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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-03
(45)【発行日】2023-04-11
(54)【発明の名称】二軸配向フィルム
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/14 20060101AFI20230404BHJP
【FI】
B29C55/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018240793
(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公開番号】P2020100092
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】園田 和衛
(72)【発明者】
【氏名】合田 亘
(72)【発明者】
【氏名】山内 英幸
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-334233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値が4,000%・nm以上80,000%・nm以下であり、かつ150℃雰囲気下で30分間加熱した際の熱収縮率の最大値が0.5%以下であり、赤外線吸収剤を含み、以下の条件1又は2を満たすことを特徴とする、二軸配向フィルム。
条件1:前記赤外線吸収剤が炭素材料であり、全構成成分を100質量%としたときに、前記炭素材料の含有量が0.001質量%以上0.200質量%以下である。
条件2:前記赤外線吸収剤が、スズ系金属酸化物、タングステン系金属酸化物、及び六ホウ化物の中から選択される少なくとも一つの金属化合物であり、全構成成分を100質量%としたときに、前記金属化合物の含有量が0.01質量%以上1.90質量%以下である。
【請求項2】
分子配向度が最大となる方向をX方向、X方向と面内で直交する方向をY方向としたときに、X方向及びY方向の厚みムラが、いずれも5.0%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の二軸配向フィルム。
【請求項3】
全光線透過率が70%以上であり、ヘイズが3.0%以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の二軸配向フィルム
【請求項4】
前記炭素材料がカーボンブラックであることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の二軸配向フィルム
【請求項5】
ポリエステル樹脂を主成分とすることを特徴とする、請求項1~のいずれかに記載の二軸配向フィルム。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の二軸配向フィルムの製造方法であって、
延伸温度以上かつ主成分である熱可塑性樹脂の融点以下の温度で加熱する熱処理工程、及び幅方向全幅を加熱してフィルムを長手方向に弛緩させる長手方向弛緩工程をこの順に有し、
長手方向弛緩工程におけるフィルムの走行速度が10m/min以上70m/min以下であることを特徴とする、フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い熱収縮率と高い平面性を両立した二軸配向フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂を主成分とするシートを、ロール式延伸機やテンター等を用いて二軸方向に延伸することにより得られる二軸配向フィルムは、熱可塑性樹脂成分の配向結晶化により、機械的性質、電気的性質、寸法安定性、透明性、及び耐薬品性等に優れ、多くの用途に利用されている。
【0003】
その一方で、二軸配向フィルムを構成する熱可塑性樹脂の分子鎖には、延伸による歪みが残留するため、二軸配向フィルムは、加熱により熱可塑性樹脂の分子鎖の歪みが開放されて収縮する特性を有する。そのため、加工工程や環境試験等で高温環境下に晒されると、二軸配向フィルムは、収縮に起因する数多くのトラブルを生じる。その一例として、二軸配向フィルムを酸化インジウムスズ(以下、ITOということがある。)基材用途に用いる場合において、スパッタ後のエージングに起因する二軸配向フィルムの寸法変化により、ITO層が変形することが挙げられる。このような事情から、二軸配向フィルムをITO基材用途に用いる場合は、収縮に起因する変形の影響を軽減するため、高温下での加工前にアニール処理を行うこともある。
【0004】
また、積層ハードコートフィルムの基材層として二軸配向フィルムを用いる場合には、熱加工時にハードコート層の収縮率と基材層の熱収縮率の差が大きくなり、積層ハードコートフィルムにカールが生じる問題があった。さらには、フレキシブルプリント基板(以下、FPCということがある。)の製造工程で、FPC補強フィルムとして二軸配向フィルムを用いる場合においても、FPC補強フィルムの熱収縮率とFPCのフィルム基材の熱収縮率との差が大きいと、加熱プレス後にカールが生じる問題があった。
【0005】
二軸配向フィルムの熱収縮を軽減して熱寸法安定性を向上させるために、主に横延伸に用いられるテンターの中で、横延伸に引き続き熱処理(熱固定とも呼ばれる。)を行うことで、熱可塑性樹脂の分子鎖の歪みを開放する方法が用いられている。この方法では一般に、熱処理の温度に応じて熱収縮は低下するが、この熱処理だけでは歪みの除去が不十分なことがある。また、テンターのレール幅を狭めて幅方向に若干収縮させることで、この残留歪みを除去する方法(トウイン、リラックスなどと呼ばれる。)も採用されているが、この方法では、幅方向の熱収縮は軽減可能であるものの、長手方向の熱収縮を軽減することは困難である。このような背景から、長手方向の熱収縮を軽減する方法について、様々な方法が検討されてきた。
【0006】
長手方向の熱収縮を軽減する方法として、例えば、特許文献1には、テンターのクリップ間隔が除々に狭くなるようにすることで、長手方向に弛緩処理を行う方法が示されている。特許文献2には、一旦ロール状に巻き取った二軸配向フィルムを徐々に巻き出しながらオーブンで加熱処理し、その際に長手方向に速度差をつけることで弛緩処理を施す方法が示されている。特許文献3には、二軸配向フィルムの製膜工程中に、オーブンによる長手方向の弛緩処理装置を設ける方法が示されている。また、特許文献4には、熱処理工程前の二軸配向フィルムに、赤外線による急速加熱処理を施して長手方向に弛緩を行い、ボーイングや低熱収縮化を行う方法が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特公平4-28218号公報
【文献】WO2016/084568号公報
【文献】特開2008-265298号公報
【文献】特開平6-262675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法では、装置上の問題で弛緩率に上限があり、また、弛緩率を過度に大きくすると、弛緩処理前のクリップ間隔が広くなってクリップ把持部と非把持部との間の物性ムラが大きくなるという問題が生じる。さらに、この方法では、クリップがレール上をスライドできる機構を備えるため、クリップの磨耗による金属粉が製品に付着して欠点となることも大きな課題となる。特許文献2の方法では、二軸配向フィルムが幅方向に固定されていない状態で長い区間にわたって熱処理を施すため、幅方向の熱収縮が顕著に発生し、その平面性が悪化するという問題が生じる他、高コストであることも問題となる。特許文献3の方法には、製膜速度との兼ね合いで処理温度を高めると二軸配向フィルムの平面性が悪化するため、温度を十分に上昇させることが難しく、結果として熱収縮が十分に軽減されないという課題がある。そのため、低熱収縮性と高い平面性を両立するには至らない。さらに、特許文献2、3の方法は、熱風加熱による弛緩処理を行うため、薄手のフィルムや柔軟なフィルムの場合は、風圧による変形が発生するため、使用することが困難であることも課題となる。特許文献4の方法も、十分な低熱収縮化効果を得ることが困難である。
【0009】
本発明は、係る従来技術の背景に鑑み、低い熱収縮率と高い平面性を両立した二軸配向フィルムを提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
(1) 光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値が4,000%・nm以上80,000%・nm以下であり、かつ150℃雰囲気下で30分間加熱した際の熱収縮率の最大値が0.5%以下であることを特徴とする、二軸配向フィルム。
(2) 分子配向度が最大となる方向をX方向、X方向と面内で直交する方向をY方向としたときに、X方向及びY方向の厚みムラが、いずれも5.0%以下であることを特徴とする、(1)に記載の二軸配向フィルム。
(3) 全光線透過率が70%以上であり、ヘイズが3.0%以下であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の二軸配向フィルム。
(4) 赤外線吸収剤を含むことを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の二軸配向フィルム。
(5) 前記赤外線吸収剤が炭素材料であることを特徴とする、(4)に記載の二軸配向フィルム。
(6) 前記炭素材料がカーボンブラックであることを特徴とする、(5)に記載の二軸配向フィルム。
(7) 全構成成分を100質量%としたときに、前記炭素材料の含有量が0.001質量%以上0.400質量%以下であることを特徴とする、(5)又は(6)に記載の二軸配向フィルム。
(8) 前記赤外線吸収剤が、スズ系金属酸化物、タングステン系金属酸化物、及び六ホウ化物の中から選択される少なくとも一つの金属化合物であることを特徴とする、(4)に記載の二軸配向フィルム。
(9) 全構成成分を100質量%としたときに、前記金属化合物の含有量が0.01質量%以上1.90質量%以下であることを特徴とする、(8)に記載の二軸配向フィルム。
(10) ポリエステル樹脂を主成分とすることを特徴とする、(1)~(9)のいずれかに記載の二軸配向フィルム。
(11) (1)~(10)のいずれかに記載の二軸配向フィルムの製造方法であって、延伸温度以上かつ主成分である熱可塑性樹脂の融点以下の温度で加熱する熱処理工程、及び幅方向全幅を加熱してフィルムを長手方向に弛緩させる長手方向弛緩工程をこの順に有し、長手方向弛緩工程におけるフィルムの走行速度が10m/min以上70m/min以下であることを特徴とする、フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、低い熱収縮率と高い平面性を両立した二軸配向フィルムを提供することができる。また、本発明の二軸配向フィルムは、高水準の熱寸法安定性と平面性を必要とする用途、例えば、偏光板離型、コーティング基材、及びITOスパッタ基材などの光学用途に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の二軸配向フィルムについて詳細に説明する。本発明の二軸配向フィルムは、光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値が4,000%・nm以上80,000%・nm以下であり、かつ150℃雰囲気下で30分間加熱した際の熱収縮率の最大値が0.5%以下であることを特徴とする。このような態様とすることにより、本発明の二軸配向フィルムは、低い熱収縮率と高い平面性を両立したものとなる。
【0013】
本発明の二軸配向フィルムは、150℃雰囲気下で30分間加熱した際の熱収縮率の最大値が0.5%以下であることが重要である。熱収縮率の最大値とは、フィルム中で熱収縮率が最も大きい方向における熱収縮率の値をいう。フィルムが二軸配向フィルムである場合において、熱収縮率の最大値を与える方向は、通常、フィルムにおける熱可塑性樹脂の分子鎖の配向度が最も高い方向若しくは該方向に直行する方向のいずれかとなる。また、二軸配向フィルムは多くの場合、熱可塑性樹脂シートを直交する二方向に延伸することにより得られるため、熱収縮率の最大値を与える方向は、通常、いずれかの延伸方向となる。
【0014】
以上より、延伸方向が予め判明している場合は、2つの延伸方向の熱収縮率を測定し、値の大きい方を熱収縮率の最大値とすることができる。但し、延伸方向が特定できない場合は分子配向計で熱可塑性樹脂の分子鎖の配向度が最も高い方向を特定し、特定された方向と当該方向に直交する方向を延伸方向とみなすことができる。
【0015】
本発明の二軸配向フィルムは、150℃雰囲気下で30分間加熱した際の熱収縮率の最大値が0.5%以下であることにより、高温条件下での熱寸法安定性の求められる用途に好適に用いることができる。上記観点から、150℃雰囲気下で30分間加熱した際の熱収縮率の最大値は、好ましくは0.3%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。なお、150℃雰囲気下で30分間加熱した際の熱収縮率の最大値は小さければ小さいほど好ましいため、その下限は特に制限されないが、実現可能性の観点から0.01%となる。
【0016】
150℃雰囲気下で30分間加熱した際の熱収縮率の最大値を0.5%以下又は上記の好ましい範囲とするための方法は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、例えば、光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値を後述する好ましい範囲で調節して、赤外線ヒーターでフィルムを加熱して長手方向に弛緩処理を施す方法が挙げられる。より具体的には、二軸延伸後に熱処理を施したフィルムに対し、巻取り機側の走行速度を僅かに緩め、フィルム張力を10N/m以上50N/m以下、より好ましくは15N/m以上35N/m以下に調節した状態で、フィルム温度が120℃以上180℃以下の範囲となるように赤外線ヒーターで急速に加熱処理を施す方法が挙げられる。加熱時のフィルム温度を120℃以上とすることにより、得られる二軸配向フィルムの熱収縮率を0.5%以下とすることが容易となり、一方、加熱時のフィルム温度を180℃以下とすることにより、得られる二軸配向フィルムの品位悪化を軽減することができる。なお、短時間でフィルム温度を120℃以上180℃以下となるように昇温させるためには、照射する赤外線波長のピークトップを1,000~1,600nmとすることが好ましい。
【0017】
150℃雰囲気下で30分間加熱した際の熱収縮率の測定は、以下の手順で行うことができる。先ず、250mm(測定方向)×10mmの長方形状に二軸配向フィルムをサンプリングし、約200mmの間隔をおいて2つの標点をつける。この2つの標点間距離を正確に測定し、これをTo(mm)とする。その後、このサンプルを3g荷重下で150℃の熱風オーブン中に30分間放置した後、室温で十分に冷却し、標点間距離を再度測定し、得られた値をT(mm)とする。こうして得られたTo(mm)とT(mm)より、下記式1により熱収縮率(%)を算出する。
式1:熱収縮率(%)=((To-T)/To)×100。
【0018】
このように、150℃雰囲気下で30分間加熱した際の熱収縮率を低減させる観点から、本発明の二軸配向フィルムは、光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値が4,000%・nm以上80,000%・nm以下であることが重要である。光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値が上記範囲にあることにより、フィルムの赤外線領域の吸収効率が向上し、赤外線照射による昇温効果が高まる。上記観点から、光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値の好ましい範囲は6,000%・nm以上49,000%・nm以下、さらに好ましい範囲は6,000%・nm以上35,000%・nm以下である。
【0019】
光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値が4,000%・nm未満であると、赤外線による昇温効果はほとんど認められない。一方、光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値が80,000%・nmより大きいと、昇温効果が過度に高くなってフィルム走行速度を上げて赤外線照射時間を短くしても、フィルムが溶融することがある。
【0020】
光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値は、以下の方法により測定することができる。先ず、分光光度計により、酸化アルミニウム標準白色板の反射を100%としたときの、二軸配向フィルムの波長300~2,600nm領域での相対反射率(%)と相対透過率(%)を、スキャン速度600nm/min、サンプリングピッチ1nmの条件で連続的に測定し、100%から相対反射率(%)と相対透過率(%)の値を差し引いて、各波長における光吸収率(%)を求める。その後、縦軸を光吸収率(%)、横軸を波長(nm)として各波長における光吸収率(%)をプロットし、隣り合う点同士を直線で結んで折れ線を描く。描いた折れ線、横軸、波長=900nmを示す縦軸と平行な直線、波長=2,600nmを示す縦軸と平行な直線で囲まれた部分の面積(%・nm)を求め、これを波長900~2,600nmの範囲における吸収率の積分値(%・nm)とする。なお、分光光度計や積分値算出ソフトは測定が可能なものであれば特に制限されず、公知のものから適宜選択が可能である。使用できる分光光度計としては、例えば、日立製の分光光度計U-4100等が挙げられ、積分値算出ソフトとしてはマイクロソフト社製の表計算ソフト“EXCEL”(登録商標)等が挙げられる。
【0021】
光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値を4,000%・nm以上80,000%・nm以下又は上記の好ましい範囲とするための手段は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されない。その具体例としては、例えば、二軸配向フィルムを後述の赤外線吸収剤を含むものとする方法や、赤外線照射範囲を一定に保ったままフィルムの走行速度を調節する方法等が挙げられる。より具体的には、二軸配向フィルムにおける赤外線吸収剤の量を増やすことや、赤外線照射範囲を一定に保ったままフィルムの走行速度を下げることにより、光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値を大きくすることができる。
【0022】
本発明の二軸配向フィルムは、分子配向度が最大となる方向をX方向、X方向と面内で直交する方向をY方向としたときに、X方向及びY方向の厚みムラがいずれも5.0%以下であることが好ましい。X方向及びY方向の厚みムラは、より好ましくは4.5%以下、さらに好ましくは3.5%以下である。ここで分子配向度とは、二軸配向フィルムを形成する熱可塑性樹脂の分子鎖の配高度をいう。この分子配向度は、公知の分子配向計、例えば王子製紙計測機器社製の分子配向計「MOA-2001」等により測定することができる。
【0023】
厚みムラは、例えば以下の手順により測定することができる。先ず、二軸配向フィルムを30mm×1m(測定方向)の長方形状にサンプリングし、公知のフィルムシックネステスタ及び電子マイクロメータを用いて、一定速度で二軸配向フィルムを測定方向と平行に搬送させながら、一定間隔で複数点における二軸配向フィルムの厚みを連続的に測定する。測定により得られた厚みデータより、最大値Tmax(μm)、最小値Tmin(μm)、及び平均値Tave(μm)を求め、下記式2より厚みムラを算出する。なお、測定条件は、二軸配向フィルムの搬送速度を0.5m/分、測定間隔を0.1s、測定点数を2,056点とする。
式2:厚みムラ(%)=(Tmax-Tmin)×100/Tave
【0024】
フィルムシックネステスタ及び電子マイクロメータは、測定が可能なものであれば特に限定されず公知のものから適宜選択することができ、例えば、アンリツ株式会社製フィルムシックネステスタ「KG601A」及び電子マイクロメータ「K306C」を使用することができる。
【0025】
一般的に、分子配向度は延伸を行うことにより大きくなるため、通常、二軸配向フィルムにおけるX方向は長手方向若しくは幅方向となる。長手方向とは、フィルムの走行方向をいい、幅方向とは、長手方向と面内で直交する方向をいう。すなわち、二軸配向フィルムをコアに巻き取ってフィルムロールとしたときには、巻き方向が長手方向、コアの中心軸と平行な方向が幅方向に相当する。X方向及びY方向の厚みムラをいずれも5.0%以下とすることにより、二軸配向フィルムの平面性が向上する。そのため、二軸配向フィルムは、偏光板離型、コーティング基材、及びITOスパッタ基材などの光学用途にもより好適に使用することができる。
【0026】
X方向及びY方向の厚みムラをいずれも5.0%以下又は上記の好ましい範囲とするための手段は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、長手方向の熱収縮低減により生じ易い幅方向の厚みムラを軽減する方法を用いることが好ましい。その具体例としては、例えば、赤外線ヒーター等で急速にフィルム温度を上げることで、幅方向の厚みムラを軽減する方法を好適に用いることができる。
【0027】
前述したように、通常、二軸配向フィルムの幅方向の位置が固定されていない状況で長手方向を弛緩処理すると、幅方向の熱収縮が発生して幅方向の厚みムラが生じることがあり、この傾向は弛緩処理を行う区間が長くなるほど顕著となる。二軸配向フィルムの加熱に赤外線ヒーター等を用いることで、二軸配向フィルムを短時間で昇温させることが容易となるため、弛緩処理を行う区間が短縮され、結果として幅方向の厚みムラも軽減される。また、その際には、二軸配向フィルムの幅方向を全て均等に加熱してもよいが、幅方向中央部よりも幅方向端部付近のフィルム温度が低くなるように加熱することが、幅方向の厚みムラを軽減させる点で好ましい。これは、相対的に温度の低い幅方向端部が固定端として機能することで、二軸配向フィルム全体の幅方向収縮が軽減されているためと考えられる。
【0028】
本発明の二軸配向フィルムは、透明性を高めて視認性を必要とする用途に好適に用いることができるものとする観点から、全光線透過率が70%以上であり、かつヘイズが3.0%以下であることが好ましく、全光線透過率が80%以上であり、かつヘイズが2.0%以下であることがより好ましく、全光線透過率85%以上であり、かつヘイズが1.3%以下であることがさらに好ましい。全光線透過率及びヘイズの測定は、公知の測定装置、例えばスガ試験機株式会社製HGM-2DP等を用いて測定することができる。
【0029】
二軸配向フィルムの、全光線透過率を70%以上又は上記の好ましい範囲とし、かつヘイズを3.0%以下又は上記の好ましい範囲とするための手段は、波長350~800nmの可視光領域に吸収を持つ化合物の含有量を調節する方法が挙げられる。より具体的には、このような化合物の含有量を少なくすることで、全光線透過率を上昇させ、ヘイズを低下させることができる。なお、このような化合物の含有量は、化合物の波長800nm未満の領域における吸収帯の有無や、その程度に応じて適宜調整することができる。
【0030】
本発明の二軸配向フィルムは、赤外線照射による昇温効果を大きくする観点から、赤外線吸収剤を含むことが好ましい。本発明の二軸配向フィルムに好適に用いることができる赤外線吸収剤としては、例えば、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、ポリメチン系色素、スクアリリウム系色素、ポルフィリン系色素、金属ジチオール錯体系色素、ジイモニウム系色素などの赤外線吸収色素や、後述する炭素材料や無機化合物系の赤外線吸収剤等、主に800~1,200nm付近の波長の光を選択的により強く吸収するものが挙げられる。
【0031】
赤外線領域に選択的に吸収能を持つ物質は一般的に高価であるため、二軸配向フィルムの用途が透明性を重視しない用途であれば、赤外線吸収剤として波長800nm未満の領域にも吸収帯を持つ化合物を使用してもよい。このような化合物としては、例えば、炭酸マグネシウム、マグネシウムケイ酸塩、二酸化珪素、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、リン酸塩、ケイ酸塩、ハイドロタルサイト類等の無機化合物や、グラファイト構造を有するカーボンブラック、グラフェン、フラーレン、及びカーボンナノチューブ等の炭素材料を使用することができる。中でも、本発明の二軸配向フィルムが透明性を重視しない場合においては、製造コスト、熱可塑性樹脂への分散性、及び吸収能等の観点から、赤外線吸収剤が炭素材料であることが好ましく、カーボンブラックであることがより好ましい。
【0032】
本発明の二軸配向フィルムが炭素材料を含む場合、本発明の二軸配向フィルムは、全構成成分を100質量%としたときに、炭素材料の含有量が0.001質量%以上0.400質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以上0.200質量%以下であることがより好ましく、0.001質量%以上0.070質量%以下であることがさらに好ましい。炭素材料の含有量が0.001質量%以上であることにより、赤外線照射時に十分な昇温効果が得られるため、熱収低減効果も大きくなる。一方、炭素材料の含有量が0.400質量%未満であることにより、赤外線照射時の吸収発熱が過剰とならず、フィルムの変形が抑えられる他、全光線透過率の過度な低下やヘイズの過度な上昇も軽減できる。なお、二軸配向フィルムが複数種の炭素材料を含む場合においては、その含有量の算出は全ての炭素材料を合算して算出するものとする。この点は、後述する金属酸化物においても同様である。
【0033】
一方、二軸配向フィルムの用途が透明性を重視する用途の場合は、波長800nm未満の領域における吸収が少ない赤外線吸収剤を選択することが好ましい。このような赤外線吸収剤は一般に耐熱性が低く、熱可塑性樹脂の押出成形時に分解することが多いことを考慮すると、無機化合物系の赤外線吸収剤を用いることが好ましい。さらに、本発明の二軸配向フィルムに透明性が求められる場合は、赤外線吸収剤が、スズ系金属酸化物、タングステン系金属酸化物、及び六ホウ化物の中から選択される少なくとも一つの金属化合物であることが好ましい。なお、スズ系金属酸化物、タングステン系金属酸化物、及び六ホウ化物は、本発明の効果を損なわない範囲で併用してもよく、また、スズ系金属酸化物に相当する化合物を複数併用してもよい。後者の点は、タングステン系金属酸化物、及び六ホウ化物についても同様である。
【0034】
スズ系金属酸化物の種類は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、好適に用いることができるものとして、例えば、スズ酸化インジウム、アンチモン酸化スズ、酸化アンチモンと酸化スズの混合体等が挙げられる。
【0035】
タングステン系金属酸化物とは、MWO(Mは金属元素、nは酸化数)の化学式で表される金属化合物である。このとき、MはCs、Rb、K、TI、In、Li、Ca、Sr、Fe、及びSnの各元素から選択される1種類以上の元素である。
【0036】
六ホウ化物とは、MB(Mは金属元素)の化学式で表される金属化合物である。このとき、Mには、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Dy、Ho、Y、Sm、Eu、Er、Tm、Yb、Lu、Sr、及びCaの各元素から選択される1種類以上の元素である。六ホウ化物の種類は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、赤外線の吸収能が高い点から、六ホウ化ランタン(LaB)を用いることが好ましい。
【0037】
本発明の二軸配向フィルムは、全構成成分を100質量%としたときに、スズ系金属酸化物、タングステン系金属酸化物、及び六ホウ化物の中から選択される少なくとも一つの金属化合物の含有量が、0.010質量%以上1.900質量%以下であることが好ましく、透明性を考慮すれば0.010質量%以上0.600質量%以下であることがより好ましい。これらの金属酸化物の含有量が0.010質量%以上であることにより、赤外線照射時に十分な昇温効果が得られるため、熱収低減効果も大きくなる。一方、これらの金属酸化物の含有量が1.900質量%以下であることにより、赤外線照射時の吸収発熱が過剰とならずにフィルムの変形が抑えられる他、透明性低下も軽減することができる。
【0038】
本発明の二軸配向フィルムは、主に熱可塑性樹脂から構成される。熱可塑性樹脂の種類は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエステル系エラストマー、ナイロン6やナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリアミド系エラストマー、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン、及びポリ乳酸等を、単独で若しくは複数種を組み合わせて用いることができる。また、これらの熱可塑性樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で共重合成分を含んでもよい。
【0039】
本発明の二軸配向フィルムは、透明性、耐熱性、及び耐寒性の観点から、ポリエステル樹脂を主成分とすることが好ましい。ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸単位とグリコール単位を主たる構成単位とするポリマーを意味する。ジカルボン酸単位とグリコール単位を主たる構成単位とするポリマーとは、ポリマーを構成する全構成単位を100モル%としたときに、ジカルボン酸単位とグリコール単位を合計で60モル%以上100モル%以下含むポリマーをいう。ポリエステル樹脂は、ジカルボン酸単位とグリコール単位を合計で60モル%以上100モル%以下含むのであれば特に限定されないが、ジカルボン酸単位とグリコール単位を合計で80モル%以上100モル%以下含むことが好ましい。ポリエステル樹脂を主成分とするとは、全構成成分を100質量%としたときに、ポリエステル樹脂を60質量%以上100質量%以下含むことをいう。なお、二軸配向フィルム中のポリエステル樹脂が複数種類である場合においては、全てのポリエステル樹脂を合算して含有量を算出するものとする。
【0040】
係るジカルボン酸単位としては、例えば、イソフタル酸単位、テレフタル酸単位、ジフェニル-4,4’-ジカルボン酸単位、2,6-ナフタレンジカルボン酸単位、ナフタレン-2,7-ジカルボン酸単位、ナフタレン-1,5-ジカルボン酸単位、ジフェノキシエタン-4,4’-ジカルボン酸単位、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸単位、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸単位、マロン酸単位、1,1-ジメチルマロン酸単位、コハク酸単位、グルタル酸単位、アジピン酸単位、セバチン酸単位、デカメチレンジカルボン酸単位等を用いることができる。
【0041】
係るグリコール単位としては、例えば、脂肪族グリコール単位、脂環族グリコール単位、及び芳香族グリコール単位等を用いることができる。脂肪族グリコール単位としては、例えば、エチレングリコール単位、テトラメチレングリコール単位、ヘキサメチレングリコール単位、ネオペンチルグリコール単位、1,3-プロパンジオール単位、スピログリコール単位等が挙げられる。脂環族グリコール単位としては、例えば、シクロヘキサンジメタノール単位等が挙げられる。また、芳香族グリコール単位としては、例えば、ビスフェノール-A単位、ビスフェノール-S単位等が挙げられる。また、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル樹脂を、ポリエチレングリコール単位、ポリプロピレングリコール単位、ポリテトラメチレングリコール単位、エチレングリコール-プロピレングリコール単位等を含む共重合体としてもよい。
【0042】
本発明の二軸配向フィルムに用いることができるポリエステル樹脂として、具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、イソフタレート共重合PET(PET/I)、1,4-シクロヘキサンジメタノール共重合PET(PETG)、スピログリコール共重合PET、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、イソフタレート共重合PBT(PBT/I)、ポリヘキサメチレンテレフタレート(PHT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレンナフタレート(PPN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、及びポリヒドロキシベンゾエート(PHB)等が挙げられる。これらのポリエステルは、本発明の効果を損なわない限り、単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0043】
以下、本発明の二軸配向フィルムの製造方法について説明する。本発明の二軸配向フィルムの製造方法は、延伸温度以上かつ主成分である熱可塑性樹脂の融点以下の温度で加熱する熱処理工程、及び幅方向全幅を加熱してフィルムを長手方向に弛緩させる長手方向弛緩工程をこの順に有し、長手方向弛緩工程におけるフィルムの走行速度が10m/min以上70m/min以下であることを特徴とする。ここで、熱処理工程及び長手方向弛緩工程をこの順に有するとは、熱処理工程の下流に長手方向弛緩工程を有する態様全般をいい、両工程間における他の工程は問わない。このような態様とすることにより、生産効率を損なわずに、低い熱収縮率と高い平面性を両立することができる。
【0044】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法は、延伸温度以上かつ主成分である熱可塑性樹脂の融点以下の温度で加熱する熱処理工程を有することが重要である。本発明の二軸配向フィルムの製造方法における長手方向及び幅方向への延伸には公知の方法を用いることができ、本発明の効果を損なわない限り、長手方向及び幅方向への延伸は、逐次に行っても同時に行ってもよい(以下、前者を逐次二軸延伸、後者を同時二軸延伸ということがある。また、長手方向への延伸を縦延伸、幅方向への延伸を横延伸ということがある。)。ここで延伸温度とは、縦延伸の後に横延伸を行う逐次二軸延伸の場合においては、横延伸時の温度をいい、同時二軸延伸の場合における延伸温度は延伸時の温度をいう。
【0045】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法は、熱処理工程を有することにより、最終的に得られる二軸配向フィルムの加熱時における寸法安定性を向上させることができる。この熱処理には公知の方法や装置を用いることができ、例えば、横延伸(同時二軸延伸の場合は縦横両方向への延伸)を行うテンター装置の延伸後の区間で加熱することにより行うことができる。熱処理工程における温度(以下、熱処理温度ということがある。)を延伸温度以上とすることにより寸法安定性向上効果が十分に得られ、熱可塑性樹脂の融点以下の温度とすることにより加熱時におけるフィルムの融解を防止することができる。熱処理温度は、延伸温度以上かつ主成分である熱可塑性樹脂の融点以下の温度であれば、二軸配向フィルムを構成する樹脂組成等に応じて適宜設定することができ、例えば、主成分がPETである場合は、寸法安定性向上とフィルムの融解防止を両立する点で、PETのガラス転移温度以上PETのガラス転移温度+120℃以下とすることが好ましい。
【0046】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法は、最終的に得られる二軸配向フィルムの平面性向上の観点から、熱処理工程の下流に、幅方向全幅を加熱してフィルムを長手方向に弛緩させる長手方向弛緩工程を有することが重要である。このような態様とすることにより、最終的に得られる二軸配向フィルムの低い熱収縮率と高い平面性を両立することができる。ここで、幅方向全幅を加熱するとは、熱処理工程後のフィルムを幅方向の全幅にわたって加熱することをいう。この加熱は、幅方向全幅にわたって同じタイミングで行っても、一部を別のタイミングで行ってもよい。一部を別のタイミングで行う例としては、幅方向中央部のみを先に加熱し、その後幅方向両端部のみを加熱する態様が挙げられる。また、加熱手段は、本発明の効果を損なわない限り公知のものから適宜選定することができるが、設置や短時間での昇温が容易である観点から、赤外線ヒーターが好ましく、さらに、照射する赤外線波長のピークトップを1,000~1,600nmとすることがより好ましい。
【0047】
長手方向弛緩処理の方法は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されず、適宜選択することができる。具体的な方法としては、例えば、熱処理工程後のフィルムに対し、巻取り機側の走行速度を僅かに緩め、フィルム張力を10N/m以上50N/m以下、より好ましくは15N/m以上35N/m以下に調節した状態で、フィルム温度が120℃以上180℃以下の範囲となるように赤外線ヒーターで急速に加熱処理を施す方法が挙げられる。このとき、加熱時のフィルム温度を120℃以上とすることにより、得られる二軸配向フィルムの熱収縮率を低くすることが容易となり、一方、加熱時のフィルム温度を180℃以下とすることにより、得られる二軸配向フィルムの平面性を良好することができる。
【0048】
本発明の二軸配向フィルムの製造方法は、生産性を損なわずに得られる二軸配向フィルムの平面性を良好とする観点から、長手方向弛緩工程におけるフィルムの走行速度が10m/min以上70m/min以下であることが重要である。長手方向弛緩工程におけるフィルムの走行速度を10m/min以上とすることにより、生産速度の低下が軽減される。一方、長手方向弛緩工程におけるフィルムの走行速度を70m/min以下とすることにより、生産速度の過度な上昇により生じるキャスティングにおけるエアーの噛み込みが軽減され、結果、それに起因する欠点の発生や平面性の悪化を抑えることができる。上記観点から、長手方向弛緩工程におけるフィルムの走行速度は10m/min以上50m/min以下であることが好ましい。
【0049】
次に、本発明の二軸配向フィルムの好ましい製造方法を、二軸配向PETフィルムを例に挙げて説明する。但し、本発明は係る例に限定して解釈されるものではない。
【0050】
先ず、PETをペレットなどの形態で用意し、必要に応じて、熱風中或いは減圧下で乾燥した後、赤外線吸収剤とともに押出機に供給する。押出機において融点以上の温度でPETを加熱溶融し、ギアポンプ等で押出量を均一化して押し出した後、フィルター等を介して溶融PET組成物より異物や変性物等を取り除く。その後、ダイにて溶融PET組成物をシート状に成形して吐出させ、キャスティングドラム等の冷却体上で冷却固化することにより、キャスティングフィルムを得る。この際、ワイヤー状、テープ状、針状或いはナイフ状等の電極を用いて、シート状物を静電気力によりキャスティングドラム等の冷却体に密着させて急冷固化することが好ましい。また、キャスティングドラム等の冷却体にシート状物を密着させる手段としては、スリット状、スポット状、又は面状にエアーを吹き付ける方法や、ニップロールを用いる方法を採用してもよい。
【0051】
続いて、キャスティングフィルムを長手方向及び幅方向に二軸延伸する。二軸延伸は、長手方向と幅方向に逐次に行っても、同時に行ってもよい。
【0052】
先ず、逐次二軸延伸の場合について説明する。逐次二軸延伸の場合は、最初にキャスティングフィルムを縦延伸し、長手方向の分子配向を与える。通常、縦延伸は、ロールの周速差により行うことができ、1段階で行うことも複数本のロール対により多段階に行うことも可能である。縦延伸の倍率は、目的とする配向程度や厚み等により適宜選択することができるが、樹脂がPETである場合は2~7倍が好ましい。また、縦延伸温度は、PETのガラス転移温度以上PETのガラス転移温度+100℃以下が好ましい。
【0053】
このようにして得られた一軸配向フィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、及び帯電防止性等の機能をインラインコーティングにより付与してもよい。
【0054】
続いて、得られた一軸配向フィルムを横延伸し幅方向の分子配向を与える。通常、横延伸は、テンターにより、一軸配向フィルムの幅方向の両端部を把持するクリップを搬送方向に走行させながら、対向するクリップ同士の間隔を広げることによって行うことができる。横延伸の倍率は、目的とする配向程度や厚み等により適宜選択することができるが、樹脂がPETである場合は2~7倍が特に好ましい。また、横延伸温度は、PETのガラス転移温度以上PETのガラス転移温度+120℃以下が好ましい。
【0055】
次に、同時二軸延伸の場合について説明する。同時二軸延伸の場合には、得られたキャスティングフィルムに、必要に応じてコロナ処理やフレーム処理、プラズマ処理などの表面処理を施した後、易滑性、易接着性、及び帯電防止性等の機能をインラインコーティングにより付与してもよい。
【0056】
次いで、キャスティングフィルムをテンターへ導き、その両端をクリップで把持しながら搬送して、対向するクリップ同士の間隔を広げることで幅方向に、クリップの走行速度を調節することで長手方向に延伸する。同時二軸延伸機としては、パンタグラフ方式、スクリュー方式、駆動モーター方式、及びリニアモーター方式のものがあるが、任意に延伸倍率を変更可能であり、任意の場所で弛緩処理を行うことができる駆動モーター方式若しくはリニアモーター方式のものが好ましい。延伸倍率は、目的とする配向程度や厚み等により適宜選択することができるが、樹脂がPETである場合は面積倍率が8~30倍であることが好ましい。また、延伸温度は、PETのガラス転移温度以上PETのガラス転移温度+120℃以下が好ましい。
【0057】
このように逐次ないし同時二軸延伸されたフィルムは、平面性、寸法安定性を付与するために、引き続きテンター内で延伸温度以上融点以下の温度で熱処理を行うのが好ましい。また、熱処理後に必要に応じて、徐冷とともに幅方向への弛緩処理を行っても良い。
【0058】
さらに、テンターを出た後に、クリップで保持されていた幅方向端部を切断除去して、巻き取り機側の走行速度を僅かに緩めて長手方向の弛緩処理を行う。このときの加熱は、波長1,000~1,600nmにピークトップを持つ赤外線ヒーターで、急速に、フィルム温度が120℃以上180℃以下となるように行うことが、照射エネルギーが高い点で好ましい。また、この弛緩処理の時間は平面性の観点から短いほど良く、好ましくは3.00秒以内、より好ましくは1.00秒以内である。この処理時間内で加熱を終了させるために、フィルムの吸収係数や厚みに応じて、フィルムの走行速度、赤外線ヒーターの出力、及び走行方向に並べるヒーター本数等を調整することができる。
【0059】
長手方向弛緩工程におけるフィルムの走行速度は、生産性を損なわずに得られる二軸配向フィルムの平面性を良好とする観点から、10m/min以上70m/min以下とする。このフィルムの走行速度は、単位時間当たりの生産効率の観点からは高くすることが好ましいが、キャスティングにおけるエアーの噛み込み等の発生を軽減する点も考慮すれば、例えば10m/min以上50m/min以下が好ましい。
【0060】
通常、赤外線照射時の昇温効果は、フィルムの吸収係数や赤外線照射時間に比例して大きくなる。そのため、フィルムの走行速度を上げる場合には、原料組成の調節によりフィルムの吸収係数を高くすることや、赤外線照射時間の短縮を軽減することが好ましい。フィルムの吸収係数を高くする手段としては、例えば、前述した炭素材料や金属化合物の含有量を、前述した適切な範囲内で増やすことが挙げられる。また、赤外線照射時間の短縮を軽減する手段としては、例えば、赤外線ヒーターを長手方向に多く配置することが挙げられる。
【0061】
また、二軸延伸後のフィルムに長手方向の弛緩処理を行うタイミングは、本発明の効果を損なわない限り、テンターの出口以降で適宜選定することができる。通常、温度が高く加熱に要するエネルギーを抑えられる観点から、テンターを出た直後に長手方向の弛緩処理を行うことが好ましいが、室温まで冷却した後に、ロール間で把持されたフィルムに長手方向の弛緩処理を行っても良い。
【0062】
さらに、長手方向の弛緩処理のための赤外線ヒーターによる加熱は、幅方向全体に対して一度に同条件で行ってもよいが、例えば幅方向中央部を加熱した後に幅方向両端部を加熱する等、段階的に行っても良い。なお、段階的に加熱を行うためには、先に加熱を行う箇所については上流側に、後で加熱を行う箇所については下流側に赤外線ヒーターを配置すればよい。また、段階的に加熱を行う際には、本発明の効果を損なわない範囲で赤外線ヒーターの出力に差をつけてもよい。
【0063】
以上のようにして得られた二軸配向フィルムは、巻き取り装置を介して必要な幅にトリミングされ、巻き取り皺が付かないようにロール状に巻き取られる。なお、巻姿改善のために、巻き取り前に二軸配向フィルムの両端部付近にエンボス処理を施してもよい。
【実施例
【0064】
以下、実施例に沿って本発明について説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。各特性は、以下の手法により測定した。但し、以下実施例13、14は参考例とする。
【0065】
(特性の測定方法及び効果の評価方法)
(1)光吸収スペクトルの波長900~2,600nmの範囲における積分値
日立製の分光光度計U-4100を使用した。先ず、積分球を取り付け、酸化アルミニウム標準白色板(本体付属)の反射を100%としたときの、二軸配向フィルムの波長300~2,600nm領域での相対反射率(%)と相対透過率(%)を、スキャン速度600nm/min、サンプリングピッチ1nmの条件で連続的に測定し、100%から相対反射率(%)と相対透過率(%)の値を差し引いて、各波長における光吸収率(%)を求めた。その後、縦軸を光吸収率(%)、横軸を波長(nm)として各波長における光吸収率(%)をプロットし、隣り合う点同士を直線で結んで折れ線を描いて、描いた折れ線、横軸、波長=900nmを示す縦軸と平行な直線、波長=2,600nmを示す縦軸と平行な直線で囲まれた部分の面積(%・nm)を求め、これを波長900~2,600nmの範囲における吸収率の積分値(%・nm)とした。なお、900~2,600nmの範囲における吸収率の積分値(%・nm)の算出には、マイクロソフト社製の表計算ソフト“EXCEL”(登録商標)を使用した。
【0066】
(2)熱収縮率の最大値
全実施例及び全比較例における二軸配向フィルムはいずれも延伸方向が判明していることから、長手方向の熱収縮率(%)と幅方向の熱収縮率(%)とを比較し、値の大きい方を熱収縮率の最大値(%)とした。以下、長手方向の熱収縮率(%)の測定方法について説明する。先ず、二軸配向フィルムを10mm(幅方向)×250mm(長手方向)の長方形状にサンプリングし、約200mmの間隔をおいて、互いを結んだ直線が長手方向と平行となるように幅方向中央部に2つの標点を付け、これらの2つの標点間距離To(mm)を正確に測定した。次いで、得られたサンプルを3g荷重下で150℃の熱風オーブン中に30分間放置し、室温で十分に冷却した後、同様に標点間距離T(mm)を測定した。得られたTo(mm)とT(mm)を用いて、下記式1より長手方向の熱収縮率(%)を求めた。
式1:熱収縮率(%)=((To-T)/To)×100
なお、幅方向の熱収縮率(%)の測定は、幅方向が測定方向となるように10mm(長手方向)×250mm(幅方向)の長方形状のサンプルを取得して同様に実施した。
【0067】
(3)分子配向度が最大となる方向(幅方向)の厚みムラ
各実施例及び比較例の二軸配向フィルムにおいては、延伸条件より幅方向において分子配向度が最大となることが明らかであるため、幅方向の厚みムラを測定し、これを分子配向度が最大となる方向の厚みムラとした。以下、幅方向の厚みムラの測定方法について具体的に説明する。二軸配向フィルムを30mm(長手方向)×1m(幅方向)にサンプリングした。次いで、アンリツ株式会社製フィルムシックネステスタ「KG601A」及び電子マイクロメータ「K306C」を用い、二軸配向フィルムを幅方向と平行に搬送させながら、その厚みを連続的に測定した。このとき、二軸配向フィルムの搬送速度は0.5m/分、測定速度は0.1s、測定点数は2,056点とした。測定により得られた厚みデータより、最大値Tmax(μm)、最小値Tmin(μm)、及び平均値Tave(μm)を求め、下記式2より厚みムラを算出した。
式2:厚みムラ(%)=(Tmax-Tmin)×100/Tave
同様の測定を10回実施し、得られた値を幅方向の厚みムラとした。
【0068】
(4)全光線透過率・ヘイズ
スガ試験機株式会社製HGM-2DPを用いて測定した。
【0069】
(5)赤外線照射直後のフィルム温度
赤外線照射直後の位置(最下流のヒーターモジュールの出口から10mm下流側に離れた位置)におけるフィルム温度を、キーエンス製の放射温度計FT-H50で測定した。なお、放射温度計に赤外線ヒーターの反射光が入り込まないように、最下流のヒーターモジュールの出口には金属遮蔽版を設置した。
【0070】
(実施例1)
融点が258℃のポリエチレンテレフタレート(PET)とカーボンブラックを質量比99.98:0.02で混合して単軸押出機に投入し、280℃でPETを溶融させてPET混合物を押し出した。次いで、溶融PET混合物をTダイでシート状に成形して吐出させ、ワイヤーで8kVの静電印加電圧をかけながら、表面温度25℃のキャスティングドラム上で急冷固化し、キャストシートを得た。
【0071】
得られたキャストシートを90℃に設定したロール群で加熱した後、100mmの延伸区間で両面からラジエーションヒーターにより急速加熱しながら、長手方向に3.3倍延伸して一旦冷却した。こうして得られた一軸配向フィルムの両面に空気中でコロナ放電処理を施し、両面に#4のメタバーで粒径100nmのコロイダルシリカを3質量%含有した酢酸ビニル・アクリル系樹脂を含有した水系塗剤を塗布して機能層を形成した。このとき、コロナ処理の条件は印加電圧6kV、電源周波数42kHz、放電度2.5W/cmとした。機能層形成後の一軸配向フィルムを、幅方向両端部を複数のクリップで把持しながらテンターに導き、90℃の熱風で予熱後、温度120℃の雰囲気下において一定の延伸速度で幅方向に3.3倍延伸した。その後、テンター内において235℃の熱風による熱処理、及び同温度条件下での幅方向への2%の弛緩処理を施した。その後、150℃の熱固定ゾーンを通過させ、各幅方向最端部から150mmの領域を切除して幅方向両端部を開放したまま、ツインチューブ短波長赤外線ヒーター(ヘレウス(株)製 型式:ZKC13500/900、ピーク波長:1,200nm)を備えるヒーターモジュール(長手方向に2台配置)で全幅に赤外線を照射して長手方向に弛緩処理を行い、二軸配向フィルムを得た。このとき、赤外線ヒーターとフィルム間の距離は30mm、フィルムの走行速度は15m/min、長手方向の加熱長は0.21m、ヒーターでの加熱時間は0.84秒、張力は25N/mとした。その後、室温まで冷却した後に巻き取ることで、フィルムロールとした。得られたフィルムロールより二軸配向フィルムをサンプリングし、各項目の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0072】
(実施例2~11、13~15、比較例1~3)
赤外線吸収剤の含有量、種類、及び長手方向の弛緩処理条件を表1、2のとおりとした以外は実施例1と同様に二軸配向フィルムの製造及び各項目の評価を行った。評価結果を表1、2に示す。
【0073】
(実施例12)
ヒーターモジュールを走行方向に4台連続して配置し、1~2台目で幅方向中央部のみを、3~4台目で幅方向両端部のみをそれぞれ加熱した以外は実施例7と同様に二軸配向フィルムの製造及び各項目の評価を行った。評価結果を表2に示す。なお、1~2台目のヒーターは全幅に対して70%の照射幅とし、3~4台目のヒーターは全幅に対して30%(各幅方向端部より15%ずつ)の照射幅とした。
【0074】
(比較例4)
ヒーターモジュールを走行方向に4台連続して配置した以外は比較例2と同様に二軸配向フィルムの製造及び各項目の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0075】
(比較例5)
比較例2と同様の条件で二軸方向に延伸したフィルムを、赤外線照射をせずに巻き取った。その後、このフィルムを巻き出して、予熱ゾーン120℃、加熱ゾーン150℃のオーブンの中に張力25N/mで、ロールトゥロールで搬送させ、18秒間加熱した。得られた二軸配向フィルムの評価結果を表2に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表中、赤外線吸収剤の含有量は全構成成分を100質量%として算出した(表2の各実施例、比較例1、3においても同じ。)。また、実施例6~9の六ホウ化ランタン(LaB)は、20質量%のホウ化ランタン(LaB)と80質量%のPETを含むマスターチップと、PETとを5:95(質量比)となるように同方向回転型二軸混練押出機(東芝機械株式会社製 TEM-35B)に投入し、押出温度290℃、滞留時間3.5分の条件下で混練後、吐出、水冷して得られたチップ(LaBを1質量%含有したチップ)を使用した(表2の実施例11、12、15においても同じ。)。
【0078】
【表2】
【0079】
比較例3については、赤外線照射によりフィルムが溶融したため、照射後の物性評価を行わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明により、低い熱収縮率と高い平面性を両立した二軸配向フィルムを提供することができる。また、本発明の二軸配向フィルムは、高水準の熱寸法安定性と平面性を必要とする用途、例えば、偏光板離型、コーティング基材、ITOスパッタ基材などの光学用途に好適に用いることができる。