(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】推定装置および推定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/367 20190101AFI20230403BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20230403BHJP
G01R 31/388 20190101ALI20230403BHJP
G01R 31/3828 20190101ALI20230403BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230403BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
G01R31/367
G01R31/389
G01R31/388
G01R31/3828
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2022172918
(22)【出願日】2022-10-28
【審査請求日】2022-12-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004765
【氏名又は名称】マレリ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】慶應義塾
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】長村 謙介
(72)【発明者】
【氏名】川口 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】足立 修一
(72)【発明者】
【氏名】丸田 一郎
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-112551(JP,A)
【文献】川口貴弘;大山隆景;丸田一郎;長村謙介;片芝惇平;足立修一,「μ-マルコフモデルを用いた二次電池の実効抵抗の逐次推定」,自動車技術会論文集,2021年11月25日,vol. 52, No. 6,pp. 1323-1328,DOI: https://doi.org/10.11351/jsaeronbun.52.1323
【文献】大山隆景;足立修一;丸田一郎;片芝惇平;長村謙介,「ベクトル型忘却要素を用いた時変インピーダンスの逐次推定」,第63回自動制御連合講演会講演論文集,2020年12月14日,pp. 351-354,DOI: https://doi.org/10.11511/jacc.63.0_351
【文献】佐々木理沙子;川口貴弘;丸田一郎;足立修一;片芝惇平;長村謙介,「μ-マルコフモデルを用いた自動車用二次電池の内部インピーダンスの推定」,計測自動制御学会論文集,2020年02月15日,Vol. 56, No. 2,pp. 67-69,DOI: https://doi.org/10.9746/sicetr.56.67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリの所定時間における過電圧変化を示す実効抵抗を推定する推定装置であって
前記バッテリを流れる電流と、前記バッテリの端子電圧の測定値に基づいて、前記バッテリの過電圧を算出する過電圧算出部と、
前記電流と前記過電圧の時系列データに基づいて、FIRモデルを含むモデルを構成する多項式の各項の係数を推定することで、前記バッテリのシステムを同定するシステム同定部と、
前記バッテリのシステムに基づいて、前記実効抵抗を算出する実効抵抗算出部と、を備え、
前記システム同定部は、前記FIRモデルを構成する多項式を複数の時間区分で分割し、各時間区分に含まれる項に対して共通の係数を推定することで、前記FIRモデルの多項式の項数よりも少ない数の係数を推定する、推定装置。
【請求項2】
前記電流と前記過電圧の時系列データに対して、白色化フィルタによりフィルタリング処理を行い、前記電流が白色信号である前記時系列データを前記システム同定部に出力するフィルタリング部を備える、請求項1記載の推定装置。
【請求項3】
前記実効抵抗算出部は、前記時系列データの入力開始時刻から前記所定時間経過後の最後の時刻までの、各時間区分で推定された前記係数に、各時間区分の項数を掛けた数値を積算することで前記実効抵抗を算出し、
前記システム同定部において、前記時間区分のいずれかの境界と前記最後の時刻が一致するように、前記時間区分の長さが設定される、請求項1記載の推定装置。
【請求項4】
前記システム同定部において、前記時系列データにおける入力開始時刻に近い時間区分ほど長さが短くなるように、各時間区分の長さが設定される、請求項1記載の推定装置。
【請求項5】
前記システム同定部は、前記各時間区分に含まれる項に対して、前記共通の係数として定数を推定する、請求項1記載の推定装置。
【請求項6】
前記システム同定部は、前記FIRモデルを含むモデルとして、前記FIRモデルにARXモデルを組み合わせたμマルコフモデルを適用し、前記時系列データの入力開始時刻から前記所定時間経過後の最後の時刻までの前記時系列データを前記FIRモデルに適用する、請求項1記載の推定装置。
【請求項7】
バッテリの所定時間における過電圧変化を示す実効抵抗を推定する推定方法であって、
前記バッテリを流れる電流と、前記バッテリの端子電圧の測定値に基づいて、前記バッテリの過電圧を算出する過電圧算出ステップと、
前記電流と前記過電圧の時系列データに基づいて、FIRモデルを含むモデルを構成する多項式の各項の係数を推定することで、前記バッテリのシステムを同定するシステム同定ステップと、
前記バッテリのシステムに基づいて、前記実効抵抗を算出する実効抵抗算出ステップと、を備え、
前記システム同定ステップでは、前記FIRモデルを構成する多項式を複数の時間区分で分割し、各時間区分に含まれる項に対して共通の係数を推定することで、前記FIRモデルの多項式の項数よりも少ない数の係数を推定する、推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置および推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリは、例えば、モータ等の車両の駆動源に電力を供給するため用いられる。
バッテリの充電制御や車両の運転制御に際して、バッテリのSOP(State of Power)を推定することが求められる。SOPは、バッテリが所定時間に充電または放電可能電力を意味するものである。SOPは、例えば、バッテリの実効抵抗から推定することができる。
バッテリの実効抵抗は、バッテリの内部インピーダンスの特性を表現する特徴量である。実効抵抗を推定する方法として、FIR(Finite Impulse Response)モデルや、FIRモデルとARX(Auto-Regressive eXogeneous)モデルを組み合わせたμマルコフモデルにより、バッテリのシステムを同定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実効抵抗は、SOPの推定の他にも様々な処理に用いることができ、より長い時間の実効抵抗を推定するニーズがある。実効抵抗を求める時間が長くなると、FIRモデルにおいて推定するパラメータの数が増加し、演算負荷の増大に繋がる。実効抵抗を推定する際に、推定するパラメータの数を削減することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様は、バッテリの所定時間における過電圧変化を示す実効抵抗を推定する推定装置であって、
前記バッテリを流れる電流と、前記バッテリの端子電圧の測定値に基づいて、前記バッテリの過電圧を算出する過電圧算出部と、
前記電流と前記過電圧の時系列データに基づいて、FIRモデルを含むモデルを構成する多項式の各項の係数を推定することで、前記バッテリのシステムを同定するシステム同定部と、
前記バッテリのシステムに基づいて、前記実効抵抗を算出する実効抵抗算出部と、を備え、
前記システム同定部は、前記FIRモデルを構成する多項式を複数の時間区分で分割し、各時間区分に含まれる項に対して共通の係数を推定することで、前記FIRモデルの多項式の項数よりも少ない数の係数を推定する。
【0006】
また、本発明の一態様は、バッテリの所定時間における過電圧変化を示す実効抵抗を推定する推定方法であって
前記バッテリを流れる電流と、前記バッテリの端子電圧の測定値に基づいて、前記バッテリの過電圧を算出する過電圧算出ステップと、
前記電流と前記過電圧の時系列データに基づいて、FIRモデルを含むモデルを構成する多項式の各項の係数を推定することで、前記バッテリのシステムを同定するシステム同定ステップと、
前記バッテリのシステムに基づいて、前記実効抵抗を算出する実効抵抗算出ステップと、を備え、
前記システム同定ステップでは、前記FIRモデルを構成する多項式を複数の時間区分で分割し、各時間区分に含まれる項に対して共通の係数を推定することで、前記FIRモデルの多項式の項数よりも少ない数の係数を推定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、推定するパラメータの数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】過電圧算出部の構成を示すブロック図である。
【
図5】バッテリシステムを表現する等価回路を示す図である。
【
図6】本実施形態のPCFIRモデルと、従来のFIRモデルの概念図である。
【
図7】PCFIRモデルにおける時間区分を説明する図である。
【
図8】本実施形態における推定装置の処理を示すフローチャートである。
【
図9】数値シミュレーションに用いた回路構成を示す図である。
【
図10】(a)は数値シミュレーションにおける入力データを示す図であり、(b)は出力データを示す図である。
【
図11】本実施形態のPCFIRモデルと従来のFIRモデルによる実効抵抗の推定結果を示すグラフである。(a)は、各モデルにおけるインパルス応答である電圧を示す図であり、各モデルで推定されるパラメータに対応するものである。(b)は、各モデルにおけるステップ応答である実効抵抗を示す図である。
【
図12】各時間区分の長さを一定とした場合の推定結果であり、(a)は、インパルス応答を示し、(b)はステップ応答である実効抵抗を示している。
【
図13】各時間区分の長さを段階的に長くした場合の推定結果である。(a)は、インパルス応答を示し、(b)はステップ応答である実効抵抗を示している。
【
図14】変形例1に係る区分線形FIRモデルと、従来のFIRモデルの概念図である。
【
図15】変形例2に係る推定部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態に係る推定装置を、図面を参照して説明する。
図1は、実施形態に係る推定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、推定装置1は、電気自動車またはハイブリッド電気自動車等の車両に設けられたバッテリ50の実効抵抗を推定するものである。バッテリ50には、電圧センサ60および電流センサ70が接続されている。バッテリ50は、充電可能な二次電池であり、例えばリチウムイオンバッテリを用いることができるが、他の種類のバッテリであっても良い。バッテリ50は、車両に設けられている。バッテリ50は放電することにより、車両を駆動する電気モータへ電力を供給する。また、車両の制動時には、電気モータからの回生エネルギーにより充電される。バッテリ50はまた、急速充電器や家庭用コンセント等の外部の充電設備によっても充電される。
【0010】
電圧センサ60はバッテリ50の端子電圧(terminal voltage)を測定する。電流センサ70はバッテリ50を流れる電流を測定する。電圧センサ60および電流センサ70は、例えば、車両のイグニッションONからイグニッションOFFまでの間、所定のサンプリング周期で端子電圧および電流の測定を行う。推定装置1は、電圧センサ60および電流センサ70に有線または無線により接続され、それぞれが測定した端子電圧および電流の測定値が、順次入力される。
【0011】
推定装置1は、バッテリ50の端子電圧と電流の測定値を用いて、バッテリ50の実効抵抗(effective resistance)を推定する。
実効抵抗は、二次電池であるバッテリ50の内部インピーダンスの特性を表現する特徴量であり、直流抵抗や通電抵抗とも呼ばれる。
図2は、実効抵抗を説明する図である。
図2に示すように、実効抵抗は、具体的には、大きさ1Aのステップ信号の入力に対する過電圧変化を意味するものである。以降の説明では、所定時間(x秒)経過後の実効抵抗を、x秒実効抵抗という。推定装置1は、ユーザによって指定されるx秒実効抵抗を推定する。
実効抵抗は、例えば、バッテリ50のSOP(State of Power)の推定に用いることができる。SOPは充電可能電力と放電可能電力の総称であるが、以下の説明において、SOPは、端子電圧の下限が与えられたときの放電可能電力を意味するものとして用いる。すなわち、x秒実効抵抗から、バッテリ50がx秒間継続して放電可能なパワーを推定することができる。
【0012】
バッテリ50のSOPは、バッテリ50の充放電制御や車両の運転制御に利用することができる。
例えば、ハイブリッド車両において、エンジン走行中に必要に応じてモータを駆動してエンジンをアシストすることがある。この場合、バッテリ50は、モータがエンジンをアシストする時間(例えば10秒)分、モータを駆動するための電流を継続して放電する必要がある。
また、例えば、バッテリ50は、エンジンがアイドリングストップから再始動する際に、クランキングを行うための時間(例えば、0.1秒)分、モータを駆動するための電流を継続して放電する必要がある。
すなわち、10秒実効抵抗や0.1秒実効抵抗等のx秒実効抵抗から推定されたSOPを用いることで、車両がモータアシスト走行やクランキングを行うことができるかを判定することができる。
【0013】
推定装置1は、例えば、車両に設けられたECU(Electronic Control Unit)から構成することができる。
ECUは、図示は省略するが、CPU等のプロセッサと、ROMおよびRAM等のメモリから構成される。メモリには、推定装置1で実行される各種プログラムが格納されており、プロセッサがプログラムを実行することで、
図1に示す機能構成が実現される。メモリには、また、推定装置1が行う処理に必要なデータが格納され、さらに推定装置1の処理結果が一時的に記憶される。
詳細な説明は省略するが、ECUは、実効抵抗の推定処理に加えて、例えば、実効抵抗を用いたSOPの推定処理や、SOPに基づいたバッテリ50の充放電制御および車両の運転制御を行っても良い。あるいは、ECUは推定した実効抵抗を外部に出力し、外部の制御装置において実効抵抗を用いた処理を行っても良い。
あるいは、推定装置1は、車両の外部に設けられたコンピューターとしても良い。この場合、車両外部の推定装置1は、例えば、車両に設けられたECUと通信を行って電圧センサ60および電流センサ70の測定値を取得しても良い。
【0014】
図1に示すように、推定装置1は、過電圧算出部20および推定部30を備える。
過電圧算出部20は、電圧センサ60および電流センサ70によって所定周期でサンプリングされた、バッテリ50の端子電圧v(k)および電流i(k)を取得し、過電圧η(k)を算出する。
推定部30は、バッテリ50の電流i(k)を、後記するPCFIR(Piecewise Constant FIR)モデルにおける入力u(k)とし、過電圧η(k)を出力y(k)として、バッテリ50のシステムを同定することで、実効抵抗R(K)を推定する。
【0015】
図3は、過電圧算出部20の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、過電圧算出部20は、SOC算出部21、SOC-OCV変換部22および演算器23を備える。
SOC算出部21は、端子電圧v(k)および電流i(k)を用いて、バッテリ50の充電率であるSOC(State of Charge)x
c(k)を算出する。SOC算出部21は、電流積算法またはカルマンフィルタ等の既知の手法により、SOCx
c(k)を算出することができる。
SOC-OCV変換部22は、既知のSOC-OCV特性f
ocv(・)に基づいて、SOC算出部21が算出したSOCx
c(k)を、開回路電圧(Open Circuit Voltage: OCV)v
oc(k)に変換する。開回路電圧v
oc(k)は、バッテリ50に電流が流れていない際の電圧を意味する。
演算器23は、バッテリ50の端子電圧v(k)と、開回路電圧v
oc(k)の差を演算し、バッテリ50の過電圧η(k)として推定部30に出力する。
【0016】
図4は、推定部30の構成を示すブロック図である。
図4に示すように、推定部30は、フィルタリング部31、特徴ベクトル算出部32、パラメータ推定部33および実効抵抗算出部34を備える。
前記したように、推定部30は、バッテリ50の電流i(k)を、PCFIRモデルにおける入力u(k)として、過電圧η(k)を出力y(k)として扱う。
フィルタリング部31は、入力である電流u(k)と、出力である過電圧y(k)に対して、白色化フィルタを用いたフィルタリング処理を行い、フィルタリングされた電流u
f(k)と過電圧y
f(k)を特徴ベクトル算出部32に出力する。白色化フィルタは、例えば、予め設定され推定装置1のメモリに格納されたものを用いることができる。
【0017】
特徴ベクトル算出部32は、フィルタリングされた電流uf(k)を入力u(k)とし、過電圧yf(k)を出力y(k)として、PCFIRモデルを構成する回帰ベクトルφを算出する。
パラメータ推定部33は、回帰ベクトルφを用いて、PCFIRモデルを構成するパラメータベクトルθを推定する。
すなわち、特徴ベクトル算出部32は、明らかになっている入力u(k)および出力y(k)から、PCFIRモデルの特徴ベクトルである回帰ベクトルφを算出する。パラメータ推定部33は、算出された回帰ベクトルφから、PCFIRモデルのパラメータ(係数)を推定する。これによって、バッテリ50のシステムが同定される。すなわち、特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33は、システム同定部として機能する。
実効抵抗算出部34は、同定されたバッテリシステムを用いて、バッテリ50の実効抵抗R(K)を算出する。
推定部30は、実効抵抗算出部34が算出した実効抵抗を外部に出力しても良く、あるいは、ECUのメモリに格納して、バッテリの充放電制御等の他の制御に用いても良い。
【0018】
[バッテリシステム]
図5は、バッテリシステムを表現する等価回路を示す図である。
図5において,i(k)はバッテリ50に流れる電流であり、放電方向を正とする。また、v(k)は、端子電圧であり、v
oc(k)は、開回路電圧である。ここで、kは離散時刻を表し、たとえばi(k)は、時刻kT
sにおける電流iの値を意味する。ただし、Tsはサンプリング周期である。
図5に示すように、バッテリシステムは、起電力と内部インピーダンスからなる等価回路として表現することができる。起電力における電圧が開回路電圧v
oc(k)であり、内部インピーダンスにおける電圧が過電圧η(k)である。
図5のグラフに示すように、開回路電圧は、バッテリ50の充電率を示すSOC(State of Charge)に対して、いわゆるSOC-OCV特性と呼ばれる対応関係を有する。
【0019】
一般に、バッテリ50の放電時には端子電圧は開回路電圧よりも低くなり、充電時には端子電圧は開回路電圧よりも高くなる。これは電池の内部インピーダンスの存在によるものであり、このような端子電圧と開回路電圧の差が、過電圧(overpotential)と呼ばれる。
すなわち、過電圧η(k)は、以下の式(1)で表される。
【数1】
ただし、v(k)、v
oc(k)、η(k)の方向は、
図5に示したとおりである。
式(1)において、電流i(k)と開回路電圧v
oc(k)は、電池のSOCを介して対応づけられることが知られている。SOCは、例えば、電流積算法により求めることができる。電池のSOCをx
c(k)とすると、SOCx
c(k)は、電流i(k)を用いて以下の式(2)により求められる。
【数2】
ただし、FCCは満充電容量である。また、電流i(k)はサンプル点間で0次ホールドされているものとした。SOCは、他にも、カルマンフィルタ等を用いて推定可能である。
開回路電圧v
oc(k)は、SOCx
c(k)に依存して、以下の式(3)により表される。
【数3】
ここで、f
ocv(・)は、
図5のグラフに示す、SOC-OCV特性と呼ばれる非線形関数である。
【0020】
電流i(k)と過電圧η(k)の関係、すなわち内部インピーダンスの特性を記述することを考える。内部インピーダンスのモデルは、大きく静的モデルと動的モデルに分けられる。静的モデルでは、電流i(k)と過電圧η(k)の関係は以下の式(4)により表される。
【数4】
ただし、Rは内部抵抗の値である。
一方、動的モデルでは電流i(k)と過電圧η(k)の関係は、伝達関数G(q)を用いて以下の式(5)により記述される。
【数5】
ただし、qは、qx(k)=x(k+1)を満たすシフトオペレータである。
【0021】
[放電可能電力と実効抵抗]
前記したように、バッテリ50の充放電制御や車両の運転制御において、SOP(放電可能電力)を推定することが求められている。
図5に示したバッテリシステムの内部インピーダンスが、式(4)の静的モデルで表される場合、端子電圧を下限値v
minに保つと、バッテリ50を流れる電流は、i(k)=(v
oc(k)-v
min)/Rとなる。したがって、バッテリ50から外部回路に供給される電力は、以下の式(6)で表される。
【数6】
放電可能電力は、区間k∈[0,K]の間で継続して取り出せる電力、すなわち,k∈[0,K]におけるp(k)の最小値である。区間k∈[0,K]は、推定が要求される時間(x秒)に応じてあらかじめ決定される。放電可能電力p
disは、以下の式(7)で表される。
【数7】
【0022】
前記した式(5)の動的モデルを用いた場合にも、式(6)と同様の式を用いて放電可能電力を評価できると便利である。そのために、バッテリ50の実効抵抗R(k)を、以下の式(8)の通り定義する。
【数8】
ただし、η
dis(k)は大きさi
dis>0の一定電流を時刻0からkまで流したときの過電圧である。この実効抵抗を用いると、以下の式(9)に示すように、近似することができる。
【数9】
式(9)において、実効抵抗R(k)は本来、電流i(k)に依存して決まる量であるが、電流i(k)が一定値であるときの式(8)で代用していることに注意が必要である。したがって、この近似は、Kが十分に短い等、電流i(k)が一定とみなせる場合に妥当なものとなる。このとき、放電可能電力は、以下の式(10)に示す通りとなる。
【数10】
式(5)の動的モデルに対応する実効抵抗R(k)を求めることを考える。システムの線形性に注意すると,大きさi
disの一定値電流を流すとき、以下の式(11)となる。
【数11】
ただし、u
step(k)はk<0で0、k≧0で1の値を取る単位ステップ信号である。式(11)を式(8)と比較することにより、以下の式(12)が得られる。
【数12】
【0023】
多くのバッテリ50において、式(12)の実効抵抗は、時刻kに対して単調増加である。区間k∈[0,K]においてv
oc(k)が一定値であるとみなせるとき、式(10)の放電可能電力は、以下の式(13)となる。
【数13】
このことから、区間k∈[0,K]の最後の時刻Kにおける実効抵抗R(K)、すなわちx秒実効抵抗を求めることが、放電可能電力の推定に重要であることがわかる。なお、以下の説明では、実効抵抗をR
K:=R(K)とも表記する。
【0024】
前記したように、バッテリ50のSOCxc(k)は電流i(k)と端子電圧v(k)から推定可能である。また、SOC-OCV特性focv(・)が既知であるとすると、開回路電圧voc(k)を計算することができ、その結果、過電圧η(k)の値を算出することができる。このとき、実効抵抗R(K)の推定は、以下の問題として考えられる。
・問題:各時刻kにおいて入出力データu(k)=電流i(k)と、y(k)=過電圧η(k)が与えられている。この場合に、本実施形態では、与えられたKに対する実効抵抗RKを推定せよ。
【0025】
[推定方法の従来例]
本実施形態における実効抵抗の推定方法を説明する前に、理解を深めるために、従来の実効抵抗R
Kの推定方法を説明する。
以下では、システム同定分野での慣例に従い、入力をu(k)、出力をy(k)と記述する。すなわち、u(k)=電流i(k)であり、y(k)=過電圧η(k)である。
式(5)に示す内部インピーダンスG(q)のインパルス応答をg(k)とすると、実効抵抗R
Kは以下の式(14)で表される。
【数14】
すなわち、実効抵抗R
Kは、内部インピーダンスG(q)のインパルス応答g(k)を計算して、そのK番目までの和を算出することで求めることができる。すなわち、x秒実効抵抗は、入力開始時刻からx秒が経過した最後の時刻Kまでの各時刻における入力に対するインパルス応答の和として表される。
このことから、内部インピーダンスG(q)の表現として、インパルス応答を正確かつ効率よく表現できるモデルを用いることが望ましい。この観点から、内部インピーダンスG(q)を表す数学モデルの有力な候補のひとつとして、インパルス応答を直接パラメータ化する有限インパルス応答(Finite Impulse Response)モデルがある。有限インパルス応答モデルは、以降「FIRモデル」と表記する。FIRモデルは、以下の式(15)に表される。
【数15】
ただし、b
0,・・・,b
nはインパルス応答であり、w(k)は式誤差である。また、nはFIRモデルの次数であり、インパルス応答が0に収束する時間に応じて選ばれる。式(15)の右辺の、誤差w(k)を除く各項が、電流u(k)のサンプリング周期(例えば0.1秒)に対応している。
FIRモデルにおいて、パラメータであるb
0,・・・,b
nが推定できると、実効抵抗R
KはK≦nに対して、以下の式(16)により計算することができる。
【数16】
次数nを十分に大きく取ることによって、FIRモデルは任意の安定な線形システムを記述することができる。一方で、実効抵抗R
Kの計算には、b
0,b
1,・・・,b
Kのみが用いられるため、式(15)において推定されたb
K+1,・・・,b
nは、実効抵抗R
Kの計算には利用されない。前記したように、x秒実効抵抗として、例えば0.1秒実効抵抗や10秒実効抵抗の推定が求められることが多い。すなわち、実効抵抗R
Kを推定するとき、最後の時刻Kがインパルス応答が0に収束する時間に応じて選ばれる次数nに比べて、非常に小さいことが多い。すなわち、FIRモデルを用いて実効抵抗を推定した場合、多くの冗長なパラメータを推定することになる。このことから、推定すべきパラメータを削減したモデルが求められる。
【0026】
そこで、実効抵抗R
Kの推定にμマルコフモデルを用いることが提案されている。μマルコフモデルは、FIRモデルにARXモデルを組み合わせたものである。μマルコフモデルは、以下の式(17)で表される。
【数17】
ただし、b
l,(l=0,1,・・・,K)は、離散時刻Kまでのインパルス応答である。α
l,β
l,(l=1,2,・・・,p)は、システムの特性に依存して決まるパラメータである。pはパラメトリックモデル部分の次数である。w(k)は式誤差である。
式(17)の右辺第1項がFIRモデルを表し、右辺第2項および右辺第3項が、ARXモデルを表している。
このμマルコフモデルは、FIRモデルのうち、実効抵抗R
Kの計算に不要なk>Kの項を有理伝達関数で置き換えたものと解釈することができる。すなわち、μマルコフモデルは、FIRモデルにおける実効抵抗の推定に不要なパラメータの数を削減することができる。
【0027】
ここで、次数pを真のシステムの次数と等しく選ぶと、式(17)が真のシステムと等価になるパラメータの組が存在する。一方、次数pが真の次数と異なる場合は、このようなパラメータの組は存在しない。しかしながら、インパルス応答の推定値blに関しては、pの選び方に依らず有効推定値を与えることが示されており、これがμマルコフモデルの優れた性質である。
【0028】
式(17)において、パラメータベクトルθを、以下の式(18)とする。
【数18】
また、回帰ベクトルφ(k)を、以下の式(19)とする。
【数19】
この場合、式(17)は、以下の式(20)の線形回帰モデルで記述することができる。
【数20】
このとき、最小二乗法によるパラメータ推定値θhatは、以下の式(21)と計算される。なお、数式中では、パラメータ推定値θhatは、符号θの上に「^」を付けて示している。
【数21】
ただし、Nは推定に用いる入出力データ数である。
【0029】
前記した式(20)のμマルコフモデルに基づく線形回帰モデルを逐次推定する方法を説明する。
線形回帰モデルに対する最小二乗法は、以下の式(22)、式(23)、式(24)に示すように逐次化できることが知られている。これを逐次最小二乗法という。
【数22】
ただし、P(k)は、以下の式(25)に表される共分散行列である。
【数23】
このアルゴリズムは、θ(0)=0、P
-1(0)=0のときに、式(21)の最小二乗法に一致する。実用上は、θhat(0)を適当な初期値θhat
0とし、共分散行列の初期値P(0)は適当な正定数γを用いてγIと置くことが多い。
【0030】
式(22)~式(24)の逐次最小二乗法では、時刻k以前のデータに対してすべて同じ重みをつけてパラメータを推定する。しかし、実際の内部インピーダンスは電池のSOCや温度によって時々刻々と動特性が変化する時変システムである。このため、過去になるほど小さな重みをつけて推定を行うことが適切である。このような考え方に基づいた推定法として忘却要素付き逐次最小二乗法が知られている。忘却要素付き逐次最小二乗法における評価関数は、以下の式(26)で与えられる。
【数24】
ただし、0<λ≦1は忘却要素であり、ユーザによって調整されるパラメータである。これに対応する推定法は、以下の式(27)~式(29)となる。
【数25】
ただし、P(k)は以下の式(30)に表される。
【数26】
これは、逐次最小二乗法における共分散行列に対応する量である。明らかに,λ=1のとき、このアルゴリズムは逐次最小二乗法に一致する。忘却要素λの値を小さくすると,パラメータ変動に対する追従性が向上する。その一方で、実効的に利用できるデータが少なくなり、雑音に対する感度が上がってしまうため、推定値の変動が大きくなる欠点もある。したがって、適切な大きさのλを設定することが、逐次推定において重要である。
【0031】
このように、μマルコフモデルは、FIRモデルにおけるk>Kの項に関するパラメータ数を削減するものである。しかしながら、x秒実効抵抗として、推定が求められる時間が長くなる場合、Kが大きな値を取ることになる。このような場合、FIRモデルのk<Kの項で推定するパラメータbl,(l=0,1,・・・,K)の数が多くなる。このような場合は、μマルコフモデルを用いても、十分にパラメータ数を削減できるとは言えない。
長い時間の実効抵抗の推定が要求される場合でもパラメータ数を削減できるように、k<Kの項に対するパラメータ数を削減することが求められている。
【0032】
[本実施形態のモデル構造]
本実施形態では、FIRモデルを修正したモデルを提案する。本実施形態で用いるモデルは、従来のFIRモデルと区別して、区分定数FIR(Piecewise Constant FIR)モデルという。区分定数FIRモデルを、以降、「PCFIRモデル」という。
PCFIRモデルは、FIRモデルを構成する項を複数の時間区分で分割し、各時間区分において共通のパラメータを用いるものである。本実施形態では、共通のパラメータの一例として定数を用いているため、区分定数FIRモデルと称しているが、各時間区分におけるパラメータは共通の関数であれば良く、定数に限定されるものではない。共通の関数として、他にも、1次関数、2次関数、指数関数等を用いることができる。
【0033】
図6は、本実施形態のPCFIRモデルと従来のFIRモデルを示す概念図である。
図6では、それぞれのモデルで推定されるインパルス応答、すなわちパラメータを示したものである。実線が本実施形態のPCFIRモデルを示し、破線が従来のFIRモデルを示す。
図6に示すように、従来のFIRモデルでは、項ごとに個別のパラメータが推定されるため、インパルス応答は滑らかに下降する曲線を形成する。一方、PCFIRモデルでは、各時間区分に含まれる項のパラメータを定数としているため、インパルス応答は階段状に下降する直線を形成する。
図6からわかるように、PCFIRモデルは、従来のFIRモデルと比較して、推定するパラメータ数が削減されている。
【0034】
PCFIRモデルは、FIRモデルの式(15)を修正した、以下の式(31)により表される。
【数27】
ただし、b
1,b
2,・・・,b
mはインパルス応答であり、本実施形態で推定されるパラメータである。mはパラメータ数であり、すなわち、項を分割する時間区分の数を意味する。n
1,n
2,・・・,n
mは、共通のパラメータとする項の数であり、すなわち、各時間区分に含まれる項の数を意味し、言い換えると各時間区分の長さを示すものである。パラメータ数mと、項数n
1,n
2,・・・,n
mは、それぞれユーザによって指定され、PCFIRモデルの区分情報として、推定装置1のメモリに記憶される。
【0035】
図7は、PCFIRモデルにおける時間区分を説明する図である。
図7に示すように、PCFIRモデルにおいては、多項式に含まれる項が、複数の時間区分D
1,D
2・・・D
mに分割されている。
最初の時間区分D
1においては、n
1の数の項が含まれ、定数b
1が各項のパラメータとして用いられている。次の時間区分D
2においては、n
2の数の項が含まれ、定数b
2が各項のパラメータとして用いられている。最後の時間区分D
mにおいては、n
mの数の項が含まれ、定数b
mが各項のパラメータとして用いられている。
【0036】
式(31)において,m=nとし、n
1=n
2=・・・=n
m=1とすると、1つの項に1つのパラメータが推定されることになり、FIRモデルと一致するものとなる。したがって、推定パラメータ数の削減という観点から、PCFIRモデルにおいては、m<nとし、n
1,n
2,・・・,n
mは、少なくとも一つを2以上の数とすると良い。すなわち、推定されるパラメータの数mが、PCFIRモデルを構成する多項式の項数nよりも少なくなることが望ましい。これによって、PCFIRモデルを用いた場合に、従来のFIRモデルと比較して、推定するパラメータの数を減らすことができる。
n
1,n
2,・・・,n
mは、例えば、全て同じ数に設定しても良い。この場合、各時間区分に含まれる項の数が一定となる。すなわち、
図6に示すように、各時間区分が同じ長さとなる。
また、例えば、n
1,n
2,・・・,n
mの少なくとも一つを他と異なる数に設定しても良い。を含むようにしても良い。一例として、n
1<n
2<・・・<n
mと、段階的に各時間区分に含まれる項数が大きくなるように設定しても良い。
また、いずれかの時間区分の境界に、推定が求められるx秒実効抵抗の最後の時刻Kが一致するように、mおよびn
1,n
2,・・・,n
mを設定すると良い。
【0037】
さらに、本実施形態のPCFIRモデルは、前記したμマルコフモデルに適用しても良い。すなわち、PCFIRモデルを適用することで、μマルコフモデルの式(17)は、以下の式(32)に修正することができる。
【数28】
式(17)の従来のμマルコフモデルでは、FIRモデルで推定されるパラメータb
l,(l=0,1,・・・,K)の数は、実効抵抗を求める通電時間Kに依存していたが、PCFIRモデルを適用した式(32)においては、パラメータ数mはユーザが任意に設定可能である。
PCFIRモデルをμマルコフモデルに適用することで、k<Kの項についてはPCFIRモデルを適用することでパラメータ数が削減され、k>Kの項についてはARXモデルを適用することでさらにパラメータ数が削減される。
【0038】
[PCFIRモデルによる実効抵抗の演算方法]
前記した式(31)において実効抵抗R
Kを演算する場合、項の数n
1,n
2,・・・,n
mを、以下の式(33)を満たす整数m
Kが存在するように選んだとする。
【数29】
このとき、PCFIRモデルから算出される実効抵抗R
Kは、以下の式(34)となる。
【数30】
すなわち、x秒実効抵抗は、入力開始時刻からx秒が経過した最後の時刻Kまでの各時間区分で推定されたパラメータb
iに、各時間区分の項数n
iを掛けた数値(n
ib
i)を積算することで算出される。
PCFIRモデルの式(31)において、回帰ベクトルφ(k)およびパラメータベクトルθは、以下の式(35)および式(36)と置くことができる。
【数31】
この場合、式(31)は、以下の式(37)の線形回帰モデルで記述することができる。
【数32】
したがって、本実施形態で用いるPCFIRモデルに対しても、μマルコフモデルに適用した一括最小二乗法(式(21))や逐次最小二乗法(式(27)~(29))を適用して、実効抵抗R
Kを算出することができる。
なお、PCFIRモデルをμマルコフモデルに適用したものを用いる場合、式(32)のARXモデルの特徴量を式(35)の回帰ベクトルφ(k)に加え、推定するパラメータベクトルθに、ARXモデルのパラメータα
lとβ
lを加えれば良い。
【0039】
[PCFIRモデルの最小二乗推定値の性質]
PCFIRモデルの最小二乗推定値については、次の性質が成り立つことを証明することができる。
定理1.入出力データは定常であるとし、入力u(k)は白色信号であり、また、入力u(k)と雑音w(k)は無相関であると仮定する。PCFIRモデルから前記した式(34)によって求めた実効抵抗RKは、データ数Nが∞のとき、FIRモデルやμマルコフモデルから式(16)によって求めた実効抵抗RKと一致する。
この定理により、入力信号が白色であり、データ数が十分に多ければ、PCFIRモデルは、従来のFIRモデルまたはμマルコフモデルと等しい実効抵抗RKの推定結果を与えることがわかる。
一方、データ数が有限である場合には、パラメータ数mとモデルの精度のあいだにはトレードオフの関係がある。パラメータ数mを大きくするほど推定精度が上がるが、推定装置1の演算負荷も増加する。そのため、実際の運用に際して、ユーザは、推定装置1の演算負荷と、要求される推定精度のバランスを考慮して、パラメータ数mを設定する必要がある。
【0040】
ここで、入力u(k)が白色信号ではなく、以下の式(38)に示すように、整形フィルタH(q)によって整形された有色信号であるとする。
【数33】
ただし、v(k)は白色雑音である。
この場合は、前記の定理1の仮定が成り立たないため、有色信号の入力u(k)をそのまま用いて、PCFIRモデルにより実効抵抗を推定することができない。
【0041】
そこで、本実施形態では、入力u(k)と出力y(k)に対して、白色化フィルタH
-1(q)を用いたフィルタリング処理を行うことで、入力u(k)を白色化させる。白色化フィルタH
-1(q)は、前記した整形フィルタH
-1(q)の逆フィルタを意味するものである。
フィルタリング処理は、以下の式(39)および式(40)で表される。
【数34】
このように、H(q)の逆フィルタである白色化フィルタH
-1(q)を通した入出力u
f(k)とy
f(k)を用いることにより、入力u(k)が白色信号であるときの同定問題に帰着することができるため、正しく実効抵抗R
Kを求めることができる。白色化フィルタH
-1(q)が既知である場合は、予め設定して推定装置1のメモリに格納し、フィルタリング処理に用いることができる。
【0042】
[実効抵抗の推定処理]
図8は、本実施形態における推定装置1の処理を示すフローチャートである。
図8に示すように、推定装置1の過電圧算出部20は、電圧センサ60および電流センサ70によって測定された、端子電圧v(k)および電流i(k)を取得する(ステップS01)。
過電圧算出部20のSOC算出部21は、例えば、式(2)の電流積算法や、カルマンフィルタ等を用いて、バッテリ50のSOCx
c(k)を算出する(ステップS02)。
SOC-OCV変換部22は、メモリに格納されている既知のSOC-OCV特性(式(3)参照)に基づいて、SOCx
c(k)を、開回路電圧v
oc(k)に変換する(ステップS03)。
演算器23は、開回路電圧v
oc(k)と、端子電圧v(k)との差を演算して、過電圧η(k)として推定部30に出力する(ステップS04)。
【0043】
推定部30では、電流センサ70によって測定された電流i(k)と、過電圧算出部20で算出された過電圧η(k)を時系列データとして取得し、電流i(k)を入力u(k)、過電圧η(k)を出力y(k)とする(ステップS05)。
推定部30のフィルタリング部31は、メモリから白色化フィルタを取得し、入力u(k)と出力y(k)に対して、式(39)および式(40)に示すフィルタリング処理を行う(ステップS06)。
入力u(k)が有色信号である場合に、このフィルタリング処理によって白色信号とすることができる。フィルタリング部31は、uf(k)とyf(k)の時系列データを特徴ベクトル算出部32に出力する。
【0044】
特徴ベクトル算出部32は、フィルタリング処理されたuf(k)とyf(k)を、それぞれ入力u(k)および出力y(k)とする(ステップS07)。特徴ベクトル算出部32は、推定装置1のメモリから、ユーザによって指定された、PCFIRモデルの区分情報であるパラメータ数mおよび項数n1,n2,・・・,nmを取得する。特徴ベクトル算出部32は、入力u(k)および出力y(k)を用いてPCFIRモデルの式(35)を構成し、特徴ベクトルである回帰ベクトルφを算出する(ステップS08)。
【0045】
パラメータ推定部33は、回帰ベクトルφを用いて、一括最小二乗法(式(21))や逐次最小二乗法(式(27)~(29))により、式(36)に示すパラメータベクトルθを推定する(ステップS09)。
ステップS08、S09の特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33の処理によって、PCFIRモデルを適用した式(31)または式(32)によるバッテリシステムが同定される。
実効抵抗算出部34は、推定されたパラメータベクトルθを用いて、式(34)により、実効抵抗RKを算出する(ステップS10)。
【0046】
[数値シミュレーション]
本実施形態のPCFIRモデルの有用性を、数値シミュレーションを通して説明する。
図9は、数値シミュレーションに用いた回路構成を示す図である。
図10の(a)は、数値シミュレーションにおける入力データを示す図であり、
図10の(b)は出力データを示す図である。
図11は、本実施形態のPCFIRモデルと従来のFIRモデルによる実効抵抗の推定結果を示すグラフである。
図11の(a)は、各モデルにおけるインパルス応答である電圧(v)を示す図であり、各モデルで推定されるパラメータに対応するものである。
図11の(b)は、各モデルにおけるステップ応答である実効抵抗を示す図である。また、実線がPCFIRモデルを示し、破線が従来のFIRモデルを示す。
【0047】
図9は、
図4のバッテリシステムの等価回路の内部インピーダンスの動特性を、RC並列回路で表現したものである。
図9において、R
0,…,R
4は抵抗値、C
1,…,C
4はコンデンサの静電容量である。
図9の回路に対して、以下の式(41)に示す整形フィルタで整形された有色信号である入力u(k)を印加し、雑音w(k)を加えて、出力y(k)を得た。
【数35】
数値シミュレーションでは0.1秒周期でサンプリングを行った。
図10は、数値シミュレーションで得られた入出力データの一部を示すものである。
図10の(a)が入力である電流u(k)を示すデータであり、
図10の(b)が出力である過電圧y(k)を示すデータである。
図10の入出力データを用いて、本実施形態のPCFIRモデルと、従来のFIRモデルとのそれぞれによって実効抵抗の推定を行い、
図11に示す推定結果を得た。
【0048】
従来のFIRモデルでは、パラメータ数が800であるのに対し、本実施形態におけるPCFIRモデルでは、パラメータ数は4であり、大幅にパラメータ数が削減されていることがわかる。
さらに
図11の(b)に示すように、PCFIRモデルは、各時間区分内の実効抵抗の数値はFIRモデルに対してずれが生じているが、各時間区分の境界では、PCFIRモデルの実効抵抗はFIRモデルの実効抵抗と一致している。
【0049】
実効抵抗RKの推定においては、推定したいx秒実効抵抗の精度が確保できれば良い。そのため、x秒実効抵抗の最後の時刻Kを、時間区分の境界に一致させることで、PCFIRモデルを用いた場合の実効抵抗の推定精度を確保することができる。具体的には、式(31)または式(32)における区分数mおよび各区分の項数n1,n2,・・・,nmを調整することで、時間区分の境界と最後の時刻Kを一致させることができる。
【0050】
図11は、データ数Nが十分に多い場合の推定結果である。すなわち、前記した定理1.で説明したように、データ数Nが十分に多い場合には、PCFIRモデルは、FIRモデルと等しい実効抵抗の推定結果を得ることができる。
【0051】
ここで、データ数Nが少ない場合についても検討する。
図12および
図13は、データ数Nが少ない場合の推定結果である。
図12は各時間区分の長さを一定(n
1=n
2・・・=n
m)とした場合の推定結果を示している。
図12の(a)は、インパルス応答であり、
図12の(b)は、ステップ応答である実効抵抗を示している。
図13は、各時間区分の長さを段階的に長くした場合(n
1<n
2<・・・<n
m)の推定結果である。
図13の(a)は、インパルス応答であり、
図13の(b)は、ステップ応答である実効抵抗を示している。
図12および
図13では、PCFIRモデルにより、雑音w(k)を変化させながら複数回推定を行っている。この場合、推定結果にはバラつきが出る。
図12および
図13で示した2本の点線の間に、複数回の推定結果の95%が入っている。すなわち、2本の点線は、推定結果のバラつきの大きさを示している。
また、
図12および
図13の実線は、複数回の推定結果の平均値である。一点鎖線は、PCFIRモデルによる推定の正解値であり、
図11の実線で示した値に対応する。破線は、従来のFIRモデルによる推定結果である。
【0052】
図12および
図13を比較すると、各時間区分の長さを段階的に長くした
図13の方が、2本の破線の間の範囲が狭く、推定結果のバラつきが小さいことがわかる。また、
図12、
図13のいずれの場合も、推定結果の平均(実線)を取ることで正解値(一点鎖線)に近づくが、
図12の(b)では、時間が経過するごとに、平均値(実線)と正解値(一点鎖線)の乖離が大きくなっている。一方、
図13の(b)では、平均値(実線)と正解値(一点鎖線)の乖離が小さく抑えられている。
図12の(a)および
図13の(a)のFIRモデル(破線)からわかるように、インパルス応答は、入力開始時刻(時間0)に近い方が変化が大きく、入力開始時刻から離れるにつれて、変化が収束していく。そのため、
図13のように各時間区分の長さを段階的に長くした場合、インパルス応答の変化が大きい箇所において推定されるパラメータが多くなるため、推定精度を向上させることができる。
このように、本実施形態におけるPCFIRモデルは、各時間区分の項数n
iを任意に設定することができるため、例えばデータ数Nが少ないような場合でも、各時間区分の長さを調整して、推定精度の向上に寄与することができる。
【0053】
以上の通り、本実施形態の推定装置1は、以下の構成を有する。
(1)推定装置1は、バッテリ50の所定時間(x秒)における過電圧変化を示す実効抵抗を推定する。
推定装置1は、過電圧算出部20と、特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33(システム同定部)と、実効抵抗算出部34と、を備える。
過電圧算出部20は、バッテリ50を流れる電流i(k)と、バッテリ50の端子電圧v(k)の測定値に基づいて、バッテリ50の過電圧η(k)を算出する。
特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33は、電流と過電圧の時系列データ(入力u(k)、出力y(k))に基づいて、FIRモデルを含むモデルを構成する多項式の各項のパラメータb1,b2,・・・,bm(係数)を推定することで、バッテリ50のシステムを同定する。
実効抵抗算出部34は、バッテリ50のシステムに基づいて、実効抵抗RKを算出する。
特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33は、FIRモデルを構成する多項式を複数の時間区分で分割し、各時間区分に含まれる項に対して共通のパラメータを推定することで、FIRモデルの多項式の項数よりも少ない数のパラメータを推定する。
【0054】
バッテリ50の実効抵抗RKは、バッテリ50の内部インピーダンスの特性を表現する特徴量であり、入力開始時刻からx秒が経過した最後の時刻Kまでの各時刻における入力に対するインパルス応答の和として表される。
推定装置1は、インパルス応答をパラメータとしてバッテリ50のシステムを表現するPCFIRモデルを用いて、実効抵抗RKを推定する。特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33は、バッテリ50の電流と過電圧の時系列データu(k)、y(k)に基づいてパラメータb1,b2,・・・,bmを推定してバッテリ50のシステムを同定することで、実効抵抗RKを算出することができる。
ここで、従来のFIRモデルによりバッテリ50のシステムを同定する場合、多項式を構成する項の数nと同数のパラメータb0,・・・,bnを推定する必要がある。しかしながら、実効抵抗の推定に必要なのは、入力開始時刻から最後の時刻Kまでのインパルス応答b0,b1,・・・,bKのみである。すなわち、従来のFIRモデルでは、実効抵抗RKの推定に不要な多くのパラメータbK+1,・・・,bnを推定することになる。
従来のFIRモデルとARXモデルを組み合わせたμマルコフモデルは、実効抵抗RKの推定に不要な項(k>Kの項)について推定するパラメータの数を削減することができる。しかしながら、推定する実効抵抗RKの時間(x秒)が大きくなると、実効抵抗RKの推定に必要なk<Kの項の数が多くなるため、十分に推定するパラメータの数を削減することができない。
【0055】
本実施形態では、システム同定部である特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33FIRモデルは、従来のFIRモデルを修正したPCFIRモデルを用いている。PCFIRモデルでは、FIRモデルを構成する多項式を複数の時間区分で分割し、各時間区分に含まれる項に対して共通のパラメータを推定する。これによって、推定するパラメータの数が、PCFIRモデルを構成する多項式の項数よりも少なくなる(m<n)ため、推定する実効抵抗RKの秒数(x秒)が大きい場合でも、十分に推定するパラメータの数を削減することができる。これによって、推定装置1の演算負荷を低減することができる。
【0056】
(2)推定装置1は、フィルタリング部31を備える。
フィルタリング部31は、電流と過電圧の時系列データ(u(k)、y(k))に対して、白色化フィルタH-1(q)によりフィルタリング処理を行い、電流が白色信号である時系列データ(uf(k)、yf(k))を、システム同定部である特徴ベクトル算出部32に出力する。
【0057】
PCFIRモデルの入力である電流u(k)が有色信号である場合には、前記したPCFIRモデルについての定理1.が成立しないため、実効抵抗RKの推定精度に影響を与える可能性がある。本実施形態では、フィルタリング部31が白色化フィルタH-1(q)によりフィルタリング処理を行う。電流を白色信号とすることで、定理1.が成立する状態となり、PCFIRモデルを用いた精度の高い推定を行うことができる。
なお、入力の電流u(k)として白色信号を用いることができる場合には、フィルタリング部31は省略しても良い。
【0058】
(3)実効抵抗算出部34は、時系列データの入力開始時刻から所定時間(x秒)経過後の最後の時刻Kまでの、各時間区分で推定されたパラメータbiに、各時間区分の項数niを掛けた数値(nibi)を積算することで、実効抵抗RKを算出する。
特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33(システム同定部)において、時間区分のいずれかの境界と最後の時刻Kが一致するように、時間区分の長さが設定される。
【0059】
PCFIRモデルによる推定結果を、従来のFIRモデルによる推定結果と比較した場合(
図11参照)、各時間区分内の実効抵抗の数値はずれが生じるが、各時間区分の境界の数値は一致する傾向がある。そのため、推定装置1では、時間区分の境界と最後の時刻Kが一致するように時間区分の長さを設定することで、x秒実効抵抗の推定精度を高めることができる。
【0060】
(4)特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33(システム同定部)において、時系列データにおける入力開始時刻に近い時間区分ほど長さが短くなるように、各時間区分の長さが設定される。
【0061】
PCFIRモデルのパラメータによって示されるインパルス応答は、入力開始時刻に近いほど変化が大きい。そこで、推定装置1では、入力開始時刻に近いほど時間区分が長くなるように各時間区分の長さを設定する。これによって、インパルス応答の変化が大きい箇所において推定されるパラメータが多くなるため、実効抵抗RKの推定精度を向上させることができる。
【0062】
(5)特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33(システム同定部)は、各時間区分に含まれる項に対して、共通のパラメータとして定数を推定する。
【0063】
各時間区分で推定するパラメータを定数とすることで、各時間区分で1つのパラメータのみが推定対象となる。そのため、PCFIRモデルにおいて推定されるパラメータ数を大きく削減することができる。
【0064】
(6)特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33(システム同定部)は、FIRモデルを含むモデルとして、FIRモデルにARXモデルを組み合わせたμマルコフモデルを適用し、時系列データの入力開始時刻から所定時間経過後の最後の時刻Kまでの時系列データをFIRモデルに適用する。
【0065】
μマルコフモデルにPCFIRモデルを適用することで、多項式のk>Kの項にはPCFIRモデルが適用され、k<Kの項にARXモデルが適用されるため、推定するパラメータ数をさらに削減することができる。
【0066】
[変形例1]
前記した実施形態では、PCFIRモデルにおいて、各時間区分における共通するパラメータとして定数を用いる例を説明したが、この態様に限定されない。前記したように、共通するパラメータは共通する関数であれば良く、例えば、1次関数、2次関数、指数関数等を用いることができる。変形例1では、共通するパラメータとして1次関数を用いた区分線形FIRモデルを説明する。
図14は、変形例1に係る区分線形FIRモデルと、従来のFIRモデルの概念図である。
図14に示すように、区分線形モデルでは、各時間区分に含まれる項のパラメータを1次関数としているため、各時間区分において推定されるパラメータは、下向きに傾斜する直線を形成し、さらに時間区分ごとに異なる傾きを示す。
図14からわかるように、区分線形FIRモデルも、従来のFIRモデルと比較して、推定するパラメータ数が大幅に削減されている。
区分線形モデルは、FIRモデルの式(15)を修正した、以下の式(41)により表される。
【数36】
ただし、n
1,n
2・・・,n
mは、ユーザが指定する項数であり、β
11,β
12,・・・,β
m1,β
m2が推定されるパラメータである。すなわち、変形例1では、一次関数の傾きと切片を構成するパラメータを推定することになる。例えば、最初の時間区分において、最初の時刻u(k)のパラメータがβ
11であり、最後の時刻u(k-n
1+1)の時刻のパラメータがβ
12とであり、最初の時刻と最後の時刻の間のパラメータは、β
11とβ
12の内分点として設定される。すなわち、各時間区分において、2つのパラメータが推定される。
【0067】
区分線形FIRモデルの式(42)において、回帰ベクトルφ(k)およびパラメータベクトルθは、それぞれ以下の式(43)および式(44)により表される。
【数37】
区分線形FIRモデルの式(42)は、PCFIRモデルと同様に、式(37)の線形回帰モデルで記述することができる。
したがって、変形例1の区分線形FIRデルに対しても、一括最小二乗法(式(21))や逐次最小二乗法(式(27)~(29))を適用して、実効抵抗R
Kを算出することができる。
なお、変形例1の区分線形FIRモデルは、前記したμマルコフモデルに適用しても良い。
【0068】
以上のように、変形例1に係る推定装置1は、以下の構成を備える。
(i)特徴ベクトル算出部32とパラメータ推定部33(システム同定部)は、FIRモデルを構成する多項式を複数の時間区分で分割し、各時間区分に含まれる項に対して、共通の係数として、一次関数を推定する。
【0069】
PCFIRモデルと同様に、各時間区分に含まれる項において共通の関数を用いることで、全体で推定されるパラメータ数を削減することができる。これによって、推定装置1の演算負荷を低減することができる。さらに、係数を一次関数とすることで、各時間区分で推定されるパラメータが2倍となる分、実効抵抗の推定精度を向上させることができる。
【0070】
[変形例2]
図15は、変形例2に係る推定部30Aの構成を示すブロック図である。
前記した実施形態では、白色化フィルタが既知である場合の例を説明した。この場合、推定部30のフィルタリング部31(
図4参照)は、予め設定された白色化フィルタをメモリから取得して、フィルタリング処理を行う。
変形例2では、白色化フィルタが未知である場合を説明する。変形例2では、実効抵抗の推定を行う際に、電流センサ70で測定される電流i(k)の時系列データに対して時系列解析を行うことで、フィルタリング処理で用いる白色化フィルタH
-1(q)を作成する。
【0071】
図15に示すように、変形例2において、推定部30Aは、フィルタリング部31の前段に、時系列解析部35と、フィルタ作成部36と、を更に備える。
時系列解析部35は、電流センサ70で測定される電流i(k)の時系列データを用いて、既知の時系列解析手法により、式(38)に定義される整形フィルタH(q)を推定する。時系列解析に用いるモデルは限定されるものではないが、例えば、移動平均モデル(moving average model:MAモデル)、自己回帰モデル(autoregressive model:ARモデル)等を用いることができる。
【0072】
フィルタ作成部36は、時系列解析部35で推定された整形フィルタH(q)の逆フィルタである白色化フィルタH-1(q)を作成する。フィルタ作成部36は、作成した白色化フィルタH-1(q)をフィルタリング部31に出力する。フィルタリング部31は、前記した実施形態と同様に、白色化フィルタH-1(q)を用いて、入力u(k)と出力y(k)に対して、式(39)および式(40)によるフィルタリング処理を行う。
【0073】
以上のように、変形例2に係る推定装置1は、以下の構成を備える。
(ii)推定装置1は、時系列解析部35と、フィルタ作成部36と、を備える。
時系列解析部35は、バッテリ50を流れる電流i(k)の時系列データを時系列解析することで、電流の整形フィルタH(q)を推定する。
フィルタ作成部36は、整形フィルタH(q)の逆フィルタである、白色化フィルタH-1(q)を作成し、フィルタリング部31に出力する。
【0074】
入力u(k)が有色信号であり、白色化フィルタが未知である場合にも、時系列解析部35およびフィルタ作成部36の処理で作成した白色化フィルタH-1(q)により、フィルタリング部31がフィルタリング処理を行うことができる。これによって、前記した定理1.が成り立つ状態とすることができ、推定装置1の実効抵抗RKの推定精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0075】
1 推定装置
20 過電圧算出部
30 推定部
31 フィルタリング部
32 特徴ベクトル算出部(システム同定部)
33 パラメータ推定部(システム同定部)
34 実効抵抗算出部
50 バッテリ
60 電圧センサ
70 電流センサ
【要約】
【課題】推定するパラメータの数を削減する。
【解決手段】推定装置1の過電圧算出部20は、バッテリ50を流れる電流と、バッテリ50の端子電圧の測定値に基づいて、バッテリ50の過電圧を算出する。特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33は、電流と過電圧の時系列データに基づいて、FIRモデルを含むモデルを構成する多項式の各項のパラメータを推定することで、バッテリ50のシステムを同定する。実効抵抗算出部34は、バッテリ50のシステムに基づいて、実効抵抗を算出する。特徴ベクトル算出部32およびパラメータ推定部33は、FIRモデルを構成する多項式を複数の時間区分で分割し、各時間区分に含まれる項に対して共通のパラメータを推定することで、FIRモデルの多項式の項数よりも少ない数のパラメータを推定する。
【選択図】
図1