(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】自動車用外装部品及び自動車用外装部品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230331BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20230331BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20230331BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20230331BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20230331BHJP
B05D 7/02 20060101ALI20230331BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230331BHJP
B32B 7/022 20190101ALI20230331BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20230331BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
C09D133/00
C09D175/04
B05D1/36 B
B05D7/00 K
B05D7/02
B05D7/24 301U
B05D7/24 301R
B05D7/24 302P
B05D7/24 302T
B05D7/24 301J
B32B7/022
B32B27/30 A
B32B27/40
(21)【出願番号】P 2019211657
(22)【出願日】2019-11-22
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】橋本 孝則
(72)【発明者】
【氏名】小川 剛志
(72)【発明者】
【氏名】河野 晋之介
(72)【発明者】
【氏名】松本 康二
(72)【発明者】
【氏名】奥田 英明
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/137161(WO,A1)
【文献】特開2014-221345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/32
C09D 133/00
C09D 175/04
B05D 1/36
B05D 7/00
B05D 7/02
B05D 7/24
B32B 7/022
B32B 27/30
B32B 27/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー変性ポリプロピレン樹脂を含むプラスチック基材と、複層塗膜とを有する自動車用外装部品であって、
前記複層塗膜は、
(a)単独膜の-20℃での引張伸度が5~35%であるプライマー塗膜、
(b)着色剤を含むベース塗膜、および
(c)クリヤー塗膜を有し、
前記クリヤー塗膜(c)は、塗膜形成樹脂として、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)と、ジオール樹脂(c-3)と、ポリイソシアネート化合物(c-4)とを含むクリヤー塗料組成物の乾燥塗膜であり、
前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)は、水酸基価が80mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が4,000以上10,000以下であり、およびガラス転移温度が30℃以上60℃以下であり、
前記非水分散型アクリル樹脂(c-2)はコアシェル構造を有し、前記コア部の水酸基価は100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、前記コア部のガラス転移温度は40℃以上80℃以下であり、
前記ジオール樹脂(c-3)は、水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、ならびに
前記プラスチック基材は、厚みが1.5~3.5mmである薄肉部を有し、
前記複層塗膜は、-20℃でのデュポン衝撃強度が4.9J以上である、
自動車用外装部品。
【請求項2】
前記ジオール樹脂(c-3)が、ポリエステルジオール樹脂である、請求項1に記載の自動車用外装部品。
【請求項3】
前記イソシアネート化合物(c-4)に含まれるイソシアネート基と、前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)および非水分散型アクリル樹脂(c-2)に含まれる水酸基との当量比(NCO/OH)が、0.7以上2.0以下である、請求項1又は2に記載の自動車用外装部品。
【請求項4】
前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と前記非水分散型アクリル樹脂(c-2)の質量比が、((c-1)/(c-2))=90/10~50/50である、請求項1から3のいずれかに記載の自動車用外装部品。
【請求項5】
前記ジオール樹脂(c-3)の量は、前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、前記非水分散型アクリル樹脂(c-2)との樹脂固形分の合計100質量部に対して、1質量部以上25質量部以下である、請求項1から4のいずれかに記載の自動車用外装部品。
【請求項6】
前記ベース塗膜は、溶剤系一液型ベース塗料組成物、溶剤系二液型ベース塗料組成物又は水性一液型ベース塗料組成物から形成された塗膜である、請求項1から5のいずれかに記載の自動車用外装部品。
【請求項7】
エラストマー変性ポリプロピレン樹脂を含むプラスチック基材に、プライマー塗膜(a)と、ベース塗膜(b)と、クリヤー塗膜(c)とがこの順で積層された複層塗膜を形成することを含む、自動車用外装部品の製造方法であって、
前記方法は、下記工程:
前記プラスチック基材にプライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のプライマー塗膜を形成する工程、
ベース塗料組成物を塗装し、未硬化のベース塗膜を形成する工程、
クリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程、
これらの未硬化の塗膜を加熱硬化させ、複層塗膜を形成する工程、
を含み、
前記プライマー塗膜(a)は、単独膜の-20℃での引張伸度が5~35%である膜であり、
前記ベース塗膜(b)は、着色剤を含み、および
前記クリヤー塗膜(c)は、塗膜形成樹脂として、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)と、ジオール樹脂(c-3)と、ポリイソシアネート化合物(c-4)とを含むクリヤー塗料組成物の乾燥塗膜であり、
前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)は、水酸基価が80mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が4,000以上10,000以下であり、およびガラス転移温度が30℃以上60℃以下であり、
前記非水分散型アクリル樹脂(c-2)はコアシェル構造を有し、前記コア部の水酸基価は100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、前記コア部のガラス転移温度は40℃以上80℃以下であり、
前記ジオール樹脂(c-3)は、水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、ならびに
前記複層塗膜は、-20℃でのデュポン衝撃強度が4.9J以上である、
自動車用外装部品の製造方法。
【請求項8】
前記加熱硬化の条件は、65℃以上85℃以下、10分以上15分以下である、請求項7に記載の自動車用外装部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用外装部品及び自動車用外装部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の燃費向上は、省エネルギー、二酸化炭素排出量低減という観点から、更に重要視されている。このような観点から、自動車用外装部品等、自動車用部品の軽量化が推進され続けている。軽量化に寄与する自動車用部品の一例として、プラスチック製部品が挙げられる。このようなプラスチック製の自動車用部品についても更なる軽量化の検討がなされており、例えば、薄肉化による軽量化が検討されている。
【0003】
プラスチック製部品の強度は、その厚みと密接な関係を有し、薄肉化した場合には強度が低下してしまうという問題を有する。更に、自動車は種々の使用環境においても適用することが必要とされ、プラスチック製部品は、きわめて過酷な環境においても、適応できなければならない。例えば、-20℃程度の寒冷地で使用することも想定されている。
また、プラスチック製の自動車用部品は、デザイン、機能及び軽量化の観点から大型化されることもある。
【0004】
通常、プラスチック製の自動車用部品においては、プラスチック製基材の表面に塗膜形成組成物を塗装し、塗膜又は複層塗膜が設けられている。
【0005】
従来の塗膜形成組成物として、特許文献1においては、ヤング率、伸び率、破断強度が特定の範囲内のものである塗料組成物用樹脂粒子が開示されており、樹脂粒子を含有する塗料組成物を使用することによって、耐チッピング性に優れた塗膜を形成することが記載されている。
【0006】
特許文献2においては、第一ベース塗料としてヤング率、破壊エネルギーにおいて特定の物性を有する塗料を使用する複層塗膜形成方法が記載されている。
【0007】
特許文献3においては、金属板上にプライマー、中塗り塗料、上塗り塗料を塗装する塗装方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-270014号公報
【文献】特開2003-181368号公報
【文献】特開2000-204483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1~3のいずれの発明においても、得られた塗膜は、低温(例えば、-20℃)において充分な耐衝撃性を示すものではない。このため、いずれの発明も、低温において耐衝撃性が要求される自動車用部品へ適用できるものではない。
【0010】
上述したように、プラスチック製の基材と複層塗膜とを有する、自動車用外装部品等の自動車用部品の軽量化が要求されている。このような自動車用部品には、優れた外観等を有することに加え、寒冷地においても、優れた耐衝撃性を有することが要求されている。また、自動車用部品に塗膜を形成する場合、素地の変形に対して、塗膜が損傷することなく追従する性能(塗膜の追従性)も要求される。
したがって、低温での優れた耐衝撃性等を有する塗膜を含む、自動車用外装部品等の自動車用部品が要求されているが、依然として、充分な性能を導けていない。
【0011】
更に、近年においては、省エネルギー、低コスト化の観点から、自動車用部品の製造時間を短縮させることも要求されている。
【0012】
本発明は、上述したような課題を解決し、プラスチック樹脂を含む基材と複層塗膜とを有する自動車用外装部品であって、寒冷地においても優れた耐衝撃性を有する自動車用外装部品を提供することを目的とする。更に、本発明は、優れた外観を備える自動車用外装部品を提供することを目的とする。
【0013】
更に、本発明は、自動車用外装部品の製造方法を提供し、該製造方法によると、特定の塗料組成物から複層塗膜を用いることにより、塗膜形成組成物の硬化時間を大幅に短縮でき、自動車用外装部品の製造時間を大幅に短縮できる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]エラストマー変性ポリプロピレン樹脂を含むプラスチック基材と、複層塗膜とを有する自動車用外装部品であって、
前記複層塗膜は、
(a)単独膜の-20℃での引張伸度が5~35%であるプライマー塗膜、
(b)着色剤を含むベース塗膜、および
(c)クリヤー塗膜を有し、
前記クリヤー塗膜(c)は、塗膜形成樹脂として、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)と、ジオール樹脂(c-3)と、ポリイソシアネート化合物(c-4)とを含むクリヤー塗料組成物の乾燥塗膜であり、
前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)は、水酸基価が80mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が4,000以上10,000以下であり、およびガラス転移温度が30℃以上60℃以下であり、
前記非水分散型アクリル樹脂(c-2)はコアシェル構造を有し、前記コア部の水酸基価は100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、前記コア部のガラス転移温度は40℃以上80℃以下であり、
前記ジオール樹脂(c-3)は、水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、ならびに
前記プラスチック基材は、厚みが1.5~3.5mmである薄肉部を有し、
前記複層塗膜は、-20℃でのデュポン衝撃強度が4.9J以上である、
自動車用外装部品。
[2]前記ジオール樹脂(c-3)が、ポリエステルジオール樹脂である、[1]に記載の自動車用外装部品。
[3]前記イソシアネート化合物(c-4)に含まれるイソシアネート基と、前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)および非水分散型アクリル樹脂(c-2)に含まれる水酸基との当量比(NCO/OH)が、0.7以上2.0以下である、[1]又は[2]に記載の自動車用外装部品。
[4]前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と前記非水分散型アクリル樹脂(c-2)の質量比が、((c-1)/(c-2))=90/10~50/50である、上記[1]から[3]のいずれかに記載の自動車用外装部品。
[5]前記ジオール樹脂(c-3)の量は、前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、前記非水分散型アクリル樹脂(c-2)との樹脂固形分の合計100質量部に対して、1質量部以上25質量部以下である、[1]から[4]のいずれかに記載の自動車用外装部品。
[6]前記ベース塗膜は、溶剤系一液型ベース塗料組成物、溶剤系二液型ベース塗料組成物又は水性一液型ベース塗料組成物から形成された塗膜である、[1]から[5]のいずれかに記載の自動車用外装部品。
[7]エラストマー変性ポリプロピレン樹脂を含むプラスチック基材に、プライマー塗膜(a)と、ベース塗膜(b)と、クリヤー塗膜(c)とがこの順で積層された複層塗膜を形成することを含む、自動車用外装部品の製造方法であって、
前記方法は、下記工程:
前記プラスチック基材にプライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のプライマー塗膜を形成する工程、
ベース塗料組成物を塗装し、未硬化のベース塗膜を形成する工程、
クリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程、
これらの未硬化の塗膜を加熱硬化させ、複層塗膜を形成する工程、
を含み、
前記プライマー塗膜(a)は、単独膜の-20℃での引張伸度が5~35%である膜であり、
前記ベース塗膜(b)は、着色剤を含み、および
前記クリヤー塗膜(c)は、塗膜形成樹脂として、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)と、ジオール樹脂(c-3)と、ポリイソシアネート化合物(c-4)とを含むクリヤー塗料組成物の乾燥塗膜であり、
前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)は、水酸基価が80mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が4,000以上10,000以下であり、およびガラス転移温度が30℃以上60℃以下であり、
前記非水分散型アクリル樹脂(c-2)はコアシェル構造を有し、前記コア部の水酸基価は100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、前記コア部のガラス転移温度は40℃以上80℃以下であり、
前記ジオール樹脂(c-3)は、水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、ならびに
前記複層塗膜は、-20℃でのデュポン衝撃強度が4.9J以上である、
自動車用外装部品の製造方法。
[8]前記加熱硬化の条件は、65℃以上85℃以下、10分以上15分以下である、[7]に記載の自動車用外装部品の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の自動車用外装部品は、薄肉化されたプラスチック樹脂を含む基材と、複層塗膜とを有する自動車用外装部品であって、寒冷地(例えば、-20℃)においても優れた耐衝撃性を有する。より詳細には、本発明の自動車用外装部品は、優れた外観、硬度、初期付着性、耐湿性、耐ガソホール性、耐衝撃性(例えば、-20℃でのデュポン衝撃強度)を有する。
また、本発明の自動車用外装部品であれば、プラスチック樹脂を含む基材の薄肉化による軽量化が可能であり、燃費改善を行うことができる。
さらに、本発明の自動車用外装部品の製造方法は、本発明に係る複層塗膜を用いて自動車用外装部品を製造することにより、塗膜形成組成物の硬化時間を大幅に短縮でき、自動車用外装部品の製造時間を従来と比べて大幅に短縮できる。その結果、自動車用外装部品の製造において、省エネルギー化、低コスト化を可能とする。また、大型の自動車用外装部品においても、本発明の製造方法を適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
まず、本発明に至る過程を説明する。自動車用部品、例えば自動車用外装部品の軽量化を進めるに当たり、プラスチック樹脂を含む基材を薄肉化することが検討されている。しかし、プラスチック樹脂を含む基材を薄肉化するだけでは、寒冷地における自動車用部品の耐衝撃性が低下し、また、基材のみでは外観は乏しい。
そこで、通常、自動車用部品は、基材上に複層塗膜を有しており、その複層塗膜についても、寒冷地において優れた耐衝撃性を有するなど、自動車用部品として要求される諸物性を満たす必要がある。その上、複層塗膜には、優れた外観を満たすことが求められている。
【0017】
さらに、省エネルギー、低コスト化の観点から、自動車用部品の製造時間を短縮させることも配慮しなければならない。また、近年においては、軽量化および優れた意匠性をもたらすために、バンパーなどの自動車用部品を大型化することも検討されている。したがって、自動車用部品が大型化されても、製造時間を短縮させることが重要である。
そこで、本発明者等は、プラスチック樹脂を含む基材に塗料組成物を塗装し、加熱硬化させる工程を含む自動車用部品の製造方法において、塗料組成物の加熱硬化に要する時間を短縮させることに着目した。
【0018】
しかし、従来の塗料組成物の加熱硬化時間を短くすると、得られた自動車用部品は、複層塗膜の耐衝撃性が劣るおそれがある。更に、複層塗膜のタック性、研ぎ性なども劣り、塗膜物性だけでなく、塗膜外観についても見劣りした自動車用部品となってしまう。
別の対策として、硬化触媒を選択し、塗料組成物の乾燥時間を短縮することは可能である。しかし、この場合、ポットライフが短くなり、自動車用部品の塗装効率が悪くなるといった問題が生じてしまう。
【0019】
このような課題を解決すべく、本発明者は、鋭意検討した結果、プラスチック基材と、特定の塗膜を有する複層塗膜を有する自動車用外装部品であって、寒冷地においても十分に使用可能な、低温での耐衝撃性(例えば、-20℃でのデュポン衝撃強度)を有する自動車用外装部品を発明した。さらに、本発明の自動車用外装部品は、優れた外観、硬度、初期付着性、耐湿性、耐溶剤性(例えば、耐ガソホール性)、耐衝撃性(例えば、-20℃でのデュポン衝撃強度)を有することができる。更に、良好な塗膜の追従性を有する。また、プラスチック製の基材を薄肉化できるので、軽量化による燃費改善を行うことができる。
加えて、本発明の別の態様である自動車用外装部品の製造方法によると、特定の塗膜形成組成物から複層塗膜を形成することで、塗膜形成組成物の加熱硬化時間を大幅に短縮でき、自動車用外装部品の製造時間を大幅に短縮させることができる。その上、自動車用外装部品に要求される上記物性を備えることができる。その結果、自動車用外装部品の製造において、省エネルギー化、低コスト化を可能とする。
【0020】
このような効果を有する、本発明の自動車用外装部品は、
エラストマー変性ポリプロピレン樹脂を含むプラスチック基材と、複層塗膜とを有する自動車用外装部品であって、
前記複層塗膜は、
(a)単独膜の-20℃での引張伸度が5~35%であるプライマー塗膜、
(b)着色剤を含むベース塗膜、および
(c)クリヤー塗膜を有し、
前記クリヤー塗膜(c)は、塗膜形成樹脂として、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)と、ジオール樹脂(c-3)と、ポリイソシアネート化合物(c-4)とを含むクリヤー塗料組成物の乾燥塗膜であり、
前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)は、水酸基価が80mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が4,000以上10,000以下であり、およびガラス転移温度が30℃以上60℃以下であり、
前記非水分散型アクリル樹脂(c-2)はコアシェル構造を有し、前記コア部の水酸基価は100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、前記コア部のガラス転移温度は40℃以上80℃以下であり、
前記ジオール樹脂(c-3)は、水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、ならびに
前記プラスチック基材は、厚みが1.5~3.5mmである薄肉部を有し、
前記複層塗膜は、-20℃でのデュポン衝撃強度が4.9J以上である。
【0021】
また、本発明の別の態様である自動車用外装部品の製造方法は、上記特徴を有する塗膜を有し、例えば、所定のクリヤー塗料組成物を用いてクリヤー塗膜を形成することを含む。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
(プラスチック基材)
本発明の自動車用外装部品は、エラストマー変性ポリプロピレン樹脂を含むプラスチック基材と、複層塗膜とを有する。前記プラスチック基材は、厚みが1.5~3.5mmである薄肉部を有し、別の態様において、薄肉部の厚みは、例えば、1.5mm以上2.5mm以下である。薄肉部の厚みがこのような範囲であることにより、自動車用部品の軽量化に寄与できる。
また、上記薄肉部の厚みは、プラスチック部品のうち最も厚みが薄い部分が上記範囲内であるものを指す。
本発明の自動車用外装部品であれば、このような厚さのプラスチック基材と、本発明に係る複層塗膜とを有することにより、薄肉物品でありながらも、充分な低温耐衝撃性(例えば、-20℃でのデュポン衝撃強度)を付与できる。
【0023】
本発明に係るプラスチック基材は、エラストマー変性ポリプロピレン樹脂を含む。エラストマー変性ポリプロピレン樹脂は、特に限定されず、公知の市販のものを使用することができる。更に、樹脂以外に必要に応じて添加剤を添加したものであってもよい。
【0024】
(複層塗膜)
本発明において、自動車用外装部品は、プラスチック基材上に複層塗膜を有する。
複層塗膜は、
(a)単独膜の-20℃での引張伸度が5~35%であるプライマー塗膜、
(b)着色剤を含むベース塗膜、および
(c)クリヤー塗膜を有し、
前記クリヤー塗膜(c)は、塗膜形成樹脂として、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)と、ジオール樹脂(c-3)と、ポリイソシアネート化合物(c-4)とを含むクリヤー塗料組成物の乾燥塗膜であり、
前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)は、水酸基価が80mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が4,000以上10,000以下であり、およびガラス転移温度が30℃以上60℃以下であり、
前記非水分散型アクリル樹脂(c-2)はコアシェル構造を有し、前記コア部の水酸基価は100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、前記コア部のガラス転移温度は40℃以上80℃以下であり、
前記ジオール樹脂(c-3)は、水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、ならびに
前記複層塗膜は、-20℃でのデュポン衝撃強度が4.9J以上である。
【0025】
複層塗膜が、このような特徴を有する少なくとも3種の塗膜を有することにより、複層塗膜は、寒冷地(例えば、-20℃)においても優れた耐衝撃性を有する。更に、本発明に係る複層塗膜であれば、優れた外観、硬度、初期付着性、耐ガソホール性、耐湿性、耐ガソホール性、耐衝撃性(例えば、-20℃でのデュポン衝撃強度)を有する。更に、良好な塗膜の追従性を有する。
例えば、複層塗膜は、プライマー塗膜(a)を形成するプライマー塗料組成物と、ベース塗膜(b)を形成するベース塗料組成物と、クリヤー塗膜(c)を形成するクリヤー塗料組成物をこの順で、プラスチック基材に塗装し、加熱硬化(焼付)させることにより得られる。
以下において、各塗膜(a)~(c)および複層塗膜について説明する。
【0026】
(プライマー塗膜(a))
本発明に係るプライマー塗膜(a)は、単独膜の-20℃での引張伸度が5~35%である。例えば、引張伸度は10~30%であってもよい。
本明細書において、引張伸度は、以下に示した方法によって測定した値である。
【0027】
<引張伸度の測定方法>
(i)塗膜がハクリ可能な塗板上に乾燥膜厚が30μmになるように塗装し、塗装後に80℃で25分間乾燥させて塗膜を形成する。
(ii)縦10mm×横50mmの大きさに試験片を作製し、両端にマスキングテープを貼りつけ、マスキングテープの残り半分を裏面へ折り返す。
(iii)島津オートグラフ(AG-IS)にてマイナス20℃の環境下、5mm/minの引張り速度で測定する。
(iv)5サンプル測定してその平均値を算出する。
プライマー塗膜(a)の引張伸度がこのような範囲内であることにより、例えば、低温時(例えば-20℃)の衝撃強度に優れる。また、良好な塗膜の追従性を有する。
【0028】
上記プライマーとしては上述した引張伸度を満たすものであれば特に限定されないが、プラスチック基材に導電性を付与することができる導電性プライマーが好ましい。なかでも、水性導電プライマーであることが好ましく、例えば、プライマー用樹脂及び導電剤(カーボンブラック、アンチモンドープ酸化スズ処理酸化チタン等)、さらに必要に応じて白色顔料、その他の原料を含んだものを挙げることができる。
【0029】
上記水性導電プライマー中の水の配合割合は、導電プライマー全体に対して、好ましくは45~90質量%、さらに好ましくは50~80質量%である。水の配合割合が45質量%未満であると、粘度が高くなり、貯蔵安定性、塗装作業性が低下する。他方、水の配合割合が90質量%を超えると、不揮発分量の割合が低下し、塗装効率が悪くなり、タレ、ワキなどの外観異常が生じやすくなる。上記水性導電プライマーは、有機溶剤をさらに含んでもよく、その配合割合は、通常、含まれる水に対して40質量%以下である。
【0030】
上記水性導電プライマーのプライマー用樹脂成分としては、酸変性ポリプロピレン、酸変性塩素化ポリオレフィン、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂;水性アルキッド樹脂、水溶性アクリル樹脂等の顔料分散樹脂などを用いることが好ましい。これらのすべてを含有するものであってもよい。
【0031】
上記プライマー塗膜(a)を形成するプライマー塗料組成物は、例えば、スプレー塗装またはベル塗装などの手法で塗ることができる。上記基材は、必要に応じて、洗浄、脱脂しておいてもよい。
【0032】
プライマー塗膜は、乾燥膜厚で5~30μmであることが好ましい。5μm未満では隠ぺい性不足となり、30μmを超えるとワキ及びタレが発生し易くなる。好ましくは10~20μmである。上記乾燥膜厚は、SANKO社製SDM-miniRを用いて測定することができる。
【0033】
プライマー塗料組成物から形成した塗膜伸び率は、プライマー塗料組成物の組成の調整、使用する樹脂の組成を当業者に周知の方法で調整することによって調整できる。また、塗料用アルキド樹脂、塗料用ポリエステル樹脂、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール及びその混合物等のソフトナーを使用して調整してもよい。
【0034】
(ベース塗膜(b))
本発明におけるベース塗膜は、着色剤を含む。このようなベース塗膜は特に限定されず、公知のベース塗膜形成組成物から形成できる。着色剤も公知の無機顔料、有機顔料等を含むものを使用できる。その配合量も特に限定されるものではない。塗料は水性であっても、溶剤系であってもよい。また、着色ベース層及びマイカベース層の2層からなるものであってもよい。ベース塗膜の厚みは、10~30μmであることが好ましい。10μm未満では隠蔽性が不足するという問題を生じるおそれがあり、30μmを超えるとタレ、ワキ等の不具合が発生するおそれがある。好ましくは15~20μmである。上記乾燥膜厚は、SANKO社製SDM-miniRを用いて測定することができる。
【0035】
ベース塗膜は、溶剤系一液型ベース塗料組成物、溶剤系二液型ベース塗料組成物又は水性一液型ベース塗料組成物から形成された塗膜であることが好ましい。これらのいずれの形態のものであっても、本発明の目的に好適に使用できる。
【0036】
ベース塗膜(b)は、既知の方法により形成できる。
【0037】
(クリヤー塗膜(c))
本発明に係るクリヤー塗膜(c)は、塗膜形成樹脂として、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)と、ジオール樹脂(c-3)と、ポリイソシアネート化合物(c-4)とを含むクリヤー塗料組成物の乾燥塗膜である。
【0038】
水酸基含有アクリル樹脂(c-1)
水酸基含有アクリル樹脂(c-1)は、水酸基価が80mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が4,000以上10,000以下であり、およびガラス転移温度が30℃以上60℃以下である。
【0039】
本発明において「アクリル樹脂」とは、アクリル酸およびそのエステル、メタクリル酸およびそのエステルのうちの少なくとも一つのモノマーを含むモノマー組成物を重合して得られるポリマーを指す。
【0040】
水酸基含有アクリル樹脂(c-1)は、水酸基価が80mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、ある態様においては、水酸基価は95mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、例えば、水酸基価は110mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である。水酸基価がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗膜に良好な架橋密度を付与でき、クリヤー塗膜および複層塗膜に優れた耐ガソホール性及び耐候性等を付与できる。さらに、塗膜の親水化を抑制でき、クリヤー塗膜および複層塗膜に優れた耐水性、耐湿性を有することができる。
なお、水酸基価は、JIS K 0070に記載されている水酸化カリウム水溶液を用いる中和滴定法により求めることができる。
【0041】
水酸基含有アクリル樹脂(c-1)の重量平均分子量は、4,000以上10,000以下であってよく、ある態様においては4,000以上8,000以下であり、例えば4,500以上6,000以下である。
水酸基含有アクリル樹脂(c-1)の重量平均分子量がこのような範囲内であることにより、例えば、クリヤー塗膜形成組成物をベース塗膜上又は未硬化のベース塗膜上に塗装したときに、クリヤー塗膜形成組成物とベース塗膜との混相の発生を抑制でき、良好なクリヤー塗膜の外観(仕上がり外観)を得ることができる。また、クリヤー塗膜形成組成物の速乾性を向上させることが出来る。
その上、クリヤー塗料組成物は適度な粘度を有することができ、クリヤー塗膜形成組成物の塗装時の粘度を低下させる溶剤の使用を低減でき、揮発性有機化合物(VOC)の増加を抑制できる。さらに、得られた塗膜は、優れた耐ガソホール性、耐候性および外観を有することができる。
【0042】
本明細書における重量平均分子量は、東ソー株式会社製 HLC-8200を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定した値である。測定条件は以下の通りである。
カラム TSgel Super Multipore HZ-M 3本
展開溶媒 テトラヒドロフラン
カラム注入口オーブン 40℃
流量 0.35ml
検出器 RI
標準ポリスチレン 東ソー株式会社製PSオリゴマーキット
【0043】
水酸基含有アクリル樹脂(c-1)のガラス転移温度は、30℃以上60℃以下であり、ある態様においては30℃以上55℃以下であり、例えば、30℃以上50℃以下である。ガラス転移温度がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗膜は、優れた耐汚染性、耐擦り傷性を有することができ、加えて、クリヤー塗膜形成組成物の速乾性が向上する。その上、優れた外観を有することができる。
【0044】
本明細書におけるガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)(熱分析装置SSC5200(セイコー電子製))にて以下の工程により測定した値を用いた。具体的には、昇温速度10℃/minにて20℃から150℃に昇温する工程(工程1)、降温速度10℃/minにて150℃から-50℃に降温する工程(工程2)、昇温速度10℃/minにて-50℃から150℃に昇温する工程(工程3)において、工程3の昇温時のチャートから得られる値をガラス転移温度とした。
【0045】
本発明に係る水酸基含有アクリル樹脂(c-1)を構成でき、上記条件を満たす好適なモノマー組成物としては、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の、水酸基を含有するアクリル酸ヒドロキシエステル;メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル等の、水酸基を含有するメタクリル酸ヒドロキシエステル;のうちの少なくとも1つを含み、さらに、必要に応じて、アクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボロニル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸イソボロニル等のメタクリル酸エステル;スチレン等の芳香環を有するエチレン性不飽和モノマー;等のうちの少なくとも1つを含む組成物が挙げられる。モノマー組成物の組成は、水酸基含有アクリル樹脂に求められる各種物性に応じて適宜調節すればよい。
【0046】
モノマー組成物は、例えば酢酸ブチル等の溶剤を用いて重合できる。また、溶剤の種類、重合時のモノマー組成物の濃度、或いは重合開始剤の種類、量、重合温度、重合時間等の重合条件は、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)に求められる各種物性に応じて適宜調節できる。したがって、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)の製造方法は特に限定されるものではなく、市販の水酸基含有アクリル樹脂(c-1)を用いてもよい。
【0047】
水酸基含有アクリル樹脂(c-1)の量は、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)と、ジオール樹脂(c-3)と、ポリイソシアネート化合物(c-4)とを含むクリヤー塗料組成物の樹脂固形分の合計100質量部に対して、50質量%以上、90質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上、90質量%以下であることがさらに好ましい。このような量であることにより、ベース塗膜(b)上に形成されるクリヤー塗膜の平滑性を良好に保つことが出来る。また、クリヤー塗料組成物の乾燥性にも優れ、クリヤー塗料組成物は、良好な取り扱い性を有することができる。
【0048】
(非水分散型アクリル樹脂(c-2))
非水分散型アクリル樹脂(c-2)は、コアシェル構造を有し、前記コア部の水酸基価は100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、前記コア部のガラス転移温度は40℃以上80℃以下である。
また、アクリル樹脂(c-2)は、非水分散体(Non Aqueous Dispersion)である。
【0049】
非水分散型アクリル樹脂(c-2)はクリヤー塗料組成物中において粒子状で存在すると考えられ、非水分散型アクリル樹脂(c-2)を用いることにより、高分子量であるにもかかわらず低粘度の塗料組成物とすることができる。非水分散型アクリル樹脂(c-2)は加熱硬化(焼付け)工程時に線状高分子となり、乾燥性が向上する。また、非水分散型アクリル樹脂(c-2)はクリヤー塗料組成物中で粒子状となっていると考えられるので、クリヤー塗料組成物中で官能基(カルボキシル基および水酸基)とポリイソシアネート化合物とを、加熱硬化(焼付け)工程を行うまで分離した状態としておくことができる。上記官能基とポリイソシアネート化合物とは焼き付け工程時に反応する。従って、塗料組成物のポットライフの長期化と反応性の向上とを両立させることができる。
【0050】
前記コア部の水酸基価は100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、ある態様においては、95mgKOH/g以上、190mgKOH/g以下であり、例えば、90mgKOH/g以上、180mgKOH/g以下である。
コア部の水酸基価が上記範囲内であることにより、クリヤー塗膜に含まれる塗膜形成樹脂の架橋が充分になされ、クリヤー塗料組成物をベース塗膜または未硬化のベース塗膜上に塗装し、加熱硬化(焼き付け)してなる塗膜に対して、優れた耐ガソホール性および耐候性を付与できる。また、塗膜が親水化することを抑制でき、耐水性が低下することを防ぐことができる。更に、上記構成の非水分散体を用いることにより、加熱硬化(焼付け)直後の乾燥性を向上でき、および塗料組成物のポットライフを向上できる。
【0051】
前記コア部のガラス転移温度は40℃以上80℃以下であり、ある態様では45℃以上80℃以下であり、例えば45℃以上70℃以下である。コア部のガラス転移温度がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗料組成物は良好な乾燥性を保持できる。例えば、クリヤー塗料組成物をベース塗膜または未硬化のベース塗膜上に塗装し、加熱硬化(焼付け)してなる塗膜に対する乾燥性を向上できる。更に、クリヤー塗膜形成に必要な焼付を、従来と比べて短時間で行え、その上、要求される塗膜硬度と外観性能を確保できる。また、得られるクリヤー塗膜は、優れた平滑性および柔軟性を有することができる。
【0052】
コア部の酸価(AV)は、ある態様において、60mgKOH/g以下であり、例えば、50mgKOH/g以下であり、好ましくは40mgKOH/g以下である。下限値は0mgKOH/g以上である。コア部の酸価が上記範囲内であることにより、クリヤー塗料組成物をベース塗膜上に塗装し焼き付けてなる複層塗膜は、良好な耐水性を有することができる。
【0053】
コア部は、分子量が十数万程度と高分子量であり、焼き付け工程時に溶剤が揮発することによって粒子構造が崩れて線状高分子となってもよい。また、コア部は、架橋構造を有していてもよい。
【0054】
非水分散型アクリル樹脂(c-2)は、例えば、(i)コア部に、エステル部位の炭素数が4以上、12以下の水酸基含有アクリル酸エステルモノマーを含んでもよく、または、(ii)コア部に、カルボキシル基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーと、水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとを含んでもよい。
【0055】
(i)のモノマーを含むコア部
コア部に含まれる水酸基含有アクリル酸エステルモノマー(以下、長鎖水酸基含有モノマーと記載する場合がある)は、水酸基を含み、エステル部位の炭素数が4以上、12以下のアクリル酸エステルモノマーであり得る。例えば、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、CH2=C(R)COO(CH2)2O[CO(CH2)mO]nH(式中、Rは水素または炭素数が6以下の低級アルキル基、m,nは「(CH2)2O[CO(CH2)mO]n」部位の炭素数が4以上、12以下となる自然数)等が挙げられる。
【0056】
コア部が水酸基含有アクリル酸エステルモノマーを含む場合において、当該コア部は、さらに、カルボキシル基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーと、水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー(以下、短鎖水酸基含有モノマーと記載する場合がある)とを含んでいてもよい。
【0057】
さらに、当該コア部は、必要に応じて、アクリル酸;アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸;メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル;ビニル基を1つまたは2つ有するモノマー;イソシアネート基を有するモノマー;アリル基を有するモノマー;エポキシ基を有するモノマー;ビニル基を1つまたは2つ有する酸無水物;を含んでいてもよい。
【0058】
コア部に含まれるカルボキシル基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマー(以下、COOH含有モノマーと記載する場合がある)としては、具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0059】
コア部に含まれる水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、水酸基を含有し、エステル部位の炭素数が1~3或いは13以上のアクリル酸エステルモノマーが挙げられ、このうち、エステル部位の炭素数が1~3のアクリル酸エステルモノマーがより好ましく、具体的には、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の、水酸基を含有するアクリル酸ヒドロキシエステル;メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等の、水酸基を含有するメタクリル酸ヒドロキシエステル;等が挙げられる。
【0060】
(ii) のモノマーを含むコア部
コア部に含まれるカルボキシル基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、具体的には、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0061】
コア部に含まれる水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとしては、水酸基を含有し、エステル部位の炭素数が1~3或いは13以上のアクリル酸エステルモノマーが挙げられ、このうち、エステル部位の炭素数が1~3のアクリル酸エステルモノマーがより好ましく、具体的には、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル等の、水酸基を含有するアクリル酸ヒドロキシエステル;メタクリル酸2-ヒドロキシエチル等の、水酸基を含有するメタクリル酸ヒドロキシエステル;等が挙げられる。
【0062】
さらに、当該コア部は、必要に応じて、アクリル酸;アクリル酸メチル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸;メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル;ビニル基を1つまたは2つ有するモノマー;イソシアネート基を有するモノマー;アリル基を有するモノマー;エポキシ基を有するモノマー;ビニル基を1つまたは2つ有する酸無水物;を含んでいてもよい。
【0063】
従って、非水分散型アクリル樹脂(c-2)におけるコア部は、エステル部位の炭素数が4以上、12以下の水酸基含有アクリル酸エステルモノマーを含む場合((i) のコア部)と、当該水酸基含有アクリル酸エステルモノマーを含まない場合((ii)のコア部)とに大別され、さらに、エステル部位の炭素数が4以上、12以下の水酸基含有アクリル酸エステルモノマーを含む場合においては、上記(ii)のコア部に含まれる、カルボキシル基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーおよび水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーをさらに含んでいてもよい。即ち、本発明におけるコア部には、(I) 上記水酸基含有アクリル酸エステルモノマーを含む場合、(II)上記水酸基含有アクリル酸エステルモノマーと、カルボキシル基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーおよび水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーとを含む場合、(III) 上記水酸基含有アクリル酸エステルモノマーを含まず、カルボキシル基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーおよび水酸基を有するα,β-エチレン性不飽和モノマーを含む場合、の3通りのモノマー組成が存在する。
【0064】
コア部に含まれるカルボキシル基と長鎖水酸基含有モノマーの水酸基との合計量は、ある態様においては、0.1mmol/g以上、1.5mmol/g以下であり、例えば、0.2mmol/g以上、1.4mmol/g以下である。コア部に含まれるカルボキシル基と長鎖水酸基含有モノマーの水酸基との合計量がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗料組成物を、ベース塗膜または未硬化のベース塗膜上に塗装したときの乾燥性が良好であり、優れた取り扱い性を示す。また、塗膜の架橋が充分となり、複層塗膜の耐ガソホール性、耐候性を良好なものとできる。また、クリヤー塗料組成物を焼き付ける加熱硬化工程(焼付け工程)において、ポリイソシアネート化合物(c-4)との反応速度を適切な範囲に保持でき、形成される複層塗膜の硬化収縮を抑制でき、自動車用部品(複層塗膜)の外観(仕上がり外観)を良好なものに出来る。
【0065】
シェル部
非水分散型アクリル樹脂(c-2)におけるシェル部(分散樹脂)は、水酸基含有アクリル樹脂で形成されていることが好ましく、水酸基価が50mgKOH/g以上、160mgKOH/g以下、ガラス転移温度が0℃以上、80℃以下、酸価が30mgKOH/g以下(下限値は0mgKOH/g)であるという条件を満たしていることがより好ましい。
【0066】
具体的には、シェル部の水酸基価は、ある態様においては、50mgKOH/g以上、160mgKOH/g以下であり、例えば、60mgKOH/g以上、150mgKOH/g以下であり、一態様においては70mgKOH/g以上、140mgKOH/g以下である。シェル部の水酸基価がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗膜に含まれる塗膜形成樹脂の架橋が十分となり、クリヤー塗料組成物をベース塗膜または未硬化のベース塗膜上に塗装し、加熱硬化(焼付け)してなる塗膜は、耐ガソホール性および耐候性に優れた塗膜となる。また、クリヤー塗膜が親水化し、耐水性が低下することを抑制できる。
【0067】
シェル部のガラス転移温度は、ある態様においては、0℃以上、80℃以下であり、例えば、10℃以上、80℃以下であり、一態様においては、20℃以上、70℃以下である。シェル部のガラス転移温度がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗料組成物をベース塗膜または未硬化のベース塗膜上に塗装し、加熱硬化する際の乾燥性を良好にできる。また、形成されるクリヤー塗膜の硬度が優れたものとなる。さらに、クリヤー塗料組成物をベース塗膜または未硬化のベース塗膜上に塗装する時の粘度(塗装時粘度)が上昇することを抑制でき、クリヤー塗膜の外観(仕上がり外観)を良好なものとすることができる。また、塗装時の粘度を低下させるために溶剤使用量を低減でき、クリヤー塗料組成物の加熱硬化(焼付け)工程における揮発性有機化合物(VOC)を低減できる。
【0068】
非水分散型アクリル樹脂(c-2)におけるシェル部の酸価は、ある態様においては、30mgKOH/g以下であり、例えば、20mgKOH/g以下であり、別の態様においては10mgKOH/g以下である。シェル部の酸価がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗料組成物をベース塗膜または未硬化のベース塗膜上に塗装し焼き付けてなるクリヤー塗膜が親水化し、耐水性が低下することを抑制できる。
【0069】
非水分散型アクリル樹脂(c-2)のシェル部を製造するのに好適なモノマー組成物としては、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル等の、水酸基を含有するアクリル酸ヒドロキシエステル;メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル等の、水酸基を含有するメタクリル酸ヒドロキシエステル;のうちの少なくとも1つを含み、さらに、必要に応じて、アクリル酸;アクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸イソボロニル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸;メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸イソボロニル等のメタクリル酸エステル;スチレン等の芳香環を有するエチレン性不飽和モノマー;等のうちの少なくとも1つを含む組成物が挙げられる。モノマー組成物の組成は、シェル部に求められる各種物性に応じて適宜調節すればよい。
【0070】
さらに、当該モノマー組成物は、必要に応じて、ビニル基を1つまたは2つ有するモノマー;イソシアネート基を有するモノマー;アリル基を有するモノマー;エポキシ基を有するモノマー;ビニル基を1つまたは2つ有する酸無水物;を含んでいてもよい。
【0071】
シェル部を形成するモノマー組成物は例えば酢酸ブチル等の溶剤を用いて重合できる。
溶剤の種類、重合時のモノマー組成物の濃度、或いは重合開始剤の種類、量、重合温度、重合時間等の重合条件は、シェル部に求められる各種物性に応じて適宜調節できる。従って、シェル部の製造方法は特に限定されるものではなく、市販のものを用いてもよい。
【0072】
(コア・シェル構造を有する非水分散型アクリル樹脂(c-2)の製造)
上記シェル部と、上記コア部を形成する水酸基含有アクリル酸エステルモノマーおよび/またはα,β-エチレン性不飽和モノマー等のモノマーとを、コア部を形成するモノマーは溶解するが、ポリマーは溶解しない溶剤中で重合することにより、非水分散型アクリル樹脂(c-2)を製造できる。
【0073】
非水分散型アクリル樹脂(c-2)は、コア部とシェル部に存在する、水酸基、エステル基、カルボキシル基等の相互作用により溶剤中に安定化して存在している。例えば、コア部に長鎖水酸基含有モノマーを配合することで、非水分散型アクリル樹脂(c-2)の安定性がより向上することが期待できる。これは、長鎖水酸基のエステル部位の炭素数が4以上と長く、フレキシブルな構造であるため、シェル部の水酸基やエステル基、カルボキシル基等との相互作用の効率が高まるためであると考えられる。
【0074】
コア部への長鎖水酸基含有モノマーの配合以外にも、非水分散型アクリル樹脂(c-2)の安定性をより向上させるために、コア部とシェル部をグラフトしてもよく、またはコア部の架橋を実施してもよく、さらにこれらとコア部への長鎖水酸基含有モノマーの配合とを併用してもよい。
【0075】
上記グラフト重合においては、アクリル基やメタクリル基と、シェル部やコア部に必要に応じて含まれているモノマーが有するビニル基やイソシアネート基、アリル基、エポキシ基、酸無水物基との間でグラフト構造や架橋構造を形成してもよい。これら官能基の量を調節することにより、架橋の度合いを調節することができる。
【0076】
また、グラフト重合においては例えば酢酸ブチル等の溶剤を用いればよい。溶剤の種類、重合時のシェル部およびコア部の濃度、或いは重合開始剤の種類、量、重合温度、重合時間等の重合条件は、非水分散型アクリル樹脂(c-2)に求められる各種物性に応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではない。
【0077】
ある態様においては、上記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)の質量比は、((c-1)/(c-2))=90/10~50/50であり、好ましくは、((c-1)/(c-2))=85/15~60/40であり、例えば、((c-1)/(c-2))=80/20~70/30である。
本発明に係る水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、本発明に係る非水分散型アクリル樹脂(c-2)の質量比がこのような範囲内であることにより、焼付後の塗膜硬度と良好な外観を維持できる。また、短時間の焼付で、自動車用外装部品に要求される塗膜硬度と外観性能を確保できるので、環境に対する負荷を低減できる。
【0078】
クリヤー塗料組成物に占める非水分散型アクリル樹脂(c-2)の量は、クリヤー塗膜形成樹脂として、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)と、ジオール樹脂(c-3)と、ポリイソシアネート化合物(c-4)とを含むクリヤー塗料組成物の樹脂固形分の合計100質量部に対して、例えば、10質量%以上、50質量%以下であり、ある態様においては、10質量%以上、40質量%以下である。非水分散型アクリル樹脂(c-2)の量がこのような範囲内であることにより、クリヤー塗料組成物の乾燥性を良好にでき、取り扱い性に優れた組成物を得ることができる。また、形成されるクリヤー塗膜の平滑性を良好にできる。
【0079】
(ジオール樹脂(c-3))
本発明に係るクリヤー塗膜(c)は、塗膜形成樹脂としてジオール樹脂(c-3)を含み、ジオール樹脂(c-3)は、水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下である。別の態様においては、ジオール樹脂(c-3)の水酸基価は80mgKOH/g以上180mgKOH/g以下である。
ジオール樹脂(c-3)の水酸基価がこのような範囲内であることにより、焼付後の硬化塗膜は、優れた塗膜性能とデュポン衝撃強度とを確保できる。例えば、優れた、低温でのデュポン衝撃強度を備えることができる。
【0080】
ある態様において、ジオール樹脂(c-3)のガラス転移温度は0℃以下であり、例えば、-20℃以下である。ジオール樹脂(c-3)のガラス転移温度がこのような範囲であることにより、低温、例えば、-20℃でのデュポン衝撃強度を、より良好にできる。
【0081】
ジオール樹脂(c-3)は、例えば、ポリカーボネートジオール樹脂、ポリエーテルジオール樹脂、ポリエステルジオール樹脂及びポリカプロラクトンジオール樹脂から選択される少なくとも1種の樹脂であってよい。例えば、ジオール樹脂(c-3)は、ポリエステルジオール樹脂である。ジオール樹脂(c-3)がポリエステルジオール樹脂であることにより、より良好に、低温でのデュポン衝撃強度を備えることができる。
【0082】
ポリエステルジオール樹脂は、通常の重合方法によって製造できる。例えば、ポリエステルジオール樹脂は、アルコール化合物と酸を縮合反応して製造することができる。具体的には、メチルプロパンジオール、ジエチレングリコールなどのアルコール化合物とアジピン酸、イソフタル酸などの酸を縮合反応して製造することができる。
【0083】
クリヤー塗料組成物(但し、溶剤を除いた固形分)に占めるジオール樹脂(c-3)の量は、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)との樹脂固形分の合計100質量部に対して、例えば1質量部以上25質量部以下であり、ある態様において、1質量部以上10質量部以下であり、例えば、1質量部以上7質量部以下である。ジオール樹脂(c-3)の量がこのような範囲内であることにより、焼付け後、低温でのデュポン衝撃強度が優れ、その上、自動車用外装部品に要求される塗膜硬度とをバランスよく備えることができる。
さらに、本発明に係るジオール樹脂(c-3)を上記範囲内で含むことにより、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)との組み合わせに対して、さらに短時間で焼付けを行うことができる。
【0084】
(ポリイソシアネート化合物(c-4))
本発明に係るクリヤー塗膜(c)は、塗膜形成樹脂として、ポリイソシアネート化合物(c-4)を含む。例えば、非水分散型アクリル樹脂(c-2)のコア部が水酸基含有アクリル酸エステルモノマーを含む場合、ポリイソシアネート化合物(c-4)を用いることが好ましい。ポリイソシアネート化合物(c-4)を用いることにより、クリヤー塗料組成物の硬化反応速度を向上させることができる。
【0085】
本発明に係るクリヤー塗膜(c)は、塗膜形成樹脂として、ポリイソシアネート化合物(c-4)を含むことにより、クリヤー塗料組成物を塗装するときに、下層となるベース塗膜または未硬化のベース塗膜へ、ポリイソシアネート化合物(c-4)の一部が浸透し得るので、ベース塗膜(b)とクリヤー塗膜(c)との架橋性が向上する。
【0086】
ポリイソシアネート化合物(c-4)としては、イソシアネート基を2個以上有する化合物であれば特に限定されず、例えば、トリレンジイソシアネート、4,4′-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート等の芳香族のもの;ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族のもの;イソホロンジイソシアネート等の脂環族のもの;その単量体及びそのビュレットタイプ、ヌレートタイプ、アダクトタイプ等の多量体等を挙げることができる。例えば、イソシアヌレートおよびウレトジオン構造を有していることがさらに好ましい。
【0087】
ポリイソシアネート化合物の市販品としては、デュラネート24A-90PX(NCO:23.6%、商品名、旭化成社製)、スミジュールN-3200-90M(商品名、住化バイエルウレタン社製)、タケネートD165N-90X(商品名、三井武田ケミカル社製)、スミジュールN-3300、スミジュールN-3500(いずれも商品名、住化バイエルウレタン社製)、デュラネートTHA-100(商品名、旭化成社製)等を挙げることができる。また、必要に応じてこれらをブロックしたブロックイソシアネートを使用することもできる。
【0088】
ある態様において、ポリイソシアネート化合物(c-4)に含まれるイソシアネート基と、前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)および非水分散型アクリル樹脂(c-2)に含まれる水酸基との当量比(NCO/OH)は、0.7以上2.0以下であり、好ましくは(NCO/OH)は、0.7以上1.8以下であり、例えば、(NCO/OH)は、0.8以上1.5以下であり、ある態様では0.8以上1.0未満である。上記当量比(NCO/OH)がこのような範囲内であることにより、充分な架橋密度を有し、優れた強度を有するクリヤー塗膜を得ることができる。更に、優れた耐候性、硬度を有する塗膜を形成できる。好ましくは、ポリイソシアネート化合物(c-4)は、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)および非水分散型アクリル樹脂(c-2)との間で、上記のような当量比を有する量で、クリヤー塗膜(c)における塗膜形成樹脂に含まれる。
【0089】
(その他の添加剤)
クリヤー塗膜を形成するクリヤー塗料組成物は、上述した成分以外に、塗料分野において一般的に配合される添加剤を配合するものであってもよい。例えば、透明性を阻害しない範囲において、ベースカラー顔料、メタリック顔料を含有させることができる。さらに、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、架橋樹脂粒子、表面調整剤等を配合することもできる。
【0090】
クリヤー塗料組成物
クリヤー塗膜を形成するクリヤー塗料組成物は、例えば、その製造時に使用し得る酢酸ブチル等の溶剤を含んでもよい。クリヤー塗料組成物の濃度は、取り扱い性に優れた濃度であればよく、必要に応じて、酢酸ブチル等の溶剤を用いて希釈すればよい。
【0091】
クリヤー塗料組成物は、既知の触媒を含んでもよい。例えば、錫触媒を含んでもよい。クリヤー 塗料組成物中の錫触媒の配合量は、クリヤー塗料組成分中に配合される水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)の樹脂固形分の合計100質量部に対して、0質量部以上0.05質量部以下、ある態様においては、0.01質量部以上0.02質量部以下であることが好ましい。錫触媒の配合量がこのような範囲内で配合されることにより、クリヤー塗料組成物を焼き付ける工程において、クリヤー塗料組成物に含まれる塗膜形成樹脂との反応速度を好適な範囲にでき、塗料組成物の乾燥性をより良好にすることができる。また、得られるクリヤー塗膜は、より充分な硬度、塗膜外観等を得ることができる。さらに、触媒の配合量を適宜選択することにより、クリヤー塗料組成物のポットライフ調整できるので、大型化した自動車用外装部品にも良好な作業性を示し得る。
【0092】
クリヤー塗膜(c)の形成
本発明に係るクリヤー塗膜は、塗膜形成樹脂として、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)と、ジオール樹脂(c-3)と、ポリイソシアネート化合物(c-4)とを含むクリヤー塗料組成物の乾燥塗膜である。
【0093】
クリヤー塗膜の厚みは、15~50μmであることが好ましい。15μm未満では下地の凹凸が隠蔽できないという問題を生じるおそれがあり、50μmを超えると塗装時にワキ・タレなどの不具合が起こるという問題を生じるおそれがある。好ましくは20μm以上45μm以下である。上記乾燥膜厚は、SANKO社製SDM-miniRを用いて測定することができる。
【0094】
(複層塗膜)
本発明の自動車用外装部品は、上述したプライマー塗膜、ベース塗膜およびクリヤー塗膜を有する複層塗膜を有する。本発明の一態様においては、エラストマー変性ポリプロピレン樹脂を含むプラスチック基材に、プライマー塗膜(a)と、ベース塗膜(b)と、クリヤー塗膜(c)とがこの順で積層された複層塗膜を形成することを含む、自動車用外装部品の製造方法が提供され、
前記方法は、下記工程:
前記プラスチック基材にプライマー塗料組成物を塗装し、未硬化のプライマー塗膜を形成する工程、
ベース塗料組成物を塗装し、未硬化のベース塗膜を形成する工程、
クリヤー塗料組成物を塗装し、未硬化のクリヤー塗膜を形成する工程、
これらの未硬化の塗膜を加熱硬化させ、複層塗膜を形成する工程、
を含み、
前記プライマー塗膜(a)は、単独膜の-20℃での引張伸度が5~35%である膜であり、
前記ベース塗膜(b)は、着色剤を含み、および
前記クリヤー塗膜(c)は、塗膜形成樹脂として、水酸基含有アクリル樹脂(c-1)と、非水分散型アクリル樹脂(c-2)と、ジオール樹脂(c-3)と、ポリイソシアネート化合物(c-4)とを含むクリヤー塗料組成物の乾燥塗膜であり、
前記水酸基含有アクリル樹脂(c-1)は、水酸基価が80mgKOH/g以上220mgKOH/g以下であり、重量平均分子量が4,000以上10,000以下であり、およびガラス転移温度が30℃以上60℃以下であり、
前記非水分散型アクリル樹脂(c-2)はコアシェル構造を有し、前記コア部の水酸基価は100mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、前記コア部のガラス転移温度は40℃以上80℃以下であり、
前記ジオール樹脂(c-3)は、水酸基価が80mgKOH/g以上200mgKOH/g以下であり、ならびに
前記複層塗膜は、-20℃でのデュポン衝撃強度が4.9J以上である、
自動車用外装部品の製造方法が提供される。
【0095】
本発明の自動車用外装部品の製造方法であれば、塗膜形成組成物の硬化時間を大幅に短縮でき、自動車用外装部品の製造時間を大幅に短縮できる。
【0096】
上記自動車用外装部品の製造方法は、例えば、本発明の範囲を逸脱しない範囲で、例えば、バンパー等の自動車用プラスチック部品の塗装において使用される通常の塗装方法を適宜採用できる。
【0097】
本発明に係る複層塗膜の形成方法は、ある態様においては、基材の表面に、プライマー塗料組成物、ベース塗料組成物及びクリヤー塗料組成物をこの順番に塗り重ねて、複層の未硬化膜を形成し、加熱硬化(焼付け)を行うものである。
別の態様においては、自動車用外装部品の製造方法は、プラスチック基材にプライマー塗料組成物を塗装し硬化させ、塗膜を形成する工程と、
ベース塗料組成物を塗装し硬化させ、ベース塗膜を形成する工程と、
クリヤー塗料組成物を塗装し加熱硬化させ、クリヤー塗膜を形成する工程とを含んでもよい。
このような態様においても上述した各成分を使用できる。何れの態様においても、塗膜形成組成物の硬化時間を大幅に短縮でき、自動車用外装部品の製造時間を大幅に短縮できる。
【0098】
本発明の、自動車用外装部品の製造方法においては、未硬化の塗膜を加熱硬化させ、複層塗膜を形成する工程を含む。未硬化の塗膜の加熱硬化は、例えば、焼き付けにより行える。
ある態様において、加熱硬化の条件は、65℃以上85℃以下、10分以上15分以下である。このような条件であると、迅速な塗膜硬化とプラスチック成型品の変形防止を両立できる。さらに、耐湿性、低温耐衝撃性(例えば、-20℃でのデュポン衝撃強度)において優れる塗膜を形成できる。
ここで、本発明の製造方法によると、例えば、従来は20分程度必要であった焼き付け時間を、同じ焼き付け温度であっても、約半分程度にまで短縮できる。さらに、大型の基材(バンパーなど)に対しても、複層塗膜を、従来と比べて短時間で形成でき、自動車用外装部品の製造時間を大幅に短縮出来る。これは、本発明の方法に係る、特定のパラメータを有する特定の樹脂の組合せを含むクリヤー塗料組成物が、大きく貢献していると考えられる。
【0099】
このような加熱硬化(焼付け)時間であっても、塗膜の硬化を充分に行え、優れた耐水性及び耐ガソホール性を有する複層塗膜を形成できる。更に、従来と比べて、加熱硬化時間を短縮しながらも、タック性および研ぎ性に優れた複層塗膜(硬化塗膜)を形成できる。
なお、この加熱硬化(焼付け)時間は、基材表面が実際に目的の焼き付け温度を保持しつづけている時間を意味し、より具体的には、目的の焼き付け温度に達するまでの時間は考慮せず、目的の温度に達してから該温度を保持しつづけているときの時間を意味する。
【0100】
塗料組成物の未硬化膜を同時に焼き付けるのに用いる加熱装置としては、例えば、熱風、電気、ガス、赤外線などの加熱源を利用した乾燥炉などが挙げられ、また、これら加熱源を2種以上併用した乾燥炉を用いると、乾燥時間が短縮されるため好ましい。
【0101】
本発明の自動車用外装部品における複層塗膜は、-20℃でのデュポン衝撃強度が4.9J以上である。このようなものとすることで、欧州、中国等の寒冷地において、スノーバンクとぶつかった場合にもバンパー等の自動車用部品の破損を大きく低減できる。
また、本発明の自動車用外装部品であれば、複層塗膜の低温衝撃性が上記範囲内であることにより、薄肉部を有する基材に対しても、良好な低温衝撃性を付与できる。
ここで、本発明に係る、塗膜形成樹脂は、所定のパラメータを有する所定の樹脂の組合せ、特に、本発明に係るジオール樹脂(c-3)を含むので、短時間の焼付けであっても、塗膜硬化を可能にする。更に、得られた塗膜は、短時間で焼付け硬化した場合でも、優れた塗膜硬度を有し、低温で優れた耐衝撃性を有する。
【0102】
上記-20℃でのデュポン衝撃強度は、以下の実施例において詳述した方法によって測定したものである。
【0103】
本発明に係る自動車用外装部品として、例えば自動車用バンパーが挙げられる。
【実施例】
【0104】
以下、本発明を実施例によって説明する。実施例中、配合割合において%とあるのは特に言及がない限り質量%を意味する。本発明は以下に記載した実施例に限定されるものではない。
【0105】
(合成例C-1-1)
水酸基含有アクリル樹脂Ac(1)の製造
温度調節器、攪拌翼、還流管、窒素導入口を備えた2Lのセパラブルフラスコに、酢酸ブチル444.27gを仕込み、フラスコ内部を窒素雰囲気下にした後、温度を130℃に昇温して一定に保った。一方、スチレン(ST)255g、メタクリル酸(MAA)8.5g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)394.4g、アクリル酸2-エチルヘキシル(EHA)117.47g、メタクリル酸イソブチル(iBMA)74.72g、およびカヤエステルO 102gの混合液を滴下ロートに入れて、3時間かけて滴下した。
次いで、1時間反応を継続した後、後開始剤として、酢酸ブチル204g、カヤエステルO 20.4gの混合液を30分間かけて滴下し、更に1時間反応を継続して固形分60%の水酸基含有アクリル樹脂Ac(1)を得た。水酸基含有アクリル樹脂Ac(1)の配合量および物性を表1に示す。
【0106】
(合成例C-1-2~C-1-9)
水酸基含有アクリル樹脂Ac(2)~Ac(9)の合成
合成例(C-1-1)で用いた設備と同様の設備を用いて、表1に記載の配合量となるように溶剤、モノマー、開始剤、重合温度に変更した以外は合成例(C-1-1)の合成手順、操作と同様の合成手順、操作を行い、表1に記載の水酸基含有アクリル樹脂Ac(2)~Ac(9)を得た。物性も合わせて表1に示す。
【0107】
(水酸基価(OHV))
水酸基価は、JIS K 0070に記載されている水酸化カリウム水溶液を用いる中和滴定法により求めた。
【0108】
(ガラス転移温度)
水酸基含有アクリル樹脂Ac(1)~Ac(9)のガラス転移温度(Tg)は、下記方法で測定した。即ち、重合によって得られた水酸基含有アクリル樹脂から溶剤を減圧蒸留して除去した後、示差走査熱量計(DSC)(セイコー電子工業株式会社製;熱分析装置SSC/5200H)を用いて下記工程1~3
第1工程:20℃→100℃(昇温速度10℃/min)
第2工程:100℃→-50℃(降温速度10℃/min)
第3工程:-50℃→100℃(昇温速度10℃/min)
を行い、第3工程の昇温時から水酸基含有アクリル樹脂のガラス転移温度を、特開2015-168693号公報に記載の方法により測定した。
【0109】
(重量平均分子量)
水酸基含有アクリル樹脂Ac(1)~Ac(9)の重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定した値であり、ポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0110】
(酸価(AV)の測定)
酸価の測定は、JIS. K. 5601-2-1に則して測定した。
【0111】
【0112】
(合成例C-2-1)
非水分散型アクリル樹脂(NAD(1))の製造
非水分散型アクリル樹脂のシェル部(非水分散型樹脂シェルAc(1))の合成
温度調節器、攪拌翼、還流管、窒素導入口を備えた1Lのセパラブルフラスコに、酢酸ブチル376.8gを仕込み、フラスコ内部を窒素雰囲気下にした後、温度を110℃に昇温して一定に保った。一方、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル9.36g、アクリル酸2-ヒドロキシエチル91g、メタクリル酸ラウリル100g、メタクリル酸メチル55g、メタクリル酸4g、メタクリル酸イソボロニル140.64g、およびカヤエステルO 12gの混合液を滴下ロートに入れて、3時間かけて滴下した。
次いで、1時間反応を継続した後、後開始剤として、酢酸ブチル40g、カヤエステルO 4.8gの混合液を30分間かけて滴下し、更に1時間反応を継続して固形分50%の非分散樹脂シェルAc(1)を得た。得られた樹脂の重量平均分子量は20,000であった。
【0113】
非水分散型アクリル樹脂(NAD-1)の合成
温度調節器、攪拌翼、還流管、窒素導入口を備えた500mLのセパラブルフラスコに、上記で調製した非水分散型樹脂シェルAc(1)133.33g、酢酸ブチル174.98gを仕込み、フラスコ内部を窒素雰囲気下にした後、温度を110℃に昇温して一定に保った。
一方、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HEMA)39.44g、スチレン(ST)2.83g、メタクリル酸メチル(MMA)52.5g、アクリル酸-2-エチルヘキシル(EHA)4.59g、アクリル酸(AA)0.64g、およびカヤエステルO 1.0gの混合液を滴下ロートに入れて、3時間かけて滴下した。
次いで、1時間反応を継続した後、後開始剤として、酢酸ブチル10g、カヤエステルO 0.1gの混合液を30分間かけて滴下し、更に1時間反応を継続して固形分50%の非水分散型アクリル樹脂NAD(1)を得た。得られた非水分散型アクリル樹脂NAD(1)に凝集物は見られなかった。非水分散型アクリル樹脂NAD(1)の配合量および物性を表2に示す。
【0114】
(合成例C-2-2~合成例C-2-7)
合成例(C-2-1)で用いた設備と同様の設備を用いて、表2に記載の配合量となるように分散樹脂、溶剤、モノマー、開始剤、重合温度を変更する以外は合成例(C-2-1)の合成手順、操作と同様の合成手順、操作を行い、表2に記載の非水分散型アクリル樹脂NAD(2)~非水分散型アクリル樹脂NAD(7)を得た。また、非水分散型アクリル樹脂NAD(2)~非水分散型アクリル樹脂NAD(7)の物性を表2に示す。
なお、非水分散型アクリル樹脂NAD(1)~非水分散型アクリル樹脂NAD(7)のガラス転移温度、水酸基価、および酸価は、水酸基含有アクリル樹脂と同様にして測定した。
【0115】
【表2】
(実施例1)
自動車用部品の製造
複層塗膜を有する試験片(自動車用部品)を以下のようにして作製した。試験片は、温度20±5℃、相対湿度78%以下の塗装環境下にて作製した。
【0116】
基材であるポリプロピレン樹脂基材(150mm×100mm、厚み2mm:三井化学株式会社製;X465T)に、ポリプロピレン樹脂用プライマー塗料組成物として日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製BR-116CDをスプレーガン(アネスト岩田株式会社製;W-101-134G)を用いて乾燥膜厚が7μmになるように塗装した後、上記塗装環境下で1分間放置した。なお、1分間放置した状態では、塗膜は未硬化であった。
次いで、着色剤を含むベース塗料組成物として日本ペイント・オートモーティブコーティングス社製R-301S シルバーを、スプレーガン(アネスト岩田株式会社製;W-101-134G)を用いて乾燥膜厚が15μmになるように塗装した。上記塗装環境下で更に1分間放置した。なお、1分間放置した状態では、塗膜は未硬化であった。
更に、以下の表3に記載した配合であり、予め希釈しておいたクリヤー塗料組成物を、上記スプレーガンを用いて乾燥膜厚が何れも35μmになるように、上記未硬化のベース塗膜上に塗装し、上記塗装環境下で10分間放置した。
なお、実施例1で用いたジオール樹脂は、WHF348(DIC社製、ポリエステルジオール樹脂)であり、水酸基価110mg KOH/gであった。
また、ポリイソシアネート化合物として、N3300(コベストロ社製、NCO%=22)を用いた。
次いで、乾燥機を用いて素材が80℃まで昇温後、80℃下で、10分間乾燥及び加熱硬化させて、プラスチック基材と複層塗膜とを有する試験片(自動車用部品)を得た。
得られた自動車用部品に含まれる複層塗膜に関する配合、各種物性、評価結果を表3に示す。
【0117】
(実施例2~6、比較例1~11)
(塗装物品の物性評価)
実施例1~6の複層塗膜を含む試験片および比較例1~11の複層塗膜を含む試験片の各種物性を評価した。各種物性の評価方法を以下に示す。また、評価結果を表3および表4に示す。
【0118】
(外観)
複層塗膜を有する試験片の60°光沢度を、鏡面光沢度計を用い、JIS K-5600-4-7に準拠して測定して、下記基準によって評価した。
「○」:60°光沢度が85以上、かつ、フクレ、割れ、ピンホール、ゆず肌等の塗膜表面異常が認められない。
「×」:60°光沢度が85未満、若しくは、フクレ、割れ、ピンホール、ゆず肌等の塗膜表面異常が少なくとも1つ認められる。
【0119】
(硬度)
複層塗膜試験片の硬度を、JIS K-5600-5-4に基づいて測定した。その測定値が「B」以上であるものを「○」と評価し、5回以上試験し、「B」と「2B」で優位差がないものを「△」と評価し、「2B」以下であるものを「×」と評価した。
【0120】
(初期付着性)
複層塗膜を有する試験片の塗面上に、JIS K-5600-5-6にて規定される単一刃切り込み工具を垂直に当て、素地(ポリプロピレン樹脂基材)にまで達する切込みを入れた平行線1を平行に11本引いた。その平行線1に垂直に交わり、平行線1と同一間隔で、素地にまで達する切込みを入れた平行線2を11本引き、4本の直線に囲まれた正方形100個の碁盤目部を作った。平行線1,2の間隔は2mmとした。上記碁盤目部にJIS K-5600-5-6にて規定される透明感圧着テープを、塗面との間に気泡が含まれないように密着させた。その後、当該テープを、0.5~1.0秒の間に一気に剥がし、碁盤目部の剥離状態を目視にて評価した(碁盤目密着性試験)。そして、剥離が全く認められない場合を「○」と評価し、剥離が認められる場合を「×」と評価した。
【0121】
(耐湿性)
JIS K-5600-7-2に準拠して評価した。具体的には、複層塗膜を有する試験片を温度50±2℃、湿度98±2%の雰囲気下に240時間放置した後、1時間以内に塗膜表面の観察および碁盤目密着性試験を行った。碁盤目密着性試験は上記「初期付着性」に記載の碁盤目密着性試験と同様にして行った。そして、塗膜表面に異常が認められず、かつ、剥離が全く認められない場合を「○」と評価し、塗膜表面に異常が認められるか、若しくは剥離が認められる場合を「×」と評価した。
【0122】
(耐候性)
サンシャインウエザーメーター(スガ試験機株式会社製)を用いて複層塗膜を有する試験片の耐候性試験を行い、1200時間経過後の密着性および外観を評価した。密着性は、上記「初期付着性」に記載の碁盤目密着性試験と同様の碁盤目密着性試験を行って評価した。外観は、目視、色差、および光沢値で評価した。そして、剥離が全く認められず、目視による著しい異状が認められず、初期状態(耐候性試験前)との色差(ΔE)が3.0以下であり、かつ、光沢が80以上の場合を「○」と評価し、これら4つの項目のうち1つを満足しない場合を「△」と評価し、これら4つの項目のうち2つ以上を満足しない場合を「×」と評価した。
【0123】
(デュポン衝撃強度)
JIS K 5600-5-3をベースに撃ち型半径6.35±0.03、受け台直径4.8cm、板厚2mmの円筒で、塗膜の温度を-20℃に保ち評価した。
落下おもりは500gのものを用い、素材が破壊されない限界値を測定し、以下の基準で評価を行った。
〇:4.9J以上
×:4.9J未満
【0124】
(耐ガソホール性)
複層塗膜を形成したポリプロピレン樹脂基材片(3cm×3cm)を、レギュラーガソリンにエタノールを10容量%添加して得られるガソホール(20℃)に浸漬した後、30分でハガレのないものを「○」、それ未満を「×」とした。
【0125】
【0126】
【0127】
本発明に係る自動車用外装部品であれば、外観、硬度、初期付着性、耐湿性、耐候性、デュポン衝撃強度(低温)及び耐ガソホール性のいずれにおいても、優れた結果を示す。また、表3及び表4の結果から明らかなように、本発明の自動車用外装部品は、従来の自動車用外装部品と比べて、大幅に短い硬化時間でありながら、特に、耐湿性、低温耐衝撃性(例えば、-20℃でのデュポン衝撃強度)において優れた効果を有するものであることが明らかである。
例えば、実施例1における複層塗膜について、タック性、ポリッシュ性、研ぎ性の適否について検討したところ、いずれの物性も良好であった。
【0128】
一方、比較例1~4は、非水分散型アクリル樹脂が本発明の範囲外である。このため、比較例1は、硬度、耐湿性、耐候性及び耐ガソホール性が悪く、比較例2は、デュポン衝撃強度が悪く、比較例3は、耐湿性、耐候性、デュポン衝撃強度が悪く、比較例4は、耐湿性、耐候性及び耐ガソホール性が悪い。
また、比較例5~10は、水酸基含有アクリル樹脂が本発明の範囲外である。このため、比較例5は、硬度、初期付着性、耐湿性及び耐候性が悪く、比較例6は、耐湿性、耐候性及び耐ガソホール性が悪く、比較例7は、外観、デュポン衝撃強度が悪く、比較例8及び9は、硬度、耐湿性、耐候性及び耐ガソホール性が悪く、比較例10は、外観、デュポン衝撃強度が悪い。
比較例11は、本発明に係るジオール樹脂を含まない。このため、デュポン衝撃強度が悪い。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明の自動車用部品は、バンパーなどの自動車用部品として好適に使用することができる。