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特許7255100マイクロ流路デバイス、およびマイクロ流路チップの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】マイクロ流路デバイス、およびマイクロ流路チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B81B 1/00 20060101AFI20230404BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20230404BHJP
   B81C 3/00 20060101ALI20230404BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20230404BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
B81B1/00
B01J19/00 321
B81C3/00
C12M1/00 A
G01N37/00 101
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018137816
(22)【出願日】2018-07-23
(65)【公開番号】P2020014980
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-04-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 諭
(72)【発明者】
【氏名】杉田 澄雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 伸明
(72)【発明者】
【氏名】古川 秀樹
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-292274(JP,A)
【文献】特開2013-101154(JP,A)
【文献】特開2011-180117(JP,A)
【文献】特表2009-524508(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0129529(US,A1)
【文献】特開2010-190680(JP,A)
【文献】特開2007-268488(JP,A)
【文献】特開2008-164566(JP,A)
【文献】特表2014-522718(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0311717(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0031012(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0279631(US,A1)
【文献】特開2008-154528(JP,A)
【文献】特開2006-191877(JP,A)
【文献】特開2005-278480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B81B 1/00- 7/04
B01J 4/00
B01J 19/00-19/32
B81C 1/00-99/00
C12M 1/00- 3/10
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板に積層された樹脂層と、注入部とを有し、
前記樹脂層は、
前記樹脂層の表面が凹んで形成され、液滴状の第1流体が投入される試料投入槽と、
前記樹脂層の表面が凹んで形成され、前記試料投入槽から投入された試料を回収する廃棄槽と、
前記樹脂層の表面が凹んで形成され、前記試料投入槽と前記廃棄槽とを連結した、前記第1流体が流れる流路と、
前記樹脂層の表面が凹んで形成され、前記流路に隣接する空隙部と、
前記流路と前記空隙部の前記流路側の端部との間を隔てる、前記樹脂層の樹脂で形成された側壁と、
を備え、
前記流路の幅は、前記注入部から注入される前記第2流体の液滴の幅よりも狭くされており、
前記注入部は、針状であり、
前記注入部の先端部分が前記空隙部から、前記側壁に突き刺して、前記流路に挿入して、
前記側壁と、前記流路とを密閉した状態で、第1流体に対して第2流体を注入する、
マイクロ流路チップと、
前記注入部に接続されたアクチュエータと、
前記アクチュエータの駆動を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記注入部が軸方向に振動しながら前記流路に対して前記第2流体を注入するように、前記アクチュエータの駆動を制御する、
マイクロ流路デバイス。
【請求項2】
前記注入部は、ガラスまたは金属からなる、
請求項1に記載のマイクロ流路デバイス
【請求項3】
前記樹脂層は、シリコン樹脂からなる、
請求項1に記載のマイクロ流路デバイス
【請求項4】
前記基板は、ガラスからなる、
請求項1から3のいずれか1項に記載のマイクロ流路デバイス
【請求項5】
流路の型の近傍に、前記流路の型に接触させないで空隙形成部材を配置するステップと、
前記流路の型と、前記空隙形成部材とを樹脂で覆うステップと、
前記樹脂を硬化するステップと、
硬化した前記樹脂を前記流路の型と、前記空隙形成部材とから取り外して、前記樹脂に前記流路と空隙部とを形成するステップと、
取り外した前記樹脂を基板に接着するステップと、
前記空隙部から、前記流路と前記空隙部との間の側壁を貫通させて、前記側壁と前記流路とを密閉した状態となるように、前記流路に注入部を挿入するステップと、を含む、
マイクロ流路チップの製造方法。
【請求項6】
前記空隙形成部材は、ガラスからなる、
請求項5に記載のマイクロ流路チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路チップ、マイクロ流路デバイス、およびマイクロ流路チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオテクノロジ分野や、生化学分野などでは、例えば、細胞1つ1つの機能を調べるシングルセル解析に関する研究が活発に行われている。例えば、人体などの器官を構成する細胞1つ1つを調べるためには膨大な数の実験を行う必要がある。このような実験を小型で安価な機器で高速に行うことができるようにするための装置として、マイクロ流路が注目を集めている。
【0003】
例えば、特許文献1には、マイクロ流路内に気体を注入するために、マイクロ流路中に気体を注入するためのマイクロピペットを、マイクロ流路の中央まで挿入した混合器の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007―216086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、マイクロ流路中にマイクロピペットを注入するための空隙を形成している。このような空隙を形成するために、特許文献1では、流路のパターンの一部に達するように金属の針を置き、針の先端と流路のパターンの間の空隙を形成する箇所に水滴をたらした後、全体をシリコン樹脂で固化している。この場合、マイクロ流路や空隙が形成される前に水滴が蒸発してしまったり、針の周りを樹脂で固める際にマイクロ流路がつぶれてしまったりすることがある。このため、特許文献1には、適切に流体を混合させることのできるマイクロ流路チップが得られない可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、流体を適切に混合させることのできるマイクロ流路チップ、マイクロ流路デバイス、およびマイクロ流路チップの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様のマイクロ流路チップは、第1流体が流れる流路と、前記流路と側壁を介して隣接する空隙部と、前記空隙部から前記側壁を貫通し、先端部分が前記流路に挿入され、前記流路に対して第2流体を注入する注入部と、を備える。
【0008】
これにより、流路に挿入された注入部によって、第2流体を第1流体が流れる流路に注入することができる。したがって、マイクロ流路チップは、流路を流れる第1流体と、注入部から注入された第2流体とを適切に混合させることができる。
【0009】
マイクロ流路チップの望ましい態様として、前記流路の幅は、前記注入部から注入される前記第2流体の液滴の幅よりも狭い。これにより、注入部から注入された第2流体が第1流体と混合せずに逃げてしまうことを防止することができる。したがって、流路を流れる第1流体と、注入部から注入された第2流体とを、より適切に混合させることができる。
【0010】
マイクロ流路チップの望ましい態様としては、前記注入部は、ガラスまたは金属からなる。これによれば、注入部として既存の部材を使用することができる。
【0011】
マイクロ流路チップの望ましい態様としては、基板と、前記基板に積層された樹脂層とを有し、前記樹脂層には、前記側壁を介して前記流路と前記空隙部とが形成されている。これによれば、流路と、側壁と、空隙部とを有するマイクロ流路チップとして既存の部材を使用することができる。
【0012】
マイクロ流路チップの望ましい態様としては、前記樹脂層は、シリコン樹脂からなる。これによれば、樹脂層として既存の部材を使用することができる。また、シリコン樹脂は、注入部と比較して軟らかいため、注入部を容易に突き刺すことができる。
【0013】
マイクロ流路チップの望ましい態様としては、前記基板は、ガラスからなる。これによれば、基板として既存の部材を使用することができる。また、ガラスは、樹脂層との接着性が比較的よいため、流路を容易に作成することができる。
【0014】
本発明の第2の態様のマイクロ流路デバイスは、本発明の第1の態様のマイクロ流路チップと、前記注入部に接続されたアクチュエータと、前記アクチュエータの駆動を制御する制御部と、を備える。
【0015】
これにより、アクチュエータを制御することによって、第1流体への第2流体の注入精度を向上させることができる。したがって、マイクロ流路デバイスは、流路を流れる第1流体と、注入部から注入された第2流体とを、適切に混合させることができる。
【0016】
マイクロ流路デバイスの望ましい態様としては、前記制御部は、前記注入部が軸方向に振動しながら前記流路に対して前記第2流体を注入する。これによれば、第1流体の液滴の膜を注入部が貫きやすくすることができるので、第1流体と、第2流体とをより適切に混合させることができる。
【0017】
本発明の第3の態様のマイクロ流路チップの製造方法は、流路の型の近傍に、前記流路の型に接触させないで空隙形成部材を配置するステップと、前記流路の型と、前記空隙形成部材とを樹脂で覆うステップと、前記樹脂を硬化するステップと、硬化した前記樹脂を前記流路の型と、前記空隙形成部材とから取り外して、前記樹脂に前記流路と空隙部とを形成するステップと、取り外した前記樹脂を基板に接着するステップと、前記空隙部から、前記流路と前記空隙部との間の側壁を貫通させて、前記流路に注入部を挿入するステップと、を含む。
【0018】
これにより、流路に挿入された注入部によって、流路と、側壁とを密閉したマイクロ流路チップを形成することができる。したがって、流路を流れる第1流体と、注入部から注入された第2流体とを適切に混合させることのできるマイクロ流路チップを得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、マイクロ流路内において、流体を適切に混合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、本発明の実施形態に係るマイクロ流路デバイスの構成の一例を示す概略図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係るマイクロ流路デバイスのアクチュエータの一例を示す断面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係るマイクロ流路チップを形成する流れの一例を示すフローチャートである。
図4図4は、本発明の実施形態に係るマイクロ流路チップを形成する方法の一例を説明するための図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係るマイクロ流路チップを形成する方法の一例を説明するための図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係るマイクロ流路チップを形成する方法の一例を説明するための図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係るマイクロ流路チップを形成する方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、各図において同一または相当する部分には同一の符号を付して適宜説明は省略する。また、下記実施形態または実施例における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能であり、また、実施形態または実施例が複数ある場合には、各実施形態または実施例を組み合わせることも可能である。
【0022】
図1を参照して、本発明の実施形態に係るマイクロ流路デバイス1の構成の一例について説明する。図1は、本発明の実施形態に係るマイクロ流路デバイス1の構成の一例を示す概略図である。
【0023】
図1に示すように、マイクロ流路デバイス1は、マイクロ流路チップ10と、アクチュエータ20と、シリンジポンプ30と、制御装置40とを備える。マイクロ流路デバイス1は、例えば、マイクロ流路内を流れる第1流体に第2流体を注入し、エマルジョンを生成する装置として好適に使用することができる。
【0024】
マイクロ流路チップ10は、例えば、バイオテクノロジ分野などにおいて、溶液の混合、精製、検出などに使用される矩形状のチップである。このようなマイクロ流路チップ10は、例えば、ガラス基板上にシリコン樹脂を装着することによって形成されている。マイクロ流路チップ10は、試料投入槽11aと、流路11bと、廃棄槽11cと、空隙部12と、注入部13とを備える。
【0025】
試料投入槽11aは、マイクロ流路チップ10内に、試料を投入するために用いられる槽である。本実施形態では、試料投入槽11aには第1流体Aが投入される。なお、第1流体Aには、特に制限はないが、例えば、細胞が内部に入っている細胞培養液である。
【0026】
流路11bは、流体が通過する流路であり、試料投入槽11aと、廃棄槽11cとを繋いでいる。そのため、試料投入槽11aに投入された第1流体Aは、流路11bを通過して、廃棄槽11cへと移動する。流路11bの幅は、第1流体Aの液滴の幅や、注入部13から流路11bに注入される第2流体Bの液滴の幅よりも狭いことが好ましい。これにより、流路11bにおいて、第1流体Aと、第2流体Bとを適切に混合させることができる。第2流体Bは、例えば、第1流体Aが内部に細胞が入った細胞培養液である場合、細胞の遺伝子を改変させる遺伝子改変試薬である。なお、第2流体Bは、遺伝子改変試薬に限定されるものではない。
【0027】
廃棄槽11cは、マイクロ流路チップ10内に投入された試料を回収するために用いられる槽である。本実施形態では、例えば、第1流体Aと、第2流体Bとを混合した第3流体Cが廃棄槽11cに回収される。
【0028】
空隙部12は、側壁121を介して流路11bに隣接して設けられている空隙である。空隙部12は、注入部13の先端部分(例えば、針)を流路11bに挿入するために用いられる。具体的には、空隙部12から注入部13の先端部分を側壁121に突き刺して貫通させることで、注入部13の先端部分が流路11bに挿入される。このため、側壁121の厚みは、注入部13の先端部分が破壊されずに突き刺さる程度の厚みであることが好ましい。言い換えれば、側壁121の厚みは、注入部13の先端部分のサイズに応じて決定することが好ましい。例えば、注入部13の先端部分の直径が15μmである場合には、側壁121の厚みは20~40μm程度であることが好ましい。なお、ここで挙げた注入部13の先端部分の直径および側壁121の厚みは例示であり、本発明を限定するものではない。また、側壁121の厚みは、注入部13の硬度などの材料特性に応じて、適宜変更するようにしてもよい。このような空隙部12は、具体的には後述するが、マイクロ流路チップ10を形成する際に、ガラス片などの空隙形成部によって形成される。
【0029】
注入部13は、空隙部12の側壁121から流路11bに挿入されている。具体的には、注入部13は、その先端部分を空隙部12の側壁121に突き刺すことで、流路11bに挿入されている。これにより、本実施形態は、流路11bを密閉した状態で、注入部13を流路11bに挿入することができる。注入部13は、第1流体Aと混合するための第2流体Bを、流路11bに注入する。具体的には、注入部13は、第1流体Aの液滴に先端部分を突き刺して、第2流体Bを注入することによって、第1流体Aと第2流体Bとを混合させる。注入部13は特に限定されないが、例えば、ガラス針を用いることができる。注入部13はガラス針に限定されず、例えば、金属針を用いてもよい。
【0030】
本実施形態において、注入部13は、例えば、アクチュエータ20とともに、X軸-Y軸-Z軸の3次元に移動可能なXYZステージ(図示しない)に固定されている。すなわち、本実施形態では、XYZステージを動かすことによって、側壁121に注入部13の先端部分を突き刺すことができる。ここで、XYZステージは、手動で動かしてもよいし、自動で動かしてもよい。XYZステージを自動で動かす場合、XYZステージには後述の制御装置40が接続されており、制御装置40からの制御にしたがってXYZステージを動かす構成とすればよい。
【0031】
アクチュエータ20は、注入部13に接続されており、注入部13の軸方向(流路11bを横切る方向)に対して振動を与える。これにより、注入部13は、第1流体Aの液滴を貫きやすくなるため、第1流体Aと、第2流体Bとが適切に混合されやすくなる。このようなアクチュエータ20としては、例えば、圧電アクチュエータを用いることができる。
【0032】
図2を用いて、本実施形態で用いることのできる圧電アクチュエータの一例について説明する。図2は、圧電アクチュエータの一例を示す断面図である。
【0033】
図2に示すように、アクチュエータ20は、ピペット保持部材34を備える圧電アクチュエータ20aからなる。圧電アクチュエータ20aはその本体を構成するハウジング48を備えており、内周が筒状に形成されたハウジング48内には、外周にねじ加工を施されたピペット保持部材34が挿通されている。ピペット保持部材34は、その先端側(図2の左側、以下同様)には注入部13が取り付け固定されている。また、その後端側(図2の右側、以下同様)には、シリンジポンプ30が接続されている。
【0034】
ピペット保持部材34は、転がり軸受80、82を介してハウジング48に支持されている。転がり軸受80、82は、それぞれ内輪80a、82aと、外輪80b、82bと、内輪80a、82aと外輪80b、82bとの間に挿入されたボール80c、82cとを備える。転がり軸受80、82は、各内輪80a、82aが中空部材84を介してピペット保持部材34の外周面に嵌合され、各外輪80b、82bがハウジング48の内周面に嵌合され、ピペット保持部材34を回転自在に支持するようになっている。
【0035】
内輪80a、82aは、中空部材84を介してピペット保持部材34に嵌合している。これにより、内輪80a、82aにねじ加工を施したピペット保持部材34の外周面と嵌合することができる。また、転がり軸受80、82のピペット保持部材34への取り付けが簡単になる。
【0036】
また、中空部材84は、その軸方向略中央部に径方向外方に突出する内輪間座としてのフランジ部84aが設けられ、該フランジ部84aの軸方向両側に転がり軸受80、82の内輪80a、82aが配置される。このとき、中空部材84とフランジ部84aとは一体となっている。その後、内輪80aの先端側、および内輪82aの後端側からロックナット86をピペット保持部材34に螺合し、転がり軸受80、82の軸方向位置を固定する。なお、中空部材84の軸方向寸法は、転がり軸受80、82の内輪80a、82aの軸方向寸法と、中空部材84のフランジ部84aの軸方向寸法との合計より小さい。このため、内輪80aの軸方向先端側および内輪82aの軸方向後端側は中空部材84よりも軸方向に突出する。この結果、内輪80a、82aが直接ロックナット86により軸方向に固定されるので、内輪80a、82aの軸方向移動を規制できる。
【0037】
なお、中空部材84を設けることで、使用するピペット保持部材34と転がり軸受80、82の内径が同一径でなくともよい。一方で、同一径の場合は、中空部材84を省いた構成であってもよい。また、中空部材84とフランジ部84aとは一体に構成したが、別体にしてもよい。さらに、一体となった中空部材84とフランジ部84aとを内輪間座として取り扱ってもよい。
【0038】
さらに、転がり軸受80、82と同軸に配置され、ハウジング48の内周面に正の隙間を持って嵌合する円環状のスペーサ90が、外輪82bの軸方向後端側に配置される。スペーサ90の軸方向後端側には、円環状の圧電素子92がスペーサ90と略同軸に配置され、さらにその軸方向後端側にはハウジング48の蓋88が配置される。蓋88は、圧電素子92を軸方向に固定するためのもので、ピペット保持部材34が挿通する孔部を有する。この蓋88は、ハウジング48の側面に不図示のボルトにより締結されている。なお、蓋88は、ハウジング48軸方向後端側の内周面および蓋88の外周面にねじ加工を施して、両者を螺合することにより固定しても良いが、圧電素子92にねじりモーメントが生じる可能性がある。このため、蓋88はボルト等により締結固定されることが好ましい。
【0039】
転がり軸受80、82、圧電素子92は、スペーサ90の長さを調節し、蓋88を閉めることにより、予圧が付与される。具体的には、スペーサ90の長さを調整し、蓋88を閉めると、その位置に応じた締結力が転がり軸受82の外輪82bと転がり軸受80の外輪80bに、軸方向に沿った押圧力として予圧が付与されるとともに、同時に圧電素子92にも予圧が付与される。これにより、転がり軸受80、82および圧電素子92に所定の予圧が付与され、転がり軸受80、82の外輪80b、82b間に軸方向間の距離としての間隙94が形成される。
【0040】
このように、高剛性のばね要素である転がり軸受80、82で予圧を負荷できるため、圧電素子92への予圧調整を容易に行うことができるとともに、高い応答性を達成できる。
【0041】
また、圧電素子92はスペーサ90を介して転がり軸受82と接しているので、外輪82bと同じ径の圧電素子や、所定の予圧を付与可能な寸法の圧電素子といった、特別な形状の圧電素子を用いる必要がない。すなわち、図2の例では円環状とした圧電素子92を、棒状または角柱状としてスペーサ90の周方向に略等配となるように並べても良く、ピペット保持部材34を挿通する孔部を有した角筒としても良い。また、スペーサ90の形状を高精度とすれば、ハウジング48の内周面は転がり軸受80、82と嵌合する程度の精度で形成されているので、圧電素子92の個体差がある場合にも、転がり軸受82を均等に押圧することが可能となる。なお、以下で「圧電素子が(略)同軸である」とは、単に円環状の圧電素子がある軸と中心軸を共有する場合のみを示すのではなく、圧電素子がある軸を中心とした円周上に等配に並んでいる場合や、ある軸が角筒の圧電素子の中心を通る場合を含む。
【0042】
圧電素子92は、リード線(図示せず)を介して制御回路としての制御装置40に接続されており、制御装置40からの電圧に応じてピペット保持部材34の長手方向(軸方向)に沿って伸縮する圧電アクチュエータの一要素として構成されている。すなわち、圧電素子92は、制御装置40からの印加電圧に応答して、ピペット保持部材34の軸方向に沿って伸縮し、ピペット保持部材34をその軸方向に沿って微動させるようになっている。ピペット保持部材34が軸方向に沿って微動すると、この微動が注入部13に伝達され、注入部13の位置が微調整されることになる。
【0043】
圧電素子92に印加する電圧の電圧波形としては、正弦波、矩形波、三角波などを用いることができる。また圧電素子92に電圧を印加する方法としては、操作者が制御装置40に接続されたボタン等を押している間、信号波形を連続して出力して駆動してもよいし、バースト波形を使用してもよい。
【0044】
再び図1を参照する。シリンジポンプ30は、アクチュエータ20を介して注入部13に接続されており、注入部13が流路11bに注入する第2流体Bの液量を調整する。具体的には、シリンジポンプ30は、注入部13に加える圧力を調整することによって、注入部13から流路11bに注入される第2流体Bの液量を調整する。
【0045】
制御装置40は、アクチュエータ20と、シリンジポンプ30とに接続されている。すなわち、アクチュエータ20と、シリンジポンプ30とは、制御装置40からの制御にしたがって、駆動する。このような制御装置40は、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む電子的な回路で実現することができる。また、制御装置40は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)などの半導体メモリ素子、または、ハードディスク、ソリッドステートドライブ、光ディスクなどの記憶手段を備えている。そして、制御装置40は、記憶手段に格納されたプログラムを展開して実行することによって、アクチュエータ20と、シリンジポンプ30とを制御する。
【0046】
図3図7を用いて、本発明の実施形態に係るマイクロ流路チップ10を製造する流れについて説明する。図3は、マイクロ流路チップ10を製造する方法の流れの一例を示すフローチャートである。図4図7は、本発明の実施形態に係るマイクロ流路チップ10を形成する方法の一例を説明するための図である。
【0047】
まず、型に空隙形成部材を設置する(ステップS101)。具体的には、図4に示すように、試料投入槽型51と、流路型52と、廃棄槽型53とを有する型50を用意する。そして、流路型52の近傍に隙間を介して空隙形成部60を配置する。ここで、空隙形成部60は、例えば、ガラス片である。空隙形成部60はガラス片に限定されず、例えば、金属片や、樹脂片であってもよい。
【0048】
次に、型50と空隙形成部60とを樹脂で覆う(ステップS102)。具体的には、図5に示すように、型50と、空隙形成部60との全体を樹脂70で覆う。樹脂70は、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)であるが、これに限定されない。樹脂70は、他のシリコン樹脂であってもよい。
【0049】
次に、試料投入槽11aと、流路11bと、廃棄槽11cと、空隙部12とを形成する(ステップS103)。具体的には、樹脂70がポリジメチルシロキサンである場合、例えば、60℃で1時間程度加熱して、樹脂70を硬化させる。そして、硬化した樹脂70を型50から取り外す。これにより、図6に示すように、硬化した樹脂70には、試料投入槽11aと、流路11bと、廃棄槽11cと、空隙部12とが形成される。ここで、図6に示す、空隙部12の右側部分は開放されている。また、ステップS101で流路型52の近傍に隙間を介して空隙形成部60を配置しているので、流路11bと、空隙部12との間には、側壁121が形成される。側壁121の厚さは、空隙形成部60を配置する位置を変更することによって、調整することができる。
【0050】
次に、硬化した樹脂70を基板に装着する(ステップS104)。具体的には、図7示すように、試料投入槽11aと、流路11bと、廃棄槽11cと、空隙部12とが外部に露出するように、硬化した樹脂70を基板100に装着する。ここで、基板100は、例えば、ガラス基板であるが、これに限定されない。
【0051】
次に、流路11bに注入部13を挿入する(ステップS105)。具体的には、注入部13が固定されているXYZステージを動作させて、注入部13の先端部分を、空隙部12の右側の開放されている部分から空隙部12に挿入し、側壁121に突き刺して貫通させることによって、流路11bに注入部13を挿入する。これにより、注入部13によって密閉された空間を形成することができる。このような場合、例えば、注入部13の先端部分を斜め上方から挿入することになるため、注入部13の先端部分は、基板100に対して、平行であることが好ましい。
【0052】
上述のとおり、本実施形態は、空隙部12から側壁121に注入部13を突き刺すことで流路11bに液体を注入している。このため、本実施形態は、マイクロ流路チップ10の構造をシンプルにすることができる。
【0053】
また、本実施形態は、流路11bの幅を、第1流体Aの液滴および第2流体Bの液滴の幅よりも小さく、かつ第2流体Bはアクチュエータ20で駆動させる注入部13から注入されている。このため、本実施形態は、単に針から流体を注入する方法に比べて、流体の注入精度を向上させることができる。
【0054】
また、本実施形態は、空隙部12をガラス片などの空隙形成部60によって形成している。このため、本実施形態は、空隙部12を形成する際に水を使用していないので、空隙部12を形成する際に水が蒸発してしまう心配がないので、マイクロ流路チップ10を熱硬化樹脂でも作製することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 マイクロ流路デバイス
10 マイクロ流路チップ
11a 試料投入槽
11b 流路
11c 廃棄槽
12 空隙部
121 側壁
13 注入部
20 アクチュエータ
30 シリンジポンプ
34 ピペット保持部材
40 制御装置
48 ハウジング
50 型
51 試料投入槽型
52 流路型
53 廃棄槽型
60 空隙形成部
70 樹脂
80、82 転がり軸受
80a、82a 内輪
80b、82b 外輪
80c、82c ボール
84 中空部材
84a フランジ部
86 ロックナット
88 蓋
90 スペーサ
92 圧電素子
94 間隙
100 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7