(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】光電変換素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20230403BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20230403BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
(21)【出願番号】P 2019068466
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】杉村 博
(72)【発明者】
【氏名】宮西 晋太郎
(72)【発明者】
【氏名】倉内 敬広
【審査官】原 俊文
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2016-0098093(KR,A)
【文献】特表2018-522959(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0356623(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0365645(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107316944(CN,A)
【文献】特表2015-529982(JP,A)
【文献】特開2003-197377(JP,A)
【文献】特開2017-079334(JP,A)
【文献】特表2018-504787(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0037813(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0152608(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
H10K 39/00-39/38
H10K 50/00-50/88
H10K 59/00-59/95
H01L 31/00-31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子輸送層と、ホール輸送層と、前記電子輸送層及び前記ホール輸送層の間に配設される光吸収層とを備え、
前記光吸収層は、
針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物と、
結着樹脂とを含有
し、
前記ペロブスカイト化合物の長軸長さは、7μm以上50μm以下であり、
前記ペロブスカイト化合物の短軸長さに対する長軸長さの比は、5以上20以下である、光電変換素子。
【請求項2】
前記光吸収層における前記結着樹脂の含有割合は、0.1質量%以上2.0質量%以下である、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記結着樹脂は、ポリビニルブチラール樹脂又はセルロース樹脂である、請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記ホール輸送層は、カーボンナノチューブを含有する、請求項1~3の何れか一項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記電子輸送層は、酸化チタンを含有する、請求項1~4の何れか一項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記ペロブスカイト化合物は、下記一般式(1)で表される、請求項1~5の何れか一項に記載の光電変換素子。
【化1】
(前記一般式(1)中、Aは有機分子であり、Bは金属原子であり、Xはハロゲン原子である。)
【請求項7】
第1電荷輸送材料を含有する第1電荷輸送層を形成する第1電荷輸送層形成工程と、
前記第1電荷輸送層上に光吸収層を形成する光吸収層形成工程と、
前記光吸収層上に、第2電荷輸送材料を含有する第2電荷輸送層用塗布液を塗布することで第2電荷輸送層を形成する第2電荷輸送層形成工程とを備え、
前記第1電荷輸送材料及び前記第2電荷輸送材料は、一方が電子輸送材料であり、他方がホール輸送材料であり、
前記光吸収層は、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物と、結着樹脂とを含有
し、
前記ペロブスカイト化合物の長軸長さは、7μm以上50μm以下であり、
前記ペロブスカイト化合物の短軸長さに対する長軸長さの比は、5以上20以下である、光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
前記光吸収層形成工程は、
前記第1電荷輸送層上に、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物を含有する多孔質層を形成する多孔質ペロブスカイト化合物層形成工程と、
前記多孔質層上に、結着樹脂及び溶媒を含有する結着樹脂溶液を塗布する結着樹脂溶液塗布工程とを備える、請求項7に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒は、トルエン又はクロロベンゼンである、請求項8に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項10】
前記結着樹脂溶液塗布工程では、浸漬塗布法、ロールコート法又はスピンコート法により前記結着樹脂溶液を塗布する、請求項8又は9に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記第1電荷輸送材料は電子輸送材料であり、前記第2電荷輸送材料はホール輸送材料である、請求項7~10の何れか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は、例えば、光センサー、複写機、及び太陽電池等に用いられている。この中で、太陽電池は、再生可能エネルギーの代表的な利用方法として本格的に普及しつつある。太陽電池としては、無機系光電変換素子を用いた太陽電池(例えば、シリコン系太陽電池、CIGS系太陽電池、及びCdTe系太陽電池等)が普及している。
【0003】
一方、太陽電池としては、有機系光電変換素子を用いた太陽電池(例えば、有機薄膜太陽電池及び色素増感太陽電池)も検討されている。このような有機系光電変換素子を用いた太陽電池は、真空プロセスを使用せずに塗布処理で製造できるため、製造コストを大幅に低減できる可能性がある。そのため、有機系光電変換素子を用いた太陽電池は、次世代の太陽電池として期待されている。
【0004】
近年では、有機系光電変換素子として、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物(以下、ペロブスカイト化合物と記載することがある)を光吸収層に用いた光電変換素子が検討されている。ペロブスカイト化合物としては、例えば鉛錯体が挙げられる。ペロブスカイト化合物を光吸収層に用いた光電変換素子は、光電変換効率に優れる。また、特許文献1には、ペロブスカイト化合物を用いた光電変換素子において、カーボンナノチューブをホール輸送材料として用いることで、光電変換効率が更に向上することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ペロブスカイト化合物を光吸収層に用いた光電変換素子は、製造段階で水分(湿度)の影響を受け易い。具体的には、ペロブスカイト化合物を用いた光電変換素子を大気下(特に、湿度50%RH以上の大気下)で形成すると、水分の影響によってペロブスカイト化合物が針状結晶構造を形成し、多孔質の光吸収層が形成される。このような多孔質の光吸収層上に電荷輸送層を塗布処理により形成した場合、光吸収層内に電荷輸送材料が浸透し、短絡により光電変換効率が低下する。特に、特許文献1に示すように、カーボンナノチューブのような導電性に優れる電荷輸送材料(ホール輸送材料)を用いた場合、上述の短絡による光電変換効率の低下が顕著である。
【0007】
そのため、ペロブスカイト化合物を用いた光電変換素子は、可能な限り湿度を低くした環境(例えば、グローブボックス内)で製造することが一般的である。このような環境であれば、ペロブスカイト化合物は板状結晶構造を形成するため、上述の短絡による光電変換効率の低下を抑制できる。しかし、ペロブスカイト化合物を用いた光電変換素子をこのような環境で製造すると、製造コストが増大し易い。
【0008】
また、板状結晶構造を有するペロブスカイト化合物を含有する光吸収層は、可撓性が低い傾向がある。そのため、板状結晶構造を有するペロブスカイト化合物を光吸収層に用いた光電変換素子は、可撓性を付与することが困難であり、かつ耐衝撃性が低い傾向がある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、光電変換効率に優れ、製造コストが低く、かつ光吸収層が可撓性を有する光電変換素子及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る光電変換素子は、電子輸送層と、ホール輸送層と、前記電子輸送層及び前記ホール輸送層の間に配設される光吸収層とを備える。前記光吸収層は、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物と、結着樹脂とを含有する。
【0011】
本発明の別の実施形態に係る光電変換素子の製造方法は、第1電荷輸送材料を含有する第1電荷輸送層を形成する第1電荷輸送層形成工程と、前記第1電荷輸送層上に光吸収層を形成する光吸収層形成工程と、前記光吸収層上に、第2電荷輸送材料を含有する第2電荷輸送層用塗布液を塗布することで第2電荷輸送層を形成する第2電荷輸送層形成工程とを備える。前記第1電荷輸送材料及び前記第2電荷輸送材料は、一方が電子輸送材料であり、他方がホール輸送材料である。前記光吸収層は、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物と、結着樹脂とを含有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光電変換素子及びその製造方法によれば、光電変換効率に優れ、製造コストが低く、かつ光吸収層が可撓性を有する光電変換素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る光電変換素子の一例を示す図である。
【
図2】ペロブスカイト結晶構造の基本単位格子を示す図である。
【
図3】本発明の実施例1において形成した多孔質ペロブスカイト化合物層を示す写真である。
【
図4】本発明の実施例1において形成した光吸収層を示す写真である。
【
図5】本発明の実施例6において形成した光吸収層を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。但し、本発明は、実施形態に何ら限定されず、本発明の目的の範囲内で適宜変更を加えて実施できる。なお、図中、同一又は相当部分については、同一の参照符号を付して説明を省略することがある。また、アクリル及びメタクリルを包括的に「(メタ)アクリル」と総称する場合がある。更に、アクリレート及びメタクリレートを包括的に「(メタ)アクリレート」と総称する場合がある。本発明の実施形態において説明する各材料は、特に断りのない限り、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
<第1実施形態:光電変換素子>
本発明の第1実施形態は、光電変換素子に関する。本実施形態に係る光電変換素子は、電子輸送層と、ホール輸送層と、電子輸送層及びホール輸送層の間に配設される光吸収層とを備える。光吸収層は、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物と、結着樹脂とを含有する。
【0016】
まず、本実施形態に係る光電変換素子の一例について、
図1を参照してその概要を説明する。
図1に示す光電変換素子1は、一方の面から順番に、基体2と、第1導電層3と、電子輸送層4と、光吸収層6と、ホール輸送層7と、第2導電層8とを備える。電子輸送層4は、第1導電層3側の緻密酸化チタン層51と、光吸収層6側の多孔質酸化チタン層52とを含む2層構造である。光吸収層6は、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物と、結着樹脂とを含有する。光電変換素子1は、使用時に、例えば基体2側の面に光(例えば、太陽光)を照射する。但し、光電変換素子1は、使用時に、第2導電層8側の面に光を照射してもよい。
【0017】
本実施形態に係る光電変換素子1は、以下の利点を有する。光電変換素子1の備える光吸収層6は、ペロブスカイト化合物が密に詰まっている層ではないため、可撓性を有する。そのため、光電変換素子1は、耐衝撃性に優れる。また、光吸収層6は、針状構造を有するペロブスカイト化合物及び結着樹脂を含有し、ペロブスカイト化合物により形成される多孔質領域の空隙に結着樹脂が充填されている。そのため、光電変換素子1は、大気下で製造しても、電荷輸送層(電子輸送層4又はホール輸送層7)の形成時における電荷輸送材料の光吸収層6への浸透を抑制できる。これにより、光電変換素子1は、光吸収層6の短絡を抑制し、ペロブスカイト化合物に起因する優れた光電変換効率を十分に発揮できる。光電変換素子1は、上述の通り、大気下にて低コストで製造できる。
【0018】
[基体]
基体2の形状としては、例えば、平板状、フィルム状、及び円筒形状が挙げられる。光電変換素子1の基体2側の面に光を照射する場合、基体2は透明である。この場合、基体2の材質としては、例えば、透明ガラス(より具体的には、ソーダライムガラス、及び無アルカリガラス等)、及び耐熱性を有する透明樹脂が挙げられる。光電変換素子1の第2導電層8側の面に光を照射する場合、基体2は不透明でもよい。この場合、基体2の材質としては、例えば、アルミニウム、ニッケル、クロム、マグネシウム、鉄、錫、チタン、金、銀、銅、タングステン、これらの合金(例えば、ステンレス鋼)及びセラミックが挙げられる。
【0019】
[第1導電層]
第1導電層3は、光電変換素子1の陰極に相当する。第1導電層3を構成する材料としては、例えば、透明導電性材料及び非透明導電性材料が挙げられる。透明導電性材料としては、例えば、ヨウ化銅(CuI)、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、及びガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等が挙げられる。非透明導電性材料としては、例えば、ナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、リチウム、マグネシウム、アルミニウム、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-リチウム合金、アルミニウム-酸化アルミニウム混合物(Al/Al2O3)及びアルミニウム-フッ化リチウム混合物(Al/LiF)等が挙げられる。
【0020】
第1導電層3の膜厚としては、特に限定されず、所望の特性(例えば、電子の輸送性及び透明性)を発揮し得る膜厚であればよい。
【0021】
[電子輸送層]
電子輸送層4は、光吸収層6において光励起により発生した電子を第1導電層3に輸送する層である。このため、電子輸送層4は、光吸収層6で発生した電子を第1導電層3に移動させ易い材料を含有することが好ましい。光電変換素子1においては、電子輸送層4は、酸化チタンを含有する。具体的には、電子輸送層4は、比較的空隙率の小さい緻密酸化チタン層51と、緻密酸化チタン層51よりも空隙率が高い多孔質層である多孔質酸化チタン層52とを含む。電子輸送層4における酸化チタンの含有割合としては、例えば、95質量%以上であり、100質量%が好ましい。以下、緻密酸化チタン層51、及び多孔質酸化チタン層52について説明する。
【0022】
(緻密酸化チタン層)
緻密酸化チタン層51は、空隙率が低いため、光電変換素子1の製造時に、光吸収層6の形成に用いる光吸収材料(ペロブスカイト化合物)が層内に浸透し難い。そのため、光電変換素子1が緻密酸化チタン層51を備えることで、光吸収材料及び第1導電層3の接触が抑制される。また、光電変換素子1が緻密酸化チタン層51を備えることで、起電力低下の要因となる第1導電層3及び第2導電層8の接触が抑制される。緻密酸化チタン層51の膜厚としては、5nm以上200nm以下が好ましく、10nm以上100nm以下がより好ましい。
【0023】
(多孔質酸化チタン層)
多孔質酸化チタン層52は、空隙率が高いため、光電変換素子1の製造時に、光吸収層6の形成に用いる光吸収材料が層内の細孔に浸透し易い。そのため、光電変換素子1が多孔質酸化チタン層52を備えることで、光吸収層6と電子輸送層4との接触面積を増大できる。これにより、光吸収層6において光励起により発生した電子を、効率よく電子輸送層4に移動させることができる。多孔質酸化チタン層52の膜厚としては、100nm以上2,0000nm以下が好ましく、200nm以上1,500nm以下がより好ましい。
【0024】
[光吸収層]
光吸収層6は、光吸収材料(針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物)及び結着樹脂を含有し、光電変換素子1に入射された光を吸収して電子及びホールを発生させる層である。詳しくは、光吸収層6に光が入射すると、光吸収材料に含まれる低いエネルギーの電子が光励起され、高いエネルギーの電子とホールとが発生する。発生した電子は、電子輸送層4に移動する。発生したホールは、ホール輸送層7に移動する。このような電子及びホールの移動により、電荷分離が行われる。
【0025】
光吸収層6では、例えば、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物により多孔質領域が形成され、この多孔質領域の空隙に結着樹脂が充填されている。
【0026】
(ペロブスカイト化合物)
ペロブスカイト化合物の長軸長さとしては、5μm以上50μm以下が好ましく、7μm以上20μm以下がより好ましい。ペロブスカイト化合物の短軸長さに対する長軸長さの比(アスペクト比)としては、5以上30以下が好ましく、10以上20以下がより好ましい。ペロブスカイト化合物の長軸長さ及びアスペクト比を上述の範囲とすることで、ペロブスカイト化合物により形成される多孔質領域の空隙に結着樹脂が充填され易くなる。なお、ペロブスカイト化合物の長軸長さ及びアスペクト比は、実施例に記載の方法と同様の方法により測定できる。
【0027】
ペロブスカイト化合物としては、光電変換効率を向上させる観点から、下記一般式(1)で表される化合物(以下、ペロブスカイト化合物(1)と記載することがある)が好ましい。
【0028】
【0029】
一般式(1)中、Aは有機分子であり、Bは金属原子であり、Xはハロゲン原子である。一般式(1)中、3つのXは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0030】
ペロブスカイト化合物(1)は、有機無機ハイブリッド化合物である。有機無機ハイブリッド化合物とは、無機材料と有機材料とで構成される化合物である。有機無機ハイブリッド化合物であるペロブスカイト化合物(1)を用いた光電変換素子1は、有機無機ハイブリッド光電変換素子とも呼ばれる。
【0031】
図2は、ペロブスカイト化合物(1)が有する結晶構造の立方晶系の基本単位格子の模式図を示す。この基本単位格子は、各頂点に配置された有機分子Aと、体心に配置された金属原子Bと、各面心に配置されたハロゲン原子Xとを備えている。
【0032】
光吸収材料が立方晶系の基本単位格子を有することは、X線回折法を用いて確認できる。詳しくは、ガラス板上に光吸収材料を含有する光吸収層6を作製し、光吸収層6を粉末状で回収し、粉末X線回折装置を用いて回収された粉末状の光吸収層6(光吸収材料)の回折パターンを測定する。或いは、光電変換素子1から光吸収層6を粉末状で回収し、粉末X線回折装置を用いて回収された粉末状の光吸収層6(光吸収材料)の回折パターンを測定する。
【0033】
一般式(1)中、Aで表される有機分子としては、例えば、アルキルアミン、アルキルアンモニウム、及び含窒素複素環式化合物等が挙げられる。ペロブスカイト化合物(1)において、Aで表される有機分子は、1種の有機分子のみであってもよく、2種以上の有機分子であってもよい。
【0034】
アルキルアミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、ブチルメチルアミン、メチルペンチルアミン、ヘキシルメチルアミン、エチルプロピルアミン、及びエチルブチルアミン等が挙げられる。
【0035】
アルキルアンモニウムは、上述のアルキルアミンのイオン化物である。アルキルアンモニウムとしては、例えば、メチルアンモニウム(CH3NH3)、エチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ペンチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジプロピルアンモニウム、ジブチルアンモニウム、ジペンチルアンモニウム、ジヘキシルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、トリペンチルアンモニウム、トリヘキシルアンモニウム、エチルメチルアンモニウム、メチルプロピルアンモニウム、ブチルメチルアンモニウム、メチルペンチルアンモニウム、ヘキシルメチルアンモニウム、エチルプロピルアンモニウム、及びエチルブチルアンモニウム等が挙げられる。
【0036】
含窒素複素環式化合物としては、例えば、イミダゾール、アゾール、ピロール、アジリジン、アジリン、アゼチジン、アゼト、アゾール、イミダゾリン、及びカルバゾール等が挙げられる。含窒素複素環式化合物は、イオン化物であってもよい。イオン化物である含窒素複素環式化合物としては、フェネチルアンモニウムが好ましい。
【0037】
Aで表される有機分子としては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、プロピルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ペンチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム又はフェネチルアンモニウムが好ましく、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、又はプロピルアンモニウムがより好ましく、メチルアンモニウムが更に好ましい。
【0038】
一般式(1)中、Bで表される金属原子としては、例えば、鉛、スズ、亜鉛、チタン、アンチモン、ビスマス、ニッケル、鉄、コバルト、銀、銅、ガリウム、ゲルマニウム、マグネシウム、カルシウム、インジウム、アルミニウム、マンガン、クロム、モリブデン、及びユーロピウム等が挙げられる。ペロブスカイト化合物(1)において、Bで表される金属原子は、1種の金属原子のみであってもよく、2種以上の金属原子であってもよい。光吸収層6の光吸収特性及び電荷発生特性を向上させる観点から、Bで表される金属原子としては、鉛原子が好ましい。
【0039】
一般式(1)中、Xで表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子等が挙げられる。ペロブスカイト化合物(1)において、Xで表されるハロゲン原子は、1種のハロゲン原子であってもよく、2種以上のハロゲン原子であってもよい。Xで表されるハロゲン原子としては、ペロブスカイト化合物(1)のエネルギーバンドギャップを狭くする観点から、ヨウ素原子が好ましい。詳しくは、3つのXのうち、少なくとも1つのXがヨウ素原子を表すことが好ましく、3つのXがヨウ素原子を表すことがより好ましい。
【0040】
ペロブスカイト化合物(1)としては、一般式「CH3NH3PbX3(但し、Xはハロゲン原子を表す)」で表される化合物が好ましく、CH3NH3PbI3がより好ましい。ペロブスカイト化合物(1)として一般式「CH3NH3PbX3」で表される化合物(特に、CH3NH3PbI3)を用いることで、光吸収層6において電子とホールとをより効率良く発生させることができ、その結果、光電変換素子1の光電変換効率をより向上できる。
【0041】
(結着樹脂)
結着樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂又はセルロース樹脂(特に、エチルセルロース樹脂)が好ましい。光吸収層6を形成する際、通常、結着樹脂を溶媒に溶解させる必要がある。この際、結着樹脂を含有する溶液の粘度は、比較的低いことが好ましい。また、結着樹脂を溶解させる溶媒は、ペロブスカイト化合物の結晶構造に影響を与え難い溶媒(例えば、トルエン及びクロロベンゼン等)が好ましい。以上の観点から、結着樹脂は、ペロブスカイト化合物の結晶構造に影響を与え難い溶媒に対して可溶であり、かつこのような溶媒に溶解した際に比較的低い粘度を示すことが好ましい。ポリビニルブチラール樹脂又はセルロース樹脂は、上述の条件を満たすため、結着樹脂として好ましい。
【0042】
光吸収層6における結着樹脂の含有割合としては、光電変換素子1の光電変換効率及び光吸収層6の可撓性を向上させる観点から、0.1質量%以上2.0質量%以下が好ましい。
【0043】
光吸収層6は、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物及び結着樹脂のみで構成される層であってもよい。また、光吸収層6は、ペロブスカイト化合物及び結着樹脂に加えて、他の成分(例えば、ペロブスカイト化合物以外の光吸収材料等)を更に含有してもよい。光吸収層6におけるペロブスカイト化合物及び結着樹脂の合計含有割合としては、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0044】
[ホール輸送層]
ホール輸送層7は、光吸収層6で発生したホールを捉えて、陽極である第2導電層8に輸送する層である。ホール輸送層7は、例えば、主成分としてホール輸送材料を含有する。
【0045】
ホール輸送材料としては、例えば、有機ホール輸送材料及び無機ホール輸送材料等が挙げられる。有機ホール輸送材料としては、例えば、Spiro-MeOTAD(2,2’,7,7’-テトラキス「N,N-ジ-P-メトキシフェニルアミノ」-9,9’-スピロビフルオレン)、ピラゾリン化合物、アリールアミン化合物、スチルベン化合物、エナミン化合物、ポリピロール化合物、ポリビニルカルバゾール化合物、ポリシラン化合物、ブタジエン化合物、側鎖又は主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン化合物、ポリアニリン化合物、ポリフェニレンビニレン化合物、ポリチエニネンビニレン化合物、及びポリチオフェン化合物等が挙げられる。無機ホール輸送材料としては、例えば、カーボンナノチューブ及び銅チオシアン酸(CuSCN)等が挙げられる。カーボンナノチューブとしては、例えば、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)及び単層カーボンナノチューブ(SWCNT)等が挙げられる。ホール輸送材料としては、カーボンナノチューブが好ましく、多層カーボンナノチューブがより好ましい。
【0046】
ホール輸送層7は、必要に応じて、有機バインダー樹脂及び可塑剤等を更に含有してもよい。一方、ホール輸送層7は、ホール輸送材料のみを含有してもよい。ホール輸送層7におけるホール輸送材料の含有割合としては、30質量%以上100質量%以下が好ましく、50質量%以上100質量%以下がより好ましい。
【0047】
ホール輸送層7の膜厚としては、20nm以上2,000nm以下が好ましく、200nm以上600nm以下がより好ましい。ホール輸送層7の膜厚を20nm以上2,000nm以下とすることで、光吸収層6で発生したホールを円滑かつ効率的に第2導電層8に移動させることができる。
【0048】
なお、光電変換素子1の第2導電層8側の面に光を照射する場合、透明性を確保する観点から、ホール輸送層7は非晶質層であることが好ましい。
【0049】
[第2導電層]
第2導電層8は、光電変換素子1の陽極に相当する。第2導電層8を構成する材料としては、例えば、金属、透明導電性無機材料、導電性微粒子及び導電性ポリマー(特に、透明導電性ポリマー)等が挙げられる。金属としては、例えば、金、銀、及び白金等が挙げられる。透明導電性無機材料としては、例えば、ヨウ化銅(CuI)、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズ(SnO2)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)及びガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等が挙げられる。導電性微粒子としては、例えば、銀ナノワイヤー及びカーボンナノファイバー等が挙げられる。透明導電性ポリマーとしては、例えば、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)とポリスチレンスルホン酸とを含むポリマー(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
【0050】
光電変換素子1の第2導電層8側から光を入射する場合、入射した光を光吸収層6に到達させるため、第2導電層8は透明又は半透明であることが好ましく、透明であることがより好ましい。透明又は半透明の第2導電層8を構成する材料としては、透明導電性無機材料又は透明導電性ポリマーが好ましい。第2導電層8の膜厚としては、50nm以上1,000nm以下が好ましく、100nm以上300nm以下がより好ましい。
【0051】
[その他]
以上、
図1を参照して、本実施形態に係る光電変換素子の一例である光電変換素子1について説明した。但し、本実施形態に係る光電変換素子は、光電変換素子1に限定されず、例えば以下の点を変更可能である。
【0052】
本実施形態に係る光電変換素子は、第2導電層上に表面層を更に備えてもよい。表面層は、空気中の水分及び酸素による光電変換素子の内部の劣化を抑制する層である。また、表面層は、光電変換素子の使用時に衝撃及び傷から外面を保護する層である。表面層を構成する材料としては、ガスバリア性の高い材料が好ましい。表面層は、例えば、樹脂組成物、シュリンクフィルム、ラップフィルム、クリア塗料等を用いて形成できる。一方、密閉容器に収容して使用される光電変換素子は、表面層を備えないことが好ましい。
【0053】
光電変換素子の表面層側から光を入射する場合、表面層は、透明又は半透明であることが好ましく、透明であることがより好ましい。
【0054】
電子輸送層は、酸化チタンを含有していなくてもよい。例えば、電子輸送層は、酸化チタン以外の材料で構成された緻密層と、酸化チタン以外の材料で構成され多孔質層とを備えていてもよい。また、電子輸送層は、単層であってもよく、3層以上の多層構造であってもよい。
【0055】
本実施形態に係る光電変換素子は、基体、第1導電層、及び第2導電層を備えなくてもよい。即ち、光電変換素子において、基体、第1導電層、及び第2導電層は、各々、省略してもよい。また、本実施形態に係る光電変換素子が基体を備える場合、基体は導電性を有していてもよい。この場合、基体は、第1導電層としての機能も果たす。
【0056】
本実施形態に係る光電変換素子の備える層のうち、光吸収層以外の層(即ち、ホール輸送層及び電子輸送層と、任意構成である基体、第1導電層、第2導電層及び表面層等)は可撓性を有することが好ましい。上述の通り、光吸収層は可撓性を有する。そのため、光吸収層以外の層が可撓性を有することで、光電変換素子に可撓性を付与できる。
【0057】
<第2実施形態:光電変換素子の製造方法>
本実施形態に係る光電変換素子の製造方法は、第1電荷輸送材料を含有する第1電荷輸送層を形成する第1電荷輸送層形成工程と、第1電荷輸送層上に光吸収層を形成する光吸収層形成工程と、光吸収層上に、第2電荷輸送材料を含有する第2電荷輸送層用塗布液を塗布することで第2電荷輸送層を形成する第2電荷輸送層形成工程とを備える。第1電荷輸送材料及び第2電荷輸送材料は、一方が電子輸送材料であり、他方がホール輸送材料である。光吸収層は、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物と、結着樹脂とを含有する。
【0058】
本実施形態に係る光電変換素子の製造方法では、第1電荷輸送材料が電子輸送材料であり、第2電荷輸送材料がホール輸送材料であることが好ましい。即ち、本実施形態に係る光電変換素子の製造方法では、第1電荷輸送層形成工程において電子輸送層を形成し、第2電荷輸送層形成工程においてホール輸送層を形成することが好ましい。
【0059】
本実施形態に係る光電変換素子の製造方法の一例として、
図1に示す光電変換素子1の製造方法を説明する。
図1に示す光電変換素子1の製造方法は、例えば、基体2及び第1導電層3を備える積層体を準備する積層体準備工程と、積層体における第1導電層3上に、電子輸送材料を含有する電子輸送層4を形成する電子輸送層形成工程と、電子輸送層4上に光吸収層6を形成する光吸収層形成工程と、光吸収層6上に、ホール輸送材料を含有するホール輸送層用塗布液を塗布することでホール輸送層7を形成するホール輸送層形成工程と、ホール輸送層7上に第2導電層8を形成する第2導電層形成工程とを備える。この製造方法では、電子輸送材料が第1電荷輸送材料であり、ホール輸送材料が第2電荷輸送材料であり、ホール輸送層用塗布液が第2電荷輸送層用塗布液である。即ち、上述の製造方法では、電子輸送層形成工程が第1電荷輸送層形成工程であり、ホール輸送層形成工程が第2電荷輸送層形成工程である。
【0060】
[積層体準備工程]
本工程では、基体2及び第1導電層3を備える積層体を準備する。積層体は、例えば、基体2上に第1導電層3を形成することで得られる。基体2上に第1導電層3を形成する方法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、及びメッキ法等が挙げられる。
【0061】
[電子輸送層形成工程]
本工程では、積層体における第1導電層3上に電子輸送層4を形成する。詳しくは、本工程は、緻密酸化チタン層形成工程と、多孔質酸化チタン層形成工程とを備える。
【0062】
(緻密酸化チタン層形成工程)
本工程では、積層体における第1導電層3上に緻密酸化チタン層51を形成する。第1導電層3上に緻密酸化チタン層51を形成する方法としては、例えば、チタンキレート化合物を含有する緻密酸化チタン層用塗布液を第1導電層3上に塗布した後、焼成する方法が挙げられる。緻密酸化チタン層用塗布液を第1導電層3上に塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、スクリーン印刷法、キャスト法、浸漬塗布法、ロールコート法、スロットダイ法、スプレーパイロリシス法、及びエアロゾルデポジション法等が挙げられる。焼成後、形成された緻密酸化チタン層51を四塩化チタン水溶液に浸漬させるとよい。この処理により、緻密酸化チタン層51の緻密性を増大させることができる。
【0063】
緻密酸化チタン層用塗布液の溶媒としては、例えば、アルコール(特に、1-ブタノール)等が挙げられる。緻密酸化チタン層用塗布液が含有するチタンキレート化合物としては、例えば、アセト酢酸エステルキレート基を有する化合物、及びβ-ジケトンキレート基を有する化合物が挙げられる。
【0064】
アセト酢酸エステルキレート基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、ジイソプロポキシチタニウムビス(メチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタニウムビス(エチルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタニウムビス(プロピルアセトアセテート)、ジイソプロポキシチタニウムビス(ブチルアセトアセテート)、ジブトキシチタニウムビス(メチルアセトアセテート)、ジブトキシチタニウムビス(エチルアセトアセテート)、トリイソプロポキシチタニウム(メチルアセトアセテート)、トリイソプロポキシチタニウム(エチルアセトアセテート)、トリブトキシチタニウム(メチルアセトアセテート)、トリブトキシチタニウム(エチルアセトアセテート)、イソプロポキシチタニウムトリ(メチルアセトアセテート)、イソプロポキシチタニウムトリ(エチルアセトアセテート)、イソブトキシチタニウムトリ(メチルアセトアセテート)、及びイソブトキシチタニウムトリ(エチルアセトアセテート)が挙げられる。
【0065】
β-ジケトンキレート基を有する化合物としては、特に限定されないが、例えば、ジイソプロポキシチタニウムビス(アセチルアセトネート)、ジイソプロポキシチタニウムビス(2,4-ヘプタンジオネート)、ジブトキシチタニウムビス(アセチルアセトネート)、ジブトキシチタニウムビス(2,4-ヘプタンジオネート)、トリイソプロポキシチタニウム(アセチルアセトネート)、トリイソプロポキシチタニウム(2,4-ヘプタンジオネート)、トリブトキシチタニウム(アセチルアセトネート)、トリブトキシチタニウム(2,4-ヘプタンジオネート)、イソプロポキシチタニウムトリ(アセチルアセトネート)、イソプロポキシチタニウムトリ(2,4-ヘプタンジオネート)、イソブトキシチタニウムトリ(アセチルアセトネート)、及びイソブトキシチタニウムトリ(2,4-ヘプタンジオネート)が挙げられる。
【0066】
チタンキレート化合物としては、アセト酢酸エステルキレート基を有する化合物が好ましく、ジイソプロポキシチタニウムビス(メチルアセトアセテート)がより好ましい。チタンキレート化合物としては、デュポン社製「TYZOR(登録商標)AA」シリーズ等の市販品を用いてもよい。
【0067】
(多孔質酸化チタン層形成工程)
本工程では、緻密酸化チタン層51上に多孔質酸化チタン層52を形成する。多孔質酸化チタン層52を形成する方法としては、例えば、酸化チタンを含有する多孔質酸化チタン層用塗布液を緻密酸化チタン層51上に塗布した後、焼成する方法が挙げられる。多孔質酸化チタン層用塗布液は、例えば、溶媒及び有機バインダーを更に含有する。多孔質酸化チタン層用塗布液が有機バインダーを含有する場合、有機バインダーは焼成で除去される。多孔質酸化チタン層用塗布液を緻密酸化チタン層51に塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、スクリーン印刷法、キャスト法、浸漬塗布法、ロールコート法、スロットダイ法、スプレーパイロリシス法、及びエアロゾルデポジション法等が挙げられる。
【0068】
多孔質酸化チタン層52の細孔径及び空孔率(空隙率)は、例えば、多孔質酸化チタン層用塗布液が含有する酸化チタン粒子の粒子径、並びに有機バインダーの種類及び含有量によって調整できる。
【0069】
多孔質酸化チタン層用塗布液が含有する酸化チタンとしては、特に限定されないが、例えば、アナターゼ型の酸化チタンが挙げられる。多孔質酸化チタン層用塗布液は、例えば、酸化チタン粒子(より具体的には、日本アエロジル株式会社製「AEROXIDE(登録商標)TiO2 P25」等)をアルコール(例えば、エタノール等)に分散させることで調製できる。多孔質酸化チタン層用塗布液は、例えば、酸化チタンペースト(より具体的には、日揮触媒化成株式会社製「PST-18NR」等)をアルコール(例えば、エタノール等)で希釈することでも調製できる。
【0070】
多孔質酸化チタン層用塗布液が有機バインダーを含有する場合、有機バインダーとしては、エチルセルロース、又はアクリル樹脂が好ましい。アクリル樹脂は、低温分解性に優れ、低温で焼成を行う場合であっても多孔質酸化チタン層52内に有機物が残存し難い。アクリル樹脂としては、300℃程度の温度で分解するものが好ましい。アクリル樹脂としては、例えば、少なくとも1種の(メタ)アクリルモノマーの重合体が挙げられる。(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、及びポリオキシアルキレン構造を有する(メタ)アクリルモノマー等が挙げられる。
【0071】
[光吸収層形成工程]
本工程では、電子輸送層4上(詳しくは、多孔質酸化チタン層52上)に光吸収層6を形成する。本工程は、製造コストを低減する観点から、大気下(常湿下)で行うことが好ましい。電子輸送層4上に光吸収層6を形成する方法としては、例えば、電子輸送層4上に、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物を含有する多孔質層(以下、多孔質ペロブスカイト化合物層と記載することがある)を形成する多孔質ペロブスカイト化合物層形成工程と、多孔質ペロブスカイト化合物層上に、結着樹脂及び溶媒を含有する結着樹脂溶液を塗布する工程(結着樹脂溶液塗布工程)とを備える方法が挙げられる。この方法によれば、多孔質ペロブスカイト化合物層に結着樹脂溶液が浸透し、光吸収層6が形成される。
【0072】
(多孔質ペロブスカイト化合物層形成工程)
本工程では、電子輸送層4上(詳しくは、多孔質酸化チタン層52上)に、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物を含有する多孔質層を形成する。ペロブスカイト化合物がペロブスカイト化合物(1)である場合、多孔質ペロブスカイト化合物層は、例えば、以下の1段階法又は2段階法により形成できる。
【0073】
1段階法では、一般式「AX」で表される化合物(以下、化合物(AX)と記載する)を含有する溶液と、一般式「BX2」で表される化合物(以下、化合物(BX2)と記載する)を含有する溶液とを混合して、混合液を得る。一般式「AX」及び一般式「BX2」中のA、B、及びXは、各々、一般式(1)中のA、B、及びXと同義である。この混合液を、多孔質酸化チタン層52上に塗布して、乾燥させることにより、一般式「ABX3」で表されるペロブスカイト化合物(1)を含有する多孔質層が形成される。混合液を多孔質酸化チタン層52上に塗布する方法としては、例えば、浸漬塗布法、ロールコート法、スピンコート法、及びスロットダイ法等が挙げられる。
【0074】
2段階法では、化合物(BX2)を含有する溶液を多孔質酸化チタン層52上に塗布して、塗布膜を形成する。この塗布膜上に、化合物(AX)を含有する溶液を塗布して、塗布膜中で化合物(BX2)と化合物(AX)とを反応させる。次いで、塗布膜を乾燥させることにより、一般式「ABX3」で表されるペロブスカイト化合物(1)を含有する多孔質層が形成される。化合物(BX2)を含有する溶液を多孔質酸化チタン層52上に塗布する方法、及び化合物(AX)を含有する溶液を塗布膜上に塗布する方法としては、例えば、浸漬塗布法、ロールコート法、スピンコート法、及びスロットダイ法等が挙げられる。
【0075】
通常環境下で行った場合、1段階法及び2段階法の何れであっても、湿気の影響によって針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物(1)が形成される。
【0076】
(結着樹脂溶液塗布工程)
本工程では、多孔質ペロブスカイト化合物層上に、結着樹脂及び溶媒を含有する結着樹脂溶液を塗布する。溶媒としては、ペロブスカイト化合物の結晶構造に影響を与え難い溶媒が好ましい。具体的な溶媒としては、例えば、トルエン、クロロベンゼン、酢酸エチル、及びジエチルエーテル等が挙げられ、トルエン又はクロロベンゼンが好ましい。
【0077】
結着樹脂溶液を多孔質ペロブスカイト化合物層上に塗布する方法としては、例えば、浸漬塗布法、ロールコート法、スピンコート法、及びスロットダイ法等が挙げられ、浸漬塗布法、ロールコート法又はスピンコート法が好ましい。
【0078】
結着樹脂溶液における結着樹脂の含有割合としては、0.1質量%以上5.0質量%以下が好ましく、1.0質量%以上2.0質量%以下がより好ましい。結着樹脂の含有割合を0.1質量%以上とすることで、充分な量の結着樹脂を多孔質ペロブスカイト化合物層に浸透させることができる。結着樹脂の含有割合を5.0質量%以下とすることで、結着樹脂溶液の粘度を適度に低減し、多孔質ペロブスカイト化合物層に浸透させ易くなる。
【0079】
光吸収層形成工程では、上述の方法以外にも、例えば、電子輸送層4上に、ペロブスカイト化合物及び結着樹脂を含有する光吸収層用塗布液を塗布してもよい。
【0080】
(ホール輸送層形成工程)
本工程では、光吸収層6上に、ホール輸送材料を含有するホール輸送層用塗布液を塗布することでホール輸送層7を形成する。ホール輸送層用塗布液は、例えば、ホール輸送材料及び有機溶媒を含有する。ホール輸送層用塗布液の有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アルコール溶媒(特に、イソプロピルアルコール)等を用いることができる。また、光吸収層6におけるペロブスカイト化合物の結晶構造を維持し易くするため、ホール輸送層用塗布液の有機溶媒としてクロロベンゼン又はトルエンを用いてもよい。ホール輸送層用塗布液におけるホール輸送材料の含有割合は、例えば、0.5質量%5質量%以下である。
【0081】
ホール輸送層用塗布液は、ホール輸送材料及び有機溶媒に加え、分散剤を更に含有することが好ましい。ホール輸送層用塗布液における分散剤の含有割合は、例えば、0.5質量%以上5質量%以下である。
【0082】
ホール輸送層用塗布液の塗布方法としては、例えば、浸漬塗布法、スプレー塗布法、スライドホッパー塗布法及びスピンコート法等が挙げられる。
【0083】
(第2導電層形成工程)
本工程では、ホール輸送層7上に第2導電層8を形成する。ホール輸送層7上に第2導電層8を形成する方法としては、特に限定されず、第1導電層3の形成方法と同様の方法(例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、及びメッキ法等)を用いることができる。
【0084】
[その他]
以上、本実施形態に係る光電変換素子製造方法の一例として、
図1の光電変換素子1の製造方法を説明した。但し、本実施形態に係る光電変換素子の製造方法は、上述の製造方法に限定されず、例えば以下の点を変更可能である。
【0085】
本実施形態に係る光電変換素子の製造方法は、第2導電層上に表面層を形成する表面層形成工程を更に備えてもよい。また、本実施形態に係る光電変換素子の製造方法は、積層体準備工程及び第2導電層形成工程を備えなくてもよい。更に、電子輸送層形成工程では、上述の緻密酸化チタン層形成工程及び多孔質酸化チタン層形成工程以外の方法で電子輸送層を形成してもよい。
【0086】
本実施形態に係る光電変換素子の製造方法では、大気下での塗布工程により光吸収層を形成できるため、低コストで光電変換素子を製造できる。また、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物は、板状結晶構造を有するペロブスカイト化合物よりも安定的に製造できる。そのため、本実施形態に係る光電変換素子の製造方法は、歩留まりに優れる。更に、本実施形態に係る光電変換素子の製造方法により得られる光電変換素子は、光電変換効率に優れ、かつ光吸収層が可撓性を有する。
【実施例】
【0087】
以下、実施例を示して本発明を更に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0088】
<光電変換素子の製造>
以下の方法により、実施例1~6及び比較例1~2の光電変換素子を製造した。
【0089】
[実施例1]
(積層体準備工程)
フッ素ドープ酸化スズが蒸着された透明ガラス板(シグマアルドリッチ社製、膜厚:2.2mm)を、横25mm及び縦25mmの大きさに切断した。これにより、基体(透明ガラス板)及び第1導電層(フッ素ドープ酸化スズの蒸着膜)を備える積層体を準備した。この積層体に対して、エタノール中での超音波洗浄処理(1時間)、及びUV洗浄処理(30分間)を行った。
【0090】
(緻密酸化チタン層形成工程)
チタンキレート化合物であるジイソプロポキシチタニウムビス(アセチルアセトネート)を75質量%の濃度で含有する1-ブタノール溶液(シグマアルドリッチ社製)を、1-ブタノールで希釈した。これにより、チタンキレート化合物の濃度が0.02mol/Lである緻密酸化チタン層用塗布液を調製した。スピンコート法により、上述の積層体における第1導電層上に緻密酸化チタン層用塗布液を塗布し、450℃で15分間加熱した。これにより、第1導電層上に、膜厚50nmの緻密酸化チタン層を形成した。
【0091】
(多孔質酸化チタン層形成工程)
酸化チタン及びエタノールを含有する酸化チタンペースト(日揮触媒化成株式会社製「PST-18NR」)1gをエタノール2.5gで希釈することにより、多孔質酸化チタン層用塗布液を調製した。上述の緻密酸化チタン層上に、スピンコート法により多孔質酸化チタン層用塗布液を塗布した後、450℃で1時間焼成した。これにより、緻密酸化チタン層上に、膜厚300nmの多孔質酸化チタン層を形成した。
【0092】
(光吸収層形成工程)
以下の方法により、上述の多孔質酸化チタン層上に光吸収層を形成した。光吸収層の形成は、大気下にて行った。
【0093】
(多孔質ペロブスカイト化合物層形成工程)
PbI
2(東京化成工業株式会社製)922mgと、CH
3NH
3I(東京化成工業株式会社製)318mgとを、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)1.076mLに加熱溶解させた(PbI
2及びCH
3NH
3Iのモル比=1:1)。これにより、固形分濃度が55質量%である混合液Aを調製した。スピンコート法により、上述の多孔質酸化チタン層上にこの混合液Aを塗布した。塗布直後の液膜にトルエンを数滴滴下したところ、液膜が黄色から黒色に変化した。これにより、ペロブスカイト化合物(CH
3NH
3PbI
3)が形成されたことを確認した。その後、液膜を100℃で60分間乾燥させた。これにより、多孔質酸化チタン層上に、膜厚500nmの多孔質ペロブスカイト化合物層を形成した。多孔質ペロブスカイト化合物層の表面を光学顕微鏡で観察したところ、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物Xによって多孔質領域が形成されていることを確認できた(
図3)。
【0094】
(結着樹脂溶液塗布工程)
結着樹脂としてのポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製「エスレックBL-S」)0.1gを、溶媒としてのトルエン5.68mLに溶解させた。得られた結着樹脂溶液を、上述の多孔質ペロブスカイト化合物層上に、スピンコート法を用いて塗布した。その後、塗布した結着樹脂溶液を自然乾燥させた。これにより、光吸収層を形成した。光吸収層の表面を光学顕微鏡で観察したところ、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物Xにより多孔質領域が形成され、その空隙に結着樹脂Yが充填されていることを確認できた(
図4)。光学顕微鏡を用い、任意の20個のペロブスカイト化合物について、長軸長さ及びアスペクト比(長軸長さ/短軸長さ)を計測し、その算術平均値を求めた。ペロブスカイト化合物の長軸長さは20μm、アスペクト比は15であった。
【0095】
(ホール輸送層形成工程)
多層タイプカーボンナノチューブ(MWCNT)(シグマアルドリッチ社製)0.2gと、分散剤0.2gとを、イソプロピルアルコール12.21mLに分散させた。これにより、ホール輸送層用塗布液を調製した。上述の光吸収層上に、スピンコート法を用いてホール輸送層用塗布液を塗布した。その後、塗布したホール輸送層用塗布液を、100℃で30分間乾燥させることで有機溶媒(イソプロピルアルコール)を除去した。これにより、上述の光吸収層上に、膜厚500nmのホール輸送層を形成した。
【0096】
(第2導電層形成工程)
真空蒸着法により、上述のホール輸送層上に膜厚150nm、横25mm及び縦25mmの金蒸着膜を陽極として形成した。これにより、基体と、第1導電層と、電子輸送層(詳しくは、緻密酸化チタン層及び多孔質酸化チタン層)と、光吸収層と、ホール輸送層と、第2導電層とを備える実施例1の光電変換素子を得た。
【0097】
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様の方法により、実施例2~6及び比較例1~2の光電変換素子を製造した。
【0098】
[実施例2]
実施例2の光電変換素子の製造では、結着樹脂溶液の調製において、結着樹脂としてポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製「エスレックBM-S」)0.1gを用いた。
【0099】
[実施例3]
実施例3の光電変換素子の製造では、結着樹脂溶液の調製において、結着樹脂としてポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製「エスレックBH-S」)0.1gを用いた。
【0100】
[実施例4]
実施例4の光電変換素子の製造では、結着樹脂溶液の調製において、結着樹脂としてエチルセルロース樹脂(キシダ化学株式会社製)0.1gを用いた。
【0101】
[実施例5]
実施例5の光電変換素子の製造では、結着樹脂溶液の調製において、溶媒としてクロロベンゼン0.917gを用いた。
【0102】
[実施例6]
実施例6の光電変換素子の製造では、実施例1のように多孔質ペロブスカイト化合物層を形成した後に結着樹脂溶液を塗布する代わりに、以下の通り光吸収層用塗布液を塗布することで光吸収層を形成した。光吸収層の形成は、大気下にて行った。
【0103】
(光吸収層形成工程)
実施例1に記載の通りの組成で混合液Aを調製した後、混合液Aにポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製「エスレックBL-S」)10mgを更に添加して混合及び溶解させた。これにより、光吸収層用塗布液を調製した。
【0104】
スピンコート法により、上述の多孔質酸化チタン層上にこの光吸収層用塗布液を塗布した。塗布直後の液膜にトルエンを数滴滴下したところ、液膜が黄色から黒色に変化した。これにより、ペロブスカイト化合物(CH3NH3PbI3)が形成されたことを確認した。なお、実施例6の光電変換素子の製造では、実施例1と比較し、トルエンを滴下してから液膜が黄色から黒色に変化し始めるまでの時間がやや長かった。
【0105】
その後、液膜を100℃で60分間乾燥させた。これにより、多孔質酸化チタン層上に、膜厚500nmの光吸収層を形成した。光吸収層の表面を光学顕微鏡で観察したところ、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物Sによって多孔質領域が形成され、その空隙に結着樹脂Tが充填されていることを確認できた(
図5)。
【0106】
[比較例1]
比較例1の光電変換素子の製造では、光吸収層形成工程において、結着樹脂溶液塗布工程を行わなかった。即ち、比較例1の光電変換素子の製造では、多孔質ペロブスカイト化合物層形成工程後、多孔質ペロブスカイト化合物層上にホール輸送層を形成した。
【0107】
[比較例2]
比較例2の光電変換素子の製造では、光吸収層形成工程において、結着樹脂溶液塗布工程を行わなかった。また、比較例2の光電変換素子の製造では、グローブボックスを用いて、不活性雰囲気(窒素ガス雰囲気)下で光吸収層形成工程を行った。比較例2の光電変換素子の製造では、形成された光吸収層の表面を光学顕微鏡で観察したところ、板状結晶構造を有するペロブスカイト化合物の層が形成されていることを確認できた。
【0108】
実施例1~6及び比較例1~2の光電変換素子の製造方法を下記表1に示す。下記表1において、「PVB(BL-S)」、「PVB(BM-S)」及び「PVB(BH-S)」は、各々、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製「エスレックBL-S」)、同BM-S、及び同BH-Sを示す。
【0109】
【0110】
<評価>
実施例1~6及び比較例1~2の光電変換素子について、各々の短絡電流、開放電圧、曲線因子、及び光電変換効率を、ソーラーシミュレータ(株式会社ワコム電創製)を用いて測定した。光電変換素子の表面層側の第2導電層が陽極となり、基体側の第1導電層が陰極となるように、ソーラーシミュレータに光電変換素子を接続した。キセノンランプの光をエアマスフィルター(株式会社ニコン製「AM-1.5」)を通過させることにより得られた100mW/cm2の疑似太陽光を、光電変換素子に照射した。照射したときの光電変換素子の電流-電圧特性を測定し、電流-電圧曲線を得た。電流-電圧曲線から、短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(FF)、及び光電変換効率(η)を算出した。短絡電流、開放電圧、曲線因子、及び光電変換効率は、何れも、その数値が高いほど光電変換素子として優れていることを示す。結果を下記表2に示す。
【0111】
実施例1~6及び比較例1~2の光電変換素子について、光吸収層の可撓性を評価するため、以下の試験を行った。実施例1~6及び比較例1~2の光電変換素子における光吸収層形成工程と同様の方法により、100mm×100mmのアルミニウムシート上に光吸収層を形成した。得られた積層体を、実施例1~6及び比較例1~2の光電変換素子における光吸収層の可撓性を示す試料とした。各試料を円筒状に丸め、5秒間保持した後、元のシート状の形状に戻した。その後、光吸収層の表面を目視で観察し、ひび割れが発生していない場合を「光吸収層の可撓性有り」と判断し、ひび割れが発生している場合を「光吸収層の可撓性無し」と判断した。結果を下記表2に示す。
【0112】
【0113】
実施例1~6の光電変換素子は、電子輸送層と、ホール輸送層と、電子輸送層及びホール輸送層の間に配設される光吸収層とを備えていた。光吸収層は、針状結晶構造を有するペロブスカイト化合物と、結着樹脂とを含有していた。そのため、表2に示すように、実施例1~6の光電変換素子は、比較例1の光電変換素子と比較し、短絡電流、開放電圧、曲線因子及び変換効率が良好であった。また、実施例1~6の光電変換素子は、光吸収層が可撓性を有していた。更に、実施例1~6の光電変換素子は、大気下で光吸収層を形成できるため低コストで製造できると判断される。
【0114】
一方、比較例2の光電変換素子は、ペロブスカイト化合物が密に詰まっている光吸収層を備えていた。そのため、表2に示すように、比較例2の光電変換素子は光吸収層が可撓性を有していなかった。また、比較例1の光電変換素子は、実施例1~6の光電変換素子と比較し、短絡電流、開放電圧、曲線因子及び光電変換効率が良好でなかった。これは、比較例1の光電変換素子は、ホール輸送層を形成する際にホール輸送材料が光吸収層に浸透し、その結果、ホール輸送層及び電子輸送層で短絡が発生したためであると判断される。また、比較例2の光電変換素子は、短絡電流、開放電圧、曲線因子及び光電変換効率は良好であったが、不活性雰囲気下で光吸収層を形成するため製造コストが高いと判断される。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の実施形態に係る光電変換素子は、メガソーラーシステムのような太陽光発電システム、太陽電池、及び小型携帯機器用の電源等に利用できる。
【符号の説明】
【0116】
1 :光電変換素子
2 :基体
3 :第1導電層
4 :電子輸送層
51 :緻密酸化チタン層
52 :多孔質酸化チタン層
6 :光吸収層
7 :ホール輸送層
8 :第2導電層