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特許7255050安定性の増大した哺乳類卵胞刺激ホルモン組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】安定性の増大した哺乳類卵胞刺激ホルモン組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/24 20060101AFI20230404BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230404BHJP
   A61K 47/20 20060101ALI20230404BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 5/10 20060101ALI20230404BHJP
   A61P 15/08 20060101ALI20230404BHJP
   C07K 14/575 20060101ALN20230404BHJP
【FI】
A61K38/24
A61K9/08
A61K47/10
A61K47/20
A61K47/36
A61P5/10
A61P15/08
C07K14/575 ZNA
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018514276
(86)(22)【出願日】2016-09-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-09-27
(86)【国際出願番号】 EP2016071917
(87)【国際公開番号】W WO2017046295
(87)【国際公開日】2017-03-23
【審査請求日】2019-09-12
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-18
(31)【優先権主張番号】92831
(32)【優先日】2015-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(73)【特許権者】
【識別番号】523078960
【氏名又は名称】グアンジョウ・カントン・バイオロジクス・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Guangzhou Canton Biologics Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ゴレッツ,シュテッフェン
(72)【発明者】
【氏名】シュトックル,ラルス
【合議体】
【審判長】冨永 みどり
【審判官】齋藤 恵
【審判官】馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-521342(JP,A)
【文献】特表2013-535481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN),JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み換えFSH及びクロロクレゾールを含む組成物であって、該組み換えFSHがヒトグリコシル化パターンを有する組成物。
【請求項2】
37℃以上の温度において、クロロクレゾールを含まない対応する組成物に比べて増大した安定性を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
界面活性剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、安定剤及び/又は賦形剤を更に含み、前記界面活性剤が、好ましくはPoloxamer 188であり、前記安定剤が、好ましくはL-メチオニンである請求項1又は2記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物中の前記組み換えFSHが、以下の特徴:
(i)バイセクティングN-アセチルグルコサミン(bisGlcNAc)を保有しているグリカンの相対量が少なくとも20%である;及び/又は
(ii)フコースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも30%である;及び/又は
(iii)2,6結合シアル酸の相対量が少なくとも30%である;及び/又は
(iv)多様なグリコシル化パターンである
のうちの1つ以上を含むグリコシル化パターンを有する請求項1~3のいずれか一項記載の組成物であって、
前記グリコシル化パターンが、好ましくは前記特徴(i)、(ii)、及び(iii)のうちの少なくとも2つ、そして、より好ましくは前記特徴(i)、(ii)、及び(iii)の全てを含む、前記組成物。
【請求項5】
前記組み換えFSHが、
(i)ヒト細胞株GT-5s若しくはそれに由来する細胞株若しくはそれと相同な細胞株;又は
(ii)ヒト細胞株PerC6
に由来する請求項1~4のいずれか一項記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物中の前記組み換えFSHが、以下の特徴のうちの1つ以上を含む請求項1~5のいずれか一項記載の組成物:
(a)前記グリコシル化パターンが、少なくとも85%の相対量の1つ以上のシアル酸残基を保有しているグリカンを含む;
(b)前記グリコシル化パターンが、少なくとも18%の相対量の少なくとも四アンテナ型のグリカンを含む;
(c)Z数が少なくとも200である;
(d)ヒト組み換えFSHである;及び/又は
(e)ヒト細胞株若しくはヒト細胞に由来する。
【請求項7】
前記組成物中の前記組み換えFSHが、以下の特徴のうちの1つ以上を含むグリコシル化パターンを有する請求項1~6のいずれか一項記載の組成物:
(i)バイセクティングN-アセチルグルコサミン(bisGlcNAc)を保有しているグリカンの相対量が約25%~約50%の範囲である;
(ii)少なくとも四アンテナ型のグリカンの相対量が少なくとも16%である;
(iii)フコースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも35%である;
(iv)2,6結合シアル酸の相対量が少なくとも53%である;
(v)1つ以上のシアル酸残基を保有しているグリカンの相対量が少なくとも88%である;
(vi)Z数が少なくとも220である;
(vii)ガラクトースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも95%である;
(viii)場合によりシアル酸残基によって修飾されている末端ガラクトース単位を保有しているグリカン分枝の相対量が少なくとも60%である;
(ix)硫酸基を保有しているグリカンの相対量が少なくとも3%である;
(x)少なくとも45種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、前記組成物中の前記FSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.05%の相対量を有する;
(xi)少なくとも35種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、前記組成物中の前記FSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.1%の相対量を有する;
(xii)少なくとも20種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、前記組成物中の前記FSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.5%の相対量を有する;及び/又は
(xiii)対応する組成物中のCHO細胞から得られたFSHよりも少なくとも40%多い異なるグリカン構造を含み、前記異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、それぞれの組成物中の前記FSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.05%の相対量を有する。
【請求項8】
前記組成物中の前記組み換えFSHが、以下の特徴を含むグリコシル化パターンを有する請求項1~7のいずれか一項記載の組成物:
(i)バイセクティングN-アセチルグルコサミン(bisGlcNAc)を保有しているグリカンの相対量が約25%~約50%の範囲である;
(ii)少なくとも四アンテナ型のグリカンの相対量が少なくとも16%である;
(iii)フコースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも35%である;
(iv)2,6結合シアル酸の相対量が約53%~約99%の範囲である;及び
(v)1つ以上のシアル酸残基を保有しているグリカンの相対量が少なくとも88%である。
【請求項9】
前記組成物中の前記組み換えFSHが、
(a)著しい量のcAMPが放出されない濃度で;及び/又は
(b)cAMPシグナル伝達とは独立したシグナル伝達経路を誘導することによって、
顆粒膜細胞におけるプロゲステロンの放出を刺激することができる、及び/又は
前記組成物中の前記組み換えFSHが、cAMPシグナル伝達とは独立した生物学的プロセスによって生殖細胞の成熟を刺激又は共刺激することができる、
請求項1~8のいずれか一項記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物中の前記組み換えFSHが、顆粒膜細胞アッセイにおいて判定できる以下の特徴のうちの1つ以上を有する請求項1~9のいずれか一項記載の組成物:
(a)顆粒膜細胞によるcAMPの放出を誘導するために必要な最低濃度を下回る濃度で、該顆粒膜細胞におけるプロゲステロンの放出を刺激することができる;
(b)cAMPの放出を誘導しないか若しくは10pmol/mL未満のcAMP放出を誘導するFSH濃度で、1mL当たり約5×10~約1×10個の顆粒膜細胞において少なくとも200ng/mL プロゲステロンの放出を刺激することができる;
(c)ヒト尿FSH若しくはCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)によって必要とされる濃度よりも低い濃度で、1mL当たり約5×10~約1×10個の顆粒膜細胞において少なくとも100ng/mL プロゲステロンの放出を刺激することができる;及び/又は
(d)ヒト尿FSH若しくはCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)によって対応するプロゲステロン放出が生じない濃度で、1mL当たり約5×10~約1×10個の顆粒膜細胞において少なくとも100ng/mL プロゲステロンの放出を刺激することができる。
【請求項11】
前記組成物中の前記組み換えFSHが、単一用量の投与後にヒト女性において卵胞の成長を誘導することができ、該単一用量が、好ましくはFSH 25~500IUを含み、そして、好ましくは、非経口的に、特に皮下注射によって投与される、請求項1~10のいずれか一項記載の組成物。
【請求項12】
前記組み換えFSHが、FSH-GEX(商標)である、請求項1~11のいずれか一項記載の組成物。
【請求項13】
医薬組成物である、請求項1~12のいずれか一項記載の組成物。
【請求項14】
不妊症の処置において使用するための、請求項1~13のいずれか一項記載の組成物。
【請求項15】
(i)患者に投与される用量によって、該患者の循環血液中のFSH濃度が約0.2~約10IU/L、好ましくは約0.4~約7IU/Lの範囲になる;
(ii)不妊症の処置が、cAMPとは独立に性ステロイドの分泌を誘導及び/又は刺激することを含む;
(iii)不妊症の処置が、cAMPシグナル伝達とは独立した生物学的プロセスによって生殖細胞の成熟を刺激又は共刺激することを含む;
(iv)不妊症の処置が、著しいcAMP放出を誘導しないFSH濃度で性ステロイドの分泌を誘導及び/又は刺激することを含む;
及び/又は
(V)不妊症の処置が、補助生殖医療、排卵誘発、体外受精、例えば、卵細胞質内精子注入法による体外受精、配偶子卵管内移植、子宮内受精、女性における無排卵障害の処置、女性における卵を成熟させるための重篤なホルモン欠乏障害の処置、男性における精子生成欠損の処置、並びに/又は例えば、体外受精刺激プロトコル中及び/若しくは無排卵障害の処置における生殖細胞の成熟、例えば、卵胞形成及び精子形成、特に女性における卵胞の成熟の可能化若しくは改善を含む
請求項14記載の使用のための組成物。
【請求項16】
卵胞の成長及び/若しくは卵子の成熟を誘導するための医薬組成物を調製するための、請求項1~13のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項17】
不妊症の処置における医薬組成物を調製するための、請求項1~13のいずれか一項記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、ゴナドトロピンの分野に関する。具体的には、組み換えヒト卵胞刺激ホルモン及びクロロクレゾールを含む改善された組成物が提供される。この改善された組成物は、増大した高温安定性を有し、そして、特にヒト患者における不妊症の処置において有用である。
【0002】
ゴナドトロピンは、男性及び女性における生殖腺の機能を制御し、そして、それによって、ヒトの不妊症において重要な役割を果たすタンパク質ホルモンの群である。ゴナドトロピンは、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)による刺激後、脊椎動物の下垂体のゴナドトロピン産生細胞によって分泌される。ゴナドトロピンは、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、及び絨毛性ゴナドトロピン(CG)を含むヘテロ二量体糖タンパク質である。ゴナドトロピンは、同一のアルファサブユニットを共有しているが、様々なベータサブユニットを含み、これによって、受容体結合特異性が確保される。
【0003】
FSHは、92アミノ酸のアルファサブユニット及び111アミノ酸のベータサブユニットを含み、これによって、FSH受容体に対する特異的結合が付与される。天然タンパク質の両サブユニットは、グリコシル化によって修飾される。自然界では、アルファサブユニットはAsn52及びAsn78で、そして、ベータサブユニットはAsn7及びAsn24でグリコシル化される。両サブユニットは、前駆体タンパク質として細胞で生成され、次いで、加工及び分泌される。FSHは、身体の発達、成長、思春期の成熟、及び生殖プロセスを制御する。具体的には、FSHは生殖細胞の成熟を刺激するので、精子形成及び卵胞形成に関与している。
【0004】
卵胞形成は、例えば、顆粒膜細胞の表面においてFSHがFSH受容体に結合することによって、FSHによって誘導される。FSH受容体は、FSHの結合時に共役Gタンパク質を活性化するGタンパク質共役受容体である。次に、Gタンパク質がアデニリルシクラーゼを活性化し、その結果、二次メッセンジャー分子であるcAMPが生成される。細胞中のcAMP濃度の増大によって、幾つかの下流の標的、特に、cAMP依存性タンパク質キナーゼが活性化され、これは、次いで、プロゲステロン及びエストラジオールの合成につながる。プロゲステロン及びエストラジオールは、顆粒膜細胞によって分泌され、卵胞形成を誘導する。FSHによって顆粒膜細胞が刺激されると、該顆粒膜細胞はインヒビン-Bも放出し、これは、ネガティブフィードバックループを形成して、下垂体におけるFSHの生成及び分泌を阻害する。インヒビン-Bは、FSHによる卵巣刺激についての優れた代用マーカーであることが示されている。
【0005】
FSHは、単独で又は他の剤、特にLHと組み合わせて、不妊症の処置において広く使用されている。当技術分野では、一般的に、閉経後のヒト尿から精製されたFSH(尿FSH)又はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって組み換えで生成されたFSHがヒトの処置に用いられている。しかし、様々なアイソフォームが存在することから、FSH調製品に付随する顕著な不均一性が存在する。個々のFSHアイソフォームは、同一のアミノ酸配列を呈するが、そのグリコシル化の程度及び性質が異なる。特定のアイソフォームは、炭水化物分岐構造の不均一性及び異なる量のシアル酸(負に帯電している末端単糖単位)組み込みによって特徴付けられ、これらはいずれもアイソフォームの特異的生物活性に影響を与える。したがって、FSHのグリコシル化パターンは、その生物活性に対して著しい影響を有する。
【0006】
しかし、異なるドナー及び異なる調製品に由来する尿FSHは、その炭水化物構造が著しい変動し得るので、その結果、バッチ間のばらつきが大きくなる。また、尿生成物中のウイルスの存在に関する安全性の問題も存在する。更に、CHO細胞から得られたFSHは、ヒトグリコシル化パターンと同一ではないこれらハムスター細胞に特異的なグリコシル化パターンを呈する。これら違いの結果、得られたFSH、ひいては、患者に投与される医薬調製品の生物活性及び有害効果がばらつく。したがって、当技術分野では、組み換えFSHは、好ましくは、好適な哺乳類又はヒトの細胞株を用いて生成される。このような組み換えFSHは、最適化された均質なグリコシル化パターンを含むので、患者に投与されたときに高い生物活性を示す。
【0007】
簡便かつ安全な投与を促進するために、安定な無菌FSH製剤が必要とされている。当技術分野では、該製剤への微生物の混入を避けるために保存剤が使用されている。しかし、このような保存剤は、タンパク質の安定性にとって有害である可能性があることが知られているので、FSH調製品に対して有害効果を有することがある。
【0008】
当技術分野では、FSHを用いて不妊症を処置する様々な方法が存在する。幾つかのプロトコルは、最高14日間及びそれ以上、患者にFSH用量を毎日投与することを必要とする。理想的には1回超使用することができる安定なFSH溶液が、投与のために毎日FSH調製品を調製する必要がなくなるので、望ましい。
【0009】
その結果、FSH調製品であって、FSHが最適化された均質なグリコシル化パターンを含み、該調製品が、好ましくは、増大した安定性を有するFSH調製品を利用可能にし、そして、ひいては提供するという満たされていない必要性が存在する。
【0010】
本発明は、1回超用いることもできる安定なFSH調製品を提供することによってこの必要性を満たす。
【0011】
驚くべきことに、本発明者らは、保存剤であるクロロクレゾールが、哺乳類グリコシル化パターンを有するFSHペプチドの高温における安定性を増大させることを見出した。クロロクレゾールが属する保存剤の群がタンパク質の安定性に対して有害である傾向があることを考慮すると、この知見は予想外であり、そして、当技術分野の現状に反している。
【0012】
本明細書で使用するとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、特に明確に指示しない限り、複数の指示対象を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、「発現カセット」に対する言及は、本明細書に開示される発現カセットのうちの1つ以上を含み、そして、「方法」に対する言及は、変更され得るか又は本明細書に記載される方法に置換し得る当業者に公知の等価な工程及び方法に対する言及を含む。
【0013】
本開示に引用される全ての刊行物及び特許は、その全体が参照により組み入れられる。参照により組み入れられる材料が本明細書と矛盾するか又は不整合である限り、本明細書は任意のこのような材料に優先する。
【0014】
特に指定しない限り、一連の要素の前に記載される用語「少なくとも」は、該一連の要素の全てを指すと理解すべきである。当業者は、単なるルーチンな実験を用いて、本明細書に記載する本発明の特定の実施態様に対する多くの等価物を認識するか又は解明することができる。このような等価物は、本発明に包含されることを意図する。
【0015】
以下の本明細書及び特許請求の範囲全体を通して、文脈上特に必要としない限り、用語「含む(comprise)」並びに「含む(comprises)」及び「含んでいる(comprising)等の変形は、指定の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を含むことを意味するが、任意の他の整数若しくは工程又は整数若しくは工程の群を除外することを意味するものではないと理解される。本明細書で使用するとき、用語「含む」は、用語「含有する」に又は時に、本明細書で使用するとき、用語「有する」に置換され得る。
【0016】
本明細書で使用するとき、「からなる」は、特許請求の範囲の構成要素に指定されていない任意の要素、工程、又は成分を除外する。本明細書で使用するとき、「から本質的になる」とは、特許請求の範囲の基本的及び新規の特徴に著しい影響を与えない材料又は工程は除外しない。本明細書における各場合において、用語「含む」、「から本質的になる」、及び「からなる」のいずれも、他の2つの用語のいずれかで置換され得る。
【0017】
用語「約」又は「およそ」は、本明細書で使用するとき、所与の値又は範囲の20%以内、好ましくは10%以内、そして、より好ましくは5%以内を意味する。また、該用語は名数も含む、例えば、約20は、20も含む。
【0018】
本明細書で特に定義しない限り、本発明に関連して使用される科学用語及び技術用語は、当業者に一般的に理解される意味を有するものとする。更に、文脈上特に必要としない限り、単数形の用語は複数を含むものとし、そして、複数形の用語は単数を含むものとする。本発明の方法及び技術は、一般的に、当技術分野において周知の従来の方法に従って実施される。一般的に、本明細書に記載される生化学、酵素学、分子及び細胞生物学、微生物学、遺伝学、並びにタンパク質及び核酸化学、並びにハイブリダイゼーションの技術に関連して使用される命名法は、当技術分野において周知であり、そして、一般的に用いられているものである。
【0019】
特に指定しない限り、本発明の方法及び技術は、一般的に、当技術分野において周知である従来の方法に従って、そして、本明細書全体を通して引用及び議論される様々な概略的な及びより具体的な参照文献に記載の通り実施される。例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N. Y. (2001);Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, J, Greene Publishing Associates (1992, and Supplements to 2002);Handbook of Biochemistry: Section A Proteins, Vol I 1976 CRC Press;Handbook of Biochemistry: Section A Proteins, Vol II 1976 CRC Pressを参照。本明細書に記載される分子及び細胞生物学、タンパク質生化学、酵素学、並びに医薬品及び製薬化学に関連して使用される命名法、並びに検査手技及び技術は、当技術分野において周知であり、そして、一般的に用いられているものである。
【0020】
この明細書の本文全体を通して幾つかの文書が引用される。上記であろうと下記であろうと、本明細書に引用される各文書(全ての特許、特許出願、科学刊行物、製造業者の仕様書、説明書等を含む)は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。具体的には、国際公開公報第2012/017058号に開示される教示は、本発明に準用される。本明細書におけるいずれも、本発明が先行発明によるこのような開示に先行する権利を与えるものではないと認めると解釈すべきではない。
【0021】
概要
本発明者らは、哺乳類グリコシル化パターンを有する組み換えFSHと保存剤であるクロロクレゾールとを含む組成物が、該組み換えFSHの安定性に関して有利な特性を有することを見出した。したがって、本発明は、組み換えFSH及びクロロクレゾールを含む組成物であって、該組み換えFSHが哺乳類グリコシル化パターンを有する組成物に関する。より正確には、本発明者らは、保存剤であるクロロクレゾールが哺乳類グリコシル化パターンを有する組み換えFSHの高温における安定性を増大させることを見出し、該高温という用語は、60℃超の温度に関する。更に、該組み換えFSHの哺乳類グリコシル化パターンは、ヒトグリコシル化パターンであり得ることが企図される。本発明の組成物は、界面活性剤(例えば、Poloxamer 188)、浸透圧調整剤、緩衝剤、安定剤(例えば、L-メチオニン)、及び賦形剤を更に含み得る。本発明の組み換えFSHは、ヒト細胞株GT-5s又はそれに由来する細胞株若しくはそれと相同な細胞株、あるいはPerC6、HT-1080、又はHEK293等の他のヒト細胞株において生成させることによって得ることができる。更に、本発明の組成物は、単一用量の投与後にヒト女性において卵胞の成長を誘導することができ、該単一用量は、好ましくは、FSH 25~500iUを含み、そして、好ましくは、非経口的に、特に皮下注射によって投与される。好ましくは、本発明の組み換えFSHは、FSH-GEXである。本発明の組成物は、医薬組成物であってよい。本発明の組成物及び医薬組成物はいずれも、不妊症の処置において使用することができる。本発明の組成物又は医薬組成物は、卵胞の成長及び/若しくは卵子の成熟を誘導するための医薬組成物を調製するため、並びに本明細書に記載される更なる用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】24ヶ月間にわたるクロロクレゾールを含まない製剤に対するインビトロHEKアッセイによって測定されたFSH-GEXの効力
図2】クロロクレゾールの存在下又は対照としてクロロクレゾールの非存在下における、4℃及び37℃において12ヶ月間保存した後のFSHの用量応答曲線
図3】クロロクレゾール(CC)、ベンズアルコニウムクロリド(BAK)を含むか、又は対照として保存剤を含まずに(対照(FB))製剤化されたFSH-GEXの動的光散乱分析(Z-平均)。
【0023】
詳細な説明
本発明者らは、哺乳類グリコシル化パターンを有する組み換えFSHと保存剤であるクロロクレゾールとを含む組成物が、該組み換えFSHの安定性に関して有利な特性を有することを見出した。したがって、本発明は、組み換えFSH及びクロロクレゾールを含む組成物であって、該組み換えFSHが哺乳類グリコシル化パターンを有する組成物に関する。
【0024】
「FSH組成物」は、FSHを含むか又はからなる任意の組成物又は物質であり得る。該FSH組成物は、固体又は流体の形態であってよく、そして、FSHに加えて更なる成分を含み得る。特に、FSH調製品は、FSHと水及び/又はアルコール等の好適な溶媒とを含む溶液であってもよく、例えば、FSHを含有する溶液の凍結乾燥後に得られる粉末であってもよい。FSH調製品の好適な例は、細胞におけるFSHの発現後、特に、FSHの精製後に得られる組成物、又はFSHを含む医薬組成物である。FSH調製品は、FSHに加えて、例えば、本明細書に記載される溶媒、希釈剤、賦形剤、安定剤、保存剤、塩、補助剤、及び/又は界面活性剤を含有し得る。用語「FSH調製品」は、特に、「FSHを含む組成物」の意味で本明細書において使用される。これら用語は、好ましくは、本明細書では同義語として用いられる。
【0025】
用語「FSH」は、卵胞刺激ホルモンであるゴナドトロピンを指し、FSHは、アルファサブユニット及びベータサブユニットと命名された2つのサブユニットで構成される糖タンパク質である。好ましくは、FSHは、ヒトFSH、特に、配列番号1のアミノ酸配列を有するアルファサブユニット及び配列番号2のアミノ酸配列を有するベータサブユニットで構成されるヒトFSHである。しかし、1個以上、例えば、1個、1若しくは2個、3個以下、5個以下、10個以下、又は20個以下のアミノ酸の置換、付加、及び/又は欠失が、一方又は両方のサブユニットに存在し得る。好ましくは、アルファサブユニットのアミノ酸配列は、配列番号1に係るアミノ酸配列と少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の相同性又は同一性を全体的に共有している。更に、ベータサブユニットのアミノ酸配列は、好ましくは、配列番号2に係るアミノ酸配列と少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の相同性又は同一性を全体的に共有している。FSHのサブユニットは、好ましくは、2本の別々のポリペプチド鎖であるが、用語「FSH」は、本明細書で使用するとき、2つのサブユニットが、例えば、架橋剤又は連結ポリペプチド鎖によって互いに共有結合している実施態様、及び一方又は両方のサブユニットが、数本のポリペプチド鎖に更に分割されている実施態様も包含する。好ましくは、本発明に係るFSHは、FSH受容体、好ましくはヒトFSH受容体に結合及び/又は活性化することができる。用語「FSH」は、本明細書で使用するとき、特に、調製品中の全てのFSHタンパク質を指す。したがって、用語「FSH」は、特に、FSHの調製品又は組成物中の全てのFSHタンパク質全体を指す。
【0026】
好ましくは、FSHタンパク質の両サブユニットは、ポリペプチド鎖に結合している1つ以上の炭水化物構造を含む。より好ましくは、炭水化物構造は、サブユニットのアスパラギン残基に結合している。特に好ましい実施態様では、アルファサブユニットは、Asn52及びAsn78に結合している2つの炭水化物構造を含み、及び/又はベータサブユニットは、Asn7及びAsn24に結合している2つの炭水化物構造を含む。炭水化物構造を保有しているアミノ酸残基は、それぞれ、配列番号1及び2に係るアルファ及びベータサブユニットのヒトアミノ酸配列に関して指定される。ヒトFSHの糖部分は、好ましくは、フコース、ガラクトース、マンノース、ガラクトサミン、グルコサミン、及び/又はシアル酸で構成される。
【0027】
本発明に従って使用するとき、FSHは、好ましくは組み換えFSH、より好ましくは組み換えヒトFSHである。用語「組み換えFSH」とは、生存しているヒト又は動物の身体によって天然では生成されるものではなく、更に、該身体に由来するサンプル、例えば、尿、血液、若しくは他の体液、糞便、又はヒト若しくは動物の身体の組織等から得られるものではないFSHを指す。好ましくは、組み換えFSHは、バイオテクノロジーによって操作されている細胞、特に、FSH又はFSHのアルファ若しくはベータサブユニットをコードしている核酸で形質転換又はトランスフェクトされている細胞から得られる。好ましい実施態様によれば、組み換えFSHは、FSHをコードしている外因性核酸を含むヒト細胞から得られる。それぞれの外因性核酸は、例えばトランスフェクションを介して宿主細胞に導入することができる1つ以上の発現ベクターを使用することによって、導入することができる。タンパク質及びFSHを組み換えで生成するそれぞれの方法は、先行技術において周知であり、したがって、更に説明する必要はない。
【0028】
用語「核酸」は、一本鎖及び二本鎖の核酸、並びにリボ核酸に加えて、デオキシリボ核酸を含む。該核酸は、天然及び合成のヌクレオチドを含み得、そして、例えば、メチル化、5’及び/又は3’キャッピングによって天然又は合成で修飾され得る。
【0029】
用語「ベクター」は、その最も広い意味で本明細書において使用され、そして、核酸を、例えば原核及び/又は真核の宿主細胞に導入し、そして、必要に応じて、宿主細胞のゲノムに組み込むことができるようにする、該核酸のための任意の中間ビヒクルを含む。この種のベクターは、好ましくは、宿主細胞で複製及び/又は発現する。ベクターは、好ましくは、該ベクターを含む宿主細胞を選択するための1つ以上の選択マーカーを含む。好適な選択マーカーは、例えば、特定の抗生物質に対する抵抗性を有する宿主細胞を提供する抵抗性遺伝子である。更に好適な選択マーカーは、例えば、DHFR又はGS等の酵素の遺伝子である。FSHを含む組み換えタンパク質の発現を可能にするベクター、並びに宿主細胞において高収量で組み換えタンパク質を発現させることを可能にする好適な発現カセット及び発現エレメントは、先行技術において周知であり、そして、市販されてもいるので、本明細書に詳細に説明する必要はない。
【0030】
本発明に係るFSHは、グリコシル化される、すなわち、ポリペプチド鎖に結合している1つ以上、好ましくは4つのオリゴ糖によって修飾される。グリカン又は炭水化物とも呼ばれるこれらオリゴ糖は、直鎖状又は分枝鎖状の糖鎖であってよく、そして、好ましくは、複合型N結合オリゴ糖鎖である。分枝数に応じて、オリゴ糖は、一、二、三、又は四アンテナ型(又は更には五アンテナ型)と呼ばれる。一アンテナ型オリゴ糖は、分枝がないが、二、三、又は四アンテナ型のオリゴ糖は、それぞれ、1、2、又は3つの分枝を有する。したがって、より高いアンテナリティ(antennarity)を有する糖タンパク質は、より多くのオリゴ糖終点を有し、そして、例えばシアル酸等のより多くの機能性末端糖単位を保有し得る。「少なくとも三アンテナ型」とは、本明細書で使用するとき、三アンテナ型、四アンテナ型、及び五アンテナ型のオリゴ糖を含む、少なくとも3のアンテナリティを有するオリゴ糖を指す。「少なくとも四アンテナ型」とは、本明細書で使用するとき、四アンテナ型、及び五アンテナ型のオリゴ糖を含む、少なくとも4のアンテナリティを有するオリゴ糖を指す。複合型N-グリカンに関して、バイセクティングGlcNAc残基は、好ましくは、分枝又はアンテナとはみなされないので、FSHのアンテナリティには付加されない。
【0031】
本明細書で言及されるFSHのグリコシル化パターンは、特に、本発明に係るFSH調製品中の全てのFSHタンパク質のグリコシル化パターン全体を指す。特に、FSHタンパク質に含まれ、したがって、FSH調製品におけるFSHポリペプチド鎖に結合している任意のグリカン構造が考慮され、そして、グリコシル化パターンに反映される。
【0032】
好ましくは、本発明のFSHの哺乳類グリコシル化パターンは、ヒトグリコシル化パターンである。
【0033】
本発明の組成物は、更に、保存剤であるクロロクレゾールを含む。用語「保存剤」とは、製剤に添加されて、抗微生物剤、抗真菌剤、抗マイコプラズマ剤、抗ウイルス剤、抗プリオン剤、及び/又は抗菌剤として作用する化合物又は組成物を指す。クロロクレゾールは、好ましくは、製剤が本質的に夾雑物を含まないように維持する(注射に好適)のに有効な濃度が得られる量で使用される。保存剤であるクロロクレゾールは、好ましくは、0.005%又は約0.005%(静菌剤の質量/溶媒の質量)~1.00%又は約1.00%、より好ましくは0.02%又は約0.02%(静菌剤の質量/溶媒の質量)~0.15%又は約0.15%、最も好ましくは0.05%又は約0.05%~0.1%又は約0.1%の濃度で存在する。
【0034】
驚くべきことに、本願で請求される組成物で使用される保存剤であるクロロクレゾールは、タンパク質を変性させることによって、例えば、FSHのヘテロ二量体構造に影響を与えることによって、FSHの生物活性に悪影響を与えることはない。更に、保存剤であるクロロクレゾールは、驚くべきことに、クロロクレゾールを含まない組成物に含まれる哺乳類グリコシル化パターンを有する組み換えFSHに比べて、哺乳類グリコシル化パターンを有する組み換えFSHの高温における安定性を増大させる。組成物に添加されたとき、保存剤が該組成物に含まれるFSHの安定性を増大させることは知られていなかったので、この知見は特に驚くべきである。更に、この効果は、保存剤であるクロロクレゾールと哺乳類グリコシル化パターンを有するFSHとの組合せに関する。本発明者らは、FSHを含む組成物中で保存剤であるベンズアルコニウムクロリドを使用したとき、安定性の増大を観察しなかった(図2を参照)。
【0035】
安定性の増大が観察され得る前記高温は、少なくとも25℃、少なくとも30℃、少なくとも35℃、40℃、少なくとも45℃、少なくとも50℃、少なくとも55℃、少なくとも60℃、少なくとも65℃、少なくとも70℃、少なくとも75℃、少なくとも80℃、少なくとも85℃、又は少なくとも90℃である。好ましい実施態様では、高温は、37℃以上である。
【0036】
用語「安定性」は、(生物学的効力の維持を含む)本発明の組成物中のFSHの物理的、化学的、及び立体配座的な安定性を指す。タンパク質製剤の不安定性は、ヘテロ二量体の単量体への解離、脱グリコシル化、グリコシル化の変化、酸化(特にa-サブユニットの)、又は本発明の組成物に含まれるFSHポリペプチドの少なくとも1つの生物活性を低減する任意の他の構造的変化によって、より高次のポリマーを形成するためのタンパク質分子の化学的な分解又は凝集によって引き起こされ得る。安定性の増大に起因して、本発明のFSH組成物は、より長い貯蔵期間を有する。
【0037】
本発明の組成物は、凝集を低減するために界面活性剤を更に含み得る。これら添加剤は、バイアル及び/又は送達装置(例えば、シリンジ、ポンプ、カテーテル等)の表面への吸着によって引き起こされる生物学的効力の喪失を最小化することにより、ポンプ又はプラスチック容器を用いて製剤を投与する場合、特に有用である。薬学的に許容し得る界面活性剤の存在は、タンパク質が凝集する性質を緩和し、それによって、生物学的効力の喪失を低減する。好適な界面活性剤は、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドのブロックコポリマーから選択してよく、好ましくは、Pluronic F77、Pluronic F87、Pluronic F88、及びPluroniclD F68である。本発明の好ましい実施態様では、本発明の組成物に添加される界面活性剤は、Poloxamer 188である。
【0038】
本発明の組成物は、浸透圧調整剤を更に含み得る。「浸透圧調整剤」は、生理学的に耐容性であり、そして、製剤と接触している細胞膜を貫通する水の正味流動を防ぐために該製剤に好適な浸透圧を付与する化合物である。グリセリン等の化合物が、公知の濃度でこのような目的のために一般的に使用される。他の好適な浸透圧調整剤は、アミノ酸若しくはタンパク質(例えば、メチオニン又はアルブミン)、塩(例えば、塩化ナトリウム)、及び糖(例えば、デキストロース、スクロース、及びラクトース)、並びに/又は当技術分野において周知の他の多くのものを含むが、これらに限定されない。
【0039】
本発明の組成物は、緩衝剤を更に含み得る。用語「緩衝剤」は、製剤中で薬学的又は獣医学的に使用するのに安全であることが知られており、そして、製剤のpHを該製剤に望ましいpH範囲で維持又は制御する効果を有する化合物の溶液を指す。中等度に酸性のpH~中等度に塩基性のpHでpHを制御するための許容可能なバッファは、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、アルギニン、TRIS、及びヒスチジン等の化合物を含むが、これらに限定されない。「TRIS」は、2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3,-プロパンジオール及びその任意の薬理学的に許容し得る塩を指す。本発明の組成物に含まれる好ましいバッファは、リン酸バッファ、最も好ましくは、リン酸ナトリウム、特に、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を含む。
【0040】
組成物は、例えば、約pH4~約pH10等の広範囲のpHを網羅し得る。好ましくは、本発明のFSHの組成物は、5.5又は約5.5~9.0又は約9.0、より好ましくは約pH7.0、pH8.0、及び8.2を含む6.0又は約6.0~8.5又は約8.5、最も好ましくは、pH7.0又は約7.0のpHを有する。
【0041】
本発明の組成物は、安定剤を更に含み得る。用語「安定剤」は、凝集、不活化、及び酸化を含むタンパク質の分解を最小化するために本発明の組成物に添加される化合物を指す。このような分解は、熱及び光等の外因によって、又はアルブミン等のヒト血液生成物を含まない製剤において、又は保存剤を含有する多用量製剤において加速され得る。
【0042】
また、安定剤がL-メチオニンであることも本明細書で企図される。米国特許第5272135号には、組成物に遊離L-メチオニンを添加すると、少なくとも1つのメチオニン残基を含むアミノ酸配列を有するポリペプチドにおけるメチオニン残基の酸化が阻害されることが記載されている。メチオニン残基の酸化は、容易に酸素が透過することができ、そして、調製品が保存されるプラスチック容器、例えば、ポリプロピレン又は低密度ポリエチレン(LDPE)に関連すると言われている。
【0043】
組成物が賦形剤を含み得ることも本明細書で更に企図される。賦形剤の例は、本明細書に記載され、そして、更なる例は、当業者に公知である。
【0044】
更に、本発明の組成物中のFSHは、好ましくは、改善されたグリコシル化パターンを有する。特に、多量のバイセクティングGlcNAc残基及び/又は多量の2,6-結合シアル酸、並びに多量の硫酸化グリカンが、FSHの高活性に関与し得る。更に、本発明に係るFSH組成物は、更に多くの多様かつ複雑なグリコシル化パターンも示し、すなわち、例えばCHO細胞から得られた従来のFSH調製品と比べてより様々なグリカン構造が調製品中に存在する。CHO由来のFSHは、標的細胞において単一の経路しか活性化することができないが、本発明に係る改善されたFSHは、その独特のグリコシル化パターンに起因して、恐らく複数の異なる経路を介してその生物活性を発揮し、その結果、生物学的応答が増大すると考えられる。これら経路の一部は、cAMPシグナル伝達を含むが、他の新規の経路は、cAMP非依存性である。
【0045】
したがって、組成物中のFSHは、好ましくは、以下の特徴のうちの1つ以上を含むグリコシル化パターンを有する:
(i)バイセクティングN-アセチルグルコサミン(bisGlcNAc)を保有しているグリカンの相対量が少なくとも20%である;及び/又は
(ii)フコースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも30%である;及び/又は
(iii)2,6結合シアル酸の相対量が少なくとも30%である;及び/又は
(iv)多様なグリコシル化パターンである。
グリコシル化パターンが、該特徴(i)、(ii)、及び(iii)のうちの少なくとも2つ、そして、好ましくは該特徴(i)、(ii)、及び(iii)の全てを含むことも本明細書で企図される。
【0046】
用語「シアル酸」は、特に、ノイラミン酸の任意のN-又はO-置換誘導体を指す。シアル酸は、5-N-アセチルノイラミン酸及び5-N-グリコリルノイラミン酸の両方を指し得るが、好ましくは、5-N-アセチルノイラミン酸のみを指す。シアル酸、特に、5-N-アセチルノイラミン酸は、好ましくは、2,3-又は2,6-結合を介して炭水化物鎖に結合する。好ましくは、本明細書に記載されるFSH組成物には、2,3-及び2,6-結合シアル酸の両方が存在する。
【0047】
本発明に係る「グリカンの相対量」とは、FSHを含む組成物中のFSH糖タンパク質に結合しているグリカンのうちの具体的な百分率又は百分率範囲を指す。特に、グリカンの相対量とは、FSHタンパク質中に含まれ、したがって、FSHを含む組成物中のFSHポリペプチド鎖に結合している全てのグリカンのうちの具体的な百分率又は百分率範囲を指す。グリカンの100%とは、それぞれ、FSH調製品のFSH糖タンパク質に結合しているか又はFSHを含む組成物中の全てのグリカンを指す。例えば、バイセクティングGlcNAcを保有しているグリカンの相対量が60%とは、FSHタンパク質に含まれ、したがって、FSH調製品中のFSHポリペプチド鎖に結合している全てのグリカンのうちの60%がバイセクティングGlcNAc残基を含むが、FSHタンパク質に含まれ、したがって、FSH調製品中のFSHポリペプチド鎖に結合している全てのグリカンのうちの40%がバイセクティングGlcNAc残基を含まないFSH調製品を指す。
【0048】
本明細書に与えられる数、特に特定のグリコシル化特性の相対量は、好ましくは、概数として理解されるべきである。特に、前記数は、最高10%高い及び/又は低くてよい、特に、最高9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、又は1%高い及び/又は低くてよい。
【0049】
「2,6-結合シアル酸の相対量」とは、2,6-結合シアル酸であるシアル酸の合計量のうちの特定の百分率又は百分率範囲を指す。したがって、2,6-結合シアル酸の相対量が100%とは、全てのシアル酸が2,6-結合シアル酸であることを意味する。例えば、2,6-結合シアル酸の相対量が60%とは、FSHタンパク質に含まれ、したがって、FSH調製品中のFSHタンパク質のオリゴ糖鎖に結合している全てのシアル酸のうちの60%が2,6-結合を介して結合しているが、FSHタンパク質に含まれ、したがって、FSH調製品中のFSHタンパク質のオリゴ糖鎖に結合している全てのシアル酸のうちの40%が2,6-結合を介して結合しておらず、例えば、2,3-結合又は2,8-結合を介して結合しているFSH調製品を指す。
【0050】
用語「多様なグリコシル化パターン」とは、特に、グリコシル化パターンが複数の異なるグリカン構造を含む調製品又は組成物中のFSHタンパク質のグリコシル化パターンを指す。異なるグリカン構造は、少なくとも1つの単糖単位及び/又は例えば硫酸残基、アセチル残基等の少なくとも1つの化学修飾の存在/非存在、量、及び/又は位置が異なるオリゴ糖構造である。特定の「異なるグリカン構造」は、好ましくは、その相対量が、グリコシル化パターン中のグリカン構造の合計量の少なくとも0.02%、より好ましくは少なくとも0.03%、少なくとも0.05%、少なくとも0.07%、少なくとも0.1%、少なくとも0.15%、少なくとも0.2%、少なくとも0.25%、少なくとも0.3%、又は少なくとも0.5%である場合にのみこれに関して考慮される。具体的には、多様なグリコシル化パターンは、少なくとも5種の異なるグリカン構造を含むグリコシル化パターンである。好ましくは、多様なグリコシル化パターンは、少なくとも7種、より好ましくは少なくとも10種、少なくとも15種、少なくとも20種、少なくとも25種、少なくとも30種、少なくとも35種、少なくとも40種、少なくとも45種、少なくとも50種、少なくとも55種、そして、最も好ましくは少なくとも60種の異なるグリカン構造を含む。多様なグリコシル化パターンは、特に、グリコシル化パターンが、それぞれの調製品又は組成物中のCHO細胞から得られるFSHよりも多くの異なるグリカン構造を含む調製品又は組成物中のFSHのグリコシル化パターンも指し、特に、グリコシル化パターンは、CHO細胞から得られるFSHよりも少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、そして、最も好ましくは少なくとも100%多い異なるグリカン構造を含む。
【0051】
FSHのシアリル化度は、通常、Z数として表される。Z数は、糖タンパク質のグリカン構造の相対負電荷を示す。Z数は、以下の式によって計算される:
Z=A1%×1+A2%×2+A3%×3+A4%×4
(式中、A1%は、-1の電荷を有するグリカンの百分率であり、A2%は、-2の電荷を有するグリカンの百分率であり、A3%は、-3の電荷を有するグリカンの百分率であり、そして、A4%は、-4の電荷を有するグリカンの百分率である)。これら百分率は、荷電及び無電荷のグリカンを含む、FSHに結合している全てのグリカンに関して計算される。グリカンの電荷は、グリカンに含まれる任意の荷電単糖単位又は置換基によって、特に、シアル酸残基及び/又は硫酸基及び/又はリン酸基によって提供され得る。FSHのグリカンの電荷は、一般的に、そのシアル酸残基によってのみ決定され、そして、FSHは、一般的に、4つのグリカン構造を有するので、Z数は、FSHにおけるシアル酸の量又はFSHの酸性度(acidify)の指標である。しかし、FSHが著しい量の硫酸化グリカンも含むとき、Z数は、シアル酸及び硫酸基の合計量の指標である。
【0052】
特定の実施態様では、本発明は、調製品中のFSHが、以下の特徴のうちの1つ以上を含むグリコシル化パターンを有するFSH調製品を提供する:
(i)バイセクティングN-アセチルグルコサミン(bisGlcNAc)を保有しているグリカンの相対量が少なくとも35%である;
(ii)フコースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも60%である;及び
(iii)2,6結合シアル酸の相対量が少なくとも30%である。
【0053】
好ましくは、前記FSHは組み換えFSHであり、したがって、好ましくはヒト宿主細胞である宿主細胞における組み換え生成によって得られる。それぞれのグリコシル化パターンを提供する好適なヒト宿主細胞を以下に記載する。
【0054】
好ましくは、前記グリコシル化パターンは、前記特徴(i)、(ii)、及び(iii)のうちの少なくとも2つ(特に、特徴(i)及び(ii)、(i)及び(iii)、又は(ii)及び(iii))、そして、より好ましくは、特徴(i)、(ii)、及び(iii)の全てを含む。更に、前記グリコシル化パターンは、少なくとも15%の相対量の少なくとも四アンテナ型グリカン、及び/又は少なくとも80%の相対量の1つ以上のシアル酸残基を保有しているグリカン、及び/又は少なくとも95%の相対量のガラクトースを保有しているグリカン、及び/又は少なくとも60%の相対量の末端ガラクトース単位を保有しているグリカン分枝、及び/又は少なくとも1%、好ましくは少なくとも2.5%の相対量の硫酸基を保有しているグリカンを更に含み得る。末端ガラクトース単位は、場合により、シアル酸残基を更に保有し得る。組成物中の組み換えFSHは、好ましくは、少なくとも200のZ数を有する。
【0055】
bisGlcNAcを保有しているグリカンの相対量は、好ましくは、少なくとも25%、少なくとも27%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも38%、又は少なくとも40%である。より好ましくは、約25%~約60%の範囲内、特に、約35%~約60%の範囲内、又は約38%~約50%の範囲内、又は約40%~約45%の範囲内である。一実施態様によれば、約42%である。1つ以上のシアル酸残基を保有しているグリカンの相対量は、好ましくは、少なくとも83%、少なくとも85%、又は少なくとも88%、そして、より好ましくは、約85%~約98%の範囲、又は約88%~約95%の範囲、最も好ましくは約90%である。Z数は、好ましくは、少なくとも210、より好ましくは、少なくとも215、少なくとも220、少なくとも230、又は少なくとも240である。例えば、FSH調製品に酸性及び/又は負に帯電しているFSHタンパク質を多く含めることによって、より高いZ数を得ることができる。好ましくは、少なくとも四アンテナ型のグリカンの相対量は、少なくとも16%、少なくとも17%、少なくとも18%、又は少なくとも19%、より好ましくは少なくとも20%又は少なくとも21%である。少なくとも三アンテナ型のグリカン、特に三及び四アンテナ型のグリカンの相対量は、好ましくは、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、又は少なくとも40%、より好ましくは、少なくとも45%、少なくとも50%、又は少なくとも55%である。好ましくは、フコースを保有しているグリカンの相対量は、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、又は少なくとも70%、より好ましくは、少なくとも75%又は少なくとも78%である。約70%~約90%の範囲内、特に、約75%~約85%の範囲内であってよい。好ましくは、2,6-結合シアル酸の相対量は、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも53%、少なくとも55%、少なくとも60%、又は少なくとも65%、特に、約40%~約99%の範囲内、好ましくは、約40%~約80%、約50%~約60%、又は約53%~約70%である。好ましくは、2,3-結合シアル酸の2,6-結合シアル酸に対する比は、約1:10~約7:3、より好ましくは、約1:5~約3:2、又は約1:2~約1:1、最も好ましくは、約2:3~約1:1の範囲内である。好ましい実施態様では、2,6-結合シアル酸の相対量は、2,3-結合シアル酸の相対量を超える。ガラクトースを保有しているグリカンの相対量は、好ましくは、少なくとも97%であり、そして、最も好ましくは、約98%である。好ましくは、場合によりシアル酸残基によって修飾されているガラクトース単位を保有しているグリカン分枝の相対量は、少なくとも65%、より好ましくは、少なくとも70%、又は少なくとも73%である。好ましくは、約60%~約95%の範囲内、そして、より好ましくは、約70%~約80%の範囲内である。好ましくは、硫酸基を保有しているグリカン(硫酸化グリカン)の相対量は、少なくとも1%、少なくとも1.5%、少なくとも2%、少なくとも2.5%、少なくとも3%、又は少なくとも5%、より好ましくは、少なくとも7%、少なくとも10%、又は少なくとも12%である。一実施態様によれば、硫酸基を保有しているグリカンの相対量は、50%、好ましくは、40%、35%、30%、25%、又は20%を超えない。
【0056】
好ましい実施態様では、調製品中のFSHは、該調製品中のFSHが少なくとも45種、又は好ましくは少なくとも50種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つが該調製品中のFSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.05%の相対量を有する多様なグリコシル化パターンを有する。一実施態様によれば、前記調製品中のFSHは、少なくとも35種、又は好ましくは少なくとも40種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つは、該調製品中のFSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.1%の相対量を有する;及び/又は該調製品中のFSHは、少なくとも20種、又は好ましくは少なくとも25種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つは、該調製品中のFSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.5%の相対量を有する。更なる実施態様では、該調製品中のFSHは、対応する調製品中のCHO細胞から得られるFSHよりも少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%多い異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つは、それぞれの調製品中のFSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.05%、0.1%、又は0.5%の相対量を有する。
【0057】
好ましい実施態様では、本発明に係る組み換えFSH調製品は、N-グリコリルノイラミン酸(NeuGc)を含まないか又は検出可能な量のNeuGcを含まない。更に、本発明に係る組み換えFSH調製品は、好ましくは、Galiliエピトープ(Galα1,3-Gal構造)も含まないか又は検出可能な量のGaliliエピトープも含まない。
【0058】
本発明は、特に、ヒトグリコシル化パターンを有するFSHを提供する。これらグリコシル化特性により、副作用を誘導する外来免疫原性非ヒト構造は存在しない、すなわち、免疫原性非ヒトシアル酸(NeuGc)若しくはGaliliエピトープ(Gal-Gal構造)(いずれもげっ歯類生成系について知られている)等の特定の外来糖構造、又は例えば酵母系から公知である免疫原性高マンノース構造等の他の構造によって引き起こされることが知られている望ましくない副作用又は問題点が回避されることを意味する。
【0059】
したがって、組成物中の組み換えFSHが、以下の特徴のうちの1つ以上を含むことが企図される:
(a)グリコシル化パターンが、少なくとも85%の相対量の1つ以上のシアル酸残基を保有しているグリカンを含む;
(b)グリコシル化パターンが、少なくとも18%の相対量の少なくとも四アンテナ型のグリカンを含む;
(c)Z数が少なくとも200である;
(d)ヒト組み換えFSHである;及び/又は
(e)ヒト細胞株若しくはヒト細胞によって生成される。
【0060】
本発明の更なる好ましい実施態様では、組成物中の組み換えFSHは、以下の特徴のうちの1つ以上を含むグリコシル化パターンを有する:
(i)バイセクティングN-アセチルグルコサミン(bisGlcNAc)を保有しているグリカンの相対量が約25%~約50%の範囲である;
(ii)少なくとも四アンテナ型のグリカンの相対量が少なくとも16%である;
(iii)フコースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも35%である;
(iv)2,6結合シアル酸の相対量が少なくとも53%である;
(v)1つ以上のシアル酸残基を保有しているグリカンの相対量が少なくとも88%である;
(vi)Z数が少なくとも220である;
(vii)ガラクトースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも95%である;
(viii)場合によりシアル酸残基によって修飾されている末端ガラクトース単位を保有しているグリカン分枝の相対量が少なくとも60%である;
(ix)硫酸基を保有しているグリカンの相対量が少なくとも3%である;
(x)少なくとも45種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、調製品中のFSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.05%の相対量を有する;
(xi)少なくとも35種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、調製品中のFSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.1%の相対量を有する;
(xiii)少なくとも20種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、調製品中のFSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.5%の相対量を有する;及び/又は
(xiv)対応する調製品中のCHO細胞から得られたFSHよりも少なくとも40%多い異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、それぞれの調製品中のFSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.05%の相対量を有する。
【0061】
また、組成物中の組み換えFSHが、以下の特徴を含むグリコシル化パターンを有することも本明細書において企図される:
(i)バイセクティングN-アセチルグルコサミン(bisGlcNAc)を保有しているグリカンの相対量が約25%~約50%の範囲である;
(ii)少なくとも四アンテナ型のグリカンの相対量が少なくとも16%である;
(iii)フコースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも35%である;
(iv)2,6結合シアル酸の相対量が約53%~約99%の範囲である;及び
(v)1つ以上のシアル酸残基を保有しているグリカンの相対量が少なくとも88%である。
【0062】
特定の好ましい実施態様では、本発明に係る組み換えFSH組成物は、以下の表1に列挙されるグリコシル化パターンのうちの1つを有する:
【表1】
【0063】
表1に列挙される実施態様1~12では、好ましくは、バイセクティングGlcNAcの相対量は、少なくとも20%ではなく、少なくとも25%である;及び/又は2,6-結合シアル酸の相対量は、少なくとも53%ではなく、好ましくは少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%である;及び/又は硫酸化グリカンの相対量は、少なくとも2.5%ではなく、好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも10%である。表1に列挙されるグリコシル化パターンは、好ましくは、ヒトグリコシル化パターンである、及び/又はNeuGc及びGaliliエピトープを含まない。
【0064】
本発明に係るFSHは、好ましくは、ヒト細胞、好ましくはヒト細胞株における生成によって得ることができるヒトFSHである。ヒト細胞株は、好ましくは、ヒト血液細胞に由来し、特に、骨髄細胞株、好ましくは、骨髄性白血病細胞株である。細胞株は、好ましくは、不死化されている。好ましい実施態様では、本発明に係るFSHを生成するための細胞株は、Glycotope GmbH(Robert-Rossle-Str, 10, 13125 Berlin (DE))によって、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen (DSMZ)(Ιnhoffenstrasse 7B, 38124 Braunschweig (DE))においてブダペスト条約の要件に従ってアクセッション番号DS ACC3078として2010年7月28日に寄託された細胞株GT-5sであるか、又はこれに由来する細胞株若しくは相同な細胞株である。GT-5sは、不死化ヒト骨髄性白血病細胞株であり、本明細書に記載される特定のグリコシル化パターンを提供することができる。本発明によれば、用語「GT-5s」及び「GT-5s細胞株」は、GT-5sに由来する細胞又は細胞株も含む。GT-5sに由来する細胞株は、例えば、場合によりその突然変異率を高めるためにGT-5s細胞を処理した後、GT-5s培養物から単一クローン若しくは細胞群を無作為に若しくは特異的に選択することによって、又はGT-5s細胞株を遺伝子操作することによって得ることができる。選択されたクローン又は細胞群は、更に上記の通り処理してよい、及び/又は更なる選択ラウンドを実施してよい。GT-5sに相同な細胞株は、特に、不死化ヒト骨髄細胞株である。好ましくは、GT-5sに由来するか又は相同な細胞株は、GT-5sから得られるものと同様のグリコシル化パターンを有するFSHを提供することができる。好ましくは、GT-5sに由来するか又は相同な細胞株によって生成されるFSHは、本明細書に記載されるグリコシル化特徴のうちの1つ以上を有し、特に、少なくとも20%の相対量のバイセクティングN-アセチルグルコサミン(bisGlcNAc)を保有しているグリカン;及び/又は少なくとも30%の相対量のフコースを保有しているグリカン;及び/又は少なくとも30%の相対量の2,6-結合シアル酸;及び/又は多様なグリコシル化パターンを有する。GT-5sに由来するか又は相同な細胞株は、本明細書において好ましいと記載されているのに類似するグリコシル化パターン、特に、表1から選択されるグリコシル化パターンを有するFSHを発現することができる。GT-5sに由来するか又は相同な細胞株によって生成されるFSHの類似のグリコシル化パターンは、好ましくは、特にbisGlcNAcの相対量、シアリル化グリカンの相対量、硫酸化グリカンの相対量、2,6結合シアル酸の相対量、フコースの相対量、四アンテナ型のグリカンの相対量、ガラクトースを保有しているグリカン分枝の相対量、及びZ数からなる群から選択されるグリコシル化特性のうちの1つ以上、好ましくは全てにおいて、GT-5sから得られるFSHのグリコシル化パターンとは20%以下、より好ましくは15%以下、10%以下、又は5%以下異なる。更に、本発明に係るFSHは、好ましくは、本明細書に開示される1つ以上の特定のグリコシル化特徴、好ましくは、表1から選択されるグリコシル化パターンを有するヒトFSHである。細胞株GT-5sに加えてそれに由来する細胞株若しくはそれと相同な細胞株は、特にFSHタンパク質に関して、非常に安定かつ均質なタンパク質生成を提供するので、特に有利である。これらは、非常に良好なバッチ間の一貫性を有し、すなわち、異なる生成ランから得られたとき、又は異なるスケール及び/若しくは異なる培養手順で生成されたとき、生成されたタンパク質及びそのグリコシル化パターンが類似している。特に、本明細書に記載される多様なグリコシル化パターンは、FSHを発現させるためにこれら細胞株を使用する異なる生成ランで高度に再現可能である。
【0065】
用語「細胞」及び「細胞株」は、互換的に使用され、好ましくは、1つ以上の哺乳類細胞、特にヒト細胞を指す。この用語は、細胞又は細胞集団の後代を含む。当業者は、「細胞」が単一細胞の後代を含むことを理解し、そして、後代は、天然、偶発的、又は意図的な突然変異及び/又は変化に起因して元の親細胞と必ずしも完全に同一(形態又は全DNA補体)である訳ではない。「細胞」は、好ましくは、生存しているヒト又は動物の身体に組み込まれていない単離細胞及び/又は培養細胞を指す。
【0066】
したがって、本発明は、ヒト宿主細胞又はヒト細胞株における生成によって得ることができる組み換えFSH組成物を提供する。好ましくは、組み換えFSHは、ヒト骨髄細胞株、好ましくは、不死化ヒト骨髄性白血病細胞株、特に、細胞株GT-5s又はそれに由来する細胞株若しくはGT-5sと相同な細胞株から得ることができる。前記細胞株において生成されるFSHは、上記グリコシル化パターンを呈し、そして、特に、本明細書に記載する有利な処置効果及び薬理学的効果を呈することが見出された。したがって、本発明は、また、好適な細胞株、特に上記細胞株、好ましくは、細胞株GT-5s、GT-5sに由来する細胞株、又はGT-5sと相同な細胞株において組み換えでFSHを発現させることによって組み換えFSH調製品を生成する方法に関する。組み換えFSHは、更に、PerC6、HT-1080、若しくはHEK293等の他のヒト細胞株、又はPerC6、HT-1080、若しくはHEK293に由来する細胞株、又はPerC6、HT-1080、若しくはHEK293と相同な細胞株において発現し得る。それぞれ生成される組み換えFSHは、単離することができ、そして、場合により精製することができる。
【0067】
したがって、組み換えFSH組成物は、好ましくは、以下の工程を含むプロセスによって得ることができる:
(i)FSHを発現するのに好適な条件下でFSHのアルファ及びベータサブユニットをコードしている核酸を含む、好ましくは細胞株GT-5s若しくは相同な細胞株に由来する、又はPerC6、HT-1080、若しくはHEK293等の細胞株又は相同細胞株に由来するヒト細胞株を培養する工程と;
(ii)FSHを単離する工程。
【0068】
発現のために使用されるヒト宿主細胞は、好ましくは、骨髄細胞、特に不死化ヒト骨髄性白血病細胞であり、そして、好ましくは、細胞株GT-5sであるか若しくはそれに由来し、あるいはそれと相同な細胞株、又はPerC6、HT-1080、若しくはHEK293等の細胞株、又はPerC6、HT-1080、若しくはHEK293等の細胞株に由来する細胞株、又はそれと相同な細胞株である。ヒト宿主細胞は、FSHを発現するように培養する。好適な培養条件は、当業者に公知である。
【0069】
FSHの単離は、好ましくは、以下の更なる工程を含む:
(a)FSHがヒト細胞によって分泌される場合、培養上清を得るか、又はFSHが分泌されない場合、ヒト細胞を溶解させる工程と;
(b)逆相クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー工程を使用して、該培養上清又は細胞溶解物からFSHを単離する工程と;
(c)場合により、好ましくは塩基性のFSHアイソフォームを除去する洗浄工程、例えば、約pH5.0又は約pH4.5又は約pH4.0の洗浄工程を含むアニオン交換クロマトグラフィーを使用することによって、塩基性FSHアイソフォームを除去することによりFSHの酸性画分を得る工程。
【0070】
組み換えFSHに好適な精製プロセスは、例えば、米国特許出願第61/263,931号、欧州特許出願第09 014 585.5号、及び国際公開公報第2011/063943号に記載されている。
【0071】
好ましくは、FSHアルファサブユニットをコードしている核酸及びFSHベータサブユニットをコードしている核酸は、ヒト宿主細胞における発現を可能にする好適な発現ベクターに含まれる発現カセットに含まれる。FSHアルファサブユニットをコードしている核酸及びFSHベータサブユニットをコードしている核酸は、同じベクターに含まれていてもよいが、好ましくは、別々のベクターに含まれる。更に、IRESエレメント等の適切なエレメントを使用して1つの発現カセットから発現させることもできる。好ましくは、FSHは、ヒト細胞によって分泌される。好ましい実施態様では、ヒト細胞の培養は、発酵槽内及び/又は無血清条件下で実施される。
【0072】
ヒト宿主細胞又はヒト細胞株における生成によって得ることができる組み換えFSH組成物は、好ましくは、本発明に係る組み換えFSH調製品に関して本明細書に記載される特徴を呈し、特に、そのグリコシル化パターンは、上記特徴のうちの1つ以上、好ましくは、表1及び/又は請求項12~17記載の少なくとも1つのグリコシル化パターンを含む。
【0073】
好ましい実施態様では、本発明に係る組み換えFSHは、例えば、宿主細胞において1つ以上の核酸を発現させるためのヒトFSHサブユニット及びエレメントをコードしている該1つ以上の核酸を含む細胞株GT-5s、PerC6、HT-10-80、又はHEK293等のヒト細胞株における生成によって好ましくは得ることができる、組み換えヒトFSH(rhFSH)である。好ましくは、rhFSHのアルファサブユニットは、配列番号1に係るアミノ酸配列又は配列番号1とその全長にわたって少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の相同性若しくは好ましくは同一性を有するアミノ酸配列を有する。好ましい実施態様では、rhFSHのアルファサブユニットは、52位及び78位にアスパラギン残基を含み、そして、アミノ酸Asn52及びAsn78でグリコシル化されている。rhFSHのベータサブユニットは、好ましくは、配列番号2に係るアミノ酸配列又は配列番号2とその全長にわたって少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも98%の相同性若しくは好ましくは同一性を有するアミノ酸配列を有する。好ましい実施態様では、rhFSHのベータサブユニットは、7位及び24位にアスパラギン残基を含み、そして、アミノ酸Asn7及びAsn24でグリコシル化されている。
【0074】
本発明の更に好ましい実施態様では、本発明に係る組み換えFSH組成物は、
(a)著しい量のcAMPが放出されない濃度で;及び/又は
(b)cAMPシグナル伝達とは独立したシグナル伝達経路を誘導することによって、
顆粒膜細胞におけるプロゲステロンの放出を刺激することができる。
【0075】
本発明によれば、用語「著しい量のcAMPが放出されない」又は類似の表現は、それぞれ、特に、細胞又は組織によるcAMPの放出が、cAMPを最大限放出させる濃度のFSHで刺激した後の細胞又は組織によって得られるcAMP放出の量の25%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは15%未満、10%未満、7.5%未満、5%未満、又は2.5%未満であることを指す。これら細胞又は組織は、顆粒膜細胞又はセルトリ細胞等、FSHによる刺激を受けやすいか又は該刺激に対して応答性である。FSHとは独立したcAMP放出、すなわち、FSHの非存在下でも生じるcAMP放出は、これに関して考慮すべきではない。
【0076】
好ましくは、「著しい量のcAMPの放出」又は「著しいcAMPの放出」は、FSHの非存在下におけるcAMP放出を上回るcAMPの任意の放出、特に、測定の不正確さを上回るcAMPの任意の検出可能な放出である。cAMP放出を測定するための標準的な手順は、実施例に記載され、そして、cAMPの著しい放出又は著しくない放出を判定するために使用することができる。「cAMPの放出」とは、cAMPの核内放出及び/又はcAMPの細胞外放出若しくは分泌を指し、好ましくは、cAMPの分泌のみを指す。cAMPは、細胞シグナル伝達において二次メッセンジャー分子として作用する環状アデノシン一リン酸を指す。cAMPは、アデニリルシクラーゼによってATPから細胞において合成される。「cAMPシグナル伝達とは独立した」生物学的プロセス又はシグナル伝達経路は、好ましくは、アデニリルシクラーゼの活性化を含まない。
【0077】
更なる実施態様によれば、本発明に係る組み換えFSH調製品は、cAMPシグナル伝達とは独立した生物学的プロセスによって生殖細胞の成熟を刺激又は共刺激することができる。驚くべきことに、上記グリコシル化パターンによって、本明細書に記載される薬理学的及び処置的な利点を呈する組み換えFSHのそれぞれの新規薬理学的プロファイルが得られることが実験で見出された。
【0078】
一実施態様に係る組み換えFSH組成物は、顆粒膜細胞によるcAMPの放出を誘導するために必要な最低濃度を下回る濃度で、該顆粒膜細胞におけるプロゲステロンの放出を刺激することができる。下記プロゲステロン、エストラジオール、及び/又はcAMPの放出は、特に、以下の実施例2に記載される条件下における、1mL当たり約1×10~約1×10個の顆粒膜細胞、好ましくは、1mL当たり約5×10~約1×10個の顆粒膜細胞におけるインビトロ放出を指す。
【0079】
好ましくは、本発明に係る組み換えFSH調製品は、cAMPの放出を誘導しないか又は20pmol/mL未満、15pmol/mL未満、10pmol/mL未満、5pmol/mL未満のcAMP放出を誘導する濃度で、少なくとも100ng/mL、少なくとも150ng/mL、少なくとも200ng/mL、好ましくは、少なくとも250ng/mL、少なくとも300ng/mL、又は少なくとも400ng/mL プロゲステロンを放出させることができる。
【0080】
更に、本発明に係る組み換えFSH組成物は、好ましくは、ヒト尿FSH又はCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)に必要な濃度よりも低いFSH濃度で、少なくとも100ng/mL、少なくとも200ng/mL、好ましくは少なくとも300ng/mL、又は少なくとも400ng/mL プロゲステロンを放出させることができる。したがって、好ましくは、ヒト尿FSH又はCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)が対応するそれぞれ等しく高いプロゲステロン放出を生じさせない濃度で、少なくとも100ng/mL、少なくとも200ng/mL、好ましくは少なくとも300ng/mL、又は少なくとも400ng/mL プロゲステロンを放出させることができる。実施例によって証明される通り、本発明に係る組み換えFSHは、ヒト尿FSH又はCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)よりも強くプロゲステロンの生成を誘導、それぞれ、刺激する。
【0081】
本発明に係る組み換えFSH組成物は、国際公開公報第2012/017058号に記載の通り顆粒膜細胞アッセイにおいて測定できる下記特徴のうちの1つ以上を有し得る。
【0082】
更に、本発明に係る組み換えFSH組成物は、好ましくは、cAMPの放出を誘導しないか又は20pmol/mL未満、15pmol/mL未満、10pmol/mL未満、5pmol/mL未満のcAMP放出を誘導するFSH濃度で、少なくとも50nmol/L、少なくとも75nmol/L、少なくとも100nmol/L、好ましくは、少なくとも125nmol/L、又は少なくとも150nmol/L エストラジオールを放出させることができる。
【0083】
更に、本発明に係る組み換えFSH組成物は、好ましくは、ヒト尿FSH又はCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)に必要な濃度よりも低いFSH濃度で、少なくとも50nmol/L、少なくとも75nmol/L、少なくとも100nmol/L、少なくとも125nmol/L、少なくとも150nmol/L、少なくとも200nmol/L、少なくとも250nmol/L、少なくとも300nmol/L、又は少なくとも350nmol/L エストラジオールを放出させることができる。したがって、好ましくは、ヒト尿FSH又はCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)が対応するそれぞれ等しく高いエストラジオール放出を生じさせない濃度で、少なくとも50nmol/L、少なくとも75nmol/L、好ましくは少なくとも100nmol/L、少なくとも125nmol/L、少なくとも少なくとも150nmol/L、少なくとも200nmol/L、少なくとも250nmol/L、300nmol/L、又は少なくとも350nmol/L エストラジオールを放出させることができる。実施例によって証明される通り、本発明に係る組み換えFSH調製品は、それぞれ、ヒト尿FSH又はCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)よりも強くエストラジオールの生成を誘導、それぞれ、刺激する。
【0084】
したがって、組成物中の組み換えFSHは、顆粒膜細胞アッセイにおいて判定できる以下の特徴のうちの1つ以上を有する:
(a)顆粒膜細胞によるcAMPの放出を誘導するために必要な最低濃度を下回る濃度で、該顆粒膜細胞におけるプロゲステロンの放出を刺激することができる;
(b)cAMPの放出を誘導しないか若しくは10pmol/mL未満のcAMP放出を誘導するFSH濃度で、1mL当たり約5×104~約1×個の顆粒膜細胞において少なくとも200ng/mL プロゲステロンの放出を刺激することができる;
(c)ヒト尿FSH若しくはCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)によって必要とされる濃度よりも低い濃度で、1mL当たり約5×104~約1×10個の顆粒膜細胞において少なくとも100ng/mL プロゲステロンの放出を刺激することができる;及び/又は
(d)ヒト尿FSH若しくはCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)によって対応するプロゲステロン放出が生じない濃度で、1mL当たり約5×104~約1×10個の顆粒膜細胞において少なくとも100ng/mL プロゲステロンの放出を刺激することができる。
【0085】
cAMP放出及び性ステロイドの発現における本明細書に記載されるそれぞれの特徴は、例えば、国際公開公報第2012/017058号に記載の通り、顆粒膜細胞アッセイを使用することによって分析及び測定することができる。
【0086】
本明細書で論じる通り、本発明に係る組み換えFSH調製品では、既に著しい量のcAMPが放出されない濃度で、性ステロイド、例えば、プロゲステロンの放出、特に、顆粒膜細胞におけるプロゲステロンの放出を刺激又は共刺激することができ得、特に、本発明に係る組み換えFSHは、顆粒膜細胞によるcAMP放出の誘導に必要な最低濃度を下回る濃度で、顆粒膜細胞における性ステロイド、例えば、プロゲステロンの放出を刺激することができ得る。更に、特定の実施態様では、本発明に係る組み換えFSH調製品は、cAMPシグナル伝達とは独立したシグナル伝達経路を誘導することによって、プロゲステロン、特に顆粒膜細胞におけるプロゲステロンの放出を刺激することができる。好ましくは、不妊症の処置は、本発明に係る組み換えFSHによるcAMPシグナル伝達とは独立したシグナル伝達経路を誘導して、プロゲステロンの放出を刺激することを含む。しかし、組み換えFSHによってcAMPシグナル伝達を含む他のシグナル伝達経路が更に活性化される場合もある。他の実施態様では、不妊症の処置は、本発明に係る組み換えFSHによる著しい量のcAMPの誘導を含まない。
【0087】
本発明に係る「不妊症の処置」という用語は、ヒト又は動物の被験体の生殖又は繁殖能に関連する機能不全又は疾患の処置を意味し、特に、不妊症の処置は、補助生殖医療、排卵誘発、体外受精、子宮内受精、並びに例えば卵胞形成及び精子形成等の生殖細胞の成熟の可能化又は改善を含む。
【0088】
本発明の好ましい実施態様では、組成物中の組み換えFSHは、単一用量の投与後にヒト女性において卵胞の成長を誘導することができ、該単一用量は、好ましくはFSH 25~500IUを含み、そして、好ましくは、非経口的に、特に皮下注射によって投与される。
【0089】
本発明の更に好ましい実施態様では、組み換えFSHは、FSH-GEXである。
【0090】
本発明に係る組み換えFSH組成物は、好ましくは、医薬組成物中に存在する。したがって、本発明の更なる実施態様では、本発明に係る組み換えFSH組成物を含む医薬組成物である。医薬組成物は、本明細書に定義される不妊症の処置において使用することができる。医薬組成物は、更なる薬学的活性剤、特に、他のゴナドトロピン、特にLH及び/又はCG、好ましくは組み換え及び/又はヒトのLH又はCG等の不妊症の処置において有用な更なる剤を含み得る。あるいは、組み換えFSHを含む医薬組成物は、このような更なる薬学的活性剤と組み合わせて使用するために設計され得る。
【0091】
用語「医薬組成物」とは、特に、ヒト又は動物に投与するのに好適な組成物、すなわち、薬学的に許容し得る成分を含有する組成物を指す。好ましくは、医薬組成物は、バッファ、保存剤、及び浸透圧調整剤等の担体、希釈剤、又は医薬賦形剤と共に、活性化合物又はその塩若しくはプロドラッグを含む。FSHの国際単位(IU)は、first international standard for urinary FSH WHO 92/512 (WHO Tech Rep. Series No.872, 1988)を指し、そして、拡張卵巣増量法(Steelman, S.L. & Pohley, F.M, (1953) Endocrinology 53, 604- 616)に従って測定される。
【0092】
更に、本発明は、不妊症の処置において使用するための本発明に係る組み換えFSH調製品又は本発明に係る医薬組成物、並びに本発明に係る組み換えFSH調製品又は本発明に係る医薬組成物を患者に投与することを含む不妊症の処置方法を提供する。
【0093】
用語「患者」は、本発明によれば、ヒト、非ヒト霊長類、又は別の動物、特に、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、若しくはマウス及びラット等のげっ歯類等の哺乳類を意味する。特に好ましい実施態様では、患者はヒトである。ヒト患者の場合、FSHは、好ましくは、ヒトFSHである。患者は、男性であっても女性であってもよく、そして、好ましくは女性である。
【0094】
また、本発明に係る組み換えFSH調製品が、単一用量しか投与していない後でさえも生物学的効果を誘発できることも企図される。特に、本発明に係る組み換えFSH調製品又は本発明に係る医薬組成物は、単一用量のFSH調製品又は医薬組成物のみを投与した後、患者、特にヒト患者における卵胞の成長及び/又は卵子の成熟を誘導することができる。好ましくは、単一用量のみを投与した後に得られる生物学的効果は、ヒト尿から入手した及び/又はCHO細胞で発現したFSH調製品と比べて、特に卵胞の成長及び/又は卵子の成熟においてより高く、より顕著であり、及び/又はより高い比の処置された患者で達成される。前記単一用量は、特に、FSH 少なくとも10IU、好ましくはFSH 少なくとも15IU、FSH 少なくとも20IU、又はFSH 少なくとも25IU、及び/又はFSH 1000IU以下、好ましくはFSH 750IU以下、FSH 500IU以下、FSH 300IU以下、FSH 200IU以下、FSH 150IU以下、FSH 100IU以下、又はFSH 50IU以下を含む。好ましくは、前記単一用量は、FSH 約10IU~約500IU、より好ましくはFSH 約20IU~約300IU、例えば、FSH 約25IU、FSH 約75IU、又はFSH 約100IUを含む。
【0095】
患者の循環血液中のFSH濃度が10IU/L未満になる用量で本発明に係る組み換えFSH調製品を患者に投与することが本明細書において企図される。特定の実施態様では、患者に投与される用量によって、患者の循環血液中のFSH濃度は、約8IU/L未満、又は約6IU/L未満、特に約5IU/L未満、約4IU/L未満、約3IU/L未満、又は約2IU/L未満になる。患者の循環血液中のFSHの濃度は、例えば、約0.2~約10IU/L、特に、約0.3~約8IU/L、約0.4~約7IU/L、又は約0.5~約1IU/Lの範囲内である。特に、FSHは、cAMPの著しい放出を誘導しない用量で患者に投与される。しかし、本発明に係る組み換えFSH調製品は、患者の循環血液中のFSH濃度がより高くなる用量で投与してもよい。これは、FSH調製品を数日間投与する場合にも当てはまり得る。例えば、本発明のFSH調製品は、2~20日間、好ましくは4~18日間、そして、更により好ましくは6~15日間投与され得る。FSHを数日間投与する場合、単一用量は、約150IU以下、又は約125IU以下、好ましくは約100IU以下、更により好ましくは約75IU以下であってよい。また、このような単一用量が、約50IU以下、又は更には25IU以下であり得ることも企図される。本発明のFSHの投与によって、例えば、患者の循環血液中のFSH濃度が約18IU/L未満、又は約15IU/L未満、又は約12IU/L未満、特に約10IU/L未満、約8IU/L未満、又は約5IU/L未満になり得る。
【0096】
更なる実施態様では、本明細書に記載される通り、本発明に係る組み換えFSH調製品は、cAMPシグナル伝達とは独立した生物学的プロセスによって生殖細胞の成熟を刺激又は共刺激することができる。
【0097】
したがって、本発明は、また、同様にcAMPとは独立に性ステロイドの分泌を誘導及び/又は刺激するための本明細書に記載される組み換えFSH組成物又は医薬組成物に関する。更に、本発明は、また、cAMPシグナル伝達とは独立した生物学的プロセスによって生殖細胞の成熟を刺激又は共刺激するための上記組み換えFSH組成物又は医薬組成物に関する。更に、本発明は、また、著しいcAMP放出を誘導しないFSH濃度で性ステロイドの分泌を誘導及び/又は刺激するための本明細書に記載される組み換えFSH組成物又は医薬組成物に関する。更に、本発明は、また、一般的に使用される尿FSH又はCHO細胞から得られる組み換えFSHよりもはるかに低い濃度で性ステロイドの分泌を誘導するための本明細書に記載される組み換えFSH組成物又は医薬組成物に関する。特に不妊症を処置するためにそれぞれを使用することの薬理学的及び処置的な利点は、本明細書において詳細に論じられる。
【0098】
性腺ステロイド又は性ホルモンとしても知られている「性ステロイド」は、特に、脊椎動物のアンドロゲン又はエストロゲンの受容体と相互作用するステロイドホルモンを指す。用語「性ステロイド」は、タンパク質同化ステロイド、アンドロステンジオン、デヒドロエピアンドロステロン、ジヒドロテストステロン、及びテストステロン等のアンドロゲン;エストラジオール、エストリオール、及びエストロン等のエストロゲン;並びにプロゲステロンを含む。好ましくは、性ステロイドは、天然の性ステロイド、より好ましくは、天然のヒト性ステロイドを指す。本発明に係る好ましい性ステロイドは、エストラジオール及びプロゲステロン、特に、プロゲステロンである。
【0099】
特に、不妊症の処置は、cAMPシグナル伝達とは独立した生物学的プロセスによる生殖細胞の成熟の刺激又は共刺激を含み得る。しかし、不妊症の処置は、更に、cAMPシグナル伝達を含む1つ以上の他の生物学的プロセスによる生殖細胞の成熟の刺激を含み得、他の実施態様では、不妊症の処置は、このような他の生物学的プロセスによる生殖細胞の成熟の刺激を含まない。
【0100】
生殖細胞の成熟は、好ましくは、卵胞の成長及び/又は精子形成を含む。更に、FSHが生殖細胞の成熟を刺激する生物学的プロセスは、好ましくは顆粒膜細胞による性ステロイド、特にプロゲステロンの分泌を含み得る。好ましくは、cAMPシグナル伝達とは独立した生物学的プロセスとは、メッセンジャー分子としてcAMPを含まないシグナル伝達経路によって誘導される、好ましくは顆粒膜細胞による性ステロイド、特にプロゲステロンの分泌を指す。
【0101】
好ましい実施態様では、不妊症の処置は、補助生殖医療、排卵誘発、体外受精、例えば、卵細胞質内精子注入法による体外受精、配偶子卵管内移植、子宮内受精、女性における無排卵障害の処置、女性における卵を成熟させるための重篤なホルモン欠乏障害の処置、男性における精子生成欠損の処置、並びに/又は例えば、体外受精刺激プロトコル中及び/若しくは無排卵障害の処置における生殖細胞の成熟、例えば、卵胞形成及び精子形成、特に女性における卵胞の成熟の可能化若しくは改善を含む。
【0102】
本発明の更なる好ましい実施態様では、組み換えFSH組成物又は医薬組成物は、以下の特徴のうちの1つ以上を有する:
(i)単一用量のみを投与した後、卵胞の成長及び/若しくは卵子の成熟を誘導することができる;並びに/又は
(ii)ヒト、カニクイザル、ラット、及び/若しくはマウスのうちの1つ以上においてヒト尿から入手した及び/若しくはCHO細胞で発現したFSH調製品よりも短い循環半減期を有する;並びに/又は
(iii)ヒト、カニクイザル、ラット、及び/若しくはマウスのうちの1つ以上においてヒト尿から入手した及び/若しくはCHO細胞で発現したFSH調製品よりも低いバイオアベイラビリティを有する;並びに/又は
(iv)ヒト、カニクイザル、ラット、及び/若しくはマウスのうちの1つ以上においてヒト尿から入手した及び/若しくはCHO細胞で発現したFSH調製品と同様又はより高い治療効果を有する。
【0103】
更なる実施態様では、本発明に係る組み換えFSH調製品は、ヒト尿から入手した及び/又はCHO細胞で発現したFSH調製品よりも短い循環半減期を有する。特に、ヒト、カニクイザル、ラット、及び/又はマウスのうちの1つ以上において、より短い循環半減期を有する。好ましくは、循環半減期は、ヒト尿から入手した及び/又はCHO細胞で発現したFSH調製品よりも少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、少なくとも15%、又は少なくとも20%低い。特定の実施態様では、本発明に係る組み換えFSH調製品は、特に、ヒト、カニクイザル、ラット、及び/又はマウスのうちの1つ以上において、ヒト尿から入手した及び/又はCHO細胞で発現したFSH調製品よりも低いバイオアベイラビリティを有する。好ましくは、バイオアベイラビリティは、ヒト尿から入手した及び/又はCHO細胞で発現したFSH調製品よりも少なくとも5%、より好ましくは少なくとも10%、少なくとも15%、又は少なくとも20%低い。これに関して、バイオアベイラビリティは、好ましくは、薬物動態試験において得られる曲線下面積(AUG)値を指し、血清FSH濃度は、所定の量のFSHの投与後の様々な時点で測定される。循環半減期及びバイオアベイラビリティは、好ましくは、皮下注射によってFSHを投与した後、特に単一用量投与後に測定され、該単一用量は、好ましくは、FSH 約10~約1000IU、より好ましくは、FSH 約25IU~約500IU、又はFSH 約50IU~約300IU、特に、FSH 約100IUを含む。特に、循環半減期及びバイオアベイラビリティは、国際公開公報第2012/017058号に開示されている通り測定される。
【0104】
好ましい実施態様では、本発明に係る組み換えFSH組成物又は医薬組成物は、特に、ヒト、カニクイザル、ラット、及び/又はマウスのうちの1つ以上において、ヒト尿から入手した及び/又はCHO細胞で発現したFSH組成物又は医薬組成物と同様であるか又は更にはより高い処置効果を有する。用語「処置効果」は、好ましくは、被験体に投与されたときにエストラジオール及び/又はインヒビン-Bの放出を刺激する能力を指す。処置効果は、好ましくは、皮下注射によってFSHを投与した後、特に単一用量投与後に1以上の被験体の血液又は血清中のエストラジオール及び/又はインヒビン-Bの濃度を測定することによって判定され、該単一用量は、好ましくは、FSH 約10~約1000IU、好ましくは、FSH 約25IU~約500IU、又はFSH 約50IU~約300IU、特に、FSH 約100IUを含む。特に、処置効果は、国際公開公報第2012/017058号に開示されている通り判定される。同様の処置効果は、特に、エストラジオール及び/又はインヒビン-Bの血清濃度が互いに25%以下、好ましくは20%以下、15%以下、又は10%以下異なるそれぞれのFSH調製品によるエストラジオール及び/又はインヒビン-Bの刺激を指す。
【0105】
本発明に係る医薬組成物は、単一単位用量又は複数単位用量の形態であってよい。好ましくは、医薬組成物は、本発明に係る組み換えFSHを含み、更に、水等の溶媒、緩衝物質、安定剤、保存剤、賦形剤、界面活性剤、及び塩からなる群から選択される1つ以上の成分を含む滅菌溶液である。単一単位用量は、好ましくはFSH 約10IU~約750IU、より好ましくはFSH 約25IU~約500IU、FSH 約50IU~約400IU、又はFSH 約100IU~約300IUを含む。複数単位用量は、複数単位用量につき、特に少なくとも5、少なくとも10、少なくとも20、又は少なくとも50の単一用量を提供するのに十分なFSHを含む。医薬組成物は、例えば、注射ペンの形態であってよい。
【0106】
好ましくは、本発明に係る組み換えFSH調製品は、患者に非経口投与するためのものである。特に、組み換えFSHは、例えば、静脈内、筋肉内、又は皮下に注射又は注入することによって投与すべきである。本発明の特定の実施態様では、組み換えFSHは、医薬組成物中に存在する。好適な投薬レジメンは、当業者によって決定され得、そして、当技術分野における一般知識から導くことができる。
【0107】
ヒト尿から入手されるFSH組成物は、特に、閉経後の女性の尿から得られる。CHO細胞で発現するFSH調製品は、例えば、CHO細胞株CHOdhfr-[ATCC No. CRL-9096]で発現する。ヒト尿から入手されるFSH組成物及びCHO細胞で発現するFSH調製品は、好ましくは、市販されており、そして、医薬調製品、特に、それぞれBravelle及びGonal-fとして承認されている。異なるFSH調製品の効果、特に、その循環半減期、バイオアベイラビリティ、及び処置効果を比較するとき、同じ投与経路を使用し、そして、類似又は同じ更なる条件を使用して、同じ投薬レジメンで類似の被験体群にFSH調製品を投与することによって、該FSH調製品を分析する。
【0108】
更に、本発明に係るFSH組成物又は医薬組成物は、卵胞の成長及び/若しくは卵子の成熟を誘導するための医薬組成物を調製するため並びに/又は請求項24~30のいずれか一項記載の通り使用するために使用することができる。
【0109】
実施例
以下の実施例は、本発明を説明するが、本発明の範囲を限定すると解釈すべきではない。
【0110】
実施例1:クロロクレゾールの存在下及び非存在下におけるFSHの活性測定
FSH-GEX(商標)は、安定的にトランスフェクトされたHEK293細胞において発現しているhFSHRに結合し、そして、cAMPの生成を誘発する。刺激アッセイのために、HEK293-FSH-R細胞を収集し、そして、5×10細胞/mL(500μL/ウェル)の密度で24ウェルプレートに播種した。10% FCS、2% L-グルタミン、及び1μM アンドロステンジオンを含有するDMEM中、8% CO及び37℃で一晩細胞を培養した。続いて、上清を除去し、接着細胞をDMEMで洗浄し、そして、1500~1.46ng/mLの範囲の濃度のFSH-GEX(商標)を添加した。10% FCS、2% L-グルタミン、及び1μM アンドロステンジオンを含有するDMEMでFSH-GEX(商標)の連続希釈を行った。全てのサンプルをデュープリケートで実験した。8% CO及び37℃で3時間インキュベートした後、上清 300μLを回収し、そして、更に分析するまで-80℃で保存した。残りの細胞を8% CO及び37℃で更に21時間インキュベートした。合計24時間後、プレートを-80℃で冷凍した。解凍し、そして、残りの上清中で上下にピペッティングすることによって細胞溶解物を調製した。デュープリケートサンプルから得られた溶解物をプールし、そして、遠心分離(1200tpm(311xg)、5分間)によって清澄化した。
【0111】
cAMP含量を測定するために、市販されている競合EIA(環状AMP-Enzyme Immunoassay Kit, Enzo life sciences)によって上清を分析した。製造業者のプロトコルに従ってアッセイを実施した。更に希釈することなく非アセチル化されたサンプルを使用した。刺激アッセイから得られたデュープリケートウェルをEIAにおいてシングレットとして測定した。450nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダー(infinite F200, TECAN)を用いて測定し、そして、ノイズ/シグナル比を計算して、細胞の刺激のマーカーとしてcAMP放出を評価した。1よりも大きいノイズ/シグナル比は、細胞のcAMP放出を示す。ノイズ/シグナル比がより高いほど、より多くのcAMPが放出された。用量応答曲線に基づいて、EC50を決定し、そして、試験サンプル(この場合、クロロクレゾールを含有するサンプル)のEC50を参照物質(この場合、クロロクレゾールを含まないサンプル)で除することによって効力を得る。試験サンプルは、それぞれの試験時点で0.8超1.2未満の効力が観察されたとき、十分に活性であるとみなされる。
【0112】
4℃で24ヶ月間にわたって活性を測定した結果は、全試験期間にわたってクロロクレゾールの存在下においてFSHが十分な生物活性を有することを示す(図1を参照)。更に、保存温度を37℃に上昇させたとき、対照サンプルの活性は、クロロクレゾールを含有するサンプルと比較して低下し、これは、後者の安定化効果を示す(図2を参照)。
【0113】
実施例2:動的光散乱(DLS)、融点
Zetasizer Nano ZS ZEN3600(Malvern Instruments)を使用して動的光散乱によって融点を測定した。サンプル 20μLを12μLのキュベット(低容積石英キュベットZEN2112、カタログ番号105.251.006-QS、Hellma)に充填した。DTS v5.1 Control Softwareにおける測定パラメータは、「Mark-Houwinkパラメータ」、物質「タンパク質」(RI 1.45)、バッファ「50mg/mL スクロース」(計算粘度1.1685-0.4754cP、温度に依存)、「マルチプルナローモード」、「最適位置の探索」、「自動減衰選択」、ランタイム「自動」、ラン数1、測定数1であった。温度は、20℃から2℃ずつ90℃まで上昇させた。測定前、キュベットを各温度工程で2分間平衡化した。散乱光の検出角は、173°(後方散乱)であった。測定されたZ平均(直径(nm))を、温度上昇に従って評価した。
【0114】
結果を図3に与える。保存剤、すなわち、ベンズアルコニウムクロリドも含まない製剤とは対照的に、保存剤であるクロロクレゾールは、温度と独立してZ平均を最低限しか増加させないことによって分かる通り、FSH分子を安定化させる。
【0115】
項目
1. 組み換えFSH及びクロロクレゾールを含む組成物であって、該組み換えFSHが哺乳類グリコシル化パターンを有する組成物。
2. 前記組み換えFSHが、クロロクレゾールを含まない組成物に含まれる哺乳類グリコシル化パターンを有する組み換えFSHに比べて増大した高温安定性を有する、項目1記載の組成物。
3. 前記高温が、37℃以上である項目2記載の組成物。
4. 前記哺乳類グリコシル化パターンが、ヒトグリコシル化パターンである項目1~3のいずれか一項記載の組成物。
5. 界面活性剤を更に含む項目1~4のいずれか一項記載の組成物。
6. 前記界面活性剤が、Poloxamer 188である項目5記載の組成物。
7. 浸透圧調整剤を更に含む項目1~6のいずれか一項記載の組成物。
8. 緩衝剤を更に含む項目1~7のいずれか一項記載の組成物。
9. 安定剤を更に含む項目1~8のいずれか一項記載の組成物。
10. 前記安定剤が、L-メチオニンである項目9記載の組成物。
11. 賦形剤を更に含む項目1~10のいずれか一項記載の組成物。
12. 前記組成物中の前記組み換えFSHが、以下の特徴のうちの1つ以上を含むグリコシル化パターンを有する項目1~11のいずれか一項記載の組成物:
(i)バイセクティングN-アセチルグルコサミン(bisGlcNAc)を保有しているグリカンの相対量が少なくとも20%である;及び/又は
(ii)フコースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも30%である;及び/又は
(iii)2,6結合シアル酸の相対量が少なくとも30%である;及び/又は
(iv)多様なグリコシル化パターンである。
13. 前記グリコシル化パターンが、前記特徴(i)、(ii)、及び(iii)のうちの少なくとも2つ、そして、好ましくは前記特徴(i)、(ii)、及び(iii)の全てを含む項目12記載の組成物。
14. 前記組み換えFSHが、
(i)ヒト細胞株GT-5s若しくはそれに由来する細胞株若しくはそれと相同な細胞株;又は
(ii)ヒト細胞株PerC6
において生成させることによって入手可能である項目1~13のいずれか一項記載の組成物。
15. 前記組成物中の前記組み換えFSHが、以下の特徴のうちの1つ以上を含む項目1~14のいずれか一項記載の組成物:
(a)前記グリコシル化パターンが、少なくとも85%の相対量の1つ以上のシアル酸残基を保有しているグリカンを含む;
(b)前記グリコシル化パターンが、少なくとも18%の相対量の少なくとも四アンテナ型のグリカンを含む;
(c)Z数が少なくとも200である;
(d)ヒト組み換えFSHである;及び/又は
(e)ヒト細胞株若しくはヒト細胞によって生成される。
16. 前記組成物中の前記組み換えFSHが、以下の特徴のうちの1つ以上を含むグリコシル化パターンを有する項目1~15のいずれか一項記載の組成物:
(i)バイセクティングN-アセチルグルコサミン(bisGlcNAc)を保有しているグリカンの相対量が約25%~約50%の範囲である;
(ii)少なくとも四アンテナ型のグリカンの相対量が少なくとも16%である;
(iii)フコースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも35%である;
(iv)2,6結合シアル酸の相対量が少なくとも53%である;
(v)1つ以上のシアル酸残基を保有しているグリカンの相対量が少なくとも88%である;
(vi)Z数が少なくとも220である;
(vii)ガラクトースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも95%である;
(viii)場合によりシアル酸残基によって修飾されている末端ガラクトース単位を保有しているグリカン分枝の相対量が少なくとも60%である;
(ix)硫酸基を保有しているグリカンの相対量が少なくとも3%である;
(x)少なくとも45種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、前記組成物中の前記FSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.05%の相対量を有する;
(xi)少なくとも35種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、前記組成物中の前記FSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.1%の相対量を有する;
(xii)少なくとも20種の異なるグリカン構造を含み、該異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、前記組成物中の前記FSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.5%の相対量を有する;及び/又は
(xiii)対応する組成物中のCHO細胞から得られたFSHよりも少なくとも40%多い異なるグリカン構造を含み、前記異なるグリカン構造のそれぞれ1つが、それぞれの組成物中の前記FSHのグリカン構造の合計量の少なくとも0.05%の相対量を有する。
17. 前記組成物中の前記組み換えFSHが、以下の特徴を含むグリコシル化パターンを有する項目1~16のいずれか一項記載の組成物:
(i)バイセクティングN-アセチルグルコサミン(bisGlcNAc)を保有しているグリカンの相対量が約25%~約50%の範囲である;
(ii)少なくとも四アンテナ型のグリカンの相対量が少なくとも16%である;
(iii)フコースを保有しているグリカンの相対量が少なくとも35%である;
(iv)2,6結合シアル酸の相対量が約53%~約99%の範囲である;及び
(v)1つ以上のシアル酸残基を保有しているグリカンの相対量が少なくとも88%である。
18. 前記組成物中の前記組み換えFSHが、
(a)著しい量のcAMPが放出されない濃度で;及び/又は
(b)cAMPシグナル伝達とは独立したシグナル伝達経路を誘導することによって
顆粒膜細胞におけるプロゲステロンの放出を刺激することができる項目1~17のいずれか一項記載の組成物。
19. 前記組成物中の前記組み換えFSHが、cAMPシグナル伝達とは独立した生物学的プロセスによって生殖細胞の成熟を刺激又は共刺激することができる項目1~18のいずれか一項記載の組成物。
20. 前記組成物中の前記組み換えFSHが、顆粒膜細胞アッセイにおいて判定できる以下の特徴のうちの1つ以上を有する項目1~19のいずれか一項記載の組成物:
(a)顆粒膜細胞によるcAMPの放出を誘導するために必要な最低濃度を下回る濃度で、該顆粒膜細胞におけるプロゲステロンの放出を刺激することができる;
(b)cAMPの放出を誘導しないか若しくは10pmol/mL未満のcAMP放出を誘導するFSH濃度で、1mL当たり約5×10~約1×10個の顆粒膜細胞において少なくとも200ng/mL プロゲステロンの放出を刺激することができる;
(c)ヒト尿FSH若しくはCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)によって必要とされる濃度よりも低い濃度で、1mL当たり約5×10~約1×10個の顆粒膜細胞において少なくとも100ng/mL プロゲステロンの放出を刺激することができる;及び/又は
(d)ヒト尿FSH若しくはCHO細胞において生成される組み換えFSH(Gonal F)によって対応するプロゲステロン放出が生じない濃度で、1mL当たり約5×10~約1×10個の顆粒膜細胞において少なくとも100ng/mL プロゲステロンの放出を刺激することができる。
21. 前記組成物中の前記組み換えFSHが、単一用量の投与後にヒト女性において卵胞の成長を誘導することができ、該単一用量が、好ましくはFSH 25~500IUを含み、そして、好ましくは、非経口的に、特に皮下注射によって投与される、項目1~20のいずれか一項記載の組成物。
22. 前記組み換えFSHが、FSH-GEXである、項目1~21のいずれか一項記載の組成物。
23. 医薬組成物である、項目1~22のいずれか一項記載の組成物。
24. 不妊症の処置において使用するための、項目1~22のいずれか一項記載の組成物又は項目23記載の医薬組成物。
25. 患者に投与される前記用量によって、該患者の循環血液中のFSH濃度が約0.2~約10IU/L、好ましくは約0.4~約7IU/Lの範囲になる、項目24記載の組成物又は医薬組成物。
26. 同様にcAMPとは独立に性ステロイドの分泌を誘導及び/又は刺激するための、項目1~22のいずれか一項記載の組成物又は項目23記載の医薬組成物。
27. cAMPシグナル伝達とは独立した生物学的プロセスによって生殖細胞の成熟を刺激又は共刺激するための、項目1~22のいずれか一項記載の組成物又は項目23記載の医薬組成物。
28. 著しいcAMP放出を誘導しないFSH濃度で性ステロイドの分泌を誘導及び/又は刺激するための、項目1~22のいずれか一項記載の組成物又は項目23記載の医薬組成物。
29. 不妊症の処置において使用するための項目24~27のいずれか一項記載の組成物又は医薬組成物であって、該不妊症の処置が、補助生殖医療、排卵誘発、体外受精、例えば、卵細胞質内精子注入法による体外受精、配偶子卵管内移植、子宮内受精、女性における無排卵障害の処置、女性における卵を成熟させるための重篤なホルモン欠乏障害の処置、男性における精子生成欠損の処置、並びに/又は例えば、体外受精刺激プロトコル中及び/若しくは無排卵障害の処置における生殖細胞の成熟、例えば、卵胞形成及び精子形成、特に女性における卵胞の成熟の可能化若しくは改善を含む組成物又は医薬組成物。
30. 前記組み換えFSH組成物又は前記医薬組成物が、以下の特徴のうちの1つ以上を有する項目24~29のいずれか一項記載の組成物又は医薬組成物:
(i)単一用量のみを投与した後、卵胞の成長及び/若しくは卵子の成熟を誘導することができる;並びに/又は
(ii)ヒト、カニクイザル、ラット、及び/若しくはマウスのうちの1つ以上においてヒト尿から入手した及び/若しくはCHO細胞で発現したFSH調製品よりも短い循環半減期を有する;並びに/又は
(iii)ヒト、カニクイザル、ラット、及び/若しくはマウスのうちの1つ以上においてヒト尿から入手した及び/若しくはCHO細胞で発現したFSH調製品よりも低いバイオアベイラビリティを有する;並びに/又は
(iv)ヒト、カニクイザル、ラット、及び/若しくはマウスのうちの1つ以上においてヒト尿から入手した及び/若しくはCHO細胞で発現したFSH調製品と同様又はより高い治療効果を有する。
31. 卵胞の成長及び/若しくは卵子の成熟を誘導するための医薬組成物を調製するため並びに/又は項目24~30のいずれか一項記載の通り使用するための、項目1~22のいずれか一項記載の組成物又は項目23記載の医薬組成物の使用。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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