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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】植物油けん化物組成物
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/14 20160101AFI20230331BHJP
   C11C 3/00 20060101ALI20230331BHJP
   C11C 1/04 20060101ALI20230331BHJP
   A23K 20/158 20160101ALI20230331BHJP
   A23K 20/24 20160101ALI20230331BHJP
   A23K 20/189 20160101ALI20230331BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20230331BHJP
【FI】
A23K10/14
C11C3/00
C11C1/04
A23K20/158
A23K20/24
A23K20/189
A23K10/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019079892
(22)【出願日】2019-04-19
(65)【公開番号】P2020174594
(43)【公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】591040144
【氏名又は名称】太陽油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(72)【発明者】
【氏名】蓮野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】堀 周
(72)【発明者】
【氏名】岸 瑶介
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-138564(JP,A)
【文献】特開2018-108076(JP,A)
【文献】特開平06-184528(JP,A)
【文献】特開2015-204823(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0226445(US,A1)
【文献】特開2000-139489(JP,A)
【文献】特開昭59-166579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23K 10/14
C11C 3/00
C11C 1/04
A23K 20/158
A23K 20/24
A23K 20/189
A23K 10/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)その他任意の成分、及び
(e)リパーゼ、
を含む原料混合物の反応により得られる飼料用植物油けん化物組成物であって、(b)水酸化カルシウムのモル数bに対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の脂肪酸合計モル数aの比a/bが2.03~2.40であり(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂がパーム系油脂又はパーム系油脂を含む油脂混合物であり、パーム系油脂が原料油脂全質量に対して少なくとも80質量%である、飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項2】
モル数bに対するモル数aの比a/bが2.03~2.15である、請求項1記載の飼料用植物油ケン化物組成物。
【請求項3】
前記(a)~(d)の合計質量に対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂の含有率が65~85質量%である、請求項1または2に記載の飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項4】
前記(a)~(d)の合計質量に対する、(c)水の含有率が2~15質量%である、請求項1~3のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項5】
(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂100gに対し、(e)リパーゼの添加量が20~10,000Uである、請求項1~のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項6】
(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の総脂肪酸質量に対する未反応オレイン酸質量の割合が0.7~9.5質量%の範囲にある、請求項1~5のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
【請求項7】
(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)その他任意の成分、及び
(e)リパーゼ、
を含み、かつ(b)水酸化カルシウムのモル数bに対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の脂肪酸合計モル数aの比a/bが2.03~2.40であ(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂がパーム系油脂又はパーム系油脂を含む油脂混合物であり、パーム系油脂が原料油脂全質量に対して少なくとも80質量%である、飼料用植物油けん化物組成物製造用原料混合物。
【請求項8】
(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)その他任意の成分、及び
(e)リパーゼ、
を含み、かつ(b)水酸化カルシウムのモル数bに対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の脂肪酸合計モル数aの比a/bが2.03~2.40であり、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂がパーム系油脂又はパーム系油脂を含み、パーム系油脂が原料油脂全質量に対して少なくとも80質量%である原料混合物を、45~60℃の温度で反応させることを特徴とする、飼料用植物油けん化物組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は飼料用植物油けん化物組成物に関する。
【0002】
畜産用飼料に、エネルギー源としてトリグリセリド、脂肪酸などの脂質を混合して用いることは広く行われているが、その中でも植物油のけん化物である脂肪酸の金属塩、特に脂肪酸カルシウムをエネルギー源として供給すると効率的であることが報告されており、特許文献1には、脂肪酸カルシウムを含む飼料の供給により、養殖魚介類の生存率を向上させることが報告されている。
また、畜産動物の中でもウシ、ヤギ、ヒツジのような反芻動物では、脂肪の多給は第1胃(ルーメン)に悪影響を及ぼし、第1胃内での消化率を低下させると共に食欲減退を招くという問題がある。そのため、第1胃で溶解または消化せず第4胃やそれ以降の小腸内で消化されるようにしたいわゆるバイパス油脂が必要とされており、そのようなバイパス油脂の1つとして脂肪酸カルシウムが知られている。従って、畜産用飼料に脂肪酸カルシウムを添加することは有用である。
また、パーム系脂肪酸カルシウムを与えると乳牛の乳量・乳脂肪生産量が上昇することが報告されており(非特許文献1)、これはパルミチン酸を多く含むためと考えられる。 飼料に添加する脂質は、給餌作業や他飼料との混合作業等の観点から、顆粒状あるいは粒子状の形態が望ましい。
特許文献2には、不飽和脂肪酸を含有する脂肪酸カルシウム塩に抗酸化性を有するカラメルを添加する例が挙げられているが、そのようなカラメルをある濃度以上添加すると得られる脂肪酸金属塩の付着性が増してしまい、顆粒状あるいは粒子状にするべく粉砕した際、粉砕機に付着し歩留まりが悪くなるという問題がある。
また、特許文献2に記載の飽和脂肪酸含量の高い、常温で固体脂であるパーム油を配合した脂肪酸カルシウムは、粉砕時に粒子が細かくなり過ぎ、飛散して作業環境を悪化させるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-266793号
【文献】特開平6-315350号
【非特許文献】
【0004】
【文献】Reprod. Nutr. Dev. 44 (2004) 467-492
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決することである。すなわち、反芻動物を含む家畜一般において効率的なエネルギー源として給与できる飼料用植物油けん化物組成物であって、粉砕が可能でかつ粉砕時に飛散せず、歩留まりも良好な飼料用植物油けん化物組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、水酸化カルシウム、水、リパーゼ、その他の任意成分を混合し、それらの反応により得られる飼料用植物油けん化物組成物において、パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の総脂肪酸と水酸化カルシウムのモル比を一定の範囲とすることにより、上記課題を達成する飼料用植物油けん化物組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
またさらに、本発明者らは、原料混合物中の油脂由来の総脂肪酸と水酸化カルシウムのモル比のわずかな相違により、得られた反応物のカルシウム化が不十分なため粉砕ができなかったり、あるいは粉砕する際の粒子の飛散状況が異なることに着目し、得られた飼料用植物油けん化物組成物の組成を様々な角度から検討したところ、前記組成物質量に対する未反応オレイン酸質量の割合(オレイン酸残存率)が一定範囲である場合に、粉砕を良好に行うことができ、また粉砕する際の粒子の飛散が少ないことも見いだした。これは油脂とカルシウムとの反応の程度のわずかな差異により、粉砕時の脂肪酸カルシウム部と残存脂肪酸部の割合が異なるため、粉砕物の性状・硬さが異なり、その結果、粉砕時の粉塵数あるいは粉砕粒子の大きさが異なったためと考えられる。
【0007】
すなわち、本発明は以下を提供する。
<1>(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)その他任意の成分、及び
(e)リパーゼ、
を含む原料混合物の反応により得られる飼料用植物油けん化物組成物であって、(b)水酸化カルシウムのモル数bに対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の脂肪酸合計モル数aの比a/bが2.03~2.40である、飼料用植物油けん化物組成物。
<2>前記(a)~(d)の合計質量に対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂の含有率が65~85質量%である、<1>に記載の飼料用植物油けん化物組成物。
<3>前記(a)~(d)の合計質量に対する、(c)水の含有率が2~15質量%である、<1>または<2>に記載の飼料用植物油けん化物組成物。
<4>(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂100gに対し、(e)リパーゼの添加量が20~10,000Uである、<1>~<3>のいずれかに記載の飼料用植物油けん化物組成物。
<5>(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)その他任意の成分、及び
(e)リパーゼ、
を含む原料混合物の反応により得られる飼料用植物油けん化物組成物であって、
前記組成物の全質量に対する、未反応のオレイン酸質量の割合が0.7~9.5質量%の範囲にある、飼料用植物油けん化物組成物。
<6>(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)その他任意の成分、及び
(e)リパーゼ、
を含み、かつ(b)水酸化カルシウムのモル数bに対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の脂肪酸合計モル数aの比a/bが2.03~2.40である、飼料用植物油けん化物組成物製造用原料混合物。
<7>(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)その他任意の成分、及び
(e)リパーゼ、
を含み、かつ(b)水酸化カルシウムのモル数bに対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の脂肪酸合計モル数aの比a/bが2.03~2.40である原料混合物を、30~80℃の温度で反応させることを特徴とする、飼料用植物油けん化物組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、粉砕可能であり、かつ粉砕時に飛散しない、飼料用植物油けん化物組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第一の態様の飼料用植物油けん化物組成物は以下のとおりである。
(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)その他任意の成分、及び
(e)リパーゼ、
を含む原料混合物の反応により得られる飼料用植物油けん化物組成物であって、(b)水酸化カルシウムのモル数bに対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の脂肪酸合計モル数aの比a/bが2.03~2.40である、飼料用植物油けん化物組成物。
【0010】
本明細書において、「飼料用植物油けん化物組成物」とは、ウシ、ヤギ、ヒツジなどの反芻動物、ニワトリなどの家禽、ブタなど、畜産動物全般の飼料に添加する植物油けん化物組成物である。特に反芻動物では、脂肪の多給は第1胃(ルーメン)に悪影響を及ぼし、第1胃内での消化率を低下させると共に食欲減退を招くという問題があるが、本発明の飼料は、脂肪酸カルシウムのような脂肪酸金属塩を含むことにより、第1胃で溶解または消化せず第4胃やそれ以降の小腸内で消化されるため、反芻動物にも問題なく給与することができる。また顆粒状あるいは粒子状の形態である場合は、飼料に均一に混合することができ、また保存安定性も良く、匂い、嗜好性に関しても優れた飼料用植物油けん化物組成物を提供することができる。
【0011】
本発明の飼料用植物油けん化物組成物は、一般的な畜産飼料に添加して使用することができる。飼料の製造段階に添加して、本発明の飼料用植物油けん化物組成物を含む畜産飼料組成物を製造してもよく、あるいは給餌段階で一般的な畜産飼料に添加して使用してもよい。飼料用植物油けん化物組成物は飼料に均一に混合することができるという観点から、顆粒状あるいは粒子状であることが好ましい。
飼料用植物油けん化物組成物の原料や他の添加剤は、一般に使用されているものであれば特に制限はない。
【0012】
本明細書において使用する原料油脂は、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する油脂である。パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する油脂であればいずれの油脂でもよい。例えば、パーム系油脂、パーム系油脂を含む油脂混合物などが挙げられる。
パーム系油脂とは、パームの実由来の油脂であり、パーム核油は含まれない。パーム系油脂には、パーム系油脂の分別油脂、エステル交換油脂、及びこれらの混合物が含まれる。具体的には、パーム系油脂は、パーム、パームミッドフラクション、パームステアリン、パームオレイン、パームダブルオレインなどが挙げられる。
パーム系油脂を用いる場合には、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成となるように油脂を選択する。乳量および乳脂肪生産量上昇の観点から、パーム系油脂を、油脂全質量に対し少なくとも80質量%用いることが好ましく、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。
パーム系油脂以外の油脂としてはいずれの油脂を用いてもよいが、飛散防止の観点から液状油脂を使用するのが好ましい。液状油脂は、室温付近において液体である油脂である。液状油脂の例としては、菜種油、大豆油、コーン油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、綿実油、オリーブ油、亜麻仁油、エゴマ油などが挙げられる。
【0013】
本発明において、(b)「水酸化カルシウム」(Ca(OH)2)(消石灰)を上記(a)混合油脂に対し添加する。「酸化カルシウム」(CaO)(生石灰)は、水の存在により水酸化カルシウムになるため、「水酸化カルシウム」の変わりに「酸化カルシウム」を添加してもよい。
【0014】
本明細書において「(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の脂肪酸合計モル数a」とは、原料油脂にエステル結合を介してグリセリンに結合するなど様々な様式で含まれている全ての脂肪酸を遊離脂肪酸に変換したと仮定した場合の脂肪酸の合計モル数を意味する。
本明細書において「(b)水酸化カルシウムのモル数b」は、上述の水酸化カルシウムのモル数を意味する。
本発明の飼料用植物油けん化物組成物は、(b)水酸化カルシウムのモル数bに対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の脂肪酸合計モル数aの比a/bが2.03~2.40である。かかる範囲において、反応率が良好であり、かつ原料混合物を反応して生成した混合物の固化物を粉砕したときの粉塵数を日本産業衛生学会において定められている吸入性粉塵の許容濃度(2,000cpm以下)を満たすものとすることができる。好ましくはa/bは2.03~2.35である。反応率を高く維持できるという観点から、a/bは2.03~2.15であることがより好ましく、2.04~2.10であることがよりさらに好ましい。
【0015】
上述の(a)~(d)成分の合計質量に対し、(b)「水酸化カルシウム」の添加量は好ましくは5~15質量%である。より好ましくは7~13質量%であり、さらに好ましくは8~12質量%である。「水酸化カルシウム」の代わりに「酸化カルシウム」を添加する場合には、分子量から「水酸化カルシウム」(分子量74)に換算して上記量となるように「酸化カルシウム」(分子量56)を添加することが好ましい。
【0016】
本明細書において(c)「水」は、反応溶媒としての役割も果たす。また、酸化カルシウムを使用した場合には、酸化カルシウムと反応して水酸化カルシウムを提供するものである。「水」は蒸留水、脱イオン水、水道水など適宜使用することができる。上述の(a)~(d)成分の合計質量に対し、2~15質量%添加することが好ましい。
【0017】
本発明品は、上記及び後述する(a)~(d)成分を混合した後、その後ケン化反応を行うことによって得られる。このとき、油脂100gに対し、20~10,000Uの(e)リパーゼを添加することが好ましい。反応条件あるいはリパーゼの活性等により異なるが、より好ましくは200~2,000Uである。
ケン化工程は、リパーゼによる反応が進行する温度、例えば、30~80℃で行うことができる。好ましくは30~60℃、より好ましくは45~60℃に加温しながら均一に混合、攪拌して反応させる。
本明細書において(e)「リパーゼ」とは、動物、植物、微生物起源、いずれのリパーゼも使用することができ、限定されないが、アルカリ性において油脂分解力が強く、耐熱性が高いものが好ましい。
前記飼料用植物油けん化物組成物は、粉砕することができ、また粉砕時に粉塵の飛散を2,000cpm以下に抑制することができる。
【0018】
本発明品は、必要に応じて(d)その他任意の成分として、例えば、嗜好性を高める目的で糖蜜、アルファルファミールを添加してもよい。また、保存安定性を高める目的で抗酸化性を有するカラメルあるいは抗酸化剤を添加してもよい。
(d)成分の含量は、飼料用植物油けん化物組成物の合計質量に対し、0.5~10質量%であることが好ましく、より好ましくは1~9質量%である。
【0019】
本発明の他の態様としては、下記の飼料用植物油けん化物組成物が挙げられる。
(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)その他任意の成分、及び
(e)リパーゼ、
を含む原料混合物の反応により得られる飼料用植物油けん化物組成物であって、
前記組成物の全質量に対する、未反応のオレイン酸質量の割合が0.7~9.5質量%の範囲にある、飼料用植物油けん化物組成物。
【0020】
上記「組成物の全質量」は、反応後の固化した組成物の質量を意味する。
「未反応の脂肪酸質量」とは、原料油脂由来の総脂肪酸のうち、けん化処理によって水酸化カルシウムと反応して脂肪酸カルシウムを形成することなく、遊離脂肪酸または脂肪酸グリセリドの形態で存在する脂肪酸の総質量を意味する。本明細書中において、便宜上、前記未反応の脂肪酸(の合計)質量をNRFAと呼ぶことがある。前記NRFAの中でも、特定の脂肪酸を特に区別して表す場合、本明細書中の便宜上、「未反応のオレイン酸」、「未反応のパルミチン酸」のような呼称をする場合がある。
前記水酸化カルシウムとの反応によって生じた脂肪酸カルシウム中の、脂肪酸部分に相当する総質量を、本明細書中の便宜上、RFAと呼ぶ場合がある。
【0021】
前記「未反応のオレイン酸」質量あるいは「未反応の脂肪酸」質量は、遊離脂肪酸、脂肪酸グリセリド等がヘキサン可溶かつ脂肪酸カルシウムがヘキサン不溶である性質を利用し、最終物をヘキサン溶液などで抽出し、ガスクロマトグラフィー等で分析することで算出することができる。未反応の脂肪酸質量の算出にあたっては、例えば、抽出液中に指標となる脂肪酸(原料油脂の組成脂肪酸に含まれない脂肪酸であることが好ましい。例えば、パーム系油脂を原料油脂として用いる場合には、「カプリル酸」などを用いることができる。)を一定質量加えて、ガスクロマトグラフィー分析により得られる各脂肪酸のピーク面積比から導き出してもよい。
【0022】
未反応のオレイン酸質量の割合が、飼料用植物油けん化物組成物質量に対して、0.7~9.5質量%範囲では、反応率が良好であり、かつ原料混合物を反応して生成した混合物の固化物を粉砕したときの粉塵数を日本産業衛生学会において定められている吸入性粉塵の許容濃度(2,000cpm以下)を満たすものとすることができる。
飼料用植物油けん化物組成物質量に対する未反応のオレイン酸質量の割合は、好ましくは0.7~9.0質量%であり、より好ましくは0.7~5.0質量%であり、さらに好ましくは0.7~3.0質量%である。
【0023】
本発明の他の態様としては、下記の飼料用植物油けん化物組成物製造用原料混合物が挙げられる。係る混合物を用いてリパーゼによる加水分解を行うことにより、本発明の飼料用植物油けん化物組成物を製造することができる。
(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)その他任意の成分、及び
(e)リパーゼ、
を含み、かつ(b)水酸化カルシウムのモル数bに対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の脂肪酸合計モル数aの比a/bが2.03~2.40である、飼料用植物油けん化物組成物製造用原料混合物。
前記混合物を用いて飼料用植物油けん化物組成物を製造すると、得られた混合物を粉砕することができ、また粉砕時に粉塵の飛散を2,000cpm以下に抑制することができる。
【0024】
本発明の飼料用植物油けん化物組成物の製造方法は以下のとおりである。
(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂、
(b)水酸化カルシウム、
(c)水、
(d)その他任意の成分、及び
(e)リパーゼ、
を含み、かつ(b)水酸化カルシウムのモル数bに対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の脂肪酸合計モル数aの比a/bが2.03~2.40である原料混合物を、30~80℃の温度で反応させる。
リパーゼによる反応温度の好ましい態様については上で述べたとおりである。
必要に応じ、得られた脂肪酸カルシウム塩を含む組成物を24~48時間室温で静置し、粉砕して、顆粒状あるいは粒子状の組成物を得る。
【0025】
本発明の飼料用植物油けん化物組成物は、好ましくは顆粒状あるいは粒子状である。好ましくは篩い粒子径が0.25mm、さらに好ましくは0.125mmの粒子が10質量%以下、篩い粒子径が2.8mm超過の粒子が10質量%以下である。粒子径がかかる範囲にあると、粉砕時に飛散せず、粉砕機に付着せず、歩留まりが良い。また、反芻動物におけるルーメンバイパス性が良く、第4胃での消化性も良好である。
【0026】
脂肪酸カルシウムを含む組成物を作製するに当たり、ブロック状に成形し、さらにかかる粒子径の粒子を得るためには、ハンマークラッシャーなどの粗砕機による粉砕が好ましい。
【実施例
【0027】
以下実施例により本発明の実施の形態を説明する。以下の実施例において特に断らない限り「%」は「質量%」を意味する。
【0028】
(実施例1)
<混合工程>
パームステアリン78.1質量部に、消石灰(水酸化カルシウム)10.2質量部を加え、混合槽内で混合攪拌した。
上記混合物に、アルファルファミール0.9質量部、糖蜜0.9質量部、水9.8質量部を配合した。
上記混合物に対し、リパーゼ(アマノAK、20,000U/g)0.015質量部(300U)を加えて、液温を60℃に加温、さらに30分間攪拌し反応させた。
<静置工程>
上記混合工程で得られた混合物を、縦8cm、横22cm、高さ8cmの容器に流し込み、30℃で41時間静置して反応を進行させた。
<粉砕工程>
上記混合物を容器から取り出し、ハンドミキサーを用い、細かく粉砕した。
【0029】
(実施例2~5及び比較例1~5)
油脂、水酸化カルシウム、水等の量を表1に記載のとおり変えた以外は、実施例1と同様にして粒状物を作製した。
比較例3および5の反応物は、ハンドミキサーでは粉砕ができなかった。
【0030】
<粉塵の飛散評価>
固化した混合物の粉砕時の粉塵の飛散を以下のように測定し、粒子の飛散評価を行った。
固化した混合物の粉砕機で処理したもの500gを45Lの袋に詰め、激しく振とうしたあと、粉塵計(柴田化学;LD-5R)にて粒子数を測定した。
○・・・ 2,000cpm未満
×・・・ 2,000cpm以上
【0031】
<未反応オレイン酸残存率及び反応率>
反応物(植物油けん化物組成物)中の未反応オレイン酸残存率(質量%)及び脂肪酸の反応率((a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の総脂肪酸質量に対する、水酸化カルシウムと反応して生成した脂肪酸カルシウム中の脂肪酸部分に相当する質量の割合)を以下のように決定した。
【0032】
固化した混合物の粉砕機で処理したもの1.5gにMCT(C8:カプリル酸)を2%含むヘキサン溶液(w/w)を15mL加えて抽出を行った。その抽出液をナトリウムメトキシド法によりメチルエステル化し、GCによる分析を行った。得られた組成のGCピーク面積比より反応率、オレイン酸の残存率を以下の式を用いて計算した。
なお、本明細書においてGCによる各脂肪酸のピーク面積比は、各脂肪酸の質量比を表すものとして計算した。
【0033】
GCによる分析条件は以下のとおりであった。
・装置:GC-2010(島津製作所者製)
カラム:TC-70 内径0.25mm×30m,膜厚 0.25μm
注入量:1.0μL
・試料気化室(スプリット)
注入モード:スプリット
気化室温度:230℃
キャリアガス:ヘリウム
制御モード:圧力
圧力:100.0KPa
全流量:222.1 mL/min
カラム流量:1.09mL/min
スプリット比:-1.0
オーブン温度:80℃(3min)→12℃/min→165℃→3℃/min→195℃(10min)
【0034】
植物油けん化物組成物中のTFA、NRFA、RFA、未反応のオレイン酸残存率(質量%)は、下記式で算出した。
・TFA
=植物油けん化物組成物中の原料油脂含量(質量%)×原料油脂中の脂肪酸含量(質量%)×100
・NRFA
・RFA=TFA-NRFA
・未反応のオレイン酸残存率
上の式において略号等は以下を意味する。
TFA:植物油けん化物組成物質量に対する、(a)パルミチン酸を30質量%以上含む脂肪酸組成を有する原料油脂由来の総脂肪酸質量%
NRFA:植物油けん化物組成物質量に対する、原料油脂由来の総脂肪酸質量から、水酸化カルシウムと反応して脂肪酸カルシウムを形成することなく、遊離脂肪酸または脂肪酸グリセリド等の形態で存在する未反応の脂肪酸の総質量%
RFA:植物油けん化物組成物質量に対する、水酸化カルシウムと反応して生成した脂肪酸カルシウム中の脂肪酸に相当する質量%。TFAからNRFAを差し引くことで算出できる。
未反応のオレイン酸残存率:植物油けん化物組成物質量に対する、未反応のオレイン酸の質量%
原料油脂中の脂肪酸含量:原料油脂の総質量に対する、油脂由来の脂肪酸の質量含量(質量%)。ここでは95.4質量%として計算した。
抽出液中のカプリル酸質量;抽出液中に添加したカプリル酸の質量。ここでは、0.179gとして計算した。
カプリル酸面積%:前記抽出液のメチルエステル化処理物の、GC分析におけるピーク合計面積に対するカプリル酸ピーク面積の割合
オレイン酸面積%:前記抽出液のメチルエステル化処理物の、GC分析におけるピーク合計面積に対するオレイン酸ピーク面積の割合
【0035】
表1及び表2に示した反応率は、上記で求めた数値を下記式に当てはめて算出した。
・反応率=RFA/TFA×100(質量%)
【0036】
上記評価結果を表1及び表2に記載した。
表1
【0037】
表2
【0038】
表1及び表2からわかるとおり、原料油脂由来の総脂肪酸合計モル数に対する水酸化カルシウムのモル数の比が2.03~2.40の範囲において反応させた実施例1~5の反応物、あるいは、オレイン酸残存率が0.7~9.5質量%の範囲の実施例1~5の反応物は、いずれもハンドミキサーで粉砕が可能であり、さらに粉砕時の粉塵数は、2,000cpm以下であり、日本産業衛生学会において定められている吸入性粉塵の許容濃度を満たしていた。
一方、原料油脂由来の総脂肪酸合計モル数に対する水酸化カルシウムのモル数の比を2.03より少なく用いた場合、あるいは、オレイン酸残存率が0.7質量%未満の場合には、粉塵数が極めて多くなり、許容濃度をはるかに超えてしまった(比較例1、2及び4)。一方、原料油脂由来の総脂肪酸合計モル数に対する水酸化カルシウムのモル数の比を2.40より大きな比で用いた場合、あるいは、オレイン酸残存率が9.5質量%を超える場合には、粒子同士が凝集し団子状態となり粉砕できなかった(比較例3及び5)。