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7253903粘着シートおよびその製造方法、ならびに画像表示装置の製造方法
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  • -粘着シートおよびその製造方法、ならびに画像表示装置の製造方法 図1
  • -粘着シートおよびその製造方法、ならびに画像表示装置の製造方法 図2
  • -粘着シートおよびその製造方法、ならびに画像表示装置の製造方法 図3
  • -粘着シートおよびその製造方法、ならびに画像表示装置の製造方法 図4
  • -粘着シートおよびその製造方法、ならびに画像表示装置の製造方法 図5A
  • -粘着シートおよびその製造方法、ならびに画像表示装置の製造方法 図5B
  • -粘着シートおよびその製造方法、ならびに画像表示装置の製造方法 図6
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】粘着シートおよびその製造方法、ならびに画像表示装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/38 20180101AFI20230331BHJP
   C09J 7/10 20180101ALI20230331BHJP
   C09J 4/02 20060101ALI20230331BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20230331BHJP
   C09J 4/06 20060101ALI20230331BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20230331BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230331BHJP
   B32B 7/06 20190101ALI20230331BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J7/10
C09J4/02
C09J133/14
C09J4/06
C09J175/04
B32B27/00 L
B32B27/00 M
B32B7/06
G02F1/1333
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018218422
(22)【出願日】2018-11-21
(65)【公開番号】P2020083996
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100152571
【弁理士】
【氏名又は名称】新宅 将人
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】下栗 大器
(72)【発明者】
【氏名】野中 崇弘
(72)【発明者】
【氏名】寳田 翔
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 理仁
(72)【発明者】
【氏名】畑中 逸大
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-010198(JP,A)
【文献】特開2017-149807(JP,A)
【文献】特開2016-130747(JP,A)
【文献】特開2014-043543(JP,A)
【文献】国際公開第2017/022770(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/170875(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00
B32B 7/06
G02F 1/1333
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋構造を有するアクリル系ベースポリマー;1分子中に2個以上の光重合性官能基を有する光重合性多官能化合物;および光重合開始剤を含有する粘着剤組成物が層状に形成された光硬化性の粘着シートであって、
前記架橋構造を有するアクリル系ベースポリマーは、モノマー成分の合計100重量部に対してヒドロキシ基含有モノマーを5~30重量部含み重量平均分子量が30万以上であるアクリル系ベースポリマー100重量部に、0.03~0.5重量部のポリイソシアネート架橋剤による架橋構造が導入されたものであり、
前記粘着剤組成物は、前記アクリル系ベースポリマー100重量部に対して、前記光重合性多官能化合物を1~6重量部含有し、その中で1分子中に3個以上の光重合性官能基を有する化合物の量が、前記アクリル系ベースポリマー100重量部に対して1~4重量部であり、
25℃、1Hzでの貯蔵弾性率が100~250kPaであり、
ゲル分率が25~70%であり、
前記粘着剤組成物を光硬化後の25℃、1Hzでの貯蔵弾性率が180~400kPaである、
粘着シート。
【請求項2】
25℃、10-7Hzでの貯蔵弾性率が4.5kPa以上である、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
前記粘着剤組成物を光硬化後のガラス転移温度が-3℃以下である、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
前記粘着剤組成物を光硬化後のゲル分率が65~95%である、請求項1~3のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項5】
前記粘着剤組成物を光硬化後の損失正接のピークトップ値が1.5以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項6】
ガラスに対する接着力が4N/10mm以上であり、かつ前記粘着剤組成物を光硬化後のガラスに対する接着力が4N/10mm以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記粘着剤組成物が、重量平均分子量が1000~30000のアクリル系オリゴマーを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の粘着シート。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の粘着シートの製造方法であって、
モノマー成分の合計100重量部に対してヒドロキシ基含有モノマーを5~30重量部含み重量平均分子量が30万以上であるアクリル系ベースポリマー、ポリイソシアネート架橋剤、および1分子中に2個以上の光重合性官能基を有する光重合性多官能化合物を含み、前記アクリル系ベースポリマー100重量部に対する前記ポリイソシアネート架橋剤の含有量が0.03~0.5重量部、前記光重合性多官能化合物の含有量が1~6重量部であり、前記光重合性多官能化合物のうち、1分子中に3個以上の光重合性官能基を有する化合物の量が前記アクリル系ベースポリマー100重量部に対して1~4重量部である組成物を、基材上に層状に塗布し、
前記アクリル系ベースポリマーに、前記ポリイソシアネート架橋剤による架橋構造を導入する、
粘着シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の粘着シート;前記粘着シートの第一主面に仮着された第一離型フィルム;および前記粘着シートの第二主面に仮着された第二離型フィルムを備える、離型フィルム付き粘着シート。
【請求項10】
光学フィルム;前記光学フィルムの第一主面に積層された第一粘着シート;および前記光学フィルムの第二主面に積層された第二粘着シートを備え、
前記第一粘着シートが、請求項1~のいずれか1項に記載の粘着シートである、粘着層付き光学フィルム。
【請求項11】
段差部分を有する透明部材が視認側表面に配置された画像表示装置を製造する方法であって、
請求項1~のいずれか1項に記載の粘着シートと前記透明部材とを貼り合わせた後、前記粘着シートに活性光線を照射することにより、前記粘着シートの粘着剤組成物を光硬化する、画像表示装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性を有する粘着シートおよびその製造方法に関する。さらに、本発明は当該粘着シートを用いた画像表示装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、スマートフォン、カーナビゲーション装置、パソコン用モニタ、テレビ等の各種画像表示装置として、液晶表示装置や有機EL表示装置が広く用いられている。外表面からの衝撃による画像表示パネルの破損防止等を目的として、画像表示パネルの視認側に、透明樹脂板やガラス板等の前面透明板(「カバーウインドウ」等とも称される)が設けられることがある。また、近年、画像表示パネルの視認側にタッチパネルを備えるデバイスが普及している。
【0003】
画像表示パネルの前面に前面透明板やタッチパネル等の前面透明部材を配置した画像表示装置では、画像表示パネルと前面透明部材とが、粘着シートを介して貼り合わせられている。また、タッチパネルと前面透明板との間にも粘着シートが設けられる場合がある。粘着シートにより部材間を貼り合わせて固定することにより、筐体のみに前面透明部材が固定されている場合に比べて、落下等の衝撃による前面透明部材の剥がれが生じ難いとの利点がある。
【0004】
前面透明部材の周縁には、装飾や光遮蔽を目的とした着色層(加飾印刷層)が形成される場合がある。加飾印刷層を有する透明部材に粘着剤を貼り合わせると、印刷段差部の周辺に気泡が生じ易い。そのため、厚みの大きい粘着シートにより段差吸収性を持たせ、気泡混入等の不具合を抑制する方法が採用されている。また、厚みの大きい粘着シートを用いることにより、耐衝撃性が向上する傾向がある。
【0005】
前面透明部材の貼り合わせに、光硬化性粘着剤組成物からなる粘着シートを用いる方法が提案されている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。光硬化性粘着剤組成物は、光重合性を有する多官能モノマーまたはオリゴマーを未反応の状態で含んでいる。光硬化前の粘着シートは流動性が高いため、段差吸収性に優れており、貼り合わせ界面や印刷段差付近への気泡の混入を防止できる。被着体との貼り合わせ後に粘着シートに活性光線を照射して光硬化を行うことにより、粘着剤の流動性が低下し、接着保持力が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2013/161666号
【文献】特開2014-227453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
カバーウインドウ等の前面透明部材が、表示パネルよりもサイズが大きい画像表示装置では、表示パネルの外周縁よりも外側の領域で、前面透明部材と筐体とが接着テープ等により貼り合わせられている。すなわち、前面透明部材は、接着テープ等による筐体への貼り合わせと、層間充填用粘着シートによる表示パネル表面への貼り合わせとの併用により固定されている。
【0008】
近年、スマートフォン等のモバイル機器を中心に、表示装置の狭額縁化やベゼルレス化が進んでいる。狭額縁化やベゼルレス化に伴い、表示パネル10のサイズが、前面透明部材7のサイズと同等または、表示パネルのサイズよりも大きい画像表示装置も開発されるに至っている。このような構成では、筐体9と前面透明部材7とを接着テープ等により固定することができず、粘着シート5のみで前面透明部材7を固定する必要がある(図2参照)。これに伴って、粘着シートには、より高い接着力が要求されるとともに、落下等の衝撃による剥がれが生じないことが要求されている。
【0009】
また、狭額縁化やベゼルレス化に伴い、画像表示装置の組み立てや、仕掛品の搬送時にも、高い寸法安定性が要求されるようになっている。前面透明部材の貼り合わせに用いる光硬化性の粘着シートは、光硬化前の粘着剤が柔らかく、段差吸収性に優れている。段差吸収性を持たせるために柔軟性を持たせた粘着シートは、被接着体との貼り合わせた後、光硬化前の状態では、粘着剤の流動性が高く、搬送や加工の際に外力が加わると変形しやすいため、貼り合わせ部材間の位置ズレが生じる場合がある。また、粘着剤の流動性が高い場合は、粘着シートの表面に仮着された離型シートを剥離する際に、粘着シートの糊欠け等の加工性の問題を生じる場合がある。
【0010】
上記に鑑み、本発明は、光硬化前の状態では段差吸収性と加工性とを両立可能であり、かつ光硬化後は耐衝撃性および接着耐久性に優れる粘着シートの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、粘着剤組成物が層状に形成された光硬化性の粘着シートに関する。光硬化性粘着シートを構成する粘着剤組成物は。架橋構造を有するアクリル系ベースポリマー、光重合性多官能化合、および光重合開始剤を含有する。光重合性多官能化合物は、1分子中に2個以上の光重合性官能基を有する化合物であり、1分子中に3個以上の光重合性官能基を有する化合物を用いることが好ましい。
【0012】
粘着シートは、25℃、1Hzでの貯蔵弾性率が100~250kPaであり、ゲル分率が25~70%であることが好ましい。粘着シートは、25℃、10-7Hzでの貯蔵弾性率が4.5kPa以上であることが好ましい。粘着シートは、ガラスに対する接着力が4N/10mm以上であることが好ましい。
【0013】
粘着シートに含まれる架橋構造を有するアクリル系ベースポリマーは、好ましくは、重量平均分子量が30万以上のアクリル系ベースポリマーに、イソシアネート架橋剤等による架橋構造を導入したものである。アクリル系ベースポリマーは、モノマー成分の合計100重量部に対して、ヒドロキシ基含有モノマーを5~30重量部含むものが好ましい。粘着シートは、アクリル系ベースポリマー100重量部に対して、光重合性多官能化合物を1~6重量部含有することが好ましい。
【0014】
上記の粘着シートは、アクリル系ベースポリマー、架橋剤、および光重合性多官能化合物を含む組成物を、基材上に層状に塗布し、アクリル系ベースポリマーに、架橋剤による架橋構造を導入することにより形成できる。
【0015】
本発明の粘着シートは、例えば、透明部材が視認側表面に配置された画像表示装置における透明部材の貼り合わせに用いられる。粘着シートと透明部材とを貼り合わせた後、粘着シートに活性光線を照射して、粘着剤組成物を光硬化することにより、画像表示装置を形成できる。
【0016】
光硬化後の粘着シートは、25℃、1Hzでの貯蔵弾性率が180~400kPaであることが好ましい。光硬化後の粘着シートのガラス転移温度は-3℃以下が好ましい。光硬化後の粘着シートのゲル分率は65~95%が好ましい。光硬化後の粘着シートの損失正接のピークトップ値は1.5以上が好ましい。光硬化後の粘着シートのガラスに対する接着力は4N/10mm以上が好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の粘着シートは、光硬化前の状態では段差吸収性と加工性とを両立可能であり、光硬化後は耐衝撃性および接着耐久性に優れる。本発明の粘着シートを用いて視認側表面にカバーウインドウ等を貼り合わせた画像表示装置は、接着信頼性に優れており、狭額縁化やベゼルレス化にも対応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】離型フィルム付き粘着シートの構成例を示す断面図である。
図2】画像表示装置の構成例を示す断面図である。
図3】粘着シート付き光学フィルムの積層構成例を示す断面図である。
図4】粘着シート付き光学フィルムの積層構成例を示す断面図である。
図5A】層間接着性試験の様子を示す写真である。
図5B】層間接着性試験においてスジ状の気泡が生じた試料の観察写真である。
図6】耐衝撃試験における試料の配置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、粘着シート5の両面に離型フィルム1,2が仮着された離型フィルム付き粘着シートを示している。図2は、粘着シートを用いて前面透明板7が固定された画像表示装置の構成例を示す断面図である。
【0020】
[粘着シートの物性]
本発明の粘着シートは、架橋構造を有するアクリル系ベースポリマーと、光重合性多官能化合物と、光重合開始剤とを含有する粘着剤組成物が層状に形成されたものであり、光硬化性を有する。粘着シートは透明性が高いことが好ましい。粘着シートの全光線透過率は、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。粘着シートのヘイズは1.5%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
【0021】
粘着シートに段差吸収性を持たせ、印刷段差近傍への気泡の混入を防止する観点から、光硬化前の粘着シートの温度25℃、周波数1Hzでの貯蔵弾性率G’25℃は、250kPa以下が好ましく、200kPa以下がより好ましく、180kPa以下がさらに好ましい。一方、粘着シートを被着体と貼り合わせた後の位置ズレを抑制し、加工寸法安定性を確保する観点から、光硬化前の粘着シートのG’25℃は、100kPa以上が好ましく、110kPa以上がより好ましい。
【0022】
光硬化前の粘着シートの温度25℃、周波数10-7Hzでの貯蔵弾性率は、4.5kPa以上が好ましく、5kPa以上がより好ましく、5.5kPa以上がさらに好ましい。周波数10-7Hzでの貯蔵弾性率が上記範囲内であれば、低速歪みに対して粘着シートが塑性変形し難く、被着体と貼り合わせ後の仕掛品の搬送および加工の際の粘着シートの塑性変形歪みが小さいため、加工寸法安定性が向上する傾向がある。
【0023】
光硬化前の粘着シートの温度25℃、周波数10-7Hzでの貯蔵弾性率は、20kPa以下が好ましく、15kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。周波数10-7Hzでの貯蔵弾性率が上記範囲内であれば、高温環境において粘着剤が適度の柔らかさを有するため、段差吸収性を確保できる。
【0024】
粘着シートを被着体と貼り合わせた後に光硬化を行うと、光重合性多官能化合物の光重合反応(光硬化)により、粘着シートの貯蔵弾性率が増加する。光硬化後の粘着シートの25℃、周波数1Hzでの貯蔵弾性率G’25℃は、180kPa以上が好ましく、200kPa以上がより好ましく、210kPa以上がさらに好ましい。光硬化後の粘着シートのG’25℃が高いほど接着信頼性が高められる傾向がある。
【0025】
一方、粘着シートに適度の粘性を持たせて濡れ性を確保するとともに、落下等の衝撃に対する接着耐久性を持たせる観点から、光硬化後の粘着シートのG’25℃は、400kPa以下が好ましく、350kPa以下がより好ましく、300kPa以下がさらに好ましく、280kPa以下が特に好ましい。
【0026】
光硬化後の粘着シートのガラス転移温度は、-3℃以下が好ましく、-5℃以下がより好ましく、-6℃以下がさらに好ましい。光硬化後の粘着シートのガラス転移温度は、-20℃以上が好ましく、-15℃以上がより好ましく、-13℃以上がさらに好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であることにより、低温領域においても粘着シートが適宜の粘性を有するため、耐衝撃性に優れる傾向がある。
【0027】
光硬化後の粘着シートの損失正接tanδのピークトップ値(すなわち、ガラス転移温度におけるtanδ)は、1.5以上が好ましく、1.6以上がより好ましく、1.7以上がさらに好ましく、1.75以上が特に好ましい。tanδのピークトップ値が大きい粘着シートは、粘性挙動が大きく、耐衝撃性に優れる傾向がある。
【0028】
光硬化後の粘着シートのtanδのピークトップ値の上限は特に限定されないが、一般には3.0以下である。接着保持力の観点から、tanδのピークトップ値は、2.5以下が好ましく、2.3以下がより好ましく、2.1以下がさらに好ましい。
【0029】
光硬化後の粘着シートの物性の測定には、赤外分光法により定量される残存C=C結合が15%以下となるように光硬化を行った粘着シートを用いる。粘着シートの貯蔵弾性率G’、ガラス転移温度、およびtanδのピークトップ値は、粘弾性測定により求められる。特に指定がない場合、測定周波数は1Hzである。ガラス転移温度は、tanδが極大となる温度(ピークトップ温度)である。tanδは、貯蔵弾性率G’と損失弾性率G”の比G”/G’である。貯蔵弾性率G’は、材料が変形する際に弾性エネルギーとして貯蔵される部分に相当し、硬さの程度を表す指標である。粘着シートの貯蔵弾性率が大きいほど、接着保持力が高く、歪による剥がれが抑制される傾向がある。損失弾性率G”は、材料が変形する際に内部摩擦等により散逸される損失エネルギー部分に相当し、粘性の程度を表す。tanδが大きいほど粘性の傾向が強く、変形挙動が液体的となり、反発弾性エネルギーが小さくなる傾向がある。
【0030】
G’25℃を100kPa以上として加工寸法安定性を確保しつつ、段差吸収性付与のための適度な柔軟性を持たせる観点から、光硬化前の粘着シートのゲル分率は、25~70%が好ましい。光硬化前の粘着シートのゲル分率は、30~65%がより好ましく、33~60%がさらに好ましく、35~55%が特に好ましい。接着信頼性と耐衝撃性とを両立する観点から、光硬化後の粘着シートのゲル分率は、65~95%が好ましく、70~93%がより好ましく、75~90%がさらに好ましい。
【0031】
粘着シートのゲル分率は、酢酸エチル等の溶媒に対する不溶分として求めることができ、具体的には、粘着シートを構成する粘着剤を酢酸エチル中に23℃で7日間浸漬した後の不溶成分の、浸漬前の試料に対する重量分率(単位:重量%)として求められる。一般に、ポリマーのゲル分率は架橋度に等しく、ポリマー中の架橋された部分が多いほど、ゲル分率が大きくなる。ゲル分率(架橋構造の導入量)は、架橋構造の導入方法や、架橋剤の種類および量等により所望の範囲に調整できる。
【0032】
光硬化前の粘着シートの接着力は、4N/10mm以上が好ましく、6N/10mm以上がより好ましく、7N/10mm以上がさらに好ましく、8N/10mm以上が特に好ましい。光硬化前の粘着シートの接着力が上記範囲であることにより、被着体と貼り合わせ後の仕掛品の搬送および加工の際の被着体からの粘着シートの剥がれや位置ズレを抑制できる。また、光硬化前の粘着シートの接着力が上記範囲であることにより、粘着シート5の一方の面に仮着された離型フィルム2(軽剥離フィルム)を剥離して被着体に貼り合わせた後、他方の面に仮着された離型フィルム1(重剥離フィルム)を剥離する際に、被着体と粘着シート5との界面での剥離を抑制できる。
【0033】
光硬化後の粘着シートの接着力は、4N/10mm以上が好ましく、4.5N/10mm以上がより好ましく、5N/10mm以上がさらに好ましい。光硬化後の粘着シートの接着力が上記範囲であることにより、歪による応力や落下等による衝撃が生じた場合における、被着体からの粘着シートの剥離を防止できる。
【0034】
接着力は、ガラス板を被着体として、引張速度300mm/分、剥離角度180°のピール試験により求められる。特に断りがない限り、接着力は25℃での測定値である。
【0035】
粘着シートの厚みは特に限定されず、被着体の種類や形状等により設定すればよい。前面透明板のように印刷段差を有する部材を被着体とする場合は、印刷段差の厚みよりも粘着シートの厚みの方が大きいことが好ましい。前面透明板(カバーウインドウ)の貼り合わせに用いられる粘着シートの厚みは、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上がさらに好ましい。粘着シートの厚みを大きくすることにより、段差吸収性および耐衝撃性が高くなる傾向がある。粘着シートの厚みの上限は特に制限されないが、粘着シートの生産性等の観点から、500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、250μm以下がさらに好ましい。
【0036】
[粘着剤の組成]
粘着剤の組成は特に限定されず、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系、フッ素系、天然ゴム、合成ゴム等のゴム系等のポリマーをベースポリマーとするものを適宜に選択して用いることができる。特に、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性および接着性等の粘着特性を示し、耐候性や耐熱性等にも優れることから、架橋構造が導入されたアクリル系ベースポリマーを含有するアクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【0037】
<ベースポリマー>
アクリル系ベースポリマーは、主たる構成モノマー成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0038】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が1~20である(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好適に用いられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、アルキル基が分枝を有していてもよく、環状アルキル基を有していてもよい。
【0039】
鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸イソペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソトリドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸イソテトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル、(メタ)アクリル酸イソオクタデシル、(メタ)アクリル酸ノナデシル、(メタ)アクリル酸アラルキル等が挙げられる。
【0040】
脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘプチル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル等の(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル;(メタ)アクリル酸イソボルニル等の二環式の脂肪族炭化水素環を有する(メタ)アクリル酸エステル;ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロペンタニル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート等の三環以上の脂肪族炭化水素環を有する(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0041】
アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量は、40重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましく、60重量%以上がさらに好ましい。ベースポリマーのガラス転移温度(Tg)を適切な範囲とする観点から、アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分全量に対する炭素数4~10の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量が、30重量%以上であることが好ましく、40重量%以上であることがより好ましく、45重量%以上であることがさらに好ましい。
【0042】
アクリル系ベースポリマーは、共重合成分として、架橋可能な官能基を有するアクリル系モノマー単位を含有することが好ましい。ベースポリマーが架橋可能な官能基を有することにより、ベースポリマーと架橋剤とを反応させて、粘着剤のゲル分率を所望の範囲に調整できる。
【0043】
架橋可能な官能基を有するアクリル系モノマーとしてはヒドロキシ基含有モノマーや、カルボキシ基含有モノマーが挙げられる。例えば、イソシアネート系架橋剤を用いる場合はヒドロキシ基とイソシアネート基との反応により架橋構造が導入される。エポキシ系架橋剤を用いる場合は、カルボキシ基とエポキシ基との反応により架橋構造が導入される。中でも、ベースポリマーの共重合成分として、ヒドロキシ基含有モノマーを用い、イソシアネート系架橋剤により架橋構造を導入することが好ましい。ベースポリマーが、モノマー成分としてヒドロキシ基含有モノマーを含む場合、ベースポリマーの架橋性が高められるとともに、高温高湿環境下での粘着剤の白濁が抑制される傾向があり、透明性の高い粘着剤が得られる。
【0044】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2‐ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2‐ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4‐ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6‐ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8‐ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10‐ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12‐ヒドロキシラウリルや(4‐ヒドロキシメチルシクロヘキシル)‐メチルアクリレート等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。これらの中でも、接着力向上への寄与が大きく、かつ高湿度環境下での粘着シートの白濁を抑制できることから、アクリル酸2‐ヒドロキシエチル(ホモポリマーのTg:-15℃)およびアクリル酸4‐ヒドロキシブチル(ホモポリマーのTg:-32℃)が好ましい。Tgが低く、かつ分子間水素結合の形成による貯蔵弾性率向上への寄与が大きいことから、アクリル酸4‐ヒドロキシブチルが特に好ましい。
【0045】
アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する、ヒドロキシ基含有モノマーの量は、5~30重量%が好ましく、8~25重量%がより好ましく、10~20重量%がさらに好ましい。ヒドロキシ基含有モノマーの量を多くすることにより、架橋剤の未反応官能基が減少するため、少ない架橋剤量で架橋度(ゲル分率)を高め、光硬化前の粘着シートの加工性および加工寸法安定性と段差吸収性とを両立できる。また、架橋後に未反応のヒドロキシ基が分子間水素結合を形成するため、70%以下のゲル分率でも100kPa以上のG’25℃を有する粘着シートが得られる。
【0046】
カルボキシ基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸カルボキシエチル、(メタ)アクリル酸カルボキシペンチル等のアクリル系モノマー、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等が挙げられる。
【0047】
粘着シートがタッチパネルセンサーの接着に用いられる場合、酸成分による電極の腐食を防止するために、粘着シートは酸の含有量が小さいことが好ましい。また、粘着シートが偏光板の接着に用いられる場合、酸成分によるポリビニルアルコール系偏光子のポリエン化を抑制するために、粘着シートは酸の含有量が小さいことが好ましい。このような酸フリーの粘着シートは、(メタ)アクリル酸等の有機酸モノマーの含有量が、100ppm以下であることが好ましく、70ppm以下であることがより好ましく、50ppm以下であることがさらに好ましい。粘着シートの有機酸モノマー含有量は、粘着シートを純水中に浸漬し、100℃で45分加温して、水中に抽出された酸モノマーをイオンクロマトグラフで定量することにより求められる。
【0048】
粘着シート中の酸モノマー含有量を低減させるためには、アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分における(メタ)アクリル酸等の有機酸モノマー成分の量が少ないことが好ましい。そのため、粘着シートを酸フリーとするためには、ベースポリマーがモノマー成分として有機酸モノマー(カルボキシ基含有モノマー)を実質的に含有しないことが好ましい。酸フリー粘着シートにおいては、ベースポリマーのモノマー成分の合計100重量部に対するカルボキシ基含有モノマーの量は、0.5重量部以下が好ましく0.1重量部以下がより好ましく、0.05重量部以下がさらに好ましく、理想的には0である。
【0049】
アクリル系ベースポリマーは、構成モノマー成分として、窒素含有モノマーを含んでいてもよい。窒素含有モノマーとしては、N-ビニルピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン、(メタ)アクリロイルモルホリン、N-ビニルカルボン酸アミド類、N-ビニルカプロラクタム等のビニル系モノマーや、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノアクリレート系モノマー等が挙げられる。これらの中でも、凝集力向上による接着力向上効果が高いことから、N-ビニルピロリドンが好ましい。
【0050】
アクリル系ベースポリマーが、構成モノマー成分として、ヒドロキシ基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、窒素含有モノマー等の高極性モノマーを含有することにより、粘着剤の凝集力が高められ、高温での接着保持性が向上する傾向がある。一方、高極性モノマーの含有量が過度に大きいと、ガラス転移温度が高くなり、低温での接着性や耐衝撃性が低下する場合がある。そのため、アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する高極性モノマー量(ヒドロキシ基含有モノマー、カルボキシ基含有モノマー、および窒素含有モノマーの合計)は、10~45重量%が好ましく、15~40重量%がより好ましく、18~35重量%がさらに好ましい。また、アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する窒素含有モノマーの量は、3~25重量%が好ましく、5~20重量%がより好ましく、7~15重量%がさらに好ましい。
【0051】
アクリル系ベースポリマーは、上記以外のモノマー成分として、酸無水物基含有モノマー、(メタ)アクリル酸のカプロラクトン付加物、スルホン酸基含有モノマー、燐酸基含有モノマー、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン、等のビニル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアノアクリレート系モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル等のエポキシ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコール等のグリコール系アクリルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、フッ素(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートや(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル等のアクリル酸エステル系モノマー等を含んでいてもよい。
【0052】
アクリル系ベースポリマーは、上記のモノマー成分の中で、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの含有量が最も多いことが好ましい。アクリル系ベースポリマーの構成モノマーの中で最も含有量の多いモノマー(主モノマー)の種類により、粘着シートの特性が左右されやすい。例えば、アクリル系ベースポリマーの主モノマーが炭素数6以下の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルである場合に、tanδのピークトップ値が大きくなり、耐衝撃性が向上する傾向がある。特に、アクリル酸ブチル等のアクリル酸Cアルキルエステルが主モノマーである場合に、tanδのピークトップ値が上昇する傾向がある。アクリル系ベースポリマーを構成するモノマー成分全量に対する、炭素数6以下の鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルの量は、30~80重量%が好ましく、35~75重量%がより好ましく、40~70重量%がさらに好ましい。特に、構成モノマー成分としてのアクリル酸ブチルの含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0053】
アクリル系ベースポリマーのガラス転移温度(Tg)は、-50℃以上が好ましい。アクリル系ベースポリマーのガラス転移温度は、-5℃以下が好ましく、-10℃以下がより好ましく、-15℃以下がさらに好ましい。アクリル系ベースポリマーに架橋構造を導入後は、ポリマーの組成から、理論Tgに基づいてガラス転移温度を算出すればよい。理論Tgは、アクリル系ベースポリマーの構成モノマー成分のホモポリマーのガラス転移温度Tgと、各モノマー成分の重量分率Wから、下記のFoxの式により算出される。
1/Tg=Σ(W/Tg
【0054】
Tgはベースポリマーのガラス転移温度(単位:K)、Wはベースポリマーを構成するモノマー成分iの重量分率(重量基準の共重合割合)、Tgはモノマー成分iのホモポリマーのガラス転移温度(単位:K)である。ホモポリマーのガラス転移温度としては、Polymer Handbook 第3版(John Wiley & Sons, Inc., 1989年)に記載の数値を採用できる。上記文献に記載されていないモノマーのホモポリマーのTgは、動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)のピークトップ温度を採用すればよい。
【0055】
上記モノマー成分を、溶液重合、乳化重合、塊状重合等の各種公知の方法により重合することにより、アクリル系ベースポリマーが得られる。粘着剤の接着力、保持力等の特性のバランスや、コスト等の観点から、重合方法としては溶液重合法が好適である。溶液重合の溶媒としては一般に酢酸エチル、トルエン等が用いられる。溶液濃度は通常20~80重量%程度である。重合開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化物系開始剤、過酸化物と還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤(例えば、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムの組み合わせ、過酸化物とアスコルビン酸ナトリウムの組み合わせ)等の熱重合開始剤が好ましく用いられる。重合開始剤の使用量は特に制限はされないが、例えば、ベースポリマーを形成するモノマー成分全量100重量部に対して、0.005~5重量部程度が好ましく、0.02~3重量部程度がより好ましい。
【0056】
ベースポリマーの分子量を調整するために、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤は、成長ポリマー鎖からラジカルを受け取ってポリマーの伸長を停止させるとともに、ラジカルを受け取った連鎖移動剤がモノマーを攻撃して再び重合を開始させることができる。そのため、連鎖移動剤を用いることにより、反応系中のラジカル濃度を低下させることなく、ベースポリマーの分子量の増大を抑止できる。連鎖移動剤としては、例えば、α‐チオグリセロール、ラウリルメルカプタン、グリシジルメルカプタン、メルカプト酢酸、2‐メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグルコール酸2‐エチルヘキシル、2,3‐ジメルカプト‐1‐プロパノール等のチオール類が好適に用いられる。
【0057】
連鎖移動剤の使用量は特に制限はされないが、連鎖移動剤の使用量が過度に大きい場合は、ベースポリマーの分子量が低下し、光硬化前の粘着シートの加工性および加工寸法安定性が低下する場合がある。そのため、連鎖移動剤の使用量は、ベースポリマーを構成するモノマー成分全量100重量部に対して、1重量部以下が好ましく、0.3重量部以下がより好ましく、0.15重量部以下がさらに好ましく、0.1重量部以下が特に好ましい。
【0058】
光硬化前の粘着シートの粘弾性は、ベースポリマーの構成成分および分子量に左右されやすい。ベースポリマーの分子量が大きいほど、G’25℃が大きく加工性および加工寸法安定性が向上する傾向がある。そのため、アクリル系ベースポリマーの重量平均分子量は、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。一方、ベースポリマーの分子量が過度に大きいと、段差吸収性が低下する傾向がある。そのため、ベースポリマーの重量平均分子量は、150万以下が好ましく、100万以下がより好ましく、80万以下がさらに好ましく、65万以下が特に好ましい。なお、ベースポリマーの分子量とは、架橋構造導入前ポリマーの分子量を指す。
【0059】
<ベースポリマーの架橋構造>
ベースポリマーへの架橋構造の導入方法としては、一般に、(1)架橋剤と反応可能な官能基を有するベースポリマーを重合後に、架橋剤を添加して、ベースポリマーと架橋剤とを反応させる方法;および(2)ベースポリマーの重合成分に光重合性多官能化合物を含めることにより、ポリマー鎖に分枝構造(架橋構造)を導入する方法、等が挙げられる。
【0060】
本発明の粘着シートは、ベースポリマーが上記(1)の方法により導入された架橋構造を有する。さらに、粘着シートを構成する粘着剤組成物は、光重合性多官能化合物を含んでおり、粘着シートと被着体とを貼り合わせ後に光硬化を行うことにより、上記(2)の架橋構造が導入される。すなわち、本発明の粘着シートは、光硬化前は、ベースポリマーがイソシアネート架橋剤等の(熱)架橋剤による架橋構造を有する。光硬化後の粘着シートにおいては、ベースポリマーには、イソシアネート架橋剤等による架橋構造に加えて、多官能(メタ)アクリレート等の光重合性多官能化合物(光架橋剤)による架橋構造が導入されている。
【0061】
<架橋剤>
ベースポリマーを重合後に架橋剤を添加し、必要に応じて加熱することにより、ベースポリマーに架橋構造が導入される。光重合性多官能化合物により導入される架橋構造と区別するために、イソシアネート架橋剤等による架橋を「熱架橋」と記載する場合があるが、架橋剤による架橋構造の導入は、加熱を伴わないものでもよい。アクリル系ベースポリマーに熱架橋構造を導入することにより、光硬化前の粘着シートの加工性および加工寸法安定性を向上できる。
【0062】
架橋剤としては、ベースポリマーに含まれるヒドロキシ基やカルボキシ基等の官能基と反応する化合物が挙げられる。架橋剤の具体例としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、金属キレート系架橋剤等が挙げられる。
【0063】
中でも、ベースポリマーのヒドロキシ基やカルボキシ基との反応性が高く、架橋構造の導入が容易であることから、イソシアネート系架橋剤およびエポキシ系架橋剤が好ましい。これらの架橋剤は、ベースポリマー中に導入されたヒドロキシ基やカルボキシ基等の官能基と反応して架橋構造を形成する。ベースポリマーがカルボキシ基を含まない酸フリーの粘着剤では、イソシアネート系架橋剤を用いて、ベースポリマー中のヒドロキシ基と、イソシアネート架橋剤との反応により架橋構造を形成することが好ましい。
【0064】
イソシアネート系架橋剤としては、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリイソシアネートが用いられる。イソシアネート系架橋剤としては、例えば、ブチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の低級脂肪族ポリイソシアネート類;シクロペンチレンジイソシアネート、シクロへキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の脂環族イソシアネート類;2,4-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート類;トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート3量体付加物(例えば、東ソー製「コロネートL」)、トリメチロールプロパン/へキサメチレンジイソシアネート3量体付加物(例えば、東ソー製「コロネートHL」)、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(例えば、三井化学製「タケネートD110N」、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体(例えば、東ソー製「コロネートHX」)等のイソシアネート付加物等が挙げられる。
【0065】
架橋剤の添加量を調整することにより、粘着シートのゲル分率を所定範囲に調整できる。光硬化前の粘着シートのゲル分率を25~70%とするためには、架橋剤の添加量は、ベースポリマー100重量部に対して、0.03~0.5重量部が好ましく、0.05~0.3重量部がより好ましく、0.06~0.25重量部がさらに好ましく、0.07~0.2重量部が特に好ましい。架橋剤の添加量が多いほど、光硬化前の粘着シートのゲル分率が高く、これに伴ってG’25℃が大きくなる傾向がある。
【0066】
<光重合性多官能化合物>
粘着シートに含まれる光重合性多官能化合物は、1分子中に2個以上の光重合性官能基を有する。光重合性官能基は、ラジカル重合性、カチオン重合性およびアニオン重合性のいずれでもよいが、反応性に優れることから、不飽和二重結合(エチレン性不飽和基)を有するラジカル重合性官能基が好ましい。光重合性多官能化合物としては、アクリル系ベースポリマーとの相溶性が高いことから、多官能(メタ)アクリレートが好ましく、光ラジカル反応性が高いことから、多官能アクリレートが特に好ましい。
【0067】
多官能(メタ)アクリレートとしては、ヘキサンジオールジ(メタアクリレート、ノナンジオールジ(メタアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、アルカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、およびグリセリンジ(メタ)アクリレート等の2官能(メタ)アクリル酸エステル;ペンタエリストールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、およびエトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート等の3官能(メタ)アクリル酸エステル;ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート等の4官能(メタ)アクリル酸エステル;ジペンタエリストールペンタ(メタ)アクリレート等およびジペンタエリストールヘキサ(メタ)アクリレート等の5官能以上の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0068】
光硬化後の粘着シートのG’やtanδ等の粘弾性を適切に調整する観点から、光重合性多官能化合物の分子量は1500以下が好ましく、1000以下がより好ましい。多官能化合物の官能基当量(g/eq)は、50~500が好ましく、70~300がより好ましく、80~200がさらに好ましい。ベースポリマーとの適度な相溶性を示すことから、光重合性多官能化合物は、常温で液体であるものが好ましい。
【0069】
光硬化性粘着シートにおける光重合性多官能化合物の含有量は、アクリル系ベースポリマー100重量部に対して、1~6重量部が好ましく、2~5重量部がより好ましく、2.5~4重量部がさらに好ましい。光重合性多官能化合物の含有量が少ない場合は、光硬化後の粘着シートのゲル分率およびG’25℃が小さく、接着保持性が不十分となる傾向がある。一方、光硬化性多官能化合物の含有量が多い場合は、光硬化後の粘着シートが過度に硬くなり、耐衝撃性が不十分となる場合がある。また、光硬化性多官能化合物の含有量の増大に伴って、光硬化前の粘着シート(粘着剤組成物)中のベースポリマーの比率が小さくなり、加工性や加工寸法安定性が低下する傾向がある。
【0070】
光硬化後の粘着シートにおけるポリマーの凝集性を高め、接着保持力を高める観点から、光重合性多官能化合物として、1分子中に3以上の光重合性官能基を有する化合物を用いることが好ましく、特に、3官能以上の多官能アクリレートが好ましい。2官能の光重合性化合物と3官能以上の光重合性化合物とを併用してもよい。光硬化性粘着シートにおける3官能以上の光重合性多官能化合物の含有量は、アクリル系ベースポリマー100重量部に対して、0.5~5重量部が好ましく、1~4.5重量部がより好ましく、2~4重量部がさらに好ましい。
【0071】
2官能の光重合性化合物のみでも、添加量を多くすることにより、光硬化後の接着保持力を高めることは可能である。しかし、光硬化後の粘着シートの接着保持性を高めるために、光重合性化合物の添加量を多くすると、光硬化前の粘着シートのG’25℃が小さくなり、加工性や加工寸法安定性が低下する傾向がある。
<粘着剤組成物>
ベースポリマーに、架橋剤、光重合性多官能化合物、光重合開始剤重合開始剤、および必要に応じて、オリゴマーや各種の添加剤等を混合して、粘着剤組成物を調製する。粘着剤組成物は、基材上への塗布に適した粘度(例えば、0.5~20Pa・s程度)を有することが好ましい。ベースポリマーの分子量、光重合性多官能化合物の添加量、その他の成分(例えばオリゴマー)の組成、分子量、添加量等を調整することにより、粘着剤組成物の粘度を適切な範囲とすることができる。粘度調整等を目的として、増粘性添加剤等を用いてもよい。
【0072】
(光重合開始剤)
光硬化性の粘着剤組成物は、光重合開始剤を含む。光重合開始剤としては、ベンゾインエーテル系光重合開始剤、アセトフェノン系光重合開始剤、α-ケトール系光重合開始剤、芳香族スルホニルクロリド系光重合開始剤、光活性オキシム系光重合開始剤、ベンゾイン系光重合開始剤、ベンジル系光重合開始剤、ベンゾフェノン系光重合開始剤、ケタール系光重合開始剤、チオキサントン系光重合開始剤、アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤等が挙げられる。粘着剤組成物における光重合開始剤の含有量は、ベースポリマー100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、0.05~3重量部がより好ましい。
【0073】
(オリゴマー)
粘着剤組成物は、粘着シートの接着力の調整や粘度調整等を目的として、各種のオリゴマーを含んでいてもよい。オリゴマーとしては、例えば重量平均分子量が1000~30000程度のものが用いられる。オリゴマーとしては、アクリル系ベースポリマーとの相溶性に優れることから、アクリル系オリゴマーが好ましい。
【0074】
アクリル系オリゴマーは、主たる構成モノマー成分として(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有する。中でも、構成モノマー成分として、鎖状アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(鎖状アルキル(メタ)アクリレート)、および脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(脂環式アルキル(メタ)アクリレート)を含むものが好ましい。鎖状アルキル(メタ)アクリレートおよび脂環式アルキル(メタ)アクリレートの具体例は、アクリル系ベースポリマーの構成モノマーとして先に例示した通りである。
【0075】
アクリル系オリゴマーのガラス転移温度は、20℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましく、100℃以上が特に好ましい。架橋構造が導入された低Tgのベースポリマーと高Tgのアクリル系オリゴマーとを併用することにより、粘着シートの接着力が向上する傾向がある。アクリル系オリゴマーのガラス転移温度の上限は特に限定されないが、一般には200℃以下であり、180℃以下が好ましく、160℃以下がより好ましい。アクリル系オリゴマーのガラス転移温度は、前述のFox式により算出される。
【0076】
例示の(メタ)アクリル酸アルキルエステルの中でも、鎖状アルキル(メタ)アクリレートとしては、ガラス転移温度が高く、ベースポリマーとの相溶性に優れることから、メタクリル酸メチルが好ましい。脂環式アルキル(メタ)アクリレートとしては、アクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸シクロヘキシル、およびメタクリル酸シクロヘキシルが好ましい。すなわち、アクリル系オリゴマーは、構成モノマー成分として、アクリル酸ジシクロペンタニル、メタクリル酸ジシクロペンタニル、アクリル酸シクロヘキシル、およびメタクリル酸シクロヘキシルからなる群から選択される1種以上と、メタクリル酸メチルとを含むものが好ましい。
【0077】
アクリル系オリゴマーを構成するモノマー成分全量に対する脂環式アルキル(メタ)アクリレートの量は、10~90重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましく、30~70重量%がさらに好ましい。アクリル系オリゴマーを構成するモノマー成分全量に対する鎖状アルキル(メタ)アクリレートの量は、10~90重量%が好ましく、20~80重量%がより好ましく、30~70重量%がさらに好ましい。
【0078】
アクリル系オリゴマーの重量平均分子量は、1000~30000が好ましく、1500~10000がより好ましく、2000~8000がさらに好ましい。当該範囲の分子量を有するアクリル系オリゴマーを用いることにより、粘着シートの接着力や接着保持力が向上する傾向がある。
【0079】
アクリル系オリゴマーは、上記モノマー成分を各種の重合方法により重合することにより得られる。アクリル系オリゴマーの重合に際しては、各種の重合開始剤を用いてもよい。また、分子量の調整を目的として連鎖移動剤を用いてもよい。
【0080】
粘着剤組成物にアクリル系オリゴマー等のオリゴマー成分を含める場合、その含有量は、上記のベースポリマー100重量部に対して、0.1~10重量部が好ましく、0.2~5重量部がより好ましい。粘着剤組成物中のオリゴマーの含有量が上記範囲である場合に、硬化前の粘着シートの加工性および加工寸法安定性を低下させることなく、接着性の向上を図ることが可能であり、特に光硬化後の粘着シートの接着力が向上する傾向がある。
【0081】
(シランカップリング剤)
接着力の調整を目的として、粘着剤組成物中に、シランカップリング剤を添加してもよい。粘着剤組成物にシランカップリング剤が添加される場合、その添加量は、ベースポリマー100重量部に対し通常0.01~5.0重量部程度であり、0.03~2.0重量部程度であることが好ましい。
【0082】
(他の添加剤)
上記例示の各成分の他、粘着剤組成物は、連鎖移動剤、粘着付与剤、可塑剤、軟化剤、劣化防止剤、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、界面活性剤、帯電防止剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0083】
[粘着シート]
基材上に粘着剤組成物を塗布し、必要に応じて溶媒を乾燥除去することにより、基材上に粘着シートが形成される。粘着シートの形成に用いられる基材としては、任意の適切な基材が用いられる。基材は、粘着シートとの接触面に離型層を備える離型フィルムでもよい。
【0084】
離型フィルムのフィルム基材としては、各種の樹脂材料からなるフィルムが用いられる。樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、アセテート系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂が特に好ましい。フィルム基材の厚みは、10~200μmが好ましく、25~150μmがより好ましい。離型層の材料としては、シリコーン系離型剤、フッ素系離型剤、長鎖アルキル系離型剤、脂肪酸アミド系離型剤等が挙げられる。離型層の厚みは、一般には、10~2000nm程度である。
【0085】
基材上への粘着剤組成物の塗布方法としては、ロールコート、キスロールコート、グラビアコート、リバースコート、ロールブラッシュ、スプレーコート、ディップロールコート、バーコート、ナイフコート、エアーナイフコート、カーテンコート、リップコート、ダイコーター等の各種方法が用いられる。
【0086】
粘着剤組成物が溶媒を含む場合は、基材上への粘着剤組成物の塗布後に、溶剤の乾燥を行うことが好ましい。乾燥方法としては、目的に応じて、適宜、適切な方法が採用され得る。加熱乾燥温度は、好ましくは40℃~200℃であり、さらに好ましくは、50℃~180℃であり、特に好ましくは70℃~170℃である。乾燥時間は、適宜、適切な時間が採用され得る。乾燥時間は、好ましくは5秒~20分、さらに好ましくは5秒~15分、特に好ましくは10秒~10分である。
【0087】
溶媒を乾燥後は、粘着シートの表面を保護するために、カバーシートを付設することが好ましい。カバーシートとしては、基材フィルムと同様、粘着シートとの接触面に離型層を備える離型フィルムを用いることが好ましい。
【0088】
基材上に粘着剤組成物を塗布後、必要に応じて加熱を行い、ベースポリマーに架橋構造を導入する。加熱温度や加熱時間は、使用する架橋剤の種類によって適宜設定すればよく、通常、20℃~160℃の範囲で、1分から7日程度である。溶媒を乾燥させるための加熱が、架橋のための加熱を兼ねていてもよい。前述のように、架橋構造の導入は、必ずしも加熱を伴うものでなくてもよい。
【0089】
架橋構造の形成を促進するために架橋触媒を用いてもよい。例えば、イソシアネート系架橋剤の架橋触媒としては、テトラ-n-ブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、ナーセム第二鉄、ブチルスズオキシド、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジラウレート等の金属系架橋触媒(特にスズ系架橋触媒)等が挙げられる。
【0090】
粘着シート5の表面に離型フィルム1,2を貼り合わせることにより、図1に示すように、両面に離型フィルムが仮着された粘着シートが得られる。粘着シートの形成時の基材やカバーシートを、そのまま離型フィルム1,2としてもよい。
【0091】
粘着シート5の両面に離型フィルム1,2が設けられる場合、一方の離型フィルム1の厚みと他方の離型フィルム2の厚みは、同一でもよく、異なっていてもよい。粘着シート5から一方の面に仮着された離型フィルムを剥離する際の剥離力と、粘着シート5から他方の面に仮着された離型フィルムを剥離する際の剥離力は、同一でも異なっていてもよい。両者の剥離力が異なる場合は、相対的に剥離力の小さい離型フィルム2(軽剥離フィルム)を粘着シート5から先に剥離して第一の被着体との貼り合わせを行い、相対的に剥離力の大きい離型フィルム1(重剥離フィルム)を剥離して、第二の被着体との貼り合わせを行う場合の作業性に優れる。
【0092】
[画像表示装置]
本発明の粘着シートは、各種の透明部材や不透明部材の貼り合わせに使用可能である。被着体の種類は特に限定されず、各種の樹脂材料、ガラス、金属等が挙げられる。本発明の粘着シートは、透明性が高いことから、画像表示装置等の光学部材の貼り合わせに適している。特に、本発明の粘着シートは、段差吸収性や耐衝撃性に優れることから、画像表示装置の視認側表面への前面透明板やタッチパネル等の透明部材の貼り合わせに好適に用いられる。
【0093】
図2は、画像表示パネル10の視認側表面に粘着シート5を介して前面透明板7が貼り合わせられた画像表示装置の積層構成例を示す断面図である。画像表示パネル10は、液晶セルや有機ELセル等の画像表示セル6の視認側表面に粘着シート4を介して貼り合わせられた偏光板3を備える。前面透明板7は、透明な平板71の一方の面の周縁に印刷層76が設けられている。透明板71は、例えばアクリル系樹脂やポリカーボネート系樹脂のような透明樹脂板、あるいはガラス板等が用いられる。透明板71はタッチパネル機能を備えていてもよい。タッチパネルとしては、抵抗膜方式、静電容量方式、光学方式、超音波方式等、任意の方式のタッチパネルが用いられる。
【0094】
画像表示パネル10の表面に設けられた偏光板3と、前面透明板7の印刷層76形成面とが、粘着シート5を介して貼り合わせられる。貼り合せの順序は特に限定されず、画像表示パネル10への粘着シート5の貼り合せが先に行われてもよく、前面透明板7への粘着シート5の貼り合せが先に行われてもよい。また、両者の貼り合せを同時に行うこともできる。貼り合せの作業性等の観点からは、一方の離型フィルム(軽剥離フィルム)2を剥離後、露出した粘着シート5の表面を画像表示パネル10に貼り合わせた後、他方の離型フィルム1(重剥離フィルム)を剥離して、露出した粘着シートの表面を前面透明板7に貼り合わせることが好ましい。
【0095】
粘着シート5と前面透明板7との貼り合せ後には、粘着シート5と前面透明板7の平板71部分との界面や、印刷層76等の非平坦部近辺の気泡を除去するための脱泡が行われることが好ましい。脱泡方法としては、加熱、加圧、減圧等の適宜の方法が採用され得る。例えば、減圧・加熱下で気泡の混入を抑制しながら貼り合わせが行われ、その後、ディレイバブルの抑制等を目的として、オートクレーブ処理等により、加熱と同時に加圧が行われることが好ましい。加熱により脱泡が行われる場合、加熱温度は、一般的に40~150℃程度である。加圧が行われる場合、圧力は一般に0.05MPa~2MPa程度である。
【0096】
本発明の粘着シートは、光硬化前の25℃における貯蔵弾性率G’25℃が100~250kPaであり、かつゲル分率が25~70%であるため、印刷層76等の段差形状に追従しやすく空隙の発生を抑制可能であり、かつ、加工時の糊欠けや、搬送や加工の際の部材間の位置ズレが生じ難く、加工性および加工寸法安定性に優れている。
【0097】
光硬化前の粘着シートを前面透明板等の被着体と貼り合わせた後、粘着シートを構成する粘着剤組成物の光硬化が行われる。光照射により、光重合性多官能化合物の重合反応が進行し、これに伴って粘着シートの貯蔵弾性率が大きくなり、粘着シート5と前面透明部材70との接着信頼性が高められる。
【0098】
光硬化時の照射光量は粘着シートを光硬化可能な範囲であれば特に限定されず、例えば、積算光量50~10000mJ/cm程度である。照射光量は残存C=C結合が15%以下となるように設定することが好ましい。残存C=C結合量は、赤外分光法により定量され、光硬化前の粘着シートのC=C結合量を100%、10000mJ/cmの活性エネルギー線を照射して完全に硬化した粘着シートにおけるC=C結合量を0%とする。残存C=C結合量が15%以下であれば、粘着シートの物性は、残存C=C結合量が0%の場合とほぼ同等である。
【0099】
筐体9と前面透明板7との間に隙間90が存在する場合は、樹脂材料等を隙間90に充填して封止を行うことが好ましい。前述のように、光硬化後の粘着シートは、貯蔵弾性率が大きいため、広い温度範囲での接着信頼性に優れる。そのため、樹脂材料等による封止の際の温度変化により粘着シートの貼り合わせ界面に応力歪が生じた場合でも、貼り合わせ界面での剥離を抑制できる。また、光硬化後の粘着シートは、ガラス転移温度が低く、かつtanδのピークトップ値が大きいため、耐衝撃性に優れ、落下等の衝撃による剥がれが生じ難い。
【0100】
[粘着シート付き光学フィルム]
本発明の粘着シートは、図1に示すように両面に離型フィルムが仮着された形態に加えて、粘着シートが光学フィルム等に固着されている粘着剤付きフィルムとして用いることもできる。例えば、図3に示す形態では、粘着シート5の一方の面に離型フィルム1が仮着され、粘着シート5の他方の面に偏光板3が固着されている。図4に示す形態では、偏光板3上に、さらに粘着シート4が設けられ、その上に離型フィルム2が仮着されている。
【0101】
このように、粘着シートにあらかじめ偏光板等の光学フィルムが貼り合わせられた形態では、粘着シート5の表面に仮着された離型フィルム1を剥離して、前面透明部材との貼り合わせを行い、その後に粘着シート5の光硬化を行えばよい。
【実施例
【0102】
以下に実施例および比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0103】
[アクリルオリゴマーの作製]
メタクリル酸ジシクロペンタニル(DCPMA)60重量部、メタクリル酸メチル(MMA)40重量部、連鎖移動剤としてα-チオグリセロール3.5重量部、および重合溶媒としてトルエン100重量部を混合し、窒素雰囲気下にて70℃で1時間撹拌した。次に、熱重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.2重量部を投入し、70℃で2時間反応させた後、80℃に昇温して2時間反応させた。その後、反応液を130℃に加熱して、トルエン、連鎖移動剤および未反応モノマーを乾燥除去して、固形状のアクリルオリゴマーを得た。アクリルオリゴマーの重量平均分子量は5100であった。
【0104】
[実施例1]
<ベースポリマーの重合>
温度計、攪拌機、冷却器および窒素ガス導入管を備える反応容器内に、モノマー成分として、アクリル酸ブチル(BA):64.5重量部、アクリル酸シクロヘキシル(CHA):6.0重量部、N‐ビニルピロリドン(NVP):9.6重量部、アクリル酸4‐ヒドロキシブチル(4HBA):10重量部およびアクリル酸イソステアリル:5.0重量部、熱重合開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN):0.2重量部、ならびに連鎖移動剤としてα-チオグリセロール(TGR):0.065重量部を、酢酸エチル233重量部とともに投入し、23℃の窒素雰囲気下で1時間撹拌し、窒素置換を行った。その後、56℃で5時間反応させ、続けて70℃で3時間反応させて、アクリル系ベースポリマー溶液を調製した。
【0105】
<光硬化性粘着剤組成物の調製>
上記で得られたアクリル系ベースポリマー溶液に、ベースポリマー100重量部に対して、下記の後添加成分を添加した後、均一に混合して、光硬化性粘着剤組成物を調製した。
(後添加成分)
イソシアネート系架橋剤として、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパン付加物(三井化学製「タケネートD110N」):0.1重量部;
光重合性多官能モノマーとして、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA):3.0重量部;
上記のアクリルオリゴマー:5重量部;
光重合開始剤として、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(BASF製「イルガキュア184」):0.2重量部;および
シランカップリング剤として、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学製「KBM-403」):0.3重量部。
【0106】
<粘着シートの作製>
表面にシリコーン系離型層が設けられた厚み75μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(三菱ケミカル製「ダイアホイルMRF75」)を基材(兼重剥離フィルム)として、基材上に上記の光硬化性粘着剤組成物を塗布し、100℃で3分間加熱して溶媒を除去後、片面がシリコーン剥離処理された厚み75μmのPETフィルム(三菱ケミカル製「ダイアホイルMRE75」)を貼り合わせた。この積層体を、25℃の雰囲気下で3日間エージングして架橋を進行させ、両面に離型フィルムが仮着された粘着シートを得た。
【0107】
[実施例2、比較例1~5]
後添加成分における光重合性多官能モノマーの種類および添加量を表1および表2に示すように変更した。それ以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0108】
[実施例3、比較例6,7]
後添加成分における架橋剤(タケネートD110N)の添加量を表1および表2に示すように変更した。それ以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0109】
[実施例4,5、比較例8,9]
ベースポリマーの重合における連鎖移動剤(TGR)の添加量を表1および表2に示すように変更した。それ以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0110】
[実施例6]
ベースポリマーの重合における仕込みモノマーを、アクリル酸2-エチルヘキシル(2HEA):62.9重量部、NVP:14.5重量部、4HBA:9.7重量部、およびアクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA):12.9重量部に変更した。それ以外は実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0111】
[実施例7]
後添加成分にアクリルオリゴマーを含めなかったこと以外は実施例6と同様にして粘着シートを得た。
【0112】
[実施例8]
後添加成分における光重合性多官能モノマーを表1に示すように変更した。それ以外は実施例6と同様にして粘着シートを得た。
【0113】
[評価]
<重量平均分子量>
ベースポリマーおよびアクリルオリゴマーの重量平均分子量(Mw)は、東ソー製のGPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)装置(製品名「HLC-8120GPC」)により測定した。測定サンプルは、ベースポリマーをテトラヒドロフランに溶解して0.1重量%の溶液としたものを、0.45μmのメンブレンフィルターで濾過した濾液を用いた。GPCの測定条件は下記の通りである。
(測定条件)
カラム:東ソー社製、G7000HXL+GMHXL+GMHXL
カラムサイズ:各7.8mmφ×30cm(合計カラム長さ:90cm)
カラム温度:40℃・流量:0.8mL/min
注入量:100μL
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:示差屈折計(RI)
標準試料:ポリスチレン
【0114】
<粘着シートの貯蔵弾性率、ガラス転移温度、およびtanδピーク値>
粘着シートを10枚積層して厚み約1.5mmとしたものを測定用サンプルとした。Rheometric Scientific社製「Advanced Rheometric Expansion System (ARES)」を用いて、以下の条件により、動的粘弾性測定を行った。
(測定条件)
変形モード:ねじり
測定周波数:1Hzまたは1×10-7Hz
昇温速度:5℃/分
形状:パラレルプレート 7.9mmφ
【0115】
貯蔵弾性率は、測定結果から、25℃における貯蔵弾性率G’を読み取ることにより求めた。損失正接(tanδ)が極大となる温度(ピークトップ温度)を粘着シートのガラス転移温度とした。また、ガラス転移温度におけるtanδの値(ピークトップ値)を読み取った。
【0116】
<ゲル分率>
粘着シートから約0.2gの粘着剤を掻き取ったものをゲル分率測定用試料とした。光硬化後の粘着シートのゲル分率測定用試料は、下記の接着力測定用試料から採取した。試料を、100mm×100mmのサイズに切り出した細孔径0.2μmの多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜(日東電工製「NTF-1122」)で包み、包んだ口をタコ糸で縛った。この試料の重量から、予め測定しておいた多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜及びタコ糸の重量の合計(A)を差し引いて、粘着剤試料の重量(B)を算出した。多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜で包まれた粘着剤試料を、約50mLの酢酸エチル中に、23℃で7日間浸漬し、粘着剤のゾル成分を多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜外へ溶出させた。浸漬後、多孔質ポリテトラフルオロエチレン膜で包まれた粘着剤を取出し、130℃で2時間乾燥させ、約20分間放冷した後、乾燥重量(C)を測定した。粘着剤のゲル分率は、次式により算出した。
ゲル分率(%)=100×(C-A)/B
【0117】
<接着力>
粘着シートから軽剥離フィルムを剥離して、厚み50μmのPETフィルムを貼り合わせ、幅10mm×長さ100mmにカットした後、重剥離フィルムを剥離して、5kgのローラでガラス板に圧着して接着力測定用試料を作製した。さらに、ガラス板側からメタルハライドランプ(300mW/cm)で積算光量3000mJ/cmの紫外線を照射して硬化を行い、光硬化後の粘着シートの接着力測定用試料を作製した。接着力測定用試料を、25℃または65℃の環境下で30分間保持した後、引張試験機を用いて、引張速度300mm/分、剥離角度180°の条件でガラス板から試験片を剥離して、剥離力を測定した。
【0118】
<段差吸収性>
粘着シートを75mm×45mmのサイズに切り出し、粘着シートから軽剥離フィルムを剥離して、100mm×50mmに切り出した厚み125μmのPETフィルムの中央にロールラミネータ(ロール間圧力:0.2MPa、送り速度:100mm/分)により貼り合わせた。その後、重剥離フィルムを剥離して、厚み20μmの黒色インクが周縁部に枠状に印刷された厚み500μmのガラス板(100mm×50mm)を、ロールラミネータ(ロール間圧力:0.2MPa、送り速度:100mm/分)により貼り合わせた。ガラス板のインク印刷領域は、短辺方向が両端から5mm、長辺方向が両端から15mmであり、粘着シートの4辺の端から5mmの領域に、黒色インク層が接していた。この試料を、オートクレーブ(50℃、0.5MPa)で30分処理した後、倍率20倍のデジタルマイクロスコープで観察し、黒色インクの印刷領域の境界付近における気泡の有無を確認した。気泡が確認されなかったものをOK,気泡が確認されたものをNGとした。
【0119】
<加工性>
粘着シートから軽離型フィルムを剥離して、厚み100μmのPETフィルム(東洋紡製「コスモシャインA4100」)に貼り合わせ、プレス機を用いてPETフィルム側から打ち抜いて、加工性評価用試料を作製した。この試料を、温度:23℃、相対湿度50%の雰囲気中に1週間放置した後、重剥離フィルムを剥離し、糊欠けの有無を目視にて観察した。糊欠けが見られなかったものをOK、糊欠けが見られたものをNGとした。
【0120】
<層間接着性>
(試験用試料の作製)
粘着シートを75mm×45mmのサイズに切り出し、粘着シートから軽剥離フィルムを剥離して、厚み500μmのガラス板(100mm×50mm)の中央にロールラミネータ(ロール間圧力:0.2MPa、送り速度:100mm/分)により貼り合わせた。粘着シートから重剥離フィルムを剥離して、厚み30μmの黒色インクが周縁部に枠状に印刷された厚み500μmのガラス板(50mm×100mm、インク印刷領域は段差吸収性試験で用いたものと同じ)を、真空圧着(面圧0.3MPa,圧力100Pa)により貼り合わせた。この試料を、オートクレーブ(50℃、0.5MPa)で30分処理した後、黒色インクの印刷層を有するガラス板側から、メタルハライドランプ(300mW/cm)で積算光量3000mJ/cmの紫外線を照射して、粘着シートを光硬化した。
【0121】
上記の試料を60℃の環境下で30分間保持した後、図5Aに示すように、厚み200μmのポリスチレンシートを、2枚のガラス板の間に、粘着シートの端部から1mmの距離まで挿入して10秒間保持した。粘着シートの端部を、倍率20倍のデジタルマイクロスコープで観察した。スジ状の気泡(図5B参照)またはガラス板からの粘着シートの剥がれが生じていたものをNG,気泡および剥がれのいずれも生じていなかったものをOKとした。
【0122】
<耐衝撃性>
黒色インクの印刷層が設けられていないガラス板のサイズを100mm×70mmに変更したこと以外は、上記の層間接着性試験用の試料の作製と同様に、粘着シートの両面にガラス板を貼り合わせ、オートクレーブおよび粘着剤の硬化を行い、試験用試料を作製した。図6に示すように、印刷層76が設けられたガラス板7が下側となるように、試験用試料95の短辺方向の両端を、60mmの間隔を隔てて配置された台93の上に載置し、印刷層が設けられていないガラス板8の端部の上面を台80の上に粘着テープ(不図示)で固定した。台93の上に粘着テープで固定した試験用試料95を、-5℃の環境下で24時間保持した後、室温に取り出してから40秒以内に、ガラス板7上に質量11gの金属球97を300mmの高さから落下させて、耐衝撃性試験を行った。
【0123】
耐衝撃性試験では、金属球の落下位置を一定とするために筒状のガイド99を用い、印刷層76の印刷領域の枠の内縁の角から短辺方向および長辺方向のそれぞれに10mm隔てた位置に、金属球97を落下させた。2回の試験を行い、いずれの試験においても、ガラス板の剥がれが生じなかったものをOK,2回のいずれか一方または両方でガラス板の剥がれが生じたものをNGとした。
【0124】
[評価結果]
各粘着シートの作製に用いた粘着剤組成物の配合および評価結果を表1および表2に示す。なお、表1および表2において、各成分は以下の略称により記載されている。
<アクリル系モノマー>
BA :アクリル酸ブチル
2HEA :アクリル酸2-エチルヘキシル
CHA :アクリル酸シクロヘキシル
NVP :N-ビニル-2-ピロリドン
4HBA :アクリル酸4-ヒドロキシブチル
2HEA :アクリル酸2-ヒドロキシエチル
ISTA :アクリル酸イソステアリル
<光重合性多官能モノマー>
HDDA:ヘキサンジオールジアクリレート(新中村化学工業製「NKエステル A-HD-N」、官能基当量113g/eq)
APG400:ポリプロピレングリコール#400(n=7)ジアクリレート(新中村化学工業製「NKエステル APG400」、官能基当量268g/eq)
TMPTA:トリメチルプロパントリアクリレート(新中村化学工業製「NKエステル A-TMPT」、官能基当量99g/eq)
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(新中村化学工業製「NKエステル A-DPH」、官能基当量96g/eq)
【0125】
【表1】
【0126】
【表2】
【0127】
実施例1~8の粘着シートは、いずれも、光硬化前は段差吸収性および加工性が良好であり、かつ光硬化後は、層間接着性および落下衝撃耐久性のいずれも良好であった。
【0128】
実施例1と比較例1~3とを対比すると、多官能モノマーの添加量増大に伴って、光硬化後の粘着シートのゲル分率が増大し、これに伴って、G’25℃が大きくなり、tanδのピークトップ値が小さくなる傾向がみられた。多官能モノマーの添加量が小さい比較例1では、光硬化後の接着力は実施例1よりも高かったが、接着保持力が低く、層間接着試験で剥がれが確認された。多官能モノマーの添加量が大きい比較例2,3では、粘着シートの粘性が低く、耐衝撃性が不十分であった。また、比較例3では、接着力の低下に起因して層間接着性も低下していた。また、実施例1と比較例1~3との対比から、多官能モノマーの添加量の増大に伴って、粘着剤組成物中のベースポリマーの比率が低下するため、光硬化前の粘着シートのゲル分率および貯蔵弾性率が低下していることが分かる。
【0129】
比較例4および比較例5では、多官能モノマーの添加量が大きいために、光硬化前の粘着シートのゲル分率および貯蔵弾性率が小さく、粘着シートの加工性が低下していた。また、比較例4および比較例5では、比較例3と同等量(ベースポリマー100重量部に対して7重量部)の多官能モノマーを添加しているにも関わらず、光硬化後の粘着シートのG’25℃が小さく、層間接着性が不十分であった。
【0130】
多官能モノマーとして2官能アクリレートであるAPG400と6官能アクリレートであるDPHAを併用した実施例2では、実施例1と同様の特性を示した。また、多官能モノマーとして3官能アクリレートであるTMPTAを用いた実施例8は、実施例6と同様の特性を示した。これらの結果から、1分子中に3以上の重合性官能基を有する多官能モノマーを用いることにより、2官能モノマーを用いる場合に比べて、多官能モノマーの添加量が小さい場合でも光硬化後の粘着シートの層間接着力を向上可能であるため、光硬化前の粘着シートの加工性と、光硬化後の粘着シートの層間接着力とを両立できることが分かる。
【0131】
実施例1、実施例3、比較例6および比較例7を対比すると、架橋剤の添加量増大に伴って、光硬化前の粘着シートのゲル分率および貯蔵弾性率が大きくなり、粘着シートのガラス転移温度が高くなる傾向があることが分かる。架橋剤の添加量が小さい比較例6では、光硬化前の粘着シートが過度に柔らかいために加工性が劣っていた。一方、架橋剤の添加量が大きい比較例7では、光硬化前の粘着シートが硬く、接着性および段差吸収性が不十分であった。また、比較例6および比較例7は、いずれも光硬化後の粘着シートの層間接着力および耐衝撃性も不十分であった。
【0132】
実施例1、実施例4、比較例8および比較例9を対比すると、ベースポリマー重合時の連鎖移動剤の添加量増大に伴って、ベースポリマーの分子量が低下する傾向がみられた。比較例8および比較例9では、ベースポリマーの分子量が小さいため、光硬化前の粘着シートの貯蔵弾性率が小さく、加工性に劣っていた。また、比較例8および比較例9では、光硬化後の粘着シートのtanδピークトップ値が小さく、耐衝撃性が不十分であった。
【0133】
実施例6と実施例7との対比から、粘着剤組成物にオリゴマーを添加することにより、他の特性を大きく変化させることなく、光硬化後の粘着シートの接着力を向上できることが分かる。
【0134】
上記の実施例と比較例との対比から、光硬化前および光硬化後の特性が所定範囲内である光硬化性の粘着シートは、光硬化前の状態では段差吸収性と加工性とを両立可能であり、光硬化後は耐衝撃性および接着耐久性に優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0135】
5 粘着シート
1,2 離型フィルム
3 偏光板
4 粘着シート
6 画像表示セル
10 画像表示パネル
7 前面透明板
9 筐体
100 画像表示装置
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6