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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-31
(45)【発行日】2023-04-10
(54)【発明の名称】音響装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/02 20060101AFI20230403BHJP
【FI】
H04R1/02 101B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023003705
(22)【出願日】2023-01-13
【審査請求日】2023-01-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000103138
【氏名又は名称】エムケー精工株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中島 照正
【審査官】辻 勇貴
(56)【参考文献】
【文献】実開昭54-108027(JP,U)
【文献】米国特許第04284166(US,A)
【文献】国際公開第2021/145152(WO,A1)
【文献】特開平08-186886(JP,A)
【文献】特開平06-253383(JP,A)
【文献】特開2017-017628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間を有する筐体と、前部および後部を有するスピーカユニットと、所定の周波数帯域の信号を増幅させる機能を有する信号処理部と、を備える音響装置であって、
前記スピーカユニットは、前記前部が前記筐体外側に向いて、前記後部が前記内部空間内に位置して、前記筐体に取り付けられ、
前記筐体は、一端および他端を有するベントを備え、
前記ベントは、前記ベントの一端が前記筐体外側に向いて開口し、前記ベントの他端が前記内部空間内に位置し、前記ベントの他端に仕切りを有し、前記仕切りに形成された孔を通じて前記内部空間と連通し、前記ベントの一端の周縁部がR状に面取りされ、前記前部側に近い縁部の曲率半径が前記前部側から遠い縁部の曲率半径よりも大きく、
前記筐体は、共鳴器として低共鳴周波数とこの高次の高共鳴周波数とを有し、前記高共鳴周波数が前記所定の周波数帯域内にあるように構成されている、
ことを特徴とする音響装置。
【請求項2】
前記筐体は、前記低共鳴周波数と前記高共鳴周波数との間の中共鳴周波数を有するように構成されている、
請求項1記載の音響装置。
【請求項3】
前記筐体は、一端および他端を有する管状体を備え、
前記管状体は、前記管状体の一端が前記孔を通じて前記ベント側へ開口し、前記管状体の他端が開口して前記内部空間内に位置している、
請求項1記載の音響装置。
【請求項4】
内部空間を有する筐体と、前部および後部を有するスピーカユニットと、を備える音響装置であって、
前記スピーカユニットは、前記前部が前記筐体外側に向いて、前記後部が前記内部空間内に位置して、前記筐体に取り付けられ、
前記筐体は、一端および他端を有するベントを備え、
前記ベントは、前記ベントの一端が前記筐体外側に向いて開口し、前記ベントの他端が前記内部空間内に位置し、前記ベントの他端に仕切りを有し、前記仕切りに形成された孔を通じて前記内部空間と連通し、前記ベントの一端の周縁部がR状に面取りされ、前記前部側に近い縁部の曲率半径が前記前部側から遠い縁部の曲率半径よりも大きい
ことを特徴とする音響装置。
【請求項5】
内部空間を有する筐体と、前部および後部を有するスピーカユニットと、を備える音響装置であって、
前記スピーカユニットは、前記前部が前記筐体外側に向いて、前記後部が前記内部空間内に位置して、前記筐体に取り付けられ、
前記筐体は、一端および他端をそれぞれ有するベントおよび管状体を備え、
前記ベントは、前記ベントの一端が前記筐体外側に向いて開口し、前記ベントの他端が前記内部空間内に位置し、前記ベントの他端に仕切りを有し、前記ベントの一端の周縁部がR状に面取りされ、前記前部側に近い縁部の曲率半径が前記前部側から遠い縁部の曲率半径よりも大きく、
前記管状体は、前記管状体の一端面積が前記ベントの他端面積よりも小さく、前記管状体の一端が前記仕切りを介して前記ベント側へ開口し、前記管状体の他端が開口して前記内部空間内に位置している、
ことを特徴とする音響装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響装置に関する。
【背景技術】
【0002】
実用新案登録第3165238号(以下、「特許文献1」という。)には、主に高齢者が聴き取り難いとされる高音域の周波数帯域を他の周波数帯域に比べて15dB程度増幅させる高音域信号増幅部が記載されている(特に、その明細書段落[0015])。この高音域信号増幅器により高音域が補われた音声を、高齢者は聴くことができる(同段落[0017])。なお、音声は、基本周波数、母音(基本周波数を除く)、および子音の成分に分けることができることが知られている(例えば、WO2009/110243の明細書段落[0025]参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案登録第3165238号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可聴域(人が聴き取ることのできる20Hz~20kHz程度の範囲)のうち高音域(2kHz~4kHz程度の周波数帯域)の聴力が低い者は、音声成分のうち高音域にある子音が聴き取り難くなる。このため、特許文献1に記載のような高音域信号増幅部(信号処理部)によって高音域の音圧レベルを高めることで、高音域の聴力を補うことができると考えられてきた。すなわち、聴力が低下している高音域を聴き取り易くすればよい、と考えられてきた。
【0005】
本発明の一目的は、聴き取り易い音を出力することのできる音響装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一解決手段に係る音響装置は、内部空間を有する筐体と、前部および後部を有するスピーカユニットを備えている。前記音響装置は、所定の周波数帯域の信号を増幅させる機能を有する信号処理部を備えてもよい。前記筐体は、一端および他端を有するベントを備えてもよい。前記ベントは、前記ベントの一端が前記筐体外側に向いて開口し、前記ベントの他端が前記内部空間内に位置してもよい。前記ベントは、前記ベントの他端に仕切りを有してもよい。前記ベントは、前記仕切りに形成された孔を通じて前記内部空間と連通してもよい。前記筐体は、共鳴器として低共鳴周波数とこの高次の高共鳴周波数とを有してもよい。前記筐体は、前記高共鳴周波数が前記所定の周波数帯域内にあるように構成されてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一解決手段によれば、聴き取り易い音を出力することのできる音響装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る音響装置の一説明図である。
図2図1に示す音響装置の応用例の一説明図である。
図3図2に示す装置の構成の一説明図である。
図4図2に示す装置の要部の一説明図である。
図5図2に示す装置の要部の他の説明図である。
図6図2に示す装置の要部の他の説明図である。
図7】本発明の一実施形態に係る音響装置の周波数特性の説明図である。
図8】本発明の他の実施形態に係る音響装置の周波数特性の説明図である。
図9】本発明の他の実施形態に係る音響装置の一説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下の本発明に係る実施形態では、必要な場合に複数のセクションなどに分けて説明するが、原則、それらはお互いに無関係ではなく、一方は他方の一部または全部の変形例、詳細などの関係にある。このため、全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、構成要素の数(個数、数値、量、範囲などを含む)については、特に明示した場合や原理的に明らかに特定の数に限定される場合などを除き、その特定の数に限定されるものではなく、特定の数以上でも以下でもよい。また、構成要素などの形状に言及するときは、特に明示した場合および原理的に明らかにそうではないと考えられる場合などを除き、実質的にその形状などに近似または類似するものなどを含むものとする。
【0010】
(第1実施形態)
本発明に係る実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る音響装置の概要の説明図であり、所定箇所を切断して側方から視た状態を示している。図2は、音響装置の応用例の説明図であり、正面から視た状態で示している。また、図3は、図2に示す音響装置の構成の説明図(ブロック図)である。また、図4図6は、図2に示す音響装置の要部(筐体の一部)の説明図であり、それぞれ所定箇所を切断してその側方、上方および斜め後方から視た状態を示している。また、図7は、横軸を周波数(Hz)、縦軸を音圧レベル(dB)とした本実施形態に係る音響装置の周波数特性の説明図である。
【0011】
図1に示すように、音響装置10は、筐体20と、スピーカユニット30と、信号処理部40とを備えている。筐体20は、内部空間21を有している。スピーカとしての音響装置10の場合、筐体20は、例えば、スピーカボックスやエンクロージャと呼ばれるものである。信号処理部40は、例えば、回路基板に構成され、スピーカユニット30とは配線(不図示)により電気的に接続されている。この音響装置10では、筐体20に取り付けられたスピーカユニット30から、信号処理部40からの信号を音声として出力することができる。
【0012】
筐体20は、ベント22を備えており、バスレフ構造となっている。筐体20は、ヘルムホルツ共鳴の共鳴器として構成されている。スピーカユニット30からは、前方(筐体20外部)に向かう音と同時に後方(筐体20内部)に向かう音が出ている。バスレフ構造によれば、スピーカユニット30の後方から出た音を筐体20の内部空間21を通じてベント22から筐体20の前方に取り出すことができる。したがって、音響装置10は、ベント22からの音と、スピーカユニット30の前方からの直接の音との重ね合わせにより、特に低音域の音圧レベルが補強され、後述するように、聴き取り易い音を出力することができる。
【0013】
ヘルムホルツ共鳴の基本式(1)を示す。ここで、fnはヘルムホルツ共鳴周波数(Hz)、cは音速(m/s)、Sはベント22(ネック)の断面積(m)、Lはベント22の長さ(m)、Vは筐体20の内部空間21の容積(m)である。音響装置10においては、ベント22の断面積S、長さL、内部空間21の容積Vを調整して筐体20を構成することにより、所望の共鳴周波数fnを有することができる。例えば、断面積Sおよび容積Vを一定とした場合、ベント22の長さLを長くすることで共鳴周波数fnを低くすることができる。なお、一般には、ベント22の形状によって、基本式の補正が行われる。
【数1】
【0014】
ベント22は、一端22aおよび他端22bを有している。ベント22の一端22aが筐体20の外側に向いて開口している。また、ベント22の他端22bが、内部空間21内に位置している。また、ベント22は、他端22bに仕切り24を有し、仕切り24に形成された孔25を通じて内部空間21と連通している。図1では、ストレート管状の長さのある中空体(「ダクト」ともいう。)で構成されるベント22を示している。このような筐体20は、内部空間21がベント22によって外部と連通する、いわゆるバスレフ構造を有し、ヘルムホルツ共鳴に起因する共鳴器として構成されている。
【0015】
後述するが、筐体20は、共鳴器として低共鳴周波数およびこの高次の高共鳴周波数を有し、高共鳴周波数が信号処理部40で増幅される所定の音域(高音域)内にあるように構成されている。本実施形態では、音響装置10を製造するにあたり、ヘルムホルツ共鳴の基本式(1)を基にし、筐体20の構造、特に、筐体20が備えるベント22の構造で調整している。具体的には、ベント22の他端22bに仕切り24を設け、その仕切り24の開口(孔25)の形状、数、配置で共鳴周波数fnを調整している。
【0016】
スピーカユニット30は、前部31(「前面」ともいう。)および後部32(「背面」ともいう。)を有している。スピーカユニット30は、前部31が筐体20の外側に向いて、後部32が内部空間21内に位置して、筐体20に取り付けられている。スピーカユニット30は、例えば、ダイナミック型であり、コーン状の振動部材33およびドライバ34(変換器)を有している。コーン状の振動部材33は、筐体20の外側に向かって拡径している。ドライバ34は、ボイスコイル(不図示)を流れる電流により磁界内でそのコイルが動く。スピーカユニット30は、このドライバ34によって振動部材33を振動させ、空気振動による音を出力することができる。なお、筐体20へのスピーカユニット30の取り付けは、例えば、一般的にフレーム(不図示)を介して筐体20に取り付けられる。
【0017】
この音響装置10を図2に示すスピーカ10A(音響装置10A)に応用した場合について説明する。スピーカ10Aは、例えば、送信装置(不図示)が発信した信号を受信して音として出力する機能、AMラジオ/FMラジオを受信する機能を有している。なお、送信装置は、例えば、テレビのイヤホン端子などに接続され、2.4GHzの周波数帯域を使用し、テレビから取り込んだ信号をスピーカ10Aへ送信するものである。
【0018】
スピーカ10Aは、筐体20と、スピーカユニット30とを備えている。筐体20は、バスレフ構造の共鳴器でもあり、ベント22を有している。筐体20は、上部20Aと、中部20Bと、下部20Cとを備え、これらが組み付けられて構成されている。スピーカユニット30は、グリル35と、フレーム36を備えている。グリル35は、スピーカユニット30からの音を出力できるように、メッシュ状に形成されている。グリル35によれば、振動部材33などを保護することができる。また、フレーム36によれば、スピーカユニット30を筐体20に容易に取り付けることができる。
【0019】
また、スピーカ10Aは、取手50を備えている。取手50は上部20Aの上面に設けられている。取手50によりユーザはスピーカ10Aを容易に持ち運びすることができる。取手50は、突起状のホルダー50Aを有している。例えば、アーチ状の取手50の頂部にホルダー50Aを設けることで、イヤホンまたはヘッドホンを掛けることができる。
【0020】
また、スピーカ10Aは、3つのボタン51A、51B、51Cを備えている。これらボタン51は、筐体20の上部20Aの上面に設けられている。ボタン51Aは、電源を入れるか切るか(「入」/「切」切替)を行うスイッチである。ボタン51Bは、会話の速度を遅くするか否か(「ゆっくり」/「通常」切替)を行うスイッチである。ボタン51Cは、所定の周波数帯域(音域)の信号を増幅させるか否か(「はっきり」/「通常」切替)を行うスイッチである。
【0021】
また、スピーカ10Aは、スライダ52を備えている。スライダ52は、筐体20の上部20Aの上面に設けられている。スライダ52は、スピーカ10の出力を選択するための切替スイッチであり、例えば、AMラジオ、FMラジオまたはテレビを選択することができる。また、スピーカ10Aは、2つのツマミ53A、53Bを備えている。ツマミ53Aは、音量の調節を行うものである。ツマミ53Bは、ラジオの周波数を調整するものである。また、スピーカ10Aは、ラジオ用のアンテナ54を備えている。アンテナ54は、筐体20の上部20Aの上面に設けられている。
【0022】
また、スピーカ10Aは、ACアダプタ用端子やヘッドホン/イヤホン端子を有する外部接続部55を備えている。この外部接続部55は、筐体20の下部20Cの側面に設けられている。スピーカ10Aは、ACアダプタからの直接給電の他、筐体20の内部に設けた一次電池(例えば、マンガン乾電池)、二次電池(例えば、リチウムイオン電池)からの給電により駆動することができる。また、スピーカ10Aは、筐体20の上部20Aから中部20Bに掛けて凹む収納部56(例えば、図4参照)を備えている。この収納部56により、例えば、テレビのリモコンやメガネなどの小物を収納することができる。
【0023】
図3に示すように、スピーカ10Aは、スピーカユニット30と、受信部37と、信号処理部40とを備えている。受信部37は、送信装置などからの信号を受信する機能を有している。信号処理部40は、増幅部41と、所定音域増幅部42と、話速変換部43とを備えている。増幅部41(増幅回路)は、受信部37で受信した信号の全音域を増幅する機能を有している。
【0024】
音域増幅部42は、所定の音域を増幅する機能を有している。音域増幅部42は、例えば、高域周波数帯域(1.5kHz~6kHz)の音圧(音の大きさ)が他の周波数帯域の音圧に比べて高くなるように、所定の周波数(3kHz)を中心として音圧を増幅することができる。この高域周波数帯域は、前述したように高齢者が聴き取り難いとされる周波数帯域であり、子音の帯域に相当している。したがって、増幅された所定の音域の音声を聴き取り易くすることができる。このような音域増幅部42は、例えば、バンドパスフィルタを有するイコライザー(補償回路)と、増幅回路とを有して構成されている。
【0025】
話速変換部43は、音の高さ(音程)を変えずに話速を遅くする機能を有している。話速変換部43は、例えば、音声の有音区間のみをゆっくりした音声となるように伸長処理し、無音区間をある程度(聴感上違和感のない程度)に短縮(削除)することができる。また、変換前の音声(原音)と返還後の音声の遅延を監視することもできる。したがって、話速を遅くすることで、例えば、早口の音声が聴き取り難いとされる高齢者に対して、音声を聴き取り易くすることができる。このような話速変換部43は、例えば、DSP(digital signal processor)回路を有して構成されている。
【0026】
ここで、スピーカ10Aにおける内部空間21を有するバスレフ構造の筐体20について、より具体的に説明する。図4図6に示すように、筐体20を構成する中部20Bは、管状のベント22を有している。なお、図4は、図5のIV-IV線で切断した中部20Bを側方から視た図である。図5は、図4のV-V線で切断した中部20Bを上方から視た図である。図6は、図4の中部20Bを斜め後方から視た図である。
【0027】
ベント22は、一端22aおよび他端22bを有している。ベント22は、一端22aが筐体20(中部20B)の外側に向いて開口し、他端22bが内部空間21内に位置している。また、ベント22は、他端22bに仕切り24を有している。また、ベント22は、仕切り24に形成された孔25を通じて内部空間21と連通している。
【0028】
また、ベント22は、他端22bから一端22aに向かって内径が拡大(拡径)している。このように、ベント22を拡径した形状(フレア形状)とすることで、内部空間21からベント22を通って外部に放出される空気による異音の発生を低減することができる。また、ベント22は、一端22aの周縁部がR状に面取りされているが、図2に示すように、スピーカユニット30(前部31)側に近い縁部の曲率半径Rnがスピーカユニット30(前部31)側から遠い縁部の曲率半径Rfよりも大きくなっている。これにより、ベント22からの音がスピーカユニット30側に拡がり易くなっている。このため、スピーカ10Aでは、ベント22からの音と、スピーカユニット30の前方からの直接の音とが、より重なり合うことで、特に低音域の音圧レベルが補強され、聴き取り易い音を出力することができる。
【0029】
また、スピーカ10Aでは、孔25が仕切り24に5つ形成されている(図2参照)。孔25の1つ(25c)は、管状のベント22の中心軸線上、すなわち他端22bの端面(具体的には仕切り24)の中心に形成されている。孔25の残りの4つ(25s)は、中心軸線の周り、すなわち他端22bの端面中心の周りに等間隔となるように形成されている。このように、ベント22の他端22bの仕切り24に形成される孔25の数(1または複数)や配置によって、バスレフ構造の筐体20に起因する共鳴周波数の調整を行うことができる。
【0030】
図7を参照して、バスレフ構造の筐体20を備えるスピーカ10Aの周波数特性について説明する。図7には、ボタン51Cがオン状態(高音域の信号が増幅された「はっきり」の状態)の曲線C1と、ボタン51Cがオフ状態(「通常」の状態)の曲線C2と、筐体20が密閉構造(ベント22が完全に塞がれた状態)の曲線C3とが示されている。
【0031】
バスレフ構造の曲線C1、C2と密閉構造の曲線C3とを比較すると、120Hz付近、480Hz付近、および1920Hz付近の共鳴周波数のそれぞれを中心として音圧が増加している。すなわち、本実施形態のバスレフ構造により、120Hzで一次の共鳴周波数(低共鳴周波数)、480Hzで二次の共鳴周波数(中共鳴周波数)、1920Hzで三次の共鳴周波数(高共鳴周波数)を発生させている。
【0032】
ところで、音声は、基本周波数、母音、および子音の成分に分けることができることが知られている。基本周波数は、人間の声のピッチ(高さ)を表しており、120Hz~325Hz付近の範囲(低音域)に分布している。例えば、男性であれば120Hz~250Hz付近の範囲、女性であれば210Hz~325Hz付近の範囲に基本周波数が分布している。また、母音の周波数は、250Hz~650Hz付近(中音域)、子音の周波数は、1500Hz以上(高音域)で広く分布している。
【0033】
このような音声分布において、従来、主に高齢者が聴き取り難くなってしまう高音域(子音)の音圧信号を、信号増幅部(電子回路)を用いることで、他の音域の音圧よりも増幅させる(補強する)ことが有効と考えられてきた(特許文献1参照)。本実施形態のスピーカ10Aでは、筐体20の構造から、高共鳴周波数による高音域(子音)の他にも、低共鳴周波数による低音域(基本周波数)の音圧を増幅させる(音声を構成する高音域および低音域にメリハリをつける)ことで、聴き取り易い音声を出力している(曲線C3に対する曲線C1、C2)。すなわち、スピーカ10Aの筐体20は、共鳴器として低共鳴周波数とこの高次の高共鳴周波数とを有するように構成され、さらに、この高共鳴周波数が高音域内にあるように構成されている。
【0034】
また、スピーカ10Aでは、低共鳴周波数(120Hz)と高共鳴周波数(1920Hz)との間の中共鳴周波数(480Hz)による中音域(母音)の音圧を増幅させることで、より聴き取り易い音声を出力している(曲線C3に対する曲線C1、C2)。すなわち、スピーカ10Aの筐体20は、一次共鳴周波数(低共鳴周波数)、第二次共鳴周波数(中共鳴周波数)、および三次共鳴周波数(高共鳴周波数)を有するように構成されている。
【0035】
また、スピーカ10Aでは、信号処理部40による1.5kHz~6kHzの高域周波数帯(高音域)の音圧信号を増加させることで、さらに聴き取り易い音声を出力している(曲線C2に対する曲線C1)。すなわち、スピーカ10Aは、高音域における高域周波数帯の音声信号を増幅させる機能を有する信号処理部40を備えることで、更に聴き取り易い音声を出力することができる。
【0036】
(第2実施形態)
第1実施形態では、低音域に低共鳴周波数(一次共鳴)、中音域に中共鳴周波数(二次共鳴)、高音域に高共鳴周波数(三次共鳴)を発生させる場合について説明した。本実施形態では、低音域に低共鳴周波数(一次共鳴)、高音域に高共鳴周波数(二次共鳴)を発生させる場合について、図面を参照して説明する。図8は、横軸を周波数(Hz)、縦軸を音圧レベル(dB)とした本実施形態に係る音響装置の周波数特性の説明図である。図9は、本実施形態に係る音響装置の概要の説明図であり、所定箇所を切断して側方から視た状態を示している。
【0037】
図8には、本実施形態のバスレフ構造の曲線C4と、比較例の密閉構造(そのバスレフ構造のベントが完全に塞がれた状態)の曲線C5とが示されている。密閉構造の曲線C5に対してバスレフ構造の曲線C4では、120Hz付近、および3kHz付近の共鳴周波数のそれぞれを中心として音圧が増加している。すなわち、本実施形態のバスレフ構造により、120Hzで一次の共鳴周波数(低共鳴周波数)、3kHzで二次の共鳴周波数(高共鳴周波数)を発生させている。このようなバスレフ構造の音響装置の製造方法は、ヘルムホルツ共鳴の基本式(1)を基にし、ベントの構造で調整することができる。
【0038】
例えば、図9に、第1実施形態のベント22とは異なる構造のベント122を有する筐体120を備えた音響装置110を示す。具体的には、筐体120は、一端122aおよび他端122bを有するベント122を備えている。ベント122は、一端122aが筐体120外側に向いて開口し、他端122bが筐体120の内部空間121内に位置し、他端122bに仕切り124を有している。
【0039】
また、筐体120は、一端126aおよび他端126bを有する管状体126を備えている。管状体126は、一端126aの断面積(端面積)がベント122の他端122bの断面積(端面積)よりも小さく、一端126aが仕切り124を介してベント122側へ開口し、他端126bが開口して内部空間121内に位置している。
【0040】
なお、管状体126は、一端126aが仕切り124に形成された孔を通じてベント122側へ開口しているともいえる。また、本実施形態では、ベント122と管状体126を分けて説明しているが、ベント122も管状体126もバスレフ構造ではベント(ダクト、ポート)の機能を有するので、全体としてベントとみなすこともできる。
【0041】
このようなバスレフ構造の音響装置110の製造方法は、ヘルムホルツ共鳴の基本式(1)を基にし、ベント122の構造で調整した後、さらに、管状体126の形状(長さ、太さ)、数、配置によって、バスレフ構造の筐体120に起因する共鳴周波数の調整をより行い易くすることができる。
【0042】
以上、本発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。
【0043】
前記実施形態では、低共鳴周波数の高次の高共鳴周波数が所定の音域(例えば、1.5kHz~6kHzの高域周波数帯)内にあるような共鳴器としてのバスレフ構造の筐体を用いる場合について説明した。これに限らず、少なくとも音声の基本周波数帯域(100Hz~250Hz)内に低共鳴周波数があるような筐体を用いてもよい。基本周波数帯域(低音域帯)の音圧レベルを補強するだけでも聴き取り易い音を出力することができる。
【0044】
前記実施形態では、信号処理部を音響装置が備える場合について説明した。これに限らず、外部の信号処理部からの信号を有線または無線で音響装置へ伝送し、スピーカユニットから音声として出力してもよい。
【0045】
前記実施形態では、ヘルムホルツ共鳴を起こすバフレフ構造としてベントを用いた場合について説明した。このベントには、厚みのある板などに孔を開けたもの(「ポート」ともいう。)も含まれる。
【0046】
前記実施形態では、スピーカユニットとしてダイナミック型を用いた場合について説明した。これに限らず、コンデンサ型や励磁型なども用いてもよい。また、スピーカユニットの振動部材としてコーン型を用いた場合について説明した。これに限らず、ドーム型やホーン型などを用いてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10:音響装置、 20:筐体、 21:内部空間、 22:ベント、 22a:一端、 22b:他端、 24:仕切り、 25:孔。
【要約】
【課題】聴き取り易い音を出力することのできる音響装置を提供する。
【解決手段】音響装置(10)は、内部空間(21)を有する筐体(20)と、高音域の信号を増幅させる機能を有する信号処理部(40)と、を備える。筐体(20)は、一端(22a)および他端(22b)を有するベント(22)を備える。ベント(22)は、一端(22a)が筐体(20)外側に向いて開口し、他端(22b)が内部空間(21)内に位置し、他端(22b)に仕切り(24)を有し、仕切り(24)に形成された孔(25)を通じて内部空間(21)と連通している。筐体(20)は、共鳴器として低共鳴周波数とこの高次の高共鳴周波数とを有し、高共鳴周波数が前記高音域内にあるように構成される。
【選択図】図1
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