(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】光励起材料、及びその製造方法、光化学電極、並びに光電気化学反応装置
(51)【国際特許分類】
C25B 11/087 20210101AFI20230404BHJP
C25B 11/077 20210101ALI20230404BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20230404BHJP
【FI】
C25B11/087
C25B11/077
C25B9/00 A
(21)【出願番号】P 2018192653
(22)【出願日】2018-10-11
【審査請求日】2021-07-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】天田 英之
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】穴澤 俊久
(72)【発明者】
【氏名】今中 佳彦
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-039115(JP,A)
【文献】国際公開第2017/043472(WO,A1)
【文献】特開2015-171704(JP,A)
【文献】特開2017-160524(JP,A)
【文献】特開2014-233669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/00-11/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を吸収して励起する酸窒化物としてのSrNbO
2Nを含有する光励起材料部位と、
前記光励起材料部位に接して配された助触媒を含有する助触媒部位と、
を有し、
前記助触媒が、IrO
2、RuO
2、CoO
2、及びCeO
2の少なくともいずれかを含有することを特徴とする光励起材料。
【請求項2】
前記助触媒が、IrO
2である請求項1に記載の光励起材料。
【請求項3】
光を吸収して励起する酸窒化物としてのSrNbO
2Nを含有する光励起材料部位と、
前記光励起材料部位に接して配された助触媒を含有する助触媒部位と、
を有する光励起材料を製造する光励起材料の製造方法であって、
前記酸窒化物を配して光励起材料部位を形成する工程と、
前記光励起材料部位の表面の少なくとも一部に助触媒部位の前駆体を配した状態で、前記光励起材料部位と前記助触媒部位の前駆体とを加熱し、前記助触媒部位を形成する工程と、
を含み、
前記助触媒が、IrO
2、RuO
2、CoO
2、及びCeO
2の少なくともいずれかを含有することを特徴とする光励起材料の製造方法。
【請求項4】
前記光励起材料部位が、前記酸窒化物の粒子をエアロゾルデポジション法により塗布することで形成される請求項3に記載の光励起材料の製造方法。
【請求項5】
導電体と、
前記導電体に接するように配された光励起材料と、を有し、
前記光励起材料が、光を吸収して励起する酸窒化物
としてのSrNbO
2
Nを含有する光励起材料部位と、前記光励起材料部位に接して配された
、IrO
2
、RuO
2
、CoO
2
、及びCeO
2
の少なくともいずれかを含む助触媒を含有する助触媒部位と、
を有することを特徴とする光化学電極。
【請求項6】
対向電極と、
前記対向電極に導線を介して接続された光化学電極と、
前記対向電極及び前記光化学電極を水中に浸すための透光性容器と、
を有し、
前記光化学電極が、導電体と、前記導電体に接するように配された光励起材料と、を有し、
前記光励起材料が、光を吸収して励起する酸窒化物
としてのSrNbO
2
Nを含有する光励起材料部位と、前記光励起材料部位に接して配された
、IrO
2
、RuO
2
、CoO
2
、及びCeO
2
の少なくともいずれかを含む助触媒を含有する助触媒部位と、を有する
ことを特徴とする光電気化学反応装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光励起材料、及びその製造方法、光化学電極、並びに光電気化学反応装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化が認知されて以来、産業活動に伴って大気中に排出される二酸化炭素を如何に削減するかが重要な課題となっている。
【0003】
大気中の二酸化炭素を減少させる方法として、人工光合成の技術が、近年、注目を集めている。人工光合成の技術は、光励起材料に可視光を照射して、電子とプロトンとを生成する明反応と、二酸化炭素及びプロトンを多電子還元して有機物を生成する暗反応とに大別される。
【0004】
明反応において用いられる光励起材料には、次の4点の条件を全て満たした材料を用いる必要がある。1点目は、可視光照射で電子を励起できることである。2点目は、水を酸化還元できることである。3点目は、励起電子により高い光電流を形成できることである。4点目に、水中での酸化還元耐性に優れていることである。
これらの条件を満たす材料として、酸窒化物材料が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光励起材料には、可視光照射を複数回行っても安定して光電流を発生できること、即ち、特性が落ちにくく、信頼性を有するか否かが、人工光合成システムに適用した場合に、特に重要になってくる。
しかし、酸窒化物を光励起材料として用いた場合、可視光照射を複数回行うと光電流が低下してしまうため、信頼性の点で、十分であるとはいえない。
【0007】
本発明は、繰り返し使用しても特性が落ちにくい光励起材料、及びその製造方法、前記光励起材料を用いた光化学電極、並びに光電気化学反応装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
1つの態様では、光励起材料は、
光を吸収して励起する酸窒化物を含有する光励起材料部位と、
前記光励起材料部位に接して配された助触媒を含有する助触媒部位と、
を有する。
【0009】
また、1つの態様では、光励起材料の製造方法は、
光を吸収して励起する酸窒化物を含有する光励起材料部位と、
前記光励起材料部位に接して配された助触媒を含有する助触媒部位と、
を有する光励起材料を製造する光励起材料の製造方法であって、
前記酸窒化物を配して光励起材料部位を形成する工程と、
前記光励起材料部位の表面の少なくとも一部に助触媒部位の前駆体を配した状態で、前記光励起材料部位と前記助触媒部位の前駆体とを加熱し、前記助触媒部位を形成する工程と、
を含む。
【0010】
また、1つの態様では、光化学電極は、
導電体と、
前記導電体に接するように配された光励起材料と、を有し、
前記光励起材料が、光を吸収して励起する酸窒化物を含有する光励起材料部位と、前記光励起材料部位に接して配された助触媒を含有する助触媒部位と、
を有する。
【0011】
また、1つの態様では、光電気化学反応装置は、
対向電極と、
前記対向電極に導線を介して接続された光化学電極と、
前記対向電極及び前記光化学電極を水中に浸すための透光性容器と、
を有し、
前記光化学電極が、導電体と、前記導電体に接するように配された光励起材料と、を有し、
前記光励起材料が、光を吸収して励起する酸窒化物を含有する光励起材料部位と、前記光励起材料部位に接して配された助触媒を含有する助触媒部位と、
を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光励起材料によれば、従来における前記諸問題を解決することができ、繰り返し使用しても特性が落ちにくい光励起材料を提供できる。
本発明の光励起材料の製造方法によれば、従来における前記諸問題を解決することができ、繰り返し使用しても特性が落ちにくい光励起材料の製造方法を提供できる。
本発明の光化学電極によれば、従来における前記諸問題を解決することができ、繰り返し使用しても特性が落ちにくい光化学電極を提供できる。
本発明の光電気化学反応装置によれば、従来における前記諸問題を解決することができ、繰り返し使用しても特性が落ちにくい光電気化学反応装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の光励起材料の一例の断面模式図である。
【
図2】
図2は、エアロゾルデポジション法による成膜に用いられる成膜装置の構造図である。
【
図3A】
図3Aは、本発明の光励起材料の製造方法の一例を説明するための図である。
【
図3B】
図3Bは、本発明の光励起材料の製造方法の一例を説明するための図である。
【
図3C】
図3Cは、本発明の光励起材料の製造方法の一例を説明するための図である。
【
図4】
図4は、本発明の光電気化学反応装置の一例の概略図である。
【
図5】
図5は、実施例1及び比較例1の光電流測定結果をまとめた図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(光励起材料)
本発明の光励起材料は、光励起材料部位と、助触媒部位とを有し、更に必要に応じて支持体などのその他の部位を有する。
【0015】
本発明者らは、光励起材料部位に用いる材料として、酸窒化物材料に着目した。酸窒化物は、光励起材料として用いると、高い光電流が発生することが知られている。しかし、酸窒化物は、繰り返し使用すると、光電流が低下するという性質がある。これは、酸窒化物の結晶内の窒素原子が脱離することによるものと考えられている。例えば、酸窒化物として、SrNbO2Nを用いた場合、3回測定後には、その組成が、SrNbO2.03N0.91となっている。即ち、窒素は、約10%脱離している。
酸窒化物は、光電流を発生させる際に、酸素が発生し、酸窒化物中の酸素濃度が増加する。この増加した酸素が、酸窒化物中の窒素を追い出すことで、窒素の脱離が進行すると推測される。
【0016】
また、酸窒化物に限らず、光励起材料は、光を照射することで、照射した光のエネルギーにより光励起材料中にエネルギーの高い電子が伝導帯に励起された時、価電子帯に電子が抜けた穴である酸化力のあるホールが生成する。しかし、光励起材料を繰り返し使用した場合、生成したホールと光励起反応により発生した酸素とが再結合し、ホールが消滅する現象が起こる。その結果、光励起材料を繰り返し使用すると光電流の低下が起きる。
【0017】
そこで、本発明者らは、繰り返し使用しても特性が落ちにくい光励起材料について検討した。その結果、酸窒化物と接するように助触媒を配することに着目した。助触媒を酸窒化物に接して配することで、酸窒化物内の酸素濃度の増加を抑えられ、窒素の脱離を防止でき、かつホールと電子の再結合を防止できる。その結果、光電流の低下を抑制できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0018】
<光励起材料部位>
光励起材料部位は、酸窒化物を含有する。
光励起材料部位は、酸窒化物自体で構成されていることが好ましい。
【0019】
<<酸窒化物>>
酸窒化物は、光を吸収して励起する性質を有する。
酸窒化物としては、例えば、BaTaO2N、BaNbO2N、SrNbO2N、LaTiO2N、SrTaO2N、CaNbO2N、CaTaO2N、LaZrO2N、PrTaON2、TaON、NbON、GaN-ZnO系などが挙げられる。
【0020】
光励起材料部位の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。
光励起材料部位の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0021】
<助触媒部位>
助触媒部位は、助触媒を含有する。
助触媒部位は、光励起材料部位に接して配される。
助触媒部位は、光励起材料部位の表面全体を覆っていても、覆っていなくてもよく、光励起材料部位との境界が、明確であっても不明確であってもよい。
【0022】
<<助触媒>>
助触媒としては、金属酸化物が好ましい。金属酸化物としては、例えば、IrO2、RuO2、CoO2、CeO2などが挙げられる。
なお、助触媒と、酸窒化物とには、組成の好ましい組み合わせがあり、例えば、酸窒化物として、SrNbO2Nを用いた場合は、助触媒は、IrO2、RuO2、CoO2、CeO2が好ましい。
【0023】
助触媒の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、光励起材料部位の質量に対して、4質量%~6質量%が好ましい。
【0024】
助触媒部位は、助触媒以外に、助触媒である金属酸化物を構成する金属を有していてもよい。そのような金属としては、例えば、Ir、Ru、Co、Ceなどが挙げられる。
【0025】
助触媒部位の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。
助触媒部位の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0026】
<その他の部位>
その他の部位としては、例えば、支持体などが挙げられる。
支持体は、光励起材料部位と、助触媒部位とを支持する。
支持体は、例えば、光励起材料部位に接して配される。
支持体の材質としては、例えば、ガラス、有機樹脂等の絶縁体などが挙げられる。
その他の部位の形状、及び大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
ここで、本発明の光励起材料の一例を、図を用いて説明する。
図1は、本発明の光励起材料の一例の断面模式図である。
図1の光励起材料1は、光励起材料部位2と、光励起材料部位2に接した助触媒部位3と、を有する。光励起材料部位2は、ガラス基板などの支持体により支持されていてもよい。
【0028】
(光励起材料の製造方法)
本発明の光励起材料の製造方法は、前述の光励起材料を製造する方法である。
光励起材料の製造方法は、光励起材料部位を形成する工程(以下、「光励起材料部位形成工程」と略記することがある)と、助触媒部位を形成する工程(以下、「助触媒部位形成工程」と略記することがある)と、を有する。
光励起材料の製造方法は、更に必要に応じて支持体形成工程などのその他の工程を含む。
【0029】
<光励起材料部位形成工程>
光励起材料部位形成工程は、酸窒化物を配する工程である。
酸窒化物は、前述のものを用いることができる。
光励起材料部位形成工程は、酸窒化物を所望の形態に配することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、酸窒化物の粒子をエアロゾルデポジション法により塗布することで形成すること(以下、「NPD成膜」と称することがある)が好ましい。
【0030】
<<NPD成膜>>
エアロゾルデポジションは、ナノパーティクルデポジション(NPD)と呼ばれることもある。
ナノパーティクルデポジション(NPD)は、下記文献1~文献3においても紹介された方法である。
文献1: Imanaka, Y., Amada, H. & Kumasaka, F. Dielectric and insulating properties of embedded capacitor for flexible electronics prepared by aerosol-type nanoparticle deposition. Jpn. J. Appl. Phys. 52, 05DA02 (2013).
文献2: Imanaka, Y. et al., Nanoparticulated dense and stress-free ceramic thick film for material integration. Adv. Eng. Mater. 15, 1129-1135 (2013).
文献3: Imanaka, Y., Amada, H., Kumasaka, F., Awaji, N. & Kumamoto, A., Nanoparticulate BaTiO3 film produced by aerosol-type nanoparticle deposition. J. Nanopart. Res. 18, 102 (2016).
ナノパーティクルデポジション(NPD)は、原料粒子をガス中に分散させたエアロゾルをノズルから基材に向けて噴射して、前記エアロゾルを前記基材表面に衝突させ、前記原料粒子からなる膜を前記基材上に形成させる方法である。
【0031】
前記NPDは、更に詳細に説明すると、以下のようにして無機材料からなる膜を作製する方法である。
真空ポンプで継続的に減圧された系内で、ガス気流とともに無機材料である原料粒子がエアロゾルを形成して搬送される。搬送された前記原料粒子は、ノズル内で前記原料粒子同士が衝突しながら破砕される。前記原料粒子においては、前記原料粒子内部では結晶性を維持しつつ、前記原料粒子表面の結晶構造の一部が歪み、各原料粒子の表面エネルギー状態が高くなる。破砕された前記原料粒子が基板上に堆積する際に、高エネルギー状態にある不安定な原料粒子表面部が安定化する作用(凝集力)で前記原料粒子同士が再結合する。その結果、緻密なナノ粒子の集合構造体の膜が基板上に室温レベルの温度下で得られる。また、膜をアニールする場合も、膜の内部はナノ粒子で構成されているために、最適焼結を500℃以上、低くすることができる。
【0032】
ここで、前記エアロゾルデポジション法の一例を図を用いて説明する。
図2は、エアロゾルデポジション法による成膜に用いられる成膜装置の一例の構造図である。
エアロゾルデポジション成膜装置は、エアロゾル室910及び成膜チャンバー920を有している。エアロゾル室910には成膜される材料の微粒子911が入れられており、He、N
2、Ar等のキャリアガスが入れられたガスボンベ930が配管960を介して接続されている。また、エアロゾル室910と成膜チャンバー920とは、配管941により接続されており、成膜チャンバー920内における配管941の端部にはノズル921が設けられている。成膜チャンバー920内においては、ノズル921の開口部と対向する側に、ステージ922が設けられており、ステージ922には、成膜がなされる基板923が設置されている。この成膜チャンバー920内は真空に排気可能であり、配管942を介し、メカニカルブースターポンプ943及び真空ポンプ944が接続されている。尚、エアロゾル室910内を排気することができるように、エアロゾル室910は、配管945及び不図示のバルブ等を介し配管942と接続されている。また、エアロゾル室910が設置される領域には、エアロゾル室910において、成膜される材料の微粒子が固まる、もしくは、成膜中に粒子が偏ることを防ぐため、エアロゾル室910を振動させるための振動器950が設けられている。
【0033】
この成膜装置において、エアロゾルデポジション法による成膜を行う際には、成膜チャンバー920内をメカニカルブースターポンプ943及び真空ポンプ944により真空排気した後、ガスボンベ930よりキャリアガスをエアロゾル室910内に供給する。エアロゾル室910内では、供給されたキャリアガスにより成膜される材料の微粒子が巻き上げられ、成膜される材料の微粒子がキャリアガスとともに配管941を介し、成膜チャンバー920内のノズル921に運ばれる。この後、ノズル921から、キャリアガスとともに成膜される材料の微粒子が基板923に向けて噴出され、基板923の表面に向けてノズル921より噴出された微粒子が堆積することにより成膜が行われる。
【0034】
<助触媒部位形成工程>
助触媒部位形成工程は、光励起材料部位の表面の少なくとも一部に助触媒部位の前駆体を配した状態で、光励起材料部位と助触媒部位の前駆体とを加熱する工程を有する。
助触媒部位の前駆体を配する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前述のNPD、スパッタ蒸着などが挙げられる。
【0035】
光励起材料部位と助触媒部位の前駆体との加熱はアニールとも呼ばれ、光励起材料部位に含まれる酸窒化物の粒成長のために行われる。アニール時に、酸窒化物中の酸素の一部が、助触媒前駆体に移り、助触媒前駆体の少なくとも一部が酸化され、助触媒部位が形成される。
なお、助触媒部位は、助触媒と助触媒前駆体が混在した状態であってもよい。
【0036】
アニール時の加熱温度としては、助触媒前駆体の少なくとも一部が酸化される程度の温度であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、400℃~700℃であってもよいし、500℃~650℃であってもよい。
加熱時間としては、助触媒前駆体の少なくとも一部が酸化される程度の時間であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、5分間~10時間であってもよいし、10分間~1時間であってもよい。
【0037】
<<助触媒前駆体>>
助触媒前駆体としては、酸窒化物中から脱離した酸素を受け取り、助触媒としての機能を発揮できれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択でき、例えば、助触媒である金属酸化物を構成する金属が挙げられる。そのような金属としては、Ir、Ru、Co、Ceなどが挙げられる。
【0038】
ここで、図を用いて本発明の光励起材料の製造方法を説明する。
図3A~
図3Cは、光励起材料の製造方法の一例を説明するための図である。
まず、
図3Aに示すように、酸窒化物を含有する光励起材料部位2を製造する。光励起材料部位2は、例えば、エアロゾルデポジション法により形成することができる。
続いて、
図3Bに示すように、光励起材料部位2の上に、助触媒部位の前駆体4を配する。助触媒部位の前駆体4は、例えば、助触媒である金属酸化物を構成する金属の膜であって、エアロゾルデポジション法により形成することができる。
続いて、
図3Bに示す積層体を、真空条件又は不活性ガス雰囲気下で加熱する。加熱することで、光励起材料部位2に含有される酸窒化物の酸素の一部が、助触媒部位の前駆体4(金属の膜)部分に移動し、助触媒部位の前駆体4(金属の膜)が酸化される。
助触媒部位の前駆体4(金属の膜)が酸化された結果、助触媒である金属酸化物を含有する助触媒部位3が形成される(
図3C)。
【0039】
(光化学電極)
本発明の光化学電極は、導電体と、光励起材料と、を少なくとも有し、更に必要に応じて、支持体などのその他の部材を有する。
光励起材料は、前述の光励起材料である。
【0040】
<導電体>
導電体としては、導電性を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0041】
導電体の材質としては、例えば、金属、合金、金属酸化物などが挙げられる。
金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、タンタル(Ta)、ビスマス(Bi)、鉛(Pb)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)などが挙げられる。
合金としては、例えば、前記金属の例示で挙げられた2以上の金属種からなる合金などが挙げられる。
金属酸化物としては、例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、酸化亜鉛、酸化インジウム(In2O3)、アルミニウムドープ酸化亜鉛(AZO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)、酸化スズ、酸化亜鉛-酸化スズ系、酸化インジウム-酸化スズ系、酸化亜鉛-酸化インジウム-酸化マグネシウム系などが挙げられる。
【0042】
ここで、導電性とは、例えば、体積抵抗率で102Ωcm以下の範囲を意味する。
【0043】
導電体の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、平板状などが挙げられる。
導電体の大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0044】
導電体としては、例えば、蒸着膜などが挙げられる。蒸着膜は、例えば、物理蒸着法、化学蒸着法などにより形成される。物理蒸着法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法などが挙げられる。
【0045】
(光電気化学反応装置)
本発明の光電気化学反応装置は、対向電極と、光化学電極と、透光性容器とを少なくとも有し、更に必要に応じて、その他の部材を有する。
【0046】
対向電極は、陰極である。
光化学電極は、本発明の光化学電極であり、陽極である。
光化学電極は、対向電極に導線を介して接続される。
透光性容器は、対向電極及び光化学電極を水中に浸すための容器である。透光性容器の材質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスチック、ガラス、石英などが挙げられる。
【0047】
図4を用いて、光電気化学反応装置の一例を説明する。
光電気化学反応装置は、陽極である光化学電極10と、陰極である対向電極15と、光化学電極10及び対向電極15を接続する導線16と、光化学電極10及び対向電極15を収容する透光性容器17とを有する。透光性容器17には、水18が入っており、光化学電極10及び対向電極15は水18に浸っている。
対向電極15には、例えば、水素の発生に高い触媒活性を示すPt金属電極が用いられる。
【0048】
水の光分解反応を生じさせる照射光19は、例えば、紫外光を含む混合光である。
【0049】
そして、光化学電極10に照射光19が照射されると、光化学電極10の光励起材料13において、価電子帯の電子が励起されて伝導帯に遷移するとともに、価電子帯に正孔が形成される。照射光19によって励起された電子は導電体12方向へ、正孔(ホール)は表面に向かう。そして、光励起材料13の表面では、OH-イオンが水中に存在すると、正孔によって表面で酸化反応が起きて酸素O2が生成する。一方、電子は、導線16で接続された対向電極15に移動し、対向電極15表面では、H+イオンが水中に存在すると、電子によって還元反応が起きて水素H2が生成する。
ここで、光励起材料13に助触媒部位に含有される助触媒14が存在することで、光励起材料13の光励起が促進され光電流の増加が生じる結果、光の利用効率が高くなる。
【実施例】
【0050】
以下、開示の技術について説明するが、開示の技術は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0051】
(製造例1)
<酸窒化物(SrNbO2N)の製造>
SrCO3とNb2O5とを、SrCO3:Nb2O5=1:1(モル比)で混合し、アンモニアガス気流中、1,173K(約900℃)で100時間反応させて、純度99.9%以上、かつ平均粒径1μmのSrNbO2N粉末を得た。
【0052】
(比較例1)
<酸窒化物>
原料粉末として製造例1で製造した平均粒径1μmのSrNbO2N粉末を用いた。
【0053】
<光化学電極の作製>
使用したナノパーティクルデポジション(NPD)装置は、エアロゾル発生システム、デポジションチャンバー、及び真空システムから構成される。このデポジション装置に熱源は配されていない。
製造例1で製造したSrNbO2N粉末を、前記エアロゾル発生システムの容器内にセットし、10Hzで振動させた。それから、ガス圧0.2MPa、かつ純度99.9%のヘリウムを前記容器に導入し、エアロゾルを発生させた。メカニカルブースター及び真空ポンプを用い、前記デポジションチャンバー内の圧力を、10Pa未満に制御した。発生した前記エアロゾルを、前記デポジションチャンバー内のノズルへ搬送させた。
前記エアロゾルを前記ノズルから発射し、前記エアロゾルを前記デポジションチャンバー内に配されたFTO基板(フッ素ドープ酸化スズ薄膜が形成されたガラス)に10分間衝突させた。その時のガス流速は、50m/sec~100m/secであった。ガス流速は、ノズル開口部を通過する部分のガス流量から算出した。
その結果、室温で、前記FTO基板上にSrNbO2Nからなる光励起材料部位(平均厚み2μm)が形成された。
【0054】
続いて、窒素ガス雰囲気(窒素ガス濃度100%)中600℃、30分間でアニールした。
以上により、比較例1の光化学電極を得た。
【0055】
(実施例1)
<光励起材料を有する光化学電極の作製>
使用したナノパーティクルデポジション(NPD)装置は、エアロゾル発生システム、デポジションチャンバー、及び真空システムから構成される。このデポジション装置に熱源は配されていない。
製造例1で製造したSrNbO2N粉末を、前記エアロゾル発生システムの容器内にセットし、10Hzで振動させた。それから、ガス圧0.2MPa、かつ純度99.9%のヘリウムを前記容器に導入し、エアロゾルを発生させた。メカニカルブースター及び真空ポンプを用い、前記デポジションチャンバー内の圧力を、10Pa未満に制御した。発生した前記エアロゾルを、前記デポジションチャンバー内のノズルへ搬送させた。
前記エアロゾルを前記ノズルから発射し、前記エアロゾルを前記デポジションチャンバー内に配されたFTO基板(フッ素ドープ酸化スズ薄膜が形成されたガラス)に10分間衝突させた。その時のガス流速は、50m/sec~100m/secであった。ガス流速は、ノズル開口部を通過する部分のガス流量から算出した。
その結果、室温で、前記FTO基板上にSrNbO2Nからなる光励起材料部位(平均厚み2μm)が形成された。
【0056】
続いて、光励起材料部位の片面の全面に、
図2に示すようなナノパーティクルデポジションの成膜技術を用いて、助触媒部位の前駆体であるIr(イリジウム)を用いてIr膜を形成した。
Ir膜は、SrNbO
2Nに対して、5質量%の量となるように成膜した。
なお、原料のIrは、高純度化学研究所製のIr粒子を用いた。
【0057】
続いて、窒素ガス雰囲気(窒素ガス濃度100%)中600℃、30分間でアニールし、Irを酸化させることで助触媒(IrO2)を形成し、助触媒(IrO2)を含む助触媒部位を形成した。
以上により、実施例1の光化学電極を得た。
【0058】
<光電流の測定>
測定には3極の電気化学セルを用いた。白金箔を対極とし、Ag/AgCl(飽和KCl水溶液)電極を参照電極とした。電解液には0.5M Na
2SO
4水溶液(pH=6.0~6.5)を用い、事前に窒素ガスを30分間通気して溶存酸素を脱気した。電位の値は、その都度pH=0における標準水素電極基準の値(vs.NHE)に補正し、その値を表記した。
疑似太陽光にはソーラシミュレータ(朝日分光社製、HAL-320)、電位測定にはポテンショスタット(ソーラトロン社製、SI 1280)を用いて、光電流の測定を行った。ソーラシミュレータの照度は100mW/cm
2、バイアス電圧は参照電極に対して-1から1.5Vとした。
作成した実施例1及び比較例1の光化学電極の光電流を3回測定した。なお、3回の測定は連続で行った。実施例1及び比較例1のそれぞれの1回目の光電流の値を1としたときの、2回目、及び3回目の光電流の値を、
図5に示した。
【0059】
実施例1の光励起材料を有する光化学電極を用いた場合の光電流は、3回目の測定時において、1回目の測定時の0.55倍程度の大きさだった。これに対して、比較例1の光励起材料を有する光化学電極を用いた場合の光電流は、3回目の測定時において、1回目の測定時の0.25倍程度の大きさだった。これらの結果から、本発明の光励起材料は、繰り返し使用しても特性が落ちにくいことが明らかになった。
【0060】
更に以下の付記を開示する。
(付記1)
光を吸収して励起する酸窒化物を含有する光励起材料部位と、
前記光励起材料部位に接して配された助触媒を含有する助触媒部位と、
を有することを特徴とする光励起材料。
(付記2)
前記酸窒化物が、BaTaO2N、BaNbO2N、SrNbO2N、及びLaTiO2Nの少なくともいずれかを含有する付記1に記載の光励起材料。
(付記3)
前記助触媒が、IrO2、RuO2、CoO2、及びCeO2の少なくともいずれかを含有する付記1から2のいずれかに記載の光励起材料。
(付記4)
前記助触媒が、Ir、Ru、Co、及びCeの少なくともいずれかを更に含有する付記1から3のいずれかに記載の光励起材料。
(付記5)
光を吸収して励起する酸窒化物を含有する光励起材料部位と、
前記光励起材料部位に接して配された助触媒を含有する助触媒部位と、
を有する光励起材料を製造する光励起材料の製造方法であって、
前記酸窒化物を配して光励起材料部位を形成する工程と、
前記光励起材料部位の表面の少なくとも一部に助触媒部位の前駆体を配した状態で、前記光励起材料部位と前記助触媒部位の前駆体とを加熱し、前記助触媒部位を形成する工程と、
を含むことを特徴とする光励起材料の製造方法。
(付記6)
前記光励起材料部位が、前記酸窒化物の粒子をエアロゾルデポジション法により塗布することで形成される付記5に記載の光励起材料の製造方法。
(付記7)
導電体と、
前記導電体に接するように配された光励起材料と、を有し、
前記光励起材料が、光を吸収して励起する酸窒化物を含有する光励起材料部位と、前記光励起材料部位に接して配された助触媒を含有する助触媒部位と、
を有することを特徴とする光化学電極。
(付記8)
対向電極と、
前記対向電極に導線を介して接続された光化学電極と、
前記対向電極及び前記光化学電極を水中に浸すための透光性容器と、
を有し、
前記光化学電極が、導電体と、前記導電体に接するように配された光励起材料と、を有し、
前記光励起材料が、光を吸収して励起する酸窒化物を含有する光励起材料部位と、前記光励起材料部位に接して配された助触媒を含有する助触媒部位と、を有する
ことを特徴とする光電気化学反応装置。
【符号の説明】
【0061】
1 光励起材料
2 光励起材料部位
3 助触媒部位
4 助触媒部位の前駆体