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特許7254399プログラム、出力装置及びデータ処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】プログラム、出力装置及びデータ処理方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/361 20210101AFI20230403BHJP
   A61B 5/339 20210101ALI20230403BHJP
【FI】
A61B5/361
A61B5/339
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022524975
(86)(22)【出願日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 JP2021047643
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2021085848
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519409257
【氏名又は名称】株式会社カルディオインテリジェンス
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】田村 雄一
(72)【発明者】
【氏名】高田 智広
(72)【発明者】
【氏名】谷口 浩久
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-224069(JP,A)
【文献】特開2008-237882(JP,A)
【文献】国際公開第2020/047750(WO,A1)
【文献】特開2017-042386(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0059763(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24 - 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
心臓筋肉の電気的活動にともなう活動電位の時間変化を測定した全体心電図データに含まれる、細動波が含まれる一以上の細動波心電図データを取得するステップと、
前記細動波が明瞭である(心電図においてQ波、R波、S波又はT波を除去することにより細動波が明瞭になったものを除く)と医師が判定した心電図データと、前記細動波を含み且つ当該細動波が不明瞭であると前記医師が判定した心電図データとを教師データとして用いて、前記細動波が明瞭な心電図データ(心電図においてQ波、R波、S波又はT波を除去することにより細動波が明瞭になったものを除く)を出力し、前記細動波を含み且つ当該細動波が不明瞭な心電図データを出力しないように学習した第1機械学習モデルに対し、前記一以上の細動波心電図データを入力し、前記第1機械学習モデルから前記細動波が明瞭であると判定された心電図データとして出力された明瞭心電図データを取得するステップと、
前記明瞭心電図データを出力するステップと、
を実行させるプログラム。
【請求項2】
前記一以上の細動波心電図データを取得するステップにおいて、前記全体心電図データを分割した複数の分割心電図データを生成し、複数の心電図データを、細動波が含まれる前記心電図データと細動波が含まれない前記心電図データとに分類する第2機械学習モデルに対し、生成した前記複数の分割心電図データを入力し、前記第2機械学習モデルから出力された細動波が含まれる心電図データとして出力された一以上の細動波心電図データを取得する、
請求項1に記載のプログラム。
【請求項3】
取得した前記明瞭心電図データを周波数解析することにより、細動波に対応する周波数範囲の信号の有無を判定するステップをさらに有し、
前記出力するステップにおいて、細動波に対応する周波数範囲の信号が存在すると判定した前記明瞭心電図データを出力する、
請求項1又は2に記載のプログラム。
【請求項4】
心臓筋肉の電気的活動にともなう活動電位の時間変化を測定した全体心電図データに含まれる、細動波が含まれる一以上の細動波心電図データを取得する第1取得部と、
前記細動波が明瞭である(心電図においてQ波、R波、S波又はT波を除去することにより細動波が明瞭になったものを除く)と医師が判定した心電図データと、前記細動波を含み且つ当該細動波が不明瞭であると前記医師が判定した心電図データとを教師データとして用いて、前記細動波が明瞭な心電図データ(心電図においてQ波、R波、S波又はT波を除去することにより細動波が明瞭になったものを除く)を出力し、前記細動波を含み且つ当該細動波が不明瞭な心電図データを出力しないように学習した第1機械学習モデルに対し、前記一以上の細動波心電図データを入力し、前記第1機械学習モデルから前記細動波が明瞭であると判定された心電図データとして出力された明瞭心電図データを取得する第2取得部と、
前記第2取得部が取得した前記明瞭心電図データを出力する出力部と、を備える、
出力装置。
【請求項5】
コンピュータが実行する、
心臓筋肉の電気的活動にともなう活動電位の時間変化を測定した全体心電図データに含まれる、細動波が含まれる一以上の細動波心電図データを取得するステップと、
前記細動波が明瞭である(心電図においてQ波、R波、S波又はT波を除去することにより細動波が明瞭になったものを除く)と医師が判定した心電図データと、前記細動波を含み且つ当該細動波が不明瞭であると前記医師が判定した心電図データとを教師データとして用いて、前記細動波が明瞭な心電図データ(心電図においてQ波、R波、S波又はT波を除去することにより細動波が明瞭になったものを除く)を出力し、前記細動波を含み且つ当該細動波が不明瞭な心電図データを出力しないように学習した第1機械学習モデルに対し、前記一以上の細動波心電図データを入力し、前記第1機械学習モデルから前記細動波が明瞭であると判定された心電図データとして出力された明瞭心電図データを取得するステップと、
前記明瞭心電図データを出力するステップと、
を有するデータ処理方法。
【請求項6】
前記明瞭心電図データを取得するステップの前に、
細動波が含まれている複数の心電図データである複数の学習用心電図データを取得するステップと、
前記複数の学習用心電図データを、細動波が明瞭であると医師が判定した学習用明瞭心電図データと、細動波を含み且つ当該細動波が不明瞭であると前記医師が判定した学習用不明瞭心電図データとに分類する指示を受け付けるステップと、
複数の前記学習用明瞭心電図データと、複数の前記学習用不明瞭心電図データと、を教師データとして用いて、前記細動波が明瞭であると医師が判定した心電図データと、前記細動波を含み且つ当該細動波が不明瞭であると前記医師が判定した心電図データとのうち、前記細動波が明瞭な心電図データを出力し、前記細動波を含み且つ当該細動波が不明瞭な心電図データを出力しないように学習した機械学習モデルを生成するステップと、を備える、
請求項5に記載のデータ処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心電図を解析するためのプログラム、出力装置及びデータ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発作性心房細動等の心臓疾患の診断のために、長時間の心電図の検査が必要になることがある。心電図は、24時間で10万波形におよぶため、特に循環器の専門医ではない医師には長時間の心電図を精査することは負担が大きい。特許文献1には、モニタリングされた心電図(ECG)サンプルに専門医による応急精査を行うためのフラグを付けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2019-502426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術では、応急精査を行うためのフラグが付された心電図サンプルを精査のために循環器の専門医に伝達する。しかしながら、この心電図サンプルは、心臓疾患の典型的な特徴を示す心電図の例とは異なることがある。このため、循環器の専門医ではない医師は、この心電図サンプルを心臓疾患であると判断するための根拠として利用することができないことがあった。
【0005】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、患者が心臓疾患であると医師が判断するための根拠となる心電図の波形を医師が把握できるようにすることができるプログラム、出力装置及びデータ処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様のプログラムは、コンピュータに、心臓筋肉の電気的活動にともなう活動電位の時間変化を測定した全体心電図データに含まれる、細動波が含まれる一以上の細動波心電図データを取得するステップと、前記細動波が含まれる複数の心電図データを、前記細動波が明瞭な心電図データと前記細動波が不明瞭な心電図データとに分類する第1機械学習モデルに対し、前記一以上の細動波心電図データを入力し、前記第1機械学習モデルから前記細動波が明瞭な前記心電図データとして出力された明瞭心電図データを取得するステップと、前記明瞭心電図データを出力するステップと、を実行させる。
【0007】
前記一以上の細動波心電図データを取得するステップにおいて、前記全体心電図データを分割した複数の分割心電図データを生成し、複数の心電図データを、細動波が含まれる前記心電図データと細動波が含まれない前記心電図データとに分類する第2機械学習モデルに対し、生成した前記複数の分割心電図データを入力し、前記第2機械学習モデルから出力された細動波が含まれる心電図データとして出力された一以上の細動波心電図データを取得してもよい。
【0008】
前記出力するステップにおいて、前記明瞭心電図データにおける複数のR波の間の時間領域に、細動波が含まれることを示す画像データを重ねた状態で前記明瞭心電図データを出力してもよい。前記出力するステップにおいて、前記明瞭心電図データにおけるQ波が開始するタイミングの前の所定期間内の時間領域に、細動波が含まれることを示す画像データを重ねた状態で出力してもよい。前記出力するステップにおいて、前記明瞭心電図データにおけるT波が終了するタイミングからQ波が開始するタイミングまでの間の時間領域に、前記細動波が含まれることを示す前記画像データを重ねた状態で出力してもよい。
【0009】
前記プログラムは、取得した前記明瞭心電図データを周波数解析することにより、細動波に対応する周波数範囲の信号の有無を判定するステップをさらに有し、前記出力するステップにおいて、細動波に対応する周波数範囲の信号が存在すると判定した前記明瞭心電図データを出力してもよい。
【0010】
本発明の第2の態様の出力装置は、心臓筋肉の電気的活動にともなう活動電位の時間変化を測定した全体心電図データに含まれる、細動波が含まれる一以上の細動波心電図データを取得する第1取得部と、前記細動波が含まれる複数の心電図データを、前記細動波が明瞭な心電図データと前記細動波が不明瞭な心電図データとに分類する第1機械学習モデルに対し、前記一以上の細動波心電図データを入力し、前記第1機械学習モデルから前記細動波が明瞭な前記心電図データとして出力された明瞭心電図データを取得する第2取得部と、前記第2取得部が取得した前記明瞭心電図データを出力する出力部と、を備える。
【0011】
本発明の第3の態様のデータ処理方法は、コンピュータが実行する、心臓筋肉の電気的活動にともなう活動電位の時間変化を測定した全体心電図データに含まれる、細動波が含まれる一以上の細動波心電図データを取得するステップと、前記細動波が含まれる複数の心電図データを、前記細動波が明瞭な心電図データと前記細動波が不明瞭な心電図データとに分類する第1機械学習モデルに対し、前記一以上の細動波心電図データを入力し、前記第1機械学習モデルから前記細動波が明瞭な前記心電図データとして出力された明瞭心電図データを取得するステップと、前記明瞭心電図データを出力するステップと、を有する。
【0012】
前記データ処理方法は、前記明瞭心電図データを取得するステップの前に、細動波が含まれている複数の心電図データである複数の学習用心電図データを取得するステップと、前記複数の学習用心電図データを、細動波が明瞭な学習用明瞭心電図データと、細動波が不明瞭な学習用不明瞭心電図データとに分類する指示を受け付けるステップと、複数の前記学習用明瞭心電図データと、複数の前記学習用不明瞭心電図データと、を教師データとして学習することにより、前記細動波が含まれる複数の心電図データを、前記細動波が明瞭な心電図データと前記細動波が不明瞭な心電図データとに分類する機械学習モデルを生成するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、患者が心臓疾患であると医師が判断するための根拠となる心電図の波形を医師が把握できるようにすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態の心電図出力システムの概要を説明するための図である。
図2】出力装置の構成を示す図である。
図3】全体心電図データ及び分割心電図データの例を示す図である。
図4】細動波を含む心電図の例を示す図である。
図5】出力部による明瞭心電図データの出力の例を示す図である。
図6】出力装置による表示用機械学習モデルの生成の処理手順を示すフローチャートである。
図7】出力装置による明瞭心電図データの出力の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[心電図表示システムSの概要]
図1は、本実施形態の心電図出力システムSの概要を説明するための図である。心電図出力システムSは、心房細動が生じている可能性がある患者Uの心電図を用いて医師が患者を診断しやすくするためのシステムである。心電図表示システムSは、心電計1と、医師端末2と、出力装置3とを備える。
【0016】
心電計1は、例えば、患者Uが装着するホルター心電計である。心電計1は、患者Uの心臓筋肉の電気的活動にともなう活動電位の時間変化を測定した全体心電図データを生成する。心電計1は、無線通信回線を含むネットワークNを介して、生成した全体心電図データを出力装置3に送信する。全体心電図データには、全体心電図データの測定時刻を示す時刻情報が関連付けられている。心電計1が生成した全体心電図データは、ネットワークNを介することなく、例えば記憶媒体を用いて出力装置3に届けられてもよい。
【0017】
医師端末2は、医師が使用する端末であり、例えばディスプレイ及びコンピュータを含む。医師端末2は、心電計1において生成された全体心電図データのうち、出力装置3から受信した一部の心電図データに基づく波形画像をディスプレイに出力する。
【0018】
出力装置3は、例えばサーバである。出力装置3は、患者Uの心臓において心房細動が生じているか否かの医師の診断を支援する情報を出力する。出力装置3は、心電計1又は医師端末2から患者Uの全体心電図データを受信する。出力装置3は、受信した全体心電図データを分割した複数の分割心電図データを生成する。出力装置3は、複数の分割心電図データのうち、心房細動に特有の細動波が含まれている複数の細動波心電図データを取得する。
【0019】
出力装置3は、細動波を含む複数の心電図データを、細動波が明瞭な心電図データと細動波が不明瞭な心電図データとに分類するための学習済みの表示用機械学習モデル(第1機械学習モデルに相当)を記憶部から読み出す。機械学習モデルの内部構成は任意であるが、例えばCNN(Convolutional Neural Network、畳み込みニューラルネットワーク)により構成されている。
【0020】
出力装置3は、取得した複数の細動波心電図データを学習済みの表示用機械学習モデルに入力し、細動波が明瞭な心電図データとして表示用機械学習モデルが出力した明瞭心電図データを取得する。出力装置3は、取得した明瞭心電図データを医師端末2に出力する。このようにして、出力装置3は、患者Uの心臓において心房細動が生じていると医師が判断するための根拠を示す心電図の波形を医師が把握できるようにすることができる。
【0021】
また、出力装置3は、医師端末2と別のコンピュータである例に限定されない。例えば、出力装置3は、医師端末2と同じコンピュータであってもよい。以下、出力装置3の構成及び動作を詳細に説明する。
【0022】
[出力装置3の構成]
図2は、出力装置3の構成を示す図である。出力装置3は、通信部31と、判定用機械学習部32と、表示用機械学習部33と、記憶部34と、制御部35とを有する。制御部35は、第1取得部351と、第2取得部352と、判定部353と、出力部354と、受付部355と、生成部356と、を有する。
【0023】
通信部31は、ネットワークNを介して心電計1及び医師端末2との間でデータを送受信するための通信コントローラを有する。通信部31は、ネットワークNを介して受信したデータを制御部35に通知する。
【0024】
判定用機械学習部32は、教師データとして用いられる学習用心電図データに基づいて学習することにより、入力された複数の心電図データを、細動波が含まれる心電図データと細動波が含まれない心電図データとに分類することができる判定用機械学習モデル(第2機械学習モデルに相当)として機能する。判定用機械学習部32は、例えば、CNNを用いて各種の演算を実行するプロセッサと、CNNの係数を記憶するメモリと、を含んでいる。判定用機械学習部32は、入力された心電図データを、細動波が含まれる心電図データと細動波が含まれない心電図データとに分類してそれぞれ出力する。
【0025】
表示用機械学習部33は、教師データとして用いられる学習用心電図データに基づいて学習することにより、入力された細動波を含む複数の心電図データを、細動波が明瞭な心電図データと細動波が不明瞭な心電図データとに分類することができる上述の表示用機械学習モデルとして機能する。表示用機械学習部33は、例えば、CNNを用いて各種の演算を実行するプロセッサと、CNNの係数を記憶するメモリと、を含んでいる。表示用機械学習部33は、入力された細動波を含む複数の心電図データを、細動波が明瞭な心電図データと細動波が不明瞭な心電図データとに分類してそれぞれ出力する。
【0026】
記憶部34は、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及びハードディスク等の記憶媒体を含む。記憶部34は、制御部35が実行するプログラムを記憶する。また、記憶部34は、制御部35が各種の演算を実行する際に必要な各種のデータを記憶する。
【0027】
制御部35は、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。制御部35は、記憶部34に記憶されたプログラムを実行することにより、第1取得部351、第2取得部352、判定部353、出力部354、受付部355及び生成部356として機能する。
【0028】
第1取得部351は、通信部31を介して、心電計1と通信する。第1取得部351は、心臓筋肉の電気的活動にともなう活動電位の時間変化を測定した全体心電図データを心電計1から取得する。第1取得部351は、取得した全体心電図データに含まれる心電図データのうち、細動波が含まれる一以上の細動波心電図データを取得する。まず、第1取得部351は、取得した全体心電図データを複数の分割心電図データに分割する。例えば、第1取得部351は、全体心電図データを分割した複数の分割心電図データを生成する。
【0029】
図3は、全体心電図データ及び分割心電図データの例を示す図である。上側に全体心電図データに含まれる全体心電図を示し、下側に分割心電図データに含まれる分割心電図を示す。全体心電図は、患者Uの心臓の筋肉の活動電位の時間変化を所定の測定時間にわたって測定した測定結果を示す。測定時間は、一例としては24時間である。分割心電図データは、全体心電図データを分割したものである。例えば、全体心電図データが示す電位が閾値以下の状態から閾値を超える状態になる立ち上がりの位置ごとに全体心電図データを分割する。閾値は、例えば、R波以外のピークとして想定される値よりも低く、且つ、R波以外の波のピークよりも高いと想定される値である。また、分割心電図データは、全体心電図データを所定時間長に分割したものであってもよい。所定時間長は、例えば、心電図データに含まれるR波の一周期又は数周期に相当する時間である。図3の分割心電図中の右端及び左端のRは、それぞれR波の一部を示す。
【0030】
第1取得部351は、複数の分割心電図データのうち、細動波が含まれる一以上の細動波心電図データを取得する。図4(a)から図4(c)は、細動波を含む心電図の例を示す図である。図4(a)は、正常な心電図を示す。図4(b)は、細動波を含む心電図においてT波が明瞭な例を示す。図4(c)は、細動波を含む心電図においてT波が明瞭でない例を示す。図4(a)の縦軸は電位を示し、図4(a)の横軸は時間を示す。図4(a)中のP、Q、R、S、Tは、それぞれP波、Q波、R波、S波及びT波を示す。図4(a)に示すように、正常な心電図では、P波、Q波、R波、S波及びT波は、一定の周期でそれぞれ繰り返す。図4(a)に示す正常な心電図には、細動波は含まれていない。
【0031】
図4(b)中のfは、細動波を示す。図4(b)の例では、心電図に細動波が含まれているため、患者Uの心臓において心房細動が生じていることが分かる。図4(b)に示すように、心房細動を生じている状態の心電図では、P波の消失がみられ、R波等の周期が不規則になる。図4(b)の例では、明瞭なT波がみられる。図4(c)は、図4(b)と同様に、細動波を含む心電図の例を示す。図4(c)の例では、T波が明瞭でない点において図4(b)の例と異なる。図4(c)に示す心電図においてもP波の消失がみられ、R波等の周期が不規則になる。
【0032】
本明細書の例では、第1取得部351は、判定用機械学習モデル(第2機械学習モデルに相当)として機能する判定用機械学習部32に複数の分割心電図データを入力し、判定用機械学習部32から細動波が含まれる心電図データとして出力された一以上の細動波心電図データを取得する。第1取得部351は、取得した一以上の細動波心電図データを第2取得部352へ出力する。
【0033】
[細動波が明瞭な心電図データの取得]
第2取得部352は、第1取得部351が取得した一以上の細動波心電図データのうち、細動波が明瞭な明瞭心電図データを取得する。本明細書の例では、第2取得部352は、表示用機械学習モデルとして機能する表示用機械学習部33に対し、一以上の細動波心電図データを入力し、表示用機械学習部33から細動波が明瞭な心電図データとして出力された明瞭心電図データを取得する。
【0034】
このとき、第2取得部352は、細動波心電図データを表示用機械学習部33に入力する代わりに、細動波心電図データから細動波とは異なる波を除去した修正細動波心電図データを表示用機械学習部33に入力してもよい。例えば、第2取得部352は、P波、Q波、R波、S波、T波(図4(a)から図4(c)参照)の一つ以上を除去することにより修正細動波心電図データを生成する。第2取得部352は、生成した一以上の修正細動波心電図データを表示用機械学習部33に入力する。
【0035】
例えば、第2取得部352は、細動波が含まれる心電図の波形から基準値以上の電位を有する波を除去することにより、修正細動波心電図データを生成する。基準値は、例えば、細動波のピークの電位として想定される値よりも高い。また、第2取得部352は、Q波、R波、S波及びT波等が生じた時間領域を特定し、この時間領域において心電図の電位をゼロとすることにより、細動波以外の波を除去した修正細動波心電図データを生成してもよい。
【0036】
例えば、第2取得部352は、電位が閾値以上である時間領域をR波が生じた時間領域として特定する。Q波、S波及びT波が生じた時間領域は、直前および直後のR波が生じた時間領域から推定することが可能である。第2取得部352は、特定した複数のR波が生じた時間領域に基づいて、Q波、S波及びT波が生じた時間領域をそれぞれ特定する。第2取得部352は、特定したQ波、R波、S波及びT波等が生じた時間領域においてそれぞれ心電図の電位をゼロとすることにより、修正細動波心電図データを生成してもよい。
【0037】
第2取得部352は、細動波とは異なる波をそれぞれ除去した一以上の修正細動波心電図データを表示用機械学習部33に入力し、表示用機械学習部33から細動波が明瞭な心電図データとして出力された修正細動波心電図データを取得する。第2取得部352は、細動波が明瞭な心電図データとして出力された修正細動波心電図データに基づいて、この修正細動波心電図データにおいて細動波とは異なる波を除去する前の細動波心電図データを細動波が明瞭な明瞭心電図データとして取得してもよい。
【0038】
判定部353は、第2取得部352が取得した明瞭心電図データを周波数解析することにより、細動波に対応する周波数範囲の信号の有無を判定する。周波数解析は、例えばフーリエ解析又はウェーブレット解析である。判定部353は、細動波に対応する周波数範囲の信号の有無を判定した判定結果を出力部354に通知する。
【0039】
[心電図データの出力]
出力部354は、通信部31を介して、医師端末2と通信する。出力部354は、第2取得部352が取得した明瞭心電図データを出力する。例えば、出力部354は、医師端末2のディスプレイに明瞭心電図データを出力する。出力部354は、第2取得部352が取得した明瞭心電図データにおける複数のR波の間の時間領域に、細動波が含まれることを示す画像データを重ねた状態で明瞭心電図データを出力する。
【0040】
図5は、出力部354による明瞭心電図データの出力の例を示す図である。図5に示す画像は、医師端末2のディスプレイDに出力される。図5中の心電図においてRは、R波を示す。出力部354は、複数のR波の間の時間領域に細動波が含まれることを示す画像データMを表示する。図5の例では、画像データMとして楕円の太枠を示す。
【0041】
心房細動が生じている状態では、R波の周期が不規則に増減する。このため、図5の例では、出力部354は、R波の周期に応じて、時間方向の大きさが異なる画像データMを表示する。例えば、出力部354は、R波の周期が所定値より小さい場合には、時間方向の大きさが第1サイズの画像データMを表示する。出力部354は、R波の周期が所定値以上である場合には時間方向の大きさが第2サイズの画像データMを表示する。第2サイズは、第1サイズより大きい。図5の例では、出力部354は、画像データMとともに、画像データMが細動波の位置に対応していることを示すメッセージ「f波が存在します。」を出力する。
【0042】
心房細動が生じている状態では、細動波は心電図のほぼどの時間帯領域にも存在する。しかしながら、QRSやT波等の他の波と重なっているタイミングでは、細動波は明瞭ではない。特に、R波は他の波と比べてピークの電位が大きいため、複数のR波の間の位置において細動波が明瞭になることが多い。このため、出力部354は、複数のR波の間の時間領域に、細動波が含まれることを示す画像データMを重ねた状態で出力する。一例としては、出力部354は、複数のR波の中間位置を含む時間領域に画像データMを重ねた状態で出力する。このようにして、出力部354は、明瞭な細動波が含まれる時間領域を医師が把握し易くすることができる。
【0043】
心房細動が生じている状態では、心電図においてP波の消失がみられる。通常、P波は、R波及びT波と同時に発生することはないので、P波が消失した時間領域には、R波及びT波も発生しない。このため、細動波は、この時間領域において明瞭になる。
【0044】
出力部354は、心房細動が生じていないとすればP波が生じるはずの時間領域を特定し、特定した時間領域に明瞭細動波が含まれることを示す画像データMを表示してもよい。P波は、Q波の前に発生するため、出力部354は、Q波が開始するタイミングの前の所定期間内の時間領域に画像データMを重ねた状態で出力してもよい。所定時間は、例えば、仮にP波が消失していないとすれば画像データMがP波の領域を含むように定められる。また、心房細動が生じていない正常な心電図データでは、P波は、T波が終了するタイミングからQ波が開始するタイミングまでの間に発生する(図4(a)参照)。このため、出力部354は、心電図データにおいてT波及びQ波の位置を特定し、T波が終了するタイミングからQ波が開始するタイミングまでの間に画像データMを重ねた状態で出力してもよい。
【0045】
また、出力部354は、第2取得部352が取得した明瞭心電図データのうち、細動波に対応する周波数範囲の信号が存在すると判定部353が判定した明瞭心電図データを出力してもよい。出力部354は、第2取得部352が取得した明瞭心電図データのうち、細動波に対応する周波数範囲の信号が存在しないと判定部353が判定した明瞭心電図データを出力しなくてもよい。このようにして、出力部354は、細動波が含まれていない明瞭心電図データを第2取得部352が誤って取得した場合に、この明瞭心電図データを出力しないようにすることができる。
【0046】
[表示用機械学習モデルの生成時の処理]
図2の説明に戻る。以下、第2取得部352が明瞭心電図データを取得する前の処理として、表示用機械学習モデルを生成するための機械学習時の処理について説明する。第1取得部351は、細動波が含まれている複数の心電図データである複数の学習用心電図データを取得する。このとき、第1取得部351は、複数のユーザUにそれぞれ装着された心電計1から複数の全体心電図データを取得する。第1取得部351は、複数の心電図データを細動波が含まれている心電図データと細動波が含まれていない心電図データとに分類する判定用機械学習部32を利用することにより、取得した複数の全体心電図データのうち、細動波が含まれている複数の学習用心電図データを取得するものとする。具体的には、第1取得部351は、全体心電図データを判定用機械学習モデルに入力し、判定用機械学習モデルが出力した細動波が含まれる複数の心電図データを、複数の学習用心電図データとして取得する。
【0047】
受付部355は、通信部31を介して、医師端末2と通信する。受付部355は、複数の学習用心電図データを、細動波が明瞭な学習用明瞭心電図データと、細動波が不明瞭な学習用不明瞭心電図データとに分類する指示を受け付ける。より詳しくは、受付部355は、第1取得部351が取得した複数の学習用心電図データを医師端末2のディスプレイに順に出力する。受付部355は、出力中の学習用心電図データを、細動波が明瞭な学習用明瞭心電図データと、細動波が不明瞭な学習用不明瞭心電図データとのいずれかに分類する医師の指示を医師端末2から学習用心電図データごとに受け付ける。受付部355は、複数の学習用心電図データのそれぞれに、細動波が明瞭な学習用明瞭心電図データであるか、細動波が不明瞭な学習用不明瞭心電図データであるかの医師の分類結果をラベル付けして記憶部34に記憶させる。
【0048】
判定部353は、第1取得部351が取得した複数の学習用心電図データを周波数解析することにより、細動波に対応する周波数範囲の信号の有無を判定してもよい。判定部353は、細動波に対応する周波数範囲の信号が含まれていないと判定した学習用心電図データを記憶部34から消去してもよい。このようにして、判定部353は、細動波に対応する周波数範囲の信号が含まれていないと判定した学習用心電図データが生成部356による機械学習に利用されないようにすることができる。
【0049】
生成部356は、細動波が含まれる複数の心電図データを、細動波が明瞭な心電図データと細動波が不明瞭な心電図データとに分類する表示用機械学習モデルを生成する。生成部356は、学習用明瞭心電図データとしてラベル付けされた複数の学習用心電図データと、学習用不明瞭心電図データとしてラベル付けされた複数の学習用心電図データとを教師データとする機械学習により、表示用機械学習モデルを生成する。このようにして、生成部356は、上述した表示用機械学習モデルを生成することができる。心電図表示システムSは、表示用機械学習モデルを生成する際に、細動波が明瞭であるかどうかを確認する医師に対して、判定用機械学習モデルが出力した細動波が含まれる複数の心電図データを送信するので、医師が確認するべき心電図データの数を絞り込むことができる。したがって、心電図表示システムSは、表示用機械学習モデルを短時間で作成することが可能になる。
【0050】
[表示用機械学習モデルの生成の処理手順]
図6は、出力装置3による表示用機械学習モデルの生成の処理手順を示すフローチャートである。この処理手順は、例えば、受付部355が表示用機械学習モデルの生成の指示を医師端末2から受け付けたときに開始する。
【0051】
第1取得部351は、細動波が含まれている複数の心電図データである複数の学習用心電図データを取得する(S101)。受付部355は、複数の学習用心電図データを、細動波が明瞭な学習用明瞭心電図データと、細動波が不明瞭な学習用不明瞭心電図データとに分類する指示を医師端末2から受け付ける(S102)。受付部355は、複数の学習用心電図データのそれぞれに、細動波が明瞭な学習用明瞭心電図データであるか、細動波が不明瞭な学習用不明瞭心電図データであるかを医師が分類した分類結果をラベル付けして記憶部34に記憶させる。生成部356は、学習用明瞭心電図データとしてラベル付けされた複数の学習用心電図データと、学習用不明瞭心電図データとしてラベル付けされた複数の学習用心電図データとを教師データとして機械学習させることにより、表示用機械学習モデルを生成し(S103)、処理を終了する。
【0052】
[明瞭心電図データの出力の処理手順]
図7は、出力装置3による明瞭心電図データの出力の処理手順を示すフローチャートである。この処理手順は、心臓筋肉の電気的活動にともなう活動電位の時間変化を測定した全体心電図データを心電計1から第1取得部351が取得したときに開始する。
【0053】
第1取得部351は、取得した全体心電図データに含まれる、細動波が含まれる一以上の細動波心電図データを取得する(S201)。第2取得部352は、表示用機械学習モデルとして機能する表示用機械学習部33に対し、一以上の細動波心電図データを入力し(S202)、表示用機械学習部33から細動波が明瞭な心電図データとして出力された明瞭心電図データを取得する(S203)。出力部354は、第2取得部352が取得した明瞭心電図データを医師端末2へ出力し(S204)、処理を終了する。
【0054】
[本実施形態の出力装置による効果]
第2取得部352は、取得した複数の細動波心電図データを学習済みの表示用機械学習モデルに入力し、細動波が明瞭な心電図データとして表示用機械学習モデルが出力した明瞭心電図データを取得する。出力部354は、特定した明瞭心電図データを医師端末2に出力する。このようにして、出力部354は、患者の心臓が心房細動を生じていると医師が判断するための根拠となる心電図の波形を医師が把握できるようにすることができる。
【0055】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0056】
1 心電計
2 医師端末
3 出力装置
31 通信部
32 判定用機械学習部
33 表示用機械学習部
34 記憶部
35 制御部
351 第1取得部
352 第2取得部
353 判定部
354 出力部
355 受付部
356 生成部
【要約】
コンピュータに、心臓筋肉の電気的活動にともなう活動電位の時間変化を測定した全体心電図データに含まれる、細動波が含まれる一以上の細動波心電図データを取得するステップと、細動波が含まれる複数の心電図データを、細動波が明瞭な心電図データと細動波が不明瞭な心電図データとに分類する第1機械学習モデルに対し、一以上の細動波心電図データを入力し、第1機械学習モデルから細動波が明瞭な心電図データとして出力された明瞭心電図データを取得するステップと、明瞭心電図データを出力するステップと、を実行させる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7