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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】浴用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/44 20060101AFI20230403BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 8/25 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 8/19 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 8/362 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
A61K8/44
A61Q19/10
A61K8/25
A61K8/19
A61K8/362
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019027801
(22)【出願日】2019-02-19
(65)【公開番号】P2020132565
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 亜弥
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-241405(JP,A)
【文献】特開昭61-243014(JP,A)
【文献】特開2016-169190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)~(D):
(A)多孔性無水ケイ酸 1.5質量%以上10質量%以下
(B)炭酸塩
(C)有機酸
(D)アミノ酸系界面活性剤
を含有し、
成分(A)に対する成分(D)の質量比[(D)/(A)]が0.015以上1以下であり、
成分(D)がN-アシルアミノ酸又はその塩であり、N-アシルアミノ酸又はその塩におけるアミノ酸由来の構造を形成するアミノ酸がグルタミン酸であり、N-アシルアミノ酸又はその塩におけるアシル基がラウロイル基及びミリストイル基からなる群から選ばれる1種以上である、浴用剤。
【請求項2】
成分(D)がN-アシルアミノ酸塩である、請求項1に記載の浴用剤。
【請求項3】
成分(D)の含有量が0.01質量%以上3質量%以下である、請求項1又は2に記載の浴用剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の浴用剤を包材に封入した、浴用剤製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浴用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸塩と有機酸を配合した浴用剤は、浴水中で炭酸ガスの泡を発生し、発泡感を楽しむことができると共に、炭酸ガスによる血行促進効果が得られることが知られている。
浴用剤の各種性能を向上する目的で、炭酸塩と有機酸を配合した浴用剤に多孔性無水ケイ酸を配合することが報告されている。例えば特許文献1には、微細な泡が発生し発泡性が優れる発泡性浴剤として、炭酸塩と有機酸を含有し、さらに二酸化ケイ素又は/及びケイ酸カルシウムを配合した発泡性浴剤が報告され、二酸化ケイ素として平均粒径が0,1~50μmの多孔性二酸化ケイ素が用いられることが開示されている。特許文献2には、炭酸塩、有機酸、及び多孔性軽質無水ケイ酸を含有する混合物を圧縮成形して得られる発泡性浴用錠剤が、打錠機による圧縮成形が円滑に行われ、保存安定性にも優れることが報告されており、多孔性軽質無水ケイ酸の配合量は、発泡性浴用錠剤の総量を基準として0.1~10質量%であることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭61-243014号公報
【文献】特開2003-95916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、消費者の嗜好性の多様性から、入浴後にさらさらとした肌感触が得られることが重視されるようになってきた。
しかしながら多孔性無水ケイ酸は吸湿性が高いため、炭酸塩及び有機酸を含有し、かつ肌感触向上のために多孔性無水ケイ酸を従来よりも多く配合した浴用剤を包材中に密封して保存すると、多孔性無水ケイ酸が吸収した水分と、炭酸塩及び有機酸との反応により炭酸ガスが発生して包材の膨れなどが生じるおそれがあり、十分な保存安定性が得られなかった。
【0005】
本発明は、多孔性無水ケイ酸、炭酸塩及び有機酸を含有し、入浴後にさらさらとした肌感触が得られると共に、包材中に密封して保存した場合にも包材の膨れが起こり難く保存安定性に優れる浴用剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、所定量の多孔性無水ケイ酸と、炭酸塩及び有機酸を含有し、さらにアミノ酸系界面活性剤を含有する浴用剤が上記課題を解決できることを見出した。
すなわち本発明は、下記に関する。
[1]下記成分(A)~(D):
(A)多孔性無水ケイ酸 1.5質量%以上10質量%以下
(B)炭酸塩
(C)有機酸
(D)アミノ酸系界面活性剤
を含有し、成分(A)に対する成分(D)の質量比[(D)/(A)]が0.01以上1以下である浴用剤。
[2]上記[1]の浴用剤を包材に封入した、浴用剤製品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、入浴後にさらさらとした肌感触が得られると共に、包材中に密封して保存した場合にも包材の膨れが起こり難く保存安定性に優れる浴用剤を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[浴用剤]
本発明の浴用剤は、下記成分(A)~(D):
(A)多孔性無水ケイ酸 1.5質量%以上10質量%以下
(B)炭酸塩
(C)有機酸
(D)アミノ酸系界面活性剤
を含有し、成分(A)に対する成分(D)の質量比[(D)/(A)]が0.01以上1以下である。
本発明の浴用剤は上記構成を有することにより、入浴後にさらさらとした肌感触が得られると共に、包材中に密封して保存した場合にも包材の膨れが起こり難く保存安定性に優れるものとなる。その理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
本発明の浴用剤は、成分(A)である多孔性無水ケイ酸の含有量を所定量以上とすることで入浴後の良好な肌感触を得ることができる。また、多孔性無水ケイ酸の含有量を所定量以下とすることにより浴用剤の吸湿を少なくし、かつ、所定量の成分(D)を含有することにより、成分(A)が吸収した水分と、炭酸塩及び有機酸との反応を抑制し、浴用剤の保存安定性を向上させることができると考えられる。
【0009】
<成分(A):多孔性無水ケイ酸>
本発明の浴用剤は、成分(A)として、多孔性無水ケイ酸を含有する。本発明の浴用剤は成分(A)を含有することで、入浴後の肌感触を良好なものとすることができる。
本発明において多孔性無水ケイ酸とは、二酸化ケイ素(SiO・nHO)を主成分とする多孔性シリカを意味し、第十七改正日本薬局方で規定する軽質無水ケイ酸に相当する多孔性シリカ(以下、適宜「多孔性軽質無水ケイ酸」ともいう)であることが好ましい。
【0010】
成分(A)は、入浴後の肌感触を良好にする観点、及び取り扱い性の観点から、多孔性である。成分(A)の粒子形状は多孔性である限り特に制限はなく、例えば、球状、柱状、板状、鱗片状であるものが挙げられる。また成分(A)は中空粒子、中実粒子のいずれでもよい。
【0011】
成分(A)の平均粒径は、入浴後の肌感触を良好にする観点から、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上、さらに好ましくは2μm以上であり、また、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは10μm以下である。
成分(A)の平均粒径は、例えばレーザ回折式粒度分布測定装置により測定できる。
【0012】
成分(A)として、市販の多孔性無水ケイ酸を用いることもできる。例えば富士シリシア(株)製の「サイロピュア25」、「サイロピュア30」等のサイロピュアシリーズ、「サイリシア320」、「サイリシア350」、「サイリシア550」、「サイリシア730」等のサイリシアシリーズ、AGCエスアイテック(株)製の「サンスフェアH-31」、「サンスフェアH-32」、「サンスフェアH-33」、「サンスフェアH-51」、「サンスフェアH-52」、「サンスフェアH-53」、「サンスフェアH-121」、「サンスフェアH-122」、「サンスフェアH-201」等のサンスフェアHシリーズ、「サンスフェアL-31」、「サンスフェアL-51」等のサンスフェアLシリーズ及び「サンスフェアH-51-ET」、「サンスフェアH-121-ET」等のサンスフェアETシリーズ、鈴木油脂(株)製の「ゴッドボールE-2C」、「ゴッドボールE-6C」、「ゴッドボールE-16C」、「ゴッドボールD-11C」、「ゴッドボールB-6C」、「ゴッドボールB-25C」、「ゴッドボールAF-6C」、「ゴッドボールAF-16C」、「ゴッドボールSF-16C」等のゴッドボールシリーズ、PQ Corporation製の「Sorbosil AC23」、「Sorbosil AC33」、「Sorbosil AC43」、「Sorbosil AC44」等のSorbosilシリーズが挙げられる。
【0013】
本発明の浴用剤中の成分(A)の含有量は、入浴後の肌感触を良好にする観点から、1.5質量%以上であり、好ましくは2質量%以上、より好ましくは2.5質量%以上、さらに好ましくは2.7質量%以上である。また、保存安定性を向上させる観点から、10質量%以下であり、好ましくは9質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下、よりさらに好ましくは5質量%以下である。
【0014】
<成分(B):炭酸塩>
本発明の浴用剤は、成分(B)として、炭酸塩を含有する。成分(B)は、本発明の浴用剤を浴水に投入した際に、後述する成分(C)との作用により炭酸ガスを発生させ、血行促進効果をもたらすことができる。
成分(B)としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等のアルカリ土類金属炭酸塩;及び、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属重炭酸塩;等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。なかでも、より良好な発泡性を付与する観点から、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸カルシウムからなる群から選ばれる1種以上が好ましく、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。
成分(B)は、浴用剤を錠剤等に成形する際の良好な成形性、並びに入浴時の温まり速さを付与する観点からはアルカリ金属炭酸塩を含むことが好ましく、炭酸ガスの発泡力を付与する観点からはアルカリ金属重炭酸塩を含むことが好ましい。すなわち成分(B)としては、アルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属重炭酸塩とを含有することが好ましく、炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとを含有することがより好ましい。
【0015】
成分(B)としてアルカリ金属炭酸塩とアルカリ金属重炭酸塩とを併用する場合、その比率は特に制限されないが、良好な成形性、入浴時の温まり速さ及び発泡力を付与する観点から、質量比[アルカリ金属重炭酸塩/アルカリ金属炭酸塩]として、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、さらに好ましくは0.5以上であり、好ましくは4.0以下、より好ましくは2.0以下、さらに好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.0以下である。
【0016】
本発明の浴用剤中の成分(B)の含有量は、より良好な発泡性を付与する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上、よりさらに好ましくは30質量%以上であり、また、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下、よりさらに好ましくは45質量%以下である。
【0017】
<成分(C):有機酸>
本発明の浴用剤は、成分(C)として有機酸を含有する。本発明の浴用剤は成分(C)を含有することで、浴水中で成分(B)との作用により炭酸ガスを発生させ、血行促進効果をもたらすことができる。
【0018】
成分(C)としては、カルボン酸系化合物の他、有機スルホン酸系化合物、有機リン酸系化合物が挙げられるが、良好な発泡性を付与する観点からはカルボン酸系化合物が好ましい。
当該カルボン酸系化合物は少なくとも1個のカルボキシ基を有する化合物であればよく、脂肪族カルボン酸、芳香族カルボン酸のいずれでもよい。具体的な化合物としては例えば、脂肪族カルボン酸としては、フマル酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、マレイン酸、フタル酸、グルタル酸、アジピン酸が挙げられ、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、ピロリドンカルボン酸等が挙げられる。なかでも、保存安定性を確保する観点から、脂肪族カルボン酸が好ましく、2個以上のカルボキシ基を有する脂肪族多価カルボン酸が好ましく、フマル酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、アジピン酸、及びシュウ酸からなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、フマル酸、酒石酸、及びコハク酸からなる群から選ばれる1種以上がさらに好ましく、フマル酸及びコハク酸からなる群から選ばれる1種以上がよりさらに好ましく、フマル酸がよりさらに好ましい。
【0019】
本発明の浴用剤中の成分(C)の含有量は、良好な発泡性を付与する観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上、よりさらに好ましくは35質量%以上である。また、浴用剤中の成分(C)の含有量は、良好な発泡性を付与する観点から、好ましくは70質量%以下、より好ましくは65質量%以下、さらに好ましくは60質量%以下、よりさらに好ましくは50質量%以下である。
【0020】
<成分(D):アミノ酸系界面活性剤>
本発明の浴用剤は、成分(D)としてアミノ酸系界面活性剤を含有する。本発明の浴用剤は成分(D)を含有することで、前述の作用機構により、成分(A)を1.5質量%以上含有させた場合でも保存安定性に優れるものとなる。
本発明においてアミノ酸系界面活性剤とは、アミノ酸由来の構造を有する界面活性剤である。包材中に密封して保存した場合にも包材の膨れが起こり難く、保存安定性に優れる浴用剤を得る観点からは、成分(D)はアミノ酸のアミノ基をアシル基で修飾したN-アシルアミノ酸又はその塩であることが好ましく、N-アシルアミノ酸塩であることがより好ましい。
【0021】
N-アシルアミノ酸又はその塩において、アミノ酸由来の構造を形成するアミノ酸としては、グルタミン酸、アスパラギン酸等の酸性アミノ酸;グリシン、アラニン、β-アラニン、メチルアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、システイン、プロリン、セリン、トレオニン、サルコシン等の中性アミノ酸が挙げられる。これらのうち、酸性条件下での保存安定性を向上させる点からは酸性アミノ酸が好ましく、グルタミン酸及びアスパラギン酸からなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、グルタミン酸がさらに好ましい。これらのアミノ酸はD体、L体あるいはD体とL体の混合物のいずれでもよいが、L体が好ましい。
【0022】
N-アシルアミノ酸又はその塩におけるアシル基としては、保存安定性を向上させる観点から、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖を有する炭素数8以上22以下のアシル基が好ましい。当該アシル基としては、例えば、カプロイル基、カプリロイル基、カプリノイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、イソステアロイル基、オレオイル基、リノレオイル基、ココイル基(ヤシ油脂肪酸アシル基)、パーム油脂肪酸アシル基、パーム核油脂肪酸アシル基、牛脂脂肪酸アシル基、直鎖及び分岐合成脂肪酸アシル基等が挙げられる。
これらのうち、保存安定性を向上させる観点から、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖を有する炭素数12以上22以下のアシル基がより好ましく、該アシル基の炭素数は、さらに好ましくは12以上18以下、よりさらに好ましくは12以上16以下である。具体的には、N-アシルアミノ酸又はその塩におけるアシル基としては、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、及びココイル基からなる群から選ばれる1種以上がより好ましく、ラウロイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、及びステアロイル基からなる群から選ばれる1種以上がさらに好ましく、ラウロイル基及びミリストイル基からなる群から選ばれる1種以上がよりさらに好ましい。
【0023】
N-アシルアミノ酸塩は、N-アシルアミノ酸の無機塩、有機塩のいずれでもよい。N-アシルアミノ酸の無機塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属塩;等が挙げられる。N-アシルアミノ酸の有機塩としては、アンモニア、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノ-ルアミン塩等の有機アミン塩;アルギニン、リジン、ヒスチジン、オルニチン等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
これらのうち、保存安定性を向上させる観点から、N-アシルアミノ酸のアルカリ金属塩、有機アミン塩、及び塩基性アミノ酸塩からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましく、ナトリウム塩及びカリウム塩からなる群から選ばれる1種以上がさらに好ましい。
すなわちN-アシルアミノ酸塩としては、保存安定性を向上させる観点から、好ましくはN-アシルグルタミン酸のナトリウム塩又はカリウム塩、及びN-アシルアスパラギン酸のナトリウム塩又はカリウム塩からなる群から選ばれる1種以上であり、より好ましくはN-アシルグルタミン酸のナトリウム塩又はカリウム塩である。また、アシル基の炭素数は好ましくは炭素数12以上22以下、より好ましくは炭素数12以上18以下、さらに好ましくは炭素数12以上16以下である。
【0024】
成分(D)として用いられる、N-アシルアミノ酸又はその塩の具体例としては、N-カプリロイルグルタミン酸、N-2-エチルヘキサノイルグルタミン酸、N-ラウロイルグルタミン酸、N-ミリストイルグルタミン酸、N-パルミトイルグルタミン酸、N-ステアロイルグルタミン酸、N-ココイルグルタミン酸、N-パーム油脂肪酸アシルグルタミン酸、N-牛脂脂肪酸アシルグルタミン酸、N-ラウロイルアスパラギン酸、N-ミリストイルアスパラギン酸、N-パルミトイルアスパラギン酸、N-ステアロイルアスパラギン酸、N-ココイルアスパラギン酸、N-ココイルアラニン、N-ラウロイルメチルアラニン、N-ミリストイルメチルアラニン、N-ココイルメチルアラニン、N-ラウロイルサルコシン、N-ミリストイルサルコシン、N-ココイルサルコシン、及び、これらのナトリウム塩、カリウム塩、アルギニン塩、トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
これらの中でも、保存安定性を向上させる観点から、N-ラウロイルグルタミン酸、N-ミリストイルグルタミン酸、N-パルミトイルグルタミン酸、N-ステアロイルグルタミン酸、及びN-ココイルグルタミン酸からなる群から選ばれる1種以上のN-アシルグルタミン酸のナトリウム塩又はカリウム塩が好ましく、N-ラウロイルグルタミン酸のナトリウム塩又はカリウム塩、及びN-ミリストイルグルタミン酸のナトリウム塩又はカリウム塩からなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。
【0025】
成分(D)として、市販のアミノ酸系界面活性剤を用いることもできる。例えば味の素(株)製の「アミソフト LS-11」(N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム)、「アミソフト CS-11(F)」(N-ココイル-L-グルタミン酸ナトリウム)、「アミソフト MS-11」(N-ミリストイル-L-グルタミン酸ナトリウム)、「アミソフト MK-11」「アミソフト MK-11(F)」(N-ミリストイル-L-グルタミン酸カリウム)、「アミソフト GS-11P」(N-ステアロイル-L-グルタミン酸ナトリウムとN-ココイル-L-グルタミン酸ナトリウムの混合物)、「アミソフト HS-11P」(N-ステアロイル-L-グルタミン酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0026】
本発明の浴用剤において、成分(A)に対する成分(D)の質量比[(D)/(A)]は、保存安定性を付与する観点から、0.01以上、好ましくは0.015以上であり、入浴後の肌感触を良好にする観点から、1以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.2以下、よりさらに好ましくは0.1以下である。
【0027】
本発明の浴用剤中の成分(D)の含有量は、成分(A)に対する成分(D)の質量比[(D)/(A)]が好ましくは上記範囲となる量であればよいが、保存安定性を付与する観点から、浴用剤中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.04質量%以上である。また、浴用剤中の成分(D)の含有量は、入浴後の肌感触を良好にする観点から、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、よりさらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0028】
(水溶性高分子)
本発明の浴用剤は、良好な成形性及び浴水溶解性を付与する観点から、さらに水溶性高分子を含有することができる。
当該水溶性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ソーダ、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール等の合成水溶性高分子;にかわ、ゼラチン、コラーゲンタンパク、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、ファーセレラン、タマリンドガム、ペクチン、アラビアガム、グアーガム、キサンタンガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、デキストリン、デキストラン、寒天、澱粉等の天然水溶性高分子;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステル、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉、カチオン澱粉等の半合成水溶性高分子;等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、良好な成形性及び浴水溶解性を付与する観点から、ポリエチレングリコール及びデキストリンからなる群から選ばれる1種又は2種が好ましく、ポリエチレングリコールがより好ましく、分子量3,000~10,000のポリエチレングリコールがさらに好ましく、分子量5,000~9,000のポリエチレングリコールがさらに好ましい。
【0029】
浴用剤中の水溶性高分子の含有量は、良好な成形性及び浴水溶解性を付与する観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは2質量%以上である。また、炭酸ガス発生量を確保する観点から、当該含有量は好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは12質量%以下である。
【0030】
本発明の浴用剤には、その他の成分として、通常浴用剤に用いられる成分を適宜含有させてもよい。かかる成分としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステルやポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等のノニオン界面活性剤、及びその他の界面活性剤;塩化カリウム、塩化ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、塩化アンモニウム、硫酸鉄、リン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の、上記成分以外の無機塩;ケイ酸カルシウム、ブドウ糖等の賦形剤;崩壊助剤;生薬等の薬効成分;色素;香料;油剤;等が挙げられる。
【0031】
(剤型)
本発明の浴用剤の剤型は、粉末、顆粒、粒状、錠剤のいずれであってもよい。長期保存後においても高い溶解性を確保する観点からは錠剤であることが好ましい。錠剤には、打錠剤やブリケット型剤が含まれる。
浴用剤が粉末、顆粒である場合は、例えば浴用剤を構成する全成分を、常法に従ってドライブレンドすることにより製造できる。その際、成分の一部を予め造粒あるいは成型した後、残りの成分と混合してもよい。
浴用剤が粒状である場合は、押出造粒等の圧縮造粒方法等の常法に従って製造できる。
浴用剤が錠剤である場合は、プレス打錠機やブリケットマシーンを用いて圧縮成形法等の常法に従って製造することができる。錠剤の製造においては、例えば、浴用剤を構成する全成分をドライブレンドして得られた粉末を圧縮成形に供してもよく、成分の一部を予め造粒あるいは成型した後、残りの成分と混合して得られた混合物を圧縮成形に供してもよい。
【0032】
[浴用剤製品]
本発明は、前述した本発明の浴用剤を包材に封入した浴用剤製品も提供する。本発明の浴用剤は、包材中に密封して保存した場合にも炭酸ガスの発生に起因する包材の膨れが起こり難いため、包材に封入した製品形態での保存安定性に優れる。
包材の形状は、浴用剤を密封できる構造を有するものであれば特に制限はなく、例えば袋状、ボトル状、トレー状、カップ状等が挙げられる。これらの中でも袋状の包材が好ましい。
包材を構成する材質も、浴用剤を密封できるものであれば特に制限はない。例えば袋状包材の場合は、樹脂フィルム、又は樹脂フィルム上に金属又は金属酸化物からなる無機薄膜を積層した積層フィルム等を用いることができる。
【実施例
【0033】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されない。
【0034】
実施例1~14、比較例1~7(浴用剤の製造及び評価)
表1に示す各成分を混合して得られた粉末を用いて、ロータリー打錠機にて、質量39~41g、錠高15.1~15.3mmのサイズにて打錠し、各例の錠剤型の浴用剤を製造した。また、下記方法にて入浴後の肌感触及び保存安定性を評価した。結果を表1に示す。
【0035】
(入浴後の肌感触の評価)
浴槽に40℃の浴水150Lを入れ、各例の浴用剤40gを投入して、十分撹拌した後に専門パネラー2名を5分間入浴させ、入浴後の肌感触(さらさら感)を下記基準にしたがって評価した。
1:さらさら感を非常に感じる
2:さらさら感をとても感じる
3:さらさら感をやや感じる
4:さらさら感を全く感じない
【0036】
(保存安定性の評価)
各例の浴用剤40gをアルミピロー(大日本印刷(株)製、6cm×18cm)に入れて密封した後、50℃に設定したインキュベーダーの中に配置し、配置後1ヶ月経過した時点でのアルミピローの外観を目視により観察し、下記基準にしたがって評価した。
A:アルミピローの外観に変化を認めない
B:アルミピローの外観にごくわずかの膨れを認める
C:アルミピローに大きな膨れを認める
【0037】
【表1】
【0038】
*1:多孔性軽質無水ケイ酸:PQ Corporation製「Sorbosil AC44」(平均粒径:4.7μm)又は富士シリシア化学(株)製「サイロピュア25」
*2:N-ラウロイル-L-グルタミン酸ナトリウム:味の素(株)製「アミソフト LS-11」
*3:N-ミリストイル-L-グルタミン酸カリウム:味の素(株)製「アミソフト MK-11」
*4:ポリエチレングリコール:花王(株)製「K-PEG 6000LA」(分子量:6,000)
【0039】
表1より、本発明の浴用剤は入浴後にさらさらとした肌感触が得られると共に、包材中に密封して保存した場合にも包材の膨れが起こり難く保存安定性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、入浴後にさらさらとした肌感触が得られると共に、包材中に密封して保存した場合にも包材の膨れが起こり難く保存安定性に優れる浴用剤を提供できる。