(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-30
(45)【発行日】2023-04-07
(54)【発明の名称】塩素化ブチルゴムを生成するための方法
(51)【国際特許分類】
C08F 8/20 20060101AFI20230331BHJP
C08F 236/18 20060101ALI20230331BHJP
C08F 210/12 20060101ALI20230331BHJP
【FI】
C08F8/20
C08F236/18
C08F210/12
(21)【出願番号】P 2021537851
(86)(22)【出願日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 CA2019051799
(87)【国際公開番号】W WO2020132742
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-08-24
(32)【優先日】2018-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516186267
【氏名又は名称】アランセオ・シンガポール・プライヴェート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・ジェイ・イー・デヴィッドソン
(72)【発明者】
【氏名】クルップ・ヤハティッサ
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03278467(US,A)
【文献】特開昭58-113205(JP,A)
【文献】米国特許第03932370(US,A)
【文献】特表2017-514952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F8/、210/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i) 少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導される構造単位及び
ii) 少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導される構造単位
を含むコポリマーを、次亜塩素酸及び/又は一酸化二塩素と反応させる工程を少なくとも含み、
前記反応が、次亜塩素酸及び/又は一酸化二塩素を含む水性相を、前記コポリマー及び有機希釈剤を含む有機相と接触させることにより行われ、かつ有機希釈剤がヘキサンである、塩素化コポリマーの調製のための方法
であって、
前記塩素化コポリマーが、
i) 少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導される構造単位及び
ii) イソプレンから誘導される構造単位
を少なくとも含む塩素化コポリマーであって、
・前記コポリマーの塩素含有量が0.1~4質量%であり、
・イソプレンから誘導される前記構造単位が、少なくとも部分的に塩素化されて、モル%(エキソ-メチレン+エンド-Cl)/モル%(cis-エンド及びtrans-エンド)の比であるミクロ構造指数Xが、
1
H-NMRで測定された場合、1.50~3.30となるように、エキソ-メチレン及びエンド-Cl及びcis-エンド及びtrans-エンド及びミクロ構造単位を形成している、方法。
【請求項2】
前記イソオレフィンモノマーが、4~16個の炭素原子を有するものから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記イソオレフィンモノマーがイソブテンである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記マルチオレフィンが、イソプレン、ブタジエン、2-メチルブタジエン、2,4-ジメチルブタジエン、ピペリレン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、2,4-ヘキサジエン、2-ネオペンチルブタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、2,5-ジメチル-2,4-ヘキサジエン、2-メチル-1,4-ペンタジエン、4-ブチル-1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ペンタジエン、2,3-ジブチル-1,3-ペンタジエン、2-エチル-1,3-ペンタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,6-ヘプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、及び1-ビニル-シクロヘキサジエンからなる群から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記マルチオレフィンがイソプレンである、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記コポリマーが、イソオレフィンでもマルチオレフィンでもないオレフィンから誘導されるさらなる構造単位を更に含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
次亜塩素酸及び/又は一酸化二塩素が、次亜塩素酸塩を、標準的条件で測定された場合0.00~7.60のpKaを有する酸性化合物と反応させることにより調製される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記酸性化合物が、カルボン酸である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記次亜塩素酸塩が、次亜塩素酸ナトリウムである、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
次亜塩素酸及び/又は一酸化二塩素を含む前記水性相が、反応条件下で、2.0~7.4のpH値を示す、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記反応が抗酸化剤の存在下で行われる、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
請求項
1に記載の塩素化コポリマーの調製のための方法であって、塩素化コポリマーが、
i) 少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導される構造単位及び
ii) イソプレンから誘導される構造単位
を少なくとも含む塩素化コポリマーであって、1-(1-クロロメチルエテニル)-2,2,4,4-テトラメチルシクロヘキサン(Cl-C13)及び1,1,5,5-テトラメチル-2-(1-クロロメチルエテニル)-3-(2,2,4-トリメチルペンチル)-シクロヘキサン(Cl-C21)を、合計の量で1000ppm以下、及び/又は0.60以上の(Cl-C13)/(Cl-C21)の比で含む、塩素化コポリマーである、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、次亜塩素酸(HOCl)及び/又は一酸化二塩素(Cl2O)を塩素化剤として使用する、塩素化ブチルゴムの調製のためのエネルギー効率の高い、高速な、環境的に良好な方法に関する。上述の方法に従い調製した塩素化ブチルゴムは、有利なミクロ構造並びに塩素化及び非塩素化オリゴマーの望ましい含有量及び比率を示し、したがってこれもまた本発明により包含される。
【背景技術】
【0002】
ブチルゴム、例えば、イソブテン-イソプレンゴム(IIRとしても表される)及びこれらのハロゲン化類似体は重要なクラスの合成ゴムである。その分子構造の結果、IIRは良好な空気不透過性、高い損失弾性率、酸化安定度及び長期にわたる耐疲労性を保有する。
【0003】
ハロゲン化ブチルゴム、特に塩素化ブチルゴム(クロロブチルゴム(CIIR)とも呼ばれる)及び臭素化ブチルゴム(ブロモブチルゴム(BIIR)とも呼ばれる)の開発は、ずっと速い硬化速度をもたらし、共加硫を可能にすることにより、ブチルゴムの有用性を大きく拡張した。タイヤのインナーライナーは間違いなくクロロブチルゴム及びブロモブチルゴムに対する最も大きな用途である。タイヤの用途に加えて、クロロブチルゴム及びブロモブチルゴムは、その良好な不透過性及び安定性により、医薬品包装、建設用シーラント及び機械的物品に対して良好な材料となる。
【0004】
ブチルゴムの塩素化は、以下に示されている主に4種の塩素化ミクロ構造を生成する:
【0005】
【0006】
【0007】
【0008】
【0009】
求核置換反応の架橋におけるこれらの異なる反応性により、上述のミクロ構造の相対量は可変であることが望ましい。しかし、塩素をハロゲン化剤として使用する従来のブチルゴムハロゲン化プロセスに対して、ミクロ構造の相対比は非常に狭い範囲でしか影響され得ない。
【0010】
従来のブチルゴムハロゲン化プロセスは、例えば、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry (完全改訂第5版、A231巻、Elversら編)及び/又は「Rubber Technology」(第3版)、Maurice Morton、第10章 (Van Nostrand Reinhold Company(C)1987年)、特に297~300頁に記載されている。
【0011】
塩素化ブチルゴム(クロロブチルゴム又はCIIRとしても表される)、例えばイソブテン及びイソプレンを生成するための従来の方法は最初に、極性ハロ炭化水素媒体、例えば、塩化メチル若しくは1,1,1,2-テトラフルオロエタン中で、アルミニウムベースの開始系、通常三塩化アルミニウム(AlCl3)若しくは二塩化エチルアルミニウム(EtAlCl2)若しくは塩化ジエチルアルミニウム(Et2AlCl)、又は後者の混合物(多くの場合エチルアルミニウム-セスキクロリドと呼ばれる)と重合する。
【0012】
ブチルゴムはこれら極性媒体に大幅に溶解するわけではなく、懸濁粒子として存在し、よって、これらのプロセスは通常スラリープロセスと呼ばれる。次いで、残留モノマー及び重合媒体をブチルゴムから水蒸気ストリッピングさせてから、これを、塩素化媒体、通常、ヘキサン等の非極性媒体に溶解する。塩素化プロセスは最終塩素化生成物を最終的に生成する。したがって、従来の方法は、2種の異なる媒体を利用する、別々の重合及び塩素化工程を利用する。重合用の極性媒体及び塩素化用の非極性媒体の使用は、中間ストリッピング及び溶解工程を必要とする。モノマー及び塩化メチル又は1,1,1,2-テトラフルオロエタンをブチルゴムから分離する工程は、塩素と残留モノマーの反応からの極めて有毒な副産物の形成を回避するために、塩素化の前に行われる。
【0013】
1999年3月23日に発行されたUS 5,886,106は、0.5~2.5%のハロゲン含有量、及び0.7モル%より大きい、しかし優先的には0.7~1.0モル%の非ハロゲン化二重結合の含有量を有し、1.25~2.2質量%の量の抗凝集制御剤(すなわちステアリン酸カルシウム(CaSt2))を有するハロゲン化ブチルゴムについて記載している。
【0014】
代わりに、例えば、WO2010/006983A、WO2011/089092Aに開示されたように、ペンタン及びヘキサンの混合物等の一般的な脂肪族溶媒が重合及びハロゲン化に使用されると、これによって、重合とハロゲン化との間の中間の溶媒交換を省略することが可能となる。重合中に調製したブチルゴムは、これら脂肪族媒体に溶解するので、これらのプロセスは通常溶液プロセスと呼ばれる。
【0015】
上述のプロセスの一般的な特徴は、有毒性があるハロゲン化剤としての元素の塩素の使用により、塩素を安全に取り扱うための実質的な技術的努力が必要となることである。
【0016】
重合がスラリープロセス又は溶液プロセスとして実行されるかに関わらず、環式オリゴマー、1-イソプロペニル-2,2,4,4-テトラメチルシクロヘキサン(以下C13と呼ばれる)及び1,1,5,5-テトラメチル-2-(1-メチルエテニル)-3-(2,2,4-トリメチルペンチル)-シクロヘキサン(以下C21と呼ばれる)は副産物として生成され、ブチルゴム内に残存する。一部の商品に対して、約2500ppmの環式オリゴマーレベルが測定された。
【0017】
【0018】
これら環式オリゴマーは不飽和であり、塩素化剤として塩素を使用する慣習的手順によるブチルゴムの塩素化はまた、環式オリゴマーC13及びC21のほとんど完全な塩素化を結果として生じ、以下の化合物(Cl-C13及びCl-C21と略記する)及びその異性体を生成する:
【0019】
【0020】
特にハロゲン化環式オリゴマーCl-13及びCl-C21は、ある特定の用途、例えば、医薬品シール、密閉部、血液採取ストッパー、医療用具及び食品用銘柄の用途において、ハロゲン化環式オリゴマーが医薬品又は食料品中/上へと移動し、次いで製品と相互作用若しくは反応する、及び/又は患者へと導入される可能性があることから望ましくない。したがって、塩素化ブチルゴム中のハロゲン化環式オリゴマーレベルを減少させることが極めて望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】US 5,886,106
【文献】WO2010/006983A
【文献】WO2011/089092A
【文献】米国特許第5,021,509号
【文献】WO2015/095961
【文献】WO2010/031823
【文献】WO2011/117280
【文献】U.S. 3,287,440
【文献】U.S. 4,059,651
【非特許文献】
【0022】
【文献】Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry (完全改訂第5版、A231巻、Elversら編)
【文献】「Rubber Technology」(第3版)、Maurice Morton、第10章 (Van Nostrand Reinhold Company(C)1987年)、特に297~300頁
【文献】Chia Yeh Chu、Kenneth Norman Watson、及びRastko Vukov (1987)、「Determination of the Structure of Chlorobutyl and Bromobutyl Rubber by NMR Spectroscopy」、Rubber Chemistry and Technology: 1987年9月、60巻、4号、636~646頁
【文献】「Rubber Technology」第3版、Maurice Morton編、1987年、13~14、23頁
【文献】Encyclopedia of Polymer Science and Engineering、4巻、66頁(配合)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
結果として、好ましくは塩素化ブチルゴムのミクロ構造及び環式オリゴマーの塩素化挙動を変化させることも可能にするブチルゴムに対する効率的で安全な塩素化プロセスを提供する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
コポリマーを次亜塩素酸(HOCl)及び/又は一酸化二塩素(Cl2O)と反応させる工程を少なくとも含む、塩素化コポリマーの調製のための方法がここに提供される。
【0025】
i)少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導される構造単位及び
ii)イソプレンから誘導される構造単位
を少なくとも含む塩素化コポリマーであって、ハロゲン化コポリマーが特定のミクロ構造を示す塩素化コポリマーが更に提供される。
【0026】
本発明は、ポリマー製品、特に上述の塩素化コポリマーを含むブレンド及び化合物、並びにこのようなポリマー製品、ブレンド及び化合物から作製される硬化物品を更に包含する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】塩素化プロセスに使用されるエキソ-CH
2-含有量(%)と次亜塩素酸ナトリウム溶液の量(ml)とを対比したグラフ。
【0028】
さらなる特徴は、以下の詳細な説明の過程で記載される又は明らかとなる。本明細書に記載されている各特徴は、記載されている他の特徴のいずれか1つ若しくは複数との任意の組合せで利用することができ、各特徴は、当業者に明らかな場合を除いて、別の特徴の存在に必ずしも依存するものではないことを理解されたい。
【発明を実施するための形態】
【0029】
コポリマーを次亜塩素酸(HOCl)及び/又は一酸化二塩素(Cl2O)と反応させる工程を少なくとも含む、塩素化コポリマーの調製のための方法がここに提供される。
【0030】
よって、本明細書で使用される場合「コポリマー」という用語は、
i)少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導される構造単位及び
ii)少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導される構造単位
を少なくとも含むコポリマーを表す。
【0031】
本明細書で使用される場合、イソオレフィンという用語は、二重結合の一方の炭素原子が2つのアルキル基で置換されており、他方の炭素原子が2個の水素原子又は1個の水素原子及び1つのアルキル基で置換されている、1つの炭素-炭素二重結合を含む化合物を表す。
【0032】
適切なイソオレフィンの例として、4~16個の炭素原子、好ましくは4~7個の炭素原子を有するイソオレフィンモノマー、例えば、イソブテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテンが挙げられる。好ましいイソオレフィンはイソブテンである。
【0033】
本明細書で使用される場合、マルチオレフィンという用語は、コンジュゲート又は非コンジュゲートのいずれかであり、好ましくはコンジュゲートされている、1つより多くの炭素-炭素二重結合を含む化合物を表す。
【0034】
適切なマルチオレフィンの例として、イソプレン、ブタジエン、2-メチルブタジエン、2,4-ジメチルブタジエン、ピペリレン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、2,4-ヘキサジエン、2-ネオペンチルブタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、2,5-ジメチル-2,4-ヘキサジエン、2-メチル-1,4-ペンタジエン、4-ブチル-1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ペンタジエン、2,3-ジブチル-1,3-ペンタジエン、2-エチル-1,3-ペンタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,6-ヘプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン及び1-ビニル-シクロヘキサジエンが挙げられる。
【0035】
好ましいマルチオレフィンはイソプレン及びブタジエンである。イソプレンが特に好ましい。
【0036】
塩素化のために使用されるコポリマーは、イソオレフィンでもマルチオレフィンでもないオレフィンから誘導されるさらなる構造単位を更に含んでもよい。
【0037】
このような適切なオレフィンの例として、β-ピネン、スチレン、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、o-、m-及びp-アルキルスチレン、例えば、o-、m-及びp-メチル-スチレンが挙げられる。
【0038】
別の実施形態では、塩素化のために使用されるコポリマーは、イソオレフィンでもマルチオレフィンでもないオレフィンから誘導される構造単位を含まない。
【0039】
コポリマーのマルチオレフィンから誘導される構造単位の含有量は通常、特にイソブテン及びイソプレンが利用される場合、0.1モル%以上、好ましくは0.1モル%~15モル%であり、別の実施形態では0.5モル%以上、好ましくは0.5モル%~10モル%であり、別の実施形態では0.7モル%以上、好ましくは0.7~8.5モル%、特に0.8~1.5又は1.5~2.5モル%又は2.5~4.5モル%又は4.5~8.5モル%である。本明細書で使用される場合、モル%は、前記構造単位の由来となるモノマーに対する、構造単位のモル量を指す。
【0040】
コポリマーは、次亜塩素酸(HOCl)及び/又は一酸化二塩素(Cl2O)と反応させる。
【0041】
一実施形態では反応は、次亜塩素酸(HOCl)及び/又は一酸化二塩素(Cl2O)を含む水性相を、コポリマー及び有機希釈剤を含む有機相と接触させることにより行われる。
【0042】
次亜塩素酸(HOCl)及び/又は一酸化二塩素(Cl2O)は、アルカリ又はアルカリ土類次亜塩素酸塩等の次亜塩素酸塩を、標準的条件で測定された場合0.00~7.60のpKa、好ましくは0.50~7.00のpKa、より好ましくは1.00~6.00のpKa、より好ましくは1.50~5.50のpKa、更により好ましくは2.50~5.00のpKaを有する酸性化合物と反応させることにより調製することができ、好ましく調製される。
【0043】
このような化合物は酸及び酸性塩を含む。
【0044】
適切な酸として、有機酸、例えば、酢酸、プロピオン酸、リンゴ酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、安息香酸、サリチル酸、m-クロロ安息香酸等のカルボン酸;スルホン酸、例えば、トルエンスルホン酸が挙げられる。
【0045】
適切な酸として、無機酸、例えば、リン酸、炭酸(通常、二酸化炭素又はその水性溶液として利用される)が更に挙げられる。
【0046】
適切な酸性塩として、リン酸水素ナトリウム等の二水素リン酸塩、硫酸水素ナトリウム等の硫化水素、及びクエン酸一ナトリウム等のクエン酸塩が挙げられる。
【0047】
好ましい次亜塩素酸塩は、0.1~15質量%、好ましくは1~5質量%の含有量を有する水性溶液として通常利用される次亜塩素酸ナトリウムである。このような溶液は、ジャベル水又は家庭用漂白剤として様々な含有量で市販されている。
【0048】
一実施形態では、次亜塩素酸ナトリウムの溶液は、例えば、使用前に直接、塩化ナトリウム溶液の電解により調製される。
【0049】
次亜塩素酸塩を上で定義された酸性化合物と反応させると、一酸化二塩素(Cl2O)と平衡状態にある次亜塩素酸(HOCl)が形成される。反応は、酢酸を用いて実証され、以下の方程式(I)及び(II)に従い進行する:
(I)NaOCl+HOAc→NaOAc+HOCl
(II)2HOCl⇔Cl2O+H2O
【0050】
0.00未満のpKaを有する強酸、例えば、塩酸又は硫酸の適用は、次亜塩素酸又は一酸化二塩素をもたらさないが、方程式(III)及び(IV)に従い元素の塩素(Cl2)の形成をもたらすことが判明した。
(III)NaOCl+2HCl→Cl2+NaCl+H2O
(IV)2NaOCl+2H2SO4→Cl2+NaHSO4+H2O
【0051】
一実施形態では次亜塩素酸(HOCl)及び/又は一酸化二塩素(Cl2O)を含む水性相は、反応条件下で、2.0~7.4のpH値、好ましくは2.5~7.0のpH値、より好ましくは4.0~6.5のpH値を示す。
【0052】
好ましくは、利用される次亜塩素酸塩溶液の量は、利用されるコポリマーの約0.1~約20質量%の範囲、好ましくは0.1~15質量%の範囲、更により好ましくは約0.5質量%~約6質量%の範囲、また更により好ましくは約1.0質量%~約5質量%の範囲、更により好ましくは約1.5質量%~約4.5質量%の範囲である。好ましくは、利用される酸性化合物の量は、利用される次亜塩素酸塩1モル当たり約0.1~5.0の範囲、より好ましくは1.0~4.0の範囲、更により好ましくは1.0~3.0の範囲である。
【0053】
有機相はコポリマー及び希釈剤を含む。反応に利用される有機相内のコポリマーの濃度は、例えば、有機相の0.1~50質量%の間、好ましくは5~25質量%、より好ましくは12~22質量%である。
【0054】
有機希釈剤という用語は、プロセス条件下で液体であり、反応に利用されるコポリマーを溶解することが可能な有機化学物質又は少なくとも2種の有機化学物質の混合物を包含する。
【0055】
有機希釈剤の好ましい例として、アルカン等の炭化水素が挙げられ、更に好ましい実施形態では、プロパン、イソブタン、ペンタン、メチルシクロペンタン、イソヘキサン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、2-メチルブタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、2-メチルヘキサン、3-メチルヘキサン、3-エチルペンタン、2,2-ジメチルペンタン、2,3-ジメチルペンタン、2,4-ジメチルペンタン、3,3-ジメチルペンタン、2-メチルヘプタン、3-エチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、2,2,4,-トリメチルペンタン、オクタン、ヘプタン、ブタン、デカン、ドデカン、ウンデカン、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、1,1-ジメチルシクロペンタン、cis-1,2-ジメチルシクロペンタン、trans-1,2-ジメチルシクロペンタン、trans-1,3-ジメチル-シクロペンタン、エチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、更に好ましい実施形態がトルエン及びキシレンを含む芳香族炭化水素等が挙げられる。
【0056】
有機希釈剤の例として、ヒドロクロロ炭素、好ましくはハロゲン化アルカン、例えば、ジクロロメタンが更に挙げられる。
【0057】
有機希釈剤の例として、エーテル、例えば、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン及びエチレングリコールジエチルエーテルが更に挙げられる。
【0058】
有機相は、コポリマー、例えば商業源から入手したコポリマーを有機希釈剤に溶解することにより、又は本明細書に参照により組み込まれている米国特許第5,021,509号に開示されているような溶媒置換により調製することができる。別の実施形態では本発明による反応に利用される有機相は、少なくとも以下の工程を含む方法において調製される
A)以下を含む反応媒体を、モノマー混合物の脂肪族媒体に対する質量比35:65~99:1、好ましくは50:50~85:15、更により好ましくは61:39~80:20で準備する工程;
・気圧1013hPaで45℃~80℃の範囲の沸点を有する少なくとも50質量%の1種又は複数の脂肪族炭化水素を含む脂肪族媒体、及び
・少なくとも1種のイソオレフィン、少なくとも1種のマルチオレフィンを含み、イソオレフィンでもマルチオレフィンでもないさらなるオレフィンを含まないか、1種含むか、又は1種より多く含むかのいずれかである、モノマー混合物
B)開始剤の存在下、反応媒体内でモノマー混合物を重合化して、コポリマー、脂肪族媒体及びモノマー混合物の残留モノマーを含む生成物媒体を形成する工程;
C)モノマー混合物の残留モノマーを生成物媒体から除去して、有機相を得る工程であって、好ましくは分離が蒸留により実施される工程。
【0059】
コポリマーを得るために工程A)で使用されるイソオレフィンとマルチオレフィンの具体的な比は、いくつかの要素、例えば、工程A)で利用される温度及び開始剤並びに最終コポリマー中のマルチオレフィンの所望のレベルに依存するが、ほんの少しの通常の実験で簡単に決定することができ、又はこの作業に対して知られている大量の文献から知識を得られる。
【0060】
B)における重合は開始剤により開始される。
【0061】
このような開始剤として、これらに限定されないが、
・以下の反応生成物
- 少なくとも1種のルイス酸、例えば、三ハロゲン化アルミニウム、例えば、三塩化アルミニウム、ハロゲン化チタン、例えば、四塩化チタン、ハロゲン化第一スズ、例えば、四塩化第一スズ、ハロゲン化ホウ素、例えば、三フッ化ホウ素及び三塩化ホウ素、ハロゲン化アンチモン、例えば、五塩化アンチモン若しくは五フッ化アンチモン、又は少なくとも1種の有機金属化合物、例えば、ハロゲン化ジアルキルアルミニウム、例えば、塩化ジエチルアルミニウム、二ハロゲン化アルキルアルミニウム、例えば、二塩化エチルアルミニウム又は上述のルイス酸及び/若しくは有機金属化合物の混合物、並びに
- 少なくとも1種のプロトン源、例えば、水、アルコール、例えば、メタノール、エタノール若しくはイソプロパノール等のC1~C12脂肪族アルコール、フェノール類、カルボン酸類、スルホン酸類、チオール類、又は無機酸、例えば、硫化二水素、塩化水素、臭化水素若しくは硫酸
・式(I)のカルボカチオン化合物
[CR1R2R3]+An-(I)
[式中、R1、R2及びR3は、独立して、水素、C1~C20-アルキル又はC5~C20-アリールであり、ただし、R1、R2及びR3のうちの1つが水素であるか、又はR1、R2及びR3のいずれも水素ではないものとし、
An-はモノアニオン又は1/p当量のp価アニオンを表す]
又は
・式(II)のシリリウム化合物
[SiR1R2R3]+An-(II)
[式中、R1、R2及びR3及びAn-は、式(I)に対して上に記載された意味と同じ意味を有する]
又は
・上述の化合物及び反応生成物の混合物
が挙げられる。
【0062】
ルイス酸又は有機金属化合物と、プロトン源との好ましいモル比は、1:0.0001~1:5の範囲、好ましくは1:0.5~1:3の範囲、より好ましくは1:0.5~1:2の範囲である。
【0063】
式(I)及び(II)において、R1、R2及びR3は、好ましくは独立して、フェニル、トリル、キシリル及びビフェニル、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ドデシル、3-メチルペンチル並びに3,5,5-トリメチルヘキシルからなる群から選択される。
【0064】
式(I)及び(II)において、An-は、好ましくは式(III)のアニオンを表す
[M(R4)4]-(III)
[式中、
Mは、+3形式酸化状態にあるホウ素、アルミニウム、ガリウム又はインジウムであり、
R4は、独立して、より好ましくは同一に、水素化物、ジアルキルアミド、ハロゲン化物、例えば、塩化物、C1~C20-アルキル又はC5~C20-アリール、C1~C20-ハロアルキル又はC5~C20-ハロアリールからなる群から選択される]。
【0065】
好ましいカチオン性開始剤は以下である
・以下の反応生成物
- 少なくとも1種のルイス酸、例えば、三ハロゲン化アルミニウム、例えば、三塩化アルミニウム、ハロゲン化チタン、例えば、四塩化チタン、ハロゲン化第一スズ、例えば、四塩化第一スズ、ハロゲン化ホウ素、例えば、三フッ化ホウ素及び三塩化ホウ素、ハロゲン化アンチモン、例えば、五塩化アンチモン若しくは五フッ化アンチモン、又は少なくとも1種の有機金属化合物、例えば、ハロゲン化ジアルキルアルミニウム、例えば、塩化ジエチルアルミニウム、二ハロゲン化アルキルアルミニウム、例えば、二塩化エチルアルミニウム又は上述のルイス酸及び/若しくは有機金属化合物の混合物、並びに
- カチオン性開始剤として、少なくとも1種のプロトン源、例えば、水、アルコール、例えば、C1~C12脂肪族アルコール、例えば、メタノール、エタノール及びイソプロパノール、フェノール類、カルボン酸類、スルホン酸類、チオール類、又は無機酸、例えば、硫化二水素、塩化水素、臭化水素若しくは硫酸。
【0066】
より好ましいカチオン性開始剤は、塩化ジエチルアルミニウム又は二塩化エチルアルミニウム又はこれらの混合物と、少なくとも1種のプロトン源、例えば、水、アルコール、例えば、メタノール、エタノール及びイソプロパノール等のC1~C12脂肪族アルコール、フェノール類、カルボン酸類、チオール類、又は無機酸、例えば、硫化二水素、塩化水素、臭化水素若しくは硫酸との反応生成物であり、使用され、これにより水及び塩化水素が更により好ましく、水が特に好ましい。
【0067】
塩化ジエチルアルミニウム又は二塩化エチルアルミニウム又はこれらの混合物と、このようなプロトン源又は好ましくは塩化水素及び水、より好ましくは水との好ましいモル比は、1:0.01~1:3の範囲、より好ましくは1:0.5~1:2の範囲である。
【0068】
特に好ましいカチオン性開始剤は、エチルアルミニウムセスキクロリドとも呼ばれる塩化ジエチルアルミニウム及び二塩化エチルアルミニウムの混合物、特に1:1モル混合物と、塩化水素又は水、好ましくは水との反応生成物であり、これにより水又は塩化水素のアルミニウムに対する量は50~200モル%の間である。
【0069】
塩化ジエチルアルミニウム及び二塩化エチルアルミニウムを含む重合開始剤は、通常及び好ましくは、ヘキサン中の0.5~10質量%溶液として、工程A)で利用される反応媒体の0.0001~20質量%の量で、より好ましくは0.01~10質量%の量で、更により好ましくは0.05~5質量%の量で利用される。
【0070】
一般的に重合開始剤は、好ましくは、工程A)で利用される反応媒体の0.0001~20質量%の量で、より好ましくは0.01~10質量%の量で、更により好ましくは0.02~5質量%の量で利用される。
【0071】
一実施形態では、工程B)のプロセス温度は、-100℃~-40℃の範囲、好ましくは-95℃~-60℃の範囲、より好ましくは-80℃~-60℃の範囲である。
【0072】
本発明によるハロゲン化反応は、鎖切断を回避するため、又は少なくとも減少させるため抗酸化剤の存在下で更に行ってもよい。
【0073】
適切な抗酸化剤として一般的に、2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノール、2,4,6トリ-イソブチルフェノール、2-tert-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,4-ジブチル-6-エチルフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-n-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-イソ-ブチルフェノール、2,6-ジシクロペンチル-4-メチルフェノール、4-tert-ブチル-2,6-ジメチルフェノール、4-tert-ブチル-2,6-ジシクロペンチルフェノール、4-tert-ブチル-2,6-ジイソプロピルフェノール、4,6-ジ-tert-ブチル-2-メチルフェノール、6-tert-ブチル-2,4-ジメチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-3-メチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-フェニルフェノール及び2,6-ジオクタデシル-4-メチルフェノール、2,2’-エチリデン-ビス[4,6-ジ-tert.-ブチルフェノール]、2,2’-エチリデン-ビス[6-tert.-ブチル-4-イソブチルフェノール]、2,2’-イソブチリデン-ビス[4,6-ジメチル-フェノール]、2,2’-メチレン-ビス[4,6-ジ-tert.-ブチルフェノール]、2,2’-メチレン-ビス[4-メチル-6-(α-メチルシクロヘキシル)フェノール]、2,2’-メチレン-ビス[4-メチル-6-シクロヘキシルフェノール]、2,2’-メチレン-ビス[4-メチル-6-ノニルフェノール]、2,2’-メチレン-ビス[6-(α,α’-ジメチルベンジル)-4-ノニルフェノール]、2,2’-メチレン-ビス[6-(α-メチルベンジル)-4-ノニルフェノール]、2,2’-メチレン-ビス[6-シクロヘキシル-4-メチルフェノール]、2,2’-メチレン-ビス[6-tert.-ブチル-4-エチルフェノール]、2,2’-メチレン-ビス[6-tert.-ブチル-4-メチルフェノール]、4,4’-ブチリデン-ビス[2-tert.-ブチル-5-メチルフェノール]、4,4’-メチレン-ビス[2,6-ジ-tert.-ブチルフェノール]、4,4’-メチレン-ビス[6-tert.-ブチル-2-メチルフェノール],4,4’-イソプロピリデン-ジフェノール、4,4'-デシリデン-ビスフェノール、4,4'-ドデシリデン-ビスフェノール、4,4’-(1-メチルオクチリデン)ビスフェノール、4,4’-シクロヘキシリデン-ビス(2-メチルフェノール)、4,4’-シクロヘキシリデンビスフェノール、及びペンタエリトリトール-テトラキス-[3-(3,5-ジ-tert.-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロパン酸(Irganox(登録商標)1010としても公知)が挙げられる。
【0074】
反応は、特に次亜塩素酸(HOCl)及び/又は一酸化二塩素(Cl2O)を含む水性相を、コポリマー及び有機希釈剤を含む有機相と接触させることにより実行される場合、この目的に適した任意の容器内で実施することができる。業界では、このような反応は、例えば、撹拌タンク、又は静的混合エレメント及び/若しくは能動的混合装置、例えば、撹拌棒を備えたカラムもしく流通型反応器内で実施することができる。
【0075】
反応、すなわちコポリマーの塩素化は、-5℃~80℃の温度、好ましくは0℃~60℃の温度、更により好ましくは5~35℃の温度で作動することができる。
【0076】
反応は非常に速く進行することが観察された。よって、反応時間は1~30分間であってよく、好ましくは3~20分間であってよい。より長い反応時間は可能であるが、メリットはない。
【0077】
塩素化中の気圧は0.5~10バールであってよく、好ましくは0.8~2バールであってよく、大気圧は更により好ましい。
【0078】
この手順の間の塩素化のレベルは、最終塩素化コポリマーが上述の好ましい塩素含有量を有するように制御することができる。
【0079】
本発明の主要な発見は、次亜塩素酸(HOCl)及び/又は一酸化二塩素(Cl2O)が非常に穏やかな条件下で、高速及び効率的にコポリマーと反応し、よってハロゲン化コポリマーを生成することである。
【0080】
次亜塩素酸(HOCl)及び/又は一酸化二塩素(Cl2O)を含む水性相を、コポリマー及び有機希釈剤を含む有機相と接触させることにより反応が実行される場合、反応及び/又は変換の速度は、界面相を増加させ、よって塩素化剤としての次亜塩素酸(HOCl)及び/又は一酸化二塩素(Cl2O)の有機相への移動を増加させるための激しい混合により増強することができる。
【0081】
一実施形態では、機械的入力電力は、反応媒体(すなわち、水性相と有機相)1l当たり0.5W(0.5W/l)以上、好ましくは0.7W/l以上、例えば0.7~50W/l、好ましくは1.0~20W/lである。
【0082】
撹拌棒及びミキサーの機械的入力電力は、例えば、反応媒体中で1回及び大気中で1回、ある特定の回転速度で消費電力を測定し、差異を取ることにより決定することができる。
【0083】
好ましい実施形態では、ハロゲン化反応は、例えば、一般的に公知の流通型反応器を使用して連続的に行う。
【0084】
反応の結果、ハロゲン化コポリマーが得られる。よって、ハロゲン化コポリマーは従来の手段で単離し、ハロゲン化することができる。
【0085】
一実施形態では単離は、水性相のpH値を6.0~11.0に、好ましくは9~10に調整した後で有機相を分離することにより実行される。
【0086】
相分離後、ハロゲン化コポリマーはバッチ方式で、又は業界でより一般的な、分離した有機相を水蒸気ストリッパーへ絶えず移動することにより得られ、水性相は、ハロゲン化コポリマーの粒子(このハロゲン化コポリマーの粒子は、より多くの場合「ハロブチルゴムクラム」と呼ばれている)を形成し、保存するために多価金属イオンの脂肪酸塩であるか、特にステアリン酸カルシウム又はステアリン酸亜鉛又はLCST化合物のいずれかである抗凝集剤を含む。次いで、前記粒子を乾燥させ、梱包し、出荷用に包装する。
【0087】
抗凝集剤は、ハロゲン化コポリマーの粒子が懸濁したまま留まり、凝集傾向の減少を示すことを確実にする。
【0088】
本明細書で使用される場合、LCST化合物という用語は、0~100℃、好ましくは5~100℃、より好ましくは15~80℃、更により好ましくは20~80℃の曇点が、以下の方法のうちの少なくとも1種で決定されうるすべての化合物を網羅する:
1)2006年9月のDIN EN 1890、方法A
2)2006年9月のDIN EN 1890、方法C
3)2006年9月のDIN EN 1890、方法E
4)2006年9月のDIN EN 1890、方法A、試験する化合物の量が、蒸留水100ml当たり1gから、蒸留水100ml当たり0.05gへと減っている。
5)2006年9月のDIN EN 1890、方法A、試験する化合物の量が、蒸留水100ml当たり1gから、蒸留水100ml当たり0.2gへと減っている。
【0089】
より詳細については、その全体が本明細書に組み込まれているWO2015/095961を参照されたい。
【0090】
代わりに、相分離後、ハロゲン化コポリマーは、その全体が本明細書に組み込まれているWO2010/031823又はWO2011/117280に開示されたニーダー又は押出し機を使用して、溶媒を凝固又は蒸発させることにより得られる。
【0091】
新規のハロゲン化経路は、以前にはまったく観察されなかった望ましいミクロ構造を有する塩素化コポリマーを得ることを可能にすることが判明した。次亜塩素酸及び一酸化二塩素は、これまでに観察されたものよりずっと低い程度で環式オリゴマーをこれらのハロゲン化類似体に変換することが更に観察された。
【0092】
したがって本発明のさらなる態様は、
i)少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導される構造単位及び
ii)イソプレンから誘導される構造単位
を少なくとも含む塩素化コポリマーであって、
・コポリマーの塩素含有量が0.1~4質量%、好ましくは0.5~2.5質量%、更により好ましくは1.0~2.2質量%であり、
・イソプレンから誘導される構造単位が、少なくとも部分的に塩素化されて、モル%(エキソ-メチレン+エンド-Cl)/モル%(cis-エンド及びtrans-エンド)の比であるミクロ構造指数Xが、1H-NMRで測定された場合、1.50~3.30、好ましくは2.00~3.00、更により好ましくは2.20~2.80となるように、エキソ-メチレン及びエンド-Cl及びcis-エンド及びtrans-エンド及びミクロ構造単位を形成する、
塩素化コポリマーに関する。
【0093】
また本発明の別の態様は、
i)イソブテンから誘導される構造単位及び
ii)イソプレンから誘導される構造単位
を少なくとも含む塩素化コポリマーであって、
・コポリマーの塩素含有量が、0.1~4質量%、好ましくは0.5~2.5質量%、更により好ましくは1.0~2.2質量%であり、
・コポリマーが、1-(1-クロロメチルエテニル)-2,2,4,4-テトラメチルシクロヘキサン(Cl-C13)及び1,1,5,5-テトラメチル-2-(1-クロロメチルエテニル)-3-(2,2,4-トリメチルペンチル)-シクロヘキサン(Cl-C21)を、合計の量で1000ppm以下、及び/又は0.60以上、好ましくは0.60~50.00、好ましくは0.80~30.0、より好ましくは1.00~10.00、また更により好ましくは1.50~5.00の(Cl-C13)/(Cl-C21)の比で含む、
塩素化コポリマーに関する。
【0094】
他に記述されていない限り、塩素含有量はX線蛍光(XRF)を使用して測定される。
【0095】
1H-NMRによるミクロ構造単位及びミクロ構造指数Xの計算は、例えば、Chia Yeh Chu、Kenneth Norman Watson、及びRastko Vukov (1987)、「Determination of the Structure of Chlorobutyl and Bromobutyl Rubber by NMR Spectroscopy」、Rubber Chemistry and Technology: 1987年9月、60巻、4号、636~646頁において公開された従来の方法を使用して決定することができる。
【0096】
他に記述されていない限り、C13、Cl-C13、C21及びCl-C21の含有量はGC-FIDにより決定される。本明細書中に記述されているすべてのレベルは、Agilent J + W VF 1ms 30×0.25(1.0)カラム(注入275℃、22psi)を備えたAgilent 6890 Series Plusガスクロマトグラフ及びHP 7683 Seriesオートインジェクターを備えたFID温度300℃を使用して測定された。
【0097】
ハロゲン化コポリマーのマルチオレフィンから誘導される構造単位の含有量は通常0.1モル%以上、好ましくは0.1モル%~15モル%であり、別の実施形態では0.5モル%以上、好ましくは0.5モル%~10モル%であり、別の実施形態では0.7モル%以上、好ましくは0.7~8.5モル%であり、特に0.8~1.5又は1.5~2.5モル%又は2.5~4.5モル%又は4.5~8.5モル%であり、特にイソプレンはマルチオレフィンである。本明細書で使用される場合、モル%は、前記構造単位の由来となるモノマーに対する、構造単位のモル量を指す。
【0098】
念のため書き添えると、ハロゲン化がマルチオレフィンから誘導される構造単位を更に修飾したとしても、もともとイソプレンから誘導された非ハロゲン化構造単位もハロゲン化構造単位も「マルチオレフィンから誘導される構造単位の含有量」という用語により包含される。
【0099】
一実施形態では、ハロゲン化コポリマーは、少なくとも1種のマルチオレフィンから誘導される0.1モル%以上の構造単位と、少なくとも1種のイソオレフィンから誘導される99.9モル%以下の構造単位とを含む。
【0100】
好ましくは、ハロゲン化コポリマーは、少なくとも1種のマルチオレフィンから誘導される0.1モル%~15モル%、好ましくは0.5モル%~10モル%、より好ましくは1.0~3.0モル%の構造単位と、少なくとも1種のイソオレフィンから誘導される85~99.9モル%、好ましくは90モル%~99.5モル%、より好ましくは97.0~99.0モル%の構造単位とを含む。
【0101】
一実施形態では、ハロゲン化コポリマーの質量平均分子量Mwは、30,000~2,000,000g/モルの間、好ましくは50,000~1,000,000g/モルの間、より好ましくは300,000~1,000,000g/モルの間、更により好ましくは350,000~600,000g/モル、またより好ましくは375,000~550,000g/モル、最も好ましくは400,000~500,000g/モルである。他に記述されていない限り、分子量は、ポリスチレン分子量標準物質を使用して、テトラヒドロフラン(THF)溶液中でゲル浸透クロマトグラフィーを使用して得られる。
【0102】
一実施形態では、本発明によるハロゲン化コポリマーの多分散性は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより決定される場合、質量平均分子量の数平均分子量に対する比で測定して1.5~4.5の範囲である。
【0103】
ハロゲン化コポリマーは、例えば及び通常、少なくとも10のムーニー粘度(125℃におけるML1+8、ASTM D 1646)、好ましくは10~80のムーニー粘度、より好ましくは20~80のムーニー粘度、更により好ましくは25~60のムーニー粘度(125℃におけるML1+8、ASTM D 1646)を有する。
【0104】
1つの本発明のさらなる態様は、ポリマー製品、例えば、上述の塩素化コポリマーを含むブレンド及び化合物、並びにこのようなポリマー製品、ブレンド及び化合物から作製される硬化物品に関する。これらの独特なミクロ構造により、ハロゲン化ポリマー並びにこれらのブレンド及び化合物は望ましい硬化挙動を示す。
【0105】
本発明によるハロゲン化コポリマーは、互いにブレンドされてもよいし、又は、更に若しくは代わりに、ハロゲン化コポリマーとは異なる少なくとも1種の第2のゴムとブレンドされてもよく、この第2のゴムは、好ましくは天然ゴム(NR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、ポリイソプレンゴム、ポリ(スチレン-co-ブタジエン)ゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ポリブタジエンゴム(BR)、パーフルオロハロゲン化エラストマー(FFKM/FFPM)、エチレン酢酸ビニル(EVA)ゴム、エチレンアクリル酸塩ゴム、ポリスルフィドゴム(TR)、ポリ(イソプレン-co-ブタジエン)ゴム(IBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、エチレン-プロピレンゴム(EPR)、エチレン-プロピレン-ジエンM-クラスゴム(EPDM)、ポリフェニレンスルフィド、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリル-ブタジエンゴム(HNBR)、プロピレンオキシドポリマー、星状枝分れブチルゴム及びハロゲン化星状枝分れブチルゴム、本発明の対象ではない、すなわち、中でも異なるレベルの多価の金属イオン又は純度を有するブチルゴム、星状枝分れポリイソブチレンゴム、星状枝分れ臭素化ブチル(ポリイソブチレン/イソプレンハロゲン化エラストマー)ゴム;ポリ(イソブチレン-co-p-メチルスチレン)及びハロゲン化ポリ(イソブチレン-co-p-メチルスチレン)、ポリ(イソブチレン-co-イソプレン-co-スチレン)、ポリ(イソブチレン-co-イソプレン-co-アルファ-メチルスチレン)、ハロゲン化ポリ(イソブチレン-co-イソプレン-co-a-メチルスチレン)からなる群から選択される。
【0106】
本発明による1種又は複数のハロゲン化コポリマー又は上記に記載されている第2のゴムとのブレンドは、更に又は代わりに、例えば同時に又は別々に、少なくとも1種の熱可塑性ポリマーと更にブレンドしてもよく、この熱可塑性ポリマーは、好ましくはポリウレタン(PU)、ポリアクリルエステル(ACM、PMMA)、熱可塑性ポリエステルウレタン(AU)、熱可塑性ポリエーテルウレタン(EU)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなる群から選択される。
【0107】
本発明による1種又は複数のハロゲン化コポリマー又は上記に記載されている第2のゴム及び/又は熱可塑性ポリマーとのブレンドは、1種又は複数の充填剤と配合してもよい。充填剤は、非無機充填剤、無機充填剤又はこれらの混合物であってよい。一部の実施形態では非無機充填剤が好ましく、例えば、カーボンブラック、ゴムゲル及びこれらの混合物を含む。適切なカーボンブラックは好ましくは、ランプブラック、ファーネスブラック又はガスブラックプロセスにより調製される。カーボンブラックは、好ましくは20~200m2/gのBET比表面積を有する。カーボンブラックのいくつかの具体例はSAF、ISAF、HAF、FEF及びGPFカーボンブラックである。ポリブタジエン、ブタジエン/スチレンハロゲン化エラストマー、ブタジエン/アクリロニトリルハロゲン化エラストマー又はポリクロロプレンをベースとするゲルゴムが好ましい。
【0108】
適切な無機充填剤は、例えば、シリカ、ケイ酸塩、クレイ、ベントナイト、バーミキュライト、ノントロナイト、バイデライト、ボルコンスコアイト、ヘクトライト、サポナイト、ラポナイト、ソーコナイト、マガディアイト、ケニアイト、レディカイト、石こう、アルミナ、タルク、ガラス、金属酸化物(例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム)、金属炭酸塩(例えば、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛)、金属水酸化物(例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム)又はこれらの混合物を含む。
【0109】
無機充填剤としての使用に適した乾燥非晶質シリカ粒子は、1~100ミクロン、又は10~50ミクロン、又は10~25ミクロンの範囲の平均凝集粒径を有することができる。一実施形態では、10体積パーセント未満の凝集物粒子は5ミクロン未満であってよい。一実施形態では、10体積パーセント未満の凝集物粒子はサイズが50ミクロンを超えてもよい。適切な非晶質乾燥シリカは、例えば、1グラム当たり50~450平方メートルの間のBET表面積(DIN(Deutsche Industrie Norm)66131に従い測定される)を有しうる。DIN 53601に従い測定されたDBP吸収性は、シリカ100グラム当たり150~400グラムの間であってよい。DIN ISO 787/11に従い測定される乾燥減量は、0~10質量パーセントであってよい。適切なシリカ充填剤は、PPG Industries社から入手可能なHiSil(商標)210、HiSil(商標)233及びHiSil(商標)243の名称で商業的に販売されている。Bayer AG社から市販のVulkasil(商標)S及びVulkasil(商標)Nもまた適切である。
【0110】
本発明において有用なアスペクト比の高い充填剤として、少なくとも1:3のアスペクト比を有するクレイ、タルク、雲母等を挙げることができる。充填剤は、板状又は針様構造を有する非円形又は非等尺性材料を含みうる。アスペクト比とは、プレート面と同じ面積の円の平均直径の、プレートの平均厚さに対する比と定義される。針状及び繊維状の充填剤に対するアスペクト比は、長さの直径に対する比である。アスペクト比の高い充填剤は少なくとも1:5、又は少なくとも1:7、又は1:7~1:200の範囲のアスペクト比を有しうる。アスペクト比の高い充填剤は、例えば、0.001~100ミクロン、又は0.005~50ミクロン、又は0.01~10ミクロンの範囲の平均粒径を有しうる。適切なアスペクト比の高い充填剤は、1グラム当たり5~200平方メートルの間のBET表面積(DIN(Deutsche Industrie Norm)66131に従い測定)を有しうる。アスペクト比の高い充填剤は、ナノクレイ、例えば、有機修飾ナノクレイを含みうる。ナノクレイの例として、天然の粉末状スメクタイトクレイ(例えばナトリウム又はカルシウムモンモリロナイト)又は合成クレイ(例えば、ハイドロタルサイト又はラポナイト)が挙げられる。一実施形態では、アスペクト比の高い充填剤として、有機修飾モンモリロナイトナノクレイを挙げることができる。当技術分野で公知のように、遷移金属をオニウムイオンで置換することにより、クレイを改質して、一般的に疎水性のポリマー環境内でのクレイの分散を補助する界面活性剤の機能性をクレイにもたらすことができる。一実施形態では、オニウムイオンは、リンベース(例えばホスホニウムイオン)又は窒素ベース(例えばアンモニウムイオン)であり、2~20個の炭素原子を有する官能基を含有する。クレイは、例えば、ナノメートルスケールの粒径、例えば、体積で25μm未満の粒径で提供されうる。粒径は、1~50μm、又は1~30μm、又は2~20μmの範囲であってよい。シリカに加えて、ナノクレイはまたいくらかの割合のアルミナも含有しうる。例えば、ナノクレイは、0.1~10質量%のアルミナ、又は0.5~5質量%のアルミナ、又は1~3質量%のアルミナを含有しうる。アスペクト比の高い無機充填剤として市販の有機修飾ナノクレイの例として、例えば、商標名Cloi
site(登録商標)クレイ10A、20A、6A、15A、30B、又は25Aで販売されているものが挙げられる。
【0111】
本発明による1種又は複数のハロゲン化コポリマー、又は第2のゴム及び/若しくは熱可塑性ポリマー又は上記に記載されている化合物とのブレンドは、以下総合的にポリマー製品と呼ばれ、ゴム業界では公知の他の成分、例えば、硬化剤、反応促進剤、加硫促進剤、加硫加速助剤、抗酸化剤、発泡剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、オゾン安定剤、加工助剤、可塑剤、粘着付与剤、膨張剤、染料、顔料、ワックス、増量剤、有機酸、阻害剤、金属酸化物、及び活性化剤、例えば、トリエタノールアミン、ポリエチレングリコール、ヘキサントリオール等を更に含有してもよい。これらの成分は、中でも、意図した使用に応じて、慣用的な量で使用される。
【0112】
ポリマー製品は、これらの硬化を可能にする硬化系を更に含有してもよい。
【0113】
使用に適した硬化系の選択は、特に限定されておらず、当業者の認識範囲内である。ある特定の実施形態では、硬化系は、硫黄ベース、過酸化物ベース、樹脂ベース又は紫外線(UV)光ベースであってよい。硫黄ベースの硬化系は、(i)任意選択である少なくとも1種の金属酸化物、(ii)元素の硫黄、及び(iii)少なくとも1種の硫黄ベースの促進剤を含みうる。硫黄硬化系における成分としての金属酸化物の使用は当技術分野で周知であり、好ましい。
【0114】
適切な金属酸化物は酸化亜鉛であり、酸化亜鉛は、約1~約10phrの量で使用することができる。別の実施形態では、酸化亜鉛は、約2~約5phrの量で使用することができる。
【0115】
元素の硫黄は通常約0.2~約2phrの量で使用される。
【0116】
適切な硫黄ベースの促進剤は、約0.5~約3phrの量で使用することができる。
【0117】
有用な硫黄ベースの促進剤の非限定的例として、チウラムスルフィド(例えば、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD))、チオカルバミン酸塩(例えば、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDMC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)及びチアジル又はベンゾチアジル化合物(例えば、4-モルホリニル-2-ベンゾチアジルジスルフィド(Morfax)、メルカプトベンゾチアゾール(MBT)及びメルカプトベンゾチアジルジスルフィド(MBTS))が挙げられる。特に注目の硫黄ベースの促進剤はメルカプトベンゾチアジルジスルフィドである。
【0118】
特定の性質、特に本発明によるハロゲン化エラストマーの不飽和のレベルに応じて、過酸化物ベースの硬化系もまた適切となり得る。過酸化物ベースの硬化系は、過酸化物硬化剤、例えば、過酸化ジクミル、過酸化ジ-tert-ブチル、過酸化ベンゾイル、2,2’-ビス(tert.-ブチルペルオキシジイソプロピルベンゼン(Vulcup(登録商標)40KE)、過酸化ベンゾイル、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)-ヘキシン-3、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、(2,5-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-2,5-ジメチルヘキサン等を含みうる。1つのこのような過酸化物硬化剤は過酸化ジクミルを含み、これはDiCup 40Cの名称で市販されている。過酸化物硬化剤は、約0.2~7phr、又は約1~6phr、又は約4phrの量で使用することができる。過酸化物硬化助剤もまた使用することができる。適切な過酸化物硬化助剤として、例えば、DuPont社からDIAK 7の名称で市販のイソシアヌル酸トリアリル(TAIC)、DuPont社又はDow社製のHVA-2として公知のN,N’-m-フェニレンジマレイミド、シアヌル酸トリアリル(TAC)又はRicon D 153(Ricon Resins社により供給)として公知の液体ポリブタジエンが挙げられる。過酸化物硬化助剤は、過酸化物硬化剤の量と等量、又はそれ未満の量で使用することができる。過酸化物硬化物品の状態は、より高いレベルの不飽和を含むブチルポリマー、例えば、少なくとも0.5モル%のマルチオレフィン含有量を含むブチルポリマーで増強される。
【0119】
ポリマー製品は樹脂硬化系により硬化することもでき、必要とされる場合、樹脂硬化を活性化する促進剤で硬化することもできる。
【0120】
適切な樹脂として、これらに限定されないが、フェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、アルキル化フェノール、ハロゲン化アルキルフェノール樹脂及びこれらの混合物が挙げられる。
【0121】
ブチルゴムを硬化するために使用する場合、架橋形成を実行するためハロゲン活性化剤が時々使用される。このような活性化剤として、塩化第一スズ又はハロゲン含有ポリマー、例えば、ポリクロロプレンが挙げられる。樹脂硬化系は更に、金属酸化物、例えば、酸化亜鉛を通常含む。
【0122】
メチロール基のヒドロキシル基の一部が、例えば、臭素で置き換えているハロゲン化樹脂は反応性がより高い。このような樹脂では、追加のハロゲン活性化剤の使用は必要とされない。
【0123】
ハロゲン化フェノールアルデヒド樹脂の例は、Schenectady Chemicals社により調製され、樹脂SP 1055及びSP 1056として特定された樹脂である。SP 1055樹脂は、約9~約12.5%のメチロール含有量及び約4%の臭素含有量を有するのに対して、SP 1056樹脂は、約7.5~約11%のメチロール含有量及び約6%の臭素含有量を有する。市販の形態の非ハロゲン化樹脂は、例えば、約7~約9.5%のメチロール含有量を有するSP-1044及び約8~約11%のメチロール含有量を有するSP-1045が入手可能である。
【0124】
樹脂硬化系の様々な成分の選択及び必要とされる量は当業者に公知であり、ゴム化合物の所望の最終用途によって決まる。不飽和を含むハロゲン化エラストマーの加硫に使用される、特にブチルゴムに対して使用される樹脂硬化は、「Rubber Technology」第3版、Maurice Morton編、1987年、13~14、23頁並びに特許文献に詳細に記載されており、例えば、U.S. 3,287,440及びU.S. 4,059,651を参照されたい。
【0125】
上述の硫黄ベースの硬化系、樹脂硬化系及び過酸化物ベースの硬化系は本発明によるコポリマーと組み合わせて特に有用であるため、本発明はまた、このような硬化硫黄ベースの硬化系、樹脂硬化系及び過酸化物ベースの硬化系並びに上述されているこれらの特定の成分を個々に及び共同で、本発明によるコポリマーを含む硬化化合物に対して使用することを包含する。
【0126】
未硬化又は硬化であるかに関わらず、上記に開示されたポリマー製品が、本発明によるハロゲン化エラストマーのこれらの含有量に関して、多価金属イオンの塩のレベル、特に多価金属イオンのステアリン酸塩及びパルミチン酸塩のレベルを示す範囲内に限り、そのような新規のポリマー製品が存在し、これらもまた本発明により結果的に包含される。
【0127】
本発明は、上記に記載されているポリマー製品を調製するための本発明によるハロゲン化エラストマーの使用及び上述された成分をブレンド又は配合することによる、上記に記載されているポリマー製品の調製のための方法を更に包含する。
【0128】
このような成分は、従来の配合技術を使用して一緒に配合することができる。適切な配合技術は、例えば、内部ミキサー(例えば、バンバリーミキサー)、小型内部ミキサー(例えば、Haake又はBrabenderミキサー)又は2ロールミルミキサーを使用して、例えば成分を一緒に混合することを含む。押出し機もまた良好な混合を提供し、より短い混合時間を可能にする。2段階以上で混合を行うことが可能であり、混合は、異なる装置、例えば、1つの段階では内部ミキサー、1つの段階では押出し機で行うことができる。配合技術についてのさらなる情報については、Encyclopedia of Polymer Science and Engineering、4巻、66頁(配合)を参照されたい。当業者に公知の他の技術も配合に対して更に適している。
【0129】
驚くことに、本発明によるハロゲン化エラストマーは、これらの低いステアリン酸塩濃度により、特に樹脂が実験パートで示されているように硬化された場合、ずっと良い硬化を可能することが判明した。
【0130】
用途
本発明によるポリマー製品は幅広い様々な用途において極めて有用である。低い程度の気体浸透率、架橋として機能しうる不飽和部位、硬化又は重合後の改質部位、並びに添加剤に対するこれらの撹乱度の低さは、これらゴムが最も多く使用されている主な理由である。
【0131】
したがって、本発明はまた、インナーライナー、ブラダー、チューブ、エアクッション、空気バネ、空気ベローズ、アキュムレーターバッグ、ホース、コンベヤーベルト及び医薬品密閉部に対する本発明によるポリマー製品の使用を包含する。本発明は、硬化又は/未硬化であるかに関わらず、本発明によるポリマー製品を含む上述の製品を更に包含する。
【0132】
ポリマー製品は、高いダンピングを更に示し、温度と周波数の両方において比類なく広範なダンピング及び衝撃吸収範囲を有する。
【0133】
したがって、本発明はまた、本発明によるポリマー製品の自動車のサスペンションバンパー、自動排気ハンガー、ボディーマウント及び靴底における使用も包含する。
【0134】
本発明のポリマー製品はタイヤサイドウォール及びトレッド化合物にもまた有用である。サイドウォールにおいて、ポリマーの特徴は、良好なオゾン耐性、ひび割れ成長、及び外見をもたらす。
【0135】
ポリマー製品は、硬化前に所望の物品へと成形することができる。硬化ポリマー製品を含む物品として、例えば、ベルト、ホース、靴底、ガスケット、O-リング、ワイヤー/ケーブル、膜、ローラー、ブラダー(例えば硬化ブラダー)、タイヤのインナーライナー、タイヤトレッド、ショックアブソーバー、機械取り付け部、バルーン、ボール、ゴルフボール、保護服、医療用管類、貯蔵タンクのライニング、電気絶縁、ベアリング、医薬品ストッパー、接着剤、容器、例えば、ビン、トート、貯蔵タンク等;容器密閉部又は蓋;シール又はシーラント、例えば、ガスケット又はコーキング;材料取扱い装置、例えば、オーガー又はコンベヤーベルト;パワーベルト、冷却塔;金属加工装置、又は金属加工流体と接触する任意の装置;エンジン構成部材、例えば、燃料系統、燃料フィルター、燃料貯蔵タンク、ガスケット、シール等;流体濾過又はタンクシーリング用の膜が挙げられる。
【0136】
ポリマー製品が物品又はコーティングにおいて使用されうる追加の例として、これらに限定されないが、以下が挙げられる:電化製品、新生児用製品、浴室設備、浴室安全装置、フロアリング、食品貯蔵庫、庭、台所設備、台所製品、オフィス製品、ペット用製品、シーラント及びグラウト、スパ、水の濾過及び貯蔵、装置、食物調製用の表面及び装置、ショッピングカート、表面塗工、貯蔵容器、履き物、保護衣料、運動具、カート、歯科用器具、ドアノブ、衣類、電話、おもちゃ、病院におけるカテーテル処置流体、容器及びパイプの表面、コーティング、食品加工、生物医学的デバイス、フィルター、添加剤、コンピューター、船体、シャワー壁、生物汚損の問題を最小化するための管類、ペースメーカー、インプラント、外傷用包帯、医療用織物、氷機器、水クーラー、果汁ディスペンサー、ソフトドリンク機器、配管、貯蔵容器、計量システム、弁、フィッティング、付属部品、フィルター収納装置、ライニング、及びバリアコーティング。
【0137】
本発明は、以下、これらに限定されることなく、実施例により更に説明される。
【実施例】
【0138】
材料
特に述べられていない限り、市販の試薬及び溶媒を更に精製せずに使用した。ヘキサンは、VWR International社から購入したfrom。次亜塩素酸ナトリウム溶液はSigma-Aldrich社から購入した(入手可能な11%塩素)。使用された漂白剤は4.25質量%の次亜塩素酸ナトリウムを有する家庭用漂白剤であった。
【0139】
以下のイソプレン-イソブテンゴムを出発材料として使用した:
Regular Butyl Rubber #1(RB#1):3.8モル%のイソプレン含有量、36のムーニー粘度[125℃におけるML1+8、ASTM D 1646]、169kDのMn及び491kDのMwを有する
Regular Butyl Rubber #2(RB#2):1.9モル%のイソプレン含有量、31のムーニー粘度[125℃におけるML1+8、ASTM D 1646]、119kDのMn及び496kDのMwを有する
【0140】
すべての他の材料は公知の文献手順で調製したか、又は以下に詳細に記載されている。
【0141】
方法及び装置類
周辺室温より上で実施した反応は、油浴内で行うか、又はVWR温度制御を備えたVWR vms-c7加熱/撹拌マントルで外部から加熱したアルミニウムブロックで行った。粗反応混合物を1H NMR分光法で分析した。1H、13C NMRスペクトルをBruker Avance II 500MHz分光器上のCDCl3(TMSを基準として使用)に以下の記号を使用して記録した:br-ブロード、s-一重線、d-二重線、t-三重線、q-四重線、m-多重線、dd-二重線の二重線。FTIRスペクトルをBRUKER TENSOR 27赤外線分光器で記録した。ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを、waters 24414示差屈折率検出器を有するAlliance waters 2690/5分離モジュールで実施した。
【0142】
(実施例1a~1d)
様々な量の次亜塩素酸ナトリウムによるRB#1の塩素化
1gの部分の乾燥RB#1を15mlのヘキサンに溶解した。およそ1mgのBHTをRB#1溶液に加えて、鎖切断反応を減少させた。様々な量の次亜塩素酸ナトリウム溶液(Sigma Aldrich社、上記を参照されたい: 1a:0.025ml; 1b:0.05ml; 1c:0.1ml; 1d:0.4ml)を、100ml丸底フラスコ内で10mlの水に溶解した。ヘキサン中にRB#1及びBHTを含むヘキサン溶液を前記次亜塩素酸ナトリウム溶液に加えた。0.4ml部分の酢酸を加え、得られた混合物を暗所で30分間撹拌した。反応混合物を50mlのアセトンに加えた。凝固したゴムを乾燥させ、1HNMR及びゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を使用して分析した。
【0143】
異なる量の次亜塩素酸ナトリウムをRB#1と反応させることにより、異なる塩素化レベルを有する生成物の合成が可能となった。生成物の
1H NMRスペクトルの分析は、クロロブチルゴムの形成を確認した。エキソ-CH
2-含有量と利用した次亜塩素酸ナトリウム溶液の量との対比が
図1に示されている。
【0144】
(実施例2)
次亜塩素酸ナトリウムによるRB#1の塩素化
100gの部分の乾燥RB#1を1000mlのヘキサンに溶解した。およそ100mgのBHTをRB#1溶液に加えて、鎖切断反応を減少させた。100mlの水(10%)を溶液に加え、2分間混合した。次亜塩素酸ナトリウム溶液(Sigma Aldrich社、上記を参照されたい)10mlを加え、これに続いて9.5mlの酢酸を加えた。溶液混合物を撹拌し、光に20分間曝露した。12mlの10質量%のNaOHを反応物に加え、数回水で洗浄した。廃水のpHは約6であった。ゴムを水蒸気凝固させ、乾燥させた。1HNMR及びGPCを使用して、得られた生成物を分析した。
【0145】
(実施例3)
家庭用漂白剤によるRB#1の塩素化
1gの部分の乾燥RB#1を15mlのヘキサンに溶解した。およそ1mgのBHTをRB#1溶液に加えて、鎖切断反応を減少させ、100ml丸底フラスコ内で家庭用漂白剤1.2mlを10mlの水に溶解した。ヘキサン中にRB#1及びBHTを含むヘキサン溶液を漂白剤溶液に加えた。0.4mlの部分の酢酸を加え、暗所で30分間撹拌した。反応混合物を50mlのアセトンに加えた。凝固したゴムを乾燥させ、1HNMR及びGPCを使用して分析した。
【0146】
(実施例4)
次亜塩素酸ナトリウムによる(Sigma Aldrich社、上記を参照されたい)の塩素化
1gの部分の乾燥RB#2を15mlのヘキサンに溶解した。およそ1mgのBHTをRB#2溶液に加えて、鎖切断反応を減少させ、100ml丸底フラスコ内で次亜塩素酸ナトリウム溶液(Sigma-Aldrich社、上記を参照されたい)0.19mlを10mlの水に溶解した。RB#2及びBHTを含むヘキサン溶液を次亜塩素酸ナトリウム溶液に加えた。0.2mlの部分の酢酸を加え、30分間撹拌した。反応混合物を50mlのアセトンに加えた。凝固したゴムを乾燥させ、1HNMR及びGPCを使用して分析した。
【0147】
(実施例5)
次亜塩素酸ナトリウムによる次亜塩素酸ナトリウムの塩素化
250gの部分の乾燥RB#2を2500mlのヘキサンに溶解した。およそ100mgのBHTをRB#2溶液に加えて、鎖切断反応を減少させた。100mlの水(10%)を溶液に加え、2分間混合した。(Sigma-Aldrich社、上記を参照されたい)10mlを加え、これに続いて9.5mlの酢酸を加えた。溶液混合物を撹拌し、光に20分間曝露した。12mlの10質量%NaOHを反応物に加え、数回水で洗浄した。廃水のpHは約6であった。ゴムを水蒸気凝固させ、乾燥させた。1HNMR及びGPCを使用して、得られた生成物を分析した。
【0148】
結果
本発明によるハロゲン化プロセスを介した塩素化ゴムの1H NMRスペクトルの分析を実施した。すべての実施例2~5の塩素化ブチルゴムは高収率で得られたことを示すことができた。