(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】複数回使用のトラセミド組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/64 20060101AFI20230331BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230331BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20230331BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20230331BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230331BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230331BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20230331BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230331BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230331BHJP
A61P 7/10 20060101ALI20230331BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20230331BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
A61K31/64
A61K47/02
A61K47/04
A61K47/10
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/36
A61P7/10
A61P9/12
A61P13/12
(21)【出願番号】P 2020566330
(86)(22)【出願日】2019-02-15
(86)【国際出願番号】 FR2019050345
(87)【国際公開番号】W WO2019158873
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-24
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520308086
【氏名又は名称】ヴェトキノール サ
【氏名又は名称原語表記】VETOQUINOL SA
【住所又は居所原語表記】MAGNY-VERNOIS,70200 Lure, France
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モロー マリネット
(72)【発明者】
【氏名】レゴ エロディ
【審査官】深草 亜子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101007003(CN,A)
【文献】特開昭63-023818(JP,A)
【文献】Journal of International Society of Preventive and Community Dentistry,2015年,Vol.5, No.2,pp.114-119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
CA/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラセミドと、緩衝剤またはアルカリ化剤と
、プロピレングリコー
ルとを含む水性組成物であって、
プロピレングリコールの重量濃度が、前記組成物の全重量に対して30%以上、好ましくは35%以上、さらに一層好ましくは40%以上であ
り、pHが7.5から10までの間であることを特徴とする、前記水性組成物。
【請求項2】
トラセミドの重量濃度が、前記組成物の全重量に対して0.01%から5%までの間、好ましくは0.1から3%までの間、さらに一層好ましくは0.1から2%までの間である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記緩衝剤またはアルカリ化剤が、トロメタミン(TRIS)、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムおよびメグルミンを含む群から選択され、前記緩衝剤またはアルカリ化剤の重量濃度が、好ましくは、組成物の全重量に対して1から5%までの間である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
アクリル酸の合成親水性ポリマー、多糖類、ガム、ポリビニルポビドン、ポロキサマー、親水性シリカおよびポリ(メタ)アクリレートを含む群から選択されるレオロジー調節剤をさらに含み、レオロジー調節剤の重量濃度が、好ましくは、前記組成物の全重量に対して0.01から10%までの間である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
甘味料をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
粘度が、0.001から5Pa.sまでの間である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
1種または複数の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
薬物としての使用のための、好ましくは、うっ血性心不全に関連する浮腫および体液貯留を含む臨床徴候の治療、腎疾患および高血圧症の治療における使用が意図されている、請求項1~
7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成物を調製するための方法であって、場合により不活性雰囲気下、
(a)前記緩衝剤またはアルカリ化剤を室温で水に添加し、撹拌して、混合物1を得るステップと、
(b)トラセミドを混合物1に添加し、撹拌して、混合物2を得るステップと、
(c)撹拌しながらレオロジー調節剤を徐々に添加して、混合物3を得るステップと、
(d)場合により、1種または複数の薬学的に許容される賦形剤を添加し、澄明溶液が得られるまで撹拌して、混合物4を得るステップと、
(e)
プロピレングリコールを添加し、澄明溶液が得られるまで撹拌して、混合物5を得るステップと、
(f)場合により、撹拌しながら、体積を調整するステップと、
(g)場合により、pHを調整するステップと、を含
む、前記方法。
【請求項10】
ボトルまたは容器に格納されている、請求項1~
8のいずれか一項に記載の組成
物。
【請求項11】
- 請求項
10に記載の
組成物と、
- 前記組成物を投与するためのシステムと
を含む、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラセミドおよび少なくとも1種の有機溶媒を含む水性組成物、前記組成物を含むボトルまたは容器、ならびに前記ボトルまたは容器および組成物を投与するためのシステム(例えば、シリンジ)を含むキットに関する。
【0002】
本発明は、トラセミドを含む組成物の安定性および/または抗微生物特性を増大させるための少なくとも1種の有機溶媒の使用にも関する。
【0003】
最後に、本発明は、本発明に従う組成物を調製するための方法にも関する。
【背景技術】
【0004】
トラセミドまたはトルセミド(1-イソプロピル-3-[(4-m-トルイジノ-3-ピリジル)スルホニル]尿素)は、強い利尿作用を有する、公知の活性成分である。これは、ヒトおよび獣医治療学における、心不全、腎疾患に関連する浮腫の治療において、および高血圧症の治療において使用される。
【0005】
トラセミド(C16H20N4O3S、M=348.4g.mol-1、CAS:56211-40-6)は、下記の構造式I:
【0006】
【0007】
これは、とりわけDemadex(登録商標)、Diuver(登録商標)、Dytor(登録商標)、Examide(登録商標)およびUpcard(登録商標)の商標で販売されている。
【0008】
トラセミドを含む治療が推奨される疾患は、一般に毎日の治療を必要とする慢性疾患である。
【0009】
最近の研究([1])は、より良好な利尿効果に好都合なトラセミドを推奨してきた。したがって、特に心臓障害を治療するためのトラセミドへの関心が高まってきている。これらの有望な結果にもかかわらず、トラセミドは、治療限界が小さく(または狭く)、これは、生物中におけるその濃度のいかなる変動も、わずかでも中程度でも、望ましくない潜在的に深刻な影響につながり得る可能性があることを意味する。したがって、必要用量を分配できることが重要である。
【0010】
治療されているヒトまたは動物におけるイオン不均衡は、長期間治療中に観察される。この不均衡は、血圧降下またはアルドステロンおよびクレアチニンの増大等、他の望ましくない結果につながる。
【0011】
現在まで、フロセミド(CAS:54-31-9)が基準治療を構成している。これは、一般に、経口または静脈内経路によって投与される。最近、狭い治療限界、およびヒトまたは動物の体重と相関関係のある用量の調整の問題に応えて、トラセミドに基づく分割錠が販売されている。
【0012】
しかしながら、この解決法は、利用可能な体重の全範囲を考慮に入れた用量の調整をすることはできない。
【0013】
その上、トラセミドの溶解度は、溶液のpHによって決まる。さらに、溶液中におけるトラセミドの安定性は、組成物において使用されている添加物および賦形剤と相関関係がある。したがって、トラセミドは、約2から7までの間のpHにおいて不溶性である(
図1)。
【0014】
このように、トラセミドは、水性媒体中で安定性が低いことが知られている。トラセミドに基づく単回使用の注射用アルカリ性溶液は、従来技術において公知である。文献、米国特許第4,861,786号明細書([2])は、特に、9.3から9.9までの間のpHを有する生理的に適合性の緩衝剤および5から20%までの有機溶媒を含み、前記有機溶媒が、ポリエチレングリコール(100から1500g.mol-1までの間の分子量を有する)、ポリプロピレングリコール(50から1000g.mol-1までの間の分子量を有する)、グリセロール、プロピレングリコール、エタノールおよびプロパノールを含む群から選択される、注射用アルカリ性トラセミド組成物について記載する。これらの組成物は、2から40mg.ml-1までのトラセミドを含む。安定性および特に結晶の外観を理由として、pHは9.3から9.9までの間でなくてはならず、溶媒のパーセンテージは20%未満でなくてはならない。
【0015】
したがって、従来技術の注射用アルカリ性トラセミド組成物は、十分な安定性も良好な保存性を保証する抗微生物作用も有さない。さらに、それらの特性は、複数使用(または複数回使用)、すなわち、数時間から数日間までの範囲に及ぶ一定期間にわたる同じ組成物の繰り返し使用を許さない。
【0016】
公知の組成物は、安定性および抗微生物作用の増大に加えて、投与時に用量を調節するためのより大きな自由を供与する組成物も供与しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【非特許文献】
【0018】
【文献】Peddleら(J.Vet.Cardiology、2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
したがって、経口経路または非経口経路によって投与することができ、従来技術のこれらの欠陥、欠点および障壁を克服する、複数回使用の水性組成物が真に必要である。ヒトまたは動物における投薬量の極めて精密な制御、コストの削減、したがって治療の全体的な改善を可能にする、そのような組成物を含むボトルまたは容器も必要である。
【課題を解決するための手段】
【0020】
出願人は、少なくとも1種の有機溶媒を30重量%以上含むトラセミド組成物を開発した。当該組成物の物理的、化学的および/または抗微生物安定性が改善されるだけではなく、より広範囲のpH、つまり7.5から10までの間、好ましくは8から9.9までの間、さらに一層好ましくは9から9.9までの間にわたって改善される。したがって、本発明に従う組成物は、25から30℃までの間の貯蔵温度で、少なくとも24か月間、好ましくは36か月間にわたって安定である。これらの特性の改善は、組成物を、複数使用(または複数回使用)、つまり、数時間から数日間までの範囲に及ぶ一定期間にわたる同じ組成物の繰り返し使用に、好適なものにする。
【0021】
さらに、本発明に従う組成物は、米国および欧州薬局方に準拠する抗微生物保存効果を有する。
【0022】
したがって、安定性が改善されるだけではなく、拡張したpH範囲にわたって改善され、加えて、本発明組成物は、抗微生物作用という便益を有する。これは、例えば、トラセミド組成物中の抗微生物保存料を節約することを可能にする。
【0023】
したがって、本発明は、トラセミドおよび少なくとも1種の有機溶媒を含む水性組成物であって、有機溶媒の重量濃度が、組成物の全重量に対して30%以上、好ましくは35%以上、さらに一層好ましくは40%以上であり得ることを特徴とする、水性組成物に関する。好ましくは、有機溶媒の濃度は、70%以下であり得る。
【発明を実施するための形態】
【0024】
「水性組成物」は、水を含む組成物を意味する。本発明の文脈において、水性組成物は、少なくとも水、有機溶媒およびトラセミドを含む。
【0025】
有利には、トラセミドの重量濃度は、組成物の全重量に対して0.01%から5%までの間、好ましくは0.1から3%までの間、さらに一層好ましくは0.1から2%までの間であり得る。mg.ml-1で表現されるトラセミドの重量濃度は、0.1から50mg.ml-1までの間、好ましくは1から30mg.ml-1までの間、さらに一層好ましくは1から20mg.ml-1までの間であることができる。トラセミドの重量濃度は、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、10、12、15または20mg.ml-1であることができる。有利には、本発明に従う組成物は、不純物を含まない。本発明の文脈において、「不純物」は、トラセミドの分解から、またはトラセミドの沈殿から生じる、アルデヒドまたはケトン型の分子の、結晶の形態の粒子を意味する。好ましくは、不純物AおよびB(欧州薬局方)または不純物AおよびE(USPによれば)等、未知のまたは公知の不純物の総濃度は、5%未満であってもよい。本発明に従う組成物は、澄明溶液の形態であることができる。本発明の文脈において、「澄明」は、欧州薬局方のモノグラフに従う可視粒子を含まない溶液を意味する。
【0026】
有利には、少なくとも1種の有機溶媒は、プロパンに由来するアルコールを含む群から選択することができる。例えば、有機溶媒は、プロピレングリコール(プロパン-1,2-ジオールまたはPGとも呼ばれる)、グリセロール(1,2,3-プロパントリオールとも呼ばれる)、プロパン-1,3-ジオール(PDOとも呼ばれる)、プロパノール(プロパン-1-オールとも呼ばれる)、イソプロパノール(プロパン-2-オールとも呼ばれる)およびそれらの混合物を含む群から選択できる。好ましくは、有機溶媒は、グリセロールおよびプロピレングリコールを含む群から選択できる。
【0027】
有利には、本発明に従う組成物は、生理的に相容性の緩衝剤またはアルカリ化剤をさらに含ませることができる。緩衝剤またはアルカリ化剤は、例えば、トロメタミン(TRIS)、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムおよびメグルミンを含む群から選択することができる。緩衝剤またはアルカリ化剤の重量濃度は、組成物の全重量に対して1から5%までの間、好ましくは1から2%までの間であり得る。
【0028】
有利には、本発明に従う組成物は、レオロジー調節剤(または増粘剤)をさらに含むことができる。前記レオロジー調節剤は、例えば、アクリル酸の親水性合成ポリマー(カルボマー)、多糖類(セルロース誘導体、キトサン、デンプンまたはアルギネート)、ガム、ポリビニルポビドン、ポロキサマー(プルロニック(登録商標))、親水性シリカ、またはポリ(メタ)アクリレートであり得る。カルボマーは、例えば、カーボポール971NF、974、934Pまたは941等の2-プロペン酸のホモポリマーを含む群から選択できる。多糖類は、デンプンおよびその誘導体;例えばヒドロキシエチルセルロース(HEC)、エチルセルロース(EC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)およびヒドロキシプロピルセルロース(HPC)等のセルロース誘導体;例えば脱アセチル化キチン等のキトサンの誘導体、異なるアセチル化度を有し、10000から1000000までの分子量を有する;グルコサミンとN-アセチルグルコサミンとのコポリマーを含む群から選択できる。ガムは、キサンタンガムおよびグアーガム(ガラクトマンナン)を含む群から選択できる。「誘導体」は、共役塩基、塩、エーテル、エステル、または、より一般的には、類似化合物から化学反応によって誘導される化合物を意味する。レオロジー調節剤の重量濃度は、組成物の全重量に対して0.01から10%までの間、好ましくは0.1から5%までの間、さらに一層好ましくは0.1から2%までの間であり得る。
【0029】
有利には、本発明に従う組成物の粘度は、0.001から5Pa.sまでの間であり得る。前記粘度は、組成物の投与時に活性成分の最適分布を得ることを可能にする。
【0030】
有利には、本発明に従う組成物は、組成物のオスモル濃度を調整するための作用物質をさらに含み得る。前記作用物質は、例えば、糖(グルコース)、NaClまたはKClから選択できる。
【0031】
有利には、本発明に従う組成物は、甘味料をさらに含むことができる。甘味料は、サッカリン(サッカリンナトリウム)、アセスルファムカリウム、アドバンテーム、アスパルテーム、エリスリトールおよびイソマルトを含む群から選択できる。甘味料の重量濃度は、組成物の全重量に対して0.01から2%までの間であり得る。「甘味料」または「甘味剤」は、本発明の意義では、甘味を有する化合物または化合物の混合物を意味する。この種類の化合物の組成物への添加は、経口経路によって投与されることが意図されている場合には、嗜好性を増大させ、したがって、とりわけ薬物が動物用に意図されている場合には、対象によってより容易に受け入れられるようにする。
【0032】
有利には、本発明に従う組成物は、任意の薬学的に許容される賦形剤をさらに含ませることができる。したがって、組成物は、1種または複数の界面活性剤、無機化合物または等張剤を含ませることができる。
【0033】
有利には、本発明に従う組成物は、7.5から10までの間、好ましくは8.0から9.9までの間、さらに一層好ましくは9から9.9までまたはそうでなければ9.3から9.9までの間のpHを有し得る。組成物のpHは、組成物中における成分の溶解度および量の相関関係において、ならびに特にトラセミドの溶解度および量の相関関係において、当業者によって容易に適合させることができる。本発明に従う組成物のpHは、薬学的に許容される任意の酸または塩基により調整し得る。pHは、例えば、NaOH、HCl、メグルミン(N-メチルグルカミン)またはトロメタミンにより調整し得る。
【0034】
本発明に従う組成物の安定性の改善は、トラセミドに通常関連する制約を低減させることにより、治療により大きな調節を可能にするという利点も有する。本発明に従う組成物は、特にすべての可能性のある体重に分配される用量をより容易に調整し得るために、各患者に対しより適合した解決を与える。トラセミドに基づく治療において、初めて、本発明組成物は、狭い治療限界を有するトラセミドについて、体重に対する用量の調整の問題に取り組む。
【0035】
また、トラセミド組成物は、初めて、複数使用(または複数回使用)に好適となり、単回使用の組成物に関連する制約を排除している。これは、例えば、包装材の量の減少、再利用することが意図され得る既に開封された組成物の使用または貯蔵の容易さに対してより柔軟な制約に反映される。
【0036】
したがって、本発明に従う組成物は、慢性治療(例えば、経口組成物の形態で)および救急治療(例えば、注射用組成物の形態で)の両方に好適である。ヒトまたは動物に投与される液体量は、必要とされる治療用量および対象の体重の相関関係において調整され得る。
【0037】
有利には、本発明に従う組成物は、経口、皮下(SC)、筋肉内(IM)または静脈内(IV)経路によって投与され得る。
【0038】
別の態様によれば、本発明は、特に、うっ血性心不全に関連する浮腫および体液貯留を含む臨床徴候の治療ならびに腎疾患および高血圧症の治療における、薬物としての使用のための、本発明に従う組成物に関する。
【0039】
したがって、本発明は、
- うっ血性心不全に関連する浮腫および体液貯留を含む臨床徴候を治療するため、ならびに腎疾患および高血圧症を治療するための、本発明に従う組成物の使用、
- 本発明に従う組成物を投与することを含む、うっ血性心不全に関連する浮腫および体液貯留を含む臨床徴候を治療するための方法、腎疾患および高血圧症を治療するための方法、
にも関する。
【0040】
本発明は、トラセミドを含む水性組成物中における、少なくとも1種の有機溶媒の、30%以上、好ましくは35%以上、さらに一層好ましくは40%以上の重量濃度での使用にも関する。好ましくは、少なくとも1種の有機溶媒の重量濃度は、70%以下であり得る。本発明は、トラセミドを含む水性組成物の安定性を増大させるおよび/または前記組成物に抗微生物特性を付与するための、少なくとも1種の有機溶媒の、30%以上、好ましくは35%以上、さらに一層好ましくは40%以上の重量濃度での使用も含み、すなわち、前記組成物は、25℃から40℃までの間、好ましくは30℃の温度で、少なくとも24か月間、好ましくは36か月間にわたって安定である。例えば、前記組成物は、30℃の温度で少なくとも24時間または25℃の温度で少なくとも36時間にわたって安定である。さらに、組成物は、開封後、その物理的、化学的および微生物学的安定性のおかげで、最大28日間にわたって貯蔵され得る。
【0041】
本発明は、本発明に従う組成物を調製するための方法であって、
(a)緩衝剤またはアルカリ化剤を室温で水に添加し、撹拌して、混合物1を得るステップと、
(b)トラセミドを混合物1に添加し、撹拌して、混合物2を得るステップと、
(c)撹拌しながらレオロジー調節剤を徐々に添加して、混合物3を得るステップと、
(d)場合により、1種または複数の薬学的に許容される賦形剤を添加し、澄明溶液が得られるまで撹拌するステップと(混合物4)、
(e)少なくとも1種の有機溶媒を添加し、澄明溶液が得られるまで撹拌するステップと(混合物5)、
(f)場合により、撹拌しながら、体積を調整するステップと、
(g)場合により、pHを調整するステップと、を含み、
本発明に従う組成物を得る該方法にも関する。
撹拌は、機械的(磁気撹拌機)であってもよく、および/またはタービンを使用して行われてもよい。
【0042】
別の態様によれば、本発明は、本発明に従う組成物を含む、ボトルまたは容器にも関する。
【0043】
有利には、ボトルには、キャップ、レデューサー、または組成物の送達を容易にする任意の他の開封システムが備わっていてもよい。シリンジまたは組成物を投与するための他のシステムを収納する前記デバイスは、目盛り付けに応じて、各治療に必要とされる、有効かつ適合された用量を過不足なく投与することを可能にする。投与のためのシステム(すなわち、シリンジ)は前記組成物と接触しないため、前記デバイスは、本発明に従う組成物の使用中の微生物汚染を限定することを可能にする。例えば、偶発的接触中、前記組成物の抗微生物特性は、可能性のある汚染から該組成物を保護する。
【0044】
最後に、本発明は、
- 本発明に従う組成物を含むボトルまたは容器と、
- 該組成物を投与するためのシステムと
を含む、キットにも関する。
【0045】
「組成物を投与するためのシステム」は、例えば、点滴器、投薬キャップまたはシリンジ等、ボトルまたは容器から組成物を取り出し、次いで、それを経口、SC、IMまたはIV経路によって投与するための任意のシステムを意味する。
【0046】
以下に記載する実施例を読めば、他の利点が当業者に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】pHの関数としてのトラセミドの溶解度曲線(単位mg.ml
-1)を示す図である。
【
図2】キャップおよび本発明の組成物を投与するためのシステム(シリンジ)を示す写真である。
【
図3】キャップおよび本発明の組成物の投与のためのシステム(シリンジ)およびレデューサー(中央)が備わっているボトルを含む、本発明に従うキットの2つの実施例(左および右)を示す写真である。
【実施例】
【0048】
(実施例1)本発明に従う組成物の調製
混合物1の調製:
解膠タービン(速度:200~600rpm、持続時間:約15分)により撹拌しながら、水およびトロメタミン(緩衝剤)を室温(18~25℃)で導入する。
【0049】
混合物2の調製:
解膠タービン(速度:200~600rpm、持続時間:約15分)により撹拌しながら、トラセミドを混合物1に添加する。
【0050】
混合物3の調製:
解膠タービンおよび機械的撹拌(速度:200~600rpm、持続時間:約15分)により撹拌しながら、ポリマーを混合物2に徐々に添加する。
【0051】
混合物4の調製:
残りの賦形剤(有機溶媒を除いて)を混合物3に添加し、澄明溶液が得られるまで撹拌を維持する。
【0052】
混合物5の調製:
次いで、有機溶媒(プロピレングリコール)を混合物4に添加し、澄明溶液が得られるまで撹拌を維持する。
【0053】
場合により、15分の最短時間にわたって磁気撹拌しながら、体積を水で調整する。
【0054】
場合により、pHを所望の値に調整する。
【0055】
組成物が、低粘度の無色液体の形態で得られる。
【0056】
以下の表1中の組成物を、上記のプロトコールに従って、表中に指示されている量で調製する。
【0057】
【0058】
(実施例2)本発明に従う組成物の安定性最適化
組成物1および2の安定性を、加速過酷貯蔵条件下(accelerated harsh storage conditions)で、40℃の温度、75%の相対湿度にて、時間T=2か月間にわたって、評価した。
【0059】
試験した組成物のそれぞれについて、不純物のレベルを、欧州または米国薬局方のモノグラフにおいて記述されている活性成分に対応する方法によって測定する。
【0060】
結果を以下の表2に提示する:
【0061】
【0062】
「未知の不純物」は、欧州薬局方において「B」および「A」ならびに米国薬局方(USP)において「A」および「E」として分類される、不純物、分解生成物および化学的不純物を意味する。
【0063】
得られた結果は、本発明に従う組成物が、従来技術の組成物よりも安定であることを実証するものである。したがって、本発明に従う組成物は、安定性の観点から、米国および欧州薬局方によって要求される基準を満たす。
【0064】
(実施例3)本発明に従う組成物の抗微生物特性
抗微生物効力を、欧州モノグラフに従って評価した。
【0065】
下記の組成物(本発明に従うAからIまでおよびCE1からCE7までの比較例)を、実施例1の手順に従って調製した。
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
30%以上の含有量のプロピレングリコールを含む組成物は、欧州薬局方を満たす抗微生物保存効力を与え、前記薬局方は、30%未満の有機溶媒(すなわち、プロピレングリコール)を含む組成物とは対照的に、抗微生物保存効力に関して、最も厳しい基準(より狭い公差範囲)を有する。
【0072】
(実施例4)フロセミドまたはトラセミドを含む組成物の安定性の比較
組成物CE-AからCE-Fまでを、下記の手順に従って調製する:
1)エタノールをプロピレングリコールに添加し、均質化する;
2)クエン酸緩衝液を、ステップ1で得られた混合物に添加する;
3)活性成分(フロセミドまたはトラセミド)を、ステップ2で得られた混合物に添加する;
4)HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)を、ステップ3で得られた混合物に添加する。
CE-AからCE-Fまでの組成物は、いずれも6.0から6.6までの間のpHを有する。
【0073】
【0074】
これらの結果は、フロセミドおよびトラセミドが単に交換可能ではないことを示す。
【0075】
参考文献一覧
[1]Peddleら(J.Vet.Cardiology、2012)
[2]米国特許第4,861,786号明細書