(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】浸透井戸改修工法
(51)【国際特許分類】
E03F 1/00 20060101AFI20230404BHJP
E03F 5/10 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
E03F1/00 A
E03F5/10 Z
(21)【出願番号】P 2018152101
(22)【出願日】2018-08-10
【審査請求日】2021-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】505047784
【氏名又は名称】株式会社オムテック
(74)【代理人】
【識別番号】100120145
【氏名又は名称】田坂 一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100140866
【氏名又は名称】佐藤 武史
(72)【発明者】
【氏名】後藤 泰博
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-062696(JP,A)
【文献】国際公開第2015/052752(WO,A1)
【文献】特開2001-329602(JP,A)
【文献】特開2009-127343(JP,A)
【文献】特開2006-144464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03F 1/00
E03F 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設の浸透井戸の底部より下の浸透層を改修する浸透井戸改修工法であって、
軸部の少なくとも先端側に、前記軸部の外周側に突出する突出部が設けられた攪拌部材を、前記浸透層に回転させながら挿入する挿入工程と、
前記挿入工程の後に、前記攪拌部材を回転させながら引き上げる引き上げ工程と、を含み、
前記挿入工程と、前記引き上げ工程と、を繰り返
し、
前記攪拌部材は、前記軸部が筒形状であり、両端が開放された開放管を含み、
前記挿入工程と、前記引き上げ工程を繰り返した後に、前記開放管を、少なくとも先端側の一部が前記浸透層に挿入された状態で埋設する埋設工程を含み、
前記埋設工程で埋設された前記開放管に対して、前記挿入工程と、前記引き上げ工程を繰り返すことを特徴とする浸透井戸改修工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透井戸改修工法に関し、詳しくは、既設の浸透井戸の底部より下の浸透層を改修する浸透井戸改修工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、雨水等を、透水性に優れる地盤面下の砂礫層等(以下、「浸透層」と言う。)に排水する浸透井戸が知られている。このような浸透井戸は、地盤面に設置された枡から流入した雨水等を浸透層から地中に浸透させる。
【0003】
このような浸透井戸を設置する工法として、オーガースクリューで浅い空所を更に掘り下げ深穴空所を形成して濾過石を投入し、深穴空所内へスクリューケーシングを押し込み、その開口部に浸透フィルターを取り付けた雨水浸透枡を設置する工法が提案されている(特許文献1参照)。
特許文献1の浸透井戸改修工法によれば、スクリューケーシングの円筒容器内に濾過材を配する構造であるので、雨水の濾過性に優れた浸透井戸を設置できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、浸透井戸は、経年により、枡から流入した雨水等に含まれる泥等が、濾過材や、浸透層の表層部分の目に詰まり、雨水等を浸透しなくなり、枡により排水ができなくなる。
従来、このような場合、排水できなくなった既設の浸透井戸の近辺に、新たな浸透井戸を新設しており、新たな浸透井戸を新設する費用に加え、排水できなくなった既設の浸透井戸の処理費も嵩み、多大なコストがかかっていた。また、新たな浸透井戸を新設すると、掘削により残土が発生し、既設の浸透井戸の処理により廃棄物が大量に発生することとなり、環境負荷が増大するという問題もある。
【0006】
本発明は、浸透井戸が排水できなくなった場合に、コストを抑え、環境負荷を低減しつつ、浸透井戸により雨水等を排水することを可能とする浸透井戸改修工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) 既設の浸透井戸の底部より下の浸透層を改修する浸透井戸改修工法であって、
軸部の少なくとも先端側に、前記軸部の外周側に突出する突出部が設けられた攪拌部材を、前記浸透層に回転させながら挿入する挿入工程と、
前記挿入工程の後に、前記攪拌部材を回転させながら引き上げる引き上げ工程と、を含み、
前記挿入工程と、前記引き上げ工程と、を繰り返し、
前記攪拌部材は、前記軸部が筒形状であり、両端が開放された開放管を含み、
前記挿入工程と、前記引き上げ工程を繰り返した後に、前記開放管を、少なくとも先端側の一部が前記浸透層に挿入された状態で埋設する埋設工程を含み、
前記埋設工程で埋設された前記開放管に対して、前記挿入工程と、前記引き上げ工程を繰り返すことを特徴とする浸透井戸改修工法。
【0008】
(1)の発明によれば、浸透井戸改修工法は、既設の浸透井戸の底部より下の浸透層を改修する工法であって、挿入工程と、引き上げ工程と、を含む。
挿入工程は、軸部の少なくとも先端側に、軸部の外周側に突出する突出部が設けられた攪拌部材を、浸透層に回転させながら挿入する。
引き上げ工程は、挿入工程の後に、攪拌部材を回転させながら引き上げる。
そして、挿入工程と、引き上げ工程と、を繰り返す。
【0009】
これにより、経年により雨水等に含まれていた泥等により目詰まりした浸透層に、攪拌部材を回転させながら挿入し、引き上げることを繰り返すことで、攪拌部材の突出部が浸透層を攪拌しつつ、振動させることで、目詰まりを解消することが可能となる。
よって、浸透井戸が排水できなくなった場合に、当該浸透井戸を廃棄することなく、改修することで、再び排水できるようにすることができるので、新たな浸透井戸を設置する必要もない。
したがって、浸透井戸が排水できなくなった場合に、コストを抑え、環境負荷を低減しつつ、浸透井戸により雨水等を排水することを可能とする浸透井戸改修工法を提供できる。
【0010】
(2) 前記攪拌部材は、前記軸部が筒形状であり、両端が開放された開放管を含み、
前記挿入工程と、前記引き上げ工程を繰り返した後に、前記開放管を、少なくとも先端側の一部が前記浸透層に挿入された状態で埋設する埋設工程を含むことを特徴とする(1)に記載の浸透井戸改修工法。
【0011】
(2)の発明によれば、攪拌部材は、軸部が筒形状であり、両端が開放された開放管を含む。
そして、浸透井戸改修工法は、更に、埋設工程を含む。
埋設工程は、挿入工程と、引き上げ工程を繰り返した後に、開放管を、少なくとも先端側の一部が浸透層に挿入された状態で埋設する。
【0012】
このように、開放管を、目詰まりした浸透層に、攪拌部材を回転させながら挿入し、引き上げることを繰り返すことで、攪拌部材の突出部が浸透層を攪拌しつつ、振動させることで、目詰まりを解消できる。そして、開放管の少なくとも先端側の一部を、例えば、より浸透性が高い地質を有する浸透層に挿入された状態で埋設する。これにより、浸透井戸に流入した雨水等は、開放管の内部を流通して、より浸透性が高い浸透層に確実に排水できるので、浸透井戸の排水性を向上することが可能となる。
【0013】
(3) 前記埋設工程で埋設された前記開放管に対して、前記挿入工程と、前記引き上げ工程を繰り返すことを特徴とする(2)に記載の浸透井戸改修工法。
【0014】
これにより、仮に、改修後の浸透井戸の排水性が低下した場合に、埋設された開放管を、回転させながら挿入し、引き上げることを繰り返すことで、開放管の突出部が浸透層を攪拌しつつ、振動させることができるので、浸透層の目詰まりを解消し、排水性を回復できる。
よって、改修後の浸透井戸の排水性が低下した場合に、埋設された開放管を交換することなく、排水性を回復できるので、よりコストを抑え、より環境負荷を低減しつつ、浸透井戸により雨水等を排水することを可能とする浸透井戸改修工法を提供できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、浸透井戸が排水できなくなった場合に、コストを抑え、環境負荷を低減しつつ、浸透井戸により雨水等を排水することを可能とする浸透井戸改修工法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る浸透井戸改修工法の挿入工程と引き上げ工程を説明する図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る浸透井戸改修工法の埋設工程を説明する図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る浸透井戸改修工法の再改修工程を説明する図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る浸透井戸改修工法の再改修工程の別例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。以下の説明において、同一の構成には、同一の符号を付し、その説明を省略又は簡略化する。
図1は、本発明の実施形態に係る浸透井戸改修工法の挿入工程と引き上げ工程を説明する図である。
浸透井戸改修工法は、既設の浸透井戸10の底部11より下の浸透層を改修する工法である。本実施形態において、「浸透層」は、他の地層に比べ透水性が比較的高い砂や礫の地層である。また、他の地層は、粘性土や、微細砂や、シルトや、これらが混合した地層であり、本実施形態の説明では、「非浸透層」とも言う。既設の浸透井戸10が設けられている地域の地層は、一般的に、地表近辺には非浸透層が形成され、非浸透層の下に浸透層が形成されている。
【0018】
浸透井戸改修工法は、施工機械100(例えば、杭打機)により、攪拌部材200を、既設の浸透井戸10の底部11より下の浸透層に、回転させながら挿入する挿入工程と、回転させながら引き上げる引き上げ工程と、を含む。
【0019】
施工機械100は、施工機械100を駆動する動力源、操縦者が搭乗する操作部、施工機械100を走行させ無限軌道等の走行部等が設けられた本体110と、本体110により垂直に支持されたリーダ120と、リーダ120に沿って昇降し、攪拌部材200を、回転させながら埋設する作業装置(例えば、オーガモータ等)130と、を備える。なお、本実施形態の浸透井戸改修工法で用いる施工機械100は、杭打機に限らず、挿入工程、引き上げ工程、後述する埋設工程及び再改修工程を行うことが可能であれば、建柱機あるいは井戸掘り機等の掘削装置であってもよい。
【0020】
攪拌部材200は、作業装置130に接続された状態で、上下方向に延びる軸部210の少なくとも先端側に、軸部210の外周側に螺旋形状に突出する突出部220が設けられている。
【0021】
挿入工程では、
図1(a)に示すように、施工機械100の作業装置130に、攪拌部材200の基端を取り付ける。
本実施形態で説明する例では、挿入工程と引き上げ工程で使用する攪拌部材200(200A)は、軸部210の先端が閉塞され、先端側にのみ、突出部220が設けられている鋼管杭である。なお、攪拌部材200は、このような鋼管杭に限らず、軸部210の全長に亘って突出部220が設けられている掘削ドリル等のように、施工機械100により地中に回転しながら挿入可能であり、浸透層を攪拌できる部材であれば任意の部材を用いることができる。
【0022】
次に、挿入工程では、
図1(b)に示すように、作業装置130をリーダ120に沿って降下させることで、既設の浸透井戸10の底部11より下の浸透層に、攪拌部材200Aの先端側から、回転させながら、所定の深さまで挿入する。挿入工程では、攪拌部材200Aの少なくても先端側を、地質調査の結果より、既設の浸透井戸10の直下の土質より、比較的透水性が高い土質で形成された層まで挿入するのが望ましい。
【0023】
次に、浸透井戸改修工法では、挿入工程で所定深さまで挿入した後、攪拌部材200Aを回転させながら引き上げる引き上げ工程を行う。
そして、浸透井戸改修工法では、
図1(c)に示すように、引き続き、挿入工程と引き上げ工程とを繰り返す。
【0024】
このように、挿入工程と引き上げ工程とを繰り返すことで、既設の浸透井戸10の底部11の下の透水性が低下した層と、比較的透水性が高い土質で形成された層と、が攪拌され、振動が付与され、既設の浸透井戸10の底部11からの排水性能が改善される。
【0025】
次に、浸透井戸改修工法では、埋設工程を行う。
図2は、本発明の実施形態に係る浸透井戸改修工法の埋設工程を説明する図である。
埋設工程では、施工機械100の作業装置130に取り付けられていた攪拌部材200Aを取り外し、
図2(a)に示すように、作業装置130に攪拌部材200Bの基端を取り付ける。
【0026】
本実施形態で説明する例では、埋設工程で使用する攪拌部材200(200B)は、先端が開放され、先端側にのみ、突出部220が設けられている鋼管杭(開放管)である。なお、本実施形態で説明する例では、浸透井戸改修工法で使用する攪拌部材200は、挿入工程と引き上げ工程では、先端が閉塞された攪拌部材200Aを使用し、埋設工程では、先端が開放された攪拌部材200Bを使用しているが、これに限らず、挿入工程と引き上げ工程から先端が開放された攪拌部材200Bを使用してもよい。これにより、挿入工程と引き上げ工程から埋設工程に移行する際に、攪拌部材200を付け替える手間を省略でき、工期を短縮することが可能となる。
【0027】
次に、埋設工程では、
図2(b)に示すように、作業装置130をリーダ120に沿って降下させることで、既設の浸透井戸10の底部11より下の浸透層に、攪拌部材200Bの先端側から、回転させながら、所定の深さまで挿入する。埋設工程では、攪拌部材200Bの少なくても先端側を、地質調査の結果より、既設の浸透井戸10の直下の土質より、比較的透水性が高い土質で形成された層(挿入工程と引き上げ工程により攪拌したところ)まで挿入するのが望ましい。
【0028】
そして、埋設工程では、攪拌部材200Bを所定の深さまで挿入した状態で、攪拌部材200Bから施工機械100の作業装置130を取り外し、作業装置130だけを引き上げることで、
図2(c)に示す状態となる。
【0029】
次に、上記のように、埋設工程まで行い、攪拌部材200Bが埋設された改修済み浸透井戸10Aが、経年により、排水性能が低下した場合に行う再改修工程について説明する。
図3は、本発明の実施形態に係る浸透井戸改修工法の再改修工程を説明する図である。
【0030】
再改修工程では、施工機械100の作業装置130に、軸部の先端に攪拌部材200Bの基端と接続可能な接続部310が設けられた延長ロッド300の基端を接続する。
そして、施工機械100の作業装置130を降下させ、
図3(a)に示す状態の改修済み浸透井戸10A内に、延長ロッド300を挿入し、接続部310と攪拌部材200Bの基端を接続する。
【0031】
次に、再改修工程では、
図3(b)に示すように、挿入工程と引き上げ工程とを繰り返す。
そして、再び、攪拌部材200Bを埋設した状態で、接続部310と攪拌部材200Bの基端との接続を解除し、接続部310を引き上げ、
図3(a)に示す状態とする。
【0032】
これにより、埋設された攪拌部材200Bの周囲の目が詰まった浸透層が攪拌され、振動が付与され、経年により排水性能が低下した改修済み浸透井戸10Aの排水性能が改善される。
【0033】
次に、再改修工程の別例について説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る浸透井戸改修工法の再改修工程の別例を説明する図である。
【0034】
別例の再改修工程では、施工機械100の作業装置130に、掘削ロッド320を取り付ける。
掘削ロッド320は、軸部の外周に螺旋形状の羽根部材が形成されており、羽根部材の外径が攪拌部材200Bの内径より小さい寸法である。即ち、掘削ロッド320は、攪拌部材200Bの内部を挿通可能に形成されている。
【0035】
次に、施工機械100の作業装置130を降下させ、
図4(a)に示す状態の改修済み浸透井戸10A内の攪拌部材200B内に、掘削ロッド320を挿入し、攪拌部材200Bの下の透水層に、回転しながら挿入する。
【0036】
そして、掘削ロッド320の全長が短く、攪拌部材200Bの下の透水層への挿入深さが十分でない場合には、掘削ロッド320を作業装置130から取り外し、
図4(b)に示すように、作業装置130に延長ロッド300の基端を接続し、延長ロッド300の先端と掘削ロッド320の基端とを接続し、掘削ロッド320により、挿入工程と引き上げ工程とを繰り返す。
【0037】
その後、延長ロッド300及び掘削ロッド320を引き上げ、
図4(a)に示す状態とする。
【0038】
これにより、埋設された攪拌部材200Bの下の目が詰まった浸透層が攪拌され、振動が付与され、経年により排水性能が低下した改修済み浸透井戸10Aの排水性能が改善される。
【0039】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0040】
10,10A 浸透井戸
11 底部
100 施工機械
110 本体
120 リーダ
130 作業装置
200,200A,200B 攪拌部材
210 軸部
220 突出部
300 延長ロッド
310 接続部
320 掘削ロッド