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特許7254635歯車損傷予測装置、歯車損傷予測システム、および、歯車損傷予測方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】歯車損傷予測装置、歯車損傷予測システム、および、歯車損傷予測方法
(51)【国際特許分類】
   F16H 57/01 20120101AFI20230403BHJP
【FI】
F16H57/01
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019108468
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020200892
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】303025663
【氏名又は名称】株式会社日立ニコトランスミッション
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】津野田 亘
(72)【発明者】
【氏名】岩本 安弘
(72)【発明者】
【氏名】平野 正博
(72)【発明者】
【氏名】荒木 美穂
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-337449(JP,A)
【文献】特開2018-115722(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車対を収納した歯車箱と、
前記歯車箱に潤滑油を供給する給油ノズルと、
前記給油ノズルに供給される潤滑油の給油温度を計測する給油温度センサと、
前記給油ノズルに供給される潤滑油の流量を計測する流量センサと、
前記歯車対のかみ合い後の潤滑油の排油温度を計測する排油温度センサと、
を有する歯車装置の歯面損傷時期を予測する歯車損傷予測装置であって、
前記給油温度、前記流量、および、前記排油温度を取得する入力部と、
前記入力部が取得した前記排油温度と前記給油温度の差と前記流量から前記歯車対の接触面に生じる摩擦エネルギを計算し、前記摩擦エネルギを積分することで累積摩擦エネルギを計算する積分演算部と、
を具備することを特徴とする歯車損傷予測装置。
【請求項2】
歯車対を収納した歯車箱と、
前記歯車箱に潤滑油を供給する給油ノズルと、
前記給油ノズルに供給される潤滑油の給油温度を計測する給油温度センサと、
前記給油ノズルに供給される潤滑油の圧力を計測する圧力センサと、
前記歯車対のかみ合い後の潤滑油の排油温度を計測する排油温度センサと、
を有する歯車装置の歯面損傷時期を予測する歯車損傷予測装置であって、
前記給油温度、前記圧力、および、前記排油温度を取得する入力部と、
前記入力部が取得した前記圧力に基づいて前記給油ノズルに供給される潤滑油の流量を計算し、前記入力部が取得した前記排油温度と前記給油温度の差と前記流量から前記歯車対の接触面に生じる摩擦エネルギを計算し、前記摩擦エネルギを積分することで累積摩擦エネルギを計算する積分演算部と、
を具備することを特徴とする歯車損傷予測装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の歯車損傷予測装置において、
前記歯車装置は、
前記歯車箱に第一歯車対と第二歯車対を収納し、
前記第一歯車対のかみ合い後の潤滑油の第一排油温度を計測する第一排油温度センサと、
前記第二歯車対のかみ合い後の潤滑油の第二排油温度を計測する第二排油温度センサと、
を有するものであり、
前記入力部には、さらに、前記第一排油温度、第二排油温度、および、運転情報を取得する入力部と、
前記積分演算部は、前記入力部が取得した前記運転情報に基づいて、かみ合っている歯車対を特定するとともに、前記第一排油温度または前記第二排油温度と前記給油温度の差と前記流量から前記第一歯車対または前記第二歯車対の接触面における摩擦エネルギを計算し、前記摩擦エネルギを積分することで前記第一歯車対または第二歯車対の接触面に生じる累積摩擦エネルギを計算することを特徴とする歯車損傷予測装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の歯車損傷予測装置において、
前記歯車装置には、さらに、
前記歯車対のかみ合い部から落下した潤滑油を回収する第一油槽と、
前記歯車対のかみ合い部以外から落下した潤滑油を回収する第二油槽と、
が設けられており、
前記入力部には、前記排油温度センサが前記第一油槽内の潤滑油から計測した前記排油温度が入力されることを特徴とする歯車損傷予測装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4の何れか一項に記載の歯車損傷予測装置において、
さらに、前記摩擦エネルギの増加傾向に基づき、前記累積摩擦エネルギが所定の閾値に到達する歯面損傷時期を推定する比較部を具備することを特徴とする歯車損傷予測装置。
【請求項6】
請求項5に記載の歯車損傷予測装置とサーバを、ネットワークを介して接続した歯車損傷予測システムであって、
前記歯車損傷予測装置が求めた、累積摩擦エネルギまたは歯面損傷時期を前記サーバへ送信することを特徴とする歯車損傷予測システム。
【請求項7】
歯車対を収納した歯車箱と、
前記歯車箱に潤滑油を供給する給油ノズルと、
を有する歯車装置の歯車損傷時期を予測する歯車損傷予測方法であって
前記給油ノズルに供給される前記潤滑油の給油温度を計測し、
前記給油ノズルに供給される前記潤滑油の流量を計測し、
前記歯車対のかみ合い後の前記潤滑油の排油温度を計測し、
前記給油温度と前記排油温度の差と前記流量から前記歯車対の接触面に生じる摩擦エネルギを計算し、
前記摩擦エネルギを積分することで累積摩擦エネルギを推定し、
前記摩擦エネルギの増加傾向に基づき、前記累積摩擦エネルギが所定の閾値に到達する歯面損傷時期を推定することを特徴とする歯車損傷予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯面の損傷時期を予測する、歯車損傷予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶や産業用途で用いられる歯車装置は、機械システムの重要部に利用されることが多い。歯車装置は、歯車対のかみ合いにより、回転動力を伝達する。このとき、歯車対のかみ合い部の接触面(歯面)には、高い接触面圧がかかり、繰り返し応力により疲労損傷に至る。この損傷は、装置の使用状態や材料組成の偏りなどにより、発生時期にはばらつきがある。そこで、歯面の損傷時期を予測することができれば、適切なタイミングでメンテナンスを実施し、システムのダウンタイムを低減できる。
【0003】
これに対して、非特許文献1の強度評価法では、金属試験片を用いた疲労試験結果から、「摩擦仕事の累積値を考えると、試験範囲内ですべり率によらず最大約1.6倍のばらつきでマイクロピッチング限界を評価できる」としている。すなわち、接触部の摩擦仕事の累積値により、材料表面の損傷時期を整理できるとしている。
【0004】
一方、特許文献1のブレーキ装置では、「ブレーキケース内には、モータ軸よりも半径方向の外側に、複数の回転側ブレーキ板と複数の非回転側ブレーキ板とを、交互に重なり合う状態で配置する。ブレーキケースの潤滑油流出口側には、該潤滑油流出口側から流出する潤滑油の油温を検出する油温センサを設ける。コントローラは、油温センサにより検出された油温に基づいて、回転側ブレーキ板と非回転側ブレーキ板との摩擦係合部の損傷を、予め設定した所定時間内における油温のピーク値とその所定時間内の油温の積算値とを用いて判定する。」としている。すなわち、給排油の温度を計測することで、ブレーキ板の接触部の損傷を検知するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-172423号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】平野正博、外3名、「摩擦仕事に基づくマイクロピッチング強度評価法」、トライボロジー会議2018春 東京、日本トライボロジー学会、2018年5月、A38
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
歯車損傷時期はさまざまな条件により変化するため、歯車装置の使用時間のみから損傷時期を予測することは難しい。この条件とは、具体的には、トルクや回転速度といった運転条件、潤滑油温度や給油流量といった潤滑条件、歯車の材質や表面処理方法といった材料条件などである。
【0008】
非特許文献1では、接触部の摩擦エネルギの累積値がある一定の値になったときに、金属片の接触疲労損傷が発生すると述べられている。しかし、この摩擦エネルギは、接触応力や接触幅などから計算されるとしており、それらを実機にて計測することは困難である。
【0009】
また、特許文献1のブレーキ装置では、ブレーキの損傷を検知するため、油温の変化を計測しているが、ブレーキ装置は発熱箇所がブレーキに限定される構造であるため、排油口後流に設けた油温センサを用いてもブレーキの損傷を正確に判定できるのに対し、歯車箱内に複数の発熱箇所が存在する歯車装置を監視対象とする場合には、軸受など他の機械要素の摩擦エネルギの混入があるため、特許文献1のように排油口後流に設けた油温センサの配置では、歯面の損傷に関与する摩擦エネルギのみを測定することができないという問題があった。
【0010】
そこで、本発明では、歯面の摩擦エネルギが歯面の損傷に関与するだけでなく、歯車のかみ合い部において油温を上昇させることに着目し、かみ合い部前後の油温の変化を計測し、これに基づいて歯面で発生する累積摩擦エネルギを求め、その推移から損傷時期を精度よく予測できる歯車損傷予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の歯車損傷予測装置の一つは、歯車対を収納した歯車箱と、前記歯車箱に潤滑油を供給する給油ノズルと、前記給油ノズルに供給される潤滑油の給油温度を計測する給油温度センサと、前記給油ノズルに供給される潤滑油の流量を計測する流量センサと、前記歯車対のかみ合い後の潤滑油の排油温度を計測する排油温度センサと、を有する歯車装置の歯面損傷時期を予測する歯車損傷予測装置であって、前記給油温度、前記流量、および、前記排油温度を取得する入力部と、前記入力部が取得した前記排油温度と前記給油温度の差と前記流量から前記歯車対の接触面に生じる摩擦エネルギを計算し、前記摩擦エネルギを積分することで累積摩擦エネルギを計算する積分演算部と、を具備するものとした。
【発明の効果】
【0012】
本発明の歯車損傷予測装置によれば、運転条件や潤滑条件により変化する歯車損傷時期を、精度よく予測することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1の歯車損傷予測装置と歯車装置を示す概念図。
図2】実施例1の歯車損傷予測装置の機能ブロック図。
図3】実施例2の歯車損傷予測装置と歯車装置を示す概念図。
図4】実施例3の歯車損傷予測装置と歯車装置を示す概念図。
図5】実施例3の歯車損傷予測装置の処理手順を示すフローチャート。
図6】実施例4の歯車損傷予測装置と歯車装置を示す概念図。
図7】実施例5の歯車損傷予測システムを示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の歯車損傷予測装置、歯車損傷予測システム、および、歯車損傷予測方法の実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例1の歯車損傷予測装置20と、その監視対象である歯車装置1Aを、図1図2に沿って説明する。
【0016】
図1は、歯車装置1Aの概略構成と、歯車装置1Aで計測され歯車損傷予測装置20に送信される計測値を示す概念図である。ここに示すように、歯車装置1Aは、歯車箱3内に収納した、歯車2aと歯車2bがかみ合いながら回転する装置であり、両歯車のかみ合い部の接触面(歯面)には、給油ノズル8から潤滑油が供給されている。かみ合い部から落下した潤滑油は、油槽4で回収され、その後、ポンプ6により汲み上げられる。汲み上げられた油中の不純物はフィルタ5により除去された後、流量調整バルブ7により流量調整され、給油ノズル8を経由して再度、かみ合い部へと供給される。なお、フィルタ5の設置位置は、ポンプ6の上流でも下流でもよい。
【0017】
このとき、両歯車のかみ合いの摩擦エネルギにより、かみ合い部を通過した潤滑油の温度は上昇する。そこで、かみ合い部を潤滑油が通過した際の温度上昇を計測することにより、歯車の歯面で生じた摩擦エネルギを推定することができる。具体的には、給油ノズル8の上流配管内に設置した給油温度センサ9により、歯車かみ合い部へ供給される潤滑油の温度(給油温度T)を計測し、歯車のかみ合い部直下に設置した排油温度センサ11により、かみ合い後の潤滑油の温度(排油温度T)を計測する。なお、図1では、かみ合い部直下に油受け12を設け、ここに一時的に蓄えた排油の油温を排油温度センサ11で測定することで、できるだけかみ合い直後の油温を計測できるようにしているが、かみ合い部から油槽4に落下する排油の温度を排油温度センサ11で直接計測してもよい。また、流量センサ10により、かみ合い部に供給されている潤滑油の単位時間当たりの流量qを計測する。これらの計測値は、歯車箱3の外部に設置された歯車損傷予測装置20へと入力される。
【0018】
図2は、歯車損傷予測装置20の機能ブロック図である。ここに示すように、歯車損傷予測装置20は、入力部21、記憶部22、積分演算部23、比較部24、報知部25を有する。なお、歯車損傷予測装置20は、実際には、CPU等の演算装置、半導体メモリ等の主記憶装置、ハードディスク等の補助記憶装置、通信装置、液晶モニタなどのハードウェアを備えたパソコン等の計算機である。そして、補助記憶装置に記録されたデータベースを参照しながら、主記憶装置にロードされたプログラムを演算装置が実行することで、後述する各機能を実現するが、以下では、このような計算機分野での周知技術を適宜省略しながら説明する。
【0019】
入力部21は、入力された、給油温度T、排油温度T、単位時間当たりの流量qの各計測値を処理するとともに、必要に応じて記憶部22や積分演算部23に出力する。
【0020】
記憶部22には、プログラムや計測値や演算結果、および、損傷が発生する際の累積摩擦エネルギの閾値が格納されている。
【0021】
積分演算部23は、各計測値に基づいて単位時間当たりの摩擦エネルギeを計算し、これを時間積分することで累積摩擦エネルギEを計算する。具体的には、式1にて摩擦エネルギeを計算し、式2にて累積摩擦エネルギEを計算する。
【0022】
【数1】
【0023】
【数2】
【0024】
ここで、cは潤滑油の単位体積当たりの熱容量であり、使用中の潤滑油の種類に応じた値を記憶部22から取得する。
【0025】
比較部24は、計算された累積摩擦エネルギEと、予め定めた閾値Eを比較し、歯車損傷時期を予測する。具体的には、これまでの累積摩擦エネルギEの推移から、線形近似などの公知の手法にて外挿することで、累積摩擦エネルギEが閾値Eに到達する歯面損傷時期Lを推定する。
【0026】
報知部25は、積分演算部23で計算された現時点の累積摩擦エネルギEや、比較部24で推定された歯面損傷時期Lを、歯車装置1Aのオペレータや保守員に報知する。なお、報知部25での報知方法は、液晶モニタや警告ランプなどに、累積摩擦エネルギEや歯面損傷時期Lを表示する方法であっても良いし、オペレータ等が所持する端末にそれらの情報を表示させてもよい。また、累積損傷エネルギEのトレンドを外挿することで、歯面損傷時期を予測してもよいし、または、所定の閾値を超えたら警告を出し、損傷判断を報知してもよい。
【0027】
以上で説明したように、本実施例によれば、給油温度センサ9、排油温度センサ11、流量センサ10の各計測値を用いて、歯車対の歯面の損傷時期を精度よく予測することができる。これにより、歯車装置1Aのメンテナンス時期の適正化や、損傷によるダウンタイムの削減を実現でき、装置稼働率の向上が期待される。
【0028】
なお、図1では、給油ノズル8から潤滑油を供給する歯車装置1Aを例示したが、実施例1の歯車装置1Aは、潤滑油を直接歯車に拭きかけ、歯車を強制冷却する構造を有するものであれば、他の構造のものであっても良い。
【実施例2】
【0029】
以下、本発明の実施例2の歯車損傷予測装置20と、その監視対象である歯車装置1Bを、図3に沿って説明する。なお、実施例1との共通点は、重複説明を省略する。
【0030】
歯車装置のなかには、流量センサ10を搭載しない代わりに、給油ノズル8に向かう配管内の潤滑油の圧力Pを計測する圧力センサ13を搭載したものがある。そこで、本実施例では、潤滑油の流量qを直接計測できない場合であっても、圧力センサ13が計測した圧力Pを用いて潤滑油の流量qを推測し、推測した流量q(以下、「推定流量q」と称する)を用いて、歯車の損傷時期を予測する。そのため、本実施例の歯車損傷予測装置20では、まず、式3により、推定流量qを求める。
【0031】
【数3】
【0032】
ここで、Aは給油ノズル8の形状や表面積に依存する固有値であり、ρは潤滑油の粘度である。粘度ρは、潤滑油の温度に依存するので、給油温度Tと粘度ρの関係を纏めたデータシートにより求めることができる。このデータシートと固有値Aは、事前に記憶部22に格納されている。そして、式3で求めた推定流量qと、式1、式2を用いることで、実施例1と同様の方法で歯面損傷時期Lを予測できる。
【0033】
以上で説明したように、本実施例によれば、流量センサ10を持たず、圧力センサ13のみを有する歯車装置1Bを監視対象とした場合であっても、歯面損傷時期Lを予測することができる。
【実施例3】
【0034】
以下、本発明の実施例3の歯車損傷予測装置20と、その監視対象である歯車装置1Cを、図4図5に沿って説明する。なお、上述の実施例との共通点は、重複説明を省略する。
【0035】
例えば、船舶用歯車減速機などにおいては、前進と後進を行うため、クラッチ操作によりかみ合う歯車対が変化する。また、自動車用トランスミッションにおいても、ギア比の変更時など、かみ合う歯車対が変化する。そこで、以下では、かみ合う歯車対が変化する歯車装置への本発明の適用例を示す。
【0036】
図4に示す本実施例の歯車装置1Cは、駆動装置(エンジンやモータ等)に接続された入力軸、回転を反対方向にする反転軸、被動装置(プロペラ等)に接続された出力軸、の3つの回転軸を有しており、各々に歯車が取り付けられている。以下では、入力軸に取り付けた歯車を歯車2a、反転軸に取り付けた歯車を歯車2b、出力軸に取り付けた歯車を歯車2cと称する。
【0037】
出力軸を正転させる場合は、入力軸の歯車2aと、出力軸の歯車2cをかみ合わせた歯車対が形成され、出力軸の正転を実現する。一方、出力軸を逆転させる場合は、入力軸の回転は、一度、反転軸へと伝達され、反転軸の歯車2bを駆動する。そして、反転軸の歯車2bと出力軸の歯車2cをかみ合せた歯車対が形成され、出力軸の逆転を実現する。なお、逆転時には、クラッチ操作により、歯車2aから歯車2cへの動力の伝達は行われない。
【0038】
正転時には、給油ノズル8から供給された潤滑油は、歯車2aと歯車2cのかみ合い部から排出される。そこで、その噛み合い部の下流側に設けた油受け12aにおける排油温度T2aを排油温度センサ11aにより計測する。一方、逆転時には、給油ノズル8から供給された潤滑油は、歯車2bと歯車2cのかみ合い部から排出される。そこで、その噛み合い部の下流側に設けた油受け12bにおける排油温度T2bを排油温度センサ11bにより計測する。これらの排油温度は、歯車損傷予測装置20へと入力される。
【0039】
加えて、どの歯車がかみ合っているかを知るためには、運転情報Iが必要である。これは、歯車の回転状態がわかる信号ならよい。例えば、クラッチ操作の信号や別途回転計の信号、当該歯車減速機を搭載する装置に対するオペレータからの運転指示情報などが考えられる。
【0040】
図5は、本実施例の歯車損傷予測装置20での処理手順を示すフローチャートである。まず、処理S1にて、入力された運転情報Iから、出力軸の回転が正転であるか逆転であるかを判断する。正転であれば、処理S2fに進み、逆転であれば、処理S2rに進む。
【0041】
正転の場合、処理S2fでは、入力部21に、給油温度T、排油温度T2a、流量qが入力される。次に、処理S3fでは、積分演算部23は、累積摩擦エネルギEの積分演算を行う。処理S4fでは、比較部24は、閾値Eと比較し、歯面損傷時期Lを求める。最後に、処理S5fでは、報知部25は、この結果をオペレータ等に報知する。
【0042】
一方、反転の場合は、処理S2rでは、入力部21に、給油温度T、排油温度T2b、流量qが入力される。その後、処理S3r~S5rでは、給油温度T、排油温度T2b、流量qを用いて、正転時の処理S3f~S5fと同様の処理を実行する。
【0043】
以上で説明した本実施例の歯車損傷予測方法は、歯車数が3よりも多い場合にも適用できる。その場合、かみ合い歯車ごとに給油、排油温度と給油流量、そしてどの歯車がかみ合っているのかを判断する運転情報が必要となる。言い換えると、複数の歯車が同時にかみ合っている場合、それぞれのかみ合いへ供給される潤滑油の情報を個別に入手する必要がある。
【0044】
以上で説明したように、本実施例によれば、かみ合う歯車対が変化する場合であっても、各歯面の損傷時期を予測できる。これにより、クラッチ操作などを有する、より広い歯車製品に適用することができる。
【実施例4】
【0045】
以下、本発明の実施例4の歯車損傷予測装置20と、その監視対象である歯車装置1Dを、図6に沿って説明する。なお、上述の実施例との共通点は、重複説明を省略する。
【0046】
実施例1~実施例3では、歯車箱3内に排油温度センサ11等を設けた歯車装置1A~1Cを例示したが、歯車箱3の内部に十分なスペースがなく、かみ合い部のそばに排油温度センサを設置できない歯車装置もある。そこで、本実施例では、油槽4内の排油の温度を計測して歯面の損傷時期を予測できるようにした。
【0047】
通常、歯車箱3内には、歯車のかみ合い部のみならず、その他の機械要素(例えば、軸受)にも潤滑油が供給されている。実施例1の歯車装置1Aでは、歯車のかみ合い部や軸受に供給された潤滑油は何れも、歯車箱3の下方に設けた油槽4でまとめて回収されるため、油槽4に溜まった排油の温度は、歯車のかみ合いにより発生した摩擦エネルギによる温度上昇と、軸受での回転軸支持により発生した摩擦エネルギによる温度上昇の双方が反映されたものとなる。すなわち、実施例1の構成を前提とすると、油槽4内の排油の温度を用いても、歯面の損傷時期を正確に予測することはできなかった。
【0048】
そこで、本実施例では、油槽4の流出管と接続した油槽4aと油槽4bを各軸受の直下に設置することで、各軸受から油槽4aまたは油槽4bに落下した潤滑油を、油槽4を経由せずポンプ6で回収できるようにした。
【0049】
この結果、本実施例の歯車装置1Dの油槽4には、歯車のかみ合い部を経由した潤滑油のみが集められるので、油槽4の油温を排油温度センサ11cで計測することで得られた排油温度Tは、歯車のかみ合い部における摩擦エネルギにより昇温したものとなるため、排油温度センサ11cが計測した排油温度Tを用いて、実施例1と同等の方法により、歯面の損傷時期を求める。
【0050】
以上で説明したように、本実施例によれば、排油温度センサ11を歯車箱3の内部に設置できない場合でも、歯車装置歯面の損傷時期を予測することができる。
【実施例5】
【0051】
以下、本発明の実施例5の歯車損傷予測システムを、図7に沿って説明する。なお、上述の実施例との共通点は、重複説明を省略する。
【0052】
実施例1では、累積摩擦エネルギEは、歯車損傷予測装置20の記憶部22へと保存される。ここに保存された累積摩擦エネルギEは、歯車装置のメンテナンス時などに、外部のデータ装置と接続されたり、報知部25などを通じて、運転者やメンテナンス者へと伝えられたりする。
【0053】
しかし、例えば交通や輸送用機械の歯車装置に本発明を適用する場合、累積摩擦エネルギEや歯面損傷時期Lを装置ごとに確認することは、稼働装置数の多さから非常に煩雑なものとなる。そこで、本実施例の歯車損傷予測システムでは、複数の歯車装置1Eに設けた歯車損傷予測装置20が求めた累積摩擦エネルギEや歯面損傷時期Lを、インターネット等のネットワーク経由でサーバに収集できるようにした。
【0054】
図7は、ネットワーク経由で計測情報等を収集できる歯車装置1Eの概念図を示す。
【0055】
ここに示すように、本実施例では、歯車損傷予測装置20にて計算された累積摩擦エネルギEや歯面損傷時期Lを、歯車損傷予測装置20の外部へと発信する。各装置から発信された情報は、サーバ40に蓄積されるので、保守員は監視対象の複数の歯車装置1Eを集中管理することができる。ネットワーク30経由で発信される情報は、給油温度や排油温度、給油量といった計測値でもよく、この場合、歯車損傷予測装置20の内部で行われていた累積摩擦エネルギEの計算が、サーバ40にて行われ、歯面の損傷時期が予測される。
【0056】
以上で説明したように、本実施例によれば、保守員が、より多数の歯車装置1Eの損傷予測が可能となる。また、高頻度な歯車装置の情報を得ることにより、歯車装置の状態を精細に把握し、より適切なメンテナンス時期の提案が可能となる。
【0057】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成について、他の構成の追加、削除、置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1A~1E…歯車装置、
2a~2c…歯車、3…歯車箱、
4、4a、4b…油槽、
5…フィルタ、
6…ポンプ、
7…流量調整バルブ、
8…給油ノズル、
9…給油温度センサ、
10…流量センサ、
11、11a、11b、11c…排油温度センサ、
12、12a、12b…油受け、
13…圧力センサ、
20…歯車損傷予測装置、
30…ネットワーク、
40…サーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7