(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】乗員拘束装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/18 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
B60R21/18
(21)【出願番号】P 2020200847
(22)【出願日】2020-12-03
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2019221610
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】中島 豊
(72)【発明者】
【氏名】村上 翔
(72)【発明者】
【氏名】室屋 崇也
【審査官】神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-244857(JP,A)
【文献】特開2016-203913(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0349130(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/16 - 21/33
B60R 22/14 - 22/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両緊急時に車両シート上の乗員の前面に膨張展開するエアバッグと、
前記エアバッグを内蔵すると共に、シートベルトが挿通されたエアバッグ保持部であって、当該シートベルトの装着時に乗員の前面に接触するように位置するエアバッグ保持部と、
連結ストラップと、
を備え、
前記エアバッグ保持部は、前記シートベルトの延在方向に沿って当該シートベルトに対して相対的にスライド可能となるように、前記シートベルトとは独立して設けられ
、
前記連結ストラップは、
前記エアバッグ保持部に連結された第1の部分、又は、前記エアバッグ保持部に連結されていない第3の部分であって、前記連結ストラップが前記シートベルトと一緒に動くように前記エアバッグ保持部内で当該シートベルトの一部と関連付けられた第3の部分と、
車両構造物に連結された第2の部分と、
を有する、乗員拘束装置。
【請求項2】
前記エアバッグ保持部が前記シートベルトに対して相対的にスライドする方向における長さに関し、前記第3の部分は、前記エアバッグ保持部の半分以下である、請求項
1に記載の乗員拘束装置。
【請求項3】
前記第3の部分は、前記シートベルトの装着時に、前記乗員の肩部近傍に位置し、前記乗員の腰部には達していない、請求項
2に記載の乗員拘束装置。
【請求項4】
前記エアバッグ保持部は、前記シートベルトの装着時に、高摩擦部を介して前記乗員の前面に接触する、請求項
2又は3に記載の乗員拘束装置。
【請求項5】
前記第3の部分は、高摩擦部を介して、前記エアバッグ保持部内で前記シートベルトの前記一部と重なっている、請求項
1から4のいずれか一項に記載の乗員拘束装置。
【請求項6】
前記車両緊急時にシートベルトリトラクタのプリテンショナが作動して前記シートベルトを引っ張った際、前記エアバッグ保持部は、前記プリテンショナが作動する前の前記乗員の前面に対する位置に維持されて、引っ張られていく前記シートベルトがスライドするように構成されている、請求項
1から5のいずれか一項に記載の乗員拘束装置。
【請求項7】
前記車両構造物は、前記連結ストラップを巻き取り及び繰り出し可能に構成されたリトラクタであり、
前記連結ストラップは、前記車両緊急時に、前記乗員の動きに追従するように前記リトラクタからの巻き取り及び繰り出しがなされる、請求項
6に記載の乗員拘束装置。
【請求項8】
前記リトラクタ及び前記シートベルトリトラクタは、前記乗員の左右方向の一方の側に位置している、請求項
7に記載の乗員拘束装置。
【請求項9】
前記エアバッグは、前記車両緊急時に、少なくとも前記乗員の肩部近傍から胸部近傍にかけて膨張展開する、請求項1から
8のいずれか一項に記載の乗員拘束装置。
【請求項10】
車両緊急時に車両シート上の乗員の前面に膨張展開するエアバッグと、
前記エアバッグを内蔵すると共に、シートベルトが挿通されたエアバッグ保持部であって、当該シートベルトの装着時に乗員の前面に接触するように位置するエアバッグ保持部と、
を備え、
前記エアバッグ保持部は、前記シートベルトの延在方向に沿って当該シートベルトに対して相対的にスライド可能となるように、前記シートベルトとは独立して設けられ、
前記エアバッグは、前記車両緊急時に、前記乗員の首部前方にて当該乗員に対して横方向に広がって膨張展開する
、乗員拘束装置。
【請求項11】
前記エアバッグは、前記車両緊急時に、前記乗員の顎の下方で膨張展開する、請求項1から
10のいずれか一項に記載の乗員拘束装置。
【請求項12】
車両緊急時に車両シート上の乗員の前面に膨張展開するエアバッグと、
前記エアバッグを内蔵すると共に、シートベルトが挿通されたエアバッグ保持部であって、当該シートベルトの装着時に乗員の前面に接触するように位置するエアバッグ保持部と、
を備え、
前記エアバッグ保持部は、前記シートベルトの延在方向に沿って当該シートベルトに対して相対的にスライド可能となるように、前記シートベルトとは独立して設けられ、
前記エアバッグは、前記車両緊急時に、
前記乗員の首部前方にて当該乗員に対して横方向に広がって且つ前記乗員の前方に突き出した腕部分と頭部の間で膨張展開可能に構成され、当該乗員の腕部分を反力面として作用させることが可能なように膨張展開する
、乗員拘束装置。
【請求項13】
車両緊急時に車両シート上の乗員の前面に膨張展開するエアバッグと、
前記エアバッグを内蔵すると共に、シートベルトが挿通されたエアバッグ保持部であって、当該シートベルトの装着時に乗員の前面に接触するように位置するエアバッグ保持部と、
を備え、
前記エアバッグ保持部は、前記シートベルトの延在方向に沿って当該シートベルトに対して相対的にスライド可能となるように、前記シートベルトとは独立して設けられ、
前記エアバッグは、前記車両緊急時に、前記乗員の頭部近傍から大腿部近傍まで延在し、当該大腿部を反力面として作用させることが可能なように膨張展開する
、乗員拘束装置。
【請求項14】
車両緊急時に車両シート上の乗員の前面に膨張展開するエアバッグと、
前記エアバッグを内蔵すると共に、シートベルトが挿通されたエアバッグ保持部であって、当該シートベルトの装着時に乗員の前面に接触するように位置するエアバッグ保持部と、
を備え、
前記エアバッグ保持部は、前記シートベルトの延在方向に沿って当該シートベルトに対して相対的にスライド可能となるように、前記シートベルトとは独立して設けられ、
前記エアバッグ保持部は、前記シートベルトを挿通するためのベルト挿通領域と、前記エアバッグを内蔵するためのバッグ保持領域と、を有し、
前記ベルト挿通領域は、前記バッグ保持領域よりも乗員側に位置している
、乗員拘束装置。
【請求項15】
車両緊急時に車両シート上の乗員の前面に膨張展開するエアバッグと、
前記エアバッグを内蔵すると共に、シートベルトが挿通されたエアバッグ保持部であって、当該シートベルトの装着時に乗員の前面に接触するように位置するエアバッグ保持部と、
前記車両緊急時に膨張展開用のガスを前記エアバッグの内部に供給するインフレータ
と、
を備え、
前記エアバッグ保持部は、前記シートベルトの延在方向に沿って当該シートベルトに対して相対的にスライド可能となるように、前記シートベルトとは独立して設けられ、
前記インフレータは、前記エアバッグ保持部に内蔵されている
、乗員拘束装置。
【請求項16】
車両緊急時に車両シート上の乗員の前面に膨張展開するエアバッグと、
前記エアバッグを内蔵すると共に、シートベルトが挿通されたエアバッグ保持部であって、当該シートベルトの装着時に乗員の前面に接触するように位置するエアバッグ保持部と、
前記車両緊急時に膨張展開用のガスを前記エアバッグの内部にガスチューブを介して供給するインフレータ
と、
を備え、
前記エアバッグ保持部は、前記シートベルトの延在方向に沿って当該シートベルトに対して相対的にスライド可能となるように、前記シートベルトとは独立して設けられ、
前記インフレータは、前記車両シートに内蔵され、
前記ガスチューブは、前記乗員の肩部における保護バッグを兼ねる
、乗員拘束装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員拘束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両には、車両シートに乗員を拘束するシートベルト装置や、車両緊急時に展開して乗員の移動を抑制するエアバッグが設けられている。例えば特許文献1では、車両シートのアウタ側上方にエアバッグを設けておき、衝突時に、エアバッグをシートベルトのショルダベルトの下端部(タング)に向けて膨張させ、乗員の前面にエアバッグを展開させるようにしている。この場合、車両シートのアウタ側上方部分とショルダベルトの下端部(タング)とをストラップでつないでおき、このストラップによってエアバッグの斜め下方への展開をガイドするようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、車両緊急時におけるシートベルト及び/又は乗員の動きが十分に考慮されていない。例えば、特許文献1の構造では、車両緊急時にシートベルトをシートベルトリトラクタのプリテンショナで引っ張るような既知の乗員拘束装置に十分に対応することができない。より具体的には、プリテンショナでシートベルトを緊急巻取すると、これに伴ってストラップが同様に引っ張られ、それによりエアバッグ展開用のガイドとしてのストラップの位置がずれる。このような位置ずれが生じたのでは、乗員に対するエアバッグの展開位置が安定しない。
【0005】
本発明は、シートベルトを緊急巻取するような場合であっても、乗員に対するエアバッグの展開位置が変わらずにすみ、乗員の拘束性能を高めることができる乗員拘束装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る乗員拘束装置は、車両緊急時に車両シート上の乗員の前面に膨張展開するエアバッグと、エアバッグを内蔵すると共に、シートベルトが挿通されたエアバッグ保持部であって、シートベルトの装着時に乗員の前面に接触するように位置するエアバッグ保持部と、を備え、エアバッグ保持部は、シートベルトの延在方向に沿って当該シートベルトに対して相対的にスライド可能となるように、シートベルトとは独立して設けられる。
【0007】
この態様によれば、エアバッグ保持部が、シートベルトを挿通しつつも、シートベルトとは独立して設けられる。このため、例えばシートベルトの緊急巻取りがなされたとしても、エアバッグ保持部は、シートベルトに対して相対的にスライドし、乗員に対する初期位置(シートベルトの装着時における位置)が変わらない。したがって、乗員に対するエアバッグの展開位置が変わらずにすみ、乗員の拘束性能を高めることができる。
【0008】
本発明の一態様に係る乗員拘束装置は、連結ストラップをさらに備え、連結ストラップは、エアバッグ保持部に連結された第1の部分、又は、エアバッグ保持部に連結されていない第3の部分であって、連結ストラップがシートベルトと一緒に動くようにエアバッグ保持部内でシートベルトの一部と関連付けられた第3の部分と、車両構造物に連結された第2の部分と、を有してもよい。
【0009】
また、エアバッグ保持部がシートベルトに対して相対的にスライドする方向における長さに関し、連結ストラップの第3の部分は、エアバッグ保持部の半分以下であってもよい。この態様によれば、乗員拘束のメインのシートベルトに対して、連結ストラップがサブのシートベルトとして機能し得る。このため、車両緊急時に乗員の胸の移動量をより一層減らすことができる。また、連結ストラップの第3の部分の長さがエアバッグ保持部の半分以下であるため、同等の長さとする場合に比べて連結ストラップを介して乗員に作用する荷重が減り、車両緊急時に乗員の胸たわみ量を減らすことができる。
【0010】
連結ストラップの第3の部分は、シートベルトの装着時に、乗員の肩部近傍に位置し、乗員の腰部には達していないとよい。こうすることで、乗員の胸の移動量の低減と胸たわみ量の低減とを効果的に両立することができる。
【0011】
エアバッグ保持部は、シートベルトの装着時に、高摩擦部を介して乗員の前面に接触してもよい。この態様によれば、例えばシートベルトの緊急巻取りがなされたとしても、乗員に対するエアバッグ保持部の初期位置がより一層維持されるようになる。
【0012】
連結ストラップの第3の部分は、高摩擦部を介して、エアバッグ保持部内でシートベルトの一部と重なっていてもよい。この態様によれば、連結ストラップがシートベルトと一緒に動きやすくなる。
【0013】
車両構造物は、連結ストラップを巻き取り及び繰り出し可能に構成されたリトラクタであり、連結ストラップは、車両緊急時に、乗員の動きに追従するようにリトラクタからの巻き取り及び繰り出しがなされてもよい。
【0014】
この態様によれば、例えばシートベルトの緊急巻取り後に乗員のわずかな前方移動があっても、その乗員の前方移動によって連結ストラップがリトラクタから繰り出されて、エアバッグ保持部がシートベルトに対してスライドし、乗員の前方移動に追従する。したがって、例えばシートベルトの緊急巻取り後においても、乗員に対するエアバッグの展開位置が変わらずにすみ、乗員の拘束性能を高めることができる。
【0015】
連結ストラップは、乗員から見て、シートベルトリトラクタによるシートベルトの巻き取り及び繰り出しの方向とほぼ同じ方向に、リトラクタによる巻き取り及び繰り出しがなされてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】既知の車両シート及びシートベルトアッセンブリを示す斜視図である。
【
図2】
図1のシートベルトアッセンブリを示す斜視図である。
【
図3】実施形態に係る乗員拘束装置を示す正面図である。
【
図4A】実施形態に係る乗員拘束装置のエアバッグが展開した状態を示す正面図である。
【
図4B】
図4Aのエアバッグが展開した状態を示す側面図である。
【
図5A】
図4Aのエアバッグの変形例に係るエアバッグが展開した状態を示す斜視図である。
【
図5B】
図5Aのエアバッグが展開した状態を示す側面図である。
【
図6A】他の実施態様に係る乗員拘束装置のエアバッグが展開した状態を示す正面図である。
【
図6B】
図5Aのエアバッグが展開した状態を示す側面図である。
【
図7】別の実施態様に係る乗員拘束装置のエアバッグが展開した状態を示す正面図である。
【
図8】また別の実施態様に係る乗員拘束装置のエアバッグが展開した状態を示す正面図である。
【
図9A】さらに別の実施態様に係る乗員拘束装置のエアバッグが展開した状態を示す正面図である。
【
図9B】
図9Aのエアバッグが展開した状態を示す斜視図である。
【
図11】他の実施形態に係る乗員拘束装置を示す正面図である。
【
図13】
図12の乗員拘束装置において、高摩擦部の領域を追加した一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態に係る乗員拘束装置について説明する。本書において、上下、左右及び前後を以下のとおり定義する。乗員が正規の姿勢で座席(車両シート)に着座した際に、乗員が向いている方向を前方、その反対方向を後方と称し座標の軸を示すときは前後方向とする。また、乗員が正規の姿勢で車両シートに着座した際に、乗員の右側を右方向、乗員の左側を左方向と称し座標の軸を示すときは左右方向とする。同様に、乗員が正規の姿勢で着座した際に、乗員の頭部方向を上方、乗員の腰部方向を下方と称し座標の軸を示すときは上下方向とする。
【0018】
まず、
図1及び2を参照して、既知の車両シート100及び既知のシートベルトアッセンブリ12について説明する。
【0019】
図1に示すように、車両シート100は、乗員の背中を支えるシートバック110と、乗員が着座するシートクッション112と、乗員の頭部を支えるヘッドレスト114と、を備えている。車両シート100は、前席(すなわち運転席又は助手席)であってもよいし、後席であってもよい。
【0020】
シートベルトアッセンブリ12は、車両シート100に関連付けて設けられている。シートベルトアッセンブリ12は、乗員を拘束するウェビングであるシートベルト14を有している。シートベルト14は、上部ガイドループ又はアンカレッジ18からラッチ板20まで延在するショルダベルト部分16と、ラッチ板20からアンカレッジ24まで延在するラップベルト部分22と、を有している。ラッチ板20は、ループ部分26を含むことができ、それを通じてシートベルト14が延在する。ラッチ板20は、シートベルトアッセンブリ12を係止及び解除するために、シートベルトバックル28内に挿入可能に構成されている。シートベルトバックル28のケーブル30は、直接又は他の構成要素と協働して、シートベルトバックル28を車両構造の部分31(例えば、車両フレーム)に固定する。ラッチ板20がシートベルトバックル28に挿入されて締結されると、シートベルトアッセンブリ12は、アンカレッジ18と、ラッチ板20と、アンカレッジ24との間に3点拘束を画定する。
【0021】
図2に示すように、シートベルトアッセンブリ12は、シートベルトリトラクタ32を有している。シートベルトリトラクタ32は、シートベルト14を繰り出し可能に構成されており、そのためシートベルト14の効果的な長さが調節可能となっている。シートベルトリトラクタ32は、車両シート100内に位置付けられるか、又は、車体に構造的に結合される。シートベルトリトラクタ32は、フレーム34に回転可能に収容されたスプール36を有している。スプール36は、シートベルト14のショルダベルト部分16と係合し、シートベルト14を巻き取る又は繰り出すために回転する。スプール36は、ぜんまいバネや電動モータなどにより、シートベルト14を巻き取り方向に付勢している。一方、シートベルト14のラップベルト部分22の端部は、アンカレッジ24(例えば、フレーム34、車両シート100、又はフロアパン等の車両の別の部分)と固定されている。
【0022】
シートベルトリトラクタ32は、また、トーションバー、ロック機構及びプリテンショナ40を有していてもよい。トーションバー、ロック機構及びプリテンショナ40についても、既知の構成を採用することができる。これらの一例を説明する。例えば、トーションバーは、フォースリミッタを構成するものであり、スプール36の内側に配置され、一端がスプール36に接続され、他端がロック機構のロックベースに接続される。ロック機構は、例えば、車両が所定の割合で減速する場合、又はブレーキが所定の力で作動する場合、ロックベースの回転を制限することにより、スプール36の回転をロックし、それによりシートベルト14の繰り出しを停止する。この結果、乗員は車両シート100に固定される。なお、車両の通常運転中、シートベルトリトラクタ32は、シートベルト14の繰り出しを可能にして乗員に一定量の移動の自由度を与えており、シートベルト14は、通常の使用中に弛みを生じ得る。
【0023】
プリテンショナ40は、車両緊急時に作動して、シートベルト14を引っ張り、シートベルト14の弛みを除去する。例えば、プリテンショナ40は、シートベルト14を巻き取る方向にスプール36を回転させることで、シートベルト14を引っ張る。一例としてのプリテンショナ40は、ガスチューブ42内に移動可能なロッドを、また、ガスチューブ42の端部にガス発生器44を有する。ガス発生器44は、例えばマイクロガスジェネレータ(MGG)で構成することができる。ガス発生器44は、例えば車両側ECUと電気的に接続されており、車両緊急時の状況を検知した信号を車両側ECUから受信して作動する。このような構成により、プリテンショナ40は、車両緊急時にガス発生器44を作動させ、それにより発生したガスによってロッドをガスチューブ42内で移動させ、ロッドの先端部をスプール36に直接又は他の部材を介して係合させ、スプール36を巻取り方向に回転させる。これにより、シートベルト14が巻き取られ、その弛みが除去され、乗員の前方移動又は変移が低減される。なお、車両緊急時とは、例えば、車両の衝突時、車両への衝撃事象の発生時、車両の転覆時などをいうが、これらに限られない。
【0024】
次に、
図3を参照して、本実施形態に係る乗員拘束装置300について詳述する。
【0025】
乗員拘束装置300は、車両シート100に関連付けて設けられるが、かかる車両シート100は車両の前席であってもよいし、車両の後席であってもよい。すなわち、乗員拘束装置300は、車両におけるすべての座席に対応可能である。
【0026】
乗員拘束装置300は、インフレータ310(参照:
図10B)と、エアバッグ320(参照:
図4及び10B)と、エアバッグ保持部330と、連結ストラップ340と、を備えている。
【0027】
インフレータ310は、車両緊急時に、エアバッグ320の内部に膨張展開用のガスを供給する。インフレータ310は、車両側ECUと電気的に接続されている。例えば、インフレータ310は、車両緊急時の状況を検知した信号を車両側ECUから受信して作動し、エアバッグ320に向けてガスを瞬時に供給する。インフレータ310としては、ガス発生剤、圧縮ガス又はこれらの両方が充填されたものなど、各種のものを利用することができる。一例を挙げると、インフレータ310として、マイクロガスジェネレータを用いることができる。インフレータ310は、エアバッグ保持部330に内蔵される(参照:
図10B)。ただし、他の実施態様では、インフレータ310は、車両シート100に内蔵されてもよい。
【0028】
エアバッグ320は、車両緊急時に、車両シート100上の乗員の前面に膨張展開する(参照:
図4A~
図9B)。エアバッグ320は、例えば、1枚又は複数枚の基布等を適宜の位置で縫合又は接着することによって袋状に形成されている。エアバッグ320は、インフレータ310からのガスの供給を受けて、扁平状態から展開状態へと膨張展開する。扁平状態とは、例えば、ロール状、アコーディオン状又はこれらを組み合わせた形態で巻回又は折り畳まれた状態をいう。エアバッグ320は、扁平状態において、エアバッグ保持部330に内蔵されている(参照:
図10B)。この場合、
図10Bに示すように、エアバッグ320は、シートベルト14のほぼ全福にわたって設けられてもよい。
【0029】
図4A~
図9Bに示すように、エアバッグ320は、展開状態において、少なくとも乗員の肩部近傍から胸部近傍にかけて位置する。
【0030】
例えば、
図4A及び4Bに示すように、エアバッグ320は、展開状態の外形が略円筒形状400をなしている。略円筒形状400の中心軸は、左右方向に延び、かつ、上下方向では乗員の首部付近に位置している。また、略円筒形状400の左右の両端部は、乗員の左右の両肩部に達している。このような展開状態は、車両緊急時にエアバッグ320が乗員の首部前方にて乗員に対して横方向に広がって膨張展開することの一態様を含んでいる。さらに、略円筒形状400の下部は、乗員の胸部に達している。また、略円筒形状400の上部は、乗員の顎に達している。このような展開状態は、車両緊急時にエアバッグ320が乗員の顎の下方で膨張展開することの一態様を含んでいる。
【0031】
この場合、
図5A及び5Bに示すように、エアバッグ320(略円筒形状400)は、さらに、車両緊急時に乗員の前方に突き出した乗員の腕部分と頭部の間で膨張展開可能に構成され、当該乗員の腕部分を反力面として作用させることが可能なように膨張展開するものであってもよい。略円筒形状400の中心軸は、例えば、車両緊急時に乗員の前方に突き出て曲がった腕部分の肘付近の上方に位置し、車両緊急時において、略円筒形状400の下部が乗員の肘の前後における腕部分に接触し、略円筒形状400が、かかる腕部分からの反力を得るようにしてもよい。こうすることで、エアバッグ320はより効率的なのエネルギー吸収を行うことができると共に、乗員の頭部が振り込んだ時のエアバッグ320の安定化を図ることができる。
【0032】
他の実施態様では、
図6A及び6Bに示すように、エアバッグ320の略円筒形状400に連通する保護バッグ410を設けてもよい。乗員の肩部との関係では、略円筒形状400は、乗員の前面側から肩部を保護するように機能するのに対し、保護バッグ410は、乗員の上側から肩部を保護するように機能する。略円筒形状400と保護バッグ410とは内部の空間が連通しており、いずれもインフレータ310からのガスの供給を受けて膨張展開する。ここで、例えばインフレータ310を車両シート100に内蔵した場合、インフレータ310からのガスは、まず保護バッグ410の未膨張部分に導入され、続いて略円筒形状400の未膨張部分に導入されることになる。したがって、保護バッグ410は、エアバッグ320との関係では、略円筒形状400の未膨張部分にインフレータ310からのガスを導入するガスチューブとして機能する。インフレータ310を内蔵する車両シート100の位置は特に限定されないが、例えばシートバック110の側部とすることができる。
【0033】
別の実施態様では、
図7に示すように、保護バッグ420をL字形状にして、保護バッグ420の一部が乗員の顎下に入るようにしてもよい。例えば、保護バッグ420は、乗員の上側から肩部を保護する肩部バッグ部422と、肩部バッグ部422の端部から乗員の中央に向けて延在する略円筒形状の顎下バッグ部424と、を有してもよい。肩部バッグ部422と顎下バッグ部424とは、互いに内部の空間が連通しており、全体としてL字形状を形成する。また、保護バッグ420とエアバッグ320の略円筒形状400とは、内部の空間が連通しており、いずれもインフレータ310からのガスの供給を受けて膨張展開する。顎下バッグ部424は、乗員の顎下に入るように、膨張展開する。
図5A及び5Bに示した保護バッグ410の場合と同様に、例えばインフレータ310を車両シート100に内蔵した場合には、肩部バッグ部422を、インフレータ310からのガスをエアバッグ320の略円筒形状400の未膨張部分に導入するガスチューブとして機能させてもよい。
【0034】
また別の実施態様では、
図8に示すように、エアバッグ320は、展開状態の形状として、略円筒形状400に加えて、顎下バッグ部430を有してもよい。顎下バッグ部430は、略円筒形状400よりも乗員側に位置し、略円筒形状400よりも小さい略円筒形状を有している。顎下バッグ部430の中心軸は、左右方向に位置し、かつ、上下方向では乗員の顎下に位置する。また、顎下バッグ部430の左右の両端部は、乗員の左右の両肩部よりも内側に位置する。顎下バッグ部430と略円筒形状400とは内部の空間が連通しており、いずれもインフレータ310からのガスの供給を受けて膨張展開する。顎下バッグ部430は、乗員の顎下に入るように、膨張展開する。
【0035】
さらに別の実施態様では、
図9A及び9Bに示すように、エアバッグ320は、展開状態の外形が略直方体形状450をなしている。略直方体形状450の左右の両端部は、乗員の左右の両肩部に達している。また、略直方体形状450は、上下方向においては、乗員の頭部近傍から大腿部近傍まで延在する。例えば、略直方体形状450の上部は、乗員の首部又はこれの上側に位置し、略直方体形状450の下部は、乗員の大腿部に達している。このような大腿部にまで達する展開状態は、車両緊急時にエアバッグ320が乗員の頭部近傍から大腿部近傍まで延在し、当該大腿部を反力面として作用させることが可能なように膨張展開することの一態様を含んでいる。大腿部からの反力を得るようにすることで、エアバッグ320の展開挙動がより安定し得る。
【0036】
以上説明したように、エアバッグ320は、
図4A~
図9Bに示すいずれの態様であっても、車両緊急時に、少なくとも乗員の肩部近傍から胸部近傍にかけて膨張展開する。乗員拘束装置300では、乗員に対するエアバッグのエアバッグ320の展開位置が、シートベルト14の挙動によって変わらないようにエアバッグ保持部330等が工夫されている。
【0037】
続いて、
図3、
図10A及び
図10Bを参照して、エアバッグ保持部330及び連結ストラップ340について説明する。
【0038】
エアバッグ保持部330は、上述したように、エアバッグ320を内蔵している。また、エアバッグ保持部330は、インフレータ310を内蔵するものであってもよい。
【0039】
エアバッグ保持部330には、シートベルト14が挿通されている。また、エアバッグ保持部330は、シートベルト14の延在方向に沿ってシートベルト14に対して相対的にスライド可能となるように、シートベルト14とは独立して設けられている。具体的には、シートベルト14のショルダベルト部分16がエアバッグ保持部330に挿通されており、かかるショルダベルト部分16とエアバッグ保持部330とは、互いに対してスライドできるようになっている。したがって、エアバッグ保持部330は、
図1に示すアンカレッジ18とラッチ板20との間で、ショルダベルト部分16にガイドされるように、ショルダベルト部分16に沿って移動することが可能となっている。
【0040】
エアバッグ保持部330は、シートベルト14の装着時に乗員の前面に接触するように位置する。例えば、エアバッグ保持部330は、シートベルト14の装着時に、乗員の肩部から腰部にかけて接触するように位置し、シートベルト14のショルダベルト部分16に沿って延在する。他の実施態様では、エアバッグ保持部330は、シートベルト14の装着時に、乗員の肩部から胸部又は腹部に接触するように位置し、ショルダベルト部分16に沿って延在するものであってもよい。エアバッグ保持部330は、延在方向の一端が連結ストラップ340に連結し、かつ、延在方向の他端が自由端となっている。
【0041】
エアバッグ保持部330は、エアバッグ320を内蔵し且つシートベルト14をスライド可能に挿通できるものである限り、各種の構造を採用することができる。例えば、エアバッグ保持部330は、
図10A及び10Bに示すように、筒状に形成することができる。この場合、一又は複数の布を端部同士が重なるように折り返し、この重なった端部同士を各種の手段(接着、縫合、面ファスナーなど)などで接合することで、筒状に形成してもよい。例えば、
図10A及び10Bに示すように、このような接合箇所(継ぎ目490)を車両前方側に位置させ、この接合箇所(継ぎ目490)が、エアバッグ320が膨張展開した時に開裂するようにしてもよい。
【0042】
エアバッグ保持部330は、シートベルト14を挿通するためのベルト挿通領域500と、エアバッグ320を内蔵するためのバッグ保持領域510と、を内部に有している(参照:
図10B)。ベルト挿通領域500は、バッグ保持領域510よりも乗員側又は車両後方側に位置している。ベルト挿通領域500は、エアバッグ保持部330の延在方向にわたって形成される。一方、バッグ保持領域510は、エアバッグ保持部330の延在方向において部分的に形成された領域であってよい。例えば、バッグ保持領域510は、乗員の肩部又は胸部に対向する位置に形成することができる。また、ベルト挿通領域500とバッグ保持領域510との間には、両者を空間的に区画するための仕切りを設けてもよい。さらに、エアバッグ保持部330にインフレータ310も内蔵させる場合には、そのための領域をエアバッグ保持部330に形成してもよい。
【0043】
連結ストラップ340は、エアバッグ保持部330に連結された第1の部分600と、リトラクタ610に連結された第2の部分620と、を有している。また、連結ストラップ340は、エアバッグ保持部330内に位置する第3の部分640と、を有している。連結ストラップ340は、例えば、シートベルト14と同様に、帯状に形成されている。例えば、帯状からなる連結ストラップ340では、その長手方向の両端部がそれぞれ第2の部分620及び第3の部分640により構成される。
【0044】
連結ストラップ340の第1の部分600は、エアバッグ保持部330の延在方向の一端に連結されている。この連結点を境界として連結ストラップ340を区分けした場合、連結ストラップ340は二つの区分を有する。まず、連結ストラップ340における第1の区分は、第1の部分600から車幅方向の外側へと延在し、上部ガイドループ又はアンカレッジ630(例えばDリング)を介して下方へと屈曲して延在し、第2の部分620に至っている部分である。連結ストラップ340における第2の区分は、第1の部分600からエアバッグ保持部330内へと延在し、第3の部分640に至っている部分である。第3の部分640は、例えば、エアバッグ保持部330の延在方向の他端又はその近傍に達している。アンカレッジ630は、例えば、シートベルト14側のアンカレッジ18の近傍にあり、連結ストラップ340は、シートベルト14と同様に車両シート100から車幅方向の外側へと延在した後、下方へと延在してリトラクタ610に連結されている。
【0045】
リトラクタ610は、例えば、シートベルトリトラクタ32の近傍に設けられている。リトラクタ610は、シートベルトリトラクタ32と同様に、車両シート100内に位置付けられるか、又は、車体に構造的に結合される。リトラクタ610は、連結ストラップ340を巻き取り及び繰り出し可能に構成されている。リトラクタ610及びシートベルトリトラクタ32は、乗員の左右方向の一方の側(例えば車両シート100の車幅方向のアウタ側又はインナ側)に位置している。このため、リトラクタ610による連結ストラップ340の巻き取り及び繰り出しの方向は、乗員から見て、シートベルトリトラクタ32によるシートベルト14の巻き取り及び繰り出しの方向とほぼ同じ方向となっている。
【0046】
リトラクタ610は、シートベルトリトラクタ32と同様に構成することができる。したがって、ここでは、その詳細な説明を省略する。ただし、リトラクタ610は、シートベルトリトラクタ32が備える上述の構成のうち、プリテンショナ40については有していない。また、リトラクタ610は、トーションバー及びロック機構を有しないものであってもよい。
【0047】
リトラクタ610は、常時、連結ストラップ340を巻き取り方向に付勢している。したがって、シートベルト14の非装着状態では、連結ストラップ340はリトラクタ610によって巻き取られ、エアバッグ保持部330がアンカレッジ630の周辺に位置付けられる。このとき、エアバッグ保持部330はその長手方向において縮むようになる。シートベルト14の装着状態では、リトラクタ610は、連結ストラップ340の繰り出しを可能にしながら巻き取り方向に付勢しており、エアバッグ保持部330に一定量の移動の自由度を与えている。そして、車両緊急時、連結ストラップ340は、乗員の動きに追従するようにリトラクタ610からの巻き取り及び繰り出しがなされるようになっている(この点、以下に言及する。)。
【0048】
次に、本実施形態に係る乗員拘束装置300の作用及び効果について説明する。
【0049】
シートベルト14の装着時、エアバッグ保持部330が乗員の前面に接触するように位置する。この状況において車両緊急時(例えば前方衝突)になると、プリテンショナ40が作動してシートベルト14の緊急巻取りがなされる。ほぼ同時に、インフレータ310が作動して、エアバッグ320が膨張し始める。
【0050】
ここで、シートベルト14の緊急巻取りがなされると、乗員はシートベルト14によって車両シート100のシートバック110へと引っ張られる。このとき、エアバッグ保持部330は、シートベルト14とは独立して設けられているため、乗員に対する初期位置は変わらない。すなわち、巻き取られていくシートベルト14はエアバッグ保持部330に対してスライドし、エアバッグ保持部330は、プリテンショナ40が作動する前の乗員の前面に対する位置(初期位置)に維持される。このようにして、エアバッグ保持部330は、シートベルト14の緊急巻取りの最中において、乗員の前面に対する接触及び位置が維持される。したがって、エアバッグ320は、乗員に対する初期位置が変わることなく、予定する位置に膨張展開を開始することができる。
【0051】
なお、エアバッグ保持部330は、シートベルト14が挿通されている内側表面よりも乗員に当接する外側表面の方が高い摩擦係数を有るように構成されても良い。具体的にはシリコン樹脂などが塗布さていても良い。このようにすることで、エアバッグ保持部330が、乗員に対する初期位置が変わらないようにする効果を増すことができる。
【0052】
その後、衝突が進行すると、乗員は前方に移動するようになる。プリテンショナ40によって緊急巻取がされた後のシートベルト14は、この乗員の前方移動に伴って、トーションバー(フォースリミッタ)などが働き、少し繰り出されるようになる。この一連の動きで、乗員は前方におよそ5~15cmだけ移動し得る。しかし、シートベルト14とは独立して設けられているエアバッグ保持部330は、シートベルト14が繰り出されても、シートベルト14上でスライドして、乗員の動きに追従する。すなわち、エアバッグ保持部330に連結されている連結ストラップ340が、乗員の動きに追従するようにリトラクタ610から繰り出され、エアバッグ保持部330がシートベルト14に対してスライドし、乗員の前方移動に追従する。このようにして、エアバッグ保持部330は、シートベルト14の緊急巻取り後に乗員の前方移動があっても、乗員の前面に対する接触及び位置が維持される。したがって、予定する位置で膨張展開を開始したエアバッグ320は、その後もこの位置が変わることなく、膨張展開していくことができる。なお、連結ストラップ340は巻き取り方向に付勢されているため、乗員の動きに追従して、リトラクタ610から繰り出された後、巻き取り方向に戻される。
【0053】
以上説明したとおり、本実施形態に係る乗員拘束装置300によれば、エアバッグ保持部330をシートベルト14と独立して設けるなどの工夫により、シートベルト14を緊急巻取するような場合であっても、乗員に対するエアバッグ320の展開位置が変わらずにすみ、エアバッグ320を予定する位置に膨張展開させることができる。また、エアバッグ保持部330が乗員の動きに追従することができる。この追従によって、乗員に対してかかる荷重が急激ではなく徐々にかかるようにもなる。また、乗員拘束装置300は、車両の前席のみならず、後席にも適用可能であるため、全ての座席に対応して乗員の保護性能を向上することができる。
【0054】
また、車両緊急時に、エアバッグ保持部300内にある連結ストラップ340の一部はシートベルト14と同様に乗員を拘束するように機能する。別の観点で説明すると、乗員に対するシートベルトの本数が二本へと追加されているため、乗員拘束性能をさらに増すことができる。なお、他の実施態様では、シートベルトの本数を三本以上に増やしてもよく、そうすることでさらなる性能向上が見込める。
【0055】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0056】
例えば、連結ストラップ340について、アンカレッジ630(例えばDリング)を省略してもよい。この場合、リトラクタ610をアンカレッジ630(例えばDリング)の位置に設けてもよい。
【0057】
また、連結ストラップ340の第2の部分620を、リトラクタ610以外の車両構造物に連結してもよい。例えば、車両シート100のシートバック110、シートクッション112あるいはヘッドレスト114、又は、車体のピラーあるいはルーフなどに、連結ストラップ340の第2の部分620を直接又は他の部材を介して連結してもよい。例えば、シートバック110の上部の穴に挿入されるヘッドレスト114の連結パイプにプレートを設置し、そのプレートに連結ストラップ340の第2の部分620を連結してもよい。こうすることで、乗員拘束装置300を既存の車両に後付けすることも可能となる。
【0058】
さらに、連結ストラップ340の第3の部分640を省略してもよい。例えば、連結ストラップ340の長手方向の両端部を、それぞれ第1の部分600及び第2の部分620として構成してもよい。
【0059】
続いて、
図11~13を参照して、他の実施形態に係る乗員拘束装置300Aについて説明する。上記実施形態に係る乗員拘束装置300との主な相違点は、連結ストラップ340に関連する構成と、本実施形態では高摩擦部を設けたことである。以下では、上記実施形態と共通又は対応する構成については同一又は同様の符号を付し、また、上記実施形態に係る乗員拘束装置300と共通又は対応する内容についての説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0060】
図11及び12に示すように、乗員拘束装置300Aの連結ストラップ340Aは、リトラクタ610に連結された第2の部分620と、エアバッグ保持部330内に位置する第3の部分640Aと、を有している。連結ストラップ340Aは、上述の連結ストラップ340の第1の部分600を有しておらず、エアバッグ保持部330に連結されていない。したがって、第3の部分640Aは、エアバッグ保持部330に連結されることなく、エアバッグ保持部330内に位置している。
【0061】
第3の部分640Aは、連結ストラップ340Aがシートベルト14と一緒に動くように、エアバッグ保持部330内でシートベルト14の一部と関連付けられている。具体的には、第3の部分640Aは、エアバッグ保持部330内でショルダベルト部分16の一部と重なっており、シートベルト14の巻き取り又は繰り出しの動きに伴って、第3の部分640Aを介して連結ストラップ340Aがシートベルト14と一体的に動くようになっている。そして、そのような一体的な動きを達成するために、第3の部分640Aは、他の表面部分よりも摩擦係数が高い高摩擦部700を介して、エアバッグ保持部330内でショルダベルト部分16の一部と重なっている。(詳細は後述する。)
【0062】
また、第3の部分640Aは、上述の連結ストラップ340の第3の部分640よりも長さが短く、エアバッグ保持部330の延在方向の他端又はその近傍に達しない長さとなっている。具体的には、エアバッグ保持部330がシートベルト14に対して相対的にスライドする方向における長さに関し、第3の部分640Aは、エアバッグ保持部330の半分以下となっている。また、乗員との関係では、第3の部分640Aは、シートベルト14の装着時に、乗員の肩部近傍に位置し、乗員の腰部には達しないようになっている。この場合、第3の部分640Aの一部は、乗員の胸部の一部又は全部に位置してもよい。したがって、シートベルト14の装着時、連結ストラップ340Aは、第3の部分640Aが例えば乗員の胸部の上方部分から肩部にかけて掛かり、サブのシートベルトとして機能するようになる。
【0063】
高摩擦部700は、エアバッグ保持部330内において第3の部分640Aとショルダベルト部分16との間に介在している。ここでは、高摩擦部700は、ショルダベルト部分16に対向する第3の部分640Aの表面を高摩擦面とすることで構成されている。この高摩擦面は、ショルダベルト部16のベルト表面よりも摩擦係数が高ければよく、各種の態様を適用することができる。例えば、潤滑性を持たない樹脂コーティングにより高摩擦面を形成することができる。この樹脂としては、シリコンを用いることができる。別の例では、第3の部分640Aの編み方によって表面を粗面化することにより、高摩擦面を形成することができる。
【0064】
図13に示すように、他の表面部分の摩擦係数よりも高い摩擦係数を有する他の高摩擦部800を前述の高摩擦部700と同様に設けてもよい。例えば、高摩擦部800をエアバッグ保持部300の乗員側の表面に形成してもよい。また、高摩擦部800をエアバッグ保持部300の外周全体に設けても良い。こうすることで、シートベルト14の装着時に、エアバッグ保持部300が高摩擦部800を介して乗員の前面に接触し、乗員とエアバッグ保持部300との間の滑りが減るようになる。したがって、エアバッグ保持部300を乗員に対して相対的に移動しにくくさせることができる。高摩擦部800は、上記同様に高摩擦面で構成することができ、例えば、エアバッグ保持部300の乗員側の表面を樹脂コーティング(例えばシリコンコーティング)により高摩擦面とすることで形成することができる。
【0065】
以上説明した本実施形態に係る乗員拘束装置300Aの作用及び効果について説明する。
【0066】
シートベルト14の装着時、エアバッグ保持部330が乗員の前面に接触するように位置する。この状況において車両緊急時になると、プリテンショナ40が作動してシートベルト14の緊急巻取りがなされる。ほぼ同時に、インフレータ310が作動して、エアバッグ320が膨張し始める。
【0067】
シートベルト14の緊急巻取りがなされると、乗員はシートベルト14によって車両シート100のシートバック110へと引っ張られる。このとき、エアバッグ保持部330がシートベルト14とは独立して設けられているため、巻き取られていくシートベルト14はエアバッグ保持部330に対してスライドし、エアバッグ保持部330は、プリテンショナ40が作動する前の乗員の前面に対する位置(初期位置)に維持される。したがって、エアバッグ320は、乗員に対する初期位置が変わることなく、予定する位置に膨張展開を開始することができる。
【0068】
本実施形態においては、シートベルト14が緊急巻取りされる際、シートベルト14と一緒に連結ストラップ340Aが動く。具体的には、高摩擦部700を介してシートベルト14に重なっている第3の部分640Aが、シートベルト14と一緒にエアバッグ保持部330に対して巻き取り方向にスライドする。
【0069】
本実施形態によれば、とりわけ、車両緊急時の乗員の胸たわみ量及び胸の移動量を低減することができる。詳述するに、車両緊急時、乗員の前面にはシートベルト14の荷重と連結ストラップ340A(サブのシートベルト)の荷重とが加わる。この場合、連結ストラップ340Aの第3の部分640Aの長さがエアバッグ保持部330の半部以下と短いため、連結ストラップ340A(サブのシートベルト)の荷重を減らすことができる。また、連結ストラップ340Aがシートベルト14と一緒にエアバッグ保持部330に対して巻き取り方向にスライドするため、連結ストラップ340A(サブのシートベルト)の荷重を減らすことができる。したがって、連結ストラップ340Aによって胸の移動量を低減させつつ、胸たわみ量を低減することができる。
【0070】
なお、スライドする連結ストラップ340Aがエアバッグ保持部330から抜けることを防止するために、両者が接触する部分の摩擦力を上げてもよい。例えば、
図13に示すように、高摩擦部900を第3の部分640Aとエアバッグ保持部330の内側表面との間に介在させてもよい。この場合、高摩擦部900は、第3の部分640Aの裏面(エアバッグ保持部330の内側表面に接触する面)及び/又はエアバッグ保持部330の内側表面(第3の部分640Aの裏面に接触する面)を高摩擦面とすることで構成することができる。ただし、高摩擦部900は、連結ストラップ340Aがシートベルト14と一緒に動くことを保障する程度の摩擦力とする必要がある。
【0071】
なお、エアバッグ保持部330には必ずしもエアバッグ320が内蔵されてなくてもよく、その場合、エアバッグ保持部330は主にシートベルト14の保持部としての機能を有する。
【符号の説明】
【0072】
12…シートベルトアッセンブリ、14…シートベルト、16…ショルダベルト部分、18…アンカレッジ、20…ラッチ板、22…ラップベルト部分、24…アンカレッジ、26…ループ部分、28…シートベルトバックル、30…ケーブル、31…車両構造の部分、32…シートベルトリトラクタ、34…フレーム、36…スプール、40…プリテンショナ、42…ガスチューブ、44…ガス発生器、100…車両シート、110…シートバック、112…シートクッション、114…ヘッドレスト、300、300A…乗員拘束装置、310…インフレータ、320…エアバッグ、330…エアバッグ保持部、340、340A…連結ストラップ、400…略円筒形状、410…保護バッグ、420…保護バッグ、422…肩部バッグ部、424…顎下バッグ部、430…顎下バッグ部、450…略直方体形状、490…継ぎ目、500…ベルト挿通領域、510…バッグ保持領域、600…第1の部分、610…リトラクタ、620…第2の部分、630…アンカレッジ、640、640A…第3の部分、700、800、900…高摩擦部