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特許7254118ピストンおよびシリンダを備える、ピペット・チップまたはシリンジとともに使用するためのピペット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】ピストンおよびシリンダを備える、ピペット・チップまたはシリンジとともに使用するためのピペット
(51)【国際特許分類】
   B01L 3/02 20060101AFI20230331BHJP
   F04B 9/14 20060101ALI20230331BHJP
   G01F 11/06 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
B01L3/02 D
F04B9/14 B
G01F11/06
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021096164
(22)【出願日】2021-06-08
(65)【公開番号】P2022001365
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2021-10-01
(31)【優先権主張番号】20181406.8
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591121683
【氏名又は名称】エッペンドルフ エスイー
【氏名又は名称原語表記】Eppendorf SE
【住所又は居所原語表記】Barkhausenweg 1, 22339 Hamburg,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ヴィルテ
(72)【発明者】
【氏名】ダナ・トゥッシェラー
(72)【発明者】
【氏名】マティアス・クンシュ
(72)【発明者】
【氏名】フロリアン・テッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ブルクハルト・ライヒムス
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-189045(JP,A)
【文献】特開2001-004500(JP,A)
【文献】特表昭60-501048(JP,A)
【文献】米国特許第03205863(US,A)
【文献】特開昭55-129159(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01L 3/02
G01N 1/00 - 1/44
G01N 35/00 - 35/10
C12M 1/26
F04B 9/14
B01J 4/02
G01F 11/04 - 11/06
G01F 13/00
B43K 24/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンおよびシリンダを備える、ピペット・チップまたはシリンジとともに使用するためのピペットであって、以下を備えるピペット:
・ ステム状のピペット・ハウジング(2)と、
・ 前記ピペット・ハウジング(2)の下端部にある、シリンダ(13)を解除可能に保持するための第1の保持装置(12)と、
・ 前記ピストン(21)のピストン・ロッド(20)の上端部を解除可能に保持し、かつ前記シリンダ(13)の下端部にある先端開口部(24)の上のピストン走行領域(31)内で前記ピストン(21)のシール領域(33)を変位させるために、前記ピペット・ハウジング(2)内に配置されている、第2の保持装置(22)を下端部に備える昇降ロッド(15)と、
・ 前記ピペット・ハウジング(2)内にあり、偏向装置(76)を介して同時に反対方向に変位するように互いに連結されている2つの平行ロッド(72,73)からなる装置であって、前記2つのロッド(72,73)のうちの一方は前記昇降ロッド(15)に連結されている、装置と、
・ 前記ピペット・ハウジング(2)から外方に突出し、前記ピペット・ハウジング(2)に対して前記昇降ロッド(15)の軸方向に変位可能な操作要素(36)と、
・ 前記ピペット・ハウジング(2)内に配置されており、前記操作要素(36)によって駆動するドライブ(40)と前記ロッド(72,73)を駆動させる出力部(44)とを有する歯車機構(37)であって、前記ドライブ(40)は可動式入力部材(41)からなり、前記出力部(44)は少なくとも1つの可動式出力部材(45)からなり、前記歯車機構(37)は前記入力部材(41)が前記操作要素(36)によって同じ初期位置から連続的に変位して、前記一方のロッド(72,73)および前記他方のロッド(72,73)を前記出力部材(45)によって交互に下方へ変位させるように構成されている、歯車機構(37)と、を備える
・ 前記歯車機構(37)の前記可動式出力部材(45)がドライバ要素(46)であり、前記歯車機構(37)は前記一方のロッド(72,73)の上のある位置に前記ドライバ要素(46)を変位させ、前記ドライバ要素(46)を用いてこのロッドを下方へ変位させ、ついで、前記他方のロッド(72,73)の上のある位置に前記ドライバ要素を変位させ、前記ドライバ要素(46)を用いてこの他方のロッドを下方へ変位させるように構成されている。
・ 前記ドライバ要素(46)がウィング板(47)であり、前記ウィング板(47)は、前記ロッド(72,73)に平行な軸の周りに、前記昇降ロッド(15)と同軸的に回転可能に取り付けられており、前記入力部材(41)を初期位置から連続して変位することで、前記一方のロッド(72,73)の上にあるウィング(48)と、同時に前記他方のロッド(72,73)の上にあるアンダーカット(49)とで、かつ、前記一方のロッド(72,73)の上にあるアンダーカット(49)と、同時に前記他方のロッド(72,73)の上にあるウィング(48)とで交互に位置決めが可能である。
【請求項2】
前記2つのロッドは歯付きロッドであり、前記偏向装置は、これら2つの歯付きロッドを同時に反対方向に変位させるために前記歯付きロッド(72,73)と噛合する大歯車(76)である、請求項1に記載のピペット。
【請求項3】
前記歯車機構(37)が、前記ドライバ要素(46)を備えるロッド・ドライブ(42)を有し、このロッド・ドライブは、上から接触することによって起動することができ周縁方向に傾斜する少なくとも1つの第1の制御カム(50)と、少なくとも1つの第1の案内要素(52)と、側部停止部(59)を有し前記操作要素(36)を用いて前記第1の制御カム(50)に対して前記ロッド(72,73)の軸方向に上から押されることのできるアクチュエータ(39)と、前記ピペット・ハウジング内の所定の位置に固定的に配置され、前記ロッド・ドライブ(42)を軸方向に第1の案内要素(52)上で案内する少なくとも1つの第2の案内要素(64)と、を有し、前記アクチュエータ(39)を下方へ軸方向に変位させることで、前記第1の案内要素(52)の上端部が前記第2の案内要素(64)の下端部を越えて変位するまで前記ロッド・ドライブ(42)が軸方向に案内され、前記第1の案内要素(52)が前記第2の案内要素(64)の下端部の下で部分的に前記アクチュエータ(39)の前記側部停止部(59)と当接するまで、前記第1の制御カム(50)を備えた前記ロッド・ドライブ(42)が回転し、前記アクチュエータ(39)を上方へ戻して変位させることで、前記第1の案内要素(52)の下端部が前記側部停止部(59)の上端部を越えて変位する場合に前記第1の案内要素(52)が前記側部停止部(59)から解除され、前記第1の案内要素(52)を備えた前記ロッド・ドライブ(42)が回転して前記第2の案内要素(64)に当接する位置になるまで、前記第1の制御カム(50)を備えた前記ロッド・ドライブ(42)が前記第2の案内要素(64)の下端部を越えてスライドする、請求項2に記載のピペット。
【請求項4】
前記アクチュエータ(39)が少なくとも1つの第2の制御カム(56)を有し、前記少なくとも1つの第2の制御カム(56)は下から接触することで作動可能であり、同じ周縁方向に傾斜しており、前記アクチュエータ(39)はそれによって上から前記第1の制御カム(50)に押し付けることが可能である、請求項3に記載のピペット。
【請求項5】
前記第1の案内要素(52)が少なくとも1つの第3の制御カム(62)を下端部に有し、前記少なくとも1つの第3の制御カム(62)は下から接触することで作動可能であり、同じ周縁方向に傾斜しており、前記第1の制御カム(50)は前記アクチュエータ(39)を戻して変位させることによって、この第3の制御カムを過ぎて上方にスライドする、請求項3または4に記載のピペット。
【請求項6】
前記アクチュエータ(39)が、前記ロッド・ドライブ(42)に支持されているスペーサばね(58)によって、前記ロッド・ドライブ(42)から押し出される、請求項3から5のうちの一項に記載のピペット。
【請求項7】
前記ロッド・ドライブ(42)が圧縮ばね(54)によって前記アクチュエータ(39)に押し付けられ、前記圧縮ばね(54)は前記ピペット・ハウジング(2)の所定の位置に固定的に配置されている当接部(55)に支持されている、請求項3から6のうちの一項に記載のピペット。
【請求項8】
前記歯車機構(84)が、前記ドライバ要素(96)および水平方向の制御ピン案内部を有し、垂直な第1面の両側に配置されているレール(89,90)を有するレール保持具(85)であって、このレールは、引込み用面取り部(91,92)が下端部または上端部に向かって立っている垂直な第1部分(89.1,90.1)をいずれも第1面に垂直な第2面の両側に有し、前記第1部分(89.1,90.1)の他端にいずれも第2部分(89.2,90.2)を有し、前記第2部分(89.2,90.2)は第2面の反対側に斜めに戻っているか曲がっている、レール保持具(85)を有し、前記歯車機構(84)はまた、前記操作要素(36)に接続され、制御ピン案内部に水平方向に変位可能に案内される制御ピンを有し、前記歯車機構(84)は、案内ピン(95)が前記第1面に対して垂直に変位可能に配置されており、ピン軸受(94)により前記ピペット・ハウジング(2)内の所定位置に固定的に配置されているピン保持具(93)を有し、前記レール保持具(85)を垂直に変位させると、前記案内ピン(95)が他方のレール(89,90)の他端部と係合するまで前記案内ピン(95)が一方のレール(89,90)の前記引込み用面取り部(91,92)によって前記ピン保持具(93)から突出している端部で変位可能であり、前記他方のレールでは、前記レール保持具(85)を続けて反対方向に垂直に変位させると、前記案内ピンが斜めに戻っているか曲がっている前記第2部分(89.1,90.1)に沿って案内され、その結果、前記レール保持具(85)が前記ドライバ要素(96)とともに側方に変位し、前記レール保持具(85)を反対方向に続いて垂直に変位させると、前記案内ピン(95)が前記他方のレール(89,90)の前記引込み用面取り部(91,92)によって突出している端部で変位し、前記案内ピンが前記一方のレールの他端部と係合し、前記一方のレールでは、前記レール保持具(85)を続けて反対方向に垂直に変位させると、前記案内ピン(95)が斜めに戻っているか曲がっている前記第2部分(89.2)に沿って案内され、その結果、前記レール保持具(85)が前記ドライバ要素(96)とともに反対方向に側方に変位する、請求項2に記載のピペット。
【請求項9】
前記レール保持具が2つの平行な板状のフレーム部(86.1,86.2)を備えたフレーム(86)を有し、前記フレーム部(86)はスペーサ(87.1,87.2)によって互いに離れて保持され、内面にレール(89,90)を有し、その間に前記ピン保持具(93)が配置されている、請求項8に記載のピペット。
【請求項10】
前記ドライバ要素(96)が前記レール保持具(85)の下面である、請求項8または9に記載のピペット。
【請求項11】
前記歯車機構(37,84)が前記歯付きロッド(69,70)の上に配置されている、請求項2から10のうちの一項に記載のピペット。
【請求項12】
前記2つの歯付きロッド(72,73)のうちの一方が、2つのピニオン(81,82)が回転に関して共通の軸(83)に固定的に接続されている歯車装置(80)を介して、前記昇降ロッド(15)に固定的に接続されているさらなる歯付きロッド(89)にさらに連結されている多段歯付きロッド(72)である、請求項2から11のうちの一項に記載のピペット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンおよびシリンダを備える、ピペット・チップまたはシリンジとともに使用するためのピペットに関する。
【0002】
ピペットは、特に、選択された液体量を計測するために、医学的用途、分子生物学的用途、および、製薬的用途で、科学用実験室および工業用実験室において利用される。この液体は、特に、単一の液体成分からなる均質(単相)液体または複数の液体成分(溶液)の均質混合物からなっていてもよい。この液体はまた、さらなる液体(エマルジョン)または固体(懸濁液)を含む不均一な(多相)液体混合物であってもよい。
【0003】
ピペット・チップで使用するための既知のピペットは、ピペット・チップを固締するために下端部にネック(アタッチメント)を備えたステム型のピペット・ハウジングを有する。ネックは、概して、円錐形、円筒形、または部分的に円錐形および円筒形の凸部であり、「作業円錐部」としても示されている。ピペット・チップは、下端部に先端開口部と上端部にアタッチメント開口部とを備えた小さな中空チューブであり、ピペット・チップはそれによってネックにクランプ嵌めが可能である。液体は、ピペット・チップに受けられ、そこから分注される。液体を受けたり分注したりすることは、ピペットによって制御される。固定容量のピペットは、均一な容量をピペット操作するのに役立つ。可変ピペットの場合、計測する容量を調整することができる。機械的カウンタは、調整された容量を表示するのに役立つ。容量を調整するために、そのカウンタに連結されている調整装置によって駆動装置の走行を調整することができる。ピペット・チップは、使用後にアタッチメントから分離され、新しいピペット・チップと交換可能である。その結果、後続のピペット操作を行う場合、相互汚染を回避することができる。
【0004】
エアクッション式ピペットは、チャネルを介してネックの貫通孔に接続されているピストン―シリンダ・システムをピペット・ハウジング内に有する。エアクッション式ピペットのピペット・チップ(エアクッション式ピペットチップ)には、一体型ピストンがない。駆動装置を用いてシリンダ内でピストンを変位させることによって、ネックにクランプ締めされているピペット・チップに液体を吸引し、そこからその液体を排出するために、エアクッションが移動する。エアクッション式ピペットでは計量誤差がひとつの欠点であるが、それは、吸引された液体の重さのためにエアクッションの長さが変化することや、温度や空気圧や空気湿度が変化することによるものである。エアゾールによるピペットの汚染もまた、問題となり得る。
【0005】
一体型ピストンを有するピペット・チップ(容積式ピペット・チップ)を備えた容積式ピペットが使用される。このタイプのピペットは、ピペット・チップを固締するネックと、一体型ピストン(チップ・ピストン)に連結されてもよい、ピストンを移動させるための駆動装置とを有する。ピストンは液体と直接接触するようになるので、エアクッションの悪影響がなくなる。容積式ピペットは、特に、高蒸気圧、高粘度、または高密度の液体の計量や、汚染を避けるためにエアゾールの存在しないことが重要となる分子生物学における用途に適している。
【0006】
使い捨てやピペットとともに再利用するためのピペット・チップやシリンジは、プラスチックやガラスからなる。
【0007】
容積式ピペットであるエッペンドルフ(Eppendorf)社のBiomaster(登録商標)4830の場合、駆動装置がピストンをピペット・チップ内で変位させるための昇降ロッドを有し、この昇降ロッドは、中空の下部昇降ロッド部と、上から下部昇降ロッド部に挿入される上部昇降ロッド部とを有する。上部昇降ロッド部は、ピペット・ハウジングの上端部から突出した操作要素に接続されている。エッペンドルフ社のMastertip(登録商標)のピペット・チップは公称容量が20μLであり、ピペットのネックに固締可能である。操作要素を押すことで、ピペット・チップの先端のピストンのピストン・ロッドの上端部が下部昇降ロッド部に押し込まれるように、昇降ロッドが下方へ変位可能である。昇降ロッドが下部停止部まで下方に変位すると、ばね装置に予め張力がかかる。操作要素が解除された後、ばね装置は昇降ロッドを上部停止部まで変位させ、そこで先端のピストンが入り込み、液体がピペット・チップに吸引されることができる。吸引された液体は、再び操作要素を下部停止部まで押圧することによって分注できる。ピペット・チップを解除するために、さらなるばね装置が偏向し、上部昇降ロッド部が下部昇降ロッド部内で下方へ変位し、これによってピストンを下部昇降ロッド部から押し出してピペット・チップをネックから押し離すように、使用者は大きな力で操作要素を押さなければならない。昇降ロッドを上方へ変位させるばね装置を有する容積式ピペットを用いた高粘度の液体のピペット操作は、ピペット・チップに高粘度の液体を吸入するにはばね装置が弱すぎる可能性があるため、問題がある。より強いばねを備えたばね装置には、強い作動力が必要である。
【0008】
欧州特許第0 656 229 B1号は、手動で操作可能なピペットとシリンジとを備えたピペット・システムを開示している。ピペットは、締結部用のレシーバをピペット・ハウジング内のシリンジ・シリンダに、シリンジ・ピストン用のピストン・レシーバをレシーバ本体内に有する。径方向に前進可能な把持装置を用いて、締結部をレシーバ内に固定することができ、ピストンをピストン・レシーバ内に固定することができる。レシーバ本体は、ハウジングの軸方向スロットから突出する戻り運動レバーに接続されている。戻り運動レバーを上方へ変位させることによって、ピペットに接続されたシリンジ内に液体を入れることができる。ピペットはディスペンサとして構成され、シリンジから受けた液体の部分量を段階的に分配(分注)するために、ピストン・レシーバに接続されている歯付きロッドを有する繰り返し機構と、回転ノブを用いて調整可能な、歯付きロッドの歯のカバーと、駆動レバーに旋回可能に取り付けられた戻り止めとを有する。戻り止めは、ばねによって歯付きロッドの方向に予め張力がかけられている。駆動レバーを下方へ旋回させると、戻り止めはカバー上をスライドし、カバーの下端部を越えた後、歯に係合し、歯付きロッドを下方へ変位させる。それによって、液体がシリンジから分注され、分注容積はカバーの位置に依存する。分注レバーの反復作動により、シリンジを段階的に空にすることができる。このピペット・システムは、高粘度の液体を分注するのに適している。しかしながら、液体を受けて分注するためには、ユーザは握り替えなければならない、というのは、さまざまなレバーをそのために作動する必要があるためである。
【0009】
欧州特許第0 566 041 B1号は、歯付きロッド、カバーおよび戻り止めを分注レバーに備えた反復機構を有するシリンジで使用するための段付きピペットまたはディスペンサをそれぞれ開示している。歯付きロッドは、それに平行な歯付きロッドに、これら歯付きロッドの間に配置された大歯車を介して結合される。シリンジは、後に述べた歯付きロッドの上端部にある作動ノブを押し下げることによって、充填することができる。大歯車による結合のため、先に述べた歯付きロッドも同時に上方へ変位する。充填されたシリンジは、分注レバーの反復作動によって段階的に空にすることができる。分注レバーと作動ノブは、ピペット・ハウジングの上端部の異なる面に配置されている。液体を受容し分注するために握り変えることが必要である。
【0010】
欧州特許第0 085 854 B1号は、互いに交互に移動可能であり、大歯車によって連結され、その一方がピストンのための昇降ロッドに接続されている2つの歯付きロッドを有する、シリンジとともに使用するためのピペットを開示している。ピストンを上下に移動させるために、作動レバーはひとつだけある。作動レバーと歯付きロッドとの間には停止要素があり、この停止要素は一方の歯付きロッドの経路と他の歯付きロッドの経路とに交互に変位可能である。この目的のために、停止要素は移動カムと係合されるようになり、移動カムは停止部に向かって張力ばねによって引っ張られる。2つの歯付きロッドのうちの1つは、カムから突出するレバーに接触する突出停止部に接続され、この歯付きロッドが上方へ変位したときにカムを停止部から離れるように回転させる。カムの位置に応じて、作動レバーが作動すると、スライダが変位して、それぞれ頂部に配置されている歯付きロッドが下方に引っ張られる。大歯車による結合によって、他方の歯付きロッドが上方に変位する。その結果、同じ作動レバーを連続的に作動させることによって、液体をシリンジに収容し、シリンジから分注することができる。このピペットでは、歯付きロッドを交互に変位させるための歯車機構が、駆動機構と一体的に構成されている。歯付きロッドが歯車機構の制御に作用する突出停止部は、歯車機構を構成する部品である。欠点は、この機構が複数の構成要素を有し、この構成要素は大きな空間を占め、組立てが複雑な点である。
【0011】
そこで、本発明の目的は、ピストンおよびシリンダを備える、ピペット・チップまたはシリンジとともに使用するためのピペットであって、操作が簡単であり、さほど複雑ではなく、より省スペースで、かつ、組立てが簡単な機構を有するピペットを提供することである。
【0012】
本目的は、請求項1の特徴を有するピペットによって達成される。ピペットの有利な実施形態は、従属請求項において特定されている。
本発明による、ピストンおよびシリンダを備えるピペット・チップまたはシリンジで使用するためのピペットは、
・ ステム状のピペット・ハウジングと、
・ ピペット・ハウジングの下端部にある、シリンダを解除可能に保持するための第1の保持装置と、
・ ピストンのピストン・ロッドの上端部を解除可能に保持し、かつシリンダの下端部にある先端開口部の上のピストン走行領域内でピストンのシール領域を変位させるために、ピペット・ハウジング内に配置されている、第2の保持装置を下端部に備える昇降ロッドと、
・ ピペット・ハウジング内にあり、偏向装置を介して同時に反対方向に変位するように互いに連結されている2つの平行ロッドからなる装置であって、2つのロッドのうちの一方は昇降ロッドに連結されている、装置と、
・ ピペット・ハウジングから外方へ突出し、ピペット・ハウジングに対して変位可能な操作要素と、
・ ピペット・ハウジング内に配置されており、操作要素によって駆動するドライブとロッドを駆動させる出力部とを有する歯車機構であって、ドライブは可動式入力部材からなり、出力部は少なくとも1つの可動式出力部材からなり、歯車機構は入力部材が操作要素によって同じ初期位置から連続的に変位して、一方のロッドおよび他方のロッドを出力部材によって交互に下方へ変位させるように構成されている、歯車機構とを備える。
・ 前記歯車機構(37)の前記可動式出力部材(45)がドライバ要素(46)であり、前記歯車機構(37)は前記一方のロッド(72,73)の上のある位置に前記ドライバ要素(46)を変位させ、前記ドライバ要素(46)を用いてこのロッドを下方へ変位させ、ついで、前記他方のロッド(72,73)の上のある位置に前記ドライバ要素を変位させ、前記ドライバ要素(46)を用いてこの他方のロッドを下方へ変位させるように構成されている。
・ 前記ドライバ要素(46)がウィング板(47)であり、前記ウィング板(47)は、前記ロッド(72,73)に平行な軸の周りに、前記昇降ロッド(15)と同軸的に回転可能に取り付けられており、前記入力部材(41)を初期位置から連続して変位することで、前記一方のロッド(72,73)の上にあるウィング(48)と、同時に前記他方のロッド(72,73)の上にあるアンダーカット(49)とで、かつ、前記一方のロッド(72,73)の上にあるアンダーカット(49)と、同時に前記他方のロッド(72,73)の上にあるウィング(48)とで交互に位置決めが可能である。
【0013】
本発明によるピペットの場合、2つのロッドが交互に下方へ変位することが、単一の操作要素を作動させることによって制御されてもよい。この作動によって、操作要素が変位し、歯車機構のドライブが駆動する。ドライブは、可動式入力部材からなり、この入力部材は操作要素を作動させることによって変位する。歯車機構の出力部は、少なくとも1つの可動式出力部材を備える。歯車機構は、入力部材が操作要素によって同じ初期位置から連続的に変位して、一方のロッドおよび他方のロッドを出力部材によって交互に下方へ変位させるように構成されている。2つのロッドのうちの一方は昇降ロッドに連結されている。一実施形態によると、ロッドが歯車機構を介して、昇降ロッドに連結されているか、たとえば昇降ロッドと一体的に構成されているロッドによって固定的に接続されている。その結果、操作要素を繰り返し作動させることによって、液体をピペット・チップまたはシリンジ内に収容し、ついでそこから分注することができる。液体をピペット・チップまたはシリンジに収容することは、単一のステップで行うことができ、液体をピペット・チップから分注することは、単一のステップまたは複数のステップで行うことができる。歯車機構のドライブは可動式入力部材からなるので、単に操作要素を作動させることによって歯車機構が駆動制御される。欧州特許第0 085 854 B1号と対照的に、歯付きロッドの位置はさらなる入力部材を介しても歯車機構に戻ることはなく、歯車機構を制御するために使用される。その結果、構成部品がほとんどない歯車機構では、スペース要件の削減と組立ての簡素化が可能となる。本発明は、歯車機構の本実施形態を、完全に予め組み立てられ、その後、完成したピペットを形成するためにさらなるサブアセンブリおよび/または構成部品で組み立てることのできるサブアセンブリとして促進する。
【0014】
本発明の一実施形態によると、2つのロッドは歯付きロッドであり、偏向装置は、この2つの歯付きロッドを同時に反対方向に変位させるために歯付きロッドと噛合する歯車である。さらなる実施形態によると、偏向装置がピペット・ハウジング内の所定の位置に固定的に配置されているロータリジョイントを備え、スライドジョイントを介するロッドへの接続部、または端部でロッドに接続され偏向ローラを介して案内されるプルケーブルをさらに備える2アーム式レバー(ロッカ)である。
【0015】
さらなる実施形態によると、歯車機構の出力部材はドライバ要素であり、歯車機構は一方のロッドの上のある位置にドライバ要素を変位させ、ドライバ要素を用いてこのロッドを下方へ変位させ、ついで、他方のロッドの上のある位置にドライバ要素を変位させ、ドライバ要素を用いてこの他方のロッドを下方へ変位させるように構成されている。作動要素によって同じ初期位置から入力部材を連続的に変位させる場合、ドライバ要素は異なるロッドの上の位置に変位する。このことは、ドライバ要素が上方へ、かつ/または下方へ変位する場合に生じる。上方へ変位して初期位置になることでこのことが生じると、入力部材が初期位置からすでに下方へ変位することでドライバ要素が前もって調整されているロッドが、下方へ入り込む。初期位置から下方へ変位することによってこのことが生じると、ドライバ要素がまずさらなるロッド上のある位置に移動し、ドライバ要素をさらに変位させると、このさらなるロッドが下方へ入り込む。さらなる実施形態では、下方へ変位した場合のドライバ要素がまず同じロッドの上で他方のロッドの上の位置方向にわずかに変位すると、最初に述べたロッドはドライバ要素がさらに変位することで下方へ入り込み、ドライバ要素が上方へ変位することでのみ、ドライバ要素が第2に述べたロッドの上の位置に変位する。
【0016】
さらなる実施形態によると、操作要素の移動によって、ドライバ要素が回転移動する。この目的のために、ピペットには、1つ以上の内部の機械的構成部品があり、そのレールや引込み用面取り部の特定の形状によって回転するように設定されている。回転式構成部品は、歯付きロッドを確実に交互に作動したりそれぞれ解除したりする幾何学的形状を有する。
【0017】
さらなる実施形態によると、ドライバ要素はウィング板であり、ウィング板は、ロッドに平行な軸の周りに回転可能に取り付けられており、入力部材を初期位置から連続して変位することで、一方のロッドの上にあるウィングと、同時に他方のロッドの上にあるアンダーカットとで、かつ、一方のロッドの上にあるアンダーカットと、同時に他方のロッドの上にあるウィングとで交互に位置決めが可能である。ロッドを変位させるために、ウィング板がロッドの上端部の上にあるウィングで位置決めされるので、ウィングを用いてロッドを下方へ押すことができる。他方のロッドをアンダーカットで受容するので、アンダーカットで下方へ変位することはない。さらなる実施形態によると、ドライバ要素はロッド間にある軸の周りに回転可能に取り付けられている。好ましい実施形態によると、この軸は昇降ロッドと同軸的に向いている。その結果、昇降ロッドにかかる伝達力は、出力部材の異なる位置で均一となる。
【0018】
さらなる実施形態によると、ウィング板には複数のウィングがあり、それぞれ2つの隣接するウィング間にアンダーカットがある。さらなる実施形態によると、ウィング板には合計で2つのウィングと、合計で2つのアンダーカットとがある。
【0019】
さらなる実施形態によると、歯車機構が、ドライバ要素を備えるロッド・ドライブを有し、このロッド・ドライブは、上から接触することによって起動することができ周縁方向に傾斜する少なくとも1つの第1の制御カムと、少なくとも1つの第1の案内要素と、側部停止部を有し操作要素を用いて第1の制御カムに対してロッドの軸方向に上から押されることのできるアクチュエータと、ピペット・ハウジング内の所定の位置に固定的に配置されロッド・ドライブを軸方向に第1の案内要素上で案内する少なくとも1つの第2の案内要素と、を有し、そのため、アクチュエータを下方へ軸方向に変位させることで、第1の案内要素の上端部が第2の案内要素の下端部を越えて変位するまでロッド・ドライブが軸方向に案内され、第1の案内要素が第2の案内要素の下端部の下で部分的にアクチュエータの側部停止部と当接するまで、第1の制御カムを備えたロッド・ドライブが回転し、アクチュエータを上方へ戻して変位させることで、第1の案内要素の下端部が側部停止部の上端部を越えて変位する場合に第1の案内要素が側部停止部から解除され、第1の案内要素を備えたロッド・ドライブが回転して第2の案内要素に当接する位置になるまで、第1の制御カムを備えたロッド・ドライブが第2の案内要素の下端部を越えてスライドする。アクチュエータが下方へ変位すると、まずロッド・ドライブが下方へ入り込み、ついで第1の制御カムとともに部分的に第2の案内要素の下で回転する。アクチュエータを下方へさらに変位させると、ロッド・ドライブがさらに下方へ入り込む。この場合、ドライバ要素は同じロッドの上にあるままであり、この上でアクチュエータが下方へ変位し始めるときにはすでに位置決めされている。アクチュエータを上方へ戻して変位させることで、第1の案内要素を備えたロッド・ドライブがアクチュエータの側部停止部から解除され、そのために、ドライバ要素がさらなるロッドの上に配置されるまで、第1の制御カムを備えたロッド・ドライブが第2の案内要素の下端部でさらに回転する。この実施形態では、ドライバ要素を回転させる機構はボールペンの歯車機構に類似しており、これによってボールペン・リザーバは、同じ押圧部材を伸長した書込み位置および縮小位置に押すことによって移動することができる。このような機構は、たとえば米国特許第3,205,863号に開示されている。ボールペンの歯車機構からの変形例では、回転はボールペン・リザーバの伸長や縮小に使用されず、ウィング板をロッド上に位置決めするために使用される。
【0020】
さらなる実施形態によると、アクチュエータが少なくとも1つの第2の制御カムを有し、少なくとも1つの第2の制御カムは下から接触することで作動可能であり、第1の制御カムと同じ周縁方向に傾斜しており、アクチュエータはそれによって上から第1の制御カムに押し付けることが可能である。第1の案内要素の上端部が第2の案内要素の下端部を越えると、第2の制御カムは第1の制御カムで第2の案内要素の下端部の下の一部分でロッド・ドライブを回転させる。さらなる実施形態によると、第2の制御カムが、アクチュエータの側部停止部の下端部に構成されている。さらなる実施形態によると、第2の制御カムと協働する第1の制御カムは、第1の案内要素の下端部の下で回転する第1の制御カムと同じものである。さらなる実施形態によると、第2の制御カムと協働する第1の制御カムが、第1の案内要素の下で回転する少なくとも1つの第1の制御カムに対してさらに上に径方向内側にずれて配置されている。
【0021】
さらなる実施形態によると、第2の案内要素が少なくとも1つの第3の制御カムを下端部に有し、少なくとも1つの第3の制御カムは下から接触することで作動可能であり、第1の制御カムと同じ周縁方向に傾斜しており、第1の制御カムはアクチュエータを戻して変位させることによって、この第3の制御カムを過ぎて上方にスライドする。アクチュエータを上方へ戻して変位させることで、第1の制御カムが第3の制御カムをスライドし、それによって、ドライバ要素がさらなる歯付きロッドの上に位置決めされるまでロッド・ドライブがさらに回転する。
【0022】
さらなる実施形態によると、アクチュエータが、ロッド・ドライブに支持されているスペーサばねによって、ロッド・ドライブから押し出される。アクチュエータは、スペーサばねの作用に反してロッド・ドライブに向かって変位可能である。アクチュエータが解除された後、スペーサばねはアクチュエータをロッド・ドライブから押し出す。その結果、第1の案内要素がアクチュエータの側部停止部から解除され、そのために、ロッド・ドライブがドライバ要素とともにさらなるロッド上の位置まで回転可能である。さらなる実施形態によると、ロッド・ドライブが圧縮ばねによってアクチュエータに押し付けられ、圧縮ばねはピペット・ハウジングの所定の位置に固定的に配置されている当接部に支持されている。ロッド・ドライブは、圧縮ばねの作用に反してアクチュエータを用いて下方へ変位可能である。アクチュエータが解除された後、圧縮ばねがロッド・ドライブを第2の案内要素に上方に押し付け、第2の案内要素は好ましい一実施形態によると第3の制御カムによって形成される。したがって、第3の制御カム、あるいは第2の案内要素はそれぞれ、ロッド・ドライブを回転させる。
【0023】
さらなる実施形態によると、歯車機構が、ドライバ要素および水平方向の制御ピン案内部を有し、垂直な第1面の両側に配置されているレールを有するレール保持具であって、このレールは、引込み用面取り部が下端部または上端部に向かって立っている垂直な第1部分をいずれも第1面に垂直な第2面の両側に有し、第1部分の他端にいずれも第2部分を有し、第2部分は第2面の反対側に斜めに戻っているか曲がっている、レール保持具と、操作要素に接続され、制御ピン案内部に水平方向に変位可能に案内される制御ピンと、案内ピンが第1面に対して垂直に変位可能に配置されており、ピン軸受によりピペット・ハウジング内の所定位置に固定的に配置されているピン保持具と、を備え、そのため、レール保持具を垂直に変位させると、案内ピンが他方のレールの他端部と係合するまで案内ピンが一方のレールの引込み用面取り部によってピン保持具から突出している端部で変位可能であり、他方のレールでは、レール保持具を続けて反対方向に垂直に変位させると、案内ピンが斜めに戻っているか曲がっている第2部分に沿って案内され、その結果、レール保持具がドライバ要素とともに側方に変位し、レール保持具を反対方向に続いて垂直に変位させると、案内ピンが他方のレールの引込み用面取り部によって突出している端部で変位し、そのため、案内ピンが一方のレールの他端部と係合し、一方のレールでは、レール保持具を続けて反対方向に垂直に変位させると、案内ピンが斜めに戻っているか曲がっている第2部分に沿って案内され、その結果、レール保持具がドライバ要素とともに反対方向に側方に変位する。その結果、レール保持具が初期位置に戻り、上述の動作サイクルを最初から繰り返すことができる。側方や垂直の変位によって、ドライバ要素を備えたレール保持具が異なるロッドの上に交互に位置決めすることができ、ロッドが交互に下方へ変位可能となる。
【0024】
さらなる実施形態によると、各レールの第1部分から離れている第2部分の端部が、垂直の第3部分に接続されている。
【0025】
本発明の一実施形態によると、レール保持具が2つの平行な板状のフレーム部を備えたフレームを有し、フレーム部はスペーサによって互いに離れて保持され、内面にレールを有し、その間にピン保持具が配置されている。さらなる実施形態によると、フレーム部がその端部に棒状の凸部を有し、この凸部がスペーサを形成する。さらなる実施形態によると、ピン保持具は2つの板状のフレーム部の間を係合するバーである。さらなる実施形態によると、ピン保持具の上端部および/または下端部が、ピペット・ハウジングの所定の位置に固定的に配置されている。さらなる実施形態によると、ドライバ要素がレール保持具の下面である。
【0026】
さらなる実施形態によると、レールがフレーム部の内面にある溝部であり、溝部は、溝部の端部に向かって徐々に減少する溝深さを引込み用面取り部に有する。溝部によって、確実に案内ピンをレールに案内する。
【0027】
さらなる実施形態によると、歯車機構が全体的にロッドの上に配置されている。歯車機構を全体的にロッドの上に配置することによって、特にコンパクトで組立てが簡素な設計が可能となる。
【0028】
さらなる実施形態によると、歯車機構がサブアセンブリである。その結果、特に組立てが簡素化される。
【0029】
ドライバ要素としての出力部材の実施形態では、ドライバ要素を備えたサブアセンブリをロッドの上に組み立てるだけでよい。というのは、出力部材がロッドに固定的に接続されていないためである。
【0030】
本発明はさらに、ピストンおよびシリンダを備える、ピペット・チップまたはシリンジとともに使用するためのピペットに関し、ピペットは、
【0031】
ステム状のピペット・ハウジングと、
ピペット・ハウジングの下端部にある、シリンダを解除可能に保持するための第1の保持装置と、
ピストンのピストン・ロッドの上端部を解除可能に保持し、かつシリンダの下端部にある先端開口部の上のピストン走行領域内でピストンのシール領域を変位させるために、ピペット・ハウジング内に配置されている、第2の保持装置を下端部に備える昇降ロッドと、
ピペット・ハウジングから外方に突出し、ピペット・ハウジングに対して昇降ロッドの軸方向に変位可能な操作要素と、
ピペット・ハウジング内に配置されており、操作要素によって駆動するドライブと昇降ロッドを駆動させる出力部とを有する歯車機構と、を備え、出力部は、高さが異なるか等しい複数の平行歯列を有する多段歯付きロッドと、昇降ロッドに固定的に接続されているさらなる歯付きロッドと、直径が同じか異なっており回転に関して共通の軸に固定的に接続されている2つのピニオンとを備え、2つのピニオンのうちの一方が多段歯付きロッドの歯列の歯と噛合し、2つのピニオンの他方がさらなる歯付ロッドの歯と噛合する。
【0032】
多段歯付きロッドを用いて、公称容量が異なるピペット・チップで使用するための同じ部品を使用することによってピペットを製造することができ、操作経路は、サイズの異なるピペット・チップから公称容量を分注するためのものと同じである。この目的のために、公称容量の異なるピペット・チップ用のピペットが、多段歯付きロッドと昇降ロッドに固定的に接続されている歯付ロッドとの間で歯車の増大/歯車の減少をさまざまに達成するために、多段歯付きロッドの異なる歯列に係合する異なる歯車装置を備える。同じ歯付きロッドをピペットの変形例すべてに使用してもよい。ピペットの変形例に応じて、異なる歯車装置をその上に組み立てるだけでよい。
【0033】
さらなる実施形態によると、歯付きロッドが、歯の高さが異なるか等しい3つの歯列を有する。さらなる実施形態によると、段から段へと高くなるように、異なる歯列が段ごとに隣接して配置される。
【0034】
上記発明は、請求項1から15のいずれか一項に記載の発明または上記実施形態のいずれかに記載の発明と有利に組み合わせてもよい。この場合、同じ大歯車と噛合する請求項2に記載の2つの歯付きロッドのうちの1つが、多段歯付きロッドとして構成される。多段歯付きロッドは、2つのピニオンが回転に関して共通の軸に固定的に接続されている歯車装置を介して、昇降ロッドに固定的に接続されているさらなる歯付きロッドにさらに連結される。
【0035】
本出願では、「上部」、「下部」、「垂直」および「水平」という用語や、これらに由来するたとえば「上」、「下」、「互いの上」などの用語は、ピペット・ハウジングが垂直に配向され、第1の保持装置がピペット・ハウジングの下向き端部に配置されているピペットの配置に関する。この向きでは、第1の保持装置に保持されているピペット・チップのシリンダが垂直方向に向いており、先端開口部が底部に配置されている。
【0036】
例示的実施形態の添付の図面を参照しつつ、本発明を以下により詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、ドライバ要素を介して交互に変位可能な歯付きロッドを備えた、ピペット操作前の初期位置にあるピペットの正面図である。
図2図2は、同じ位置にある同じピペットを前面から見た部分拡大図である。
図3図3は、同じ位置にある同じピペットの側面図である。
図4図4は、同じ位置にある同じピペットを側方から見た部分拡大図である。
図5図5は、ピペット・チップが取り付けられている同じピペットのネックの拡大縦断面図である。
図6図6a-dは同じピペットのロッド・ドライブを備えたアクチュエータを示す図であり、右側から見た図(図6a)、正面図(図6b)、左側から見た図(図6c)、上側面から斜めに見た斜視図(図6d)である。
図7図7a-cは同じピペットのロッド・ドライブ、支持リング、および歯付きロッドを示す図であり、右側から見た図(図7a)、正面図(図7b)、および上側面から斜めに見た斜視図(図7c)である。
図8図8は、同じピペットの部分的に移動した後のピペット操作中の右側から見た図である。
図9図9は、同じ位置にある同じピペットを右側から見た部分拡大図である。
図10図10は、アクチュエータを初期位置まで上方に戻して変位させているピペット操作中の同じピペットの右側から見た図である。
図11図11は、同じ位置にある同じピペットを右側から見た部分拡大図である。
図12図12a-gは、昇降ロッド側に三段式歯付きロッドと、歯車装置と、歯付きロッドを備えた装置の図であり、上側面から斜めに見た斜視図(図12a)、平面図(図12b)、昇降ロッド側に歯付きロッドのない、上側面から斜めに見た斜視図(図12c)、さらに歯車装置を備えた平面図(図12d)、昇降ロッド側に歯付きロッドのない、上側面から斜めに見た斜視図(図12e)、さらに歯車装置を備えた平面図(図12f)、および昇降ロッド側に歯付きロッドのない、上側面から斜めに見た斜視図(図12g)である。
図13図13a-cは、ドライバ要素の両面のレールにピンが交互に案内されている代替歯車機構を示す図であり、正面図(図13a)、第1の変位位置にある状態を上側面から斜めに見た分解図(図13b)、第2の変位位置にある状態を上側面から斜めに見た分解図(図13c)である。
【0038】
図1から図5は、容積式ピペットとして構成されており、図2に部分的にのみ示されているステム状(円筒状など)のピペット・ハウジング2を有するピペット1を示す。その上にピペット1のさまざまな構成部品が保持されているシャーシ3が、ピペット・ハウジング2内に配置されている。中空の円筒形のシャフト4がピペット・ハウジング2の下端部から下方へ突出している。ネック5が、貫通孔7を下端部に備えた貫通内径部6を有し、ネック5はシャフト4の下端部から下方へ突出している。
【0039】
図5によると、ネック5は、中空のシリンダの形状をした上部ネック部8と、その下に、中空の球体形状をした下部ネック部9とを有する。環状溝10が上部ネック部8と下部ネック部9との間でネック5の外周部を周回する。ネック5の下端部から、2つの直径方向に対向するスロット11がネック5に沿って環状溝10を越えて延びている。ネック5は、ピペット・チップ14のシリンダ13を解除可能に保持する第1の保持装置12である。
【0040】
昇降ロッド15が上からシャフト4を通ってネック5に案内される。昇降ロッド15は底部が中空の円筒形であり、下端部から延びる縦スロット16を備えている。その下端部17に、昇降ロッド15が、ピペット・チップ14のピストン21のピストン・ロッド20の上端部19用のレシーバ18を形成する。レシーバ18は、ピペット・チップ14のピストン・ロッド20の上端部19を解除可能に保持する第2の保持装置22である。
【0041】
図5は、ピペット・チップ14が取り付けられているネック5を示す図である。ピペット・チップ14は、先端開口部24を有する管状本体23を下端部に、アタッチメント開口部25を有するカラー26を上端部に、ネック5にクランプ締めするためのシート領域27をカラー26の内周縁に備える。シート領域27は、ネック5と相補的であり、円錐形の下部ネック部9を受けるための円錐シート部28を底部に、ネック5の環状溝10に係合するための周縁ビード29をその上に、円筒形の上部ネック部8を受けるための円筒形の上部シート部30をその上に有する輪郭をしている。取り付けると、ビード29が環状溝10にスナップ嵌めし、ピペット・チップ14がネック5に確実に摩擦接続されることによって接続されるまで、ネック5がスロット11の領域内でわずかに収縮することが可能であり、ピペット・チップ14がシート領域27でわずかに拡大することが可能である。
【0042】
シート領域27の下に、管状本体23は円筒形のピストン走行領域31を有する。その下に、管状本体23は先端部32を有し、先端部32は下方へ向かって先細りしており、形状が中空の円錐台である。ピストン21が管状本体23に挿入される。このピストンは、シール領域33を有し、シール領域33はピストン走行領域31内に案内されている。ピストン・ロッド20は、直径がシール領域33よりも小さく、シール領域33から上方へ突出している。その上端部に、ピストン・ロッド20はピストン・ヘッド34を有する。図5によると、ピストン・ヘッド34が下から昇降ロッド15のレシーバ18に押し込まれている。
【0043】
ピペット・チップをネック5から排出するために、吐出ロッド35が昇降ロッド15の内部に配置されている。吐出ロッド35が吐出ドライブに接続されている。簡潔化のために、図には吐出ドライブの詳細は示されていない。吐出ドライブは、特に、欧州特許出願第19 150 808.4号に記載されているように構成してもよい。この点に関しては、欧州特許出願第19 150 808.4号を参照し、その内容を本出願に組み込む。
【0044】
昇降ロッド15は、ピペット・チップ14のシリンダ13内でピストン21を変位させる役割をする。操作ノブの形をした、ピペット・ハウジングの外側に配置されている操作要素36が、ピペット・ハウジング内に配置されている歯車機構37を介して昇降ロッド15に接続されている。操作要素36が操作レバー38を介して歯車機構37のアクチュエータ39に接続されている。操作レバー38がピペット・ハウジング2の垂直スロットを通って係合するので、操作要素36が作動すると、アクチュエータ39が垂直方向に変位可能となる。アクチュエータ39は歯車機構37のドライブ40と可動式入力部材41である。
【0045】
ピペット・ハウジング2内では、アクチュエータ39の下に、ロッド・ドライブ42が垂直案内チューブ43に回転可能に装着されており、垂直方向に変位可能なように案内される(図6を参照)。ロッド・ドライブ42が、歯車機構37の出力部44および可動式出力部材45である。ロッド・ドライブ42は略中空の円筒本体であり、底部にウィング板47の形をしたドライバ要素46を有し、ロッド・ドライブ42の周縁から径方向外方に突出する2つの直径方向に対向するウィング48と、その間の2つの直径方向に対向するアンダーカット49を有する。外周縁には、ロッド・ドライブ42が、上からの接触によって作動し得る4つの第1の制御カム50と、その間にある4つの垂直の第1の案内溝51とを有する。ロッド・ドライブの垂直の第1の案内溝51の側縁が第1の案内要素52を形成する。第1の制御カム50が図1の左から右に走る同じ周縁方向に傾斜している。
【0046】
垂直案内チューブ43が、第1の水平支持要素(支持リング)53を通って案内される。コイルばねの形をした圧縮ばね54が案内チューブ43に配置されており、このコイルばねは、ピペット・ハウジングに所定の位置に固定的に配置されている当接部55に底部で支持されており、上部では、ロッド・ドライブ42をアクチュエータ39に押し付ける。
【0047】
図6によると、アクチュエータ39はまた、案内チューブ43に垂直方向に変位可能に案内される。アクチュエータは下面に4つの第2の制御カム56を有し、垂直隙間57がその間に配置されている。第2の制御カム56は、第1の制御カム50と同じ周縁方向に傾斜する。案内チューブ43上を案内されるコイルばねの形をしたスペーサばね58が、アクチュエータ39とロッド・ドライブ42との間にあり、このスペーサばねはアクチュエータ39をロッド・ドライブ42から押し離す。
【0048】
アクチュエータ39はまた、側部停止部59を形成する垂直縁部を有する。
【0049】
中空の円筒形の制御案内装置(装置)60は、第1の支持要素53の下面に構成されているが、ピペット・ハウジング2内の所定の位置に固定的に配置されている。案内チューブ43がこの装置60を通って案内される。装置60は4つの平行なシリンダ・シェル61によって形成され、それぞれ底部に下から接触することによって作動可能な第3の制御カム62を有する。第3の制御カム62は、第1の制御カム50と同じ周縁方向に傾斜する。シリンダ・シェル61の間に、装置60が垂直の第2の案内溝63を有する。第2の案内溝63の側縁が、第2の案内要素64を形成する。
【0050】
計量体積を調整する調整つまみ65が、ピペット・ハウジング2の上面に配置されている。この調整つまみ65を回転させることによって、計量体積を調整することができる。その下にピペット・ハウジング2内に配置されているカウンタ66が、それぞれ調整された計量体積を表示する。調整つまみ65およびカウンタ66が伝達機構67を介してねじ付きスピンドルに連結され、ねじ付きスピンドルは上から案内チューブ43内に突出している。アクチュエータ39の上には、案内チューブ43に固定的に接続されている上部停止部68が、ピペット・ハウジング1内の所定の位置に固定的に配置されている。アクチュエータ39の上方への変位は、アクチュエータ39を上部支承面69で支持要素53の下面68に支承することによって限定される。下から案内チューブ42に突出しているピペットの昇降ロッドを調整可能なねじ付きスピンドルに当接することによって、移動は下方へ限定される。したがって、ロッド・ドライブ42を用いて変位可能なピペットの昇降ロッドを調整可能なねじ付きスピンドルに当接することによって、昇降ロッド15の移動が限定される。
【0051】
2つの垂直な変位可能な歯付きロッド72、73が、ドライバ要素46の下でシャーシ3の第3の支持要素71に案内される。歯付きロッド72、73の歯列74、75は向き合っている。両方の歯付きロッド72、73の歯77、78と噛合する大歯車76が、シャーシ3の2つの歯付きロッド72、73の間に回転可能に装着される。2つの歯付きロッド72、73が大歯車76によって互いに連結されるので、垂直方向では、歯付きロッドが互いに反対方向にのみ変位可能である。
【0052】
歯付きロッド72、73がドライバ要素46の下に配置されているので、同時に1つのウィング48のみを2つの歯付きロッド72、73のうちの一方の上に常に位置決めすることが可能であり、1つのアンダーカット49を2つの歯付きロッド72、73のうちの他方の上に常に位置決めすることが可能である。
【0053】
2つの歯付きロッド72、73のうちの一方を昇降ロッド15に直接接続するか、それぞれを一体的に構成するように、本発明を実施することが可能である。例示的実施形態では、歯付きロッド72と昇降ロッド15との間には、歯車増倍機構が存在する。図7bによると、左側に配置されている第1の歯付きロッド72が、3つの歯列を有し、この歯列は互いに隣接しており、異なる歯列74.1、74.2、74.3に異なる高さあるいは等しい高さの歯77を備える。歯列74.1、74.2、74.3は、互いに隣接して配置されている3つの段を形成する。図7bの右側にある第2の歯付きロッド73には、1つの歯列75しかない。昇降ロッド15は上端部で第3の歯付きロッド79に固定的に接続されており、この第3の歯付きロッド79は、好ましくは一体的に形成される歯78を有する。2つのピニオン81、82の直径が等しいかあるいは異なる歯車装置80が、3つの歯列74.1、74.2、74.3を備える第1の歯付きロッド72と第3の歯付きロッド79の間に配置されている。歯車装置80のピニオン81、82は、シャーシ3に回転可能に装着されているシャフト83に回転に関して固定的に接続されている。第1のピニオン81が第3の歯付きロッド79の歯78と噛合し、第2のピニオン82が第1の歯付きロッド72の歯列74.1、74.2、74.3のうちの1つの歯77と噛合する。このようにして、第1の歯付きロッド72と第3の歯付きロッド79とが変位する間に、所定の歯車比が生じる。
【0054】
第3の歯付きロッド79は、ピペットの昇降ロッドであり、その上方の変位は調整可能なねじ付きスピンドルによって限定されている。
【0055】
図1から図4による初期位置から、操作要素36が下方へ押されと、第2の制御カム56が第1の制御カム50に当接するまで、アクチュエータ39がスペーサばね58の作用に反して最初に下方へ変位する。操作要素36を下方へさらに変位させると、アクチュエータ39がロッド・ドライブ42を下方へ入れ込む。この場合、第1の案内要素52を第2の案内要素64に当接することによって、ロッド・ドライブ42は案内チューブ43の周りを回転しない。
【0056】
図7および図8によると、部分的に移動した後(たとえばピペット・チップから公称容量を分注する移動の10%)、第1の案内要素52の上端部が第2の案内要素64の下端部に到達する。その結果、アクチュエータ39をさらに下方へ変位させると、第1の案内要素52がアクチュエータ39の側部停止部59に当接するまで、ロッド・ドライブ42が第2の制御カム56によって第3の制御カム62の下の第1の制御カム50で回転する。これは、たとえば8度回転する場合である。アクチュエータ39をさらに下方へ変位させると、ドライバ要素46のウィング48のうちの1つが歯付きロッド72、73のうちの1つの上端部に位置決めされるまで、圧縮ばね54の作用に反してロッド・ドライブ42が下方に入り込む。その後、歯付きロッド72または73が入り込み、第3の歯付きロッド79がねじ付きスピンドルに当接するまで昇降ロッド15が持ち上げられる。もう一方の歯付きロッド72または73は、ドライバ要素46のアンダーカット49を通して上方へ移動可能である。
【0057】
操作要素36を解除した後、アクチュエータ39がスペーサばね58の作用によってロッド・ドライブ42から押し出される。その結果、側部停止部59の下端部が第1の案内要素52の上端部を越えて変位するので、第1の案内要素52が側部停止部59から解除される。圧縮ばね54が下からロッド・ドライブ42を押すので、第1の制御カム50が第3の制御カム62をスライドし、第1の案内要素52が支持リング60の第2の案内要素64に当接するまで、ロッド・ドライブ42がさらに回転する。続いて、ロッド・ドライブ42が圧縮ばね54によって上方に変位して戻る。歯付きロッド72、73は、ロッド・ドライブ42が下方へ変位し終わるときに、それらの位置を維持する。ドライバ要素46が両方の歯付きロッド72、73の上端部の上に配置されるまで、ロッド・ドライブ42は圧縮ばね54によって上方に十分に変位する。ロッド・ドライブ42をこのように回転することによって、アンダーカット49は最後に下方へ変位した歯付きロッド72、73の上方に位置決めされ、ウィング48は最後に上方に変位した歯付きロッド72、73の上方に位置決めされる。その結果、操作要素36をさらに作動することによって、最後に上方に変位した歯付きロッド72、73が下方へ変位し、したがって、最後に下方へ変位した歯付きロッド62、73が上方へ変位する。
【0058】
ピペット1は以下のように使用可能である。
【0059】
図5によると、まずピペット・チップ14がシート領域27でネック5にクランプ嵌めされるので、ビード29が環状溝10に係合する。同時に、レシーバ18がピストン・ロッド20の上端部19に押圧される。
【0060】
液体を受けるために、ピペット1はピペット・チップ14の下端部をその上に保持した状態で液体に浸される。ついで、操作要素36が下方へ押される。ロッド・ドライブ42を用いて、歯付きロッド72がそれによって下方へ変位し、昇降ロッド15が上方へ移動する。ピストン21がそれによって上方へ移動し、液体がピペット・チップ14へと吸引される。
【0061】
操作要素36が設定された移動をすると、ピペット・チップ14が特定量の液体で充填される。ついで、操作要素36が解除され、上部停止部68に当接するまで、圧縮ばね54およびスペーサばね58によって上方に変位する。
【0062】
受容した量の液体を分注するために、ピペット1はピペット・チップ14で違う容器に向いてもよい。操作要素36を再び下方へ押すことによって、歯付きロッド72がついで下方に変位し、それによって昇降ロッド15が下方に変位し、ピペット・チップ14からその量の液体が分注される。
【0063】
液体の吐出と分注とを繰り返し行ってもよい。ピペット・チップ14を交換するために、さらなる吐出装置を使用するか、ピペット・チップ14を手動でネック5から除去して昇降ロッド15のレシーバから引っ張り出す。
【0064】
図12によると、多段の第1の歯付きロッド72を用いて、実質的に同じ部品を使用することによって、公称容量が異なるピペット・チップ14での用途にピペット1を有利に使用してもよい。この目的のために、さまざまなピペット1が、第1の歯付きロッド72を第3の歯付きロッド79に連結する異なる歯車装置80を備えるだけでよい。
【0065】
この目的のために、図12aから図12cによると、直径が等しいか異なる2つの隣接したピニオン81.1、82.1を有する歯車装置80.1が使用され、そのうちの一方は、第1の歯付きロッド72の最下部歯列74.1に係合され、そのうちの他方は第3の歯付きロッド79と噛合する。この実施形態は、たとえば、公称容量が10μLおよび100μLのピペット・チップでの使用を意図するものである。公称容量は10進数で互いに異なるため、調整済みの公称容量は同じカウンタを用いて読み取ることができる。任意選択的に、このカウンタはそれぞれ使用されるピペット・チップによって調整される変位可能なマークを有していてもよく、この目的のために、高さが変更可能なカラーを有していてもよい。このようなカウンタの自動調整は、特に、欧州特許出願第18 168 763.3号に開示されている。この点に関しては、欧州特許出願第18 168 763.3号を参照し、その内容を本出願に組み込む。
【0066】
図12dおよび12eによると、第3の歯付きロッド79が、図12aから図12cのような同じ実施形態のピニオン81.2と噛合する。歯車装置80.2もまた、直径の小さなピニオン82.2を有し、ピニオン82.2は第1の歯付きロッド72の中央の歯列74.2と噛合する。その結果、3段の第1の歯付きロッド72と第3の歯付きロッド79との変位の間では、異なる歯車の複製や、個々の歯車の減少が達成される。
【0067】
図12fおよび12gによると、図12aから図12cと同じように構成されているピニオン81.3が、第3の歯付きロッド79の歯と噛合する。歯車装置80.3もまた、図12dおよび図12eよりも直径の小さなピニオン81.3を有し、ピニオン81.3は第1の歯付きロッド72の一番高い歯列74.3の歯と噛合する。その結果、異なる歯車が複製されたり、図12aから図12eよりも個々の歯車が減少したりする。
【0068】
その結果、異なるサイズのピペット・チップ14に対して公称容量を分注するために、操作要素36の移動を同じに保つことができる。
【0069】
図13によると、2つの歯付きロッド72、73を交互に作動させるためのさらなる歯車機構84が、レール保持具85を有する。このレール保持具はフレーム86として構成されており、2つの平行な板状のフレーム部86.1、86.2と、2つの棒状のスペーサ87.1、87.2とを備える。このスペーサ87.1、87.2はフレーム部86.2の垂直縁部に沿って走り、それと一体的に構成されている。垂直縁部に隣接して、両フレーム部はこの2つのフレーム部86.1、86.2を螺合するための内径孔88.1、88.2を有する。このようにして、フレーム部86.1、86.2間にチャネルが形成される。また、内径孔やねじの代わりに、フレーム部86.1、86.2に圧入用のピンや内径部、スナップ嵌め用のスナップフックなどを設けてもよい。
【0070】
溝の形をしたレール89、90が、互いに対向しているフレーム部86.1、86.2の内面に構成されている。これらのレールは、それぞれの場合において、垂直な第1部分89.1、90.1を有し、この第1部分は底部に引込み用面取り部91、92を有し、そのため、それぞれの場合第1部分89.1、90.1の深さが上から下に減少する。それぞれの場合、レールの角度をつけて戻っている第2部分89.2、90.2は、レールの第1部分89.1、90.1の上端部に隣接している。それぞれの場合、レールの垂直下方へ延びている第3部分89.3、90.3は、第2部分の下端部に隣接している。第3部分89.3、90.3は、第1部分89.1、90.1よりもさらに下方へ延びている。
【0071】
第1のレール89の第1部分89.1と第2のレール90の第3部分90.3とが板状のフレーム部86.1、86.2に垂直な同一垂直面内に配置されるように、2つのレール89、90は互いに鏡対称に構成されている。さらに、第1のレール89の第3部分89.3と第2のレール90の第1部分90.1とは、フレーム部86.1、86.2に垂直な同一垂直面内に配置されている。最後に、第1および第2のレール89、90の第2部分89.2、90.2は、フレーム部に垂直な同一面内に配置されており、その垂直面に対して傾斜している。
【0072】
棒状のピン保持具93が2つのフレーム部86.1、86.2間に配置されている。このピン保持具は、板状のフレーム部86.1、86.2の内面にある2つの外面を案内される。ピン保持具93は、フレーム部86.1、86.2に垂直な貫通内径部の形で構成されているピン軸受94を有する。案内ピン95がピン軸受94に挿入されており、その長さはピン保持具93の深さを越える。ピン保持具93の一側の案内ピン95を、その外面と面一にしてピン軸受94に挿入すると、他側では、第2部分89.2、90.2および溝状のレール89、90の第3部分の深さ分だけ、ピン保持具93から最大限突出する。
【0073】
ピン保持具93が、フレーム86を越えて上下に突出する。
【0074】
ピン保持具93はピペット・ハウジング2内に上端部および下端部に適所に固定されている。
【0075】
フレーム86の下面は、昇降ロッド15の上下の移動を制御するために、2つの歯付きロッド72、73を交互に変位させるドライバ要素96を形成する。
【0076】
2つのフレーム部86.1、86.2のうちの一方は、好ましくは溝として構成されている、水平な制御ピン案内部を外面に備えている。
【0077】
操作要素36は制御ピンによって制御ピン案内部に案内される。好ましくは、操作要素36が操作レバー38を介して制御ピンに接続され、操作レバー38は、ピペット・ハウジング2内のスロットを通して係合可能である。
【0078】
さらなる歯車機構が以下のように機能する。
【0079】
この処理は、たとえば、案内ピン95が第1のレール89の第1部分89.1の上端部に位置する初期位置から開始される。操作要素36を上方に変位させると、案内ピン95が、第1のレール89の引込み用面取り部91によって第2のレール90の第3部分90.3に押し込まれる。案内ピンが第2のレール90の第3部分90.3の下端部に当接するまで、フレーム86はさらに上方に変位可能である。
【0080】
その後、操作要素36を下方へ変位させることによって、案内ピン95が、第2のレール90の第3部分90.3および第2部分90.2に沿って上方へ移動する。この場合、歯付きロッド72、73がドライバ要素96によって下方へ変位してもよい。第2部分90.2に沿って変位すると、ピン保持具93がピペット・ハウジング2内に固定されているので、レール保持具85が横方向に変位する。制御ピンが水平な制御ピン案内部に係合するので、レール保持具85の横方向の変位が妨げられることがない。
【0081】
その後、操作要素36を上方に変位させると、案内ピン95が第2のレール90の引込み用面取り部92に沿って移動し、その結果第1のレール89の第3部分89.3に押し込まれる。案内ピン95が第3のレール89.3の下端部に当接するまで、レール保持具85はさらに上方に変位してもよい。
【0082】
その後、操作要素36が下方へ変位すると、案内ピン95がまず第3部分89.3内で上方へ変位し、次に第1のレール89の第2部分89.2内で上方へ変位する。この場合、もう一方の歯付きロッド72、73がドライバ要素96によって下方へ変位してもよい。第2部分89.2内で変位すると、レール保持具95が横方向に移動して初期位置に戻る。その後、同じ移動サイクルを繰り返してもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 ピペット
2 ピペット・ハウジング
3 シャーシ
4 シャフト
5 ネック
6 貫通内径部
7 貫通孔
8 上部ネック部
9 下部ネック部
10 環状溝
11 スロット
12 第1の保持装置
13 シリンダ
14 ピペット・チップ
15 昇降ロッド
16 縦スロット
17 昇降ロッドの下端部
18 レシーバ
19 ピストン・ロッドの上端部
20 ピストン・ロッド
21 ピストン
22 保持装置
23 管状本体
24 先端開口部
25 アタッチメント開口部
26 カラー
27 シート領域
28 円錐シート部
29 ビード
30 上部シート部
31 ピストン走行領域
32 シリンジ部
33 シール領域
34 ピストン・ヘッド
35 吐出ロッド
36 操作要素
37 歯車機構
38 操作レバー
39 アクチュエータ
40 ドライブ
41 入力部材
42 ロッド・ドライブ
43 案内チューブ
44 出力部
45 出力部材
46 ドライバ要素
47 ウィング板
48 ウィング
49 アンダーカット
50 第1の制御カム
51 第1の案内溝
52 第1の案内要素
53 第1の保持要素
54 圧縮ばね
55 当接部
56 第2の制御カム
57 隙間
58 スペーサばね
59 側部停止部
60 制御案内装置
61 シリンダ・シェル
62 第3の制御カム
63 第2の案内溝
64 第2の案内要素
65 調整ヘッド
66 カウンタ
67 伝達機構
68 下面
69 上部支承面
70 下部停止部
71 第3の保持要素
72 第1の歯付きロッド
73 第2の歯付きロッド
74、74.1、74.2、74.3 歯列
75 歯列
76 大歯車
77、78 歯
79 第3の歯付きロッド
80.1、80.2、80.3 歯車装置
81 第1のピニオン
82 第2のピニオン
83 シャフト
84 歯車機構
85 レール保持具
86 フレーム
86.1、86.2 フレーム部
87.1、87.2 スペーサ
88.1、88.2 内径孔
89 第1のレール
90 第2のレール
89.1、90.1 レールの第1部分
89.2、90.2 レールの第2部分
89.3、90.3 レールの第3部分
91、92 引込み用面取り部
93 ピン保持具
94 ピン軸受
95 案内ピン
96 ドライバ要素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13