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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】生体対象物の処理装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230403BHJP
   C12M 1/02 20060101ALI20230403BHJP
   C12M 1/36 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
C12M1/00 D
C12M1/02 A
C12M1/36
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018238356
(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公開番号】P2020099209
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-07-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 三郎
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/020988(WO,A1)
【文献】特開2010-041960(JP,A)
【文献】特開2004-113092(JP,A)
【文献】特開2018-160218(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0032238(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外枠部分を構成し液体を収容可能な容器と、生体対象物及び液体を収容可能なウェルを有し前記容器内に配置されるウェルプレートとを備え、前記ウェルの底面に開口を有するチャンバーと、
前記容器の内面と前記ウェルプレートの下面とで囲まれる領域から、前記開口を通して前記ウェルに流体を送り、前記ウェル内の液体に液流を発生させるポンプ装置と、
前記液流の流速を増減するよう、前記ポンプ装置の動作を制御するポンプ制御部と、
前記ウェル内に収容された前記生体対象物を連続して撮像する撮像装置と、
前記撮像装置の動作を制御する撮像制御部と、
前記撮像装置が撮像した画像から、前記生体対象物の特徴部分を抽出する画像処理部と、
前記撮像装置による前記連続的な撮像によって得られた各画像における、前記特徴部分の表出状態から、前記生体対象物が一回転したか否かを判定するとともに、前記特徴部分の移動速度から前記生体対象物の回転速度を把握する判定部と、を備え、
前記ポンプ制御部は、前記ウェルの底面に接面している前記生体対象物を前記ウェル内の液体中で浮上させると共に一回転以上回転させることが可能な液流を、前記ポンプ装置に発生させ、且つ、当該生体対象物の回転速度の適正化のため前記液流の流速をコントロールし
前記撮像制御部は、前記ポンプ装置が前記液流を発生させている状態において、若しくは前記液流を発生させた後に該液流を停止させた状態において、前記撮像装置に前記ウェル内の生体対象物を撮像させる、生体対象物の処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の生体対象物の処理装置において、
前記ポンプ制御部は、前記生体対象物を前記ウェル内の液体中で浮上させると共に回転
させることが可能な第1の流速で前記液流を発生させ、前記撮像制御部は、前記撮像装置に当該生体対象物の第1撮像を実行し、次いで、
前記ポンプ制御部は、前記生体対象物を前記ウェル内の液体中で浮上させると共に回転させることが可能であって、前記第1の流速とは異なる第2の流速で前記液流を発生させ、前記撮像制御部は、前記撮像装置に当該生体対象物の第2撮像を実行する、生体対象物の処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の生体対象物の処理装置において、
前記ポンプ制御部は、前記液流をゼロから徐々に増加させるよう前記ポンプ装置を制御し、前記生体対象物を所定範囲内の浮上高さに浮上させる液流の流速を探知する、生体対象物の処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載の生体対象物の処理装置において、
前記画像処理部は、前記撮像装置が撮像した画像に基づいて、前記生体対象物の形状を特定し、
前記判定部は、前記連続的な撮像によって得られた各画像における前記生体対象物の形状から、前記生体対象物が予め定められた姿勢に至ったか否かを判定する、生体対象物の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェル内に収容された、例えば細胞又は細胞塊のような生体対象物に対して、撮像やピックアップ等の所定の処理を施す生体対象物の処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば医療や生物学的な研究の用途では、細胞又は細胞塊等の生体対象物をウェルに収容し、各種の処理を行う場合がある。例えば前記処理としては、ウェルに収容された生体対象物を撮像して当該生体対象物の形状、色などを観察する処理、当該ウェルから良品の生体対象物を吸引チップでピックアップする処理などを挙げることができる。例えば特許文献1には、多数の収容凹部(ウェル)を有する選別プレート上に撒かれた細胞を撮像装置で撮像し、得られた画像に基づき所望の細胞を選別し、選別された細胞を吸引チップで吸引して移動させる装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2015/087371号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞は、一般に透明なプレートに形成されたウェルの底面に接面した状態で、当該ウェルに収容されている。撮像装置は、前記プレートの下面側に配置され、その細胞を下方から撮像する。このため、細胞の一側面の画像しか得られず、的確に細胞の評価を行うことができない場合があった。また、吸引チップにてウェルから細胞を吸引するに際し、当該細胞が吸引には不適切な姿勢でウェルに収容されている場合があった。ウェル内に液流を発生させれば、細胞の姿勢を変更させることは可能である。しかし、単に液流を発生させるだけでは、細胞がウェルから飛び出してしまったり、十分に姿勢変更させることができなかったりする不具合が生じる問題があった。
【0005】
本発明の目的は、ウェルに収容された生体対象物を、その後の処理に好都合な姿勢に変更させることが可能な生体対象物の処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る生体対象物の処理装置は、外枠部分を構成し液体を収容可能な容器と、生体対象物及び液体を収容可能なウェルを有し前記容器内に配置されるウェルプレートとを備え、前記ウェルの底面に開口を有するチャンバーと、前記容器の内面と前記ウェルプレートの下面とで囲まれる領域から、前記開口を通して前記ウェルに流体を送り、前記ウェル内の液体に液流を発生させるポンプ装置と、前記液流の流速を増減するよう、前記ポンプ装置の動作を制御するポンプ制御部と、前記ウェル内に収容された前記生体対象物を連続して撮像する撮像装置と、前記撮像装置の動作を制御する撮像制御部と、前記撮像装置が撮像した画像から、前記生体対象物の特徴部分を抽出する画像処理部と、前記撮像装置による前記連続的な撮像によって得られた各画像における、前記特徴部分の表出状態から、前記生体対象物が一回転したか否かを判定するとともに、前記特徴部分の移動速度から前記生体対象物の回転速度を把握する判定部と、を備え、前記ポンプ制御部は、前記ウェルの底面に接面している前記生体対象物を前記ウェル内の液体中で浮上させると共に一回転以上回転させることが可能な液流を、前記ポンプ装置に発生させ、且つ、当該生体対象物の回転速度の適正化のため前記液流の流速をコントロールし、前記撮像制御部は、前記ポンプ装置が前記液流を発生させている状態において、若しくは前記液流を発生させた後に該液流を停止させた状態において、前記撮像装置に前記ウェル内の生体対象物を撮像させることを特徴とする。
【0007】
この処理装置によれば、生体対象物がウェル内において浮上及び回転する液流をポンプ装置が発生する。従って、生体対象物の姿勢をウェル内で自在に変更させることが可能となる。そして、浮上及び回転している生体対象物の画像が、撮像装置により取得される。このため、撮像装置を定点に配置した状態で、生体対象物の姿勢を異ならせた画像を撮像することが可能となる。従って、ウェルに収容された生体対象物の全周の画像を取得することが可能となる。また、ウェル内において所望の姿勢に生体対象物が姿勢変更したか否かを、前記画像に基づいて確認することが可能となる。
【0008】
上記の処理装置において、前記撮像装置が撮像した画像に基づいて、前記生体対象物の形状を特定する画像処理部と、前記画像処理部が特定した前記形状に基づき、前記生体対象物の回転状態を判定する判定部と、をさらに備えることが望ましい。
【0009】
この処理装置によれば、判定部が生体対象物の回転状態を判定するので、ポンプ装置が発生させている液流が当該生体対象物の回転を惹起させているか否か、つまり姿勢変更に貢献しているか否かを自動判定させることができる。
【0010】
上記の処理装置において、前記撮像制御部は、前記撮像装置に前記生体対象物の撮像を連続的に行わせ、前記画像処理部は、前記生体対象物の特徴部分を抽出し、前記判定部は、前記連続的な撮像によって得られた各画像における、前記特徴部分の表出状態から、前記生体対象物が一回転したか否かを判定することが望ましい。
【0011】
この処理装置によれば、生体対象物が液流によって一回転したことを確認することができる。生体対象物が一回転していれば、撮像装置が当該生体対象物の全周の画像を取得できたことになる。つまり、前記生体対象物の全周の画像を取得できたか否かを確認することが可能となる。
【0012】
上記の処理装置において、前記ポンプ制御部は、前記生体対象物を前記ウェル内の液体中で浮上させると共に回転させることが可能な第1の流速で前記液流を発生させ、前記撮像制御部は、前記撮像装置に当該生体対象物の第1撮像を実行し、次いで、前記ポンプ制御部は、前記生体対象物を前記ウェル内の液体中で浮上させると共に回転させることが可能であって、前記第1の流速とは異なる第2の流速で前記液流を発生させ、前記撮像制御部は、前記撮像装置に当該生体対象物の第2撮像を実行することが望ましい。
【0013】
一般に細胞塊などの生体対象物は真球状であることはなく、また表面には凹凸が存在する。従って、液流の流速を変更することで、生体対象物の回転軸を変更させることが可能である。上記の処理装置によれば、前記生体対象物を前記液体中で浮上させる液流を維持しつつ、流速を第1、第2の流速間で変更可能であるので、前記生体対象物の回転方向を変更させ得る。従って、より生体対象物の全周の画像を取得し易くすることができる。
【0014】
上記の処理装置において、前記ポンプ制御部は、前記液流をゼロから徐々に増加させるよう前記ポンプ装置を制御し、前記生体対象物を所定範囲内の浮上高さに浮上させる液流の流速を探知することが望ましい。
【0015】
この処理装置によれば、生体対象物が所定範囲内に浮上した状態を維持できるので、撮像装置によって撮像し易い状態、すなわち合焦動作等を行い易い状態を形成することができる。なお、ここでの浮上は、前記ウェルの底面から完全に離間した浮上のほか、前記底面に一部が接面した状態の浮上も含む。
【0016】
上記の処理装置において、前記撮像制御部は、前記撮像装置に前記生体対象物の撮像を連続的に行わせ、前記判定部は、前記連続的な撮像によって得られた各画像における前記生体対象物の形状から、前記生体対象物が予め定められた姿勢に至ったか否かを判定することが望ましい。
【0017】
この処理装置によれば、液流によって、ウェル内において生体対象物を所望の姿勢へ姿勢変更させることができる。例えば、吸引チップで当該生体対象物を吸引する場合に、その吸引に適した姿勢に前記生体対象物を姿勢変更させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ウェルに収容された生体対象物を、その後の処理に好都合な姿勢に変更させることが可能な生体対象物の処理装置を提供することができる。例えば、前記生体対象物を姿勢変更させて、明視野顕微鏡、位相差顕微鏡、蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡或いは二光子顕微鏡等を用いて、当該生体対象物の多面的な観察を行う処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明に係る生体対象物の処理装置が適用される細胞観察装置の構成例を概略的に示す図である。
図2図2(A)~(D)は、ウェル内における細胞の接面姿勢と観察される画像との関係を示す図である。
図3図3(A)~(D)は、液流によりウェル内の細胞が浮上、回転する様子を説明するための模式図である。
図4図4(A)は、実際に細胞が浮上、回転する状態の観察例を示す図、図4(B)は、細胞の回転方向を示す図である。
図5図5は、本実施形態の細胞観察装置による細胞観察動作の一例を示すフローチャートである。
図6図6(A)、(B)は、細胞の浮上と、カメラのZ高さとの関係を説明するための図である。
図7図7(A)~(D)は、ウェル内における細胞の回転の態様を示す図である。
図8図8(A)~(D)は、ウェル内における細胞の回転の態様を示す図である。
図9図9(A)~(C)は、本発明に係る生体対象物の処理装置を、ウェルからの細胞のピックアップ処理に適用する実施形態の説明図である。
図10図10(A)~(D)は、ウェルの変形例を示す図である。
図11図11(A)~(C)は、ウェルの貫通孔の変形例を示す図である。
図12図12(A)、(B)は、ウェルへの液流の供給形態の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて詳細に説明する。本発明に係る生体対象物の処理装置では、多岐に亘る生体対象物を処理対象とすることができる。本発明が適用可能な生体対象物としては、代表的には生体由来の細胞を例示することができる。ここでの生体由来の細胞は、例えば血球系細胞やシングル化細胞などのシングルセル(細胞)、HistocultureやCTOSなどの組織小片、スフェロイドやオルガノイドなどの細胞凝集塊、ゼブラフィッシュ、線虫、受精卵などの個体、2D又は3Dのコロニー等である。この他、生体対象物として、組織、微生物、小サイズの種等を例示することができる。以下に説明する実施形態では、生体対象物が細胞又は細胞が数個~数十万個凝集してなる細胞凝集塊(以下、これらを総称して単に「細胞C」という)である例を示す。
【0021】
生体対象物に対する「処理」の態様については特に制限はなく、ウェルに収容された細胞Cに対する各種の処理を広く包含する。以下に示す実施形態では、「処理」が、ウェルに収容された細胞Cを観察する処理であるケースと、ウェルに収容された細胞Cを吸引チップでピッキングする処理であるケースとを例示する。この他、「処理」は、ウェルに収容された細胞Cに対する薬液や試薬の投与、検査光の照射、電気や音波等の印加、各種ガスの供給などの処理であっても良い。
【0022】
[細胞観察装置の全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係る細胞観察システムSの構成例を概略的に示す図である。細胞観察システムSは、細胞C及び培地Lを収容可能な複数のウェル2を有するチャンバー1と、ウェル2に収容された細胞Cを撮像するためのカメラユニット3と、ウェル2に培地Lの液流LFを発生させるためのポンプユニット4と、カメラユニット3及びポンプユニット4の動作を制御すると共に、各種の処理を行うコントローラ5とを備えている。カメラユニット3は、チャンバー1の下方に配置されている。本実施形態において、細胞観察システムSは生体対象物の処理装置の一例、カメラユニット3は撮像装置の一例、ポンプユニット4はポンプ装置の一例、培地Lは液体の一例である。
【0023】
チャンバー1は、上面が開口した容器11と、この容器11内に配置されるウェルプレート12とを含む。ウェルプレート12は、複数のウェル2を備える。ここでは、図示簡略化のために三つのウェル2だけを示しているが、実際のウェルプレート12は多数のマトリクス配列されたウェル2を備えている。容器11及びウェルプレート12は、透光性の樹脂又はガラスからなる。これは、ウェル2に収容された細胞Cを、チャンバー1の下方に配置されたカメラユニット3にて透視撮像可能とするためである。
【0024】
容器11は、チャンバー1の外枠部分を構成している。容器11には培地Lが注液されており、ウェルプレート12は培地L内に浸漬されている。ウェルプレート12は、平板状のプレート部12Pと、このプレート部12Pから下方に凹設された上記複数のウェル2とからなる。プレート部12Pの外周縁部は、容器11の側壁14でシールされた状態で支持されている。また、ウェル2の下端が容器11の底壁13から上方に離間した状態で、ウェルプレート12は容器11で保持されている。
【0025】
ウェル2は、筒状側面21、底面22、テーパ開口面23及び貫通孔24(開口)を備えている。筒状側面21は、ウェル2の側壁面を構成する部分であり、所要の細胞Cを収容可能な断面積を有するキャビティを区画している。筒状側面21は、鉛直方向に延びる壁面である。底面22は、筒状側面21の下端に連設され、ウェル2の筒心に向けて緩く下り傾斜する傾斜面からなる。テーパ開口面23は、筒状側面21の上端に連設され、上方に向けて拡開するテーパ面である。一のウェル2と隣接するウェル2とは、テーパ開口面23の上端同士で繋がっており、当該繋がり部分は尖った稜線部25となっている。
【0026】
貫通孔24は、底面22の最も低い箇所である当該底面22の中央部に穿孔された開口であって、ウェル2内の培地Lに液流LFを発生させるために設けられている。貫通孔24により、ウェル2の内部空間と、外部領域とが連通可能とされている。本実施形態では、前記外部領域は、容器11の内面とウェルプレート12の下面とで囲まれる下側領域Aである。上述の通り、プレート部12Pの外周縁部はシールされているので、下側領域Aとウェル2の内部空間を含む上側領域Bとは、貫通孔24のみを通して連通している。従って、下側領域A内の培地Lを加圧することで、貫通孔24からウェル2内に流入する液流LFを発生させることができる。図1では、3つのウェル2のうち、左側のウェル2に液流LFが発生している状態を模式的に示しているが、下側領域A内の培地Lの加圧が行われれば、当然に他のウェル2にも液流LFが発生する。
【0027】
カメラユニット3は、レンズ部31、カメラ本体32及びレンズ駆動部33を備えた、共焦点光学系を備えた撮像ユニットである。レンズ部31は、光学顕微鏡に用いられている対物レンズであり、所定倍率の光像を結像させるレンズ群と、このレンズ群を収容するレンズ鏡筒とを含む。カメラ本体32は、CCDイメージセンサのような撮像素子35(図6)を備える。レンズ部31は、撮像素子35の像面に撮像対象物の光像を結像させる。レンズ駆動部33は、サーボモータ等からなり、合焦動作のためにレンズ部31を上下動させる。レンズ部31の焦点位置は、胴付き面34の高さ位置hからの同焦点距離にて定まる。なお、レンズ部31を移動させるのではなく、チャンバー1を上下動させることで、合焦動作を行わせるようにしても良い。
【0028】
ポンプユニット4は、例えばチューブポンプ等の循環ポンプからなり、ウェルプレート12の貫通孔24を通して各ウェル2に流体を送り、ウェル2内の液体に液流を発生させる機能を果たす。本実施形態では、ポンプユニット4がウェル2に送る流体は培地Lであり、ウェル2内の液体も培地Lである。ポンプユニット4は、ポンプ本体41、送液チューブ42及び吸液チューブ43を備える。
【0029】
ポンプ本体41は、送液チューブ42には液体を送り出し、吸液チューブ43には液体の吸引力を発生させるポンプ動作を行う。チューブポンプが用いられる場合、ポンプ本体41は、駆動モータで回動駆動されるロータと、このロータでしごかれる湾曲チューブ部とを含む。送液チューブ42の一端421はポンプ本体41へ繋がっている一方、他端422はウェルプレート12のプレート部12Pを貫通し、容器11内の下側領域A内に開口している。吸液チューブ43の一端431は、プレート部12Pよりも上方位置であって培地Lの液面よりも下方位置において、容器11内の上側領域Bに開口しており、他端432はポンプ本体41へ繋がっている。
【0030】
ポンプ本体41が動作すると、貫通孔24を通して培地Lが循環する。すなわち、ポンプ本体41が動作して送液チューブ42に培地Lが送り出されると、その送り出された培地Lは容器11の下側領域Aに進入する。下側領域Aは、容器11の底壁13及び側壁14の下方部分とウェルプレート12とによって半密閉状態にあり、圧力を開放できる部分は貫通孔24のみである。従って、下側領域Aから貫通孔24を通して上側領域Bに流入しようとする液流LFが発生する。液流LFの発生によって上側領域Bの液量が増加するが、その増加分は吸液チューブ43によって吸引され、ポンプ本体41に向かうことになる。
【0031】
コントローラ5は、ポンプユニット4の動作を制御して、貫通孔24からウェル2のキャビティ内に吹き上がるような液流LFを発生させ、ウェル2に収容されている細胞Cを浮上させると共に回転させる。すなわち、液流LFが発生しない状態では底面22に接面している細胞C(図1の中央のウェル2を参照)を、液流LFによって各ウェル2から飛び出さない程度に舞い上がらせる(図1の左側のウェル2を参照)。適度に舞い上がった細胞Cは、やがて回転するようになる。また、コントローラ5は、カメラユニット3の動作を制御して、ウェル2内において浮上した細胞Cの画像を撮像させる。得られた画像データは、コントローラ5内において画像処理や各種のデータ処理に供されると共に、表示部56にて画像として表示される。コントローラ5の機能構成の詳細については、後記で説明する。
【0032】
[細胞観察の基本動作]
上記で概説した通り本実施形態に係る細胞観察システムSでは、ウェル2に収容されている細胞Cを液流LFによって浮上、回転させ、その細胞Cの画像を取得する。その意義並びに細胞観察の基本動作を説明する。図2(A)~(D)は、ウェル2内における細胞Cの接面姿勢と、カメラユニット3により観察される画像との関係を示す図である。
【0033】
ウェル2に投入された細胞Cは、自重で沈降し、底面22に接面する。細胞凝集塊のような細胞Cは、真球形状を持つことはない。図2では、概略的に楕円形状を有する細胞Cを例示している。図10(A)は、当該楕円形状を有する細胞Cが、縦長に倒立した状態で、ウェル2の底面22に接面している例を示している。カメラユニット3は、図1に示した通り、容器11の底壁13側からウェル2に収容された細胞Cを撮像する。従って、図10(A)の状態の細胞Cを撮像した場合、図10(C)に示すように、楕円の短径方向の側面に相当する細胞Cの二次元画像が取得される。一方、図10(B)は、楕円形状を有する細胞Cが、横長に倒れた状態で、ウェル2の底面22に接面している例を示している。この場合、図10(D)に示すように、楕円の長径方向の側面に相当する細胞Cの二次元画像が取得される。
【0034】
このように、細胞Cの底面22への接面状態によって、観察される画像に大きな差異が生じる。図10(C)の画像だけを見れば、当該細胞Cは比較的小型であって球形に近い形状と評価されてしまい、実際の細胞Cの三次元形状とは掛け離れた形状と評価されてしまう。また、図10(D)の画像に基づけば、細胞Cが楕円体であることは把握できているが、奥行き形状を把握することはできない。特にカメラユニット3が共焦点顕微鏡である場合、細胞内部を100μm程度の深さまで観察することはできるものの、細胞Cの正確な三次元形状の把握は難しい傾向がある。
【0035】
カメラユニット3の設置位置が容器11の下方に固定化されている場合、上記の問題は、ウェル2内の細胞Cの姿勢を変更させ、細胞Cを多面的に撮像することで解消することができる。本実施形態では、液流LFを当てることによってウェル2の底面22に接面した細胞Cの姿勢を変更させ、これにより細胞Cの外表面の多面的な撮像を実現する。細胞Cの画像を多面的にキャプチャし、それらの画像を合成することで、正確に当該細胞Cの三次元形状を把握することが可能となる。この点を図3に基づいて説明する。
【0036】
図3(A)~(D)は、液流LFによりウェル2内の細胞Cが浮上、回転する様子を説明するための模式図である。図3(A)は、液流LFが未発生で、ウェル2の底面22に細胞Cが重力で接面している状態を示している。この状態でカメラユニット3に撮像動作を実行させても、得られる画像は、図2(D)に示したような二次元画像のみである。
【0037】
図3(B)は、ポンプユニット4により液流LFが発生され始めた状態を示している。液流LFは、貫通孔24を通して上方へ吹き上がる液流であるので、細胞Cは当該液流LFに押されて浮上を開始する。そして、図3(C)に示す通り、細胞Cは液流LFの強度に応じて、ウェル2内で所定の高さ位置まで浮上する。一般に、細胞Cの表面には凹凸が存在し、形状や質量は非対称である。従って、液流LFが細胞Cに吹き当たると、図3(D)に示すように、例えば矢印Rの方向へ細胞Cは回転する。細胞Cが回転している状態で、カメラユニット3に撮像動作を連続的に実行させることで、細胞Cの画像を多面的に取得することができる。
【0038】
望ましい液流LFの条件は次の通りである。先ず、姿勢変更のため、細胞Cを浮上させることができる程度以上の液流LFの流速が必要である一方、ウェル2から細胞Cが飛び出してしまう程度の流速であってはならない。また、ウェル2内で細胞Cが乱高下せず、安定した高さ位置に細胞Cを浮上させ、その高さ位置で細胞Cを回転させ得る液流LFの流速を選択することが望ましい。細胞Cの乱高下が生じると、レンズ部31の合焦動作が困難となるからである。さらに、細胞Cをあまり速く回転させない程度の液流LFとすることが望ましい。細胞Cが高速回転すると、合焦ずれや、画像のぶれが発生し易くなり、クリアな画像がキャプチャし難くなるからである。
【0039】
図4(A)は、実際に細胞Cがウェル2内で浮上、回転する状態の観察例を示す図である。ここでは、順次経過してゆく時刻T1、T2、T3、T4、T5、T6、T7、T8の各時刻における細胞Cの画像を示している。大抵の細胞Cには、他の部分と明確に区別できる特徴部が存在する。図4(A)の各図において、楕円で囲んでいる箇所がそのような特徴部Caである。特徴部Caは、例えば細胞Cの表面に表れる凸部や凹部、色彩が異質な部分、孔部、切り欠き状部分或いは稜線状の部分などである。
【0040】
時刻T1~T8における特徴部Caの動きを観察することで、細胞Cが姿勢変更(回転)しているか否かを把握できる。また、細胞Cが一回転したか否かも、特徴部Caの動きから把握することができる。図4(A)の例の場合、時刻T8の画像において特徴部Caは細胞Cの回転により消失しかけている。時刻T8の後、この特徴部Caが再び表出する画像(時刻T1の如き画像)が観察されることをもって、細胞Cが一回転したと判定することができる。
【0041】
上記に加え、特徴部Caの動く方向に基づき、細胞Cの回転方向を知見することができる。図4(B)は、時刻T1~T8の画像から把握される細胞Cの回転方向を示す図である。回転方向を把握することで、特徴部Caを基準として、細胞Cのどの方向の面の回転画像が取得されているかを把握することができる。さらに、特徴部Caの移動速度から、細胞Cの回転速度を把握することが可能となる。回転速度を把握することで、画像のキャプチャを行い易いように、細胞Cの回転速度、つまり液流LFの流速をコントロールすることが可能となる。
【0042】
[コントローラの機能構成]
上記の基本動作の説明を踏まえて、図1を参照して、コントローラ5の機能構成について説明する。コントローラ5は、マイクロコンピュータ等からなり、所定のプログラムが実行されることで、ポンプ制御部51、カメラ制御部52(撮像制御部)、画像処理部53、データ処理部54(判定部)及び記憶部55を具備するように動作する。
【0043】
ポンプ制御部51は、ポンプユニット4の動作を制御する。ポンプ制御部51は、ポンプユニット4の送液チューブ42からの吐出力を制御することで、上述の液流LFを発生させると共に、液流LFの流速を増減する。具体的にはポンプ制御部51は、ウェル2の底面22に接面している細胞Cを培地L内で浮上させると共に回転させることが可能な液流LFを、ポンプユニット4に発生させる。ポンプユニット4がチューブポンプである場合、所要の細胞Cの浮上及び回転を達成できる液流LFを発生させるよう、ポンプ制御部51はポンプ本体41が備えるロータの回転速度を制御する。
【0044】
カメラ制御部52は、カメラユニット3の動作を制御する。カメラ制御部52は、ポンプユニット4が液流LFを発生させている状態において、カメラユニット3にウェル2内の細胞Cの撮像を連続的に行わせる。すなわち、カメラ制御部52は、ウェル2内で浮上及び回転している状態の細胞Cの連続画像を、カメラユニット3に撮像させる。具体的にはカメラ制御部52は、ウェル2内の細胞Cに対する合焦動作のために、レンズ駆動部33にレンズ部31を上下方向に所定のピッチ、例えば数十μmピッチで移動させるための制御パルスを与える。また、カメラ制御部52はカメラ本体32を制御して、所定のタイミングで撮像動作を実行させる。なお、液流LFを発生させている状態に限らず、液流LFを発生させた後に該液流LFを停止させた状態で、細胞Cの画像をカメラユニット3に撮像させてもよい。この場合、一旦浮上した後、沈降した細胞Cの画像を取得することができる。
【0045】
画像処理部53は、カメラユニット3が撮像した画像に基づいて、細胞Cの三次元形状を特定する処理を行う。画像処理部53は、カメラ本体32により取得された画像データに対して、エッジ検出処理や特徴量抽出を伴うパターン認識処理などの画像処理を施し、各撮像タイミング(例えば図4(A)の時刻T1~T8)で取得された画像において、細胞Cの形状を特定する。また、画像処理部53は、図4(A)に例示したような、細胞Cの特徴部Caを抽出する処理も行う。
【0046】
データ処理部54は、画像処理部53により特定された細胞Cの形状データや特徴部Caの位置データ等に基づいて、各種の処理を実行する。例えばデータ処理部54は、画像処理部53が各々の画像について特定した細胞Cの形状データを合成して、当該細胞Cの三次元形状を作成する処理を行う。また、データ処理部54は、画像処理部53が特定した細胞Cの形状データに基づいて、細胞Cが回転しているか又は静止しているか、どの程度の回転数で回転しているか等、細胞Cの回転状態を判定する処理を行う。具体的には、データ処理部54は、図4(A)の時刻T1~T8で取得されたような連続的な撮像画像より特徴部Caの表出状態乃至は移動状態から、細胞Cが一回転したか否か、並びに、細胞Cの回転速度を導出する。
【0047】
記憶部55は、細胞観察システムSに関する各種の設定データや、テーブルデータを記憶する。また、記憶部55は、細胞Cに浮上及び回転状態と、液流LFの発生条件(ポンプ本体41の駆動データ)の実績とを関連付けて記憶する。この種のデータを多量に蓄積し、AI学習によりポンプ本体41の駆動を最適化することが望ましい。
【0048】
[細胞観察システムの動作フロー]
続いて、細胞観察システムSの動作フローの一例について、図1及び図5を主に参照して説明する。図5は、本実施形態の細胞観察システムSによる細胞観察動作の一例を示すフローチャートである。フローの開始前に、ウェル2に細胞Cが投入され、当該細胞Cが底面22に接面しているものとする。フローを大別すると、細胞Cをウェル2内において所定の高さまで浮上させるステップ(ステップS1~S8)と、細胞Cを回転させつつ撮像するステップ(ステップS9~S14)とに区分される。
【0049】
まず、コントローラ5のカメラ制御部52によりカメラユニット3が制御され、当該カメラユニット3の位置調整が行われる(ステップS1)と共に、ウェル2の底面22に接面している細胞Cに対する合焦動作が実行される(ステップS2)。この時点では、液流LFは発生させていない。この合焦動作では、レンズ駆動部33がレンズ部31を上下動させ、得られた画像について画像処理部53がエッジ検出処理を行うと共にコントラストの評価を行う。そして、最もコントラストが良好なレンズ部31の高さ位置(Z方向高さ)が探知され、当該Z方向高さが合焦位置とされる。合焦位置における画像データ、Z方向高さデータ及び細胞Cの面積データ等の画像情報は、記憶部55に格納される。
【0050】
図6(A)は、ステップS1の位置調整及びステップS2の合焦動作が行われている状態を示す図である。細胞Cの合焦光像は、カメラ本体32が備える撮像素子35の像面上に作られる。細胞Cの如く微小な対象物を撮像する対物レンズであるレンズ部31の焦点位置は、胴付き面34からの同焦点距離Zhにて定められている。従って、細胞Cに合焦した状態が作られれば、細胞Cと胴付き面34との間の距離が同焦点距離Zhとなる。つまり、図6(A)のZ方向高さにカメラユニット3を移動させることで(ステップS1)、底面22に接面している細胞Cに合焦さることができる(ステップS2)。従って、胴付き面34のZ方向高さを求めることで、細胞CのZ方向高さを把握することができる。なお、実際には被写界深度aが存在するため、焦点位置にはZ方向に一定の幅がある。ある基準高さZ0を設定して、底面22に接面している細胞Cに合焦しているときの、基準高さZ0に対する胴付き面34のZ方向高さZ1が記憶部55に格納される。このZ1が、底面22から浮上していない状態における細胞CのZ方向高さに相当する。
【0051】
その後、カメラ制御部52により、カメラユニット3のZ方向高さが所定の高さ位置になるように、カメラユニット3がZ方向に移動される(ステップS3)。この移動は、例えば図6(B)に示す位置にカメラユニット3をZ方向へ上昇させる移動であり、浮上させる細胞Cの狙いの高さ位置に当該カメラユニット3の焦点位置を設定するための移動である。
【0052】
続いて、ポンプ制御部51が、液流LFをゼロから徐々に増加させるようポンプユニット4を制御し、細胞Cを所定範囲内の浮上高さに浮上させる液流LFの流速Fを探知する処理が実行される。なお、ポンプ本体41の動作ランク、例えば単位時間当たりの液体の吐出量等と、発生させることができる液流LFの流速Fとの関係を、予めテーブル化しておくことが望ましい。また、浮上高さは、前記ウェルの底面から完全に離間した浮上のほか、前記底面に一部が接面した状態における浮上高さでも良い。
【0053】
ポンプ制御部51は、最も低ランクの流速Fの液流LFを発生させるよう、ポンプ本体41を動作させる(ステップS4)。次いで、カメラ制御部52がレンズ駆動部33を制御して、この流速Fの液流LFが発生している状態において、細胞Cに対する合焦動作をレンズ部31に実行させる(ステップS5)。実際は、既にステップS3において合焦位置が狙いの高さ位置となるようにカメラユニット3のZ方向高さが設定されているので、細胞Cが前記合焦位置まで浮上するのを待つ期間となる。そして、細胞Cが所定のZ方向高さに到達しているか否かが判定される(ステップS6)。つまり、所定のZ方向高さに胴付き面34が設定されたカメラユニット3にて、細胞Cが合焦状態で撮像されているか否かが判定される。
【0054】
図6(B)は、貫通孔24を通した液流LFの発生により細胞Cが浮上し、その浮上した細胞Cにレンズ部31が合焦している状態を示している。浮上した細胞Cに合焦した場合、同焦点距離Zhは固定的な距離であるので、胴付き面34のZ方向高さが、Z1からZ2に上昇することになる。従って、Z2-Z1の距離が細胞Cの浮上高さとなる。前記浮上高さが小さすぎると、細胞Cは底面22と干渉して回転不能又は回転に障害がある状態となる。一方、前記浮上高さが大きすぎると、ウェル2からの細胞Cの飛び出しが生じかねない。
【0055】
これらに鑑みて、ステップS6において判定基準とする「所定高さ」は、細胞Cが自在に回転可能であって、なるべくウェル2の低層位置、つまり底面22に近い位置に相当する高さに設定することが望ましい。また、液流LFの流速Fが大きくなると、自ずと細胞Cの浮上高さが高くなる傾向が出る一方、細胞Cの浮上時における上下揺動も大きくなる傾向が出る。この観点からも、あまり浮上高さを高くせず、前記上下揺動を抑制することが望ましい。この場合、細胞Cが所定のZ方向高さの範囲内に浮上した状態を維持し易くなるので、カメラユニット3によって撮像し易い状態を形成することができる。
【0056】
ステップS6において、細胞CのZ方向高さが所定高さに至っていない場合(ステップS6でNO)、当該細胞Cの浮上が不十分であるということになる。この場合、ポンプ制御部51は、液流LFの流速Fを、F=F+1ランクにインクリメントする(ステップS7)。なお、「1ランク」は、予め定められたポンプ吐出量の増量単位であって、流速Fの増加に連動する。そして、ポンプ制御部51は、新たに与えられた流速Fを達成するよう、ポンプ本体41の動作を制御する(ステップS4)。
【0057】
ステップS6において、細胞CのZ方向高さが所定高さに至っている場合(ステップS6でYES)、当該細胞Cが所定の高さまで浮上したことになる。この場合、ポンプ制御部51は、ポンプ本体41の動作状態を維持し、その流速Fを仮固定した状態とする(ステップS8)。既述の通り、細胞Cは、浮上した後に回転する挙動を示すことが多い。従って、このステップS8の時点乃至はそれ以前に、細胞Cは回転し始めている。
【0058】
次にカメラ制御部52は、ステップS8の流速F(第1の流速)で液流LFが発生されている状態で、レンズ駆動部33にウェル2内で回転している細胞Cに対して合焦動作を実行させる(ステップS9)。これは、ステップS5で合焦動作は済んでいるものの、細胞Cの回転によって細胞Cの被撮像面のZ方向高さが変化している場合があり得るからである。合焦後、カメラ制御部52は、カメラ本体32に第1撮像として当該細胞Cの撮像を実行させる(ステップS10)。その画像データは、画像処理部53でのエッジ検出処理や特徴部の抽出処理等の画像処理が施された後、記憶部55に格納される。
【0059】
続いて、データ処理部54が、それまでに取得された画像に基づいて、細胞Cが一回転したか否かを判定する(ステップS11)。1回目の撮像を終えた時点では、当然に細胞Cは一回転していないので(ステップS11でNO)、ステップS9に戻って、次の撮像動作が実行される。この場合、時間経過により細胞Cが回転した分だけ、前回の撮像とは異なる細胞Cの面が撮像されることになる。
【0060】
図7(A)~(D)は、ウェル2内における細胞Cの回転の態様を経時的に示す図である。図7(A)~(D)にかけて、時間が進行している。細胞Cを浮上及び回転させることが可能なある流速F1の液流LFがウェル2内で発生されている場合、図7(A)に示すように、細胞Cはその流速F1に応じた浮上姿勢を取り、ある回転軸AX1の軸回りに回転する。細胞Cが特徴部Caを含んでいる場合、画像処理部53は当該特徴部Caを抽出可能である。この特徴部Caの経時的な遷移をモニターすることで、細胞Cの回転速度や回転方向等の回転状態を把握することができる。
【0061】
すなわち、図7(B)では、細胞Cの回転が進み、特徴部Caが細胞Cの画像の上方側に移動している。続く図7(C)では、特徴部Caが画像上で表出していない。これは、細胞Cの回転によって特徴部Caが背面に隠れている状態である。そして、図7(D)では、特徴部Caが細胞Cの画像の下方側に表出している。ここでの特徴部Caの画像上の位置は、図7(A)の場合と同じである。データ処理部54は、図7(A)の画像を取得後、図7(D)の画像のような、特徴部Caの位置が同等である画像が取得されたことをもって、細胞Cが一回転したと判定する。一回転が検出されたということは、それまでの撮像(ステップS10)によって、回転軸AX1回りの回転方向における細胞Cの多面的な画像が取得されたことを意味する。なお、細胞Cの回転軸AX1に軸振れが発生することがある。すると、細胞Cが一回転しても特徴部Caが同じ位置で観察されないことがある。この場合、例えば、特徴部Caを基準として画像データを取得させると共に、細胞Cの回転が把握できるように前記画像データを補正させるようにすることができる。
【0062】
細胞Cが一回転したことが確認されると(ステップS11でYES)、データ処理部54は、当該細胞Cを全周について観察したか否か、つまり全周の画像データが取得されているか否かを判定する(ステップS12)。図7に例示するような細胞Cの回転であった場合、楕円形の細胞Cの長軸周方向の画像は得られるが、短軸周方向の画像については、十分に得られていないと言える。このような場合、それまでに取得された画像データを合成しても、細胞Cの全体の三次元形状が得られ難いので、データ処理部54は、細胞Cを全周について観察していないと判定する(ステップS12でNO)。
【0063】
この場合、ポンプ制御部51は、細胞Cを浮上及び回転させることが可能な流速であって、先の流速F1(第1の流速)とは異なる流速F2(第2の流速)で液流LFを発生させる。つまり、ポンプ制御部51は、現状の流速FをF±ΔFに設定する(ステップS13)。そして、カメラ制御部52は、流速F2の液流LFが発生している状態において、カメラユニット3にステップS9、S10に示すような、第2の撮像としての細胞Cの撮像を再び実行させる。
【0064】
図8(A)~(D)は、流速がF1からF2に変更された場合に起こり得る、ウェル2内における細胞Cの回転の態様を示す図である。流速Fの変更により、細胞Cが受ける浮上力にも変化し、これが細胞Cの浮上姿勢の変更、並びに回転軸の変更に繋がり得る。図8(A)に示すように、流速F1から流速F2に変更された液流LFがウェル2内で発生されている場合、細胞Cはその流速F2に応じて浮上姿勢を変更し、ある回転軸AX2の軸回りに回転する。図8(A)では、楕円形の細胞Cが縦長に倒立した状態で浮上し、短軸方向に延びる回転軸AX2の軸回りに細胞Cが回転している例を示している。
【0065】
先の例と同様に、図8(A)の画像には、細胞Cの特徴部Caが表出している。図8(B)では、細胞Cの回転が進み、特徴部Caが細胞Cの画像の上方側に移動している。続く図8(C)では、特徴部Caが画像上で表出せず、図8(D)では、特徴部Caが細胞Cの画像の下方側に再表出している。これにより、細胞Cの一回転が検出できる。また、当該一回転の間におけるカメラユニット3による撮像動作(ステップS9、S10)によって、回転軸AX2回りの回転方向における細胞Cの多面的な画像が取得される。上記と同様に、細胞Cの回転軸AX1に軸振れが発生する場合には、特徴部Caを基準として画像データを取得させると共に、細胞Cの回転が把握できるように前記画像データを補正させることが望ましい。
【0066】
以上2つの浮上姿勢並びに回転方向に沿った細胞Cの連続的な撮像が行われれば、細胞Cの全周の観察を終えたと扱うことができる。つまり、それまでに取得された画像データを合成することで、細胞Cの三次元データを構築することができる。この場合、データ処理部54は、細胞Cを全周について観察していると判定する(ステップS12でYES)。そして、データ処理部54は、細胞Cの三次元形状データを決定し(ステップS14)、処理を終える。
【0067】
[細胞の吸引動作への適用]
上記の実施形態では、本発明を細胞Cの多面的な撮像を行う細胞観察システムSに適用する例を示した。本発明は、他のシステムにも適用可能であり、例えば細胞Cをウェル2からピックアップして他の容器へ移動する細胞移動装置にも適用することができる。図9(A)~(C)は、本発明を、ウェル2からの細胞Cのピックアップ処理に適用する実施形態を説明するための図である。
【0068】
図9(A)に示すように、細胞Cが収容されたウェル2の上部開口には、吸引チップ6が対向配置されている。吸引チップ6は、細胞Cを吸引して保持するための筒状空間からなる保持空間6Hを備え、この保持空間6H内へ周囲の物体を吸引する吸引力が発生可能とされている。図9(A)では、楕円形の細胞Cが横長に横たわった状態で、ウェル2の底面22に接面している。かかる細胞Cの姿勢では、吸引チップ6の下端吸引開口から細胞Cを保持空間6Hへ取り入れることは困難である。
【0069】
そこで、図9(B)に示すように、貫通孔24を通して液流LFを発生させ、細胞Cを浮上させると共に回転させて、細胞Cの姿勢を変更させる。すなわち、ポンプ制御部51がポンプ本体41(図1)を制御して液流LFを発生させ、カメラ制御部52がカメラユニット3を制御して、細胞Cの撮像を連続的に行わせる。そして、データ処理部54は、連続的な撮像によって得られた各画像における細胞Cの形状から、細胞Cが予め定められた所定姿勢に至ったか否かを判定する。本実施形態では前記所定の姿勢は、保持空間6Hの中空形状にマッチするよう、細胞Cが縦長に倒立した状態である。
【0070】
しかる後、吸引チップ6の下端吸引開口を、細胞Cに位置合わせしてウェル2内へ進入させ、保持空間6Hに吸引力を発生させる。当該吸引力により、細胞Cは保持空間6Hへスムースに吸い込まれる。仮に、図9(A)の状態で細胞Cを強引に吸引すると、吸引開口に対して細胞Cの広幅の面が対向していることから、保持空間6Hへの吸い込みに失敗したり、細胞Cが損傷したりする不具合が生じる。これに対し、本実施形態によれば、液流LFによって、ウェル2内において細胞Cを所望の姿勢へ姿勢変更させることができる。従って、吸引チップ6で当該細胞Cを吸引する場合に、その吸引に適した姿勢に細胞Cを姿勢変更させることができる。
【0071】
[他の変形実施形態]
上記実施形態では、図1他に例示した通り、筒状側面21、底面22、テーパ開口面23及び貫通孔24を備えるウェル2を例示した。ウェル2の形状は種々変更することが可能である。図10(A)~(D)は、変形例に係るウェル2A~2Dを示す図である。図10(A)のウェル2Aは、砲弾形の断面形状を有するウェルを例示している。図10(B)では単純な断面矩形のウェル2Bを、図10(C)では断面三角形のウェル2Cを、各々例示している。また、図10(D)では、断面矩形と断面台形のキャビティが上下方向に連なっているウェル2Dを例示している。ウェル2A~2Dとも、最も低い位置に液流LFを発生させるための貫通孔24が備えられている。
【0072】
また、貫通孔24の数や形成位置についても、細胞Cを浮上及び回転させることが可能な液流LFを形成できる限りにおいて、種々変更することが可能である。図11(A)~(C)は、変形例に係る貫通孔24A~24Eを備えたウェル2E~2Gを示す図である。図11(A)のウェル2Eは、底部付近に2つの貫通孔24A、24Bが形成されている例を示している。図11(B)では、側面に貫通孔24Cを一つ備えたウェル2Fを例示している。図11(C)では、底部と側面とに各々、貫通孔24D、24Eが形成されたウェル2Gを例示している。
【0073】
さらに、ウェルへ連通する開口の形態も、種々変更可能である。図12(A)では、ウェルの壁面に対して、直交する方向に貫通するのではなく、斜め方向に貫通する貫通孔24Fを備えたウェル2Hを例示している。この貫通孔24Fによれば、ウェル2H内に渦流を発生させ易くなる。図12(B)では、前記開口が貫通孔の態様ではなく、ノズル26が用いられているウェル2Iを例示している。ノズル26の先端はウェル2Iのキャビティ内に臨んでおり、液体を噴射させることが可能である。
【0074】
以上説明した本発明によれば、細胞Cがウェル2内において浮上及び回転する液流をポンプユニット4が発生する。従って、細胞Cの姿勢をウェル2内で自在に変更させることが可能となる。そして、浮上及び回転している細胞Cの画像が、カメラユニット3により取得される。このため、カメラユニット3を定点に配置した状態で、細胞Cの姿勢を異ならせた画像を撮像することが可能となる。従って、ウェル2に収容された細胞Cの全周の画像を取得することが可能となる。また、ウェル2内において所望の姿勢に細胞Cが姿勢変更したか否かを、前記画像に基づいて確認することが可能となり、その後のピッキング動作をスムースに行わせることができる。
【符号の説明】
【0075】
S 細胞観察システムS(生体対象物の処理装置)
L 培地L(液体)
C 細胞(生体対象物)
Ca 特徴部
LF 液流
F 流速
F1、F2 第1の流速、第2の流速
1 チャンバー
2 ウェル
22 底面
24 貫通孔(開口)
3 カメラユニット(撮像装置)
4 ポンプユニット(ポンプ装置)
5 コントローラ
51 ポンプ制御部
52 カメラ制御部(撮像制御部)
53 画像処理部
54 データ処理部(判定部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12