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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】皮膚の歪み測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/16 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
G01B11/16 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021156454
(22)【出願日】2021-09-27
(62)【分割の表示】P 2017005886の分割
【原出願日】2017-01-17
(65)【公開番号】P2021192065
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 志洋
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 崇訓
【審査官】續山 浩二
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-193197(JP,A)
【文献】特表2009-518125(JP,A)
【文献】特開2008-302101(JP,A)
【文献】特開平10-043141(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0125030(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0123647(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0076932(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0022665(US,A1)
【文献】国際公開第2016/076140(WO,A1)
【文献】特開2004-048812(JP,A)
【文献】特開2010-198382(JP,A)
【文献】特開2015-062569(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる複数の肌理が共有する交点を線で結んで形成された形状である幾何学的パターンを撮像した第1撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、
前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、
前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンとを解析し、前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、を含み、
前記第1撮像データ及び前記第2撮像データは、
前記肌理の個々が分離可能な解像度の高解像度データと、撮像の対象者の表情の変化が識別可能な広範囲画像データと、を含み、
前記第1撮像データ取得工程および前記第2撮像データ取得工程は、前記高解像度データと前記広範囲画像データとを対応づけて記録することを特徴とする皮膚の歪み測定方法。
【請求項2】
前記変位検出工程は、
前記第1撮像データの一定の領域内にある複数の交点の全体と、前記第2撮像データの全域一定の領域内にある複数の交点の全体との差分を抽出することを特徴とする請求項1に記載の皮膚の歪み測定方法。
【請求項3】
前記変位検出工程は、
前記第1撮像データが示す複数の交点の分布状態と、前記第2撮像データが示す複数の交点の分布状態との差分を抽出することを特徴とする請求項1または2に記載の皮膚の歪み測定方法。
【請求項4】
前記幾何学的パターンは、シワ、ホクロ、アザ、ソバカス及び毛穴の少なくとも1つをさらに含み、
前記変位検出工程は、複数種類の前記幾何学的パターンを解析することを特徴とする請求項1から3何れか1項に記載の皮膚の歪み測定方法。
【請求項5】
皮膚に光を照射する光照射部と、
皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる複数の肌理が共有する交点を線で結んで形成された形状である幾何学的パターンを撮像して得られる第1撮像データと、前記皮膚の少なくとも表面に加わる力が変化した後に前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像して得られる第2撮像データと、を作成する撮像部と、
前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンとを解析し、前記力の変化の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出部を有する歪み測定装置と、を備え、
前記第1撮像データ及び前記第2撮像データは、
前記肌理の個々が分離可能な解像度の高解像度データと、撮像の対象者の表情の変化が識別可能な広範囲画像データと、を含み、
前記第1撮像データおよび前記第2撮像データを前記高解像度データと前記広範囲画像データと対応づけて記録する記録部をさらに備えることを特徴とする皮膚の歪み測定システム。
【請求項6】
前記広範囲画像データは、前記撮像の対象者の片方のみの目が撮像されたデータであることを特徴とする請求項5に記載の皮膚の歪み測定システム。
【請求項7】
前記高解像度データは、前記幾何学的パターンを目視によって確認できる解像度であることを特徴とする請求項5または6に記載の皮膚の歪み測定システム。
【請求項8】
前記撮像部は、デジタルカメラであり、
前記デジタルカメラの感度波長帯域は、380nm以上1500nm以下とすることを特徴とする請求項5から7何れか一項に記載の皮膚の歪み測定システム。
【請求項9】
前記撮像部は、デジタルカメラであり、
前記デジタルカメラのフレームレートは、100fps以上とすることを特徴とする請求項から8何れか一項に記載の皮膚の歪み測定システム。
【請求項10】
前記第2撮像データは、
前記皮膚の少なくとも表面に加わる力が変化しなくなったタイミングに前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像したデータであることを特徴とする請求項から9何れか一項に記載の皮膚の歪み測定システム
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚に加えられた比較的弱い力によって生じる皮膚表面の歪みを測定する皮膚の歪み測定方法、皮膚状態の判定方法、皮膚の歪み測定装置及び皮膚の歪み測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、皮膚に力が加えられた際に生じる皮膚の歪みを測定することが様々な場面で要求されている。例えば、特許文献1には、ヒゲ剃り時の皮膚の歪みの光学測定方法が記載されている。この測定方法では、頬にカミソリを押し当ててヒゲをそる際の皮膚の変形(歪み)が検出される。ヒゲをそる際の皮膚の歪みを検出することは、カミソリの挙動やカミソリが皮膚に与える作用を定量的に把握することができるので、カミソリの設計条件を最適化し、その性能を高めることに有効である。特許文献1には、被験者の皮膚に複数のドットを転写し、ヒゲ剃り前とヒゲ剃り動作の完了時とでドットの位置を比較することによって皮膚の歪みを検出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2010-517010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、化粧品、医薬部外品及び医薬品等の分野では、カミソリを押し当てるよりも更に弱い力による皮膚の歪み検出することが必要となる。本明細書において、「弱い力」とは、皮膚に触ることなく作用する力であって、「弱い力によって生じる皮膚の歪み」とは、例えば、目を瞑る、口角を上げる、目を細める等の表情の変化によって皮膚に生じる歪みを指すものとする。このような弱い力によって生じる歪みは、皮膚感覚に影響し、化粧品等を使用した際の皮膚に生じる「乾燥感」あるいは「つっぱり感」といった使用感に作用するものと考えられている。このことから、化粧品等の分野では、上記した特許文献1に記載の歪みよりも小規模な歪みを検出することが求められている。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、皮膚感覚に影響する規模の皮膚の歪みを検出することができる、皮膚の歪み測定方法、皮膚状態の判定方法、皮膚の歪み測定装置及び皮膚の歪み測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の皮膚の歪み測定方法は、皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像した第1撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンとを解析し、前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、を含むことを特徴とする。
本発明の皮膚の歪み測定方法は、皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得する工程と、前記皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付加工程と、を含み、前記パターン付加工程は、前記幾何学的パターンの大きさに応じた寸法形状のドットを複数含む付加パターンを前記皮膚に付加することを特徴とする。
【0006】
本発明の皮膚状態の判定方法は、皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像した第1撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンとを解析し、前記皮膚の状態を判定する判定工程を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の皮膚歪み測定装置は、皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像して得られる第1撮像データと、前記皮膚の少なくとも表面に加わる力が変化した後に前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像して得られる第2撮像データと、を入力する入力部と、前記入力部から入力された前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンとを解析し、前記力の変化の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出部と、を有することを特徴とする。
本発明の皮膚歪み測定システムは、皮膚に光を照射する光照射部と、皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像して得られる第1撮像データと、前記皮膚の少なくとも表面に加わる力が変化した後に前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像して得られる第2撮像データを作成する撮像部と、前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンとを解析し、前記力の変化の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出部を有する皮膚の歪み測定装置と、を含むことを特徴とする、皮膚の歪み測定システム。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、皮膚感覚に影響する規模の皮膚の歪みを検出することができる、皮膚の歪み測定方法、皮膚状態の判定方法、皮膚の歪み測定装置及び皮膚の歪み測定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態の皮膚の歪み測定方法のフローチャートである。
図2】第1実施形態の第1撮像データ及び第2撮像データを説明するための図である。
図3】第1実施形態の広範囲画像データを説明するための図である。
図4】第1実施形態の開眼状態の測定点、閉眼状態の測定点を例示する図である。
図5】第1実施形態の検出された皮膚の歪みの出力例を示した図である。
図6】第1実施形態の皮膚の歪み測定システムを説明するための図である。
図7】第1実施形態の歪み測定装置の機能ブロック図である。
図8】第3実施形態のドットパターンを示した図である。
図9図8に示したドットパターンを使って検出した歪みを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様の構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0011】
[第1実施形態]
(概略)
先ず、本発明の第1実施形態の説明に先立って、本発明の概略について説明する。
第1実施形態は、特に被験者の顔の皮膚に生じる歪みを検出する例を挙げて本発明の皮膚の歪み測定方法を説明する。第1実施形態は、顔の表情を変化させた際に生じる皮膚の小規模な歪みを検出することを目的としており、このために、より大規模な皮膚の歪みを検出する場合よりも多数かつ高密度の測定点を測定することが必要となる。なお、測定は、皮膚上で定められた測定点の位置を表情の動きの前後で比較し、その移動量や移動の方向を特定することによって行われる。なお、本発明では、測定点の位置の移動量や移動の方向を「変位」と記す。そして、本発明でいう「歪み」は、複数の測定点の変位を重ね合わせた変位全体を指すものとする。
上記のように歪みを定義すると、歪みの精度は、測定点の数はより多く、かつ高密度であるほど高くなる。多数、かつ高密度の測定点を得るため、第1実施形態では、測定点を被験者の皮膚が生来持っている幾何学的なパターンを使用する。なお、ここでいう幾何学的なパターンとしては、前記した特許文献1に記載のドットのパターンよりも各ドットが小規模で、多数かつ高密度の測定点を得ることができるものが選択される。このような第1実施形態によれば、検出値が小さくても検出値に対するノイズを低減し、小規模の皮膚の歪みを高精度に検出することができる。
【0012】
(皮膚の歪み測定方法)
以下、第1実施形態の皮膚の歪み測定方法について説明する。
第1実施形態の皮膚の歪み測定方法は、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像して第1撮像データを取得する第1撮像データ取得工程を有している。「皮膚の状態に由来して表れる」とは、被験者の皮膚の水分量、皮脂量、粘弾性等の状態に応じて皮膚表面に表れる色や形状的な特徴をいい、人為的に付加されたパターンを除くことを意味している。「幾何学的パターン」とは、被験者の顔の正面視において、線を含んで形成された形状が目視によって確認できるパターンを指す。このようなパターンとしては、例えば、皮膚の肌理やシワ、シミ、ホクロ、アザ、ソバカス及び毛穴等を用いることが考えられる。第1撮像工程では、肌理等を被験者の顔の正面から撮像した第1撮像データが取得される。
また、第1実施形態の皮膚の歪み測定方法は、皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像して第2撮像データを取得する第2撮像データ取得工程を含んでいる。ここで、「皮膚の少なくとも表面に加わる力」とは、皮膚の表面に加わった力の他、被験者が例えば表情を変化させるために皮膚の内部の筋肉に加えた力を含んでもよいことを指す。また、「力の変化後」とは、皮膚の表面に何らかの力が加わっている任意のタイミングを変化前とし、この力が変化する過程における任意のタイミング、あるいは力が変化しなくなったタイミングをいう。第2撮像工程では、被験者の皮膚の表面に加わっている力が変化している間、あるいは変化が終了したタイミングで肌理等を被験者の顔の正面から撮像した第2撮像データが取得される。
【0013】
さらに、第1実施形態の皮膚の歪み測定方法は、第1撮像データが表す幾何学的パターンと第2撮像データが表す幾何学的パターンとを解析し、力の作用の前後で生じる皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程を含んでいる。解析は、例えば、第1撮像データが示す複数の測定点の分布状態と、第2撮像データが示す複数の測定点の分布状態とを比較して、両者の差分を測定するものであってもよい。また、両者の差分を複数の方向の成分毎に検出し、それぞれの差分を検出してもよい。さらに、第1実施形態では、検出された差分を変位とし、差分が離れているほど変位が大きいと判定するものであってもよい。このような変位の検出は、例えば、画像相関法等の公知の技術によって実現することができる。第1実施形態でいう「歪み」は、上記検出された変位を重ね合わせて算出される。なお、画像相関法の具体的な内容は、例えば、下記の参考文献等に記載されているため、これ以上の説明を省くものとする。
[参考文献]デジタル画像相関法のひずみ計測向上に関する基礎的研究,土木学会論文集 A2(応用力学), Vol. 68, No. 2 (応用力学論文集 Vol. 15), I_683-I_690, 2012.
【0014】
図1から図4は、上記の皮膚の歪み測定方法を説明するための図であって、図1は皮膚の歪み測定方法のフローチャートである。図2は、第1撮像データ及び第2撮像データを説明するための図である。図3は、図2に示した第1撮像データ及び第2撮像データの解析の一例を説明するための図であり、図4は、図3に例示した解析の結果を説明するための図である。なお、第1実施形態では、皮膚の表面に現れる幾何学パターンとして皮膚の肌理を用い、皮膚にかかる力を、被験者が目を開けた開眼状態から目を閉じた閉眼状態になることによって生じるものとした。さらに、第1実施形態は、第1撮像データ、第2撮像データの解析を、二次元の画像相関法を使って行うものとした。ただし、第1実施形態は、二次元の画像相関法を用いて画像データを解析するものに限定されず、三次元の画像相関法を用いて解析を行ってもよいし、他の計算方法を用いてもよい。
図1のフローチャートに示すように、第1実施形態では、先ず、開眼状態の被験者の皮膚を撮像した第1撮像データを取得する(S11)。次に、皮膚を撮像した実験者が被験者を閉眼させ(S12)、閉眼状態の被験者の皮膚を撮像した第2撮像データを取得する(S13)。
【0015】
図2(a)、図2(b)、図2(c)及び図2(d)は、以上の処理を説明するための図である。図2(a)は、被験者Sの領域Aを説明するための図である。第1実施形態の歪み測定方法では、撮像によって得た画像の全体を一定の面積を有する複数の領域に分割する。図2に示した領域Aは、複数の領域の1つである。図2(b)は、領域Aの第1撮像データである。図2(c)は、領域Aの第2撮像データである。図2(a)、図2(b)に示すように、第1撮像データ、第2撮像データは、グレースケールの画像データである。第1実施形態の変位検出工程では、このような皮膚の状態によって生じる画像特徴量の相違に基づいて、第1撮像データ及び第2撮像データから幾何学的パターンを検出する。なお、ここで画像特徴量とは、例えば、輝度等がある。ただし、第1実施形態でいう画像特徴量は、輝度に限定されるものでなく、色に係る成分や画像のエッジ量等を用いることも考えられる。
【0016】
上記したように、第1実施形態では、幾何学的パターンとして、皮膚の表面の肌理を検出している。図2(b)、図2(c)に示すように、第1撮像データ、第2撮像データのいずれにも、被験者の皮膚の肌理が線状になって表れている。第1実施形態では、肌理を表す線に囲まれた最小の領域を用いて幾何学パターン(以下、単に「パターン」と記す)を検出する。第1実施形態では、第1撮像データの一定の面積を有する領域内の複数の肌理全体をパターンPo、第2撮像データの一定の面積を有する領域内の複数の肌理全体をパターンPcと記す。第1実施形態では、パターンPoを撮像することによって肌理の輝度分布情報を得ることができる。また、パターンPcを撮像することによって被験者Sが表情を変化させた後の肌理の輝度分布情報を得ることができる。皮膚の歪みは、被験者Sの表情の変化で生じる輝度分布情報の差分によって算出される。図2(b)中の点線で囲まれた部位は、図2(c)中の実線で囲まれた部位と同一部位であり、被験者Sの閉眼によって変形している。ここでは、変形が、図2(d)に示すように、パターンPoが基準点を中心にして図中の斜め右上に向かう方向(ベクトルv)で示す方法に引っ張られるように発生している。
【0017】
第1実施形態では、図2)、図2)に示したように、第1撮像データ及び第2撮像データが、肌理の個々が分離可能な解像度の高解像度データである。さらに、第1実施形態では、第1撮像データ及び第2撮像データの少なくとも一方が、高解像度データよりも広範囲を撮影する広範囲画像データを含んでいる。ここでは、第1撮像データ及び第2撮像データの両方が広範囲画像データを含むものとして説明する。第1実施形態の広範囲データは、被験者の表情の変化が識別可能な画像であって、例えば被験者が開眼している、または閉眼していることが分かるものであればよい。
図3(a)及び図3(b)は、広範囲画像データを説明するための図である。図3(a)は、開眼状態の広範囲画像データ、つまり第1撮像データの広範囲画像データを示し、図3(b)は、閉眼状態の広範囲画像データ、つまり第2撮像データの広範囲画像データを示している。このように、第1撮像データ及び第2撮像データが高解像度データと広範囲画像データの両方を含むのは、開眼状態と閉眼状態とで肌理の状態を比較すると共に、開眼状態、閉眼状態と皮膚の肌理との対応を確認することを目的とするものである。
より具体的には、図)に示した解像度の第1撮像データには被験者Sの皮膚のみが写っているが、図3(b)に示した低解像度の第2撮像データには被験者Sの皮膚と共に、閉眼状態であることを示す閉じた状態の瞼が写っている。第1実施形態では、図1に示したS11において、広範囲の第1撮像データと図2(b)に示した高解像度の第1撮像データとを取得すると共に、両者を対応付けて記録する。また、図1に示したS1において、広範囲の第2撮像データと図2(c)に示した高解像度の第2撮像データとを取得すると共に、両者を対応付けて記録する。このようにすることにより、第1実施形態は、高解像度の撮像データが開眼状態の第1撮像データであるか、閉眼状態の第2撮像データであるかを誤りなく判定することができる。







【0018】
図1に戻り、第1実施形態では、次に、変位検出工程が実行される(S14)。S14では、第1撮像データ及び第2撮像データを画像相関法によって解析する。S14においては、先ず、第1撮像データ及び第2撮像データからそれぞれパターンPo、パターンPcを抽出する。そして、パターンPo、パターンPcに基づいて、測定点Do、測定点Dcを決定する。
図4(a)、図4(b)及び図4(c)は、測定点Do、測定点Dcを例示する図である。図4(a)は、被験者Sの領域Aを示す図であって、図4(b)は開眼状態の測定点Doを示し、図4(c)は、開眼状態の測定点Dcを示している。図4(b)及び図4(c)によれば、第1実施形態の測定点Do、測定点Dcが複数(4つ)の肌理が共有する交点であることが分かる。図4(a)、図4(b)では、パターンPo、パターンPcと測定点Do、測定点Dcの関係を見やすくするため、パターンPo、パターンPcを模式的に示している。
ただし、第1実施形態の測定点Do、測定点Dcは、肌理による線と線の交点に限定されるものでなく、肌理に基づくものであればどのように決定されるものであってもよい。他の例としては、例えば、肌理を構成する線上の点を測定点とする、あるいは肌理を形作る線が囲む領域内の点を測定点とすることが考えられる。
S14においては、第1撮像データの一定の領域内にある複数の測定点Doの全体と、第2撮像データの一定の領域内にある複数の測定点Dcの全体との差分を抽出し、差分の大きさに応じて皮膚の歪みを検出する。
【0019】
次に、第1実施形態の皮膚の歪み測定方法では、図1のS15のように、検出された皮膚の歪みが出力される。図5(a)、図5(b)及び図5(c)は、検出された皮膚の歪みの出力の一例を示した図である。図5(a)は、皮膚の歪みの測定範囲を示す図である。図5(b)は、被験者Sが閉眼状態であるときに検出された皮膚の最大主歪みを示している。図5(c)は、被験者Sが開眼状態であるときに検出された皮膚の最小主歪みを示している。図5(b)、図5(c)のいずれにおいても、縦軸、横軸、縦軸及び横軸に直交する軸は皮膚の各方向の位置を表し、皮膚の色の濃淡が皮膚の歪みの程度を示している。図5(b)及び図5(c)に示した例では、皮膚の歪みを皮膚の伸張(tensile)及び圧縮(compressive)に変換して示していて、色が濃いほど伸張または圧縮の程度が大きいことを示している。さらに図5(b)及び図5(c)を多色で表せば、伸張と圧縮とをそれぞれ異なる色合いで表し、歪みの大きさばかりでなく、その特性(圧縮、伸縮)をも表すことができる。
なお、第1実施形態では、被験者Sの皮膚に力が作用したことによって予め定められた基準点と測定点の差分が力の作用以前よりも大きくなった場合に皮膚が伸張する方向に歪んだものとする。また、被験者Sの皮膚に力が作用したことによって基準点と測定点の差分が力の作用以前よりも小さくなった場合に皮膚が圧縮する方向に歪んだものとする。
図5(b)及び図5(c)によれば、閉眼状態においては被験者Sの瞼に伸張方向の歪みが発生し、開眼状態においては目の下に僅かに圧縮方向の歪みが生じることが分かる。
また、第1実施形態は、図5(b)、図(c)のように、皮膚の伸長や圧縮のマップによって歪みを表す構成に限定されるものではない。歪みは、例えば測定点の変位量を画素数や長さで表すものであってもよいし、変位量を示す画像中の図形の長さ、大きさ及び形状によって表すものであってもよい。また、歪みは、マップ状に表すものに限定されず、皮膚上の位置と変位とを対応付けるテーブル等によって表すこともできる。さらに、歪みと皮膚上の位置との間に規則性が見られる場合、位置をパラメータにした数式によって歪みを表すことも考えられる。
【0020】
(皮膚の歪み測定システム)
次に、以上説明した第1実施形態の皮膚の歪み測定方法を実現するための歪み測定システムを説明する。
図6は、第1実施形態の皮膚の歪み測定システムを説明するための図である。図6に示す皮膚の歪み測定システムは、被験者Sが机51を前にして図示しない椅子に座り、机51を挟んで被験者Sに光を照射しながら撮像する。このため、第1実施形態の皮膚の歪み測定システムは、皮膚に光を照射する光照射部であるLED(Light Emitting Diode)ライト55、LEDライト56及び集光レンズを備えたLEDライト57を備えている。LEDライト55及びLEDライト56は、被験者Sを含む周辺に光を照射し、LEDライト57は、LEDライト55及びLEDライト56の照射した光を集光して被験者Sの皮膚の歪みの検出範囲に集中的に光を照射する。また、本実施形態は、第1撮像データと第2撮像データの高解像度データを作成する撮像部であるカメラ58、広範囲画像データを作成するカメラ59を備えている。
【0021】
カメラ58及びカメラ59は、デジタルカメラであって、デジタルカメラの感度波長帯域は、肌理のような微細な構造を観察する観点から、380nm以上が好ましく、400nm以上がより好ましく、1500nm以下が好ましく、750nm以下がより好ましい。また、デジタルカメラのフレームレートは100fps以上が好ましく、200fbs以上がより好ましい。また、LEDライト55、LEDライト56及び集光レンズを備えたLEDライト57が照射する光の波長は、380nm以上が好ましく、400nm以上がより好ましい。
このような数値は、LEDライト55及びLEDライト56から照射された光が被験者Sに照射されることによって規定される。このような点に考慮して、第1実施形態は、LEDライト55及びLEDライト56が照射する光の波長の適正な範囲を設定した。また、カメラ58及びカメラ59の感度波長帯域は、LEDライト55及びLEDライト56が照射する光の波長に対応して定められている。
さらに、カメラ58及びカメラ59のフレームレートは、瞬き等の表情の変化の開始から終了までの間に生じる皮膚の動きに追従できる範囲であればよい。ただし、フレームレートが高い場合、表情の変化の過程での皮膚の動きを詳細に観察できる一方、測定点が増加して処理に負荷がかかることになる。このため、カメラ58及びカメラ59のフレームレートは、観察対象となる表情の動きに追従できる最小限であってもよい。
【0022】
また、第1実施形態の皮膚の歪み測定システムは、第1撮像データが表す幾何学的パターンと第2撮像データが表す幾何学的パターンとを解析し、力の変化の前後で生じる皮膚の表面の変位を検出する変位検出部を有する歪み測定装置を備えている。第1実施形態では、このような演算処理を実現するプログラムをインストールした汎用的なパーソナルコンピュータ(以下、「PC」と記す)6を歪み測定装置として使用する。図5に示したように、PC6は、本体61及びディスプレイ65を備えている。また、PC6には、実験者がPC6にデータやコマンドを入力するためのユーザインターフェース66が接続されている。
本体61は、演算処理を実現するために必要な公知の構成であり、ユーザインターフェース66から入力されたデータ等を受け付ける入力インターフェース(図示せず)、演算に必要なプログラムやデータを記憶する記憶用のメモリ(図示せず)、演算を実行するCPU(Central Processing Unit,図示せず)、CPUの動作に必要なワーキングメモリ(図示せず)及び演算処理の結果得られたデータをディスプレイ65に出力する出力インターフェース(図示せず)等を備えている。
第1実施形態では、入力インターフェースから第1撮像データ及び第2撮像データが入力される。入力された第1撮像データ及び第2撮像データは、いったん記憶用メモリに記憶され、ワーキングメモリ上でCPUにより差分が検出される。検出された差分は、さらに演算処理されて皮膚の歪みを示すデータに変換された後に出力インターフェースを介してディスプレイ65に出力される。
【0023】
図7は、PC6の機能ブロック図である。図6の機能ブロック図は、上記した動作を実現するためのハードウェア及びCPUの機能を抽出して示している。PC6は、上記したように、本体61とディスプレイ65とを備えている。本体61は、第1撮像データ及び第2撮像データを入力する撮像データ入力部62と、入力された第1撮像データが表す幾何学的パターンと第2撮像データが表す幾何学的パターンとを解析し、皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に生じる皮膚の表面の変位を検出する変位検出部である解析部63と、を有している。さらに、第1実施形態の本体61は、検出された変位を例えばマップ状にして示す画像を形成する画像形成部64を備えている。画像形成部64によって形成された画像は、ディスプレイ65に出力される。
第1実施形態では、解析部63が、画像相関法によって皮膚の表面の変位を検出する。このため、第1実施形態は、図6に示したように、カメラ58で高解像度データを、カメラ59で同一の被験者Sのより広範囲な部位を撮像している。カメラ58で撮影する範囲は、局所的であり2次元の画像相関法を用いた。
【0024】
以上説明したように、第1実施形態は、被験者Sが生来持っている例えば肌理等の肌表面のパターンを使って皮膚の歪みを検出することができる。肌表面のパターンには被験者Sの表情の変化に伴って変位する程度に小さく、多数分布するものがある。このため、第1実施形態は、多数の測定点を得ることができて表情の変化等による微小な力の作用による皮膚の歪みを高い精度で検出することができる。
さらに、第1実施形態は、前記した特許文献1のように皮膚の表面にパターンを人為的に付与する必要がない。このため、異物が付与されたことによる皮膚表面への影響がない状態で皮膚の歪みを検出することができる。
なお、第1実施形態は、以上説明した構成に限定されるものではない。例えば、測定点は皮膚の肌理に基づいて決定されるものに限定されず、個々の肌理そのものであってもよい。このような場合、皮膚の歪みは、開眼状態の測定点と閉眼状態の測定点との差分によって検出されるものに限定されず、開眼状態の肌理の形状と閉眼状態の肌理の形状の相違によって検出することも可能である。
さらに、第1実施形態は、肌理やシミといった一種類のパターンのみを使って皮膚の歪みを検出するものでなく、肌理及びシミといった複数のパターンを併用して皮膚の歪みを検出するものであってもよい。
【0025】
[第2実施形態]
(皮膚状態の判定方法)
次に、本発明の第2実施形態の皮膚状態の判定方法を説明する。第2実施形態の皮膚の状態の判定方法は、皮膚の状態を判定する判定工程を含み、この判定工程は、第1実施形態のS14の変位検出工程と検出の手法のみが相違する。このため、第2実施形態のフローチャート及び装置構成の図示と、その説明の一部とを省略する。
第2実施形態では、解析部が、被験者Sの表情の変化等による皮膚の歪みを歪みそのものとして検出することに限定されず、他のパラメータとして検出することができる。他のパラメータとしては、例えば、変位した測定点が表情の変化後に変化前の位置あるいは状態に戻るまでの時間や、測定点の変位量の大小、各肌理の変形量や変形の方向等が考えられる。
【0026】
さらに、第2実施形態は、上記のパラメータに基づいて、皮膚の状態に由来する物理量及び感覚量の少なくとも1つを取得する量取得工程をさらに含むものであってもよい。皮膚に由来する物理量とは、皮膚の硬さ、弾性、粘性、乾燥、皮脂及び水分量の状態等が考えられる。このとき、例えば、皮膚の硬さは、測定点の変位の大小から推定することが考えられる。また、皮膚表面の弾性や粘性は、変位した測定点が元の位置あるいは状態に戻るまでの時間から推定することが考えられる。また、乾燥、皮脂及び水分量の状態等は、このような推定値に基づいてさらに推定することができる。
また、感覚量としては、被験者Sが感じる主観的な乾燥感や皮膚がつっぱる感触であるつっぱり感がある。感覚量は、被験者Sに皮膚の乾燥感やつっぱり感等を被験者Sに質問することによって回答として取得する。そして、その回答と皮膚のパラメータとを対応付けることにより、皮膚がどのような状態にあるときに被験者Sがどのような感触を得るのかを判定することができる。なお、このような被験者Sが感じる皮膚の感覚は、第2実施形態のパラメータと対応付けることに限定されず、第1実施形態で測定された皮膚の歪みと対応付けてもよい。
【0027】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態の皮膚の歪み測定方法を説明する。第3実施形態の皮膚の歪み測定方法は、第1実施形態の皮膚の歪み測定方法に、皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付加工程を加えたものである。さらに、第3実施形態では、第1撮像データ取得工程においてさらに付加パターンを撮像した第3撮像データを取得し、第2撮像データ取得工程において、さらに付加パターンを撮像した第4撮像データを取得し、変位検出工程は、第1撮像データ及び第2撮像データの幾何学的パターンと共に第3撮像データ及び第4撮像データの付加パターンを解析するものである。第3実施形態では、このようなフローチャート及び装置構成の図示と、その説明の一部とを省略する。
第3実施形態は、皮膚の表面に付加パターンを付加し、肌理等のパターンと付加パターンとを併せて利用して皮膚の歪みを検出する。第3実施形態によれば、第1実施形態よりもさらに多数の測定点を使って高精度に皮膚の歪みを検出することができる。
第3実施形態では、付加パターンを、人体に影響を及ぼさないインクを噴霧器等によって噴霧することによって被験者Sに付加するものとした。噴霧器のノズルの端部の断面が円形である場合、付加パターンは、ノズルの径に応じた大きさの円形形状のパターン(以下、「ドット」と記す)となる。また、第3実施形態では、複数のドットを含むドット群で形成されるパターンの全体を、以降「ドットパターン」と記す。
【0028】
また、肌理等のパターンと併せてドットパターンを皮膚の歪みの検出に利用する場合、ドットには、皮膚の肌理と同程度の面積を有するものが用いられる。ここで、皮膚の肌理と同程度とは、例えば、ドットパターンが付加される被験者Sの肌理中の皮丘部の1/10以上、10倍以下の面積を指す。このとき、第3実施形態では、被験者Sの皮膚を撮像し、皮膚の皮丘部の平均的な面積を判定しておく。そして、判定された皮丘部の面積と同程度になるようにノズルの径や噴霧時の被験者とノズルとの距離及び噴霧の圧力といった条件を設定して被験者にドットパターンを付加してもよい。
なお、皮丘部とは、肌理の構成要素の一つであって、肌理は、皮丘部と皮丘部同士の境界に存在する皮溝部とによって構成される。
このようにすれば、第3実施形態は、肌理に基づく測定点とドットパターンに基づく測定点とを凡そ均一な大きさ及び密度にすることができる。そして、均一な大きさ及び密度で配置された測定点に基づいて皮膚の歪みを検出し、皮膚に生じる皮膚の歪みを高精度に検出することができる。測定点の大きさを肌の肌理と同程度にする理由は、日常生活における皮膚の伸縮は皮溝の伸縮によることによる。
【0029】
ところで、皮膚の肌理が細か過ぎる、または粗過ぎるといった理由によって撮像データから肌理由来の幾何学的パターンが検出できない被験者が存在する。このような場合、第3実施形態は、皮膚の状態に由来して皮膚の表面に表れる幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得し、パターン付加工程において、幾何学的パターンの大きさに応じた寸法形状のドットを複数含む付加パターンを皮膚に付加している。つまり、第3実施形態では、例えば、皮膚の肌理が検出できない被験者に対し、皮膚の表面の幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得して皮膚の肌理が細か過ぎて検出できないのか、粗過ぎて検出できないのかを判定する。そして、肌理が細か過ぎて肌理が検出できない被験者に対しては予め設定されている最小のドットを付加し、肌理が粗過ぎて肌理が検出できない被験者に対しては予め設定されている最大のドットを付加するようにする。このようにすれば、皮膚の肌理が検出できない被験者に対しても、被験者の肌理の大きさに応じて皮膚の歪みを検出することができるようになる。
なお、第3実施形態は、被験者の皮膚の肌理の大きさに応じてドットの大きさを決定するものに限定されず、被験者の肌理の大きさによらず一定の大きさのドットを付加するようにしてもよい。このようにすると、歪みの測定結果から被験者の個人差によるばらつきを排除することができる。
【0030】
図8(a)から図8(f)は、ドットの径、ドット数及びドット間距離が異なるドットパターンを示した図である。図8(a)から図8(f)の縦軸はドット径を示し、横軸はドットの数を示している。図8(a)から図8(f)中に示した2つの数値は、いずれもドット径、ドット間距離の順に記載されている。また、ドット径及びドット間距離は、いずれも平均値であって、ドット径は、画像中のドットを円近似した直径の平均値として算出された値である。ドット間距離は、画像中の隣接ドットの中央点間距離の平均値として算出された値である。図8では、図8(a)に示したドットパターンがドット径、ドット間距離が最も大きく、図8(f)に示したドットパターンがドット径、ドット間距離が最も小さくなっている。また、図8(a)から図8(f)にかけて、図8(b)、図8(c)、図8(d)、図8(e)の順でドット径及びドット間距離が小さくなっている。図8(a)から図8(f)においては、各ドットが視認し難いため、ドットパターンのドットの一部を白く示している。なお、第3実施形態において、ドット径とドット数は別々に制御されるものではなく、ドット径が小さいドットパターンはドット数が大きい傾向にある。
【0031】
図9(a)から図9(f)は、図8(a)から図8(f)に示したドットパターンに基づいて検出した歪みをマップ状にして示した図である。図9(a)から図9(f)の縦軸はドット径を示し、横軸はドットの数を示している。図9(a)から図9(f)の各マップでは、縦軸及び横軸は皮膚上の位置を示し、マップの色の濃淡が皮膚の歪みの大きさを示している。図9(a)から図9(f)に示した例では、図9(d)から図9(f)に示した皮膚の歪みが現在の皮膚の歪み検出の分野において「精度が高い」と判定される。このことから、第3実施形態では、少なくともドットのドット径は0.17mm以下が好ましく、ドット間距離は0.29mm以下が好ましいと判断される。
【0032】
また、第3実施形態では、付加パターンがドットパターンであり、ドット群が複数の色のドットを含むようにすることもできる。より具体的には、例えば、赤、青、黄色のドットを均等な密度で被験者Sの皮膚にそれぞれ噴霧した場合について考える。このような場合、被験者Sの顔の領域Aには赤、青、黄色のドットが各々同じ密度で付加されることになる。このとき、例えば、一色または二色(例えば赤、あるいは赤と青等)のドットだけを抽出して測定された皮膚の歪みは、三色のドット全てを抽出して測定された皮膚の歪みよりも皮膚の大局的な歪み(低次の歪み)を表すことになる。そして、三色のドット全てを抽出して測定された皮膚の歪みは、大局的な歪みに加えて皮膚表面の細かな歪みをも含むものになる(高次の歪み)。このことから、三色のドットから測定された歪みを減算すると、高次の歪みのみを検出することが可能になる。なお、このとき、当然のことながら、二色のドットから測定された歪みは、一色のドットから測定された歪みよりも高次の歪みとなる。
また、ドットの色を多色にすると、高密度に配置されているドットの各々が識別し易くなり、測定点を増やすことができる。
色の異なるドットの識別は、解析部63が第1撮像データ及び第2撮像データの解析に際して検出対象となる色のドットだけを抽出して差分を検出することによっても実現できる。また、第1撮像データ及び第2撮像データの撮影の際、ドットの色のいずれか1つに応じた色の光を被験者Sに順次照射して、照射した光の色と異なる色のドットだけが視認される第1撮像データ及び第2撮像データを作成するようにしてもよい。
なお、第3実施形態のドットパターンは、噴霧器で噴霧するものに限定されず、転写や描写によって皮膚に付加されるものであってもよい。さらに、第3実施形態は、円形のドットを使用するものに限定されず、任意の形状を有するドットを使用するものであってもよい。
【0033】
また、第3実施形態では、付加パターンがドットパターンであり、ドット群が赤外線のみもしくは紫外線のみを反射する特殊なドットを含むようにすることもできる。より具体的には、例えば、赤外線のみを反射するドットを付与し、通常のカメラ、赤外線カメラで撮影することにより、通常のカメラではドットに阻害されない被験者の見た目を撮影でき、赤外線カメラでは主にドットのみを撮影することができる。
【0034】
上記実施形態および実施例は以下の技術思想を包含するものである。
<1> 皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像した第1撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンとを解析し、前記力の作用の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出工程と、を含むことを特徴とする皮膚の歪み測定方法。
<2> 前記変位検出工程は、前記皮膚の状態によって生じる画像特徴量の相違に基づいて、前記第1撮像データ及び前記第2撮像データから前記幾何学的パターンを検出する、<1>の皮膚の歪み測定方法。
<3> 前記変位検出工程は、前記幾何学的パターンを、前記皮膚の表面の肌理を用いて検出する、<1>または<2>の皮膚の歪み測定方法。
<4> 前記第1撮像データ及び前記第2撮像データは、前記肌理の個々が分離可能な解像度の高解像度データを含む、<3>の皮膚の歪み測定方法。
<5> 前記第1撮像データ及び前記第2撮像データの少なくとも一方は、撮像の対象者の表情の変化が識別可能な広範囲画像データを含む、<4>の皮膚の歪み測定方法。
<6> 前記皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付加工程をさらに含み、前記第1撮像データ取得工程は、さらに前記付加パターンを撮像した第3撮像データを取得し、前記第2撮像データ取得工程は、さらに前記付加パターンを撮像した第4撮像データを取得し、前記変位検出工程は、前記第1撮像データ及び前記第2撮像データの前記幾何学的パターンと共に前記第3撮像データ及び前記第4撮像データの前記付加パターンを解析する、<1>から<5>のいずれか1つの皮膚の歪み測定方法。
<7> 前記付加パターンは、前記皮膚の肌理と同程度の面積を有する、<6>の皮膚の歪み測定方法。
<8> 前記付加パターンが複数のドットを含むドット群で形成されるパターンであり、前記ドット群は、複数の色のドットを含む、<6>または<7>の皮膚の歪み測定方法。
<9> 皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンの大きさにかかる情報を取得する工程と、前記皮膚の表面に付加パターンを付加するパターン付加工程と、を含み、前記パターン付加工程は、前記幾何学的パターンの大きさに応じた寸法形状のドットを複数含む付加パターンを前記皮膚に付加することを特徴とする、皮膚の歪み測定方法。
<10> 皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像した第1撮像データを取得する第1撮像データ取得工程と、前記皮膚の少なくとも表面に加わる力の変化後に、前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像した第2撮像データを取得する第2撮像データ取得工程と、前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンとを解析し、前記皮膚の状態を判定する判定工程を含むことを特徴とする皮膚状態の判定方法。
<11> 前記判定工程における判定結果に基づいて、前記皮膚の状態に由来する物理量及び感覚量の少なくとも1つを取得する量取得工程をさらに含む、<10>の皮膚状態の判定方法。
<12> 皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像して得られる第1撮像データと、前記皮膚の少なくとも表面に加わる力が変化した後に前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像して得られる第2撮像データと、を入力する入力部と、前記入力部から入力された前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンとを解析し、前記力の変化の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出部と、を有することを特徴とする、皮膚歪み測定装置。
<13> 皮膚に光を照射する光照射部と、皮膚の状態に由来して前記皮膚の表面に表れる幾何学的パターンを撮像して得られる第1撮像データと、前記皮膚の少なくとも表面に加わる力が変化した後に前記皮膚の表面に表れる前記幾何学的パターンを撮像して得られる第2撮像データと、を作成する撮像部と、前記第1撮像データが表す前記幾何学的パターンと前記第2撮像データが表す前記幾何学的パターンとを解析し、前記力の変化の前後で生じる前記皮膚の表面の変位を検出する変位検出装置と、を含むことを特徴とする、皮膚歪み測定システム。
<14> 前記撮像部がデジタルカメラであって、前記デジタルカメラの感度波長帯域が400nm以上、750nm以下である、<13>の皮膚歪み測定システム。
【符号の説明】
【0035】
6・・・PC
51・・・机
55、56・・・LEDライト
57・・・集光レンズ
58、59・・・カメラ
61・・・本体
62・・・撮像データ入力部
63・・・解析部
64・・・画像形成部
65・・・ディスプレイ
66・・・ユーザインターフェース
Pc・・・パターン
Po・・・パターン
S・・・被験者
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9