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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】積層体、包装体及び包装物品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20230404BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20230404BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20230404BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
B32B27/00 B
B32B27/00 A
B65D65/40 D
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018208913
(22)【出願日】2018-11-06
(65)【公開番号】P2020075382
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】小出 洋子
(72)【発明者】
【氏名】竹下 耕二
(72)【発明者】
【氏名】竹内 礼
(72)【発明者】
【氏名】塩川 俊一
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/181793(WO,A1)
【文献】特開2007-246120(JP,A)
【文献】特開2017-202580(JP,A)
【文献】特開2007-320576(JP,A)
【文献】特開2004-216566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00- 43/00
B65D 65/00- 65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の最外層と、水蒸気バリア層と、酸素吸収物質を含有する酸素吸収層と、アルカリ物質含有層と、第2の最外層とをこの順序で備え、前記水蒸気バリア層は耐透湿性樹脂を含有し、前記耐透湿性樹脂はガラス転移温度が80℃以上の環状オレフィン系樹脂である積層体。
【請求項2】
第1の最外層と、水蒸気バリア層と、酸素吸収物質を含有する酸素吸収層と、第2の最外層とをこの順序で備え、前記水蒸気バリア層は耐透湿性樹脂を含有し、前記耐透湿性樹脂はガラス転移温度が80℃以上の環状オレフィン系樹脂であり、前記酸素吸収層はアルカリ物質を更に含有する積層体。
【請求項3】
前記第1の最外層は、一方の主面が前記積層体の一方の最表面を構成する基材と、前記基材と前記水蒸気バリア層との間に介在する水溶性高分子含有層とを備える、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項4】
前記第1の最外層は、前記基材と前記水溶性高分子含有層との間に介在し、無機物の蒸着層からなる無機蒸着層を更に備える、請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記水蒸気バリア層は、ポリエチレン、ポリプロピレン及び非晶性ポリエステルから選択される熱可塑性樹脂を更に含有し、前記耐透湿性樹脂の配合率は、前記耐透湿性樹脂と前記熱可塑性樹脂の合計に対し50質量%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記水蒸気バリア層は、前記耐透湿性樹脂を含有する耐透湿性樹脂含有層と、前記耐透湿性樹脂含有層と前記第1の最外層との間に介在する熱可塑性樹脂含有層とを備え、前記熱可塑性樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン及び非晶性ポリエステルから選択される樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
前記水蒸気バリア層が備える前記耐透湿性樹脂含有層の膜厚Tと、前記熱可塑性樹脂含有層の膜厚Tの比率T:Tは、90:10~10:90の範囲である、請求項6に記載の積層体。
【請求項8】
前記酸素吸収層が前記アルカリ物質を更に含有する場合、前記酸素吸収層は、前記アルカリ物質を前記酸素吸収物質100質量部に対し40質量部~100質量部の割合で含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項9】
前記酸素吸収物質を、前記酸素吸収層の全質量に対し20質量%~60質量%の割合で含有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項10】
前記酸素吸収物質としてフェノール化合物を少なくとも含有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項11】
前記酸素吸収物質としてピロガロール基を有するフェノール化合物を少なくとも含有する、請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項12】
前記酸素吸収物質として、没食子酸及び没食子酸エステルから選択される少なくとも一種を含有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項13】
前記第2の最外層はシーラント層を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の積層体を含む包装体。
【請求項15】
請求項14に記載の包装体と、これに収容された内容物とを含んだ包装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、包装体及び包装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の包装において包装体内に酸素が存在することにより、内容物である食品等が酸化して、劣化したり変色したりすることがある。包装された内容物の酸化劣化を防ぐには、包装体内の酸素を除去すること、及び外部の酸素が包装体内部に侵入しないよう遮断することで無酸素状態を作ることが有効である。
【0003】
ところが、一般的には包装作業は大気中で行うため、包装時は包装体内に酸素が残存した状態になる。この問題を解決するために、酸素が包装体内に残らないように包装する手段として、脱気包装、真空包装、ガス置換包装などの手段を用いることがある。
【0004】
しかし、このような特別な包装手段を用いると、特別な充填包装設備を別途用意する必要があり、高額な設備費用がかかったり、充填包装速度が上がらず生産効率が低下したりと、不利益が発生する。また、上記のような手段で包装時に酸素が残らないように包装したとしても、包装後に包装材を通して外部の酸素が経時で侵入してくるため、包装体内を無酸素状態に維持することは難しい。
【0005】
そこで、包装体内の残存酸素及び包装後に経時で外部から浸入してくる酸素を除去する手段として、酸素吸収物質を充填した小袋からなる脱酸素剤を、内容物が収容された包装体内に充填する方法が用いられている。この方法では、一定期間、すなわち酸素吸収薬剤の酸素吸収能力が維持している期間は、酸素吸収薬剤が酸素を吸収することで酸素を除去することができる。そのため、包装時に包装体内に残った酸素や外部から経時で進入した酸素も除去することが可能であり、包装体内を無酸素状態に維持するのに非常に有効である。しかし、脱酸素剤は、酸素吸収性薬剤を充填する際の手間やコストが発生する。また、消費者の誤飲やゴミの発生等の問題がある。
【0006】
このような欠点を解消し、一定期間包装体内の酸素を除去及び遮断する手段として、包装材を構成するフィルムなどの一部に酸素吸収機能を設けた酸素吸収フィルムや、それを用いた酸素吸収包装材が考案され、一部実用化されている。
【0007】
上記のような酸素吸収包装材は、現状では食品包装分野で用いられるケースが多く、特にレトルト食品(高温高圧殺菌食品)などの長期保存食品や、カビが発生しやすい高水分食品の包装に用いられる。
【0008】
特に、長期保存食品の包装については、近年、輸送コストや容器の廃棄処理の観点から、缶や瓶の使用は減少し、一方で、包装材の一部に酸素吸収フィルムを設けたレトルトパウチ包装材の形態が主流となっている。
【0009】
容器が缶や瓶の場合は、外部からの酸素の侵入がなく、包装時に残存した酸素のみ除去すれば良いため、真空包装や窒素ガス置換包装などの方法が用いられてきた。缶や瓶に替えて酸素吸収包装材を用いた場合、上述したような真空包装や窒素ガス置換包装などの特別な包装手段を用いることによる設備費用や生産効率の問題はない。しかしながら、従来の酸素吸収フィルムは、瓶・缶に比べると酸素を透過し易いため、缶・瓶と同等の消費期限をレトルトパウチ包装材に付与することは困難であった。そこで、レトルトパウチ包装材としても好適に使用することができる様々な酸素吸収フィルムやそれを用いた酸素吸収包装材が開発されている。
【0010】
現在実用化されている酸素吸収包装材には、酸素吸収物質として鉄や酸素欠損酸化物を樹脂に添加したものや、樹脂組成物の構造の一部に不飽和結合を設けたものがある。
【0011】
しかし、鉄系の酸素吸収物質を用いると金属探知機の使用に制限が生じる、また、酸素欠損酸化物や不飽和結合の構造を持つ樹脂組成物は材料そのものの価格が高いという問題がある。
【0012】
一方で、アスコルビン酸類、グルコース等の還元糖類、グリセリン等の多価アルコール類、カテコールなどのフェノール類、ヒドロキシ安息香酸などのフェノールカルボン酸類などの有機系の物質は、脱酸素剤の酸素吸収物質として長い間検討されてきた物質であり、コストも安価で安全である。
【0013】
例えば、酸素吸収物質としてフェノールカルボン酸類の中でも没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸)を使用した酸素吸収包装材として、特許文献1には、熱可塑性樹脂中に没食子酸、アルカリ物質、酸化反応触媒を添加してなる樹脂組成物から形成された酸素吸収フィルムが開示されている。また、特許文献2には、基材、没食子酸含有層、アルカリ物質含有層及びシーラント層がこの順で積層されてなる酸素吸収フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2011-92921号公報
【文献】特開平10-138410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らは、没食子酸等の酸素吸収物質を含有する酸素吸収層を備え、助剤としてアルカリ物質を含有してなる酸素吸収フィルムについて鋭意研究を重ねた。その結果、このような酸素吸収層とアルカリ物質を含む酸素吸収フィルムは、酸素吸収性能には優れるものの、ラミネート強度は必ずしも十分でなく、特に基材と酸素吸収層との間でデラミネーションを発生しやすいことがわかった。
【0016】
そこで、本発明は、包装材として実用化するのに十分な密着強度を維持しつつ、酸素吸収性能にも優れた積層体、それを含む包装体及び包装物品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1側面によると、第1の最外層と、水蒸気バリア層と、酸素吸収物質を含有する酸素吸収層と、第2の最外層とをこの順序で備える積層体が提供される。
【0018】
一形態において、上記第1の最外層は、一方の主面が上記積層体の一方の最表面を構成する基材と、上記基材と上記水蒸気バリア層との間に介在する水溶性高分子含有層とを備えてよい。
【0019】
他の形態において、上記第1の最外層は、上記基材と上記水溶性高分子含有層との間に介在し、無機物の蒸着層からなる無機蒸着層を更に備えてよい。
【0020】
他の形態において、上記水蒸気バリア層は耐透湿性樹脂を含有してよい。
他の形態において、上記水蒸気バリア層は耐透湿性樹脂と熱可塑性樹脂を含有し、上記耐透湿性樹脂の配合率は、上記耐透湿性樹脂と上記熱可塑性樹脂の合計に対し50質量%以上であってよい。
【0021】
他の形態において、上記水蒸気バリア層は、耐透湿性樹脂含有層と、上記耐透湿性樹脂含有層と上記第1の最外層との間に介在する熱可塑性樹脂含有層とを備えてよい。
【0022】
他の形態において、上記水蒸気バリア層が備える上記耐透湿性樹脂含有層の膜厚Tと上記熱可塑性樹脂含有層の膜厚Tの比率T:Tは90:10~10:90の範囲であってよい。
【0023】
他の形態において、上記耐透湿性樹脂は、透湿係数(g・mm/m/日)が0.5以下であってよい。
【0024】
他の形態において、上記耐透湿性樹脂は、ガラス転移温度が80℃以上の環状オレフィン系樹脂であってよい。
【0025】
他の形態において、上記積層体は、上記酸素吸収層と上記第2の最外層との間に、アルカリ物質含有層を更に備えてよい。
他の形態において、上記酸素吸収層はアルカリ物質を更に含有してよい。
【0026】
他の形態において、上記積層体は、上記アルカリ物質を、上記酸素吸収物質100質量部に対し40質量部~100質量部の割合で含有してよい。
【0027】
他の形態において、上記積層体は、上記酸素吸収物質を、上記酸素吸収層の全質量に対し20質量%~60質量%の割合で含有してよい。
【0028】
他の形態において、上記積層体は、上記酸素吸収物質としてフェノール化合物を少なくとも含有してよい。
【0029】
他の形態において、上記積層体は、上記酸素吸収物質としてピロガロール基を有するフェノール化合物を少なくとも含有してよい。
【0030】
他の形態において、上記積層体は、上記酸素吸収物質として、没食子酸及び没食子酸エステルから選択される少なくとも一種を含有してよい。
【0031】
他の形態において、上記第2の最外層はシーラント層を含んでよい。
【0032】
本発明の第2側面によると、上記積層体を含む包装体が提供される。
本発明の第3側面によると、上記包装体と、これに収容された内容物とを含んだ包装物品が提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明によると、包装材として実用化するのに十分な密着強度を維持しつつ、酸素吸収性能にも優れた積層体、それを含む包装体及び包装物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の一実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図。
図2】本発明の他の実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図。
図3】本発明の他の実施形態に係る積層体を概略的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本実施形態に係る積層体は、酸素吸収フィルムとしてシート状で使用してもよいし、包装材として例えば袋状体にして使用してもよく、例えば、食品、薬剤、医薬品、化粧品、電子部品等に好適に用いられる。
【0036】
<積層体>
以下に、本実施形態に係る積層体について、図面を参照しながら説明する。なお、同様又は類似した機能を有する要素については、同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0037】
本実施形態に係る積層体について、代表的な構成例を図1図3に示す。
図1は、第一の実施形態に係る積層体1を概略的に示す断面図である。この積層体1は、第1の最外層10と、水蒸気バリア層11-1と、酸素吸収層12aと、アルカリ物質含有層12bと、第2の最外層13とを備えている。第1の最外層10は、基材10aと、無機物の蒸着層からなる無機蒸着層10bと、水溶性高分子含有層10cとを備えている。水蒸気バリア層11-1は、耐透湿性樹脂を含有する。
【0038】
図2は、第二の実施形態に係る積層体1を概略的に示す断面図である。この積層体1は、第1の最外層10と、水蒸気バリア層11-2と、酸素吸収層12aと、アルカリ物質含有層12bと、第2の最外層13とを備えている。第1の最外層10は、基材10aと、無機物の蒸着層からなる無機蒸着層10bと、水溶性高分子含有層10cとを備えている。水蒸気バリア層11-2は、耐透湿性樹脂と熱可塑性樹脂を含有する。
【0039】
図3は、第三の実施形態に係る積層体1を概略的に示す断面図である。この積層体1は、第1の最外層10と、水蒸気バリア層11-3と、酸素吸収層12aと、アルカリ物質含有層12bと、第2の最外層13とを備えている。第1の最外層10は、基材10aと、無機物の蒸着層からなる無機蒸着層10bと、水溶性高分子含有層10cとを備えている。水蒸気バリア層11-3は、熱可塑性樹脂含有層11aと耐透湿性樹脂含有層11bとを備えている。
【0040】
なお、図1図3に示す積層体1では、何れの層間においても接着層(図示せず)が設けられていてもよい。
【0041】
以下に、各層の材料や機能等について説明する。
(第1の最外層)
第1の最外層は、酸素バリア性を有する基材である。酸素バリア性を有する限り、第1の最外層は単層からなる基材であってもよいし、多層構造からなる基材であってもよい。図1図3に示される第一の実施形態~第三の実施形態における積層体1では、第1の最外層10は、より高い酸素バリア性や耐経時劣化性の観点から、基材10aと、無機物の蒸着層からなる無機蒸着層10bと、水溶性高分子含有層10cとを備える多層構造を有する。
【0042】
基材10aとしては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド(ナイロン(登録商標))、ポリエチレンナフタレートなど、あるいはこれら高分子の共重合体など通常包装材料として用いられるものが使用できる。また、樹脂フィルムの中で比較的バリア性の高いポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデンなどの塗液をプラスチック基材上にコーティングしたものを用いることもできる。基材10aは用途や第1の最外層の層構造等に応じて上記材料から適宜選択される。
【0043】
基材10aは、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤などの公知の添加剤を含有してもよい。
【0044】
無機蒸着層10bは、例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、錫、又はマグネシウムなどの酸化物、窒化物、又は弗化物の単体、或いはそれらの複合物からなり、真空蒸着法、スパッタリング法、プラズマ化学気相成長法(Chemical vapor deposition;CVD法)などの真空プロセスにより形成される。第1の最外層10が無機蒸着層10bを含むことにより、酸素バリア性を更に高めることができる。
【0045】
水溶性高分子含有層10cは、水溶性高分子を含有し、水に対し膨潤性を有するものであればよい。水により膨潤した水溶性高分子含有層10cは、無機蒸着層10bの隙間に入り込み同層の割れを防止することができる。このため、第1の最外層10が水溶性高分子含有層10cを含むことにより、第1の最外層10の酸素バリア性を更に高めることができる。
【0046】
水溶性高分子含有層10cに含有される水溶性高分子としては、例えば、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル・アルキド樹脂、アミノ樹脂等が挙げられる。
【0047】
水溶性高分子含有層10cは、水溶性高分子以外に、金属アルコキシド及びその加水分解物、又は塩化錫の少なくとも一方を含有してよい。
【0048】
金属アルコキシドとしては、例えば、テトラエトキシシラン〔Si(OC〕、トリイソプロポキシアルミニウム〔Al(O-i-C〕など、一般式:
M(OR)
(M:Si、Ti、Ai、Zr等の金属,R:CH、C等のアルキル基)で表せるものが挙げられる。なかでもテトラエトキシシラン、トリイソプロポキシアルミニウムが加水分解後、水系の溶媒中において比較的安定であるので好ましい。
【0049】
塩化錫は、例えば、塩化第1錫(SnCl)、塩化第2錫(SnCl)、あるいはそれらの混合物であってもよく、無水物でも水和物でも用いることができる。
【0050】
水溶性高分子含有層10cは、例えば、水溶性高分子と塩化錫を水系溶媒(水或いは水/アルコール混合液)で溶解させた溶液、或いはこれに金属アルコキシドを直接、或いは予め加水分解させるなど処理を行ったものを混合した溶液を、基材10a上の無機蒸着層10b上にコーティングし、これを加熱乾燥して形成することができる。
【0051】
第1の最外層10の膜厚は適宜設定することができる。良好な加工性、取り扱い性の観点からは、10μm以上50μm以下の膜厚であってよい。
【0052】
以下において、第1の最外層10を「基材層」又は「基材フィルム」ということがある。基材10a、無機蒸着層10b、及び水溶性高分子含有層10cを備える基材フィルムからなる第1の最外層としては、例えば、商品名「GL-AE」(凸版印刷株式会社製)等の市販品を使用することができる。
【0053】
(酸素吸収層)
酸素吸収層12aは、少なくとも酸素吸収物質とバインダーを含有する。
酸素吸収層12aに含有される酸素吸収物質は、例えば、フェノール化合物、グルコース等の還元糖類、グリセリン等の多価アルコールであってよく、一形態においてフェノール化合物が好ましい。フェノール化合物としては、没食子酸、アスコルビン酸、カテコール、ヒドロキシ安息香酸等が挙げられる。その中でも、特にピロガロール基を有するフェノール化合物は、酸素吸収に使われる水酸基の数を多く持つ点で好ましい。ピロガロール基を有するフェノール化合物は、例えば、没食子酸(3,4,5-トリヒドロキシ安息香酸)、及び没食子酸エステル(例えば、没食子酸プロピル、没食子酸エチル、没食子酸オクチル等)であってよい。酸素吸収層12aは、一形態において、酸素吸収物質として、没食子酸及び没食子酸エステル(以下において、「没食子酸類」ともいう。)から選択される少なくとも一種を含有してよく、没食子酸及び没食子酸プロピルの少なくとも一方を含有してよい。これらは食品添加物で、比較的コストも安いため、安全かつ安価で、優れた酸素吸収性能を持つ包装材料を提供することができる。
【0054】
酸素吸収層12aに含有されるバインダーとしては、特に限定されるものではなく、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、エチレン-酢酸ビニル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、シリコーン系樹脂、ゴム系系樹脂等が挙げられる。バインダーは、特に酸素透過性と水蒸気透過性があるものの方が、酸素吸収物質と酸素が反応し易くなる点で好ましい。これらのバインダーの中から1種類を単独で使用してもいいし、2種類以上を混合して用いることもできる。また、必要に応じて、架橋材や分散剤を含有していてもよい。
【0055】
酸素吸収層12aは、更にアルカリ物質を含有してもよい。図1図3に示される第一の実施形態~第3の実施形態に係る積層体1は、いずれも後述するアルカリ物質含有層12bを酸素吸収層12aと第2の最外層13との間に備えるが、他の実施形態として、アルカリ物質含有層12bを備えず、酸素吸収層12a内に酸素吸収物質とアルカリ物質とが混在する形態でアルカリ物質を積層体中に含有していてもよい。
【0056】
積層体1において、アルカリ物質は、酸素吸収物質による酸素吸収を促進する助剤として機能する。例えば、没食子酸類は、アルカリ物質と水が存在する環境下で酸素と反応することで、優れた酸素吸収機能を発現することが知られている。没食子酸類の反応は、pH8以上で十分に進行する。
【0057】
酸素吸収層12aがアルカリ物質を含有する場合、アルカリ物質は、酸素吸収層12a中に含有される酸素吸収物質100質量部に対し、40質量部~100質量部であってよく、50質量部~100質量部であってよい。
【0058】
さらに酸素吸収層12aは、必要に応じて、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤などの任意の添加剤を含有してもよい。
【0059】
酸素吸収層12aにおける酸素吸収性物質の含有率は、酸素吸収性能の観点から適宜設定することができ、例えば、酸素吸収層12aの全質量に対して20質量%~60質量%であってよく、30質量%~60質量%であってよい。
【0060】
酸素吸収層12aの塗工の際に用いられるコーター及び印刷機の種類、並びにそれらの塗工方式としては特に限定されない。代表的なものとしては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。
【0061】
(水蒸気バリア層)
図1に示す第一の実施形態に係る積層体1は、第1の最外層10を構成する水溶性高分子含有層10cと酸素吸収層12aとの間に水蒸気バリア層11-1を備える。
【0062】
上述の通り、没食子酸等の酸素吸収物質を含有する酸素吸収層を備えた酸素吸収フィルムにおいて、特に基材層と酸素吸収層との間の密着強度が十分ではないことが本発明者らにより見出された。その原因について本発明者らが更なる鋭意研究を重ねた結果、酸素吸収物質による酸素吸収を促進する助剤として添加されるアルカリ物質が、特に酸素吸収物質による酸素吸収後にシーラント側から透過してくる水分に溶解し、そのアルカリ水溶液が基材層と酸素吸収層との界面に到達して密着強度を低下させているとの知見を得るに至った。このアルカリ水溶液による基材層と酸素吸収層間における密着強度の低下は、基材層が水溶性高分子含有層10cを備える場合に特に大きいことも見出された。
【0063】
図1に示す第一の実施形態に係る積層体1は、水溶性高分子含有層10cと酸素吸収層12aとの間に水蒸気バリア層11-1を備える。この構成により、第2の最外層13側から透過した水分により生成したアルカリ水溶液が水蒸気バリア層11-1によりブロックされる。その結果、基材層である第1の最外層10側にアルカリ水溶液が浸透するのを防ぎ、水溶性高分子含有層10cの劣化を抑えることで、第1の最外層10と酸素吸収層12a間の密着強度を維持するが出来る。また、水分やアルカリ水溶液による水蒸気バリア層11-1の劣化や吸水による寸法変化も殆どないことで、水蒸気バリア層11-1の劣化が起因となる第1の最外層10と酸素吸収層12aの間の強度低下が発生するのを防ぐことが出来る。
【0064】
水蒸気バリア層11-1は、水分を実質的に透過しない層であればよく、耐透湿性樹脂を含有する。耐透湿性樹脂は、透湿係数(g・mm/m/日)が0.5以下であってよく、0.1以下であってよい。ここで、透湿係数(g・mm/m/日)=透湿度(g/m/日)×厚さ(mm)である。
【0065】
耐透湿性樹脂の中でも、耐薬品性に優れ、吸水による寸変化が少ない特徴を持つ樹脂が好ましく、例えば、環状オレフィン系樹脂が挙げられる。ここで、環状オレフィン系樹脂には、ノルボルネンとエチレンなどのオレフィンを原料とした共重合体である環状オレフィンコポリマー(Cyclic olefwin kopolymer;COC)、及び、ノルボルネンを開環重合し水素添加した重合物である環状オレフィンポリマー(Cyclic olefwin polymer;COP)が含まれる。
【0066】
COCの透湿係数(g・mm/m/日)は0.03以下であり、COPの透湿係数は0.001以下である。これら環状オレフィン系樹脂の透湿係数は、シーラントとして好適に用いられるポリエチレンの透湿係数0.6~0.9、無延伸ポリプロピレン(Cast Polypropylene;CPP)の透湿係数0.7と比べると低い値を示し、耐透湿性に優れ、水蒸気バリア層の形成に好適に用いられる。COCとしては、例えば、三井化学株式会社のアペル、日本ゼオン株式会社のゼオネックスなどが挙げられる。
【0067】
また、環状オレフィン系樹脂以外でも、塩化ビニリデン(透湿係数0.03以下)、ポリエステル(透湿係数約0.2)、及び二軸延伸ポリプロピレン(Oriented Polypropylene;OPP)(透湿係数約0.1)は透湿係数が低く、耐透湿性樹脂に該当するため、水蒸気バリア層の形成に用いることができる。
【0068】
本実施形態の一形態において、耐透湿性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上の環状オレフィン系樹脂であることが好ましい。その中でも、環状オレフィンコポリマー(COC)が好ましく、環状オレフィンコポリマーのTgが100℃以上であるものがより好ましく、120℃以上であるものが更に好ましく、140℃以上であるものが特に好ましい。Tgが高い方が、積層体又は積層体を含む包装体の製造工程中、もしくは包装体の形態でボイルやレトルト等の高温殺菌処理する場合でも、耐透湿性などの環状オレフィンコポリマー特有の機能を一定状態のまま維持し、アルカリ水溶液が水蒸気バリア層11-1や基材層である第1の最外層10に浸透するのを完全に防ぐ事ができる。このため第1の最外層10と酸素吸収層12aとの密着強度の低下を防ぐことができる。
【0069】
本発明に用いる環状オレフィンコポリマーの環状オレフィン成分としては、特に限定しておらず、例えばシクロペンテンまたはその誘導体、シクロヘキセンまたはその誘導体、シクロヘプテンまたはその誘導体、シクロオクテンまたはその誘導体、シクロノネンまたはその誘導体などを挙げることができる。そして、これらの環状オレフィンの1成分或いは2成分以上と、α-オレフィン、好ましくはエチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン又は4-メチル-1-ペンテンなどとの共重合体を環状オレフィンコポリマーとして用いることができる。
【0070】
水蒸気バリア層11-1は、環状オレフィンコポリマー等の耐透湿性樹脂をTダイなどの既存の方法で押し出すことにより形成することができる。水蒸気バリア層11-1の厚みは、例えば5μm~30μmであってよい。製造安定性の観点から5μm以上であることが好ましく、一方30μmを超えても求める機能は変わらないため過剰となる。また、販売されている既存のフィルムを購入し使用してもよい。
【0071】
第1の最外層10と水蒸気バリア層11-1との間には、第一の最外層10と水蒸気バリア層11-1を密着させるためのアンカーコート(Anchor coat;AC)層を設けてもよい。アンカーコート層は特に限定されず、ウレタン系、ポリエステル系などの一般的なアンカーコート材を使用する事ができる。また、環状オレフィンコポリマー等の耐透湿性樹脂は、フィルムの状態で購入し、第1の最外層10と酸素吸収層12aとの間に接着剤を介して積層してもよい。
【0072】
図2に示す第二の実施形態に係る積層体1は、図1に示す第一の実施形態に係る積層体が備える水蒸気バリア層11-1の変形例である。第二の実施形態に係る積層体において、水蒸気バリア層11-2は、耐透湿性樹脂と熱可塑性樹脂を含有する。経時によりアルカリ水溶液が基材と酸素吸収層との界面に到達することによる密着強度の低下は、耐透湿性樹脂を含有する水蒸気バリア層を介在させることにより抑制することができるが、熱可塑性樹脂をブレンドすることにより、基材との相性改善による密着性の向上を図ることができる。また、熱可塑性樹脂をブレンドすることはコストの観点からも好ましい。
【0073】
熱可塑性樹脂は、透湿係数(g・mm/m/日)が0.5より高く耐透湿性樹脂に該当せず、またアルカリ耐性も高くない。このため熱可塑性樹脂は水蒸気バリア層11-2に所望される機能を阻害しない範囲で混合することができる。一形態において、水蒸気バリア層11-2は熱可塑性樹脂を、耐透湿性樹脂と熱可塑性樹脂の合計に対する耐透湿性樹脂の配合率が50質量%以上を満たす範囲で含有してよく、耐透湿性樹脂と熱可塑性樹脂の合計に対する耐透湿性樹脂の配合率が50質量%~90質量%を満たす範囲で含有してよい。耐透過性樹脂の配合率が50質量%未満の場合、熱可塑性樹脂を通じてアルカリ水溶液が第1の層10(基材側)に侵入したり、水蒸気バリア層11-2の熱可塑性樹脂自体が劣化することで、第1の層10と酸素吸収層12aとの間の密着強度が低下する可能性がある。
【0074】
水蒸気バリア層11-2が含有する熱可塑性樹脂としては、水分透過度が低く(耐透湿性が高く)、アルカリ耐性の高いものが好ましい。例えば、高密度ポリエチレン(High Density Polyethylene;HDPE)、低密度ポリエチレン(Low Density Polyethylene;LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(Linear Low Density Polyethylene;LLDPE)などのポリエチレン、ポリプロピレン、非晶性のポリエステル等の熱を挙げることができる。
【0075】
水蒸気バリア層11-2は、水蒸気バリア層11-1と同様の方法で形成することができ、例えばTダイなどの既存の方法で押し出し形成することができる。水蒸気バリア層11-2の厚みは、例えば5μm~30μmであってよい。製造安定性の観点から5μm以上であることが好ましく、一方30μmを超えても求める機能は変わらないため過剰となる。また、販売されている既存のフィルムを購入し使用しても良い。
【0076】
第1の最外層10と水蒸気バリア層11-2との間には、AC層を設けてもよい。また、第1の最外層10と酸素吸収層12aとの間に接着剤を介して水蒸気バリア層11-2を積層してもよい。
【0077】
図3に示す第三の実施形態に係る積層体1は、図2に示す第二の実施形態に係る積層体1における水蒸気バリア層11-2の変形例である。第三の実施形態に係る積層体1において、水蒸気バリア層11-3は、耐透湿性樹脂と熱可塑性樹脂を含有するが、水蒸気バリア層11-2と異なり多層構造を有する。すなわち、水蒸気バリア層11-3は、耐透湿性樹脂を含有する耐透湿性樹脂含有層11bと熱可塑性樹脂を含有する熱可塑性樹脂含有層11aを備え、第1の最外層10と耐透湿性樹脂含有層11bとの間に熱可塑性樹脂含有層11aが介在してなる構造を有する。
【0078】
水蒸気バリア層11-3を構成する熱可塑性樹脂含有層11aと耐透湿性樹脂含有層11bは、水蒸気バリア層11-1と同様の方法で形成することができ、例えばTダイなどの既存の方法で押し出し形成することができる。
【0079】
水蒸気バリア層5-3において、熱可塑性樹脂含有層11aの厚みは、例えば5μm~20μmであってよく、耐透湿性樹脂含有層11bの厚みは、例えば5μm~30μmであってよい。製造安定性の観点から5μm以上であることが好ましい。耐透湿性樹脂含有層の厚みは30μmを超えても求める機能は変わらないため過剰となる。また、耐透湿性樹脂含有層の厚みは、酸素吸収層もしくはアルカリ含有層中に含まれるアルカリ物質の量によって、適宜選択することが好ましい。
【0080】
一形態において、水蒸気バリア層5-3における耐透湿性樹脂含有層11bの膜厚Tと、熱可塑性樹脂含有層11aの膜厚Tの比率T:Tは、90:10~10:90であってよく、80:20~20:80であってよい。
【0081】
第1の最外層10と水蒸気バリア層11-3との間には、AC層を設けてもよい。また、第1の最外層10と酸素吸収層12aとの間に接着剤を介して熱可塑性樹脂含有層11aと耐透湿性樹脂含有層11bを積層してもよい。
【0082】
(アルカリ物質含有層)
図1図3に示す第一の実施形態~3に係る積層体1は、酸素吸収層12aと第2の最外層13との間にアルカリ物質含有層12bを備える。上述したように、酸素吸収層12aがアルカリ物質を含有する場合には、積層体1はアルカリ物質含有層12bを備えなくてもよい。
【0083】
ただし、酸素吸収層12a中に酸素吸収物質とアルカリ物質とが混在する場合、酸素吸収性能は発揮されるが、塗液の作製段階で酸素吸収物質による酸素吸収が始まる。このため、第一の実施形態~3に係る積層体1のように、酸素吸収層12aとアルカリ物質含有層12bが別の層として存在する場合と比較して、積層体の作製後における酸素吸収性能が低下するという問題がある。このため、積層体は、図1~3に示すように酸素吸収層12aとアルカリ物質含有層12bとを別の層として備えることが好ましい。
【0084】
アルカリ物質含有層12bは、少なくともアルカリ物質とバインダーを含有する。バインダーは特に限定されるものではなく、酸素吸収層12a、及び接着剤層(図示せず)もしくは第2の最外層13との密着性が出るものであれば使用することができ、酸素吸収層12a又は接着剤層もしくは第2の層13に使用されるものと同一又は類似の材料でもよいし、異なる材料でもよい。
【0085】
アルカリ物質含有層12bに含有されるアルカリ物質としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化ルビジウム、水酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、炭酸リチウム、炭酸マグネシウム、炭酸カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウムカリウム、炭酸ナトリウム、炭酸マグネシウムカリウム、リン酸カリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム等が挙げられる。安全面の観点からは、食品添加物であることが好ましく、更に熱可塑性樹脂に練りこめる程度の耐熱性があるものが好ましい。
【0086】
特に、単体でpH8以上を示す炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、炭酸水素カリウム、ピロリン酸カリウム、焼成カルシウム、リン酸カリウム、酒石酸ナトリウムを用いると、含有させるアルカリ物質を少なくしてコストを下げられる点で、より好ましい。
【0087】
アルカリ物質含有層12bに含有されるアルカリ物質の添加量は、酸素吸収層12aに含有される酸素吸収物質100質量部に対し、40質量部~100質量部であってよく、50質量部~100質量部であってよい。アルカリ物質の添加量が40質量部未満では、没食子酸等の酸素吸収物質における酸素吸収反応を進行させるにはpHが必ずしも十分でなく、酸素吸収量が少なくなる場合がある。一方で、アルカリ物質の添加量が100質量部を超えpHが増加しても、酸素吸収量の増加はあまり期待できない。
【0088】
アルカリ物質含有層12bは、必要に応じて、接着促進剤、可塑剤、酸化防止剤、着色剤、充填材、紫外線吸収剤などの当該技術において知られている任意の添加剤を含有してもよい。
【0089】
アルカリ物質含有層12bの厚みは、例えば0.1μm以上20μm以下であってよい。この範囲内の膜厚を有することにより、良好な密着強度と、コート層自体の強度を得ることができる。
【0090】
(第2の最外層)
図1~3に示す第一の実施形態~3に係る積層体1は、第2の最外層13を備える。第2の最外層13は、積層体1において、基板としての第1の最外層10とは反対側の表面を構成する層である。
【0091】
積層体1の用途が包装材であり、袋状体等にして使用される場合には、第2の最外層13はシーラント層を含むことが好ましい。シーラント層は積層体1にヒートシール性を付与する。この場合、例えば積層体1を、第2の最外層13であるシートランと層を内側にして重ね合わせ、周縁部等をヒートシールすることによって容易に袋状に加工することができる。
【0092】
シーラント層としては、熱可塑性樹脂のうちポリオレフィン系樹脂が一般的に使用され、具体的には、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-メタクリル酸樹脂共重合体などのエチレン系樹脂や、ポリエチレンとポリブテンのブレンド樹脂や、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂等を使用することができる。
【0093】
(第一の実施形態)
本発明の第一の実施形態は、図1に示すように、基材10a、無機蒸着膜10b、及び水溶性高分子含有層10cをこの順で備える第1の最外層10上に、水蒸気バリア層11-1、酸素吸収層12a、アルカリ物質含有層12b、及び第2の最外層13をこの順で積層してなる積層体である。水溶性高分子含有層10cと酸素吸収層12aの間に、水蒸気透過度が低い耐透湿性樹脂を含む水蒸気バリア層11-1を介在させることで、第2の最外層側から浸透した水分によって生成するアルカリ水溶液が水蒸気バリア層11-1によりブロックされる。その結果、アルカリ水溶液が水蒸気バリア層11-1に浸透して水蒸気バリア層11-1自体が劣化したり、アルカリ水溶液が基材側の水溶性高分子含有層10cとの界面に到達して当該水溶性高分子含有層を劣化させることが抑制されるため、高い酸素吸着性能を有しつつ、酸素吸収後の基材10と酸素吸収層12aとの間の密着強度の低下を防ぐことができる。
【0094】
(第二の実施形態)
本発明の第二の実施形態は、図2に示す通りであり、第一の実施形態に対し、水蒸気バリア層11-2が耐透湿性樹脂と熱可塑性樹脂とがブレンドされた構成になっている。この構成では、水蒸気バリア層に熱可塑性樹脂を添加することで第1の最外層10からなる基材と水蒸気バリア層11-2との間の密着強度を上げることができ、また、価格の高い環状オレフィン系樹脂等の使用量を削減しコストを抑えることができる。
【0095】
(第三の実施形態)
本発明の第三の実施形態は、図3に示す通りであり、第一及び第二の実施形態に対し、水蒸気バリア層11-3が熱可塑性樹脂含有層11aと耐透湿性樹脂含有層11bの2層構成になっている。この構成では、第二の実施形態と同様の効果が得られる。
【0096】
<包装体>
本実施形態に係る包装体は、上記の積層体を含む。具体的には、包装体の少なくとも一部が、上記の積層体で形成される。なお本実施形態に係る包装体には、印刷層、バリア層、表面保護層などの機能層を更に設けてもよい。
【0097】
本実施形態の包装体の応用例は、たとえば袋、MA包材、蓋材(トップ材)、シート、チャック付き袋、カバーフィルムを含む。また、袋状体の包装体は、2枚の上述した積層体を、第2の最外層13としてのシーラント層が内側となるよう配置した状態で周縁部を加熱して貼り合わせることによって形成してもよい。さらに、貼り合わせを行う周縁部に第3のフィルムを介在させて、いわゆる「マチ」付きの袋を形成してもよい。
【0098】
袋状体の包装体は、矩形、円形、三角形を含む任意の形状を有してもよい。またチャック付き袋として、機械加工によって、袋状体の包装体の開口部に開閉自在の嵌合部を設けたものでもよい。
【0099】
<包装物品>
本実施形態に係る包装物品は、上記の包装体と、これに収容された内容物とを含む。上記の包装体に収容される内容物の例は、特に限定しないが、例えば食品、飲料、化粧品、医薬品、産業資材、医療器具、電子機器、文化財を含む。本実施形態に係る包装物品において、包装体に収容された内容物が食品であるとき、当該食品は、水分活性が高い食品であってよい。水分活性が高い食品として、例えば、水分活性0.8~0.87の小麦粉、米、豆類、フルーツケーキ等、水分活性0.87~0.91のシラス干し、塩鮭、スポンジケーキ等、水分活性0.91~0.95のチーズ、果汁等、水分活性0.95~1.0の肉、ハム、ベーコン、ソーセージ、鮮魚、卵、果実等が挙げられる。
【実施例
【0100】
以下、本発明の具体例を以下の実施例によって具体的に述べるが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0101】
<実施例1>
以下の方法により、基材層と水蒸気バリア層と酸素吸収層とアルカリ物質含有層とシーラント層とを備えた積層体を製造した。
【0102】
まず、基材層として、厚さ12μmの透明蒸着ポリエステルフィルム(ポリエステル膜/アルミナ蒸着膜/水溶性高分子膜)(凸版印刷製GL-AE)上に、ウレタン系のアンカーコート材をダイレクトグラビア方式で塗工して得られる基材層を準備した。
【0103】
Tgが100℃の環状オレフィンコポリマー(COC)(ポリプラスチック製TOPAS)をTダイより押し出し、上記基材層上に水蒸気バリア層(膜厚10μm)を形成した。
【0104】
次いで、ウレタン系バインダーに酸素吸収物質として没食子酸を添加してなる組成物を、上記水蒸気バリア層上にダイレクトグラビア方式で塗工し、厚さ6μmの酸素吸収層を形成した。酸素吸収層の全質量に対する没食子酸の含有率は30質量%とした。
【0105】
さらに、ウレタン系バインダーにアルカリ物質として炭酸ナトリウムを没食子酸と同量添加してなる組成物を、上記酸素吸収層上にダイレクトグラビア方式で塗工し、厚さ6μmのアルカリ物質含有層を形成した。
【0106】
次いで、上記アルカリ物質含有層上に、ダイレクトグラビア方式で厚さ3μmのウレタン系接着剤を塗工し、これにシーラント層としてポリプロピレンフィルム(膜厚30μm)を貼り合せることにより、酸素吸収積層体1を作製した。
【0107】
<実施例2>
水蒸気バリア層として、Tgが100℃の環状オレフィンコポリマー(COC)とポリプロピレン(PP)を1:1の質量比でブレンドしたものを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件及び手順により、酸素吸収積層体2を作製した。
【0108】
<実施例3>
水蒸気バリア層として、ポリプロピレン(PP)と、Tgが100℃の環状オレフィンコポリマー(COC)を、1:1の質量比において共押しで基材層上に押し出し、PP膜(膜厚5μm)とCOC膜(膜厚5μm)の2層構造を形成したこと以外は、実施例1と同様の条件及び手順により、酸素吸収積層体3を作製した。
【0109】
<実施例4>
水蒸気バリア層として、実施例2で使用したTgが100℃の環状オレフィンコポリマー(COC)に替え、Tgが60℃の環状オレフィンコポリマー(COC)を使用した以外は、実施例2と同様の条件及び手順により、酸素吸収積層体4を作製した。
【0110】
<実施例5>
水蒸気バリア層として、ポリプロピレン(PP)と、Tgが100℃の環状オレフィンコポリマー(COC)を、3:1の質量比において共押しで基材層上に押し出し、PP膜(膜厚7.5μm)とCOC膜(膜厚2.5μm)の2層構造を形成したこと以外は、実施例3と同様の条件及び手順により、酸素吸収積層体5を作製した。
【0111】
<比較例1>
以下の方法により、基材層と酸素吸収層とアルカリ物質含有層とシーラント層とを備えた積層体を製造した。
【0112】
まず、基材層として、厚さ12μmの透明蒸着ポリエステルフィルム(凸版印刷製GL-AE)を用いた。
【0113】
ウレタン系バインダーに酸素吸収物質として没食子酸を添加してなる組成物を、上記基材層上にダイレクトグラビア方式で塗工し、厚さ6μmの酸素吸収層を形成した。酸素吸収層の全質量に対する没食子酸の含有率は30質量%とした。
【0114】
さらに、ウレタン系バインダーにアルカリ物質として炭酸ナトリウムを没食子酸と同量添加してなる組成物を、上記酸素吸収層上にダイレクトグラビア方式で塗工し、厚さ6μmのアルカリ物質含有層を形成した。
【0115】
次いで、上記アルカリ物質含有層上に、ダイレクトグラビア方式で厚さ3μmのウレタン系接着剤を塗工し、これにシーラント層としてポリプロピレンフィルム(膜厚30μm)を貼り合せることにより、酸素吸収積層体6を作製した。
【0116】
<比較例2>
Tgが100℃の環状オレフィンコポリマー(COC)を用いて形成された水蒸気バリア層(膜厚10μm)に替え、ポリプロピレン(PP)を用いてTダイを用いた押し出し成形によりポリプロピレン層(膜厚10μm)を形成した以外は、実施例1と同様の条件及び手順により、酸素吸収積層体7を作製した。
【0117】
<評価方法>
(酸素吸収性能)
上記で作製した積層体1~7各々について、全体寸法が横10cm×縦10cmの包装袋を作製し、袋内に100ccの空気を注入した。50℃の恒温槽で一定期間保管後、酸素濃度を測定し、初期酸素濃度との差から、それぞれの酸素吸収量を確認した。残存酸素量が10%以下の場合に「A」、10%超20%以下の場合に「B」、20%超の場合に「C」と評価した。各積層体の評価結果を表1に示す。
【0118】
(密着強度)
上記で作製した積層体1~7各々について、15mm巾に切り出し、引っ張り試験機を用いて、300mm/分のスピードで90℃剥離をして、基材と酸素吸収層間の強度を評価した。3N以上の実用上十分な密着強度が出ている場合に「A」、1N以上3N未満の実用上問題ない密着強度の場合は「B」、1N未満の実用上問題が発生する密着強度を「C」と評価した。各積層体の評価結果を表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
表1に示すように、実施例1~3においては、十分な酸素吸収性能を保持しながら、酸素吸収後における基材と酸素吸収層間の密着強度の低下が抑制されていることがわかる。
【0121】
また、実施例2と実施例4の対比から、水蒸気バリア層のTgが低いと、密着強度はわずかに低下するものの、実施例4においても実用上問題ない程度の密着強度が得られることがわかる。
【0122】
また、実施例3と実施例5の対比から、耐透湿性樹脂の割合が少ないと、密着強度はわずかに低下するものの、実施例5においても実用上問題ない程度の密着強度が得られることがわかる。
【0123】
一方で、比較例1及び2は、酸素吸収後の基材と酸素吸収層間の密着強度の低下が顕著に発生した。これは、比較例1及び2は、シーラント側から透過した水分がアルカリを溶かしてアルカリ水溶液となり、基材側へ移行し浸透することで、基材などの劣化が起こったためと考えられる。
【0124】
以上の結果から、本発明の実施形態に係る積層体は、基材と酸素吸収層間の密着強度の低下を防ぎ、包装材等として実際に使用するのに十分な密着強度を維持しつつ、十分な酸素吸収性能を発揮することがわかった。
【0125】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0126】
1 積層体
10 第1の最外層
10a 基材
10b 無機蒸着層
10c 水溶性高分子含有層
11-1、11-2、11-3 水蒸気バリア層
11a 熱可塑性樹脂含有層
11b 耐透湿性樹脂含有層
12a 酸素吸収層
12b アルカリ物質含有層
13 第2の最外層
図1
図2
図3