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特許7254782RAFT乳化重合による界面活性剤を含まないポリ(フッ化ビニリデン)ラテックスの合成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】RAFT乳化重合による界面活性剤を含まないポリ(フッ化ビニリデン)ラテックスの合成
(51)【国際特許分類】
   C08F 14/22 20060101AFI20230403BHJP
   C09D 127/16 20060101ALI20230403BHJP
   C09D 153/00 20060101ALI20230403BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
C08F14/22
C09D127/16
C09D153/00
C09D5/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020517113
(86)(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2018075677
(87)【国際公開番号】W WO2019063445
(87)【国際公開日】2019-04-04
【審査請求日】2021-08-04
(31)【優先権主張番号】1758966
(32)【優先日】2017-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】サミュエル・ドゥヴィスム
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・カーン
(72)【発明者】
【氏名】マテュー・フュアント-エスポーシト
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・マッケナ
(72)【発明者】
【氏名】フランク・ダゴスト
(72)【発明者】
【氏名】ミュリエル・ランサロ
(72)【発明者】
【氏名】アントニー・ボネ
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/093401(WO,A1)
【文献】特表2017-515948(JP,A)
【文献】特表2015-504960(JP,A)
【文献】特表2015-507037(JP,A)
【文献】特表2005-513252(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08F 2/00- 2/60
C08F301/00
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
C08G 65/00- 67/48
C08C 19/00- 19/44
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素化界面活性剤の非存在下での乳化重合により安定なフッ化ビニリデンポリマーラテックスを製造する方法であって、
a.PEG系の親水性マクロRAFTを用意して、第1の親水性ブロックを形成する工程と、
b.第1の親水性ブロック、開始剤、並びに任意選択により連鎖移動剤及び/又は防汚剤の存在下で、フッ化ビニリデンモノマーを単独で、又は少なくとも1つの他のエチレン性不飽和コモノマーと組み合わせて用いて、フッ化ビニリデンポリマーを合成し、かつ前記親水性ブロックを連鎖延長させて、第2の疎水性ブロックを形成し、乳化重合によりフッ化ビニリデンポリマー粒子を得る工程と
を含み、
前記親水性ブロック及び前記疎水性ブロックは、フッ化ビニリデンポリマー粒子に固定した両親媒性ブロックコポリマーを構成し、工程bにおける開始剤/前記マクロRAFTの質量比は1~4の範囲であり、
前記親水性ブロックが、キサンテートによるポリ(エチレングリコール)メチルエーテルのヒドロキシル官能基の修飾により合成され、以下の式
【化1】
(式中、R'はアルキル又はアリールであり、R"は-C(=O)-C(CH3)-であり、RはOH、O-アルキル、O-アリール、又はポリマーであり、nは繰り返し単位の数を表す)
を有する;又は
前記親水性ブロックが、ジヒドロキシポリ(エチレングリコール)のヒドロキシル官能基の修飾により得られる、各連鎖末端にキサンテート基を有するテレケリックポリ(エチレングリコール)であり、以下の式
【化2】
(式中、R'はアルキル又はアリールであり、R"は-C(=O)-C(CH3)-であり、nは繰り返し単位の数を表す)
を有する;又は
前記親水性ブロックが、キサンテートの存在下で重合性アクリレート部分を有するポリ(エチレングリコール)のRAFT重合により得られ、以下の式
【化3】
(式中、R'はアルキル又はアリールであり、RはOH、O-アルキル、O-アリール、又はポリマーであり、pは繰り返し単位の数を表す)を有する、方法。
【請求項2】
工程bで形成されるフッ化ビニリデンポリマーが、フッ化ビニリデンのホモポリマーと、フッ化ビニリデンを少なくとも50モルパーセント含み、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニル、ペンタフルオロプロペン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロプロピルビニルエーテル、(メタ)アクリル酸及びアルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジ-n-プロピル、マレイン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジ-2-メトキシエチル等のマレイン酸エステル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジ-n-プロピル、フマル酸ジイソプロピル等のフマル酸エステル、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、無水物、ビニルエステル、α-オレフィン、不飽和ジカルボン酸の置換又は非置換モノ及びジアルキルエステル、ビニル芳香族、並びに環状モノマー、から選択される少なくとも1つのエチレン性不飽和モノマーと共重合したコポリマーの両方を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記開始剤が、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、又は過硫酸アンモニウムから選択される過硫酸塩であって、反応混合物に加えられる過硫酸塩の量は、反応混合物に加えられるモノマーの総質量に対して、0.005~1.0質量%である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記開始剤が、アルキル、ジアルキル又はジアシルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート及びペルオキシエステルから選択される有機過酸化物であり、反応混合物に加えられるモノマーの総質量に対して0.5~2.5質量%の量で使用される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
フッ化ビニリデンポリマーのラテックス粒子が、20~300nmの間に含まれる平均粒径を有する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
フッ化ビニリデンポリマーのラテックス粒子が、1~60質量パーセントの固形分を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、その場形成された両親媒性ブロックコポリマーにより安定化された、フッ素化界面活性剤の非存在下での乳化重合により安定なフッ素化ラテックスを製造する方法に関する。本発明は、この方法により得られたフッ素化ポリマー鎖及び両親媒性ブロックコポリマーを含む水性分散体にも関する。
【0002】
本発明の別の態様は、膜、コーティング及びフィルムの調製用の水性PVDF分散体の用途である。
【背景技術】
【0003】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、コーティング用途において広く使用されているフッ素化ポリマーである。PVDFは耐候性があり、かつ持続可能な開発の観点から、特に魅力的な優れたエネルギー貯蔵能力を有する。
【0004】
フッ素化ラテックスは通常、低分子量フッ素化界面活性剤の使用に依存している。しかし、界面活性剤分子は、凍結又は高せん断を受けるラテックスの安定性に影響を与える可能性がある。界面活性剤分子はまた、フィルムが水又は高湿度に曝されると、フィルムの機械的特性に悪影響を与える可能性がある。加えて、環境中のフッ素化化学種の潜在的な放出は、これらの製品のよく知られた毒性のために、さらなる問題である。
【0005】
乳化重合及び分散重合におけるポリマー界面活性剤、特にブロックコポリマーの使用は、特に可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)技法を使用して形成されるブロックコポリマーについて周知である。
【0006】
重合誘起自己組織化(PISA)プロセスは、Fergusonらによる、Effective ab initio emulsion polymerization under RAFT control. Macromolecules、2002年、25、9243~9245頁において、最初に記載された。水溶性高分子RAFT剤(すなわち、チオカルボニル化連鎖末端を有し、RAFT重合を媒介することができる、マクロRAFTと呼ばれる水溶性鎖)は、水中で疎水性モノマーの重合を媒介するために使用される。マクロRAFTは、重合に関与することができる反応性の連鎖末端を有する。それにより、疎水性モノマーの乳化重合中に水溶性マクロRAFTを使用する場合、両親媒性ブロックコポリマーがその場形成され得る。疎水性ブロックが一定のモル質量に達すると、高分子鎖は水に不溶になり、自己集合してモノマーで膨潤した粒子になる。鎖の末端は、依然として反応性であり、疎水性ブロックの末端に位置し、重合は得られた自己安定化粒子の中心において継続する。このプロセスのおかげで、親水性部分は、界面活性剤を必要とせずに粒子に安定性を与える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Fergusonら、Effective ab initio emulsion polymerization under RAFT control. Macromolecules、2002年、25、9243~9245頁
【文献】Binauld S.ら、「Emulsion Polymerization of Vinyl Acetate in the Presence of Different Hydrophilic Polymers Obtained by RAFT/MADIX」、Macromolecules、2014年、47 (10)、3461~3472頁
【文献】Lipscomb CE及びMahanthappa MKによる「Microphase Separation Mode-Dependent Mechanical Response in Poly(vinyl ester)/PEO Triblock Copolymers」、Macromolecules、2011年、44 (11)、4401~4409頁
【文献】Taton, D.ら、M. Direct Synthesis of Double Hydrophilic Statistical Di-and Triblock Copolymers Comprised of Acrylamide and Acrylic Acid Units via the MADIX Process. Macromolecular Rapid Communications、2001年、22、1497~1503頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
界面活性剤を加えることなく、特に低分子量フッ素系界面活性剤を加えることなく、RAFT法を使用して、乳化重合の利点と制御ラジカル重合(CRP)の利点とを組み合わせた方法により、自己安定化PVDF粒子を得ることができるということが、現在見出されている。本発明の方法によりまた、小粒径エマルジョンを製造することも可能になり、これにより、PVDFラテックスが貯蔵中に安定であることが可能になり、フィルム形成が可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様によれば、本発明は、フッ素化界面活性剤の非存在下での乳化重合により安定なフッ化ビニリデンポリマーラテックスを製造する方法に関し、前記方法は、
a.ポリ(エチレングリコール)系(PEG系)の親水性マクロRAFTを用意して、第1の親水性ブロックを形成する工程と、
b.開始剤、並びに任意選択により連鎖移動剤及び/又は防汚剤の存在下で、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーを単独で、又は少なくとも1つの他のエチレン性不飽和コモノマーと組み合わせて用いて、フッ化ビニリデンポリマーを合成し、かつ前記親水性ブロックを連鎖延長させて、第2の疎水性ブロックを形成する工程と
を含む。
【0010】
有利には、工程bにおける開始剤/マクロRAFTの質量比は1~4の範囲である。これにより、前記親水性ブロック及び前記疎水性ブロックから構成される両親媒性ブロックコポリマーPEG-b-PVDFのその場形成が可能になる。両親媒性ブロックコポリマーは、工程bでも形成されたPVDF粒子の高分子界面活性剤として機能し、PVDF粒子に固定している。この高分子界面活性剤により、低分子量フッ素化界面活性剤を使用する必要性を回避しながら、安定なPVDFラテックスが得られる。
【0011】
本発明はまた、PVDFポリマー粒子と、PEG系の親水性マクロRAFTの親水性ブロック、及びフッ化ビニリデン(VDF)モノマーを単独で又は少なくとも1つの他のエチレン性不飽和コモノマーと組み合わせてなる疎水性ブロックからなる両親媒性ブロックコポリマーとを含む水性分散体であって、前記PVDF粒子は、20~300nmの平均粒径を有し、前記PVDF分散体は、1~60、好ましくは15~45質量パーセントの固形分を有し、低分子量フッ素化界面活性剤を含まない、水性分散体に関する。
【0012】
本発明はまた、膜、コーティング及びフィルムの調製用の水性PVDF分散体の用途に関する。
【0013】
本発明により、従来技術の欠点を克服することが可能になる。本発明は、低濃度で使用されるRAFT(マクロRAFT)によって作製された特定の親水性ポリマー鎖によって媒介され、両親媒性ブロックコポリマーをその場形成して、粒子安定化をもたらすことができる、VDFの乳化重合プロセスを特に提供する。得られた粒子は、粒子に共有結合で固定した、PISAプロセスから得られた両親媒性ブロックコポリマーとPVDFポリマー鎖とで構成されている。
【0014】
親水性ブロックで構成されるマクロRAFT剤は、フルオロモノマー重合のための乳化剤の前駆体として機能する。マクロRAFTは重合に関与し、鎖の一部となり、その場ラテックス安定性をもたらす。それはまた、親水性部分をPVDF鎖にもたらし、これにより膜、コーティング、及びフィルムに、さらなる価値のある最終用途特性が与えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明は、フッ素系界面活性剤を加えることなく、RAFT乳化重合によりその場形成されたブロックコポリマーにより安定化されたポリ(フッ化ビニリデン)ラテックスを調製する方法を記載する。
【0017】
一実施形態によれば、この方法は、水中における親水性ポリマー鎖のCRP(制御ラジカル重合)による合成、続いて同じ反応器内におけるVDF疎水性モノマーによる連鎖延長を必要とし、これにより両親媒性ブロックコポリマーの形成がもたらされる。これらのコポリマーは、高分子安定剤の役割を果たすことができる。形成された安定剤は、PVDFの粒子の表面に共有結合で固定する。
【0018】
別の実施形態によれば、以下に詳述するように、ポリマーに1つ又は2つのチオカーボネート末端を導入するために、事前形成された親水性ポリマー(CRPにより合成された)を化学修飾する。
【0019】
第1の態様によれば、本発明は、低分子量フッ素化界面活性剤の非存在下での乳化重合により、安定なPVDFラテックスを製造する方法を提供する。
【0020】
第1工程(工程a)では、親水性ブロックを形成する官能化PEGはBinauld S.らによる刊行物「Emulsion Polymerization of Vinyl Acetate in the Presence of Different Hydrophilic Polymers Obtained by RAFT/MADIX」、Macromolecules、2014年、47 (10)、3461~3472頁中に、又はLipscomb CE及びMahanthappa MKによる「Microphase Separation Mode-Dependent Mechanical Response in Poly(vinyl ester)/PEO Triblock Copolymers」、Macromolecules、2011年、44 (11)、4401~4409頁中に記載されているように、文献中に記載された利用可能な戦略に従って、PEGメチルエーテルの少なくとも1つのヒドロキシル官能基の修飾によって形成される。
【0021】
一実施形態によれば、親水性ブロックは、PEGメチルエーテルCH3(CH2CH2O)nOHの-OH基をキサンテートで修飾することにより得られ、得られる親水性ブロックは以下の一般式
【0022】
【化1】
【0023】
(式中、R'はアルキル又はアリールであり、R"は-C(=O)-C(CH3)-であり、RはOH、O-アルキル、O-アリール、又はポリマーである)、を有する。
【0024】
次に、第2の工程(工程b)で、得られたPEG系の親水性マクロRAFTをVDFの乳化重合において使用する。安定化は、ここで、両親媒性PEG-b-PVDFジブロックコポリマーの形成によって確保される。
【0025】
別の実施形態によれば、PEG系の親水性マクロRAFTはまた、上述の刊行物(Lipscomb CE及びMahanthappa MKによる「Microphase Separation Mode-Dependent Mechanical Response in Poly(vinyl ester)/PEO Triblock Copolymers」、Macromolecules、2011年、44 (11)、4401~4409頁)に従って得ることができる。この場合、親水性ブロックは、連鎖両末端に2つのキサンテート基を有するテレケリックPEGであり、ジヒドロキシポリ(エチレングリコール)のヒドロキシル官能基の修飾によって得られる。
【0026】
【化2】
【0027】
(式中、R'はアルキル又はアリールであり、R"は-C(=O)-C(CH3)-である)
【0028】
次に、得られたPEG系の親水性マクロRAFTを、VDFの乳化重合において使用する。安定化は、ここで、PEG-b-PVDFジブロックコポリマーの形成ではなく、両親媒性PVDF-b-PEG-b-PVDFトリブロックコポリマーの形成によって確保される。
【0029】
別の実施形態によれば、PEG系の親水性マクロRAFTは、キサンテートの存在下で、重合性アクリレート部分を有するPEG(PEGA)のRAFT重合によっても得ることができる。
【0030】
【化3】
【0031】
(式中、R'はアルキル又はアリールであり、RはOH、O-アルキル、O-アリール、又はポリマーである)
【0032】
次に、得られた官能化ポリ(PEGA)(又はP(PEG-A)-Xで示される)を、VDFの乳化重合において使用する。
【0033】
第2の工程(工程b)では、VDFを単独で又は少なくとも1つのフッ素化若しくは非フッ素化共反応性モノマーと組み合わせて、開始剤の存在下で重合させる。
【0034】
本明細書で使用される「フッ化ビニリデンポリマー」という用語は、その意味の範囲内で、通常固体の、ホモポリマー及びコポリマーの両方を含む。このようなコポリマーとしては、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニル、ペンタフルオロプロペン、ペルフルオロメチルビニルエーテル、ペルフルオロプロピルビニルエーテル、及びフッ化ビニリデンと容易に共重合する任意の他のモノマーからなる群から選択される、少なくとも1つのコモノマーと共重合したフッ化ビニリデンを少なくとも50モルパーセント含むようなものが挙げられる。フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン及びテトラフルオロエチレンのターポリマー、並びにフッ化ビニリデン、トリフルオロエチレン及びテトラフルオロエチレンのターポリマーも、本明細書において具体化される方法によって調製することができるフッ化ビニリデンコポリマーのクラスの代表である。
【0035】
本発明の水系重合に有用な非フッ素化モノマーは、(メタ)アクリル酸及びアルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジ-n-プロピル、マレイン酸ジイソプロピル、マレイン酸ジ-2-メトキシエチル等のマレイン酸エステル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジ-n-プロピル、フマル酸ジイソプロピル等のフマル酸エステル、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、及びアクリロニトリル、無水物、ビニルエステル、α-オレフィン、不飽和ジカルボン酸の置換又は非置換モノ及びジアルキルエステル、ビニル芳香族化合物、並びに環状モノマーから選択される、エチレン性不飽和モノマーである。
【0036】
本発明の方法は、フッ化ビニリデンホモポリマーの重合に関して一般的に説明されるが、当業者は、フッ化ビニリデンとフッ素化又は非フッ素化共反応性モノマーとのコポリマーの調製に、類似の重合技術を適用することができることを認識するであろう。
【0037】
ポリマーは、乳化重合プロセスにより簡便に作製されるが、非フッ素化マクロRAFT剤を使用する懸濁液、溶液、又は超臨界CO2プロセスによっても合成することができる。
【0038】
工程bの乳化重合プロセスでは、工程aで使用する反応器に、脱イオン水、及び任意選択によりパラフィン系防汚剤及び/又は連鎖移動剤を、更に充填する。
【0039】
混合物を撹拌し、脱酸素化させる。次に、所定の量の連鎖移動剤、CTAを反応器に導入するが、本方法においてCTAを使用しない場合がある。反応器の温度を所望のレベルまで上げ、フッ化ビニリデンを反応器に仕込む。フッ化ビニリデンの初期充填が導入され、反応器内の圧力が所望のレベルに達すると、少なくとも1つのラジカル開始剤を加えて重合反応を開始させ、維持する。フッ化ビニリデンを、任意選択により追加の開始剤とともに連続的に仕込み、所望の圧力を維持する。反応の温度は、使用される開始剤の特性に応じて変えることができ、当業者はその方法を知っているであろう。典型的には、反応器の温度は約30℃~120℃、好ましくは約60℃~110℃である。重合圧力は、典型的には200~10000kPaの範囲内で変えてもよい。反応器内で所望のポリマー転化量に達すると、モノマー供給を停止させるが、開始剤を任意選択により加えて残留モノマーを消費する。次に、残留ガス(未反応モノマーを含む)を排出して、ラテックスを反応器から回収する。次に、凍結融解、噴霧乾燥、凍結乾燥、又は高せん断凝固分離等の標準的な方法により、ポリマーをラテックスから単離してもよい。
【0040】
工程bの間に、開始剤の存在下で、フッ化ビニリデン(VDF)モノマーを単独で、又は少なくとも1つの他のエチレン性不飽和コモノマーと組み合わせて用いて、親水性ブロックの連鎖延長も行って、第2の疎水性ブロックを形成する。
【0041】
「開始剤」という用語並びに「ラジカル開始剤」及び「フリーラジカル開始剤」という表現は、自然に誘導されるか又は熱若しくは光に曝すことによって誘導されるフリーラジカル源を与えることができる化学物質を指す。開始剤の例としては、ペルオキシド、ペルオキシジカーボネート及びアゾ化合物が挙げられる。この用語表現には、フリーラジカル源を与えるのに有用なレドックス系も含まれる。
【0042】
ラジカル開始剤は、重合反応を所望の反応速度で開始させて維持するのに充分な量で反応混合物に加える。添加順序は、所望のプロセス及びラテックスエマルジョン特徴によって変えることができる。
【0043】
ラジカル開始剤は、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩を含んでもよい。反応混合物に加える過硫酸塩の量は、(反応混合物に加えるモノマーの総質量に対して)約0.005~約1.0質量%である。
【0044】
ラジカル開始剤は、アルキル、ジアルキル又はジアシルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート及びペルオキシエステル等の有機過酸化物を、全モノマーの約0.5~約2.5質量%の量で含み得る。
【0045】
連鎖移動剤は、生成物の分子量を調節するために重合に任意選択により加える。これらは、単一の部分において反応開始時に又は反応を通じて増量的に若しくは連続的に、重合に加えてもよい。連鎖移動剤の添加量及び添加様式は、使用される特定の連鎖移動剤の活性、及びポリマー生成物の所望の分子量に依存する。加える場合、連鎖移動剤の量は、反応混合物に加えるモノマーの総質量に対して、好ましくは約0.05~約5質量パーセント、より好ましくは約0.1~約2質量パーセントである。
【0046】
本発明において有用な連鎖移動剤の例としては、酸素含有化合物、例えばアルコール、カーボネート、ケトン、エステル、エーテル;ハロカーボン及びハイドロハロカーボン、例えばクロロカーボン、ハイドロクロロカーボン、クロロフルオロカーボン及びハイドロクロロフルオロカーボン;エタン及びプロパンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
反応へのパラフィンワックス又は炭化水素油の任意の添加は、反応器部品へのポリマーの付着を最小限に抑え又は防止するための防汚剤として機能する。任意の長鎖飽和炭化水素ワックス又は炭化水素油は、この機能を果たすことができる。反応器に加える油又はワックスの量は、反応器部品へのポリマー付着物の形成を最小限に抑える働きをする量である。この量は、一般に、反応器の内部表面積に比例し、反応器の内部表面積1平方センチメートルあたり約1mgから約40mgまで変化し得る。パラフィンワックス又は炭化水素油の量は、反応器の内部表面積1cm2あたり約5mgであることが好ましい。
【0048】
第2の態様によれば、本発明は、PVDF粒子と、開始剤の残余部分と、PEGを含む親水性ブロック、及びフッ化ビニリデン(VDF)モノマーを単独で又は少なくとも1つの他のエチレン性不飽和コモノマーと組み合わせてなる疎水性ブロックからなる両親媒性ブロックコポリマーとを含む安定な水性PVDF分散体であって、前記PVDF粒子は、動的光散乱により測定される場合、20~300nmの平均粒径を有し、前記PVDF分散体は、(重量測定法で測定される場合、)1~60、好ましくは15~45質量パーセントの固形分を有し、低分子量フッ素化界面活性剤を含まない、安定な水性PVDF分散体に関する。質量比PEG-X/PVDFは、0.1から10(%)まで、好ましくは0.2から9.1(%)まで変化し、PVDFの量は、固形分から、開始剤、ポリ(エチレングリコール)系の親水性マクロRAFT及び緩衝液を含む他の全ての化学種を差し引いたものから決定される。
【0049】
PVDF分散体は、ラテックスの安定性と貯蔵寿命が良好であり、フィルム形成の品質が良好である。更に、分散体の粒径が小さいため、膜、コーティング、フィルムの製造等、ラテックス形態のフルオロポリマーの多くの直接用途に有利である。
【実施例
【0050】
以下の実施例は、本発明を限定することなく説明する。
【0051】
1)試薬
実施例では、以下の試薬を使用した、すなわち、
ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(Aldrich社、PEG-OH、Mn≒2000、及び750g mol-1)、トリエチルアミン(Aldrich社、99.5%)、2-ブロモプロピオニルブロミド(Aldrich社、97%)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)(Aldrich社、99.7%)、塩化アンモニウム(NH4Cl)(Aldrich社、99.5%)、ジクロロメタン(Aldrich社、99.8%)、硫酸マグネシウム(Aldrich社、>99.9%)、O-エチルキサントゲン酸(Aldrich社、96%)、α,ω-ジヒドロキシポリ(エチレングリコール)(Aldrich社、HO-PEG-OH、Mn≒2050g mol-1)、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルアクリレート(Aldrich社、PEG-A、Mn≒480g mol-1)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、Aldrich社、98%)、1,4-ジオキサン(Alfa Aesar社、99.8%)、過硫酸カリウム(KPS)(Aldrich社、99%)、酢酸ナトリウム(Aldrich社、99%)、カリウム3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロ-1-オクタンスルホネート(Capstone(登録商標)、FS-17)(FS)、及びフッ化ビニリデン(VDF)を、受け入れたままの状態で使用した。PureLabシステムにより、水を脱イオン化した。
【0052】
O-エチル-S-(1-エトキシカルボニル)エチルジチオカーボネート(X1)は、Taton, D.ら、M. Direct Synthesis of Double Hydrophilic Statistical Di-and Triblock Copolymers Comprised of Acrylamide and Acrylic Acid Units via the MADIX Process. Macromolecular Rapid Communications、2001年、22、1497~1503頁に記載されているプロトコルに従って合成した。
【0053】
2)特性評価手法
核磁気共鳴(NMR)を使用して、モノマー変換及びマクロRAFT純度を測定した。化合物を、適切な重水素化溶媒中に、約30mg g-1の濃度で溶解させた。スペクトルは、高分解能分光計(Bruker AC 300)を用いて、室温にて記録した。化学シフトを、使用済み溶媒のピークに関して較正した。
【0054】
VDF乳化重合に関して、固形分(SC)は、重量測定法により測定した。粒径(Dz)及び分散度(σ)は、動的光散乱法(DLS)によって測定した。分析は、Malvern Instruments社製のNanoZSにおいて、173°の散乱角で25℃にて実施した。
【0055】
Mettler Toledo社製DSC-1において、示差走査熱量計(DSC)測定を実施した。乾燥させた試料は、空の参照サンプルパンとともに、標準の40μLアルミニウム製サンプルパンにおいて、2回の連続加熱(10℃ min-1で-20~210℃)及び冷却(-10℃ min-1で210~-20℃)サイクルにかけた。試料の熱履歴を、210℃での最初の加熱によって消去した。分析データ(結晶化温度Tc、融解温度Tm及び結晶化度Xc(%))は、2回目の加熱から抽出した。
【0056】
結晶化度は、ΔHf, ∞が105J g-1である、以下の式により計算した。
Xc(%)=(ΔHf, measured/ΔHf, ∞)×100
【0057】
3)実験手順
3.1.PEG系の親水性マクロRAFT(PEG-X)の合成
ポリ(エチレングリコール)メチルエーテル(Mn=2000g mol-1)(20g;0.01mol)を、ジクロロメタン(80mL)中に溶解させた後、トリエチルアミン(2.73g;0.027mol)を加えた。氷浴に入れた混合物に、2-ブロモプロピオニルブロミド(4.97g;0.023mol)を滴加した。次にそれを除去し、反応混合物を16時間撹拌した。次に、残留塩をろ過した。有機相を、NH4Cl(1×15mL)の飽和水溶液、NaHCO3(1×15mL)の飽和水溶液、及び水(1×15mL)で洗浄した。次に、洗浄した有機相を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、溶媒を減圧下にて蒸発させた。
【0058】
得られた生成物(15.41g;0.0066mol)を、ジクロロメタン(55mL)中に溶解させた。次に、O-エチルキサントゲン酸(3.17g;0.0198mol)を、撹拌しながら少量ずつ加えた。反応混合物を、一晩撹拌した。KBr塩は、ろ過により除去した。混合物を、NH4Cl(2×15mL)の飽和水溶液及びNaHCO3(2×15mL)の飽和水溶液で、次に水(1×15mL)で洗浄した。次に、洗浄した有機相を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、溶媒を減圧下にて蒸発させた。次に、ポリマーを、冷石油エーテル中に沈殿させた。最後に、生成物を減圧下にて乾燥させた。別の市販のPEG-OH(Mn=750g mol-1)を使用して、同一手順に従った。
1H NMR (CDCl3, 300 MHz, δ ppm) : 4.6 (q, 2H, O-CH2-CH3); 4.4 (q, 1H, CH-S); 4.3 (t, 2H, CH2-CH2-O); 3.75-3.5 (s, 180H, (CH2-CH2-O)n); 3.35 (s, 3H, CH3-O); 1.6 (d, 3H, CH-CH3); 1.4 (t, 3H, CH2-CH3).
【0059】
3.2.VDFの乳化重合(実施例1~20)
VDF乳化重合は全て、窒素導入口及び機械的撹拌器を備え、VDFボトルに接続された50mLのステンレス製反応器内で実施した。KPS、FS(又はPEG-OH又はPEG-X)及び酢酸ナトリウムを、反応器に導入した。次に、25mLの脱イオン水を加えた。媒体を、窒素下で30分間脱酸素化させた。次に、30バールのVDFを使用して反応器を満たし、媒体を80℃の設定値温度で加熱した。反応が停止すると、得られたラテックスを収集し、粒径を測定した。少量を乾燥させて、固形分及び結晶化度を測定した。
【0060】
全てのVDF乳化重合(実施例1~20)の操作条件及び特性を、表1~4に要約している。
【0061】
3.3.二官能性X-PEG-XマクロRAFT剤の合成
ポリ(エチレングリコール)(Mn=2050g mol-1)(20g;0.01mol)を、ジクロロメタン(80mL)中に溶解させた後、トリエチルアミン(5.46g;0.054mol)を加えた。混合物を、2-ブロモプロピオニルブロミド(9.94g;0.046mol)を含むフラスコに滴加し、氷浴に入れた。次にフラスコを除去し、反応混合物を16時間撹拌した。次に、残留塩をろ過した。有機相を、NH4Cl(1×15mL)の飽和水溶液、NaHCO3(1×15mL)の飽和水溶液、及び水(1×15mL)で洗浄した。次に、洗浄した有機相を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、溶媒を減圧下にて蒸発させた。
【0062】
得られた生成物(16.20g;0.0079mol)を、ジクロロメタン(55mL)中に溶解させた。次に、O-エチルキサントゲン酸(7.60g;0.0474mol)を、撹拌しながら少量ずつ加えた。反応混合物を、一晩撹拌した。KBr塩は、ろ過により除去した。混合物を、NH4Cl(2×15mL)の飽和水溶液及びNaHCO3(2×15mL)の飽和水溶液で、次に水(1×15mL)で洗浄した。次に、洗浄した有機相を、硫酸マグネシウムを用いて乾燥させ、溶媒を減圧下にて蒸発させた。次に、ポリマーを、冷石油エーテル中に沈殿させた。最後に、生成物を減圧下にて乾燥させた。
1H NMR (CDCl3, 400 MHz, δ ppm): 4.6 (q, 2H, O-CH2-CH3); 4.4 (q, 1H, CH-S); 4.3 (t, 2H, CH2-CH2-O); 3.75-3.5 (s, 220H, (CH2-CH2-O)n); 1.6 (d, 3H, CHCH3); 1.4 (t, 3H, CH2-CH3).
【0063】
数平均分子量(Mn)及び分散度(D=Mw/Mn)は、THF(標準ポリスチレン(PS))におけるサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって測定した。
【0064】
3.4.従来のラジカル重合によるP(PEG-A)の合成
典型的な実験では、76.0mgのAIBN(1.80×10-2mol L-1)及び6.67gのPEG-A(5.45×10-1mol L-1)を、丸底フラスコ中の1,4-ジオキサンに加えた。媒体を、アルゴン下で30分間脱酸素し、その後70℃で加熱した。モノマー変換の後に、溶媒としてCDCl3を使用して1H NMR測定を行い、メトキシ基のプロトンとPEG-Aのビニルプロトンの相対積分値を求めた。Mn及びDは、DMSO(標準ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA))におけるSECによって測定した。
【0065】
3.5.キサンテート媒介RAFT重合によるP(PEG-A)-XマクロRAFT剤の合成
典型的な実験では、308.6mgのキサンテート(5.51×10-2mol L-1)、76.0mgのAIBN(1.80×10-2mol L-1)及び6.67gのPEG-A(5.45×10-1mol L-1)を、丸底フラスコ中の1,4-ジオキサンに加えた。媒体を、アルゴン下で30分間脱酸素し、その後70℃で加熱した。モノマー変換の後に、溶媒としてCDCl3を使用して1H NMR測定を行い、メトキシ基のプロトンとPEG-Aのビニルプロトンの相対積分値を求めた。Mn及びDは、DMSO(標準PMMA)におけるSECによって測定した。
【0066】
3.6.VDFの乳化重合(実施例21~26)
VDF乳化重合は全て、窒素導入口及び機械的撹拌器を備え、VDFボトルに接続された50mLのステンレス製反応器内で実施した。KPS、FS(又はHO-PEG-OH又はPEG-X又はX-PEG-X又はPEG-A又はP(PEG-A)又はP(PEG-A)-X)及び酢酸ナトリウムを、反応器に導入した。次に、25mLの脱イオン水を加えた。媒体を、窒素下で30分間脱酸素化させた。次に、30バールのVDFを使用して反応器を満たし、媒体を80℃の設定値温度で加熱した。反応が停止すると、得られたラテックスを収集し、粒径を測定した。少量を乾燥させて、固形分及び結晶化度を測定した。
【0067】
全てのVDF乳化重合(実施例21~25)の操作条件及び特性を、表5~6に要約している。
【0068】
4)結果
4.1.実施例1~2:フッ素化界面活性剤の存在下におけるVDF乳化重合(ブランク実験)
最初に、2.2mgのKPS、36.3mgのフッ素化界面活性剤(FS)、及び1.4mgの酢酸ナトリウムを使用して、従来のFSにより、参照実験を実施した(実施例1)。次に、10倍量の試薬を使用して、同様の実験を実施した(実施例2、22.0mgのKPS、363.0mgのFS、及び14mgの酢酸ナトリウム)。両方の場合において、安定なラテックスが得られた。同じ重合時間(1時間30分)で、より多くのFSを使用すると、粒子がより小さくなり、固形分がより多くなる(表1)。
【0069】
【表1】
【0070】
4.2.実施例3~20:官能性ポリマーの存在下におけるVDF乳化重合
次に、市販の界面活性剤FSを、PEG-OH(Mn=2000g mol-1)鎖又はPEG-X(Mn=2300g mol-1)鎖のいずれかに置き換えて、異なる開始剤/ポリマー比を使用した。
【0071】
実施例3は、30.0mgのKPS、19.0mgの酢酸ナトリウムを使用し、FSをPEG-OHで置き換え、20.0mgのこのポリマーを使用すること以外は、実施例1に記載したものと同じ手順に従う。
【0072】
実施例4は、KPS量を50.0mgに、及び酢酸ナトリウム量を31.0mgに変えて、実施例3に記載の手順に従って実施した。
【0073】
実施例5は、KPS量を70.0mgに、及び酢酸ナトリウム量を44.0mgに変えたこと以外は、実施例4で使用した手順に従って実施した。
【0074】
実施例6は、PEG-OHを同じモル数のFSで置き換えたこと以外は、実施例4で使用した手順に従って実施した。
【0075】
実施例7は、FS量を変えて、実施例1と同じKPS/FS質量比を維持したこと以外は、実施例6で使用した手順に従って実施した。
【0076】
実施例8は、PEG-OHを同量のPEG-Xで置き換えたこと以外は、実施例3に記載の手順に従って実施した。
【0077】
実施例9は、PEG-OHを同量のPEG-Xで置き換えたこと以外は、実施例4に記載の手順に従って実施した。
【0078】
実施例10は、PEG-OHを同量のPEG-Xで置き換えたこと以外は、実施例5に記載の手順に従って実施した。
【0079】
これらの実験の操作条件及び特性を、表1に要約している。
【0080】
最初に、FSの代わりにPEG-OHを使用した。固形分を増やすために、異なるKPS/ポリマー質量比(1.5~3.5)を調査した。比率が増加すると、実施例5を除き、SC及び粒径も増加する(実施例3~4)。実際、3.5の比率では、ラテックスは安定ではない。一方、PEG-Xを用いて得られたラテックスは、全ての比率において安定である(実施例8~10)。実施例6及び7では、PVDF粒子の安定化にポリマーを使用する利点を確認した。実際、同じモル数の安定化化学種(FS対PEG-OH)、及び同様のSC(実施例4及び6)について、PEG-OHを使用して得られたPVDFラテックスは、FSを用いて安定化されたものよりも小さい粒径を示す(234nm対396nm)。次に、別の実験(実施例7)でFS量を調整して、実施例1と同じKPS/FS質量比にした。FS量が多く、SCが高い(25.1%)ため、粒子がより小さい(34nm)ということにもかかわらず、ラテックスは24時間後に不安定になる。
【0081】
所与のKPS/ポリマー比では、粒径は、PEG-Xを用いると、体系的により小さくなる(例えば、比率2.5では、同様のSCでPEG-OHを用いると234nmであるのと比較してPEG-Xでは72nm)。PEG-OHを使用すると、VDF重合に伴う不可逆的なプロトン移動反応がPVDFラテックスの安定化に関与する。これらの不可逆的な反応は、PEG鎖に沿って発生している。PEG-Xポリマーを用いると、これらの移動反応はまだ作用しているが、PEG-Xの連鎖末端で作用する可逆的連鎖移動反応と競合する。これらの分解移動反応と、PEG-X上のジチオカーボネート(キサンテート)末端基の存在によって誘発される可逆的連鎖転移反応との競合が起こる。実際、PEG-Xを用いて得られたより小さな粒子は、重合プロセス中におけるキサンテートの強い影響を示す。
【0082】
次に、より短いPEG-OH及びPEG-X鎖を使用して2つの実験を実施した。
【0083】
実施例11は、Mn=750g mol-1のPEG-OHを使用したこと以外は、実施例4に記載の手順に従って実施した。
【0084】
実施例12は、Mn=1050g mol-1のPEG-Xを使用したこと以外は、実施例9に記載の手順に従って実施した。
【0085】
これらの実験の操作条件及び特性を、表2に要約している。
【0086】
【表2】
【0087】
粒径215nmの安定したラテックスを、PEG-OHを用いた4時間の重合後に、固形分9.9%で得た(実施例11)。市販のPEG-OHを用いた実験では、PEG-X(実施例12、62nm)よりも大きな粒径が得られる。両方の場合において、径は、約2000g mol-1のモル質量のPEG-OH及びPEG-Xを用いて実施した実験において得られた径に近い(それぞれ、234nm-実施例4及び72nm-実施例9)。
【0088】
実施例13は、20.0mgのPEG-Xの代わりに7.5mgのPEG-Xを使用したこと以外は、実施例11に記載の手順に従って実施した。このように、同じモル数のPEG-Xを実施例9及び13で使用するため、同じ数のキサンテート連鎖末端が含まれる。しかし、より短い1050g mol-1のPEG-Xに沿って不可逆的移動反応を受ける可能性のあるプロトンは、少なくなる。このことは、1050g mol-1のPEG-Xを使用する場合に、より高い固形分が得られることによって実際に確認される。
【0089】
【表3】
【0090】
速度論的試験を、PEG-OH(実施例14、15、16及び4)とPEG-X(実施例17~20)の両方を用いて実施した。
【0091】
実施例14~16は、実施例4で使用した手順に従って実施した。
【0092】
実施例17~20は、実施例9で使用したものと同じ手順に従って実施したが、23.0mgのPEG-Xを使用した。
【0093】
各実験について、PEG-XマクロRAFTを使用したVDFの重合の禁止期間を観察する(実施例17~20)。VDFの消費量がより多く、したがってSCがより高いことによって示されるように、市販のPEG-OH(実施例14、15、16、及び4)を用いると、重合がより速くなる。更に、同じSCの場合PEG-Xを使用すると粒子が小さくなり、市販のPEGと比較して安定化に対するRAFT連鎖末端の明白な効果が確認される。例えば、SCが2.7%の場合、PEG-OHでは143.3nmの粒径が得られるが(実施例14)、SCが2.4%の場合、PEG-Xでは粒径は49.8nmである(実施例18)。
【0094】
【表4】
【0095】
実施例9(PEG-Xを使用して得られたPVDFラテックス)及び実施例4(PEG-OHを使用して得られたPVDFラテックス)について表面張力分析を実施した。(粒子の安定化に関与しないため、)両方の場合の遊離/非結合PEG鎖の量を定量化するために、さまざまな濃度のPEG(-X又は-OH)溶液の表面張力を測定することにより、検量線を確立した。実施例9の表面張力値は、62.5mN m-1である。検量線によると、PEG-Xの初期量の0.4質量%のみが最終ラテックス中で遊離ポリマー鎖として存在する。実施例4のラテックスを使用して、同一手順に従った。得られた60.2mN m-1の表面張力値は、PEG-OHの初期量の81.5質量%が、ラテックス中で遊離鎖として存在することを示している。このことは、PEG-OH鎖よりも多くのPEG-X鎖が粒子の安定化に関与していることを示している。
【0096】
3.1.実施例21~26:官能性ポリマーの存在下におけるVDF乳化重合
市販のポリマーHO-PEG-OH(Mn=2050g mol-1)又は二官能性X-PEG-XマクロRAFT剤(Mn=3400g mol-1及びD=1.1)を、異なる実験条件を使用して安定剤として使用した。
【0097】
実施例21は、50.0mgのKPS、31.0mgの酢酸ナトリウム、20.0mgのHO-PEG-OHを使用する(最初の適用における実施例4に記載したものと同じ手順)。
【0098】
実施例22は、HO-PEG-OHをX-PEG-Xに置き換えたこと以外は、実施例21に記載の手順に従って実施した。
【0099】
実施例23は、X-PEG-X量を20mgの代わりに10.0mgに変えたこと以外は、実施例22に記載の手順に従って実施した。
【0100】
これらの実験の操作条件及び特性を、表5に要約している。
【0101】
最初に、PEG-OHの代わりにHO-PEG-OHを使用した(実施例21及び実施例4それぞれ)。HO-PEG-OH又はPEG-OHのいずれかの使用は、同様に粒子の安定化に影響を与える。実際、同じSC(実施例21では12%、実施例4では11.2%)の場合、同様の粒径が得られる(実施例21及び実施例4ではそれぞれ240nm対234nm)。PEGのタイプが何であっても、PVDF粒径は影響を受けない。
【0102】
次に、HO-PEG-OHをX-PEG-Xに置き換えて実験を実施した。異なる量のX-PEG-Xを調査した。1番目の実験(実施例22)は、HO-PEG-OH(実施例21)と比較して、VDF重合プロセスにおけるキサンテート連鎖末端の影響を調査するために実施する。X-PEG-Xの場合に、SCがより低い場合でも(8.5%対12.0%)、PEG-OH媒介エマルジョンとPEG-X媒介エマルジョンとを比較したときに(第1の適用における実施例4及び実施例9それぞれ)、得られた粒径についてのすでに観察された傾向は、ここでも有効である、すなわち、キサンテート官能基の存在下では粒径が大幅に小さく(72nm対240nm)、高分子界面活性剤としての二官能性マクロRAFTの効率を示している。
【0103】
2番目の実験(実施例23)は、PEG-X(実施例9)と同じ数のキサンテートを使用して実施するため、X-PEG-Xの量は2で除算する。より高いSC(14.1%対10.4%)が得られるが、粒径は非常に類似している(124nm対72nm)。
【0104】
【表5】
【0105】
実施例1~7、11、14~16、21、24及び25は、比較例である。
【0106】
次に、PVDFラテックスについて他の安定剤を調査した、すなわち、PEG-A(Mn=480g mol-1)、P(PEG-A)(Mn=26000g mol-1、D=4.6)、及びP(PEG-A)-X(Mn=5300g mol-1、D=2.0)。1番目の化合物はモノマーであり、2番目はモノマーで合成されたポリマーであり、最後の化合物は活性連鎖末端としてキサンテートを有するマクロRAFTである。
【0107】
実施例24は、HO-PEG-OHをPEG-Aに置き換えたこと以外は、実施例21に記載の手順に従って実施した。
【0108】
実施例25は、PEG-AをP(PEG-A)に置き換えたこと以外は、実施例24に記載の手順に従って実施した。
【0109】
実施例26は、P(PEG-A)をP(PEG-A)-Xに置き換えたこと以外は、実施例25に記載の手順に従って実施した。
【0110】
これらの実験は、乳化重合におけるキサンテートの関与を調査するために段階的に実施した。全実験において、2.5のKPS/ポリマー質量比及び4時間の反応時間を選択した。基準としてモノマーPEG-Aを用いて、最初の実験を実施した。4.6%のSC及び39nmの粒径及び大きな粒径の多分散度を有するラテックスが得られた(実施例24、表6)。次に、PEG-Aの従来のラジカル重合を実施してP(PEG-A)を得て、次にそれをVDF乳化重合において使用した(実施例25)。PEG-Aと比較して同じ質量のP(PEG-A)の場合、VDFのより高い消費が観察され、このことによってより高いSC、すなわち96nmの粒径で13.5%のSCがもたらされる。
【0111】
最後に、キサンテートの存在下で実施したPEG-Aの制御ラジカル重合によりポリマーを合成し、P(PEG-A)-XマクロRAFTを製造した。次に、このマクロRAFTを、VDF乳化重合において使用した(実施例26)。反応は実施例25と比較して遅く、このことにより、SCがわずかに低くなった(10.7%)。しかし、SCが10.7%の場合(実施例26)、得られた粒径は、SCが13.5%の場合の96nm(実施例25)に対して、42nmであった。SCに関しては3.5%の違いしかないが、マクロRAFTを用いて得られる粒径は、P(PEG-A)を用いて安定化させたPVDFラテックスの粒径の2分の1である。ここでも、P(PEG-A)の高分子鎖の末端にX1が存在すると、粒子の安定性が向上する。P(PEG-A)-XマクロRAFTは、VDF重合プロセスに強い影響を与える。P(PEG-A)-Xは、PEG-A及びP(PEG-A)よりも優れた高分子界面活性剤である。
【0112】
【表6】