IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッドの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】眼科用レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/06 20060101AFI20230403BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
G02C7/06
G02C7/04
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020099909
(22)【出願日】2020-06-09
(62)【分割の表示】P 2015161868の分割
【原出願日】2015-08-19
(65)【公開番号】P2020140216
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2020-06-09
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】14/464,182
(32)【優先日】2014-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510294139
【氏名又は名称】ジョンソン・アンド・ジョンソン・ビジョン・ケア・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Johnson & Johnson Vision Care, Inc.
【住所又は居所原語表記】7500 Centurion Parkway, Jacksonville, FL 32256, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】ノエル・エイ・ブレナン
(72)【発明者】
【氏名】キャレド・エイ・シェハーブ
(72)【発明者】
【氏名】シュ・チェン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ジェイ・コリンズ
(72)【発明者】
【氏名】マンワイ・カリス・ラウ
(72)【発明者】
【氏名】エリック・アール・リッチー
(72)【発明者】
【氏名】シン・ウェイ
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】関根 洋之
【審判官】石附 直弥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/089612(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の近視の進行を遅延、抑制又は予防することのうちの少なくともいずれか1つを目的とする眼科用レンズであって、
前記眼科用レンズは、
前記眼科用レンズの中心から、半径1.5mm乃至3.5mm内に位置し、前記患者の近視を矯正するように適合された所定の負の屈折度数を有する中心ゾーン、
前記中心ゾーンの前記所定の負の屈折度数に対する加入度数(ADD power)を有する、前記中心ゾーンを取り囲む処置ゾーン、及び
前記中心ゾーン内の少なくとも1つの改良された処置ゾーンであって、前記改良された処置ゾーンにおけるパワーの大きさが、前記改良された処置ゾーンおいて5Dより大きく10D以下の範囲である、改良された処置ゾーン、
を備え、
前記少なくとも1つの改良された処置ゾーンは、前記眼科用レンズの中心から、半径0.25mm乃至0.5mm内に位置し、
前記中心ゾーン内において、第2の改良された処置ゾーンをさらに含む、眼科用レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用レンズに関し、より詳細には、近視の進行を、遅延、遅滞、又は防止するように設計された、コンタクトレンズに関する。本発明の眼科用レンズは、高プラス又は高加入処置ゾーンを含み、それによって近視の進行を防止及び/又は遅延する。
【背景技術】
【0002】
視力低下をもたらす一般的な症状は、メガネ、又はハード又はソフトコンタクトレンズの形態の補正レンズが処方される、近視及び遠視である。症状は、一般に、眼の長さと眼の光学要素の焦点との間のバランスの悪さとして説明される。近視の眼は、網膜面の前で焦点合わせをし、遠視の眼は、網膜面の先で焦点合わせをする。近視は、典型的には、眼の軸長が眼の光学要素の焦点距離よりも長く成長する、即ち、眼が長くなりすぎるゆえに発現する。遠視は、典型的には、眼の光学要素の焦点距離と比較して眼の軸長がとても短い、即ち、眼が十分成長しないゆえに発現する。
【0003】
近視は、世界の多くの地域で有病率が高い。この症状の最も大きな懸念材料は、例えば五(5)又は六(6)ジオプター超の、高度近視の進行の可能性であり、視覚補助具なしでは個人の機能能力に劇的な影響を与える。また、高度近視は、網膜疾患、白内障、及び緑内障のリスク増加と関連する。
【0004】
補正レンズを使用して眼の総焦点を変更し、それぞれ、面の前から焦点を移動させることによって網膜面でのより鮮明な像を与えて近視を矯正する、又は面の先から遠視を矯正する。しかし、症状に対する矯正方法は症状の原因に対処せず、単に人工装具か対症療法にすぎない。
【0005】
ほとんどの眼は、単純近視又は単純遠視を有さないが、近視性乱視又は遠視性乱視を有する。乱視焦点異常は、光の点線源の像を生じさせて、2つの互いに直交する線を異なる焦点距離で形成する。前述の議論では、用語「近視」及び「遠視」は、それぞれ、単純近視又は近視性乱視ならびに遠視及び遠視性乱視を含むために使用される。
【0006】
正視ははっきりとした視覚の状態を説明し、無限遠の物体は、弛緩した水晶体によって比較的焦点がしっかりと合う。成人の正常眼又は正視眼では、遠く及び近くの物体両方からの光は、開口もしくは瞳孔の中央もしくは近軸領域を通過し、倒立像が感知される網膜面に近い、眼内部の水晶体によって焦点合わせされる。しかし、ほとんどの正常眼は、一般に、5.00mmの開口のために約+0.50Dジオプター(D)の領域で正の縦方向球面収差を示すことが観察され、これは、眼が無限遠に焦点を合わせるとき、その周辺で開口又は瞳孔を通過する光線が、網膜面の前にて+0.50Dで焦点を合わせることを意味する。本発明で使用する場合、尺度Dは屈折度数であり、レンズ又は光学系の焦点距離の逆数としてメートル単位で定義される。
【0007】
正常眼の球面収差は、一定ではない。例えば、調節(主に誘導される眼の屈折パワーの変化だが、内部の水晶体に対する変化である)は、球面収差の正から負への変化を引き起こす。
【0008】
上記の如く、近視は、典型的には、過度の軸方向成長又は眼の伸びによって生じる。現在、主として動物研究から、眼の軸方向成長は、網膜像の質及び焦点に影響される場合があることが一般に認められている。いくつかの異なる実験的パラダイムを利用して様々な異なる動物種に実施した実験は、網膜像の質を変化させて、眼の成長における一貫した予測可能な変化をもたらすことができることを示してきた。
【0009】
更に、正レンズ(近視焦点ぼけ)又は負レンズ(遠視焦点ぼけ)を通して、鳥類及び霊長類両方の動物モデルにおいて、網膜像の焦点がぼけることは、(方向及び大きさの観点から)眼の成長における予測可能な変化をもたらし、眼の成長と一致し、現れた焦点ぼけを補うことが知られている。光学ぼけと関連する眼の長さにおける変化は、強膜の成長と脈絡膜の厚さの両方の変化によって変化することが分かっている。正レンズのぼけは、近視ぼけを生じさせて強膜の成長速度を低下させ、遠視性屈折異常をもたらす。負レンズのぼけは、遠視ぼけを生じさせて強膜の成長速度を上昇させ、近視性屈折異常をもたらす。網膜像の焦点ぼけに対応したこれらの眼の成長の変化は、眼の長さの変化が依然として発生しているとき、視神経が損傷する場合、局所的網膜機構を通して広く媒介されており、焦点ぼけが現れることでその特定の網膜領域に局在した眼の成長を変化させることが実証されてきた。
【0010】
ヒトでは、網膜像の質が眼の成長影響を与え得る意見を支持する間接及び直接証拠が共にある。種々の異なる眼症状は、その全てが眼瞼下垂症、先天性白内障、角膜混濁、硝子体出血及びその他の眼疾患などの形態視覚の破壊をもたらし、若者の異常な眼の成長と関連することが見出され、これは、比較的大きな網膜像の質の変更がヒト患者の眼の成長に影響を与えることを示唆する。また、ヒトの眼の成長に対するより微妙な網膜像の変化の影響は、ヒトの眼の成長及び近視の発現のために刺激を与えうる精密作業中の、ヒトの焦点調節系における光学誤差に基づいて仮説が立てられてきた。
【0011】
近視の発現危険因子の1つが、精密作業である。このような精密作業中の調節と関連する調節ラグ又は負の球面収差によって、眼は遠視ぼけを経験する場合があり、そして、これによって、上述のように近視の進行が刺激される。更に、調節系は、能動的適応光学系であり、常に近傍の物体ならびに光学設計に反応する。光学設計が何であろうと、それが目に入ると、眼は近傍の物体に対して調節し、連続的な遠視焦点ぼけが現れて、眼を近視にするであろう。したがって、近視の進行速度を遅延させる光学素子を設計するための1つの方法は、高加入度数又は高プラス度数の使用を通して、高プラス信号を網膜に対して利用することである。
【0012】
米国特許第6,045,578号は、コンタクトレンズ上の正の球面収差の付加が、近視の進行を軽減する又は制御するであろうことを開示している。この方法は、視覚系の球面収差を、眼の長さの成長を変更することに関連した方向及び角度によって変更することを含み、言い換えれば、正視化を球面収差によって調節することができる。このプロセスにおいて、近視の眼の角膜に、レンズ中心から離れて屈折度数が増加したレンズを装着する。レンズの中心部分に入る近軸光線は、物体の鮮明な像を作り出す眼の網膜上に焦点が合わせられる。角膜の周辺部分に入る周縁光線は、角膜と網膜との間の平面内に焦点が合わせられ、網膜上には、その像の正の球面収差が作り出される。この正の球面収差は、眼の成長を抑制する傾向がある、眼に対する生理学的効果を作り出すことにより、近視の眼がより長く成長する傾向を軽減する。
【0013】
近視進行速度の最適な遅延を達成するために必要とされる正の球面収差の水準及び/又はプラス度数は不明瞭であるが、当分野の研究者は、近視の進行を遅延しようとして、約+1.50~最大+3.00Dの正の加入度数の領域を有する複数ゾーン装置を使用しようと試みてきた。この方法で、約50%未満の治療結果が得られた。治効は、軸長の変化と比較された試験群のための相対的な軸長の変化及び/もしくは基準からの等価球面屈折度、ならびに/又は1年又は所定時間にわたる対照群の等価球面屈折度として定義される。50%超かつ100%に近い有効性を有する近視制御治療への必要性が、依然として残っている。動物における眼球の成長の応答は光学的刺激のパワーに比例するので、直観的に、高プラス度数の処置ゾーンを付加することで、より優れた治療を提供することができるであろう(Wildsoet(Vision Research、1995年)によって報告されている通り)。
【0014】
しかし、二焦点又は多焦点眼科用レンズの分野の一般的常識では、高プラス度数又は高加入度数を有するレンズは、視力及びコントラスト感度に対して有害効果を有する場合があることを仮定する(Ardayaら(Optometry、2004年)によって報告されている通り)。更に、Smithら(US7025460)は、老眼のための二焦点又は多焦点レンズ中に通常見出される範囲外のパワーへの異議を唱えている。これには、「屈折異常の適切な種類は、眼の成長(又は眼の非成長)を左右して、レンズ補正の現象において近視(又は再近視化)をもたらすことができるが、屈折異常の量が多い場合、光学的状態が形態覚遮断の現象を変化させる場合があり、そうして近視を生じさせる場合もある、重度の焦点ぼけによるこのような像質の大きな劣化がある、いう点に留意することが重要である」と記述されている。更に、これは、「相当な視力悪化の前に最大量の相対像面湾曲が生じ、これは近視の効果的な治療のための負の像面湾曲の上限に相当する+3.50D~+4.00Dの等価球面周辺にあり、形態覚遮断近視を生じさせる」と教示する。この意見は、研究者が近視制御のための高プラス処置ゾーンを追求することを阻害してきた。
【0015】
それとは反対に、出願人の研究は、従来の低プラス設計に対して、中心距離ゾーン及び約3.00D超のプラス度数を有する高プラスもしくは高加入処置ゾーンを有する設計を使用して、視力喪失を減少させ、コントラスト感度に有意で付加的な影響を与えないことを示す。また、これは、De Graciaら(OVS、2013年)による最近の研究においても支持されているが、最大4.00の加入度数が調査されたのみであり、近視の進行の制御における潜在的利益に対する研究とは関係がない。この飛躍的進歩は、眼科領域設計に近視の進行において有意性のある50%超の遅延を達成することを可能にし、更に視力に悪影響を及ぼすことがない。
【0016】
更に、明らかに、距離パワーに対して有意に高いプラス度数は、より低い加入度数の設計によって発生するような調節の減少をもたらすと予想されておらず、精密作業活動中のはっきりとした視覚のために、患者は加入度数にある程度頼ることがあり、これは出願人の研究中に観察された。この調節の減少は、装置の距離部分を通過する光線の遠視焦点ぼけという結果をもたらす場合がある。本発明において、患者は、近見視力矯正のためにレンズの距離部分に対して調節しなければならず、高プラス度数処置ゾーンを通して結像する物体は、焦点が十分外れている場合、調節性輻輳系により鮮明にすることができない。
【0017】
当分野における別の研究者であるR.Griffin(WO2012/173891)は、調節ラグ、ならびに、焦点深度及び被写界深度の増加をもたらす人工ピンホールの構築を通して近視の進行をもたらす調節ストレスの除去を主張する。それらの設計資産において、本発明と対照的に、「眼の調節はより弛緩される」。
【0018】
ここで図1を参照すると、グラフは、遠見視力を矯正する距離ゾーン及び可変プラス度数の周辺ゾーンを組み込む設計を有する装置を示す。視力は、徐々に小さくなるスネレン視力表による4強制選択法を使用して測定した。周辺プラス度数の約+2.00D~+3.00Dへの増加は、老眼者のための多焦点型設計に特有の高コントラスト視力喪失の増加を引き起こす。しかし、周辺パワーが増加し続けるとき、視力に対する比較影響は、驚くほど改善して横這いになり、したがって約+4.00D~+5.00D超の周辺プラスで、視力喪失は、比較的一定になる。これは、近視制御レンズの設計のために重要であるが、それは、より高いプラス度数が眼の成長より大きな影響を及ぼすことが(動物モデルで)見出されたからである(Wildsoet(Vision Research、1995年)で報告されている通り)。
【0019】
しかし、更なるプラス度数設計の最適化には、像質の最適化が必要である。ここで図2を参照すると、レンズの中心から2.25mmの放射状位置を超えた、+5.00D~+10.00Dのパワーを有するパワー特性が描かれている。光線は、これらの高プラス度数又は高加入度数領域を通過し、網膜の前にしっかりと合った焦点を形成する。しかし、網膜への連続伝播により、これらの光線は、輪状の焦点ぼけを網膜上に形成する。
【0020】
図3の点拡がり関数(PSF)断面図に示すように、+5.00D~+10.00D領域から来る光線は、網膜上に個別のスパイクを形成する。したがって、ある者がこれらの+5.00D又は+10.00D高プラスレンズの1つを通して点光源を見たとき、その者の網膜は、輪状のハローに取り囲まれたピーク信号を受信する。通常、これが問題ではないのは、人が文字を読む又は物体の細部を解像するとき、ハローがぼやけすぎて人がそれを知覚しないからである。それにもかかわらず、これが問題であるのは、人が黒/白エッジを見る場合、PSFのスパイクの存在により、白の背景からのエネルギーが黒に漏れるからである。
【0021】
ここで図4を参照すると、入射瞳径6.0mmで、図2の+5.00D及び+10.00Dのパワー特性のための像断面図は、オブジェクト空間における黒/白エッジを有するPSFを畳み込むことによって示される。0.00Dのパワーを有するレンズは、白黒の間ではっきりとしたエッジを形成し(0.0mmの位置で)、したがって輪状構造を有しない。他方では、+5.00D及び+10.00D領域を有するレンズは、白黒の間ではっきりとしたエッジを有さず、それによって、黒の背景が完全に黒ではなく、白の背景が完全に白ではない像をもたらす。
【0022】
したがって、ハローの存在は、高プラス又は高加入レンズ設計の自明の事項である。本発明は、近視の進行を治療、制御、減少させるのに使用するのに適しており、また、一方でハロー効果を最小限に抑える、高プラス度数処置ゾーンを有するレンズに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明のレンズ設計は、遠見視力矯正を確保し、近視の進行を治療、制御、減少させ、また、一方でハロー効果を最小限に抑える高いプラス度数処置ゾーンを有するレンズを提供することによって、従来技術の限界を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0024】
一態様によれば、本発明は、近視の進行の遅延、抑制もしくは予防することの少なくとも1つのため、及びハロー効果を最小限に抑えるための眼科用レンズに関する。眼科用レンズは、近視の矯正のための負のパワーを有する中心ゾーン、及び中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの周辺ゾーンを含む。少なくとも1つの処置ゾーンは、+5.00Dより大きい少なくとも1つの処置ゾーン内の中心ゾーンの外周縁から正のパワーへ増加するパワー特性を有する。最適な距離矯正については、距離パワー領域内のパワー特性は、患者の矯正要件に基づいて平坦であるか、又は徐々に変化して角膜の正の又は負の球面収差を構成することができる。
【0025】
別の態様によれば、本発明は、近視の進行の遅延、抑制又は予防のうち少なくとも1つのための方法に関する。近視の矯正のための負のパワーを有する中心ゾーン、及び中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの周辺ゾーンを含み、少なくとも1つの処置ゾーンは、+5.00Dより大きい少なくとも1つの処置ゾーン内の中心ゾーンの外周縁から正のパワーへ増加するパワー特性を有する、眼科用レンズが提供される。したがって、眼の成長を変化させる。最適な距離矯正については、距離パワー領域内のパワーは、患者の矯正要件に基づいて平坦であるか、又は徐々に変化して角膜の正の又は負の球面収差を構成することができる。
【0026】
本発明のコンタクトレンズは、高プラス又は高加入処置ゾーンを有するパワー特性を考慮して設計される。本明細書において以下に記述する少なくとも1つの処置ゾーンは、黒/白エッジでのハロー効果を最小限に抑える。
【0027】
また、本発明のレンズ設計を特注生産して、患者の眼の平均瞳孔径に基づいて、良好な中心視覚の矯正及びより高い治効の両方を達成してもよい。
【0028】
本発明の高プラスコンタクトレンズ設計は、世界中で増加している近視の進行を防止及び/又は遅延するための、単純で費用効率の高い、かつ有効性のある手段及び方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
本発明の前述ならびに他の特徴及び利点は、添付図面に示される本発明の好ましい実施形態の、以下のより詳細な説明から明らかとなるであろう。
図1】プラス度数が周辺ゾーンに付加されるときの視力の変化を示すグラフを示す。
図2】2つのレンズのパワー特性を示し、1つは+5.00Dの処置ゾーンを有し、もう1つは+10.00Dの処置ゾーンを有する。
図3】入射瞳径6.0mmでの図2のパワー特性のための点拡がり関数の断面図を示す。
図4図2のパワー特性のための像断面図を示す。
図5A】5つのパワー特性のための点拡がり関数を示す。
図5B図5Aのパワー特性のための像断面図を示す。
図6A】本発明の3つのレンズのパワー特性を示す。
図6B】本発明の3つのレンズのパワー特性を示す。
図6C】本発明の3つのレンズのパワー特性を示す。
図7A図6A~Cのパワー特性のための像断面図を示す。
図7B図6A~Cのパワー特性のための像断面図を示す。
図7C図6A~Cのパワー特性のための像断面図を示す。
図8A】本発明の3つの更なるレンズのパワー特性を示す。
図8B】本発明の3つの更なるレンズのパワー特性を示す。
図8C】本発明の3つの更なるレンズのパワー特性を示す。
図9】本発明に従う例示的なコンタクトレンズの図表示である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明に従って、眼科用レンズは、少なくとも1つの中心ゾーンを取り囲む高プラス又は高加入処置ゾーンを有し、近視の進行を治療、予防、又は遅延し、また一方で、黒/白エッジでのハロー効果を最小限に抑える。
【0031】
ここで図5aを参照すると(挿入グラフ)、5つのパワー特性が描かれている:
1)+5.00Dの処置ゾーンを有するパワー特性、2)+10.00Dの処置ゾーンを有するパワー特性、3)約+5.00D~約+12Dの周期的パワー変化を有する2つのジグザグ又は鋸歯状パワー特性、及び4)約+5.00D~約+12.00Dの漸増するパワーを有するパワー特性。
【0032】
図5aのPSF断面図(主要グラフ)では、+5.00D~+10.00Dの加入度数特性の2つの輪状スパイクは、他の3つのパワー特性よりも極めて高い強度を有するが、それは、後者の3つの設計が連続的なパワー変化を有するからである。他方では、後者3つの設計は、より広い輪状スパイクを有する。より広い幅を有するスパイクとより低い強度との間の畳み込みは、図5b(挿入グラフ)に示すように、+5.00D~+10.00Dのパワー特性のためのはっきりとしたエッジと比較して、図5bの主要グラフ中に図示されるように、黒/白エッジの間のハロー強度の滑らかな移行を生じさせる。滑らかな移行の結果として、ヒトの視覚は、後者3つのパワー特性のために、急激な強度特性から生じるハロー効果よりもそれほど煩わしくない任意のハロー効果を見出す。
【0033】
ここで図6a~6cを参照すると、本発明の3つのレンズ設計のパワー特性が描かれている。それぞれの設計について、パワー特性は、負の焦点パワーを有し、既存の近視の遠見視力条件(即ち、近軸パワー)を矯正することができる中心ゾーンを含む。中心ゾーンの直径は、約3mm~約7mm、例えば4.3mmであってもよい。それぞれのレンズ設計は、また、中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの処置ゾーンを含む。少なくとも1つの処置ゾーンは、中心ゾーンにおけるパワーに対して大きな高加入度数又は高プラス度数を有する。
【0034】
図6a~bに示すように、パワー特性は、中心ゾーンの周縁(点A)から少なくとも1つの処置ゾーン内の1点(点B)へ徐々に及び連続的に上昇する。特定の実施形態では、点Bの位置は、レンズの中心から3.0mm~4.5mmである。少なくとも1つの処置ゾーンは、点Bから視覚ゾーンの周縁(点C、例えば、4.5mm)まで一定のままである。図6cに示すように、パワーが点Aから点B及び/又は点Cへ増加(単調である必要はない)するとき、パワー特性はジグザグであっても又は揺動してもよい。特定の実施形態では、少なくとも1つの処置ゾーンは、約+1D~約+15Dの範囲の屈折度数を有してもよい。
【0035】
本発明によれば、少なくとも1つの処置ゾーンにおけるプラス度数の段階的及び/又は周期的変化は、ハロー効果を軽減するが、それは、このような変動がはっきりとした黒/白エッジで強度特性を滑らかにするからである。図6a~cの3つのレンズ設計のハロー強度特性を、それぞれ図7a~cに示す。3つの全ての設計は、黒/白エッジでの滑らかなハロー強度特性を有する。
【0036】
本発明のレンズは、ハローが人間の目に対してそれほど煩わしくなくなるように設計されるが、レンズが眼の上で偏心化するようになる場合、ハロー効果を低下させるのが困難な場合がある。レンズが偏心する場合、PSFの輪状構造は非対称になり、エネルギーがPSFの片側から別の側に移動する。その結果、PSFの輪状構造の片側は、大幅に高い強度を有するであろうし、ハロー強度は増加するであろう。ハロー強度特性に関わらず、ハローは明白になるであろう。したがって、利用されるレンズの幾何学的設計は、眼の上での良好なレンズセンタリングをもたらし、更に、視覚的作為についての可能性を最小限に抑えるべきである。
【0037】
ここで図8a~cを参照すると、本発明の更に3つのレンズ設計のパワー特性が描かれている。これらの3つのレンズ設計は、1)中心ゾーン内でパワーが付加される少なくとも1つの改良された処置ゾーン、及び2)少なくとも1つの処置ゾーンを有する。少なくとも1つの改良された処置ゾーンは、約0.5mm~約1.0mmの直径によって異なってもよい。少なくとも1つの改良された処置ゾーンのパワーの大きさは、約+1D(図8a)~約+10D(図8b~c)の範囲で変動してもよい。少なくとも1つの処置ゾーンは、上記のように、プラス度数又は加入度数の段階的及び/又は周期的変化を有するか、又はプラス度数又は加入度数の段階的増加を有してもよい。少なくとも1つの処置ゾーンのパワーの大きさは、約+5D~約+15D(図8b~c)の範囲で変動してもよい。
【0038】
ここで図9を参照すると、本発明の実施形態に従うコンタクトレンズ900の概略ダイアグラム図が図示されている。コンタクトレンズ900は、視覚ゾーン902及び外側ゾーン904を含む。視覚ゾーン902は、第1中心ゾーン906及び少なくとも1つの周辺ゾーン908を含む。特定の実施形態では、幾何学的レンズの中心900から測定されるように、視覚ゾーン902の直径は、8.0mmが選択されてもよく、ほぼ円形の第1ゾーン906の直径は、4.0mmが選択されてもよく、環状の外側周辺ゾーン908の境界直径は、5mm及び6.5mmであってもよい。図9は、本発明の例示的な実施形態を示すだけであるという点に留意することが重要である。例えば、この例示的な実施形態では、少なくとも1つの周辺ゾーン908外側境界は、必ずしも視覚ゾーン902の外周縁と一致する必要がないのに対して、他の例示的な実施形態では、一致する場合がある。外側ゾーン904は、視覚ゾーン902を取り囲み、レンズの位置決め及びレンズセンタリングを含む標準的なコンタクトレンズ特性を提供する。1つの例示的な実施形態に従って、外側ゾーン904は、眼の上にある場合にレンズの回転を減少させる1つ又は2つ以上の安定化機構を含んでもよい。
【0039】
図9の様々なゾーンが、同心円として描かれており、ゾーンは、楕円形状などの任意の好適な円形状又は非円形状を含んでもよい、という点に留意することが重要である。
【0040】
眼の入射瞳径が次母集団の中で変動したとき、ある種の例示的な実施形態では、レンズ設計を特注生産して、患者の眼の平均瞳孔径に基づいて良好な中心視覚の矯正及び近視に対する治効の両方を達成してもよい、という点に留意することが重要である。更に、瞳孔径は小児患者の屈折及び年齢と相関するので、ある種の例示的な実施形態では、レンズは更に、特定の年齢及び/又は屈折を有する小児次母集団のサブグループに対して、彼らの瞳孔径に基づいて最適化される。本質的に、パワー特性を瞳孔径に対して調節又は調整し、中心視覚の矯正と高プラス又は高加入処置ゾーンから得られたハロー効果の最小化との最適バランスを得てもよい。
【0041】
現在入手可能なコンタクトレンズは依然として、視力矯正のための費用効果の高い手段である。薄いプラスチックレンズを目の角膜にかぶせて装着し、近視もしくは近目、遠視もしくは遠目、乱視、すなわち角膜の非球面性、及び、老眼、すなわち、遠近調節する水晶体の能力の損失を含む視覚障害を矯正する。コンタクトレンズは多様な形態で入手可能であり、様々な機能性をもたらすべく多様な材料から作製されている。
【0042】
終日装用ソフトコンタクトレンズは、典型的には、酸素透過性を目的として水と合わせられた軟質ポリマー材料から作製される。終日装用ソフトコンタクトレンズは、1日使い捨て型であっても、連続装用使い捨て型であってもよい。1日使い捨て型のコンタクトレンズは通常、1日にわたって装用され、次いで捨てられるが、連続装用又は頻回交換使い捨て型のコンタクトレンズは通常、最大で30日の期間にわたって装用される。カラーソフトコンタクトレンズには、種々の機能性を得るために種々の材料が使用されている。例えば、識別用着色コンタクトレンズは、落としたコンタクトレンズを発見する際に装用者を支援するために、明るい色合いを用いるものであり、強調着色コンタクトレンズは、装用者の生来の眼色を強調することを意図した半透明の色合いを有するものであるが、着色カラーコンタクトレンズは、装用者の眼色を変化させることを意図した、より暗く不透明な色合いを備え、光フィルタリングコンタクトレンズは、特定の色を強調する一方で他の色を弱めるように機能する。硬質ガス透過性ハードコンタクトレンズは、シロキサン含有ポリマーから作製されるものであるが、ソフトコンタクトレンズよりも硬質であり、したがってその形状を保ち、より耐久性がある。二重焦点コンタクトレンズは、老眼である患者専用に設計されるものであり、軟質及び硬質の両方の種類で入手可能である。トーリックコンタクトレンズは特に乱視の患者用に設計され、ソフト及びハードの両方の種類がある。上記の種々の特徴を組み合わせたコンビネーションレンズ、例えばハイブリッドコンタクトレンズもまた入手可能である。
【0043】
本発明のレンズ設計は、任意数の材料から形成された任意数の異なるコンタクトレンズ中に組み込まれてもよい、という点に留意することが重要である。具体的には、本発明のレンズ設計は、1日使い捨て型のコンタクトレンズ、硬質ガス透過性コンタクトレンズ、二重焦点コンタクトレンズ、トーリックコンタクトレンズ、及びハイブリッドコンタクトレンズを含む、本明細書に記載されたコンタクトレンズのいずれかを利用してもよい。加えて、本発明は、コンタクトレンズに関して記載するが、本発明の概念を眼鏡レンズ、眼内レンズ、角膜インレー及び角膜オンレーに利用してもよい、という点に留意することが重要である。
【0044】
ここで図示及び説明した実施形態は、最も実用的で好適な実施形態と考えられるが、当業者であれば、ここに図示及び開示した特定の設計及び方法からの変更はそれ自体当業者にとって自明であり、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく使用できることは明らかであろう。本発明は、説明及び図示される特定の構造に限定されるものではないが、添付の特許請求の範囲に含まれ得る全ての改変例と一貫性を有するものとして解釈されるべきである。
【0045】
〔実施の態様〕
(1) 近視の進行を遅延、抑制又は予防することのうちの少なくともいずれか1つ、及びハロー効果を最小限に抑えることを目的とする眼科用レンズであって、
近視の矯正のための負のパワーを有する中心ゾーン、及び
前記中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの処置ゾーン、を含み、前記少なくとも1つの処置ゾーンが、前記中心ゾーンの外縁部から、前記少なくとも1つの処置ゾーン内における+5.0Dより大きい正のパワーへ増加するパワー特性を有することを特徴とする、眼科用レンズ。
(2) 前記少なくとも1つの処置ゾーンが、約+5D~約+15Dの正のパワーを有することを特徴とする、実施態様1に記載の眼科用レンズ。
(3) 前記中心ゾーンの直径が、約3mm~約7mmであることを特徴とする、実施態様1に記載の眼科用レンズ。
(4) 前記少なくとも1つの処置ゾーンが、前記中心ゾーンの前記外縁部から、前記レンズの中心から約3mm~約4.5mmにおける+5.00Dより大きい前記正のパワーへ連続的に増加するパワー特性を有することを特徴とする、実施態様1に記載の眼科用レンズ。
(5) 前記少なくとも1つの処置ゾーンが、ジグザグの、又は揺動するパワー特性を有することを特徴とする、実施態様1に記載の眼科用レンズ。
【0046】
(6) 前記少なくとも1つの処置ゾーンが、前記レンズの中心から約4.5mmのところに外縁部を有することを特徴とする、実施態様1に記載の眼科用レンズ。
(7) 黒/白エッジにおけるハロー効果を最小限に抑えることを特徴とする、実施態様1に記載の眼科用レンズ。
(8) 前記眼科用レンズが、コンタクトレンズを含む、実施態様1に記載の眼科用レンズ。
(9) 前記眼科用レンズが、眼鏡のレンズを含む、実施態様1に記載の眼科用レンズ。
(10) 前記眼科用レンズが、眼内レンズ、角膜インレー又は角膜オンレーを含む、実施態様1に記載の眼科用レンズ。
【0047】
(11) 1つ又は2つ以上の安定化機構を更に含む、実施態様1に記載の眼科用レンズ。
(12) 近視の進行の遅延、抑制又は予防のうち少なくともいずれか1つを目的とする方法であって、
近視の矯正のための負のパワーを有する中心ゾーン、及び前記中心ゾーンを取り囲む少なくとも1つの処置ゾーンを有する眼科用レンズを提供することであって、前記少なくとも1つの処置ゾーンは、前記中心ゾーンの外縁部から、前記少なくとも1つの処置ゾーン内における+5.00Dより大きい正のパワーへ増加するパワー特性を有する、ことと、
眼の成長を変化させることと、によるものであることを特徴とする、方法。
(13) 前記少なくとも1つの処置ゾーンが、約+5D~約+15Dの正のパワーを有することを特徴とする、実施態様12に記載の方法。
(14) 前記中心ゾーンの直径が、約3mm~約7mmであることを特徴とする、実施態様12に記載の方法。
(15) 前記少なくとも1つの処置ゾーンが、前記中心ゾーンの前記外縁部から、前記レンズの中心から約3mm~約4.5mmにおける+5.00Dより大きい前記正のパワーへ連続的に増加するパワー特性を有することを特徴とする、実施態様12に記載の方法。
【0048】
(16) 前記少なくとも1つの処置ゾーンが、ジグザグの、又は揺動するパワー特性を有することを特徴とする、実施態様12に記載の方法。
(17) 前記少なくとも1つの処置ゾーンが、前記レンズの中心から3.0mm~4.5mmのところに外縁部を有することを特徴とする、実施態様12に記載の方法。
(18) 黒/白エッジにおけるハロー効果を最小限に抑えることを特徴とする、実施態様12に記載の方法。
(19) 前記眼科用レンズが、コンタクトレンズを含む、実施態様12に記載の方法。
(20) 前記眼科用レンズが、眼内レンズ、角膜インレー又は角膜オンレーを含む、実施態様12に記載の方法。
【0049】
(21) 1つ又は2つ以上の安定化機構を前記レンズに加えることを更に含む、実施態様12に記載の方法。
(22) 近視の進行の遅延、抑制又は予防のうち少なくともいずれか1つを目的とする眼科用レンズであって、
近視の矯正のための負のパワーを有するゾーン、及び
少なくとも1つの処置ゾーン、を含み、前記少なくとも1つの処置ゾーンは、近視の進行を実質的に抑制するのに、十分な領域、及び前記領域内の十分なパワーを有することを特徴とする、眼科用レンズ。
(23) 近視の進行が、50%未満であることを特徴とする、実施態様22に記載の眼科用レンズ。
(24) 前記処置ゾーン内のパワーが、前記処置ゾーンの少なくとも一部において+5D超であることを特徴とする、実施態様22に記載の眼科用レンズ。
(25) 前記近視の矯正のためのゾーンが、十分な視力を抑制しないように十分に広いことを特徴とする、実施態様22に記載の眼科用レンズ。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図9