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特許7254539ポリエチレンフィルムおよびこれにより形成された製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】ポリエチレンフィルムおよびこれにより形成された製品
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20230403BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20230403BHJP
   B01J 20/24 20060101ALI20230403BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
A61L9/01 H
B01J20/24 A
B32B27/18 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019015207
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020122089
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000102544
【氏名又は名称】エステー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥平 壮臨
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-000428(JP,A)
【文献】特開2015-160154(JP,A)
【文献】特開2005-200557(JP,A)
【文献】特開2018-117598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;
C08J 5/12-5/22
A61L 9/00-9/22
B01J 20/24
B32B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンフィルムに、樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去して得られる繊維質成分を保持させた消臭用ポリエチレンフィルムであって、
繊維質成分の平均粒径が1~15μmであり、
厚さが15~100μmである、
ことを特徴とする消臭用ポリエチレンフィルム。
【請求項2】
樹木がヒノキ科ヒノキ属、ヒノキ科スギ属、マツ科モミ属、フトモモ科ユーカリ属、コウヤマキ科コウヤマキ属、ヒノキ科アスナロ属の1種または2種以上である請求項1記載の消臭用ポリエチレンフィルム。
【請求項3】
減圧度が、10~95kPaである請求項1または2記載の消臭用ポリエチレンフィルム。
【請求項4】
蒸気温度が、40℃~100℃である請求項1~3の何れかに記載の消臭用ポリエチレンフィルム。
【請求項5】
繊維質成分を含有しないフィルムと積層したものである請求項1~の何れかに記載の消臭用ポリエチレンフィルム。
【請求項6】
繊維質成分の保持量が0.1~10質量%ある請求項1~の何れかに記載の消臭用ポリエチレンフィルム。
【請求項7】
請求項1~の何れかに記載の消臭用ポリエチレンフィルムにより形成されたことを特徴とする消臭用製品。
【請求項8】
袋、衣類カバー、カーテン、壁紙、カーペット、フロアマット、枕、ごみ容器またはおむつ容器である請求項記載の消臭用製品。
【請求項9】
袋が、食品包装用袋、ごみ袋、菓子袋、レジ袋、布団圧縮袋または衣類圧縮袋である請求項記載の消臭用製品。
【請求項10】
請求項1~の何れかに記載の消臭用ポリエチレンフィルムに、悪臭を接触させることを特徴とする悪臭の消臭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンフィルムおよびこれにより形成された製品に関する。
【背景技術】
【0002】
消臭機能を持たせたフィルムは、食品包装用袋、ゴミ袋、おむつ袋等の素材として従来から知られている。その多くは、悪臭成分との中和などによる化学的吸着反応により消臭効果を発揮する薬剤や、悪臭成分を物理吸着して消臭効果を発揮する吸着剤をフィルムに含有させたものである。
【0003】
例えば、特許文献1には、茶を乾留して得られる沸点範囲が20mmHgの場合で180~200℃にある乾留分を有効成分とする消臭剤を密度0.920~0.930g/c.c.の高圧法ポリエチレンに混合して、エキストリユージヨン法により形成される消臭フイルムが開示されている。
【0004】
しかし、この特許文献1の消臭フィルムは、有効成分である茶の乾留物が揮発成分であるため消臭効果が持続しないという問題点を有していた。
【0005】
また、特許文献2には、多孔質無機物質と、アミン化合物と、金属酸化物とを含有する消臭剤をバインダー樹脂を介してフィルム表面の少なくとも一部に付着していることを特徴とする消臭フィルムが開示されている。
【0006】
しかし、この特許文献2の消臭フィルムにおいては、フィルム表面にバインダーとともに消臭剤を付着させているため、表面のこすれ等により消臭剤が脱落した場合には消臭効果を発揮できないという問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】実開平1-126224号公報
【文献】特開2013-22322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は上記した従来の消臭等の機能性を付与したフィルムの問題点を解決し、消臭等の効果の持続性に優れたフィルムおよびそれにより形成された製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、ポリエチレンフィルムに、樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去して得られる繊維質成分を保持させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、ポリエチレンフィルムに、樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去して得られる繊維質成分を保持させたことを特徴とするポリエチレンフィルムである。
【0011】
また、本発明は、上記ポリエチレンフィルムにより形成されたことを特徴とする製品である。
【0012】
更に、本発明は、上記ポリエチレンフィルムに、悪臭を接触させることを特徴とする悪臭の消臭方法である。
【0013】
また更に、本発明は、上記ポリエチレンフィルムに、窒素酸化物を接触させることを特徴とする窒素酸化物の除去方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリエチレンフィルムは、酸性、アルカリ性、中性の悪臭物質に対し優れた消臭効果を有し、その持続性に優れたものである。また、本発明のポリエチレンフィルムは、窒素酸化物の除去効果(酸化防止効果)も有し、その持続性に優れたものである。更に、本発明のポリエチレンフィルムは、繊維質成分由来の芳香を有し、その持続性に優れたものである。
【0015】
本発明のポリエチレンフィルムは、従来のポリエチレンフィルムと同様に加工も行えることから、例えば、袋、衣類カバー、カーテン、壁紙、カーペット、フロアマット、枕、ごみ容器、おむつ容器等の種々の製品の製造も容易である。
【0016】
また、最近ではゴミの分別化が進んだことから、自治体等のゴミ焼却施設でゴミが燃えにくいという事例がある。本発明のポリエチレンフィルムに含有される繊維質成分は固形燃料としても優れた効果を持っているため、消臭効果、窒素酸化物の除去効果のみならず、燃焼促進剤としての機能も有している。つまり、本発明のフィルムおよび製品は、火力の弱い自治体のごみ焼却炉であっても、焼却性能が落ちることなく焼却できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のポリエチレンフィルム(以下、単に「本発明フィルム」という)は、ポリエチレンフィルムに、樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去して得られる繊維質成分を保持させたものである。
【0018】
本発明フィルムを構成するポリエチレンフィルムの原料となるポリエチレンは特に限定されず、高密度ポリエチレン (HDPE) 、低密度ポリエチレン (LDPE)、超低密度ポリエチレン (VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン (LLDPE)、超高分子量ポリエチレン (UHMW-PE)の何れも用いることができる。また、ポリエチレンを部分構造として持つコポリマー、例えば、酢酸ビニルとポリエチレンとの共重合体であるエチレン酢酸ビニルコポリマー等も上記ポリエチレンと同様に用いることができる。
【0019】
本発明フィルムを構成する繊維質成分を得るために用いられる樹木は、特に限定されないが、例えば、ヒノキ科ヒノキ属、ヒノキ科クロベ属、ヒノキ科ビャクシン属、ヒノキ科スギ属、マツ科モミ属、マツ科ヒマラヤスギ属、マツ科トウヒ属、マツ科マツ属、マツ科カラマツ属、マツ科ツガ属、フトモモ科ユーカリ属、コウヤマキ科コウヤマキ属、イチイ科カヤ属、ヒノキ科アスナロ属等が挙げられる。
【0020】
ヒノキ科ヒノキ属の樹木としては、ヒノキ、タイワンヒノキ、ベイヒバ、ローソンヒノキ、チャボヒバ、サワラ、クジャクヒバ、オウゴンチャボヒバ、スイリュウヒバ、イトヒバ、オウゴンヒヨクヒバ、シノブヒバ、オウゴンシノブヒバ、ヒムロスギ等が挙げられる。ヒノキ科クロベ属の樹木としては、ニオイヒバ、ネズコ等が挙げられる。ヒノキ科ビャクシン属の樹木としては、ハイビャクシン、ネズミサン、エンピツビャクシン、オキナワハイネズ等が挙げられる。ヒノキ科スギ属の樹木としては、スギ、アシウスギ、エンコウスギ、ヨレスギ、オウゴンスギ、セッカスギ、ミドリスギ等が挙げられる。
【0021】
マツ科モミ属の樹木としては、トドマツ、モミ、ウラジロモミ、シラビソ、オオシラビソ、シラベ、バルサムファー、ミツミネモミ、ホワイトファー、アマビリスファー、アオトドマツ、カリフォルニアレッドファー、グランドファー、ノーブルファー等が挙げられる。マツ科トウヒ属の樹木としては、アカエゾマツ、トウヒ等が挙げられる。マツ科マツ属の樹木としては、アカマツ、ダイオウショウ、ストローブマツ、ハイマツ等が挙げられる。マツ科カラマツ属の樹木としては、カラマツ等が挙げられる。マツ科ツガ属の樹木としては、ツガ等が挙げられる。
【0022】
フトモモ科ユーカリ属の樹木としては、ユーカリ、ギンマルバユーカリ、カマルドレンシス、レモンユーカリ等が挙げられる。
【0023】
コウヤマキ科コウヤマキ属の樹木としては、コウヤマキ等が挙げられる。
【0024】
イチイ科カヤ属の樹木としては、カヤ等が挙げられる。
【0025】
ヒノキ科アスナロ属の樹木としては、ヒバ、アスナロ、ヒノキアスナロ、ホソバアスナロ等が挙げられる。
【0026】
上記した樹木の中でも、ヒノキ科ヒノキ属、ヒノキ科スギ属、マツ科モミ属、フトモモ科ユーカリ属、コウヤマキ科コウヤマキ属、ヒノキ科アスナロ属が好ましく、日本に多く分布しており、入手が容易であることから、ヒノキ科ヒノキ属のヒノキ、タイワンヒノキ、ベイヒバ、ヒノキ科スギ属のスギ、マツ科モミ属のトドマツ、モミ、フトモモ科ユーカリ属のユーカリ、コウヤマキ科コウヤマキ属のコウヤマキ、ヒノキ科アスナロ属のヒバがより好ましい。これらの樹木は複数種を組み合わせても良い。
【0027】
上記樹木の木質部および/または葉、好ましくは木質部および葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去する方法を減圧乾燥法という。この減圧乾燥法は、マイクロ波が水分子を直接加熱する性質を利用して、素材中に元から含まれている水分や精油の除去を行う方法である。
【0028】
この減圧乾燥法は、例えば、国際公開WO2010/098440号パンフレット等に記載のマイクロ波蒸留装置などを用いて実施できる。この減圧乾燥法においては、蒸留槽内の圧力を、10~95kPa、好ましくは20~80kPa、特に好ましくは30~60kPaとすれば良い。この際の蒸気温度は40~100℃になる。なお、生成する蒸留成分のうち、油性成分は精油として他の用途、例えば、窒素酸化物除去剤や芳香剤等の用途に用いることができる。
【0029】
減圧乾燥法で樹木の木質部および/または葉を、減圧下でマイクロ波により加熱して、精油および水分の少なくとも一部を除去した後は、常圧で水分を除去するための乾燥工程を行うことが好ましい。乾燥温度や乾燥時間は特に限定されないが、例えば、50~80℃で1~5時間程度行えばよい。残存する精油成分は0.01~10質量%、好ましくは0.1~5質量%である。また、残存する水分は1質量%以下である。
【0030】
このようにして得られる繊維質成分は、固形であり、優れた消臭効果や窒素酸化物の除去効果を示す。繊維質成分が消臭効果や窒素酸化物の除去効果を示す理由については不明な部分も多いが、現時点では、セルロースがリグニン、精油で固着されているという木質の構造から見て、精油の一部が取り除かれた後のリグニン構造あるいはセルロース構造中に悪臭や窒素酸化物を吸着しうる部位が生じたものと推定される。
【0031】
また、この繊維質成分は、水分はほぼ除去されるが、精油成分は完全に除去されたものではなく、樹木の木質部および/または葉に含まれる、精油成分の一部が除去されたものであり、一部の精油成分は繊維質成分中に残留された状態である。
【0032】
そして繊維成分中に残留する精油は、好ましくは揮発性が低いおよび/または不揮発性である。揮発性が低いほど、より長い期間にわたって精油の機能(例えば、消臭機能および/または芳香機能)が発揮されるからである。また、精油成分は比較的分子量の大きい成分を含むことが好ましい。分子量が大きいほど、揮発しにくいからである。樹木の木質部等から精油を抽出すると、より分子量が小さい、および/または揮発しやすい精油が優先的に抽出されるため、当該材料には揮発性の低い、および/または分子量のより大きい精油が残る傾向がある。当該材料に残る精油成分はモノテルペンの含有量が少なく、セスキテルペン、ジテルペンまたはテトラテルペンをより多く含むことが好ましい。セスキテルペン、ジテルペンなどの分子量が大きいテルペン類の割合が大きいと、長期間にわたって消臭効果および/または芳香効果を発揮するとともに、酸性、アルカリ性、中性の悪臭物質に起因する様々な悪臭に対する消臭効果や窒素酸化物の除去効果を発揮することが可能となる。なお、上記悪臭物質としては、例えば、アンモニア、メチルメルカプタン、硫化水素、硫化メチル、二硫化メチル、トリメチルアミン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ノルマルブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、ノルマルバレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、イソブタノール、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン、トルエン、スチレン、キシレン、プロピオン酸、ノルマル酪酸、ノルマル吉草酸、イソ吉草酸等が挙げられる。また、窒素酸化物としては、例えば、二酸化窒素等が挙げられる。
【0033】
更に、この繊維質成分は、植物である樹木から得られた自然物であるため、人体への危険性もないものである。また、非揮散性であるため、長期間に渡り消臭効果を持続できる。したがって人の生活空間に広範囲に用いることができる。
【0034】
なお、この繊維質成分は、更に精密粉砕にかけ、平均粒径を1~15μmとすることが好ましい。平均粒径が、1μm以下だと成型の際に凝集してしまい成形しにくくなることがあり、15μmより大きいとフィルム強度が弱くなるとともに、消臭効果も劣ることがある。より好ましい平均粒径は5~10μmである。また、繊維質成分の最大粒径が大きすぎる場合にはフィルム形成がしにくくなったり、フィルムのピンフォールの原因となることがあるので、最大粒径は100μm未満であることが好ましい。なお、平均粒径や最大粒径は精密粒度分布測定装置等で測定することができる。
【0035】
精密粉砕の方法は、特に限定されず、従来公知の精密粉砕機を用いるだけでよい。精密粉砕機としては、例えば、ターボミル、ジェットミル、ビーズミル、ブレードミル、モーターグラインダー、ローターミル、カッティングミル、ディスクミル、振動ミル等が挙げられる。
【0036】
ポリエチレンフィルムに、繊維質成分を保持させる方法は特に限定されず、例えば、繊維質成分のポリエチレンへの練り込み、ポリエチレンフィルムへの繊維質成分の印刷による塗布、ポリエチレンフィルムへの繊維質成分のスプレー吹付による塗布、ポリエチレンフィルムへの繊維質成分の表面融解(加熱や溶剤)による固着等が挙げられる。これらの方法の中でも、使用するプラスチック原料の量を減らすことができ、環境負担を低減でき、消臭効果や窒素酸化物の除去効果が高く、しかも、それを長期間維持できるためポリエチレンへの練り込みが好ましい。また、ポリエチレンフィルムに保持させる繊維質成分の量は特に限定されないが、0.01~15質量%、好ましくは0.1~10質量%である。
【0037】
具体的に、繊維質成分をポリエチレンへ練り込む場合には、繊維質成分を含有させたマスターバッチペレットを作製し、これをポリエチレンペレットとリボンブレンダー等で混合し、インフレーション法、Tダイ法、溶液流延法、カレンダー法、延伸、共押出法、ラミネート法、ヒートシール法等の成膜方法でフィルムを形成すればよい。
【0038】
マスターバッチペレットは、ポリエチレンペレット中に10質量%程度混入して使用されるため、マスターバッチペレットに含有される繊維質成分の含有量は、1~30質量%とすることが好ましい。マスターバッチペレットを用いることにより、繊維質成分をポリエチレン中により均一に練り込むことができるので、繊維質成分の含有量を高める場合や均一に分散させる場合に有利である。
【0039】
具体的に、ポリエチレンフィルムへの繊維質成分の印刷による塗布は、スクリーンにレジストでパターンを形成し、繊維質成分を分散した溶液をスクリーンの開口部から押し出すスクリーン印刷や、版の凹部に繊維質成分を分散した溶液をつめ、パターンを形成する、グラビア印刷などの方法により行うことができる。
【0040】
具体的に、ポリエチレンフィルムへの繊維質成分のスプレー吹付による塗布は、塗液を霧化するエアー式スプレーガンなどを用い、スプレーコータして行うことができる。
【0041】
具体的に、ポリエチレンフィルムへの繊維質成分の表面融解(加熱や溶剤)による固着は、ポリエチレンフィルムの表面をホットガンで強熱して軟化させ、サンドブラスターを用いて繊維質成分を吹き付けるようにして行うことができる。
【0042】
斯くして得られる本発明フィルムは、茶色と金色を混ぜたような色に着色されているとともに、繊維質成分由来の芳香を有し、悪臭を消臭したり、窒素酸化物を除去することができる。
【0043】
なお、本発明フィルムの厚さは特に限定されないが、1~1000μmが好ましく、10~200μmにすることが好ましい。厚さが1μm以下では繊維質成分によるフィルム貫通が起こることがあり、1000μm以上では樹脂層が厚くなり、悪臭を消臭したり、窒素酸化物を除去する等の効果が低下することがある。
【0044】
また、本発明フィルムにはフィルム性能を損なわない範囲で、他の機能性成分、例えば、シリカゲル、ゼオライト、活性炭、粘土鉱物、光触媒(二酸化チタン)や、後記する樹脂(ポリエチレンを除く)等を配合することもできる。これらを配合する場合、従来公知の方法に従えばよい。
【0045】
更に、本発明フィルムは、繊維質成分を含有しないフィルムと積層して、多層フィルムとすることもできる。積層するフィルムは特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アルキド樹脂、ポリ酢酸ビニル、酢酸ビニルナイロン、ポリエステル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリメチルペンテン、ポリメタクリロ酸メチル、ポリビニルブチラール、アイオノマー、ポリウレタンおよびセルロール誘導体等の合成樹脂等の単体フィルム、ラミネートフィルム、アルミ真空蒸着フィルムの他、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)といった汎用エンプラを始め、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、変性ポリフェニレンエーテル(m-PPE)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、耐熱ポリアミド(ナイロン6T、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン9T、ナイロン46T)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、熱硬化系樹脂等の耐熱性の樹脂の単体フィルム、ラミネートフィルム、アルミ真空蒸着フィルム等が挙げられる。これは1種または2種以上を組み合わせてもよい。
【0046】
本発明フィルムの特に好ましい態様としては、繊維質成分を含有するマスターバッチペレットを用い、インフレーション成膜され、繊維質成分がポリエチレンフィルム中に含有されている以下のものが挙げられる。
ポリエチレンフィルムの厚さ 15~100μm
繊維質成分の平均粒径 5~10μm
繊維質成分の最大粒径 100μm未満
繊維質成分の含有量 0.1~0.5質量%
【0047】
本発明フィルムは、そのまま悪臭と接触させるだけで消臭に使用できることや、二酸化窒素と接触させるだけで窒素酸化物の除去に使用できることは勿論であるが、ポリエチレンフィルムであることから様々な製品の形態に加工することができる。このような製品としては、例えば、食品包装用袋、ごみ袋、菓子袋、レジ袋、布団圧縮袋、衣類圧縮袋等の袋、衣類カバー、カーテン、壁紙、カーペット、フロアマット、枕、ごみ容器、おむつ容器等が挙げられる。また、これらの製品は消臭用や窒素酸化物の除去用(酸化防止用)に特に好ましい。
【実施例
【0048】
以下、本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
実 施 例 1
ポリエチレンフィルムおよび袋の製造:
(1)繊維質成分の製造
葉のついた状態のトドマツの枝90kgを、圧砕式粉砕機(KYB製作所製)を用い、その大きさが10~20mm程度になるまで粉砕した後、マイクロ波蒸留装置(国際公開WO2010/098440号パンフレットに記載のもの)の蒸留槽内に入れた。次いで、蒸留槽内の圧力を、約15kPaの減圧に保持し、約1時間マイクロ波照射した。発生した蒸気(油分、水分)は減圧ポンプにおいて吸引し、蒸留槽内から除去し、残渣としてトドマツ処理物を得た。
【0050】
得られたトドマツ処理物を低温乾燥装置(横山エンジニアリング社製)で60℃から70℃で2.5~3時間攪拌乾燥させた。その後回転篩分級装置(16メッシュ、篩の目開き1.0mm)で分級を行い粗粉体を得た。
【0051】
得られた粗粉体を、ジェットミル(超音速ジェット粉砕機:日本ニューマチック工業社製)に投入後、約4時間粉砕処理を行い(約81kg)の平均粒径8μm(最大粒径100μm未満)の繊維質成分を得た(残存する精油成分は1.18質量%であった)。なお、平均粒径や最大粒径は精密粒度分布測定装置(ベックマンコールター社Multisizer等)で測定した。
【0052】
(2)マスターバッチペレットの製造
上記(1)で得られた繊維質成分10kgとポリエチレンペレット(ウルトゼックス(登録商標)2022:プライムポリマー社製)90kgをミキサーで撹拌し、押出成形機に投入して押出成形したものを自然冷却した。次いで、これをペレタイザーに差込みペレット状(直径3mm、長さ3mm)にカットし繊維質成分を含有するポリエチレンのマスターバッチペレットを得た。
【0053】
(3)フィルムおよび袋の製造
ポリエチレンペレット(ウルトゼックス(登録商標)2022:プライムポリマー社製)に対し、上記(3)で得られたマスターバッチペレットを表1に記載の割合でリボンブレンダーに投入して混合した。次いでこれをインフレーション成膜機により溶融混練、表1に記載の厚さで成膜し、チューブ状フィルムとしてポリエチレンフィルム(以下、単に「消臭フィルム」という)を得た。またこれらを30cm毎に溶断して袋を得た。なお、消臭フィルムは半透明で茶色と金色を混ぜたような色をしていた。
【0054】
【表1】
【0055】
試 験 例 1
袋の消臭性能試験:
直径100mmのろ紙を四つ折りにし、250ppmのアンモニア水溶液3.0mlを吸収させた。このろ紙を本発明品1~4のフィルムで形成された袋内に入れ、開口部をヒートシールした。この袋を、10リットルのテドラーバック内に入れ、一定時間ごと検知管によりアンモニア濃度を測定した。
【0056】
なお、比較品2として、市販のごみ袋(ポリエチレン製)、比較品3として市販の防臭袋(BOS:クリロン化成社製)を用いた。また、ブランクとしてアンモニア水溶液3.0mlを含侵させたものをテドラーバックに入れたものを用いた。結果を表2に示す。
【0057】
【表2】
【0058】
以上の結果より、本発明品1~4のフィルムで形成された袋は比較品1~3の袋に比べ、長期間、袋の中に入れたアンモニアの消臭ができるものであった。特に本発明品3、4のフィルムで形成された袋は優れた消臭効果を示した。
【0059】
また、本発明品1~4のフィルムで形成された袋については、袋の外部にアンモニアの不快な臭いが漏れているかどうか、官能試験を行った。その結果、袋の外部にアンモニアの不快な臭いはなく、ほのかな木の香りを発し官能的にも好ましいものであった。
【0060】
実 施 例 2
衣類カバ-:
実施例1で得た本発明品3のフィルム(厚さ35μm)を用い、洋服カバー形状に溶断して本発明の洋服カバーを製造した。この衣類カバ-を焼肉に行った後のスーツにかけて保管したところ約1か月間消臭し、周囲の空間に焼肉ににおいを漂わせなかった。また、保管後も衣類の黄ばみもなく、窒素酸化物による酸化が防止されていた。さらに、このカバーはほのかな木の香りの芳香を継続して発した。
【0061】
実 施 例 3
カーテン:
実施例1で得た本発明品1のフィルム(厚さ50μm)を難燃性ポリエチレンフィルム(厚さ100μm)にラミネートしてカーテンを製造した。このカーテンを約6畳の部屋に使用したところ、約6か月間、部屋全体を消臭するとともに、ほのかな木の香りの芳香を継続して発した。
【0062】
実 施 例 4
壁紙:
実施例1で得た本発明品1のフィルム(厚さ50μm)を塩化ビニルフィルム(厚さ50μm)にラミネートして壁紙を製造した。この壁紙を約6畳の部屋の壁全体に使用したところ、約6か月間、部屋全体を消臭するとともに、ほのかな木の香りの芳香を継続して発した。
【0063】
実 施 例 5
カーペット・フロアマット:
実施例1で得た本発明品1のフィルム(厚さ50μm)をパイル地の基布に挟み込んでしてカーペット・フロアマットを製造した。このカーペット・フロアマットを約6畳の部屋の床全体に使用したところ、約6か月間、部屋全体を消臭するとともに、ほのかな木の香りの芳香を継続して発した。
【0064】
実 施 例 6
枕:
実施例1で得た本発明品1のフィルム(厚さ50μm)にしわ加工を施し、数mm程度で不揃いに細断してフレークを製造した。このフレークを中綿としてカバーに詰めて枕を製造した。この枕を就寝時に使用したところ、約3か月間、皮脂臭や加齢臭を消臭するとともに、ほのかな木の香りの芳香を継続して発したためリラックスして眠ることができた。
【0065】
実 施 例 7
布団・衣類の圧縮袋:
実施例1で得た本発明品1のフィルム(厚さ50μm)をナイロンフィルム(厚さ5μm)にラミネートして、内容物に接する面を本発明品1とした布団・衣類の圧縮袋を製造した。これを用いて布団・衣類を圧縮収納した。約6か月後にこれを開封した際、内容物の皮脂臭などが消臭されているとともに、ほのかな木の香りの芳香を発しており天日に干さなくても快適に使用することができた。
【0066】
実 施 例 8
特養施設での使用:
実施例1で得た本発明品3のフィルム(厚さ35μm)で形成された袋を、汚物の処理用の袋として使用したところ、汚物処理室(汚物を袋に入れた後、回収まで置いておくところ)の臭いを、使用者全員(11名)が改善されたと判断した。また、これまで汚物は、臭いの防止および中身が見えないように二枚重ねのごみ袋で対応していたところ、本発明品の袋では、消臭能力が高いことと、半透明であることから1枚で対応が可能であり、コストの削減もできた。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のポリエチレンフィルムは、例えば、袋、衣類カバー、カーテン、壁紙、カーペット、フロアマット、枕、ごみ容器、おむつ容器等の種々の製品に利用することができる。