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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】薬剤耐性神経膠腫の治療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4188 20060101AFI20230403BHJP
   A61K 31/185 20060101ALI20230403BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230403BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230403BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
A61K31/4188
A61K31/185
A61P43/00 121
A61P35/00
A61P35/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020516624
(86)(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-26
(86)【国際出願番号】 US2018050162
(87)【国際公開番号】W WO2019060152
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-17
(31)【優先権主張番号】62/561,002
(32)【優先日】2017-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507140841
【氏名又は名称】オクラホマ・メディカル・リサーチ・ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】タウナー リール エイ.
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0076009(US,A1)
【文献】特開2012-144512(JP,A)
【文献】特表2013-521229(JP,A)
【文献】特表2015-511936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象におけるテモゾロミド耐性神経膠腫を治療するための薬学的組成物であって、
前記神経膠腫の血管新生、成長または拡散を阻害するのに有効な用量の、2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)およびテモゾロミドを含む、前記薬学的組成物。
【請求項2】
のちの2,4-ds-PBNの血液脳関門の通過を必要とする経路を通じて投与される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記対象が、再発性または転移性神経膠腫を有する、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記対象が、以前に一つまたは複数の抗神経膠腫療法に失敗している、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
2,4-ds-PBNの有効用量が、1日に体重1kgあたり5~150mgである、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
追加の抗神経膠腫療法と組み合わせて対象に投与される、請求項1に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
前記追加の抗神経膠腫療法が、放射線、手術、または化学療法である、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
前記神経膠腫が、星状細胞腫、乏突起膠腫、または多形神経膠芽腫、あるいは前述のいずれかのTGF-β1発現形態、MGMT発現形態及び/またはAPGN発現形態である、請求項1に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年9月20日提出の米国特許仮出願第62/561,002号の優先権を主張し、この仮出願の全内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
1.分野
本開示は、概して、腫瘍学及び化学療法の分野に関する。特に、薬剤耐性神経膠腫を治療するための2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
2.関連技術の説明
神経膠腫は、脳の正常な「神経膠」細胞及び/またはそれらの前駆細胞から生じる多様な脳腫瘍群である。神経膠腫に対する生存の最も重要な決定因子は、神経膠腫の「グレード」である。生存の二次決定因子は、診断時の年齢、パフォーマンスステータス、及び手術の範囲である。低グレード神経膠腫の患者は、一般に生存期間が長い遷延性の自然歴を有するが、高グレード神経膠腫の患者は、成功裏に治療するのがはるかに難しく、生存期間が短い。全ての神経膠腫は、主に神経膠腫の位置及びサイズに関連する特定の徴候並びに症状を有する。
【0004】
例えば、側頭葉神経膠腫は、発作、言語障害及び/または記憶喪失を引き起こす可能性がある。前頭葉神経膠腫は、発作、行動変化、体の反対側の腕もしくは脚の虚弱、及び/または言語障害を引き起こす可能性がある。後頭神経膠腫は、失明を引き起こす可能性がある。頭頂神経膠腫は、空間識消失、体の反対側の感覚低下、及び/または一度はよく知っていた物もしくは人の認識不能を引き起こす可能性がある。
【0005】
星状細胞腫は、星状細胞と呼ばれる脳細胞またはそれらの前駆細胞から生じる神経膠腫瘍である。星状細胞は、神経機能を支持する中枢神経系の細胞である。星状細胞腫は、悪性度増大を示す組織学的特徴によって星状細胞腫、退形成性星状細胞腫、または多形神経膠芽腫に等級づけすることができる。退形成性星状細胞腫及び多形神経膠芽腫は、高グレードの神経膠腫であると考えられるが、星状細胞腫は、低グレードの神経膠腫であると考えられる。高グレード腫瘍は急速に成長し、容易に脳に浸潤して拡散する。低グレード星状細胞腫も脳に浸潤し得るが、通常はより局在化し、長期間かけてゆっくり成長する。高グレード腫瘍は、はるかに進行性で、非常に強力な治療を必要とする。小児の星状細胞腫瘍の大部分は低グレードであるが、成人の大部分は高グレードである。星状細胞腫は、脳及び脊髄のどこにでも発生する可能性があるが、大部分は、大脳半球に位置する。
【0006】
乏突起膠腫も神経膠腫である。これらは乏突起膠細胞及び/またはそれらの前駆細胞から生じる。正常な乏突起膠細胞は、脳及び脊髄の神経軸索を覆い、神経に電気インパルスをより効率的に伝導させる脂肪物質である、ミエリンを提供する。乏突起膠腫は、低グレード乏突起膠腫(進行性が低い)及び退形成性乏突起膠腫(より進行性)に分類される。純粋な乏突起膠腫よりも一般的なものは、星状細胞腫と乏突起膠腫との混合物である低グレードで退形成性の腫瘍(「乏突起星状細胞腫」)である。
【0007】
退形成性乏突起膠腫及び混合乏突起星状細胞腫は、星状細胞腫よりも細胞毒性化学療法に対する感受性が高い。PCV(プロカルバジン(マチュレーン)、CCNU(ロムスチン)、ビンクリスチン)化学療法に対する反応率が高いことで、この療法の使用はこれらの腫瘍に対するケアの標準ではないとしても、少なくとも非常に一般的な治療となっている。低グレード乏突起膠腫も化学療法に対して感受性で、低グレード腫瘍がそれまでの外科/放射線療法にもかかわらず成長を始めた場合には、PCVを用いることができる。
【0008】
潜在的な抗神経膠腫薬としてのフェニル-tert-ブチル-ニトロン(PBN)の有効性は、ラットC6神経膠腫移植モデルの前処置において示されている(Doblas et al.,2008)。未処置ラットからのMRI結果は、C6神経膠腫の拡散的な侵襲性を示し、そのうちのいくつかは、血管新生と関連していた。前処置としてのPBN投与により、成長速度の低下及び腫瘍退縮、並びに血管新生の防止を明らかに誘発されることが分かった。しかしながら、PBNの後処置は、前処置(腫瘍の80%超の成長が低下した)と比較して、腫瘍退縮に対する効果が低下した(約50%の腫瘍の腫瘍成長が低下した)。MRI知見は、組織学及び血管新生マーカー免疫染色評価からのものに匹敵した。
【0009】
より最近の研究では、発明者は、PBNの構造類似体である2,4-ds-PBNが、腫瘍体積を減少させ、腫瘍成長速度を遅らせたことを示した。2,4-ds-PBN後処置も生存率の増加に著しく効果的であった。PBNのスルホン化誘導体が血液脳関門(BBB)を容易に通過できることは知られていなかったため、この結果は予想外で驚くべきことであった。PBNである親ニトロンは、BBBを容易に貫通することが予め分かっている(Wang & Shuaib、2007)。2,4-ジスルホニルPBN(2,4-ds-PBN)は、親化合物のPBNと構造的に関連するが、それをはるかに水溶性にさせる2個のスルホニル基を含む。水溶性が増加した結果として、2,4-ジスルホニルPBNは、PBNと比較して、BBBを容易に通過するとは最初は考えられていなかった(Wang & Shuaib、2007)。しかしながら、発明者は、2,4-ジスルホニルPBNがBBBを容易に通過できることを実証した(Coutinho de Souza et al.,2015)。理想的には、抗神経膠腫療法として使用される薬物は、BBBの内皮ジャンクションを通過して、腫瘍細胞の大部分に到達する必要があるが(Cao et al.,2005)、悪性神経膠腫は、可溶性因子を分泌することでタイトジャンクションを積極的に劣化させる能力を獲得しており、最終的には侵入した脳組織内のBBBの破壊をもたらすことが可能である(Schneider et al.,2004)。具体的には、2,4-ジスルホニルPBNは、神経膠腫組織に対する単剤療法として有意な薬効を示した。
【発明の概要】
【0010】
概要
従って、本開示に従い、テモゾロミド耐性神経膠腫の血管新生、成長または拡散を阻害するのに有効な用量の2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)を、対象に投与することを含む、対象の前記神経膠腫を治療する方法が提供される。のちの2,4-ds-PBNの血液脳関門の通過を必要とする経路(経腸、静脈内、または動脈内など)を通じて、投与を行ってもよい。
【0011】
対象は、再発性もしくは転移性神経膠腫を有していてもよく、及び/または以前に一つまたは複数の抗神経膠腫療法に失敗していてもよい。2,4-ds-PBNの有効用量は、1日に体重1kgあたり約5~約150mgであり得る。経腸投与は、食物成分の食事補充を通じてであり得、経腸投与は、丸剤または液剤の形態であり得る。対象は、ヒトであり得る。
【0012】
方法は、放射線、手術、または化学療法、例えば、テモゾロミド、ロムスチン、ビンクリスチン、マチュレーン、PCV、BCNU、CCNU及び/またはDFMOなどの二次抗神経膠腫療法をさらに含み得る。二次抗神経膠腫薬剤は、テモゾロミドであり得、テモゾロミドの有効用量は、テモゾロミドの標準単剤療法用量未満であり得る。
【0013】
2,4-ds-PBNの有効量は、与える食事の約0.005w/w%~約0.1w/w%であり得る。神経膠腫は、星状細胞腫、乏突起膠腫、または多形神経膠芽腫、あるいは前述のいずれかのTGF-β1発現形態、MGMT発現形態及び/またはAPGN発現形態であり得る。
【0014】
方法は、2,4-ds-PBNによる処置前及び処置後に、リポ多糖結合タンパク質の発現を測定することによって治療効果を評価することをさらに含み得る。方法は、LBPの発現を評価することをさらに含み得、未処置対照と比較したLBPレベルの低下は、予後の改善を示す。
【0015】
別の実施形態では、(a)神経膠腫を有する対象を特定すること、及び(b)前記神経膠腫においてテモゾロミド耐性の発生を阻害するのに有効な用量の(i)2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)、及び(ii)テモゾロミドを前記対象に投与することを含む、前記対象における神経膠腫テモゾロミド耐性の発生の阻害方法が提供される。のちの2,4-ds-PBNの血液脳関門の通過を必要とする経路(経腸、静脈内、または動脈内など)を通じて、投与を行ってもよい。
【0016】
対象は、再発性または転移性神経膠腫を有してもよく、及び/または以前に一つまたは複数の抗神経膠腫療法に失敗していてもよい。2,4-ds-PBNの有効用量は、1日に体重1kgあたり約5~約150mgであり得る。経腸投与は、食物成分の栄養補充物を通じてでもよく、または経腸投与は、丸剤または液剤の形態でもよい。対象は、ヒトであり得る。
【0017】
方法は、放射線、外科手術、または化学療法、例えば、テモゾロミド、ロムスチン、ビンクリスチン、マチュレーン、PCV、BCNU、CCNU及び/またはDFMOなどの、二次抗神経膠腫療法をさらに含み得る。二次抗神経膠腫薬剤は、テモゾロミドであり得、テモゾロミドの有効用量は、テモゾロミドの標準単剤療法用量未満であり得る。
【0018】
2,4-ds-PBNの有効量は、与える食事の約0.005w/w%~約0.1w/w%であり得る。神経膠腫は、星状細胞腫、乏突起膠腫、または多形神経膠芽腫、あるいは前述のいずれかのTGF-β1発現形態、MGMT発現形態及び/またはAPGN発現形態であり得る。方法は、LBPの発現を評価することをさらに含み得、未処置対照と比較したLBPレベルの低下は、予後の改善を示す。
【0019】
さらに別の実施形態では、(a)神経膠腫を有する対象を特定すること、及び(b)前記神経膠腫の再発を阻害するのに有効な用量の(i)2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)、及び(ii)テモゾロミドを前記対象に投与することを含む、神経膠腫再発の阻害方法が提供される。のちの2,4-ds-PBNの血液脳関門の通過を必要とする経路(経腸、静脈内、または動脈内など)を通じて、投与を行ってもよい。
【0020】
対象は、再発性または転移性神経膠腫を有してもよく、及び/または以前に一つまたは複数の抗神経膠腫療法に失敗していてもよい。2,4-ds-PBNの有効用量は、1日に体重1kgあたり約5~約150mgであり得る。経腸投与は、食物成分の栄養補充物を通じてでもよく、または経腸投与は、丸剤または液剤の形態でもよい。対象は、ヒトであり得る。
【0021】
方法は、放射線、外科手術、または化学療法、例えば、テモゾロミド、ロムスチン、ビンクリスチン、マチュレーン、PCV、BCNU、CCNU及び/またはDFMO、など、の二次抗神経膠腫療法をさらに含み得る。二次抗神経膠腫薬剤は、テモゾロミドであり得、テモゾロミドの有効用量は、テモゾロミドの標準単剤療法用量未満であり得る。
【0022】
2,4-ds-PBNの有効量は、与える食事の約0.005w/w%~約0.1w/w%であり得る。神経膠腫は、星状細胞腫、乏突起膠腫、または多形神経膠芽腫、あるいは前述のいずれかのTGF-β1発現形態、MGMT発現形態及び/またはAPGN発現形態であり得る。方法は、前記対象における神経膠腫形成をスクリーニングすることをさらに含み得る。方法は、2,4-ds-PBNによる処置前及び処置後に、リポ多糖結合タンパク質の発現を測定することによって治療効果を評価することをさらに含み得る。方法は、LBPの発現を評価することをさらに含み得、未処置対照と比較したLBPレベルの低下は、予後の改善を示す。
【0023】
さらに別の実施形態では、(a)対象から試料を得ること;及び(b)前記試料中のリポ多糖結合タンパク質(LBP)レベルを評価することを含み、比較正常対照試料からのものより高いLBPレベルが、前記対象における膠芽腫の存在を示す、膠芽腫の検出方法が提供される。LBPレベルを評価することは、免疫学的評価または核酸評価、例えば、ELISA、RIA、ウエスタンブロット、または免疫組織化学から選択される免疫学的評価、またはRT-PCR、ノーザンブロット、RNAシークエンシングまたはマイクロアレイから選択される核酸評価を含み得る。試料は、全血、血清、血漿または尿であり得る。
【0024】
さらなる実施形態は、(a)対象から試料を得ること;(b)前記試料中のリポ多糖結合タンパク質(LBP)レベルを評価すること;及び(c)第二の時点で工程(a)及び(b)を繰り返すことを含み、工程(b)と比較して工程(c)でより高いLBPレベルは、前記対象における膠芽腫の進行を示す、膠芽腫進行の監視方法を含む。LBPレベルを評価することは、免疫学的評価または核酸評価、例えば、ELISA、RIA、ウエスタンブロット、または免疫組織化学から選択される免疫学的評価、またはRT-PCR、ノーザンブロット、RNAシークエンシングまたはマイクロアレイから選択される核酸評価を含み得る。試料は、全血、血清、血漿または尿であり得る。
【0025】
さらに別の実施形態は、(a)対象から試料を得ること;(b)前記試料中のリポ多糖結合タンパク質(LBP)レベルを評価すること;(c)低、中、及び/または高グレードの膠芽腫に対して、工程(b)のLBPレベルを対照試料と比較すること、及び(d)前記対象における前記膠芽腫にグレードを割り当てることを含む、膠芽腫の病期診断方法を含む。LBPレベルを評価することは、免疫学的評価または核酸評価、例えば、ELISA、RIA、ウエスタンブロット、または免疫組織化学から選択される免疫学的評価、またはRT-PCR、ノーザンブロット、RNAシークエンシングまたはマイクロアレイから選択される核酸評価を含み得る。試料は、全血、血清、血漿または尿であり得る。
【0026】
追加の実施形態は、リポ多糖結合タンパク質(LBP)標的化剤に連結した治療剤を前記対象に投与することを含む、膠芽腫を有する対象の治療方法を含む。LBP標的化剤は、抗体、ScFv、FabまたはF(ab’)またはペプチドであり得る。治療剤は、化学療法剤、放射線治療剤、免疫療法剤または生物剤であり得る。化学療法剤は、テモゾロミドまたは2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)であり得る。膠芽腫は、薬物耐性、例えば、テモゾロミド耐性であり得る。膠芽腫は、テモゾロミド及び/または2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)で以前に治療されていてもよい。膠芽腫は、再発性及び/または転移性であり得る。治療剤のLBPへの連結は、切断可能であり得る。方法は、前記患者または前記膠芽腫におけるLBP発現を評価することをさらに含み得る。
【0027】
さらに追加の実施形態は、(a)リポ多糖結合タンパク質に連結したイメージング剤を前記対象に投与すること;及び(b)前記対象における膠芽腫部位イメージングを含む、対象における膠芽腫境界の特定方法を含む。方法は、ELTD1、Slit-3またはSpondin-1に連結したイメージング剤を前記対象に投与することをさらに含み得る。イメージング剤は、色素、放射性標識、蛍光標識、化学発光標識、MRI標識または近赤外標識であり得る。方法は、イメージング後に前記膠芽腫を切除することをさらに含み、切除後に前記膠芽腫部位を再イメージングすることを任意にさらに含み得る。
【0028】
さらに別の実施形態は、(a)対象から組織試料を得ること;(b)前記組織試料を、リポ多糖結合タンパク質に連結した標識と接触させること;及び(c)前記組織試料に結合した前記標識-LBP複合体を検出することを含む、前記対象由来の組織試料中の膠芽腫細胞の特定方法を含む。方法は、前記組織試料を、前記対象に連結した標識、ELTD1、Slit-3またはSpondin-1に連結したイメージング剤と接触させることをさらに含み得る。標識は、色素、放射性標識、蛍光標識、化学発光標識、MRI標識または近赤外標識であり得る。組織試料は、固定されていない新鮮な生検試料であり得る。組織試料は、固定された生検試料であり得る。
【0029】
本明細書に記載のいかなる方法または組成物も、本明細書に記載のいかなる他の方法または組成物に関して実行できることが企図される。
【0030】
特許請求の範囲及び/または明細書において「一つの(a)」または「一つの(an)」なる用語が「含む(comprising)」なる用語と組み合わせて用いられる場合、その使用は、「一」を意味し得るが、「一つまたは複数(one or more)」、「少なくとも一つ」、及び「一つまたは複数(one or more than one)」の意味とも一致する。
【0031】
本明細書において論じるいかなる実施形態も、本発明のいかなる方法または組成物に関しても実行することができ、逆もまた同じであることが企図される。さらに、本発明の組成物及びキットは、本発明の方法を達成するために用いることができる。
【0032】
本出願の全体を通して、「約」なる用語は、値がその値を決めるために用いるデバイス、方法に対する誤差の固有の変動、または研究対象の間に存在する変動を含むことを示すために用いる。
【0033】
「含む(comprise)」(並びに「comprises」及び「comprising」などの含むの任意の形)、「有する(have)」(並びに「has」及び「having」などの有するの任意の形)、「含む(contain)」(並びに「contains」及び「containing」などの含むの任意の形)、及び「含む(include)」(並びに「includes」及び「including」などの含むの任意の形)なる用語は、制限のない連結動詞である。その結果、一つまたは複数の要素を「含む(comprises)」、「有する(has)」、「含む(contains)」、または「含む(includes)」デバイスまたは方法は、それらの一つまたは複数の要素を有するが、それらの一つまたは複数の要素または段階だけを有することに限定されない。同様に、一つまたは複数の特徴を「含む(comprises)」、「有する(has)」、「含む(contains)」、または「含む(includes)」デバイスまたは方法の要素は、それらの一つまたは複数の特徴を有するが、それらの一つまたは複数の特徴だけを有することに限定されない。
[本発明1001]
対象におけるテモゾロミド耐性神経膠腫の治療方法であって、前記神経膠腫の血管新生、成長または拡散を阻害するのに有効な用量の2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)を、前記対象に投与することを含む、前記方法。
[本発明1002]
のちの2,4-ds-PBNの血液脳関門の通過を必要とする経路を通じて、投与を行う、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記経路が、経腸、静脈内、または動脈内である、本発明1002の方法。
[本発明1004]
前記対象が、再発性または転移性神経膠腫を有する、本発明1001の方法。
[本発明1005]
前記対象が、以前に一つまたは複数の抗神経膠腫療法に失敗している、本発明1001の方法。
[本発明1006]
2,4-ds-PBNの有効用量が、1日に体重1kgあたり約5~約150mgである、本発明1001の方法。
[本発明1007]
前記経腸投与を食物成分の栄養補充物を通じて行う、本発明1002の方法。
[本発明1008]
前記経腸投与を丸剤または液剤の形態で行う、本発明1002の方法。
[本発明1009]
二次抗神経膠腫療法をさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1010]
前記二次抗神経膠腫療法が、放射線、手術、または化学療法、例えば、テモゾロミド、ロムスチン、ビンクリスチン、マチュレーン、PCV、BCNU、CCNU及び/またはDFMOである、本発明1009の方法。
[本発明1011]
前記二次抗神経膠腫薬剤が、テモゾロミドである、本発明1010の方法。
[本発明1012]
テモゾロミドの有効用量が、テモゾロミドの標準単剤療法用量未満である、本発明1011の方法。
[本発明1013]
有効量が、与える食事の約0.005w/w%~約0.1w/w%である、本発明1007の方法。
[本発明1014]
前記神経膠腫が、星状細胞腫、乏突起膠腫、または多形神経膠芽腫、あるいは前述のいずれかのTGF-β1発現形態、MGMT発現形態及び/またはAPGN発現形態である、本発明1001の方法。
[本発明1015]
2,4-ds-PBNによる処置前及び処置後に、リポ多糖結合タンパク質の発現を測定することによって治療効果を評価することをさらに含む、本発明1001の方法。
[本発明1016]
(a)神経膠腫を有する対象を特定すること、及び
(b)前記神経膠腫においてテモゾロミド耐性の発生を阻害するのに有効な用量の
(i)2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)、及び
(ii)テモゾロミド
を前記対象に投与することを含む、前記対象における神経膠腫テモゾロミド耐性の発生を阻害するための方法。
[本発明1017]
のちの2,4-ds-PBNの血液脳関門の通過を必要とする経路を通じて、投与を行う、本発明1016の方法。
[本発明1018]
前記経路が、経腸、静脈内、または動脈内である、本発明1017の方法。
[本発明1019]
前記有効用量が、1日に体重1kgあたり約5~約150mgである、本発明1016の方法。
[本発明1020]
前記経腸投与を食物成分の栄養補充物を通じて行う、本発明1018の方法。
[本発明1021]
前記経腸投与を丸剤または液剤の形態で行う、本発明1018の方法。
[本発明1022]
2,4-ds-PBNの有効量が、与える食事の約0.005w/w%~約0.1w/w%である、本発明1020の方法。
[本発明1023]
前記神経膠腫が、星状細胞腫、乏突起膠腫、多形神経膠芽腫、または前述のいずれかのTGF-β1発現形態もしくはMGMT発現形態である、本発明1016の方法。
[本発明1024]
二次抗神経膠腫療法をさらに含む、本発明1016の方法。
[本発明1025]
前記二次抗神経膠腫療法が、放射線、手術、または化学療法、例えば、テモゾロミド、ロムスチン、ビンクリスチン、マチュレーン、PCV、BCNU、CCNU及び/またはDFMOである、本発明1024の方法。
[本発明1026]
前記二次抗神経膠腫薬剤が、テモゾロミドである、本発明1025の方法。
[本発明1027]
テモゾロミドの有効用量が、テモゾロミドの標準単剤療法用量未満である、本発明1026の方法。
[本発明1028]
2,4-ds-PBNによる処置前及び処置後に、リポ多糖結合タンパク質の発現を測定することによって効果を評価することをさらに含む、本発明1016の方法。
[本発明1029]
(a)神経膠腫を有する対象を特定すること、及び
(b)前記神経膠腫の再発を阻害するのに有効な用量の
(i)2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)、及び
(ii)テモゾロミド
を前記対象に投与することを含む、神経膠腫再発を阻害するための方法。
[本発明1030]
のちの2,4-ds-PBNの血液脳関門の通過を必要とする経路を通じて、投与を行う、本発明1029の方法。
[本発明1031]
前記経路が、経腸、静脈内、または動脈内である、本発明1030の方法。
[本発明1032]
前記神経膠腫が、星状細胞腫、乏突起膠腫、多形神経膠芽腫、または前述のいずれかのTGF-β1発現形態もしくはMGMT発現形態である、本発明1029の方法。
[本発明1033]
2,4-ds-PBNの有効用量が、1日に体重1kgあたり約5~約150mgである、本発明1029の方法。
[本発明1034]
神経膠腫の出現を阻害する第二の薬剤を投与することをさらに含む、本発明1029の方法。
[本発明1035]
前記二次抗神経膠腫療法が、放射線、手術、または化学療法、例えば、テモゾロミド、ロムスチン、ビンクリスチン、マチュレーン、PCV、BCNU、CCNU及び/またはDFMOである、本発明1034の方法。
[本発明1036]
前記二次抗神経膠腫薬剤が、テモゾロミドである、本発明1035の方法。
[本発明1037]
テモゾロミドの有効用量が、テモゾロミドの標準単剤療法用量未満である、本発明1036の方法。
[本発明1038]
前記対象における神経膠腫形成をスクリーニングすることをさらに含む、本発明1029の方法。
[本発明1039]
LBPの発現を評価することをさらに含み、
未処置対照と比較したLBPレベルの低下が、予後の改善を示す、本発明1001、1016または1029の方法。
[本発明1040]
2,4-ds-PBNによる処置前及び処置後に、リポ多糖結合タンパク質の発現を測定することによって効果を評価することをさらに含む、本発明1029の方法。
[本発明1041]
(a)対象から試料を得ること;及び
(b)前記試料中のリポ多糖結合タンパク質(LBP)レベルを評価すること
を含み、
比較正常対照試料からのものより高いLBPレベルが、前記対象における膠芽腫の存在を示す、前記膠芽腫の検出方法。
[本発明1042]
LBPレベルを評価することが、免疫学的評価または核酸評価を含む、本発明1041の方法。
[本発明1043]
免疫学的評価が、ELISA、RIA、ウエスタンブロット、または免疫組織化学を含む、本発明1042の方法。
[本発明1044]
核酸評価が、RT-PCR、ノーザンブロット、RNAシークエンシングまたはマイクロアレイを含む、本発明1042の方法。
[本発明1045]
前記試料が、全血、血清、血漿または尿である、本発明1041の方法。
[本発明1046]
(a)対象から試料を得ること;
(b)前記試料中のリポ多糖結合タンパク質(LBP)レベルを評価すること;及び
(c)第二の時点で工程(a)及び(b)を繰り返すこと、
を含み、
工程(b)と比較して工程(c)でより高いLBPレベルは、前記対象における膠芽腫の進行を示す、膠芽腫進行の監視方法。
[本発明1047]
LBPレベルを評価することが、免疫学的評価または核酸評価を含む、本発明1046の方法。
[本発明1048]
免疫学的評価が、ELISA、RIA、ウエスタンブロット、または免疫組織化学を含む、本発明1047の方法。
[本発明1049]
核酸評価が、RT-PCR、ノーザンブロット、RNAシークエンシングまたはマイクロアレイを含む、本発明1047の方法。
[本発明1050]
前記試料が、全血、血清、血漿または尿である、本発明1046の方法。
[本発明1051]
(a)対象から試料を得ること;
(b)前記試料中のリポ多糖結合タンパク質(LBP)レベルを評価すること;
(c)低、中、及び/または高グレードの膠芽腫に対して、工程(b)のLBPレベルを対照試料と比較すること、及び
(d)前記対象における前記膠芽腫にグレードを割り当てること
を含む、膠芽腫の病期診断方法。
[本発明1052]
LBPレベルを評価することが、免疫学的評価または核酸評価を含む、本発明1046の方法。
[本発明1053]
免疫学的評価が、ELISA、RIA、ウエスタンブロット、または免疫組織化学を含む、本発明1047の方法。
[本発明1054]
核酸評価が、RT-PCR、ノーザンブロット、RNAシークエンシングまたはマイクロアレイを含む、本発明1047の方法。
[本発明1055]
前記試料が、腫瘍試料、全血、血清、血漿または尿である、本発明1046の方法。
[本発明1056]
リポ多糖結合タンパク質(LBP)標的化剤に連結した治療剤を対象に投与することを含む、膠芽腫を有する対象の治療方法。
[本発明1057]
前記LBP標的化剤が、抗体、ScFv、FabまたはF(ab’) 2 またはペプチドである、本発明1056の方法。
[本発明1058]
前記治療剤が、化学療法剤、放射線治療剤、免疫療法剤または生物剤である、本発明1056の方法。
[本発明1059]
前記化学療法剤が、テモゾロミドまたは2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)である、本発明1056の方法。
[本発明1060]
前記膠芽腫が、薬物耐性である、本発明1056の方法。
[本発明1061]
前記膠芽腫が、テモゾロミド耐性である、本発明1060の方法。
[本発明1062]
前記膠芽腫が、テモゾロミド及び/または2,4-ジスルホニルフェニルtert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)で以前に治療されている、本発明1056または1060の方法。
[本発明1063]
前記膠芽腫が、再発性及び/または転移性である、本発明1056の方法。
[本発明1064]
前記治療剤のLBPへの連結が、切断可能である、本発明1056の方法。
[本発明1065]
前記患者または前記膠芽腫におけるLBP発現を評価することをさらに含む、本発明1056の方法。
[本発明1066]
(a)リポ多糖結合タンパク質に連結したイメージング剤を対象に投与すること;及び
(b)前記対象における膠芽腫部位イメージング
を含む、対象における膠芽腫境界の特定方法。
[本発明1067]
ELTD1、Slit-3またはSpondin-1に連結したイメージング剤を前記対象に投与することをさらに含む、本発明1066の方法。
[本発明1068]
前記イメージング剤が、色素、放射性標識、蛍光標識、化学発光標識、MRI標識または近赤外標識である、本発明1066の方法。
[本発明1069]
イメージング後に前記膠芽腫を切除することをさらに含む、本発明1066の方法。
[本発明1070]
切除後に前記膠芽腫部位を再イメージングすることをさらに含む、本発明1069の方法。
[本発明1071]
(a)対象から組織試料を得ること;
(b)前記組織試料を、リポ多糖結合タンパク質に連結した標識と接触させること;及び
(c)前記組織試料に結合した前記標識-LBP複合体を検出すること
を含む、前記対象由来の組織試料中の膠芽腫細胞の特定方法。
[本発明1072]
前記組織試料を、前記対象に連結した標識、ELTD1、Slit-3またはSpondin-1に連結したイメージング剤と接触させることをさらに含む、本発明1071の方法。
[本発明1073]
前記標識が、色素、放射性標識、蛍光標識、化学発光標識、MRI標識または近赤外標識である、本発明1071の方法。
[本発明1074]
前記組織試料が、固定されていない新鮮な生検試料である、本発明1071の方法。
[本発明1075]
前記組織試料が、固定された生検試料である、本発明1071の方法。
【0034】
下記の図面は、本明細書の一部をなし、本発明のある特定の態様をさらに示すために含まれる。本発明は、これらの図面の一つまたは複数を、本明細書に示す具体的な実施形態の詳細な説明と組み合わせて参照することにより、よりよく理解されると思われる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】未処置、及びTMZ-、OKN-007、及びOKN-007とTMZで併用処置したG55神経膠腫担持マウスの動物生存率のカプラン-マイヤー曲線。
図2】腫瘍(>5mm)のMRI検出後の19~22日目に得たインビボ腫瘍体積(mm)。
図3】処置群(TMZ、OKN-007(OKN)、OKN-007とTMZ併用(Comb)、または未処置(UT)ごとの中腫瘍領域における腫瘍(最大腫瘍)を示すMR画像。
図4】処置群(UT、TMZ、OKNまたは併用治療)ごとの最後のMRI時点で得られた腫瘍体積。
図5A】処置群ごとの、複数の時点で得られた腫瘍体積(平均±S.D.)(UT:一点鎖線の黒い白丸;TMZ:破線の青い白四角;OKN:点線の緑の上向きの白三角;併用:実線の赤い下向きの黒三角)。治療ウィンドウは、腫瘍が、最大で≧50日間、≧10mmであった場合に開始した。
図5B】UT、TMZ、OKN、または併用処置したG55神経膠腫担持マウスにおける、正規化(対側または正常な脳組織に正規化)rCBF値の変化(腫瘍検出後21~22日目の腫瘍のrCBFマイナス初期腫瘍検出時のrCBF)。
図6】UT、TMZ、OKN、または併用処置したG55神経膠腫担持マウスから得られた腫瘍組織溶解物中の、ELISAから測定したエクスビボLBPレベル。
図7】UT、TMZ、OKN、または併用処置したG55神経膠腫担持マウスから得られた血清中の、ELISAから測定したエクスビボLBPレベル。
図8】OKN-007を併用した、TMZ耐性(T98G、G55)及びTMZ感受性(U251)GBM細胞株のインビトロIC50評価。
図9】神経膠腫担持ラット腫瘍中のLBPに対するOKN-007効果。F98神経膠腫担持動物由来の組織溶解物で行ったLBPのELISA評価は、OKN-007による治療中に発現差を示した。腫瘍担持動物におけるLBPレベルは、非腫瘍対照群と比較して有意に上昇し、OKN-007処置は、非腫瘍対照に近いLBPレベルをもたらした。
図10】神経膠腫担持ラット血清中のLBPに対するOKN-007効果。図9からの同じ動物由来の血清を用いたLBPのELISA評価により、LPBが、神経膠腫におけるOKN-007の治療結果を予測することができる血清バイオマーカーとして機能することができることが確認された。
図11図11A~C:腫瘍グレードによるLBPレベル。LBPレベルは、低グレードの神経膠腫として分類された腫瘍と比較して、高グレードのヒト患者神経膠腫で上昇する。高グレードの神経膠腫:多形神経膠芽腫(図11A)、及び低グレードの星状細胞腫(図11B)におけるLBPの代表的な免疫組織化学染色。(図11C)高グレード(GBM-膠芽腫、AA-退形成性星状細胞腫、AO-退形成性乏突起膠腫;94人の患者の組織試料)及び低グレード(LGA-低グレードの星状細胞腫、オリゴ良性乏突起膠腫;45人の患者の組織試料)ヒト神経膠腫におけるLBP発現の免疫組織化学(IHC)スコア平均。グレード基準:0:IHC染色の検出が、0%;1:0~<25%;2:25~<50%;3:50~<75%;4:75~100%。
図12】OKN有効性に対するマーカーとしてのLBP。処置群ごとに、研究の終わりに、血液及び腫瘍組織試料からELISAによってLBPレベルを評価した。全ての治療は、G55神経膠腫を有するUTマウスと比較して、血液中のLBPを有意に減少させることが分かった。OKN及び併用療法は、G55神経膠腫を有するUTマウスと比較して、腫瘍組織中のLBPを有意に減少させることが分かった。腫瘍組織または血液中で、OKNまたは併用療法のLBPレベルに対する差はないように見えた。
図13図13A~B:(図13A)未処置(UT)、及びTMZ-、OKN-007、及びOKN-007とTMZで併用処置したG55神経膠腫担持マウスの動物生存率のカプラン-マイヤー曲線。全ての処置群は、UT G55-神経膠腫担持マウスと比較して、有意に高い生存率(p<0.05またはそれ以上)を有することが分かった。併用処置群は、TMZ処置群よりも有意に高い生存率(p<0.01)を有することが分かった。(図13B)腫瘍(>5mm)のMRI検出後の19~22日目に得たインビボ腫瘍体積(mm)。全ての処置群は、UT群と比較して、有意に低い腫瘍体積(p<0.01またはそれ以上)を有することが分かった。
図14図14Ai~Diii:腫瘍検出後19~22日目の(図14A)未処置(UT)、または各処置群(図14B)TMZ、(図14C)OKN-007(OKN)、または(図14D)OKN-007とTMZ併用(Comb)の中腫瘍領域における腫瘍(最大腫瘍)を示す代表的なMR画像。「i」と標識された画像の場合、腫瘍を薄い線で強調して、腫瘍境界を示す。パネル「ii」または「iii」の画像は、処置群A~Dの他の例であり、UT群の一貫性または処置群の変動性のいずれかを示す。この時点範囲での治療後に、OKN-007-または併用療法群の図14Ciiiまたは図14Diiiにおいて検出可能な腫瘍は存在しなかった。
図15図15Ai~E:(図15A)UT、(図15B)TMZ、(図15C)OKN、または(図15D)併用処置したG55神経膠腫担持マウスの、正規化(対側または正常な脳組織に正規化)rCBF値の、灌流MRIによって示される血管変化[腫瘍検出後21~22日目の腫瘍のrCBF(相対的な脳血流)マイナス初期腫瘍検出時のrCBF]。「i」と標識された画像の上パネルは、処置群ごとの代表的なT2-重み付けされた形態学的MR画像である一方、「ii」と標識された画像は、処置群ごとの代表的な灌流マップである。(図15E)UT及びTMZ-、OKN-、または併用療法処置したG55神経膠腫担持マウスにおける、正規化rCBFの変化の定量的評価。全ての処置群は、UT群と比較して、正規化rCBFの変化が有意に低かった(p<0.05またはそれ以上)。
図16】TMZ+OKNをTMZのみの処置群と比較した場合の、LN18 GBM細胞中の遺伝子発現比。
図17】TMZ+OKNをTMZのみの処置群と比較した場合の、LN229 GBM細胞中の遺伝子発現比。
図18】後処置の22、28及び46時間での、未処置(UT)、またはOKN-007(OKN)、TMZ、またはOKN+TMZの療法のいずれかで処置した、ラミニン被覆したPDMS(ポリジメチルシロキサン)マイクロチャネル中のG55 GBM細胞の遊走速度。UT細胞と、22及び28時間でのOKNまたはOKN+TMZで処置した細胞、及び46時間での全ての処置群との間に有意差があった()。22及び28時間でのTMZ群とOKN+TMZ群との間に有意差があった(†)。(†)p<0.05、**(††)p<0.01、***p<0.001。
図19】ネットワーク経路の概略図における、未処置群(n=4)と比較した処置群(n=4)のダウンレギュレート遺伝子(緑色;>2倍率変化)を示す、OKN-007処置及び未処置ラットF98神経膠腫担持腫瘍由来のmRNA試料のマイクロアレイ解析。影響を及ぼした主要なダウンレギュレート遺伝子経路には、TGFβ1、PDGFBB、P38 MAPK、NFκB、いくつかのMMP(特に、MMP12)、DCN(デコリン)、SERPINB2、LUM、LBP(リポ多糖結合タンパク質)、及びいくつかのコラーゲンが含まれる。
図20】ラットF98処置神経膠腫対未処置腫瘍における、OKN-007による57個のダウンレギュレート遺伝子のマスターレギュレーターとしてのTGFβ1(Upstream Regulator Analysis、IPA)。OKN-007は、コラーゲン、MMP12(組織改造)、SERPINB2(セリンペプチダーゼ阻害剤)、IGFBP5(インシュリン様成長因子結合タンパク質)を含む57個の遺伝子をダウンレギュレートする。
図21図21A~C:(図21A)未処置または(図21B)OKN-007処置のいずれかにおけるラットF98同所腫瘍(中腫瘍領域)のTGFβ1 IHC。(図21C)F98腫瘍組織溶解物からの未処置(UT)またはOKN-007(OKN)処置におけるELISA TGFβ1タンパク質レベル(pg/mL)。
【発明を実施するための形態】
【0036】
例示的な態様の説明
多形神経膠芽腫と診断される患者の予後は、早期かつ正確な診断が困難で、かつ、現在有効な治療化合物が無いために非常に悪い。加えて、薬物に最初のうちは感受性のある神経膠腫は、時間とともに耐性を持つようになり得ることで、この非常に致死的な形態の癌を治療するためのさらなる難題を提示する。
【0037】
上記のように、2,4-ds-PBN、PBNの構造類似体は、神経膠腫を有する動物の腫瘍体積を減少させ、腫瘍成長速度を遅延させることができ、かつ生存率を有意に増加させることもできた。しかしながら、2,4-ds-PBNが、神経膠腫細胞におけるテモゾロミド(TMZ)耐性の防止及び克服を含む、TMZに基づく治療の結果に良い影響を及ぼすことができるかどうかは不明である。TMZ治療の標準治療状況、及びTMZ耐性の有病率を考えれば、そのような恩恵は、TMZによる治療を受けている患者にとってかなり重要であろう。
【0038】
従って、本発明者は、TMZ耐性及び併用療法の文脈における2,4-ds-PBNの効果を見ようとした。インビトロ細胞データは、2,4-ds-PBNが、TMZで処置したTMZ耐性GBM細胞の細胞生存を有意に減少させることを明確に示している。インビボデータは、2,4-ds-PBNとTMZの併用治療が、TMZ耐性神経膠腫異種移植ヌードマウスモデルにおける動物生存率を有意に増加させ、腫瘍体積を減少させることを明確に示す。これらの予想外の結果は、神経膠腫の強力な新しい治療計画として、2,4-ds-PBNとTMZの併用を指している。
【0039】
本開示のこれら及び他の態様を以下に詳細に記述する。
【0040】
2.退形成性神経膠腫層
A.臨床上の特徴
退形成性神経膠腫は、中グレードの浸潤性神経膠腫で、低度(限局性で成長が遅い)から多形神経膠芽腫(成長が速く、侵襲性が高い)の間に分類される。退形成性星状細胞腫(AA)は、星状細胞と呼ばれる脳細胞及び/またはそれらの前駆細胞から生じる腫瘍である。星状細胞は、中枢神経系の支持細胞である。小児の星状細胞腫瘍の大部分は、低グレードであるが、成人の大部分は、高グレードである。これらの腫瘍は、脳及び脊髄のどこにでも発生する可能性がある。
【0041】
乏突起膠腫は、乏突起膠細胞及び/またはそれらの前駆細胞に由来する神経膠腫である。乏突起膠細胞は、脳内の有髄ニューロンの構造及び機能において役割を有する。退形成性乏突起膠腫(AO)は、乏突起膠腫よりも進行性であるが、退形成性星状細胞腫よりも化学療法に対する感受性が高い。PCV(プロカルバジン、CCNU、ビンクリスチン)化学療法の使用に対する反応率が高いことで、放射線療法の前、放射線照射後、及び/または腫瘍再発及び進行時のPCV化学療法の使用は一般的となっている。別の神経膠腫は、乏突起膠腫と星状細胞腫の両方の腫瘍型の組織学的混合物として現れ、乏突起星状細胞腫と呼ばれる。乏突起星状細胞腫は、低グレードであり得るが、混合乏突起星状細胞腫の大部分は、退形成性乏突起星状細胞腫(AOA)である。
【0042】
最後の神経膠腫サブグループは、上衣腫である。悪性上衣腫の一つのサブタイプは、退形成性上衣腫(AE)であり;これらの腫瘍は、脳室と呼ばれる脳脊髄液通路を内張りする上衣細胞及び/またはそれらの前駆細胞から生じる。これらの腫瘍は、テント上(頭の上部)またはテント下(頭の背部)のいずれかとして分類される。
【0043】
神経膠腫により生じる臨床上の特徴及び症状は、腫瘍の位置及び患者の年齢に依存する。神経膠腫の最も一般的な位置は、成人では大脳半球で、小児では小脳、脳幹、視床下部、及び視床である。脊髄神経膠腫は、脳の神経膠腫よりもはるかに少ない。これらの腫瘍を有する患者は、脳または脊髄内の位置に応じて変動する症状を示す。頭痛、発作、悪心及び嘔吐、四肢虚弱、一側性感覚変化、人格変化、並びに歩行不安定の症状を呈し得る。
【0044】
B.分類
退形成性星状細胞腫。退形成性星状細胞腫の組織学的特徴は、低グレード星状細胞腫のものと類似であるが、これらの特徴はより多く、誇張されている。これらの腫瘍は、WHOグレードIIIである(Kleihues et al.,1993;Kleihues及びCavenee、2000)。細胞性は、核及び細胞多形性と同様、より高まっている。これらの特徴は極度で、背中合わせの細胞及び奇異で過染色性の核を伴い得る。細胞質は乏しく、核の分裂形成及び拡大が退形成を示している。ほとんどの退形成性星状細胞腫で有糸分裂活性が容易に認められるが、不可解なことに大円形細胞を伴う領域にはないこともある。
【0045】
このグレードの退形成性の範囲は広く、低い細胞性及びわずかな有糸分裂の形態を伴う多形性を示す例もあれば、高度に細胞性かつ多形性で、頻繁に有糸分裂し、膠芽腫の組織学的診断に必要とされる壊死だけを欠いている例もある。このため、挙動のより客観的指標を持つことは有用であり、予後をより正確に予測しようとして細胞増殖のいくつかのマーカーが用いられてきた。この分野で最も用いられたマーカーは、ブロモデオキシウリジン(BrdU)及びKi-67の抗体であった(Davis et al.,1995)。BrdUの細胞取り込みは、細胞周期のDNA合成期の特異的マーカーであるが、Ki-67抗体は、G以外の細胞周期の全ての期に存在する抗原を標識する。いずれの抗体もパラフィン包埋組織切片における免疫組織化学的染色により同定することができる。一般論として、退形成性星状細胞腫に対する高い標識速度は、予後不良に関連している(Hoshino et al.,1993;Davis et al.,1995;Lamborn et al.,1999)。
【0046】
多形神経膠芽腫。膠芽腫は、多形神経膠芽腫としても知られており、悪性度が最も高いグレードであるWHOグレードIVの神経膠腫である(Kleihues及びCavenee、2000)。これは、頭蓋内腫瘍の15%から23%、星状細胞腫の約50%~60%を占める。神経膠線維酸性タンパク質は、細胞質中で同定することができるため、ほとんどの例は、一般に星状細胞から生じると考えられる。しかしながら、いくつかの例は明らかに、乏突起膠細胞などの他の膠細胞系統から生じる。膠芽腫は、最も高頻度に生じる星状細胞腫である。剖検及び連続生検により、いくつかの星状細胞腫は、低グレードから退形成性星状細胞腫、神経膠腫への変換により、複数の悪性グレードを通して進行することが明らかにされている(Muller et al.,1977)。しかし、膠芽腫のいくつかの例は、それ以外は健常な患者で急速に発生するようで、小さい時に認められるため、この種の膠芽腫は、悪性度の低いグレードを通らずに星状細胞前駆細胞の悪性変換から直接生じることもあると考えられる(Kleihues及びOhgaki、1997;1999)。
【0047】
腫瘍壊死は、膠芽腫を退形成性星状細胞腫から区別する特有の肉眼的特徴である(Nelson et al.,1983;Burger et al.,1985;1991)。特徴的で診断的な別の鏡検上の特徴は、腫瘍内の増殖性血管変化の存在である。これらの変化は、内皮細胞(血管内皮過形成または増殖)または血管壁自体の細胞(血管壁細胞増殖)で起こる可能性がある。両タイプの変化は、共に微小血管増殖と考えられることもある。膠芽腫の細胞性は、通常は非常に高い。個々の細胞は小さく、核:細胞質の比が高いこともあれば、非常に大きく、奇異で、多量の好酸性細胞質を伴うこともある。これらの同じ小細胞は、腫瘍壊死領域の周りに列を成して凝縮し、特有の偽柵構造を形成すると考えられる。膠芽腫腫瘍は、脳に広範囲に浸潤する傾向を有し、遠隔部位にまで拡散して、多巣性神経膠腫の外観を呈する。一部の例は、真に多巣性である(すなわち、複数の原発部位に同時に生じる)が、これらの多巣性腫瘍の多くは、剖検で全脳を検査すると組織学的連結を示す。
【0048】
乏突起膠腫。星状細胞腫と同様、乏突起膠腫は、それらの推定起始細胞の組織像に類似している。これらは主に白質でも生じるが、同様の悪性グレードの星状細胞腫よりも大脳皮質に浸潤する傾向がある。星状細胞腫と同様、乏突起膠腫に対して組織学的悪性度の等級づけスキームが用いられてきたが、これらは、星状細胞腫に対して用いられるものと比べて、予後との相関性が低い(Burger et al.,1987;Bigner et al.,1998;Daumas-Duport et al.,1997)。乏突起膠腫を等級づけるために用いられる組織学的特徴の多くは、星状細胞腫に対して用いられるものと類似している。すなわち、細胞性、多形性、有糸分裂活性、血管変化、及び壊死である。低グレード乏突起膠腫は、小嚢腫を有することがある。全ての組織学的グレードの乏突起膠腫は、容易に皮質に浸潤し、軟膜下領域、ニューロン周囲、及び血管周囲に新生物細胞のクラスターを形成する傾向がある。一般に、乏突起膠腫の細胞は丸く、規則的な核と、細胞質を明確にするはっきりした細胞質の辺縁を有する。別のかなり特有で、診断上有用な特徴は、腫瘍を別々の小葉に分けることができる「金網(chicken-wire)」血管と呼ばれる乏突起膠腫の血管パターンである。退形成が増大するとともに、乏突起膠腫は、高度に細胞性及び多形性となり、壊死の存在を伴う多形性膠芽腫の外観に近づくことがある。これらを退形成性乏突起膠腫と分類することは正しいが、いかなる高グレード膠細胞新生物でもいったん壊死が認められれば、膠芽腫という用語を用いる者もある。退形成性乏突起膠腫を星状細胞膠芽腫から分離するための一つの根拠は、前者ではこの最も高い悪性グレードでも予後がわずかに良いことである。乏突起膠腫においてMIB-1標識指数が>3%~5%の場合、予後不良が予想されると報告している著者もある(Heegard et al.,1995;Kros et al.,1996;Dehghani et al.,1998)。
【0049】
乏突起星状細胞腫。ほとんどではないとしても、多くの乏突起膠腫は、星状細胞腫の局所的または密接な細胞混合物を伴って発生する。混合神経膠腫の診断のために、それぞれの比率が重要であるが、厳密な数値に関しては意見が分かれている;通常は、混合神経膠腫と診断するために10%から25%の範囲の少数要素を含む混合物を用いる。乏突起星状細胞腫及び退形成性乏突起星状細胞腫は、それぞれWHOグレードIIまたはグレードIIIに対応する(Kleihues及びCavenee、2000)。退形成の組織学的特徴は、いずれの成分にも存在することがあり、予後に悪い影響をおよぼすことになる。そのような特徴には、顕著な細胞性多形、高い細胞性、及び高い有糸分裂速度が含まれる。微小血管増殖及び壊死も見られることがある。予後及び治療への反応が乏突起膠と星状細胞成分との比率に依存すると示されてはいない(Shaw et al.,1994)が、逆説的に、星状細胞成分よりも乏突起膠成分のBrdU LIによって生存が予測され(Wacker et al.,1994)、はるかに進んだ腫瘍進行は、星状細胞成分によって支配される。
【0050】
3.フェニルN-tert-ブチルニトロン(PBN)及びテモゾロミド(TMZ)
A.PBN
化合物フェニルN-tert-ブチルニトロン(PBN)は、1950年代に初めて合成されたが、1968年に化学反応中にフリーラジカルを捕捉して安定化させる上で非常に有用であることが明らかとなり、従ってスピントラップと命名された(Janzen、1971)。PBNはスピントラップの原型であるが、いくつかの他のニトロンが合成され、化学反応中にフリーラジカルを捕捉し、特徴づけるのに有用であることが明らかにされている。これらのスピントラップは、最初は化学反応において用いられたが、1970年代半ばに生化学及び生物系においてフリーラジカルを捕捉するために用いられ始めた(Poyer et al.,1978)。薬物動態研究により、PBNは容易かつ速やかに全ての組織にほとんど均等に分布し、ラットで約132分の半減期を有し、大部分が尿中に排出されることが判明した。行われた代謝研究は比較的少ないが、肝臓で化合物の環ヒドロキシル化(主にパラ位)が起こることが知られている。
【0051】
Novelliは、実験動物を敗血症性ショックから保護するためにPBNを用いることができることを最初に示し(Novelli et al.,1986)、事実これは後に他のグループにより確認された(Pogrebniak et al.,1992)。PBNの使用及び薬理学的物質としての誘導体化は、PBNが実験的脳卒中モデルにおいて神経保護活性を有することを示した1988年の発見(Floyd、1990;Floyd et al.,1996;Carney et al.,1991)後に始まった。これらの結果は繰り返され、拡大された(Clough-Helfman et al.,1991;Cao et al.,1994;Folbergrova et al.,1995;Pahlmark et al.,1996を参照)。他の発明者らは、PBN及び誘導体の神経保護に関する広範な薬理学調査の結果をまとめている(Floyd、1997;Hensley et al.,1996)。神経変性疾患に加えて、PBNは、糖尿病及び多くの他の状態を含む、ROS仲介性プロセスに関与する他の病的状態において保護することが明らかにされている。なぜPBN及びその誘導体のいくつかが実験的卒中及びいくつかの他の神経変性モデルにおいて非常に神経保護的であるかのメカニズムの基礎は、まだ完全には解明されていない。しかしながら、その作用がフリーラジカルを捕捉するその能力によって単純に説明し得ないことは明らかである。
【0052】
PBNの一般式は、
であり、
式中:
Xは、フェニルまたは
であり、
Rは、H、
であり、
及びnは、1~5の整数であり;または
Yは、一つまたは複数の位置でヒドロキシル化またはアセチル化することができるtert-ブチル基;フェニル;または
であり、
式中、Wは、
またはZであり;Zは、C~Cの直鎖もしくは分枝アルキル基である。
【0053】
B.癌におけるPBN
米国特許第5,569,902号(参照により本明細書に組み入れられる)は、癌の治療のためのニトロンフリーラジカル捕捉剤の使用を記載している。具体的には、PBN及び関連化合物が抗癌食の調製及びそのような補助食の調製において有用であると記載されている。ニトロンの施与を受けて有益であると考えられる対象には下記が含まれる:(1)事前腫瘍研究を受けて、腫瘍が存在する可能性が高いと示されたことがあるもの、(2)非常に強力な発癌環境に曝露され、腫瘍進行の確率が高いもの、及び(3)遺伝的素因によって腫瘍発生の見込みが高くなっているもの。
【0054】
米国特許公開第2007/0032453号(参照により本明細書に組み入れられる)は、MRI技術を用いて、抗炎症性フェニルN-tert-ブチルニトロン(PBN)の神経膠腫に対する効果を記載している。PBN自体は、腫瘍の移植前、移植時、または移植後のいずれかで対象に提供した場合、腫瘍の発生を制御することができた。従って、PBN及び関連するニトロンフリーラジカル捕捉剤を神経膠腫の治療剤として用いることが提唱された。
【0055】
C.2,4-ジスルホニルフェニルN-tert-ブチルニトロン(2,4-ds-PBN)
米国特許第5,488,145号(参照により本明細書に組み入れられる)は、2,4-ジスルホニルフェニル-tert-ブチルニトロン及びその薬学的に許容される塩を記載している。これらの物質は、脳卒中において起こるような急性中枢神経系酸化にかかっている患者に、または進行性中枢神経系機能喪失として現われ得る段階的中枢神経系酸化にかかっている患者の、経口または静脈内投与に対して有用な医薬品として記載された。
【0056】
2つのスルホネート基を有する2,4-ジスルホニルPBNは、水に対する溶解性の改善を示すことが予想されたが、その疎油的な(lipophobic)特性のために、血液/脳関門を越えて輸送されにくいことを示すこともまた予想された。しかしながら、本発明の化合物を製造し、インビボで研究すると、本発明の化合物は、PBNと比較して予期しない薬効の増大を示した。この薬効の増大は、PBNと比較して効力の増大と共に生じた。この効力及び薬効の著しい増大とは全く対照的に、PBNと比較して著しいかつ非常に大きな毒性の減少があった。
【0057】
これらの結果は予想されなかった。なぜなら、特定の定義された化合物の一群内における構造/活性の関係の一般文献においては、治療的効力は、代表的には、毒性と共に共変化するからである。従って、大部分の関連化合物は、治療的効力対毒性の比を維持している。対照的に、密接に関連するアナログに対してその効力が増大し、かつその毒性が減少した場合、本発明の化合物は、この予想される関係から逸脱する。
【0058】
従って、一態様では、本発明は、PBN-ジスルホニル化合物及びその薬学的に許容される塩を提供する。第2の態様では、本発明は、活性成分として、この化合物またはその塩を有する、静脈内及び経口投与可能な薬学的組成物を提供する。
【0059】
2,4-ds PBNは、高いpHでは、イオン化した塩の形態で存在し得る:
または
ここで、Xは、薬学的に許容されるカチオンである。最も一般的には、このカチオンは、ナトリウム、カリウム、またはアンモニウムのような一価の物質であるが、これはまた、多価のみ、または薬学的に許容される一価のアニオンと組み合わせた多価カチオン、例えば、クロライド、ブロマイド、ヨーダイド、ヒドロキシル、ニトレート、スルホネート、アセテート、タルトレート、オキサレート、スクシネート、パルモエートなどのアニオンとのカルシウム;このようなアニオンとのマグネシウム;このようなアニオンとの亜鉛などでもあり得る。これらの多価カチオンと一価アニオンとの組み合わせが、構造式中に示される場合、本明細書中では、一価アニオンは、「Y」と特定される。
【0060】
これらの物質の中で、遊離酸及びナトリウム単塩、カリウム単塩またはアンモニウム単塩が最も好ましく、カルシウム塩及びマグネシウム塩もまた、上記単塩より幾分よくないが、好ましい。
【0061】
2,4-ds PBNは、2工程の反応系列により調製され得る。第1工程においては、市販のtert-ブチルニトレート(2-メチル-2-ニトロプロパン)を、活性化亜鉛/酢酸触媒またはアルミニウム/水銀アマルガム触媒のような適切な触媒を用いて、対応するn-ヒドロキシルアミンに変換する。この反応は、0.5~12時間、特に、約2~6時間ぐらいで、約15~100℃の温度にて、液体反応媒質(例えば、亜鉛触媒の場合、アルコール/水混合液、またはアルミニウムアマルガム触媒の場合、エーテル/水混合液)中で行われ得る。
【0062】
第2工程においては、新たに形成されたヒドロキシルアミンを、4-ホルミル-1,3-ベンゼンジスルホン酸と、代表的にはアミンをわずかに過剰に用いて反応させる。この反応は、同様の温度条件で行われ得る。この反応は、一般に、10~24時間で完了する。
【0063】
このように形成される生成物は、遊離酸であり、89g/モルの分子量により特徴付けられる。この生成物は、白色粉末状物質であり、加熱すると分解する。この生成物は、1g/mlより大きい水溶解性を示すこと、及びDO中でのH NMRスペクトルが、8.048ppm(dd,8.4,1.7Hz);8.836ppm(d,8.4Hz);8.839ppm(d,1.7Hz);8.774ppm(s)に表れることにより特徴付けられる。
【0064】
水性媒質に溶かした遊離酸を2当量の適切な塩基(例えば、カリウム塩についてはKOHなど)と混合することにより、様々な塩が容易に形成され得る。
【0065】
一つの合成は、R.H.Hinton及びE.G.Janzen(J.Org.C hem.57:2646-2651,1992)による研究に基づく。これは、アルデヒドとヒドロキシルアミンとの縮合を包含する。ヒドロキシルアミンは、不安定であり、活性化亜鉛触媒を用いて、使用する日に新しく調製される。合成は、以下の通りである。
【0066】
(表1)必須の化学物質
1.95%エタノール
2.2-メチル-2-ニトロプロパン
3.亜鉛末
4.氷酢酸
5.ジエチルエーテル
6.飽和塩化ナトリウム
7.硫酸マグネシウム、無水固形物
8.4-ホルミル-1,3-ベンゼンスルホン酸(分子量310.21g/モル)、二ナトリウム塩、水和物
9.メタノール
10.ジクロロメタン
【0067】
(表2)N-t-ブチルヒドロキシルアミンの調製
1.500mL用の3つ口丸底フラスコに、磁気撹拌子、温度計アダプター、温度計、及び滴下漏斗を取り付ける。
2.95%エタノール(350mL)をフラスコに加え、氷浴中で10℃まで冷却した。
3.2-メチル-2-ニトロプロパン(6.18g、0.060モル)、及び亜鉛末(5.89g、0.090モル)を一度に加えた。
4.氷酢酸(10.8g、0.180モル)を滴下漏斗に入れ、激しく撹拌しながら、温度を15℃未満に維持するような速度で滴下した。
5.氷浴を外し、混合物を3時間室温で撹拌した。
6.溶媒を混合物から除去して、t-ブチルヒドロキシルアミン、酢酸亜鉛及び水が残った。
7.ジクロロメタン(50mL)を加え、混合物をブフナー漏斗を通して濾過した。
8.濾紙上に残った硫酸亜鉛ケーキを2×25mLのジクロロメタンで洗浄した。
9.水を分液漏斗中で濾液から分離し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥した。
10.硫酸マグネシウムをひだ付き(fluted)濾紙を通して濾過することにより除去し、次いでジクロロメタンをロータリーエバポレーションにより除去した。
11.生成物(収率100%=5.34グラム)(粘性液)を、以下で使用するためにメタノール(50mL)に溶解した。
【0068】
(表3)2,4-ジスルホニルフェニル-N-t-ブチルニトロンの調製
1.250mL用の3つ口丸底フラスコに、撹拌子、ガス分散チューブ、滴下漏斗、及び氷水の再循環により冷却されるフリードリッヒ冷却器を備え付けた。
2.フラスコに、200mLのメタノール、4-ホルミル-1,3-ベンゼンジスルホン酸(9.31g、30ミリモル)及びN-t-ブチルヒドロキシルアミン(Aの部で得た25mLのメタノール溶液、理論上30ミリモル)を加えた。
3.反応物を撹拌して窒素で泡立てさせながら、反応物を加熱用マントルで加熱して還流した。
4.混合物を2時間還流した。
5.上で得たヒドロキシルアミンの残りを加えた。
6.窒素で泡立てさせながら、少なくとも18時間(ただし、24時間以下)還流を続けた。
7.熱い反応混合物をブフナー漏斗で濾過し、固体を熱メタノールで洗浄した。
8.メタノールをロータリーエバポレーションにより除去して、黄色で粘性のある油状物を得た。
9.熱い1:1のエタノール:アセトン(200mL)を加え、混合物を加熱して油状物を溶解させた。
10.溶液を冷却して、生成物を結晶化させた。
11.生成物をブフナー漏斗上で集め、真空下で一晩乾燥した。
12.この反応は、代表的には、75%収率の白色粉末を与える。
【0069】
合成の他の方法は、従来技術でも開示されている。
【0070】
D.テモゾロミド
テモゾロミド(TMZ;ブランド名Temodar(登録商標)及びTemodal(登録商標)及びTemcad(登録商標))は、経口化学療法薬である。テモゾロミドは、いくつかの脳癌の治療として;星状細胞腫の二次治療として、及び多形神経膠芽腫の一次治療として使用されるアルキル化剤である。TMZは、アルキル化剤であるダカルバジンのプロドラッグ及びイミダゾテトラジン誘導体である。その承認適用には、ニトロソウレア-及びプロカルバジン-難治性退形成性星状細胞腫、及び新たに診断された多形神経膠芽腫が含まれる。TMZは、1999年8月から米国で、2000年代初期から他の国々で入手可能になっている。
【0071】
TMZからの最も一般的な副作用は、骨髄抑制である。テモゾロミドに関連する最も一般的な非血液学的副作用は、悪心及び嘔吐であり、これらは、自然に治るかまたは標準制吐療法で容易に制御される。これらの後者の効果は、通常、軽度から中等度(グレード1~2)である。重度の悪心及び嘔吐の発生率は、各々約4%である。重度の嘔吐の既往または経歴を有する患者は、テモゾロミド治療を開始する前に制吐療法を必要とし得る。テモゾロミドは、絶食状態で、食事の少なくとも1時間前に投与すべきである。制吐療法は、テモゾロミドの投与前または投与後に投与してもよい。テモゾロミドは、その成分またはダカルバジンに対して過敏症な患者では禁忌である。テモゾロミドの使用は、重度の骨髄抑制を有する患者には推奨されない。テモゾロミドの標準経口用量は、1日あたり150mg/mで、維持のために1日あたり200mg/mに増加される。低レベルは、標準用量以下であり、例えば、125mg/m、100mg/m、75mg/m、または50mg/mであろう。
【0072】
テモゾロミドは、遺伝毒性、催奇形性及び胎児毒性であり、妊娠中に使用すべきではない。授乳中の女性は、母乳への分泌のリスクがあるため、薬物を受けながらの授乳を中止すべきである。ある研究では、付随する妊孕性温存対策をせずにテモゾロミドを服用した女性は、晩年における妊娠率が下がることを示したが、テモゾロミドが女性不妊のリスクをもたらすという仮説における統計的有意性は、研究が少なすぎて示されなかった。男性患者では、テモゾロミドは、遺伝毒性効果を有し得る。男性は、治療中または治療後最長で6ヵ月間は子供をもうけないことが勧められ、かつ、テモゾロミド治療による不可逆的な不妊の可能性があるため、治療前に精子を凍結保存する助言を求めることが勧められる。非常にまれであるが、テモゾロミドは、急性呼吸不全または肝損傷を引き起こし得る。
【0073】
テモゾロミドの治療的利益は、DNAをアルキル化/メチル化する能力に依存し、DNAのアルキル化/メチル化は、最も頻繁に、グアニン残基のN-7またはO-6の位置に生じる。このメチル化はDNAを傷つけ、腫瘍細胞の死を引き起こす。しかしながら、いくつかの腫瘍細胞は、O-6-メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)遺伝子によってヒトでコードされたタンパク質であるO-アルキルグアニンDNAアルキルトランスフェラーゼ(AGT)を発現することによって、この種のDNA損傷を修復することが可能であり、それゆえテモゾロミドの治療効力を減少しかねない。いくつかの腫瘍では、MGMT遺伝子の後成的なサイレンシングは、この酵素の合成を防ぎ、結果的にこのような腫瘍は、テモゾロミドによる死滅に対してより敏感になる。反対に、脳腫瘍におけるAGTタンパク質の存在は、テモゾロミドへの乏しい反応を予測し、これらの患者は、テモゾロミドによる化学療法からほとんど利益を受けない。
【0074】
試験室研究及び臨床研究は、テモゾロミドを他の薬理学剤と併用することによって、テモゾロミドの抗癌効力を増加させる可能性について調査した。例えば、臨床研究は、クロロキンの追加が神経膠腫患者の治療に有益であり得ることを示した。試験室研究は、緑茶の成分である没食子酸エピガロカテキン(EGCG)を追加した場合に、テモゾロミドが脳腫瘍細胞をより効率的に殺傷することを見つけたが;しかしながら、この効果の有効性は、脳腫瘍患者においてまだ確認されていない。前臨床研究は、テモゾロミドと放射線療法を併用した場合の新規の酸素拡散増強化合物トランスクロセチン酸ナトリウム(TSC)の使用における調査について2010年に報告し、臨床研究は、2015年8月の時点で進行中であった。
【0075】
上述のアプローチは、テモゾロミドと他の薬剤の組み合わせが治療結果を改善し得るかどうかについて調査した一方、テモゾロミド分子自体を変化させることでその活性を増すことができるかどうかについて研究する努力も始まっている。1つのそのようなアプローチは、ペリリルアルコール(脳癌患者における治療活性が実証された天然化合物)をテモゾロミド分子に恒久的に縮合させた。得られた新規化合物(NEO212またはTMZ-POHと呼ばれる)は、その2つの親分子、テモゾロミド及びペリリルアルコールのいずれかのものよりも有意に大きい抗癌活性が判明した。2016年の時点で、NEO212は、ヒトで研究されていないが、神経膠腫、黒色腫、及びトリプルネガティブ乳癌の脳転移の動物モデルにおいて優れた癌治療活性を示した。
【0076】
MGMT遺伝子を発現する腫瘍細胞は、テモゾロミドの効果に対して、より耐性があるため、研究者らは、AGT阻害剤であるO-ベンジルグアニン(O-BG)の包含が、この耐性を克服し、薬物の治療効果を改善することができたがどうかを調査した。実験室では、この組み合わせは、インビトロの腫瘍細胞培養及びインビボの動物モデル中のテモゾロミド活性の増加を確かに示した。しかしながら、脳腫瘍患者の最近完了したフェーズII臨床研究は、入り交じった結果を生じた;テモゾロミド耐性退形成性神経膠腫を有する患者にO-BG及びテモゾロミドを与えた場合に治療活性のいくらかの改善があった一方、テモゾロミド耐性退形成性神経膠腫を有する患者におけるテモゾロミド感受性の有意な回復はないようであった。
【0077】
4.併用治療
一実施形態では、2,4-ds-PBN療法(TMZを任意に含む)を、放射線、PCV、DFMO、CCNUまたはBCNUなどの別の神経膠腫療法との組み合わせで用いてもよい。これらの組成物は、細胞を死滅させる、または細胞の増殖を阻害するのに有効な組み合わせ量で提供される。このプロセスは、細胞を薬剤に同時に接触させることを含み得る。これは、細胞を両方の薬剤を含む単一の組成物もしくは薬理学的製剤と接触させることにより、または一方の組成物は2,4-ds-PBNを含み、他方は第二の薬剤を含む、二つの別々の組成物もしくは製剤と同時に細胞を接触させることにより達成され得る。
【0078】
あるいは、2,4-ds-PBN療法を、他の薬剤治療の前または後に、数分から数週間の間隔で行ってもよい。他の薬剤及び2,4-ds-PBNを、細胞、組織または生物に別々に適用する実施形態では、一般にこれらの薬剤が細胞に対して有利に組み合わせた効果を発揮することができるよう、それぞれの送達時の間にあまり時間が経過しないよう確認することになる。そのような場合、細胞を両方の様式と互いに約12~24時間以内、より好ましくは互いに約6~12時間以内に接触させることができることが企図される。しかしながら、いくつかの状況では、それぞれの投与の間に数日(2、3、4、5、6または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週間)が経過している場合、治療期間を大幅に延長することが望ましいこともある。
【0079】
各薬剤の複数回投与が企図される。例えば、2,4-ds-PBN療法(TMZまたは他のAGT阻害剤を任意に含む)が「A」であり、第二の薬剤または療法が「B」である場合、下記が企図される。
【0080】
患者を、腫瘍とは無関係と考えられる神経学的変化について評価し、NCI Common Toxicity Criteria(神経毒性)を用いて等級づけることになる。基準の聴力研究の他に、神経学的検査によって聴力損失または聴力損失進行の徴候を有する患者に対し、聴器毒性に関する繰り返し聴力研究を医師の自由裁量で行う。加えて、血球数算定を隔週で行い、血清クレアチニン、アルカリ性ホスファターゼ、ビリルビン及びアラニンアミノトランスフェラーゼ研究を各周期の前に行う。用量は、主に好中球及び血小板数(ビンクリスチン、ロムスチン及びマチュレーン)または聴器毒性(DFMO)に基づき、治療経過中に変更してもよい。時として、下痢のためにDFMOの用量低下が必要となる。
【0081】
A.PCV
PCVは、次の三つの異なる薬剤を用いる薬物併用療法である:ヒドラジン誘導体であるマチュレーン、ニトロソウレアであるロムスチン、及びチューブリン相互作用剤であるビンクリスチン。これは、多くの臨床研究で、特に発明者によって、高グレード神経膠腫及び髄芽腫腫瘍に対するその効果を評価する際に用いられている。PCVで観察される主な副作用は、用量を制限する骨髄毒性であった。PCVの各成分を以下に記載する。
【0082】
本発明は、両方ともニトロソウレアであるため、CCNU(ロムスチン)ではなくBCNUの使用を含み得ることに留意すべきである。ビンクリスチンは通常、PCVの組み合わせにおける最も活性の低い薬物と考えられるため、ビンクリスチンなしでCCNUとプロカルバジンまたはBCNUとプロカルバジンを用いることができることも企図される。
【0083】
ヒドラジンとニトロソウレアはいずれもアルキル化剤である。グループとして、アルキル化剤は、細胞DNA、RNA及びタンパク質分子、並びに、より小さいアミノ酸、グルタチオン及び類似の化学物質との共有結合による化学付加物を形成する。一般に、これらのアルキル化剤は、核酸、タンパク質、アミノ酸、またはグルタチオンにおけるアミノ、カルボキシル、ホスフェート、スルフヒドリル基などの、細胞成分中の求核原子と反応する。癌療法におけるこれらのアルキル化剤のメカニズム及び役割はあまり理解されていない。ヒドラジン及びニトロソウレアに加えて、アルキル化剤には下記が含まれる:ダカラブジン及びテモゾロミドなどのトリアゼン、クロラムブシル、シクロホスファミド、イソファミド、メクロレタミン、メルファラン、ウラシルマスタードなどのナイトロジェンマスタード;チオテパなどのアジリジン;ブスルファンなどのメタンスルホネートエステル;シスプラチン、カルボプラチンなどの白金錯体;マイトマイシン及びアルトレテミンなどの生体内還元アルキレーター。これらの化合物のいずれかを本発明の化合物との組み合わせで、一緒にまたは個別に用いてもよい。
【0084】
i.ヒドラジン及びトリアゼン誘導体
ヒドラジン及びトリアゼン誘導体は自然に分解するか、または代謝されてDNAをアルキル化するアルキルカルボニウムイオンを生じる点で、ニトロソウレアと類似である。このクラスの化合物には、マチュレーン、ダカルバジン及びテモゾロミドが含まれる。
【0085】
マチュレーン中の活性成分は、塩酸プロカルバジン(N-イソプロプル-アルファ-(2-メチルヒドラジノ)-p-トルアミド一塩酸塩)である。これは、Roche Laboratories,Inc.から入手可能である。これは、1969年にホジキン病の治療用に認可された。典型的形状は、プロカルバジンを塩酸塩で50mg含む経口カプセル剤である。用量は、プロカルバジンが他の抗癌薬との併用薬物として用いられるか、または単一の治療剤として用いられるかに応じて変動する。単剤のためにPDRによって示唆される指針は、100mgを1日2回14日間である。
【0086】
マチュレーンの厳密な作用機作は不明である。薬物がタンパク質、RNA及びDNA合成の阻害により作用するとのいくつかの証拠がある。これは、主に肝臓及び腎臓で代謝され、自己酸化されて過酸化水素の放出を伴ってアゾ誘導体になると思われる。アゾ誘導体は、ヒドラゾンへと異性体化し、加水分解の後、ベンジルアルデヒド誘導体とメチルヒドラジンとに分裂する。メチルヒドラジンは、CO及びCHと、おそらくはヒドラジンにさらに分解する一方で、アルデヒドは、酸化されて酸になり、尿中に排出される。
【0087】
マチュレーンは、モナミンオキシダーゼ阻害活性(MAOI)を示し、従って高チアミン含量を含む食物を制限する食事療法に従うべきである。治療中に避けるべき薬物には、抗ヒスタミン剤、交感神経興奮剤、バルビツレート、麻酔薬、降圧剤またはフェノチアジン、及びエチルアルコールが含まれる。自然熟成チーズ、チョコレート、ナッツ、及びバナナなどの一部の食品は、理論的には一部の患者で高血圧性合併症を引き起こす可能性があるため、これらもプロカルバジン中は避けるべきである。また、マチュレーンを腎及び/または肝機能不全を有する患者で用いると、許容されない毒性が起こることがある。感覚異常、神経障害または錯乱;好中球減少(絶対好中球数が1500/ul未満)、血小板減少(血小板が100,000/ul未満)、過敏性反応、口腔周囲の潰瘍形成または持続性疼痛点、下痢または軟便、出血または出血傾向などの中枢神経系の徴候または症状の事象においては、治療を短縮してもよい。
【0088】
有害であるが、予想される反応には、白血球減少、好中球減少、貧血、及び血小板減少が含まれる。よく報告される急性副作用は、投与中または投与直後の悪心及び嘔吐である。
【0089】
ii.ニトロソウレア
ニトロソウレアは、治療用アルキル化剤の一群である。このクラスの化合物には、ロムスチン、カルムスチン、セムスチン、ステプトゾシン、及びニムスチンが含まれる。
【0090】
(a)ロムスチン
ロムスチンは、CCNUとしても知られる合成アルキル化剤で、1-(2-クロロエチル)-3-シクロヘキシル-1-ニトロソウレアなる化学名を有する。これは、1977年に脳腫瘍及びホジキン病の治療用に認可された。これは、Bristol Myers Squibbから経口カプセル剤として、10mg、40mg及び100mgの剤形で入手可能である。用量は、ロムスチンが単剤として用いられるか、または他の化学療法剤に加えての併用で用いられるかに応じて変動してもよい。過去に未治療の患者における単剤として、PDRによって推奨される用量は、1回経口用量として130mgを6週間に1回である。ロムスチンは、血液脳関門を通過する。
【0091】
CCNUは、DNA及びRNAをアルキル化すると考えられる。これは、他のニトロソウレア及び全てではないがいくつかのアルキル化剤と交差耐性である。これは、タンパク質中のアミノ酸のカルバモイル化により、いくつかの主要な酵素プロセスも阻害することができる。
【0092】
最も一般的で重度の毒性副作用は、血小板減少及び白血球減少を引き起こす骨髄抑制で、これは、出血及び感染に寄与し得る。骨髄毒性は蓄積性であり、従って以前の用量に由来する底血算値に基づき、用量調節を考慮しなければならない。
【0093】
(b)カルムスチン
カルムスチンは、BCNUとしても知られ、N,N’-ビス(2-クロロエチル)-N-ニトロソウレアなる化学名を有するニトロソウレアアルキル化剤で、FDAにより1977年に認可された。カルムスチンは、原発性脳腫瘍の治療用に長年用いられており、神経膠腫の治療に用いられている。カルムスチンは、Bristol Meyers Squibbから、i.v.注射による送達用の10mgカルムスチン及び3ml滅菌希釈剤のバイアルを含むパッケージで入手可能である。単剤として、カルムスチンは、約150~200mg/mを6週間に1回投与する。併用療法では、カルムスチンは、ロムスチンと類似の用量で投与してもよい。送達の代替様式は、腫瘍部位に直接埋め込んだウェーファー(Gliadel(登録商標)Wafer)によるものである。
【0094】
可能性のある副作用には、骨髄抑制、貧血、下痢、低白血球及び血小板数、肺毒性並びに嚥下困難が含まれる。
【0095】
iii.チューブリン相互作用剤
チューブリン相互作用剤は、重合して細胞微小管を形成するタンパク質であるチューブリンの特定の部位に結合することにより細胞分裂を妨害する。微小管は、重要な細胞構造単位である。相互作用剤がタンパク質上に結合すると、細胞は、適切に微小管を形成することができない。チューブリン相互作用剤には、いずれもアルカロイドであるビンクリスチン及びビンブラスチン、並びにパクリタキセル及びドセタキセルなどのタキサンが含まれる。
【0096】
ビンクリスチンは、Oncovin(商標)としてEli Lilly & Companyから、また硫酸ビンクリスチンとしてFauldingから入手可能である。同様にビンカロイコブラスチンと呼ばれるのは、一般的な顕花草本、ツルニチニチソウから得たアルカロイドの塩である、22-オキソ-、硫酸塩(1:1)(塩)である。これは、静脈内注射により送達する。これは、1963年にユーイング肉腫、横紋筋肉腫、ウィルムス腫瘍、神経芽腫、ホジキン病及び白血病用に認可された。
【0097】
作用機作は調査中である;しかしながら、分裂細胞の中期での停止をきたす、紡錘体における微小管形成の阻害が関与することが示されている。肝臓は、主要な排出臓器である。ビンクリスチンの静脈内用量のほとんどは速やかに組織結合した後、胆汁中に排出される。ビンクリスチンは、血液脳関門を通過しないと考えられる。
【0098】
ビンクリスチンは、抗発作薬の血中レベルを低下させ、発作活性を高めると報告されている。最も一般的な有害反応は、脱毛である。白血球減少、神経炎性疼痛及び便秘が起こるが、通常は7日未満である。
【0099】
B.DFMO
多くの高増殖型の癌は、腫瘍組織並びに癌を有する哺乳動物の血液及び尿中のポリアミンであるプトレシン、スペルミジン、及びスペルミンのレベル上昇に関連する。研究により、これは、律速酵素であるオルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)によるポリアミン合成増大に関連し得ることが示されている。ポリアミン合成の経路は、L-オルニチンにより始まる。この天然アミノ酸は、通常はタンパク質に取り込まれないが、アルギニンをオルニチンと尿素に代謝する尿素回路の一部である。オルニチンは、オルニチンデカルボキシラーゼ(ODC)によりプトレシンとCOに変換され、ポリアミン生成における律速段階であると考えられる。S-アデノシルメチオニンから供与されたプロピルアミンの付加により、プトレシンはスペルミジンに変換される。次いで、スペルミジンは、ここでもS-アデノシルメチオニンの脱炭酸に関連して、スペルミンシンセターゼによりスペルミンに変換される。プトレシン、スペルミジン及びスペルミンは、哺乳動物組織における三つの主要なポリアミンである。ポリアミンは、動物組織及び微生物で見いだされ、細胞成長及び増殖において重要な役割を果たすことが知られている。細胞成長及び増殖におけるポリアミンの役割の厳密なメカニズムは不明であるが、ポリアミンは、DNA、RNA、またはタンパク質合成などの高分子プロセスを促進することができると思われる。ポリアミンレベルは、精巣、腹側前立腺、及び胸腺、乾癬皮膚病巣、並びに急速な成長過程にある他の細胞中で高いことが公知である。
【0100】
腫瘍組織の急速な増殖は、ポリアミンレベルの異常な上昇により示されることも周知である。従って、ポリアミンは、腫瘍成長の維持においても重要な役割を果たすと考えられる。従って、DFMOなどのODC阻害剤は、ポリアミンの生成を阻止し、それにより腫瘍組織の増殖及び転移を減速する、妨害する、または停止することによりそれらの治療効果を発揮すると考えられる。
【0101】
DFMO(α-ジフルオロメチルオルニチン、エフロールニチン、Ornidyl(登録商標))は、アミノ酸L-オルニチンの構造類縁体で、化学式C12を有する。DFMOは、本発明の方法においてD-及びL-鏡像異性体のラセミ(50/50)混合物として、またはL-異性体に対してD-異性体が多い、例えば、L-異性体に対して70重量%、80重量%、90重量%もしくはそれ以上のD-異性体を含む、D-及びL-異性体の混合物として用いることができる。用いるDFMOは、実質的にL-鏡像異性体を含まなくてもよい。
【0102】
DFMOの用量を制限する毒性作用は、患者の約50%に起こる血小板減少(血中の血小板が異常に少ない)、白血球減少(白血球が異常に少ない)、または貧血である。この毒性作用は、比較的無害かつ可逆性であり、薬物停止後に消失する。
【0103】
急速に増殖している腫瘍組織の成長速度制御に対するODC阻害剤の効果が、標準的な動物腫瘍モデルで評価されている。例えば、DFMOの抗腫瘍効果は、以下の動物腫瘍モデルで示されている:マウスのL1210白血病、Balb/CマウスのEMT6腫瘍、ラットの7,12-ジメチルベンズアントラセン誘導性(DMBA誘導性)乳房腫瘍及びBuffaloラットのDFMO Morris 7288Cまたは5123肝癌。加えて、様々な細胞毒性物質と併用してのDFMOの抗腫瘍効果が以下のとおりに示されている:(a)マウスのL1210白血病、BuffaloラットのMorris 7288C肝癌、及びマウスのEMT6腫瘍におけるビンデシンまたはアドリアマイシンとの併用、(b)マウスのL1210白血病におけるシトシンアラビノシドとの併用、(c)マウスのL1210白血病におけるメトトレキセートとの併用、(d)マウスのEMT6腫瘍及びマウスのDMBA誘導性腫瘍におけるシクロホスファミドとの併用、(e)マウス神経膠腫26脳腫瘍におけるBCNUとの併用、及び(f)マウスのL1210白血病、BuffaloラットのMorris 7288C肝癌、マウスのP388リンパ球性白血病、及びマウスのS-180肉腫におけるMGBGとの併用。
【0104】
DFMOは、腫瘍のプトレシン生合成を効果的に阻止することができるが、その結果としての抗腫瘍効果は、細胞毒性ではなく細胞分裂停止である。例えば、DFMOは、MCA肉腫の成長速度を低下させるが、腫瘍退縮は起こさない。この知見は、DFMOが細胞分裂抑制剤であることを示した他の研究者の報告と一致している。しかしながら、研究から、DFMO剤には、DFMOを組み込む併用化学療法の今後の開発を可能にする、重要な役割が存在し得ることが明らかである。
【0105】
米国特許第4,925,835号に記載のとおり、DFMOは、実際ODC活性を不可逆的に阻害するが、インビボでDFMO処理した細胞は、外因性プトレシンの取り込みを著しく高めるため、様々な新形成の治療において用いるための治療用ODC阻害剤としてのDFMOの当初の見込みは、幾分薄くなっている。細胞の細胞間輸送メカニズムは、細胞外環境からプトレシンを移入することにより、DFMOによるODC活性損傷を「巧みに回避」する。従って、インビボでのDFMOの効果は、インビトロよりもはるかに低い。従って、DFMO処理は、細胞内プトレシン新生を効果的に阻害するが、同時に細胞外プトレシンの取り込みを高め、それによりそのODC阻害作用を相殺することになる。
【0106】
この問題は、プトレシンがグレープフルーツ果汁(約400ppmのプトレシンを含む)などの多くの一般的食品中に存在するという事実によって倍加される。これにより、プトレシンを含まない栄養的に十分な食事を患者に提供することは実質的に不可能となる。従って、DFMO処理細胞は、細胞分裂を支持するために十分な量の細胞外プトレシンを移入することができる。
【0107】
DFMOをヒト患者に対してより許容されるようにする戦略が、米国特許第4,859,452号(参照により本明細書に組み入れられる)に記載されている。DFMO誘導性毒性の低下を助けるための、必須アミノ酸をアルギニンまたはオルニチンのいずれかとの組み合わせで含むDFMOの製剤が記載されている。
【0108】
C.O6-アルキルグアニン-DNAアルキルトランスフェラーゼ阻害剤
O6-アルキルグアニン-DNAアルキルトランスフェラーゼ(AGT)は、テモゾロミドなどの阻害薬の標的である。他のAGT阻害剤も、本開示の方法に従って、有用であると証明され得る。
【0109】
D.放射線
DNA損傷を引き起こし、癌療法に大々的に用いられており、γ線として一般に知られているもの、X線、及び/または放射性同位体の腫瘍細胞に向けた送達を含む因子。マイクロ波及びUV照射などのDNA損傷因子の他の形態も企図される。これらの因子は全て、DNA、DNAの前駆体、DNAの複製及び修復、並びに染色体の組立及び維持に対し広範囲の損傷を与えると考えられる。X線の線量範囲は、長期間(3~4週間)にわたる1日線量50~200レントゲンから1回線量2000~6000レントゲンまでの範囲である。放射性同位体の線量範囲は多様で、同位体の半減期、放出される放射線の強度及びタイプ、並びに新生細胞による取り込みに依存する。細胞に適用する場合の「接触(した)」及び「曝露(された)」なる用語は、本明細書において治療的作成物及び化学療法もしくは放射線療法剤を標的細胞に送達する、または標的細胞の直接近位に置くプロセスを記載するために用いる。細胞死滅または停止を達成するために、両方の薬剤を、細胞を死滅させる、または細胞分裂を防止するのに有効な組み合わせ量で細胞に送達する。
【0110】
E.手術
癌を有する人の約60%は、何らかのタイプの手術を受けることになり、これには、予防的、診断的または病期決定、治癒的及び待機的手術が含まれる。癌治療としての治癒的手術を、本発明の治療、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、遺伝子療法、免疫療法及び/または代替療法などの他の治療法と組み合わせて用いてもよい。治癒的手術には、癌性組織の全てまたは一部を、物理的に除去、摘出、及び/または破壊する切除が含まれる。腫瘍切除とは、腫瘍の少なくとも一部の物理的除去を意味する。腫瘍切除に加えて、手術による治療には、レーザー手術、冷凍外科術、電気外科術、及び鏡検制御手術(モース氏手術)が含まれる。本発明を表在性癌、前癌、または正常組織の付帯的量の除去と組み合わせて用いることができることがさらに企図される。
【0111】
5.リポ多糖結合タンパク質
A.LBP
リポ多糖結合タンパク質は、LBP遺伝子によってコードされる、ヒト中のタンパク質である。LBPは、細菌性リポ多糖(またはLPS)に結合して、CD14及びTLR4と呼ばれる重要な細胞表面パターン認識受容体にLPSを提示することによって免疫応答を惹起する、可溶性急性期タンパク質である。この遺伝子によってコードされるタンパク質は、グラム陰性細菌感染に対する急性期免疫反応に関与する。グラム陰性菌は、その外細胞壁に、糖脂質、リポ多糖(LPS)を含む。殺菌性透過性増強タンパク質(BPI)と一緒に、このコードされたタンパク質は、LPSに結合し、CD14受容体と相互作用し、おそらくはLPS依存性単球応答の調節に役割を果たす。マウスの研究は、このコードされたタンパク質がLPSに対する急速な急性期反応には必要であるが、循環からのLPSクリアランスには必要ないことを示唆している。このタンパク質は、BPI、血漿コレステリルエステル輸送タンパク質(CETP)、及びリン脂質輸送タンパク質(PLTP)を含む、構造的かつ機能的に関連するタンパク質のファミリーの一部である。この遺伝子は、BPI遺伝子のすぐ下流の第20染色体上に見られる。リポ多糖結合タンパク質は、CD14、TLR2、TLR4及び補助受容体MD-2と相互作用することが示されている。
【0112】
B.LBP複合体及びイメージング
本発明者らによって本明細書で最初に報告されたように、LBPレベルは、低グレードの神経膠腫として分類された腫瘍と比較して、高グレードのヒト患者神経膠腫で上昇する。従って、本明細書で開示される診断方法に従って使用されるLBP複合体は、蛍光標識、放射性標識及びイメージング剤に連結したLBPの診断複合体が含まれる。これらの複合体は、対象に投与することができ、体内、特に、神経膠腫部位での存在は、ハンドヘルド蛍光スキャナー、近赤外スキャナー、MRIデバイス、及びPETスキャナーを用いて決定することができる。このアプローチは、治療の効果を監視するために使用することもでき、LBPレベルの低下は、治療的利益を示す。
【0113】
6.薬学的製剤
本発明は、多くの組成物を開示しており、これらを、本発明のある特定の態様において動物に投与する。例えば、2,4-ds-PBN、並びに様々な二次的化学療法剤は、投与用に製剤される。臨床適用が企図される場合、これらの化合物の薬学的組成物及び所期の用途に適した剤形の組成物を調製することが必要となる。一般に、これは発熱物質、並びにヒトまたは動物に有害である可能性のある他の不純物を基本的に含まない組成物の調製を必要とする。
【0114】
薬剤を患者に導入するのに適したものとするため、一般には適当な塩及び緩衝剤を用いることが望まれる。本発明の水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒質に溶解または分散した薬剤の有効量を含む。「薬学的または薬理学的に許容される」なる語句は、動物またはヒトに投与した場合に、有害、アレルギー性、または他の都合の悪い反応を生じない分子実体または組成物を意味する。本明細書において用いられる「薬学的に許容される担体」には、任意及び全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌及び抗真菌剤、等張及び吸収遅延剤などが含まれる。薬学的活性物質のためのそのような媒質及び物質の使用は、当該技術分野において周知である。任意の従来の媒質または物質が本発明のベクターまたは細胞と不適合である場合を除き、治療的組成物におけるその使用が企図される。他の抗癌剤などの補足的活性成分も組成物に組み込むことができる。
【0115】
遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性成分の溶液を、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適当に混合した水中で調製することができる。分散液もグリセロール、液体ポリエチレングリコール、その混合物及び油中で調製することができる。通常の保存及び使用条件下で、これらの製剤は、微生物の成長を防止するための保存剤を含む。静脈内媒体は、液体及び栄養補充物を含む。保存剤には、抗菌剤、抗酸化剤、キレート化剤及び不活性ガスが含まれる。薬剤中の様々な成分のpH及び厳密な濃度を周知のパラメーターにより調節する。
【0116】
薬剤の有効量は、所期のゴールに基づいて決定される。「単位用量」なる用語は、対象において用いるのに適した物理的に分離している単位であって、それぞれその投与、すなわち適当な経路及び治療法に関連して所望の反応を生じるよう計算された、あらかじめ決められた量の治療組成物を含む単位を意味する。治療数及び単位用量の両方に従って投与する量は、治療する対象、対象の状態、及び望まれる保護に依存する。治療組成物の正確な量は、医師の判断にも依存し、各個人に特有である。
【0117】
A.腸内投与
本発明の活性化合物は、腸内投与用に、例えば、経口投与用に都合よく製剤することができる。薬学的剤形は、ゴマ油、落花生油または水性プロピレングリコール;並びに錠剤、丸剤及びカプセル剤を含む摂取組成物の即時調製用の滅菌粉末を含み得る。また、本発明の薬剤は、食品添加物の形で提供し、毎日の食事プログラムに組み込むことができることも企図される。これらの全ての剤形は、一般に製造及び保存条件下で無菌かつ安定であるように選択される。
【0118】
活性化合物は、中性または塩の形の組成物に製剤してもよい。薬学的に許容される塩には、例えば、塩酸もしくはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と形成される、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成)が含まれる。遊離カルボキシル基と形成される塩も、例えば、水酸化ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または第2鉄などの無機塩基、並びにイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から誘導することができる。
【0119】
担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、その適当な混合物、及び植物油を含む溶媒または分散媒でもあってもよい。適当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合は要求される粒径の維持により、及び界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどにより行うことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいと思われる。注射用組成物の長期間吸収は、吸収を遅延させる物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンの組成物中での使用により行うことができる。
【0120】
滅菌注射溶液は、必要量の活性化合物を適当な溶媒中に、必要に応じて前述の様々な他の成分と共に組み込み、続いてろ過滅菌することにより調製する。一般に分散液は、様々な滅菌活性成分を、基本の分散媒と前述のものから必要とされる他の成分とを含む滅菌媒体中に組み込むことにより調製する。滅菌注射溶液調製用の滅菌粉末の場合、特定の調製法は、活性成分及び任意の追加の必要成分の粉末を、あらかじめ滅菌ろ過したその溶液から生じる、真空乾燥及び凍結乾燥技術である。
【0121】
B.他の投与経路
腸内投与用に製剤した化合物に加えて、静脈内または筋肉内注射などの非経口製剤も構想される。投与は、鼻、口腔、直腸、膣または局所であり得る。あるいは、投与は、皮内、皮下、または腹腔内注射であり得る。同様に企図されるのは、カテーテルを介した持続灌流である。そのような組成物は、通常は前述の薬学的に許容される組成物として投与することになる。
【実施例
【0122】
7.実施例
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を示すために含まれる。当業者であれば、以下の実施例に開示する技術は、本発明の実施においてうまく機能するように発明者が見いだした技術であり、従ってその実施のために好ましい様式を構成すると考えられることを理解すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、開示される具体的な実施形態において多くの変更をなすことができ、それでもなお本発明の精神及び範囲から逸脱することなく類似または同様の結果が得られることを理解すべきである。
【0123】
実施例1-導入及び研究設計
ヌードマウス中の同所性G55ヒトGBM異種移植は、本発明者が既出の刊行物で使用し、本発明者のグループで使用し続ける、確立されたGBMモデルである。このモデルは、非常に侵襲性の強いGBMを模倣する。このモデルに関して、本発明者は、未処置動物並びにTMZ処置動物の動物生存率、腫瘍体積及び血管灌流データの以前のデータを有した。本発明者は、G55細胞がTMZ耐性を持つことを示す予備データも持っていたため、この知見は、TMZ耐性の理想的な異種移植モデルとしてこれらの細胞の使用をさらに支持するものである。
【0124】
本発明者は、4つの処置群で研究を行った。2つの群に関して、本発明者は、1群あたり最低5匹の動物を必要とした。これらは、OKNのみの群、及びOKN+TMZ群であった。他の2つの群(未処置及びTMZのみ)に関して、本発明者は、各々5匹の群を作製するための既存のデータを含め、実施した研究で2つの未処置及び2つのTMZを含めた。
【0125】
本発明者は、MRIを使用して腫瘍体積を得て、これを使用して治療応答を評価した。本発明者はまた、血管灌流データを得て、腫瘍血管系に対する治療効果を評価した。腫瘍血管灌流速度(相対的な脳血流またはrCBFとして測定)は、灌流画像から計算する。腫瘍血管灌流速度は、血管新生によって乱れた血管により未処置腫瘍で減少する。正規化されたrCBFの差から、これは、rcBFの実質的な変化をもたらすであろう。抗癌治療を介した腫瘍血管灌流速度の回復は、抗血管新生効果を示し得る。正規化されたrCBFの変化から、これは、治療効果が腫瘍血管に影響を及ぼす場合には、rCBFに比較的小さな差をもたらすであろう。本発明者はまた、動物生存率を評価した。MRI研究に関して、本発明者は、MRIによる腫瘍成長及び血管の変化を評価するために、未処置群については最低でも3つの時点が必要であり、処置動物については少なくとも5つの時点が必要であることを最初に示した一方、実際に、本発明者は、積極的な治療応答により、未処置マウスについて少なくとも5つの時点、及び処置マウスについて10を上回る時点を得た。
【0126】
本発明者はまた、ラットF98神経膠腫担持ラットの腫瘍(ELISAによって評価)、及びGBMヒト組織試料(免疫組織化学によって評価)中で上昇する、潜在的なバイオマーカーのLBP(リポ多糖結合タンパク質)を発見した。このバイオマーカーは、ラットF98神経膠腫モデルからのマイクロアレイデータから発見され、ここで、未処置腫瘍は高レベルのLBPを有し、OKN-007処置では、LBPの遺伝子発現が2倍超減少した。また、ラットF98神経膠腫モデルでは、OKN-007は、未処置腫瘍担持動物と比較した場合、腫瘍組織(p<0.0001)及び血清(p<0.001)の両方におけるLBPタンパク質レベル(ELISAによって評価)を有意に減少させることが分かった。本発明者は、LBPのELISAキットを使用して、未処置またはTMZ、OKN-007またはTMZ+OKN-007で処置のいずれかの腫瘍組織及び血清の両方において双方のG55腫瘍担持マウスにおける有効性マーカーとしてバイオマーカーを評価した。
【0127】
実施例2-方法
細胞培養。G55細胞は、Dr.Michael E.Sughrue(Univ.of Oklahoma Health Sciences Center)から得た。G55細胞は、10%コスミック仔ウシ血清(CCS;HyClone、Logan、UT)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを補充したDMEM(LifeTechnologies、Waltham、MA)中で培養した。
【0128】
マウス及び処置。動物研究は、OMRF IACUC(研究機関内の動物の管理及び使用に関する委員会)の方針に従って実施し、NIHガイドラインに従うものである。2ヵ月齢の雄ヌードマウス(Hsd:無胸腺ヌード-Foxn1nuマウス;Harlan Inc.,Indianapolis、IN)に、1%アガロース溶液の4μL細胞培地中に懸濁したヒトG55異種移植細胞(1×10)/mLを脳内に移植した。腫瘍が10~15mm(MRIを介して決定)に到達すると、OKN-007(150mg/kg;絶えず飲み水を介して)またはTMZ(30mg/kg;3日ごとの強制飼養を介して)で3日ごとにマウスを処置した。TMZは、滅菌生理食塩水中の5%DMSO及び5%ソルトール-15で溶解した。腫瘍が100~150mmに到達するまで、または、腫瘍(>5mm)をMRIで検出した後に合計で最長60日間、マウスを処置した。
【0129】
MRI。MRI実験は、Bruker Bio-spec 7.0 Tesla/30-cm水平ボア磁気撮像システムで行った。1.5~2.5%イソフルラン及び0.8L/分のOを用いて動物を固定化し、信号伝送用の72-mmの直角位相体積コイルに置いた。表面マウスヘッドコイルは、信号受信に使用した。T2強調画像を得て、腫瘍体積は、MRIデータセットから計算した。
【0130】
灌流イメージング。腫瘍毛細管に関連する微小血管の変化を評価するために、灌流イメージング法である動脈スピン標識法(ASL)を使用した。腫瘍が最も大きい断面である前後軸の点に位置する脳の単一軸のスライスで、灌流マップを得た。5つの関心領域(ROI)の輪郭を腫瘍の周りに手作業で描き、適切なROIを、比較のために脳の対側からも撮影した。rCBF値の差を計算するため、後期(未処置マウスに対して細胞の脳内移植後18~26日目)及び早期(細胞移植後10~13日目)の腫瘍ステージで腫瘍のrCBF値を得て、対応する動物の対側脳領域におけるrCBF値に正規化した。
【0131】
リポ多糖結合タンパク質(LBP)ELISAアッセイ。LBP ELISAキット(Antibodies-Online.com;ABIN370808)は、血清、血漿及び組織試料中のマウスLBPレベルに特異的である。これは、マイクロプレートリーダーを読み取って、450/620nmの吸光度を測定する比色アッセイである。LBP濃度は、標準曲線から計算し、適切な希釈係数を乗じた。
【0132】
統計解析。生存率曲線は、カプラン-マイヤー曲線を用いて解析した。腫瘍体積、正規化rCBFの変化、及びLBPレベルを2元配置分散分析によって比較して、多重比較を行った。データは、平均±SDとして表され、0.05、**0.01、***0.001、及び****0.0001のいずれかのP値は、統計的に有意であると見なした。
【0133】
実施例3-結果
動物生存率(図1を参照)。動物生存率データは、併用療法(OKN-007+TMZ)処置マウスの60%が、腫瘍の検出後に60日生き残り、50日を超えて処置されたことを示した。OKN-007処置マウスの1匹(処置マウスの20%)もまた、腫瘍の検出後に60日生存した。統計解析は、全ての処置マウス(OKN-007のみ、TMZのみ、または併用療法のいずれか)が、未処置(UT)G55神経膠腫担持マウスと比較した場合、生存率が有意に増加したことが分かったことを示した。併用療法マウスが、TMZ処置マウスよりも有意に長い生存率であったことも分かった。OKN-007処置マウスと併用療法マウスとの間に有意性はなかった。動物群の数がより多い場合には、p値がこれらの2つの群の間で0.07であったため、OKN-007処置マウスと併用療法マウスとの間で有意差を得ることができたであろう。
【0134】
腫瘍体積(図2~4を参照)。UTマウスを安楽死させた時と同じ時点で、すなわち、腫瘍体積が150mm以上に到達した時(腫瘍の検出後の19~22日目に)と同じ時点で、並びに処置群ごとの最後の時点で腫瘍体積を比較した。腫瘍の検出後の19~22日目に、TMZ、OKN-007、または併用療法のいずれかで処置したマウスは全て、UTマウスと比較した場合、腫瘍体積が有意に減少したことが分かった(図2)。処置マウスが1匹も腫瘍体積において互いに有意に異ならないことが分かったが、しかしながら、併用療法は、TMZ-またはOKN-007処置マウスのいずれかと比較した場合、腫瘍体積が最も小さかった。試料サイズが小さいため(n=5)、動物の数が多い場合には、処置群間の有意差があるかもしれない。TMZ群は、ばらつきが大きく、発明者によって実施した2つの他の研究でも観察された。腫瘍(中腫瘍領域)を示す代表的なMR画像もまた、調査した処置群ごとに示す(図3)。処置群ごとの最後の時点で、TMZ群及び併用療法群の腫瘍体積は、UTマウスと比較した場合、有意に小さいことが分かった(図4)。OKN-007処置群のばらつきが大きいため、未処置マウス、または他の処置群(TMZのみ、または併用療法)のいずれかと比較した場合、腫瘍体積に有意差はなかった。複数の時点で得られた腫瘍体積を、以下のグラフに示す(図5A)。治療ウィンドウが示され、ここで、腫瘍が≧10mmに到達すると、腫瘍を処置する。
【0135】
腫瘍血管灌流量(正規化されたrCBFの差)(図5Bを参照)。正規化された腫瘍rCBFの差は、UTマウスと比較して、全ての処置マウスで有意に減少することが分かった。1群あたりの動物の数が少ないため、処置群間の有意差はなかった、しかしながら、併用療法及びOKN-007-処置群の両方は、TMZ処置と比較して、腫瘍においてより正規化された灌流量を有するようであった。代表的な形態学的MR画像及びそれらの対応する灌流マップを処置群ごとに示す。
【0136】
LBP ELISAアッセイ(図6及び7を参照)。OKN-007処置マウスまたは併用療法マウスのLBPレベルは、UTマウスと比較して、腫瘍組織中で有意に低かった(図6)。腫瘍組織では、TMZ処置群のLBPレベルは、UTマウス腫瘍と有意に異なるか分からなかった。腫瘍LBPレベルにおいて、OKN-007処置群と併用療法との間に有意差はなかった。効果は、OKN-007の効果が主に寄与した可能性がある。血清LBPレベルは、UTマウス試料と比較して、全ての処置群において有意に低いことが分かり、一般的な治療応答を示した(図7)。
【0137】
OKN-007を併用したTMZ耐性及びTMZ感受性GBM細胞株のインビトロIC50評価(図8)。OKN-007は、膠芽腫(GBM)前臨床モデルにおいて抗腫瘍活性を有することが本発明者らによって予め示されている。インビトロデータは、OKN-007が、TMZ(テモゾロミド)耐性GBM細胞株(T98G及びG55)を一緒に組み合わせる場合に、それらを減少させ得ることを示す。
【0138】
リポ多糖結合タンパク質(LBP)。OKN-007の作用機序を評価する詳細な研究中、転写マイクロアレイを使用して、ラットF98神経膠腫モデルにおけるOKN-007処置と関連する特異的な遺伝的変化を解明した。LBPは、(未処置と比較して)OKN処置ラットF98神経膠腫でダウンレギュレートされ、TGF-β1と関連する。27年前に発見され、LPSに結合する能力にちなんで命名されたLPB(リポ多糖結合タンパク質)は、感染を阻止するために必要であり、自然免疫及び適応免疫に関与する。LBPの主な作用機序は、いまだ明らかではない。
【0139】
LPBに対するOKN-007効果(図9及び10)。未処置(腫瘍)及びOKN-007処置(OKN処置腫瘍)F98神経膠腫担持ラットの腫瘍組織中のタンパク質LBPレベルを図9に示す。正常な脳組織は、未処置(対照)及びOKN-007処置(対照+OKN)ラットから得た。未処置と比較して、OKN-007処置神経膠腫中のLBPレベルは有意に減少した(p<0.0001)。対照組織(未処置または処置)も有意に低かった(p<0.0001)
【0140】
未処置(腫瘍)及びOKN-007処置(OKN処置)F98神経膠腫ラットの血清中のタンパク質LBPレベルを図10に示す。正常なラット(対照)からの血清も得た。LBPの血清レベルは、未処置腫瘍担持ラットと比較してOKN処置F98神経膠腫担持ラット(p<0.001)で、正常なラット対未処置腫瘍担持(p<0.0001)で、または正常なラット対OKN-007処置神経膠腫担持ラット(p<0.05)で有意に低かった。
【0141】
高グレード神経膠腫中のLBPの免疫組織化学レベル(図11A)は、低グレード神経膠腫(図11B)と比較して、高グレード神経膠腫中のLBP(図11C)の有意な増加を示す。LBPは、未処置腫瘍と比較して、腫瘍組織(左グラフ)及び血清(右グラフ)中のヌードマウスのG55ヒトGBMV異種移植において、OKN-007またはOKN-007+TMZ併用処置によって有意に低下することが分かった。図12
【0142】
結論
併用療法(OKN-007+TMZ)は、動物生存率の増加、腫瘍体積の減少、rCBF変化の減少、並びに腫瘍組織及び血清の両方におけるLBPレベルの減少において全体的に好ましい応答をするようであった。動物の数の増加は、3つの処置群(TMZのみ、OKN-007のみ、及び併用療法)と比較した場合、動物生存率、腫瘍体積、及びrCBFの変化に有意差を示す可能性がある。別のTMZ耐性モデル(別のTMZ耐性GBM細胞株の異種移植モデル、またはTMZ処置に失敗した患者からのGBM細胞を用いた患者由来異種移植モデルのいずれか)における研究を実施することも有利であろう。結論として、OKN-007及びTMZの併用治療が、TMZまたはOKN-007単一治療のいずれかと比較して、全体的な改善を示し、臨床調査を考慮すべきであることをデータは支持している。しかしながら、刊行物に関する他の癌研究者らを納得させるために、動物の数の増加は、おそらく、別の異種移植モデルを用いて、全体的な結果を強化するであろう。
【0143】
実施例4-物質及び方法
インビボ研究
マウス及び処置。動物研究は、OMRF IACUC(研究機関内の動物の管理及び使用に関する委員会)の方針に従って実施し、NIHガイドラインに従うものである。F98ラット神経膠腫細胞移植モデルの場合、F98細胞(10-μl体積中で10個)を、合計で15匹のFischer 344ラット(雄200~250gm)において定位装置(2mm側方及び2mm前頭からブレグマ、3mmの深さで)で脳内に移植した。腫瘍が10~20mm体積に到達すると(MRIによって決定されるように)、動物を2つの群に分割した:OKN-007処置(n=8)及び未処置(UT)(n=7)群。腫瘍が200~250mm体積に到達するまで、または合計で4~6週間、ラットを処置した。G55 GBM細胞移植モデルの場合、2ヵ月齢の雄ヌードマウス(Hsd:無胸腺ヌード-Foxn1nuマウス;Harlan Inc.,Indianapolis、IN)に、1%アガロース溶液の4μL細胞培地中に懸濁したヒトG55異種移植細胞(1×10)/mLを脳内に移植した。腫瘍が10~15mm(MRIを介して決定)に到達すると、飲み水中のOKN-007(20gマウスに対して150mg/kg;0.20%w/v)またはTMZ(30mg/kg)で3日ごとにマウスを処置した。OKN-007を水中に溶解し、2日ごとに作製した。水筒を秤量し、マウス1匹あたりで消費されたOKN-007の量を決定した。これらのマウスにおけるOKN-007の液体取り込みの体積において著しい逸脱は観察されなかった。OKN-007の平均取り込みは、おおよそ140~150mg/kg/日/マウスであった。TMZは、滅菌生理食塩水中の5%DMSO及び5%ソルトール-15で溶解し、強制飼養を介して投与した。腫瘍が100~150mmに到達するまで、または合計で4~6週間、マウスを処置した。全ての群を層別にして、処置開始前に腫瘍サイズが確実に類似するようにした。
【0144】
核磁気共鳴画像法(MRI)。MRI実験は、Bruker Bio-spec 7.0 Tesla/30-cm水平ボア磁気撮像システムで行った。1.5~2.5%イソフルラン及び0.8L/分のOを用いて動物を固定化し、信号伝送用の72-mm直交体積コイルに置き、表面ラットヘッドまたはマウスヘッドコイルのいずれかを信号受信に使用した。T2-重み付けされた形態学的イメージングを、スライス厚:0.5mm、FOV:ラットに対して4×5cmまたはマウスに対して2×2cm、適切な面内解像度:ラットに対して150μm及びマウスに対して80μm、反復時間(TR):3000ms及びエコー時間(TE):63ms、総獲得時間:13分で得た。Amira v5.6.0(FEI)を用いて、3D MRIスライスをレンダリングしたMRIデータセットから腫瘍体積を計算した(Zhao et al.,2018;Tang et al.,2011;Tang et al.,2016)。
【0145】
灌流イメージング。腫瘍毛細管に関連する微小血管の変化を評価するために、灌流イメージング法である動脈スピン標識法(ASL)を上述のように使用した(Ziegler et al.,2017)。腫瘍が最も大きい断面である前後軸の点に位置する脳の単一軸のスライスで灌流マップを得た。5つの関心領域(ROI)の輪郭を腫瘍の周りに手作業で描き、適切なROIを、比較のために脳の対側からも撮影した。rCBF値の差を計算するため、後期(未処置マウスに対して細胞の脳内移植後18~26日目)及び早期(細胞移植後10~13日目)の腫瘍ステージで腫瘍のrCBF値を得て、対応する動物の対側脳領域におけるrCBF値に正規化した。腫瘍体積は、形態学的画像データセットから転置した。
【0146】
RNA単離及び調製。ラットF98神経膠腫研究では、全てのラットを最後のMRI検査後に安楽死させた。各動物の脳を除去し、液体窒素で急速凍結し、-80℃の冷凍庫で保存した。全ての処置群からの全ての腫瘍組織由来の総RNAをRNeasyミニキット(Qiagen)で精製し、分光測光法(Nanodrop)で定量化した。SuperScript IV逆転写酵素キット(Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。
【0147】
マイクロアレイ解析。Illumina TotalPrep(商標)RNA増幅キットを用いて、cRNA(Ambion、Austin、TX)を上述のように標識した(Griffitts et al.,2009)。4×4の処置/未処置試料を、Affymetrix RaGene-1_0-st-v1マイクロアレイを用いてプロファイルした。エクソン-レベル-集計測定値を分位数標準化し、偽発見率(FDR):<40%、及び倍率変化:<1.5で、マイクロアレイ(SAM、[PMID:11309499])の有意性分析を用いて、差次的発現を研究した。Ingenuity Pathways Analysis(IPA)(Ingenuity(登録商標)Systems、ingenuity.comのワールドワイドウェブ)を用いて、機能的強化解析を行った。
【0148】
組織学及び免疫組織化学(IHC)。全てのラットを最後のMRI検査後に安楽死させた。灌流固定(10%中性緩衝ホルマリンを尾静脈注射を介して投与した)を麻酔(イソフルラン)マウスに使用して、各動物の全脳を除去し、10%中性緩衝ホルマリンにさらに保存して、規定通りに処理した。パラフィン包埋組織を5μmの切片に切り分け、super frost plus(登録商標)ガラススライド上に載置し、ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)で染色し、光学顕微鏡検査で調べた。免疫組織化学(IHC)を行い、組織試料を抗TGFβ1抗体(ウサギ抗TGFβ1、カタログ番号250876、1 mg/mL、ABBIOTEC、San Diego、CA)で染色することによってTGFβ1レベルを確立した。TGFβ1 IHCについては、切片を、炊飯器で20分間、抗原賦活液(クエン酸緩衝液、pH6、Vector Laboratories、Burlingame CA)中でインキュベートした後、脱イオン水で20分間冷却した。
【0149】
統計解析。生存率曲線は、カプラン-マイヤー曲線を用いて解析した。腫瘍体積、正規化rCBFの変化、及び腫瘍血液量を2元配置分散分析によって解析、比較して、多重比較を行った。データは、平均±SDとして表され、0.05、**0.01、***0.001、及び****0.0001のいずれかのP値は、統計的に有意であると見なした。マイクロアレイデータについては、遺伝子ごとのランダム分散t統計値を使用した(Wright及びSimon、2003)。
【0150】
インビトロ研究
細胞及び培地。ほとんどのGBM細胞は、American Tissue Culture Collection(ATCC;Manassas,VA,USA)から得た(U-138-ATCC(CRL-HTB-16)膠芽腫;LN-18-ATCC(CRL-2610)膠芽腫;LN-229-ATCC(CRL-2611)膠芽腫;及び T-98G-ATCC-(CRL-1690)。U-251 GBM細胞は、Sigma-Aldrichから得た(N#09063001:U-373 MG(ATCC(登録商標)HTB-17)としても以前に知られる)。G55細胞は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の居住者であったMichael Sughrue博士から得た(元々は、細胞を特徴付けたC.David James(Department of Neurological Surgery,UCSF,CA,USA)から得た)。
【0151】
細胞は、10%ウシ胎児血清(Gibco)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Gibco BRL,Crand Island,NY,USA)中で、標準加湿インキュベーター内で、37℃、5% COにて培養した。
【0152】
IC50濃度-TMZ感受性判断用のプロトコル。6つの神経膠腫細胞株のTMZに対する感受性は、未処置対照と比較して、50%成長阻害に必要な濃度(IC50;GI50としても知られる)から評価した(Wang et al.,2017)。簡単に言えば、細胞を、24ウェル平底プレート中に1×10個の細胞/ウェルで播き、培地で24時間インキュベートした。その後、細胞を培地で2回洗浄し、0.1~1,000μMのTMZを含む新鮮な培地(対照)または培地でさらにインキュベートした。成長培地を+/-TMZと共に含む各プレートにおいて、1mMのOKNを含む培地を持つプレートが1つあった。様々な濃度のTMZに72時間暴露した後、細胞をトリプシン処理で分離し、その数を数えた。実験は、各濃度で少なくとも4回繰り返した。
【0153】
RNA調製。実験的に測定された発現パターンにおいて人工供給源からの寄与を回避するため、各細胞株を4個の独立した培養で増殖させ、全プロセスを、各培養から抽出したmRNAで独立して実行した。
【0154】
細胞株LN-18及びLN-229に、4群(細胞、細胞とTMZ、細胞とTMZ-OKN併用療法、細胞とOKN)の遺伝子発現プロファイルの評価を施した。抽出した総RNAをRNeasyミニキット(Qiagen)で精製し、分光測光法(Nanodrop)で定量化した。
【0155】
HIF-1a、MPG及びMGMTのリアルタイム定量RT-PCRによるmRNAの定量化。全ての処理による全ての細胞株からの総RNAをRNeasyミニキット(Qiagen)で精製し、分光測光法(Nanodrop)で定量化した。SuperScript IV逆転写酵素キット(Invitrogen)を用いて、cDNAを合成した。
【0156】
標的遺伝子mRNAを増幅し、Bio-Rad CFX96(商標)リアルタイムシステムで測定した。遺伝子発現は、SYBR Select Master Mix(Applied Biosystems)を用いて決定した。PCR生成物の濃度に比例する蛍光シグナルは、各サイクルの終わりに測定し、コンピュータースクリーン上に直ちに表示して、PCRのリアルタイムモニタリングを可能にした。反応物は、固定数のサイクル後に蓄積したPCR生成物の量ではなく、PCR生成物の増幅を最初に検出したサイクル中のポイントで特徴付けた。テンプレートの開始量が高いほど、蛍光の有意な増加がより早く観察される。閾値サイクルは、蛍光が、ベースラインを上回る固定閾値を超える分画サイクル数として定義される。蛍光データをサイクル閾値測定値に変換し、マイクロソフトエクセルにエクスポートした。グリセルアルデヒド-3-ホスファターゼデヒドロゲナーゼ(GAPDH)mRNA発現レベルは、定量内部対照として使用した。正確な定量化のため、各試料のmRNA発現レベルは、GAPDH遺伝子の発現を用いて正規化した。
【0157】
全てのプライマーは、Integrated DNA Technologiesによって合成した。使用したプライマーは、
であった。MGMTの場合には、
を使用して、MPGの603-bp転写物を増幅した[9]。
【0158】
HIF-1a、MPG及びMGMTのELISA。タンパク質発現は、4つ全ての処置群(細胞のみ、細胞とTMZ、細胞とOKN、細胞とOKN及びTMZ併用)の6つ全ての神経膠腫細胞株で評価した。細胞を溶解して、アッセイした。簡単に言えば、細胞を冷却PBSで穏やかに洗浄した後、トリプシンで分離し、1,000×gで5分間遠心分離によって回収した。その後、細胞を冷却PBS中で3回洗浄した後、新鮮な溶解バッファー中に懸濁させた。溶解物を1,500×gで10分間2~8℃で遠心分離し、細胞残屑を除去した。
【0159】
アッセイは、サンドイッチELISAの原理に基づく。供給されたマイクロタイタープレートの各ウェルを標的特異的捕捉抗体でプレコートした。標準または試料をウェルに加え、標的抗原を捕捉抗体に結合させる。非結合標準または試料を洗い流す。その後、ビオチン結合検出抗体を加え、捕捉抗原に結合させる。非結合検出抗体を洗い流す。その後、アビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合体を加え、ビオチンに結合させる。非結合アビジン-HRP複合体を洗い流す。その後、TMB基質を加え、HRP酵素と反応させて、発色をもたらす。硫酸停止液を加えて、発色反応を停止させた後、ウェルの光学密度(OD)を450nm±2nmの波長で測定する。その後、その抗原濃度を決定するために、未知の試料のODを、既知の抗原濃度を用いて生成したOD標準曲線と比較することができる。
【0160】
その後、群間を比較するために、ELISAから決定した抗原濃度を、各細胞溶解物の総タンパク質濃度に対して正規化した。N-メチルプリンDNAグリコシラーゼ(MPG)及び低酸素誘導因子1α(HIF1α)のELISAキットは、CLOUD-CLONE CORP.(CCC)から購入し、ヒトMGMTのELISAキットは、LifeSpan Biosciences,Inc.から購入した。
【0161】
RNAシークエンシング。RNAシークエンシング分析の前に、品質管理対策を実施した。RNAの濃度は、Thermo Fisher Qubit蛍光光度計による蛍光分析を介して確認した。RNAの全体的な品質は、Agilent Tapestation機器を用いて確認した。最初のQC工程後、製造者プロトコルに従って、Lexogen Quantseq FWDライブラリー調製キットを用いて、シークエンシングライブラリーを生成した。簡単に言えば、第一ストランドcDNAは、5’-標識 ポリ-Tオリゴマープライマーを用いて生成した。RNase消化後、第二ストランドcDNAは、5’-標識ランダムプライマーを用いて生成した。追加のプライマーによる次のPCR工程は、完全なアダプターシーケンスを初期5’標識に加え、試料の逆多重化のための一意のインデックスを加え、ライブラリーを増幅した。試料ごとの最終ライブラリーの適切なサイズ及び量に関して、Agilent Tapestation上でアッセイした。その後、蛍光分析を介して確認したように、これらのライブラリーを等モル量でプールした。最終プールは、Roche LightCycler 480機器上のqPCRを用いて、Kapa Biosystems Illuminaライブラリー定量試薬により絶対定量した。シークエンシングは、Illumina Nextseq 500機器で行い、高出力ケミストリー及び75bpシングルエンド読み取りを行った。
【0162】
生のシークエンシングファイルは、ポリA尾部のbbduk(Kmersを用いた汚染除去)(Bushnell,2014)トリミング、及びアダプターシーケンスで処理した。Fastqc(Andrews,2010)及びmultiQC(Ewels et al.,2016)を使用して、得られたfastqファイルの品質をチェックした。33~36の高品質スコア(phredスコア)が、全ての試料に存在し、各々は、930万+/-130万の読み取りであった。その後、各パッケージからのロバスト応答を分析するために、GRCh38ゲノムに対してTophat2(Trapnell et al.,2009)と一列に整列させた、分類されたbamファイルを、並列で2つの別々のパイプラインで提供した。計数及び示差遺伝子発現は、‘GenomicAlignments’function‘summarizeOverlaps’及び負の二項一般化線形モデリングパッケージDESeq2を用いて、Rで得られた(Love et al.,2014)。
【0163】
細胞遊走。遊走研究については、PDMS(ポリジメチルシロキサン)マイクロチャネルを内部に備える6ウェルチャンバーの各ウェルを、10μg/mlのラミニン(Sigma-Aldrich)で被覆した。G55細胞を100μl中で播種(50×10個)し、各ウェルに2mlの培地を補充した。チャンバーを、予定した時点まで、インキュベーター内で37℃、5%COでインキュベートした。いくつかのチャンバーを、OKN-007、TMZ、またはTMZと併用したOKN-007(OKN-007及びTMZの両方、並びに2つを併用した場合、1μL/mLの培地)で処理し、処置群ごとに、1つのウェルを対照として未処置のままにした。マイクロチャネル内の細胞の画像は、10×のオリンパスCK40倒立顕微鏡(日本)を用いて撮影し、遊走した同じ細胞の距離を、播種後の22時間、28時間、及び46時間で測定し、細胞遊走速度(μm/h)を計算した。各処理を少なくとも3回繰り返し、データを平均±S.Dとして示す。
【0164】
統計解析。RT-PCR遺伝子及びELISAタンパク質レベル、及び細胞遊走を2元配置分散分析によって解析、比較して、多重比較を行った。RNAシークエンシングデータは、DESeq2が提供したBenjamini-Hochberg FDR値からのFDR<0.05を用いて分析した(Love et al.,2014;Benjamini及びHochberg,1995;Robinson et al.,2010)。データは、平均±SDとして表され、0.05、**0.01、***0.001、及び****0.0001のいずれかのP値は、統計的に有意であると見なした。
【0165】
実施例5-結果
インビボG55同所異種移植GBMモデル。動物生存率データは、併用療法(OKN-007+TMZ)処置マウスの60%が、腫瘍の検出後に60日生き残り、50日を超えて処置されたことを示した(図13A)。OKN-007処置マウスの1匹(処置マウスの20%)もまた、腫瘍の検出後に60日生存した。統計解析は、全ての処置マウス(OKN-007のみ、TMZのみ、または併用療法のいずれか)が、未処置(UT)G55神経膠腫担持マウスと比較した場合、生存率が有意に減少したことが分かったことを示した。併用療法マウスが、TMZ処置マウスよりも有意に長い生存率であったことも分かった。OKN-007処置マウスと併用療法マウスとの間に有意性はなかった。
【0166】
UTマウスを安楽死させた時と同じ時点で、すなわち、腫瘍体積が150mm以上に到達した時(腫瘍の検出後の19~22日目に)と同じ時点で、並びに処置群ごとの最後の時点で腫瘍体積を比較した。腫瘍の検出後の19~22日目に、TMZ、OKN-007、または併用療法のいずれかで処置したマウスは全て、UTマウスと比較した場合、腫瘍体積が有意に減少したことを分かった(図13B)。処置マウスが1匹も腫瘍体積において互いに有意に異ならないことが分かったが、しかしながら、併用療法は、TMZ-またはOKN-007処置マウスのいずれかと比較した場合、腫瘍体積平均が最も小さかった。腫瘍(中腫瘍領域)を示す代表的なMR画像もまた、調査した処置群ごとに示す(図14)。
【0167】
正規化された腫瘍rCBFの差は、UTマウスと比較して、全ての処置マウスで有意に減少することが分かった(図15E)。1群あたりの動物の数が少ないため、処置群間の有意差はなかった、しかしながら、併用療法及びOKN-007-処置群の両方は、TMZ処置と比較して、腫瘍においてより正規化された灌流量を有するようであった。代表的な形態学的MR画像(図15-Di)及びそれらの対応する灌流マップ(図15A~Dii)を処置群ごとに示す。
【0168】
インビトロGBM細胞研究。インビトロGBM細胞成長曲線に由来。ほとんどの細胞が100μM以下のTMZ濃度で50%超殺傷されるTMZ感受性細胞(U251、LN229)から確立した(表4)。TMZ耐性GBM細胞(T98、LN18、U138、G55)に関して、併用療法の効果は、100μM未満のTMZ濃度で実質的であった。併用療法の効果は、有意であった。
【0169】
(表4)TMZのみ(0、0.1、1、10、100または1000μM)またはOKN(1mM)を併用したTMZのいずれかで処置したヒトGBM細胞のIC50
【0170】
1mM OKNの濃度は、いくつかの細胞(LN229、U138、G55)に対して2mM濃度と比較して、細胞生存率の低下に同様に効果的であることが分かった。他の細胞(U251、T98、LN18)では、2mM OKNは、1mM濃度と比較して、細胞生存率の低下に僅かにより効果的であることが分かった。
【0171】
HIF-1α、MGMT及びMPG。RT-PCR(表5)は、HIF-1α遺伝子発現比が、全てのTMZ処置及びOKN-007+TMZ処理細胞中で増加したことを示した。OKN-007は、遺伝子発現比を減少させたT98細胞を除いて、全ての細胞中でHIF-1α遺伝子発現比を増加させた。MGMT遺伝子発現比は、TMZまたはOKN-007のいずれかで処置されたLN18細胞中で減少する。OKN-007は、T98細胞中でMGMT遺伝子発現比を減少させた。MGMT遺伝子発現比は、TMZ、OKN-007または併用処置のいずれかの後に、U251細胞中で増加する。MGMT遺伝子発現比は、LN18併用処置で僅かに増加する。MPG遺伝子発現比は、TMZ処置後にほとんどの細胞で、OKN-007処置G55及びU138細胞で、及びOKN-007+TMZで併用処置したG55、LN18及びU138細胞中で増加した。OKN-007処置したLN18、T98、U251及びLN229細胞、及びOKN-007+TMZで処置したT98及びLN229細胞において、MPG遺伝子発現比の減少があった。
【0172】
(表5)TMZ、OKNまたは併用OKN+TMZのいずれかで処置した、または未処置(UT)のTMZ耐性及びTMZ感受性ヒトGBM細胞における、HIF-1α、MGMT及びMPGのRT-PCR遺伝子発現比
細胞処置群ごとにN=2。
【0173】
ELISAで確立されたタンパク質レベル(表6)は、HIF-1αが、TMZまたは併用療法で処置したほとんどの細胞中で上昇したことを示した。OKN-007は、U138細胞中で僅かにHIF-1αレベルが減少した一方、全ての他の細胞では、このタンパク質は、この処置群で僅かに上昇した。MGMTは、TMZまたは併用療法で処置したG55、T98及びU251細胞中で上昇した。OKN-007は、G55及びLN18細胞中でMGMTを僅かに減少させた。MPGは、TMZまたはTMZと組み合わせたOKN-007で処置したU251細胞で主に上昇のみがみられた。OKN-007は、LN229細胞中でMPGレベルを減少させた。
【0174】
(表6)TMZ、OKNまたは併用OKN+TMZのいずれかで処置した、または未処置(UT)のTMZ耐性及びTMZ感受性ヒトGBM細胞における、HIF-1α、MGMT及びMPGのELISAタンパク質レベル(ng/mg細胞溶解物)変化
細胞処置群ごとにN=4。
【0175】
RNAシークエンシングデータ。図17は、LN18細胞が、37個のアップレギュレート遺伝子を有し、3個の遺伝子が、TMZのみの群と比較して、TMZ+OKN群でダウンレギュレートしたことを示す。試料25に関して、遺伝子は、この列で全てアップレギュレートされるようである。これは、他の併用OKN+TMZ LN18試料とは異なる閾値で設定されるようである。閾値が低下する場合には、パターンは、26または28列(他のOKN-007+TMZ併用処置LN18細胞)のものと同様になる。
【0176】
図16は、LN18細胞が、37個のアップレギュレート遺伝子を有し、3個の遺伝子が、TMZのみの群と比較して、TMZ+OKN群でダウンレギュレートしたことを示す。試料25に関して、遺伝子は、この列で全てアップレギュレートされるようである。これは、他の併用OKN+TMZ LN18試料とは異なる閾値で設定されるようである。閾値が低下する場合には、パターンは、26または28列(他のOKN-007+TMZ併用処置LN18細胞)のものと同様になる。図17は、LN229細胞が、21個のアップレギュレート遺伝子を有し、19個の遺伝子が、TMZのみの群と比較して、TMZ+OKN群でダウンレギュレートしたことを示す。
【0177】
インビトロ細胞遊走研究。G55 GBM細胞遊走研究は、OKN処理細胞の細胞遊走速度が、未処置(UT)細胞と比較して、処置後22時間及び46時間で有意に減少したことを示した。TMZで処置した細胞は、UT細胞と比較して、処置後28時間及び46時間で有意に減少したことが分かった。OKN+TMZ併用処置は、TMZのみと比較して、処置後22時間及び28時間で細胞遊走を有意に減少させたことも分かった。
【0178】
UTまたはOKN-007で処置したラットF98神経膠腫からのマイクロアレイデータ。マイクロアレイ解析は、OKN処置後に遺伝子の顕著なダウンレギュレーションを特定した。384個の遺伝子が、有意にダウンレギュレートされた少なくとも1つのエクソンを有する一方、3個のみが、アップレギュレートされた(データ不図示)。パスウェイ解析は、OKN処置F98腫瘍が、細胞外マトリックス(ECM)と関連するいくつかの遺伝子(例えば、コラーゲン及びMMP遺伝子)をダウンレギュレートし、それらが全て、TGFβ1に連結していたことを示した。
【0179】
RT-PCRは、いくつかのECM遺伝子が、UT F98腫瘍と比較して、OKN処置でダウンレギュレートされたことを確認することができた(表7)。
【0180】
(表7)遺伝子発現が2、5、または10倍以上に変化した、F98未処置及びOKN-007処置腫瘍から単離したRNAのRT-PCR
【0181】
上流調整因子分析は、最も有意に阻害された上流調整因子としてTGFβ1を特定し、これは、57個のダウンレギュレート遺伝子を制御した(図20)。TGFβ1は、それ自体ほぼ2倍にダウンレギュレートされた。
【0182】
免疫組織化学は、TGFβ1タンパク質レベルが、UT腫瘍と比較して、OKN処置F98神経膠腫で実質的に低下したことを示した(図21A~B)。ELISAを用いて、TGFβ1タンパク質レベルの減少も確認され、UT腫瘍と比較して、OKN処置F98神経膠腫におけるTGFβ1タンパク質発現レベルの有意の減少(p<0.001)が示された(図21C)。
【0183】
実施例6-考察
本発明者らは、TMZと組み合わせた場合、OKN-007が、TMZ感受性GBM細胞におけるTMZの効果を増強し、並びにTMZ耐性GBM細胞をTMZに対してより感受性にさせて、及び/または腫瘍細胞成長に対するOKN-007の効果を増強できることを確立できた。本発明者らは、OKN-007それ自体が、TGF-β1を介して、細胞外マトリックスと関連するいくつかの遺伝子をダウンレギュレートし、細胞遊走に対して効果的になることもできることを確立できた。本発明者らは、OKN-007が、細胞増殖を効果的に阻害し、両方とも血管新生と関連するHIF-1α及びVEGFR2を減少させ、及びアポトーシスを増加させることができることを以前に発見している。
【0184】
OKN-007をTMZと組み合わせる場合、組み合わせは、TMZ感受性及びTMZ耐性GBM細胞の両方に対してインビトロで効果的で、腫瘍体積を相乗的に減少させ、並びにG55同所異種移植GBMモデルにおける動物生存率及び正常な血管新生をインビボで増加させることができる。
【0185】
最近調査された他のTMZ併用療法には、ヘッジホッグシグナル伝達と関連し、かつ、神経膠腫様幹細胞(U87-MG、T98G)に特異的に影響を及ぼすGLI1のサイレンシング(Melamed et al.,2018);アルデヒドデヒドロゲナーゼアイソフォーム3A1(ALDH3A1)発現をダウンレギュレートするWnt/β-カテニンシグナル伝達の阻害(Suwala et al.,2018);miR-519a模倣体の使用(ここで、miR-519aは、シグナル伝達兼転写活性化因子3(STAT3)介在性オートファジーを標的化して、TMZ誘導性オートファジー(U87-MG/TMZ)を促進することで、腫瘍抑制因子として機能する)(Li et al.,2018);GBM細胞をTMZに対して感受性にさせるためのPI3Kの阻害(Haas et al.,2018);TMZ感受性を増強するためのSOX9/CA9(炭酸脱水酵素9)介在性発がん経路の阻害(Xu et al.,2018);及びポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ポリ(エチレンイミン)(PEI)及びポリ(エチレングリコール)(PEG)ナノキャリア構築物の葉酸共役トリブロック共重合体(Fa-PEG-PEI-PCL、Fa-PEC)を用いて、BCL-2遺伝子を標的化するTMZ及びsiRNAの共送達(Peng et al.,2018)が含まれる。TMZと組み合わせた全ての療法のいずれかを使用して、TMZの効果を増強する、及び/またはTMZ耐性GBM細胞に影響を及ぼす。
【0186】
研究のIC50成分に関して、全細胞に対して、OKN-007は、TMZ IC50濃度の低下に実質的な効果を有したため、GBM細胞は全て、TMZ感受性(または、すでにそうであった場合には、よりTMZ感受性)になった。G55細胞によるTMZ耐性の評価に関して注意すべき点がある。本発明者らは、低継代G55細胞株が実際にTMZ耐性である一方、高継代G55(30回を超える継代)がTMZ感受性になり得ること確立した。インビボG55異種移植データに関して、本発明者らは、低継代G55細胞株(10回未満の継代)を使用し、これは、本発明者らのインビトロ研究で使用したものと同様の継代であった。
【0187】
様々な濃度のOKN-007から、1mM濃度のOKNが、いくつかの細胞株(例えば、LN229、U138、G55)の2mM濃度と比較して、細胞生存率の低下に同様に効果的であった一方、他の細胞株(例えば、U251、T98、LN18)に関して、2mM OKNは、1mM濃度と比較して、細胞生存率の低下に僅かにより効果的であったと結論付けた。
【0188】
タンパク質レベルは、TMZが、全ての細胞中でHIF-1αを上昇させ、ほとんどの細胞(LN229を除く)中でMGMTを上昇させ、T98及びU251細胞中のみでMPGを上昇させることを示すようである。ほとんどの細胞に対するOKN-007は、(未処置細胞と比較して)HIF-1αタンパク質に影響を与えないようであり、OKN-007はそれ自体、(未処置細胞と比較して;LN18を除く)MGMTのタンパク質レベルに影響を与えないようであり、及びMPGは、OKN処置のみによってT98細胞中でまだ上昇する。興味深いことに、HIF-1aは、U251、U138、及びT98細胞中でTMZによって誘発された後、OKN-007によって減少した。併用TMZ+OKNは、(U138細胞を除いて)HIF-1αを上昇させ続けるようであり、MGMTタンパク質レベルは、TMZ+OKN併用処置で実質的に変化せず、及びMPGは、TMZ+OKN併用処置によりU251細胞中でまだ上昇する一方、他の細胞は、(TMZ、OKNまたはTMZ+OKN併用処置のいずれかから)実質的に影響を受けない。具体的には、U251、T98、及びG55細胞中で、MGMTのレベルは、TMZにより増加したが、OKN-007の処置は、MGMTの発現を阻害しなかった。
【0189】
遺伝子レベルで、TMZ処理細胞に関して、HIF-1α遺伝子発現比は、(未処置細胞と比較して)全ての細胞で増加する。TMZ+OKN併用処置は、いくつかの細胞(例えば、LN229、LN18、U138及びG55)中で、TMZのみよりもHIF-1α遺伝子発現比の増加をもたらすが、全体的に、併用療法によるHIF-1αに対する任意の大幅な減少効果はないようである。T98中で併用療法によるHIF-1α遺伝子発現の低下が注目されるが、有意ではなかった。OKNのみは、未処置細胞と比較して、T98 GBM細胞中のHIF-1α遺伝子発現比のみを減少させるようである。U138及びU251に対するOKN処置のHIF-1α遺伝子発現比は、(未処置細胞と比較して)まだ増加するようである。タンパク質レベルとは異なり、OKN-007によるHIF-1αの減少は、遺伝子レベルではない。T98細胞中でのみOKN-007の減少効果があった。HIF-1α遺伝子発現比は、細胞中の正常酸素状態と比較して、腫瘍(インビボ)中などのより低酸素の環境で異なり得る。
【0190】
3つのみの細胞株(U251、T98、LN18)中で、TMZのみまたはTMZ+OKN併用に対するMGMT遺伝子発現比の僅かな増加のみがあり、これは検出可能なレベルであった。OKN処置のみで、U251細胞中でMGMT遺伝子発現比を僅かに増加させたが、(未処置細胞と比較して)LN18及びT98細胞中でMGMT遺伝子発現比を逆に減少させた。OKNに関して、これらの結果は、OKNのみで、MGMT遺伝子発現を減少させて、GBM細胞に対する耐性を低下させることができることを示し得る。
【0191】
TMZ処置細胞中のMPG遺伝子発現比は、(タンパク質レベルとは異なり)3つの細胞株(G55、LN18及びU138)中で2倍超に上昇した。併用療法により、4つの細胞株(G55、LN229、LN18及びU138)中で、(未処置細胞と比較して)MPG遺伝子発現比が上昇した。興味深いことに、OKN処置のみは、(未処置細胞と比較して)2つの細胞株(G55及びU138)のMPG遺伝子発現比を上昇させ続け、2つの他の細胞株(LN18、T98)のMPG遺伝子発現比をいくらか減少させた。OKN-007によるMGTの減少は観察されなかった。
【0192】
LN18 GBM細胞のRNAシークエンシングデータから、興味深いアップレギュレート遺伝子は、RNF149(p53応答を増幅し、細胞周期を停止させるストレスセンサー遺伝子)、IDO-1(ヒト神経膠腫に関与する)、及びSLC14a2(STAT3の活性化を負に調節するmTORC2(UT2)の上流の内因性膜貫通タンパク質)である。興味深いダウンレギュレート遺伝子には、SUMO2(脳虚血及び低酸素症などの状態におけるSUMOの過剰発現は、細胞生存率を増加させることができた一方、SUMO発現のノックダウンは、細胞に毒性であることが証明され;耐性神経膠腫細胞中で、TGFβ1と関連する)(Yoshino et al.,2010)、HIST1H1C/H1.2(ヒストンHIST1H1Cのノックダウンは、高グルコース誘発炎症及び細胞毒性を阻害する)、及びPFN1(プロファイリング-1リン酸化は、ヒト神経膠腫における腫瘍攻撃性と関連する)(Liu et al.,2012)が含まれる。
【0193】
LN229細胞のRNAシークエンシングデータから、興味深いダウンレギュレート遺伝子は、EGR1(腫瘍がER陽性及びHER2陽性である患者の無病生存期間の減少と関連する;IGF1Rシグナル伝達経路は、薬物耐性に非常に関連する)、XIST(生存率低下及び予後不良と関連するレベルの増加)、及びPRKDC(乳癌患者における化学療法抵抗性の予後バイオマーカー)である。興味深いアップレギュレート遺伝子には、ZC3H12A(炎症の重要な負の調節因子)、RN7SK(潜在的な抗増殖及び腫瘍抑制機能)、SUN-2、及びKLHL21が含まれる。
【0194】
さらなるバイオインフォマティクス分析から、FOSは、最もロバストなダウンレギュレーションを有し、これは、全ての細胞株、及び全ての治療条件TMZ、OKN、及びTMZ+OKNにわたって、並びにデータを各治療条件に分けるかまたは細胞株を分ける場合に、OKN効果として観察することができる。FOSは、細胞生存率を減少させて、かつ、放射線を介して、膠芽腫をDNA損傷に感受性にさせるのに十分であることも観察されているため、これは同様に、TMZがDNA損傷を引き起こすことに役立ち得る可能性がある(Liu et al.,2016)。
【0195】
MGMTは、しかしながら、LN229の条件の多くで有意に変化せず、log倍率変化は、約3であり、p値は、約0.057であった。
【0196】
TMZ耐性と関連し得、OKN+TMZ併用処置が影響を及ぼし得る他のMOAには、TGF-β1(Yoshino et al.,2010;Wang et al.,2017)、及びまた恐らくは、Akt(Fan et al.,2014)、及びマクロファージ(Zeng et al.,2017)が含まれる。OKNで処置したF98ラット神経膠腫の本発明者らのマイクロアレイ評価では、TGF-β1は、TGF-β1に一般的に連結する57個の遺伝子をダウンレギュレートすることによって、OKN有効性に対するMOAに大きな役割を果たした。恐らく、OKN+TMZ併用処置において、OKNは、TGF-β1に影響を及ぼし、TMZ耐性細胞への応答を誘発する。
【0197】
OKN-007処置対未処置ラットF98神経膠腫RNAのマイクロアレイ分析から、ダウンレギュレート遺伝子は、インテグリン及びコラーゲンファミリーのメンバーを主に含み、細胞外マトリックス1及び細胞接着で強化されることが確立された。OKN-007で処置した腫瘍組織の細胞生存率は減少した一方、細胞死は、ANGPT2、DLL4、HPX、IGF1及びTGFB1遺伝子のダウンレギュレーションを介して増加した。「血管新生」は、OKN-007処置試料中でも減少した。いくつかの免疫応答遺伝子は、特にダウンレギュレートされ、LBP(リポ多糖結合タンパク質)は、最もダウンレギュレートされた。
【0198】
最後のエクソンがダウンレギュレートされたTGFB1は、57個の遺伝子のマスターレギュレーターであった。それは、上述のほぼ全てのプロセスに関与し、そのようなものは、OKN-007によってダウンレギュレートされた主要な上流調整因子として考えられ得る。
【0199】
インテグリン及びコラーゲンに加えて、細胞外マトリックス糖タンパク質の注目すべき群があり、例えば、ルミカン(LUM)、フィブリリン1及び5(FBN1)、ラミニン(LAMA2)である。それらの全てはダウンレギュレートされるが、しかしながら、マトリックスメタロペプチダーゼ3(MMP3)、全ての上述のタンパク質を分解する酵素、ADAMTS9及びPRSS2、他のペプチダーゼもダウンレギュレートされる。悪性腫瘍の血管内皮細胞で発現されるが、正常な血管では発現されないCD248は、ダウンレギュレートされる。これは、細胞外マトリックス維持及び再構築が、未処置神経膠腫試料中で活性であり、OKN-007処置によって正常化されることを示唆している。
【0200】
他の機能の中で細胞接着及び遊走を調節する、TGFB1及びTGFベータタンパク質のメンバーであるLTBP2(潜在型形質転換成長因子ベータ結合タンパク質)もまた、ダウンレギュレートされる。同様に、POSTN(ペリオスチン)及びLUM(ルミカン)などの他の細胞接着関連分子もダウンレギュレートされる。F11r(F11受容体)、免疫グロブリンスーパーファミリー遺伝子メンバー(細胞接着、細胞-細胞相互作用、及びタイトジャンクションの形成に重要な調節因子である)もまた、ダウンレギュレートされる。まとめると、細胞接着がダウンレギュレートされることが暗示される。
【0201】
LBP(リポ多糖結合タンパク質)は、最も強くダウンレギュレートされた免疫関連遺伝子であり、そのエクソンの大部分は、ダウンレギュレートされる。この遺伝子は、グラム陰性8細菌感染に対する急性期免疫反応に関与する。DMBT1(悪性脳腫瘍1で欠失)は、腫瘍細胞と免疫系の相互作用に役割を果たす。サイトカイン受容体IL1R1、IL6及びIL31ARとヘテロ二量体化するオンコスタチンM受容体(OSMR)、インターフェロン(アルファ、ベータ、及びオメガ)受容体1(IFNAR1)、及びF11受容体は、全てダウンレギュレートされる。
【0202】
全体として、ダウンレギュレート遺伝子によって過剰呈示されるプロセスは、異常調節される未処置の神経膠腫試料とは対照的に、正常な状態に戻されるように思われる。例えば、単一エクソンCD248遺伝子は、悪性腫瘍(及びこの研究から未処置神経膠腫試料)で高発現される。CD248は、OKN-007処置試料でダウンレギュレートされ、腫瘍細胞が正常な状態に逆転されることを示唆している。
【0203】
神経膠腫は、侵襲性の高い腫瘍であるため、本発明者らはまた、マイクロ流体チャンバーを使用して、OKN-007が、細胞増殖、血管新生の増加及びアポトーシスの増加に役割を果たすだけでなく(Towner et al.,2013)、神経膠腫細胞遊走/浸潤の阻害にも役割を果たす(Szopa et al.,2017)かどうかを確認した。本発明者らは、OKN-007が、遊走速度を有意に低下させたことを示した。神経膠腫細胞浸潤は、神経膠腫細胞と、異なる下流遊走経路を刺激するフィブロネクチン、コラーゲンIV、テネイシン-C及びフィブロネクチンなどの細胞外マトリックス成分との相互作用に依存する(Demuth and Berens,2004)。
【0204】
TGF-β1は、TMZ耐性に主な役割を果たすため(Yoshino et al.,2010;Wang et al.,2017)、OKN-007は、TGF-β1を標的化することによって、TMZ耐性に実際に影響している可能性がある。LN18 RNAシークエンシングデータにおける追加のサポートデータは、TGF-β1 TMZ耐性と関連するSUMO2が、(TMZのみと比較して)OKNをTMZと組み合わせる場合にノックダウンされることも示す。
【0205】
インビトロOKN-007+TMZ併用処置研究に基づいて、今後の研究について、以下のバイオマーカー、HIF-1α、TGFβ1、c-FOS、PFN-1、SUMO2は全て、TMZと組み合わせた場合に、OKN-007が、TMZ耐性に相乗的に影響を与え得る役割に関与し得る、潜在的に重要な分子成分であるとして、さらに追及する必要がある。
【0206】
U251及びU87細胞株に関する先行研究では、組織培養から生成した遺伝子発現プロファイルが、皮下(s.c.)移植した腫瘍から生成したものと有意に異なり、これは、大脳内(i.c.)で増殖させたものと有意に異なったことに留意すべきである。i.c.遺伝子発現プロファイルと、s.c.異種移植から生成したものとの間の不均衡は、インビボの成長環境が遺伝子発現を改変する一方、同所性の成長条件が、異なるセットの改変を誘発することを示唆する(Camphausen et al.,2005)。これは、適切なモデルを用いて、腫瘍微小環境(TME)を正しく表することの重要性を暗示する。
【0207】
結論として、OKN-007は、細胞外マトリックス及び細胞浸潤と関連する重要な遺伝子のダウンレギュレーションを介して腫瘍原性TGFβ1経路を標的化することによってそのままで有効になる得るだけでなく、TMZ耐性GBM細胞/組織に対する効果も誘発し得る、興味深い抗神経膠腫剤である。OKN-007+TMZ併用処置と関連するMOAは、HIF-1α、MGMTまたはMPGにいずれかを介して発生するようではない。OKN-007自体は、これらの遺伝子のいくつか、及びGBM細胞のいくつかのタンパク質を減少させたが、大部分のGBM細胞は、OKN-007または併用処置群の両方で、影響を受けないまたはレベルが上昇した、のいずれかであった。RNAシークエンシング分析は、TMZと組み合わせた場合に、OKN-007が、TMZ耐性にどのように役割を果たし得るのかに関する他に考えられるMOAにいくつかの洞察を提供し、これらは、さらに追及する必要があろう。OKN-007とTMZの併用は、TMZ耐性GBM細胞が増殖することを防ぎ、恐らくは、TMZの効果を拡張し得る有望な治療戦略のようである。
【0208】
本明細書に開示し、特許請求する組成物及び方法は全て、本開示に照らせば過度の実験を行うことなく調製及び実行することができる。本発明の組成物及び方法を好ましい実施形態に関して記載してきたが、当業者であれば、本発明の概念、精神及び範囲から逸脱することなく、組成物及び方法並びに方法の段階または一連の段階において変更を適用することができることが明らかであると思われる。より具体的には、化学及び生理学両方の面で関連するある特定の物質を本明細書に記載の物質と置き換えてもよく、同じまたは類似の結果が得られることが明らかであると思われる。そのような当業者には明らかな類似の置換及び改変は全て、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神、範囲及び概念の範囲内であると思われる。
【0209】
引用文献
以下の引用文献は、それらが本明細書に示すものの補助となる例示的方法または他の詳細を提供する程度に、特に参照により本明細書に組み入れられる。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21