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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】組合せオイルリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/20 20060101AFI20230403BHJP
   F16J 9/06 20060101ALI20230403BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20230403BHJP
【FI】
F16J9/20
F16J9/06 B
F02F5/00 B
F02F5/00 301B
F02F5/00 301E
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020568646
(86)(22)【出願日】2020-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2020003802
(87)【国際公開番号】W WO2020158949
(87)【国際公開日】2020-08-06
【審査請求日】2022-08-05
(31)【優先権主張番号】P 2019017454
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019210758
(32)【優先日】2019-11-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000958
【氏名又は名称】弁理士法人インテクト国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100120237
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 良規
(72)【発明者】
【氏名】内海 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】新井 健寿
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 和宏
(72)【発明者】
【氏名】梶原 誠人
(72)【発明者】
【氏名】安藤 肇
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-003056(JP,A)
【文献】特開2016-035326(JP,A)
【文献】特開平07-119833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 7/00-10/04
F02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンのオイルリング溝に装着され、平板で且つ環状に形成されると共に、シリンダと摺接する摺接部を有する上下一対のサイドレールと、
前記上下一対のサイドレールの間に配置されると共に、前記上下一対のサイドレールを外方に押圧する上側耳部及び下側耳部からなる耳部を有するスペーサエキスパンダを備えた組合せオイルリングにおいて、
前記上下一対のサイドレールは、前記摺接部の前記ピストンの軸方向に沿った断面形状の最外径部分が前記上下一対のサイドレールの軸方向幅の中心よりも下方に配置され、
前記上側耳部及び下側耳部と前記上下一対のサイドレールの内周側とが接触する位置に前記シリンダとの摺接による前記上下一対のサイドレールの傾きを防止する傾き防止手段を備え、
前記傾き防止手段は、前記上側耳部及び前記下側耳部の前記上下一対のサイドレールとのそれぞれの当接面が、前記ピストンの軸方向に沿った断面形状が前記ピストンの軸方向に対して所定の角度だけ傾いた上側傾斜面及び下側傾斜面を有し、
前記上側傾斜面の傾斜角度θ1は、前記下側傾斜面の傾斜角度θ2よりも小さく形成されることを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項2】
請求項1に記載の組合せオイルリングにおいて
記上側傾斜面の傾斜角度θ1は、2~18°に形成され、
前記下側傾斜面の傾斜角度θ2は、7~23°に形成されることを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項3】
請求項2に記載の組合せオイルリングにおいて、
前記上側傾斜面と前記下側傾斜面の傾斜角度の差(Δθ=θ2-θ1)は、少なくとも5°以上20°以下に形成されることを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項4】
ピストンのオイルリング溝に装着され、平板で且つ環状に形成されると共に、シリンダと摺接する摺接部を有する上下一対のサイドレールと、
前記上下一対のサイドレールの間に配置されると共に、前記上下一対のサイドレールを外方に押圧する上側耳部及び下側耳部からなる耳部を有するスペーサエキスパンダを備えた組合せオイルリングにおいて、
前記上下一対のサイドレールは、前記摺接部の前記ピストンの軸方向に沿った断面形状の最外径部分が前記上下一対のサイドレールの軸方向幅の中心よりも下方に配置され、
前記上側耳部及び下側耳部と前記上下一対のサイドレールの内周側とが接触する位置に前記シリンダとの摺接による前記上下一対のサイドレールの傾きを防止する傾き防止手段を備え、
前記傾き防止手段は、前記上下一対のサイドレールと前記上側耳部及び前記下側耳部とのそれぞれの内周側の当接面が、前記ピストンの水平方向と略平行の中心線について非対称形状に形成されることを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項5】
請求項4に記載の組合せオイルリングにおいて、
前記上下一対のサイドレールの内周側の当接面が、前記中心線よりも上側に位置する内周上側部と下側に位置する内周下側部に区画され、
前記内周上側部は、内周上側円弧部を有し、
前記内周下側部は、内周下側円弧部を有し、
前記内周上側円弧部の半径Rは、前記内周下側円弧部の半径Rよりも大きいことを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項6】
請求項5に記載の組合せオイルリングにおいて、
前記内周上側部及び前記内周下側部の連続する位置には前記軸方向と略平行な直線部を有することを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の組合せオイルリングにおいて、
前記内周上側円弧部の半径Rは、前記上下一対のサイドレールの軸方向寸法の1/3以上に形成されることを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の組合せオイルリングにおいて、
前記上下一対のサイドレールは、前記摺接部における前記ピストンの軸方向に沿った断面形状が、前記ピストンの上方から下方に向かって直線状に拡がるテーパ形状であり、
前記テーパ形状は、前記ピストンの軸方向に対し8~12°の角度を有し、前記上下一対のサイドレールの下端から0.15mm以内に前記テーパ形状の頂点が位置することを特徴とする組合せオイルリング。
【請求項9】
請求項8に記載の組合せオイルリングにおいて、
前記テーパ形状の頂点は、前記ピストンの軸方向と略平行に延びる直線部に形成されることを特徴とする組合せオイルリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組合せオイルリングに関し、特に、上下一対のサイドレールと、それらの間に配置されるスペーサエキスパンダとを備えている3ピース構成の組合せオイルリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関のシリンダ内壁面に付着した余分なエンジンオイルを掻き落とし、適度な油膜を形成して内燃機関の運転に伴うピストンの焼き付きを防止すると共にオイルリングとシリンダとの摺接面の摩耗の減少を図るオイルリングが知られている。このようなオイルリングは種々の形態が知られており、例えば、下記の特許文献1に記載されているように、上下一対のサイドレールと、それらの間に配置されたスペーサエキスパンダとを備えた組合せオイルリングにおいて、摺動部におけるピストンの軸方向に沿った断面形状がピストンの上方から下方に向かって直線状に拡がるテーパ形状のサイドレールを有する組合せオイルリングが知られている。
【0003】
また、例えば特許文献2に記載されているように、高負圧条件下など特定の条件下においてもオイルリング溝上下面のシール性を低下させないようにスペーサエキスパンダの形状をサイドレールに対して傾斜面をもって押圧するように構成した形状が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-035326号公報
【文献】特開平7-119832号公報
【0005】
また、近年の低燃費化への要請から、組合せオイルリングのシリンダ内壁への押圧力を低減してフリクションを低減させるために、組合せオイルリングの低張力化が行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたような所謂テーパ形状のサイドレールを有する組合せオイルリングの張力を低減させると、図10に示すように、サイドレール111の摺動部がサイドレール111の軸方向幅の中心から下方にズレていることから、ピストンの上下動に伴ってサイドレール111がシリンダ内壁と摺接すると、シリンダからの反力の発生箇所が摺動部となるため、サイドレール111にサイドレール支持部119外周側の近傍を支点とするモーメント力Mが発生し、当該モーメント力Mによってサイドレール111の外周側が下方へ動くように作用し、サイドレール111の外周が下方へ傾いた状態となる場合があった。
【0007】
このように、サイドレール111の外周が下方へ傾いた状態では、サイドレール111の下面とオイルリング溝下面とのオイルシール性能が低下し、所望の性能を発揮することができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、組合せオイルリングの張力を低下させた場合であっても、サイドレールの下面とオイルリング溝下面とのオイルシール性能を低下させることなく、エンジンオイルのオイル消費量を低減させることができる組合せオイルリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る組合せオイルリングは、ピストンのオイルリング溝に装着され、平板で且つ環状に形成されると共に、シリンダと摺接する摺接部を有する上下一対のサイドレールと、前記上下一対のサイドレールの間に配置されると共に、前記上下一対のサイドレールを外方に押圧する上側耳部及び下側耳部からなる耳部を有するスペーサエキスパンダを備えた組合せオイルリングにおいて、前記上下一対のサイドレールは、前記摺接部の前記ピストンの軸方向に沿った断面形状の最外径部分が前記上下一対のサイドレールの軸方向幅の中心よりも下方に配置され、前記上側耳部及び下側耳部と前記上下一対のサイドレールの内周側とが接触する位置に前記シリンダとの摺接による前記上下一対のサイドレールの傾きを防止する傾き防止手段を備え、前記傾き防止手段は、前記上側耳部及び前記下側耳部の前記上下一対のサイドレールとのそれぞれの当接面が、前記ピストンの軸方向に沿った断面形状が前記ピストンの軸方向に対して所定の角度だけ傾いた上側傾斜面及び下側傾斜面を有し、前記上側傾斜面の傾斜角度θ1は、前記下側傾斜面の傾斜角度θ2よりも小さく形成されることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る組合せオイルリングにおいて、前記上側傾斜面の傾斜角度θ1は、2~18°に形成され、前記下側傾斜面の傾斜角度θ2は、7~23°に形成されると好適である。
【0011】
また、本発明に係る組合せオイルリングにおいて、前記上側傾斜面と前記下側傾斜面の傾斜角度の差(Δθ=θ2-θ1)は、少なくとも5°以上20°以下に形成されると好適である。
【0012】
本発明に係る組合せオイルリングは、ピストンのオイルリング溝に装着され、平板で且つ環状に形成されると共に、シリンダと摺接する摺接部を有する上下一対のサイドレールと、前記上下一対のサイドレールの間に配置されると共に、前記上下一対のサイドレールを外方に押圧する上側耳部及び下側耳部からなる耳部を有するスペーサエキスパンダを備えた組合せオイルリングにおいて、前記上下一対のサイドレールは、前記摺接部の前記ピストンの軸方向に沿った断面形状の最外径部分が前記上下一対のサイドレールの軸方向幅の中心よりも下方に配置され、前記上側耳部及び下側耳部と前記上下一対のサイドレールの内周側とが接触する位置に前記シリンダとの摺接による前記上下一対のサイドレールの傾きを防止する傾き防止手段を備え、前記傾き防止手段は、前記上下一対のサイドレールと前記上側耳部及び前記下側耳部とのそれぞれの内周側の当接面が、前記ピストンの水平方向と略平行の中心線について非対称形状に形成されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る組合せオイルリングにおいて、前記上下一対のサイドレールの内周側の当接面が、前記中心線よりも上側に位置する内周上側部と下側に位置する内周下側部に区画され、前記内周上側部は、内周上側円弧部を有し、前記内周下側部は、内周下側円弧部を有し、前記内周上側円弧部の半径Rは、前記内周下側円弧部の半径Rよりも大きいと好適である。
【0014】
また、本発明に係る組合せオイルリングにおいて、前記内周上側部及び前記内周下側部の連続する位置には前記軸方向と略平行な直線部を有すると好適である。
【0015】
また、本発明に係る組合せオイルリングにおいて、前記内周上側円弧部の半径Rは、前記上下一対のサイドレールの軸方向寸法の1/3以上に形成されると好適である。
【0016】
また、本発明に係る組合せオイルリングにおいて、前記上下一対のサイドレールは、前記摺接部における前記ピストンの軸方向に沿った断面形状が、前記ピストンの上方から下方に向かって直線状に拡がるテーパ形状であり、前記テーパ形状は、前記ピストンの軸方向に対し8~12°の角度を有し、前記上下一対のサイドレールの下端から0.15mm以内に前記テーパ形状の頂点が位置する好適である。
【0017】
また、本発明に係る組合せオイルリングにおいて、前記テーパ形状の頂点は、前記ピストンの軸方向と略平行に延びる直線部に形成されると好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る組合せオイルリングは、上下一対のサイドレールは、摺接部のピストンの軸方向に沿った断面形状の最外径部分が前記サイドレールの軸方向幅の中心よりも下方に配置され、上側耳部及び下側耳部とサイドレールの内周側とが接触する位置にシリンダとの摺接によるサイドレールの傾きを防止する傾き防止手段を備えるので、ピストンがシリンダライナと摺動した場合であってもサイドレールに付与されるモーメント力を低減又はサイドレールがモーメント力を受けた場合に、サイドレールの内径側を下方に押さえる力が付与されて、当該モーメント力に抗してサイドレールの先端が下方向きとなることを防止する傾き防止手段を有するので、オイル掻き落とし性能の低下を防止して、燃焼室負圧時のオイル吸い上がりを防止してオイル消費量の低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る組合せオイルリングを組み付けた内燃機関のシリンダ軸方向で切断して示した要部断面の概要図。
図2】本発明の第1の実施形態に係る組合せオイルリングを図3におけるA-A断面で切断して示した断面図。
図3】本発明の第1の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるスペーサエキスパンダの一部分を示す斜視図。
図4】本発明の第1の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるスペーサエキスパンダの変形例の一部分を示す斜視図。
図5】本発明の第1の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるスペーサエキスパンダを示す断面図。
図6】本発明の第2の実施形態に係る組合せオイルリングを内燃機関のシリンダ軸方向で切断して示した断面図。
図7】本発明の第2の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるサイドレールの軸方向断面図。
図8】本発明の第2の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるサイドレール外周側の変形例を示す軸方向断面図。
図9】本発明の第2の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるサイドレール内周側の変形例を示す断面図。
図10】従来の組合せオイルリングをピストンの軸方向で切断して示した断面図。
図11】本発明の第1の実施形態に係る組合せオイルリングと従来のオイルリングのオイル消費量を比較した測定結果。
図12】本発明の第2の実施形態に係る組合せオイルリングと従来のオイルリングのオイル消費量を比較した測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態に係る組合せオイルリングを組み付けた内燃機関のシリンダ軸方向で切断して示した要部断面の概要図であり、図2は、本発明の第1の実施形態に係る組合せオイルリングを図3におけるA-A断面で切断して示した断面図であり、図3は、本発明の第1の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるスペーサエキスパンダの一部分を示す斜視図であり、図4は、本発明の第1の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるスペーサエキスパンダの変形例の一部分を示す斜視図であり、図5は、本発明の第1の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるスペーサエキスパンダを示す断面図である。なお、本明細書において、上下方向とは、図1における紙面上方・下方に沿った方向と定義する。
【0022】
図1に示すように、本実施形態に係る組合せオイルリング10は、内燃機関のピストン2の外周面に形成されたオイルリング溝3に組み付けられ、シリンダ1の内壁と摺接することで、シリンダ1の内壁に付着した余分なエンジンオイルを掻き落としてシリンダ1の内壁に適切な油膜を形成する部材である。
【0023】
組合せオイルリング10は、上下一対のサイドレール11,11と、この上下一対のサイドレール11,11の間に配置されるスペーサエキスパンダ12とから構成されている。これらサイドレール11,11及びスペーサエキスパンダ12は鋼等からなっておりサイドレール11は、合口(図示せず)を備えた平板の環状リングとして構成されている。
【0024】
図3に示すように、スペーサエキスパンダ12は、鋼材を塑性加工して形成されており、軸方向に沿って凹凸形状(波形形状)となると共に、周方向に略円形状に構成されている。この軸方向の凹凸形状によって、軸方向の端部に上片13及び下片14が形成されている。即ち、スペーサエキスパンダ12は、軸方向及び周方向に離間して周方向に交互に多数配置された上片13及び下片14を備えており、互いに隣接する上片13と下片14とは連結片15によって連結されている。
【0025】
また、図1に示すように、スペーサエキスパンダ12の上片13及び下片14の内周側端部には、サイドレール11,11を外周側に押圧する耳部16がアーチ状に立設して形成されている。耳部16は、上側のサイドレール11を外周側に押圧する上側耳部16aと、下側のサイドレール11を外周側に押圧する下側耳部16bとを有している。
【0026】
さらに、図3に示すように、耳部16には、径方向に沿って貫通孔18が形成されており、上片13の上面及び下片14の下面(図示せず)には、それぞれ径方向に沿って溝17が形成されている。また、スペーサエキスパンダ12の上片13及び下片14の外周側端部には、溝17よりも一段高く形成されたサイドレール支持部19が形成されている。
【0027】
また、本実施形態に係るスペーサエキスパンダ12は、溝17に径方向に沿った断面形状がV形状又はR形状に形成された凹部17aが形成されている。溝部17に凹部17aを形成することによって貫通孔18の開口面積が大きくなるので、貫通孔18を流通するオイル流量を大きくすることが可能となる。
【0028】
このように、スペーサエキスパンダ12に溝17を形成することで、ピストンの外周側から内周側へ円滑にエンジンオイルを流すことが可能となり、ピストンリングで掻き落としたエンジンオイルをエンジン内部に還流させると共に、燃焼室へ漏出することを防止することでオイル消費量(LOC)の低減を図っている。
【0029】
なお、図4に示すように、変形例として実施形態に係るスペーサエキスパンダ12aは、溝17に径方向に沿った断面形状がV形状又はR形状に形成された凹部17aを形成せずに、平坦面としても構わない。
【0030】
なお、スペーサエキスパンダ12は、ピストン2のオイルリング溝3に組み付けられた状態で合口が付き合わされて周方向に縮められた状態で組み付けられている。したがって、スペーサエキスパンダ12の張力によって径方向外方へ拡張力を生じるように組み付けられているので、上下のサイドレール11,11を上片13,下片14のサイドレール支持部19,19で軸方向に沿って上下に隔離保持すると共に、耳部16がサイドレール11の内周面をそれぞれ押圧することによって、上下のサイドレール11,11の外周面をシリンダ1の内壁面に密着させている。
【0031】
図2に示すように、上下一対のサイドレール11は、シリンダと摺接する摺接部を備えており、当該摺接部におけるピストン2の軸方向に沿った断面形状が、サイドレール上面21からサイドレール下面22に向かって外周面23が直線状に広がるテーパ形状となっており、シリンダ側端面の最外径(径方向の最外端に位置する頂点24)がサイドレール11の軸方向幅の中心よりも下方に配置されている。なお、当該テーパ形状は、ピストンの軸方向に対し5~30°より好ましくは8~12°に設定されると好適であり、最外径(頂点24)の位置は、サイドレール11の下面22からの高さが0.15mm以内の位置に形成されていると好適である。
【0032】
また、図5に示すように、スペーサエキスパンダ12の耳部16とサイドレール11との当接面は、ピストンの軸方向に沿った断面形状がピストンの軸方向に対して所定の角度だけ傾いた上側傾斜面21aおよび下側傾斜面21bを有している。上側傾斜面21a及び下側傾斜面21bは、それぞれ上側のサイドレール11及び下側のサイドレール11に対して上側傾斜面21a及び下側傾斜面21bの法線方向P,P´にスペーサエキスパンダ12からの張力を付与し、径方向分力R,R´によって、サイドレール11をシリンダに押し当てるように外方に押圧する力を付与している。
【0033】
また、上側傾斜面21aの傾斜角度θ1は、ピストンの軸方向に対して2~18°傾いて形成されると好適であり、下側傾斜面21bの傾斜角度θ2は、ピストンの軸方向に対して7~23°傾いて形成されると好適である。なお、図5に示すように上側傾斜面21aの傾斜角度θ1は、下側傾斜面21bの傾斜角度θ2よりも小さく形成されており、この傾斜角度の違いによって傾き防止手段を構成しており、当該張力の軸方向分力Q,Q´は、上側のサイドレール11が受ける上向きの軸方向分力Qよりも下側のサイドレール11が受ける下向きの軸方向分力Q´の方が大きくなり、組合せオイルリング10全体で下向きの力を付与することができ、この下向きの力がモーメント力に抗することよって下側のサイドレール11がモーメント力を受けて傾くことを防止している。
【0034】
なお、上側傾斜面21aと下側傾斜面21bの傾斜角度の差Δθ=θ2-θ1は、少なくとも5°以上20°以下を有していると好適であり、さらに好適には12°以上18°以下であると好適である。この場合、例えば、上側傾斜面21aの傾斜角度θ1をピストンの軸方向に対して5°、下側傾斜面21bの傾斜角度θ2をピストンの軸方向に対して20°傾斜させると好適である。
【0035】
[第2の実施形態]
以上説明した第1の実施形態に係る組合せオイルリングは、スペーサエキスパンダの耳部の上側傾斜面21aの傾斜角度θ1を下側傾斜面21bの傾斜角度θ2よりも小さく形成して傾き防止手段を構成した場合について説明を行った。次に説明する第2の実施形態に係る組合せオイルリングは、第1の実施形態と異なる形態を有する傾き防止手段について説明を行うものである。なお、上述した第1の実施形態の場合と同一又は類似する部材については、同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0036】
図6は、本発明の第2の実施形態に係る組合せオイルリングを内燃機関のシリンダ軸方向で切断して示した断面図であり、図7は、本発明の第2の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるサイドレールの軸方向断面図であり、図8は、本発明に係る第2の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるサイドレール外周側の変形例を示す軸方向断面図であり、図9は、本発明に係る第2の実施形態に係る組合せオイルリングに用いられるサイドレール内周側の変形例を示す断面図である。
【0037】
図6に示すように、本実施形態に係る組合せオイルリング10´は、上下一対のサイドレール11´に傾き防止機構を形成している。具体的には、上述した第1の実施形態に係る組合せオイルリング10のサイドレール11と同様に、シリンダと摺接する摺接部を備えており、当該摺接部におけるピストン2の軸方向に沿った断面形状が、サイドレール上面21からサイドレール下面22に向かって外周面23が直線状に広がるテーパ形状となっており、シリンダ側端面の最外径(径方向の最外端に位置する頂点24)がサイドレール11´の軸方向幅の中心よりも下方に配置されている。なお、当該テーパ形状は、ピストンの軸方向に対し5~30°より好ましくは8~12°に設定されると好適であり、最外径(頂点24)の位置は、サイドレール下面22からの高さが0.15mm以内の位置に形成されていると好適である。
【0038】
なお、図8に示すように、上下一対のサイドレール11´の最外径の形状を直線部24´として形成し、テーパ形状の頂点を、ピストンの軸方向と略平行に延びる直線部24´としても構わない。このような最外径の直線部24´は、軸方向にラッピング加工することで形成され、外周面周方向の真円度が向上し、シリンダへ追従しやすくなり、運転初期からオイル消費量の低減を図ることができる。
【0039】
図7に示すように、サイドレール11´の内周側の当接面(耳部16a,16bと対向する面)は、ピストンの水平方向と略平行な中心線Cについて非対称の形状となっており、当該非対称形状によって傾き防止手段を構成している。
【0040】
本実施形態に係る傾き防止手段について詳述すると、サイドレール11´の内周側は、中心線Cの上側の内周上側部25が内周上側円弧部Ruを有し、中心線Cの下側の内周下側部26が内周下側円弧部Rlを有している。ここで、内周上側円弧部Ruの半径Rは、内周下側円弧部Rlの半径Rよりも大きく形成されており、例えば、内周上側円弧部Ruの半径Rは、サイドレール11´の軸方向高さhの1/3以上に形成され、内周下側円弧部Rlの半径Rは例えばR0.1mmに設定されると好適である。さらに好ましくは、内周上側円弧部Ruの半径Rは、サイドレール11´の軸方向高さhの1/3以上2/3以下に形成されると好適である。
【0041】
また、本実施形態に係る傾き防止手段は、サイドレール11´の内周側を中心線Cに対して非対称形状とすることで、図6に示すように、耳部16a,16bとサイドレール11´の内周側面との当接点Piu,Pilを下側にすることができる。このようにサイドレール11´の内周側の耳部との当接点Piu及びPilが耳部16a,16bに対して下側に位置することで、サイドレール11´の外周側形状がテーパ形状である場合にシリンダとの摺動点となる頂点24が下側に下がったことによるモーメント力を抑制してサイドレール11´の傾きを防止している。
【0042】
なお、内周上側部25及び内周下側部26は、内周上側円弧部Ru及び内周下側円弧部Rlを単一の半径Rを有する場合に限らず、例えば、図9に示すように、内周上側部25と内周下側部26とが連続する位置に直線部27を形成しても構わない。また、非対称形状とすることで、内周側の当接点Piu及びPilを下げることができれば、例えば、内周上側部25は、テーパ形状として、サイドレール11´の内周側の形状を所謂ベベル形状としても構わない。
【0043】
なお、本実施形態に係る組合せオイルリング10´に用いられるサイドレール11´は、耳部16a,16bと当接する内周側形状が円弧形状を含む形状となっているため、サイドレール11´の内周側と耳部16a,16bとはより広い面接触となることから、スペーサエキスパンダ12´の耳部16a,16bへの攻撃性が低減し、当該耳部16a,16bの摩耗を軽減することができる。
【実施例
【0044】
次に、本発明を更に具体的に説明するために、実施例及び比較例を挙げて、本実施形態に係る組合せオイルリング10,10´について機能試験を実施した。機能試験は、排気量2.5リットル直列4気筒の自動車用ガソリンエンジンを用いて行った。試験条件は、エンジン回転数6000r/min、WOT(ワイドオープンスロットル)にて従来例と本発明に係る組合せオイルリングでのオイル消費量(LOC)を測定し、従来例値が1となるように相対比率で確認を行った。
【0045】
図11は、第1の実施形態に係る組合せオイルリング10と従来のオイルリングにおけるオイル消費量を比較した測定結果であり、図12は、第2の実施形態に係るオイルリング10´と従来のオイルリングにおけるオイル消費量を比較した測定結果である。
【0046】
第1圧力リング及びオイルリングのサイドレールの外周面には、Cr-Nからなるイオンプレーティング皮膜を形成した。オイルリングの外周面は、イオンプレーティング皮膜を形成した後、ラッピング処理を行い、外周面凸部とテーパ部が滑らかになるように形成した。
【0047】
なお、その他の試験条件は以下の通りである。
ピストンボア径:87.5mm,
回転数:6000r/min,
ピストンストローク:103.4mm,
サイドレール半径方向の厚み:1.70mm,
サイドレール軸方向の厚み:0.35mm,
サイドレールの外周角度θ:10°,
オイルリング軸方向幅:2.0mm。
【0048】
また、実施例1は、スペーサエキスパンダの耳角度をそれぞれ上側傾斜面の傾斜角度を2°、下側傾斜面の傾斜角度を7°に設定し、実施例2は、スペーサエキスパンダの耳角度をそれぞれ上側傾斜面の傾斜角度を18°、下側傾斜面の傾斜角度を23°に設定し、実施例3は、スペーサエキスパンダの耳角度をそれぞれ上側傾斜面の傾斜角度を5°、下側傾斜面の傾斜角度を20°に設定し、比較例1は、スペーサエキスパンダの耳角度をそれぞれ上側傾斜面の傾斜角度を18°、下側傾斜面の傾斜角度を15°に設定し、比較例2は、スペーサエキスパンダの耳角度をそれぞれ上側傾斜面の傾斜角度を23°、下側傾斜面の傾斜角度を30°に設定し、比較例3は、スペーサエキスパンダの耳角度をそれぞれ上側傾斜面の傾斜角度を0°、下側傾斜面の傾斜角度を5°に設定した。従来例1は、スペーサエキスパンダの耳角度を上側傾斜面の傾斜角度及び下側傾斜面の傾斜角度ともに10°に設定した。
【0049】
図11に示すように、上側傾斜面の傾斜角度を下側傾斜面の傾斜角度よりも小さく形成すると、実施例1や実施例2から明らかなように、オイル消費量比が5%~10%程度良好となることが確認できた。さらに、上側傾斜面の傾斜角度と下側傾斜面の傾斜角度の差を15°とすることで、オイル消費量比を従来に比べて約20%良好となることが確認できた。
【0050】
これに対し、比較例1のように、上側傾斜面の傾斜角度を下側傾斜面の傾斜角度よりも大きく形成すると、下側のサイドレールの分力が小さいため、下側のサイドレールがより傾き、オイルリング溝にオイルが入りやすくなるため10%程度の増加となった。また、比較例2のように、上側傾斜面の傾斜角度が23°、下側傾斜面の傾斜角度が30°とした場合に、傾斜面の傾斜角度が大きくなることは、傾斜面の軸方向分力は大きくなるが、上側のサイドレールと下側のサイドレールの軸方向分力の差が小さくなってしまうことから傾き防止の効果も出にくくなる。また、傾斜面の傾斜角度を大きくすることは高速回転時のオイル消費を増加させるため、角度を大きくするだけでは解決することはできず従来例に対してオイル消費量比は、増加することが確認できた。また、比較例3のように、上側傾斜面の傾斜角度が0°、下側傾斜面の傾斜角度が5°とした場合には、傾斜面の軸方向分力が小さく、高速での往復運動によるサイドレールの慣性力の影響が大きくなり、下側のサイドレールの傾きが大きくなるため、オイルリング溝にオイルが入りやすくなり10%程度増加することが確認できた。
【0051】
次に、実施例4は、サイドレールの内周側の当接面をピストンの水平方向と略平行な中心線について非対称の形状とし、内周上側円弧部の曲率半径をR0.11mm、内周下側円弧部の曲率半径をR0.1mmに設定し、実施例5は、内周上側円弧部の曲率半径をR0.13mm、内周下側円弧部の曲率半径をR0.1mmに設定し、実施例6は、内周上側円弧部の曲率半径をR0.165mm、内周下側円弧部の曲率半径をR0.1mmに設定し、実施例7は、内周上側円弧部の曲率半径をR0.2mm、内周下側円弧部の曲率半径をR0.1mmに設定し、従来例2は、内周上側円弧部及び内周下側円弧部の曲率半径をともにR0.1mmに設定してオイル消費量を比較した。
【0052】
図12に示すように、内周上側円弧部の曲率半径を内周下側円弧部の曲率半径よりも大きく形成すると、従来と比較してオイル消費量比を低減することができ、特に、実施例5では、約35%、実施例6及び実施例7では、約50%のオイル消費量の低減を確認することができた。
【0053】
なお、上述した本実施形態に係る組合せオイルリング10,10´のサイドレール上面21には、図示しない表裏判別手段としての凹部などが形成されても構わない。この凹部は、サイドレール上面21が判別することができればよいので、サイドレール上面21に環状に形成しても構わないし、点状に形成しても構わない。なお、凹部の形成方法は、サイドレールにプレス、打刻又はレーザー加工によって形成しても構わないし、例えばロール引きやダイス引き等の線材の引き抜き加工と同時に形成しても構わない。また、凹部を設けずにサイドレール上面21又は下面22に断続的又は連続的なペイントを塗布しても構わないし、上面21又は下面22のいずれか一方の表面粗さを変えて、例えば上面21を平滑に処理すると共に、下面22を粗く処理することで触感によって表裏判別するように形成しても構わない。この場合、視覚による判別に依らない為、作業場の明るさが十分でない場合であっても確実に表裏判別を行うことができる。
【0054】
また、上述した本実施形態に係る組合せオイルリング10,10´は、サイドレールの外周面に硬質炭素皮膜(DLC:Diamond Like Carbon)などの表面処理を施してもしても構わない。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれうることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0055】
1 シリンダ, 2 ピストン, 3 オイルリング溝, 10,10´ 組合せオイルリング, 11,11´ サイドレール, 12,12´ スペーサエキスパンダ, 16 耳部, 16a 上側耳部, 16b 下側耳部, 19 サイドレール支持部, 21 サイドレール上面, 21a 上側傾斜面, 21b
下側傾斜面, 22 サイドレール下面, 23 外周面, 24 頂点, 25 内周上側部, 26 内周下側部, θ1 上側傾斜面の傾斜角度, θ2 下側傾斜面の傾斜角度, Δθ 傾斜角度の差, C 中心線, Piu 内周上側円弧部, Pil 内周下側円弧部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12