(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】コンクリート製プレキャスト床版の継手構造及びコンクリート製プレキャスト部材の継手構造
(51)【国際特許分類】
E01D 19/12 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
E01D19/12
(21)【出願番号】P 2019099507
(22)【出願日】2019-05-28
【審査請求日】2022-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504221200
【氏名又は名称】一般財団法人災害科学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 均
(72)【発明者】
【氏名】柳楽 毅
(72)【発明者】
【氏名】関口 高志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 美由紀
(72)【発明者】
【氏名】北原 慎也
(72)【発明者】
【氏名】可児 幸嗣
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】大橋 英紀
(72)【発明者】
【氏名】奥村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 繁之
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-039292(JP,A)
【文献】特開2017-190629(JP,A)
【文献】特開2016-108820(JP,A)
【文献】特開2011-063984(JP,A)
【文献】実開昭61-019098(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート製プレキャスト床版同士を接合するための継手構造であって、
継手部を境に一方側のコンクリート製プレキャスト床版の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、平面視で溝型断面の溝型係合部を備えた雌継手が縦溝を外部に臨ませた状態で埋設され、
継手部を境に他方側のコンクリート製プレキャスト床版の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、橋軸方向鉄筋の先端が外部に突出形成されるとともに、これら橋軸方向鉄筋の先端に相対的に大径の定着部材が設置された雄継手が埋設され、
一方側のコンクリート製プレキャスト床版の雌継手に、他方側のコンクリート製プレキャスト床版の雄継手が係合し、コンクリート製プレキャスト床版同士を結合した状態とし、前記雌継手の内部空間及び雌継手の周囲の空間と、一方側のコンクリート製プレキャスト床版と他方側のコンクリート製プレキャスト床版との間隙部分にグラウト材が充填されており、
前記雌継手の両側にそれぞれ、前記雌継手から所定の距離を空けて、前記橋軸方向鉄筋と平行する方向に延びる開き防止用鉄筋が配置されていることを特徴とするコンクリート製プレキャスト床版の継手構造。
【請求項2】
前記開き防止用鉄筋は、水平方向に前記雌継手と重なる位置において、上下方向に沿うループ状に形成されている請求項1記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造。
【請求項3】
前記雌継手と前記開き防止用鉄筋との離隔距離は、5~40mmである請求項1、2いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造。
【請求項4】
前記開き防止用鉄筋がコンクリートに埋設されている請求項1~3いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造。
【請求項5】
前記開き防止用鉄筋が一方側のコンクリート製プレキャスト床版の接合端面から突出しており、他方側のコンクリート製プレキャスト床版の接合端面から突出する鉄筋が隣接して配置された状態で、前記グラウト材が充填されている請求項1~3いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造。
【請求項6】
前記雌継手は、前記溝型係合部の前記縦溝と反対側のコンクリートに埋設された部分に、平面視で溝型断面の後側溝型係合部が形成されるとともに、この後側溝型係合部に、橋軸方向鉄筋の先端に相対的に大径の定着部材が配置された雄型定着部が係合されている請求項1~5いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造。
【請求項7】
前記雄継手が上下方向に2段配置で設けられている請求項1~6いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造。
【請求項8】
前記雌継手は金型鋳造法によって製作されている請求項1~7いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造。
【請求項9】
前記グラウト材に代えて、コンクリートが充填されている請求項1~8いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造。
【請求項10】
前記雌継手の外面に、所定の方向に延びる凸条又は凹条が、該凸条又は凹条の延びる方向と直交する方向に間隔を空けて複数形成されている請求項1~9いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造。
【請求項11】
コンクリート製プレキャスト部材同士を接合するための継手構造であって、
継手部を境に一方側のコンクリート製プレキャスト部材の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、平面視で溝型断面の溝型係合部を備えた雌継手が縦溝を外部に臨ませた状態で埋設され、
継手部を境に他方側のコンクリート製プレキャスト部材の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、接合端面と直交する方向に延びる鉄筋の先端が外部に突出形成されるとともに、これら鉄筋の先端に相対的に大径の定着部材が設置された雄継手が埋設され、
一方側のコンクリート製プレキャスト部材の雌継手に、他方側のコンクリート製プレキャスト部材の雄継手が係合し、コンクリート製プレキャスト部材同士を結合した状態とし、前記雌継手の内部空間及び雌継手の周囲の空間と、一方側のコンクリート製プレキャスト部材と他方側のコンクリート製プレキャスト部材との間隙部分にグラウト材が充填されており、
前記雌継手の両側にそれぞれ、前記雌継手から所定の距離を空けて、前記鉄筋と平行する方向に延びる開き防止用鉄筋が配置されていることを特徴とするコンクリート製プレキャスト部材の継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁などに用いられるコンクリート製プレキャスト床版同士を接合するための継手構造及びコンクリート製プレキャスト部材の継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋梁などの床版取替え工事では、工期の短縮を図るために工場や現場ヤードなどで製作されたコンクリート製プレキャスト床版が用いられている。このコンクリート製プレキャスト床版同士を接続する継手構造としては、従来から種々の構造のものが提案され実用化されている。
【0003】
最も一般的に多用されてきた継手構造は、所謂ループ継手である。このループ継手は、
図19に示されるように、位置をずらして橋軸方向に突出する互いのループ状継手鉄筋51、52を適宜の間隔で配置し、このループ状継手51、52の直角方向から補強筋53を挿入して、プレキャスト床版本体間の間詰め部に場所打ちコンクリート54を打設して隣接するプレキャスト床版同士を接続する継手構造50である。
【0004】
また、前記ループ継手構造の適用は、床版厚が240mm以上であることが条件とされるため、床版厚がそれよりも薄い場合は、例えば下記特許文献1に示される、「合理化継手」と呼ばれる継手構造が用いられている。前記「合理化継手」は、ループ鉄筋を使用せずに、
図20に示されるように、直線状の連結用鉄筋61の先端に連結用鉄筋の径より大径の定着用頭部62を形成し、これをプレキャスト床版本体の各継手側面において、その上縁側及び下縁側にそれぞれ水平方向に所定の間隔を隔てて多数突設させておき、継手用間隔内で、両プレキャスト床版本体の連結用鉄筋61、61…を互い違いに配置させて水平方向にオーバーラップさせ、補強鉄筋63を所定の位置に配置した後、継手用間隔内に場所打ちコンクリート64を打設した継手構造60である。
【0005】
更に、間詰部の鉄筋の設置を無くして省力化を図るとともに、間詰め材の低減などにより工期短縮を図るようにした、機械式継手が従来から種々提案されている。例えば、下記特許文献2には、
図21に示されるように、溝型断面の雌継手71に対して雄継手72を嵌合させる最も単純な機械式継手70が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-1045号公報
【文献】特開2017-190629号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した機械式の継手構造は、工期短縮により車線規制や通行規制などによる制限を最小限に留め、周辺交通に与える影響を最小限化できる点で他よりも優れている。しかしながら、溝型断面からなる雌継手に対して雄継手を嵌合させる形式の機械式継手の場合、
図21に示されるように、雄継手72に過大な引張力が働いた際に、雌継手71の縦溝73は開口側が支持されていないため、開き方向に変形し易いという問題があった。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、溝型断面を有する雌継手における縦溝の変形防止を図ったコンクリート製プレキャスト床版の機械式継手構造及びコンクリート製プレキャスト部材の機械式継手構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、コンクリート製プレキャスト床版同士を接合するための継手構造であって、
継手部を境に一方側のコンクリート製プレキャスト床版の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、平面視で溝型断面の溝型係合部を備えた雌継手が縦溝を外部に臨ませた状態で埋設され、
継手部を境に他方側のコンクリート製プレキャスト床版の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、橋軸方向鉄筋の先端が外部に突出形成されるとともに、これら橋軸方向鉄筋の先端に相対的に大径の定着部材が設置された雄継手が埋設され、
一方側のコンクリート製プレキャスト床版の雌継手に、他方側のコンクリート製プレキャスト床版の雄継手が係合し、コンクリート製プレキャスト床版同士を結合した状態とし、前記雌継手の内部空間及び雌継手の周囲の空間と、一方側のコンクリート製プレキャスト床版と他方側のコンクリート製プレキャスト床版との間隙部分にグラウト材が充填されており、
前記雌継手の両側にそれぞれ、前記雌継手から所定の距離を空けて、前記橋軸方向鉄筋と平行する方向に延びる開き防止用鉄筋が配置されていることを特徴とするコンクリート製プレキャスト床版の継手構造が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明では、継手部を境に一方側のコンクリート製プレキャスト床版に平面視で溝型断面の溝型係合部を備えた雌継手が縦溝を外部に臨ませた状態で埋設され、継手部を境に他方側のコンクリート製プレキャスト床版に雄継手が埋設され、これらの雌継手と雄継手とが係合し、コンクリート製プレキャスト床版同士を結合した状態で、前記雌継手の内部空間及び雌継手の周囲の空間と、一方側のコンクリート製プレキャスト床版と他方側のコンクリート製プレキャスト床版との間隙部分にグラウト材が充填されている。そして、本発明に係る継手構造では、前記雌継手の両側にそれぞれ、前記雌継手から所定の距離を空けて、前記橋軸方向鉄筋と平行する方向に延びる開き防止用鉄筋が配置されている。これによって、前記雄継手に過大な引張力が作用したときでも、雌継手の縦溝の開口側が前記開き防止用鉄筋によって支持されているため、縦溝の開きが防止できるようになる。
【0011】
請求項2に係る本発明として、前記開き防止用鉄筋は、水平方向に前記雌継手と重なる位置において、上下方向に沿うループ状に形成されている請求項1記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造が提供される。
【0012】
上記請求項2記載の発明では、前記開き防止用鉄筋が、水平方向に前記雌継手と重なる位置において、上下方向に沿うループ状に形成されているため、この開き防止用鉄筋のループ部に支持されることによって雌継手の縦溝が開き方向に変形するのがより確実に防止できるようになる。
【0013】
請求項3に係る本発明として、前記雌継手と前記開き防止用鉄筋との離隔距離は、5~40mmである請求項1、2いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造が提供される。
【0014】
上記請求項3記載の発明では、前記雌継手と前記開き防止用鉄筋との離隔距離を具体的に規定することによって、前記開き防止用鉄筋による雌継手の縦溝の開きがより確実に防止できるようになる。
【0015】
請求項4に係る本発明として、前記開き防止用鉄筋がコンクリートに埋設されている請求項1~3いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造が提供される。
【0016】
上記請求項4記載の発明では、前記開き防止用鉄筋がコンクリートに埋設された状態で配置されている。すなわち、雌継手の両側がコンクリートによって覆われ、その内部に開き防止用鉄筋が埋設されている。これによって、他方側のプレキャスト床版との間隙部分の空間が小さくなり、間詰め材の使用量が低減化できる。
【0017】
請求項5に係る本発明として、前記開き防止用鉄筋が一方側のコンクリート製プレキャスト床版の接合端面から突出しており、他方側のコンクリート製プレキャスト床版の接合端面から突出する鉄筋が隣接して配置された状態で、前記グラウト材が充填されている請求項1~3いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造が提供される。
【0018】
上記請求項5記載の発明では、雌継手の両側に空間部が形成され、その空間部分に、開き防止用鉄筋が一方側のコンクリート製プレキャスト床版の接合端面から突出した状態で配置されている。また、この突出する開き防止用鉄筋に隣接して、他方側のコンクリート製プレキャスト床版の接合端面から突出する鉄筋が配置され、その後グラウト材が充填されるようになっている。これによって、一方側のコンクリート製プレキャスト床版の開き防止用鉄筋と、他方側のコンクリート製プレキャスト床版の鉄筋とが重ね継手のようにして応力の伝達が生じるため、雌継手の縦溝が開き方向に変形するのがより確実に抑えられるようになる。
【0019】
請求項6に係る本発明として、前記雌継手は、前記溝型係合部の前記縦溝と反対側のコンクリートに埋設された部分に、平面視で溝型断面の後側溝型係合部が形成されるとともに、この後側溝型係合部に、橋軸方向鉄筋の先端に相対的に大径の定着部材が配置された雄型定着部が係合されている請求項1~5いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造が提供される。
【0020】
上記請求項6記載の発明は、雌継手を一方側のコンクリート製プレキャスト床版に配筋された橋軸方向鉄筋に連結するための構造について規定している。具体的には、前記溝型係合部の前記縦溝と反対側のコンクリートに埋設された部分に、平面視で溝型断面の後側溝型係合部を形成するとともに、この後側溝型係合部に、橋軸方向鉄筋の先端に設けられた雄型定着部を係合することによって連結している。このように、雌継手と橋軸方向鉄筋との連結に際して溶接を用いていないため、コンクリート製プレキャスト床版の製作性が向上するとともに、疲労損傷の懸念がなくなる。
【0021】
請求項7に係る本発明として、前記雄継手が上下方向に2段配置で設けられている請求項1~6いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造が提供される。
【0022】
上記請求項7記載の発明では、前記雄継手は、水平方向に所定間隔で配置されるが、それぞれの位置で、上下方向に2段配置で設けるようにすることが望ましい。曲げによる圧縮力と引張力とに対処するためである。
【0023】
請求項8に係る本発明として、前記雌継手は金型鋳造法によって製作されている請求項1~7いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造が提供される。
【0024】
上記請求項8記載の発明では、前記雌継手の材質を規定している。雌継手としては、形状の自由度が高い金型鋳造法によって製作することが望ましい。
【0025】
請求項9に係る本発明として、前記グラウト材に代えて、コンクリートが充填されている請求項1~8いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造が提供される。
【0026】
上記請求項9記載の発明は、施工コストの低減のために前記グラウト材に代えて、コンクリートを充填するようにしたものである。
【0027】
請求項10に係る本発明として、前記雌継手の外面に、所定の方向に延びる凸条又は凹条が、該凸条又は凹条の延びる方向と直交する方向に間隔を空けて複数形成されている請求項1~9いずれかに記載のコンクリート製プレキャスト床版の継手構造が提供される。
【0028】
上記請求項10記載の発明では、雌継手の外面に凹凸状の定着部を形成することによって、雌継手の定着性を高めている。
【0029】
請求項11に係る本発明として、コンクリート製プレキャスト部材同士を接合するための継手構造であって、
継手部を境に一方側のコンクリート製プレキャスト部材の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、平面視で溝型断面の溝型係合部を備えた雌継手が縦溝を外部に臨ませた状態で埋設され、
継手部を境に他方側のコンクリート製プレキャスト部材の接合端面に、水平方向に所定の間隔で、接合端面と直交する方向に延びる鉄筋の先端が外部に突出形成されるとともに、これら鉄筋の先端に相対的に大径の定着部材が設置された雄継手が埋設され、
一方側のコンクリート製プレキャスト部材の雌継手に、他方側のコンクリート製プレキャスト部材の雄継手が係合し、コンクリート製プレキャスト部材同士を結合した状態とし、前記雌継手の内部空間及び雌継手の周囲の空間と、一方側のコンクリート製プレキャスト部材と他方側のコンクリート製プレキャスト部材との間隙部分にグラウト材が充填されており、
前記雌継手の両側にそれぞれ、前記雌継手から所定の距離を空けて、前記鉄筋と平行する方向に延びる開き防止用鉄筋が配置されていることを特徴とするコンクリート製プレキャスト部材の継手構造が提供される。
【0030】
上記請求項11記載の発明は、コンクリート製プレキャスト床版に限らず、それ以外のコンクリート製プレキャスト部材にも用いることができることを規定したものである。
【発明の効果】
【0031】
以上詳説のとおり本発明によれば、溝型断面を備えた雌継手における縦溝の変形防止を図ったコンクリート製プレキャスト床版の機械式継手構造及びコンクリート製プレキャスト部材の機械式継手構造を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】コンクリート製プレキャスト床版1A、1Bの継手部2を示す平面図である。
【
図2】継手部2の縦断面図(
図1のII-II断面図)である。
【
図3】継手部2の横断面図(
図2のIII-III断面図)である。
【
図4】継手部2の縦断面図(
図1のIV-IV断面図)である。
【
図6】雌継手3を示す要部拡大縦断面図(
図5のVI-VI断面図)である。
【
図7】雌継手3を示す、(A)は縦断面図、(B)は上面図、(C)は左側面図、(D)は右側面図である。
【
図10】コンクリート製プレキャスト床版の接続要領図(A)(B)である。
【
図11】プレキャスト床版の接合要領手順図(A)~(C)である。
【
図12】第2形態例に係るコンクリート製プレキャスト床版1A、1Bの継手部2を示す平面図である。
【
図13】(A)は一方側、(B)は他方側のコンクリート製プレキャスト床版の接合端面を示す要部拡大図である。
【
図14】(A)は
図13(A)のXIVa-XIVa断面図、(B)は
図13(B)のXIVb-XIVb断面図である。
【
図15】一方側のプレキャスト床版1Aの開き防止用鉄筋15と、他方側のプレキャスト床版1Bの鉄筋20との重なり状態を示す断面図である。
【
図16】第3形態例に係る雌継手3を示す、(A)は正面図、(B)は上面図、(C)は左側面図、(D)は右側面図、(E)は底面図、(F)は縦断面図((B)のF-F断面図)である。
【
図17】雌継手3の外面の要部拡大断面図(
図16(C)のXVII-XVII断面図)である。
【
図18】雌継手3の外面の要部拡大断面図(
図16(D)のXVIII-XVIII断面図)である。
【
図19】従来のループ継手50を示す縦断面図である。
【
図20】従来の合理化継手60を示す縦断面図である。
【
図21】従来の機械式継手70を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
〔第1形態例〕
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0034】
本発明は、コンクリート製プレキャスト床版(以下、単にプレキャスト床版という。)同士を接合するための機械式継手構造である。一般的に、機械式継手の場合、従来のループ継手や合理化継手に比べて、間詰部の鉄筋の設置を無くしたため省力化が図れるとともに、間詰め材の低減などにより大幅な工期短縮が図れるようになるが、継手自体が高価であり工費が嵩むとともに、位置合わせに高い精度が要求されるなどの欠点がある。そこで、本発明では、簡易的な構造の機械式継手にするとともに、所定量の誤差を吸収可能とし、位置合わせの施工性に優れた機械式継手構造を提案するものである。
【0035】
継手構造は、具体的には、
図1に示されるように、継手部2を境に一方側のプレキャスト床版1Aの接合端面に、水平方向(橋軸直角方向)に所定の間隔で、平面視で溝型断面の前側溝型係合部6を備えた雌継手3が前側縦溝5を外部に臨ませた状態で埋設され、継手部2を境に他方側のプレキャスト床版1Bの接合端面に、水平方向に所定の間隔で、上下方向に少なくとも2段配置で橋軸方向鉄筋8の先端が外部に突出形成されるとともに、これら橋軸方向鉄筋8の先端に定着部材9が設置された雄継手4が埋設され、
図2~
図4に示されるように、一方側のプレキャスト床版1Aの雌継手3に、他方側のプレキャスト床版1Bの雄継手4を挿入して両床版を結合した状態とし、前記雌継手3の内部空間IS、雌継手3の上部側空間US及び一方側のプレキャスト床版1Aと他方側のプレキャスト床版1Bとの間隙部分Mにグラウト材17が充填されている継手構造である。
【0036】
以下、さらに具体的に詳述する。
【0037】
先ず、前記一方側のプレキャスト床版1Aに設けられた雌継手3について、
図5~
図7に基づいて詳述する。
【0038】
前記雌継手3は、詳細には
図7に示されるように、一方の端面に前側縦溝5が形成された、平面視で溝型断面の前側溝型係合部6と、これと反対側の他方の端面に後側縦溝10が形成された、平面視で溝型断面の後側溝型係合部11とが、仕切り壁3aを境に左右に背合わせで配置された構造を成す、略直方体の金属製の箱形の部材である。
図2及び
図3に示されるように、前記前側溝型係合部6には、他方側のプレキャスト床版1Bの接合端面に突出形成された橋軸方向鉄筋8を前記前側縦溝5に挿入した状態で、その先端に備えられた雄継手4が係合されている。また、前記後側溝型係合部11には、一方側のプレキャスト床版1Aの躯体のコンクリート内に埋設された橋軸方向鉄筋12を前記後側縦溝10に挿入した状態で、その先端に相対的に大径の定着部材13が設置された雄型定着部14が係合されている。
【0039】
前記雌継手3は、
図5及び
図6に示されるように、前側溝型係合部6が、上面の開口部及び前記前側縦溝5を外部に臨ませた状態で埋設される一方で、前記後側溝型係合部11が、プレキャスト床版1Aの躯体のコンクリート内に完全に埋設された状態で、前記プレキャスト床版1Aの接合端面に配置されている。
【0040】
前記雌継手3の製造法としては、形状の自由度を高くできる金型鋳造法によって製作するのが望ましい。
【0041】
図7に示されるように、この雌継手3のうち前側溝型係合部6の幅寸法B及び奥行き寸法Cはそれぞれ概ね80~150mm、好ましくは100~130mmとされる。また、後側溝型係合部11の幅寸法Bは、前記前側溝型係合部6の幅寸法Bと同じ寸法で形成するのが好ましく、奥行き寸法Dは、前記前側溝型係合部6の奥行き寸法Cより小さな寸法で形成され、具体的には概ね50~100mm、好ましくは60~80mmとされる。前側溝型係合部6は、他方側のプレキャスト床版1Bの接合端面から突出する雄継手4が係合するので、他方側のプレキャスト床版1B据付け時の施工誤差が充分に吸収できるように比較的大きな寸法で形成するのが好ましい。一方、前記後側溝型係合部11は、一方側のプレキャスト床版1Aを工場で製作する際に雄型定着部14を係合させる部分であり、施工誤差が比較的小さいので、比較的小さな寸法で形成することができる。また、雌継手3の高さ寸法Hは、床版の厚みの60~90%、好ましくは70~85%の長さとするのが好ましい。
【0042】
図7(D)に示されるように、前記前側溝型係合部6に形成された前側縦溝5の幅S1は、15~45mm、好ましくは18~40mmとされ、後述する雄継手4を構成する橋軸方向鉄筋8の直径に対して110~220%、好ましくは120~200%の寸法とされる。また、
図7(C)に示されるように、前記後側溝型係合部11に形成された後側縦溝10の幅S2は、前記前側縦溝5の幅S1より小さな寸法で形成され、具体的には10~40mm、好ましくは13~35mmとされ、一方側のプレキャスト床版1Aに配筋された橋軸方向鉄筋12の直径に対して、105~170%、好ましくは110~150%の寸法とされる。橋軸方向鉄筋8、12の直径に対する比率は、製作誤差ないし施工誤差の許容幅が密接に関係するため適切な数値範囲とすることが望ましい。また、この比率を大きくし過ぎると雄継手4の定着部材9や雄型定着部14の定着部材13との掛かりが小さくなり、力の伝達効率が悪くなるため所定の比率で形成することが望ましい。
【0043】
前記前側溝型係合部6に形成された前側縦溝5及び前記後側溝型係合部11に形成された後側縦溝10は、上端縁から下端縁まで上下方向に貫通して形成してもよいが、
図7に示されるように、上端縁から下方向に途中までの長さで形成されたU字状の縦溝とするのが好ましい。U字状の縦溝として下端部を接続することにより、前側縦溝5及び後側縦溝10の開きが防止できる。また、
図7(D)に示されるように、前記前側縦溝5の上端部に、上方に向けて徐々に溝幅が大きくなるように傾斜部5aを形成するのが好ましい。これにより、上方から他方側のプレキャスト床版1Bを落とし込むように設置した際、突出する橋軸方向鉄筋8が前側縦溝5にスムーズに挿入できるようになる。
【0044】
一方側のプレキャスト床版1Aにおいて、前記雌継手3に連結される橋軸方向鉄筋12の先端には、相対的に大径の定着部材13が設置された雄型定着部14が形成されている。一方側のプレキャスト床版1Aの製作時に、前記雌継手3の後側溝型係合部11に前記雄型定着部14が係合し、橋軸方向鉄筋12の先端に雌継手3を連結した状態とし、前記後側溝型係合部11の内部空間及び後側溝型係合部11の周囲の空間にコンクリートが充填されることにより、雌継手3が一方側のプレキャスト床版1Aに固定されている。前記定着部材13は、橋軸方向鉄筋12の先端に溶接によることなく、例えば摩擦圧接や螺合などの固定方法によって固定されている。溶接を用いていないため、疲労損傷の懸念がなくなる。特に、固定作業が簡単な摩擦圧接による固定方法が好ましい。
【0045】
前記前側溝型係合部6及び後側溝型係合部11は、開口する上面と同じように、底面も開口させてもよいが、
図7(A)に示されるように、底部を閉塞する底板を設けることにより、有底の溝型断面とするのが好ましい。これにより、前側溝型係合部6及び後側溝型係合部11の開きがより確実に防止できるようになる。また、前記前側溝型係合部6及び後側溝型係合部11の底面の中央部には、充填物連通用の開孔(図示せず)を設けてもよい。
【0046】
図1及び
図3に示されるように、前記雌継手3の両側にそれぞれ、前記雌継手3から所定の距離を空けて、一方側のプレキャスト床版1Aに配筋された橋軸方向鉄筋12と平行する方向に延びる開き防止用鉄筋15が配置されている。前記開き防止用鉄筋15を配置することにより、雄継手4に過大な引張力が作用したときでも、前側縦溝5の開き方向(雌継手3の両側方向)が開き防止用鉄筋15によって支持されているため、前側縦溝5が開く方向に変形するのが防止できる。つまり、開き防止用鉄筋15がない場合には、雌継手3の両側にコンクリートしか存在しないため、前側縦溝5が開き変形を生じやすくなる。これに対して、前記開き防止用鉄筋15を配置した場合、雌継手3の両側のコンクリートが開き防止用鉄筋15によって補強されるため、前側縦溝5の開き方向への変形が抑制できる。
【0047】
前記開き防止用鉄筋15としては、前記橋軸方向鉄筋12とほぼ平行する直線状の棒材としてもよいが、
図2及び
図3に示されるように、水平方向に雌継手3と重なる位置において、上下方向に沿うループ状のループ部16が形成された略U字状の鉄筋を用いるのが好ましい。このようなループ部16を形成するには、所定長さの棒材を、軸方向の略半分の位置で半円弧状に折り曲げて、略U字状に加工することにより成すことができる。これによって、開き防止用鉄筋15は、雌継手3の側部に上下方向に沿うループ部16が形成されるとともに、このループ部16の上端及び下端からそれぞれ橋軸方向鉄筋12に平行して後方に延びる直線部が上下2段で配置されるようになり、雌継手3の両側部の補強強度がより一層増すようになる。前記ループ部16の高さは、雌継手3の高さHとほぼ同じ寸法で形成するのが好ましい。
【0048】
前記開き防止用鉄筋15の橋軸方向の長さは任意であるが、雌継手3より後方に延びる長さで形成するのが好ましく、具体的には雌継手3の橋軸方向長さの2倍~5倍程度とするのがよい。
【0049】
前記開き防止用鉄筋15のループ部16は、
図2に示されるように、水平方向(橋軸直角方向)に雌継手3と重なる位置に配置されている。つまり、
図2に示される断面視で、開き防止用鉄筋15のループ部16が雌継手3と重なるように配置されている。特に、前記ループ部16は、
図2に示されるように、水平方向に前側溝型係合部6と重なる位置に配置するのがより好ましく、これにより、開き防止用鉄筋15と前側溝型係合部6とが水平方向に重なる面積が多くなり、前側溝型係合部6に形成された前側縦溝5が開き方向に変形するのが確実に防止できるようになる。前側溝型係合部6は、他方側のプレキャスト床版1Bの施工誤差を考慮して、後側溝型係合部11より奥行き寸法及び前側縦溝5の溝幅が大きく形成されているため、雄継手4に過大な引張力が作用した際に、後側縦溝10に比べて、前側縦溝5の方が開き方向により変形しやすくなっているが、前記開き防止用鉄筋15のループ部16が両側に位置することによって、このような開きが生じないようになっている。前記ループ部16の頂部(開き防止用鉄筋15の橋軸方向に対してプレキャスト床版1Aの接合端面側の頂部)は、コンクリートのかぶり厚さの分だけ接合端面(雌継手3の前側縦溝5が形成された端面)より後側に位置している。
【0050】
図3に示されるように、前記雌継手3と前記開き防止用鉄筋15との水平方向の離隔距離Lは、開き防止用鉄筋15によって雌継手3の前側縦溝5の開きが確実に防止できるように、5~40mm、好ましくは8~25mmとするのがよい。
【0051】
前記開き防止用鉄筋15は、
図1に示される例では、隣接する雌継手3、3の間に1本のみ配置され、これがその両側に配置されたそれぞれの雌継手3の側方に配置された開き防止用鉄筋15を兼用するようになっている。一方、図示しないが、雌継手3、3…の水平方向の配置間隔が大きい場合には、各雌継手3の両側にそれぞれ別々に1本ずつ開き防止用鉄筋15を配置することにより、隣接する雌継手3、3間に2本の開き防止用鉄筋15、15が配置されるようにしてもよい。
【0052】
前記雌継手3の埋設部近傍の床版躯体内には、
図1に示されるように、前記雌継手3の後側に連結される橋軸方向鉄筋12や開き防止用鉄筋15の他に、橋軸方向補強筋、橋軸直角方向補強筋、橋軸直角方向PC鋼線などを十字方向に配設して堅固に補強を行うようにしてもよい。
【0053】
次に、前記他方側のプレキャスト床版1Bに設けられた雄継手4について、
図8及び
図9に基づいて詳述する。
【0054】
前記雄継手4は、接合面より橋軸方向鉄筋8の先端が外部に突出形成されるとともに、これら橋軸方向鉄筋8の先端に定着部材9が設置されたものである。図示の例では、前記定着部材9は、前記橋軸方向鉄筋8より大径のナット又は円形の定着板などによって構成されている。前記定着部材9は、橋軸方向鉄筋8の先端に溶接によることなく、例えば摩擦圧接や螺合などによって固定されている。溶接を用いていないため、疲労損傷の懸念がなくなる。
【0055】
図8に示されるように、前記雄継手4は、水平方向に所定の間隔で、上下方向に少なくとも2段配置で設けられ、同じ雌継手3の前側溝型係合部6に上下方向に離隔して配置されるようになっている(
図2参照)。前記橋軸方向鉄筋8の直径は、概ねD16~D22程度とされ、かつ前記雌継手3の前側縦溝5の幅より小さくなっている。
図10に示されるように、前記雄継手4を前記雌継手3の前記前側溝型係合部6に上下方向から挿入させることによりプレキャスト床版1A、1B同士が接続される。
【0056】
前記橋軸方向鉄筋8の埋設部近傍の床版躯体内には、
図1に示されるように、橋軸方向鉄筋8の他に、橋軸方向補強筋、橋軸直角方向補強筋、橋軸直角方向PC鋼線などを十字方向に配設して堅固に補強を行うようにしてもよい。
【0057】
(床版1の結合要領)
上記形態例では、一方側のプレキャスト床版1Aの接合端面に雌継手3が設けられ、他方側のプレキャスト床版1Bの接合端面に雄継手4が設けられているとして説明を行ったが、プレキャスト床版を3連以上の接合する場合には、
図10に示されるように、1つの矩形のプレキャスト床版1の対向する一方側の面に雌継手3が設けられ、対向する他方側の面に雄継手4が設けられ、各プレキャスト床版を順に接合していく手順でプレキャスト床版1,1…が設置される。
【0058】
具体的には、
図10及び
図11(A)に示されるように、設置済みの先行するプレキャスト床版1の雌継手3に対して、次順の後行するプレキャスト床版1の雄継手4を上側から鉛直方向に落とし込むようにしながらプレキャスト床版1を設置し両者の位置合わせを行う(
図11(B))。前記雌継手3と雄継手4との連結は、
図11(B)に示されるように、雌継手3の前側縦溝5に雄継手4の定着部材9を係合させた状態、すなわち定着部材9を雌継手3の前側溝型係合部6の内部に位置決めするとともに、橋軸方向鉄筋8を前側縦溝5に挿通させた状態として両プレキャスト床版1、1を結合した状態とする。本願発明は、前側溝型係合部6を備えた雌継手3と、雄継手4を備えた橋軸方向鉄筋8とによる単純な嵌合構造としたため、誤差の許容値が大きく、製作誤差及び施工誤差を吸収して位置合わせが容易に行えるようになっている。
【0059】
次に、
図11(C)に示されるように、前記前側溝型係合部6の内部空間IS、前側溝型係合部6の上部側空間US及び一方側のプレキャスト床版と他方側のプレキャスト床版との間隙部分Mにグラウト材17を充填する。なお、前記グラウト材17に代えて、コンクリートを充填するようにしてもよい。
【0060】
このようにして設置した後行するプレキャスト床版1の前記雄継手4が備えられた端面と反対側の端面には、前記雌継手3が備えられており、同様にして、次順の後行するプレキャスト床版1が設置される。プレキャスト床版を3連以上接合する場合には、1つのプレキャスト床版の橋軸方向のほぼ全長に亘って連続する橋軸方向鉄筋が配置され、この橋軸方向鉄筋は、一方がプレキャスト床版1の接合端面から突出して先端に雄継手4が設けられる前記橋軸方向鉄筋8を構成するとともに、他方が先端に前記雄型定着部14が設けられ、雌継手3の後側溝型係合部11に係合される前記橋軸方向鉄筋12を構成している。
【0061】
〔第2形態例〕
上記第1形態例では、前記開き防止用鉄筋15がコンクリートに埋設されていたが、
図12~
図14に示されるように、開き防止用鉄筋15の先端が一方側のプレキャスト床版1Aの接合端面から突出しており、他方側のプレキャスト床版1Bの接合端面から突出する鉄筋20の先端が前記開き防止用鉄筋15に隣接して配置された状態で、グラウト材17が充填されるようにしてもよい。
【0062】
一方側のプレキャスト床版1Aの接合端面には、雌継手3の前側溝型係合部6及びその両側に配置された開き防止用鉄筋15、15の先端が突出して配置された凹部21が形成されている。この凹部21は、
図13(A)及び
図14(A)に示されるように、プレキャスト床版1Aの上下面を貫通して床版躯体部を構成するコンクリートが存在しない領域である。この凹部21内には、凹部の底面(接合端面)から突出する雌継手3の前側溝型係合部6及び開き防止用鉄筋15の先端が配置されている。
【0063】
一方側のプレキャスト床版1Aにおいて、橋軸方向に沿うとともに橋軸直角方向に所定の間隔で配置された橋軸方向鉄筋12、12…のうち、1本おきの橋軸方向鉄筋12の先端に前記雌継手3が連結され、その間の橋軸方向鉄筋12の先端には雄型定着部14が設けられるだけで雌継手3は連結されないようになっている。雌継手3が設けられない橋軸方向鉄筋12は、雌継手3が設けられた橋軸方向鉄筋12より接合端面側に延在して配置されるとともに、先端が橋軸直角方向に隣り合う前記凹部21、21の間において相対的に接合端面側に突出する凸部22内に延在して配置されるようになっている。
【0064】
前記開き防止用鉄筋15の突出端部(前記ループ部16の頂部)は、雌継手3の突出側の端部とほぼ同等の位置まで延びている。また、これら開き防止用鉄筋15及び雌継手3の突出側の端部は、前記凸部22の接合端面とほぼ一致する位置に配置されている。
【0065】
他方側のプレキャスト床版1Bにおいても同様に、橋軸方向に沿うとともに橋軸直角方向に所定の間隔で配置された橋軸方向鉄筋8、8…のうち、前記一方側のプレキャスト床版1Aの雌継手3が配置された鉄筋に対応する1本おきの橋軸方向鉄筋8の先端が外部に突出形成され前記雄継手4が設けられる一方で、その間の橋軸方向鉄筋8の先端は他方側のプレキャスト床版1Bから突出せずにコンクリートに埋設されている。この外部に突出しない橋軸方向鉄筋8の先端にも、外部に突出して雄継手4を形成する橋軸方向鉄筋8と同様に、相対的に大径の定着部材9が設置されている。
【0066】
外部に突出形成された橋軸方向鉄筋8の両側にはそれぞれ、前記雄継手4を雌継手3に連結した状態で、一方側のプレキャスト床版1Aの端面から突出形成された開き防止用鉄筋15に隣接して配置される鉄筋20が突出形成されている。前記鉄筋20としては、前記開き防止用鉄筋15と同様に、突出端が上下方向に沿うループ状に形成されたループ部23が備えられた略U字状の鉄筋が用いられる。前記鉄筋20のループ部23は、
図15に示されるように、前記雄継手4を雌継手3に連結した状態で、前記開き防止用鉄筋15のループ部16とクロスするように配置されるとともに、水平方向に雌継手3と重なる位置に配置されるようになっている。これにより、前記開き防止用鉄筋15及び鉄筋20によって、前側縦溝5の開き方向の側部が補強され、前側縦溝5の開きがより確実に防止できる。前記鉄筋20の突出側の端部は、先端に雄継手4が設けられた橋軸方向鉄筋8の先端とほぼ同等又はこれより外側に突出するように配置するのが好ましい。
【0067】
前記鉄筋20は、各開き防止用鉄筋15に対して、一定のがわの側部に隣接して配置されるようになっている。これにより、後行する床版を落とし込む際、開き防止用鉄筋15と鉄筋20との干渉が生じにくくなり、雄継手4と雌継手3とが係合しやすくなる。
【0068】
本第2形態例では、プレキャスト床版1A、1Bの結合において、先行するプレキャスト床版1Aの雌継手3に対して、後行するプレキャスト床版1Bの雄継手4を係合するとともに、開き防止用鉄筋15に隣接して鉄筋20を配置した後、前記前側溝型係合部6の内部空間ISと、前側溝型係合部6の周囲の空間、即ち前側溝型係合部6の上部空間US、側部空間及び下部空間と、プレキャスト床版同士の間隙部分Mとにグラウト材17を充填する。
【0069】
一方側のプレキャスト床版1Aの接合端面に設けられた凹部21には、上述のように、上下方向に貫通して躯体部分のコンクリートが配置されないようにしてもよいし、雌継手3より下側に床版の躯体部分から延在してコンクリートの底部が配置されるようにしてもよい。
【0070】
〔第3形態例〕
第3形態例では、
図16に示されるように、雌継手3の外面に定着用の凹凸部が設けられるようになっている。具体的には、雌継手3の外面に、所定の方向に延びる凸条24又は凹条25が、該凸条24又は凹条25の延びる方向と直交する方向に間隔を空けて複数形成されている。前記凸条24は、
図17に示されるように、相対的に外側に突出した断面略台形状の部位であり、水平方向又は上下方向に延びる線状又は帯状に形成されている。また、前記凹条25は、
図18に示されるように、相対的に窪んだ断面略台形状の部位であり、水平方向又は上下方向に延びる線状又は帯状に形成されている。
【0071】
前記凸条24及び凹条25は、前記雌継手3の各外面のうち、いずれの面に形成するか任意であるが、前記前側縦溝5が形成されるプレキャスト床版1Aの接合端面となる面には凹条25を形成し、上面を除くその他の面には凸条24を形成するのが好ましい。また、上面には凸条及び凹条をいずれも形成しないのが好ましい。雌継手3の前側の端面に凸部を形成した場合には、床版製作時に型枠に当たるとともに、据付け時に他方側のプレキャスト床版1Bとの間の隙間を侵すという問題が生じるため、これらの問題が生じない前記凹条25を形成するのが好ましい。
【0072】
雌継手3の各外面に対して、前記凸条24又は凹条25が延びる方向は、任意であるが、
図16に示されるように、前記前側縦溝5及び後側縦溝10が形成された両端面及び底面では水平方向に延び、両側面では上下方向に延びるように形成するのが好ましい。これにより、雌継手3を前側縦溝5及び後側縦溝10の溝幅の中央部を通る中心線CL(
図16(B))で幅方向に2分割した金型を用いて金型鋳造法によって製造する際、前記前側縦溝5及び後側縦溝10が形成された両端面及び底面における2分割した金型の幅方向への抜き易さを確保しつつ、両側面及び底面において橋軸方向に作用する引張力に対する雌継手3の定着強度を高めることができるようになる。
【0073】
また、前記前側溝型係合部6及び後側溝型係合部11の内面にはそれぞれ、
図16(F)に示されるように、内側に突出する複数の凸部26、26…を形成するのが好ましい。前記凸部26は山形断面からなる離散的な突起部であり、内面のうち、雌継手3の両側面に対向する面にそれぞれ設けられている。前記凸部26…を設けることにより、前側溝型係合部6における雄継手4及び後側溝型係合部11における雄型定着部14の定着性が向上する。上下方向の中間部に設けられた凸部26は、中央部に頂点を有し、外側に向けて徐々に高さが低くなる山形に形成するのが好ましい。また、上端部にも凸部26を設けるのが好ましく、この上端部に設けられた凸部26は、中間部に設けられた凸部26を頂部で上下方向に切断した下半部分によって形成され、上下方向の切断面が雌継手3の上面と面一に配置され、この端面から下側に向けて徐々に高さが低くなる形状で形成されるのが好ましい。前記前側溝型係合部6及び後側溝型係合部11の内面の上端部に、上端縁に頂部を有する形状の凸部26が配置されることにより、前記前側溝型係合部6及び後側溝型係合部11に充填されたコンクリート又はグラウト材17の定着性が更に良好になる。
【0074】
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、雄継手4を上方側から嵌合させる施工手順としていたが、これとは逆に、雌継手3を上方側から嵌合させる施工手順とする場合、雌継手3の下方側に開放空間を設け、前側縦溝5が下端縁から上方に連続して延びるように形成してもよい。この場合、グラウト材17の充填空間は、雌継手3の内部空間IS、雌継手3の下部側空間及び間隙部分Mとなる。
【0075】
(2)上記形態例では、前側溝型係合部6が有底の上面が開放した箱形に形成されていたが、上面及び下面が共に開放した上下方向に貫通した溝型断面で形成してもよい。この場合、前側溝型係合部6の上面及び下面を共に開放空間としておき、雄継手4を結合させた後、前側溝型係合部6の上部側空間US及び下部側空間の両方にそれぞれグラウト材17を充填する。
【0076】
(3)上記形態例では、コンクリート製プレキャスト床版を例に挙げ説明したが、それ以外のコンクリート製プレキャスト部材同士を接合する継手構造にも用いることができる。
【符号の説明】
【0077】
1・1A・1B…コンクリート製プレキャスト床版、2…継手部、3…雌継手4…雄継手、5…前側縦溝、6…前側溝型係合部、8…橋軸方向鉄筋、9…定着部材、10…後側縦溝、11…後側溝型係合部、12…橋軸方向鉄筋、13…定着部材、14…雄型定着部、15…開き防止用鉄筋、16…ループ部、17…グラウト材、20…鉄筋、21…凹部、22…凸部、23…ループ部、24…凸条、25…凹条、IS…溝型断面部の内部空間、US…溝型断面部の上部側空間、M…間隙部分