消耗電極を加熱して溶融させるために又は母材上の標的領域を加熱するために電気アークを生成することが可能な任意の構成を有することができる。したがって、トーチは、PAWトーチ、PTAトーチ、GMAWトーチ、又はMIG式トーチとすることができる。消耗電極は、電気アークを使用してトーチにより生成されたプラズマ中で溶融させられ、且つ溶融消耗電極は、加工物上の溶融池内に堆積されて、金属物体に加えられ、ニアネットシェイプの金属物体を形成する。トーチからのエネルギーによる母材の予熱は、母材への溶け込みを深くすることにより母材と溶融金属材料との融着を促進する。いくつかの実施形態において、母材の少なくとも一部分は、トーチのプラズマからのエネルギーにより溶融させることができる。いくつかの実施形態では、トーチのプラズマにより十分な熱が加えられ、異なるトーチ又はレーザ装置により溶融された金属材料を堆積させるべき位置において母材に溶融池を形成する。
【0099】
母材を予熱して予熱領域を形成するための第1の融解工具と、消耗電極又は金属ワイヤを溶融させるための第2の融解工具とを使用することにより、基材への熱供給とは無関係に消耗電極又は金属ワイヤに向けられる熱エネルギーを増加させることが可能となる利点がもたらされる。消耗電極又は金属ワイヤに適用される融解力は、消耗電極若しくは金属ワイヤの安定した溶解及び/又は燃え切り点を確保するために、質量入力(加工物に付加すべき消耗電極又は金属ワイヤの溶融金属溶滴の量)と一致するように選択することができる。したがって、基材を過熱させずに、且つ同時に、飛散の危険性なしに、又は余分な溶融池を形成せず、これにより、堆積された材料の圧密の制御を失わずに、溶融金属の堆積速度を増加させることが可能である。
【0100】
本明細書で提供する付加製造を使用してニアネットシェイプ金属物体を製造するためのシステムでは、多くの従来型の付加製造製品に見られる金属結晶粒柱状構造及び大きな結晶粒度に関連する問題を大幅に軽減する噴流装置が利用される。溶融池への若しくは溶融池の近傍への冷却ガス噴流の送出のための噴流装置、又は凝固金属への冷却ガス噴流の送出のための噴流装置、又は溶融池への若しくは溶融池の近傍への冷却ガス噴流の送出のための第1の噴流装置と、凝固金属への冷却ガス噴流の送出のための第2の噴流装置とを含む本明細書で提供するシステムを使用して製造された製品の結晶粒構造は、ほぼ等軸であり且つ微細化構造を呈する金属結晶粒を有する製造された金属製品をもたらす。本明細書で提供する1つ又は複数の噴流装置を使用して、付加製造中に冷却ガスを適用し、溶融池の自由表面への、又は溶融池を横切る箇所への、又は溶融金属が冷えるときの液体と固体との境界への、又は液固境界を越えた所の凝固金属への、又はこれらの任意の組み合わせへのガス噴流衝突を生じさせることにより、結果として、微細化された結晶粒構造を有する製造製品がもたらされ、且つこれらのシステムを使用して生産された製品は、強度、耐疲労性、及び耐久性の向上を示す。
【0101】
溶融池の液固境界に不活性ガスの噴流を方向付ける噴流装置は、溶融池自由表面における対向する凝固前面を誘起するか又は加速させることができる。エピタキシの阻止は、連続層が最上層の結晶粒から核形成して凝固するときに達成することができる。凝固した状態の材料の領域に向けられた噴流装置での集中した乱流による強制冷却により、最終的な結晶構造と局所的な規則化とに影響を与える可能性のある、固相変態、析出反応、及びその他の2次相現象を制御又は調整することができる。
【0102】
冷却ガスの噴流を堆積され凝固した状態の材料にその場で適用することにより冷却速度を増加させるために堆積層480の凝固した状態の材料上に冷却ガスの乱流をその場で方向付ける噴流装置を含む例示のシステムの描写が図7に描かれている。描かれているシステムは、ワイヤ送給器300からの金属ワイヤ350を加熱して溶融させ、加工物400に落下して加工物400上に溶融池425を形成する溶融金属375の溶滴を形成する、主要PTAアーク330を生成する主要融解工具である単一の融解工具200を含む。噴流装置500により提供される冷却ガス530の噴流による堆積プロセス中の堆積された状態の材料の強制冷却により、付加製造製品の微細構造の微細化を達成することができる。
【0103】
図7に示すように、システムは、ワイヤ送給器300に接続された噴流装置500と、ワイヤ送給器500に別々に直接(温度センサ550の実施形態についての描写のように)又はブラケット570を介して(温度センサ560の実施形態の描写のように)取り付けられた温度センサ550及び560とを含むことができる。図7に描かれているシステムの実施形態は、ワイヤ送給器300に接続された温度センサ550及び温度センサ560を示しているが、そのような取り付けは単なる例示にすぎない。
【0104】
例えば図8及び図9に図示するように、加工物の所望の表面への冷却ガスの適用と、冷却ガス噴流がその場で方向付けられる加工物の適切な温度測定とを可能にする、システムの1つ又は複数の構成要素に冷却噴流装置500と温度センサ550と温度センサ560の各々を別々に且つ個別に取り付けるために、ブラケット又は取り付けアームを別々に使用することができる。いくつかの構成では、図9に図示するように、温度センサ550を融解工具200に直接又はブラケット575を介して取り付けることができる。他の構成では、図8に図示するように、温度センサ550をブラケット250に取り付けることができる。ブラケット250は、ワイヤ送給器300に取り付けるか、若しくはワイヤ送給器300を保持することができ、又は融解工具200に取り付けるか、若しくは融解工具200を保持することができ、又はシステムの1つ若しくは複数の他の構成要素に取り付けるか、若しくはシステムの1つ若しくは複数の他の構成要素を保持することができ、又はこれらの任意の組み合わせとすることができる。
【0105】
同様に、いくつかの構成では、温度センサ560は、ワイヤ送給器300に直接若しくはブラケット570を介して取り付けるか、又はブラケット250と同じか若しくは異なるものとすることができるブラケットに取り付けることができるが、そのようなブラケット250は、システムの1つ若しくは複数の構成要素に取り付けるか、又はシステムの1つ若しくは複数の構成要素を保持することができる。例示の目的で、図8は、温度センサ550のようにブラケット250に接続される温度センサ560を示しており、ブラケット250は、先に説明したように、ワイヤ送給器300、システムの1つ若しくは複数の構成要素、又はこれらの組み合わせに取り付けるか、或いはワイヤ送給器300、システムの1つ若しくは複数の構成要素、又はこれらの組み合わせを保持することができる。
【0106】
いくつかの構成において、温度センサは、赤外線光ファイバセンサ又は検出器から離れた箇所におけるシステムの別の構成要素に温度センサの大部分が取り付けられることを可能にする一方で、冷却ガス噴流530が方向付けられる堆積層480の表面の非接触測定を可能にするための、赤外線光ファイバセンサ又は検出器を含むことができる。温度センサ550は、冷却ガスの噴流の適用ゾーンの前方の加工物表面上で温度読み取りが行われることを可能にするように位置決めされる。温度センサ560は、冷却ガスの噴流の適用ゾーンの後方の加工物表面上で温度読み取りが行われることを可能にするように位置決めされる。温度センサ及び噴流装置の位置決めは、冷却速度を捕捉して冷却速度に影響を及ぼすのに加工物のどの温度領域が最も重要であるかによって決まることができる。位置決めは、堆積させるべき金属合金に基づいて調節することができる。
【0107】
図8には、溶融池の液固境界に冷却ガスの乱流を方向付ける第1の噴流装置と、堆積層480の凝固した状態の材料上に冷却ガスの乱流を方向付けることにより強制冷却を提供する第2の噴流装置とを含む例示のシステムの描写がなされている。描かれているシステムは、ワイヤ送給器300からの金属ワイヤ350を加熱して溶融させ、加工物400に落下して加工物400上に溶融池425を形成する溶融金属375の溶滴を形成する、主要PTAアーク330を生成する主要融解工具である単一の融解工具200を含む。冷却噴流装置100による冷却ガスの適用なしでは、堆積層480における凝固結晶435として付加製造プロセスに典型的な柱状構造が発生する可能性がある。例えば、Ti-6Al-4V合金では、凝固が、方向性を有し、且つ熱源/溶融池から加工物への急峻な熱勾配によって決定付けられる第1の領域又は凝固ゾーン430の空間的及び結晶学的β結晶粒に対してエピタキシャルである。冷却が続くと、凝固材料450を含む第2のゾーンにおいて結晶が凝固し、続いて、同素変態時にα-β微細構造の結晶化度及び形態に変化が生じる遷移が起こる可能性がある。これらは、格子における異なる結晶学的方向間の界面エネルギー、拡散速度及び熱伝導率の差に起因する、配向関係、結晶粒界の核形成及び整合によって、先に生じたβ結晶粒構造の影響を直接受ける。
【0108】
描かれているシステムにおいて、噴流装置100のノズル25からの冷却ガス噴流30は、溶融池の液固境界に方向付けられる。溶融池425の液固境界でのガス噴流30の衝突は、溶融池表面における対向する凝固前面440を誘起して加速させる。エピタキシの阻止は、連続層が最上層の結晶粒から核形成して凝固するときに達成される。噴流装置100のガス噴流30により引き起こされる強制冷却は、溶融池を横切るように、溶融池表面に、溶融池の液固境界に、又はこれらの組み合わせに、噴流装置により適用される集中した乱流により強められる。
【0109】
集中した乱流による強制冷却は、チタン合金におけるβ-α固相変態、又はニッケル基超合金における析出反応などの、固相転移を制御するために冷却噴流装置100の拡張部により、又は描かれているように、ゾーン450内の凝固した状態の材料に冷却ガス噴流525を方向付けるための第2の噴流装置500により固相変態を制御するために堆積層480の凝固した状態の材料に適用することができる。
【0110】
図に示すように、システムは、第2の噴流装置500と、付加製造プロセス全体を通して温度を監視するための少なくとも2つの温度センサとを含む。描かれている実施形態において、ブラケット250に取り付けられた第1の温度センサ550は、凝固領域440などでの、冷却ガスの適用に先立って、堆積された状態の材料の表面における温度を監視することができる。噴流装置の後ろに位置する第2の温度センサ560は、第2の噴流装置による加工物のストリングへの冷却ガスの適用後に加工物の表面565の温度を測定するために含めることができる。第1及び第2の温度センサからの温度データの使用による温度監視は、例えば、第2の噴流装置500を使用して適用される冷却ガスの流量、若しくは加工物に向かう冷却ガスの流れの持続時間、又はその両方を調節することにより、使用者が冷却速度を制御することを可能にすることができる。2つの別個の冷却噴流装置が使用される場合に、冷却ガスを各噴流装置に提供するために、単一の冷却ガス供給源を使用することができる。代替的に、各冷却噴流装置を別個の冷却ガス供給源に取り付けることができる。
【0111】
1つのトーチシステムを使用する例示的なシステムが示されているが、本方法は、そのようなシステムに限定されるものではない。2つのトーチシステムを使用することもできる。
【0112】
例示の2つのトーチシステムが図9に示されている。描かれているシステムにおいて、融解工具600は、加工物400を予熱して、加工物400を溶融金属に対してより受容的なものにする、予熱領域415を形成する。主要PTAアーク330を生成する主要融解工具である第2の融解工具200は、ワイヤ送給器300からの金属ワイヤ350を加熱して溶融させ、落下して溶融池425を形成する溶融金属の溶滴375を形成する。噴流装置100による冷却ガスの適用なしでは、堆積層480における凝固結晶435として付加製造プロセスに典型的な柱状構造が発生する可能性がある。例えば、Ti-6Al-4V合金では、凝固が、方向性を有し、且つ熱源/溶融池から加工物への急峻な熱勾配によって決定付けられる第1の領域又は凝固ゾーン430の空間的及び結晶学的β結晶粒に対してエピタキシャルである。冷却が続くと、第2のゾーン450において結晶が凝固して凝固材料を形成する。
【0113】
描かれているシステムにおいて、噴流装置100のノズル25からの冷却ガス噴流30は、溶融池の液固境界に方向付けられる。溶融池425の液固境界へのガス噴流30の衝突は、溶融池表面における対向する凝固前面440を誘起して促進する。エピタキシの阻止は、連続層が最上層の結晶粒から核形成して凝固するときに達成される。噴流装置100のガス噴流30により引き起こされる強制冷却は、溶融池を横切るように、溶融池表面に、溶融池の液固境界に、又はこれらの任意の組み合わせに、噴流装置により適用される集中した乱流により強められる。
【0114】
集中した乱流による強制冷却は、チタン合金におけるβ-α固相変態、又はニッケル基超合金における析出反応などの、固相転移を制御するためにゾーン450内の凝固した状態の材料に冷却ガス噴流525を方向付けるための第2の噴流装置500により固相変態を制御するために凝固した状態の材料に適用することができる。
【0115】
図に示すように、システムは、第2の噴流装置500と、付加製造プロセス全体を通して温度を監視するための少なくとも2つの温度センサとを含む。描かれている実施形態において、第1の温度センサ550は、凝固後の温度監視領域555などでの、冷却ガスの適用に先立って、堆積された状態の材料の表面における温度を監視することができる。噴流装置の後ろに位置する第2の温度センサは、変態後の温度監視領域565などでの、第2の噴流装置500による加工物のストリングへの冷却ガスの適用後に加工物の表面565の温度を測定するために含めることができる。第1及び第2の温度センサからの温度データの使用による温度監視は、例えば、第2の噴流装置500を使用して適用される冷却ガスの流量、若しくは加工物に向かう冷却ガスの流れの持続時間、又はその両方を調節することにより、使用者が冷却速度を制御することを可能にすることができる。
【0116】
D.方法
金属材料の連続した堆積物を互いに母材上に融着させることにより物体が作製される、付加製造により金属材料の3次元物体を製造するための方法であって、第1の加熱装置を使用して、例えば金属材料を堆積させるべき位置において母材の表面の少なくとも一部分を予熱することと、溶融金属材料を母材の予熱領域上に堆積させるように第2の加熱装置を使用して金属材料を加熱して溶融させることと、本明細書で提供する噴流装置を使用して、液体溶融池を横切るように、又は液体溶融池に衝突するように、又は液体溶融池の液固境界に隣接する凝固材料に衝突するように、又はこれらの任意の組み合わせに冷却ガスを方向付けることと、溶融金属材料の連続した堆積物が凝固して3次元物体を形成するように、第1の加熱装置及び第2の加熱装置並びに噴流装置の位置に対して母材を所定のパターンで移動させることとを含む、方法も提供される。
【0117】
1つの方法において、本明細書で提供する噴流装置は、溶融池を横切るように、溶融池表面に、溶融池の液固境界に、又はこれらの任意の組み合わせに、乱流を有する冷却ガスを方向付ける。別の方法において、本明細書で提供する噴流装置は、固相変態ゾーン、例えば、同素変態領域、又は析出反応が起こり得る領域などにおける、凝固した状態の材料に、乱流を有する冷却ガスを方向付ける。別の方法において、本明細書で提供する第1の噴流装置は、溶融池を横切るように、溶融池表面に、溶融池の液固境界に、又はこれらの任意の組み合わせに、乱流を有する冷却ガスを方向付け、且つ本明細書で提供する第2の噴流装置は、固相変態ゾーンなどにおける凝固した状態の材料に、乱流を有する冷却ガスを方向付ける。
【0118】
本明細書で提供する方法において、冷却ガスは、アルゴン、ヘリウム、ネオン、キセノン、クリプトン、及びこれらの組み合わせなどの、不活性ガスを含むことができる。冷却ガスは、非不活性ガスとすることができる。冷却ガスは、異なる元素ガスの混合物とすることができる。溶融池を横切るように、溶融池表面に、溶融池の液固境界に、又はこれらの任意の組み合わせに方向付けられる冷却ガスは、約1L/分~約2001L/分の流量を有することができる。凝固した状態の材料に方向付けられる冷却ガスは、約0.01L/分~約300L/分の流量を有することができる。冷却ガスは、定常流で適用することができ、断続的に適用することができ、又は脈動流で適用することができる。
【0119】
適用される冷却ガスの温度は、任意の温度とすることができる。冷却ガス温度は、付加形成プロセスの周囲温度とすることができる。典型的には、冷却ガス温度は、約25℃以下などの、およそ室温以下とすることができる。ガスの温度は、ガスが相互作用する表面を冷却する任意の温度とすることができる。温度は、100℃未満、又は50℃未満、又は30℃未満、又は25℃未満、又は10℃未満、又は5℃未満、又は0℃未満とすることができる。極低温のガスを使用することもできる。例えば、噴流装置の入口に送出される冷却ガスの温度は、-195℃~25℃又は約-195℃~約25℃とすることができる。
【0120】
本明細書で提供する方法では、目標冷却速度を測定及び生成するために、少なくとも2つの温度センサを有する噴流装置が使用される。温度センサ及び噴流装置の位置決めは、冷却速度を捕捉して冷却速度に影響を及ぼすのに重要であると見なされる温度領域によって決まることができる。位置決めは、堆積させるべき金属合金に基づいて調節することができる。温度センサは、冷却ガスの乱流噴流の適用前後に加工物の堆積されたストリング材料の表面の温度を捕捉するためのIR温度計を含むことができる。データに基づいて、冷却ガスの流量若しくは持続時間又はその両方を調節して冷却速度を増減させることができる。いくつかの方法では、付加製造プロセスで使用される冷却速度の部分的又は完全な自動化を可能にするために、温度データが取り込まれてインプロセスフィードバック制御を提供するために使用される。また、反復堆積物開発プログラム/スケジュールのポストプロセスを設計して加工物の堆積を自動化するためにデータを取り込んで使用することができる。
【0121】
所望の冷却速度は、合金に依存する可能性がある。異なる合金は、温度範囲と特定の温度範囲にさらされる時間とに応じて、固相変態の異なる変化を呈することができる。例えば、多くのチタン合金に対して、本明細書で提供する方法は、同素変態を促進するための1200℃~約600℃、又は1050℃~約800℃の範囲の目標冷却温度を有する。鋼合金に対して、目標冷却温度は、所望の固相変態を促進するために1000℃~約300℃、又は約800℃~400℃の範囲内とすることができる。例えば、Ti-6Al-4V合金について、この温度領域における凝固した状態の材料に向けられたガス噴流装置による冷却効果は、典型的には不所望のコロニー/ラメラ構造をもたらすものから有益で微細なかご織り構造を促進する状態へと冷却速度を高めるために使用することができる。この冷却効果は、試験中の温度測定毎に、相変態領域におけるバルク冷却速度を約10℃/秒~15℃/秒に増加させたことに相当する。局所的なガス噴流衝突により、そのような場合に加工物表面上で捕捉された温度は、80~140℃/秒であった。対象となる合金に関して、測定された表面冷却速度と認められたバルク冷却速度との関係を確立する必要がある。堆積ストリングの上部では、冷却速度が高まるが、この上部は、連続した積層を行う間に再加熱されて変態温度を超える温度になり、それゆえ、完成した堆積物に残るのは、各層の熱影響ゾーンの底部側のセグメントのみである。典型的には800~400℃の冷却中の変態のために極めて重要な温度範囲を有する鋼。
【0122】
本明細書で提供する方法では、堆積ストリングの表面温度を測定する温度センサからの温度読み取り値により決定された時間にわたる好適な局所冷却は、加工物に接合部又は遷移部を形成するのに必要であり得る入力された局所的なより高いエネルギーを放散するために使用することができる。本方法は、材料付加中に冷却速度の連続制御を可能にし、且つストリング堆積の合間に局所的な事前調整を提供するために使用することができる。本明細書で提供する方法では、加工中の加工物の温熱条件の変化に基づいて冷却ガスの流量を調節することができる。付加製造中に残留熱が蓄積したときに、又は接合部や遷移部などの、特定の構造を形成するために加えられた熱を放散するために、乱流冷却ガスの流れを増加させることができる。
【0123】
本明細書で提供する方法では、噴流装置のノズルからの乱流は、典型的には、ノズルを通る冷却ガスの高速度により達成することができる。冷却ガスの乱流を生じさせるために、他の技術を使用することもできる。例えば、噴流装置のノズルのいくつかは、少なくとも2つのノズルからの冷却ガスの噴流が互いに衝突して溶融池の近傍に冷却ガスの乱流を生み出すように位置決めすることができる。ノズルは、層流を妨げて乱流を促進するように、ノズルのオリフィス内又はノズルの本体内に突起若しくは窪み又はこれらの組み合わせを含むことができる。典型的には、ノズルを通って流れる冷却ガスの速度は、ノズルを出たガスが層流ではなく乱流を呈するように選択される。
【0124】
ノズルの数及びノズルの構成は、進行方向に沿って、例えば、約5mm~約50mm、又は約10mm~約40mm、又は約15~約30mmの、加工物の目標長さをカバーする冷却ガスを送出するように選択することができる。
【0125】
付加製造において従来使用されていた典型的なプロセス条件は、通常、急峻な熱勾配の存在に起因して方向性凝固及び柱状結晶の成長をもたらすが、このことは、利用される合金に依存する可能性がある。例えば、Ti-6Al-4V合金については、凝固が、方向性を有し、且つ熱源/溶融池から加工物への急峻な熱勾配を含むプロセス特性によって決定付けられる空間的及び結晶学的β結晶粒に対してエピタキシャルである。同素変態時のTi-6Al-4V合金のα-β微細構造の結晶化度及び形態は、格子における異なる結晶学的方向間の界面エネルギー、拡散速度及び熱伝導率の差に起因する、配向関係、結晶粒界の核形成及び整合によって、先に生じたβ結晶粒構造の影響を直接受ける。このマクロとミクロの相互作用は、先に生じたβ結晶粒内の結晶学的及び形態学的多様性の長い範囲にわたる制限、ひいては、β結晶粒界での歪応答における顕著な差につながる。
【0126】
本明細書で提供する方法は、溶融池長さの縮小を可能にする。溶融池長さの縮小は、溶融池の後縁部での凝固速度の増加により達成することができる。溶融池への乱流冷却ガスの適用により、凝固が増大し、凝固が起こる時間が短くなる。本明細書で提供する噴流装置を使用して冷却ガスを適用することにより達成される凝固速度に応じて、溶融池全長を約10%~約50%短くすることができる。例えば、従来の付加製造方法及びシステムと比較して、溶融池長さは、従来の付加製造技術での溶融池長さの90%以下、又は80%以下、又は70%以下、又は60%以下、又は50%以下とすることができる。
【0127】
本明細書で提供する噴流装置は、結晶粒微細化を促す。プロセスパラメータを制御することにより、その効果を補助することができる。このことは、Ti-6Al-4Vなどの、その合金が呈する狭い凝固温度範囲に起因して凝固微細化に抵抗性を示す合金において特に当てはまる。凝固特性により、金属付加製造の典型的な熱勾配及び凝固速度では構成上の過冷却が起こり難くなる。
【0128】
本明細書で提供する噴流装置は、単一の融解装置又は1つのトーチ構成を使用する金属付加製造の構成において使用することができる。本明細書で提供する噴流装置は、金属付加製造の2つのトーチ構成において使用することができる。予熱トーチは、特定の目的のための加工物表面温度制御を達成するために使用することができる。別個の第2のトーチは、金属ワイヤなどの、供給原料を溶融させるための溶解トーチとして使用することができる。熱勾配は、溶解トーチに必要なエネルギー強度を抑制することにより調整することができ、且つ溶融池自体を過度に過熱せずに溶融池の周縁部における濡れ性を確保することにより溶融金属の所望の接触角度を達成するために調整することができる。熱勾配の調整は、結晶粒微細化には有益であるが、噴流装置の使用により達成される効果を達成するのに必要ではない。
【0129】
ワイヤの抵抗加熱も伴う、ワイヤへの特定の目的のためのエネルギー伝達は、ワイヤを溶融させるエネルギー源も溶融池に移動させる場合のように溶融池に過剰なエネルギーを直接伝達させることなく、高堆積速度を可能にする。そのような配置は、溶融池の過熱を抑制し、ひいては、熱勾配を低減することができる。かかる配置はまた、伸長した溶融池長さを維持するのに十分な堆積速度を可能にし、且つ溶融池表面上又は溶融池の近傍での噴流装置からのガス噴流の相互作用を可能にする。これらの熱勾配の低減は、結晶粒微細化には有益であり得るが、本明細書で提供する噴流装置を使用した冷却ガスの適用により実現される結晶粒微細化の効果を達成するのに必要ではない。
【0130】
溶融池制御及びストリング形状制御の追加の態様は、噴流装置試験の試験から明らかである。上で述べたように、本明細書で提供する方法は、溶融池長さの縮小を可能にし、溶融池長さの縮小は、溶融池の後縁部での凝固速度の増加により達成することができる。本方法は、より幅広の単列の壁に合わせてストリングを成形し且つ端部に向かうガス噴流圧力による溶融変位によりストリングの端部での充填を不要にする能力を与える。本明細書で提供する方法は、付加製造プロセスにより作製される加工物の凝固構造の微細化を可能にする。本方法は、典型的に従来の付加製造システムにより生成される粗い柱状構造を排除又は大幅に低減することができる。これらの粗い柱状構造の排除により、従来の付加製造プロセスで達成されるよりも高い強度、延性及び疲労耐性を呈する製造製品を得ることができる。
【0131】
電子後方散乱回折(EBSD)は、結晶粒度及び結晶粒界タイプ、配向差、変形、相判別及び分布、結晶学的配向及び組織の測定(結晶学的ミクロ及びマクロ組織)を含む結晶構造の解析を可能にする。堆積層について、層間のエピタキシと結晶配向とを検査するためにEBSDを使用することができる。従来の付加製造プロセスに典型的な伸長柱状構造は、Ti-6Al-4V試料に生じる可能性のある望ましいα結晶粒ばらつきの数に制限を課す。このことは、ガス噴流衝突が、より微細化された結晶粒を有する材料をもたらす、本明細書で提供する方法を使用して達成されたもの(図4B)と対比した、従来の付加製造プロセスにより作製された典型的な材料(図4A)の結晶構造解析のEBSD特性評価を示す、図4A及び4Bで確認することができる。図4Aで分かるように、従来のプロセスによる典型的な粗い結晶粒材料が、先に生じたβ結晶粒界に沿ったラメラ構造の長距離の整合及び均一性を呈している。本明細書で提供する噴流装置及び方法を使用して生産された材料では、結晶学的多様性が増大し、材料が多数の初期β結晶粒配向を呈する。図4Bで分かるように、本明細書で提供する噴流装置及び方法を使用して生産された結晶粒微細化材料では、結晶粒界整合度が低減されている。
【0132】
付加製造金属製品における粗い柱状凝固構造を最小限に抑えるか又は除去する方法も提供される。本方法は、本明細書で提供する噴流装置を使用して溶融池の自由表面に乱流冷却ガス噴流を適用することを含む。溶融池の液固境界などの、溶融池に方向付けられた冷却ガス噴流は、溶融池自由表面における対向する凝固前面の成長を誘起するか若しくは加速させるか又はその両方である。これにより、連続層が最上層の結晶粒から核形成して凝固するときにエピタキシが阻止され、それにより、粗い柱状凝固構造の形成を最小限に抑えるか又は排除することができる。溶融池自由表面での核形成は、結果として、不規則な間隔を置いたより微細な粒子により柱状凝固構造の破断をもたらすことができ、柱状凝固構造の破断により、向上した再現できる材料特性が付加製造プロセス中に達成される可能性がある。本方法は、多数の初期β結晶粒配向の形成などの、結晶学的多様性の増大をもたらすことができる。本方法はまた、結晶粒界整合度を低減することができる。本方法はまた、付加製造金属製品の歪分断の低減をもたらすことができる。本方法は、特に、説明したような噴流装置を使用するガス噴流衝突を含む本明細書で提供する方法を使用して生産されない典型的な材料に対する構築方向に平行に装填された場合に、歪硬化性の向上を呈する最終材料をもたらすことができる。本方法を使用して生産される付加製造製品はまた、(ストリングに沿った)生産方向における延性の向上も示す可能性がある。
【0133】
付加製造金属製品の微細構造を微細化する方法も提供される。本方法は、本明細書で提供する冷却噴流装置を使用して、冷却ガスの噴流を堆積され凝固した状態の材料にその場で適用することにより冷却速度を増加させることを含む。堆積プロセス中の堆積された状態の材料の強制冷却により、付加製造製品の微細構造の微細化を達成することができる。冷却速度は、製造プロセス中に形成される微細構造に大きな影響を及ぼすことができる。いくつかの方法では、乱流冷却ガスを凝固した状態の堆積された材料にその場で適用することにより、同素変態を調整又は制御することができる。堆積される材料がTi-6Al-4Vなどのチタン合金である方法では、乱流である冷却ガスを凝固した状態の堆積された材料にその場で適用することによる強制冷却により、β-α固相変態を制御することができる。本明細書で提供する結晶粒微細化の方法は、より均質で且つ微細に分散した状態で存在する異なる微細構造要素を得ることにより、微細構造の二重性に起因する境界での長距離の歪不整合に対処することができる。
【0134】
図10A及び図10Bでは、微細構造への冷却速度の影響を確認することができる。製品を形成するために、Ti-6Al-4V合金を利用したプラズマ及びワイヤに基づく高堆積速度の付加製造プロセスを使用した。より速い冷却速度での冷却により、堆積製品の微細構造が著しく微細化されることが判明した。堆積された材料の温度が、測定されたバルク冷却速度15℃/秒で冷却されたとき(図10A)よりも測定されたバルク冷却速度15℃/秒で1000℃~900℃まで低下したときに(図10B)、より更に微細なかご織り微細構造を達成した。硬い凹部(図の中央の暗いピラミッド形状の窪み)は、硬度の試験時に、あまり微細化されていないかご織り微細構造(図10)と比較して微細化されたかご織り微細構造(図10B)の塑性変形の均一性が向上していることを図示している。図10Aで分かるように、凹部付近に塑性変形の局所的集中が生じている。図10Bは、塑性変形の局所的集中を示していない。したがって、堆積された状態の材料を堆積中に強制冷却するために冷却ガス噴流を適用することにより、同素相変態(ある結晶構造から別の結晶構造への変態)、析出、及び他の固相熱化学反応の改善のみならず、より微細なかご織り微細構造を達成することができる。
【0135】
付加製造金属物体をその場で強制冷却する方法も提供される。本方法は、材料の冷却速度を増加させるために、冷却ガスの噴流を堆積され凝固した状態の材料にその場で適用することを含む。冷却ガス噴流は、噴流装置により乱流で適用され、且つ約10℃/秒~約25℃/秒のバルク冷却速度、又は冷却ガスが方向付けられる表面において測定された約80℃/秒~150℃/秒の記録された冷却速度を達成することができる。
【0136】
その場でTi-6Al-4V金属物体などの、付加製造されるチタン合金の塑性変形の均一性を高める方法も提供される。本方法は、堆積され凝固した状態の材料の冷却速度を増加させ、それにより、典型的に生成されるコロニー/ラメラ微細構造ではなく、より微細なかご織り微細構造の形成を促進するために、冷却ガスの噴流を材料にその場で適用することを含む。冷却ガス噴流は、噴流装置により乱流で適用される。より微細なかご織り微細構造は、冷却速度を増加させるにつれて達成することができ、且つより微細なかご織り微細構造は、塑性変形の均一性を高める。例えば、物体を1000℃~900℃に冷却するときにバルク冷却速度を約10℃/秒~約15℃/秒に増加させることによって、より微細なかご織り微細構造をもたらし、且つ塑性変形の均一性を高めることができる。
【0137】
本明細書で提供する方法は、任意の付加製造システムで行うことができる。本方法は、全プロセスが不活性雰囲気中で行われる不活性雰囲気を提供するために不活性ガスで満たされた密閉室を含むシステムで行うことができる。不活性雰囲気は、アルゴン、キセノン、ネオン、クリプトン、ヘリウム若しくはこれらの組み合わせとするか、又はこれらを含有することができ、不活性雰囲気中での堆積を可能にする。
【実施例
【0138】
E.実施例
以下の例は、単に例示的な目的のために含まれており、本明細書で提供する実施形態の範囲を限定することを意図するものではない。
【0139】
実施例1
付加製造中に冷却ガスを噴出する本明細書で提供する(A)噴流装置なしに及び(B)噴流装置と共に、Ti-6Al-4V合金を利用したプラズマ及びワイヤに基づく高堆積速度の付加製造プロセスを使用した。使用した冷却ガスは、室温のアルゴンガスであった。図1に図示する種類の噴流装置を使用して適用された冷却ガスの流量は、20L/分であった。堆積速度は5kg/hであり、加工物の表面温度/パス間温度は650℃であった。冷却ガスを適用するために噴流装置を使用したか否かにかかわらず、堆積速度と温度は同じであった。
【0140】
その結果の顕微鏡写真が図5A及び図5Bに示されている。図5Aは、典型的な付加製造により生産された金属物体の構造を示す。図5Aにおける製造製品の結晶粒構造は粗く、柱状構造を視認できる。図5Bは、本明細書で説明する付加製造中に噴流装置を使用して溶融池に冷却ガスを適用した場合に達成される有益な結果を示している。図5Bにおける製造製品の結晶粒構造は、ほぼ等軸であり、且つ微細化された構造を呈している。よって、付加製造中に本明細書で提供する噴流装置を使用して冷却ガスを適用することにより、製品が、微細化された結晶粒構造を有する。これらの微細化された結晶粒構造を有する製造製品は、強度、耐疲労性、及び耐久性の向上を示す。
【0141】
実施例2
本明細書で提供する噴流装置を使用した、単列のTi-6Al-4Vストリング堆積物における溶融池の一方側への冷却ガスの片側のみの適用により、Ti-6Al-4V合金を利用したプラズマ及びワイヤに基づく高堆積速度の付加製造プロセスを使用した。使用した冷却ガスは、室温のアルゴンガスであった。図1に図示する種類の噴流装置を使用して適用された冷却ガスの流量は、25L/分であった。堆積速度は5kg/hであり、堆積パス間温度は500℃であった。アルゴン冷却ガスを溶融池の半分に適用し、残りの半分は未処理であった。噴流装置のノズルを融解工具の一方側のみに嵌め込むことによりこれを達成した。
【0142】
結果は図6に示されている。図で分かるように、未処理側(図中の右側部分)は、粗い結晶粒構造及び柱状構造を示した。図6の製造製品の処理側(左側)の結晶粒構造は、ほぼ等軸であり且つ微細化構造を有する金属結晶粒を有する。図中の点線は、製品の片側の典型的な結晶粒度及び形状を大まかに示している。処理側の結晶粒度は、右側に示すように、従来型の付加製造方法で達成された大きさと比較して大幅に小さくなっている(最大結晶粒寸法<2mm及び平均結晶粒度<1mm)。未処理側(左側)は、衝突する冷却ガスが熱勾配に与える影響に起因する、柱状構造の僅かな傾斜を示している。顕微鏡写真はまた、付加製造において本明細書で提供する噴流装置を使用して、噴流装置のノズルの操作により、傾斜微細構造の生成と局所的な材料特性の調整とを可能にできることを図示している。
【0143】
本発明の趣旨又は範囲から逸脱することなく、本発明に種々の修正及び変形を加えることができることは、当業者には明らかであろう。したがって、本発明は、本発明の修正及び変形が添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内にあるという条件でそれら修正及び変形を網羅することが意図される。
【符号の説明】
【0144】
以下は、明細書及び添付の図面で使用される参照番号の一覧表である。
10 第1の導管
15 第1の導管入口
20 ディフューザ
25 ノズル
30 ガス噴流
40 冷却ガス供給源
50 冷却ガス供給源
60 第2の導管
65 第2の導管入口
70 ディフューザ
75 ノズル
80 ガス噴流
85 横材
90 溶融池
95 堆積ストリング
100 噴流装置
200 融解工具
250 ブラケット
300 ワイヤ送給器
330 融解アーク又はビーム
350 金属ワイヤ
375 溶融金属溶滴
400 加工物
415 予熱領域
425 溶融池
430 凝固ゾーン
435 凝固結晶
440 冷却ガス噴流衝突により誘起された対向する凝固
450 凝固材料ゾーン
480 堆積層
500 第2の噴流装置
525 ノズル
530 冷却ガス噴流
550 温度センサ
555 凝固後温度監視領域
560 温度センサ
565 変態後温度監視領域
570 ブラケット
575 ブラケット
600 融解工具
630 融解アーク又はビーム
D 進行方向
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B