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特許7254448炭素繊維並びに炭素化方法及び炭素繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】炭素繊維並びに炭素化方法及び炭素繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/22 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
D01F9/22
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018068675
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178457
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167438
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100166800
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 裕治
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 慶宜
【審査官】鈴木 祐里絵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-025418(JP,A)
【文献】特表2010-510406(JP,A)
【文献】Structural heterogeneity and stress distribution in carbon fiber monofilament as revealed by syncrotron micro-beam X-ray scattering and micro-Raman spectral measurements,Carbon,2011年,49,1646-1652
【文献】小林貴幸ら,X線マイクロビームによる炭素繊維の短繊維の局所構造解析,重点産業利用課題成果報告書,日本,産業利用・産業連携推進室,2009年,2009A1802
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00-32/991
D01F9/08-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が1.70~1.85g/cm(1.81g/cmを除く)の炭素繊維であって、
単繊維の結晶サイズの最大値と最小値との差が、0.1nm以下である
炭素繊維。
【請求項2】
前記単繊維の結晶配向度の最大値と最小値との差が、1%以下である
請求項1に記載の炭素繊維。
【請求項3】
密度が1.70~1.85g/cm(1.81g/cmを除く)の炭素繊維であって、
繊維の結晶配向度の最大値と最小値との差が、1%以下である
炭素繊維。
【請求項4】
前記単繊維の結晶サイズの最大値と最小値との差が、0.1nm未満である
請求項1又は2に記載の炭素繊維。
【請求項5】
前記単繊維の結晶配向度の最大値と最小値との差が、0.9%以下である
請求項2又は3に記載の炭素繊維。
【請求項6】
前駆体繊維を耐炎化した耐炎化繊維が炭素化されてなる、請求項1~5の何れか1項に記載の炭素繊維の製造方法において、
600K/分以上の昇温速度で、1.50~1.70g/cmの範囲内の密度になるまで、前記耐炎化繊維を加熱する
炭素繊維の製造方法。
【請求項7】
前駆体繊維を耐炎化した耐炎化繊維が炭素化されてなる、請求項1~5の何れか1項に記載の炭素繊維の製造方法において、
500K/分以上の昇温速度で、1.50~1.70g/cmの範囲内の密度になるまで、前記耐炎化繊維をマイクロ波又はプラズマを利用して加熱する
炭素繊維の製造方法。
【請求項8】
前駆体繊維を耐炎化した耐炎化繊維が炭素化されてなる、請求項1~5の何れか1項に記載の炭素繊維の製造方法において、
600K/分以上の昇温速度で、1.50~1.70g/cmの範囲内の密度になるまで、前記耐炎化繊維をマイクロ波又はプラズマを利用して加熱する
炭素繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は均一構造の炭素繊維並びにその炭素化方法及び炭素繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、比強度・比弾性率に優れ、軽量であるため、熱硬化性及び熱可塑性樹脂の強化繊維として、従来のスポーツ・一般産業用途だけでなく、航空・宇宙用途、自動車用途など、幅広い用途に利用されている。近年、炭素繊維複合材料の優位性はますます高まり、特に自動車、航空・宇宙用途において、炭素繊維複合材料の性能および生産性の向上に対する要求が高い。複合材料としての特性は炭素繊維そのものの特性に起因するところが大きく、炭素繊維自身への特性向上に対する要求が強まると同時に、炭素繊維自身の生産性の向上も望まれている。
一般的に、炭素繊維は、前駆体繊維に耐炎化処理を施して耐炎化繊維を得、更にこの耐炎化繊維に炭素化処理を施して得られることは広く知られており、またこの方法は工業的にも実施されている。
従来から、耐炎化工程において繊維内部に生じるスキンコア構造を低減する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、前駆体繊維の耐炎化工程における繊維の昇温速度を小さくすることにより、単繊維の中心部と外周部との構造ムラの低減を図る技術が提案されている。
しかしながら、耐炎化工程において生じた構造ムラのある耐炎化繊維を炭素化して均一な構造の炭素繊維を得る技術についてはまだ確立されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006―274518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記した課題に鑑み、構造ムラのある耐炎化繊維から製造された均一構造の炭素繊維並びにその炭素化方法及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係る炭素繊維は、単繊維の結晶サイズの最大値と最小値との差が、0.1nm以下である。本発明の一態様に係る炭素繊維は、単繊維の結晶配向度の最大値と最小値との差が、1%以下である。
本発明の一態様に係る炭素化方法は、前駆体繊維を耐炎化した耐炎化繊維を炭素化する炭素化方法において、500K/分以上の昇温速度で、1.50~1.70g/cmの範囲内の密度になるまで、前記耐炎化繊維を加熱する。
本発明の一態様に係る炭素繊維の製造方法は、前駆体繊維を耐炎化した耐炎化繊維を炭素化する炭素繊維の製造方法において、500K/分以上の昇温速度で、1.50~1.70g/cmの範囲内の密度になるまで、前記耐炎化繊維を加熱する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様に係る炭素繊維は、均一な構造を有する。
本発明の一態様に係る炭素化方法により、均一な構造に炭素化できる。
本発明の一態様に係る炭素繊維の製造方法により、均一な構造の炭素繊維を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】スキンコア構造を説明するための模式図である。
図2】炭素繊維の製造工程を示す概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<<概要>>
発明者らは、前駆体繊維から炭素繊維を製造する炭素化工程に着目して検討を重ね、スキンコア構造を有する耐炎化繊維を用い、特定の条件で炭素化を行うことで、均一な構造の炭素繊維が得られることが判明した。
ここでスキンコア構造について図1を用いて説明する。
スキンコア構造は、表面部であって酸化が進行したスキン層Aと、中央部であって酸化が進行していないコア層Bとを有する2重構造をいう。
光学顕微鏡で観察すると、スキン層Aは外周部の色味の濃い領域であり、コア層Bは内周部の色味の薄い領域である。
なお、スキンコア構造は、光学顕微鏡による耐炎化繊維の断面観察において、その断面における1つの繊維の全断面積に対するコア層面積の比率をコア率として評価することができる。
【0009】
<<実施形態>>
1.耐炎化工程
(1)耐炎化工程は、前駆体繊維に対して耐炎化する工程である。なお、耐炎化することを耐炎化処理ともいう。
耐炎化工程は、炉内が200~350[℃]の酸化性雰囲気に設定された耐炎化炉内を、前駆体繊維を通すことで行われる。なお、処理空間の温度が高いほど、処理時間が短いほど、コア率が大きくなる。
耐炎化処理は、耐炎化繊維の比重が1.30~1.46[g/cm]の範囲となるように行うことが好ましく、1.34~1.42[g/cm]の範囲となるように行うことがより好ましい。
【0010】
(2)コア率の算出方法
コア率の算出方法は以下の通りである。
耐炎化繊維の断面観察は、室温硬化型エポキシ樹脂に耐炎化繊維を包埋し、硬化後に研磨した断面に対して行なった。観察には反射顕微鏡を使用した。コア率は、耐炎化繊維の断面画像から明部分の断面積と明部分・暗部分を含む全断面積とを測定し、以下の式(1)に当てはめることで算出した。画像の閾値設定、2値化及び面積の測定は画像処理ソフトウェア(旭化成エンジニアリング社製。A像くん(登録商標))を用いて行った。
コア率 = 明部分の断面積/全断面積 × 100 (1)
【0011】
2.炭素化工程
炭素化工程は、スキンコア構造の耐炎化繊維に対して炭素化して炭素繊維を得る工程である。
なお、炭素化することを炭素化処理ともいう。
炭素化工程は第1炭素化工程と第2炭素化工程とを含む。
第1炭素化工程は、スキンコア構造を有する耐炎化繊維を、密度が1.50~1.70[g/cm]の範囲内となるように、500~1,500[K/分]の昇温温度で加熱する工程である。なお、昇温速度は、炉内に進入する時を基準として、炉内を走行する繊維の温度から算出される。
第2炭素化工程は、第1炭素化工程を終えた繊維を、密度が1.70~1.85[g/cm]の範囲内となるように加熱する工程である。
【0012】
3.炭素繊維
スキンコア構造を有する耐炎化繊維に対して、上記の第1炭素化工程を含む炭素化工程を行うことで、均一な構造の炭素繊維を得ることができる。
(1)結晶サイズ
ここでの均一な構造とは、炭素繊維の結晶サイズ(Lc)において、最大値と最小値の差が0.1[nm]未満のものをいう。また、より均一な構造とは、炭素繊維の結晶サイズ(Lc)において、最大値と最小値の差が0.06[nm]以下のものをいう。
また、ここでの均一な構造とは、炭素繊維の単繊維の結晶配向度の最大値と最小値との差が、1[%]以下のものをいう。より均一な構造とは、単繊維の結晶配向度の最大値と最小値の差が0.9[%]以下のものをいう。なお、結晶配向度の単位は「%」であり、ここでいう最大値と最小値との差は、単に、最大値から最小値を引いたものであり、比率を表すものではない。
これにより、例えば、単繊維の外周の表面に欠陥が生成されても、単繊維の内外層の構造差が小さいため、欠陥に応力が集中し難くなる。これにより、欠陥が破壊の起点となり難い。
【0013】
結晶サイズLcおよび結晶配向度Π002の測定は、シンクロトロン放射光施設にて実施できる。例えば財団法人高輝度光科学研究センターの大規模放射光施設SPring-8内のフロンティアソフトマター開発産学連合体が所有するビームラインBL03XUにおいて波長0.1305[nm](9,5[keV])のX線をX線フレネルゾーンプレート(FZP)で試料への照射直径が半値全幅で1[μm]となるように集光し、検出分解能[50μm/ピクセル]、検出範囲1032ピクセル×1032ピクセルのX線平面検出器(FPD)にてカメラ長54.2[mm]とし、単糸試料を繊維軸直交方向に1.0[μm]のピッチで走査しながら、各点について露光時間10秒として測定する。なお、繊維軸直交方向は繊維軸と直交する方向である。
【0014】
欧州シンクロトロン放射光研究所のウェブページより入手できる解析プログラムFit2D(http://www.esrf.eu/computing/scientific/FIT2D/ より配付)を用いて、測定で得られた二次元tifデータの黒鉛の(002)面の回折ピークについて赤道プロファイルおよび方位角プロファイルを抽出する。赤道プロファイルは、黒鉛の(002)面の回折ピークと低角側に非晶質ピークを仮定して、ガウス関数でのピークフィッティングを行い、黒鉛の(002)面の回折ピークの半値全幅から結晶サイズを求める。方位角プロファイルは、ガウス関数フィッティングの半値全幅から配向度を求める。繊維直径方向の位置較正は、各測定位置における方位角プロファイル強度の繊維軸直交方向分布を楕円関数でフィッティングして、繊維中心および両端(エッジ)を決定する。
【0015】
4.製造方法
上記「1.耐炎化工程」で説明したスキンコア構造の耐炎化繊維の製造方法及び上記「2.炭素化工程」を含んだ炭素繊維の製造方法について説明する。
ここでは、前駆体繊維がアクリロニトリル系繊維である場合を例にとって説明する。
【0016】
(1)炭素繊維の製造工程
図2は、炭素繊維の製造工程を示す概略図である。
炭素繊維は、前駆体繊維であるプリカーサを用いて製造される。1本のプリカーサは、複数本、例えば、24,000本のフィラメントが束になったものである。場合によっては、前駆体繊維束や炭素繊維束ということもある。
プリカーサ1aは、アクリロニトリルを90[質量%]以上、好ましくは95[質量%]以上含有する単量体を重合した紡糸溶液を湿式紡糸法又は乾湿式紡糸法において紡糸した後、水洗・乾燥・延伸して得られる。なお、共重合する単量体としては、アクリル酸アルキル、メタクリル酸アルキル、アクリル酸、アクリルアミド、イタコン酸、マレイン酸等が利用される。
通常、プリカーサ1aを製造する速さと、プリカーサ1aを耐炎化及び炭素化して炭素繊維を製造する速さが異なる。このため、製造されたプリカーサ1aは、一旦、カートンに収容されたり、ボビンに巻き取られたりする。
前駆体繊維のフィラメント数は、製造効率の面では1,000本以上が好ましく、12,000本以上がより好ましく、24,000本以上が特に好ましい。
【0017】
プリカーサ1aは、図2に示すように、例えばボビン30から引き出され、下流側に向かって走行する。その途中で、各種の処理がなされて、炭素繊維としてボビン39に巻き取られる。
炭素繊維は、図2に示すように、プリカーサ1aを耐炎化する耐炎化工程と、耐炎化された繊維(以下、「耐炎化繊維」という。)1bを延伸させながら炭素化する炭素化工程と、炭素化された繊維(以下、「炭素化後繊維」ともいう。)1dの表面を改善する表面処理工程と、表面が改善された繊維1eにサイジング剤を付着させるサイジング工程と、サイジング剤が付着した繊維1fを乾燥させる乾燥工程とを経て製造される。
乾燥された繊維1gは、炭素繊維1gとしてボビン39に巻き取られる。なお、各工程を終えた繊維を、例えば耐炎化繊維1bのように、区別しているが、単に「繊維」として説明する際の符号は、「1」を用いる。
ここで、炭素化後繊維1dの表面を改善する処理を表面処理、表面が改善された繊維1eにサイジング剤を付着させる処理をサイジング処理、サイジング剤が付着した繊維1fを乾燥させる処理を乾燥処理とそれぞれいう。以下、各工程及び各処理について説明する。
【0018】
(1-1)耐炎化工程(耐炎化処理)
耐炎化工程は、200~350[℃]の範囲内の温度であって酸化性雰囲気に設定された耐炎化炉3を利用して行う。具体的には、耐炎化は、空気雰囲気中の耐炎化炉3内をプリカーサ1aが通過することで行われる。なお、酸化性雰囲気は、酸素、二酸化窒素等を含んでもよい。
耐炎化工程では、上流側から下流側に移るにしたがって、炉内の温度が高くなっている。これは、プリカーサ1aの切断を誘発させずに効率よく耐炎化を行うためである。
耐炎化工程での加熱時間は40~80[分]の範囲内である。ここでの耐炎化は、プリカーサ1aの密度が1.5[g/cm]以下となるように、温度、加熱時間等が設定されている。
耐炎化工程中のプリカーサ1aは、製造する炭素繊維1gの特性に合わせて所定の張力で延伸される。耐炎化工程での延伸倍率は、-10~+10[%]の範囲内であることが好ましく、-5~0[%]の範囲内であることがより好ましい。プリカーサ1aの延伸は複数のローラにより行われる。例えば、延伸は、耐炎化炉3の入口のローラ5,7や出口のローラ9,11,13により行われる。
【0019】
(1-2)炭素化工程(炭素化処理)
炭素化工程は、耐炎化繊維1bを加熱することで熱分解反応を生じさせて炭素化を行う工程である。炭素化は、耐炎化繊維1bが第1炭素化炉15を通過し、さらに、第1炭素化炉15を通過した繊維1cが第2炭素化炉17を通過することで行われる。
【0020】
ここで、第1炭素化炉15で行われる炭素化を「第1炭素化」とし、第1炭素化炉15で行われる処理を「第1炭素化処理」とし、第1炭素化炉15で行われる工程を「第1炭素化工程」とする。
同様に、第2炭素化炉17で行われる炭素化を「第2炭素化」とし、第2炭素化炉17で行われる処理を「第2炭素化処理」とし、第2炭素化炉17で行われる工程を「第2炭素化工程」とし、第2炭素化処理や第2炭素化工程を終えた(第2炭素化炉17を出た)繊維1dを「炭素化後繊維」とする。
ここでは、第1炭素化炉15と第2炭素化炉17とは互いに独立した形態で設けられ、各炭素化炉15,17の間には繊維の張力を調整する調整手段を設けることができる。具体的には、第1炭素化炉15の外であって入口側にはローラ19が、第1炭素化炉15と第2炭素化炉17との間にはローラ21が、第2炭素化炉17の外であって出口側にはローラ23がそれぞれ設けられている。
第2炭素化炉17の内部の温度は、第1炭素化炉15の内部の温度よりも高く、第2炭素化炉17の内部での最高の温度が炭素処理工程における最高温度となる。
【0021】
第1炭素化工程では、耐炎化繊維を500~1,500[K/分]の昇温速度で加熱する。より好ましい昇温速度は、600~1,200[K/分]である。加熱時間は、処理中の繊維の密度が1.5~1.7[g/cm]の範囲内の所定値になるまでの時間である。上記の昇温速度で加熱する加熱手段としては、例えば、マイクロ波、プラズマ等がある。
第2炭素化工程では、第2炭素化炉の最高温度は目的とする炭素繊維のストランド弾性率に応じて適宜調整すればよく、1,000~2,000[℃]の間であることが好ましい。第2炭素化工程での加熱手段としては、例えば、マイクロ波、プラズマ、電気ヒータ等がある。
【0022】
(1-3)表面処理工程(表面処理)
表面処理工程は、炭素化後繊維1dが表面処理装置25内を通過することで行われる。表面処理装置25の外であって出口側にはローラ26が設けられている。なお、表面処理することで、炭素繊維1gを利用して複合材料とした場合、炭素繊維1gとマトリックス樹脂との親和性や接着性が向上する。
表面処理は、一般に炭素化後繊維1dの表面を酸化することにより行われる。表面処理として、例えば、液相中又は気相中の処理がある。
液相中での処理は、酸化剤に炭素化後繊維1dを浸漬することによる化学酸化や、炭素化後繊維1dが浸漬する電解液中で通電することによる陽極電解酸化等が工業的に用いられる。気相中での処理は、炭素化後繊維1dを酸化性気体の中を通過させたり、放電等によって発生した活性種を吹き付けたりすることにより行なうことができる。
【0023】
(1-4)サイジング工程(サイジング処理)
サイジング工程は、表面処理された繊維1eがサイジング剤浴27に貯留されているサイジング剤溶液29内を通過することで行われる。なお、サイジング工程により、表面処理された繊維1eの収束性が高まる。
サイジング工程において、表面処理された繊維1eは、サイジング剤浴27の内部やサイジング剤浴27の周辺に配された複数のローラ31,33等により走行方向を変更しながらサイジング剤溶液29内を通過する。サイジング剤溶液29は、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等を溶媒に溶解させた液や、溶媒に分散させたエマルション液が利用される。
【0024】
(1-5)乾燥工程(乾燥処理)
乾燥工程は、サイジング剤が付着した繊維1fが乾燥炉35内を通過することで行われる。なお、乾燥した繊維1gは、乾燥炉35の外であって下流側のローラ37を介してボビン39に巻き取られる(巻取工程である。)。
【実施例
【0025】
〔実施例1~2、比較例1~3〕
表1に示す前駆体繊維であるポリアクリロニトリル繊維(単繊維繊度0.8[dtex]、フィラメント数24,000本)に対して、第1炭素化工程及び第2炭素化工程を行った。これを硫酸アンモニウム水液中で電解酸化により表面処理した後、エポキシ系樹脂にてサイジング処理を施した。
このときの各炭素化工程の条件及び炭素繊維の結晶サイズと結晶配向度とを表1に示した。なお、炭素化に使用した耐炎化繊維は実施例及び比較例とも同じであり、耐炎化繊維の特性を表2に示す。なお、耐炎化繊維のコア率は、10[%]であり、スキンコア構造を有している。
【0026】

【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
(1)結晶サイズLc
本発明の炭素化方法を用いた実施例1~2では、炭素繊維の結晶サイズLcの最大値と最小値の差が0.06[nm]以下となり、均一な結晶サイズLcの炭素繊維が得られた。
実施例1と比較例1とは、第1炭素化工程における昇温速度だけが異なり、第2炭素化工程の条件は同じである。第1炭素化工程の昇温速度の違いにより、結晶サイズの最大値と最小値との差に違いが生じた。なお、実施例1と比較例1とでは、第1炭素化工程の昇温速度は異なるが、炭素化温度は略同じである。
同様に、実施例2と比較例2とは、第1炭素化工程における昇温速度だけが異なり、第2炭素化工程の条件は同じである。この場合も、第1炭素化工程の昇温速度の違いにより、結晶サイズの最大値と最小値との差に違いが生じた。なお、実施例2と比較例2とでは、第1炭素化工程の昇温速度は異なるが、炭素化温度は略同じである。また、実施例1、2及び比較例1~3の第1炭素化工程の炭素化温度は略同じである。
このように、第1炭素化の昇温速度が炭素繊維の結晶サイズLcに影響することが判明した。
【0029】
実施例2の第1炭素化の昇温速度は600[K/分]であり、比較例1~3の第1炭素化の昇温速度は400[K/分]であった。このことから、第1炭素化の昇温速度が500[K/分]以上で、均一な結晶サイズの炭素繊維が得られると考えられる。なお、第1炭素化の昇温速度が400[K/分]以下では、第2炭素化工程での昇温速度を変化させても、結晶サイズの最大値と最小値との差を小さくできなかった。
【0030】
(2)結晶配向度
本発明の炭素化方法を用いた実施例1~2では、炭素繊維の結晶配向度の最大値と最小値の差が0.9[%]以下となり、均一な結晶配向度の炭素繊維が得られた。
実施例1と比較例1とは、第1炭素化工程における昇温速度だけが異なり、第2炭素化工程の条件は同じである。第1炭素化工程の昇温速度の違いにより、結晶配向度の最大値と最小値との差に違いが生じた。
同様に、実施例2と比較例2とは、上述の通り、第1炭素化工程における昇温速度だけが異なり、第2炭素化工程の条件は同じである。第1炭素化工程の昇温速度の違いにより、結晶配向同の最大値と最小値との差に違いが生じた。
このように、第1炭素化の昇温速度が炭素繊維の結晶配向度に影響することが判明した。
【0031】
実施例2の第1炭素化の昇温速度は600[K/分]であり、比較例1~3の第1炭素化の昇温速度は400[K/分]であった。このことから、第1炭素化の昇温速度が500[K/分]以上で、均一な結晶配向度の炭素繊維が得られると考えられる。なお、第1炭素化の昇温速度が400[K/分]以下では、第2炭素化工程での昇温速度を変化させても、結晶配向度の最大値と最小値との差を小さくできなかった。
【0032】
<<変形例>>
以上、実施形態に基づいて説明したが、本発明は実施形態に限られない。例えば、以下で説明する変形例と実施形態の何れかを適宜組み合わせてもよいし、複数の変形例を適宜組み合わせてもよい。
【0033】
炭素繊維
「2.製造方法」の項目では、フィラメント数が24,000本の炭素繊維の製造方法について説明したが、フィラメント数が3,000本、6,000本、12,000本等の他の本数の前駆体繊維の炭素化及び炭素繊維の製造方法にも適用できる。
「3.製造方法」の項目では、炭素化工程を含んだ炭素繊維の製造方法について説明したが、例えば、表面処理工程前に、さらに黒鉛化処理を行ってもよい。
【符号の説明】
【0034】
1 繊維
1a プリカーサ
1b 耐炎化繊維
15 第1炭素化炉
17 第2炭素化炉
図1
図2