(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12C 7/047 20060101AFI20230331BHJP
【FI】
C12C7/047
(21)【出願番号】P 2018157636
(22)【出願日】2018-08-24
【審査請求日】2021-08-17
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】蛸井 潔
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-118824(JP,A)
【文献】特開2019-106903(JP,A)
【文献】特開2007-189933(JP,A)
【文献】特開2003-250512(JP,A)
【文献】Determination of aminoacids in beers using the UPLC amino acid analysis solution., 2007, [Retrievedon 2022.06.28], Retrieved from Internet Website WATERS <URL:https://www.waters.com/webassets/cms/library/docs/720002158en.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,C12C,C12G,C12H
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料として大麦および麦芽を使用したビールテイスト飲料であって、
旨味系アミノ酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)を含有し、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))が1.35以上1.70以下であり、
前記旨味系アミノ酸合計含有量が100mg/L以上130mg/L以下であり、
前記GABA含有量が75mg/L以上90mg/L以下であることを特徴とする、ビールテイスト飲料
(γ-アミノ酪酸(GABA)が添加または除去されたものを除く)。
【請求項2】
麦芽使用比率が50重量%以上であることを特徴とする、請求項
1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
原料として大麦および麦芽を使用したビールテイスト飲料の製造方法であって、
発酵工程において、旨味系アミノ酸合計含有量を100mg/L以上130mg/L以下とし且つGABA含有量を75mg/L以上90mg/L以下とし、前記GABA含有量に対する前記旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))を1.35以上1.70以下とする工程を含む、ビールテイスト飲料の製造方法
(γ-アミノ酪酸(GABA)の添加または除去を行う工程を含むものを除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールテイスト飲料市場においては、従来から、様々な消費者ニーズに応えるため、多種多様な商品が販売されている。特に、コクとキレを有するビールテイスト飲料のニーズは高く、このコクには、香味の強さ、濃さ、旨味などが関与している。
【0003】
そして、例えば、特許文献1には、麦芽使用比率が25質量%未満であり、麦芽オフフレーバーが少ないにもかかわらず、コクが強く、かつ華やかな香りを有する、アミノ酸含有量とリナロール含有量が所定の範囲内に調整された発酵麦芽飲料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ビールテイスト飲料のコクを増強させるとキレが悪くなる場合もあり、当業界においては、好ましいコクとキレを有するビールテイスト飲料の開発が引き続き望まれている。
【0006】
そこで本発明は、好ましい旨味を有し、且つ旨味の後残りがなく、キレのよい旨味を有するビールテイスト飲料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、驚くべきことに、低呈味性であるγ-アミノ酪酸(GABA)と旨味系アミノ酸との含有比率がビールテイスト飲料の旨味に影響していることを明らかにした。この知見から、旨味系アミノ酸およびGABAを含有し、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))が1.00以上2.00以下であるビールテイスト飲料とすることで、好ましい旨味を有し、且つ旨味の後残りがなく、キレのよい良好な旨味を感じることができるビールテイスト飲料を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の(1)~(6)である。
(1)旨味系アミノ酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)を含有し、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))が1.00以上2.00以下であることを特徴とする、ビールテイスト飲料。
(2)旨味系アミノ酸合計含有量が50mg/L以上140mg/L以下であることを特徴とする、(1)に記載のビールテイスト飲料。
(3)GABA含有量が75mg/L以上であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のビールテイスト飲料。
(4)麦芽使用比率が50重量%以上であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載のビールテイスト飲料。
(5)GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))を1.00以上2.00以下とする工程を含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
(6)発酵工程において旨味系アミノ酸合計含有量を50mg/L以上140mg/L以下とすることを特徴とする、(5)に記載のビールテイスト飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば 、好ましい旨味を有し、且つ旨味の後残りがなく、キレのよい良好な旨味を感じることができるビールテイスト飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、旨味系アミノ酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)を含有し、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L)、以下においては旨味系アミノ酸/GABAという場合もある)が1.00以上2.00以下であるビールテイスト飲料、およびその製造方法である。
【0011】
ここで、本発明において「ビールテイスト飲料」とは、ビール様の風香味を有する飲料を意味する。つまり、この「ビールテイスト飲料」には、酒税法で定義される発泡性酒類(ビール、発泡酒、その他醸造酒(発泡性)(1)(第三のビール)およびリキュール(発泡性)(1)(新ジャンルビール))に属する飲料はすべて包含される。さらに、ビール様の風香味を有し、酒税法で定義される発泡性酒類には属さない飲料および清涼飲料水(例えばノンアルコールビールテイスト飲料など)についても、本発明の「ビールテイスト飲料」に包含される。
【0012】
まず、本発明のビールテイスト飲料は、旨味系アミノ酸を含有する。なお、本発明において「旨味系アミノ酸」とは、アスパラギン酸(Asp)、スレオニン(Thr)、セリン(Ser)、アスパラギン(Asn)、グルタミン酸(Glu)、グルタミン(Gln)、リジン(Lys)およびアルギニン(Arg)を意味し、つまり、本発明のビールテイスト飲料は、Asp、Thr、Ser、Asn、Glu、Gln、LysおよびArgからなる群から選ばれる少なくとも1以上を含有する。
【0013】
また、本発明のビールテイスト飲料は、γ-アミノ酪酸(GABA)も含有する。このGABAは、低呈味性であるが、ストレス低減作用や血圧低下作用などの保健機能を有することが知られているアミノ酸の一種である。
【0014】
そして、本発明のビールテイスト飲料においては、GABA含有量に対する旨味系アミノ酸合計含有量の比率(旨味系アミノ酸合計含有量(mg/L)/GABA含有量(mg/L))を1.00以上2.00以下、好ましくは1.20以上1.90以下、より好ましくは1.35以上1.70以下となるように調整する。これにより、好ましい旨味を有し、且つ旨味の後残りがなく、キレのよい良好な旨味を感じる優れたビールテイスト飲料を得ることができる。なお、本発明における旨味の「キレ」とは、旨味の後味のスッキリさ、および爽快さを意味する。
【0015】
さらに、本発明の一態様として、より旨味の後残りがなく、よりキレのよい良好な旨味を感じることができるビールテイスト飲料を得るため、本発明のビールテイスト飲料中における旨味系アミノ酸合計含有量を、前記旨味系アミノ酸/GABAを満たす範囲内であり、且つ50mg/L以上140mg/L以下、より好適には100mg/L以上130mg/L以下となるように調整するのが好ましい。
【0016】
さらにまた、本発明の一態様として、より旨味の後残りがなく、よりキレのよい良好な旨味を感じることができるビールテイスト飲料を得るため、本発明のビールテイスト飲料中におけるGABA含有量を、前記旨味系アミノ酸/GABAを満たす範囲内であり、且つ75mg/L以上、より好適には75mg/L以上90mg/L以下となるように調整するのが好ましい。
【0017】
そして、旨味系アミノ酸含有量およびGABA含有量は、調味料や旨味系アミノ酸および/またはGABA含有原料などの添加により調整することも可能であるが、原料として使用する麦芽(大麦麦芽、小麦麦芽)・大麦の種類や使用量、麦芽製造条件、発酵条件などを制御することにより調整するのが好ましく、特に旨味系アミノ酸含有量は、発酵条件の制御により発酵工程終了時において所定の範囲となるように調整する方法がビール様の風香味を高度に維持するという点でより好ましい。また、GABA含有量は、通常の酵母は発酵においてGABAを利用したり生産したりすることがほとんどないため、麦芽・大麦の種類や使用量、あるいは麦芽製造条件を制御することにより調整するのが好ましい。なお、旨味系アミノ酸含有量およびGABA含有量は、測定サンプルを採取して遠心分離した後、その上清を0.02Nの塩酸で処理し、これをアミノ酸分析装置によって定量することにより測定を行うことができる。
【0018】
ここで、本発明のビールテイスト飲料に使用する原料としては、前述の麦芽および大麦に加えて、米、とうもろこし、豆類、ホップ、果実、香辛料、着色料、酸化防止剤、甘味料、苦味料などが挙げられる。また、発酵を促進するために、発酵原料として糖類(グルコース、フルクトース、ショ糖、マルトース、オリゴ糖など)を併用してもよい。
【0019】
これらの原料は、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲であれば、使用量等に特段の制限はないが、本発明のビールテイスト飲料においては、麦芽使用比率を50重量%以上とすると、麦芽由来の風香味とコクが付与され、香りと旨味の好適なバランスを維持することができるためより好ましい。なお、本発明において「麦芽使用比率」とは、アルコールの生成に寄与する全原料中に占める麦芽の使用割合を意味し、ノンアルコールビールテイスト飲料においても同様に計算するものとする。
【0020】
本発明に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は特に限定されないが、好ましい範囲としては、1v/v%以上20v/v%未満などが示される。あるいは、アルコール度数1v/v%未満であるノンアルコールビールテイスト飲料としてもよい。ここで、本発明において「アルコール度数(v/v%)」とは、改訂BCОJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集2013年増補改訂)8.3アルコールに記載されている方法(8.3.6アルコライザー法)に基づき測定したものを意味する。そして、本発明において「アルコール」とは、エタノールを意味する。
【0021】
また、本発明に係るビールテイスト飲料のアルコール度数は、その製造工程において、発酵条件を制御する方法、発酵後の液に焼酎、ブランデー、ウォッカ等の各種スピリッツ、原料用アルコールなどの蒸留酒を配合する方法などによって調整することができる。
【0022】
さらに、本発明に係るビールテイスト飲料は、発泡性であってもよい。ここで、本発明において「発泡性」とは、20℃における炭酸ガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)以上であることを意味する。炭酸ガスは、発酵で生成したものであってもよいし、カーボネーション(炭酸ガス圧入)により炭酸ガスを付与したものであってもよい。カーボネーション工程は、バッチ式で行ってもよいし、配管路に炭酸ガス圧入システム(カーボネーター)が組み込まれたインライン方式で連続的に行ってもよい。また、カーボネーション工程は、フォーミング(泡噴き)の発生等を避けるために、液の液温を10℃以下(好ましくは4℃以下)として行うのが好適である。
【0023】
なお、本発明に係るビールテイスト飲料の製造方法は、旨味系アミノ酸/GABA、旨味系アミノ酸合計含有量、GABA含有量を調整する工程など前述した工程については、その方法にしたがって行うのが好ましいが、その他の工程については常法にしたがえばよく、特段限定はされない。製造方法の一例としては、まず、麦芽、大麦等を含む原料を使用して常法により麦汁を調製し、必要であればホップなどをこの麦汁に添加して煮沸し、沈殿物を除去してから所定の条件で酵母による発酵を行う。発酵後は貯酒(熟成)および濾過を行って製品とする。必要であれば、任意の工程において、スピリッツ等の添加やアルコールの除去などによるアルコール度数の調整や、カーボネーションを行ってもよい。さらに、この製品を金属製容器、ガラス製容器などに充填して提供してもよい。
【0024】
本発明のビールテイスト飲料は、旨味系アミノ酸やGABAなどを含むエキス分全体については、通常のビールテイスト飲料で設定される範囲(例えば、エキス分として0.5~6.0g/100cm3程度)から大幅に逸脱しなければ、本発明の効果発揮に大きな影響を与えない。
【0025】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例1】
【0026】
(ビールテイスト飲料の調製)
乾燥および粉砕された麦芽(大麦麦芽および小麦麦芽)と大麦を下記表1に示す比率で使用して水と混合し、常法により糖化および濾過を行い、5種類の麦汁を調製した。得られた各麦汁を所定時間煮沸し、この煮沸の際にホップおよびオレンジピールを所定量添加した。煮沸終了後に沈殿物を分離、除去し、その後、各麦汁を冷却した。そして、この得られた各発酵前液(冷麦汁)に上面発酵酵母を添加し、上面発酵酵母を使用した発酵工程および熟成を所定期間行った後、常法により濾過を行って、5種類のビールテイスト飲料試験サンプル(サンプルI~V)を得た。
【0027】
【実施例2】
【0028】
(分析および官能試験)
実施例1で調製したビールテイスト飲料試験サンプルについて、それぞれ旨味系アミノ酸含有量およびGABA含有量を測定するとともに、訓練され官能的識別能力を備えた4名のパネリストによる官能評価試験を行った。
【0029】
なお、旨味系アミノ酸含有量およびGABA含有量は、測定サンプルを採取して遠心分離した後、その上清を0.02Nの塩酸で処理し、これをアミノ酸分析装置によって定量することにより測定した。さらに、官能評価試験は、各ビールテイスト飲料試験サンプルの旨味およびキレ(旨味の後残りの少なさ)について、以下に示す評価基準を用い、パネリスト間において共通の評価基準となるよう統一した。具体的には、サンプルIについての旨味の評価を2.0、キレの評価を5.0とし、このサンプルIを基準とした以下の評価基準に基づいて4名のパネリストが相対評価により各試験サンプルを官能評価し、この平均値を算出した。
【0030】
<旨味の評価基準>
5:サンプルIよりも旨味が非常に強く、トップ(口に入れた時)の旨味を極めて強く感じる。
4:サンプルIよりも旨味が強く、トップ(口に入れた時)の旨味をかなり感じる。
3:サンプルIよりも旨味がやや強く、トップ(口に入れた時)の旨味を一定程度感じる。
2:トップ(口に入れた時)の旨味をやや感じる(サンプルI)。
1:サンプルIよりも旨味が弱く、トップ(口に入れた時)の旨味をほとんど感じない。
【0031】
<キレの評価基準>
5:旨味の後残りはほとんどない(サンプルI)。
4:サンプルIよりも旨味の後残りが若干あるが、キレは良好である。
3:サンプルIよりも旨味の後残りがややあるが、キレは感じられる。
2:サンプルIよりも旨味の後残りがあるが、キレはやや感じられる。
1:サンプルIよりも旨味の後残りがかなりあり、キレがほとんど感じられない。
【0032】
この分析結果および官能評価結果を下記表2に示した。この結果、旨味系アミノ酸/GABAが0.45、旨味系アミノ酸含有量が33mg/LであるサンプルI(トップの旨味があまりなく、旨味の後残りもない試験サンプル)に対して、旨味系アミノ酸/GABAが41.47、旨味系アミノ酸含有量が117mg/LであるサンプルII、旨味系アミノ酸/GABAが1.61、旨味系アミノ酸含有量が124mg/LであるサンプルIII、および旨味系アミノ酸/GABAが1.86、旨味系アミノ酸含有量が138mg/LであるサンプルIVは、トップの旨味を十分感じるけれども旨味の後残りは少なくキレがよいことが明らかとなった。また、旨味系アミノ酸/GABAが2.16、旨味系アミノ酸含有量が152mg/LであるサンプルVは、トップの旨味を十分感じるが旨味の後残りがある(キレが悪い)ことも明らかとなった。
【0033】
【0034】
また、上記分析結果から、本実施例においては、麦芽使用比率を変えることによって旨味系アミノ酸のうち特にAsp、GluおよびArgの含有量の変動が大きくなることが示された。
【0035】
以上より、旨味系アミノ酸/GABAを概ね1.00以上2.00以下の範囲とし、また、旨味系アミノ酸含有量を概ね50mg/L以上140mg/L以下の範囲とすれば、トップの旨味がはっきり感じられ且つ旨味のキレがよいビールテイスト飲料が得られることが示された。