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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】電子線硬化型組成物、および積層体
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20230404BHJP
   C09D 11/107 20140101ALI20230404BHJP
   C08F 2/46 20060101ALI20230404BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20230404BHJP
   C08G 63/553 20060101ALI20230404BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20230404BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
C09D11/101
C09D11/107
C08F2/46
C08F2/44 Z
C08G63/553
B32B27/20 A
B32B27/30 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021133877
(22)【出願日】2021-08-19
(65)【公開番号】P2023028276
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2021-09-02
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今野徹
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-147730(JP,A)
【文献】国際公開第2017/164246(WO,A1)
【文献】特開2021-098827(JP,A)
【文献】特開2019-178323(JP,A)
【文献】特開2008-37100(JP,A)
【文献】特開2013-57038(JP,A)
【文献】特開2020-23614(JP,A)
【文献】特開2020-100742(JP,A)
【文献】特開2006-160806(JP,A)
【文献】特開2007-45104(JP,A)
【文献】特開2000-212493(JP,A)
【文献】特開2019-199492(JP,A)
【文献】国際公開第2020/189234(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
C09D 11/00- 13/00
C09D101/00-201/10
C08F 2/00- 2/60
C08G 63/00- 64/42
B32B 1/00- 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロジン変性樹脂(A)と、(メタ)アクリレート化合物(B)と、体質顔料(C)とを含み、光重合開始剤を実質的に含まないことを特徴とする、電子線硬化型組成物であって、
ロジン変性樹脂(A)が、ロジン酸類(a1)に含まれる共役二重結合を有する有機酸とα,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)とのディールスアルダー反応によって得られる化合物、および、ロジン酸類(a1)のうち共役二重結合を有さない有機酸の、それぞれにおけるカルボン酸とポリオール(a3)との反応によってエステル結合を形成した反応物であり、
前記(メタ)アクリレート化合物(B)が、アルキレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、および、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上を含み、
体質顔料(C)の含有量が、組成物の全質量中0.1~10質量%であり、
体質顔料(C)が、(C1)炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び珪酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上と、(C2)二酸化珪素とを含む、電子線硬化型組成物。
【請求項2】
前記ロジン変性樹脂(A)が、ロジン酸類(a1)に含まれる共役二重結合を有する有機酸とα,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)とのディールスアルダー反応によって得られる化合物、ロジン酸類(a1)のうち共役二重結合を有さない有機酸、および、有機酸又はその酸無水物(a4)(ロジン酸(a1)、α,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)を除く)の、それぞれにおけるカルボン酸とポリオール(a3)との反応によってエステル結合を形成した反応物であることを特徴とする、請求項1に記載の電子線硬化型組成物。
【請求項3】
更に着色剤を含むことを特徴とする、請求項1または2記載の電子線硬化型組成物。
【請求項4】
基材上に、請求項1~3いずれかに記載の電子線硬化型組成物を電子線で硬化した層を有することを特徴とする、積層体。
【請求項5】
基材にインキを印刷した印刷物の印刷面上に、請求項1~3いずれか記載の電子線硬化型組成物を、電子線で硬化した層を有することを特徴とする、積層体。
【請求項6】
基材が、フイルム基材であることを特徴とする、請求項4または5記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロジン変性樹脂を用いた電子線硬化型組成物、および積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷分野においては、近年、印刷時の省人、省力化、自動化、及び高速化の要求が高まってきており、特に、印刷スピードは益々高速化してきている。そして、様々な印刷条件下において、トラブルなく長時間にわたって安定して高品位な印刷物が得られるインキが望まれており、これまでに種々なインキの改良が検討されている。
【0003】
このような状況下、活性エネルギー線硬化型組成物であるインキやニスが知られている。活性エネルギー線硬化型組成物は、アクリルエステル化合物のような、活性エネルギー線に対して硬化性を有する化合物(以下、活性エネルギー線硬化型化合物という)を含んでいる。そのため、上記組成物は、活性エネルギー線が照射されると、瞬時に硬化し、上記活性エネルギー線硬化型化合物の3次元架橋による強靭な皮膜を形成する。また、上記組成物は、瞬時に硬化することから、印刷直後に後加工を行うことができる。これらの利点から、生産性向上及び意匠の保護のために強い皮膜が要求される包装用パッケージ印刷、及び商業分野におけるフォーム印刷等において、活性エネルギー線硬化型組成物であるインキやニスが好適に使用されている。
【0004】
これら印刷産業においては、活性エネルギー線硬化型組成物であるインキとして、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキが用いられている。
平版印刷とは、通常、5~120Pa・sの比較的高い粘度を有するインキを使用する印刷方法である。平版印刷で使用する印刷機の機構は、インキ壺から複数のローラーを経由して版面の画線部にインキを供給してパターンを形成し、版面のインキを紙などの基材上に転写して画像を形成するというものである。
ここで、パターンの形成時に湿し水を使用する平版印刷では、非画線部に湿し水が供給され、非画線部がインキを反発するようにし、一方、パターンの形成時に湿し水を使用しない水無し平版印刷では、非画線部にシリコーン層を形成し、非画線部がインキを反発するようにするものである。
【0005】
特に、パターンの形成時に湿し水を使用する平版印刷では、インキと湿し水との乳化バランスが重要である。そのため、平版印刷で使用されるインキには、適度な粘度に加えて、適度な乳化適性を有し、かつ高速印刷適性を有することが求められている。インキの乳化量が多すぎると、非画線部にもインキが着肉し易くなり、汚れが発生しやすくなる。一方、インキの乳化量が少ないと、絵柄の少ない印刷を行う場合に、インキ表面に湿し水が吐き出し易くなる。そのため、ロール間のインキ転移性、及び基材へのインキ転移性が悪くなり、安定して印刷することが難しくなる。
【0006】
一般的に、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキには、乳化適性、地汚れ耐性、及び初期濃度安定性といった印刷適性が要求される。また、上記印刷適性に加えて、硬化性、光沢性、密着性、耐摩擦性、及び耐溶剤性といった印刷皮膜強度も要求される。
【0007】
代表的に、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキは、固形成分として、バインダー(皮膜を形成する成分を意味する)及び顔料を含む。バインダーは、樹脂及びアクリルエステル化合物のような活性エネルギー線硬化型化合物を含む樹脂成分(バインダー樹脂という)と、ラジカル重合開始剤と、必要に応じて各種添加剤とを含む。そして、上記要求に応えるために、これまで、活性エネルギー線硬化型平版印刷インキ用のバインダー樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、ポリエステルアクリレート樹脂等が検討されてきた。
【0008】
例えば、特許文献1は、飽和ポリエステルをイソシアネート基含有ウレタンアクリレートで変性したバインダー樹脂を開示している。しかしながら、開示されたバインダー樹脂は、直線性の高い構造を有するため、上記樹脂を使用してインキを構成した場合、十分なインキ粘弾性を得ることが難しい。また、耐ミスチング性、及び地汚れ耐性などの印刷適性が低下しやすい。
【0009】
また、特許文献2は、ロジン誘導体多価カルボン酸を必須成分として含む水酸基過剰のポリエステル化合物と、アクリル酸又はメタクリル酸との反応によって得られるバインダー樹脂を開示している。しかし、上記ロジン誘導体多価カルボン酸の特定が十分ではなく、例えば、バインダー樹脂中の共役二重結合の残存量が多い時には、空気中の酸素による硬化阻害を受けやすい。その結果、上記樹脂を使用してインキを構成した場合、硬化性に加えて、印刷皮膜強度が不十分になるという問題が生じやすい。
【0010】
さらに、特許文献3は、バインダー樹脂として、ロジン酸類と、α,β-不飽和カルボン酸との付加反応によって得られる、多価カルボン酸を含むポリエステル樹脂を開示している。しかし、開示されたバインダー樹脂を使用してインキを構成した場合、流動性及び光沢性が不十分となる傾向がある。
【0011】
また、特許文献4は、バインダー樹脂として、ジアリルフタレート樹脂及び多官能アクリレート系化合物を含む、平版印刷インキ用の光硬化性樹脂組成物を開示している。しかし、光硬化性樹脂組成物(インキ)において、インキの全質量を基準とするジアリルフタレート樹脂の含有量が増加すると、インキ粘度が高くなりすぎ、流動性及び光沢性が不十分になりやすい。
【0012】
さらに、近年では瞬間乾燥による工程時間の短縮や揮発性成分を含有しない(Non-VOC)ことによる環境負荷低減、架橋反応による強固な塗膜物性という利点からも、印刷産業における活性エネルギー線硬化技術の利用が拡大している。
【0013】
印刷産業における活性エネルギー線硬化の利用としては、紫外線(UV)硬化と電子線(EB)硬化を利用したインキおよびニスが実用化されているが、設備投資やランニングコストの観点から紫外線(UV)硬化型が主流となっている。しかしながら、UV硬化反応に必要となる光重合開始剤は地球環境や人体への有害性の懸念から世界的な使用規制が進んでおり、その安全性や継続使用性が問題視されている。一方、EB硬化の反応形態はUV硬化と同様にラジカル反応が主体であるが、高エネルギーの電子線を利用するため、光重合開始剤を必要とせず、環境負荷低減かつ事業継続性に優れるものであり、EB硬化の利用の拡大が課題となっている。
【0014】
ここで、従来の電子線硬化型平版印刷インキは、特許文献5に示される通り、密着性の観点からウレタンオリゴマーを使用することが多いが、ウレタンオリゴマーはその親水性からインキと湿し水との乳化バランスが悪く、長時間にわたって安定して高品位な印刷物を得ることが難しかった。
【0015】
上述の状況から、優れた硬化性を有する一方で、硬化収縮が少なく、基材への優れた密着性を有し、印刷適性に優れる平版印刷インキであり、かつ、環境負荷低減かつ事業継続性の観点から、環境安全性や継続使用性が問題視されている光重合開始剤を必要としない平版印刷インキとして、電子線硬化型平版印刷インキが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2001-348516号公報
【文献】特開平2-51516号公報
【文献】特開2010-70743号公報
【文献】特開2016-190907号公報
【文献】国際公開第2020/212488号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の課題は、優れた硬化性を有し、かつ基材への優れた密着性を有する皮膜を形成することができる電子線硬化型組成物、および、該電子線硬化型組成物を用いた積層体を提供することである。また、本発明のさらなる課題は、電子線硬化型組成物をインキとして用いる場合に、印刷適性に優れる電子線硬化型組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、以下に記載の電子線硬化型組成物を使用することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。















【0019】
すなわち、本発明は、ロジン変性樹脂(A)と、(メタ)アクリレート化合物(B)と、体質顔料(C)とを含み、光重合開始剤を実質的に含まないことを特徴とする、電子線硬化型組成物であって、
ロジン変性樹脂(A)が、ロジン酸類(a1)に含まれる共役二重結合を有する有機酸とα,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)とのディールスアルダー反応によって得られる化合物、および、ロジン酸類(a1)のうち共役二重結合を有さない有機酸の、それぞれにおけるカルボン酸とポリオール(a3)との反応によってエステル結合を形成した反応物であり、
前記(メタ)アクリレート化合物(B)が、アルキレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、および、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる1種以上を含み、
体質顔料(C)の含有量が、組成物の全質量中0.1~10質量%であり、
体質顔料(C)が、(C1)炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び珪酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上と、(C2)二酸化珪素との組合せである、電子線硬化型組成物に関する。
【0021】
また、本発明は、前記ロジン変性樹脂(A)が、ロジン酸類(a1)に含まれる共役二重結合を有する有機酸とα,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)とのディールスアルダー反応によって得られる化合物、ロジン酸類(a1)のうち共役二重結合を有さない有機酸、および、有機酸又はその酸無水物(a4)(ロジン酸(a1)、α,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)を除く)の、それぞれにおけるカルボン酸とポリオール(a3)との反応によってエステル結合を形成した反応物であることを特徴とする、上記電子線硬化型組成物に関する。
【0024】
また、本発明は、更に着色剤を含むことを特徴とする、上記電子線硬化型組成物に関する。
【0025】
また、本発明は、基材上に、上記電子線硬化型組成物を電子線で硬化した層を有することを特徴とする、積層体に関する。
【0026】
また、本発明は、基材にインキを印刷した印刷物の印刷面上に、上記電子線硬化型組成物を、電子線で硬化した層を有することを特徴とする、積層体に関する。
【0027】
また、本発明は、基材が、フイルム基材であることを特徴とする、上記積層体に関する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によって、優れた硬化性を有し、かつ基材への優れた密着性を有する皮膜を形成することができる電子線硬化型組成物、および、該電子線硬化型組成物を用いた積層体を提供することができた。また、電子線硬化型組成物をインキとして用いる場合に、印刷適性に優れる電子線硬化型組成物を提供することができた。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明は、以下に記載の実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で種々の変形が可能である。
【0030】
なお、本発明中に記載される「共役二重結合」とは、複数の二重結合が単結合を挟んで交互に連なっている結合を指す。ただし、芳香族化合物に含まれるπ電子共役系は、共役二重結合からは除かれる。
【0031】
<電子線硬化型組成物>
本発明の電子線硬化型組成物は、少なくともロジン変性樹脂(A)と、(メタ)アクリレート化合物(B)と、体質顔料(C)とを含み、光重合開始剤を実質的に含まないことを特徴とする。
【0032】
<ロジン変性樹脂(A)>
本発明におけるロジン変性樹脂(A)とは、樹脂骨格中に、ロジン由来の骨格を含有する樹脂のことである。ロジン由来の骨格を含有することで、高速印刷時での電子線照射による硬化収縮を抑えることができ、乾燥被膜の平滑性を維持することができるため、光沢性と、基材に対する密着性が向上する。
【0033】
また、本発明におけるロジン変性樹脂(A)は、ロジン酸類(a1)に含まれる共役二重結合を有する有機酸とα,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)とのディールスアルダー反応によって得られる化合物、および、ロジン酸類(a1)のうち共役二重結合を有さない有機酸の、それぞれにおけるカルボン酸とポリオール(a3)との反応によってエステル結合を形成した化合物であるロジン変性樹脂が好ましい。
【0034】
また、本発明におけるロジン変性樹脂(A)は、ロジン酸類(a1)に含まれる共役二重結合を有する有機酸とα,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)とのディールスアルダー反応によって得られる化合物、ロジン酸類(a1)のうち共役二重結合を有さない有機酸、および、有機酸又はその酸無水物(a4)(ロジン酸(a1)、α,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)を除く)の、それぞれにおけるカルボン酸とポリオール(a3)との反応によってエステル結合を形成した化合物であるロジン変性樹脂が特に好ましい。
【0035】
<ロジン酸類(a1)>
本発明におけるロジン変性樹脂(A)を得るために用いるロジン酸類(a1)とは、環式ジテルペン骨格を有する一塩基酸を指す。ロジン酸、不均化ロジン酸、水添ロジン酸、または前記化合物のアルカリ金属塩等を表し、具体的には、共役二重結合を有するアビエチン酸、およびその共役化合物である、ネオアビエチン酸、パラストリン酸、レボピマル酸や、共役二重結合を有さないピマル酸、イソピマル酸、サンダラコピマル酸、およびデヒドロアビエチン酸等が挙げられる。またこれらのロジン酸類(a1)を含有する天然樹脂として、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等が挙げられる。
【0036】
本発明におけるロジン変性樹脂(A)を得るために用いるロジン酸類(a1)の配合量は、樹脂原料の全配合量を基準として15~70質量%であることが好ましく、25~55質量%であることがより好ましい。ロジン酸類(a1)の配合量が15質量%以上であれば、その樹脂を含む活性エネルギー線硬化型コーティングニスの光沢性が良好になり、配合量が70質量%以下であると、活性エネルギー線硬化型コーティングニス組成物の耐溶剤性が良好となる。
【0037】
<α,β-不飽和カルボン酸またはその酸無水物(a2)>
本発明におけるロジン変性樹脂(A)を得るために用いるα,β-不飽和カルボン酸またはその酸無水物(a2)としては、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸等およびこれらの酸無水物が例示される。ロジン酸類(a1)との反応性を鑑みると、好ましくはマレイン酸またはその酸無水物である。
【0038】
本発明における、α,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)の配合量は、ロジン酸類(a1)に対して、60~180モル%の範囲であることが好ましく、70~155モル%の範囲であることがより好ましい。α,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)の配合量を上記範囲内に調整した場合、対摩擦性、密着性、およびミスチング性に優れるロジン変性樹脂を得ることが容易である。
【0039】
<有機酸又はその酸無水物(a4)(ロジン酸(a1)、α,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)を除く)>
本発明におけるロジン変性樹脂を得るために、ロジン酸類(a1)、α,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)に加えて、有機酸又はその酸無水物(a4)を、単独または2種類以上用いることもできる。
有機酸又はその酸無水物(a4)の配合量は、樹脂原料の全配合量を基準として0~60質量%であることが好ましく、0~50質量%であることが更に好ましい。
【0040】
有機酸又はその酸無水物(a4)の具体的な例としては以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
(有機一塩基酸)
安息香酸、メチル安息香酸、ターシャリーブチル安息香酸、ナフトエ酸、オルトベンゾイル安息香酸等の芳香族一塩基酸、
共役リノール酸、エレオステアリン酸、パリナリン酸、カレンジン酸等の共役二重結合を有するが環式ジテルペン骨格を有さない化合物、
共役二重結合を有しない脂肪酸等が挙げられる。
【0042】
(脂環式多塩基酸またはその酸無水物)
1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、3-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、4-メチル-1,2,3,6-テトラヒドロフタル酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、およびこれらの酸無水物等が挙げられる。
【0043】
(その他の有機多塩基酸またはその酸無水物)
シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデセニルコハク酸、ペンタデセニルコハク酸などのアルケニルコハク酸、o-フタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、およびこれらの酸無水物等が挙げられる。
【0044】
<ポリオール(a3)>
ポリオール(a3)は、ロジン酸類(a1)に含まれる共役二重結合を有する有機酸とα,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)とのディールスアルダー反応によって得られる化合物、ロジン酸類(a1)のうち共役二重結合を有さない有機酸および有機酸又はその酸無水物(a4)それぞれにおけるカルボン酸との反応によってエステル結合を形成する。
【0045】
<2価および3価のポリオール>
本発明におけるロジン変性樹脂を得るために、2価および3価のポリオールを、単独または2種類以上用いることもできる。2価および3価のポリオールの具体的な例としては以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
(直鎖状アルキレン2価ポリオール)
1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,2-デカンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、1,2-ドデカンジオール、1,14-テトラデカンジオール、1,2-テトラデカンジオール、1,16-ヘキサデカンジオール、1,2-ヘキサデカンジオール等が挙げられる。
【0047】
(分岐状アルキレン2価ポリオール)
2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジメチル-2,4-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオ-ル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ジメチロールオクタン、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール等が挙げられる。
【0048】
(環状2価ポリオール)
1,2-シクロヘプタンジオール、トリシクロデカンジメタノール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールS、水添カテコール、水添レゾルシン、水添ハイドロキノン等の環状アルキレン2価ポリオール;ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、カテコール、レゾルシン、ハイドロキノン等の芳香族2価ポリオール等が挙げられる。
【0049】
(その他の2価のポリオール)
ポリエチレングリコール(n=2~20)、ポリプロピレングリコール(n=2~20)、ポリテトラメチレングリコール(n=2~20)等の2価のポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0050】
(3価のポリオール)
グリセリン、トリメチロ-ルプロパン、1,2,6-ヘキサントリオール、3-メチルペンタン-1,3,5-トリオール、ヒドロキシメチルヘキサンジオール、トリメチロールオクタン等が挙げられる。
【0051】
<2価および3価のポリオール以外のポリオール>
また、本発明におけるロジン変性樹脂を得るために、4価以上のポリオールを、単独または2種類以上用いることもできる。4価以上のポリオールの具体的な例としては以下が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
(4価以上のポリオール)
ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロ-ルプロパン、ジペンタエリスリト-ル、ソルビトール、イノシトール、トリペンタエリスリトール等の直鎖状、分岐状、および環状の4価以上のポリオール等が挙げられる。
【0053】
本発明におけるロジン変性樹脂は、重量平均分子量が3,000~30,000であることが好ましく、4,000~15、000であることがより好ましい。重量平均分子量が3,000~30,000であることで、密着性の向上が可能となる。
【0054】
また、ロジン変性樹脂の融点は50℃以上であることが好ましく、60~100℃の範囲がより好ましい。なお融点は、BUCHI社製のMeltingPointM-565を用い、昇温速度0.5℃/分の条件下で測定できる。
【0055】
本発明の電子線硬化型組成物は、ロジン変性樹脂(A)を5~40質量%含有するものであることが好ましく、8~35質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。
ここで、ロジン変性樹脂、および上記(メタ)アクリレート化合物(B)は、後述するワニスの形態に調製して使用してもよい。
【0056】
本明細書において、(メタ)アクリレート化合物(B)とは、分子内に(メタ)アクリロイル基を有する化合物を意味する。
本発明の電子線硬化型組成物を構成するために使用可能な(メタ)アクリレート化合物(B)の具体例として、
2-エチルヘキシルアクリレート、メトキシジエチレングリコールアクリレート、エチレングリコールモノフェニルエーテルアクリレート、テトラエチレングリコールモノフェニルエーテルアクリレート、アクリロイルモルホリン等の単官能(メタ)アクリレート化合物、
エチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート(n=2~20)、プロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート(n=2~20)、アルキレン(炭素数4~12)グリコールジアクリレート、アルキレン(炭素数4~12)グリコールエチレンオキサイド付加物(2~20モル)ジアクリレート、アルキレン(炭素数4~12)グリコールプロピレンオキサイド付加物(2~20モル)ジアクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートジアクリレート、トリシクロデカンジメチロールジアクリレート、水添ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物(2~20モル)ジアクリレート、水添ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物(2~20モル)ジアクリレート等の2官能(メタ)アクリレート化合物、
グリセリントリアクリレート、グリセリンエチレンオキサイド付加物(3~30モル)トリアクリレート、グリセリンプロピレンオキサイド付加物(3~30モル)トリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(3~30モル)トリアクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド付加物(3~30モル)トリアクリレート等の3官能(メタ)アクリレート化合物、
ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(4~40モル)テトラアクリレート、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(4~40モル)テトラアクリレート、ジグリセリンテトラアクリレート、ジグリセリンエチレンオキサイド付加物(4~40モル)テトラアクリレート、ジグリセリンプロピレンオキサイド付加物(4~40モル)テトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンエチレンオキサイド付加物(4~40モル)テトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンプロピレンオキサイド付加物(4~40モル)テトラアクリレート等の4官能(メタ)アクリレート化合物、および
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールエチレンオキサイド付加物(6~60モル)ヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールプロピレンオキサイド付加物(6~60モル)ヘキサアクリレート等の多官能(メタ)アクリレート化合物等
が挙げられる。
(メタ)アクリレート化合物(B)は、単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0057】
(メタ)アクリレート化合物(B)は、要求される硬化皮膜特性に応じて、適宜選択することが可能である。必要に応じて、上記化合物に加えて、ポリエステルアクリレート、ポリウレタンアクリレート、およびエポキシアクリレート等の(メタ)アクリレート化合物を併用することも可能である。
【0058】
(メタ)アクリレート化合物(B)は、硬化性の観点から、分子中に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能アクリレートを含むことが好ましい。
【0059】
(メタ)アクリレート化合物(B)は、アルキレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、および、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートからなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましく、2種以上を併用することがより好ましい。


【0060】
(メタ)アクリレート化合物(B)の含有量は、電子線硬化型組成物の全質量を基準として55~80質量%であることが好ましく、60~75質量%であることがより好ましい。
【0061】
<電子線硬化型ワニス>
本発明の電子線硬化型組成物は、ロジン変性樹脂を含む電子線硬化型ワニスから製造することもできる。
【0062】
電子線硬化型ワニスは、ロジン変性樹脂(A)と(メタ)アクリレート化合物(B)とを使用して作製することができる。特に限定するものではないが、電子線硬化型ワニスは、ワニスの全質量を基準として、ロジン変性樹脂(A)を10~80質量%と、(メタ)アクリレート化合物(B)を20~90質量%とを含有することが好ましく、ロジン変性樹脂(A)を20~60質量%と、(メタ)アクリレート化合物(B)を40~80質量%とを含有することがより好ましい。
【0063】
本発明における電子線硬化型ワニスは、上記成分に加えて、後述する光重合禁止剤を含んでもよい。このような実施形態では、光重合禁止剤を常法により添加し、使用することができる。上記ワニスに光重合禁止剤を添加する場合、その配合量は、電子線硬化型ワニスの全質を基準として、3質量%以下にすることが好ましく、0.01~1質量%の範囲で使用することがさらに好ましい。
【0064】
本発明における電子線硬化型ワニスは、例えば、常温から160℃の間の温度条件下で、上記成分を混合することで製造することができる。
例えば、ロジン変性樹脂と、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと、ハイドロキノンとを、100℃の温度条件下で、加熱溶融して得たワニスを好適に使用することができる。
【0065】
<体質顔料(C)>
体質顔料は、着色力を持たない顔料を意味し、後述する有色顔料と区別される。体質顔料(C)の具体例として、硫酸バリウム、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、二酸化珪素、及び水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらの1種を単独で使用しても、2種以上を組合せて使用してもよい。
電子線硬化型組成物における体質顔料(C)の含有量は、0.1~10質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、1~8質量%がさらに好ましい。体質顔料(C)の含有量を上記範囲内に調整することによって、組成物の粘度調整が容易になり、平版印刷インキとした場合には、流動性及び耐ミスチング性を容易に向上することができる。また、皮膜の柔軟性が向上し、その結果、硬化性を容易に向上することができると考えられる。
【0066】
本発明において、体質顔料(C)は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、及び二酸化珪素からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、体質顔料(C)が、(C1)炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及び珪酸マグネシウムからなる群から選択される1種以上と、(C2)二酸化珪素との組合せであることが好ましい。(C1)と(C2)との配合比は、特に限定するものではないが、100:1~100:60が好ましく、100:5~100:50がより好ましく、100:10~100:40が特に好ましい。(C1)及び(C2)の含有量の合計は、先に説明した体質顔料(C)の含有量と同様である。体質顔料として、(C1)と(C2)とを組み合わせて使用した場合、組成物の粘度調整が容易になるため、平版印刷インキとした場合には、流動性及び耐ミスチング性を容易に向上することができる。また、皮膜の柔軟性が向上し、その結果、硬化性を容易に向上することができると考えられる。
【0067】
(重合禁止剤)
本発明の電子線硬化型組成物は、上記成分に加えて、さらに重合禁止剤を含んでもよい。このような実施形態では、重合禁止剤を常法により添加し、使用することができる。重合禁止剤を添加する場合、硬化性を阻害しない観点から、その配合量は、電子線硬化型組成物の全質量に基準として、3質量%以下にすることが好ましく、0.01~1質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0068】
重合禁止剤の具体例としては、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p-ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-tert-ブチル-p-ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム、ジ-t-ブチル-7-フェニルキノンメチド等が挙げられる。
【0069】
(有色顔料)
本発明の電子線硬化型組成物は、有色顔料を含まないニスまたはクリアインキであってよく、有色顔料を含むカラーインキであってもよい。有色顔料は、着色力を有する公知公用の各種顔料であってよく、無機顔料及び有機顔料を使用することができる。以下、カラーインキを構成するために使用できる有色顔料を例示する。
【0070】
無機顔料の具体例として、黄鉛、亜鉛黄、紺青、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、群青、カーボンブラック、グラファイト、及びアルミニウム粉等が挙げられる。
【0071】
有機顔料の具体例として、β-ナフトール系、β-オキシナフトエ酸系、β-オキシナフトエ酸系アリリド系、アセト酢酸アリリド系、及びピラゾロン系等の溶性アゾ顔料、
β-ナフトール系、β-オキシナフトエ酸系アリリド系、アセト酢酸アリリド系モノアゾ、アセト酢酸アリリド系ジスアゾ、及びピラゾロン系等の不溶性アゾ顔料、
銅フタロシアニンブルー、ハロゲン化(塩素又は臭素化)銅フタロシアニンブルー、及びスルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニン等のフタロシアニン系顔料、
キナクリドン系、ジオキサジン系、スレン系(ピラントロン、アントアントロン、インダントロン、アントラピリミジン、フラバントロン、チオインジゴ系、アントラキノン系、ペリノン系、ペリレン系等)、イソインドリノン系、金属錯体系、キノフタロン系等の多環式顔料及び複素環式顔料等が挙げられる。
【0072】
本発明の電子線硬化型組成物がカラーインキである場合、有色顔料の含有量は、組成物の全質量を基準として、5~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましい。
【0073】
(各種添加剤)
本発明の電子線硬化型組成物は、目的に応じて、分散剤、耐摩擦剤、ブロッキング防止剤、スベリ剤等の各種添加剤をさらに含んでもよい。各種添加剤は、常法によって組成物に添加することができる。組成物に対して各種添加剤を添加する場合、他の成分の効果を阻害しない範囲で配合量を調整することが好ましい。各種添加剤の配合量は、電子線硬化型組成物の全質量を基準として、15質量%以下であることが好ましい。
【0074】
本発明の電子線硬化型組成物を平版印刷インキとして使用する場合、常温から120℃間の温度条件下で、上記の各構成成分をフラッシング、練肉、及び混合することによって製造することができる。インキを製造するために、例えば、ニーダー、三本ロール、アトライター、サンドミル、ゲートミキサー等の各種器材を用いることが好ましい。インキの製造において、ロジン変性樹脂(A)は、ロジン変性樹脂(A)そのものの形態で添加してもよいし、上記ロジン変性樹脂(A)を含む電子線硬化型ワニスの形態で添加してもよい。
【0075】
また、本発明の電子線硬化型組成物で使用する各種原材料として、カーボンニュートラルの観点などからは、植物などの再生可能な資源を利用したバイオマス由来の原材料を好ましく用いることができる。
【0076】
本発明の電子線硬化型組成物は光重合開始剤を実質的に含有しない。ここで、実質的に含有しないとは、意図的に添加することなく、かつ、非意図的添加による含有量が1質量%未満であることを意味する。非意図的添加には、各原料に微量に含まれている場合や、組成物の製造工程、印刷物作製工程におけるコンタミネーションなどが該当する。
【0077】
<積層体>
本発明における積層体は、電子線硬化型組成物が電子線硬化型インキの場合は電子線硬化型インキを基材に印刷し、電子線で硬化することによって得られる。また、電子線硬化型組成物が電子線硬化型ニスの場合は、基材に電子線硬化型ニスを印刷、もしくは、基材にインキを印刷した印刷物に電子線硬化型ニスを印刷し、電子線で硬化することによって得られる。
【0078】
本発明に使用できる基材はフィルム状の基材が好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン基材、ポリエチレンテレフタレート、ポリ乳酸などのポリエステル基材、ポリカーボネート基材、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂などのポリスチレン系基材、ナイロン基材、ポリアミド基材、ポリ塩化ビニル基材、ポリ塩化ビニリデン基材、セロハン基材、紙基材、アルミニウム基材など、もしくはこれらの複合材料からなるフィルム状の基材が挙げられる。また、シリカ、アルミナ、アルミニウムなどの無機化合物をポリエチレンテレフタレート基材、ナイロン基材に蒸着した蒸着基材も用いることができ、更に蒸着処理面がポリビニルアルコールなどによるコート処理を施されていても良い。基材は、印刷される面(印刷層と接する面)が易接着処理されていることが好ましく、易接着処理とは、例えば、コロナ放電処理、紫外線/オゾン処理、プラズマ処理、酸素プラズマ処理、プライマー処理等が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート基材において、十分な密着性が得られない場合は、アクリルコート処理、ポリエステル処理、ポリ塩化ビニリデン処理などを施されていてもよい。
【0079】
また、基材は紙基材を用いても良い。該紙基材としては通常の紙や段ボールなどであり、膜厚としては特に指定は無いが、例えば、0.2mm~1.0mm、20~150g/m2のものが使用でき、印刷表面が易接着処理されていても良い。また紙基材は意匠性を付与させる目的で表面がアルミなどの金属で蒸着処理されていても良く、また、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂やその他の樹脂などで表面コート処理を施されていても良く、さらにコロナ処理などの表面処理が施されていても良い。例えばコート紙やアート紙などが挙げられる。
【0080】
本発明の電子線硬化型組成物の印刷方法は特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
具体的には、電子線硬化型組成物がインキの場合には、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷などが挙げられる。
また、電子線硬化型組成物がニスの場合には、ロールコーター、グラビアコーター、フレキソコーター、エアドクターコーター、ブレードコーター、エアナイフコーター、スクイズコーター、含浸コーター、トランスファーロールコーター、キスコーター、カーテンコーター、キャストコーター、スプレーコーター、ダイコーター、オフセット印刷(湿し水を使用する通常の平版及び湿し水を使用しない水無し平版)、フレキソ印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷等が挙げられる。
【0081】
本発明の電子線硬化型組成物が平版印刷用インキである場合には、湿し水を使用する平版オフセット印刷、および、湿し水を使用しない水無し平版印刷のいずれにおいても好適に使用することができる。
【0082】
本発明の電子線硬化型組成物は、各種印刷方法によって印刷された後、電子線照射機を通って硬化され、印刷層が形成される。なお電子線の照射線量としては、加速電圧110kVにおいて10~60kGy、好ましくは110kVの加速電圧において20~45kGyで照射すればよい。電子線照射後は、必要に応じて加熱を行って硬化の促進を図ることもできる。
【0083】
本発明の電子線硬化型組成物は、各種基材や、フォーム用印刷物、各種書籍用印刷物、カルトン紙等の各種包装用印刷物、各種プラスチック印刷物、シール/ラベル用印刷物、美術印刷物、金属印刷物(美術印刷物、飲料缶印刷物、缶詰等の食品印刷物)などの印刷物に適用できる。


【実施例
【0084】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、本明細書に記載の「部」は質量部を表し、「%」は質量%を示す。
【0085】
以下の実施例で実施した各種測定の詳細は以下のとおりである。







【0086】
(ロジン酸類の成分分析)
原料として使用するロジン酸類をガスクロマトグラフィー質量分析計で分析し、全ロジン酸ピーク面積100%に対する、各ピーク面積比(%)を求めた。より具体的には、ロジン酸類中に含まれ、α,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(B)とディールスアルダー付加反応を起こす共役系ロジン酸と、前記共役系ロジン酸以外との含有比を、それぞれ該当するピーク面積の比から求めた。
【0087】
(ディールスアルダー付加反応の進行の確認と、生成した上記付加反応物の定量)
ディールスアルダー付加反応の反応液をガスクロマトグラフィー質量分析計で分析し、原料として使用した、ロジン酸類(a1)、およびα,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)の検出ピークの減少によって反応の進行を確認した。検出ピークの減少に変化が見られない時点で反応を終了した。
【0088】
(ロジン変性樹脂(A)の重量平均分子量)
ロジン変性樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、東ソー株式会社製のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(HLC-8320)を用いて測定した。検量線は標準ポリスチレンサンプルにより作成した。また、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、カラムとしてTSKgel SuperHM-M(東ソー株式会社製)を3本用いた。測定は、流速0.6mL/分、注入量10μL、及びカラム温度40℃の条件下で行った。
【0089】
1.バインダー樹脂の調製
1-1.ロジン変性樹脂(A)の調製
以下に示す処方に従い、ロジン変性樹脂を調製した。
なお、以下に示す処方で使用したガムロジンは、α,β-不飽和カルボン酸又はその酸無水物(a2)とディールスアルダー付加反応を起こす共役系ロジン酸の含有量が80質量%であり、前記共役系ロジン酸以外の含有量が20質量%であった。
【0090】
(ロジン変性樹脂1の調製)
撹拌機、水分離器付き還流冷却器、及び温度計を備えた4つ口フラスコに、ガムロジン25部と無水マレイン酸7部とを仕込み、窒素ガスを吹き込みながら、180℃で1時間にわたって加熱することにより、反応混合物を得た。次いで、先に説明したように、反応混合物のガスクロマトグラフ質量分析によって、ディールスアルダー付加反応が完了したことを確認した。
次に、上記反応混合物に、ターシャリーブチル安息香酸40部と、無水コハク酸2部と、ネオペンチルグリコールンチルグリコール26部と、触媒として、p-トルエンスルホン酸一水和物0.1部とを添加し、230℃で14時間にわたって脱水縮合反応を行い、ロジン変性樹脂1を得た。
【0091】
(ロジン変性樹脂2~3の調製)
ロジン変性樹脂1の処方を、それぞれ表1に示す処方に変更したことを除き、全てロジン変性樹脂1の調製と同様にして、ロジン変性樹脂2~3を調製した。



【0092】




【表1】




【0093】
なお、表1において、ロジン変性樹脂(A)の調製時に使用した各単量体の配合量は全て固形分の質量部である。
【0094】
そのほか、比較として以下に示す市販の樹脂、若しくはオリゴマーを用いた。
・株式会社大阪ソーダ製 ダイソーダップA
・三菱ケミカル株式会社製 ダイヤナールBR116-27
・Sinopoly Chemical社製 ウレタンアクリレート6328 これは、ウレタンオリゴマー68質量部とEO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート32質量部とから構成されるワニスである。







【0095】
2.電子線硬化型平版印刷インキ、電子線硬化型ニスの調製







(実施例1~14、比較例1~5)
(電子線硬化型平版印刷インキ、電子線硬化型ニスの調製)
表2および表3記載の配合比率となるよう、それぞれを混合し、40℃の三本ロールミルにて練肉し、実施例1~13、比較例1~5のインキ、実施例14のニスを得た。なお、必要に応じて、あらかじめ樹脂と(メタ)アクリレート化合物とでワニスを作製したものを使用した。
【0096】
3.電子線硬化型平版印刷インキ、電子線硬化型ニスの評価
実施例及び比較例で調製したそれぞれの電子線硬化型平版印刷インキ、ニスについて、下記の方法に従い積層体を作成し、印刷皮膜適性と印刷適性を評価した。
【0097】
<積層体の作成>
実施例1~14、比較例2~5の電子線硬化型平版印刷インキ、電子線硬化型ニスを、RIテスター(株式会社明製作所製の簡易展色装置)を用いて、フィルムに対して、1g/mの塗布量となるよう印刷した。印刷後の塗膜は直ちに、岩崎電気社製電子線照射機EC250/15/180Lを使用し、加速電圧110kV、電子線量30kGyにて硬化させ積層体を得た。また、比較例1のUV硬化については電子線の代わりに、120W/cmの株式会社東芝製空冷メタルハライドランプ1灯を用いて、印刷面に対して60m/minで紫外線を照射し硬化させ積層体を得た。
【0098】
検討に際して、以下に示すフィルムを用いたが、本発明における効果はこれらのフィルムに限定されるものではない。
OPP:フタムラ化学株式会社製 FOR(20μm)
PE:白色ポリエチレンフィルム(50μm)
PET:ユニチカ株式会社製 エンブレットPTM(12μm)
OPA:ユニチカ株式会社製 エンブレムONM(15μm)
【0099】
(実施例15)
実施例1の電子線硬化型平版印刷インキを、RIテスター(株式会社明製作所製の簡易展色装置)を用いて、フィルムに対して、1g/mの塗布量となるよう印刷した。印刷後の塗膜は直ちに、岩崎電気社製電子線照射機EC250/15/180Lを使用し、加速電圧110kV、電子線量30kGyにて硬化させた。ついで、得られた積層体に実施例14の電子線硬化型ニスを、RIテスター(株式会社明製作所製の簡易展色装置)を用いて、フィルムに対して、1g/mの塗布量となるよう印刷した。印刷後の塗膜は直ちに、岩崎電気社製電子線照射機EC250/15/180Lを使用し、加速電圧110kV、電子線量30kGyにて硬化させ積層体を得た。
【0100】
硬化後の積層体について、表面硬化性、テープ密着性、及びラミネート耐性を以下に従って評価した。
【0101】
(表面硬化性)
実施例1~15、比較例1~5で得られた積層体を用いて表面硬化性を評価した。硬化性は、積層体の印刷面を綿布で擦った時の状態を目視にて観察し、以下の基準に従い5段階で評価した。使用可能なレベルは「3」以上であるが、「4」以上がより好ましい。
5:印刷面の変化なし。
4:印刷面にキズは見られないが、綿布に色が落ちている。
3:印刷面の一部にキズが見られるが、剥離は見られない。
2:印刷面の一部(50%未満)に剥離が見られる。
1:印刷面の一部(50%以上)、又は全部に剥離が見られる。
【0102】
(テープ密着性)
実施例1~15、比較例1~5で得られた積層体を用いてテープ密着性の評価を実施した。測定は粘着テープ(ニチバン社製セロハンテープ(幅12mm))を用いて、印刷面にテープを貼り、180度の角度で素早く引き剥がした際に、印刷物側に残存した塗膜の面積%を以下の基準に従い5段階で評価した。使用可能なレベルは「3」以上であるが、「4」以上がより好ましい。
5:残存した塗膜の面積が90%以上
4:残存した塗膜の面積が70%以上90%未満
3:残存した塗膜の面積が50%以上70%未満
2:残存した塗膜の面積が25%以上50%未満
1:残存した塗膜の面積が25%未満
【0103】
(ラミネート耐性(電子線硬化型平版印刷インキとして用いた場合のみ))
実施例1~13、比較例1~5で得られた積層体に、接着剤(東洋モートン株式会社製TM-321A/TM-321B=2/1)を酢酸エチルに有効成分が30%となるよう希釈した接着剤希釈液を、常温にてバーコーターにより溶剤揮発後の固形分塗布量が2.0~2.5g/mとなるように塗布し、溶剤を揮散させた後、塗布面を無延伸ポリプロピレンフィルム(フタムラ化学株式会社製 FHK2 30μm)と貼り合せた後、35℃、湿度60%RT~80%RTの環境下にて24時間放置し、ラミネート積層体を得た。
得られたラミネート積層体を長さ300mm、幅15mmに切り取り、インストロン型引張試験機を使用し、25℃の環境下にて、剥離速度300mm/分の剥離速度で引張り、電子線硬化型平版印刷インキ/CPP間のT型剥離強度(N/15mm)を測定した。この試験を5回行い、その平均値を用いて以下の基準に従い5段階で評価した。使用可能なレベルは「3」以上であるが、「4」以上がより好ましい。
5:1.5N以上
4:1.2N以上1.5N未満
3:0.9N以上1.2N未満
2:0.6N以上0.9N未満
1:0.6N未満
【0104】
<印刷適性の評価>
実施例1~13及び比較例1~5で得られたインキを用いて印刷試験を行った。印刷試験は、ComexiCI-8(Comexi社製のオフセット印刷機)を用いて、フタムラ化学株式会社製 FORに対して実施した。
また、印刷試験では湿し水としてSUNFOUNT S27H(SUNCHRMICAL社製)3.0%を含む水道水を使用した。正常に印刷できる条件範囲の境界付近における印刷状態の比較を行うために、水巾の下限値よりも2%高い水ダイヤル値で印刷を行った。なお「水巾の下限」とは、正常な印刷が可能である、湿し水の最低供給量を意味し、「水ダイヤル」とは、上記湿し水の供給量を調整するために、上記印刷機に備えられたダイヤルを意味する。
【0105】
(濃度安定性)
実施例1~13及び比較例1~5で得られたインキにおいて、濃度が基準値となるように設定した際の設定のまま印刷した場合の、8000m印刷時点での濃度変動を以下の基準に従い、初期濃度安定性を5段階で評価した。使用可能なレベルは「3」以上であるが、「4」以上がより好ましい。
5:濃度が基準値±5%未満
4:濃度が基準値±5%以上、10%未満
3:濃度が基準値±10%以上、15%未満
2:濃度が基準値±15%以上、20%未満
1:濃度が基準値±20%以上
【0106】
(高速印刷適性)
実施例1~13及び比較例1~5で得られたインキにおいて、印刷速度以外の条件を固定した条件で、印刷速度をそれぞれ100m/分、および200m/分とし、500m印刷した際の濃度変動を以下の基準に従い、初期濃度安定性を5段階で評価した。使用可能なレベルは「3」以上であるが、「4」以上がより好ましい。
5:濃度変動が±5%未満
4:濃度変動が±5%以上、10%未満
3:濃度変動が±10%以上、15%未満
2:濃度変動が±15%以上、20%未満
1:濃度変動が±20%以上
【0107】
(地汚れ耐性)
上記印刷試験において、印刷長さが長くなってくると、湿し水を供給しているローラーに徐々にインキが付着してくる。また、湿し水の供給量が少なくなってくると、印刷物の画像形成をしている非画線部(インキが載ってはいけない箇所)にインキが載りやすくなる。これらの結果から、印刷長さが長くなると、印刷物に汚れが生じやすくなる。このような汚れに対する耐性について、上記印刷試験と同様にして水ダイヤルを水巾の下限値よりも2%高い水ダイヤル値で印刷を行い、印刷物を目視で確認し、以下の基準に従い、5段階で評価した。使用可能なレベルは「3」以上であるが、「4」以上がより好ましい。
5:8000m印刷後まで、特にフィルム上に汚れは確認できない。
4:8000m印刷中に、僅かにフィルムの端に汚れが見られるが、水ダイヤルを上げて解消した。
3:8000m印刷中に、水ダイヤルを上げたが、僅かにフィルムの端に汚れが見られる。
2:8000m印刷中に1回、ローラーに付着したインキを洗浄しないと汚れが取れない。
1:8000m印刷中に2回以上、ローラーに付着したインキを洗浄しないと汚れが取れない。
【0108】
【表2】

【0109】
【表2】

【0110】
【表3】










【0111】
以上のように、本願発明によって、優れた硬化性を有し、かつ基材への優れた密着性を有する皮膜を形成することができる電子線硬化型組成物、および、該電子線硬化型組成物を用いた積層体を提供することができた。また、電子線硬化型組成物をインキとして用いる場合に、印刷適性に優れる電子線硬化型組成物を提供することができた。