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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】密封装置及び密封装置の装着方法
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/3212 20160101AFI20230331BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20230331BHJP
【FI】
F16J15/3212
F16J15/3204 201
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021525949
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(86)【国際出願番号】 JP2020019074
(87)【国際公開番号】W WO2020250613
(87)【国際公開日】2020-12-17
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2019108488
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 信行
【審査官】前原 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203491(JP,A)
【文献】国際公開第2014/030742(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/009803(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/030413(WO,A1)
【文献】実開平05-083542(JP,U)
【文献】実開平04-096670(JP,U)
【文献】実開平02-036661(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2012/0104701(US,A1)
【文献】実開昭55-140155(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3204 - 15/3236
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に移動する軸とハウジングとの間の環状隙間を密封する密封装置において、
前記ハウジングに設けられた軸孔の内周面に嵌合される円筒部と、前記円筒部の一端側から径方向内側に向かって伸びる内向きフランジ部と、前記円筒部の他端側において径方向内側に向かって折り曲げられることにより形成される加締め部と、を有する金属環と、
板状かつ環状の樹脂部材により構成される樹脂製シールと、
板状かつ環状の金属部材により構成される板バネと、
前記金属環の内周面側に固定され、前記他端側で前記加締め部に突き当たる固定環と、を備え、前記樹脂製シールの外周側の端部と前記板バネの外周側の端部が、前記内向きフランジ部と前記固定環との間に圧縮されることによって、前記樹脂製シールの外周側と前記板バネの外周側が前記金属環に固定され密封装置において
前記樹脂製シールは、前記密封装置に前記軸が挿入される過程で密封対象領域側に向かって湾曲するよう構成された湾曲部を内周側に有し、
前記板バネは、
前記密封装置に前記軸が挿入される過程で前記樹脂製シールに沿って湾曲するように変形し、前記樹脂製シールの湾曲した部分を前記板バネの弾性復元力によって径方向内側に向かって押圧するよう構成された押圧部を内周側に有するとともに、
予め外周側へ折り曲げられた屈曲部を内周側の先端部に有し、
前記屈曲部により、前記密封装置に前記軸が挿入される過程で
前記樹脂製シールへの食い込みが抑制される食い込み抑制構造をなし
前記軸が挿入された状態で、
前記板バネの内周側の先端が前記樹脂製シールの外周面から離れるように、前記板バネの内周側の先端部の一部が予め折り曲げられた屈曲部により
前記樹脂製シールへの食い込みが抑制される食い込み抑制構造をなしていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
前記軸が挿入される前の状態において、前記屈曲部における前記樹脂製シール側の折り曲げ角度θは30°以上であることを特徴とする請求項に記載の密封装置。
【請求項3】
前記軸が挿入される前の状態において、前記屈曲部の折り曲げ部のうち前記樹脂製シール側の曲率半径Rは0.1mm以上であることを特徴とする請求項またはに記載の密封装置。
【請求項4】
前記軸が挿入される前の状態において、前記樹脂製シールの径方向の幅をLとし、前記板バネの内周側の先端と前記樹脂製シールの内周側の先端との径方向の距離をXとすると、
0<X÷L<0.2
を満たすことを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の密封装置。
【請求項5】
前記軸が挿入される前の状態において、前記樹脂製シールの径方向の幅をLとし、前記樹脂製シールの内周側の先端から前記屈曲部の折り曲げ部までの径方向距離をYとすると、
0.03<Y÷L<0.3
を満たすことを特徴とする請求項のいずれか一つに記載の密封装置。
【請求項6】
前記屈曲部は折り返されるように湾曲することを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
【請求項7】
相対的に移動する軸とハウジングとの間の環状隙間を密封する密封装置において、
前記ハウジングに設けられた軸孔の内周面に嵌合される金属環と、
板状かつ環状の樹脂部材により構成され、外周側が前記金属環に固定されて、前記軸の挿入に伴って、内周側が密封対象領域側に向かって湾曲するように変形した状態で前記軸の外周面に摺動自在に密着する樹脂製シールと、
板状かつ環状の金属部材により構成され、外周側が前記金属環に固定されて、前記軸の挿入に伴って、内周側が前記樹脂製シールに沿って湾曲するように変形し、該樹脂製シールの内周側を径方向内側に向かって押圧する板バネと、
を備えると共に、
前記板バネの先端は、前記板バネの先端に、該板バネの先端を覆う保護部が設けられることにより、前記樹脂製シールへの食い込みが抑制される食い込み抑制構造をなしていることを特徴とする密封装置。
【請求項8】
金属環と、板状かつ環状の樹脂部材により構成され外周側が前記金属環に固定される樹脂製シールと、板状かつ環状の金属部材により構成され外周側が前記金属環に固定される板バネと、を備え、相対的に移動する軸とハウジングとの間の環状隙間を密封する密封装置の装着方法であって、
前記ハウジングに設けられた軸孔内に前記密封装置を挿入し、前記軸孔内に嵌合する工程と、
使用時における密封対象領域とは反対側から使用時における密封対象領域側に前記軸を挿入する工程と、
を有する密封装置の装着方法において、
前記軸を挿入する工程において、前記樹脂製シールの内周側を前記密封対象領域側に向かって湾曲するように変形させながら、かつ、前記板バネの内周側を前記樹脂製シールに沿って湾曲するように変形させながら、前記軸を挿入し、
前記板バネの先端は、前記密封装置に前記軸を挿入する過程で前記樹脂製シール及び前記板バネが変形する際に、前記樹脂製シールへの食い込みが抑制される食い込み抑制構造をなしていることを特徴とする密封装置の装着方法。
【請求項9】
前記軸が挿入された状態で、前記板バネの内周側の先端が前記樹脂製シールの外周面から離れるように、前記板バネの内周側の先端部の一部が予め折り曲げられた屈曲部により
前記食い込み抑制構造が構成されていることを特徴とする請求項8に記載の密封装置の装着方法。
【請求項10】
前記軸が挿入される前の状態において、前記屈曲部における前記樹脂製シール側の折り曲げ角度θは30°以上であることを特徴とする請求項9に記載の密封装置の装着方法。
【請求項11】
前記軸が挿入される前の状態において、前記屈曲部の折り曲げ部のうち前記樹脂製シール側の曲率半径Rは0.1mm以上であることを特徴とする請求項9または10に記載の密封装置の装着方法。
【請求項12】
前記軸が挿入される前の状態において、前記樹脂製シールの径方向の幅をLとし、前記板バネの内周側の先端と前記樹脂製シールの内周側の先端との径方向の距離をXとすると、
0<X÷L<0.2
を満たすことを特徴とする請求項9~11のいずれか一つに記載の密封装置の装着方法。
【請求項13】
前記軸が挿入される前の状態において、前記樹脂製シールの径方向の幅をLとし、前記樹脂製シールの内周側の先端から前記屈曲部の折り曲げ部までの径方向距離をYとすると、
0.03<Y÷L<0.3
を満たすことを特徴とする請求項9~12のいずれか一つに記載の密封装置の装着方法。
【請求項14】
前記板バネの先端が折り返されるように湾曲する湾曲部により前記食い込み抑制構造が構成されていることを特徴とする請求項8に記載の密封装置の装着方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂製シールを備える密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本願の出願人は、樹脂製シールを備える密封装置において、軸偏心が生じる場合でも、安定した密封性を維持することが可能な技術を提案している(特許文献1参照)。この従来例に係る密封装置について、図11を参照して説明する。図11は従来例に係る密封装置の模式的断面図である。
【0003】
従来例に係る密封装置500は、ハウジング(不図示)に設けられた軸孔の内周面に嵌合される金属環510と、板状かつ環状の樹脂部材により構成される樹脂製シール520と、板状かつ環状の金属部材により構成される板バネ530と、樹脂製シール520と板バネ530を金属環510に固定するための固定環540とを備えている。樹脂製シール520は、外周側が金属環510に固定されて、軸200の挿入に伴って、内周側が密封対象領域側に向かって湾曲するように変形した状態で軸200の外周面に摺動自在に密着する。また、板バネ530は、外周側が金属環510に固定されて、軸200の挿入に伴って、内周側が樹脂製シール520に沿って湾曲するように変形し、樹脂製シール520の内周側を径方向内側に向かって押圧する。
【0004】
以上のように構成される密封装置500によれば、軸偏心が生じても、樹脂製シール520は板バネ530によって径方向内側に向かって押圧されるため、軸200の外周面から離れてしまうことが抑制される。従って、安定した密封性が維持される。
【0005】
しかしながら、この密封装置500においては、軸200の挿入に伴って、樹脂製シール520と板バネ530が変形する過程で、板バネ530の先端が樹脂製シール520に食い込んでしまうことがあることが分かった。すなわち、図12に示すように、板バネ530の先端のうち樹脂製シール520側の角の部分が樹脂製シール520に食い込んでしまうことがある(図中、S部参照)。なお、図12は、軸が挿入される過程における樹脂製シール520と板バネ530の一部を示す模式的断面図である。
【0006】
このような現象が発生してしまうと、密封装置500の本来の機能が十分発揮されないおそれがあり、未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-203491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、樹脂製シールが板バネによって損傷されてしまうことを抑制することのできる密封装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0010】
すなわち、本発明の密封装置は、
相対的に移動する軸とハウジングとの間の環状隙間を密封する密封装置において、
前記ハウジングに設けられた軸孔の内周面に嵌合される円筒部と、前記円筒部の一端側から径方向内側に向かって伸びる内向きフランジ部と、前記円筒部の他端側において径方向内側に向かって折り曲げられることにより形成される加締め部と、を有する金属環と、
板状かつ環状の樹脂部材により構成される樹脂製シールと、
板状かつ環状の金属部材により構成される板バネと、
前記金属環の内周面側に固定され、前記他端側で前記加締め部に突き当たる固定環と、を備え、前記樹脂製シールの外周側の端部と前記板バネの外周側の端部が、前記内向きフランジ部と前記固定環との間に圧縮されることによって、前記樹脂製シールの外周側と前記板バネの外周側が前記金属環に固定され密封装置において
前記樹脂製シールは、前記密封装置に前記軸が挿入される過程で密封対象領域側に向か
って湾曲するよう構成された湾曲部を内周側に有し、
前記板バネは、
前記密封装置に前記軸が挿入される過程で前記樹脂製シールに沿って湾曲するように変形し、前記樹脂製シールの湾曲した部分を前記板バネの弾性復元力によって径方向内側に向かって押圧するよう構成された押圧部を内周側に有するとともに、
予め外周側へ折り曲げられた屈曲部を内周側の先端部に有し、
前記屈曲部により、前記密封装置に前記軸が挿入される過程で
前記樹脂製シールへの食い込みが抑制される食い込み抑制構造をなし
前記軸が挿入された状態で、
前記板バネの内周側の先端が前記樹脂製シールの外周面から離れるように、前記板バネの内周側の先端部の一部が予め折り曲げられた屈曲部により
前記樹脂製シールへの食い込みが抑制される食い込み抑制構造をなしていることを特徴とする。
また、本発明の密封装置は、
相対的に移動する軸とハウジングとの間の環状隙間を密封する密封装置において、
前記ハウジングに設けられた軸孔の内周面に嵌合される金属環と、
板状かつ環状の樹脂部材により構成され、外周側が前記金属環に固定されて、前記軸の挿入に伴って、内周側が密封対象領域側に向かって湾曲するように変形した状態で前記軸の外周面に摺動自在に密着する樹脂製シールと、
板状かつ環状の金属部材により構成され、外周側が前記金属環に固定されて、前記軸の挿入に伴って、内周側が前記樹脂製シールに沿って湾曲するように変形し、該樹脂製シールの内周側を径方向内側に向かって押圧する板バネと、
を備えると共に、
前記板バネの先端は、前記板バネの先端に、該板バネの先端を覆う保護部が設けられることにより、前記樹脂製シールへの食い込みが抑制される食い込み抑制構造をなしていることを特徴とする。
また、本発明の密封装置の装着方法は、
金属環と、板状かつ環状の樹脂部材により構成され外周側が前記金属環に固定される樹脂製シールと、板状かつ環状の金属部材により構成され外周側が前記金属環に固定される板バネと、を備え、相対的に移動する軸とハウジングとの間の環状隙間を密封する密封装置の装着方法であって、
前記ハウジングに設けられた軸孔内に前記密封装置を挿入し、前記軸孔内に嵌合する工程と、
使用時における密封対象領域とは反対側から使用時における密封対象領域側に前記軸を挿入する工程と、
を有する密封装置の装着方法において、
前記軸を挿入する工程において、前記樹脂製シールの内周側を前記密封対象領域側に向かって湾曲するように変形させながら、かつ、前記板バネの内周側を前記樹脂製シールに沿って湾曲するように変形させながら、前記軸を挿入し、
前記板バネの先端は、前記密封装置に前記軸を挿入する過程で前記樹脂製シール及び前記板バネが変形する際に、前記樹脂製シールへの食い込みが抑制される食い込み抑制構造をなしていることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、軸を挿入する際などにおいて、板バネの内周側の先端が樹脂製シールに食い込んでしまうことが抑制される。
【0012】
そして、前記軸が挿入された状態で、前記板バネの内周側の先端が前記樹脂製シールの外周面から離れるように、前記板バネの内周側の先端部の一部が予め折り曲げられた屈曲部により前記食い込み抑制構造が構成されているとよい。
【0013】
このような構成を採用すれば、屈曲部が備えられることで、板バネの内周側の先端は樹脂製シールの外周面から離れるように構成されるため、軸を挿入する際などにおいて、板バネの内周側の先端が樹脂製シールに食い込んでしまうことが抑制される。
【0014】
前記軸が挿入される前の状態において、前記屈曲部における前記樹脂製シール側の折り曲げ角度θは30°以上であるとよい。
【0015】
これにより、板バネの内周側の先端が樹脂製シールに食い込んでしまうことを、より確実に抑制することができる。
【0016】
前記軸が挿入される前の状態において、前記屈曲部の折り曲げ部のうち前記樹脂製シール側の曲率半径Rは0.1mm以上であるとよい。
【0017】
これにより、屈曲部の折り曲げ部が樹脂製シールに食い込んでしまうことを抑制することができる。
【0018】
前記軸が挿入される前の状態において、前記樹脂製シールの径方向の幅をLとし、前記板バネの内周側の先端と前記樹脂製シールの内周側の先端との径方向の距離をXとすると、
0<X÷L<0.2
を満たすとよい。
【0019】
また、前記軸が挿入される前の状態において、前記樹脂製シールの径方向の幅をLとし、前記樹脂製シールの内周側の先端から前記屈曲部の折り曲げ部までの径方向距離をYとすると、
0.03<Y÷L<0.3
を満たすことも好適である。
【0020】
また、前記板バネの先端が折り返されるように湾曲する湾曲部により前記食い込み抑制構造が構成されていることも好適である。更に、前記板バネの先端に、該板バネの先端を覆う保護部が設けられることにより前記食い込み抑制構造が構成されていることも好適である。
【0021】
なお、上記各構成は、可能な限り組み合わせて採用し得る。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明によれば、樹脂製シールが板バネによって損傷されてしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は本発明の実施例1に係る密封装置の平面図である。
図2図2は本発明の実施例1に係る密封装置の底面図である。
図3図3は本発明の実施例1に係る密封装置の模式的断面図である。
図4図4は本発明の実施例1に係る板バネの平面図である。
図5図5は本発明の実施例1に係る密封装置の使用状態を示す模式的断面図である。
図6図6は樹脂製シールに板バネの折り曲げ部が食い込んでしまう様子を示す模式的断面図である。
図7図7は折り曲げ角度と折り曲げ部の曲率半径との関係を示すグラフである。
図8図8は本発明の実施例2に係る密封装置の模式的断面図である。
図9図9は本発明の実施例3に係る密封装置の模式的断面図である。
図10図10は本発明の実施例4に係る密封装置の模式的断面図である。
図11図11は従来例に係る密封装置の模式的断面図である。
図12図12は樹脂製シールに板バネの先端が食い込んでしまう様子を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0025】
(実施例1)
図1図7を参照して、本発明の実施例1に係る密封装置について説明する。なお、本実施例に係る密封装置は、相対的に移動する軸とハウジングとの間の環状隙間を密封する役割を担っている。なお、軸とハウジングとの相対的な移動の具体的として、軸とハウジングが相対的に回転する場合、軸とハウジングが相対的に往復移動する場合、軸とハウジングが相対的に揺動する場合、及びこれらのいずれか2つ以上の動作が複合的に行われる場合を挙げることができる。
【0026】
<密封装置>
本実施例に係る密封装置100の構成について説明する。図1は本発明の実施例1に係る密封装置の平面図である。図2は本発明の実施例1に係る密封装置の底面図である。図3は本発明の実施例1に係る密封装置の模式的断面図である。なお、図3図2中のAA断面図であり、奥行き線を省略し、かつ、一部を拡大して示している。図4は本発明の実施例1に係る板バネの平面図である。図5は本発明の実施例1に係る密封装置の使用状態を示す模式的断面図である。図6は樹脂製シールに板バネの折り曲げ部が食い込んでしまう様子を示す模式的断面図である。図7は折り曲げ角度と折り曲げ部の曲率半径との関係を示すグラフである。
【0027】
本実施例に係る密封装置100は、金属環110と、樹脂製シール120と、板バネ130と、金属環110の内周面側に固定される金属製の固定環140とから構成される。金属環110は、ハウジング300に設けられた軸孔の内周面に密着した状態で嵌合される円筒部111を備えている。また、金属環110には、円筒部111の一端側から径方向内側に向かって伸びる内向きフランジ部112と、円筒部111の他端側において径方向内側に向かって折り曲げられることにより形成される加締め部113が設けられている。なお、密封装置100の使用時においては、上記の「一端側」は密封対象領域とは反対側(低圧側(L))に相当し、上記の「他端側」は密封対象領域側(高圧側(H))に相当する。
【0028】
樹脂製シール120は、板状かつ環状の樹脂部材により構成される。なお、本実施例で用いられる樹脂材料としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)が採用されている。このPTFEは、耐熱性,耐圧性及び耐薬品性に優れ、かつ摺動摩耗が少ないといった特性を有している。また、本実施例に係る樹脂製シール120は、外周側が金属環110に固定されて、内周側が密封対象領域側(高圧側(H))に向かって湾曲するように変形した状態で軸200の外周面に摺動自在に密着するように構成されている。
【0029】
板バネ130は、板状かつ環状の金属(例えば、SUS)部材により構成される。また、板バネ130は、外周側が金属環110に固定されて、内周側が樹脂製シール120に沿って湾曲するように変形し、樹脂製シール120の内周側の端部付近を径方向内側に向かって押圧するように構成されている。また、この板バネ130には、内周端から外周端側に向かって伸びる内周側スリット131が周方向に間隔を空けて複数設けられている。本実施例では、これら複数の内周側スリット131は、周方向に等間隔に設けられている。また、本実施例に係る板バネ130には、外周端から内周端側に向かって伸びる外周側スリット132が周方向に間隔を空けて複数設けられている。本実施例では、これら複数の外周側スリット132は、周方向に等間隔に設けられている。そして、内周側スリット131と外周側スリット132は周方向に交互に設けられている。更に、本実施例に係る板バネ130には、板バネ130の内周側の先端部の一部が予め折り曲げられた屈曲部133が備えられている。
【0030】
固定環140は、金属環110の内周面側に固定される円筒部141と、円筒部141の一端側から径方向内側に向かって伸びる内向きフランジ部142とから構成される。そして、この固定環140が金属環110の内周面側に配置された状態で、金属環110における他端側(密封対象領域側)の端部が固定環140の端部に突き当たるように径方向内側に向かって折り曲げられて加締め部113が形成される。これにより、樹脂製シール120の外周側の端部と、板バネ130の外周側の端部が、内向きフランジ部112と固定環140との間に圧縮されることによって、これら樹脂製シール120の外周側と板バネ130の外周側が金属環110に固定される。
【0031】
<密封装置の装着方法及び使用時の状態>
特に、図5を参照して、本実施例に係る密封装置100の装着方法及び使用時の状態について説明する。まず、密封装置100の装着方法について説明する。上記のように構成される密封装置100は、ハウジング300に設けられた軸孔内に挿入され、この軸孔内に嵌合される。このとき、密封装置100における金属環110の円筒部111の外周面が、軸孔の内周面に密着した状態となる。そして、軸200が図5中左側(使用時における密封対象領域とは反対側(低圧側(L)))から右側(使用時における密封対象領域側(高圧側(H)))に挿入される。これにより、樹脂製シール120及び板バネ130は、その内周側の端部が軸200に押される。そのため、これら樹脂製シール120及び板バネ130は、内向きフランジ部112と固定環140との間に圧縮されている位置よりも内周側が密封対象領域側(高圧側(H))に向かって湾曲するように変形する。つまり、樹脂製シール120は、軸200の挿入に伴って、内周側が密封対象領域側に向かって湾曲するように変形した状態で軸200の外周面に摺動自在に密着する。また、板バネ130は、軸200の挿入に伴って、内周側が樹脂製シール120に沿って湾曲するように変形し、樹脂製シール120の内周側を径方向内側に向かって押圧する。
【0032】
以上のように、軸200が挿入された状態では、樹脂製シール120の湾曲した部分における先端付近の内周面が軸200の外周面に密着した状態となる。また、板バネ130の湾曲した部分における先端付近の内周面が、樹脂製シール120の湾曲した部分における先端付近の外周面に密着した状態となる。そして、板バネ130の弾性復元力によって、板バネ130の先端付近の部分により、樹脂製シール120の湾曲した部分における先端付近が径方向内側に向かって押圧される。
【0033】
<屈曲部>
板バネ130の内周側に備えられた屈曲部133について、詳細に説明する。本実施例に係る板バネ130には、軸200が挿入された状態で、板バネ130の内周側の先端が樹脂製シール120の外周面から離れるように、上述した屈曲部133が備えられている。本実施例においては、この屈曲部133により、板バネ130の先端の樹脂製シール120への食い込みが抑制される食い込み抑制構造が構成されている。図3を参照して、この屈曲部133の寸法設定について説明する。
【0034】
(1)軸200が挿入される前の状態において、屈曲部133における樹脂製シール120側の折り曲げ角度θは30°以上に設定されている。
【0035】
(2)軸200が挿入される前の状態において、屈曲部133の折り曲げ部のうち樹脂製シール120側の曲率半径Rは0.1mm以上に設定されている。
【0036】
(3)軸200が挿入される前の状態において、樹脂製シール120の径方向の幅をLとし、板バネ130の内周側の先端と樹脂製シール120の内周側の先端との径方向の距離をXとすると、0<X÷L<0.2を満たすように設定されている。
【0037】
(4)軸200が挿入される前の状態において、樹脂製シール120の内周側の先端から屈曲部133の折り曲げ部までの径方向距離をYとすると、0.03<Y÷L<0.3を満たすように設定されている。なお、「径方向距離」とは、軸方向のずれ分の距離は含まず、径方向に沿った方向の長さのみの距離を意味する。
【0038】
(1)~(4)のように設定した理由について、図6及び図7を参照して説明する。図7は、板バネ130の内周側の先端に設ける屈曲部133について、屈曲部133の折り曲げ角度θを色々変えて加工した際の角度θと上記曲率半径Rの実測値について示したグラフである。なお、グラフは複数の実測値に基づく近似曲線を示している。
【0039】
図中の白丸は、板バネ130の内周側の先端が樹脂製シール120の外周面に食い込まなかった場合の実測値を示している。これに対して、図中の黒丸は、板バネ130の内周側の先端が樹脂製シール120の外周面に食い込んでしまった場合の実測値を示している。このように、屈曲部133を設けたとしても、屈曲部133の折り曲げ角度θが小さいと、板バネ130の内周側の先端が樹脂製シール120の外周面に食い込んでしまうことが分かった。そして、グラフから屈曲部133の折り曲げ角度θを30°以上に設定することによって、板バネ130の内周側の先端が樹脂製シール120の外周面に食い込んでしまうことを抑制可能であることが分かった。以上が上記(1)のように設定した理由である。
【0040】
図中の白三角は、屈曲部133における折り曲げ部が樹脂製シール120の外周面に食い込まなかった場合の実測値を示している。これに対して、図中の黒三角は、屈曲部133における折り曲げ部が樹脂製シール120の外周面に食い込んでしまった場合の実測値を示している。このように、屈曲部133を設けたことで、板バネ130の内周側の先端が樹脂製シール120の外周面に食い込んでしまうことを抑制することができても、折り曲げ部の曲率半径が小さいと、この折り曲げ部が樹脂製シール120の外周面に食い込んでしまうことが分かった。なお、図6には、樹脂製シール120に板バネ130の折り曲げ部が食い込んでしまった際の様子を示している(図中、T部参照)。そして、グラフから上記の曲率半径Rを0.1mm以上に設定することによって、折り曲げ部が樹脂製シール120の外周面に食い込んでしまうことを抑制可能であることが分かった。以上が上記(2)のように設定した理由である。なお、本実施例においては、折り曲げ角度θを60°以下に設定することによって、曲率半径Rを0.1mm以上に設定することができた。従って、30°<θ<60°に設定すれば、板バネ130の内周側の先端が樹脂製シール120の外周面に食い込んでしまうことを抑制でき、かつ、折り曲げ部が樹脂製シール120の外周面に食い込んでしまうことも抑制できることが分かった。
【0041】
また、(3)のように設定した理由は、板バネ130の内周側の先端が軸200に直接接触してしまうことを抑制すると共に、樹脂製シール120を押圧するという板バネ130の本来の機能を安定的に発揮させるためである。更に、(4)のように設定した理由は、板バネ130の内周側の先端を樹脂製シール120の外周面からより確実に離れるようにすると共に、樹脂製シール120を押圧するという板バネ130の本来の機能を安定的に発揮させるためである。
【0042】
<本実施例に係る密封装置の優れた点>
本実施例に係る密封装置100によれば、板バネ130に屈曲部133が備えられることで、板バネ130の内周側の先端は樹脂製シール120の外周面から離れるように構成される。これにより、軸200を挿入する際などにおいて、板バネ130の内周側の先端が樹脂製シール120に食い込んでしまうことが抑制される。従って、樹脂製シール120が板バネ130によって損傷されてしまうことを抑制することができる。なお、上記のように各部の寸法を設定することにより、より確実に樹脂製シール120の損傷を抑制することができる。
【0043】
また、本実施例に係る密封装置100は、ハウジング300に設けられた軸孔の内周面に密着した状態で嵌合される円筒部111を有する金属環110を備える構成を採用している。これにより、ハウジング300が鋳物(例えば、アルミニウム製の鋳物)で構成される場合であっても、金属環110の外周面とハウジング300の軸孔の内周面との間に十分な密封性を得ることができる。つまり、ハウジング300の軸孔の内周面に鋳巣のような微小の凹部が複数存在していても、密封性を発揮させることができる。
【0044】
また、本実施例に係る密封装置100は、板状かつ環状の樹脂部材により構成され、外周側が金属環110に固定されて、内周側が密封対象領域側に向かって湾曲するように変形した状態で軸200の外周面に摺動自在に密着する樹脂製シール120を備える構成を採用している。これにより、ゴム状弾性体製のシールを用いた場合に比べて、耐熱性等に優れ、かつ摺動摩耗を少なくすることができる。
【0045】
そして、本実施例に係る密封装置100は、樹脂製シール120の内周側を径方向内側に向かって押圧する板バネ130を備えている。従って、高温環境下で長時間使用されることによって、樹脂製シール120自体にへたりが生じても、長期に亘って安定した密封性を維持することができる。
【0046】
(実施例2)
図8には、本発明の実施例2が示されている。本実施例においては、板バネのうち屈曲部よりも更に径方向の外側に、密封対象領域側に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施されている場合の構成について説明する。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0047】
本実施例に係る密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様に、金属環110と、樹脂製シール120と、板バネ130と、金属環110の内周面に固定される金属製の固定環140とから構成される。金属環110,樹脂製シール120及び固定環140の構成については、上記実施例1と同一であるので、その説明は省略する。
【0048】
また、本実施例においても、板バネ130には、板バネ130の内周側の先端部の一部が予め折り曲げられた屈曲部133が備えられている。なお、実施例1で示した寸法設定のうち、(1)と(2)については、上記実施例1と同様である。
【0049】
そして、本実施例においては、板バネ130には、屈曲部133よりも径方向外側に、予め、密封装置100の使用時における密封対象領域側(図中、右側)に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施されている(図中、湾曲部134参照)。この点のみが、上記実施例1の場合と異なっている。上記実施例1で説明したように、密封装置100に軸200が挿入されることにより、板バネ130の内周側は、密封対象領域側(高圧側(H))に向かって湾曲するように変形する。
【0050】
ここで、板バネ130による押圧力を長期に亘って安定させるためには、軸200の挿入に伴って変形する板バネ130の変形量は、弾性域内に収めるのが望ましい。つまり、塑性変形が生じないようにするのが望ましい。上記実施例1の場合には、軸200の挿入に伴う板バネ130の変形量が比較的多くなるため、変形量を弾性域内に収めることができない場合がある。そこで、本実施例においては、板バネ130の内周側に折り曲げ加工を施すことで、予め、ある程度塑性変形させている。これにより、軸200の挿入に伴って変形する板バネ130の変形量を少なくすることができ、軸200の挿入により変形する変形量を弾性域内に収めることが可能となる。
【0051】
以上のように構成される密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。なお、板バネ130の内周側の部分と樹脂製シール120の内周側の部分に予め折り曲げ加工が施すことで、使用時における密封対象領域側(高圧側(H))から密封対象領域とは反対側(低圧側(L))に軸200を挿入することを可能にすることもできる。この場合、樹脂製シール120に折り曲げ加工が施された状態で、樹脂製シール120の内周端の内径(最小部分の内径)が、軸200の先端の外径よりも大きくなるように設定する必要があることは言うまでもない。
【0052】
(実施例3)
図9には、本発明の実施例3が示されている。本実施例においては、板バネの先端における食い込み抑制構造の構成が、上記実施例1の場合とは異なる構成について示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0053】
図9は本発明の実施例3に係る密封装置の模式的断面図である。なお、図9は実施例1で示した図2中のAA断面図に相当し、奥行き線を省略し、かつ、一部を拡大して示している。本実施例に係る密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様に、金属環110と、樹脂製シール120と、板バネ130と、金属環110の内周面に固定される金属製の固定環140とから構成される。金属環110,樹脂製シール120及び固定環140の構成については、上記実施例1と同一であるので、その説明は省略する。
【0054】
そして、本実施例においては、板バネ130には、板バネ130の内周側の先端部の一部が予め折り曲げられた湾曲部133Xが備えられている。この湾曲部133Xは、板バネ130の先端が折り返されるように湾曲することで構成されている。この点のみが、上記実施例1の場合と異なっている。このように、本実施例においては、湾曲部133Xにより食い込み抑制構造が構成されている。本実施例においても、上記実施例1で説明したように、密封装置100に軸200が挿入されることにより、板バネ130の内周側は、密封対象領域側(高圧側(H))に向かって湾曲するように変形する。
【0055】
以上のように構成される密封装置100においては、湾曲部133Xによって、板バネ130の先端が折り返されているため、板バネ130の先端が樹脂製シール120に食い込んでしまうことはない。また、湾曲部133X自体が樹脂製シール120に食い込んでしまうこともない。なお、本実施例においても、上記実施例2で示すように、湾曲部133Xよりも径方向外側に、予め、密封装置100の使用時における密封対象領域側(図中、右側)に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施される構成を採用してもよい。
【0056】
(実施例4)
図10には、本発明の実施例4が示されている。本実施例においては、板バネの先端における食い込み抑制構造の構成が、上記実施例1の場合とは異なる構成について示す。その他の構成および作用については実施例1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0057】
図10は本発明の実施例4に係る密封装置の模式的断面図である。なお、図10は実施例1で示した図2中のAA断面図に相当し、奥行き線を省略し、かつ、一部を拡大して示している。本実施例に係る密封装置100においても、上記実施例1の場合と同様に、金属環110と、樹脂製シール120と、板バネ130と、金属環110の内周面に固定される金属製の固定環140とから構成される。金属環110,樹脂製シール120及び固定環140の構成については、上記実施例1と同一であるので、その説明は省略する。
【0058】
そして、本実施例においては、板バネ130の先端に、板バネ130の先端を覆う保護部133Yが設けられることにより食い込み抑制構造が構成されている。この点のみが、上記実施例1の場合と異なっている。保護部133Yについては、例えば、樹脂材などを板バネ130の先端に接着させることにより構成することができる。本実施例においても、上記実施例1で説明したように、密封装置100に軸200が挿入されることにより、板バネ130の内周側は、密封対象領域側(高圧側(H))に向かって湾曲するように変形する。
【0059】
以上のように構成される密封装置100においては、保護部133Yによって、板バネ130の先端が覆われているため、板バネ130の先端が樹脂製シール120に食い込んでしまうことはない。また、保護部133Yの形状や材料を適宜設定することで、保護部133Yが樹脂製シール120に食い込んでしまうこともない。なお、本実施例においても、上記実施例2で示すように、保護部133Yよりも径方向外側に、予め、密封装置100の使用時における密封対象領域側(図中、右側)に向かって湾曲するように折り曲げ加工が施される構成を採用してもよい。
【符号の説明】
【0060】
100 密封装置
110 金属環
111 円筒部
112 内向きフランジ部
113 加締め部
120 樹脂製シール
130 板バネ
131 内周側スリット
132 外周側スリット
133 屈曲部
133X 湾曲部
133Y 保護部
134 湾曲部
140 固定環
141 円筒部
142 内向きフランジ部
200 軸
300 ハウジング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12