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特許7254531リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法及びリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法及びリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20230403BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20230403BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019006707
(22)【出願日】2019-01-18
(65)【公開番号】P2020115438
(43)【公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 政博
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2008-0099132(KR,A)
【文献】特開2017-139168(JP,A)
【文献】特表2018-505521(JP,A)
【文献】特開2009-104805(JP,A)
【文献】国際公開第2016/063875(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0078128(KR,A)
【文献】国際公開第2020/080211(WO,A1)
【文献】特開2019-200991(JP,A)
【文献】特開2008-147160(JP,A)
【文献】特開平08-264183(JP,A)
【文献】特開2019-179758(JP,A)
【文献】特開2009-043477(JP,A)
【文献】S.-U. Woo et al.,Significant Improvement of Electrochemical Performance of AlF3-Coated Li[Ni0.8Co0.1Mn0.1]O2 Cathode,Journal of The Electrochemical Society,2007年,Vol.154,pp.A1005-A1009
【文献】KAI YANG, et al.,Significant improvement of electrochemical properties of AlF3-coated LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2 cathode materials,Electrochimica Acta,2012年,Vol.63,pp.363-368
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
LiNiMnCo1-y-z1+x (1)
(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0.50≦y<1.00、zは0<z≦0.50を示す。)
で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、無機フッ化物粒子と、の混合物からなり、該無機フッ化物粒子が、MgF 及びAlF であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記無機フッ化物粒子中のF含有量が、前記リチウニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中のNi原子、Mn原子及びCo原子の合計のモル数に対してF原子換算で0.05~2.00モル%であることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
下記一般式(1):
LiNiMnCo1-y-z1+x (1)
(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0.50≦y<1.00、zは0<z≦0.50を示す。)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、無機フッ化物粒子と、を混合処理し、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と無機フッ化物粒子の混合物を得る第1工程を有し、該無機フッ化物粒子が、MgF 及びAlF であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程の混合処理を、乾式混合により行うことを特徴とする請求項記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程の乾式の混合処理を、水の存在下に行うことを特徴とする請求項記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記第1工程の混合処理を、湿式混合により行うことを特徴とする請求項記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
更に、前記第1工程を行い得られるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と無機フッ化物粒子の混合物を加熱処理する第2工程を有することを特徴とする請求項3~6いずれか1項記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記第2工程における加熱処理の温度が200~1100℃であることを特徴とする請求項記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
正極活物質として、請求項1又は2記載のリチウム二次電池用正極活物質が用いられていることを特徴とするリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法及び該正極活物質が用いられているリチウム二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池の正極活物質としては、コバルト酸リチウムが用いられてきた。しかし、コバルトは希少金属であるため、コバルトの含有率が低いリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物が開発されている(例えば、特許文献1~2参照)。
【0003】
リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質として使用するリチウム二次電池は、複合酸化物中に含まれるニッケル、マンガン、コバルトの原子比を調整することで、低コスト化が可能となることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、これらの従来技術の方法であっても、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質として用いたリチウム二次電池は、サイクル特性の劣化と言う問題が残されていた。
【0005】
また、特許文献4には、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の粒子表面がフッ素コーティングされており、該フッ素コーティングされた表面が、スピネル類似層を備えたものを正極活物質として用いることが提案されている。なお、特許文献4のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物は、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物中に含有されるMn原子のモル比がNi原子のモルより大きいものを用いることを特徴としており、本願発明のようなNi原子のモル比がMn原子のモル比より大きい、所謂、ハイニッケルのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2004/092073号パンフレット
【文献】特開2005-25975号公報
【文献】特開2011-23120号公報
【文献】特表2015-533257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Ni含有量が高いハイニッケルのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物は、Ni含有量が高いため高容量であり、且つ、Niの一部が置換されているため、LiNiOと比較して高寿命となることが知られている。
【0008】
そして、これらハイニッケルのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を正極活物質とするリチウム二次電池においては、更なる高容量化、高エネルギー化に向けた性能の向上が求められており、サイクル特性の向上に加えて、平均作動電圧の低下が少なく、エネルギー密度維持率が高いものが求められている。
【0009】
従って、本発明の目的は、Ni原子のモル比がMn原子のモル比より高いハイニッケルのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いるリチウム二次電池用正極活物質において、容量が高く、サイクル特性に優れ、更に平均作動電圧の低下が少なく、エネルギー密度維持率を高くすることができるリチウム二次電池用正極活物質、その工業的に有利な製造方法、及び容量が高く、サイクル特性、平均作動電圧の低下が少なく、エネルギー密度維持率の高いリチウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、正極活物質として、特定の一般式で表されるハイニッケルのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、無機フッ化物粒子と、の混合物を含有する正極活物質を用いることにより、リチウム二次電池のサイクル特性と平均作動電圧の低下が少なく、エネルギー密度維持率の高くなることを知見し、本発明を完成するに到った。
【0011】
すなわち、本発明(1)は、下記一般式(1):
LiNiMnCo1-y-z1+x (1)
(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0.50≦y<1.00、zは0<z≦0.50を示す。)
で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、無機フッ化物粒子と、の混合物からなり、該無機フッ化物粒子が、MgF 及びAlF であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質を提供するものである。
【0012】
また、本発明(2)は、前記無機フッ化物粒子中のF含有量が、前記リチウニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中のNi原子、Mn原子及びCo原子の合計のモル数に対してF原子換算で0.05~2.00モル%であることを特徴とする(1)のリチウム二次電池用正極活物質を提供するものである。
【0014】
また、本発明()は、下記一般式(1):
LiNiMnCo1-y-z1+x (1)
(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0.50≦y<1.00、zは0<z≦0.50を示す。)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、無機フッ化物粒子と、を混合処理し、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と無機フッ化物粒子の混合物を得る第1工程を有し、該無機フッ化物粒子が、MgF 及びAlF であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明()は、前記第1工程の混合処理を、乾式混合により行うことを特徴とする()のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明()は、前記第1工程の乾式の混合処理を、水の存在下に行うことを特徴とする()のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明()は、前記第1工程の混合処理を、湿式混合により行うことを特徴とする()のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明()は、更に、前記第1工程を行い得られるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と無機フッ化物粒子の混合物を加熱処理する第2工程を有することを特徴とする(3)~(6)いずれかのリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供するものである。
【0019】
また、本発明()は、前記第2工程における加熱処理の温度が200~1100℃であることを特徴とする()のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供するものである。
【0020】
また、本発明()は、正極活物質として、(1)又は(2)のリチウム二次電池用正極活物質が用いられていることを特徴とするリチウム二次電池を提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、Ni原子のモル比がMn原子のモル比より高いハイニッケルのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いるリチウム二次電池用正極活物質において、容量が高く、サイクル特性に優れ、更に平均作動電圧の低下が少なく、エネルギー密度維持率を高くすることができるリチウム二次電池用正極活物質、その工業的に有利な製造方法、及び容量が高く、サイクル特性、平均作動電圧の低下が少なく、エネルギー密度維持率の高いリチウム二次電池を提供することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、無機フッ化物粒子と、の混合物を含有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質である。
【0023】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質に係るリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物は、下記一般式(1)で表される。
LiNiMnCo1-y-z1+x (1)
(式中、xは0.98≦x≦1.20、yは0.50≦y<1.00、zは0<z≦0.50を示す。)
【0024】
一般式(1)の式中のxは、0.98≦x≦1.20である。xは、初期放電容量が高くなる点で、1.00≦x≦1.10である。また、一般式(1)の式中のyは、0.50≦y<1.00である。yは、初期放電容量が高くなる点で、0.50≦y≦0.95であることが好ましく、0.55≦y≦0.95であることが特に好ましい。また、一般式(1)の式中のzは、0<z≦0.50である。zは、安全性に優れる点で、0.05≦z≦0.45であることが好ましい。y/zは、好ましくは1より大きく、特に好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5≦y/z≦99である。
【0025】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質に係るリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子は、一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の粒状物である。リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子は、一次粒子が単分散した単粒子であっても、一次粒子が集合して二次粒子を形成した凝集粒子であってもよい。リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により求められる粒度分布における体積換算50%の粒子径(D50)で、好ましくは1~30μm、特に好ましくは3~25μmである。また、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子のBET比表面積は、好ましくは0.05~2.00m/g、特に好ましくは0.15~1.00m/gである。リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の平均粒子径又はBET比表面積が上記範囲にあることにより、正極合剤の調製や塗工性が容易になり、さらには充填性の高い電極が得られる。
【0026】
一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子は、例えば、リチウム源、ニッケル源、マンガン源及びコバルト源を混合して原料混合物を調製する原料混合工程、次いで、得られる原料混合物を焼成する焼成工程とを行うことにより製造される。
【0027】
原料混合工程に係るリチウム源、ニッケル源、マンガン源、コバルト源としては、例えば、これらの水酸化物、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、有機酸塩等が用いられる。リチウム源、ニッケル源、マンガン源及びコバルト源の平均粒子径は、レーザ・散乱法により求められる平均粒子径が、1~30μm、好ましくは3~25μmであることが好ましい。
【0028】
原料混合工程に係るニッケル源、マンガン源及びコバルト源は、ニッケル原子、マンガン原子及びコバルト原子を含有する化合物であってもよい。ニッケル原子、マンガン原子及びコバルト原子を含有する化合物としては、例えば、これらの原子を含有する複合酸化物、複合水酸化物、複合オキシ水酸化物、複合炭酸塩等が挙げられる。
【0029】
なお、ニッケル原子、マンガン原子及びコバルト原子を含有する化合物を調製する方法としては、公知の方法が用いられる。例えば、複合水酸化物の場合、共沈法によって調製することができる。具体的には、所定量のニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含む水溶液と、錯化剤の水溶液と、アルカリの水溶液とを混合することで、複合水酸化物を共沈させることができる(特開平10-81521号公報、特開平10-81520号公報、特開平10-29820号公報、2002-201028号公報等参照。)。また、複合炭酸塩の場合は、ニッケルイオン、マンガンイオン及びコバルトイオンを含む溶液(A液)と、炭酸イオン又は炭酸水素イオンを含む溶液(B液)とを、反応容器に添加して反応を行う方法(特開2009-179545号公報)、或いはニッケル塩、マンガン塩及びコバルト塩を含む溶液(A液)と、金属炭酸塩又は金属炭酸水素塩を含む溶液(B液)とを、該A液中の該ニッケル塩、該マンガン塩及び該コバルト塩のアニオンと同じアニオンと、該B液中の該金属炭酸塩又は該金属炭酸水素塩のアニオンと同じアニオンと、を含む溶液(C液)に添加して、反応を行う方法(特開2009-179544号公報)等が挙げられる。また、ニッケル原子、マンガン原子及びコバルト原子を含有する化合物は、市販品であってもよい。
【0030】
ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含有する化合物の平均粒子径は、レーザ・散乱法により求められる平均粒子径が、1~100μm、好ましくは5~80μmであることが好ましい。
【0031】
一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の製造において、ニッケル源、マンガン源及びコバルト源として、ニッケル原子、コバルト原子及びマンガン原子を含有する複合水酸化物を用いることが、反応性が良好になる点で好ましい。
【0032】
原料混合工程において、リチウム源と、ニッケル源、マンガン源及びコバルト源の混合割合は、放電容量が高くなる点で、ニッケル源、マンガン源及びコバルト源中のNi原子、Mn原子及びCo原子の総モル数(Ni+Mn+Co)に対するLi原子のモル比(Li/(Ni+Mn+Co))が、0.98~1.20となる混合割合が好ましく、1.00~1.10となる混合割合が特に好ましい。
【0033】
また、原料混合工程において、ニッケル源、マンガン源及びコバルト源の各原料の混合割合については、前記一般式(1)で表されるニッケル、マンガン、コバルトの原子モル比となるよう調整すればよい。
【0034】
なお、原料のリチウム源、ニッケル源、マンガン源及びコバルト源の製造履歴は問われないが、高純度のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を製造するため、可及的に不純物含有量が少ないものであることが好ましい。
【0035】
原料混合工程において、リチウム源、ニッケル源、マンガン源及びコバルト源を混合する手段としては、乾式でも湿式でもいずれの方法でも行うことができるが、製造が容易であるため乾式による混合が好ましい。
【0036】
乾式混合の場合は、原料が均一に混合するよう機械的手段にて行うことが好ましい。混合装置としては、例えば、イスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、アイリッヒミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、V型混合機、コニカルブレンダー、ジェットミル、コスモマイザー、ペイントシェイカー、ビーズミル、ボールミル等が挙げられる。なお、実験室レベルでは、家庭用ミキサーで十分である。
【0037】
湿式混合の場合、混合装置としては、メディアミルを用いることが各原料が均一に分散したスラリーを調製できる点で好ましい。また、混合処理後のスラリーは、反応性に優れ各原料が均一に分散した原料混合物が得られる観点から噴霧乾燥を行うことが好ましい。
【0038】
焼成工程は、原料混合工程を行い得られる原料混合物を、焼成することにより、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を得る工程である。
【0039】
焼成工程において、原料混合物を焼成して、原料を反応させる際の焼成温度は、700~1100℃、好ましくは750~1000℃である。この理由は焼成温度が700℃未満では反応が不十分で未反応のリチウムが多量に残留する傾向があり、一方、1100℃を超えると一度生成したリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物が分解してしまう傾向があるからである。
【0040】
焼成工程における焼成時間は、3時間以上、好ましくは5~30時間である。また、焼成工程における焼成雰囲気は、空気、酸素ガスの酸化雰囲気である。
【0041】
このように得られるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を、必要に応じて複数回の焼成工程に付してよい。
【0042】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質に係る無機フッ化物粒子は、水に不溶又は難溶性である。無機フッ化物としては、例えば、MgF、AlF、TiF、ZrF、CaF、BaF、SrF、ZnF2、LiF等が挙げられる。無機フッ化物粒子としては、MgF及び/又はAlFが好ましい。無機フッ化物粒子は、1種単独であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0043】
無機フッ物粒子は、粒状の無機フッ化物である。無機フッ化物粒子の平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により求められる平均粒子径で、好ましくは0.01~30μm、特に好ましくは0.1~20μmである。無機フッ化物粒子の平均粒子径が上記範囲にあることにより、正極合剤を調製する際の混練工程や、得られた正極合剤を正極集電体に塗布する塗工工程において不具合を生じ難くなる。
【0044】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質中の無機フッ化物粒子の含有量は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中のNi原子、Mn原子及びCo原子の合計のモル数(Ni+Mn+Co)に対してF原子換算で、好ましくは0.05~5.00モル%、特に好ましくは0.10~2.00モル%となる量である。つまり、本発明のリチウム二次電池用正極活物質に含有されている「リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中の原子換算のNi原子、Mn原子及びCo原子の合計のモル数(Ni+Mn+Co)」に対する「無機フッ化物粒子中の原子換算のF原子のモル数(F)」のモル比((F/(Ni+Mn+Co))×100)が、好ましくは0.05~5.00モル%、特に好ましくは0.10~2.00モル%である。無機フッ化物粒子の含有量が上記範囲にあることにより、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の充放電容量の低下を抑えつつ、高電圧時のサイクル特性を向上させる効果が高まる。なお、無機フッ化物粒子として、2種以上の無機フッ化物粒子を用いる場合、例えば、MgFとAlFを併用する場合には、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子中のNi原子、Mn原子及びCo原子の合計のモル(Ni+Mn+Co)に対してF原子換算のF原子の合計が、好ましくは0.05~5.00モル%、特に好ましくは0.10~2.00モル%となるように調整する。無機フッ化物粒子として、2種以上の無機フッ化物粒子を用いる場合、2種以上の無機フッ化物粒子のF原子換算のF原子の合計含有量が上記範囲にあることにより、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の充放電容量の低下を抑えつつ、高電圧時のサイクル特性、平均作動電圧の特性、エネルギー密度維持率等の特性を向上させる効果が高まる。
【0045】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質において、無機フッ化物粒子は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面に存在していてもよく、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と単なる混合状態で存在してもよく、その両方であってもよい。つまり、本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の表面に存在する無機フッ化物粒子と、を含んでいてもよく、あるいは、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、無機フッ化物粒子と、の単純混合物であってよいし、あるいは、両方の形態の混合物を含んでいてもよい。なお、無機フッ化物粒子が、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子の粒子表面に存在する場合は、無機フッ化物粒子がリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子表面に部分的に存在するものであることが、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物の表面でのリチウムの脱挿入が阻害されない点で好ましい。
【0046】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、以下に示すリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、無機フッ化物粒子とを、所定量で混合処理する第1工程を有する製造方法により、好適に製造される。
【0047】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と、無機フッ化物粒子と、を混合処理し、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と無機フッ化物粒子の混合物を得る第1工程を有することを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法である。
【0048】
第1工程に係るリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子は、本発明のリチウム二次電池用正極活物質に係るリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と同様である。つまり、第1工程に係るリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物は、前記一般式(1)で表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物である。また、第1工程に係る無機フッ化物粒子は、本発明のリチウム二次電池用正極活物質に係る無機フッ化物粒子と同様である。
【0049】
第1工程では、混合処理を、乾式又は湿式のいずれでも行うことができる。
【0050】
第1工程において、乾式で混合処理を行う方法としては、機械的手段にて行うことが均一な混合物が得られる点で好ましい。乾式混合に用いられる装置としては、均一な混合物が得られるものであれば特に制限はないが、例えば、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、アイリッヒミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサー、リボンブレンダー、V型混合機、コニカルブレンダー、ジェットミル、コスモマイザー、ペイントシェイカー、ビーズミル、ボールミル等が挙げられる。なお、実験室レベルでは、家庭用ミキサーで十分である。
【0051】
第1工程において乾式で混合処理を行う場合、少量の水を存在させて乾式混合処理を行うことができる。少量の水を存在させて乾式混合処理を行うことにより、水を全く存在させずに乾式混合処理を行う場合に比べて、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と無機フッ化物粒子の混合状態が均一になり易くなる。ただし、第1工程において、少量の水を存在させて乾式混合処理した場合は、混合処理後に乾燥し、更に得られる混合物を加熱処理する第2工程を行い、水分を十分に取り除くことが、充放電容量の低下やサイクル特性の低下等の特性劣化が生じ難くなる点で好ましい。
【0052】
第1工程において、少量の水を存在させて乾式混合処理を行う場合、水の添加量は、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と無機フッ化物粒子の混合物に対し、好ましくは10~80質量%、特に好ましくは20~70質量%である。
【0053】
第1工程において、水の存在下に乾式混合処理を行う場合は、混合処理後、80~200℃で混合物を乾燥し、次いで、得られる混合物を加熱処理する第2工程を行うことが好ましい。
【0054】
また、第1工程において、湿式で混合処理を行う方法としては、水溶媒にリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と無機フッ化物粒子を、固形分含有量が10~80質量%、好ましくは20~70質量%となるように添加し、これを機械的手段で混合してスラリーを調製し、次いで、該スラリーを静置させた状態で乾燥させるか、あるいは、該スラリーを噴霧乾燥処理して乾燥させる等により、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と無機フッ化物粒子の混合物を得る方法が挙げられる。
【0055】
湿式混合に用いられる装置としては、均一なスラリーが得られるものであれば特に制限はないが、例えば、スターラー、撹拌羽による攪拌機、3本ロール、ボールミル、ディスパーミル、ホモジナイザー、振動ミル、サンドグラインドミル、アトライター及び強力撹拌機等の装置が挙げられる。湿式混合処理は、上記で例示した機械的手段による混合処理に限定されるものではない。なお、湿式混合の際に、界面活性剤をスラリーに添加して混合処理を行ってもよい。
【0056】
第1工程において、少量の水を存在させて乾式混合処理を行う場合又は湿式混合処理を行う場合は、第1工程に引き続き、第2工程を行うことが、水分による充放電容量の低下やサイクル特性の低下等の特性劣化を生じさせ難くすることができる点で好ましい。
【0057】
第2工程では、第1工程を行い得られるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子と無機フッ化物粒子の混合物を加熱処理する。第2工程における加熱処理の温度は、好ましくは200~1100℃、特に好ましくは500~1000℃である。加熱処理の温度が上記範囲にあることにより、水分を十分に取り除くことができ、充放電容量の低下やサイクル特性の低下等の特性劣化を生じさせ難くすることができる。また、第2工程における加熱処理の時間は、好ましくは1~10時間、特に好ましくは2~7時間である。また、第2工程における加熱処理の雰囲気は、空気、酸素ガス等の酸化雰囲気であることが好ましい。
【0058】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質に、本発明の効果を損なわない範囲の添加量で、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リン酸鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム等の他の正極活物質を含有させて、リチウム二次電池用の正極活物質として用いることもできる。
【0059】
本発明のリチウム二次電池は、正極活物質として、本発明のリチウム二次電池用正極活物質を用いるものである。本発明のリチウム二次電池は、正極、負極、セパレータ、及びリチウム塩を含有する非水電解質からなる。
【0060】
本発明のリチウム二次電池に係る正極は、例えば、正極集電体上に正極合剤を塗布乾燥等して形成されるものである。正極合剤は、正極活物質、導電剤、結着剤、及び必要により添加されるフィラー等からなる。本発明のリチウム二次電池は、正極に、本発明のリチウム二次電池用正極活物質が均一に塗布されている。このため本発明のリチウム二次電池は、電池性能が高く、特にサイクル特性に優れ、平均作動電圧の低下が少なく高く維持し、更にエネルギー密度維持率が高い。
【0061】
本発明のリチウム二次電池に係る正極合剤に含有される正極活物質の含有量は、70~100質量%、好ましくは90~98質量%が望ましい。
【0062】
本発明のリチウム二次電池に係る正極集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限されるものでないが、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、アルミニウムやステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの等が挙げられる。これらの材料の表面を酸化して用いてもよく、表面処理により集電体表面に凹凸を付けて用いてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、フォイル、フィルム、シート、ネット、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。集電体の厚さは特に制限されないが、1~500μmとすることが好ましい。
【0063】
本発明のリチウム二次電池に係る導電剤としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導材料であれば特に限定はない。例えば、天然黒鉛及び人工黒鉛等の黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類、炭素繊維や金属繊維等の導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウム、ニッケル粉等の金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類、酸化チタン等の導電性金属酸化物、或いはポリフェニレン誘導体等の導電性材料が挙げられ、天然黒鉛としては、例えば、鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛及び土状黒鉛等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。導電剤の配合比率は、正極合剤中、1~50質量%、好ましくは2~30質量%である。
【0064】
本発明のリチウム二次電池に係る結着剤としては、例えば、デンプン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ジアセチルセルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフロオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム、フッ素ゴム、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン-ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン-メタクリル酸共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体またはその(Na+)イオン架橋体、ポリエチレンオキシドなどの多糖類、熱可塑性樹脂、ゴム弾性を有するポリマー等が挙げられ、これらは1種または2種以上組み合わせて用いることができる。なお、多糖類のようにリチウムと反応するような官能基を含む化合物を用いるときは、例えば、イソシアネート基のような化合物を添加してその官能基を失活させることが好ましい。結着剤の配合比率は、正極合剤中、1~50質量%、好ましくは5~15質量%である。
【0065】
本発明のリチウム二次電池に係るフィラーは、正極合剤において正極の体積膨張等を抑制するものであり、必要により添加される。フィラーとしては、構成された電池において化学変化を起こさない繊維状材料であれば何でも用いることができるが、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、ガラス、炭素等の繊維が用いられる。フィラーの添加量は特に限定されないが、正極合剤中、0~30質量%が好ましい。
【0066】
本発明のリチウム二次電池に係る負極は、負極集電体上に負極材料を塗布乾燥等して形成される。本発明のリチウム二次電池に係る負極集電体としては、構成された電池において化学変化を起こさない電子伝導体であれば特に制限されるものでないが、例えば、ステンレス鋼、ニッケル、銅、チタン、アルミニウム、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタン、銀を表面処理させたもの及びアルミニウム-カドミウム合金等が挙げられる。また、これらの材料の表面を酸化して用いてもよく、表面処理により集電体表面に凹凸を付けて用いてもよい。また、集電体の形態としては、例えば、フォイル、フィルム、シート、ネット、パンチングされたもの、ラス体、多孔質体、発砲体、繊維群、不織布の成形体などが挙げられる。集電体の厚さは特に制限されないが、1~500μmとすることが好ましい。
【0067】
本発明のリチウム二次電池に係る負極材料としては、特に制限されるものではないが、例えば、炭素質材料、金属複合酸化物、リチウム金属、リチウム合金、ケイ素系合金、錫系合金、金属酸化物、導電性高分子、カルコゲン化合物、Li-Co-Ni系材料、LiTi12、ニオブ酸リチウム、酸化ケイ素(SiOx:0.5≦x≦1.6)等が挙げられる。炭素質材料としては、例えば、難黒鉛化炭素材料、黒鉛系炭素材料等が挙げられる。金属複合酸化物としては、例えば、Sn(M11-p(M2qr(式中、M1はMn、Fe、Pb及びGeから選ばれる1種以上の元素を示し、M2はAl、B、P、Si、周期律表第1族、第2族、第3族及びハロゲン元素から選ばれる1種以上の元素を示し、0<p≦1、1≦q≦3、1≦r≦8を示す。)、LiFe23(0≦t≦1)、LiWO2(0≦t≦1)等の化合物が挙げられる。金属酸化物としては、GeO、GeO2、SnO、SnO2、PbO、PbO2、Pb23、Pb34、Sb23、Sb24、Sb25、Bi23、Bi24、Bi25等が挙げられる。導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等が挙げられる。
【0068】
本発明のリチウム二次電池に係るセパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度を持った絶縁性の薄膜が用いられる。耐有機溶剤性と疎水性からポリプロピレンなどのオレフィン系ポリマーあるいはガラス繊維あるいはポリエチレンなどからつくられたシートや不織布が用いられる。セパレータの孔径としては、一般的に電池用として有用な範囲であればよく、例えば、0.01~10μmである。セパレータの厚みとしては、一般的な電池用の範囲であればよく、例えば5~300μmである。なお、後述する電解質としてポリマーなどの固体電解質が用いられる場合には、固体電解質がセパレータを兼ねるようなものであってもよい。
【0069】
本発明のリチウム二次電池に係るリチウム塩を含有する非水電解質は、非水電解質とリチウム塩とからなるものである。本発明のリチウム二次電池に係る非水電解質としては、非水電解液、有機固体電解質、無機固体電解質が用いられる。非水電解液としては、例えば、N-メチル-2-ピロリジノン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロキシフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、ニトロメタン、蟻酸メチル、酢酸メチル、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、ジエチルエーテル、1,3-プロパンサルトン、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル等の非プロトン性有機溶媒の1種または2種以上を混合した溶媒が挙げられる。
【0070】
本発明のリチウム二次電池に係る有機固体電解質としては、例えば、ポリエチレン誘導体、ポリエチレンオキサイド誘導体又はこれを含むポリマー、ポリプロピレンオキサイド誘導体又はこれを含むポリマー、リン酸エステルポリマー、ポリホスファゼン、ポリアジリジン、ポリエチレンスルフィド、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のイオン性解離基を含むポリマー、イオン性解離基を含むポリマーと上記非水電解液の混合物等が挙げられる。
【0071】
本発明のリチウム二次電池に係る無機固体電解質としては、Liの窒化物、ハロゲン化物、酸素酸塩、硫化物等を用いることができ、例えば、Li3N、LiI、Li5NI2、Li3N-LiI-LiOH、LiSiO4、LiSiO4-LiI-LiOH、Li2SiS3、Li4SiO4、Li4SiO4-LiI-LiOH、P25、Li2S又はLi2S-P25、Li2S-SiS2、Li2S-GeS2、Li2S-Ga23、Li2S-B23、Li2S-P25-X、Li2S-SiS2-X、Li2S-GeS2-X、Li2S-Ga23-X、Li2S-B23-X、(式中、XはLiI、B23、又はAl23から選ばれる少なくとも1種以上)等が挙げられる。
【0072】
更に、無機固体電解質が非晶質(ガラス)の場合は、リン酸リチウム(Li3PO4)、酸化リチウム(Li2O)、硫酸リチウム(Li2SO4)、酸化リン(P25)、硼酸リチウム(Li3BO3)等の酸素を含む化合物、Li3PO4-u2u/3(uは0<u<4)、Li4SiO4-u2u/3(uは0<u<4)、Li4GeO4-u2u/3(uは0<u<4)、Li3BO3-u2u/3(uは0<u<3)等の窒素を含む化合物を無機固体電解質に含有させることができる。この酸素を含む化合物又は窒素を含む化合物の添加により、形成される非晶質骨格の隙間を広げ、リチウムイオンが移動する妨げを軽減し、更にイオン伝導性を向上させることができる。
【0073】
本発明のリチウム二次電池に係るリチウム塩としては、上記非水電解質に溶解するものが用いられ、例えば、LiCl、LiBr、LiI、LiClO4、LiBF4、LiB10Cl10、LiPF6、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB10Cl10、LiAlCl4、CH3SO3Li、CF3SO3Li、(CF3SO22NLi、クロロボランリチウム、低級脂肪族カルボン酸リチウム、四フェニルホウ酸リチウム、イミド類等の1種または2種以上を混合した塩が挙げられる。
【0074】
また、非水電解質には、放電、充電特性、難燃性を改良する目的で、以下に示す化合物を添加することができる。例えば、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グライム、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノンとN,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ポリエチレングルコール、ピロール、2-メトキシエタノール、三塩化アルミニウム、導電性ポリマー電極活物質のモノマー、トリエチレンホスホンアミド、トリアルキルホスフィン、モルフォリン、カルボニル基を持つアリール化合物、ヘキサメチルホスホリックトリアミドと4-アルキルモルフォリン、二環性の三級アミン、オイル、ホスホニウム塩及び三級スルホニウム塩、ホスファゼン、炭酸エステル等が挙げられる。また、電解液を不燃性にするために含ハロゲン溶媒、例えば、四塩化炭素、三弗化エチレンを電解液に含ませることができる。また、高温保存に適性を持たせるために電解液に炭酸ガスを含ませることができる。
【0075】
本発明のリチウム二次電池は、体積当たりの容量が高く、安全性、サイクル特性及び作動電圧にも優れたリチウム二次電池であり、電池の形状はボタン、シート、シリンダー、角、コイン型等いずれの形状であってもよい。
【0076】
本発明のリチウム二次電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ノートパソコン、ラップトップパソコン、ポケットワープロ、携帯電話、コードレス子機、ポータブルCDプレーヤー、ラジオ、液晶テレビ、バックアップ電源、電気シェーバー、メモリーカード、ビデオムービー等の電子機器、自動車、電動車両、ゲーム機器、電動工具等の民生用電子機器が挙げられる。
【実施例
【0077】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例の平均粒子径はレーザ回折・散乱法で求めた。
【0078】
<リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(LNMC)試料の調製>
<LNMC試料1>
炭酸リチウム(平均粒子径5.7μm)及びニッケルマンガンコバルト複合水酸化物(Ni:Mn:Co=8:1:1(モル比)、平均粒子径11.3μm)とを秤量し、家庭用ミキサーで十分混合処理し、Li/(Ni+Mn+Co)のモル比が1.03の原料混合物を得た。なお、ニッケルマンガンコバルト複合水酸化物は市販のものを用いた。
次いで、得られた原料混合物を、アルミナ製の鉢で800℃で7時間酸素気流下で焼成した。焼成終了後、該焼成品を粉砕、分級した。得られた焼成品をXRDで測定した結果単相のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物であることを確認した。また、得られたものは、平均粒子径が11.3μmで、二次凝集した球状のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(LiNi0.8Mn0.10.1)であった。
【0079】
<LNMC試料2>
炭酸リチウム(平均粒子径5.7μm)、ニッケルマンガンコバルト複合水酸化物(Ni:Mn:Co=5:3:2(モル比)、平均粒子径4.0μm)とを秤量し、家庭用ミキサーで十分混合処理し、Li/(Ni+Mn+Co)のモル比が1.10の原料混合物を得た。なお、ニッケルマンガンコバルト複合水酸化物は市販のものを用いた。
次いで、得られた原料混合物を、アルミナ製の鉢で1000℃で10時間大気中で焼成した。焼成終了後、該焼成品を粉砕、分級した。得られた焼成品をXRDで測定した結果単相のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物であることを確認した。また、得られたものは、平均粒子径が9.8μmで、単粒子化した不定形のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)であった。
【0080】
<LNMC試料3>
炭酸リチウム(平均粒子径5.7μm)及びニッケルマンガンコバルト複合水酸化物(Ni:Mn:Co=6:2:2(モル比)、平均粒子径11.2μm)とを秤量し、家庭用ミキサーで十分混合処理し、Li/(Ni+Mn+Co)のモル比が1.03の原料混合物を得た。なお、ニッケルマンガンコバルト複合水酸化物は市販のものを用いた。
次いで、得られた原料混合物を、アルミナ製の鉢で850℃で10時間大気中で焼成した。焼成終了後、該焼成品を粉砕、分級した。得られた焼成品をXRDで測定した結果、単相のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物であることを確認した。また、得られたものは平均粒子径が11.4μmで、二次凝集した球状のリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子(LiNi0.6Mn0.2Co0.2)であった。
【0081】
上記で得られたリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物試料(LNMC試料)の諸物性を表1に示す。なお、平均粒子径はレーザ回折・散乱法により求めた。
【0082】
【表1】
【0083】
<無機フッ化物試料>
無機フッ化物試料として市販の無機フッ化物を粉砕し、下記の表2に示す物性を有する無機フッ化物を用いた。
【0084】
【表2】
【0085】
(実施例1)
表1記載のLNMC試料1を用い、無機フッ化物が表3の第1工程に示す添加量となるように、LNMC試料1及び上記のMgF、AlFを秤量し、家庭用ミキサーで十分混合した。
次いで、混合粉を大気中にて表3の第2工程に示す加熱処理(600℃で5時間)を行い、正極活物質試料を調製した。
【0086】
(実施例2)
表1記載のLNMC試料1を用い、無機フッ化物が表3の第1工程に示す添加量となるように、LNMC試料1及び上記のMgF、AlFを秤量し、家庭用ミキサーで十分混合した。
次いで、混合粉を酸素気流下にて表3の第2工程に示す加熱処理(800℃で7時間)を行い、正極活物質試料を調製した。
【0087】
(実施例3)
表1記載のLNMC試料2を用い、無機フッ化物が表3の第1工程に示す添加量となるように、LNMC試料2及び上記のMgF、AlFを秤量し、さらに水を加えて50質量%スラリーを調製し、スターラーにて十分撹拌混合した。
次いで、排風温度が120℃になるよう調整した噴霧乾燥機で該スラリーを噴霧乾燥処理して乾燥粉を得た。
次いで、乾燥粉を大気中にて表3の第2工程に示す加熱処理(600℃で5時間)を行い、正極活物質試料を調製した。
【0088】
(比較例1~3)
表1記載のLNMC試料1及び2を用い、表3の第2工程に示す加熱処理のみを行い、正極活物質試料とした。つまり、無機フッ化物粒子を混合しなかった。
【0089】
(実施例4)
表1記載のLNMC試料1を用い、無機フッ化物が表3の第1工程に示す添加量となるように、LNMC試料1及び上記のMgF、AlFを秤量し、家庭用ミキサーで十分混合した。
次いで、混合粉を大気中にて表3の第2工程に示す加熱処理(500℃で5時間)をおこない正極活物質試料を調製した。
【0090】
(実施例5)
表1記載のLNMC試料1を用い、実施例1と同様の操作にて、表3に示す第1工程及び第2工程に示す加熱処理(600℃で5時間)を行い、正極活物質試料を調製した。
【0091】
(実施例6)
表1記載のLNMC試料1を用い、実施例1と同様の操作にて、表3に示す第1工程及び第2工程に示す加熱処理(700℃で5時間)を行い、正極活物質試料を調製した。
【0092】
【表3】
1)無機フッ化物の添加量を、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物試料中のNi+Mn+Co原子の総量に対するF原子の量のモル%として表した。
【0093】
以下のようにして、電池性能試験を行った。
<リチウム二次電池の作製>
実施例及び比較例で得られた正極活物質95質量%、黒鉛粉末2.5質量%、ポリフッ化ビニリデン2.5質量%を混合して正極剤とし、これをN-メチル-2-ピロリジノンに分散させて混練ペーストを調製した。該混練ペーストをアルミ箔に塗布したのち乾燥、プレスして直径15mmの円盤に打ち抜いて正極板を得た。
この正極板を用いて、セパレータ、負極、正極、集電板、取り付け金具、外部端子、電解液等の各部材を使用してコイン型リチウム二次電池を製作した。このうち、負極は金属リチウム箔を用い、電解液にはエチレンカーボネートとメチルエチルカーボネートの1:1混合液1リットルにLiPF61モルを溶解したものを使用した。
次いで、得られたリチウム二次電池の性能評価を行った。その結果を、表4に示す。
【0094】
<電池の性能評価>
作製したコイン型リチウム二次電池を室温で下記試験条件で作動させ、下記の電池性能を評価した。
(1)サイクル特性評価の試験条件
先ず、0.5Cにて4.3Vまで2時間かけて充電を行い、更に4.3Vで3時間電圧を保持させる定電流・定電圧充電(CCCV充電)を行った。その後、0.2Cにて2.7Vまで定電流放電(CC放電)させる充放電を行い、これらの操作を1サイクルとして1サイクル毎に放電容量を測定した。このサイクルを20サイクル繰り返した。
(2)初回充電容量、初回放電容量(活物質重量当たり)
サイクル特性評価における1サイクル目の充電容量及び放電容量を初回充電容量、初回放電容量とした。
(3)初回充電容量、初回放電容量(活物質重量当たり)
サイクル特性評価における20サイクル目の放電容量を20サイクル目放電容量とした。
(4)容量維持率
サイクル特性評価における1サイクル目と20サイクル目のそれぞれの放電容量(活物質重量当たり)から、下記式により容量維持率を算出した。
容量維持率(%)=(20サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100
(5)2サイクル目平均作動電圧、20サイクル目平均作動電圧
サイクル特性評価における2サイクル目及び20サイクル目の放電時の平均作動電圧を2サイクル目平均作動電圧、20サイクル目平均作動電圧とした。
(6)平均作動電圧低下量
サイクル特性評価における2サイクル目と20サイクル目のそれぞれの放電時の平均作動電圧から、下記式により平均作動電圧低下量(ΔV)を算出した。
平均作動電圧低下量(ΔV)=2サイクル目の平均作動電圧-20サイクル目の平均作動電圧
(7)エネルギー密度維持率
サイクル特性評価における1サイクル目と20サイクル目のそれぞれの放電時のWh容量(活物質重量当たり)から、下記式によりエネルギー密度維持率を算出した。
エネルギー密度維持率(%)=(20サイクル目の放電Wh容量/1サイクル目の放電Wh容量)×100
【0095】
【表4】