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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】温度補償された水晶発振器
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
H03B5/32 A
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018030921
(22)【出願日】2018-02-23
(65)【公開番号】P2018137755
(43)【公開日】2018-08-30
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】729453
(32)【優先日】2017-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NZ
(73)【特許権者】
【識別番号】513212305
【氏名又は名称】ラコン リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アイルワード ケヴィン アラン ニール
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-236199(JP,A)
【文献】国際公開第2015/193539(WO,A1)
【文献】特開2009-077342(JP,A)
【文献】特開2013-211654(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B5/30-H03B5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度補償された水晶発振器であって、
水晶発振器と、
前記温度補償された水晶発振器の補償温度のての温度範囲にわたって1次温度補償作用をもたらす1次温度補償信号を生成するように構成された1次温度補償信号発生器であって、前記水晶発振器の周波数対温度誤差を低減し、残留周波数対温度誤差を残すために、前記1次温度補償作用は、前記全ての温度範囲にわたって前記水晶発振器の周波数対温度特性を補完する1次温度補償信号発生器と、
記温度範囲内で2次温度補償作用をもたらす2次温度補償信号を生成するように構成された2次温度補償信号発生器であって、前記残留周波数対温度誤差を低減するために、前記2次温度補償作用は、前記残留周波数対温度誤差を補完する2次温度補償信号発生器と、を備え、
前記温度補償された水晶発振器は、前記残留周波数対温度誤差の特徴付けを容易にするために、前記1次温度補償作用の下でのみ動作するように構成され、
前記2次温度補償信号は、アナログ温度センサの出力信号のシグモイド関数としてアナログ回路によって生成される少なくとも1つのアナログ温度補償信号を含み、
前記シグモイド関数が、プラトーに近似する領域、及び勾配領域を含む、温度補償された水晶発振器。
【請求項2】
前記2次温度補償信号が、アナログ温度センサの出力信号の複数の関数としてアナログ回路によって生成される2つ以上のアナログ信号の組み合わせを含み、
前記複数の関数のうちの少なくとも1つが、プラトーに近似する領域、及び勾配領域を含むシグモイド関数を含む、請求項1に記載の温度補償された水晶発振器。
【請求項3】
前記シグモイド関数が、双曲線正接(Tanh)関数を含む、請求項1または2に記載の温度補償された水晶発振器。
【請求項4】
前記シグモイド関数が、逆正接(arctan)関数を含む、請求項1または2に記載の温度補償された水晶発振器。
【請求項5】
前記複数の関数のうちの2つ以上が、プラトーに近似する領域、及び勾配領域を含むシグモイド関数を含む、請求項2に記載の温度補償された水晶発振器。
【請求項6】
温度補償された水晶発振器を構築するために好適な集積回路であって、
前記温度補償された水晶発振器の補償温度のての温度範囲にわたって1次温度補償作用をもたらす1次温度補償信号を生成するように構成された1次温度補償信号発生器であって、前記水晶発振器の周波数対温度誤差を低減し、残留周波数対温度誤差を残すために、前記1次温度補償作用は、前記全ての温度範囲にわたって前記水晶発振器の周波数対温度特性を補完する1次温度補償信号発生器と、
記温度範囲内で2次温度補償作用をもたらす2次温度補償信号を生成するように構成された2次温度補償信号発生器であって、前記残留周波数対温度誤差を低減するために、前記2次温度補償作用は、前記残留周波数対温度誤差を補完する2次温度補償信号発生器と、を備え、
前記温度補償された水晶発振器は、前記残留周波数対温度誤差の特徴付けを容易にするために、前記1次温度補償作用の下でのみ動作するように構成され、
前記2次温度補償信号は、アナログ温度センサの出力信号のシグモイド関数としてアナログ回路によって生成される少なくとも1つのアナログ温度補償信号を含み、
前記シグモイド関数が、プラトーに近似する領域、及び勾配領域を含む、集積回路。
【請求項7】
前記2次温度補償信号が、アナログ温度センサの出力信号の複数の関数としてアナログ回路によって生成される2つ以上のアナログ信号の組み合わせを含み、
前記複数の関数のうちの少なくとも1つが、プラトーに近似する領域、及び勾配領域を含むシグモイド関数を含む、請求項に記載の集積回路。
【請求項8】
前記シグモイド関数が、双曲線正接(Tanh)関数を含む、請求項6または7に記載の集積回路。
【請求項9】
前記シグモイド関数が、逆正接(arctan)関数を含む、請求項6または7に記載の集積回路。
【請求項10】
前記複数の関数のうちの2つ以上が、プラトーに近似する領域、及び勾配領域を含むシグモイド関数を含む、請求項に記載の集積回路。
【請求項11】
温度補償された水晶発振器を製造する方法であって、
前記水晶発振器の各々は、
前記温度補償された水晶発振器の補償温度のての温度範囲にわたって1次温度補償作用をもたらす1次温度補償信号を生成するように構成された1次温度補償信号発生器であって、前記1次温度補償作用は、前記全ての温度範囲にわたって前記水晶発振器の周波数対温度特性を補完する1次温度補償信号発生器と、
前記1次温度補償作用によって残された前記水晶発振器の残留周波数対温度誤差を低減するために、前記温度範囲内で2次温度補償作用をもたらす2次温度補償信号を生成するように構成された2次温度補償信号発生器と、を備え、
前記2次温度補償信号は、アナログ温度センサの出力信号のシグモイド関数としてアナログ回路によって生成される少なくとも1つのアナログ温度補償信号を含み、
前記シグモイド関数が、プラトーに近似する領域、及び勾配領域を含み、
前記方法は、
(a)前記温度補償された水晶発振器を前記1次温度補償作用の下でのみ動作させるステップと、
(b)前記1次温度補償作用の下でのみ動作する前記温度補償された水晶発振器の残留周波数対温度誤差を特徴付けるステップと、
(c)前記ステップ(b)において特徴付けられた前記残留周波数対温度誤差を補完する2次温度補償作用をもたらす前記少なくとも1つのアナログ温度補償信号の、前記勾配領域の水平位置、前記勾配領域の勾配値、及び前記勾配領域にわたる関数変度合いのうちのいずれか1つ以上を個々に調節して、前記残留周波数対温度誤差を低減するステップと、
を含む、方法。
【請求項12】
記勾配領域の水平位置、前記勾配領域の勾配値、及び前記勾配領域にわたる関数変度合いの全てを個々に調節することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
温度補償された水晶発振器であって、
水晶発振器と、
前記温度補償された水晶発振器の補償温度のての温度範囲にわたって1次温度補償作用をもたらす1次温度補償信号を生成するように構成された1次温度補償信号発生器であって、前記水晶発振器の周波数対温度誤差を低減し、残留周波数対温度誤差を残すために、前記1次温度補償作用は、前記全ての温度範囲にわたって前記水晶発振器の周波数対温度特性を補完する1次温度補償信号発生器と、
記温度範囲内で2次温度補償作用をもたらす2次温度補償信号を生成するように構成された2次温度補償信号発生器であって、前記残留周波数対温度誤差を低減するために、前記2次温度補償作用は、前記残留周波数対温度誤差を補完する2次温度補償信号発生器と、を備え、
前記温度補償された水晶発振器は、前記残留周波数対温度誤差の特徴付けを容易にするために、前記1次温度補償作用の下でのみ動作するように構成され、
前記2次温度補償信号は、アナログ温度センサの出力信号のシグモイド関数としてアナログ回路によって生成される少なくとも1つのアナログ温度補償信号を含み、
前記シグモイド関数が、以下の要件:
-前記シグモイド関数が、プラトーに近似する領域、及び勾配領域を含むこと、を満たす、温度補償された水晶発振器。
【請求項14】
前記シグモイド関数の前記勾配領域の水平位置、前記シグモイド関数の前記勾配領域の勾配値、及び前記シグモイド関数の前記勾配領域にわたる関数変度合いは、調節可能である、請求項1に記載の温度補償された水晶発振器。
【請求項15】
前記複数の関数の少なくとも1つの前記勾配領域の水平位置、前記複数の関数の少なくとも1つの前記勾配領域の勾配値、及び前記複数の関数の少なくとも1つの前記勾配領域にわたる関数変度合いのいずれか1つ以上は、調節可能である、請求項2に記載の温度補償された水晶発振器。
【請求項16】
前記複数の関数の少なくとも1つの前記勾配領域の水平位置、前記複数の関数の少なくとも1つの前記勾配領域の勾配値、及び前記複数の関数の少なくとも1つの前記勾配領域にわたる関数変度合いは、調節可能である、請求項2に記載の温度補償された水晶発振器。
【請求項17】
温度補償された水晶発振器を構築するために好適な1次集積回路を使用するための補助集積回路であって、
前記1次集積回路は、前記温度補償された水晶発振器の補償温度のての温度範囲にわたって1次温度補償作用をもたらす1次温度補償信号を生成するように構成された1次温度補償信号発生器であって、前記水晶発振器の周波数対温度誤差を低減し、残留周波数対温度誤差を残すために、前記1次温度補償作用は、前記全ての温度範囲にわたって前記水晶発振器の周波数対温度特性を補完する1次温度補償信号発生器を備え、
前記補助集積回路は、前記温度範囲内で2次温度補償作用をもたらす2次温度補償信号を生成するように構成された2次温度補償信号発生器であって、前記残留周波数対温度誤差を低減するために、前記2次温度補償作用は、前記残留周波数対温度誤差を補完する2次温度補償信号発生器を備え、
前記温度補償された水晶発振器は、前記残留周波数対温度誤差の特徴付けを容易にするために、前記1次温度補償作用の下でのみ動作するように構成され、
前記2次温度補償信号は、アナログ温度センサの出力信号のシグモイド関数としてアナログ回路によって生成される少なくとも1つのアナログ温度補償信号を含み、
前記シグモイド関数が、プラトーに近似する領域、及び勾配領域を含む、補助集積回路。
【請求項18】
請求項1~および116のいずれか1項に記載の温度補償された水晶発振器を備える、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度補償された水晶発振器(TCXO)に関し、残留周波数不安定性が、温度情報を担持する信号の単一の好適な非線形関数として、または2つ以上の好適な非線形関数の組み合わせとして生成された追加の温度補償信号を適用することによって低減される。
【背景技術】
【0002】
現在の多くのTCXOでは、温度依存性補償電圧を生成して、それを電圧制御水晶発振器(VCXO)に適用することによって、温度補償が達成される。急激な周波数変化またはデジタルノイズを導入しないために、市販のアナログTCXOのほとんどは、起動後にTCXO装置の通常動作中にアナログ回路のみがアクティブになるように設計されている。
【0003】
このような装置の構造を、図1(先行技術)に示す。この図において、VCXOは、必要な周波数FOUTの出力信号を生成するように構成された調整可能な回路である。VCXO回路の一部として展開された水晶振動子の共振周波数は、温度依存性である。温度安定性に対する周波数FOUTを改善するために、温度補償関数発生回路は、温度補償電圧VCOMPを生成するように構成され、後者が出力周波数を補正するためにVCXOに適用される。補償電圧は、温度センサ出力信号の関数として生成され、この関数は、VCXOの周波数対温度特性に関連して、VCOMP電圧の適用によって出力周波数FOUTの不安定性が低減されるように適合される。
【0004】
VCXOの周波数対温度特性は、通常、多項式関数として近似され、補償電圧VCOMPは、VCXOの特性に適する多項式関数として温度補償関数発生器によって生成される。
【0005】
アナログTCXOの残留周波数対温度誤差曲線は、多項式関数などの簡単な数式では容易に定義することができない。さらに、誤差曲線の形状はTCXOサンプルごとに異なり、特に、温度に対する周波数誤差曲線の非直線性の位置、度合い、形状、及び数は、全てのTCXO装置に固有である。これらの非線形性は、水晶振動子の特徴的な非線形性と発振器構成要素の特徴的な非線形性との間の相互作用の結果である。図2及び図2aには、2つの実際のTCXO周波数対温度誤差曲線の例が示されている。
【0006】
TCXOの周波数対温度残留誤差曲線の一見無作為で一貫性のない形状は、多項式関数発生器を利用する技術のような、現在知られているアナログ補償技術を用いたさらなる誤差低減には役立たない。これにより、現時点で達成可能なアナログTCXO周波数安定性誤差が、約±0.1パーツ・パー・ミリオン(PPM)以上のいずれかに制限される。
【0007】
デジタル的に生成された後補償電圧を加えることにより、周波数対温度安定性誤差をさらに減少させる試みが知られている。例えば、米国特許第6,603,364号は、アナログ補償部とデジタル補償部との両方によって生成された温度補償電圧が、アナログTCXOの周波数安定度よりも高い周波数安定性を達成するために水晶発振器に適用される装置を記載している。
【0008】
別の既知の手法は、区分的な残留周波数誤差の低減であり、それにより、残留周波数対温度曲線は2つ以上のセグメントに分割され、各々のセグメントは、そのセグメントに関連する温度範囲にわたって動作する独自のアナログ関数発生器によって近似される。この手法は、ハードウェアの実装に関して実践可能ではないことが多く、セグメント境界での周波数ジャンプを排除することは困難である。
【0009】
本発明は、温度補償周波数誤差を低減する有用な方法を提供し、それにより、追加の温度補償信号(「2次補償」信号または「後補償」信号)が、意図された補償温度範囲にわたってアクティブである好適な非線形関数として生成された単一の信号、または2つ以上の信号の組み合わせ、のいずれかとして生成される。
【発明の概要】
【0010】
広義には、本発明は、温度補償された水晶発振器(TCXO)における周波数不安定性をさらに低減することを可能にする実践可能な温度補償技術を提供する。
【0011】
広義には、本発明によれば、温度補償信号は、意図された補償温度範囲にわたって動作する好適な非線形関数として生成された単一の、または2つ以上の信号の組み合わせ、のいずれかとして生成され、TCXOの周波数安定性をさらに向上させるために、このように形成された温度補償信号がVCXO回路に適用される。
【0012】
温度補償信号を生成するために使用される好適な非線形関数は、以下の要件を満たす任意の1つ以上の関数とすることができる。
-関数が、プラトー領域、及び実質的により大きい勾配領域を有すること、
-前記2つの領域が、連続的に(すなわち、不連続性を伴わずに)かつ滑らかに接続していること、ならびに
-実質的により大きい勾配領域の水平位置、実質的により大きい勾配領域の勾配値、及び実質的により大きい勾配領域の関数値変化度合いが、調節可能であること。
【0013】
最後の要件は、目標とされたTCXOの残留周波数誤差曲線形状に可能な限り近づけるために、後補償信号を形成することを可能にする。
【0014】
少なくともいくつかの実施形態では、「プラトーに近似する領域」または「プラトー領域」は、ゼロ勾配(水平)線に対して線形漸近的手法を示す関数曲線の領域を意味する。「実質的により大きい勾配領域」は、プラトー領域における勾配よりも実質的に大きい勾配を有する関数曲線の領域である。
【0015】
前述の要件を満たすいくつかの数学的関数を用いて、本発明の装置における温度補償関数発生器を実装することができる。例えば、シグモイド関数は前述の要件を満たすので、後補償の技法を実装するのに好適である。特に、シグモイド関数は、一対の水平漸近線によって境界が定められ、シグモイド関数の1次導関数(すなわち、勾配)はベル形状であるので、シグモイド関数は、プラトーに近似する2つの領域と、関数勾配値が、プラトー領域における関数勾配値より実質的により大きい領域を有する。
【0016】
特定の関数の選択は、所与の装置で使用される種類の電子ハードウェアでそれを生成するためにどのように実践可能であるかに依存する。
【0017】
前記単一の、または複数の生成された関数信号の度合い、勾配、及び位置は、生成された関数の組み合わせとして形成された後補償信号が、特定のTCXOの残留周波数対温度誤差曲線の形状に最適化されるようにTCXO装置ごとに調節される。
【0018】
これらのパラメータ間の相互作用を有する関数も展開することができるが、最適なパラメータ値が決定されたときに相互作用を考慮することができるので、温度補償信号を形成するために1つ以上の信号を生成するために使用されるように選択された関数が、実質的により大きい勾配領域の水平位置、実質的により大きい勾配領域の勾配値、及び実質的により大きい勾配領域にわたる関数値変化度合いが、互いに独立して調節可能であるようである場合は最良であり得る。
【0019】
所与のTCXO装置の安定性を改善するために本発明に従って形成された温度補償信号の形状は、装置の残留周波数誤差曲線の形状に依存する。全てのTCXOサンプルの残留誤差曲線の形状は異なり、固有であるため、本発明に従って生成された関数信号の勾配、関数の水平位置、及びその度合いは調節可能である。
【0020】
必要な勾配調節範囲は、所与のTCXO装置の母集団によって示される残留周波数誤差曲線の勾配の範囲に依存する。少なくともいくつかの実施形態では、約0.2PPB/℃~約50PPB/℃の関数勾配調節で十分であり、他の実施形態では、約1PPB/℃~約200PPB/℃のより広い勾配斜調節範囲が必要とされ、さらに他の実施形態では、約4PPB/℃~約1,000PPB/℃のさらにより広い勾配調節範囲が必要とされる。所与のTCXO母集団内の残留誤差曲線変動の程度に適するように補償信号を形成するために、上述したものとは異なる関数勾配調節範囲が必要とされることがある。
【0021】
生成された関数の水平位置は、所与のTCXO母集団の補償温度範囲を覆うように調節可能である。いくつかの実施形態では、生成された関数の水平位置は、-40℃~+85℃の温度範囲内で調節可能に構成され、他の実施形態では、-55℃~+105℃のより広い水平位置調節範囲が必要とされ、さらに他の実施形態では、-55℃~+125℃のさらにより広い水平位置調節範囲が必要とされる。所与のTCXO母集団に対して指定された補償温度範囲に適するようにするためには、上述したものとは異なる水平位置調節範囲が必要となることがある。
【0022】
生成される関数の度合いは、TCXOの残留周波数誤差の可能な度合いの範囲を覆うように調節可能である。最新のTCXOは、意図された補償温度範囲にわたって±100PPB最大~約±2.5PPMの範囲の残留周波数不安定性を示す。少なくともいくつかの実施形態では、本発明に従って生成される関数信号の度合いは、約±100PPBの範囲内で調節可能であり、他の実施形態では、要求される関数の度合いの調節範囲はより広く、±0.5PPMに及び、さらに他の実施形態では、±2.5PPMのさらに広い範囲が必要とされる。所与のTCXO母集団の残留周波数誤差を補償するために、上述したものとは異なる関数振幅調節範囲が必要とされることがある。
【0023】
本発明の概念の一般性を犠牲にすることなく、本発明は、シグモイド関数セット内の関数の1つである双曲線正接(Tanh)関数の使用を介して本明細書でさらに説明される。この関数は、バイポーラ半導体集積回路(IC)として実装される装置に特に好適である。
【0024】
本発明の概念から逸脱することなく、当業者は、本発明の装置を実施するために異なる関数を選択することができ、例えば、異なる半導体プロセスで実装される装置の場合、シグモイドセットの関数に属する逆正接(arctan)関数がより好適であり得る。どの特定関数が選択されても、上記の要件を満たさなければならない。
【0025】
広義には、本発明の別の態様において、本発明は、温度情報を担持する信号の関数として生成される少なくとも1つの信号を含む温度補償信号を生成するように構成された電子回路を各々含む温度補償された水晶発振器を製造する方法を含み、
-各々の発振器の残留周波数対温度誤差を特徴付けるステップと、
-前記少なくとも1つの信号に、プラトー領域、及び連続的にかつ滑らかに接続された実質的により大きい勾配領域を含ませるステップと、
-各々の発振器について、実質的により大きい勾配領域の水平位置、実質的により大きい勾配領域の勾配値、及び実質的により大きい勾配領域にわたる関数値変化度合い、を個々に調節して、個々の発振器の前記温度補償信号を最適化するステップと、を含む。
【0026】
広義には、本発明のさらなる態様において、本発明は、温度情報を担持する信号の関数として生成される少なくとも1つの信号を含む温度補償信号を生成するように構成された電子回路を備え、関数が、プラトー領域、及び連続的にかつ滑らかに接続された実質的により大きい勾配領域、を含み、実質的により大きい勾配領域の水平位置、実質的により大きい勾配領域の勾配値、及び実質的により大きい勾配領域にわたる関数値変化度合い、のうちの任意の1つ以上が調節可能である、温度補償された水晶発振器を備える。
【0027】
本明細書及び特許請求の範囲において使用される「備える(comprising)」という用語は、「少なくとも一部分を構成する」を意味する。「備える(comprising)」という用語を含む本明細書及び請求範囲における各々の記述の解釈において、それ以外の特徴または用語の前に記載された特徴も存在し得る。「備える(comprise)」及び「備える(comprises)」などの関連用語も同様に解釈されるべきである。
【0028】
少なくともいくつかの実施形態では、実質的により大きい勾配領域の水平位置、実質的により大きい勾配領域における勾配値、及び実質的により大きい勾配領域にわたる関数値変化度合いの前述の調節のうちの任意の1つ以上は、間接的に及び他の関数パラメータを調節することの結果として影響を及ぼされ得る。例えば、実質的に大きい勾配領域及びプラトー領域が接続している領域の水平位置を調節することは、実質的により大きい勾配領域の水平位置を効果的に調節する効果を有する。同様に、また別の例として、シグモイド関数において実質的により大きい勾配領域が2つのプラトー領域のそれぞれに接続している領域の相対的な水平位置または間隔を調節することは、より大きい勾配領域の勾配を効果的に調節する効果を有する。さらに別の例として、別の領域にわたって関数変化の度合いを調節することは、実質的により大きい勾配領域にわたって関数値変化度合いを調節するという結果的な効果を有し得る。換言すれば、実質的により大きい勾配領域の水平位置、実質的により大きい勾配領域の勾配値、及び実質的により大きい勾配領域にわたる関数値変化度合い、のいずれか1つ以上の関数調節を、これらの関数パラメータの直接的または間接的な調節として、実装することができる。本明細書及び特許請求の範囲において、実質的により大きい勾配領域の水平位置、実質的により大きい勾配領域における勾配値、及び実質的により大きい勾配領域にわたる関数値変化度合いを調節することまたはこれらの調節に対する言及は、それに応じて理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明は、添付図面を参照してさらに説明される。
【0030】
図1】アナログTCXO(先行技術)の構造を示す。
図2-2a】2つの実際のTCXO残留温度補償誤差曲線の例を示す。
図3】双曲線正接(Tanh)関数のプロットを示す。
図4-4b】温度のTanh関数として生成された2つの信号の例(図4及び図4a)と、2つの関数を組み合わせてTCXO内の残留補償誤差を補正するのに好適な温度補償信号を形成した結果を示す(図4b)。
図5】生成されたTanh関数における勾配調節を示す。
図6】Tanh電圧を生成する電子回路の一例を示す。
図7】「V Set Inflection」電圧、「RSLOPE」抵抗値及び「RGAIN」抵抗値が変更されたときに、図6に示す回路によって生成されたTanh関数の水平位置、勾配、及び度合い、がどのように変化するかを示している。
図8】本発明の温度補償技術を展開するTCXO ICの構造例を示す。
図9】従来(先行技術)のTCXOを後補償するために使用されるスタンドアロン補助ICの構造の一例を示す。
【0031】
実施形態の詳細な説明
TCXOの周波数対温度安定性誤差をさらに低減するために、追加の(「後補償」)信号が生成され、VCXOに適用される(後者は、図1(先行技術)に示されるようにTCXOの一部を含む)。所与のTCXOの残留周波数誤差曲線の形状に応じて、後補償信号は、各々のそのような信号が、例えば、前述の要件を満たす関数として形成される、例えば、双曲線正接Tanh関数のような、1つまたは複数の信号の組み合わせの信号として生成される。
【0032】
好都合なことに、双曲線正接関数Tanhは、TCXOの残留周波数誤差を低減するときに効果的に使用することができる滑らかで丸みのある有界のアナログ曲線を生成する。Tanh関数のプロット例を、図3に示す。
【0033】
Tanh関数の別の利点は、双極差動トランジスタ対がTanh応答を有するので、Tanh関数信号が、バイポーラ電子回路を用いて容易に生成され得ることである。
【0034】
Tanh関数は、数学的にさまざまな方法で表現できる。次の式は、便利な操作に役立つ。
【数1】
【0035】
上記の式に調節可能な係数を加えることにより、Tanh曲線の度合い(垂直ゲイン)、勾配、及び水平位置(変曲点)を調節することができる。
【数2】
【0036】
さらに、複数のTanh曲線を生成して組み合わせることにより、所与のTCXOの残留周波数誤差曲線に密接に一致する高度に可変な滑らかな曲線を形成することが可能である。図4図4a、及び図4bに示すプロットは、温度のTanh関数として生成された2つの信号の例(図4及び図4a)と、2つの関数を組み合わせてTCXO内の残留補償誤差を補正するのに好適な温度補償信号を形成した結果を示す(図4b)。2つのTanh信号は、「a」、「b」、及び「c」係数の異なるセットを使用して生成される。3つのプロットのうち第1のプロットは、a=1、b=0.1、及びc=-5で形成された最初のTanh関数を示す。第2のプロットは、a=-0.8、b=0.03、及びc=25で形成された第2のTanh関数を示す。第3のプロットは、2つのTanh関数の組み合わせ(合計)を示す。
【0037】
1つ以上のTanh信号(電圧または電流)を生成し、それらを組み合わせることにより、TCXOの残留周波数対温度誤差をさらに低減するのに好適な温度補償信号を形成することができる。
【0038】
生成された各々のTanh関数に対して、係数「a」の値を調節することによって度合い(すなわち、実質的により大きい勾配領域にわたる関数値変化度合い)が設定され、係数「b」の値を調節することによって勾配が設定され、係数「c」の値を調節することによって水平位置が設定される。図5のプロットは、係数「b」が0に設定されたときの0(ppm/℃)からb=3のとき(1ppm/℃)の範囲内でTanh関数の勾配を調節する方法を示す。
【0039】
Tanh電圧を生成する電子回路の一例を図6に示す。この回路では、入力電圧の1つとTanh関数の引数として信号を担持する温度情報(温度センサ出力電圧「V Temp Sensor」)が使用される。トランジスタQP26及びQP28のエミッタ間に接続された「RGAIN」抵抗の値は、生成されたTanh関数の度合い(上記式の係数「a」に対応する)を決定し、トランジスタQN1及びQN2のエミッタ間に接続された抵抗「RSLOPE」の値は、生成されたTanh関数の勾配(上記の式の係数「b」に対応する)を決定し、端子「V Set Inflection」の別の回路入力は、生成されたTanh関数曲線の水平位置(上記の式の係数「c」に対応する)を決定する電圧を受ける。
【0040】
図7に示されるグラフは、「V Set Inflection」電圧、「RSLOPE」抵抗値及び「RGAIN」抵抗値が変更されたときに、図6に示す回路によって生成されたTanh関数の水平位置、勾配及び度合いがどのように変化するかを示している。
【0041】
図6は、双曲線正接Tanh電圧を生成する回路の実装例を示しているが、Tanh関数生成回路は、図6に示す例に限定されず、電子回路設計の当業者は、Tanh関数信号を生成するための代替回路を思い付くことができる。
【0042】
図6に示された回路のいくつかの例、または好適に選択された関数信号を生成する代替回路のいくつかの例は、本発明の典型的な実施形態では、多数の信号を、信号を担持する温度情報の関数として生成し、組み合わせ、したがって、残存TCXO誤差を低減するための後補償信号を形成するために使用され得る。このような後補償の技術は、残存周波数対温度の不安定性を±100パーツ・パー・ビリオン(PPB)以上(現行技術水準)から±5PPB程度に低減することを可能にする。
【0043】
本発明による後補償信号を形成するために生成される関数信号の数は、所与のTCXOの残留周波数対温度誤差の形状に依存することは、当業者には理解されるであろう。本発明の少なくともいくつかの実施形態では、いくつかの(2つ以上の)関数信号が生成される。前述の要件を満たす多くの関数があるが、少なくともいくつかの実施形態では、同じ関数タイプのいくつかの信号が生成され、展開される電子機器ハードウェア内の関数を生成する実用性によって主に定義される特定の関数タイプの選択が行われる。
【0044】
本発明の温度補償技術は、デジタル後補償または区分的アナログ後補償よりも多くの利点を有する。例えば、
●本発明のTCXO装置内に展開された全ての関数発生回路は、意図された補償温度範囲にわたってアクティブであり、周波数対温度後補償誤差曲線に不連続性を生じさせないこと。
●本発明のTCXO装置の動作は、純粋にアナログにすることができ、すなわち、装置の通常の動作中にデジタル活動が起こらず、クロッキングまたはデジタル信号遷移によるデジタルノイズが発生しない。
●個々の関数曲線は、任意のまたはほとんど全てのTCXO残留誤差曲線に適合する補償信号を形成するために調節することができる。
【0045】
温度補償技術は、完全なTCXO集積回路(IC)の一部として、または例えば図1に示すTCXO(先行技術)のような、先行技術のTCXOの周波数安定性を改善するために温度補償技術を使用することを可能にするスタンドアロン補助ICとして実装することができる。
【0046】
本発明の補償技術を展開する完全なTCXO ICの構造例を、図8に示す。この例では、温度補償関数発生器(図1(先行技術)のような)によって生成されたVCOMP電圧は、本発明のような後補償電圧発生器によって生成された後補償電圧VPCOMPに加えられ、VCXOを補償するために電圧VCOMPとVPCOMPの合計が適用され、したがって周波数FOUTのより高い安定性が達成される。前に指摘したように、Tanh補償後電圧発生器は、温度センサの出力信号のTanh関数として生成された単一の、または2つ以上の組み合わせのいずれかの信号として付加的な補償信号VPCOMPを生成し、選択された関数が以下の要件を満たす限り、装置を実装するために使用される半導体プロセス技術に依存して、他の好適な関数を使用することができる。
-関数が、プラトーに近似する領域、及び実質的により大きい勾配領域を有すること、
-前記2つの領域が、連続的に(すなわち、不連続性を伴わずに)かつ滑らかに接続していること、ならびに
-実質的により大きい勾配領域の水平位置、実質的により大きい勾配領域の勾配値、及び実質的により大きい勾配領域の関数値変化度合い、が調節可能であること、である。
【0047】
温度補償信号を形成するために1つ以上の信号を生成するために使用されるように選択された関数が、実質的により大きい勾配領域の水平位置、実質的により大きい勾配領域の勾配値、及び実質的により大きい勾配領域にわたる関数値変化度合いから互いに独立して調節可能である場合が最良であるが、最適なパラメータ値が決定されたときに相互作用を考慮することができるので、これらのパラメータ間の相互作用を有する関数も展開することができる。
【0048】
本発明は、1次温度補償が他の技術(例えば、多項式関数など)によって行われるTCXO装置において、付加的な温度補償(「後補償」)を実施するために、如何に使用され得るかを示すことによって本明細書で説明されているが、補償されていない発振器の周波数対温度特性が、単一のTanh関数、もしくは前述の要件を満たす他の関数によって、またはこれらのうちのいくつかの組み合わせによって、のいずれかで、十分に近い近似に役立つ場合、その概念から逸脱することなく、本発明を使用して、1次温度補償信号を形成することもできる。
【0049】
本発明の概念から逸脱することなく、Tanh関数として、または前述の要件を満たす他の関数として生成された信号は、アナログ回路(例えば、図6に示す回路など)または(マイクロコントローラのような)デジタル回路のいずれかによって生成することができる。いずれの場合でも、信号は、アナログ信号(例えば、アナログ温度センサによって生成される)またはデジタル信号(例えば、温度センサの出力信号をデジタル化することによって生成される)であり得る温度情報を担持する信号の関数として生成される。
【0050】
上述の実施形態では、より大きい勾配領域の水平位置、より大きい勾配領域の勾配値、及びより大きい勾配領域にわたる関数値変化度合いの全てが調節可能である。しかしながら、他の実施形態では、より大きい勾配領域の水平位置、より大きい勾配領域の勾配値、及びより大きい勾配領域にわたる関数値変化度合い、のうちのいずれか1つのみ、または2つのみが調節可能であり得る。例えば、一部の用途においては、水平位置及び関数値変化度合いのみが調節可能であることが、十分であり得る。
【0051】
本発明の代替の実施形態として、スタンドアロンの補助ICを実装し、先行技術のTCXOを後補償するために使用することができる。このような補助ICの構造を、図9に示す。補助IC(図9では破線で囲まれている)において、「先行技術のTCXO」の「VCO」入力に通常適用される「制御電圧」は、例えば、単一の、または2つ以上のTanh関数電圧の組み合わせとして、本発明の技術ごとに生成された後補償電圧VPCOMPと組み合わされる。加算ブロックの出力は、「先行技術のTCXO」の「VCO」入力に適用され、「先行技術のTCXO」を後補償する新しい制御信号である。
【0052】
本発明の技術を使用して実装されたTCXO装置の高周波安定性は、安定した基準周波数対温度特性が必要とされる任意の電子装置の性能に有益である。そのような装置には、携帯型及び固定式電気通信機器、高速ネットワーキング機器、無線通信機器、及びナビゲーション機器などが含まれるが、これらに限定されない。
図1
図2
図2a
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9