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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】T細胞レセプター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20230403BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20230403BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230403BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230403BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20230403BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230403BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230403BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230403BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230403BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230403BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20230403BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230403BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230403BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230403BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230403BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20230403BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C07K14/725
C07K16/28
C07K19/00
C12N15/13
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K35/12
A61K38/17
A61K48/00
A61K39/395 U
A61K39/395 L
A61P35/00
A61P37/04
C12P21/02 C
C12N5/0783
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2018552859
(86)(22)【出願日】2017-04-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 GB2017050985
(87)【国際公開番号】W WO2017175006
(87)【国際公開日】2017-10-12
【審査請求日】2020-03-30
(31)【優先権主張番号】1606009.7
(32)【優先日】2016-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】510019129
【氏名又は名称】イムノコア リミテッド
【住所又は居所原語表記】92 Park Drive Milton Park,Abingdon Oxfordshire OX14 4RY,United Kingdom
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】ヘイズ,コナー
(72)【発明者】
【氏名】ヒバート,リンダ
(72)【発明者】
【氏名】リディ,ナサニエル
(72)【発明者】
【氏名】マホン,タラ
(72)【発明者】
【氏名】ラマン,マリン
【審査官】小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-126415(JP,A)
【文献】国際公開第2014/118236(WO,A2)
【文献】国際公開第2000/020445(WO,A2)
【文献】Eur. J. Immunol.,1999年,Vol.29, No.10,pp.3329-3337
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02複合体に対する結合性を有し、TCR α鎖可変ドメイン及びTCR β鎖可変ドメインを含んでなり、
(a) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号17のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号28のアミノ酸配列を含み、
(b) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号25のアミノ酸配列を含み、
(c) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号28のアミノ酸配列を含み、
(d) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号20のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号28のアミノ酸配列を含み、
(e) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(f) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号27のアミノ酸配列を含み、
(g) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(h) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号23のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(i) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号46のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(j) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号47のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(k) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号48のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(l) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号49のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(m) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号50のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(n) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号51のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(o) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号20のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号65のアミノ酸配列を含み、
(p) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号66のアミノ酸配列を含み、
(q) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号67のアミノ酸配列を含み、
(r) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号68のアミノ酸配列を含み、
(s) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号69のアミノ酸配列を含み、
(t) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号70のアミノ酸配列を含み、
(u) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号52のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(v) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号53のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(w) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号54のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(x) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号55のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(y) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号56のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(z) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号57のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(aa) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号58のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(bb) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号59のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(cc) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号60のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(dd) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号71のアミノ酸配列を含み、
(ee) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号72のアミノ酸配列を含み、
(ff) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号73のアミノ酸配列を含み、
(gg) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号74のアミノ酸配列を含み、
(hh) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号75のアミノ酸配列を含み、
(ii) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号76のアミノ酸配列を含み、
(jj) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号77のアミノ酸配列を含み、
(kk) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号78のアミノ酸配列を含み、又は
(ll) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号79のアミノ酸配列を含む、
T細胞レセプター(TCR)。
【請求項2】
GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02複合体に対して200μMより大きい親和性で結合し、α鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインを含んでなり、
α鎖可変ドメインにおいて、
(a)残基27~32(CDR1)は配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)は配列MTFSENTを含み、残基91~103(CDR3)は配列VVNHSGGSYIPTFを含むか;
(b)残基27~32(CDR1)は配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)は配列LDYAINTを含み、残基91~103(CDR3)は配列VVNHSGGSYIPTFを含むか;
(c)残基27~32(CDR1)は配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)は配列MTFSENTを含み、残基91~103(CDR3)は配列VVNRADGLYIPTFを含むか;
(d)残基27~32(CDR1)は配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)は配列MTFSENTを含み、残基91~103(CDR3)は配列VVNSANGLYIPTFを含むか;
(e)残基27~32(CDR1)は配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)は配列LDYAINTを含み、残基91~103(CDR3)は配列VVNRADGLYIPTFを含むか;
(f)残基27~32(CDR1)は配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)は配列LTFSENTを含み、残基91~103(CDR3)は配列VVNSASGLYIPTFを含むか;又は
(g)残基27~32(CDR1)は配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)は配列LTFSENTを含み、残基91~103(CDR3)は配列VVNSAQGLYIPTFを含み、
β鎖可変ドメインにおいて、
(a)残基27~31(CDR1)は配列MDHENを含み、残基49~54(CDR2)は配列SYDVKMを含み、残基92~107(CDR3)は配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含むか;
(b)残基27~31(CDR1)は配列APLSKを含み、残基49~54(CDR2)は配列SYDVKMを含み、残基92~107(CDR3)は配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含むか;
(c)残基27~31(CDR1)は配列APLSKを含み、残基49~54(CDR2)は配列SYDVKLを含み、残基92~107(CDR3)は配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含むか;
(d)残基27~31(CDR1)は配列LDHENを含み、残基49~54(CDR2)は配列SRFATGを含み、残基92~107(CDR3)は配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含むか;
(e)残基27~31(CDR1)は配列MDHENを含み、残基49~54(CDR2)は配列SRFATGを含み、残基92~107(CDR3)は配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含むか;又は
(f)残基27~31(CDR1)は配列MDHENを含み、残基49~54(CDR2)は配列SYDVKMを含み、残基92~107(CDR3)は配列ASSFLMTSGDPYEQYFを含む、TCR。
【請求項3】
(a)α鎖可変ドメインが、配列VSPFSNを含む残基27~32(CDR1)、配列LDYAINTを含む残基50~56(CDR2)及び配列VVNRADGLYIPTFを含む残基91~103(CDR3)を含み、β鎖可変ドメインが、配列APLSKを含む残基27~31(CDR1)、配列SYDVKMを含む残基49~54(CDR2)及び配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含む残基92~107(CDR3)を含むか;
(b)α鎖可変ドメインが、配列VSPFSNを含む残基27~32(CDR1)、配列LDYAINTを含む残基50~56(CDR2)及び配列VVNRADGLYIPTFを含む残基91~103(CDR3)を含み、β鎖可変ドメインが、配列APLSKを含む残基27~31(CDR1)、配列SYDVKLを含む残基49~54(CDR2)及び配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含む残基92~107(CDR3)を含むか;
(c)α鎖可変ドメインが、配列VSPFSNを含む残基27~32(CDR1)、配列MTFSENTを含む残基50~56(CDR2)及び配列VVNSANGLYIPTFを含む残基91~103(CDR3)を含み、β鎖可変ドメインが、配列MDHENを含む残基27~31(CDR1)、配列SRFATGを含む残基49~54(CDR2)及び配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含む残基92~107(CDR3)を含むか;
(d)α鎖可変ドメインが、配列VSPFSNを含む残基27~32(CDR1)、配列LTFSENTを含む残基50~56(CDR2)及び配列VVNSAQGLYIPTFを含む残基91~103(CDR3)を含み、β鎖可変ドメインが、配列LDHENを含む残基27~31(CDR1)、配列SRFATGを含む残基49~54(CDR2)及び配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含む残基92~107(CDR3)を含むか;又は
(e)α鎖可変ドメインが、配列VSPFSNを含む残基27~32(CDR1)、配列LTFSENTを含む残基50~56(CDR2)及び配列VVNSASGLYIPTFを含む残基91~103(CDR3)を含み、β鎖可変ドメインが、配列LDHENを含む残基27~31(CDR1)、配列SRFATGを含む残基49~54(CDR2)及び配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含む残基92~107(CDR3)を含む、請求項2に記載のTCR。
【請求項4】
(a)α鎖可変ドメインが配列番号22のアミノ酸配列を含み、β鎖可変ドメインが配列番号26のアミノ酸配列を含むか;
(b)α鎖可変ドメインが配列番号22のアミノ酸配列を含み、β鎖可変ドメインが配列番号27のアミノ酸配列を含むか;
(c)α鎖可変ドメインが配列番号20のアミノ酸配列を含み、β鎖可変ドメインが配列番号28のアミノ酸配列を含むか;
(d)α鎖可変ドメインが配列番号24のアミノ酸配列を含み、β鎖可変ドメインが配列番号29のアミノ酸配列を含むか;又は
(e)α鎖可変ドメインが配列番号23のアミノ酸配列を含み、β鎖可変ドメインが配列番号29のアミノ酸配列を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項5】
TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項6】
TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項7】
α-βヘテロダイマーであり、α鎖TRAC定常ドメイン配列及びβ鎖TRBC1又はTRBC2定常ドメイン配列を有する請求項1~6のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項8】
α鎖及びβ鎖の定常ドメイン配列が、TRACのエキソン2のCys4とTRBC1又はTRBC2のエキソン2のCys2との間の天然型ジスルフィド結合を欠失させるように、短縮化又は置換により改変されている、請求項7に記載のTCR。
【請求項9】
α鎖及び/又はβ鎖の定常ドメイン配列がTRACのThr 48及びTRBC1又はTRBC2のSer 57からシステイン残基への置換により改変されており、前記システイン同士がTCRのα定常ドメインとβ定常ドメインとの間の非天然型ジスルフィド結合を形成している、請求項7又は8に記載のTCR。
【請求項10】
Vα-L-Vβ型、Vβ-L-Vα型、Vα-Cα-L-Vβ型、Vα-L-Vβ-Cβ型(ここで、Vα及びVβはそれぞれTCR α及びβ可変領域であり、Cα及びCβはそれぞれTCR α及びβ定常領域であり、Lはリンカー配列である)の単鎖形式である請求項1~9のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項11】
検出可能な標識、治療用薬剤又はPEG、PAS配列、アルブミン及び非構造化ポリペプチドからなる群より選択されるPK調整成分と組み合わされている請求項1~10のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項12】
抗CD3抗体がTCR α鎖又はβ鎖のC末端又はN末端に共有結合的に連結されている請求項11に記載のTCR。
【請求項13】
抗CD3抗体がTCR β鎖のC末端又はN末端にリンカー配列を介して共有結合的に連結されている請求項12に記載のTCR。
【請求項14】
リンカー配列がGGGGS(配列番号30)、GGGSG(配列番号31)、GGSGG(配列番号32)、GSGGG(配列番号33)、GSGGGP(配列番号34)、GGEPS(配列番号35)、GGEGGGP(配列番号36)及びGGEGGGSEGGGS(配列番号37)からなる群より選択される、請求項13に記載のTCR。
【請求項15】
TCRがGVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A * 02複合体に対する結合性を有し、α鎖可変ドメイン及びβ鎖可変ドメインを含んでなり、
α鎖可変ドメインにおいて、
(a)残基27~32(CDR1)が配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)が配列MTFSENTを含み、残基91~103(CDR3)が配列VVNHSGGSYIPTFを含むか;
(b)残基27~32(CDR1)が配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)が配列LDYAINTを含み、残基91~103(CDR3)が配列VVNHSGGSYIPTFを含むか;
(c)残基27~32(CDR1)が配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)が配列MTFSENTを含み、残基91~103(CDR3)が配列VVNRADGLYIPTFを含むか;
(d)残基27~32(CDR1)が配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)が配列MTFSENTを含み、残基91~103(CDR3)が配列VVNSANGLYIPTFを含むか;
(e)残基27~32(CDR1)が配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)が配列LDYAINTを含み、残基91~103(CDR3)が配列VVNRADGLYIPTFを含むか;
(f)残基27~32(CDR1)が配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)が配列LTFSENTを含み、残基91~103(CDR3)が配列VVNSASGLYIPTFを含むか;又は
(g)残基27~32(CDR1)が配列VSPFSNを含み、残基50~56(CDR2)が配列LTFSENTを含み、残基91~103(CDR3)が配列VVNSAQGLYIPTFを含み、
β鎖可変ドメインにおいて、
(a)残基27~31(CDR1)が配列MDHENを含み、残基49~54(CDR2)が配列SYDVKMを含み、残基92~107(CDR3)が配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含むか;
(b)残基27~31(CDR1)が配列APLSKを含み、残基49~54(CDR2)が配列SYDVKMを含み、残基92~107(CDR3)が配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含むか;
(c)残基27~31(CDR1)が配列APLSKを含み、残基49~54(CDR2)が配列SYDVKLを含み、残基92~107(CDR3)が配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含むか;
(d)残基27~31(CDR1)が配列LDHENを含み、残基49~54(CDR2)が配列SRFATGを含み、残基92~107(CDR3)が配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含むか;
(e)残基27~31(CDR1)が配列MDHENを含み、残基49~54(CDR2)が配列SRFATGを含み、残基92~107(CDR3)が配列ASSSDQNSGDPYEQYFを含むか;又は
(f)残基27~31(CDR1)が配列MDHENを含み、残基49~54(CDR2)が配列SYDVKMを含み、残基92~107(CDR3)が配列ASSFLMTSGDPYEQYFを含む、TCR-抗CD3抗体融合分子。
【請求項16】
TCRがGVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A * 02複合体に対する結合性を有し、TCR α鎖可変ドメイン及びTCR β鎖可変ドメインを含んでなり、
(a) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号17のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号28のアミノ酸配列を含み、
(b) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号25のアミノ酸配列を含み、
(c) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号28のアミノ酸配列を含み、
(d) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号20のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号28のアミノ酸配列を含み、
(e) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(f) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号27のアミノ酸配列を含み、
(g) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(h) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号23のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(i) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号46のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(j) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号47のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(k) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号48のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(l) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号49のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(m) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号50のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(n) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号51のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号29のアミノ酸配列を含み、
(o) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号20のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号65のアミノ酸配列を含み、
(p) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号66のアミノ酸配列を含み、
(q) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号67のアミノ酸配列を含み、
(r) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号68のアミノ酸配列を含み、
(s) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号69のアミノ酸配列を含み、
(t) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号24のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号70のアミノ酸配列を含み、
(u) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号52のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(v) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号53のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(w) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号54のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(x) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号55のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(y) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号56のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(z) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号57のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(aa) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号58のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(bb) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号59のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(cc) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号60のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号26のアミノ酸配列を含み、
(dd) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号71のアミノ酸配列を含み、
(ee) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号72のアミノ酸配列を含み、
(ff) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号73のアミノ酸配列を含み、
(gg) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号74のアミノ酸配列を含み、
(hh) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号75のアミノ酸配列を含み、
(ii) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号76のアミノ酸配列を含み、
(jj) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号77のアミノ酸配列を含み、
(kk) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号78のアミノ酸配列を含み、又は
(ll) TCR α鎖可変ドメインは、配列番号22のアミノ酸配列を含み、及びTCR β鎖可変ドメインは、配列番号79のアミノ酸配列を含む、
TCR-抗CD3抗体融合分子。
【請求項17】
(a)配列番号38に相当するα鎖アミノ酸配列及び配列番号42に相当するβ鎖アミノ酸配列;
(b)配列番号38に相当するα鎖アミノ酸配列及び配列番号43に相当するβ鎖アミノ酸配列;
(c)配列番号39に相当するα鎖アミノ酸配列及び配列番号44に相当するβ鎖アミノ酸配列;
(d)配列番号40に相当するα鎖アミノ酸配列及び配列番号45に相当するβ鎖アミノ酸配列;又は
(e)配列番号41に相当するα鎖アミノ酸配列及び配列番号45に相当するβ鎖アミノ酸配列を含んでなる請求項15又は16に記載のTCR-抗CD3抗体融合分子。
【請求項18】
配列番号40に相当するα鎖アミノ酸配列及び配列番号45に相当するβ鎖アミノ酸配列を含んでなる請求項15又は16に記載のTCR-抗CD3抗体融合分子。
【請求項19】
配列番号38に相当するα鎖アミノ酸配列及び配列番号42に相当するβ鎖アミノ酸配列を含んでなる請求項15又は16に記載のTCR-抗CD3抗体融合分子。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載のTCR α鎖及びTCR β鎖をコードする、核酸又は核酸のセット。
【請求項21】
請求項20に記載の核酸を含んでなる発現ベクター。
【請求項22】
(a)請求項1~19のいずれか1項に記載のTCR α鎖及びβ鎖を単一のオープンリーディングフレーム若しくは2つの別個のオープンリーディングフレームにコードする請求項21に記載の発現ベクター;又は
(b)請求項1~19のいずれか1項に記載のTCR α鎖をコードする核酸を含む第1の発現ベクターと、請求項1~19のいずれか1項に記載のTCR β鎖をコードする核酸を含む第2の発現ベクターと
を有する細胞。
【請求項23】
請求項1~14のいずれか1項に記載のTCRを提示する天然に存在しない及び/又は単離された及び/又は操作された細胞。
【請求項24】
T細胞である請求項23に記載の細胞。
【請求項25】
請求項1~14のいずれか1項に記載のTCR、請求項15~19のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3抗体融合分子、請求項20に記載の核酸又は請求項22~24のいずれか1項に記載の細胞を、1又は2以上の医薬的に許容され得る担体又は賦形剤と共に含んでなる医薬組成物。
【請求項26】
医薬に用いるための、請求項1~14のいずれか1項に記載のTCR、請求項15~19のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3抗体融合分子、請求項20に記載の核酸、請求項25に記載の医薬組成物又は請求項22~24のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項27】
ヒト対象における医薬に用いるための、請求項26に記載のTCR、TCR-抗CD3抗体融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞。
【請求項28】
ガン又は腫瘍の治療法に用いるための、請求項1~14のいずれか1項に記載のTCR、請求項15~19のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3抗体融合分子、請求項20に記載の核酸、請求項25に記載の医薬組成物又は請求項22~24のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項29】
ヒト対象におけるガン又は腫瘍の治療法に用いるための、請求項28に記載の使用のためのTCR、TCR-抗CD3抗体融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞。
【請求項30】
ヒト対象がMAGE A4を発現する腫瘍を有する、請求項29に記載の使用のためのTCR、TCR-抗CD3抗体融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞。
【請求項31】
腫瘍が充実腫瘍である、請求項28~30のいずれか1項に記載の使用のためのTCR、TCR-抗CD3抗体融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞。
【請求項32】
ヒト対象がHLA-A*02サブタイプである、請求項29~31のいずれか1項に記載の使用のためのTCR、TCR-抗CD3抗体融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞。
【請求項33】
注射、例えば静脈内注射又は腫瘍内への直接注射により投与される、請求項28~32のいずれか1項に記載の使用のためのTCR、TCR-抗CD3抗体融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞。
【請求項34】
抗新生物剤との別々、組合せ又は逐次の投与に用いるための、請求項28~33のいずれか1項に記載の使用のためのTCR、TCR-抗CD3抗体融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞。
【請求項35】
請求項1~14のいずれか1項に記載のTCR又は請求項15~19のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3抗体融合分子を含んでなる、ヒト対象への投与用の注射可能製剤。
【請求項36】
a)請求項22に記載の細胞を、TCR鎖の発現に最適な条件下に維持し、b)TCR鎖を単離することを含んでなる、請求項1~14のいずれか1項に記載のTCR又は請求項15~19のいずれか1項に記載のTCR-抗CD3抗体融合分子を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HLA-A*02制限(生殖細胞系列ガン抗原MAGE A4由来)ペプチドGVYDGREHTV(配列番号1)を結合するT細胞レセプター(TCR)に関する。前記TCRは、α及び/又はβ可変ドメイン内に、天然型MAGE A4 TCRに比して非天然変異を含んでなり得る。本発明のTCRは、悪性疾患治療用の新規な免疫治療剤としての使用に特に適切である。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
T細胞レセプター(TCR)はCD4+及びCD8+T細胞により天然に発現される。TCRは、主要組織適合性複合体(MHC)分子(ヒトでは、MHC分子はヒト白血球抗原又はHLAとしても知られる)と複合体化して、抗原提示細胞の表面に提示される短いペプチド抗原を認識するよう設計されている(Davisら(1998), Annu Rev Immunol 16:523-544.)。CD8+T細胞(細胞傷害性T細胞とも呼ばれる)は、MHCクラスIに結合したペプチドを特異的に認識し、概して罹患した細胞の発見及びその破壊の媒介を担っている。CD8+T細胞はガン細胞及びウイルス感染細胞を破壊することができる;しかし、天然のレパートリ中のガン特異的T細胞が発現するTCRの親和性は、代表的には、胸腺選択の結果として低く、このことは、ガン細胞が頻繁に検出及び破壊を免れることを意味する。T細胞によるガン認識の促進を目的とする新規な免疫療法アプローチは、有効な抗ガン治療の開発に関して高度に有望なストラテジを提案する。
【0003】
MAGE A4は、生殖細胞系列がコードするガン抗原のMAGEファミリーに属し(De Plaenら(1994), Immunogenetics 40(5):360-369)、Uniprotアクセッション番号P43358を有する。この抗原は、種々のガンにおいて頻繁に発現する一方、正常組織における発現は成人の精巣及び他の免疫特権部位(胎盤を含む)に限定されていることが見出されている。これら遺伝子のガン特異性ため、MAGE A4は抗ガン治療剤の理想的な標的とされる。MAGE A4の正確な機能は不明のままであるが、胚発生において或る役割を演じていると考えられている。MAGE A4の高レベル発現は、メラノーマ、食道ガン、頭部頸部ガン、肺ガン、乳ガン及び膀胱ガンを含む幾つかのタイプの腫瘍において報告されている(Bergeron(2009), Int J Cancer 125(6):1365-1371;Cabezonら(2013), Mol Cell Proteomics 12(2):381-394;Cuffelら(2011), Int J Cancer 128(11):2625-2634;Forghanifardら(2011), Cancer Biol Ther 12(3):191-197;Karimiら(2012), Clin Lung Cancer 13(3):214-219;Svobodovaら(2011), Eur J Cancer 47(3):460-469)。10マーペプチドGVYDGREHTV(配列番号1)は全長MAGE A4タンパク質のアミノ酸230~239に相当する。このペプチドはHLA-A*02に結合し、該ペプチド-HLA複合体は、細胞傷害性T細胞を刺激して、MAGE A4陽性HLA-A*02陽性腫瘍細胞の溶解を導くことが示されている(Duffourら(1999), Eur J Immunol 29(10):3329-3337及びWO2000020445)。したがって、GVYDGREHTV-HLA-A*02複合体は、免疫療法的介入について有用な標的抗原を提供する。
【0004】
GVYDGREHTV-HLA-A*02複合体に高い特異性で結合する特定のTCR配列の同定は、新規な免疫療法の開発に有利である。治療用TCRは、例えば、細胞傷害性薬剤又は免疫エフェクター剤の腫瘍への送達を目的とする可溶性ターゲティング剤として用い得る(Lissinら(2013),「High-Affinity Monocloncal T-cell receptor (mTCR) Fusions. Fusion Protein Technologies for Biophamaceuticals: Applications and Challenges」S. R. Schmidt, Wiley;Boulterら(2003), Protein Eng 16(9):707-711;Liddyら(2012), Nat Med 8:980-987)。或いは、治療用TCRは、養子療法用にT細胞を遺伝子操作するために用い得る(Juneら(2014), Cancer Immunol Immunother 63(9):969-975)。しかし、当該分野においてそのようなTCR配列は知られておらず、治療目的に相応しい特異性を有するTCRの同定は、膨大な人手を要するため、当業者に合理的な成功の期待を抱かせない。
【0005】
第1の例において、当業者は、適切な出発配列又は足場配列を同定する必要がある。典型的には、この配列は、天然の供給源、例えばトナー血液から抽出された抗原応答性T細胞から得られる。天然のレパートリにおけるガン特異的T細胞の希少性を考えれば、応答性T細胞を見出すまでに、多くのドナー(例えば20人以上)のスクリーニングが必要となる場合が多い。スクリーニングプロセスは数週間~数ヶ月を要し得る。応答性T細胞は、見い出されても、免疫治療用途に不適切であり得る。例えば、応答が弱すぎる可能性もあり、及び/又は標的抗原に関して特異的でない可能性もある。或いは、クローンT細胞集団を生成できない可能性もあり、正確なTCR鎖配列を同定するに十分な材料を産生するように所与のT細胞株を拡大又は維持することができない可能性もある。更に、TCRは縮重しており、約百万の異なるHLA-ペプチドに結合できると予想されているので(Wooldridgeら(2012), J Biol Chem 287(2):1168-1177))、当業者であっても、特定のTCRが治療用途のための操作に相応しい特異性プロフィールを有するかどうか決定することは非常に困難である。
【0006】
出発配列又は足場配列として適切であるTCR配列は、標的ペプチド-HLA複合体に関して良好な親和性、例えば200μM又はより強い親和性を有するべきであり、高レベルの標的特異性、例えば代替のペプチド-HLA複合体に比較的弱く結合するか又は全く結合しないことが証明されているべきであり、ディスプレイライブラリ(例えば、ファージディスプレイ)において使用可能であるべきであり、リフォールディング及び高収率での精製が可能であるべきである。
【0007】
天然に存在するTCRは、抗体と比較して標的抗原に関して弱い親和性(低マイクロモル範囲)を有し、ガン抗原に対するTCRは、代表的には、ウイルス特異的TCRより弱い抗原認識を有する(Aleksicら(2012),Eu J Immunol., 42(12), 3174-3179)。ガン細胞に対するHLAダウンレギュレーションと結びついたこの弱い親和性は、ガン免疫療法の治療用TCRについて、標的抗原に関する親和性を増大させ、よってより強力な応答を生じるように遺伝子操作する必要があることを意味する。数時間の結合半減期でナノモル~ピコモル範囲の、TCRの抗原結合親和性が、可溶性TCRベースのターゲティング剤に望ましい。低エピトープ数での高親和性の抗原認識がもたらす効力改善は、Liddyら(Liddyら(2012), Nat Med, 18(6), 980-987)の図1e及び1fに例証されている。代表的には、親和性の成熟には、当業者は、抗原認識の強度を増大させるために出発TCR配列に対してなし得る特定の変異及び/又は変異の組合せ(置換、挿入及び/又は欠失を含むがこれらに限定されない)を同定しなければならない。所与のTCRの親和性を増強する変異を同定する方法は、当該分野において公知であり、例えば、ディスプレイライブラリの使用が挙げられる(Liら(2005) Nat Biotechnol. 23(3):349-354;Hollerら(2000),Proc Natl Acad Sci U S A,97(10):5387-5392)。しかし、所与の標的に対する所与のTCRの親和性を顕著に増大させるためには、当業者は、特定の変異及び/又は変異の組合せを、数多くの可能性のある選択肢から選択する必要がある。親和性の顕著な増大を生じる特定の変異及び/又は変異の組合せは、予測可能でなく、膨大な人手を要する。多くの場合、所与のTCR出発配列を用いて親和性の顕著な増大を達成することは可能でない可能性がある。
【0008】
また、親和性成熟プロセスは、TCR抗原特異性を維持する必要性を考慮しなければならない。標的抗原に関するTCRの親和性増大は、TCRの抗原認識に内在する縮重性の結果として、意図しない他の標的との交差反応性が現れる相当なリスクをもたらす(Wooldridgeら(2012), J Biol Chem 287(2):1168-1177;Wilsonら(2004), Mol Immunol 40(14-15):1047-1055;Zhaoら(2007) J.Immunol, 179;9, 5845-5854)。天然の親和性レベルでの交差反応性抗原の認識は、応答を生じるには低すぎる可能性がある。交差反応性抗原が正常な健常細胞にディスプレイされる場合、インビボでオフターゲット結合をする可能性が高く、臨床毒性として顕在化し得る。よって、抗原結合強度の増大に加えて、当業者は、TCRが標的抗原に関して高い特異性を保持すること及び臨床試験で良好な安全性プロフィールを示すことを可能にする変異及び/又は変異の組合せを選択しなければならない。ここでも、このような変異及び/又は変異の組合せは予測不可能である。この段階ではより膨大な人手を要し、多くの場合で、所与のTCR出発配列からの達成は全く可能でない可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
高親和性及び高特異性に必要な変異は、発現することができ、リフォールドすることができ、妥当な収量で精製することができ、しかも精製形態で高度に安定であるTCRを生じるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
治療用途に適切な特性を有するTCR配列の同定に関して上述した困難性にもかかわらず、本発明者らは、驚くべきことに、治療用TCRの作製に理想的な出発点又は足場を提供するTCR配列を見出した。更に、本発明者らは、予想し得ないことに、足場のα及びβ可変ドメインに導入して、MAGE A4を発現するガンのTCRベースの標的化免疫療法に理想的な特性を有するTCR配列を作製することができる適切な変異を同定した。
【0011】
発明の要旨
第1の観点において、本発明は、HLA-A*02と複合体化したGVYDGREHTV(配列番号1)に対する結合性を有し、TCR α鎖可変ドメイン及び/又はTCR β鎖可変ドメインを含んでなるT細胞レセプター(TCR)であって、
α鎖可変ドメインは、配列番号2のアミノ酸残基1~113の配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又は
β鎖可変ドメインは、配列番号3のアミノ酸残基1~116の配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、
TCRを提供する。
【0012】
α鎖可変ドメインは、配列番号2のアミノ酸1~113に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり得、及び/又はβ鎖可変ドメインは、配列番号3のアミノ酸1~116に対して少なくとも91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり得る。
【0013】
第2の観点において、本発明は、GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02複合体に、200μM以上の親和性で結合するTCRであって、α鎖のCDR1、CDR2及びCDR3がそれぞれ配列番号6、7及び8を含んでなり、及び/又はβ鎖のCDR1、CDR2及びCDR3がそれぞれ配列番号11、12及び13を含んでなり;及び/又は少なくとも1つのCDRが配列番号6~8及び11~13に比して1若しくは2以上の保存的置換を含み;及び/又は少なくとも1つのCDRが配列番号6~8及び11~13に比して3つまでの寛容される置換を含む、TCRを提供する。
【0014】
GVYDGREHTV-HLA-A*02複合体に関する本発明のTCRの親和性は、200μM~1pMの範囲であり得る。好ましくは、前記置換は、非置換TCRに比して、結合親和性を±50%を超えて、より好ましくは±20%を超えて変化させない。好ましくは、前記置換は、代替ペプチド-HLA複合体に関して結合親和性を増大させない。
【0015】
足場TCRは下記のα及びβ可変鎖:
α鎖:TRAV10*01/TRAJ6*01
β鎖:TRBV28*01/TRBD1*01/TRBJ2-7*01/
(注記:用語「*01」は、IMGT用語法により示されるように、当該配列の対立遺伝子バリアントを示す)
及び下記のα鎖及びβ鎖のCDR3配列:
α鎖:VVNHSGGSYIPTF(配列番号8)
β鎖:ASSFLMTSGDPYEQYF(配列番号13)
を使用する。
【0016】
用語「足場TCR」又は「出発TCR」は、本出願において、用語「野生型TCR」又は「WT TCR」又は「非変異TCR」又は「天然型TCR」又は「親TCR」と同義に用いられ、配列番号2の残基1~113を含むα鎖可変ドメインと、配列番号3の残基1~116を含むβ鎖可変ドメインとを有するTCRを意味する。WT TCRの定常ドメインは、完全長であってもよく、又は可溶性TCRを生じるように短縮及び/若しくは変異されていてもよい。いずれの場合でも、非天然型鎖間ジスルフィド結合を形成し得るように、TRAC領域及びTRBC領域にシステイン置換が導入されてもよい。前記システイン置換に適切な位置は、WO03020763に記載されている。図2は、可溶性形式の、野生型TCR α鎖及びβ鎖のそれぞれの細胞外配列を示す。配列番号4は、定常ドメインの48位システインがスレオニンで置換されていることを除き、天然型α鎖細胞外配列(配列番号2)と同一である。同様に、配列番号5は、定常ドメインの57位システインがセリンで置換され、定常ドメインの75位システインがアラニンで置換され、定常ドメインの89位アスパラギンがアスパラギン酸で置換されていることを除き、天然型β鎖細胞外配列(配列番号3)と同一である。可溶性野生型TCRは、本発明の変異TCRの結合プロフィールと比較し得る参照を提供するために用いてもよい。
【0017】
本明細書に記載するTCR配列は、TCRの分野の当業者に広く知られアクセス可能であるIMGT命名法を参照して記載される。例えば、LeFranc及びLeFranc(2001),「T cell Receptor Factsbook」, Academic Press;Lefranc(2011),Cold Spring Harb Protoc 2011(6):595-603;Lefranc(2001),Curr Protoc Immunol Appendix 1: Appendix 10O;及びLefranc(2003),Leukemia 17(1):260-266を参照。簡潔には、αβTCRは2つのジスルフィド連結鎖からなる。各鎖(α及びβ)は、一般に、2つのドメイン、すなわち、可変ドメイン及び定常ドメインを有すると考えられる。短い連結領域が可変ドメインと定常ドメインとを連結し、これは、代表的には、α可変領域の一部とみなされている。加えて、β鎖は、通常、連結領域の次に短い多様性領域を含有する。この領域も、代表的には、β可変領域の一部とみなされている。
【0018】
各鎖の可変ドメインはN末端側に位置し、フレームワーク配列に埋め込まれた3つの相補性決定領域(CDR)を含んでなる。CDRはペプチド-MHC結合用の認識部位を含む。α鎖可変(Vα)領域をコードする幾つかの遺伝子及びβ鎖可変(Vβ)領域をコードする幾つかの遺伝子が存在し、これらは、フレームワーク配列、CDR1配列及びCDR2配列並びに部分的に規定されるCDR3配列により区別される。Vα及びVβ遺伝子は、IMGT命名法では、それぞれ接頭語「TRAV」及び「TRBV」を用いて称呼される(Folch及びLefranc(2000),Exp Clin Immunogenet 17(1):42-54;Scaviner及びLefranc(2000),Exp Clin Immunogenet 17(2):83-96;LeFranc及びLeFranc(2001),「T cell Receptor Factsbook」,Academic Press)。同様に、α鎖及びβ鎖について、それぞれ「TRAJ」又は「TRBJ」と呼ばれる幾つかの連結又はJ遺伝子が存在し、β鎖については「TRBD」と呼ばれる多様性又はD遺伝子が存在する(Folch及びLefranc(2000),Exp Clin Immunogenet 17(2):107-114;Scaviner及びLefranc(2000),Exp Clin Immunogenet 17(2):97-106;LeFranc及びLeFranc(2001),「T cell Receptor Factsbook」,Academic Press)。T細胞レセプター鎖の非常に大きな多様性は、種々のV、J及びD遺伝子(対立遺伝子バリアントを含む)の間での再配置の組合せ、更には連結多様性に起因する(Arstilaら(1999),Science 286(5441):958-961;Robinsら(2009), Blood 114(19):4099-4107)。TCR α鎖及びβ鎖の定常又はC領域は、それぞれ「TRAC」及び「TRBC」と呼ばれる(Lefranc(2001),Curr Protoc Immunol Appendix 1: Appendix 1O)。
【0019】
第1又は第2の観点のα鎖可変ドメインは、配列番号2の残基1~113の番号付けを参照して次の位置:M50、T51、F52、S53、E54、H94、S95、G96、S98の少なくとも1つに変異を有していてもよい。変異は、配列番号2の残基1~113の番号付けを参照して次のアミノ酸:
【表1】
(表1)
から選択されてもよい。
【0020】
追加的に又は代替的に、第1又は第2の観点のβ鎖可変ドメインは、配列番号3の残基1~116の番号付けを参照して次の位置:M27;D28;H29、E30、N31、Y50、D51、V52、K53、M54、F95、L96、M97、T98の少なくとも1つに変異を有していてもよい。変異は、配列番号3の残基1~116の番号付けを参照して次のアミノ酸:
【表2】
(表2)
から選択されてもよい。
【0021】
α鎖可変ドメインは、表1に示す変異の1、2、3、4、5、6、7、8又は9つを有していてもよく、及び/又は
β鎖可変ドメインは、表2に示す変異の1、2、3、4、5、6、7、8、9つ又は10を有していてもよい。
【0022】
α鎖可変ドメインは次の変異群:
群1:M50L、T51D、F52Y、S53A、E54I
群2:H94S、S95A、G96N、S98L
群3:H94R、S95A、G96D、S98L
群4:M50L、T51D、F52Y、S53A、E54I、H94R、S95A、G96D、S98L
群5:M50L、H94S、S95A、G96S、S98L
群6:M50L、H94S、S95A、G96Q、S98L
の少なくとも1つを有していてもよく、及び/又は
β鎖可変ドメインは、次の変異群:
群1:M27A、D28P、H29L、E30S、N31K、F95S、L96D、M97Q、T98N
群2:Y50R、D51F、V52A、K53T、M54G、F95S、L96D、M97Q、T98N
群3:F95S、L96D、M97Q、T98N
群4:M27L、Y50R、D51F、V52A、K53T、M54G、F95S、L96D、M97Q、T98N
群5:M27A、D28P、H29L、E30S、N31K、M54L、F95S、L96D、M97Q、T98N
の少なくとも1つを有していてもよい。
【0023】
例えば、α鎖可変ドメインは群4の変異を有していてもよく、β鎖可変ドメインは群1の変異を有していてもよく;α鎖可変ドメインは群4の変異を有していてもよく、β鎖可変ドメインは群5の変異を有していてもよく;α鎖可変ドメインは群2の変異を有していてもよく、β鎖可変ドメインは群2の変異を有していてもよく;α鎖可変ドメインは群6の変異を有していてもよく、β鎖可変ドメインは群4の変異を有していてもよく;α鎖可変ドメインは群5の変異を有していてもよく、β鎖可変ドメインは群4の変異を有していてもよい。
【0024】
変異は追加的に又は代替的にCDRの外側になされてもよく;この変異は、TCRの結合及び/若しくは特異性及び/若しくは安定性並びに/又は精製された可溶性形態のTCRの収量を改善してもよい。例えば、本発明のTCRは、追加的に又は代替的に、配列番号2の残基1~113の番号付けを参照して次の変異:
【表3】
(表3)
を有するα鎖可変ドメインを含んでなってもよい。
【0025】
α鎖可変ドメインにおいて、アミノ酸残基27~32、50~56及び91~103の配列は、次:
【表4】
(表4)
から選択されてもよい。
TCR α鎖可変ドメインは、配列番号16~24又は46~64のいずれか1つに対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなってもよい。
【0026】
β鎖可変ドメインにおいて、アミノ酸残基27~31、49~54及び92~107の配列は、次:
【表5】
(表5)
から選択されてもよい。
TCR β鎖可変ドメインは、配列番号25~29又は65~81のいずれか1つに対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでなってもよい。
【0027】
アミノ酸残基27~32、50~56及び91~103のα鎖可変ドメイン配列並びにアミノ酸残基27~31、49~54及び92~107のβ鎖可変ドメイン配列は、次:
【表6】
(表6)
から選択されてもよい。
α鎖可変ドメインは、配列番号16~24若しくは46~64のいずれか1つのアミノ酸配列を含んでなってもよく、及び/又はβ鎖可変ドメインは、配列番号25~29又は65~81のいずれか1つのアミノ酸配列を含んでなってもよい。
【0028】
例えば、α鎖可変ドメインは配列番号22のアミノ酸配列を含んでいてもよく、β鎖可変ドメインは配列番号26のアミノ酸配列を含んでいてもよく;α鎖可変ドメインは配列番号22のアミノ酸配列を含んでいてもよく、β鎖可変ドメインは配列番号27のアミノ酸配列を含んでいてもよく;α鎖可変ドメインは配列番号20のアミノ酸配列を含んでいてもよく、β鎖可変ドメインは配列番号28のアミノ酸配列を含んでいてもよく;α鎖可変ドメインは配列番号24のアミノ酸配列を含んでいてもよく、β鎖可変ドメインは配列番号29のアミノ酸配列を含んでいてもよく;α鎖可変ドメインは配列番号23のアミノ酸配列を含んでいてもよく、β鎖可変ドメインは配列番号29のアミノ酸配列を含んでなってもよい。
【0029】
本発明のTCRは、α鎖TRAC定常ドメイン配列及びβ鎖TRBC1又はTRBC2定常ドメイン配列を有するα-βヘテロダイマーであってもよい。
本発明のTCRは単鎖形式であってもよく、これには、Vα-L-Vβ、Vβ-L-Vα、Vα-Cα-L-Vβ、Vα-L-Vβ-Cβ、Vα-Cα-L-Vβ-Cβタイプ(ここで、Vα及びVβはそれぞれTCR α及びβ可変領域であり、Cα及びCβはそれぞれTCR α及びβ定常領域であり、Lはリンカー配列である)が含まれるがこれらに限定されない。
本発明のTCRは、検出可能標識、治療剤又はPK調整成分と結合していてもよい。
【0030】
本発明のTCRは、TCRのα鎖又はβ鎖のC末端又はN末端に共有結合的に連結した抗CD3抗体を含んでなってもよい。このTCRは、配列番号16~24又は46~64のいずれか1つから選択されるα鎖可変ドメインと、抗CD3抗体に融合した配列番号25~29又は65~81のいずれか1つから選択されるβ鎖可変ドメインを含んでなってもよい。β鎖は、抗CD3抗体配列にリンカー配列を介して連結されていてもよい;リンカー配列は、GGGGS(配列番号30)、GGGSG(配列番号31)、GGSGG(配列番号32)、GSGGG(配列番号33)、GSGGGP(配列番号34)、GGEPS(配列番号35)、GGEGGGP(配列番号36)及びGGEGGGSEGGGS(配列番号37)からなる群より選択されてもよい。
【0031】
TCR-抗CD3融合体の好適な実施形態は、配列番号38~41から選択されるα鎖アミノ酸配列又は配列番号38~41に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有する配列と、配列番号42~45から選択されるβ鎖アミノ酸配列又は配列番号42~45に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%若しくは100%の同一性を有する配列とを含んでなる。
【0032】
本発明のTCRは粒子のライブラリに含まれていてもよい。この目的に、TCRは、例えばバクテリオファージ、酵母細胞、哺乳動物細胞又はリボソームの表面にディスプレイされていてもよい。TCRは、単離され、細胞フリーであり及び/又は可溶性であってもよい。すなわち、TCRは、人体内のT細胞中に天然の状態で生じるTCRではない。
本発明のTCRは、天然に生じない及び/又は精製された及び/又は操作されたものであってもよい。本発明のTCRは、α鎖可変ドメイン及び/又はβ鎖可変ドメインに、天然型MAGE A4 TCRに比して1以上の変異を有していてもよい。
【0033】
本発明のTCRは、α鎖フレームワーク2(FR2)領域及びα鎖フレームワーク3(FR3)領域を含んでなってもよく、ここで、該FR2領域及び該FR3領域は、それぞれ配列番号9及び10を含んでなり、並びに/又は、1若しくは2以上(例えば1、2又は3つ)の保存的置換及び/若しくは3つまでの寛容される置換を含む。
本発明のTCRは、β鎖FR2領域及びβ鎖FR3領域を含んでなってもよく、ここで、該FR2領域及び該FR3領域は、それぞれ配列番号14及び15を含んでなり、並びに/又は、1若しくは2以上(例えば1、2又は3つ)の保存的置換及び/若しくは3つまでの寛容される置換を含む。
本発明のTCRは、配列番号2のアミノ酸1~113及び/又は配列番号3のアミノ酸1~116を含んでなってもよく、これらの各々は、1若しくは2以上の保存的置換、及び/又は3つまでの寛容される変異、及び/又は表1、2及び3に記載される変異の1若しくは2以上を有していてもよい。
【0034】
「操作されたTCR」及び「変異体TCR」は、本明細書において、互換に用いられ、天然型MAGE A4 TCRに比して、特にα鎖可変ドメイン中及び/又はβ鎖可変ドメイン中に、1又は2以上の変異が導入されているTCRを意味する。変異は、代表的には、GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02複合体に対するTCRの結合親和性を改善するが、追加的に又は代替的に、他の利点、例えば単離形態での改善された安定性及び改善された特異性を付与するものであってもよい。1又は2以上の位置での変異は、追加的に又は代替的に、隣接位置の同族pMHC複合体との相互作用に、例えば相互作用により好適な角度を可能にすることによって、影響するものであってもよい。GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02複合体に対するTCRの結合を改善するため、変異は、好ましくは、1又は2以上のCDR領域内でなされる。
特定の実施形態において、α鎖CDRには1、2、3、4、5、6、7、8若しくは9つの変異、例えば4、5若しくは9つの変異が存在し、及び/又はβ鎖CDRには、1、2、3、4、5、6、7、8、9つ若しくは10の変異、例えば4、9つ若しくは10の変異が存在する。
【0035】
幾つかの実施形態において、本発明のTCRのα鎖可変ドメインは、上記の変異(例えば、表1又は表3に記載の変異)の少なくとも1つを有するという条件で、配列番号2のアミノ酸残基1~113の配列に対して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい。幾つかの実施形態において、本発明のTCRのβ鎖可変ドメインは、上記の変異(例えば、表2に記載の変異)の少なくとも1つを有するという条件で、配列番号3のアミノ酸残基1~116の配列に対して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでいてもよい。
【0036】
親(又は野生型)TCRに対する変異は、GVYDGREHTVに対するTCRの結合親和性(kD)及び/又は結合半減期を増大させることができるものを含み得る。変異は、非特異的結合の量を減少させること、すなわち、GVYDGREHTVへの結合に加えての抗原結合を低減させることができるものを含み得る。変異は、フォールディング及び/又は作製の効率を増大させるものを含み得る。これら特性の各々に寄与する変異であってもよく、例えば、親和性に寄与するが特異性に寄与しない変異や、特異性に寄与するが親和性に寄与しない変異などであってもよい。
【0037】
本明細書に開示するいずれの本発明のTCRの表現型上サイレントなバリアントも、本発明の範囲内である。本明細書で用いる場合、用語「表現型上サイレントなバリアント」は、上記の変異に加えて、1又は2以上の更なるアミノ酸変化(置換、挿入及び欠失を含む)が組み込まれたTCRであって、前記変化を有しない対応TCRに類似する表現型を有するTCRをいうと理解される。本願の目的のためには、TCR表現型は、抗原結合親和性(KD及び/又は結合半減期)及び抗原特異性を含む。表現型上サイレントなバリアントは、同一条件下で(例えば25℃にて及び/又は同じSPRチップ上で)測定したとき、GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02複合体に関して、前記変化を有しない対応TCRで測定されたKD及び/又は結合半減期の50%以内、より好ましくは20%以内のKD及び/又は結合半減期を有していてもよい。適切な条件は実施例3で更に説明する。抗原特異性は下記で更に説明する。当業者に公知であるように、GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02複合体との相互作用の親和性を変更することなく、可変ドメインに、上記のものからの変化が組み込まれたTCRを作製することは可能であり得る。具体的には、このようなサイレント変異は、抗原結合に直接関与しないことが知られている配列の部分(例えば、CDR、CDRのペプチド抗原と接触しない部分)に組み込まれてもよい。このような特段の意味のないバリアントも本発明の範囲に含まれる。
【0038】
表現型上サイレントなバリアントは、1若しくは2以上の保存的置換及び/又は1若しくは2以上の寛容される置換を含んでいてもよい。寛容される置換及び保存的置換は、同一条件下で(例えば25℃にて及び/又は同じSPRチップ上で)測定したとき、GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02複合体に関して、前記保存的及び/又は寛容される置換を有しない対応TCRで測定されたKD及び/又は結合半減期の50%以内、より好ましくは20%以内、なおより好ましくは10%以内のKD及び/又は結合半減期の変化をもたらしてもよい(ただし、KDの変化は200μM未満の(すなわち、200μMより弱い)親和性をもたらさないという条件で)。寛容される置換は、下記に示される保存的置換の定義に該当しないにもかかわらず、表現型上サイレントである置換を意味する。
【0039】
本発明のTCRは、類似するアミノ酸配列を有する及び/又は同じ機能を保持する(すなわち、上記のような表現型上サイレントである)1又は2以上の保存的置換を含んでいてもよい。当業者は、種々のアミノ酸が類似する特性を有し、よって「保存的」であることを理解する。タンパク質、ポリペプチド又はペプチドのそのような1又は2以上のアミノ酸は、該タンパク質、ポリペプチド又はペプチドの所望の活性を消失させないで1又は2以上の他のそのようなアミノ酸で置換し得る場合が多い。
【0040】
よって、アミノ酸 グリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン(脂肪族側鎖を有するアミノ酸)は、互いに置換し得る場合が多い。これら可能な置換のうち、(相対的に短い側鎖を有するので)グリシン及びアラニンを互いの置換に用い、(疎水性である、より長い脂肪族側鎖を有するので)バリン、ロイシン及びイソロイシンを互いの置換に用いることが好ましい。互いに置換し得る場合が多い他のアミノ酸として:フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン(芳香族側鎖を有するアミノ酸);リジン、アルギニン及びヒスチジン(塩基性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギン酸及びグルタミン酸(酸性側鎖を有するアミノ酸);アスパラギン及びグルタミン(アミド側鎖を有するアミノ酸);並びにシステイン及びメチオニン(イオウ含有側鎖を有するアミノ酸)が挙げられる。本発明の範囲内のアミノ酸置換は、天然に存在するアミノ酸又は天然に存在しないアミノ酸を用いて行い得ることを理解すべきである。例えば、本明細書では、アラニンのメチル基はエチル基で置換されてもよく及び/又は軽微な変化がペプチド骨格になされてもよい。天然又は合成のアミノ酸が用いられているか否かにかかわらず、L-アミノ酸のみが存在することが好ましい。
【0041】
この性質の置換は、「保存的」又は「半保存的」アミノ酸置換と呼ばれる場合が多い。したがって、本発明は、上記アミノ酸配列に1若しくは2以上の保存的置換及び/又は1若しくは2以上の寛容される置換を有するアミノ酸配列を含んでなるTCRであって、該アミノ酸配列が、配列番号2、16~24若しくは46~64のアミノ酸1~113及び/又は配列番号3、25~29若しくは65~81のアミノ酸1~116を含むTCRと少なくとも90%の同一性、例えば少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するTCRの使用にまで拡張される。
【0042】
「同一性」は、当該分野において公知のように、配列比較により決定される、2若しくは3以上のポリペプチド配列間又は2若しくは3以上のポリヌクレオチド配列間の関係である。当該分野において、同一性はまた、妥当な場合、ポリペプチド配列間又はポリヌクレオチド配列間の、配列の並びの一致性によって決定される配列関連性の程度を意味する。2つのポリペプチド配列間又は2つのポリヌクレオチド配列間の同一性を測定する方法は幾つか存在するが、同一性の決定に一般に用いられる方法は、コンピュータプログラム化されている。2つの配列間の同一性を決定する好適なコンピュータプログラムとしては、GCGプログラムパッケージ(Devereuxら,Nucleic acid Research, 12, 387(1984)、BLASTP、BLASTN及びFASTA(Atschulら,J. Molec. Biol. 215, 403(1990))が挙げられるが、これに限定されない。
【0043】
CLUSTALプログラムのようなプログラムを用いてアミノ酸配列を比較することができる。このプログラムはアミノ酸配列を比較し、必要な場合にはいずれかの配列にスペースを挿入して最適な整列を見出す。最適な整列についてアミノ酸の同一性又は類似性(同一性+アミノ酸タイプの保存)を算出することができる。BLASTxのようなプログラムは、類似する配列を最も長く整列させ、その適合度に対して値を割り当てる。よって、各々が異なるスコアを有する幾つかの類似領域を見出す比較を得ることができる。両タイプの同一性分析が本発明において企図されている。
2つのアミノ酸配列又は2つの核酸配列のパーセント同一性は、最適比較を目的として配列を整列させ(例えば、最良整列のために第1の配列にギャップを導入することができる)、対応する位置でアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較することにより決定する。「最良整列」は、最も高いパーセント同一性をもたらす2つの配列の整列である。パーセント同一性は、比較する配列中の同一アミノ酸残基又はヌクレオチドの数により決定する(すなわち、%同一性 = 同一位置の数/位置の総数×100)。
【0044】
2つの配列間のパーセント同一性の決定は、当業者に公知の数学アルゴリズムを用いて達成することができる。2つの配列を比較する数学アルゴリズムの例は、Karlin及びAltschul(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877に記載されるように改変されたKarlin及びAltschul(1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268のアルゴリズムである。Altschulら(1990),J. Mol. Biol. 215:403-410のNBLAST及びXBLASTプログラムには、そのようなアルゴリズムが組み込まれている。BLASTヌクレオチドサーチは、核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得るため、NBLASTプログラム、スコア = 100、ワード長 = 12を用いて行うことができる。BLASTタンパク質サーチは、本発明に用いるタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得るため、XBLASTプログラム、スコア = 50、ワード長 = 3を用いて行うことができる。比較目的でギャップを有する整列を得るためには、Altschulら(1997),Nucleic acid Res. 25:3389-3402に記載されるようにGapped BLASTを利用することができる。或いは、PSI-Blastを用いて、分子間の遠い関連性を検出する累次サーチを行うことができる(前出)。BLAST、Gapped BLAST及びPSI-Blastプログラムを用いる場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLAST及びNBLAST)のデフォルトパラメータを用いることができる。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照。配列比較に用いる数学アルゴリズム別の例は、Myers及びMiller,CABIOS(1989)のアルゴリズムである。CGC配列整列ソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0)には、そのようなアルゴリズムが組み込まれている。当該分野において公知の他の配列分析アルゴリズムとしては、Torellis及びRobotti(1994),Comput. Appl. Biosci., 10:3-5に記載されるADVANCE及びADAM;並びにPearson及びLipman(1988),Proc. Natl. Acad. Sci. 85:2444-8に記載されるFASTAが挙げられる。FASTAにおいて、ktupは、サーチの感度及び速度を設定するコントロールオプションである。
【0045】
任意の適切な方法を用いることを条件に、変異(保存的及び寛容される置換、挿入及び欠失を含む)を配列に導入してもよい。このような方法としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)をベースにする方法、制限酵素ベースのクローニング又はライゲーション非依存性クローニング(LIC)手順が挙げられるが、これらに限定されない。これら方法は、多くの標準的な分子生物学の教科書に詳述されている。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)及び制限酵素ベースのクローニングに関する更なる詳細については、Sambrook及びRussell(2001),Molecular Cloning - A Laboratory Manual(第3版) CSHL Pressを参照。ライゲーション非依存性クローニング(LIC)手順についての更なる情報は、Rashtchian(1995),Curr Opin Biotechnol 6(1):30-6に見出すことができる。本発明により提供されるTCR配列は、固相合成又は当該分野において公知の任意の他の適切な方法から得てもよい。
【0046】
本発明のTCRは、GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02複合体に結合する性質を有する。本発明のTCRは、このエピトープを、他の無関係なエピトープより強く認識することが見出されており、よってこのエピトープをディスプレイする細胞及び組織への治療用薬剤又は検出可能な標識の送達用ターゲッティングベクターとして特に適切である。特異性は、本発明のTCRに関して、抗原陽性であるHLA-A*02標的細胞を認識できる一方で、抗原陰性であるHLA-A*02標的細胞を認識する能力が極めて小さいことに関する。
【0047】
特異性は、インビトロで、例えば細胞アッセイ(例えば実施例6に記載されるもの)において測定することができる。特異性を試験するため、TCRは可溶形態であってもよく及び/又は免疫エフェクターに融合されていてもよく及び/又は細胞(例えばT細胞)の表面に発現されていてもよい。認識は、本発明のTCR及び標的細胞の存在下でのT細胞活性化レベルを測定することによって決定してもよい。抗原陰性標的細胞の極めて小さい認識は、同一条件下でかつ治療上妥当なTCR濃度にて測定したとき、抗原陽性標的細胞の存在下で生じるT細胞活性化レベルの20%未満、好ましくは10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは1%未満のレベルとして規定される。本発明の可溶性TCRについて、治療上妥当な濃度は、10-9M以下のTCR濃度及び/又は上限が対応EC50値より100倍、好ましくは1000倍大きい濃度と規定されてもよい。抗原陽性細胞は、ガン細胞に匹敵するレベルの抗原提示を得るために適切なペプチド濃度を用いるペプチド-パルスにより得られてもよく(例えば、Bossiら(2013),Oncoimmunol. 1;2(11):e26840に記載されているように10-9Mペプチド)、又は当該ペプチドを天然に提示するものであってもよい。好ましくは、抗原陽性細胞及び抗原陰性細胞は共にヒト細胞である。好ましくは、抗原陽性細胞はヒトのガン細胞である。抗原陰性細胞は、好ましくは、健常ヒト組織に由来するものを含む。
【0048】
加えて又は或いは、特異性は、GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02複合体に結合し、代替ペプチド-HLA複合体のパネルに結合しないTCRの能力に関してもよい。これは、例えば、実施例3のBiacore法により決定されてもよい。前記パネルは、少なくとも5つ、好ましくは少なくとも10の代替ペプチド-HLA-A*02複合体を含んでいてもよい。代替ペプチドは、配列番号1と低レベルの配列同一性を有していてもよく、天然に提示されてもよい。代替ペプチドは、健常ヒト組織で発現するタンパク質に由来していてもよい。GVYDGREHTV-HLA-A*02複合体への結合は、他の天然に提示されるペプチド-HLA複合体への結合より少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍、なおより好ましくは少なくとも400倍大きくてもよい。
【0049】
TCRの特異性を決定する代替又は追加のアプローチは、シーケンシャル変異誘発(例えば、アラニンスキャニング)を用いてTCRのペプチド認識モチーフを同定することであり得る。結合モチーフの部分を形成する残基は、置換が許容されない残基である。非許容置換は、TCRの結合親和性が、非変異ペプチドの結合親和性に比して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%減少するペプチド位置として定義され得る。このようなアプローチはCameronら(2013), Sci Transl Med. 2013 Aug 7; 5(197):197ra103及びWO2014096803に更に記載されている。この場合のTCR特異性は、代替モチーフ含有ペプチド、特にヒトプロテオーム中の代替モチーフ含有ペプチドを同定し、これらペプチドをTCRに対する結合に関して試験することにより決定してもよい。1又は2以上の代替ペプチドに対するTCRの結合は特異性の欠如を示し得る。この場合、細胞アッセイによるTCR特異性の更なる試験を必要とし得る。
【0050】
当業者に公知であるように、MAGEファミリーメンバーに由来するペプチドは、他のMAGEファミリーメンバーに由来するペプチドと高レベルの配列同一性を有し得る。例えば、配列番号1(GVYDGREHTV)とは唯2つの残基のみが異なるMAGE-A8及びMAGE-B2に由来するペプチドが存在する。前記ペプチド及び前記MAGEファミリーメンバーを発現する細胞は、前記MAGEファミリーメンバーがガン抗原、例えばMAGE-A8及びMAGE-B2であることが知られている場合には特に、上記の特異性の定義から排除され得る。したがって、本発明のTCRは、他のMAGEファミリーメンバー(MAGE-A8及びMAGE-B2を含む)に由来し、且つHLA A*02に提示される、高い割合の配列同一性を有するペプチドを認識し得る。本発明のTCRによる前記ペプチドの認識は、GVYDGREHTV(配列番号1)-HLA-A*02の認識と類似するレベルか又はより低いレベルであり得る。
【0051】
本発明の特定のTCRは、治療用薬剤としての使用に関して理想的な安全性プロフィールを有し得る。この場合、TCRは可溶性形態であってもよく、好ましくは免疫エフェクターに融合されていてもよい。理想的な安全性プロフィールは、本発明のTCRが、良好な特異性を証明されていることに加えて、前臨床安全性試験に合格していることを意味する。このような試験の例としては、全血存在下でのサイトカイン遊離が少ないこと(よって、インビボで可能性のあるサイトカイン遊離症候群を引き起こすリスクが低いこと)を確証する全血アッセイ、及び代替のHLAタイプを認識する可能性が低いことを確証するアロ反応性試験が挙げられる。
本発明の特定の可溶性TCRは高収率精製が可能であり得る。高収率は、1%以上、より好ましくは10%以上、又はより高い収率を意味する。
【0052】
本発明のTCRは、GVYDGREHTV-HLA-A*02複合体に関して200μM以上(すなわち、より強い)、例えば1pM~200μMのKDを有していてもよい。本発明の特定のTCRは、該複合体に関して約1pM~約400nM、約1pM~約200pM、約1pM~約100pMのKDを有してもよい。本発明の特定のTCRは、該複合体に関して約20~80pMのKDを有してもよい。本発明のTCRは、該複合体に関して約1秒~約60時間、1分~約60時間、約20分~約50時間又は約2時間~約35時間の範囲の結合半減期(T1/2)を有してもよい。本発明の特定のTCRは、該複合体に関して約8時間~35時間のT1/2を有してもよい。可溶性治療剤及び/又は診断剤として使用するTCRは、検出可能な標識又は治療用薬剤と組み合わせたとき、好ましくは、該複合体に関して約1pM~約100pM若しくは約20pM~約80pMのKD及び/又は該複合体に関して約2時間~60時間若しくは約8時間~約35時間の結合半減期を有する。本発明の特定のTCRは、養子治療適用に適切であり得る;このようなTCRは、当該複合体に関して約50nM~約200μM若しくは約100nM~約1μMのKD及び/又は該複合体に関して約3秒~約12分の結合半減期を有し得る。
【0053】
特定の好適なTCRは、抗原陽性細胞、具体的には、ガン細胞に典型的な低レベルの抗原を提示する細胞に対して(すなわち、凡そ50抗原/細胞(Bossiら(2013) Oncoimmunol. 1;2(11):e26840;Purbhooら(2006),J Immunol 176(12):7308-7316))、インビトロで高度に強力なT細胞応答を生じることができる。このようなTCRは、可溶性形態であってもよく、免疫エフェクター(例えば、抗CD3抗体)に連結されていてもよい。測定されるT細胞応答は、T細胞活性化マーカー(例えば、インターフェロンγ又はグランザイムB)の放出若しくは細胞殺傷又は他のT細胞活性化の尺度であってもよい。好ましくは、高度に強力な応答は、pM範囲、例えば100pM以下のEC50値を有するものである。
【0054】
本発明の特定の好適なTCRは、GVYDGREHTV-HLA-A*02複合体に関して、天然型TCRのものより実質的に高い結合親和性及び/又は結合半減期を有する。天然型TCRの結合親和性を増大させると、そのペプチド-MHCリガンドに関するTCRの特異性は低下することが多く、このことは、Zhaoら(2007),J.Immunol, 179:9, 5845-5854において証明されている。しかし、本発明のTCRは、天然型TCRより実質的に高い結合親和性を有するにもかかわらず、GVYDGREHTV-HLA-A*02複合体に特異的なままである。
結合親和性(平衡定数KDに反比例する)及び結合半減期(T1/2と表す)は、本願実施例3の表面プラズモン共鳴(BIAcore)及び/又はOctet法を用いて決定することができる。TCRの親和性が二倍になればKDは1/2になると理解される。T1/2はln2/解離速度(koff)として算出される。したがって、T1/2が二倍になればkoffは1/2になる。TCRのKD値及びkoff値は、通常、可溶形態のTCR(すなわち、細胞質ドメイン及び膜貫通ドメインの残基を除去するように短縮された形態のもの)について測定する。好ましくは、所与のTCRの結合親和性又は結合半減期は、同じアッセイプロトコルを用いて数回、例えば3回又は4回以上測定し、その結果の平均をとる。
【0055】
抗原提示細胞への治療用薬剤の送達用ターゲティング剤としての使用のためには、TCRは可溶形態(すなわち、膜貫通ドメインも細胞質ドメインも有しない形態)であってもよい。安定性のために、本発明のTCR、好ましくは可溶性αβヘテロダイマーTCRは、例えばWO 03/020763に記載されるように、それぞれの定常ドメインの残基同士間に導入されたジスルフィド結合を有していてもよい。本発明のαβヘテロダイマーに存在する細胞外定常ドメインの一方又は両方は、一方又は両方のC末端で、例えば15まで又は10まで又は8まで又は7以下のアミノ酸が欠失されていてもよい(短縮化)。α鎖細胞外定常ドメインのC末端は、8アミノ酸が欠失されていてもよい(短縮化)。一方又は両方の細胞外定常ドメインは1又は2以上の変異を含んでいていもよい。α鎖細胞外定常領域は、天然の多形に起因して、アスパラギン(N)又はリジン(K)残基を4位に有していてもよい。養子療法での使用のためには、αβヘテロダイマーTCRは、例えば、細胞質ドメイン及び膜貫通ドメインの両方を有する完全長鎖としてトランスフェクトされてもよい。養子療法に用いるTCRは、α定常ドメインとβ定常ドメインとの間に天然に見出されるものに相当するジスルフィド結合を含有していてもよく、追加的に又は代替的に、非天然型ジスルフィド結合が存在してもよい。
【0056】
本発明のTCRはαβヘテロダイマーであってもよい。本発明のTCRは単鎖形式であってもよい。単鎖形式としては、Vα-L-Vβ、Vβ-L-Vα、Vα-Cα-L-Vβ、Vα-L-Vβ-Cβ又はVα-Cα-L-Vβ-Cβタイプ(ここで、Vα及びVβはそれぞれTCR α及びβ可変領域であり、Cα及びCβはそれぞれTCR α及びβ定常領域であり、Lはリンカー配列である)のαβTCRポリペプチドが挙げられるがこれらに限定されない(Weidanzら(1998),J Immunol Methods. Dec 1;221(1-2):59-76;Epelら(2002),Cancer Immunol Immunother. Nov;51(10):565-73;WO 2004/033685;WO9918129)。定常ドメインの一方又は両方は、完全長であっても、上記のような短縮型であってもよく、及び/又は変異を含有していてもよい。α鎖細胞外定常領域は、天然の多形に起因して、アスパラギン(N)又はリジン(K)残基を4位に有していてもよい。特定の実施形態において、本発明の単鎖TCRは、WO 2004/033685に記載されるように、それぞれの定常ドメインの残基間に導入されたジスルフィド結合を有してもよい。単鎖TCRは、WO2004/033685;WO98/39482;WO01/62908;Weidanzら(1998),J Immunol Methods 221(1-2):59-76;Hooら(1992),Proc Natl Acad Sci USA 89(10):4759-4763;Schodin(1996),Mol Immunol 33(9):819-829)に更に記載されている。
当業者に自明なように、提供される配列は、TCRの結合特性に実質的に影響することなく、そのC末端及び/又はN末端で1、2、3、4、5又は6以上の残基を欠失させること(短縮化)も可能である。このような特段の意味のないバリアントも全て本発明に包含される。
【0057】
本発明のα-βヘテロダイマーTCRは、通常、α鎖TRAC定常ドメイン配列及び/又はβ鎖TRBC1若しくはTRBC2定常ドメイン配列を含んでなる。α鎖及びβ鎖の定常ドメイン配列は、TRACのエキソン2のCys4とTRBC1又はTRBC2のエキソン2のCys2との間の天然型ジスルフィド結合が欠失するように短縮化又は置換により改変されていてもよい。α鎖及び/又はβ鎖の定常ドメイン配列は、TRACのThr 48及びTRBC1又はTRBC2のSer 57からシステイン残基への置換により改変され、該システインがTCRのα定常ドメインとβ定常ドメインと間のジスルフィド結合を形成していてもよい。TRBC1又はTRBC2は、追加的に、定常ドメインの75位でのシステインからアラニンへの変異及び定常ドメインの89位でのアスパラギンからアスパラギン酸への変異を含んでいてもよい。定常ドメインは、追加的又は代替的に、天然型TRAC及び/又はTRBC1/2配列と比較して更なる変異、置換又は欠失を含有してもよい。用語TRAC及びTRBC1/2は、天然の多形バリアント、例えばTRACの4位でのN→Kを包含する(Bragadoら,Int Immunol. 1994 Feb;6(2):223-30)。
本発明により提供されるTCRのバリアント、フラグメント及び誘導体もまた本発明の範囲に含まれる。
【0058】
本発明はまた、本発明のTCRをディスプレイする粒子を含み、粒子は粒子ライブラリに含まれていてもよい。このような粒子は、ファージ、酵母、リボソーム又は哺乳動物細胞を含むがこれらに限定されない。このような粒子及びライブラリを作製する方法は当該分野において公知である(例えば、WO2004/044004;WO01/48145;Chervinら(2008),J. Immuno. Methods 339.2:175-184を参照)。
【0059】
更なる1つの観点において、本発明は、本発明のTCRをコードする核酸を提供する。幾つかの実施形態において、核酸はcDNAである。幾つかの実施形態において、本発明は、本発明のTCRのα鎖可変ドメインをコードする配列を含んでなる核酸を提供する。幾つかの実施形態において、本発明は、本発明のTCRのβ鎖可変ドメインをコードする配列を含んでなる核酸を提供する。核酸は、天然に存在せず及び/又は精製され及び/又は工学的に操作されていてもよい。核酸配列は用いる発現系に従ってコドン最適化されていてもよい。
別の1つの観点において、本発明は、本発明の核酸を含んでなるベクターを提供する。好ましくは、ベクターはTCR発現ベクターである。
【0060】
本発明はまた、本発明のベクター、好ましくはTCR発現ベクターを有する細胞を提供する。ベクターは、α鎖及びβ鎖を単一オープンリーディングフレームにコードするか、又は2つの別個のオープンリーディングフレームにそれぞれをコードする本発明の核酸を含んでなってもよい。別の1つの観点は、本発明のTCRのα鎖をコードする核酸を含む第1の発現ベクター及び本発明のTCRのβ鎖をコードする核酸を含む第2の発現ベクターを有する細胞を提供する。この細胞は養子療法に特に有用である。本発明の細胞は、単離され及び/又は組み換えられ及び/又は天然に存在しない及び/又は工学的に操作されていてもよい。
【0061】
本発明のTCRは養子療法に有用であるので、本発明は、本発明のTCRを提示する、天然に存在しない及び/又は精製された及び/又は工学的に操作された細胞、特にT細胞を包含する。本発明はまた、本発明のTCRを提示するT細胞の拡大された集団を提供する。本発明のTCRをコードする核酸(例えば、DNA、cDNA又はRNA)でのT細胞のトランスフェクションに適切な幾つかの方法が存在する(例えば、Robbinsら(2008) J Immunol. 180:6116-6131を参照)。本発明のTCRを発現するT細胞は、養子療法ベースのガン治療における使用に適切である。当業者に公知であるように、養子療法の実施を可能にする適切な幾つかの方法が存在する(例えば、Rosenbergら(2008),Nat Rev Cancer 8(4):299-308を参照)。
本発明の可溶性TCRは、抗原提示細胞及び抗原提示細胞を含有する組織への検出可能な標識又は治療用薬剤の送達に有用である。したがって、これらは、(TCRを用いてGVYDGREHTV-HLA-A*02複合体を提示する細胞の存在を検出する診断目的のための)検出可能な標識;治療用薬剤;又はPK調整成分と(共有結合又はその他の様式で)結合していてもよい。
【0062】
PK調整成分の例としては、PEG(Dozierら(2015),Int J Mol Sci. Oct 28;16(10):25831-64及びJevsevarら(2010),Biotechnol J.Jan;5(1):113-28)、PAS化(Schlapschyら(2013),Protein Eng Des Sel. Aug;26(8):489-501)、アルブミン(Dennisら(2002),J Biol Chem. Sep 20;277(38):35035-43)及び/又は非構造化ポリペプチド(Schellenbergerら(2009),Nat Biotechnol. Dec;27(12):1186-90)が挙げられるが、これらに限定されない。
診断目的の検出可能な標識としては、例えば、蛍光標識、放射性標識、酵素、核酸プローブ及び造影剤が挙げられる。
本発明のTCRと結合され得る治療用薬剤としては、免疫調整剤、放射性化合物、酵素(例えば、パーフォリン)又は化学療法剤(例えば、シスプラチン)が挙げられる。毒性効果が確実に所望の位置で発揮されるために、毒物は、緩徐に放出されるようにTCRに連結されたリポソームの内部に存在し得る。このことにより、人体における輸送の間の損傷効果が防止され、該当する抗原提示細胞へのTCRの結合後に、毒物が最大効果を有することが保証される。
【0063】
他の適切な治療用薬剤として、次のものが挙げられる:
・小分子細胞傷害性物質、すなわち、哺乳動物細胞を殺傷する能力を有する分子量700ダルトン未満の化合物。このような化合物はまた、細胞傷害性効果を有することができる毒性金属を含有し得る。更に、これら小分子細胞傷害性物質にはまた、プロドラッグ、すなわち、生理学的条件下で崩壊又は変換して細胞傷害性物質を放出する化合物が含まれると理解される。このような物質の例として、シスプラチン、メイタンシン(maytansine)誘導体、ラケルマイシン(rachelmycin)、カリケアマイシン(calicheamicin)、ドセタキセル、エトポシド、ゲムシタビン、イホスファミド、イリノテカン、メルファラン、ミトキサントロン、ソルフィマーソディウムホトフィリンII(sorfimer sodiumphotofrin II)、テモゾロマイド(temozolmide)、トポテカン、トリメトレキサート(trimetreate)、ラルブーレート(larbourlate)、オーリスタチンE(auristatin E)、ビンクリスチン及びドキソルビシンが挙げられる;
・ペプチド細胞毒素、すなわち、哺乳動物細胞を殺傷する能力を有するタンパク質又はそのフラグメント。例えば、リシン、ジフテリア毒素、シュードモナス細菌外毒素A、DNAアーゼ及びRNAアーゼ;
・放射性核種、すなわち、1又は2以上のα粒子若しくはβ粒子又はγ線の同時放射を伴って崩壊する元素の不安定同位体。例えば、ヨウ素131、レニウム186、インジウム111、イットリウム90、ビスマス210及び213、アクチニウム225及びアスタチン213;高親和性TCR又はその多量体へのこれら放射性核種の結合を容易にするために、キレート化剤が使用されてもよい;
・免疫刺激物質、すなわち、免疫応答を刺激する免疫エフェクター分子。例えば、サイトカイン(例えばIL-2及びIFN-γ)、
・スーパー抗原及びその変異体;
・TCR-HLA融合体、例えば、ペプチドが一般的なヒト病原体、例えばエプスタインバーウイルス(EBV)に由来するペプチド-HLA複合体との融合体;
・ケモカイン、例えばIL-8、血小板第4因子、メラノーマ増殖刺激タンパク質など;
・抗体又はそのフラグメント。抗T細胞又はNK細胞決定基抗体(例えば、抗CD3、抗CD28又は抗CD16)が挙げられる;
・抗体様結合特性を有するオルターナティブタンパク質足場
・補体活性化物質;
・異種タンパク質ドメイン、同種タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性タンパク質ドメイン、ウイルス性/細菌性ペプチド。
【0064】
1つの好適な実施形態は、抗CD3抗体又は抗CD3抗体の機能的フラグメント若しくはバリアントと(通常、α鎖又はβ鎖のN末端又はC末端への融合により)結合した本発明のTCRにより提供される(このTCR-抗CD3融合体はImmTACTM分子と呼ばれ得る)。本明細書で用いる場合、用語「抗体」は前記のようなフラグメント及びバリアントを包含する。抗CD3抗体の例としては、OKT3、UCHT-1、BMA-031及び12F6が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書に記載の組成物及び方法における使用に適切な抗体フラグメント及びバリアント/アナログとしては、数例挙げるとすれば、ミニボディ、Fabフラグメント、F(ab')2フラグメント、dsFv及びscFvフラグメント、ナノボディTM(Ablynx(ベルギー)から市販され、ラクダ科動物(例えば、ラクダ又はラマ)抗体に由来する合成の単鎖免疫グロブリン可変重鎖ドメインを含む構築物)及びドメイン抗体(Domantis(ベルギー);これは、親和性成熟単鎖免疫グロブリン可変重鎖ドメイン又は免疫グロブリン可変軽鎖ドメインを含む)又は抗体様結合特性を示す代替のタンパク質足場、例えばアフィボディ(Affibody(スウェーデン);工学的に操作されたプロテインA足場を含む)若しくはアンチカリン(Anticalins)(Pieris(ドイツ));工学的に操作されたアンチカリンを含む)が挙げられる。
【0065】
TCRと抗CD3抗体との連結は、共有結合又は非共有結合を介していてもよい。共有結合は、直接的であっても、リンカー配列を介して間接的であってもよい。リンカー配列は、通常、可撓性を制限する蓋然性が大きい嵩高い側鎖を有しないアミノ酸(例えば、グリシン、アラニン及びセリン)から主に作製されるという点で可撓性である。リンカー配列の使用可能な又は最適な長さは容易に決定される。多くの場合、リンカー配列は約12アミノ酸長以下、例えば10アミノ酸長以下、又は2~10アミノ酸長である。本発明のTCRに使用し得る適切なリンカーとしては、(WO2010/133828に記載されるような)GGGGS(配列番号30)、GGGSG(配列番号31)、GGSGG(配列番号32)、GSGGG(配列番号33)、GSGGGP(配列番号34)、GGEPS(配列番号35)、GGEGGGP(配列番号36)及びGGEGGGSEGGGS(配列番号37)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
本発明の抗CD3-TCR融合構築物の具体的実施形態としては、α鎖が配列番号16~24又は46~64のアミノ酸配列を含む可変ドメインから構成され、及び/又はβ鎖が配列番号25~29又は65~81のアミノ酸配列を含む可変ドメインから構成されるα鎖とβ鎖との対が挙げられる。前記α鎖及びβ鎖は、非天然型ジスルフィド結合を含む定常領域を更に含んでいてもよい。α鎖及び/又はβ鎖のN又はC末端は、抗CD3 scFv抗体フラグメントに、配列番号30~37から選択されるリンカーを介して融合されていてもよい。このような抗CD3-TCR融合構築物の特定の好適な実施形態は下記に提供される:
【表7】
(表7)
【0067】
配列番号30~37の各リンカーは、CD3-TCR融合構築物の好適な実施形態のいずれとも用い得る。例えば、配列番号24のα鎖及び配列番号29のβ鎖を含み、β鎖が抗CD3 scFvに配列番号31~37のいずれかのリンカーを介して融合したTCR-CD3融合体も本発明に含まれる。
【0068】
幾つかの目的のために、本発明のTCRは、幾つかのTCRを含む複合体に凝集し、多価TCR複合体を形成していてもよい。多価TCR複合体の製造に用い得る多量体化ドメインを含むヒトタンパク質が存在する。例えば、p53の四量体化ドメインは、単量体scFvフラグメントと比較して増大した血清残留性及び顕著に低下した解離速度を示す四量体のscFv抗体フラグメントを作製するために用いられている(Willudaら(2001), J. Biol. Chem. 276(17) 14385-14392)。ヘモグロビンもまた、この種の適用に用いることができる四量体化ドメインを有する。本発明の多価TCR複合体は、本発明の非多量体野生型又はT細胞レセプターヘテロダイマーと比較して、GVYDGREHTV-HLA-A*02複合体に関する結合能力が増強していてもよい。よって、本発明のTCRの多価複合体もまた本発明に含まれる。本発明に従うこのような多価TCR複合体は、インビトロ又はインビボにおける、特定の抗原を提示する細胞の追跡又は標的化に特に有用であり、また、そのような用途を有する更なる多価TCR複合体の製造用の中間体としても有用である。
【0069】
当該分野において周知であるように、TCRは翻訳後修飾に付されていてもよい。グリコシル化はそのような修飾の1つであり、TCR鎖中の規定のアミノ酸へのオリゴ糖部分の共有結合的付加を含む。例えば、アスパラギン残基又はセリン/スレオニン残基は、周知のオリゴ糖付加位置である。特定のタンパク質のグリコシル化状況は、タンパク質配列、タンパク質コンホメーション及び特定の酵素の利用可能性を含む幾つかの因子に依存する。更に、グリコシル化状況(すなわち、オリゴ糖タイプ、共有結合及び付加の総数)は、タンパク質の機能に影響することがある。したがって、組換えタンパク質を製造するときには、グリコシル化の制御が望ましい場合が多い。制御されたグリコシル化は、抗体ベースの治療薬を改善するために用いられる(Jefferisら(2009) Nat Rev Drug Discov Mar;8(3):226-34)。本発明の可溶性TCRについて、グリコシル化は、例えば特定の細胞株を用いることにより、インビボで制御されてもよく、又は化学的修飾によりインビトロで制御されてもよい。このような修飾は、グリコシル化が薬物動態を改善し、免疫原性を低減させ及び天然型ヒトタンパク質をより厳密に模擬することができるので、望ましい(Sinclair及びElliott(2005),Pharm Sci.Aug; 94(8):1626-35)。
【0070】
患者への投与のために、本発明のTCR(好ましくは、検出可能な標識若しくは治療用薬剤と結合しているか、又はトランスフェクトされたT細胞に発現しているもの)又は本発明のTCR-抗CD3融合分子、核酸、発現ベクター若しくは細胞は、医薬組成物中で、医薬的に許容可能な1又は2以上の担体又は賦形剤と共に提供されてもよい。本発明に従う治療用若しくは造影用のTCR又は細胞は、通常、医薬的に許容可能な担体を通常含む滅菌医薬組成物の一部として供給される。この医薬組成物は、(患者への望ましい投与方法に依存して)任意の適切な形態であり得る。医薬組成物は、単位剤形で提供されてもよく、一般には密封容器内で提供され、キットの一部として提供されてもよい。このようなキットは、(必須ではないが)通常、使用指示書を含む。キットは複数の単位剤形を含み得る。
【0071】
医薬組成物は、任意の適切な経路、例えば非経口経路(皮下、筋内又は静脈内経路を含む)、経腸(経口又は直腸経路を含む)、吸入又は鼻内経路による投与に適合していてもよい。このような組成物は、薬学分野において公知の任意の方法により、例えば活性成分を担体又は賦形剤と滅菌条件下で混合することにより、製造されてもよい。
本発明の物質の投薬量は、治療すべき疾患又は異常、治療すべき個体の年齢及び状態などに依存して広範に変化し得る。抗CD3抗体に結合した本発明の可溶性TCRに適切な用量範囲は、25ng/kg~50μg/kgであり得る。医師が、使用すべき適切な投薬量を最終的には決定する。
本発明のTCR、医薬組成物、ベクター、核酸及び細胞は、実質的に純粋な形態、例えば、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%又は100%純粋で提供されてもよい。
【0072】
本発明はまた、次のものを提供する:
・医薬における使用のため、好ましくはガン又は腫瘍の治療法における使用のための、本発明のTCR、TCR-抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞;
・ガン又は腫瘍の治療用医薬の製造における、本発明のTCR、TCR-抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞の使用;
・本発明のTCR、TCR-抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞を患者に投与することを含んでなる、患者におけるガン又は腫瘍の治療法;
・本発明のTCR、TCR-抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞を含む、ヒト対象に投与するための注射可能製剤。
ガンは、乳ガン、食道ガン、頭部頸部ガン、肺ガン、卵巣ガン又は膀胱ガンであり得る。腫瘍はMAGE A4を発現してもよく、及び/又は充実腫瘍であってもよい。本発明のTCR、TCR-抗CD3融合分子、核酸、医薬組成物又は細胞は、注射により、例えば静脈内注射又は直接腫瘍内注射により投与されてもよい。ヒト対象はHLA-A*02サブタイプであってもよい。
本発明の各々の観点の好適な特徴は、他の観点の各々についても同様である(ただし、必要な変更は加える)。本明細書において言及した先行技術文献は、法が許容する最大範囲まで組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】天然型MAGE A4 TCR α鎖及びβ鎖の細胞外領域のアミノ酸配列を提供する。
図2】可溶性天然型MAGE A4 TCR α鎖及びβ鎖の細胞外領域のアミノ酸配列を提供する。
図3-1】変異MAGE A4 TCR α鎖可変領域のアミノ酸配列の例を提供する。
図3-2】図3-1の続きである。
図3-3】図3-2の続きである。
図3-4】図3-3の続きである。
図4-1】変異MAGE A4 TCR β鎖可変領域のアミノ酸配列の例を提供する。
図4-2】図4-1の続きである。
図4-3】図4-2の続きである。
図5】MAGE A4 TCR-抗CD3融合分子のα鎖アミノ酸配列の例を提供する。
図6-1】MAGE A4 TCR-抗CD3融合分子のβ鎖アミノ酸配列の例を提供する。
図6-2】図6-1の続きである。
図7】MAGE A4 TCR-抗CD3融合分子の効力及び特異性を証明する細胞データを提供する。
図8】更なるMAGE A4 TCR-抗CD3融合分子の効力及び特異性を証明する細胞データを提供する。
図9】MAGE A4 TCR-抗CD3融合分子の特異性の更なる証拠を提供する。
図10】MAGE A4 TCR-抗CD3融合分子の更なる特異性データを提供する。
図11a】MAGE A4 TCR-抗CD3融合分子がガン細胞の殺傷を導く証拠を提供する。
図11b】MAGE A4 TCR-抗CD3融合分子がガン細胞の殺傷を導く証拠を提供する。
【実施例
【0074】
本発明を以下の非限定的な実施例において更に説明する。

実施例
実施例1-可溶性TCRの発現、リフォールディング及び精製
方法
本発明の可溶性TCRのα及びβ細胞外領域をコードするDNA配列を、(Sambrookら,Molecular cloning. Vol. 2(1989) New York: Cold spring harbour laboratory pressに記載のような)標準的方法を用いて、別々にpGMT7ベースの発現プラスミドにクローニングした。この発現プラスミドを別々にE. coli株Rosetta(BL21pLysS)に形質転換し、単一アンピシリン抵抗性コロニーを、TYP(+アンピシリン100μg/ml)培地中で37℃にて、約0.6~0.8のOD600まで増殖させた後、0.5mM IPTGでタンパク質発現を誘導した。誘導の3時間後に細胞を遠心分離により採集した。BugBusterタンパク質抽出試薬(Merck Millipore)を製造業者の指示に従って用いて細胞ペレットを溶解させた。封入体ペレットを遠心分離により回収した。ペレットをTriton緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.1、0.5% Triton-X100、100mM NaCl、10mM NaEDTA)中で2回洗浄し、最後に界面活性剤フリーの緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.1、100mM NaCl、10mM NaEDTA)中に再懸濁した。6Mグアニジン-HClで可溶化し、OD280を測定することによって、封入体タンパク質の収量を定量した。次いで、消光係数を用いてタンパク質濃度を算出した。8M尿素で可溶化し、約2μgを還元条件下の4~20% SDS-PAGEにロードして封入体の純度を測定した。次いで、デンシトメトリーソフトウェア(Chemidoc, Biorad)を用いて純度を推定又は算出した。封入体を、短期保存については+4℃にて、長期保存については-20℃又は-70℃にて保存した。
【0075】
可溶性TCRのリフォールディングについては、α鎖含有封入体及びβ鎖含有封入体を先ず混合し、10mlの可溶化/変性緩衝液(6Mグアニジン-塩酸、50mM Tris HCl pH8.1、100mM NaCl、10mM EDTA、20mM DTT)中に希釈し、続いて30分間37℃にてインキュベートした。次いで、1Lのリフォールド緩衝液(100mM Tris pH8.1、400mM L-アルギニンHCL、2mM EDTA、4M尿素、10mMシステアミン塩酸及び2.5mMシスタミン二塩酸)中に更に希釈し、溶液を十分に混合することによりリフォールディングを開始した。リフォールドした混合物を10LのH2Oに対して18~20時間5℃±3℃にて透析した。その後、透析緩衝液を10mM Tris pH8.1(10L)と2回交換し、透析を更に15時間継続した。次いで、リフォールド混合物を0.45μmセルロースフィルターで濾過した。
【0076】
透析したリフォールド物をPOROS(登録商標) 50HQアニオン交換カラムに適用し、Akta(登録商標)精製装置(GE Healthcare)を用いて50カラム容量にわたり20mM Tris pH8.1中0~500mM NaClのグラジエントで結合タンパク質を溶出させることにより可溶性TCRの精製を開始した。ピークTCR画分をSDS PAGEにより同定した後、プールし、濃縮した。次いで、濃縮サンプルを、ダルベッコPBS緩衝液で予め平衡化させたSuperdex(登録商標) 75HRゲル濾過カラム(GE Healthcare)に適用した。ピークTCR画分をプールし、濃縮し、精製物質の最終収量を算出した。
【0077】
実施例2-ImmTAC分子(可溶性TCR-抗CD3融合分子)の発現、リフォールディング及び精製
方法
ImmTACの調製は、TCR β鎖を抗CD3単鎖抗体にリンカーを介して融合させたことを除き、実施例1に記載のとおり行った。加えて、カチオン交換工程を、アニオン交換後の精製の間に行った。この場合、アニオン交換のピーク画分を20mM MES(pH6.5)中20倍希釈し、POROS(登録商標) 50HSカチオン交換カラムに適用した。結合タンパク質を、20mM MES中0~500mM NaClのグラジエントを用いて溶出させた。ピークImmTAC画分をプールし、50mM Tris pH8.1に調整後、濃縮し、実施例1に記載のようにゲル濾過マトリクスに直接適用した。
【0078】
実施例3-結合特性決定
当該ペプチド-HLA複合体に対する精製済み可溶性TCR及びImmTAC分子の結合分析を、BIAcore 3000若しくはBIAcore T200装置を用いる表面プラズモン共鳴により又はForteBio Octet装置を用いるバイオレイヤー干渉分光法により行った。当業者に公知の方法を用いて、ビオチン化クラスI HLA-A*02分子を目的のペプチドと共にリフォールドさせて精製した(O'Callaghanら(1999),Anal Biochem 266(1):9-15;Garbocziら(1992),Proc Natl Acad Sci USA 89(8):3429-3433)。全ての測定は、0.005% P20を補充したダルベッコPBS緩衝液中で25℃にて行った。
【0079】
BIAcore法
ビオチン化ペプチド-HLAモノマーをストレプトアビジン結合CM-5センサチップに固定した。平衡結合定数は、約200応答単位(RU)のペプチド-HLA-A*02複合体を被覆したフローセル上に30μl/分の定流量で注入した可溶性TCR/ImmTACの系列希釈物を用いて決定した。平衡応答は、各TCR濃度について、無関係のペプチド-HLAを含むコントロールフローセルでのバルク緩衝液応答を減算して規格化した。KD値は、Prismソフトウェア及びLangmuir結合等温式 結合 = C×Max/(C+KD) (式中、「結合」は注入したTCRの濃度Cでの平衡結合(RU)であり、Maxは最大結合である)を用いる非線形曲線フィッティングにより得た。
【0080】
高親和性相互作用については、結合パラメータは、単一サイクル速度論分析により決定した。5つの異なる濃度の可溶性TCR/ImmTACを、約100~200RUのペプチド-HLA複合体を被覆したフローセル上に50~60μl/分の流速で注入した。代表的には、60~120μlの可溶性TCR/ImmTACを100~200nMの最高濃度で注入し、他の4つの注入については2倍系列希釈物を用いた。最低濃度を先ず注入した。その後、解離相を測定するため、≧10%の解離が生じるまで、典型的には1~3時間後まで、緩衝液を注入した。速度論パラメータはBIAevaluation(登録商標)ソフトウェアを用いて算出した。半減期の算出を可能とするため、解離相を一次指数関数的減衰式にフィッティングした。平衡定数KDはkoff/konから算出した。
【0081】
Octet方法
ビオチン化ペプチド-HLAモノマーを、ストレプトアビジンを予め固定した(SA)ストレプトアビジンバイオセンサ(Pall ForteBio)に1nmで捕捉させた。センサを遊離ビオチン(2μM)で2分間ブロックした。平衡結合定数は、ロードされたバイオセンサを96ウェル又は384ウェルサンプルプレート中で系列希釈した可溶性TCR/ImmTACに浸漬させて決定した。プレート振盪を1000rpmに設定した。低親和性相互作用(μM範囲)については、短い結合時間(約2分間)及び短い解離時間(約2分間)を用いた。結合曲線は、Octetデータ分析ソフトウェア(Pall ForteBio)を用いて、無関係のpHLAをロードした参照バイオセンサの参照データの2倍を減算して処理した。平衡時の応答(nm)を用い、式:応答 = Rmax×conc/(KD+conc)(式中、「応答」は各TCR濃度(conc)での平衡結合(nm)であり、RmaxはpHLA飽和時の最大結合応答である)にフィットさせた定常状態プロットからKD値を推定した。
【0082】
高親和性相互作用(nM~pM範囲)については、動力学的パラメータは、3つ以上のTCR/ImmTAC濃度、代表的には10nM、5nM及び2.5nMでの結合曲線から決定した。結合時間は30分であり、解離時間は1~2時間であった。結合曲線は、無関係のpHLAをロードし、ビオチンでブロックした参照バイオセンサの参照データの2倍を減算して処理した。動力学的パラメータkon及びkoffは、Octetデータ分析ソフトウェア(Pall ForteBio)を用いて結合曲線に直接グローバルフィットさせることにより算出した。KDはkoff/konから算出し、解離半減期はt1/2 = 0.693/koffから算出した。
【0083】
実施例4-天然型TCRの結合特徴付け
可溶性天然型TCRは、実施例1に記載の方法に従って調製し、pHLAへの結合は実施例3に従って分析した。α鎖及びβ鎖のアミノ酸配列は図2に示したものに相当した。可溶性ビオチン化HLA-A*02は、MAGE A4ペプチドGVYDGREHTVを用いて調製し、BIAcoreセンサチップに固定した。
【0084】
結果
結合は種々の濃度で決定し、相互作用のKD値は142μMであると決定した。交差反応性(特異性)は、15の無関係のペプチド-HLA-A*02複合体のパネルに対して、実施例3の平衡BIAcore法を用いて評価した。15の無関係のpHLAは3群に分けてプールし、フローセルあたり約1000RUの各pHLAが得られるように3つのフローセルの1つにロードした。20μLの可溶性野生型TCRを、全てのフローセルに濃度73μMで20μL/分で注入した。いずれの濃度でも有意な結合は検出されなかった。このことは、天然型TCRがGVYDGREHTV-HLA-A*02複合体に関して特異的であることを示す。
このデータは、このTCRが標的に適切な親和性及び特異性で結合し、したがって治療用TCRの有用な出発配列を提供することを示す。
【0085】
実施例5-本発明の可溶性変異TCR及びImmTAC分子の結合特徴付け
可溶性変異TCR及びImmTAC分子は図2に示す配列に基いて作製した。サンプルは実施例1及び2に記載のように調製し、結合特性を実施例3に従って決定した。

結果
α鎖の19位での単一システイン→バリン点変異(配列番号6)は、親和性にも特異性にも影響することなくリフォールディング及び精製収量を改善することが判明した(KDは145μMと記録され、WTで試験した同じ15の代替ペプチド-HLA複合体のパネルに対する交差反応性は観察されなかった)。
少なくとも1つのCDR領域に、図2に示すCDR配列に比して変異を含むTCR α鎖及び/又はβ鎖を同定した(配列番号4及び5)。これらTCR配列は、GVYDGREHTV-HLA-A*02複合体を特に適切な親和性及び/又は半減期で認識した。幾つかの場合において、TCRの安定性及び/又は収量を改善する更なる変異(α鎖変異K1A(配列番号4の番号付けを参照して)を含む)を同定した。本発明の特定の変異TCR α鎖及びβ鎖の可変領域のアミノ酸配列をそれぞれ図4及び5に示す。下記の表は、示されたα及びβ可変領域を含む可溶性TCR又はImmTAC分子(可溶性TCR-抗CD3融合分子)の結合特性を提供する。
【0086】
【表8】
(表9)
nd = 決定せず
a 実施例6のImmTAC3に対応し、完全なα鎖及びβ鎖配列はそれぞれ配列番号39及び配列番号44で示す。値は独立の7回の測定の平均に基づく。
b 実施例6のImmTAC1に対応し、完全なα鎖及びβ鎖配列はそれぞれ配列番号38及び配列番号42で示す。値は独立の7回の測定の平均に基づく。
c 実施例6のImmTAC2に対応し、完全なα鎖及びβ鎖配列はそれぞれ配列番号38及び配列番号43で示す。
d 実施例6のImmTAC4に対応し、完全なα鎖及びβ鎖配列はそれぞれ配列番号40及び配列番号45で示す。値は独立の4回の測定の平均に基づく。
e 実施例6のImmTAC5に対応し、完全なα鎖及びβ鎖配列はそれぞれ配列番号41及び配列番号45で示す。
【0087】
本発明の変異を含むα及びβ可変領域の更なる組合せを、GVYDGREHTV-HLA-A*02複合体への結合について試験した。下記の表に示すデータは、上記のようにBiacoreを用いて取得した。示したα及びβ可変ドメイン配列はImmTAC分子として調製した。
【表9】
(表10)
nd = 決定せず
【0088】
表9及び10に示したデータは、本発明の特定のTCR可変配列がGVYDGREHTV-HLA-A*02複合体に関して高い結合親和性及び長い半減期を有し、したがって可溶性治療剤としての使用に特に適切であることを示している。
同族GVYDGREHTV-HLA-A*02複合体への結合に加え、本発明のTCRを、MAGE A8及びMAGE B2に由来し、HLA-A*02により提示される類似のペプチドへの結合についても評価した。下記表の数値は、示したα及びβ可変ドメイン配列を含む3つのImmTAC分子についてBiacore結合データを示す。3つ全てのImmTAC分子は、MAGE-A8ペプチドを同族ペプチドに類似するレベルで認識し、MAGE-B2ペプチドをより弱いレベルで認識する。
【表10】
(表11)
a 実施例6のImmTAC1に対応し、完全なα鎖及びβ鎖配列はそれぞれ配列番号38及び配列番号42で示す。
b 実施例6のImmTAC3に対応し、完全なα鎖及びβ鎖配列はそれぞれ配列番号39及び配列番号44で示す。
c 実施例6のImmTAC4に対応し、完全なα鎖及びβ鎖配列はそれぞれ配列番号40及び配列番号45で示す。
【0089】
実施例6-ImmTAC分子による強力で特異的なT細胞の再指向化
変異α及びβ可変鎖配列を含み、標的抗原に関して特に高い親和性を有するImmTAC分子を、T細胞活性化の指標としてインターフェロン-γ(IFN-γ)分泌を用いるELISPOTアッセイにより、CD3+T細胞の強力で特異的な再指向化を媒介する能力について試験した。
本実施例では、α鎖可変領域の配列は配列番号20~24から選択し、β鎖可変領域の配列は配列番号26~29から選択した。可変ドメイン配列は、それぞれのα又はβ細胞外定常ドメイン配列に融合され、非天然型ジスルフィド結合を含んでいた。各場合において、β鎖はリンカーを介して抗CD3 scFvに融合した;リンカーは配列番号30~37から選択した。試験したImmTAC分子の完全配列は、次の表に記載する配列番号により示す:
【表11】
(表12)
【0090】
方法
アッセイは、ヒトIFN-γ ELISPOTキット(BD Biosciences)を用いて行った。標的細胞は、アッセイ培地(10%熱不活化FBS及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン-L-グルタミンを含有するRPMI 1640)に1×106/mlの密度で調製し、50,000細胞/ウェルにて50μlの容量でプレートした。新鮮なドナー血から単離した末梢血単核細胞(PBMC)をエフェクター細胞として用い、10,000~50,000細胞/ウェルにて50μlの容量でプレートした(各実験に用いた細胞の正確な数はドナーに依存し、当該アッセイに関して適切な範囲内の応答を生じるように調整され得る)。予想される臨床上妥当な範囲にわたる種々の濃度のImmTACを用い、ウェルに50μlの容量で加えた。
【0091】
プレートは製造業者の指示に従って調製した。標的細胞、エフェクター細胞及びImmTAC分子を該当するウェルに加え、アッセイ培地で最終容量を200μlとした。全ての反応は3つ組で行った。ImmTACもエフェクター細胞も標的細胞も含まないコントロールウェルも調製した。次いで、プレートを一晩インキュベートした(37℃/5% CO2)。翌日、プレートを洗浄緩衝液(0.05% P20を含み、脱イオン水で完成させた1×PBSサッシェ)で3回洗浄した。次いで、一次検出抗体を各ウェルに容量50μlで加えた。プレートを室温にて2時間インキュベートした後、再び3回洗浄した。二次検出は、50μlの希釈ストレプトアビジン-HRPを各ウェルに加え、室温にて1時間インキュベートし、洗浄工程を繰り返すことにより行った。使用前15分以内に、一滴(20μl)のAEC色素原を各1mlのAEC基質に加えて混合し、50μlを各ウェルに加えた。スポット発色を定期的にモニターし、プレートを水道水で洗浄して、発色反応を停止させた。次いで、プレートを室温にて少なくとも2時間乾燥させた後、Immunospotソフトウェア(Cellular Technology Limited)を備えるCTL分析装置を用いてスポットを計数した。
【0092】
結果
図7及び8(上パネル)に示すデータは、それぞれImmTAC分子1~2及びImmTAC分子3~5が標的抗原を発現するガン細胞(NCI-H1703-ヒト肺ガン細胞株)に対する強力な(すなわち、100pM以下のEC50で)T細胞再指向化を媒介可能であることを示す。臨床的に妥当な濃度範囲(≦1nM)で抗原陰性ガン細胞(ImmTAC分子1~2についてはNCI-H441ヒト乳頭腺ガン細胞株;ImmTAC分子3~5についてはCAMA-1ヒト乳ガン細胞株)に対するT細胞活性化は検出されなかった。このことは、応答が特異的であることを証明する。
正常な健常ヒト組織に由来する細胞を標的細胞として用いて、ImmTAC分子を特異性について試験した。図7の下パネルは、ImmTAC分子1~2が臨床的に妥当な濃度で、ヒト皮膚脈管構造細胞に対して極僅かな反応性を有することを示す。同様に、図8の下パネルは、ImmTAC分子3~5が臨床的に妥当な濃度で、ヒト皮膚脈管構造細胞及びヒト腎細胞に対して極僅かな反応性を有することを示す。
【0093】
ImmTAC分子1及び3を、正常な健常組織に由来するヒト細胞のパネルに対する特異性について、上記と同じELISPOT法を用いて更に試験した。図9に示すデータは、臨床的に妥当な濃度範囲(≦1nM)で、皮膚脈管組織、心臓、骨格筋、肝臓及び肺を含む健常組織についてのT細胞活性化は限定的であることを示す。
ImmTAC分子1及び4を、10より多い正常細胞タイプの拡大パネルに対する反応性について、より細かいImmTAC濃度範囲(0.01nM、0.1nM、0.2nM、0.3nM、0.5nM及び1nM)で、上記と同じELISPOT法を用いて更に試験した。図10は、骨格筋、心臓及び腎臓細胞から得られた代表的データを示す。各場合において、抗原陽性細胞(NCI-H1703)及び抗原陰性細胞(NCI-H441)をコントロールとして含ませた。データは、臨床上妥当な濃度範囲(≦1nM)で、抗原陽性細胞に比して、正常細胞に対する反応性が無視し得るものであることを証明する。
このデータは、これらImmTAC分子が高レベルに強力で特異的であり、したがって治療用途に特に適切であることを証明する。
【0094】
実施例7-ImmTAC再指向化T細胞による腫瘍細胞の強力な殺傷
本発明のImmTAC分子が再指向化T細胞による抗原陽性腫瘍細胞の強力な殺傷を媒介する能力を、IncuCyteプラットフォーム(Essen BioScience)を用いて調べた。このアッセイは、カスパーゼ-3/7(アポトーシスのマーカー)放出の顕微鏡観察によるリアルタイム検出を可能とする。

方法
アッセイは、CellPlayer 96ウェルカスパーゼ-3/7アポトーシスアッセイキット(Essen BioScience,Cat. No.4440)を用いて製造業者のプロトコルに従って行った。簡潔には、標的細胞(NCI-H1703-抗原+ve HLA A*02+ve;NCI-H441-抗原-ve HLA A*02+ve)を5000細胞/ウェルでプレートし、一晩インキュベートして接着させた。ImmTAC溶液を0.5nM~0.01nMの濃度で調製し、各濃度の25μlを該当するウェルに加えた。エフェクター細胞を10:1のエフェクター:標的細胞の比で用いた(50000細胞/ウェル)。ImmTACを含まないコントロールサンプルも調製した。NucViewアッセイ試薬を30μMで作製し、25μlを全てのウェルに加え、最終容量を150μlとした(最終濃度5μMを得た)。プレートをIncuCyte装置内に置き、3日間にわたって2時間ごとに撮像した(1画像/ウェル)。各画像内のアポトーシス細胞の数を決定し、1mm2あたりのアポトーシス細胞として記録した。アッセイは3つ組で行った。
【0095】
結果
図11に示すデータは、ImmTAC再指向化T細胞による腫瘍細胞のリアルタイム殺傷を示す。ImmTAC1及びImmTAC4の結果を示す。両ImmTAC分子とも、0.01nMの濃度で、抗原陽性腫瘍細胞の再指向化T細胞による殺傷を示す。最高濃度(0.5nM)でさえ、抗原陰性細胞の殺傷は観察されない。
これらデータは、ImmTAC1及びimmTAC4が抗原陽性腫瘍細胞の再指向化T細胞による強力な殺傷を媒介することを確証するものである。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5
図6-1】
図6-2】
図7
図8
図9
図10
図11a
図11b
【配列表】
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