IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ テネオバイオ, インコーポレイテッドの特許一覧

<>
  • 特許-抗BCMA重鎖のみ抗体 図1
  • 特許-抗BCMA重鎖のみ抗体 図2-1
  • 特許-抗BCMA重鎖のみ抗体 図2-2
  • 特許-抗BCMA重鎖のみ抗体 図3
  • 特許-抗BCMA重鎖のみ抗体 図4
  • 特許-抗BCMA重鎖のみ抗体 図5
  • 特許-抗BCMA重鎖のみ抗体 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】抗BCMA重鎖のみ抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/42 20060101AFI20230403BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230403BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230403BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230403BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230403BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230403BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20230403BHJP
   A61K 35/17 20150101ALN20230403BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230403BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20230403BHJP
【FI】
C07K16/42 ZNA
C12N5/10
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P17/02
A61K39/395 L
A61K39/395 T
A61K39/395 N
A61K47/68
A61K47/69
A61K35/17
C12P21/08
C12N15/13
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019534110
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 US2017067870
(87)【国際公開番号】W WO2018119215
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】62/437,588
(32)【優先日】2016-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518452881
【氏名又は名称】テネオバイオ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】オルドレッド, シェリー フォース
(72)【発明者】
【氏名】トリンクライン, ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】ハリス, キャサリン イー.
(72)【発明者】
【氏名】ダン, ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ショーテン, ウィム
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105384825(CN,A)
【文献】特表2012-521211(JP,A)
【文献】Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2006年,Vol.103, No.41,pp.15130-15135
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトB細胞成熟抗原(BCMA)に結合するヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体であって、
(a)GFTFSSYA(配列番号1)を含むCDR1配列、ISGSGGST(配列番号5)を含むCDR2配列、及びVKDWNTTMITE(配列番号19)を含むCDR3配列;または
)GFTFTNYA(配列番号2)を含むCDR1配列、ISGGGGST(配列番号54)を含むCDR2配列、及びVKDWNTTMITE(配列番号19)を含むCDR3配列
をヒトVHフレームワーク中に含む、重鎖可変領域を含む、ヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項2】
重鎖可変領域が、GFTFSSYA(配列番号1)を含むCDR1配列、ISGSGGST(配列番号5)を含むCDR2配列、及びVKDWNTTMITE(配列番号19)を含むCDR3配列を含む、請求項1に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項3】
重鎖可変領域が、GFTFTNYA(配列番号2)を含むCDR1配列、ISGGGGST(配列番号54)を含むCDR2配列、及びVKDWNTTMITE(配列番号19)を含むCDR3配列を含む、請求項1に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項4】
CH1配列の非存在下で重鎖定常領域配列をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項5】
配列番号20または21の配列のうちのいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域配列を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項6】
配列番号20及び21からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む、請求項に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項7】
CAR-T形式である、請求項1~のいずれか1項に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項8】
CAR形質導入T細胞中に存在する、請求項に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項9】
請求項に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体で形質導入されたT細胞。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体を含む、薬学的組成物。
【請求項11】
対象におけるBCMAの発現を特徴とするB細胞障害の治療のための医薬であって、請求項1~のいずれか1項に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体、請求項に記載のT細胞、または請求項10に記載の薬学的組成物を含む、医薬。
【請求項12】
前記B細胞障害が多発性骨髄腫である、請求項11に記載の医薬。
【請求項13】
前記B細胞障害が全身性エリテマトーデスである、請求項11に記載の医薬。
【請求項14】
対象におけるBCMAの発現を特徴とするB細胞障害の治療のためのキットであって、請求項1~のいずれか1項に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体、請求項9に記載のT細胞、または請求項10に記載の薬学的組成物を含む、キット
【請求項15】
重鎖可変領域が、配列番号1の配列を含むCDR1配列、配列番号5の配列を含むCDR2配列、及び配列番号19の配列を含むCDR3配列をヒトVHフレームワーク中に含む、請求項1に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項16】
重鎖可変領域が、配列番号20と少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項15に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項17】
重鎖可変領域が、配列番号20の配列を含む、請求項16に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項18】
CH1配列の非存在下で重鎖定常領域配列をさらに含む、請求項15に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項19】
CAR-T形式である、請求項15に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項20】
CAR形質導入T細胞中に存在する、請求項15に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項21】
請求項15に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体で形質導入されたT細胞。
【請求項22】
重鎖可変領域が、配列番号2の配列を含むCDR1配列、配列番号54の配列を含むCDR2配列、及び配列番号19の配列を含むCDR3配列をヒトVHフレームワーク中に含む、請求項1に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項23】
重鎖可変領域が、配列番号21と少なくとも95%の配列同一性を有する、請求項22に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項24】
重鎖可変領域が、配列番号21の配列を含む、請求項23に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項25】
CH1配列の非存在下で重鎖定常領域配列をさらに含む、請求項22に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項26】
CAR-T形式である、請求項22に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項27】
CAR形質導入T細胞中に存在する、請求項22に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体。
【請求項28】
請求項22に記載のヒトイデオタイプ重鎖のみ抗体で形質導入されたT細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年12月21日出願の米国仮特許出願第62/437,588号の出願日の優先権を主張し、この出願の開示は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。2018年1月17日に作成された上記ASCIIコピーは、TNO-0002-WO_SL.txtという名称であり、46,768バイトのサイズである。
【0003】
本発明は抗BCMA重鎖のみ抗体(HCAb)に関する。本発明はさらに、そのような抗体を作製する方法、そのような抗体を含む薬学的組成物を含む組成物、及びBCMAの発現を特徴とするB細胞障害を治療するためのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0004】
B細胞成熟抗原(BCMA)
腫瘍壊死因子スーパーファミリーメンバー17(TNFRSF17)(UniProt Q02223)としても知られるBCMAは、形質細胞及び形質芽細胞上に排他的に発現される細胞表面受容体である。BCMAは腫瘍壊死因子(TNF)スーパーファミリーの2つのリガンド、APRIL(増殖誘導リガンド、TNFSF13、TALL-2、及びTRDL-1としても知られる、BCMAに対する高親和性リガンド)及びB細胞活性化因子(BAFF)(BLyS、TALL-1、THANK、zTNF4、TNFSF20、及びD8Ertd387eとしても知られる、BCMAに対する低親和性リガンド)に対する受容体である。APRIL及びBAFFは、BCMAに結合して形質細胞の生存を促進する増殖因子である。BCMAはまた、ヒト多発性骨髄腫(MM)の悪性形質細胞上で高度に発現される。BCMAに結合する抗体は、例えば、Gras et al.,1995,Int.Immunol.7:1093-1106、WO200124811及びWO200124812に記載されている。TACIと交差反応する抗BCMA抗体は、WO2002/066516に記載されている。BCMA及びCD3に対する二重特異性抗体は、例えば、US2013/0156769 A1及びUS2015/0376287 A1に記載されている。抗BCMA抗体-MMAEまたは-MMAFコンジュゲートは、多発性骨髄腫細胞の殺傷を選択的に誘導することが報告されている(Tai et al.,Blood 2014,123(20):3128-38)。Ali et al.,Blood 2016,128(13):1688-700は、臨床試験(#NCT02215967)で、BCMAを標的とするキメラ抗原受容体(CAR)T細胞がヒト患者において多発性骨髄腫の寛解をもたらしたことを報告している。
【0005】
重鎖のみ抗体
従来のIgG抗体では、重鎖と軽鎖との会合は、軽鎖定常領域と重鎖のCH1定常ドメインとの間の疎水性相互作用に一部起因している。重鎖と軽鎖との間のその疎水性相互作用にも寄与する、重鎖フレームワーク2(FR2)及びフレームワーク4(FR4)領域に追加の残基がある。
【0006】
しかしながら、ラクダ科の血清(ラクダ、ヒトコブラクダ、及びラマを含むラクダ亜目)は、対をなすH鎖のみからなる主要な種類の抗体(重鎖のみ抗体またはHCAb)を含むことが知られている。ラクダ科(ヒトコブラクダ、フタコブラクダ、ラマ、グアナコ、アルパカ、及びヴィクーニャ)のHCAbは、単一可変ドメイン(VHH)、ヒンジ領域、及び2つの定常ドメイン(CH2及びCH3)からなる独特の構造を有し、それらは古典的抗体のCH2及びCH3ドメインと非常に相同性が高い。これらのHCAbは、ゲノムに存在する定常領域の最初のドメイン(CH1)を欠くが、mRNAプロセシングの間にスプライスアウトされる。CH1ドメインの欠損は、このドメインが軽鎖の定常ドメインの固定場所であるので、HCAb中に軽鎖が存在しないことを説明する。そのようなHCAbは、従来の抗体またはその断片からの3つのCDRによって抗原結合特異性及び高親和性を付与するように自然に進化した(Muyldermans,2001;J Biotechnol 74:277-302、Revets et al.,2005;Expert Opin Biol Ther 5:111-124)。サメなどの軟骨魚は、軽鎖ポリペプチド鎖を欠き、完全に重鎖で構成されている、IgNARと呼ばれる独自のタイプの免疫グロブリンも進化させてきた。IgNAR分子は、分子工学により操作され単一重鎖ポリペプチドの可変ドメイン(vNAR)を生成することができる(Nuttall et al.Eur.J.Biochem.270,3543-3554(2003)、Nuttall et al.Function and Bioinformatics 55,187-197(2004)、Dooley et al.,Molecular Immunology 40,25-33(2003))。
【0007】
軽鎖を欠く重鎖のみ抗体が抗原に結合する能力は、1960年代に確立された(Jaton et al.(1968)Biochemistry,7,4185-4195)。軽鎖から物理的に分離された重鎖免疫グロブリンは、四量体抗体に対して80%の抗原結合活性を保持していた。Sitia et al.(1990)Cell,60,781-790で、再配列されたマウスμ遺伝子からCH1ドメインを除去すると、哺乳動物細胞培養において、軽鎖を欠く重鎖のみ抗体が産生されることが実証された。産生された抗体は、VH結合特異性及びエフェクター機能を保持していた。
【0008】
高い特異性及び親和性を有する重鎖抗体は、免疫感作を通して種々の抗原に対して生成させることができ(van der Linden,R.H.,et al.Biochim.Biophys.Acta.1431,37-46(1999))、VHH部分は容易にクローン化され、酵母中で発現させることができる(Frenken,L.G.J.,et al.J.Biotechnol.78,11-21(2000))。それらの発現レベル、溶解性、及び安定性は、古典的なF(ab)またはFv断片のレベルよりも有意に高い(Ghahroudi,M.A.et al.FEBS Lett.414,521-526(1997))。
【0009】
λ(ラムダ)軽(L)鎖遺伝子座、及び/または、λもしくはκ(カッパ(kappa))L鎖遺伝子座が機能的にサイレンシングされているマウス、ならびにそのようなマウスによって産生される抗体は、米国特許第7,541,513号及び第8,367,888号に記載されている。マウス及びラットにおける重鎖のみ抗体の組換え産生は、例えば、WO2006008548、米国特許出願公開第20100122358号、Nguyen et al.,2003,Immunology;109(1),93-101、Bruggemann et al.,Crit.Rev.Immunol.;2006,26(5):377-90、及びZou et al.,2007,J Exp Med;204(13):3271-3283に報告されている。ジンクフィンガーヌクレアーゼの胚マイクロインジェクションによるノックアウトラットの生成は、Geurts et al.,2009,Science,325(5939):433に記載されている。可溶性重鎖のみ抗体及びそのような抗体を産生する異種重鎖遺伝子座を含むトランスジェニックげっ歯類は、米国特許第8,883,150号及び第9,365,655号に記載されている。結合(標的化)ドメインとして単一ドメイン抗体を含むCAR-T構造は、例えば、Iri-Sofla et al.,2011,Experimental Cell Research 317:2630-2641及びJamnani et al.,2014,Biochim Biophys Acta,1840:378-386に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2001/024811号
【文献】国際公開第2001/024812号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Gras et al.,1995,Int.Immunol.7:1093-1106
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は抗BCMA抗体に関する。
【0013】
一態様では、本発明は、ヒトB細胞成熟抗原(BCMA)に結合する重鎖のみ抗体であって、
(a)配列番号1~4の配列のうちのいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有するCDR1、及び/または
(b)配列番号5~18及び54の配列のうちのいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有するCDR2、及び/または
(c)配列番号19と少なくとも95%の配列同一性を有するCDR3を含む、重鎖可変領域を含む、重鎖のみ抗体に関する。
【0014】
一実施形態では、CDR1、CDR2、及びCDR3配列はヒトフレームワーク中に存在する。
【0015】
別の実施形態では、抗BCMA重鎖のみ抗体は、CH1配列の非存在下で重鎖定常領域配列をさらに含む。
【0016】
さらに別の実施形態では、重鎖のみ抗体は、
(a)配列番号1~4からなる群から選択される配列、及び/または
(b)配列番号5~18及び54からなる群から選択されるCDR2配列、及び/または
(c)配列番号19のCDR3を含む。
【0017】
さらなる実施形態では、抗BCMA重鎖のみ抗体は、
(a)配列番号1~4からなる群から選択されるCDR1配列と、
(b)配列番号5~18及び54からなる群から選択されるCDR2配列と、
(c)配列番号19のCDR3と、を含む。
【0018】
なおさらなる実施形態において、重鎖のみ抗BCMA抗体は、配列番号20~53の配列のうちのいずれかと少なくとも95%の配列同一性を有する重鎖可変領域を含む。
【0019】
別の実施形態では、重鎖のみ抗BCMA抗体は、配列番号20~53の配列からなる群から選択される重鎖可変領域配列を含む。
【0020】
別の態様では、本発明は、ヒトB細胞成熟抗原(BCMA)に結合する重鎖のみ抗体であって、
(a)次式のCDR1配列
G F T F X1 X2 Y A(配列番号55)
(式中、
X1が、SまたはTであり、
X2が、S、N、またはRである)、及び
(b)次式のCDR2配列
X3 X4 X5 X6 G X7 X8 X9(配列番号56)
(式中、
X3が、IまたはLであり、
X4が、S、T、I、またはVであり、
X5が、GまたはEであり、
X6が、S、G、N、またはDであり、
X7が、G、D、またはAであり、
X8が、S、T、またはNであり、
X9が、TまたはSである)、及び
(c)配列番号19のCDR3を、
ヒトVHフレームワーク中に含む、重鎖可変領域を含む、重鎖のみ抗体に関する。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、ヒトVHフレームワーク中にCDR1、CDR2、及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含む、ヒトB細胞成熟抗原(BCMA)に結合する重鎖のみ抗体であって、CDR配列が、配列番号1~19及び54からなる群から選択されるCDR配列と少なくとも95%の同一性を有する配列である、重鎖のみ抗体に関する。
【0022】
一実施形態では、そのような抗体は、ヒトVHフレームワーク中にCDR1、CDR2、及びCDR3配列を含む重鎖可変領域を含み、CDR配列は、配列番号1~19及び54からなる群から選択される。
【0023】
さらなる態様では、本発明は、ヒトB細胞成熟抗原(BCMA)に結合する重鎖のみ抗体であって、
(a)配列番号1のCDR1、配列番号5のCDR2、及び配列番号19のCDR3、または
(b)配列番号2のCDR1、配列番号54のCDR2、及び配列番号19のCDR3を、
ヒトVHフレームワーク中に含む、重鎖可変領域を含む、重鎖のみ抗体に関する。
【0024】
一実施形態では、重鎖のみ抗体は、二重特異性などの多重特異性である。
【0025】
別の実施形態では、重鎖のみ抗体は、2つの異なるBCMAタンパク質に対する結合親和性を有する。
【0026】
さらに別の実施形態では、重鎖のみ抗体は、同じBCMAタンパク質上の2つの異なるエピトープに対する結合親和性を有する。
【0027】
さらなる実施形態では、重鎖のみ抗体は、エフェクター細胞に対する結合親和性を有する。
【0028】
なおさらなる実施形態では、重鎖のみ抗体は、T細胞抗原に対する結合親和性を有する。
【0029】
別の実施形態では、重鎖のみ抗体は、CD3に対する結合親和性を有する。
【0030】
異なる態様では、上記の重鎖のみ抗体は、CAR-T形式である。
【0031】
さらなる態様では、本発明は、本明細書の抗BCMA重鎖のみ抗体を含む薬学的組成物に関する。
【0032】
なおさらなる態様では、本発明は、BCMAの発現を特徴とするB細胞障害の治療のための方法に関し、この方法は、そのような障害を有する対象に本明細書の抗BCMA重鎖のみ抗体、またはそのような抗体を含む薬学的組成物を投与することを含む。
【0033】
様々な実施形態において、B細胞障害は、例えば、多発性骨髄腫または全身性エリテマトーデスであり得る。
【0034】
さらなる態様では、本発明は、本明細書の抗BCMA重鎖のみ抗体をコードするポリヌクレオチドに関する。
【0035】
なおさらなる態様では、本発明は、本明細書の抗BCMA重鎖のみ抗体をコードするポリヌクレオチドを含むベクターに関する。
【0036】
別の態様では、本発明は、本明細書の抗BCMA重鎖のみ抗体をコードするポリヌクレオチドを含む細胞、またはそのようなポリヌクレオチドを含むベクターに関する。
【0037】
さらに別の態様では、本発明は、抗体の発現を許容する条件下で上記のように細胞を増殖させることと、細胞から抗体を単離することとを含む、本明細書中の抗体を産生する方法に関する。
【0038】
さらなる態様では、本発明は、UniRat動物をBCMAで免疫することと、BCMA結合重鎖配列を同定することとを含む、本明細書に記載の抗BCMA重鎖のみ抗体を作製する方法に関する。
【0039】
これら及びさらなる態様は、実施例を含め、本開示の残りの部分でさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の34個の重鎖のみ抗BCMA抗体のCDR1、CDR2、及びCDR3アミノ酸配列を示す。
図2-1】本発明の34個の重鎖のみ抗BCMA抗体の重鎖可変領域配列を示す。
図2-2】本発明の34個の重鎖のみ抗BCMA抗体の重鎖可変領域配列を示す。
図3】HEK 293細胞で発現した34個の重鎖のみ抗BCMA抗体の抗体結合活性のヒートマップの概要。赤は強い結合を示し、青は弱いまたは負の結合結果を示す。細胞結合アッセイを34個全ての抗体について実施し、H929細胞に結合することが示された。VH配列308607またはVH配列308915のどちらかをコードする2つの抗体を、タグなしのヒトBCMA ECD断片、及びヒトIgG1とバキュロウイルスタンパク質抽出物(BVP)とを含む2つの標的外タンパク質対照、及びBCMA+MM細胞系RPMI8226に対する結合について試験した。2つのUniAbもまた、組換えタンパク質ELISAスタイルアッセイにおいてAPRIL(リガンド)/BCMA(受容体)の結合をブロックする能力について評価した。
図4】免疫原及び他の標的タンパク質及び標的外タンパク質に対する血清結合活性。動物のサブセットからの単一の1:500希釈のd35血清を、標準的なELISAアッセイにおいて一連のタンパク質に対する結合活性についてアッセイした。標的タンパク質には、ヒトBCMA Fc領域(huBCMA-Fc)、ヒトFc配列に融合したカニクイザル(cyno)BCMA ECD(cyBCMA)、及びFc融合を持たない他の2つの源由来のhuBCMA(大腸菌及び小麦胚芽)が含まれる。ヒト血清アルブミン及びヒトIgG1を用いて標的外反応性を評価した。
図5】BCMA+細胞株(NCI-H929)に対する血清結合活性。力価は、PE結合抗ラットIgG2a抗体を用いたフローサイトメトリーによりNCI-H929細胞への血清結合を試験することにより評価した。有意な染色を示すNCI-H929細胞の割合を評価した。
図6】ヒトVH細胞外結合ドメインを含む代表的なCAR-T構築物。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明の実施は、他に示さない限り、当技術分野の範囲内である分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学、及び免疫学の従来の技術を使用する。そのような技術は、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,second edition(Sambrook et al.,1989)、“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait,ed.,1984)、“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney,ed.,1987)、“Methods in Enzymology”(Academic Press,Inc.)、“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubel et al.,eds.,1987,and periodic updates)、“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullis et al.,ed.,1994)、“A Practical Guide to Molecular Cloning”(Perbal Bernard V.,1988)、“Phage Display:A Laboratory Manual”(Barbas et al.,2001)、Harlow,Lane and Harlow,Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol No.I,Cold Spring Harbor Laboratory(1998)、及びHarlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory;(1988)のような文献に十分に説明されている。
【0042】
値の範囲が提供される場合、文脈が別途明確に指示しない限り、下限値の単位の10分の1までの、その範囲の上限値から下限値の間の各介在値、及びその表示範囲の任意の他の表示値または介在値が、本発明に包含されることが理解される。それらのより小さい範囲の上限値及び下限値は、より小さい範囲内に独立して含まれ得、また、表示範囲内の任意の具体的な除外限度に従って、本明細書にも包含される。記載範囲がそれらの上限値及び下限値のうちの一方または両方を含む場合、それらの包含される上限値及び下限値のいずれか一方または両方を除外する範囲も本発明に包含される。
【0043】
特記しない限り、本明細書中の抗体残基は、Kabat番号付けシステムに従って番号付けされる(例えば、Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。
【0044】
以下の説明では、本発明の完全な理解を提供するために、多くの具体的な詳細が述べられている。しかしながら、本発明がこれらの具体的な詳細のうちの1つ以上なしに実施され得ることは、当業者には明らかであろう。他の例では、本発明を曖昧にすることを避けるために、当業者に即知である特徴及び手順は説明されていない。
【0045】
特許出願及び刊行物を含む、本明細書に引用される全ての参考文献は、参照によりそれらの全体が組み込まれる。
【0046】
I.定義
「含む」とは、列挙された要素が組成物/方法/キットに必要とされることを意味するが、請求項の範囲内で組成物/方法/キットなどを形成するために他の要素が含まれ得る。
【0047】
「~から本質的になる」とは、記載された組成物または方法の範囲を、本発明の基本的及び新規な特徴(複数可)に実質的に影響を与えない特定の材料または工程に限定することを意味する。
【0048】
「~からなる」とは、任意の要素の組成、方法、またはキット、請求項で指定されていない工程、または成分の除外を意味する。
【0049】
「モノクローナル抗体」という用語は、本明細書で使用されるとき、実質的に同種の抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、その集団に含まれる個別の抗体は、微量で存在し得る可能性のある自然発生の突然変異を除いて同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原部位を対象としている。さらに、典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体調製物とは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。
【0050】
「重鎖のみ抗体」、「重鎖抗体」及び「HCAb」という用語は互換的に使用され、最も広義では、従来の抗体の軽鎖を欠く抗体を指す。ホモ二量体HCAbは軽鎖を欠き、したがってVLドメインを欠くので、抗原は1個の単一ドメイン、すなわち重鎖抗体の重鎖の可変ドメイン(VH)によって認識される。この用語は具体的には、限定されないが、CH1ドメインの非存在下でのVH抗原結合ドメイン及びCH2及びCH3定常ドメイン、そのような抗体の機能的(抗原結合)変異体、可溶性VH変異体、1個の可変ドメイン(V-NAR)及び5つのC様定常ドメイン(C-NAR)のホモ二量体を含むIg-NAR、ならびにそれらの機能断片、ならびに可溶性単一ドメイン抗体(sdAb)を含むホモ二量体抗体である。一実施形態では、重鎖のみ抗体は、フレームワーク1、CDR1、フレームワーク2、CDR2、フレームワーク3、CDR3、及びフレームワーク4からなる可変領域抗原結合ドメインから構成される。一実施形態では、重鎖のみ抗体は、抗原結合ドメイン、少なくともヒンジ領域のうちの一部、ならびにCH2及びCH3ドメインから構成される。別の実施形態では、重鎖のみ抗体は、抗原結合ドメイン、少なくともヒンジ領域のうちの一部、及びCH2ドメインから構成される。さらなる実施態様では、重鎖のみ抗体は、抗原結合ドメイン、少なくともヒンジ領域のうちの一部、及びCH3ドメインから構成される。CH2及び/またはCH3ドメインが切断されている重鎖のみ抗体もまた本明細書に含まれる。さらなる実施形態では、重鎖は、抗原結合ドメイン、及び少なくとも1つのCH(CH1、CH2、CH3、またはCH4)ドメインから構成されるが、ヒンジ領域は含まない。重鎖のみ抗体は、2つの重鎖が他の方法では共有結合または非共有結合で互いにジスルフィド結合している二量体の形態であり得る。重鎖のみ抗体はIgGサブクラスに属し得るが、IgM、IgA、IgD、及びIgEサブクラスなどの他のサブクラスに属する抗体もまた本明細書に含まれる。特定の実施形態では、重鎖抗体は、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4サブタイプ、特にIgG1サブタイプである。一実施形態では、本明細書の重鎖のみ抗体は、キメラ抗原受容体(CAR)の結合(標的化)ドメインとして使用される。
【0051】
抗体に関連して使用される「可変」という用語は、抗体可変ドメインの特定の部分の配列が抗体間で広範に異なるという事実を指し、その特定の抗原に対する各特定の抗体の結合及び特異性において使用される。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメイン全体にわたって均等には分布していない。これは、軽鎖及び重鎖の両方の可変ドメイン中の超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。本来の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは各々、主にβシート構成を採用する4つのFRを含み、それらは、3つの超可変領域により連結され、それら超可変領域はβシート構造を連結し、ある場合にはその一部を形成するループを形成する。各鎖内の超可変領域は、FRによって近接近し一緒に保持されており、他方の鎖の超可変領域と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)参照)。定常ドメインは、抗体の抗原への結合に直接関与しないが、抗体の抗体依存性細胞毒性(ADCC)への関与などの様々なエフェクター機能を呈する。
【0052】
「超可変領域」という用語は、本明細書に使用されるとき、抗原結合を担う抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」または「CDR」由来のアミノ酸残基(例えば、重鎖可変ドメイン中の残基31~35(H1)、50~65(H2)、及び95~102(H3)、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991))及び/または、「超可変ループ」由来のそれらの残基、重鎖可変ドメイン中の残基26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)、Chothia and LeskJ.Mol.Biol.196:901-917(1987))を含む。「フレームワーク領域」または「FR」残基は、本明細書で定義される超可変領域残基以外のそれらの可変ドメイン残基である。
【0053】
例示的なCDR名称が本明細書に示されるが、当業者は、Kabat定義を含むCDRの多数の定義が一般に使用されていることが理解され(“Zhao et al.A germline knowledge based computational approach for determining antibody complementarity determining regions.”Mol Immunol.2010;47:694-700参照)、これは配列の多様性に基づいており、最も一般的に使用されている。Chothia定義は構造ループ領域の位置に基づく(Chothia et al.“Conformations of immunoglobulin hypervariable regions.”Nature.1989;342:877-883)。重要な代替のCDR定義には、限定されないが、Honegger,“Yet another numbering scheme for immunoglobulin variable domains:an automatic modeling and analysis tool.”J Mol Biol.2001;309:657-670、Ofran et al.“Automated identification of complementarity determining regions(CDRs)reveals peculiar characteristics of CDRs and B cell epitopes.”J Immunol.2008;181:6230-6235、Almagro“Identification of differences in the specificity-determining residues of antibodies that recognize antigens of different size:implications for the rational design of antibody repertoires.”J Mol Recognit.2004;17:132-143、及びPadlanet al.“Identification of specificity-determining residues in antibodies.”FasebJ.1995;9:133-139によって開示されたものが含まれ、それらのそれぞれは、参照により本明細書に具体的に組み込まれる。
【0054】
「単離」抗体とは、その自然環境の成分から、特定及び分離、及び/または回収されたものである。その自然環境の混入成分は、抗体の診断上または治療上の使用を妨げる材料であり、これらには、酵素、ホルモン、及び他のタンパク質性または非タンパク質性溶質が含まれ得る。好ましい実施形態では、抗体は、次の程度まで精製される(1)ローリー法により判定した場合に抗体の95重量%を上回り、最も好ましくは99重量%を上回る、(2)スピニングカップシーケネータ(spinning cup sequenator)を使用してN末端もしくは内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基を得るのに十分な程度、または(3)クーマシーブルー、もしくは好ましくは銀染色を用いて還元もしくは非還元条件下でSDS-PAGEによって、均質になるまで。単離抗体には、抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しないため、組換え細胞内でインサイツの抗体が含まれる。しかしながら、通常、単離抗体は、少なくとも1つの精製ステップにより調製されるであろう。
【0055】
本発明の抗体は多重特異性抗体を含む。多重特異性抗体は2つ以上の結合特異性を有する。「多重特異性」という用語は、具体的には、「二重特異性」及び「三重特異性」と、高次ポリエピトープ特異性などの高次独立の特異的結合親和性と、四価抗体及び抗体断片とを含む。「多重特異性」抗体は、具体的には、異なる結合実体の組み合わせを含む抗体と、同じ結合実体を複数含む抗体とを含む。「多重特異性抗体」、「多重特異性単鎖のみ抗体」、及び「多重特異性HCAb」という用語は、本明細書では最も広義で使用され、1つより多い結合特異性を有する全ての抗体を包含する。
【0056】
「価」という用語は、本明細書で使用されるとき、抗体分子中の特定数の結合部位をいう。
【0057】
「多価」抗体は2つ以上の結合部位を有する。したがって、「二価」、「三価」、及び「四価」という用語は、それぞれ2つの結合部位、3つの結合部位、及び4つの結合部位の存在を指す。したがって、本発明による二重特異性抗体は、少なくとも二価であり、及び三価、四価、またはそうでなければ多価であり得る。
【0058】
多種多様な方法及びタンパク質の構造が知られており、二重特異性モノクローナル抗体(BsMAB)、三重特異性抗体などの調製に使用される。
【0059】
「二重特異性三本鎖抗体様分子」または「TCA」という用語は、本明細書では、3つのポリペプチドサブユニットを含む、本質的になる、またはそれらからなる抗体様分子を指すために使用され、そのうちの2つは、抗原結合領域及び少なくとも1つのCHドメインを含む、モノクローナル抗体の1つの重鎖及び1つの軽鎖、もしくはそのような抗体鎖の機能的抗原結合断片を含む、本質的になる、またはそれらからなる。この重鎖/軽鎖対は第1の抗原に対する結合特異性を有する。第3のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメインの非存在下で、CH2及び/またはCH3及び/またはCH4ドメインを含むFc部分を含む重鎖のみ抗体、ならびに第2の抗原のエピトープまたは第1の抗原の異なるエピトープに結合する抗原結合ドメインを含む、本質的になる、またはそれらからなり、結合ドメインは抗体重鎖または軽鎖の可変領域に由来するか、またはそれと配列同一性を有する。そのような可変領域の一部は、V及び/またはV遺伝子セグメント、D及びJ遺伝子セグメント、またはJ遺伝子セグメントによってコードされ得る。可変領域は、再構成されたVDJ、VDJ、V、またはV遺伝子セグメントによってコードされ得る。TCAタンパク質は、上に定義したような重鎖のみ抗体を利用する。
【0060】
「キメラ抗原受容体」または「CAR」という用語は、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインに対する所望の結合特異性(例えば、モノクローナル抗体または他のリガンドの抗原結合領域)を融合する人工受容体を指すために本明細書では最も広義で使用される。典型的には、受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)を作製するためにモノクローナル抗体の特異性をT細胞上に融合するために使用される。(J Natl Cancer Inst,2015;108(7):dvj439、及びJackson et al.,Nature Reviews Clinical Oncology,2016;13:370-383.)ヒトVH細胞外結合ドメインを含む代表的なCAR-T構築物を図6に示す。
【0061】
「ヒトイデオタイプ」とは、免疫グロブリン重鎖及び/または軽鎖可変領域においてヒト抗体上に存在するポリペプチド配列エピトープを意味する。「ヒトイデオタイプ」という用語は、本明細書で使用されるとき、ヒト抗体の自然発生配列、ならびに自然発生ヒト抗体に見られるポリペプチドと実質的に同一の合成配列の両方を含む。「実質的に」とは、アミノ酸配列同一性の程度が少なくとも約85%~95%であることを意味する。好ましくは、アミノ酸配列同一性の程度は90%超、より好ましくは95%超である。
【0062】
「キメラ抗体」または「キメラ免疫グロブリン」とは、少なくとも2つの異なるIg遺伝子座からのアミノ酸配列を含む免疫グロブリン分子、例えばヒトIg遺伝子座によってコードされる部分とラットIg遺伝子座によってコードされる部分とを含むトランスジェニック抗体を意味する。キメラ抗体は、非ヒトFc領域または人工Fc領域を有するトランスジェニック抗体、及びヒトイデオタイプを含む。そのような免疫グロブリンは、そのようなキメラ抗体を産生するように操作された本発明の動物から単離することができる。
【0063】
抗体の「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然配列のFc領域またはアミノ酸配列変異体Fc領域)に帰属する生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合、補体依存性細胞毒性、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCC)、食作用、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体;BCR)などの下方制御が含まれる。
【0064】
「抗体依存性細胞媒介性細胞毒性」及び「ADCC」とは、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的細胞毒性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が、標的細胞上に結合した抗体を認識し、続いて標的細胞の溶解を引き起こす、細胞媒介性反応を指す。ADCCを媒介するための初代細胞であるNK細胞がFcγRIIIのみを発現する一方で、単球は、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上でのFcR発現は、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol 9:457-92(1991)の464頁の表3に要約されている。対象となる分子のADCC活性を評価するために、米国特許第5,500,362号または同第5,821,337号に記載されるようなインビトロADCCアッセイを実施することができる。かかるアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。あるいは、または加えて、目的とする分子のADCC活性は、インビボで、例えば、Clynes et al.PNAS(USA)95:652-656(1998)に開示されるもの等の動物モデルで評価され得る。
【0065】
「ヒトエフェクター細胞」は、1つ以上のFcRを発現し、及びエフェクター機能を実行する白血球である。好ましくは、この細胞は、少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を果たす。ADCCを介するヒト白血球の例としては、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞毒性T細胞、及び好中球が含まれ、PBMC及びNK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、本明細書に記載されるように、その天然源から、例えば、血液またはPBMCから単離され得る。
【0066】
「補体依存性細胞毒性」または「CDC」とは、補体の存在下で標的を溶解させる分子の能力を指す。補体活性化経路は、補体系(C1q)の第1の成分の、同種抗原と複合した分子(例えば、ポリペプチド(例えば、抗体))への結合によって開始される。補体活性化を評価するために、例えばGazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods 202:163(1996)に記載されるCDCアッセイが実施され得る。
【0067】
「親和性」とは、分子(例えば、抗体)とその結合パートナー(例えば、抗原)との単一結合部位の間の非共有結合相互作用の合計の強度を指す。別途指示されない限り、本明細書で使用される場合、「結合親和性」とは、結合対のメンバー(例えば、抗体及び抗原)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般に、解離定数(Kd)で表され得る。親和性は、当技術分野において公知の一般的な方法によって測定することができる。低親和性抗体は、一般に、抗原に結合するのが遅く、容易に解離する傾向があり、一方、高親和性抗体は、一般に、抗原に結合するのがより速く、結合したままである傾向がある。
【0068】
本明細書中で使用されるとき、「Kd」または「Kd値」とは、速度論様式で、Octet QK384機器(Fortebio Inc.,Menlo Park,CA)を使用して、BioLayer干渉法によって決定される解離定数を指す。例えば、抗マウスFcセンサーにマウス-Fc融合抗原を負荷し、次いで抗体含有ウェルに浸して濃度依存的会合速度(kon)を測定する。抗体解離速度(koff)は最終工程で測定され、センサーは緩衝液のみを含有するウェルに浸される。Kdは、koff/konの比である。(さらなる詳細については、Concepcion,J,et al.,Comb Chem High Throughput Screen,12(8),791-800,2009を参照)。
【0069】
「エピトープ」は、単一の抗体分子が結合する抗原分子の表面上の部位である。一般的には、抗原はいくつかのまたは多くの異なるエピトープを有し、そして多くの異なる抗体と反応する。この用語は、具体的には、線状エピトープ及び立体配座エピトープを含む。
【0070】
「エピトープマッピング」は、それらの標的抗原上の抗体の結合部位またはエピトープを同定する工程である。抗体エピトープは線状エピトープまたは立体配座エピトープであり得る。線状エピトープは、タンパク質中のアミノ酸の連続配列によって形成される。立体配座エピトープは、タンパク質配列において不連続であるが、タンパク質のその三次元構造への折り畳みの際に結合するアミノ酸から形成される。
【0071】
「ポリエピトープ特異性」とは、同じまたは異なる標的(複数可)上の2つ以上の異なるエピトープに特異的に結合する能力を指す。
【0072】
2つの抗体が同一または立体的に重複するエピトープを認識する場合、抗体は参照抗体と「本質的に同じエピトープ」に結合する。2つのエピトープが同一または立体的に重複するエピトープに結合するかを決定するために、最も広く使用されている迅速な方法は競合アッセイであり、それは標識抗原または標識抗体を使用してあらゆる形式で構成できる。通常、抗原は96ウェルプレートに固定化され、未標識抗体が標識抗体の結合を妨げる能力は放射性または酵素標識を用いて測定される。
【0073】
「治療」、「治療すること」などの用語は、本明細書では一般に、所望の薬理学的及び/または生理学的効果を得ることを意味するために使用される。その効果は、その疾患もしくは症状を、完全にもしくは部分的に予防するという観点において予防的であり得、及び/または疾患及び/またはその疾患に起因する副作用の部分的もしくは完全な治癒という観点において治療的であり得る。「治療」は、本明細書で使用されるとき、哺乳動物における疾患の任意の治療を包含し、(a)その疾患にかかりやすいが、まだそれを有すると診断されていない対象における発病を予防すること、(b)その疾患を阻害すること、すなわち、その発現を阻止すること、または(c)その疾患を軽減すること、すなわち、その疾患の退行を引き起こすことを含む。治療薬は、疾患または傷害の発症前、発症中または発症後に投与することができる。進行中の病気の治療、治療が患者の望ましくない臨床症状を安定化または軽減する場合、特に興味深い。そのような治療は、罹患組織における機能の完全な喪失の前に行われることが望ましい。本療法は、疾患の兆候段階の間、いくつかの場合には疾患の兆候段階の後に投与することができ得る。
【0074】
「治療有効量」は、対象に治療上の利益を与えるのに必要な活性剤の量を意味する。例えば、「治療有効量」は、病理学的症状を改善する、またはそうでなければ改善を引き起こす、疾患の進行、または疾患に関連する生理学的状態、もしくは抵抗性を改善することを誘発する量である。
【0075】
「対象」、「個体」、及び「患者」という用語は、本明細書では互換的に使用され、治療のために評価されている及び/または治療されている哺乳動物を指す。一実施形態では、哺乳動物はヒトである。「対象」、「個体」、及び「患者」という用語は、がんを有する個体、自己免疫疾患を有する個体、病原体感染を有する個体などを含むがこれらに限定されない。対象はヒトであり得るが、他の哺乳動物、特にヒトの疾患の実験室モデルとして有用なそれらの哺乳動物、例えばマウス、ラットなども含み得る。
【0076】
II.詳細な説明
抗BCMA抗体
本発明は、ヒトBCMAに結合する密接に関連した重鎖のみ抗体のファミリーを提供する。このファミリーの抗体は、本明細書に定義され、図1に示される一組のCDR配列を含み、図2に示される配列番号20~53に提供される重鎖可変領域(VH)配列によって例示される。抗体のファミリーは、臨床的治療薬(複数可)としての有用性に寄与する多くの利点を提供する。抗体は、所望の結合親和性を有する特定の配列の選択を可能にする、ある範囲の結合親和性を有するメンバーを含む。
【0077】
適切な抗体は、開発及び治療的または他の使用のために本明細書に提供されるものから選択され得、二重特異性抗体もしくは三重特異性抗体、またはCAR-T構造の一部としての使用を含むがこれらに限定されない。候補タンパク質に対する親和性の決定は、Biacore測定などの当技術分野において公知の方法を使用して実施することができる。抗体ファミリーのメンバーは、約10-6~約10-11までのKdで、BCMAに対する親和性を有し得、限定されることなく、約10-6~約10-10まで、約10-6~約10-9まで、約10-6~約10-8まで、約10-8~約10-11まで、約10-8~約10-10まで、約10-8~約10-9まで、約10-9~約10-11まで、約10-9~約10-10まで、またはそれらの範囲内の任意の値を含む。親和性の選択は、調節のための生物学的評価、例えば、阻害、インビトロアッセイ、前臨床モデル、及び臨床試験を含むBCMA生物学的活性、ならびに潜在的な毒性の評価によって確認することができ得る。
【0078】
本明細書における抗体ファミリーのメンバーは、カニクイザルのBCMAタンパク質と交差反応性ではないが、所望ならば交差反応性を提供するように操作することができる。
【0079】
本明細書中のBCMA特異的抗体のファミリーは、ヒトVHフレームワーク中にCDR1、CDR2、及びCDR3配列を含むVHドメインを含む。CDR配列は、一例として、配列番号20~53に記載の提供された例示的可変領域配列のCDR1、CDR2もしくはCDR3それぞれについて、アミノ酸残基26~35、53~59、及び98~117の前後の領域内に位置し得る。一般に配列の順序は同じままであるが、異なるフレームワーク配列が選択される場合、CDR配列は異なる位置であり得ることが当業者には理解されるであろう。
【0080】
本発明の抗体は、配列番号19のCDR3アミノ酸配列を共有する。本発明の抗BCMA抗体のCDR1及びCDR2配列は、以下の構造式によって包含され得、ここでXは可変アミノ酸を示し、それは以下に示されるような特定のアミノ酸であり得る。
CDR1
G F T F X1 X2 Y A(配列番号55)
(式中、
X1が、SまたはTであり、
X2が、S、N、またはRである)、
CDR2
X3 X4 X5 X6 G X7 X8 X9(配列番号56)
(式中、
X3が、IまたはLであり、
X4が、S、T、I、またはVであり、
X5が、GまたはEであり、
X6が、S、G、N、またはDであり、
X7が、G、D、またはAであり、
X8が、S、T、またはNであり、
X9が、TまたはSである)。
【0081】
代表的なCDR1、CDR2、及びCDR3配列を図1に示す。
【0082】
いくつかの実施形態では、本発明の抗BCMA抗体は、配列番号1、2、3、または4のCDR1配列を含む。特定の実施形態では、CDR1配列は配列番号1または配列番号2である。
【0083】
いくつかの他の実施形態では、本発明の抗BCMA抗体は、配列番号5~18及び54のうちのいずれか1つのCDR2配列を含む。特定の実施形態では、CDR2配列は配列番号5または配列番号54である。
【0084】
別の実施形態では、本発明の抗BCMA抗体は、配列番号1のCDR1配列、配列番号5のCDR2配列、及び配列番号19のCDR3配列を含む。
【0085】
さらなる実施態様では、本発明の抗BCMA抗体は、配列番号2のCDR1配列、配列番号54のCDR2配列、及び配列番号19のCDR3配列を含む。
【0086】
さらなる実施形態では、本発明の抗BCMA抗体は、配列番号20~53(図2)の重鎖アミノ酸配列のうちのいずれかを含む。
【0087】
いくつかの実施形態では、本発明のCDR配列は、配列番号1~19及び54のうちのいずれか1つのCDR1、CDR2、及び/またはCDR3配列、またはCDR1、CDR2、及びCDR3配列のセットに対する1、2、3またはそれ以上のアミノ酸置換を含む(図1)。いくつかの実施形態では、該アミノ酸置換(複数可)は、上に提供された式に対して、CDR1のアミノ酸位置5もしくは6のうちの1つ以上、及び/またはCDR2のアミノ酸位置1~4もしくは6~8のうちの1つ以上である。いくつかの実施形態では、本明細書の抗BCMA抗体のCDR配列は、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも98%の同一性、または配列番号1~19及び54のうちのいずれか1つの、CDR1、CDR2、及び/またはCDR3配列、もしくはCDR1、CDR2、及びCDR3配列のセットに対して少なくとも99%の同一性を備える配列を有する(図1)。いくつかの他の実施形態では、本明細書の一本鎖のみ抗BCMA抗体は、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、少なくとも98%の同一性、または図2に示す重鎖可変領域配列に対して少なくとも99%の同一性を備える重鎖可変領域配列を含むであろう。
【0088】
いくつかの実施形態では、二重特異性抗体または多重特異性抗体が提供され、それらは、三鎖二重特異性抗体を含むが、これらに限定されず、本明細書で論じられる構成のいずれかを有し得る。二重特異性抗体は、BCMA以外のタンパク質に特異的な抗体の少なくとも重鎖可変領域を含む。
【0089】
本発明のタンパク質が二重特異性抗体である場合、一方の結合部分はヒトBCMAに特異的であり、他方のアームは標的細胞、腫瘍関連抗原、標的抗原、例えばインテグリンなど、病原体抗原、チェックポイントタンパク質などに特異的であり得る。標的細胞は具体的には、血液腫瘍、例えばB細胞腫瘍などのがん細胞を含む。
【0090】
一本鎖ポリペプチド、二本鎖ポリペプチド、三本鎖ポリペプチド、四本鎖ポリペプチド、及びそれら多数を含むがこれらに限定されず、様々な形式の二重特異性抗体が本発明の範囲内である。本明細書における二重特異性抗体は、形質細胞(PC)及び多発性骨髄腫(MM)上に選択的に発現されるBCMAに結合するT細胞二重特異性抗体、及びCD3(抗BCMA対抗CD3抗体)を具体的に含む。そのような抗体は、BCMAを運搬する細胞の強力なT細胞媒介殺傷を誘導する。
【0091】
薬学的組成物
本発明の別の態様は、適切な薬学的に許容される担体と混合した本発明の1つ以上の抗体を含む薬学的組成物を提供することである。本明細書で使用される薬学的に許容される担体は、限定されないが、アジュバント、固体担体、水、緩衝剤、または治療成分を保持するために当技術分野で使用される他の担体、またはそれらの組み合わせを例示する。
【0092】
本発明に従って使用される抗体の薬学的組成物は、所望の純度を有するタンパク質を、凍結乾燥製剤または水溶液の形態などの、任意の薬学的に許容される担体、賦形剤または安定剤と混合することにより貯蔵用に調製される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)を参照)。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、レシピエントに対し、用いられる投与量及び濃度で無毒であり、緩衝液(リン酸、クエン酸、及び他の有機酸など)、アスコルビン酸、及びメチオニンを含む酸化防止剤、保存剤(オクタデシルジメチルベンジル塩化アンモニウム、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチル、もしくはベンジルアルコール、アルキルパラベン(メチルもしくはプロピルパラベンなど)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、及びm-クレゾールなど)、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、タンパク質(血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなど)、親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど)、アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリジンなど)、単糖類、二糖類、及び他の炭水化物(グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む)、キレート剤(EDTAなど)、糖類(スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールなど)、塩形成対イオン(ナトリウムなど)、金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体)、及び/または非イオン性界面活性剤(TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)など)を含む。
【0093】
抗BCMA抗体製剤は、例えば、米国特許第9,034,324号に開示されている。同様の製剤を本発明のタンパク質に使用することができる。
【0094】
使用方法
本明細書の薬学的組成物は、BCMAの発現を特徴とするB細胞関連障害を治療するために使用することができる。
【0095】
そのようなB細胞関連障害には、B細胞、及び形質細胞の悪性腫瘍、ならびに自己免疫障害が含まれ、形質細胞腫、ホジキンリンパ腫、濾胞性リンパ腫、非切断型小細胞リンパ腫、風土性バーキットリンパ腫、散発性バーキットリンパ腫、辺縁帯リンパ腫、結節外粘膜関連リンパ組織リンパ腫、結節性単球様B細胞リンパ腫、脾リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、大細胞型リンパ腫、びまん性混合細胞型リンパ腫、免疫芽球性リンパ腫、原発性縦隔B細胞リンパ腫、肺B細胞血管中心性リンパ腫、小リンパ球性リンパ腫、不確定な悪性度のB細胞増殖、リンパ腫様肉芽腫症、移植後リンパ増殖性疾患、免疫調節障害、関節リウマチ、重症筋無力症、特発性血小板減少症紫斑病、抗リン脂質抗体症候群、シャーガス病、グレーブス病、ウェゲナー肉芽腫症、結節性多発動脈炎、シェーグレン症候群、尋常性天疱瘡、強皮症、多発性硬化症、抗リン脂質抗体症候群、ANCA関連血管炎、グッドパスチャー病、川崎病、自己免疫性溶血性貧血、及び急速に進行性の糸球体腎炎、重鎖病、原発性もしくは免疫細胞関連アミロイドーシス、またはモノクローナルガンマ症を含むが、限定されない。
【0096】
BCMAの発現を特徴とする形質細胞障害には多発性骨髄腫(MM)が含まれる。MMは、骨髄区画における異常な形質細胞のモノクローナル増殖及び蓄積を特徴とするB細胞悪性腫瘍である。MMに対する現在の治療は、しばしば寛解をもたらすが、ほぼ全ての患者は最終的に再発し死亡する。同種造血幹細胞移植の背景における骨髄腫細胞の免疫介在性除去の実質的な証拠があるが、しかしながら、このアプローチの毒性は高く、そして治癒する患者はほとんどいない。いくつかのモノクローナル抗体は、前臨床試験及び初期の臨床試験においてMMを治療するための見込みを示しているが、MMに対する任意のモノクローナル抗体療法の一貫した臨床効果は決定的には証明されていない。そのため、MMの免疫療法を含む新しい療法が非常に必要とされている(例えば、Carpenter et al.,Cliln Cancer Res 2013,19(8):2048-2060を参照)。
【0097】
形質細胞を含む、すなわちBCMAを発現する別のB細胞障害は、狼瘡としても知られる全身性エリテマトーデス(SLE)である。SLEは全身性の自己免疫疾患であり、身体のあらゆる部分に影響を及ぼし、免疫系が身体自身の細胞及び組織を攻撃し、慢性的な炎症及び組織の損傷を引き起こす。それは、抗体-免疫複合体が、凝結してさらなる免疫応答を引き起こす、タイプIII過敏反応である(Inaki & Lee, Nat Rev Rheumatol 2010;6:326-337)。
【0098】
本発明の抗体は、MM、SLE、及び上記に列挙したものなどのBCMAの発現を特徴とする他のB細胞障害を治療するための治療薬を開発するために使用することができる。
【0099】
一実施形態では、本明細書の抗体は、重鎖のみ抗BCMA抗体-CAR構造、すなわち、重鎖のみ抗BCMA抗体-CAR形質導入T細胞構造の形態であり得る。
【0100】
疾患の治療のための本発明の組成物の有効量は、投与手段、標的部位、患者の生理的状態、患者がヒトであるか動物であるか、投与される他の薬剤、及び処置が予防的なものであるか治療的なものであるかを含む多くの異なる要因によって変化する。通常、患者はヒトであるが、ヒト以外の哺乳動物、例えばイヌ、ネコ、ウマなどのコンパニオン動物、ウサギ、マウス、ラットなどの実験動物なども治療することができる。治療投与量は、安全性及び有効性を最適化するために滴定されることが可能である。
【0101】
投与量レベルは、当業者によって容易に決定されることが可能であり、必要に応じて、例えば、治療への対象の応答を変更するために必要とされる場合、変更されることが可能である。単一剤形を生成するために担体材料と組み合わせることが可能である活性成分の量は、治療する宿主及び特定の投与様式に応じて異なる。一般的に単位剤形は、約1mg~約500mgの間の活性成分を含む。
【0102】
いくつかの実施形態では、薬剤の治療投与量は、宿主の体重の、約0.0001~100mg/kg、及びより通常では0.01~5mg/kgの範囲であり得る。例えば、投与量は、1mg/kg体重もしくは10mg/kg体重、または1~10mg/kgの範囲内であり得る。例示的な治療計画は、2週間に1回または1ヶ月に1回または3~6ヶ月に1回の投与を伴う。本発明の治療実体は、通常、複数の機会に投与される。単回投与の際の間隔は、毎週、毎月または毎年であり得る。また間隔は、患者の治療実体の血中レベルを測定することによって指定される場合、不定期でもあり得る。あるいは、本発明の治療実体は、徐放性製剤として投与されることが可能であり、その場合、あまり頻繁な投与を必要としない。投与量及び頻度は、患者におけるポリペプチドの半減期によって変化する。
【0103】
典型的に、組成物は、液体溶液または懸濁液のいずれかの注射剤として調製され、また、注射前に液体ビヒクル中に溶解または懸濁するのに好適な固体形態も調製することができる。調製物はまた、上記のように、増強されたアジュバント効果のために、リポソームもしくはポリラクチド、ポリグリコリド、またはコポリマーなどのマイクロ粒子中に乳化またはカプセル化され得る。Langer,Science 249:1527,1990及びHanes,Advanced Drug Delivery Reviews 28:97-119,1997。本発明の薬剤は、活性成分の持続放出またはパルス放出を可能にするような方法で処方することができる蓄積注射またはインプラント調製物の形態で投与することができ得る。薬学的組成物は、一般に、無菌であり、実質的に等張性であり、及び米国食品医薬品局の全ての適正製造基準(GMP)規制に完全に準拠して処方される。
【0104】
本明細書中に記載される抗体及び抗体構造の毒性は、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順によって、例えば、LD50(集団の50%に致命的な用量)またはLD100(集団の100%に致命的な用量)を決定することによって、決定され得る。毒性と治療効果との間の用量比が治療指数である。それらの細胞培養アッセイ及び動物実験から得られたデータは、ヒトに使用するのに毒性のない投与量範囲を処方するのに使用することができる。本明細書に記載の抗体の投与量は、好ましくは、毒性がほとんどまたは全くない有効用量を含む循環濃度の範囲内にある。投与量は、採用される剤形及び利用される投与経路に応じて、この範囲内で変動し得る。正確な処方、投与経路、及び投与量は、患者の状態を考慮して個々の医師によって選択され得る。
【0105】
投与用組成物は、一般に、薬学的に許容される担体、好ましくは水性担体に溶解した抗体または他の削摩剤を含むであろう。様々な水性担体、例えば緩衝食塩水などを使用することができる。それらの溶液は無菌であり、及び一般的に望ましくない物質を含まない。それらの組成物は、従来の周知の滅菌技術によって滅菌することができ得る。本発明の組成物は、生理的条件に近づけるために必要とされるような製薬学的に許容可能な補助物質(pH調整剤、緩衝剤及び毒性調整剤、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム及び乳酸ナトリウムなど)を含むことができ得る。これらの製剤中の活性剤の濃度は広く変動し得、選択される特定の投与様式及び患者の必要性に従って主に体液量、粘度、体重などに基づいて選択されるであろう(例えば、Remington’s Pharmaceutical Science(15th ed.,1980)及びGoodman&Gillman,The Pharmacological Basis of Therapeutics(Hardman et al.,eds.,1996))。
【0106】
本発明の活性剤及びその製剤、ならびに使用説明書を含むキットも本発明の範囲内である。キットはさらに少なくとも1つの追加の試薬、例えば化学療法薬などを含むことができる。キットは、典型的に、キットの内容物の意図される使用を示すラベルを含む。ラベルという用語には、キット上にもしくはキットと共に供給される、または他の方法でキットに付随する、あらゆる書面または記録物が含まれる。
【0107】
ここで十分に説明されている本発明は、本発明の趣旨または範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行うことができることが当業者に明らかとなるであろう。
【実施例
【0108】
実施例1
重鎖のみ抗体を発現する遺伝子操作ラット
「ヒト-ラット」のIgH遺伝子座は、いくつかの部分に分けて構築され、組み立てられた。これは、ヒトJの下流のラットC領域遺伝子の改変及び結合、ヒトV6-D断片領域の上流付加が含まれた。ヒトV遺伝子の別々の集団を有する2つのBAC[BAC6及びBAC3]は、ヒトV6、全てのD、全てのJ、及び修飾されたラットCγ2a/1/2b(ΔC1)を含む、組み立てられ修飾された領域をコードするGeorgと呼ばれるBACを同時注入した。
【0109】
再配置されていない立体配置の人工重鎖免疫グロブリン遺伝子座を有するトランスジェニックラットを作製した。IgG2a(ΔC1)、igG1(ΔC1)、IgG2b(ΔC1)遺伝子はC1断片を欠いていた。定常領域遺伝子IgE、IgA、及び3’エンハンサーが、Georg BACに含まれた。トランスジェニックラットのRT-PCR及び血清分析(ELISA)は、トランスジェニック免疫グロブリン遺伝子座の生産的な再配列及び血清中の様々なアイソタイプの重鎖のみ抗体の発現を明らかにした。トランスジェニックラットを、米国特許公開第2009/0098134 A1号に以前に記載された変異内因性重鎖及び軽鎖遺伝子座を有するラットと交雑させた。そのような動物の分析は、ラット免疫グロブリン重鎖及び軽鎖発現の不活性化、ならびにヒトV、D、及びJ遺伝子によってコードされる可変領域を有する重鎖抗体の高レベル発現を示した。トランスジェニックラットの免疫化は、抗原特異的重鎖抗体の高力価血清応答の生成をもたらした。ヒトVDJ領域を有する重鎖抗体を発現するそれらのトランスジェニックラットは、UniRatと呼ばれた。
【0110】
実施例2
免疫
BCMAの組換え細胞外ドメインによる免疫。
12匹のUniRat動物(6匹のHC27、6匹のHC28)を組換えヒトBCMAタンパク質で免疫した。Titermax/Alhydrogelアジュバントを用いて標準的なプロトコルに従って動物を免疫した。BCMAの組換え細胞外ドメインは、R&D Systemsから購入し、滅菌生理食塩水で希釈し、そしてアジュバントと組み合わせた。免疫原をTitermax及びAlhydrogelアジュバントと組み合わせた。Titermax中の免疫原による初回免疫(プライミング)を左右の脚に投与した。その後の追加免疫をAlhydrogelの存在下で行い、採取3日前に追加免疫をPBS中の免疫原で行った。血清は、血清力価を決定するために最終採血時にラットから採取した。
【0111】
血清力価結果
血清力価概要情報を、図4及び5に示す。動物の半数について、単一の1:500血清力価希釈に対する結合活性は、真核細胞で産生されたhuBCMA+Fcタンパク質及びcynoBCMA+Fcタンパク質、ならびにそれぞれの大腸菌及び小麦胚芽由来の2つのヒトBCMAタンパク質に対してELISAにより試験した。さらに、血清試料を、2つの標的外タンパク質、HSA及びヒトIgG1に対して試験した。さらに、12匹全ての動物からの血清をNCI-H929細胞(BCMA+、ラムダ-)への結合についてアッセイした。
【0112】
この群の動物の中で、我々は、NCI-H929細胞(BCMA+、ラムダ-)に対する血清反応性レベルの有意な広がりを観察した。それらの結果の関連性は、動物のサブセットについて作成されたELISA結合データによって確認された。いくつかの一般的なFc特異的反応性が多数の動物について観察されているが、最も有望と思われるものもまた、代替源(大腸菌、小麦胚芽)由来のタグ付けされていないヒトBCMAに対するアッセイにおいて高い見かけの力価を示し、有意なBCMA ECD特異的結合活性を示す。cynoBCMA+Fcタンパク質への結合についての陽性シグナルは、ヒト免疫原にも含まれる分子のECDまたはFc部分のいずれかへの結合を反映し得る。両方のアッセイ種類では、免疫化前にそれらの動物から採取した血清の分析は、免疫原または標的外タンパク質に対する反応性を示さなかった。
【0113】
実施例3
遺伝子構築、発現及び結合アッセイ
リンパ節細胞において高度に発現される重鎖のみ抗体をコードする309個のcDNAを遺伝子構築のために選択し、発現ベクターにクローニングした。続いて、それらの309個の重鎖配列を、UniAb重鎖のみ抗体(CH1欠失、軽鎖なし)としてHEK細胞に発現させた。試験した34個のVH領域のアミノ酸配列を含む結合結果は、BCMA_FAM2_DATAに見出すことができる。
【0114】
2つの抗体の上清を、標準的なELISAアッセイにおいてヒトBCMAへの結合について試験した。組換えBCMAタンパク質への結合は、Abcam(ab50089)から入手したヒトBCMA ECDを用いてELISAにより測定した。BCMA ECDタンパク質を2μg/mLの濃度で使用し、50ng/mLのUniAbを捕捉した。UniAbの結合は、ヤギ抗ヒトIgG HRP共役抗体(ThermoFisher 31413)を用いて検出した。全ての抗体を、0.05%Tween-20及び1%粉乳を含む1×TBSで希釈した。
【0115】
バキュロウイルスタンパク質抽出物(BVP)への標的外結合は、希釈剤として1×PBS及び1%粉乳を使用するように変更して、上記のようにELISAによって実施した。BVP抽出物はINSERM(Nantes、France)から入手した。バキュロウイルス粒子への結合(我々のアッセイにおけるバックグラウンドの>5倍)は、ヒト及びサルにおける抗体の半減期の減少と相関し、ヒト組織との低親和性相互作用を示すと考えられる(Hotzel et al.,mAbs 4:6,p753-760,2012)。ヒトIgG1の標的外結合を、ヒトIgG1kappaを捕捉するためのUniAbを用いたELISA、続いてヤギ抗ヒトkappaHRP共役抗体によるkappa鎖の検出によって評価した(Southern Biotech 2060-05)。
【0116】
全抗体の上清もまた、RPMI-8226細胞(BCMA+、ラムダ+)及びH929細胞(BCMA+、ラムダ-)への結合についてフローサイトメトリーによって試験した。試料をEMD Millipore製のGuava easyCyte 8HT装置を用いてフローサイトメトリーにより測定し、guavaSoftを用いて分析した。結合抗体をPEに結合したヤギ抗ヒトIgG F(ab’)で検出した(Southern Biotech 2042-09)。全ての抗体を、1%BSAを含むPBSで希釈した。陽性染色は、ヒトIgG1アイソタイプ対照による染色と比較することによって決定した。NCI-H929及びRPMI-8226細胞株は、American Type Culture Collection(ATCC)から入手し、ATCCの推奨に従って培養した、ヒトBCMAを発現するヒト多発性骨髄腫株である。
【0117】
2つのUniAbもまた、組換えタンパク質ELISAスタイルアッセイにおいてAPRIL(リガンド)/BCMA(受容体)の結合を遮断する能力について評価した。BCMAとAPRILとの間の受容体/リガンド相互作用の遮断を評価するために、組換えヒトBCMA(Sino Biological 10620-H03H)をプレート上に直接コーティングし、続いて各UniAbの希釈系列と共にインキュベートした。HAタグ付き組換えAPRILタンパク質(RnD Systems 5860-AP-010)をBCMA/抗体複合体と共にインキュベートし、HRPに結合したニワトリ抗HA抗体(Abcam ab1190)を用いてBCMAに対するAPRILの結合を検出した。RnDシステム抗BCMA抗体(AF193)をBCMA/APRIL遮断の陽性対照として用いた。
【0118】
試験したUniAbのいずれも陽性結合を示さなかったが、そのままのバキュロウイルス粒子(BVP)に対してさらなる標的外結合アッセイを行った。
【0119】
本発明の好ましい実施形態が、本明細書に示され、説明されたが、そのような実施形態が例としてのみ提供されることは、当業者には明らかであろう。ここで、当業者には、多数の変化形、変更、及び置換を本発明から逸脱することなく想到するであろう。本明細書に記載される本発明の実施形態に対する種々の代替手段が、本発明の実施において採用され得ることを理解されたい。以下の特許請求の範囲が本発明の範囲を定義し、特許請求の範囲内の方法及び構造ならびにそれらの等価物を包含することが意図される。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
図6
【配列表】
0007254699000001.app