(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】染色された細胞を光褪色させる方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/536 20060101AFI20230403BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20230403BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20230403BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
G01N33/536 D
G01N33/53 Y
G01N33/48 P
G01N21/64 C
G01N21/64 F
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018220121
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-11-22
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520094891
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ベー.フェー. ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Strasse 68, 51429 Bergisch Gladbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ヨナタン ファウアーバッハ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン ドーゼ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス デー. ロッケル
(72)【発明者】
【氏名】ヴェロニカ ルドルフ
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-136937(JP,A)
【文献】特開2017-002284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0241911(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/577
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物検体の試料中で標的部分を検出する方法であって、
a
)少なくとも1種の結合体を準備し、ここで、前記結合体は、
一般式II:
【化1】
前記式中のZは、蛍光部分Xまたは抗原認識部分Yであるが、ただし、Zの少なくとも1個は蛍光部分Xでなければならず、かつZの少なくとも1個は抗原認識部分Yでなければならず、かつpは、2から500までの範囲の整数である、による化合物であるか;あるいは一般式III:
【化2】
前記式中のZは、蛍光部分Xまたは抗原認識部分Yであるが、ただし、Zの少なくとも1個は蛍光部分Xでなければならず、かつZの少なくとも1個は抗原認識部分Yでなければならず、かつpは、2から500までの範囲の整数である、による化合物であり、
b)前記生物検体の試料と、
前記少なくとも1種の結合体とを接触させ、それにより抗原認識部分Yにより認識される標的部分を該結合体で標識し、
c)標識された標的部分を、蛍光部分Xの吸収スペクトルの範囲内の波長を有する光で励起し、
d)前記標識された標的部分を、前記蛍光部分により放出される蛍光放射の検出により検出し、そして
e)前記蛍光部分により放出される蛍光放射を初期蛍光放射の少なくとも75%
まで低減するに足るエネルギーを与えるのに十分な時間にわたって、前記結合体に、蛍光部分Xの吸収スペクトルの範囲内の波長を有する光を照射することにより、前記標識された標的部分の蛍光部分Xを分解する
ことにより行う方法。
【請求項2】
前記蛍光部分Xは、キサンテン色素、ローダミン色素、クマリン色素、シアニン色素、ピレン色素、オキサジン色素、ピリジルオキサゾール色素、およびピロメテン色素からなる群から選択されることを特徴とする、請求項
1記載の方法。
【請求項3】
前記蛍光部分Xは、スルホネート、ホスホネート、ホスフェート、スルホンアミド、ポリエーテル、およびカーボネートからなる群から選択される1個以上の水溶性付与置換基で置換されていることを特徴とする、請求項1
または2記載の方法。
【請求項4】
抗原認識部分Yは、それぞれ天然由来または組換え由来の、免疫グロブリン、抗体、フラグメント化抗体、Fab、Fab’、F(ab’)
2、sdAb、scFv、ジscFvからなる群から選択される少なくとも1種の生体分子であることを特徴とする、請求項1から
3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
抗原認識部分Yは、ペプチド/MHC複合体、細胞接着または共刺激分子のための受容体、受容体リガンド、抗原、ハプテンバインダー、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、アプタマー、プライマー、およびリガーゼ基質からなる群から選択される少なくとも1種の生体分子であることを特徴とする、請求項1から
3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記抗原認識部分Yは、抗体、フラグメント化抗体、フラグメント化抗体誘導体、ペプチド/MHC複合体を標的とするTCR分子、細胞接着受容体分子、共刺激分子のための受容体、または人工的に操作された結合分子であることを特徴とする、請求項1から
3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
抗原認識部分Yが異なる抗原を認識す
る前記結合体を準備することにより工程a)~d)を繰り返すことを特徴とする、請求項1から
6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工程e)において、標識された標的部分の蛍光部分Xはさらに、酸化剤の添加により分解することを特徴とする、請求項1から
7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法の、
蛍光顕微鏡法、フローサイトメトリー、スペクトロフルオロメトリー、細胞分離、病理学、または組織学における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標的部分または標的細胞を、検出部分と抗原認識部分とを有する結合体で標識することによって前記標的部分もしくは前記標的細胞を細胞試料から検出または同定するための方法であって、前記標的部分の検出後に、該検出部分が光の照射によって分解され、それにより後続の標識および検出が可能となる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1つ以上の抗体に結合された蛍光色素は、免疫蛍光分析のために通常使用されている。抗体、蛍光色素、フローサイトメーター、フローソーター、および蛍光顕微鏡の点における数多くの別形がこの二十年間で開発され、標的細胞の特異的な検出および単離が可能となっている。
【0003】
検出後に除去または破壊することができる標的細胞の単離または検出用の蛍光色素を利用することは知られている。例えば、米国特許第7776562号明細書(US7776562)は、標的細胞の可逆的ペプチド/MHCマルチマーまたはFab-ストレプタマーによる間接的な非共有的な標識に基づく可逆的な蛍光標識法を開示している。
【0004】
検出後の蛍光放射を低減させるために、英国特許第2372256号明細書(GB2372256)は、抗体にリンカーを介して結合された複数の蛍光色素を含む結合体を提供することにより蛍光放射を消光する方法を開示している。高密度の蛍光色素は、蛍光シグナルを消光することとなる。さらに、英国特許第2372256号明細書(GB2372256)は、前記結合体から蛍光色素を解離するために前記リンカーを酵素分解することを記載している。解離された蛍光色素は自己消光を受けないため、より強力な蛍光シグナル、すなわちより良好な解像力のシグナルが得られる。
【0005】
蛍光シグナルの排除は、順次染色する検体を基礎とする免疫蛍光技術のためには必要不可欠である。これらの技術は、標識と検出を同時に使用する標準的な手順と比較して、より高い多重化の可能性をもたらすと明らかになっている。しかしながら、これらの技術は、結合された蛍光部分の化学褪色法(米国特許第7741045号明細書(US7741045B2)、欧州特許第0810428号明細書(EP0810428B1)、または独国特許第10143757号明細書(DE10143757))による酸化分解を基礎とするか、または光褪色を基礎とする方法の場合に、褪色の速度は、本明細書に表される方法に対してより遅い。
【0006】
先行技術の主たる目的は、できる限り強く蛍光放射を発する、すなわち最大量子収率を有する色素またはそのような色素を含む結合体を提供することであった。信頼性のある再現的なシグナルを得るために、該色素はできる限り安定であるように設計される。これらの特性はFACS法のような細胞検出および細胞分離のために有利である一方で、それらの特性は、細胞が繰り返し染色および検出されることを妨げる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、生物検体の試料中または試料上で標的を特異的に標識および検出し、引き続き検出部分を分解して、更なる標識および検出のサイクルを可能にする向上した方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、スペーサーを介して検出部分に結合された抗原結合部分から構成される結合体は、前記スペーサーが、複数のオリゴマーPEG側鎖を備えた、すなわちある特定の分岐度を有する分岐状PEGオリゴマーまたはポリマーであり、かつ前記検出部分が、その分岐状PEGに共有結合されている場合に、より高い量子収率(したがってより高い輝度)および光により容易に分解され得る低減された光安定性の両方を有することが判明した。この理論に縛られるものではないが、前記分岐状PEGオリゴマーまたはポリマーがそこに共有結合された検出部分を「包囲」し、こうしてより近い接触およびより高い量子収率がもたらされることで、該検出部分の光誘起型酸化分解が生ずると考えられる。
【0009】
したがって、本発明の主題は、生物検体の試料中で標的部分を検出する方法であって、
a)一般式I:Xn-P-Ym(I)を有し、その式中のXが蛍光部分であり、Yが抗原認識部分であり、n、mが1から100の間の整数であり、かつPが下記式:
(R7CH2CHR5O)-(CR1R2CR3R4O)o-(CH2CHR6R8)
(式中、R1~R8は、独立してHまたは少なくとも1個で最大20000個の繰返単位を有するエチレングリコールの分岐状もしくは線状のオリゴマー、またはYもしくはXとの共有結合であるが、ただし、R1~R8の少なくとも2個は、YまたはXとの共有結合であり、かつoは1~500の整数である)によるポリエチレングリコールを含むスペーサーである、少なくとも1種の結合体を準備し、
b)前記生物検体の試料と、少なくとも1種の結合体とを接触させ、それにより抗原認識部分Yにより認識される標的部分を該結合体で標識し、
c)前記標識された標的部分を、蛍光部分Xの吸収スペクトルの範囲内の波長を有する光で励起し、
d)前記標識された標的部分を、前記蛍光部分により放出される蛍光放射の検出により検出し、そして
e)前記蛍光部分により放出される蛍光放射を初期蛍光放射の少なくとも75%だけ低減するに足るエネルギーを与えるのに十分な時間にわたって、前記結合体に、蛍光部分Xの吸収スペクトルの範囲内の波長を有する光を照射することにより、前記標識された標的部分の蛍光部分Xを分解する
ことにより行う方法である。
【0010】
前記結合体の照射は、蛍光部分の吸収スペクトルの範囲内の波長を有する白色広域スペクトル光源、単一波長レーザー、またはLEDにより行われ得る。
【0011】
前記スペーサーPのため、蛍光部分Xの分解は、それがない場合よりも大幅に速くなり、それにより発光シグナルの加速された完全な消光がもたらされる。これにより、繰り返しの染色および脱染色の過程が可能となり、その際、同じまたは異なる蛍光部分Xおよび/または抗原認識部分Yを備えた同じまたは異なる結合体が、引き続き同じ細胞に適用されて、異なる標的または同じ標的を、同じまたは異なる色素で染色することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、単一指数関数的減衰フィットf(x)=y
0・e
-k・y、τ=1/k、及びt
1/2=τ・ln(2)での、光によるキサンテン色素の崩壊図を示す。
【
図2】
図2は、その発色団(すなわち、クマリン、キサンテン、ローダミン、シアニン)の性質により異なる化学的分類に属する一連の色素についての光分解曲線を示し、これにより、すべての色素クラスが、そのような光誘起型分解に感受性であることが示される。
【
図3】
図3は、4つの異なる条件下でのシアニン色素についての光分解曲線を示す。
【0013】
詳細な説明
本発明の方法においては、上記結合体に、蛍光部分Xの吸収スペクトルの範囲内の波長を有する光が照射されると、第1の染色サイクルからのいずれの残留蛍光放射も後続の染色および検出サイクルと干渉しないほどの大きさで、該蛍光部分により放出される蛍光放射は低減される。一般的に、初期蛍光放射の少なくとも75%だけの低減は、より高い検出の質を達成するために、すなわち対象となる染色工程に由来しないバックグラウンド放射を低減させるために十分であると思われ、蛍光放射が少なくとも85%だけ、より好ましくは少なくとも95%だけ、最も好ましくは少なくとも99%だけ低減されることが好ましい。100%の低減が最良であることとなるが、消光の質および全過程の時間との兼ね合いがある。
【0014】
代替的な定義においては、前記標識された標的部分の蛍光部分Xの分解は、前記蛍光部分により放出される蛍光放射の半減期を低減するに足るエネルギーを与えるのに十分な時間にわたって、前記結合体に、蛍光部分Xの吸収スペクトルの範囲内の波長を有する光を照射することにより行われる。スペーサーPに共有結合された蛍光部分の単一指数関数的減衰フィット解析からのkの値により示される分解速度は、スペーサーPに結合されていない同じ蛍光部分について得られたkと比較して、少なくとも1.02倍の高さから10000000倍の高さまでであるべきである。
【0015】
蛍光部分Xおよび抗原認識部分Yは、スペーサーPに共有結合されているか、または準共有結合されていてよい。用語「共有結合、または準共有結合」は、解離定数≦10-9Mを有するXとPとの間の結合およびYとPとの間の結合を指す。
【0016】
本発明の方法は、工程a)~e)の1つ以上の順序で行うことができる。それぞれの順序の後に、蛍光部分は光での照射により分解される。
【0017】
用語「消光」および「褪色」は、本明細書では互換的に使用され、該用語は、放射による蛍光体の変化の結果として、標識された生物学的試料からの蛍光強度が減少することを意味すると理解されるべきである。例えば、蛍光部分Xの「消光」または「褪色」は、放射により開始される酸化および/または蛍光部分XとスペーサーPとの開裂と、結合されていない蛍光部分の標識された標的からの洗浄による除去とによって達成され得る。
【0018】
したがって、本発明の方法において使用される消光システムは、少なくとも1個の光源を備える。
【0019】
したがって、本発明において使用される消光ユニットは、種々の波長の消光放射を放出する2個以上の光源を備えていてよい。例えば、該消光ユニットは、350nm~850nmの、好ましくは450nm~650nmの範囲における組み合わされた発光スペクトルを有する1個~5個の光源を備えていてよい。光源の発光は、試料が同時にまたは順次に照射されるように光学的に組み合わされ得る。例えば、該消光ユニットは、450nm~500nm(青色)、520nm~560nm(緑色)、および630nm~650nm(赤色)の範囲において発光する3個の光源を備えていてよい。もう1つの実施形態においては、350nm~850nmの、好ましくは450nm~650nmの範囲において発光する1個だけの光源が設けられている。個別の光源の利点は、試料が、蛍光色素の消光(排除)に必要とされる放射だけに曝露されることであり、それによりその他の波長を有する放射への試料の不必要な曝露が回避される。個別の光源の放射は、ミラーまたは光ファイバーのような光導波路等の適切な装置により組み合わされ得る。
【0020】
それぞれの順序の後および/または前に、洗浄工程が、結合されていない結合体部分および/または結合されていない蛍光部分Xのような不所望な材料を試料から除去するために実施され得る。
【0021】
前記の消光過程は、酸化剤の添加によりさらに増強され得る。酸化剤は、例えばO2、H2O2、過酸化物、またはDMSOであり得る。添加された酸化剤は、活性酸化性種を生成することができ、それは、O2として計算して、0.1ppm~5ppm、好ましくは2ppm~5ppmの濃度で存在すべきである。
【0022】
標的部分
本発明による方法で検出されるべき標的部分は、組織切片、細胞集合体、懸濁細胞、または付着細胞のような任意の生物検体に存在し得る。それらの細胞は生細胞であっても死細胞であってもよい。好ましい標的部分は、生物検体、例えば動物全体、臓器、組織切片、細胞集合体または無脊椎動物(例えば、線虫、キイロショウジョウバエ)、脊椎動物(例えば、ゼブラフィッシュ、アフリカツメガエル)、および哺乳動物(ハツカネズミ、ヒト)の単一細胞で細胞内または細胞外で発現された抗原である。
【0023】
スペーサーP
スペーサーPは、ポリヒドロキシ化合物にグラフトされたエチレングリコール、ポリアミノ化合物、およびポリチオ化合物を基礎とし得る、一般式Iによるポリエチレングリコールを含む。そのような化合物またはその前駆体は、Nanocs Inc.社、Sigma-Aldrich社、またはNOF Corporation社から市販されている。
【0024】
好ましい前駆体は、ポリヒドロキシ化合物、例えばエーテル結合を介した3個~4個のポリエーテル残基のための結合点として4個のヒドロキシル基を有するペンタエリトリトール、エーテル結合を介した3個~6個のポリエーテル分岐のための結合点として6個のヒドロキシル基を有するジペンタエリトリトール、エーテル結合を介した3個~8個のポリエーテル分岐のための結合点として8個のヒドロキシル基を有するトリペンタエリトリトールまたはヘキサグリセロールである。
【0025】
【0026】
ポリヒドロキシ化合物は、ホモポリマー型またはコポリマー型、すなわち交互コポリマーまたはブロックコポリマーであり得るエーテルモノマー単位により置換されていてよい。ポリエーテル残基は、直鎖状または分枝鎖状であってよい。
【0027】
スペーサーPのYおよびXとの共有結合を実現するために、式Iのポリエチレングリコールは、蛍光結合体の分野で知られる少なくとも2個の反応性基、例えばアセタール基、酸無水物基、酸塩化物基、アシルアジド基、アシルハロゲン化物基、アシルニトリル基、アシルホスフェート基、アシルアミド基、アルデヒド基、アルコキシル基、アルキルアジド基、アルキルスルホネート基、アルキン基、アリル基、アミド基、無水物基、アリールハロゲン化物基、アジドニトロフェニル基、アジリジン基、ボロネート基、カルバメート基、カルボジイミド基、カーボネートエステル基、カルボキシレート基、カルボン酸基、ジアゾアルカン基、ジクロロトリアジン基、ジエン基、ジスルフィド基、エナミン基、エポキシド基、フルオロベンゼン基、フルオロフェニルエステル基、グリオキサール基、ハロアセトアミド基、ハロプラチネート基、ハロチアジン基、ヘミアセタール基、ヘミケタール基、高歪みシクロアルカン基、高歪みシクロアルケン基、高歪みシクロアルキン基、ヒドラジド基、ヒドラジン基、ヒドロキシル基、ヒドロキシルアミン基、イミダゾール基、イミドエステル基、イミン基、ヨードアセトアミド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、ケタール基、ケトン基、ラクトン基、マレイミド基、モノクロロトリアジン基、N-ヒドロキシスクシンイミドエステル基、ニトリル基、ニトロ基、オキシム基、ペンタフルオロフェニルエステル基、ペルオキシド基、ホスホラミダイト基、第一級アミン基、第二級アミン基、シリルハロゲン化物基、スルフヒドリル基、スルフィド基、スルホジクロロフェニルエステル基、スルホネートエステル基、スルホン基、スルホニルハロゲン化物基、第三級アミン基、テトラフルオロフェニルエステル基、チオアミド基、チオエステル基、チオエーテル基、チオールカルボン酸基、活性エステル基、アルケン基、または共役アルケン基を備えていてよい。
【0028】
ここで、Zは、少なくとも1個の蛍光部分X、および少なくとも1個の抗原認識部分Yであり、かつpは、1から500までの範囲の整数である。
【0029】
蛍光部分X
適切な蛍光部分Xは、免疫蛍光技術、例えばフローサイトメトリーまたは蛍光検鏡法の技術から公知の蛍光部分である。本発明のこれらの実施形態においては、前記結合体で標識された標的部分は、蛍光部分Xを励起し、得られた発光(光ルミネセンス)を検出することによって検出される。この実施形態においては、前記蛍光部分Xは、好ましくは蛍光部分である。
【0030】
有用な蛍光部分Xは、タンパク質ベースの蛍光部分、例えばフィコビリタンパク質、ポリマー型蛍光部分、例えばポリフルオレン、小分子有機色素、例えばキサンテン、例えばフルオレセインもしくはローダミン、シアニン、オキサジン、クマリン、アクリジン、オキサジアゾール、ピレン、ピロメテン、ピリジルオキサゾール、または有機金属錯体、例えばRu錯体、Eu錯体、Pt錯体であり得る。単分子単位の他に、蛍光性タンパク質または小分子有機染料のクラスター、ならびにナノ粒子、例えば量子ドット、アップコンバーティングナノ粒子、金ナノ粒子、色素添加ポリマーナノ粒子を、蛍光部分として使用することもできる。
【0031】
本発明のもう1つの実施形態においては、前記結合体で標識された標的は、放射放出によっては検出されずに、UV、可視光もしくはNIR放射の吸収によって検出される。適切な吸光性検出部分は、蛍光放出を有さない吸光性色素、例えば小分子有機クエンチャー色素、例えばN-アリールローダミン、アゾ色素、およびスチルベンである。
【0032】
もう1つの実施形態においては、前記吸光性蛍光部分Xを、パルスレーザ光によって照射して、光音響シグナルを発生させることができる。
【0033】
本発明の別形においては、蛍光体Xは、スルホネート、ホスホネート、ホスフェート、ポリエーテル、スルホンアミド、およびカーボネートからなる群から選択される1個以上の水溶性付与置換基で置換されている。スルホネート置換基を有する蛍光色素、例えばThermo Fisher Scientific Inc.社により供給されるAlexa Fluorファミリーの色素を使用することが特に有利である。蛍光体当たりのスルホネート置換の度合いは、すなわちローダミン色素またはシアニン色素については、2以上であり得る。スルホン化されていない色素と比較したスルホン化された色素の使用は、
図2に見ることができるように、ポリエーテル足場に多量体化された蛍光体のさらに明るい結合体をもたらす。分岐状PEG上に多量体化されたAlexa Fluor 488のCD4結合体(PEG-AF488)で染色されたTヘルパー細胞は、分岐状PEG上に多量体化された蛍光体のCD4結合体(PEG-FAM)で染色されたTヘルパー細胞(平均MFI 55)よりもほぼ2倍明るい(平均MFI 98)。
【0034】
適切な市販されている蛍光部分は、Miltenyi Biotec GmbH社製の製品ライン「Vio」、またはFITC、もしくはPromofluor、またはThermofisher社製のAlexa色素、および/もしくはBodipy色素、またはLumiprobe社製のシアニンから選択され得る。
【0035】
抗原認識部分Y
用語「抗原認識部分Y」は、生物検体上で発現された標的部分、例えば細胞に細胞内または細胞外に発現された抗原に対する、任意の種類の抗体、フラグメント化抗体、またはフラグメント化抗体誘導体を指す。前記用語は、完全にインタクトな抗体、フラグメント化抗体、またはフラグメント化抗体誘導体、例えばFab、Fab’、F(ab’)2、sdAb、scFv、ジscFv、ナノボディに関する。そのようなフラグメント化抗体誘導体は、これらの種類の分子を含む共有結合および非共有結合の結合体を含めて組み換え法によって合成することができる。抗原認識部分の更なる例は、TCR分子を標的とするペプチド/MHC複合体、細胞接着受容体分子、共刺激分子のための受容体、人工的に操作された結合分子、例えばペプチドまたはアプタマーであって、例えば細胞表面分子を標的とする前記ペプチドまたはアプタマーである。
【0036】
本発明の方法で使用される結合体は、100個までの、好ましくは1個~20個の抗原認識部分Yを含んでよい。抗原認識部分と標的抗原との相互作用は、高親和性であっても、低親和性であってもよい。単独の低親和性抗原認識部分の結合相互作用は、低すぎて抗原と安定な結合をもたらさない。低親和性の抗原認識部分は、酵素分解可能なスペーサーPへの結合によってマルチマー化することで、高い結合力を提供することができる。前記スペーサーPが酵素的に開裂されると、低親和性の抗原認識部分はモノマー化されることとなり、それにより蛍光部分X、スペーサーP、および抗原認識部分Yの完全な除去がもたらされる。
【0037】
好ましくは、用語「抗原認識部分Y」は、生物検体(標的細胞)によって細胞内で発現される抗原、例えばIL2、FoxP3、CD154、または細胞外で発現される抗原、例えばCD19、CD3、CD14、CD4、CD8、CD25、CD34、CD56、およびCD133に対する抗体を指す。
【0038】
抗原認識部分Y、特に抗体は、側鎖アミノ基またはスルフヒドリル基を通じてスペーサーPへと結合され得る。幾つかの場合において、抗体のグルコシド側鎖は過ヨウ素酸塩によって酸化されて、アルデヒド官能基を得ることができる。
【0039】
抗原認識部分Yは、スペーサーPに共有結合、または非共有結合されていてよい。共有結合または非共有結合のための方法は、当業者に公知であり、蛍光部分Xの結合について挙げたのと同じものである。
【0040】
本発明の方法は、特に、複合体混合物からの特定の細胞型の検出および/または単離のために有用であり、工程a)~e)の2つ以上の順次の配列を含み得る。該方法は、様々な結合体の組み合わせを使用することができる。例えば、1つの結合体は、2つの異なるエピトープに特異的な抗体、例えば2つの異なる抗CD34抗体を含み得る。異なる抗原は、異なる抗体、例えば2つの異なるT細胞ポピュレーションの間の区別のために抗CD4および抗CD8を含む、または制御性T細胞のような異なる細胞サブポピュレーションの決定のために抗CD4および抗CD25を含む、異なる結合体により対処され得る。
【0041】
結合体X
n
-P-Y
m
本発明の方法で使用される好ましい結合体は、100個~1000個のエチレングリコールの繰返単位を有するスペーサー基Pを備えている。
【0042】
例えば、本発明の方法で使用される結合体は、一般式IIおよびIIIによる化合物であり、それぞれ、Zは、少なくとも1個の蛍光部分X、および少なくとも1個の抗原認識部分Yであり、かつpは、2から500までの範囲の整数である。
【0043】
【0044】
【0045】
細胞検出法
結合体Xn-P-Ymで標識された標的を検出するための方法および装置は、蛍光部分Xによって決定される。
【0046】
該結合体で標識された標的は、蛍光部分Xの励起と、生ずる蛍光シグナルの分析によって検出される。励起波長は通常は蛍光部分Xの吸収極大に応じて選択され、当該技術分野で公知のようにレーザーまたはLED源によって提供される。幾つかの異なる検出部分Xが多重色/パラメーター検出のために使用される場合に、重なり合った吸収スペクトルを有さず、少なくとも重なり合った吸収極大を有さない蛍光部分を選択することに留意するべきである。蛍光部分として蛍光部分が使用される場合に、標的は、例えば蛍光顕微鏡下で、フローサイトメーター、スペクトルフルオロメーター、または蛍光スキャナー中で検出することができる。化学発光によって放出された光は、励起を省く類似の計器によって検出することができる。
【0047】
前記方法の使用
本発明の方法は、調査、診断、および細胞療法における、例えば蛍光検鏡法、フローサイトメトリー、スペクトロフルオロメトリー、細胞分離、病理学、または組織学における様々な用途のために使用することができる。
【0048】
本発明の第1の別形においては、細胞のような生物検体は、計数の目的のために、すなわち結合体の抗原認識部分によって認識されるある一定の抗原一式を有する試料から細胞の量を確認するために検出される。
【0049】
もう1つの別形においては、工程c)において前記結合体によって検出された生物検体は、試料から光学的手段、静電力、圧電力、機械的分離、または音響的手段によって分離される。この目的のために、工程d)において前記結合体によって検出された生物検体は、前記試料から、それらの検出シグナルに応じて1つ以上のポピュレーションへと、同時にまたは引き続き、工程e)の実施前に、光学的手段、静電力、圧電力、機械的分離、または音響的手段によって分離される。
【0050】
本発明のもう1つの別形においては、前記結合体の抗原認識部分によって認識される生物検体上の抗原のような標的部分の位置が測定される。そのような技術は、「マルチエピトープリガンド地図作成(Multi Epitope Ligand Cartography)」、「チップベースサイトメトリー(Chip-based Cytometry)」または「Multiomyx」として知られており、例えば欧州特許第0810428号明細書(EP0810428)、欧州特許第1181525号明細書(EP1181525)、欧州特許第1136822号明細書(EP1136822)、または欧州特許第1224472号明細書(EP1224472)に記載されている。この技術においては、細胞は固定化され、蛍光部分と結合された抗体と接触される。前記抗体は、生物検体(例えば細胞表面)上のそれぞれの抗原によって認識され、結合されていないマーカーを除去し、蛍光部分を励起した後に、抗原の位置は、蛍光部分の蛍光放出によって検出される。ある一定の別形においては、蛍光部分に結合された抗体の代わりに、MALDIイメージングまたはCyTOFのために検出可能な部分に結合された抗体を使用することができる。当業者は、蛍光部分を基礎とする技術を変更して、これらの検出部分をどのように用いて作業するかを認識している。
【0051】
標的部分の位置決めは、蛍光放射の波長について十分な解像度および感度を有するデジタルイメージングデバイスによって達成される。前記デジタルイメージングデバイスは、光学的拡大装置と一緒に、または前記装置を用いずに、例えば蛍光顕微鏡と一緒に使用することができる。得られた画像は、適切な記憶装置に、例えばハードドライブに、例えばRAW形式、TIF形式、JPEG形式またはHDF5形式で記憶される。
【0052】
異なる抗原を検出するために、同じもしくは異なる蛍光部分または抗原認識部分Yを有する異なる抗原-結合体を提供することができる。異なる波長を有する蛍光放出の並行した検出は限られているので、抗体-蛍光色素-結合体は、順次、個々に、または小さいグループ(2~10)で順々に利用される。
【0053】
本発明による方法の更なるもう1つの別形においては、試料の生物検体、特に懸濁細胞は、マイクロキャビティ中での捕捉によって、または接着によって固定化される。
【0054】
一般的に、本発明の方法は、幾つかの別形において実施することができる。例えば、標的部分によって認識されない結合体は、例えばバッファーによって、該結合体で標識された標的部分を検出する前に洗浄することによって除去することができる。
【0055】
本発明の1つの別形においては、少なくとも2種の結合体が同時に提供されるか、または後続の染色順序において提供され、その際、それぞれの抗原認識部分Yは、異なる抗原を認識する。その他の1つの別形においては、少なくとも2種の結合体は、試料へと同時に、または後続の染色順序において提供でき、その際、それぞれの結合体は、異なる酵素によって開裂される異なる酵素分解可能なスペーサーPを含む。両方の場合において、前記標識された標的部分は、同時にまたは順次に検出され得る。順次の検出は、少なくとも1つのスペーサー分子Pの酵素分解を含むか、または引き続きスペーサー分子Pを酵素分解するとともに、結合されていない部分を任意に中間的に除去(洗浄)することを含んでよい。
【実施例】
【0056】
光分解に関与する一般的な動態を説明するために、
図1は、f(x)=y0・e
-k・x(ここで、τは1/kであり、かつt
1/2=τ・ln(2)は半減期である)のような単一指数関数的減衰曲線でフィットされた光によるキサンテン色素の光分解について得られた概要曲線を示す。
【0057】
光分解の動態を測定するために、有機蛍光体(すなわち、なかでもクマリン、キサンテン、ローダミン、シアニン)を、DMSO中に溶解させてPBS中で希釈するか、または直接的にPBS中に溶解させ、こうして経路長1cmでそれぞれの極大での吸光度が約0.3任意単位で得られるように濃度を調節した。こうして、全ての溶液はそれらの吸光度により正規化され、比較可能である。その後に該溶液を、蒸発および試料濃縮を避けるために、低いヘッドスペースおよび気密蓋を有する3つのウィンドウ付きの蛍光石英キュベット内に入れた。そのキュベット中の試料を、次いで固定された時間量にわたり照射し、吸光度および発光スペクトルの両方を記録した。それらの極大での強度値を使用して照射時間に対してプロットし、次いで単一指数関数的減衰に対する数学的フィットを適切なコンピュータソフトウェアにより実施することで、
図1に示される曲線と同様の曲線が得られた。特徴的な減衰時間(k)を使用して、数あるパラメーターの中でも半減期を計算した。
【0058】
図2は、その発色団(すなわち、キサンテン、ローダミン、シアニン)の性質により異なる化学的分類に属する一連の色素、およびそれぞれの色素が分岐状PEGに共有結合されているそれらのPEG化されたものについての光分解崩壊曲線を示している。
【0059】
図2に示されるデータは、a)すべての色素クラスが光分解に感受性であること、そしてb)本出願に定義されるように分岐状PEGに結合された場合には、光分解の速度がより速いことを示している。
【0060】
4つの異なる条件下:
i)スペーサーに結合されておらず、溶液中で遊離している(比較)、
ii)20kDaの線状PEGに共有結合されている(比較)、
iii)5%のPEG(20kDa)を含有するが、共有結合されずに溶液中で遊離している(比較)、
iv)20kDaの分岐状PEGに共有結合されている(本発明による)
でのシアニン色素についての光分解曲線を得た。
【0061】
図3は、同じ分子量の、共有結合されているが線状であるPEGおよび共有結合されていないが分岐状であるPEG(5%のPEG)が、蛍光体の分解速度に対して効果を発揮しないことを示している。
【0062】
したがって、本出願に開示される結合体だけが、すなわち蛍光部分に共有結合された分岐状PEGだけが、本発明の方法により必要とされるような加速された光誘起型の光分解を有している。