(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】鉄合金及び他の金属からなる被加工物の低圧浸炭(LPC)の方法
(51)【国際特許分類】
C23C 8/22 20060101AFI20230331BHJP
C21D 1/06 20060101ALI20230331BHJP
C21D 9/32 20060101ALN20230331BHJP
【FI】
C23C8/22
C21D1/06 A
C21D9/32 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018154603
(22)【出願日】2018-08-21
【審査請求日】2021-06-21
(32)【優先日】2017-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】PL
(73)【特許権者】
【識別番号】515276510
【氏名又は名称】セコ/ワーウィック・エス・アー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マチェイ・コレツキー
(72)【発明者】
【氏名】アグニェシュカ・ブレフカ
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-164306(JP,A)
【文献】特開昭48-014538(JP,A)
【文献】特開2004-332074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/22
C21D 1/06
C21D 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一定の時間ステップを有し、気体雰囲気で820℃から1200℃の温度における飽和を有する、連続的な、インラインの熱化学的表面処理用のデバイスにおける鉄合金及び他の金属からなる構成要素の低圧浸炭(LPC)の方法であって、
前記デバイスの作動時間ステップと同期された、フロー時間一定のシークエンスで刺激を用いて前記デバイスの真空チャンバへと気体炭素キャリアが導入され
、前記刺激の期間が1秒から10秒持続することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記気体炭素キャリアが、前記デバイスの作動時間ステップ毎に、又は1回から5回の時間ステップを飛ばして導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記気体炭素キャリアが、時間ステップ当たり1回から5回の刺激からなるシークエンスで導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記気体炭素キャリアが、0.1から100dm
3/分の流量を有する刺激で供給され、刺激の期間が1秒から
10秒持続する、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
0.2から10hPaの絶対圧力下で前記気体炭素キャリアが導入される、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項6】
前記気体炭素キャリアが炭化水素、好ましくはアセチレン又は炭化水素の混合物である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、連続的な、インラインの、被加工物の熱化学的表面処理用のデバイスにおける、鉄合金及び他の金属からなる被加工物の低圧浸炭(LPC)の方法である。
【背景技術】
【0002】
特許公報US5,205,873は、820℃から1100℃の温度にまで加熱された炉チャンバにおける低圧浸炭のプロセスを記述している。このプロセスは、空気を除去するために、約10-1hPaの初期真空が生み出されたチャンバ内で開始する。その後、一旦純粋窒素で充填され、浸炭を受けることになる被加工物がチャンバに搭載される。チャンバに搭載した後、約10-2hPaの真空が生み出され、チャージはオーステナイト化温度まで加熱される。浸炭される被加工物内で温度が一様になるまでそのような温度が維持され、その後、500hPaの圧力まで、チャンバは水素で充填される。その後、炭素のキャリアとしてのエチレンが10から100hPaの圧力下で導入され、水素及びエチレンからなる気体混合物が生成され、後者は混合物の体積の2%から約60%を形成する。
【0003】
特許公報US6,187,111B1は、その内部に1から10hPaの真空が生成された炉チャンバにおいて鋼鉄からなる被加工物を浸炭する方法であって、浸炭が起こる温度が900℃から1100℃の範囲である方法を記述している。この方法では、石炭のキャリアは気体エチレンである。
【0004】
特許公報US5,702,540及びEP0 882 811B1は、1から50hPaの圧力の真空炉内で行われる、鉄合金からなる被加工物の真空浸炭の方法であって、高温の炉チャンバにおいてメタン、プロパン、アセチレン、又はエチレンから炭素雰囲気が達成される方法を記述している。これらの化合物は独立に、又は混合物で使用される。通常、これらのプロセスにおいて炭素の飽和及び拡散の段階を用意するために、二つの方法が使用される。刺激方法(impulse method)と呼ばれる第一の方法において、浸炭雰囲気は真空の炉チャンバへと周期的に投与され、続いて、チャンバ内で技術的真空が得られるまで反応生成物の除去が行われ、その後、それは数分間連続で維持される。刺激の回数は、生成された浸炭された表面の厚さに依存し、数回~数十回の範囲である。第二の方法は注入法であり、これは、浸炭段階中に真空炉のチャンバ内のチャージへの直接的な、ノズルのシステムを介した浸炭雰囲気の連続的な投与に存在する。この段階中、炭素含有雰囲気の一定の作動圧力が維持され、各浸炭段階の後に拡散段階が起こる。この用意方法における繰り返し回数は1回から数回の範囲である。
【0005】
特許公報PL202 271B1は、減圧下における無酸素雰囲気の真空炉中で行われる、鋼鉄被加工物を浸炭する方法であって、浸炭段階は、1.5から10の体積比のエチレン又はプロパン又はアセチレンと水素との混合物の雰囲気中、5から40分間にわたって、0.1kPaから3kPaの圧力調整とともに実行され、圧力上昇時間が圧力を低下させる時間よりも3倍から20倍長い方法を記述している。
【0006】
特許公報PL204 747B1は、減圧下の真空炉内で、高温において、主に機械、乗り物、及び他の機械デバイスの構成要素である鋼鉄被加工物を浸炭する方法を記述している。減圧下で鋼鉄構成要素を浸炭するこの方法は、チャージを加熱する時間中に活性窒素のキャリアを導入することに存在する。活性窒素のキャリアを導入するプロセスは、浸炭プロセスを開始するのに要求される温度にチャージが到達した際に停止し、その後、炭素のキャリアが供給される。活性窒素キャリアを導入する時間にわたって、炉チャンバ内の圧力は0.1から50kPaに維持されるべきである。
【0007】
更に、ポーランド特許出願第P.411158は、接続されたプロセスチャンバを通して処理された被加工物のインラインフローを有する、真空浸炭及びクエンチ用のマルチチャンバ炉を記述している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第5205873号明細書
【文献】米国特許第6187111号明細書
【文献】米国特許第5702540号明細書
【文献】欧州特許第0882811号明細書
【文献】ポーランド国特許第202271号明細書
【文献】ポーランド国特許第204747号明細書
【文献】ポーランド国特許出願第411158号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によると、この低圧浸炭(LPC)法の本質は、820℃から1200℃の浸炭温度における被加工物の連続的な、インラインの熱化学的表面処理用のデバイスへの気体炭素キャリアの導入であり、この導入は、デバイスの作動時間ステップと同期された、流量及び時間が一定のシークエンスでの刺激において実施される。
【0010】
気体炭素キャリアが、デバイスの作動時間ステップ毎に、又は1回から5回の時間ステップを飛ばして導入されることが好ましい。
【0011】
気体炭素キャリアが、時間ステップ当たり1回から5回の刺激からなるシークエンスで導入されることも好ましい。
【0012】
0.1から100dm3/分の流量を有する刺激で気体炭素キャリアを供給し、刺激の期間が1秒から300秒持続することも好ましい。
【0013】
更に、0.2から10hPaの一定の絶対圧力下で気体炭素キャリアが導入されることが好ましい。
【0014】
更に、気体炭素キャリアが炭化水素、例えばアセチレン又は炭化水素の混合物であることも好ましい。
【0015】
本発明によると、このように浸炭することによって、以下のプロセスパラメータ:温度、圧力、時間ステップ及び刺激の期間、並びに気体炭素キャリアの流量、の調節に由来する炭素濃度勾配の無制限な分布を有する浸炭層の形成が可能となる。比較的高温が使用され、それによってプロセス時間が短縮され、コストが削減される際に、これは特に重要である。
【0016】
刺激中に時間ステップを飛ばす:時間ステップが飛ばされない場合、気体刺激は各時間ステップ中に同一である;一時間ステップが飛ばされる場合、刺激は二時間ステップ毎である;二時間ステップが飛ばされる場合、刺激は三時間ステップ毎である、等。
【0017】
<実施例1>
16MnCr5鋼製からなり、重量が2.49kgであり、表面積が0.054m2であり、180秒の時間ステップの一組の同一の歯車を、3つのプロセスチャンバからなるインライン被加工物フローを備えた真空炉に配置した。各プロセスチャンバは、それぞれ加熱用、浸炭用、及び拡散用であり、それぞれ15の位置からなる。順番に、車輪は、加熱チャンバから始まり、浸炭チャンバ及び拡散チャンバへと続く、3チャンバ内の15の位置全てを通って移動した。加熱チャンバでそれらを950℃の温度まで加熱した。次に、950℃の温度まで加熱された浸炭チャンバ内で、15位置のそれぞれに対して、180秒の時間ステップのそれぞれにおいて、16dm3/分の流量で8秒間アセチレンを導入することにより車輪を低圧浸炭処理した。その後、車輪は拡散チャンバに移動され、10の位置においてそれらは950℃の温度のままにされ、残りの5つの位置では温度は860℃に下げられた。次に、0.3MPaの圧力下、窒素中で車輪を独立的に急冷し、付属のデバイス中、180℃で焼戻しした。
【0018】
全ての車輪上に、歯の側面で測定された0.60±0.02mmの従来的な厚さの均一な浸炭表面が達成され、適切なマルテンサイト微細構造を有し、表面下の領域に炭化物の析出はなかった。浸炭された構成要素の表面は金属光沢を示し、炉装置内に炭素関連汚染はなかった。
【0019】
<実施例2>
16MnCr5鋼製からなり、重量が1.66kgであり、表面積が0.07m2であり、90秒の時間ステップの一組の同一の歯車を、3つのプロセスチャンバからなるインライン被加工物フローを備えた真空炉に配置した。各プロセスチャンバは、それぞれ加熱用、浸炭用、及び拡散用であり、それぞれ15の位置からなる。順番に、車輪は、加熱チャンバから始まり、浸炭チャンバ及び拡散チャンバへと続く、3チャンバ内の15の位置全てを通って移動した。加熱チャンバでそれらを1040℃の温度まで加熱した。次に、1040℃の温度まで加熱された浸炭チャンバ内で、15位置のそれぞれに対して、90秒の時間ステップのそれぞれにおいて、22dm3/分の流量で10秒間アセチレンを導入することにより車輪を低圧浸炭処理した。その後、車輪は拡散チャンバに移動され、10の位置においてそれらは1040℃の温度のままにされ、残りの5つの位置では温度は860℃に下げられた。次に、0.3MPaの圧力下、窒素中で車輪を独立的に急冷し、付属のデバイス中、180℃で焼戻しした。
【0020】
全ての車輪上に、歯の側面で測定された0.65±0.02mmの従来的な厚さの均一な浸炭表面が達成され、適切なマルテンサイト微細構造を有し、表面下の領域に炭化物の析出はなかった。浸炭された構成要素の表面は金属光沢を示し、炉装置内に炭素関連汚染はなかった。