(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】マスクブランクスの製造方法および位相シフトマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/32 20120101AFI20230403BHJP
G03F 1/46 20120101ALI20230403BHJP
【FI】
G03F1/32
G03F1/46
(21)【出願番号】P 2019077122
(22)【出願日】2019-04-15
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000101710
【氏名又は名称】アルバック成膜株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】諸沢 成浩
【審査官】牧 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-074031(JP,A)
【文献】特開2017-033004(JP,A)
【文献】特開2014-160273(JP,A)
【文献】特開2003-107675(JP,A)
【文献】国際公開第2004/070472(WO,A1)
【文献】特開2017-207713(JP,A)
【文献】特開2020-060664(JP,A)
【文献】特開2019-090910(JP,A)
【文献】特開平08-123010(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/00 - 1/86
C23C 14/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板に積層されたクロムを含有する位相シフト層と、前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられてモリブデンシリサイドを含有する反射防止層と、を有し、
前記反射防止層において、酸素含有率の増加にともなって前記反射防止層における屈折率の値が低下するプロファイルにしたがって、
設定した前記反射防止層における酸素含有率により、前記反射防止層における屈折率の値を設定するマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にクロムを含有する前記位相シフト層を積層する位相シフト層形成工程と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置にモリブデンシリサイドを含有する前記反射防止層を積層する反射防止層形成工程と、
を有し、
前記反射防止層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスの分圧を設定することにより前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値を設定する
ことを特徴とするマスクブランクスの製造方法。
【請求項2】
前記反射防止層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスの分圧を設定することにより、酸素含有率の増加にともなって前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値が低下するプロファイルにしたがって、前記反射防止層における酸素含有率を設定する
ことを特徴とする請求項
1記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項3】
前記反射防止層において、前記酸素含有率を6.7atm%~36.8atm%の範囲に設定して、波長365nm~436nmにおける前記屈折率の値を2.6から1.8の範囲に設定する
ことを特徴とする請求項
1または2記載のマスクブランクス
の製造方法。
【請求項4】
前記反射防止層において、前記酸素含有率を6.7atm%~36.8atm%の範囲に設定して、波長365nm~436nmにおける前記消衰係数の値を0.6から0.2の範囲に設定する
ことを特徴とする請求項
1から3のいずれか記載のマスクブランクス
の製造方法。
【請求項5】
前記反射防止層を設けることで、前記反射防止層がない場合に比べて、波長365nm~436nmにおける反射率の比を1(25%)~1/5(5%)の範囲まで低減することを特徴とする請求項
1から4のいずれか記載のマスクブランクス
の製造方法。
【請求項6】
前記反射防止層が炭素を含有し、炭素含有率が4atm%~15.5atm%の範囲に設定される
ことを特徴とする請求項
1から5のいずれか記載のマスクブランクス
の製造方法。
【請求項7】
前記反射防止層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧を増加させて、前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値を低下させ
る工程、
又は、
前記酸素含有ガスの分圧を減少させて、前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値を増加させる
工程のいずれか一方を実行する
ことを特徴とする請求項
1から6のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項8】
前記反射防止層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧比を0.00~0.15の範囲に設定する
ことを特徴とする請求項
7記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項9】
前記反射防止層形成工程において、
前記酸素含有ガスがCO
2とされる
ことを特徴とする請求項
8記載のマスクブランクスの製造方法。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか記載の製造方法により製造されたマスクブランクスから位相シフトマスク
を製造
する方法であって、
前記位相シフト層にパターンを形成する位相シフトパターン形成工程と、
前記反射防止層にパターンを形成する反射防止パターン形成工程と、
を有し、
前記位相シフトパターン形成工程におけるエッチング液と、前記反射防止パターン形成工程におけるエッチング液と、が異なる
ことを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスクブランクスおよび位相シフトマスク、その製造方法に関し、特に位相シフトマスクに用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
FPD(flat panel display,フラットパネルディスプレイ)の高精細化に伴い微細パターンを形成する必要が高まっている。そのため、従来から用いられている遮光膜を用いたマスクだけでなく、エッヂ強調型の位相シフトマスク(PSMマスク)が使用されるようになっている(特許文献1)。
【0003】
これらの位相シフトマスクにおいては、反射率が高い場合が多く、その場合にはマスク作製時のレジストの露光の際に定在波の影響が大きくなるので、マスクパターンの線幅のばらつきが大きくなる。このために位相シフトマスクの反射率を低下させることが望まれている(特許文献2)。
【0004】
位相シフトマスクの反射率を低下させるためには位相シフトマスクの上層に、マスク下層よりも屈折率の低い層を形成し、光干渉効果を用いて反射率を低減する必要がある。
また、マスクブランクスにおける位相シフト層としてクロム材料が一般的に用いられる。この場合に、反射防止層として屈折率の低い膜を得るためには、酸化されたクロム酸化膜を用いることが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-207713号公報
【文献】国際公開第2004/070472号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、酸素濃度の高いクロム酸化膜は、エッチングレートが低くなる。その結果、反射防止層として酸素濃度の高いクロム酸化膜を採用した場合、反射防止層が位相シフト層よりもエッチングレートが低いため、エッチングされない場合が発生する。
このため、マスクパターンを作製した場合に、反射防止層に比べて位相シフト層のエッチングが進行してしまい、庇の形成された断面形状が発生する等の問題が発生してしまうという問題があることがわかった。
【0007】
これに対し、位相シフトマスクにおいては、積層された複数層において同じエッチング量を実現することが求められている。このため、反射率が小さいことと、高い選択比で他の層のエッチングを抑制できることを両立させた反射防止層が求められている。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、反射率が小さいことと、高い選択比で他の層のエッチングを抑制できることを両立させた反射防止層を有する位相シフトマスク、マスクブランクスを実現するという目的を達成しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般的な位相シフトマスクは、i線(波長365nm)で約5%の透過率を有し、位相シフト部と透過部との位相差が180°になるように設定される。
【0010】
マスクを形成するためのガラス基板上に、スパッタリング法等を用いて、位相シフト層の主成分膜となるクロム化合物膜を形成する。この際に形成するクロム化合物はクロムニウム、酸素、窒素、炭素等を含有する膜であることが望ましい。膜中に含有するクロムニウム、酸素、窒素、炭素の組成と膜厚を制御することで所望の透過率と位相を有する位相シフト層を形成することが可能である。
【0011】
この際に、クロム化合物のみで位相シフト層を形成した場合、反射率が約25%と高くなってしまう。このため、位相シフト層の表面に低反射層を形成することにより、反射率を低減することが望ましい。
【0012】
このため、位相シフト層を形成するクロム膜に対して、位相シフト層の膜厚、および、光学定数を調整することに加えて、反射防止層の膜厚、および、光学定数を調整することで位相差および透過率および反射率を制御することが必要となる。
【0013】
ここで、反射防止層を位相シフト層に対して別材料で形成することにより、エッチング工程においてWETエッチングを用いた場合に、異なるエッチング工程として、エッチング液を変えて選択的にエッチングすることが可能である。
【0014】
また、位相シフトマスクの反射率を小さくするためには、反射防止層と位相シフト層との間の屈折率と消衰係数の値の差を大きくすることが重要である。したがって、位相シフトマスクの反射率を低減するためには、反射防止層の屈折率と消衰係数の値を小さくすることが望ましい。
【0015】
本発明者らは、鋭意検討の結果、反射防止層としては、金属シリサイドの中でもモリブデンシリサイドを用いることが望ましいことを見出した。
【0016】
これは、モリブデンシリサイドに含まれる窒素や酸素濃度を制御することで光学特性を大きく制御することが可能であるという知見による。
これは、モリブデンシリサイド膜に含まれるモリブデン、シリコン、酸素、窒素の濃度を制御することでモリブデンシリサイド膜の光学定数を大きく制御することができるためである。
【0017】
特に、本発明者らは、モリブデンシリサイドは膜中の窒素濃度と酸素濃度を増加させることで屈折率と消衰係数の値を低くすることが可能であることを見出した。
特に膜中の酸素濃度を増加させることで、屈折率と消衰係数の値を大きく低下させることができることを見出した。
【0018】
このため、位相シフト層としてクロム化合物を用い、かつ、反射防止層としてモリブデンシリサイド膜を用いることにより、位相シフトマスクの反射率を低くすることが可能になる。
【0019】
また、位相シフト層としてクロム化合物を用いた場合に対して、エッチングにおける高い選択性をもたせることができる。
さらに、モリブデンシリサイドは、マスク洗浄において、一般的に用いられる硫酸と過酸化水素水の混合液に対する耐性が強い。
【0020】
このような知見により、本発明者らは、本発明を次のように完成した。
【0021】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、
透明基板に積層されたクロムを含有する位相シフト層と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられてモリブデンシリサイドを含有する反射防止層と、を有し、
前記反射防止層において、酸素含有率の増加にともなって前記反射防止層における屈折率の値が低下するプロファイルにしたがって、
設定した前記反射防止層における酸素含有率により、前記反射防止層における屈折率の値を設定するマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にクロムを含有する前記位相シフト層を積層する位相シフト層形成工程と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置にモリブデンシリサイドを含有する前記反射防止層を積層する反射防止層形成工程と、
を有し、
前記反射防止層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスの分圧を設定することにより前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値を設定する
ことにより上記課題を解決した。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層において、前記酸素含有率を6.7atm%~36.8atm%の範囲に設定して、波長365nm~436nmにおける前記屈折率の値を2.6から1.8の範囲に設定する
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層において、酸素含有率の増加にともなって前記反射防止層における消衰係数の値が低下するプロファイルにしたがって、
設定した前記反射防止層における酸素含有率により、前記反射防止層における消衰係数の値を設定する
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層において、前記酸素含有率を6.7atm%~36.8atm%の範囲に設定して、波長365nm~436nmにおける前記消衰係数の値を0.6から0.2の範囲に設定する
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層を設けることで、前記反射防止層がない場合に比べて、波長365nm~436nmにおける反射率の比を1(25%)~1/5(5%)の範囲まで低減する
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層が炭素を含有し、炭素含有率が4atm%~15.5atm%の範囲に設定される
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスの分圧を設定することにより、酸素含有率の増加にともなって前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値が低下するプロファイルにしたがって、前記反射防止層における酸素含有率を設定する
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧を増加させて、前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値を低下させる工程、又は、
前記酸素含有ガスの分圧を減少させて、前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値を増加させる工程のいずれか一方を実行する
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧比を0.00~0.15の範囲に設定する
ことができる。
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層形成工程において、
前記酸素含有ガスがCO2とされる
ことができる。
本発明の位相シフトマスクの製造方法は、上記のいずれか記載の製造方法により製造されたマスクブランクスから位相シフトマスクを製造する方法であって、
前記位相シフト層にパターンを形成する位相シフトパターン形成工程と、
前記反射防止層にパターンを形成する反射防止パターン形成工程と、
を有し、
前記位相シフトパターン形成工程におけるエッチング液と、前記反射防止パターン形成工程におけるエッチング液と、が異なる
ことができる。
【0022】
本発明のマスクブランクスは、位相シフトマスクとなる層を有するマスクブランクスであって、
透明基板に積層された位相シフト層と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置に設けられた反射防止層と、
を有し、
前記位相シフト層がクロムを含有し、
前記反射防止層がモリブデンシリサイドを含有し、
前記反射防止層において、酸素含有率の増加にともなって前記反射防止層における屈折率の値が低下するプロファイルにしたがって、
設定した前記反射防止層における酸素含有率により、前記反射防止層における屈折率の値を設定することができる。
これにより、反射防止層における屈折率を所定の値にして、位相シフト層に対して屈折率の低い反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を低減することが可能となる。同時に、位相シフト層がクロムを含有し、反射防止層がモリブデンシリサイドを含有することで、これらをエッチングによりパターニングする際に、異なるエッチャント(エッチング液)を用いて、互いに異なるエッチンゲレートとして、高い選択性を呈する事が可能となる。したがって、位相シフト層と反射防止層とにおけるそれぞれのエッチングにおいて、互いに影響を与えることなく、所望の断面形状を有する位相シフトマスクを製造可能なマスクブランクスを提供することができる。
【0023】
本発明のマスクブランクスは、前記反射防止層において、前記酸素含有率を6.7atm%~36.8atm%の範囲に設定して、波長365nm~436nmにおける前記屈折率の値を2.6から1.8の範囲に設定することができる。
これにより、クロムを含有する位相シフト層よりも屈折率の低い反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を低減することが可能となる。
したがって、反射防止層における反射率を低くすることができ、パターニングにおける断面形状を所定の状態に維持した状態で、マスク層として、例えばg線(436nm)からi線(365nm)に渡る波長帯域において低反射過率と位相シフト能を有することが可能となる。
これにより、FPD製造におけるレーザ光を用いたパターニングにおいても、所定の反射率を有するブランクスを提供することが可能となる。
【0024】
本発明のマスクブランクスは、前記反射防止層において、酸素含有率の増加にともなって前記反射防止層における消衰係数の値が低下するプロファイルにしたがって、
設定した前記反射防止層における酸素含有率により、前記反射防止層における消衰係数の値を設定することができる。
これにより、クロムを含有する位相シフト層に対して、所定の屈折率を有する反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を所定の値に設定することが可能となる。
したがって、反射防止層における反射率を低くすることができ、パターニングにおける断面形状を所定の状態に維持した状態で、マスク層として、例えばg線(436nm)からi線(365nm)に渡る波長帯域において低反射過率と位相シフト能を有することが可能となる。
これにより、FPD製造におけるレーザ光を用いたパターニングにおいても、所定の反射率を有するブランクスを提供することが可能となる。
【0025】
本発明のマスクブランクスは、前記反射防止層において、前記酸素含有率を6.7atm%~36.8atm%の範囲に設定して、波長365nm~436nmにおける前記消衰係数の値を0.6から0.2の範囲に設定することができる。
これにより、クロムを含有する位相シフト層に対して、所定の屈折率を有する反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を所定の値に設定することが可能となる。
したがって、反射防止層における反射率を位相シフト層より低くすることができ、パターニングにおける断面形状を所定の状態に維持した状態で、マスク層として、例えばg線(436nm)からi線(365nm)に渡る波長帯域において低反射過率と位相シフト能を有することが可能となる。
これにより、FPD製造におけるレーザ光を用いたパターニングにおいても、所定の反射率を有するブランクスを提供することが可能となる。
【0026】
本発明のマスクブランクスは、前記反射防止層を設けることで、前記反射防止層がない場合に比べて、波長365nm~436nmにおける反射率の比を1(25%)~1/5(5%)の範囲まで低減することができる。
これにより、クロムを含有する位相シフト層に対して、所定の屈折率を有する反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を所定の値に設定することが可能となる。
したがって、反射防止層における反射率を位相シフト層より低くすることができ、パターニングにおける断面形状を所定の状態に維持した状態で、マスク層として、例えばg線(436nm)からi線(365nm)に渡る波長帯域において低反射過率と位相シフト能を有することが可能となる。
これにより、FPD製造におけるレーザ光を用いたパターニングにおいても、所定の反射率を有するブランクスを提供することが可能となる。
【0027】
本発明のマスクブランクスは、前記反射防止層が炭素を含有し、炭素含有率が4atm%~15.5atm%の範囲に設定されることができる。
これにより、クロムを含有する位相シフト層に対して、所定の屈折率を有する反射防止層とすることができ、マスクブランクスにおける反射率を所定の値に設定することが可能となる。
したがって、反射防止層における反射率を位相シフト層より低くすることができ、パターニングにおける断面形状を所定の状態に維持した状態で、マスク層として、例えばg線(436nm)からi線(365nm)に渡る波長帯域において低反射過率と位相シフト能を有することが可能となる。
これにより、FPD製造におけるレーザ光を用いたパターニングにおいても、所定の反射率を有するブランクスを提供することが可能となる。
【0028】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、上記のいずれか記載のマスクブランクスの製造方法であって、
前記透明基板にクロムを含有する前記位相シフト層を積層する位相シフト層形成工程と、
前記位相シフト層よりも前記透明基板から離間する位置にモリブデンシリサイドを含有する前記反射防止層を積層する反射防止層形成工程と、
を有し、
前記反射防止層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスの分圧を設定することにより前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値を設定することができる。
これにより、反射防止層形成工程において、酸素含有ガスの分圧を所定の範囲に設定した状態で、スパッタリングによりモリブデンシリサイドを含有する反射防止層を位相シフト層に積層することで、反射防止層における屈折率と消衰係数との値を所定の値に設定することが可能となる。
たがって、反射防止層における反射率を位相シフト層より低くすることができ、パターニングにおける断面形状を所定の状態に維持した状態で、マスク層として、例えばg線(436nm)からi線(365nm)に渡る波長帯域において低反射過率と位相シフト能を有することが可能となる。
【0029】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層形成工程において、
スパッタリングにおける供給ガスとして、酸素含有ガスの分圧を設定することにより、酸素含有率の増加にともなって前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値が低下するプロファイルにしたがって、前記反射防止層における酸素含有率を設定することができる。
これにより、反射防止層形成工程において、酸素含有ガスの分圧を所定の範囲に設定した状態で、スパッタリングによりモリブデンシリサイドを含有する反射防止層を位相シフト層に積層することで、反射防止層における酸素含有率を所定値に設定し、反射防止層における屈折率と消衰係数との値を所定の値に設定することが可能となる。
【0030】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧を増加させて、前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値を低下させ、
前記酸素含有ガスの分圧を減少させて、前記反射防止層における屈折率と消衰係数との値を増加させることができる。
これにより、反射防止層形成工程において、酸素含有ガスの分圧を所定の範囲に設定した状態で、スパッタリングによりモリブデンシリサイドを含有する反射防止層を位相シフト層に積層することで、反射防止層における酸素含有率を所定値に設定し、反射防止層における屈折率と消衰係数との値を所定の値に設定することが可能となる。
【0031】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層形成工程において、
前記酸素含有ガスの分圧比を0.00~0.15の範囲に設定することができる。
これにより、所定の酸素含有率として反射防止層を位相シフト層に積層することができる。したがって、反射防止層における屈折率と消衰係数との値を所定の値に設定することが可能となる。
【0032】
本発明のマスクブランクスの製造方法は、前記反射防止層形成工程において、
前記酸素含有ガスがCO2とされることができる。
なお、酸素含有ガスとして、O2、CO、NOX、などを用いることもできる。
【0033】
本発明の位相シフトマスクは、上記のいずれか記載のマスクブランクスから製造される
ことができる。
【0034】
本発明の位相シフトマスクは、 上記の位相シフトマスクの製造方法であって、
前記位相シフト層にパターンを形成する位相シフトパターン形成工程と、
前記反射防止層にパターンを形成する反射防止パターン形成工程と、
を有し、
前記位相シフトパターン形成工程におけるエッチング液と、前記反射防止パターン形成工程におけるエッチング液と、が異なることができる。
これにより、互いに異なるエッチンゲレートとして、高い選択性を呈する事が可能となる。したがって、位相シフト層と反射防止層とにおけるそれぞれのエッチングにおいて、互いに影響を与えることなく、所望の断面形状を有する位相シフトマスクを製造可能なマスクブランクスを提供することができる。
これにより、それぞれの層で、所望の膜特性を有する位相シフトマスクを製造することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、反射防止を有し所定の位相シフト性能を有するマスクブランクス、エッチングにおいて微細化に対応可能な位相シフトマスクを提供することができるという効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明に係るマスクブランクスの第1実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明に係る位相シフトマスクの第1実施形態を示す断面図である。
【
図3】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクの製造方法の第1実施形態における成膜装置を示す模式図である。
【
図4】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態における屈折率のCO
2分圧比依存性を示すグラフである。
【
図5】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態における消衰係数のCO
2分圧比依存性を示すグラフである。
【
図6】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態におけるCr化合物とMoSi化合物の屈折率の波長依存性を示すグラフである。
【
図7】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態におけるCr化合物とMoSi化合物の消衰係数の波長依存性を示すグラフである。
【
図8】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態において、MoSi化合物をCO
2分圧比0%で成膜した位相シフト膜における反射率の波長依存性を膜厚の変化に応じて示すグラフである。
【
図9】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態において、MoSi化合物をCO
2分圧比0%で成膜した位相シフト膜における透過率の波長依存性を膜厚の変化に応じて示すグラフである。
【
図10】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態において、MoSi化合物をCO
2分圧比1%で成膜した位相シフト膜における反射率の波長依存性を膜厚の変化に応じて示すグラフである。
【
図11】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態において、MoSi化合物をCO
2分圧比1%で成膜した位相シフト膜における透過率の波長依存性を膜厚の変化に応じて示すグラフである。
【
図12】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態において、MoSi化合物をCO
2分圧比2%で成膜した位相シフト膜における反射率の波長依存性を膜厚の変化に応じて示すグラフである。
【
図13】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態において、MoSi化合物をCO
2分圧比2%で成膜した位相シフト膜における透過率の波長依存性を膜厚の変化に応じて示すグラフである。
【
図14】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態において、MoSi化合物をCO
2分圧比5%で成膜した位相シフト膜における反射率の波長依存性を膜厚の変化に応じて示すグラフである。
【
図15】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態において、MoSi化合物をCO
2分圧比5%で成膜した位相シフト膜における透過率の波長依存性を膜厚の変化に応じて示すグラフである。
【
図16】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態において、MoSi化合物をCO
2分圧比10%で成膜した位相シフト膜における反射率の波長依存性を膜厚の変化に応じて示すグラフである。
【
図17】本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態において、MoSi化合物をCO
2分圧比10%で成膜した位相シフト膜における透過率の波長依存性を膜厚の変化に応じて示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明に係るマスクブランクス、位相シフトマスクおよびその製造方法の第1実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態におけるマスクブランクスを示す断面図であり、
図2は、本実施形態における位相シフトマスクを示す断面図であり、図において、符号10Bは、マスクブランクスである。
【0038】
本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、露光光の波長が365nm~436nm程度の範囲で使用される位相シフトマスク(フォトマスク)に供されるものとされる。
本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、
図1に示すように、ガラス基板(透明基板)11と、このガラス基板11上に形成された位相シフト層12と、位相シフト層12上に形成された反射防止層13と、で構成される。
つまり、反射防止層13は、位相シフト層12よりもガラス基板11から離間する位置に設けられる。
【0039】
これら位相シフト層12と反射防止層13とは、マスク層としての低反射な位相シフト膜を構成している。
なお、本実施形態に係るマスクブランクス10Bは、位相シフト層12と反射防止層13以外に、耐薬層、保護層、遮光層、エッチングストッパー層、等を積層した構成とされてもよい。
【0040】
ガラス基板(透明基板)11としては、透明性及び光学的等方性に優れた材料が用いられ、例えば、石英ガラス基板を用いることができる。ガラス基板11の大きさは特に制限されず、当該マスクを用いて露光する基板(例えばLCD(液晶ディスプレイ)、プラズマディスプレイ、有機EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイなどのFPD用基板等)に応じて適宜選定される。
【0041】
本実施形態では、ガラス基板(透明基板)11として、一辺100mm程度から、一辺2000mm以上の矩形基板を適用可能であり、さらに、厚み1mm以下の基板、厚み数mmの基板や、厚み10mm以上の基板も用いることができる。
【0042】
また、ガラス基板11の表面を研磨することで、ガラス基板11のフラットネスを低減するようにしてもよい。ガラス基板11のフラットネスは、例えば、20μm以下とすることができる。これにより、マスクの焦点深度が深くなり、微細かつ高精度なパターン形成に大きく貢献することが可能となる。さらにフラットネスは10μm以下と、小さい方が良好である。
【0043】
位相シフト層12としては、Cr(クロム)を主成分とするものであり、さらに、C(炭素)、O(酸素)およびN(窒素)を含むものとされる。
さらに、位相シフト層12が厚み方向に異なる組成を有することもでき、この場合、位相シフト層12として、Cr単体、並びにCrの酸化物、窒化物、炭化物、酸化窒化物、炭化窒化物および酸化炭化窒化物から選択される1つ、または、2種以上を積層して構成することもできる。
位相シフト層12は、後述するように、所定の光学特性および抵抗率が得られるようにその厚み、および、Cr,N,C,O等の組成比(atm%)が設定される。
【0044】
位相シフト層12の膜厚は、位相シフト層12に要求される光学特性によって設定され、Cr,N,C,O等の組成比によって変化する。位相シフト層12の膜厚は、50nm~150nmとすることができる。
【0045】
例えば、位相シフト層12における組成比は、炭素含有率(炭素濃度)が5atm%~15atm%、酸素含有率(酸素濃度)が25atm%~45atm%、窒素含有率(窒素濃度)が15atm%~30atm%、残部がクロムであるように設定されることができる。
【0046】
これにより、位相シフト層12は、波長365nm~436nm程度の範囲において、屈折率が2.4~2.7程度、消衰係数1.0~0.5を有した場合、膜厚90nm程度に設定されることができる。
【0047】
反射防止層13としては、位相シフト層12とは異なる材料として、金属シリサイド膜、例えば、Ta、Ti、W、Mo、Zrなどの金属や、これらの金属どうしの合金とシリコンとを含む膜とすることができる。特に、金属シリサイドの中でもモリブデンシリサイドを用いることが好ましく、MoSiX(X≧2)膜(例えばMoSi2膜、MoSi3膜やMoSi4膜など)が挙げられる。
【0048】
反射防止層13としては、C(炭素)、O(酸素)およびN(窒素)を含有するモリブデンシリサイド膜とすることが好ましい。
反射防止層13において、酸素含有率(酸素濃度)を6.7atm%~36.8atm%の範囲に設定し、窒素含有率(窒素濃度)を13.0atm%~39.5atm%の範囲に設定し、炭素含有率(炭素濃度)が4.0atm%~15.5atm%の範囲に設定することができる。
【0049】
反射防止層13において、酸素含有率(酸素濃度)が17atm%以上、炭素含有率(炭素濃度)が12atm%以上含まれるモリブデンシリサイド化合物を用いることが望ましい。
また、反射防止層13の膜厚を30nm以上、60nm以下に設定することで365~436nmの波長における反射率を低減できる。
【0050】
このとき、反射防止層13において、シリコン含有率(シリコン濃度)を14.0atm%~22.0atm%の範囲に設定し、モリブデン含有率(モリブデン濃度)が22.0atm%~28.5atm%の範囲に設定することができる。
【0051】
これにより、反射防止層13において、波長365nm~436nmにおける前記屈折率の値を2.6から1.8の範囲に設定することができる。
また、反射防止層13において、波長365nm~436nmにおける前記消衰係数の値を0.6から0.2の範囲に設定することができる。
【0052】
したがって、本実施形態のマスクブランクス10Bにおいて、上記の位相シフト層12および反射防止層13を有することで、反射防止層13がない場合に比べて、波長365nm~436nmにおける反射率の比を1(25%)~1/5(5%)の範囲まで低減することが可能となる。
【0053】
本実施形態におけるマスクブランクスの製造方法は、ガラス基板(透明基板)11に位相シフト層12を成膜した後に、反射防止層13を成膜するものとされる。
【0054】
マスクブランクスの製造方法は、位相シフト層12と反射防止層13と以外に、保護層、遮光層、耐薬層、エッチングストッパー層、等を積層する場合には、これらの積層工程を有することができる。
一例として、例えば、クロムを含む遮光層を挙げることができる。
【0055】
本実施形態における位相シフトマスク10は、
図2に示すように、マスクブランクス10Bとして積層された位相シフト層12と反射防止層13とに、パターンを形成したものとされる。
【0056】
以下、本実施形態のマスクブランクス10Bから位相シフトマスク10を製造する製造方法について説明する。
【0057】
レジストパターン形成工程として、マスクブランクス10Bの最外面上にフォトレジスト層を形成する。フォトレジスト層は、ポジ型でもよいしネガ型でもよい。フォトレジスト層としては、液状レジストが用いられる。
【0058】
続いて、フォトレジスト層を露光及び現像することで、反射防止層13よりも外側にレジストパターンが形成される。レジストパターンは、位相シフト層12と反射防止層13とのエッチングマスクとして機能する。
【0059】
レジストパターンは、位相シフト層12と反射防止層13とのエッチングパターンに応じて適宜形状が定められる。一例として、位相シフト領域においては、形成する位相シフトパターンの開口幅寸法に対応した開口幅を有する形状に設定される。
【0060】
次いで、反射防止パターン形成工程として、このレジストパターン越しにエッチング液を用いて反射防止層13をウエットエッチングして反射防止パターン13Pを形成する。
【0061】
反射防止パターン形成工程におけるエッチング液としては、反射防止層13がMoSiである場合には、エッチング液として、フッ化水素酸、珪フッ化水素酸、フッ化水素アンモニウムから選ばれる少なくとも一つのフッ素化合物と、過酸化水素、硝酸、硫酸から選ばれる少なくとも一つの酸化剤とを含むものを用いることが好ましい。
【0062】
次いで、位相シフトパターン形成工程として、パターン形成された反射防止パターン13Pとレジストパターン越しに、位相シフト層12をウエットエッチングして位相シフトパターン12Pを形成する。
【0063】
位相シフトパターン形成工程におけるエッチング液としては、硝酸セリウム第2アンモニウムを含むエッチング液を用いることができ、例えば、硝酸や過塩素酸等の酸を含有する硝酸セリウム第2アンモニウムを用いることが好ましい。
【0064】
反射防止層13を構成するモリブデンシリサイド化合物は、例えばフッ化水素アンモニウムと過酸化水素の混合液によりエッチングすることが可能である。これに対し、位相シフト層12を形成するクロム化合物は、例えば硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸の混合液によりエッチングすることが可能である。
【0065】
したがって、それぞれのウエットエッチングの際における選択比が非常に大きくなる。このため、エッチングによる反射防止パターン13Pおよび位相シフトパターン12P形成後においては、位相シフトマスク10の断面形状として、垂直に近い良好な断面形状を得ることが可能である。
つまり、反射防止パターン13Pと位相シフトパターン12Pとガラス基板11表面との為す角(テーパ角)θは直角に近くなり、例えば、90°程度にすることができる。
【0066】
さらに、遮光層等他の膜を成膜してあるマスクブランクス10Bの場合には、この膜を対応するエッチング液を用いたウエットエッチング等により、反射防止パターン13Pおよび位相シフトパターン12Pに対応した所定の形状にパターンニングする。遮光層等他の膜のパターンニングは、その積層順に対応して位相シフト層12と反射防止層13とのパターンニングの前後所定の工程としておこなわれることができる。
【0067】
以上により、反射防止パターン13Pおよび位相シフトパターン12Pを有する位相シフトマスク10が、
図2に示すように得られる。
【0068】
以下、本実施形態におけるマスクブランクスの製造方法について、図面に基づいて説明する。
【0069】
図3は、本実施形態におけるマスクブランクスの製造装置を示す模式図である。
本実施形態におけるマスクブランクス10Bは、
図3に示す製造装置により製造される。
【0070】
図3に示す製造装置S10は、インターバック式のスパッタリング装置とされ、ロード室S11、アンロード室S16と、ロード室S11に密閉機構S17を介して接続されるとともに、アンロード室S16に密閉機構S18を介して接続された成膜室(真空処理室)S12とを有するものとされる。
【0071】
ロード室S11には、外部から搬入されたガラス基板11を成膜室S12へと搬送する搬送機構S11aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気機構S11fが設けられる。
【0072】
アンロード室S16には、成膜室S12から成膜の完了したガラス基板11を外部へと搬送する搬送機構S16aと、この室内を粗真空引きするロータリーポンプ等の排気機構S16fが設けられる。
【0073】
成膜室S12には、基板保持機構S12aと、2つの成膜処理に対応した機構として二段の成膜機構S13,S14が設けられている。
【0074】
基板保持機構S12aは、搬送機構S11aによって搬送されてきたガラス基板11を、成膜中にターゲットS13b,S14bと対向するようにガラス基板11を保持するとともに、ガラス基板11をロード室S11からの搬入およびアンロード室S16へ搬出可能とされている。
【0075】
成膜室S12のロード室S11側位置には、二段の成膜機構S13,S14のうち一段目の成膜材料を供給する成膜機構S13が設けられている。
成膜機構S13は、ターゲットS13bを有するカソード電極(バッキングプレート)S13cと、バッキングプレートS13cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S13dと、を有する。
【0076】
成膜機構S13は、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S13c付近に重点的にガスを導入するガス導入機構S13eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S13c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気機構S13fと、を有する。
【0077】
さらに、成膜室S12のアンロード室S16側位置には、二段の成膜機構S13,S14のうち二段目の成膜材料を供給する成膜機構S14が設けられている。
成膜機構S14は、ターゲットS14bを有するカソード電極(バッキングプレート)S14cと、バッキングプレートS14cに負電位のスパッタ電圧を印加する電源S14dと、を有する。
【0078】
成膜機構S14は、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S14c付近に重点的にガスを導入するガス導入機構S14eと、成膜室S12内でカソード電極(バッキングプレート)S14c付近を重点的に高真空引きするターボ分子ポンプ等の高真空排気機構S14fと、を有する。
【0079】
成膜室S12には、カソード電極(バッキングプレート)S13c,S14cの付近において、それぞれガス導入機構S13e,S14eから供給されたガスが、隣接する成膜機構S13,S14に混入しないように、ガス流れを抑制するガス防壁S12gが設けられる。これらガス防壁S12gは、基板保持機構S12aがそれぞれ隣接する成膜機構S13,S14間を移動可能なように構成されている。
【0080】
成膜室S12において、それぞれの二段の成膜機構S13,S14は、ガラス基板11に順に成膜するために必要な組成・条件を有するものとされる。
本実施形態において、成膜機構S13は位相シフト層12の成膜に対応しており、成膜機構S14は反射防止層13の成膜に対応している。
【0081】
具体的には、成膜機構S13においては、ターゲットS13bが、ガラス基板11に位相シフト層12を成膜するために必要な組成として、クロムを有する材料からなるものとされる。
【0082】
同時に、成膜機構S13においては、ガス導入機構S13eから供給されるガスとして、位相シフト層12の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として条件設定される。
【0083】
また、成膜条件にあわせて高真空排気機構S13fからの排気がおこなわれる。
また、成膜機構S13においては、電源S13dからバッキングプレートS13cに印加されるスパッタ電圧が、位相シフト層12の成膜に対応して設定される。
【0084】
また、成膜機構S14においては、ターゲットS14bが、位相シフト層12上に反射防止層13を成膜するために必要な組成として、モリブデンシリサイドを有する材料からなるものとされる。
【0085】
同時に、成膜機構S14においては、ガス導入機構S14eから供給されるガスとして、反射防止層13の成膜に対応して、プロセスガスが炭素、窒素、酸素などを含有し、アルゴン等のスパッタガスとともに、所定のガス分圧として設定される。
【0086】
また、成膜条件にあわせて高真空排気機構S14fからの排気がおこなわれる。
また、成膜機構S14においては、電源S14dからバッキングプレートS14cに印加されるスパッタ電圧が、反射防止層13の成膜に対応して設定される。
【0087】
図3に示す製造装置S10においては、ロード室S11から搬送機構S11aによって搬入したガラス基板11に対して、成膜室(真空処理室)S12において基板保持機構S12aによって搬送しながら二段のスパッタリング成膜をおこなった後、アンロード室S16から成膜の終了したガラス基板11を搬送機構S16aによって外部に搬出する。
【0088】
位相シフト層形成工程においては、成膜機構S13において、ガス導入機構S13eから成膜室S12のバッキングプレートS13c付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S13cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS13b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0089】
成膜室S12内のバッキングプレートS13c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S13cのターゲットS13bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の組成で位相シフト層12が形成される。
【0090】
同様に、反射防止層形成工程においては、成膜機構S14において、ガス導入機構S14eから成膜室S12のバッキングプレートS14c付近に供給ガスとしてスパッタガスと反応ガスとを供給する。この状態で、外部の電源からバッキングプレート(カソード電極)S14cにスパッタ電圧を印加する。また、マグネトロン磁気回路によりターゲットS14b上に所定の磁場を形成してもよい。
【0091】
成膜室S12内のバッキングプレートS14c付近でプラズマにより励起されたスパッタガスのイオンが、カソード電極S14cのターゲットS14bに衝突して成膜材料の粒子を飛び出させる。そして、飛び出した粒子と反応ガスとが結合した後、ガラス基板11に付着することにより、ガラス基板11の表面に所定の組成で反射防止層13が形成される。
【0092】
この際、位相シフト層12の成膜で、ガス導入機構S13eから所定の分圧となる窒素ガス、酸素含有ガス等を供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0093】
また、反射防止層13の成膜で、ガス導入機構S14eから所定の分圧となる窒素ガス、酸素含有ガス等を供給してその分圧を制御するように切り替えて、その組成を設定した範囲内にする。
【0094】
ここで、酸素含有ガスとしては、CO2(二酸化炭素)、O2(酸素)、N2O(一酸化二窒素)、NO(一酸化窒素)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。
また、炭素含有ガスとしては、CO2(二酸化炭素)、CH4(メタン)、C2H6(エタン)、CO(一酸化炭素)等を挙げることができる。
なお、位相シフト層12、反射防止層13の成膜で、必要であればターゲットS13b,S14bを交換することもできる。
【0095】
さらに、これら位相シフト層12、反射防止層13の成膜に加え、他の膜を積層する場合には、対応するターゲット、ガス等のスパッタ条件としてスパッタリングにより成膜するか、他の成膜方法によって該当膜を積層して、本実施形態のマスクブランクス10Bとする。
【0096】
以下、本実施形態における位相シフト層12、反射防止層13の膜特性について説明する。
【0097】
ここで、説明のため、位相シフト層12がクロムを主成分とする膜、反射防止層13がMoSiを主成分とする膜とするが、これに限定されるものではない。
本実施形態の低反射位相シフト膜である位相シフト層12と反射防止層13とにおいては、位相シフト層12において、上述した範囲に酸素濃度、炭素濃度、窒素濃度が設定され、また反射防止層13において、上述した範囲に酸素濃度、炭素濃度、窒素濃度が設定される。
【0098】
具体的には、位相シフト層12は、スパッタリングによる成膜時の窒素含有ガスであるNO2分圧および酸素含有ガスであるCO2分圧を変化させて、例えば、位相シフト層12における組成比は、炭素含有率(炭素濃度)が5atm%~15atm%、酸素含有率(酸素濃度)が25atm%~45atm%、窒素含有率(窒素濃度)が15atm%~30atm%、残部がクロムとして成膜される。
【0099】
具体的には、反射防止層13は、スパッタリングによる成膜時の酸素含有ガスであるCO2分圧を変化させて、例えば、酸素濃度が17%以上、炭素濃度が12%以上のMoSi膜として成膜される。
反射防止層13の成膜において、モリブデンシリサイドターゲットの組成Mo:Si=1:2.3とすることができ、スパッタリングの際にはN2とCO2の混合ガスを用いることができる。
【0100】
ここで、酸素および炭素の含有量変化による膜特性変化について検証する。
【0101】
まず、酸素含有量および炭素含有量変化による透過率変化について検証する。
例として、スパッタリングによる成膜時のCO2分圧を変化させた際において、クロム膜上に成膜したMoSi膜の組成比変化を表1に示す。
表1は、反射防止層13として成膜したモリブデンシリサイド化合部の組成をオージェ電子分光法により求めた結果である。
【0102】
【0103】
表1に示すように、CO2分圧が変化すると、これにともなって炭素・窒素・酸素の組成比が変化することがわかる。同時に、モリブデンとシリコンの組成比も変化する。
表1に示す結果から、成膜時のCO2分圧を増加させることで、酸素濃度、炭素濃度が増加し、窒素濃度、シリコン濃度、モリブデン濃度は減少することがわかる。
【0104】
本実施形態の低反射位相シフト膜である位相シフト層12と反射防止層13とにおいては、これを用いて、所定の透過率および消衰係数、すなわち、所定の反射率等の光学特性を有するように、位相シフト膜を設定することができる。
【0105】
次に、酸素含有量変化による光学特性について検証する。
【0106】
図4は、本実施形態の反射防止層13における屈折率変化のCO
2分圧依存性を示すグラフであり、
図5は、本実施形態の反射防止層13における消衰係数変化のCO
2分圧依存性を示すグラフである。
なお、
図4,
図5において、CO
2分圧は、CO
2分圧/N
2分圧+CO
2分圧である分圧比として示している。
また、
図4,
図5において、屈折率および消衰係数は、波長が365nm~436nm程度の範囲、特に波長405nmに対するものを示している。
【0107】
図4,
図5に示すように、反射防止層13の成膜において、CO
2分圧を変化させることにより、CO
2分圧/N
2分圧+CO
2分圧である分圧比が増加するにしたがって、減少する屈折率のプロファイルを有する。
同様に、
図4,
図5に示すように、反射防止層13の成膜において、CO
2分圧を変化させることにより、CO
2分圧/N
2分圧+CO
2分圧である分圧比が増加するにしたがって、減少する消衰係数のプロファイルを有する。
【0108】
つまり、反射防止層13の成膜において、CO2分圧、あるいは、CO2分圧比を変化させることにより、表1に示すように、炭素・窒素・酸素・モリブデン・シリコンの組成比が変化する。
これにより、屈折率および消衰係数が変化する。
したがって、CO2分圧を設定することにより、反射防止層13の屈折率および消衰係数を所望の値に設定することが可能となることがわかる。
【0109】
図6は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における屈折率の波長依存性を示すグラフであり、
図7は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における消衰係数の波長依存性を示すグラフである。
ここで、位相シフト層12の組成は、炭素10atm%、酸素34atm%、窒素18atm%、クロム38atm%、膜厚80nmとされている。
なお、
図6,
図7において、CO
2分圧比を0%、1%、2%、5%、10%として変化させている。
【0110】
図6,
図7に示すように、CO
2分圧比を増加させることにより、屈折率を低減させることが可能である。
図6,
図7に示すように、CO
2分圧比を増加させることにより、消衰係数を低減させることが可能である。
【0111】
図8は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における反射率の波長依存性を示すグラフであり、
図9は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における透過率の波長依存性を示すグラフである。
なお、
図8,
図9において、CO
2分圧比は0%であり、また、反射防止層13の膜厚を0nm~70nmで変化させた。
【0112】
図8に示すように、CO
2分圧比を0%に設定することにより、反射防止層13の膜厚に応じて反射率を設定することが可能である。
特に、このCO
2分圧比では波長365nm付近において、反射防止層13の膜厚がゼロ、つまり、反射防止層13を設けなかった場合に反射率が25%であった。
これに対して、このCO
2分圧比では波長365nm付近において、反射防止層13の膜厚に応じて反射率を20%程度まで減少させることが可能である。
【0113】
図9に示すように、CO
2分圧比を0%に設定することにより、反射防止層13の膜厚に応じて透過率を設定することが可能である。
特に、このCO
2分圧比において、波長300nm~400nm程度の範囲において、反射防止層13の膜厚に応じて透過率をあまり変化させないことが可能である。
【0114】
図10は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における反射率の波長依存性を示すグラフであり、
図11は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における透過率の波長依存性を示すグラフである。
なお、
図10,
図11において、CO
2分圧比は1%であり、また、反射防止層13の膜厚を0nm~70nmで変化させた。
【0115】
図10に示すように、CO
2分圧比を1%として設定することにより、反射防止層13の膜厚に応じて反射率を設定することが可能である。
特に、このCO
2分圧比では波長365nm付近において、反射防止層13の膜厚がゼロ、つまり、反射防止層13を設けなかった場合に反射率が25%であった。
これに対して、このCO
2分圧比では波長365nm付近において、反射防止層13の膜厚に応じて反射率を15%程度まで減少させることが可能である。
【0116】
図11に示すように、CO
2分圧比を1%として設定することにより、反射防止層13の膜厚に応じて透過率を設定することが可能である。
特に、このCO
2分圧比において、波長300nm~400nm程度の範囲において、反射防止層13の膜厚に応じて透過率をあまり変化させないことが可能である。
【0117】
図12は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における反射率の波長依存性を示すグラフであり、
図13は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における透過率の波長依存性を示すグラフである。
なお、
図12,
図13において、CO
2分圧比は2%であり、また、反射防止層13の膜厚を0nm~70nmで変化させた。
【0118】
図12に示すように、CO
2分圧比を2%として設定することにより、反射防止層13の膜厚に応じて反射率を設定することが可能である。
特に、このCO
2分圧比では波長365nm付近において、反射防止層13の膜厚がゼロ、つまり、反射防止層13を設けなかった場合に反射率が25%であった。
これに対して、このCO
2分圧比では波長365nm付近において、反射防止層13の膜厚に応じて反射率を10%程度まで減少させることが可能である。
【0119】
図13に示すように、CO
2分圧比を2%として設定することにより、反射防止層13の膜厚に応じて透過率を設定することが可能である。
特に、このCO
2分圧比において、波長300nm~500nm程度の範囲において、反射防止層13の膜厚に応じて透過率を変化させないことが可能である。
【0120】
図14は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における反射率の波長依存性を示すグラフであり、
図15は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における透過率の波長依存性を示すグラフである。
なお、
図14,
図15において、CO
2分圧比は5%であり、また、反射防止層13の膜厚を0nm~70nmで変化させた。
【0121】
図14に示すように、CO
2分圧比を5%として設定することにより、反射防止層13の膜厚に応じて反射率を設定することが可能である。
特に、このCO
2分圧比では波長365nm付近において、反射防止層13の膜厚がゼロ、つまり、反射防止層13を設けなかった場合に反射率が25%であった。
これに対して、このCO
2分圧比では波長365nm付近において、反射防止層13の膜厚に応じて反射率を10%より低い値まで減少させることが可能である。
【0122】
図15に示すように、CO
2分圧比を5%として設定することにより、反射防止層13の膜厚に応じて透過率を設定することが可能である。
特に、このCO
2分圧比において、波長300nm~600nm程度の範囲において、反射防止層13の膜厚に応じて透過率を変化させないことが可能である。
【0123】
図16は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における反射率の波長依存性を示すグラフであり、
図17は、CO
2分圧比を変化させた際における本実施形態の位相シフト層12および反射防止層13における透過率の波長依存性を示すグラフである。
なお、
図16,
図17において、CO
2分圧比は10%であり、また、反射防止層13の膜厚を0nm~70nmで変化させた。
【0124】
図16に示すように、CO
2分圧比を10%として設定することにより、反射防止層13の膜厚に応じて反射率を設定することが可能である。
特に、このCO
2分圧比では波長365nm付近において、反射防止層13の膜厚がゼロ、つまり、反射防止層13を設けなかった場合に反射率が25%であった。
これに対して、このCO
2分圧比では波長365nm付近において、反射防止層13の膜厚に応じて反射率を5%より低い値まで減少させることが可能である。
【0125】
図17に示すように、CO
2分圧比を10%として設定することにより、反射防止層13の膜厚に応じて透過率を設定することが可能である。
特に、このCO
2分圧比において、波長300nm~600nm程度の範囲において、反射防止層13の膜厚に応じて透過率を極めて変化させないことが可能である。
【0126】
本実施形態に係るマスクブランクス10B、位相シフトマスク10は、位相シフト層12にクロムを主成分とする材料を用い、反射防止層13に金属シリサイド等の異種材料を用いることで、それぞれの層をエッチングする工程において、高い選択比で他の層のエッチングを抑制できるプロセスを用いることが可能である。
【0127】
これにより、位相シフト層12と反射防止層13のエッチング状態をそれぞれ制御することが可能であるために、反射率を十分に低減した上で、位相シフトマスク10として用いるのに必要な断面形状を得ることが可能である。
【0128】
本実施形態に係るマスクブランクス10B、位相シフトマスク10は、モリブデンシリサイドを含む反射防止層13において、含有する窒素濃度と酸素濃度とを増加させることで屈折率と消衰係数の値を低減することが可能である。
【0129】
反射防止層13における酸素濃度を増加させることで、屈折率と消衰係数の値を大きく低下させることが可能なことがわかった。
【0130】
一般的な位相シフトマスクは、i線(波長365nm)で約5%の透過率を有する。また、一般的な位相シフトマスクは、位相シフトパターン12Pのある領域とパターンのない透過領域との位相差が180°になるように設定される。
【0131】
このため、位相シフト層12を形成するクロム膜、および、反射防止層13を形成するモリブデンシリサイド膜において、これらの膜厚と光学定数とを調整することで位相差および透過率および反射率を制御することが行われている。
【0132】
上述した結果から、モリブデンシリサイド膜に含まれるモリブデン、シリコン、酸素、窒素の濃度を制御することでモリブデンシリサイド膜の光学定数を大きく制御することができる。
【0133】
特にモリブデンシリサイド膜の窒素濃度と酸素濃度の制御により屈折率と消衰係数を大きく制御することが可能であることがわかった。
このため反射防止層13としてモリブデンシリサイド膜を用いることで、位相シフトマスク10の反射率を低くすることが可能になることがわかった。
【0134】
同時に、反射防止層13と位相シフト層12とは別材料で形成されているために、エッチング工程においてウエットエッチングを用いた場合に、異なるエッチング液に変えて、それぞれの層を選択的にエッチングすることが可能である。
【0135】
したがって、それぞれのウエットエッチングの際の選択比は非常に大きくすることができる。このため、エッチング後の位相シフトマスク10における位相シフトパターン12P、反射防止パターン13Pの断面形状をガラス基板11の表面に垂直に近い状態にして、良好な断面形状を得ることが可能である。
【0136】
特に、反射防止層13として用いるMoSi化合物は、成膜時の酸素分圧(CO2分圧、あるいは、CO2分圧比)を高く設定することで、位相シフトマスク10の反射率を大きく低減することができる。したがって、酸素濃度が17%以上、炭素濃度が12%以上含まれるモリブデンシリサイド化合物を反射防止層13に用いることが望ましいことがわかった。
【0137】
さらに、モリブデンシリサイドからなる反射防止層13の膜厚を30nm以上、60nm以下に設定することで365~436nmの波長における反射率を低減できることがわかった。
【0138】
反射防止層13として用いるモリブデンシリサイド化合物において、波長400nmでの屈折率は1.8以上2.6以下、消衰係数は0.2以上0.6以下であることが望ましいことがわかる。
【0139】
本実施形態において、モリブデン化合物によって反射防止層13を形成し、クロム化合物で位相シフト層12を形成した積層構造を有するマスクブランクス10Bを用いることにより、パターニングの際に用いるレーザ描画光の反射を抑制して定在波の効果を小さくすることが可能になる。
【0140】
これにより、レジストパターンのCD均一性が改善した位相シフトマスク10を形成することが可能となる。
【0141】
さらに、本実施形態において、より微細なパターンの形成も可能になるという効果を奏することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0142】
本発明の活用例として、位相シフト効果を有するマスクおよびマスクブランクスを挙げることができる。
【符号の説明】
【0143】
10…位相シフトマスク
10B…マスクブランクス
11…ガラス基板(透明基板)
12…位相シフト層
12P…位相シフトパターン
13…反射防止層
13P…反射防止パターン