(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】車両用内装材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 5/26 20060101AFI20230403BHJP
B60R 13/02 20060101ALI20230403BHJP
D04H 1/593 20120101ALI20230403BHJP
【FI】
B32B5/26
B60R13/02 B
D04H1/593
(21)【出願番号】P 2019005687
(22)【出願日】2019-01-17
【審査請求日】2022-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2018016164
(32)【優先日】2018-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000133065
【氏名又は名称】株式会社タケヒロ
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103207
【氏名又は名称】尾崎 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 幸治
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 誠二
(72)【発明者】
【氏名】土居 円
(72)【発明者】
【氏名】川尻 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 徳善
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-233969(JP,A)
【文献】特開2004-209975(JP,A)
【文献】特開平09-137372(JP,A)
【文献】特開2004-149985(JP,A)
【文献】特開平10-315396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B60R 13/01- 13/04、 13/08
D04H 1/00- 18/04
D06M 17/00- 17/10
D06N 1/00- 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケナフ繊維又はガラス繊維と、第1熱可塑性樹脂繊維からなるバインダーを含む、密度が0.2~0.7 g/cm
3の基材と、
ポリエステル系樹脂からなる第2熱可塑性樹脂繊維および低融点樹脂繊維を含む、目付が50~500g/m
2の表皮材と、を備え、
前記低融点樹脂繊維の低融点樹脂は融点が90~120℃の低融点ポリエステル系樹脂であり、前記第2熱可塑性樹脂繊維同士を結合させるものであり、
前記表皮材における前記第2熱可塑性樹脂繊維の重量比率は50~95%、前記低融点樹脂繊維の重量比率は5~20%であり、
前記基材の表面に前記表皮材が積層されるとともに、前記基材と前記表皮材の境界面に、前記第2熱可塑性樹脂繊維が前記基材の組織に入り込んで前記
ケナフ繊維又は前記ガラス繊維と交絡する交絡層を備え、
前記基材と前記表皮材の間の接着強度が剥離幅25mmで180度の剥離にて5~80N/25mmであることを特徴とする車両用内装材。
【請求項2】
前記バインダーがポリプロピレン系樹脂からなる、請求項1に記載の車両用内装材。
【請求項3】
前記表皮材は、さらに、ポリプロピレン系樹脂繊維を含む、請求項2に記載の車両用内装材。
【請求項4】
前記低融点樹脂が、低融点ポリエチレンテレフタレート樹脂である、請求項2または3に記載の車両用内装材。
【請求項5】
ケナフ繊維又はガラス繊維と、第1熱可塑性樹脂繊維からなるバインダーを含む、密度が0.2~0.7 g/cm
3の基材を加熱し、厚みを15~30%加熱膨張させ、前記基材中の繊維を密から疎の状態とする加熱膨張ステップと、
加熱膨張した前記基材に対して、ポリエステル系樹脂からなる第2熱可塑性樹脂繊維を重量比率で50~95%と低融点樹脂繊維を重量比率で5~20%含み、低融点樹脂繊維の低融点樹脂は融点が90~120℃の低融点ポリエステル系樹脂である、目付が50~500 g/m
2の表皮材を投入し、前記基材と前記表皮材を積層および圧縮し、前記第2熱可塑性樹脂繊維が前記基材の組織の中に入り込んで、前記
ケナフ繊維又は前記ガラス繊維と交絡することによって前記基材と前記表皮材を接合させ、かつ前記表皮材において前記低融点樹脂繊維を溶融固化することにより第2熱可塑性樹脂繊維同士を結合させる接合ステップと、
を備えたことを特徴とする、車両用内装材の製造方法。
【請求項6】
前記バインダーがポリプロピレン系樹脂である、請求項5に記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項7】
前記表皮材は、さらにポリプロピレン系樹脂繊維を含み、前記接合ステップにおいて、前記基材中のポリプロピレン系樹脂繊維が溶融固化する、請求項6に記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項8】
前記低融点樹脂が低融点ポリエチレンテレフタレート樹脂である、請求項5~7のいずれかに記載の車両用内装材の製造方法。
【請求項9】
前記接合ステップにおいて、前記基材と前記表皮材を接合させると同時に成形する、請求項5~8のいずれかに記載の車両用内装材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の座席後方等に設けられる車両用内装材に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用内装材は、ケナフ等の天然繊維とPPの繊維を混合し、基材の材料として使っている。これの表面に表皮材(例えば、カーペット材等)を貼る。従来技術では、基材に表皮材を貼り合わせる際、基材と表皮材(例えば、ボードとカーペット材)の間に樹脂のフィルムを挟んだり、例えば特許文献1の通り、表皮側に接着剤を含むバッキング材を付け表皮材と基材とを結合したり、又は、特許文献2に示す通り、フィルムを溶着することで、基材に表皮材を結合している。
【0003】
また、従来、カーペット材等の表皮材について、摩耗性向上のために、カーペット材の裏にアクリル樹脂を薄く塗ることがあった。しかし、アクリル樹脂層があると表皮の繊維が基材の中に入っていかない。そうすると、車両用内装材の耐摩耗性はクリアしても接着性能はクリアしない。一方、アクリル樹脂を外すと、接着性能はクリアするが、耐摩耗性はクリアしない。接着性と耐摩耗性とは互いに相反する性質で、両方を満足することは難しかった。
【0004】
従来用いられている、接着層のフィルムや、接着剤を廃止し、コストの削減や、製造工程も削減したいという要望がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-138823号公報
【文献】特開2006-35949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、2に記載の車両用内装材で、単純にフィルムや接着剤を廃止するだけでは、表皮材が基材に接着しない。そのため、従来の車両用内装材は、軽量化が難しい、製造工程が複雑化する、コスト低減が難しい、という課題がある。
【0007】
そこで、本発明は、耐摩耗性を確保しつつ、接着剤又はフィルムなしで、基材と表皮材とを接着し、バッキング又はフィルムの中間層をなくし、車両用内装材を軽量化し、低コストで提供することを課題とする。
【0008】
車両用内装材の要求される性能として、基材と表皮材の接着強度と、車両部品としての耐摩耗性の両方をクリアしなければいけないところに、困難がある。上記2つの性能を同時に満足するための表皮材の構成、基材の構成を、種々検討したところ、本発明者は、表皮材と基材に工夫を加え、上記課題を克服し、車両用内装材が接着強度、耐摩耗性ともに、その性能を満足することを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1発明は、ケナフ繊維又はガラス繊維と、第1熱可塑性樹脂繊維からなるバインダーを含む、密度が0.2~0.7 g/cm3の基材と、ポリエステル系樹脂からなる第2熱可塑性樹脂繊維および低融点樹脂繊維を含む、目付が50~500g/m2の表皮材と、を備え、前記低融点樹脂繊維の低融点樹脂は融点が90~120℃の低融点ポリエステル系樹脂であり、前記第2熱可塑性樹脂繊維同士を結合させるものであり、前記表皮材における前記第2熱可塑性樹脂繊維の重量比率は50~95%、前記低融点樹脂繊維の重量比率は5~20%であり、前記基材の表面に前記表皮材が積層されるとともに、前記基材と前記表皮材の境界面に、前記第2熱可塑性樹脂繊維が前記基材の組織に入り込んで前記ケナフ繊維又は前記ガラス繊維と交絡する交絡層を備え、前記基材と前記表皮材の間の接着強度が剥離幅25mmで180度の剥離にて5~80N/25mmであることを特徴とする車両用内装材である。
【0010】
この構成によれば、基材と表皮材の境界面において、表皮材の繊維が基材の繊維中に入り込んで交絡しているので、アンカー効果によって、接着強度を高くすることができる。接着強度が剥離幅25mmで180度の剥離にて5~80N/25mmなので、車両用内装材に要求される接着強度を満たすことができる。また、表皮材は低融点樹脂繊維を含むので、表皮材の第2熱可塑性樹脂繊維同士を結合させ、耐摩耗性を向上することができる。
【0011】
前記バインダーがポリプロピレン系樹脂からなることが好ましい。
【0012】
前記表皮材は、さらに、ポリプロピレン系樹脂繊維を含むことが好ましい。
【0013】
前記低融点樹脂が、低融点ポリエチレンテレフタレート樹脂であることが好ましい。
【0014】
第2発明は、ケナフ繊維又はガラス繊維と、第1熱可塑性樹脂繊維からなるバインダーを含む、密度が0.2~0.7 g/cm3の基材を加熱し、厚みを15~30%加熱膨張させ、前記基材中の繊維を密から疎の状態とする加熱膨張ステップと、加熱膨張した前記基材に対して、ポリエステル系樹脂からなる第2熱可塑性樹脂繊維を重量比率で50~95%と低融点樹脂繊維を重量比率で5~20%含み、低融点樹脂繊維の低融点樹脂は融点が90~120℃の低融点ポリエステル系樹脂である、目付が50~500 g/m2の表皮材を投入し、前記基材と前記表皮材を積層および圧縮し、前記第2熱可塑性樹脂繊維が前記基材の組織の中に入り込んで、前記ケナフ繊維又は前記ガラス繊維と交絡することによって前記基材と前記表皮材を接合させ、かつ前記表皮材において前記低融点樹脂繊維を溶融固化することにより第2熱可塑性樹脂繊維同士を結合させる接合ステップと、を備えたことを特徴とする、車両用内装材の製造方法である。
【0015】
この構成によれば、加熱膨張ステップにおいて、基材中の繊維を疎の状態にして、その後の接合ステップにおいて表皮材を積層圧縮することによって、表皮材中の繊維を基材中の繊維の間に入り込ませ、それらのアンカー効果によって、接着強度を高くすることができる。また、加熱膨張ステップにおいて加熱された基材の上に、低融点樹脂を含む表皮材を積層するため、低融点樹脂が溶融、固化し、表皮材中の第2熱可塑性樹脂繊維同士を結合させるため、耐摩耗性を高くすることができる。
【0016】
前記第1熱可塑性樹脂繊維、前記第2熱可塑性樹脂繊維、前記低融点樹脂繊維は、前記した例が挙げられるので、第1発明の説明を援用する。
【0017】
前記表皮材は、さらにポリプロピレン系樹脂繊維を含み、前記接合ステップにおいて、前記基材中のポリプロピレン系樹脂繊維が溶融固化することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、基材中の繊維と、表皮材中の第2熱可塑性樹脂繊維の交絡を、溶融固化したポリプロピレン系樹脂が強めることになるため、接着強度をさらに高くすることができる。
【0019】
前記接合ステップにおいて、前記基材と前記表皮材を接合させると同時に成形することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、車両用内装材をより簡易な構成で耐摩耗性かつ接着性の両方を確保し、軽量化し、低コストを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態に係る車両用内装材の断面図である。
【
図2】同じく車両用内装材の実施例1の断面写真図である。
【
図3】同じく車両用内装材の実施例1の交絡メカニズムを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態1の車両用内装材1を
図1ないし
図3によって説明する。車両用内装材1は、例えば、自動車内装部品に用いられ、
図1及び
図2に示すように、基材2と、基材2に積層される表皮材3と、を備えている。
【0023】
基材2は、天然繊維であるケナフ繊維又はガラス繊維と、第1熱可塑性樹脂繊維であるポリプロピレン繊維(以下、PP繊維と略す)を含む、密度が0.2~0.7 g/cm3、厚み2~5mmの板状体である。表皮材3は、第2熱可塑性樹脂繊維でありポリエステル系樹脂であるポリエチレンテレフタレート樹脂繊維(以下、PET繊維と略す。)と、ポリプロピレン繊維(PP繊維)、および低融点樹脂である低融点ポリエチレンテレフタレート樹脂繊維(以下、LPET繊維と略す。)を含み、目付が50~500g/m2、厚み0.2mm~3.0mmである。
【0024】
基材2の表面に表皮材3が積層されるとともに、基材2と表皮材3の境界面4において、表皮材3のPET繊維、PP繊維、およびLPET繊維が基材2の組織に入り込んで、基材2中のPP繊維およびケナフ繊維またはガラス繊維と交絡する交絡層5を備えている。
図2は、基材2と表皮材3の境界面の写真であり、基材2の繊維に、表皮材3の繊維が入り込んでいることが確認できる。後述される評価方法によって測定される、基材2と表皮材3の間の接着強度は、剥離幅25mmで180度の剥離にて5~80N/25mmである。
【0025】
基材2は、車両用内装材1の内層又は心材となる部材であり、加熱されて軟らかくなった後、冷えて剛性が生じる熱可塑性の性質を有するものである。基材2の材質として、熱可塑性樹脂または熱可塑性発泡樹脂をバインダーとして用いた繊維状物の板状体が挙げられる。バインダーに用いる熱可塑性樹脂、すなわち第一熱可塑性樹脂繊維の材料として、ポリプロピレン(PP)の他、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン(PA)、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリレート-スチレン-アクリロニトリル共重合体、およびアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等が挙げられる。繊維状物として、例えば、綿、麻、ケナフ繊維、竹繊維、ウール、絹、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等、または、これらの混合繊維が挙げられる。
【0026】
本実施形態においては、ポリプロピレンをバインダーとするケナフ繊維を基材2の材質に用いる。ポリプロピレンをバインダーとしてガラス繊維を用いた基材2も好適である。車両用内装材1の目付量は、500~1,600g/m2が好ましい。
【0027】
基材2について、ケナフ繊維とPP繊維を配合する場合、その配合比率(重量比率)については、ケナフ繊維30%~70%に対して、PP繊維が70%~30%であることが好ましい。例えば、ケナフ繊維60%とPP繊維40%、ケナフ繊維50%とPP繊維50%、ケナフ繊維30%とPP繊維70%等が挙げられる。ガラス繊維とPP繊維を配合する場合も、同様に、配合比率(重量比率)は、ガラス繊維30~70%、PP繊維が70~30%であることが好ましい。
【0028】
表皮材3の材質は柔軟であることが望ましいが、特に限定されず、天然繊維や合成繊維等の不織布、天然皮革、合成皮革等の車両用内装材や車両の内装材に用いられる材料から構成されたものを選択できる。また、ニードルパンチされたカーペットの例が挙げられる。
【0029】
車両用内装材1が耐摩耗性および接着性をクリアするには、表皮材3の繊維材料の配合が重要である。表皮材に含まれる低融点樹脂であるLPET繊維は、耐摩耗性に寄与している。製造工程において、表皮材が加熱されたときにLPET繊維が溶融し、主繊維であるPET繊維同士を結合させるためである。PET繊維は、通常、250度~280度で溶融するが、LPET繊維は、110℃くらいが融点で、後述する成形時の基材2の熱で溶けやすいからである。製造過程においてLPETが溶融、固化して主繊維のPET繊維同士を結合させれば、それが摩耗に対応する従来技術で述べたバッキング(アクリル樹脂等)又はフィルムの代わりになることができる。
【0030】
また、表皮材3に含まれるPP繊維は、必ずしも必要ではないが、含有することによって接着性の向上に寄与している。基本的には、基材と表皮材は、基材中の繊維と表皮材中の繊維が交絡し、アンカー効果によって接着されている。しかし、表皮材にPP繊維が含有されていると、基材中のPP繊維と、表皮材中のPP繊維が溶融、固着し、交絡した繊維同士の結合をさらに強めるため、接着性をさらに高めることができる。要求される耐摩耗性、接着性を満たすには、それぞれの繊維の配合比率(重量比率)は、PET樹脂は95~50%:PP樹脂は0~30%:LPET樹脂5~20%が好ましい。
【0031】
表皮材3に含まれる低融点樹脂としては、融点が90~120℃であることが好ましく、本実施形態で用いたLPET以外の材料も採用が可能である。例えば、PP、PE、PA、PVAなどをベースに変性し融点を90~120℃にした材料を採用することが可能である。
【0032】
本発明による車両用内装材は、例えば、自動車内装部品、パッケージトレイトリム、シェルフ等に用いられ、適用車種として例えば、セダン、クーペ、ハッチバック、バン等において適用することができる。
【0033】
車両用内装材1の製造方法について説明する。
図1~
図3に示すように、基材2と表皮材3を積層しプレス成形することによって構成される。車両用内装材1の成形方法は、プレス成形に限定されず、適宜変更可能である。車両用内装材1をシート成形やインジェクション成形などによって成形してもよい。
【0034】
1.加熱膨張ステップ
天然繊維と第1熱可塑性樹脂繊維を含む、密度が0.2~0.7 g/cm3の基材2の一例であるケナフボードを加熱設備で、基材2の表面温度および内部温度が130~240℃に達するまで加熱し、その組織を加熱膨張させると、繊維がほどけて密から疎の状態になり、ケナフボードの厚さが増大する。ケナフボードは加熱すると膨らむという特性がある。加熱前のケナフボードは、繊維の密度が詰まっているが、膨らんだ後のケナフボードの状態と対比すると、繊維の絡み合う密度が粗くなる。また、ケナフボードは加熱すると柔らかくなり、成形しやすい状態となる。ケナフボードの厚みの膨張率は15~30%が好ましく、例えば、基材の板厚変化として、プレボードの板厚3.0mmにすると、加熱後、板厚が約1.15~1.3倍程度に加熱膨張する。それにより、表皮繊維が基材の組織に入り込める程度まで、基材の繊維密度が疎になっていて、後述する接合ステップにおける接着強度向上につながる。加熱膨張ステップでは、基材中のPP繊維は溶融した状態にある。
【0035】
2.接合ステップ
基材2を加熱してよく膨らませた状態でプレス成形用金型の下型にセットし、表皮材3をプレス成形用金型の上型にセットしてプレスする。この時、繊維が疎の状態の基材表面に、表皮材3の繊維が入り込み、基材2中の繊維と表皮材3中の繊維が交絡し、接着剤やフィルムがなくても接着強度を高めることができる。この接合ステップは、金型により成形する成形工程も兼ねている。すなわち、一度のプレスで接着と成形が行われる。表皮材3の色や風合いを変えないため、成形時のプレス成形用金型の温度は20~50度であり、接合ステップにおいて基材2および表皮材3の温度は徐々に下がっていく。
【0036】
プレス時、加熱された基材2に、表皮材3を積層することによって、表皮材3も加熱されるが、その時の表皮材3の温度がLPET繊維の融点よりも高くなる必要がある。例えば、加熱膨張ステップにおける加熱温度を200℃とした場合、接合ステップにおいて表皮材3が基材2に積層されたとき、表皮材3中のLPET繊維が溶融し、その結果、表皮材3中の主繊維であるPET繊維同士を結合させ、耐摩耗性を向上させることができる。また、プレス時において、表皮材3と基材2の温度が、表皮材3および基材2に含まれるPP繊維の融点よりも高いことが好ましい。そうすれば、接合ステップにおいて表皮材3中のPP繊維および基材中のPP繊維が共に溶融、固化し、交絡している繊維同士の結合を強め、交絡層における接着強度をさらに高くすることができる。
【0037】
接合ステップによって、基材2のケナフ繊維とPP繊維に、表皮材3のPET繊維、PP繊維およびLPET繊維が絡む。基材2と表皮材3の積層直後は、表皮材3は、繊維の内のLPET繊維およびPP繊維だけが溶け、主繊維であるPET繊維が溶けていない状態になるので、繊維の原型はとどめている。このように表皮材3の繊維と、疎になった基材2の繊維が絡み合って、接着している。
【0038】
このようにして、表皮材3にPET繊維、LPET繊維、PP繊維を配合し、上述した加熱膨張ステップと接合ステップによって、本実施形態における車両用内装材1は接着強度と、耐摩耗性の2つの性能を満たすことができる。
【0039】
本発明者は交絡のメカニズムを次のように(1)~(4)の通り、推察している。(1)基材2は、プレボードとして、既に圧縮されていて、ケナフ繊維とPP繊維が密に交絡している。(2)基材2を加熱すると、基材2の組織が加熱されて膨張し、組織が疎になり、厚さが増加する。このとき、(1)のときの密度よりも、基材2の密度が疎となる。(3)表皮材3を投入すると、表皮材3のPET繊維とPP繊維が基材2のケナフ繊維とPP繊維に入り込み、PP繊維が溶融し、交絡する。表皮材3をプレス成形用金型にセットすると、表皮材3の繊維が疎になった基材2の繊維の間に入り込んで絡み合うという現象が起こる。表皮材3の繊維のうち、交絡領域にある繊維が基材2の繊維と交絡し、この交絡した部分がアンカーの機能を果たし、接着効果を確保する。(4)プレス成形用金型で基材2と表皮材3をプレスすると、厚み方向に圧縮されて、密度が高くなる。このようにして、基材2と表皮材3の繊維同士が交絡し、アンカー効果と冷却による固着によって、基材2に対し表皮材3が接着する。
【0040】
本実施形態の車両用内装材1の効果について説明する。車両用内装材1をより簡易な構成である基材2と表皮材3を採用し、バッキング又は接着フィルムをなくすことができ、しかも、耐摩耗性かつ接着性の両方を確保し、軽量化し、低コストを実現ができる。
【0041】
上記ケナフボードに代えて、ガラス繊維と第1熱可塑性樹脂繊維でなる基材2とした場合も、同様に製造できる。
【実施例1】
【0042】
以下に、実施例1を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0043】
実施例1の車両用内装材1を説明する。成形前において、基材2はケナフボードで目付1000g/m2、厚さ3.0mm、ケナフ繊維60%、PP繊維40%である。表皮材3は、サンプル1は、重量比率でPET繊維80%、PP繊維10%、LPET繊維10%、サンプル2は、PET繊維70%、PP繊維20%、LPET繊維10%、目付が共に180g/m2とする。基材2を200度まで加熱し、一方、プレス成形用金型を20度~50度とし、加熱した基材2を金型の下型にセットし、表皮材3を上型にセットし、成形する。成形した車両用内装材の厚さは4mmとする。
【0044】
実施例1中における、A.接着強度評価、及びB.耐摩耗性について評価したので、以下に説明する。
【0045】
A.接着強度評価について説明する。
(1) 接着強度の評価方法
車両用内装材1から、150mm×25mmの試験片を採取し、基材2と表皮材3を短辺に平行に適当量はがす。はがした基材2と表皮材3を引張試験機(エーアンドデイ社製、装置名:テンシロン万能材料試験機)に取り付け、引張速さ200mm/minで剥がした時の強さ(N/25mm)を測定した。
【0046】
(2)結果について
接着強度評価の結果、サンプル1、2ともに接着強度は15N/25mmであり、いずれも規格である5N/25mmを満たした。
【0047】
次に、B.耐摩耗評価について説明する。
(1)耐摩擦力の評価方法
車両用内装材1から直径約120mmの試験片を採取し、その中央部に直径6mmの穴を開ける。本試験片をテーバー型摩耗試験機(東洋精機社製、装置名:ロータリーアブレージョンテスタ)に取り付ける。摩耗輪(CS-10)により、荷重2.45Nで100回転摩耗を行う。摩耗後の試験片についての摩耗状態を、目視で見本と照らし合わせ、A~Eまでの評価を行う。A:摩耗が全く認められない、B:わずかに摩耗が認められるが、ほとんど目立たない、C:明らかに摩耗が認められるが、目立ちが少ない、D:摩耗がやや著しい、E:摩耗がかなり著しい。
【0048】
(2)結果について
耐摩耗力評価の結果、サンプル1がA、サンプル2がBであった。
【0049】
以上、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採り得るものである。また、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲において、改変等を加えることができるものであり、それらの改変、均等物等も本発明の技術的範囲に含まれることとなる。例えば、基材、表皮材の形状、構造、寸法、及び材質等は上記実施形態で例示したものに限定されず適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 車両用内装材
2 基材
3 表皮材
4 境界面
5 交絡層